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特開2024-90785生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090785
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20240627BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240627BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20240627BHJP
   G01N 33/50 20060101ALN20240627BHJP
   G01N 33/92 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
G01N30/88 E
G01N27/62 X
G01N27/62 V
G01N30/72 C
G01N33/50 Z
G01N33/92
G01N33/50 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206893
(22)【出願日】2022-12-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「画期的医薬品等の創出をめざす脂質の生理活性と機能の解明」「脂肪酸の鎖長を基軸とした疾患の制御機構と医療展開に向けた基盤構築」委託研究開発、産業技術強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000185983
【氏名又は名称】小野薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】島野 仁
(72)【発明者】
【氏名】関谷 元博
(72)【発明者】
【氏名】林 昭夫
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041EA04
2G041FA10
2G041GA09
2G041HA01
2G045AA40
2G045DA12
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA44
2G045DA60
2G045DA61
2G045DA80
2G045FA11
2G045FA40
2G045FB06
(57)【要約】
【課題】生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法を提供する。
【解決手段】生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法であって、一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を生体試料と接触させる工程を含む、方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法であって、一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を生体試料と接触させる工程を含む、方法。
【請求項2】
陰イオン分子が、リン脂質、ヌクレオチド、糖脂質、ポリシアル化糖、モノ糖リン酸、オリゴ糖リン酸、糖ペプチド、および/またはリン酸化ペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
リン脂質が、ホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP1)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、リゾホスファチジルイノシトール一リン酸(LysoPIP1)、リゾホスファチジルイノシトール二リン酸(LysoPIP2)、リゾホスファチジルイノシトール三リン酸(LysoPIP3)、カルジオリピン(CL)、またはこれらの組合せである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
ヌクレオチドが、CoA、アシルCoA、ATP、ADP、UTP、UDP、CTP、CDP、GTP、GDP、NAD、NADH、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、モノ糖ヌクレオチド、オリゴ糖ヌクレオチド、これらの誘導体、またはこれらの組合せである、請求項2記載の方法。
【請求項5】
糖脂質が、GD1、GD2、GD3、GT1、GT2、GT3、GQ1、GQ2、GQ3、GP1、GP2、GP3、これらの誘導体、またはこれらの組合せである、請求項2記載の方法。
【請求項6】
オキソ酸分子が、ウリジン三リン酸(UTP)、5-ホスホ-D-リボース1-二リン酸(PRDP)、ペントース三リン酸、ペントース四リン酸、ペントース五リン酸、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)、(2R,3R)-2,3-ビス(ホスホナトオキシ)コハク酸、およびこれらの塩からなる群から選択される、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
オキソ酸分子が、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、またはイノシトール六リン酸(IP6)である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
以下の工程を含む、請求項1~7のいずれかに記載の生体試料中に含まれる陰イオン分子の抽出方法:
(i)生体試料に該オキソ酸分子を添加する工程、および
(ii)陰イオン分子を該オキソ酸分子が添加された生体試料から抽出する工程。
【請求項9】
陰イオン分子を生体試料から抽出する工程を、遠心分離、液液抽出法、クロマトグラフィー、またはこれらの組合せにより行う、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記(i)の工程における添加後のオキソ酸分子の濃度が、10μM~1Mである、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
以下の工程を含む、請求項1~7のいずれかに記載の生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析方法:
(i)生体試料中の陰イオン分子をカラムおよび/または流路に吸着させる工程、
(ii)該カラムおよび/または流路に該オキソ酸分子を含む分離溶媒を添加し、該カラムおよび/または流路から陰イオン分子を溶出させる工程、および
(iii)溶出された陰イオン分子を検出する工程。
【請求項12】
カラムがクロマトグラフィー用カラムである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
クロマトグラフィー用カラムが超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)、超臨界流体クロマトグラフィー質量分析(SF/MS)、超臨界流体クロマトグラフィータンデム質量分析(SFC/MS/MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)、または液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC/MS/MS)用カラムである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
