(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090787
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】パルス電源装置、誘電体バリア放電装置、および誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
H02M 9/06 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
H02M9/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206896
(22)【出願日】2022-12-23
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-08
(71)【出願人】
【識別番号】593030923
【氏名又は名称】株式会社ニッシン
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】周 子強
(72)【発明者】
【氏名】井上 奨
(72)【発明者】
【氏名】大塚 健夫
(72)【発明者】
【氏名】南光 正平
(72)【発明者】
【氏名】中村 治
(57)【要約】
【課題】パルスの高周波化および出力の向上を可能とするパルス電源装置、誘電体バリア放電装置、および誘導加熱装置を提供する。
【解決手段】
一次巻き線Laと二次巻き線Lbとを備えるトランス7と、一次巻き線Laに接続されており、少なくとも1つのスイッチング素子SW1を有するパルス発生回路9と、パルス発生回路9と並列接続されており、二次巻き線Lbにおいて発生して一次巻き線Laへ伝達される電気振動エネルギーErを消費させる抵抗R1と抵抗R1に直列接続されているスイッチング素子SW5とを有する消費回路13と、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW5のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部21と、スイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部23と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻き線と二次巻き線とを備えるトランスと、
前記一次巻き線に接続されており、少なくとも1つのパルス波発生用スイッチング素子を有するパルス波発生回路と、
前記パルス波発生回路と並列接続されており、前記二次巻き線において発生して前記一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費させる消費用抵抗と前記消費用抵抗に直列接続されている抵抗用スイッチング素子とを有する電気振動消費回路と、
前記パルス波発生用スイッチング素子および前記抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部と、
前記抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部と、
を備える
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパルス電源装置において、
前記電気振動消費回路は、
前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備え、
互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有している
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項3】
請求項1に記載のパルス電源装置において、
前記電気振動消費回路は、
前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサと、
前記コンデンサに蓄積された前記電気振動のエネルギーを回生させるエネルギー回生部と、
をさらに備え、
前記コンデンサと前記エネルギー回生部とが並列接続された構成を有する回生回路および前記消費用抵抗が並列接続されているとともに、前記消費用抵抗と前記回生回路との各々が前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有している
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項4】
請求項1に記載のパルス電源装置において、
前記パルス波発生回路は、
4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および前記抵抗用スイッチング素子SW5の各々について、次の表1に示す状態1ないし状態4の4つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行う
ことを特徴とするパルス電源装置。
【表1】
【請求項5】
請求項2に記載のパルス電源装置において、
前記パルス波発生回路は、
4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、
前記電気振動消費回路は、
互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を2組有しており、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および2つの前記抵抗用スイッチング素子SW5、SW6の各々について、次の表2に示す状態1ないし状態6の6つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行う
ことを特徴とするパルス電源装置。
【表2】
【請求項6】
互いに絶縁されている一次巻き線と二次巻き線と三次巻き線とを備えるトランスと、
前記一次巻き線に接続されており、少なくとも1つのパルス波発生用スイッチング素子を有するパルス波発生回路と、
前記三次巻き線に接続されており、前記二次巻き線において発生して前記三次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費させる消費用抵抗と前記消費用抵抗に直列接続されている抵抗用スイッチング素子とを有する電気振動消費回路と、
前記パルス波発生用スイッチング素子および前記抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部と、
前記抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部と、
を備える
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項7】
請求項6に記載のパルス電源装置において、
前記電気振動消費回路は、
前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備え、
互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有している
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項8】
請求項6に記載のパルス電源装置において、
前記電気振動消費回路は、
前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサと、
前記コンデンサに蓄積された前記電気振動のエネルギーを回生させるエネルギー回生部と、
をさらに備え、
前記コンデンサと前記エネルギー回生部とが並列接続された構成を有する回生回路および前記消費用抵抗が並列接続されているとともに、前記消費用抵抗と前記回生回路との各々が前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有している
ことを特徴とするパルス電源装置。
【請求項9】
請求項6に記載のパルス電源装置において、
前記パルス波発生回路は、
4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および前記抵抗用スイッチング素子SW5の各々について、次の表1に示す状態1ないし状態4の4つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行う
ことを特徴とするパルス電源装置。
【表1】
【請求項10】
請求項7に記載のパルス電源装置において、
前記パルス波発生回路は、
4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、
前記電気振動消費回路は、
互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を2組有しており、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および2つの前記抵抗用スイッチング素子SW5、SW6の各々について、次の表2に示す状態1ないし状態6の6つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行う
ことを特徴とするパルス電源装置。
【表2】
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のパルス電源装置と、
前記パルス電源装置の負荷回路として前記二次巻き線に接続された誘電体バリア放電部と、
を備えたことを特徴とする誘電体バリア放電装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項10のいずれかに記載のパルス電源装置と、
前記パルス電源装置の負荷回路として前記二次巻き線に接続された誘導加熱部と、
を備えたことを特徴とする誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電源装置、当該パルス電源装置を用いた誘電体バリア放電装置、および当該パルス電源装置を用いた誘導加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、正負のステップ状波形またはパルス波形を例とする、矩形波を出力するパルス電源装置として、4つのスイッチング素子を用いた4石式インバータ回路または4石式パルス回路などが知られている(例えば、特許文献1)。このような4石式回路100では
図31に示すように、直流電源Dの正端子と負端子との間に、第1スイッチング素子Q1および第2スイッチング素子Q2の直列回路と、第3スイッチング素子Q3および第4スイッチング素子Q4との直列回路とが互いに並列に挿入される。そして第1スイッチング素子Q1および第2スイッチング素子Q2の接続点T1と、第3スイッチング素子Q3および第4スイッチング素子Q4の接続点T2との間に負荷Laが挿入される。
【0003】
このような従来の4石式回路100では、4つのスイッチング素子Q1~Q4のうち第1スイッチング素子Q1および第4スイッチング素子Q4をオンの状態とすることで正のパルス波が発生する。また4つのスイッチング素子Q1~Q4のうち第2スイッチング素子Q2および第3スイッチング素子Q3をオンの状態とすることで負のパルス波が発生する。従来の4石式回路100では4つのスイッチング素子Q1~Q4のオン/オフを適宜切り換えることにより、正のパルス波と負のパルス波とを交互に発生させる。
【0004】