分離溶媒中の該オキソ酸分子の濃度が、20nM~20mMである、請求項11~13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
溶出された陰イオン分子を検出する工程を、分光法分析、または質量分析により行う、請求項11~14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を含む、生体試料中に含まれる陰イオン分子を分析および/または抽出するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体試料中に存在するリン脂質、ヌクレオチドおよび糖脂質などの陰イオン分子を抽出または分析する方法としては様々な手法が知られており、抽出または分析する陰イオン分子の種類に応じて適宜選択される。例えば、遠心分離、沈降分離、エタノール沈殿、Folch法などの液液抽出法、濾過、吸引濾過、限外濾過、ゲル濾過、透析、固相抽出法、およびクロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、および薄層クロマトグラフィー)などの技術が知られている。
【0003】
しかしながら、生体試料中の陰イオン分子は他のタンパク質および/または使用される機器の金属部分などに非特異的に吸着するため、分析感度や回収率が低下するという問題が生じていた。これらの非特異的な吸着を軽減するために試料中にEDTAなどの分子を添加する方法(非特許文献1、非特許文献2、特許文献1)が知られているが、その効果は十分とはいえない。このため、生体試料中の陰イオン分子を効率的に抽出または分析する方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2021/111418
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】アナリティカル ケミストリー(analytical chemistry)、第90巻、9457-9464ページ、2018年
【非特許文献2】ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイエティ(Journal of the American Chemical Society)、第103巻、20号、6152-6157ページ、1981年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願は、生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は、生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法であって、一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を生体試料と接触させる工程を含む、方法を提供する。
【0008】
本願はまた、一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を含む、生体試料中に含まれる陰イオン分子を分析および/または抽出するためのキットを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本願の方法により、生体試料中に含まれる陰イオン分子を効率的に分析および/または抽出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】リン酸基を含む4化合物をそれぞれHPLC溶出溶媒Aに添加した場合の、分析系内吸着性の高い脂質分子に対するクロマトグラフィー分析。
図2】リン酸基を含む7化合物をそれぞれHPLC溶出溶媒Aに添加し、分析系内の吸着抑制についてクロマトピークテーリングと定量可能性を検討し、4段階評価を行った。
図3】各種添加剤(EDTA2K、H3PO4、MDPA、IP3、IP6、またはIP6+EDTA2K)を添加したサンプルに対するアシルCoA(CoAC2:0、CoAC16:0またはCoAC17:1)ターゲット測定。
図4】各種添加剤を添加したサンプルに対するS1Pターゲット測定。
図5】各種添加剤を添加したサンプルに対するPCa38:4ターゲット測定。
図6】各種添加剤を添加したサンプルに対するPSa38:4ターゲット測定。
図7】各種添加剤を添加したサンプルに対するPIa38:4ターゲット測定。
図8】各種添加剤を添加したサンプルに対するPIPa38:4ターゲット測定。
図9】各種添加剤を添加したサンプルに対するPIP2a38:4ターゲット測定。
図10】各種添加剤を添加したサンプルに対するLPIPa20:4ターゲット測定。
図11】各種添加剤を添加したサンプルに対するLPIP2a20:4ターゲット測定。
図12】各種添加剤を添加したサンプルに対するCoAC2:0ターゲット測定。
図13】各種添加剤を添加したサンプルに対するCoAC18:0ターゲット測定。
図14】各種添加剤を添加したサンプルに対するGD1(d36:1)ターゲット測定。
図15】各種添加剤を添加したサンプルに対するGT1(d36:1)ターゲット測定。
図16】各種添加剤を添加したサンプルに対するUDP-Glcノンターゲット測定。
図17】各種添加剤を添加したサンプルに対するADPノンターゲット測定。
図18】各種添加剤を添加したサンプルに対するATPノンターゲット測定。
図19】分子内に2つ以上の陰イオン置換基を有する各種添加剤を添加したサンプルに対するS1Pターゲット測定。
図20】分子内に2つ以上の陰イオン置換基を有する各種添加剤を添加したサンプルに対するPSa38:4ターゲット測定。
図21】分子内に2つ以上の陰イオン置換基を有する各種添加剤を添加したサンプルに対するPIa38:4ターゲット測定。
図22】分子内に2つ以上の陰イオン置換基を有する各種添加剤を添加したサンプルに対するPIPa38:4ターゲット測定。
図23】分子内に2つ以上の陰イオン置換基を有する各種添加剤を添加したサンプルに対するPIP2a38:4ターゲット測定。
図24】分子内に2つ以上の陰イオン置換基を有する各種添加剤を添加したサンプルに対するCoAC18:0ターゲット測定。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。例えば、「約20」は「18~22」を含むものとする。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば「約20~30」は「18~33」を含むものとする。
【0012】
本願は、生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法であって、一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を生体試料と接触させる工程を含む、方法を提供する。
【0013】
生体試料は生体から採取された成分を含む限り、特に限定されない。生体試料は、例えば動物、植物、培養細胞、細菌、真菌、またはウイルスなどに由来し得る。生体試料は水、酸、アルカリ、有機溶媒またはこれらの混合液に溶解または懸濁されていてもよく、必要に応じてさらに処理されていてもよい。ある実施形態において、生体試料は溶液中に含まれている。生体試料を含む溶液としては、酢酸アンモニウム、クロロホルム、メタノール、エタノール、酢酸、酢酸/メタノール混合液(例えば、1%酢酸メタノール溶液)、クロロホルム/メタノール混合液(例えば、クロロホルム/メタノール=2/1溶液)、クロロホルム/メタノール/エタノール混合液(例えば、クロロホルム/メタノール/エタノール=1/2/2溶液)、およびクロロホルム/メタノール/エタノール/酢酸混合液(例えば、クロロホルム/メタノール/エタノール/酢酸=2/1/1/1溶液)が挙げられる。
【0014】
動物由来の生体試料としては、血液、血清、血漿、尿、便、髄液、その他の体液および生体組織などが挙げられる。動物としては、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、オランウータン、チンパンジー、イヌ、ネコ、ヒトなどの哺乳動物が挙げられる。
【0015】
生体試料中に含まれる陰イオン分子は、生体試料中で負に帯電している分子であれば特に限定されない。生体試料中に含まれる陰イオン分子は、例えばリン酸基、カルボキシル基および/またはヒドロキシ基を有する。生体試料中に含まれる陰イオン分子としては、例えば、リン脂質、ヌクレオチド、糖脂質、ポリシアル化糖、モノ糖リン酸、オリゴ糖リン酸、糖ペプチドおよびリン酸化ペプチドが挙げられる。
【0016】
リン脂質とは、リン酸の形でリンをもつ脂質を意味する。リン脂質としては、グリセロリン脂質およびスフィンゴリン脂質が挙げられる。本明細書におけるリン脂質は、リン脂質の脂肪酸基が水酸基に置き換わったものを含む。グリセロリン脂質としては、例えば、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP1)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、カルジオリピン(CL)、およびホスファチジン酸(PA)が挙げられる。スフィンゴリン脂質としては、例えば、スフィンゴミエリンおよびスフィンゴエタノールアミンが挙げられる。また、これらのリン脂質の脂肪酸基が水酸基に置き換わったものとしては、例えば、グリセロリン脂質の脂肪酸基が1つ水酸基に置き換わって脂肪酸基数が1となったもの、2つ水酸基に置き換わって脂肪酸基数が0となったものが挙げられる。グリセロリン脂質の脂肪酸基が1つ水酸基に置き換わって脂肪酸基数が1となったものとしては、例えば、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルイノシトール一リン酸(LysoPIP1)、リゾホスファチジルイノシトール二リン酸(LysoPIP2)、リゾホスファチジルイノシトール三リン酸(LysoPIP3)、リゾホスファチジルコリン(リゾレシチン)、リゾホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルセリン、リゾホスファチジルグリセロール、およびリゾホスファチジン酸(LPA)が挙げられる。グリセロリン脂質の脂肪酸基が2つ水酸基に置き換わって脂肪酸基数が0となったものとしては、例えば、グリセロホスホリルコリン、グリセロホスホリルエタノールアミン、グリセロホスホリルセリン、グリセロホスホリルイノシトール、グリセロホスホリルグリセロール、およびグリセロホスホン酸が挙げられる。
【0017】
リン脂質を構成する脂肪酸基は特に限定されない。例えば、炭素数8~38の飽和または不飽和脂肪酸基が挙げられる。炭素数8~38の飽和または不飽和脂肪酸基としては、例えば、ミリストレイン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、およびステアリン酸などが挙げられる。
【0018】
リン脂質を構成する塩基は特に限定されない。例えば、リン酸基に結合したイノシトール、コリン、エタノールアミン、セリン、グリセロール、および水酸基が挙げられる。
【0019】
ある実施形態において、リン脂質は、ホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP1)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、リゾホスファチジルイノシトール一リン酸(LysoPIP1)、リゾホスファチジルイノシトール二リン酸(LysoPIP2)、リゾホスファチジルイノシトール三リン酸(LysoPIP3)、カルジオリピン(CL)、またはこれらの組合せである。
【0020】
ヌクレオチドは、ヌクレオシドにリン酸基が結合した物質を意味する。本明細書において、ヌクレオチドには、2個以上のヌクレオチドが連結したオリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドが含まれる。ある実施形態において、ヌクレオチドは、補酵素A(CoA)、アシルCoA、ATP、ADP、UTP、UDP、CTP、CDP、GTP、GDP、NAD、NADH、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、モノ糖ヌクレオチド、オリゴ糖ヌクレオチド、これらの誘導体またはこれらの組合せである。モノ糖ヌクレオチドは、単糖が結合したヌクレオチドを意味する。オリゴ糖ヌクレオチドは、オリゴ糖が結合したヌクレオチドを意味する。オリゴ糖を構成する単糖の数は、例えば2~50個である。
【0021】
糖脂質は、糖鎖が結合した脂質を意味する。糖脂質には、糖とスフィンゴシンとのグリコシド結合を含むスフィンゴ糖脂質、および糖とグリセリンとのエーテル結合を含むグリセロ糖脂質が含まれる。スフィンゴ糖脂質としては、例えば、糖としてヘキソース1分子をもつセレブロシド、シアル酸を含むガングリオシド、および硫酸化糖を含むスルファチドが挙げられる。ガングリオシドとしては、例えば、GD1、GD2、GD3、GT1、GT2、GT3、GQ1、GQ2、GQ3、GP1、GP2、GP3、GM1、GM2、GM3、GM3、GM4、およびLM1が挙げられる。ある実施形態において、糖脂質は、GD1、GD2、GD3、GT1、GT2、GT3、GQ1、GQ2、GQ3、GP1、GP2、GP3、これらの誘導体、またはこれらの組合せである。該誘導体としては、アシル化された糖脂質、脱水化された糖脂質、グリコリル化された糖脂質、酸化された糖脂質などが挙げられる。
【0022】
糖脂質を構成する脂肪酸基は特に限定されない。例えば、炭素数8~38の飽和または不飽和脂肪酸基が挙げられる。炭素数8~38の飽和または不飽和脂肪酸基としては、例えば、ミリストレイン酸、ミリスチン酸、パルミトレイン酸、パルミチン酸、リノレン酸、リノール酸、オレイン酸、およびステアリン酸などが挙げられる。
【0023】
ポリシアル化糖は、2つ以上のシアル酸を有する糖を意味する。ポリシアル化糖は、例えば2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のシアル酸を有する。ポリシアル化糖としては、例えば、ガングリオシドが挙げられる。
【0024】
モノ糖リン酸は少なくとも1個のリン酸基を有する単糖を意味する。モノ糖リン酸は、例えば1つ、2つ、3つまたはそれ以上のリン酸基を有する。オリゴ糖リン酸は少なくとも1個のリン酸基を有するオリゴ糖を意味する。オリゴ糖リン酸は、例えば1~10個またはそれ以上のリン酸基を有する。
【0025】