ここで4石式回路100において負荷Laとしてモータを例とする誘導性負荷を用いた場合、正のパルス波または負のパルス波を発生させることによって、負荷Laにおいて(1/2)・LI2に相当するエネルギーが蓄積する。なお、(1/2)・LI2の数式において、Lは自己インダクタンス(単位:H)を表し、Iは電流(単位:A)を表している。当該エネルギーが蓄積した状態でパルスを発生させると、直流電源Dからの電流と誘導性負荷からの電流とが重なってパルスの波形が崩れ、所望のパルスを発生させることが困難となる。
【0005】
そのため特許文献1では、正のパルスまたは負のパルスが発生した後、第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにすることで、負荷Laに蓄積したエネルギーを放電させる操作を行う。すなわち
図31(b)および(c)に示すように、まずは第1スイッチング素子Q1および第4スイッチング素子Q4をオンにして正のパルス波を発生させる(状態1)。正のパルス波を発生させた後、第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにする(状態2)。第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにすることで、各々のスイッチング素子のオン抵抗および閉ループ回路に元来存在する抵抗成分によって、負荷Laに蓄積したエネルギーは放電される。
【0006】
正のパルス波の発生によって負荷Laに蓄積したエネルギーが放電された後、第2スイッチング素子Q2および第3スイッチング素子Q3をオンにして負のパルス波を発生させる(状態3)。そして負のパルス波を発生させた後、第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにする(状態4)。第2スイッチング素子Q2および第4スイッチング素子Q4をオンにすることで、各々のスイッチング素子のオン抵抗および閉ループ回路に存在する抵抗分によって、負荷Laに蓄積したエネルギーは再度放電される。負のパルス波の発生によって負荷Laに蓄積したエネルギーが放電された後、再び状態1となるようにスイッチング素子Q1~Q4を制御する。以下、スイッチング素子Q1~Q4の各々について、状態1、状態2、状態3、状態4の組み合わせ態様で、スイッチング制御を順次繰り返す。
【0007】
このような4石式回路は、誘電体バリア放電装置または誘導加熱装置などに利用される(例えば、特許文献2)。すなわち
図32に示すように、4石式回路100を用いた誘電体バリア放電装置101では、電源として4石式回路100を高圧トランス103の一次側に配置するとともに、平行平板電極105を備える放電用回路106を高圧トランス103の二次側に配置する。平行平板電極105を構成する電極105aおよび電極105bのうち少なくとも一方には誘電板107が配設されている。
【0008】
4石式回路100のスイッチング素子Q1~Q4を
図31(b)に示すようにオン/オフを切り換えることによって正負のパルス波が交互に生成され、高圧トランス103を経由して平行平板電極105にパルス電圧が印加されることによって平行平板電極105においてプラズマ放電が発生する。誘電体バリア放電装置101では平行平板電極で発生するプラズマ放電を用いて、基板の表面処理や排ガス処置を例とする各種処理を行う。なお、容量性負荷である平行平板電極105の代わりに誘導性負荷を配設することにより、4石式回路100を誘導加熱装置にも利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63-316673号公報
【特許文献2】特開平11-146659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0011】
すなわち従来の構成では、パルス電源である4石式回路100の高周波化を達成することが困難である。誘電体バリア放電装置では基板表面処理などを行う場合、処理速度を上げるためにパルス電源の出力の向上が要求される。パルス電源の出力を向上させるための主な方法として、4石式回路100で発生させるパルスの周波数を上げて単位時間あたりのエネルギーを増大させる方法が挙げられる。しかしながら従来の構成では数十kHz程度の周波数については所望のパルスを発生できる一方、一例として100kHz程度を超える高周波の条件ではパルス波形が崩れてしまい、所望のプラズマ放電を発生させることができないという問題が懸念されている。その結果、従来の4石式回路100ではパルス電源としての出力の上限値が低く、高出力のパルス電源を実現することが困難である。
【0012】
発明者による鋭意検討の結果、パルスの高周波化を妨げる原因としてリンギングが挙げられる。すなわち
図33に示すように、n番目のパルス波P
nが発生した後にリンギングが所定時間発生する。なお、n番目に係るパルス波P
nの発生後にリンギングが発生する所定の時間を以下、リンギング期間R
nとする。リンギングは容量性負荷または各部品に内在する寄生容量とトランスとの間の電気振動などによって発生し、リンギングの波は時間経過によって徐々に減衰する。
【0013】
パルス電源の周波数が数十kHz程度の比較的低い周波数である場合、n番目のパルス波が生成された後に生じるリンギング期間Rnと(n+1)番目のパルス波Pn+1とは重複しないので、パルス波Pn+1は所望の波形が維持される。一方でパルス電源の周波数が一例として100kHzを超える比較的高い周波数である場合、パルス波Pnとパルス波Pn+1との間隔Fが短くなるので、n番目のパルス波Pnが生成された後に発生するリンギング期間Rnと(n+1)番目のパルス波Pn+1の発生時間とが重複することとなる。当該重複の結果、リンギング期間Rnに発生するリンギングの波形とパルス波Pn+1の波形とが合成されてパルス波Pn+1の波形が当初の形状から崩れるので、所望のプラズマ放電を発生させることが困難となる。