糖ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の一部に1または2以上の糖鎖が結合したものである。糖ペプチドは、ペプチドを構成するアミノ酸の一部にオリゴ糖が結合したオリゴ糖ペプチドが含まれる。本明細書において、ペプチドは少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味し、タンパク質、ポリペプチド、およびオリゴペプチドを含む。糖鎖が結合するアミノ酸としては、典型的には、アスパラギン(N型糖鎖)、セリンおよびスレオニン(O型糖鎖)が挙げられる。糖ペプチドを構成する糖鎖の構成単糖としては、例えば、ガラクトース、グルコース、マンノース、フコース、N-アセチルグルコサミン、N-アセチルガラクトサミン、およびキシロースなどが挙げられる。
【0026】
リン酸化ペプチドは、少なくとも1個のリン酸基を有するペプチドを意味する。リン酸化ペプチドは、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上のリン酸基を有する。
【0027】
ある実施形態において、生体試料中に含まれる陰イオン分子は、リン酸基、カルボキシル基およびヒドロキシ基から選択される官能基を2つ以上有する。ある実施形態において、生体試料中に含まれる陰イオン分子は、リン脂質、ヌクレオチドおよび/または糖脂質である。
【0028】
本願のオキソ酸分子は、分子内に一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上である分子である限り、特に限定されない。ある実施形態において、本願のオキソ酸分子は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上の一リン酸基を含む。さらなる実施形態において、本願のオキソ酸分子は、3~6つの一リン酸基を含む。別の実施形態において、本願のオキソ酸分子は、1つの一リン酸基および1つの二リン酸基を含む。別の実施形態において、本願のオキソ酸分子は、1つの三リン酸基を含む。
【0029】
なお、本願のリン酸基は、一リン酸基であってもよいし、複数のリン酸基同士が連なって結合していてもよい。例えば、二リン酸基は2つのリン酸基が互いに結合しており、三リン酸基は3つのリン酸基が連なって結合している。本願のリン酸基はまた、例えばリン酸ジエステルまたはリン酸トリエステルとして分子内部に含まれていてもよい。
【0030】
本願のオキソ酸分子は一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有するため、少なくとも1つのリン酸基を有する。本願のオキソ酸分子はリン酸基を3つ以上含んでいてもよく、2つのリン酸基および1つ以上のカルボキシル基を含んでいてもよく、または1つのリン酸基および2つ以上のカルボキシル基を含んでいてもよい。ある実施形態において、本願のオキソ酸分子は、リン酸基とカルボキシル基の合計が3から6である。ある実施形態において、本願のオキソ酸分子は、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つまたはそれ以上のリン酸基を含む。さらなる実施形態において、本願のオキソ酸分子は、3~6つのリン酸基を含む。
【0031】
本願のオキソ酸分子としては、例えば、ウリジン三リン酸(UTP)、5-ホスホ-D-リボース1-二リン酸(PRDP)、ペントース三リン酸、ペントース四リン酸、ペントース五リン酸、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)、(2R,3R)-2,3-ビス(ホスホナトオキシ)コハク酸(CAS No. 1610451-96-1)、およびこれらの塩が挙げられる。ある実施形態において、該オキソ酸分子は、ウリジン三リン酸(UTP)、5-ホスホ-D-リボース1-二リン酸(PRDP)、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)、(2R,3R)-2,3-ビス(ホスホナトオキシ)コハク酸(CAS No. 1610451-96-1)、およびこれらの塩である。ある実施形態において、該オキソ酸分子は、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)またはイノシトール六リン酸(IP6)である。ある実施形態において、該オキソ酸分子は、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)またはイノシトール六リン酸(IP6)である。ある実施形態において、該オキソ酸分子は、イノシトール六リン酸(IP6)である。
【0032】
本願の方法は、以下の工程を含む、生体試料中に含まれる陰イオン分子の抽出方法であり得る:
(i)生体試料に該オキソ酸分子を添加する工程、および
(ii)陰イオン分子を該オキソ酸分子が添加された生体試料から抽出する工程。
【0033】
陰イオン分子を抽出する工程としては自体公知の抽出手段を使用することができ、特に限定されない。当業者であれば、生体試料および陰イオン分子の種類などに応じて抽出手段を適宜選択できる。抽出手段としては、例えば、遠心分離、沈降分離、エタノール沈殿、Folch法などの液液抽出法、濾過、吸引濾過、限外濾過、ゲル濾過、透析、固相抽出法、およびクロマトグラフィー(例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、および薄層クロマトグラフィー)が挙げられる。液液抽出法には、例えば、抽出溶液を直接生体試料が入った容器に添加して回収する方法も含まれる。ある実施形態において、抽出される陰イオン分子がリン脂質、ヌクレオチドおよび/または糖脂質である場合、抽出手段は、遠心分離、液液抽出法、固相抽出法、クロマトグラフィー、またはこれらの組合せであり得る。また、別の実施形態において、抽出される陰イオン分子がリン脂質、ヌクレオチドおよび/または糖脂質である場合、抽出手段は、遠心分離、液液抽出法、逆相クロマトグラフィー、またはこれらの組合せであり得る。
【0034】
ある実施形態において、本願の抽出手段は、遠心分離である。具体的には、該オキソ酸分子を含む生体試料を遠心分離に供し、陰イオン分子を含む上清または沈殿物を回収すればよい。遠心分離の条件は、当業者であれば生体試料および陰イオン分子の種類などに応じて適宜設定可能である。
【0035】
別の実施形態において、本願の抽出手段は、液液抽出法である。液液抽出法の条件は、当業者であれば生体試料および陰イオン分子の種類などに応じて適宜設定可能である。陰イオン分子がリン脂質である場合、液液抽出法は、例えばFolch法である。例えば、該オキソ酸分子を含む生体試料をクロロホルム:メタノール=2:1の混合液に添加して攪拌した後、遠心分離によりリン脂質である陰イオン分子を含むクロロホルム層を回収することにより、陰イオン分子を抽出できる。
【0036】
生体試料中の該オキソ酸分子の濃度は特に限定されず、該オキソ酸分子および抽出手段の種類などに応じて適宜設定できる。例えば、該オキソ酸分子がIP6である場合、生体試料に添加後の該オキソ酸分子の濃度は、10μM~1M、100μM~500mM、または1mM~100mMであり得、例えば約10mMである。
【0037】
該オキソ酸分子は、例えば該オキソ酸分子を含む溶液として生体試料に添加される。該添加は、生体試料を該溶液に直接添加してもよく、また生体試料を含む溶液に該溶液を添加してもよい。該溶液はオキソ酸分子を含む限り特に限定されず、当業者により適宜調製され得る。該溶液の溶媒は、メタノール、エタノールもしくはクロロホルムなどの有機溶媒、水、またはこれらの混合液であり得る。ある実施形態としては、溶媒は、酢酸アンモニウム、クロロホルム、メタノール、エタノール、酢酸、酢酸/メタノール混合液(例えば、1%酢酸メタノール溶液)、クロロホルム/メタノール混合液(例えば、クロロホルム/メタノール=2/1溶液)、クロロホルム/メタノール/エタノール混合液(例えば、クロロホルム/メタノール/エタノール=1/2/2溶液)、クロロホルム/メタノール/エタノール/酢酸混合液(例えば、クロロホルム/メタノール/エタノール/酢酸=2/1/1/1溶液)である。該溶液中のオキソ酸分子の濃度は、生体試料に添加後のオキソ酸分子の濃度が10μM~1M、100μM~500mM、1mM~100mMまたは約10mMとなるように調製され得る。