【0014】
また、従来の4石式回路100ではスイッチング素子Q2およびQ4をオンの状態にして誘導性負荷Laに蓄積したエネルギーを放電している状態でスイッチング素子Q1またはQ3をオンの状態にすると、貫通電流が流れて素子が破損する。すなわち誘導性負荷Laに蓄積したエネルギーを放電している間はパルス波を発振させることができないので、従来の4石式回路100ではパルスの高周波化がさらに困難となる。
【0015】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、パルスの高周波化および出力の向上を可能とするパルス電源装置、当該パルス電源装置を用いた誘電体バリア放電装置、および当該パルス電源装置を用いた誘導加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち本発明に係るパルス電源装置は、一次巻き線と二次巻き線とを備えるトランスと、前記一次巻き線に接続されており、少なくとも1つのパルス波発生用スイッチング素子を有するパルス波発生回路と、前記パルス波発生回路と並列接続されており、前記二次巻き線において発生して前記一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費させる消費用抵抗と前記消費用抵抗に直列接続されている抵抗用スイッチング素子とを有する電気振動消費回路と、前記パルス波発生用スイッチング素子および前記抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部と、前記抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部と、を備えるものである。
【0017】
(作用・効果)この構成によれば、トランスの一次巻き線にはパルス波発生回路と電気振動消費回路とが並列接続されている。電気振動消費回路には、消費用抵抗と抵抗用スイッチング素子とが直列接続されている。トランスの二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーは、電気振動消費回路に配設されている消費用抵抗によって消費される。そのため、電気振動に起因して発生するリンギングは電気振動消費回路によって速やかに減衰されるので、パルス波が発生した後のリンギング期間を短縮できる。リンギング期間が短縮されることにより、パルス波の周波数を向上させた場合において、パルス波の後に発生するリンギングの波形が、次回に形成されたパルス波と合成されることを回避できる。従って、パルス波の周波数を向上させつつ当該パルス波の波形が崩れることを防止できるので、より周波数が高いパルス電源装置を実現できる。
【0018】
また本発明に係るパルス電源装置は、スイッチ制御部と消費時間制御部とを備えている。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子および抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換える。消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子をオンに切り換えることによってパルス波を発生させる。また抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えることによって、二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費用抵抗で消費させる。そのため、パルス波を発生させる状態と、電気振動によるリンギングを速やかに減衰させる状態とを適宜切り換えることができる。
【0019】
消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御することによって、消費用抵抗によって電気振動のエネルギーが消費されるタイミングおよび期間を制御する。消費時間制御部を備えることにより、電気振動のエネルギーが消費されるタイミングおよび期間を任意に変更できるので、リンギング期間の長さを適宜調節できる。すなわち、パルス電源装置における出力の持続などに必要な分のリンギング波を維持させつつ、不要なリンギング波を速やかに消費できる。従って、パルス電源装置における出力を安定化させつつ、パルス電源装置における周波数を向上させることも可能となる。
【0020】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明に係るパルス電源装置は、互いに絶縁されている一次巻き線と二次巻き線と三次巻き線とを備えるトランスと、前記一次巻き線に接続されており、少なくとも1つのパルス波発生用スイッチング素子を有するパルス波発生回路と、前記三次巻き線に接続されており、前記二次巻き線において発生して前記三次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費させる消費用抵抗と前記消費用抵抗に直列接続されている抵抗用スイッチング素子とを有する電気振動消費回路と、前記パルス波発生用スイッチング素子および前記抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換えるスイッチ制御部と、前記抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する消費時間制御部と、を備えるものである。
【0021】