【0038】
本願の方法は、以下の工程を含む、生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析方法であり得る:
(i)生体試料中の陰イオン分子をカラムおよび/または流路に吸着させる工程、
(ii)該カラムおよび/または流路に該オキソ酸分子を含む分離溶媒を添加し、該カラムおよび/または流路から陰イオン分子を溶出させる工程、および
(iii)溶出された陰イオン分子を検出する工程。
【0039】
生体試料中に含まれる陰イオン分子を分析するためのカラムとしては自体公知のカラムを使用することができ、特に限定されない。当業者であれば、生体試料および陰イオン分子の種類などに応じてカラムを適宜選択できる。該カラムとしては、例えばイオン交換クロマトグラフィー用カラム、アフィニティークロマトグラフィー用カラム、順相クロマトグラフィー用カラム、および逆相クロマトグラフィー用カラムが挙げられる。ある実施形態において、該カラムは、逆相クロマトグラフィー用カラムである。ある実施形態において、生体試料は本願の抽出方法により取得された試料である。
【0040】
本願のカラムはまた、上記のクロマトグラフィーを用いた超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)用カラム、超臨界流体クロマトグラフィー質量分析(SF/MS)用カラム、超臨界流体クロマトグラフィータンデム質量分析(SFC/MS/MS)用カラム、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用カラム、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)用カラム、または液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC/MS/MS)用カラムであり得る。質量分析としては、四重極型質量分析、タンデム型四重極型質量分析、飛行時間型質量分析、およびイオントラップ型質量分析などが挙げられる。ある実施形態において、質量分析は、四重極型質量分析またはタンデム型四重極型質量分析である。
【0041】
生体試料中に含まれる陰イオン分子を分析するための流路としては、生体試料を入れた容器から分析機器までの経路であり、例えば、生体試料を入れた容器、インジェクションニードル、インジェクター、インジェクターからカラムまでを接続するチューブ、およびカラムから質量分析などの分析機器までのチューブである。
【0042】
陰イオン分子がリン脂質、ヌクレオチドまたは糖脂質である場合、本願のカラムは、クロマトグラフィー用カラムであり得る。また、ある実施形態において、本願のカラムは、逆相クロマトグラフィー用カラムである。逆相クロマトグラフィー用カラムは陰イオン分子を吸着できる限り特に限定されないが、例えばオクタデシルシリル基(ODS基)で表面が修飾された多孔性シリカゲルであり得る。市販のカラムを使用することも可能であり、例えばAcquity UPLC BEH C18(Waters社)が使用できる。
【0043】
本願で使用される分離溶媒は、陰イオン分子をカラムから溶出できる限り特に限定されず、カラムおよび陰イオン分子の種類などに応じて適宜選択できる。分離溶媒は1液で用いてもよく、グラジエント溶出のために2液以上で用いてもよい。グラジエント溶出の場合、例えば第1の分離溶媒100%(第2の分離溶媒0%)で通液し、次いでグラジエントをかけて第2の分離溶媒の割合を増加させ、第2の分離溶媒の割合を100%まで上げる。グラジエントの大きさは、カラムの性能などに合わせて適宜調整すればよく、特に限定されない。
【0044】
逆相クロマトグラフィーで使用される分離溶媒は、陰イオン分子をカラムから溶出できる限り特に限定されない。例えば、本願のオキソ酸分子、5mmol/L酢酸アンモニウムおよび0.1mmol/Lリン酸を含む分離溶媒A、ならびに0.5mmol/L酢酸アンモニウムを含むアセトニトリル:メタノール=4:1溶液である分離溶媒Bが使用され得る。
【0045】
分離溶媒中の該オキソ酸分子の濃度は、該オキソ酸分子の種類などに応じて適宜設定できる。例えば、該オキソ酸分子がIP6である場合、該オキソ酸分子の濃度は、20nM~20mM、200nM~2mM、または2μM~200μMであり得、例えば約20μMである。
【0046】
溶出された陰イオン分子を検出するための手段は特に限定されず、陰イオン分子の種類に応じて適宜選択できる。例えば、質量分析、分光法分析(例えば、吸光度検出、蛍光検出、蒸発光散乱検出、示差屈折率検出、旋光度検出、円二色性検出)、電気伝導度検出、および電気化学検出などが挙げられる。検出のための条件は、当業者であれば適宜設定可能である。ある実施形態において、溶出された陰イオン分子を検出する手段は、分光法分析または質量分析である。また、ある実施形態において、溶出された陰イオン分子を検出する手段は、質量分析である。
【0047】
本願はまた、一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を含む、生体試料中に含まれる陰イオン分子を分析および/または抽出するためのキットを提供する。
【0048】
本態様における生体試料、陰イオン分子およびオキソ酸分子の例は、上述の通りである。かかるキットの内容は特に限定されないが、陰イオン分子を分析および/または検出するために使用される試薬および装置などを含み得る。本キットはまた、緩衝液、反応容器および取扱説明書などを含み得る。
本開示は、例えば、下記の実施形態を提供する。
[1]生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析および/または抽出方法であって、一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を生体試料と接触させる工程を含む、方法。
[2]陰イオン分子が、リン酸基、カルボキシル基およびヒドロキシ基から選択される官能基を2つ以上有する分子である、前記[1]記載の方法。
[3]陰イオン分子が、リン脂質、ヌクレオチド、糖脂質、ポリシアル化糖、モノ糖リン酸、オリゴ糖リン酸、糖ペプチド、および/またはリン酸化ペプチドである、前記[1]または[2]記載の方法。