(作用・効果)この構成によれば、トランスは互いに絶縁されている一次巻き線と二次巻き線と三次巻き線とを備えている。トランスの一次巻き線にはパルス波発生回路が接続されており、トランスの三次巻き線には電気振動消費回路が接続されている。電気振動消費回路には、消費用抵抗と抵抗用スイッチング素子とが直列接続されている。トランスの二次巻き線において発生する電気振動は三次巻き線へ伝達され、電気振動消費回路に配設されている消費用抵抗によって消費される。そのため、電気振動に起因して発生するリンギングは電気振動消費回路によって速やかに減衰されるので、パルス波が発生した後のリンギング期間を短縮できる。リンギング期間が短縮されることにより、パルス波の周波数を向上させた場合において、パルス波の後に発生するリンギングの波形が、次回に形成されたパルス波と合成されることを回避できる。従って、パルス波の周波数を向上させつつ当該パルス波の波形が崩れることを防止できるので、より周波数が高いパルス電源装置を実現できる。
【0022】
また本発明に係るパルス電源装置は、スイッチ制御部と消費時間制御部とを備えている。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子および抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換える。消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子をオンに切り換えることによってパルス波を発生させる。また抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えることによって、二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動のエネルギーを消費用抵抗で消費させる。そのため、パルス波を発生させる状態と、電気振動によるリンギングを速やかに減衰させる状態とを適宜切り換えることができる。
【0023】
消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御することによって、消費用抵抗によって電気振動のエネルギーが消費されるタイミングおよび期間を制御する。消費時間制御部を備えることにより、電気振動のエネルギーが消費されるタイミングおよび期間を任意に変更できるので、リンギング期間の長さを適宜調節できる。すなわち、パルス電源装置における出力の持続などに必要な分のリンギング波を維持させつつ、不要なリンギング波を速やかに消費できる。従って、パルス電源装置における出力を安定化させつつ、パルス電源装置における周波数を向上させることも可能となる。
【0024】
また当該構成では、パルス波を発生させる一次巻き線とは別の三次巻き線において、電気振動のエネルギーが消費される。すなわち電気振動消費回路が配設されている三次巻き線は、パルス波発生回路が配設されている一次巻き線と電気的に絶縁されているので、電気振動消費回路における任意の点にグランドを取ることができる。その結果、電位の不安定化を回避できるので、パルス電源装置における誤動作の発生をより確実に防止できる。
【0025】
また、上述した発明において、前記電気振動消費回路は、前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備え、互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有していることが好ましい。
【0026】
(作用・効果)この構成によれば、電気振動消費回路は電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備えている。電気振動消費回路において、コンデンサと消費用抵抗は並列接続されている。そして当該コンデンサおよび消費用抵抗の各々は、抵抗用スイッチング素子に直列接続されている。このような構成を備えることにより、抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えると、消費用抵抗による電気振動のエネルギーの消費と並行して、コンデンサによる電気振動のエネルギーの蓄積が行われる。その結果、電気振動のエネルギーの処理効率を大きく向上できるので、リンギング期間をより短縮させることができる。すなわちリンギング期間をより短縮させることにより、さらに周波数を向上させることが可能となる。
【0027】
また、上述した発明において、前記電気振動消費回路は、前記電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサと、前記コンデンサに蓄積された前記電気振動のエネルギーを回生させるエネルギー回生部と、をさらに備え、前記コンデンサと前記エネルギー回生部とが並列接続された構成を有する回生回路および前記消費用抵抗が並列接続されているとともに、前記消費用抵抗と前記回生回路との各々が前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を有していることが好ましい。
【0028】
(作用・効果)この構成によれば、電気振動消費回路は電気振動のエネルギーを蓄積するコンデンサをさらに備えている。電気振動消費回路において、コンデンサと消費用抵抗は並列接続されている。そして当該コンデンサおよび消費用抵抗の各々は、抵抗用スイッチング素子に直列接続されている。このような構成を備えることにより、抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えると、消費用抵抗による電気振動のエネルギーの消費と並行して、コンデンサによる電気振動のエネルギーの蓄積が行われる。その結果、電気振動のエネルギーの処理効率を大きく向上できるので、リンギング期間をより短縮させることができる。すなわちリンギング期間をより短縮させることにより、さらに周波数を向上させることが可能となる。
【0029】
また当該構成は、コンデンサに蓄積された電気振動のエネルギーを回生させるエネルギー回生部をさらに備えている。エネルギー回生部はコンデンサと並列接続されて回生回路を構成する。回生回路は、消費抵抗と並列接続されている。そして消費用抵抗と回生回路との各々は、抵抗用スイッチング素子に直列接続されている。このような構成を有することにより、コンデンサに蓄積された電気振動のエネルギーは回生回路によって回生エネルギーとして再利用できる。そのため、パルス電源装置の周波数を向上させるとともに、パルス電源装置におけるエネルギー効率を向上させることができる。
【0030】
また、上述した発明において、前記パルス波発生回路は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および前記抵抗用スイッチング素子SW5の各々について、次の表1に示す状態1ないし状態4の4つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行うことが好ましい。
【表1】
【0031】
(作用・効果)この構成によれば、パルス波発生回路はHブリッジ回路であり、スイッチング素子の制御について状態1ないし状態4の態様を順次繰り返す。この場合、スイッチング素子の制御について状態1と状態3とを交互に繰りかえすことにより、互いに極性が逆向きである正負のパルス波を交互に発生させることができる。また状態1と状態3との間において、抵抗用スイッチング素子をオンにする状態2となるようにスイッチ制御部が作動することにより、状態1において発生した電気振動は速やかに消費されてリンギングが減衰する。よって周波数が比較的高い条件下であっても、状態1の後に発生するリンギングに起因して状態3に係るパルス波の波形が崩れるという事態を回避できる。さらに状態3と状態1との間において、抵抗用スイッチング素子をオンにする状態4となるようにスイッチ制御部が作動することにより、状態3において発生した電気振動は速やかに消費されてリンギングが減衰する。よって周波数が比較的高い条件下であっても、状態3の後に発生するリンギングに起因して状態1に係るパルス波の波形が崩れるという事態を回避できる。
【0032】
また、上述した発明において、前記パルス波発生回路は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4がHブリッジ接続されたHブリッジ回路であり、前記電気振動消費回路は、互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を2組有しており、
前記スイッチ制御部は、4つの前記パルス波発生用スイッチング素子SW1、SW2、SW3、SW4、および2つの前記抵抗用スイッチング素子SW5、SW6の各々について、次の表2に示す状態1ないし状態6の6つのオン/オフの組み合わせ態様で順次繰り返しスイッチング制御を行うことが好ましい。
【表2】
【0033】
(作用・効果)この構成によれば、パルス波発生回路はHブリッジ回路であり、互いに並列接続された前記コンデンサおよび前記消費用抵抗の各々が、前記抵抗用スイッチング素子に直列接続された構成を2組有している。そしてスイッチング素子の制御について状態1ないし状態6の態様を順次繰り返す。
【0034】
この場合、スイッチング素子の制御について状態1と状態4とを交互に繰りかえすことにより、互いに極性が逆向きである正負のパルス波を交互に発生させることができる。また状態1の後、一方の抵抗用スイッチング素子SW5をオンにする状態2となるようにスイッチ制御部が作動することにより、状態1において発生した電気振動は消費用抵抗に消費される。このとき消費用抵抗で消費しきれない電気振動はコンデンサへ迅速に蓄積されるので、リンギングをさらに迅速に減衰させることができる。よって周波数をさらに向上させつつ、状態1の後に発生するリンギングに起因して状態4に係るパルス波の波形が崩れる事態を回避できる。
【0035】
そして状態2の後において、全てのスイッチング素子をオフにする状態3を実行する。コンデンサと消費用抵抗とを並列接続することにより、抵抗用スイッチング素子がオフになっている状態であっても、コンデンサに蓄積している電気振動エネルギーを消費抵抗で消費させ続けることができる。そのため、抵抗用スイッチング素子をオンにする時間を短縮させつつ、効率的に電気振動エネルギーを消費させることができる。
【0036】
また状態4の後、他方の抵抗用スイッチング素子SW6をオンにする状態5となるようにスイッチ制御部が作動することにより、状態4において発生した電気振動は消費用抵抗に消費される。このとき消費用抵抗で消費しきれない電気振動はコンデンサへ迅速に蓄積されるので、リンギングをさらに迅速に減衰させることができる。よって周波数をさらに向上させつつ、状態4の後に発生するリンギングに起因して状態1に係るパルス波の波形が崩れる事態を回避できる。さらに、状態1において発生するリンギングを減衰させるために用いる電気振動消費回路と、状態4において発生するリンギングを減衰させるために用いる電気振動消費回路とを別々に設けることにより、より大きな電気振動エネルギーを迅速に消費できる。
【0037】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明に係る誘電体バリア放電装置は、上述した特徴を有するパルス電源装置と、前記パルス電源装置の負荷回路として前記二次巻き線に接続された誘電体バリア放電部と、を備えるものである。
【0038】
(作用・効果)この構成によれば、誘電体バリア放電装置の電源装置として上述のパルス電源装置を用いており、当該パルス電源装置の負荷回路としてトランスの二次巻き線に接続された誘電体バリア放電部を備えている。よって、パルス波の波形を維持しつつパルス波の周波数を向上できる。その結果、より高い周波数の条件下でプラズマを発生させて各種プラズマ処理を好適に行うことができる。