[4]リン脂質が、ホスファチジルイノシトール一リン酸(PIP1)、ホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)、ホスファチジルイノシトール三リン酸(PIP3)、リゾホスファチジルイノシトール一リン酸(LysoPIP1)、リゾホスファチジルイノシトール二リン酸(LysoPIP2)、リゾホスファチジルイノシトール三リン酸(LysoPIP3)、カルジオリピン(CL)、またはこれらの組合せである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]ヌクレオチドが、CoA、アシルCoA、ATP、ADP、UTP、UDP、CTP、CDP、GTP、GDP、NAD、NADH、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、モノ糖ヌクレオチド、オリゴ糖ヌクレオチド、これらの誘導体、またはこれらの組合せである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[6]糖脂質が、GD1、GD2、GD3、GT1、GT2、GT3、GQ1、GQ2、GQ3、GP1、GP2、GP3、これらの誘導体、またはこれらの組合せである、前記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[7]オキソ酸分子が、リン酸基とカルボキシル基の合計が3から6つであるか、または三リン酸基を1つ含む分子である、前記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]オキソ酸分子が、三リン酸基を1つ含む分子である、前記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]オキソ酸分子が、ウリジン三リン酸(UTP)、5-ホスホ-D-リボース1-二リン酸(PRDP)、ペントース三リン酸、ペントース四リン酸、ペントース五リン酸、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)、(2R,3R)-2,3-ビス(ホスホナトオキシ)コハク酸、およびこれらの塩からなる群から選択される、前記[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
[10]オキソ酸分子が、ウリジン三リン酸(UTP)、5-ホスホ-D-リボース1-二リン酸(PRDP)、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)、(2R,3R)-2,3-ビス(ホスホナトオキシ)コハク酸、およびこれらの塩からなる群から選択される、前記[1]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]オキソ酸分子が、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)またはイノシトール六リン酸(IP6)である、前記[10]記載の方法。
[12]以下の工程を含む、前記[1]~[11]のいずれかに記載の生体試料中に含まれる陰イオン分子の抽出方法:
(i)生体試料に該オキソ酸分子を添加する工程、および
(ii)陰イオン分子を該オキソ酸分子が添加された生体試料から抽出する工程。
[13]陰イオン分子を生体試料から抽出する工程を、遠心分離、液液抽出法、逆相クロマトグラフィー、またはこれらの組合せにより行う、前記[12]記載の方法。
[14]前記(i)の工程における添加後のオキソ酸分子の濃度が、10μM~1M(好ましくは1mM~100mM(より好ましくは約10mM))である、前記[12]または[13]に記載の方法。
[15]生体試料が溶液中に含まれる、前記[12]~[14]のいずれかに記載の方法。
[16]溶液が、酢酸アンモニウム、クロロホルム、メタノール、エタノール、酢酸、酢酸/メタノール混合液(好ましくは、1%酢酸メタノール溶液)、クロロホルム/メタノール混合液(好ましくは、クロロホルム/メタノール=2/1溶液)、クロロホルム/メタノール/エタノール混合液(好ましくは、クロロホルム/メタノール/エタノール=1/2/2溶液)、またはクロロホルム/メタノール/エタノール/酢酸混合液(好ましくは、クロロホルム/メタノール/エタノール/酢酸=2/1/1/1溶液)である、前記[15]記載の方法。
[17]生体試料中に含まれる陰イオン分子(好ましくはリン脂質、ヌクレオチド、糖脂質、ポリシアル化糖、モノ糖リン酸、オリゴ糖リン酸、糖ペプチド、および/またはリン酸化ペプチド(より好ましくはリン脂質、ヌクレオチドおよび糖脂質))の抽出方法であって、
(i)生体試料に一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を添加する工程であって、
(a)該オキソ酸分子がウリジン三リン酸(UTP)、5-ホスホ-D-リボース1-二リン酸(PRDP)、ペントース三リン酸、ペントース四リン酸、ペントース五リン酸、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)、(2R,3R)-2,3-ビス(ホスホナトオキシ)コハク酸、およびこれらの塩からなる群から選択される分子(好ましくはイノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)(より好ましくはイノシトール六リン酸(IP6)))であって、
(b)前記(i)の工程における添加後のオキソ酸分子の濃度が10μM~1M(好ましくは1mM~100mM(より好ましくは約10mM))である工程、および
(ii)陰イオン分子を該オキソ酸分子が添加された生体試料から抽出する工程であって、
(a)該抽出が遠心分離、液液抽出法、逆相クロマトグラフィー、またはこれらの組合せ(好ましくは逆相クロマトグラフィー)である、工程を含む、方法。
[18]以下の工程を含む、前記[1]~[11]のいずれかに記載の生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析方法:
(i)生体試料中の陰イオン分子をカラムおよび/または流路に吸着させる工程、
(ii)該カラムおよび/または流路に該オキソ酸分子を含む分離溶媒を添加し、該カラムおよび/または流路から陰イオン分子を溶出させる工程、および
(iii)溶出された陰イオン分子を検出する工程。
[19]カラムがクロマトグラフィー用カラムである、前記[18]記載の記載の方法。
[20]クロマトグラフィー用カラムが、逆相クロマトグラフィー用カラムである、前記[19]記載の方法。
[21]クロマトグラフィー用カラムが超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)、超臨界流体クロマトグラフィー質量分析(SF/MS)、超臨界流体クロマトグラフィータンデム質量分析(SFC/MS/MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)、または液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC/MS/MS)用カラムである、前記[19]記載の方法。
[22]分離溶媒中のオキソ酸分子の濃度が、20nM~20mM(好ましくは2μM~200μM(より好ましくは約20μM))である、前記[18]~[21]のいずれかに記載の方法。
[23]溶出された陰イオン分子を検出する工程を、分光法分析、または質量分析により行う、前記[18]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24]生体試料中に含まれる陰イオン分子の分析方法であって、
(i)生体試料中の陰イオン分子をカラムに吸着させる工程であって、
(a)該カラムがクロマトグラフィー用カラム(好ましくは逆相クロマトグラフィー用カラム(より好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフィー質量分析(LC/MS)、または液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC/MS/MS)用カラム))である工程、