【0039】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明に係る誘導加熱装置は、上述した特徴を有するパルス電源装置と、前記パルス電源装置の負荷回路として前記二次巻き線に接続された誘導加熱部と、を備えるものである。
【0040】
(作用・効果)この構成によれば、誘導加熱装置の電源装置として上述のパルス電源装置を用いており、当該パルス電源装置の負荷回路としてトランスの二次巻き線に接続された誘導加熱部を備えている。よって、パルス波の波形を維持しつつパルス波の周波数を向上できる。その結果、より高い周波数の条件下で誘導加熱を好適に行うことができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明に係るパルス電源装置、誘電体バリア放電装置、および誘導加熱装置によれば、トランスの一次巻き線にはパルス波発生回路と電気振動消費回路とが並列接続されている。電気振動消費回路には、消費用抵抗と抵抗用スイッチング素子とが直列接続されている。トランスの二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動は、電気振動消費回路に配設されている消費用抵抗によって消費される。そのため、電気振動に起因して発生するリンギングは電気振動消費回路によって速やかに減衰されるので、パルス波が発生した後のリンギング期間を短縮できる。リンギング期間が短縮されることにより、パルス波の周波数を向上させた場合において、パルス波の後に発生するリンギングの波形が、次回に形成されたパルス波と合成されることを回避できる。従って、パルス波の周波数を向上させつつ当該パルス波の波形が崩れることを防止できるので、より周波数が高いパルス電源装置を実現できる。
【0042】
また本発明に係るパルス電源装置は、スイッチ制御部と消費時間制御部とを備えている。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子および抵抗用スイッチング素子のオン/オフを切り換える。消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御する。スイッチ制御部は、パルス波発生用スイッチング素子をオンに切り換えることによってパルス波を発生させる。また抵抗用スイッチング素子をオンに切り換えることによって、二次巻き線において発生して一次巻き線へ伝達される電気振動を消費用抵抗で消費させる。そのため、パルス波を発生させる状態と、電気振動によるリンギングを速やかに減衰させる状態とを適宜切り換えることができる。
【0043】
消費時間制御部は、抵抗用スイッチング素子がオンの状態に切り換えられるタイミングおよび期間を制御することによって、消費用抵抗によって電気振動が消費されるタイミングおよび期間を制御する。消費時間制御部を備えることにより、電気振動が消費されるタイミングおよび期間を任意に変更できるので、リンギング期間の長さを適宜調節できる。すなわち、パルス電源装置における出力の持続などに必要な分のリンギング波を維持させつつ、不要なリンギング波を速やかに消費できる。従って、パルス電源装置における出力を安定化させつつ、パルス電源装置における周波数を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】実施例1に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図2】実施例1に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートである。
【
図3】実施例1に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図4】実施例1に係るパルス電源装置の状態1を示す図である。
【
図5】実施例1に係るパルス電源装置の状態2を示す図である。
【
図6】実施例1に係るパルス電源装置の効果を説明する図である。(a)は従来例に係るパルス電源装置の出力電圧波形を示す図であり、(b)は実施例1に係るパルス電源装置の出力電圧波形を示す図であり、(c)は実施例1に係るパルス電源装置について、パルス波を高周波化させた場合の出力電圧波形を示す図である。
【
図7】実施例1に係るパルス電源装置について、デッドタイムDT2を長くさせた比較例の構成を説明する図である。(a)は実施例1の比較例に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートであり、(b)は実施例1の比較例に係るパルス電源装置の出力電圧波形を示す図である。
【
図8】実施例2に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図9】実施例2に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートである。
【
図10】実施例2に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図11】実施例2に係るパルス電源装置の状態2を示す図である。
【
図12】実施例2に係るパルス電源装置の状態3を示す図である。
【
図13】実施例2に係るパルス電源装置の状態4を示す図である。
【
図14】実施例3に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図15】実施例4に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図16】実施例4に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートである。