(ii)該カラムに一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を含む分離溶媒を添加し、該カラムから陰イオン分子を溶出させる工程であって、
(a)該オキソ酸分子がウリジン三リン酸(UTP)、5-ホスホ-D-リボース1-二リン酸(PRDP)、ペントース三リン酸、ペントース四リン酸、ペントース五リン酸、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)、(2R,3R)-2,3-ビス(ホスホナトオキシ)コハク酸、およびこれらの塩からなる群から選択される分子(好ましくはイノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、またはイノシトール六リン酸(IP6)(より好ましくはイノシトール六リン酸(IP6)))であって、
(b)分離溶媒中の該オキソ酸分子の濃度が、20nM~20mM(好ましくは2μM~200μM(より好ましくは約20μM))である工程、および
(iii)溶出された陰イオン分子を検出する工程であって、
(a)該検出する工程を、分光法分析、または質量分析により行う工程を含む、方法。
[25]一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を含む、生体試料中に含まれる陰イオン分子を分析および/または抽出するためのキット。
[26]一リン酸基、二リン酸基および三リン酸基から選択される官能基を1以上有し、リン酸基とカルボキシル基の合計が3以上であるオキソ酸分子を含む、生体試料中に含まれる陰イオン分子を分析および/または抽出するためのキットであって、該オキソ酸分子がウリジン三リン酸(UTP)、5-ホスホ-D-リボース1-二リン酸(PRDP)、ペントース三リン酸、ペントース四リン酸、ペントース五リン酸、イノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、イノシトール六リン酸(IP6)、(2R,3R)-2,3-ビス(ホスホナトオキシ)コハク酸、およびこれらの塩からなる群から選択される分子(好ましくはイノシトール三リン酸(IP3)、イノシトール四リン酸(IP4)、イノシトール五リン酸(IP5)、またはイノシトール六リン酸(IP6)(より好ましくはイノシトール六リン酸(IP6)))である、キット。
【実施例0049】
以下に実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
本開示にて、使用する略号は表1に示す名称を略号で記載することがある。なお、略号が明示されていない場合は、一般的に許容された意味を表す。
【表1】
【0050】
各種ポリアニオン添加によるLC-MS分析感度の改善検討
実施方法
マウス脳組織採取と組織破砕液調製
本脂質分析で使用するサンプルは以下のように調製した。雄性C57BL/6Jマウスから採取し凍結した小脳サンプルに、-80℃で冷却した1%酢酸メタノール溶液を湿重量の10倍容量添加し、氷冷下で超音波ホモジナイザーにて破砕し、サンプル溶液とし、抽出まで-80℃にて保存した。
【0051】
標準物質、内部標準物質および試薬
内部標準物質(IS)として、PCa16:0D31/18:1、PSa16:0D31/18:1、PIa16:0D31/18:1、PIP2a8:0/8:0、GM1d18:1/18:0d5、CoAC17:1、およびSph(d17:1/0:0)Pを使用した。各種試薬は超純水にて規定濃度に希釈調製し使用した。メタノール、アセトニトリル、酢酸アンモニウム、リン酸は市販の特級、HPLC用、LC/MS用またはそれに準ずるものを使用した。超純水は、Millipore純水製造装置(日本ミリポア株式会社)による精製水を使用した。
【0052】
生体試料中分子の抽出方法
実施例1:各種内部標準物質については,1mg/mL標準溶液をCMで適量に希釈し,内部標準添加抽出溶液を作製した。
【0053】
サンプルチューブにサンプル溶液50μLを分注し、サンプル:Folch(1)として超純水10μL、サンプル:Folch+IP6(1)として200mM IP6と1.2M酢酸アンモニウムをそれぞれ5μL添加し、次いでCM-IS溶液を1.0mL添加し1分間攪拌後、室温で1時間放置した。2500rpm,4℃で10分間遠心分離後に上清をバイアルに分注し、ノンターゲット測定にて各種生体試料中の分子のクロマト評価を実施した。
【0054】
実施例2:各種内部標準物質については,1mg/mL標準溶液をクロロホルム/メタノール/エタノール:1/2/2溶液で希釈し,内部標準溶液を作製した。またクロロホルム/メタノール/エタノール/酢酸=2/1/1/1の希釈溶液を作製した。
【0055】
サンプルチューブにサンプル溶液50μLを分注し、各種添加検討溶液(なし、milliQ水、EDTA2K(10mM, 20mM)、リン酸(10mM, 20mM)、MDPA(10mM, 20mM)、IP6(10mM, 20mM)、IP3(10mM, 20mM)、IP6+EDTA2K(10mM, 20mM))を5μL添加し、IS溶液2,000μLおよび希釈溶液100μLを添加し、1分間攪拌した。
【0056】
サンプルを2500rpm、4℃で10分間遠心分離し、上層の有機層を採取後、遠心乾燥機にて減圧乾固(1410 rpm,30℃,120分)した。残渣を有機溶媒にて再溶解し2500rpm,4℃で10分遠心分離した。上清をバイアルに分注し、アシルCoAターゲット測定を実施した。
【0057】
実施例3:各種内部標準物質については,1mg/mL標準溶液をメタノールまたはCMまたはBMで適量に希釈し,内部標準添加抽出溶液(以下,メタノールで希釈したIS(M-IS)、CMで希釈したIS(CM-IS)、BMで希釈したIS(BM-IS))を作製した。
【0058】
サンプルチューブにサンプル溶液50μLを分注し、サンプルNo.5~7, 25に200mM IP6, サンプルNo.19~20にCDA, サンプルNo.21~22にMDPA、サンプルNo.3, 6, 7, 11, 12, 15 ,16, 20, 22, 26に1.2M酢酸アンモニウム、サンプルNo.4, 7, 8に1.2Mトリエチルアミン/50%メタノール水溶液をそれぞれ5μL添加、サンプルNo.17, 18に生理食塩液をそれぞれ20μL, 40μL添加、200mM Na2SO4をサンプルNo.13, 15に15μL、サンプルNo.14, 16に30μLそれぞれ添加、200mM HClO4をサンプルNo.9, 11に15μL、サンプルNo.10, 12に30μLそれぞれ添加、1M ギ酸アンモニウムをサンプルNo.24に5μL、サンプルNo.25に10μL、サンプルNo.26に6μL添加した。他、超純水を表2および表3のごとく添加した。
【0059】
No.1はM-IS溶液を1.0mL添加、サンプルNo.2~21はCM-IS溶液を1.0mL添加、サンプルNo.22~25はBM-IS溶液500μLを添加し、1分間攪拌した。室温で1時間放置し、2500rpm、4℃で10分間遠心分離した。上清をバイアルに分注しターゲット測定およびノンターゲット測定を実施した。主な添加剤と添加後サンプル中濃度は表2および表3のとおりである。
【表2】
【表3】
【0060】
実施例4:各種内部標準物質については,1mg/mL標準溶液をメタノールまたはCMで適量に希釈し,内部標準添加抽出溶液(メタノールで希釈したIS(M-IS)、CMで希釈したIS(CM-IS))を作製した。
【0061】
サンプルチューブに、サンプルNo.1~14はサンプル溶液50μL、サンプルNo.15~27はサンプル溶液25μLを分注し、添加剤水溶液と超純水を表4および表5に記載の容量をそれぞれ添加した。
【0062】
No.1はM-IS溶液を1.0mL添加、サンプルNo.2~27はCM-IS溶液を1.0mL添加し、1分間攪拌した。室温で3時間放置し、2500rpm、4℃で10分間遠心分離した。上清をバイアルに分注しターゲット測定を実施した。
【表4】
【表5】
【0063】
ここで、化合物1~10の化合物名を表6に示す。
【表6】
【0064】
使用機器および資材
測定にはLC機器:Vanquish UHPLC システム(Thermo Scientific社))に三連四重極質量分析器:API4000QTRAP(AB Sciex社)を連結させたLC-MS/MSシステムをターゲット測定に、Orbitrap型高分解能質量分析器:Q-Exactive HF(Thermo Scientific社)を連結させたLC-MSシステムをノンターゲット測定に使用した。分離カラムはAcquity UPLC BEH C18(Waters社、製品No.186002346、1.7μm particle size、100 mm×1 mm)を使用した。
【0065】
LC-MS/MSシステムターゲット測定条件
LC条件
Mobile Phase A:5 mmol/L酢酸アンモニウム、0.1 mmol/Lリン酸、水溶液(必要に応じて各種添加剤を20μMになるように加えた)
Mobile Phase B:0.5 mmol/L酢酸アンモニウム、アセトニトリル/メタノール;4/1
Column temp.:50℃
Injection vol.:3μL
LCグラジエントの条件を表7に示す:
【表7】
【0066】
MS/MS条件
Scan type:sMRM (total scan time: 0.8 sec)
Collision Gas:Nitrogen
Source Gas:Nitrogen
Desolvation Gas:Nitrogen
Ion Source:ESI
MS/MSの測定条件を表8および表9に示す:
【表8】
【表9】
【0067】
LC-MSシステムノンターゲット測定条件
LC条件
Mobile Phase A:5 mmol/L酢酸アンモニウム、0.1 mmol/Lリン酸水溶液(必要に応じて各種添加剤を20μMになるように加えた)
Mobile Phase B:0.5 mmol/L酢酸アンモニウム、アセトニトリル/メタノール;4/1
Column temp.:50℃
Injection vol.:3μL
LCグラジエントの条件を表10に示す:
【表10】
【0068】
MS条件
Scan type:FullMS
Desolvation Gas:Nitrogen
Ion Source:ESI
Scan Range:m/z 120.000~1800.000
MSの測定条件を表11および表12に示す:
【表11】
【表12】
【0069】
結果
実施例1
リン酸基を含む4化合物をHPLC溶出溶媒Aに添加し、分析系内吸着性の高い脂質分子について、クロマトピークテーリングと検出の有無を検討した(図1)。IP6添加なしに対して、IP6添加ありではPA、PS、PI、PIP、PIP2のいずれの脂質においても、ピークテーリングの低減を確認した。特にPIP2分子はIP6添加のみで検出が可能となり、吸着抑制効果が顕著であった。
【0070】
リン酸基を含む7化合物をHPLC溶出溶媒Aに添加し、分析系内の吸着抑制についてクロマトピークテーリングと定量可能性を検討し、図2に示した。4段階評価を行ったところ、IP6が最も高い検出定量性とピークテーリング低減を示すことを確認した。
【0071】
実施例2
同じマウス脳破砕液サンプル中には一定量のアシルCoAが含まれているにもかかわらず、添加剤によって検出値(検出量)が異なっていた(図3)。全サンプルに一定量の市販の非天然型内部標準物質(IS)CoAC17:1を添加しても同様の結果であった。生体試料中に一定濃度含有するIS検出において、Contに比べて、IP6を添加することで大幅な検出感度の改善を示したことから、添加剤の違いによる検出感度の差は、抽出処理過程における添加剤存在下のアシルCoA吸着の差であることが示された。さらに、IP6の本効果は生体試料中天然型アシルCoA抽出においても同様であったことから、本検出感度の差はイオン化抑制などのアーティファクトによるものではないことが示された。
【0072】
よって、IP6は生体試料中ポリアニオン:アシルCoA抽出において最も有効な吸着抑制剤であった。
【0073】
アシルCoA抽出において、IP3添加についても、他の添加剤に比べて検出感度改善がみられたことから、同一分子内にリン酸基などの陰イオン置換基を3個以上の有する化合物の添加が、生体試料中ポリアニオン抽出において有効であることが示された。
【0074】
実施例3
同じマウス脳破砕液サンプル中には一定量の分析対象分子が含まれているにもかかわらず、ポリアニオン分子抽出・検出については添加剤によって検出値(検出量)が異なっていた(図4~18)。
【0075】
分子内にリン酸基などの陰イオン置換基が一つのみ存在するS1P, PCa38:4, PSa38:4, PIa38:4の抽出・検出については、特に添加剤有無や種類の違いによる差は認められなかったが(図4~7)、分子内にリン酸基などの陰イオン置換基が2つ以上存在するPIPa38:4, PIP2a38:4, LPIPa20:4, LPIP2a20:4, CoAC2:0, CoAC18:0, GD1(d36:1), GT1(d36:1), UDP-Glc, ADP, ATPなどのポリアニオン抽出・検出については、添加剤の種類により異なっていた(図8~18)。リン酸基が分子内に2つ存在するMDPAやCDAでは、吸着抑制効果は限定的であり、全てのポリアニオンに有効ではなかった。これに対してIP6は検討した全てのポリアニオン分子について安定的に高い検出値(検出量)を示し、IP6はポリアニオン分子の抽出・検出において最も優れた添加剤であることが示された。
【0076】
実施例4
ポリアニオン分子抽出添加剤として、IP6以外の分子内に2つ以上のリン酸基などの陰イオン置換基を有する各種既知化合物についても検討を行った(図19~23)。
【0077】
同じマウス脳破砕液サンプル中には一定量の分析対象分子が含まれているにもかかわらず、特定のポリアニオン分子検出については添加剤によって検出値(検出量)が異なっていた。
【0078】
分子内にリン酸基などの陰イオン置換基が一つのみ存在するS1P, PSa38:4, PIa38:4の抽出については、特に添加剤有無や種類の違いによる差は認められなかったが(図19~21)、分子内にリン酸基などの陰イオン置換基が2つ以上存在するPIPa38:4, PIP2a38:4, CoAC18:0の抽出については添加剤の種類により異なっていた(図22~24)。特にリン酸基が分子内に4つ以上含むIP4(化合物2)、IP6はこれら全ての分子について安定的に高い検出値(検出量)を示し、本検討でもIP6はポリアニオン分子の抽出・検出において最も優れた添加剤であることが示された。
図1
図2
図3
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図5
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図9
図10
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図20
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図24