【
図17】実施例4に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図18】実施例4に係るパルス電源装置の状態2を示す図である。
【
図19】実施例4に係るパルス電源装置の状態5を示す図である。
【
図20】実施例5に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図21】実施例5に係るパルス電源装置の状態2を示す図である。
【
図22】第1の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図23】第2の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図24】第3の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図25】第4の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置を説明する図である。(a)は第4の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図であり、(b)は第4の変形例に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートであり、(c)は第4の変形例に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図26】第4の変形例に係るパルス電源装置の出力電圧波形を示す図である。
【
図27】第5の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【
図28】第5の変形例に係るパルス電源装置のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートである。
【
図29】第5の変形例に係るパルス電源装置の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図30】実施例1に係るパルス電源装置を備えた誘導加熱装置の全体構成を示す図である。
【
図31】従来例の構成を示す図である。(a)は従来例に係る4石式回路を示す図であり、(b)は従来例に係る4石式回路のスイッチング素子の動作を示すタイムチャートであり、(c)は従来例に係る4石式回路の各状態におけるスイッチング素子のオン/オフの組み合わせ態様を示す一覧図である。
【
図32】従来例に係る4石式回路を備えた誘電体バリア放電装置を説明する図である。
【
図33】従来例に係る4石式回路を備えた誘電体バリア放電装置の出力電圧波形を示す図である。
【
図34】第6の変形例に係るパルス電源装置を備えた誘電体バリア放電装置の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0045】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は実施例1に係るパルス電源装置3を備えた誘電体バリア放電装置1の概略図である。
【0046】
<全体構成の説明>
実施例1に係る誘電体バリア放電装置1は
図1に示すように、パルス電源装置3と放電器5とを備えている。パルス電源装置3は、トランス7と、パルス発生回路9と、電源11と、消費回路13と、主制御部15とを備えている。
【0047】
トランス7は、一次巻き線Laと二次巻き線Lbとを備えており、パルス電源装置3の出力を適宜昇圧して放電器5へ伝送する。パルス発生回路9は一次巻き線Laに接続されており、パルス波を生成する。電源11はパルス発生回路9に接続されており、パルス発生回路9へ電力を供給する。実施例1では電源11として直流電源を用いるものとする。
【0048】
放電器5は二次巻き線Lbに接続されており、容量性負荷に相当する平行平板電極17を備えている。平行平板電極17は、第1電極17aと第2電極17bとを備えている。第1電極17aおよび第2電極17bは、所定の空間を空けて互いに対向するよう、平行に配置されている。第1電極17aと第2電極17bのうち少なくとも一方には誘電体19が配設されている。
図1では第1電極17aに誘電体19が設けられている構成を例として示している。 パルス電源装置3から出力されたパルス電圧が平行平板電極17へ印加されることにより、第1電極17aおよび第2電極17bで挟まれる空間において誘電体バリア放電によるプラズマが発生する。放電器5は、本発明における誘電体バリア放電部に相当する。
【0049】
実施例1において、パルス発生回路9は4石式回路であるHブリッジ型回路が用いられるものとする。すなわち実施例1に係るパルス発生回路9は
図1に示すように、電源11の正端子と負端子との間に、第1のスイッチング素子SW1および第2のスイッチング素子SW2が直列接続された第1回路と、第3のスイッチング素子SW3および第4のスイッチング素子SW4が直列接続された第2回路とが互いに並列に挿入されている。そしてスイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW2の接続点T1と、スイッチング素子SW3およびスイッチング素子SW4の接続点T2との間に、誘導性負荷に相当する一次巻き線Laが挿入される。
【0050】
パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4のオン/オフの状態によって、パルス発生回路9におけるパルス波の発生のオン/オフおよび発生するパルス波の極性が制御される。実施例1において、スイッチング素子SW1~SW4は本発明におけるパルス波発生用スイッチング素子に相当する。
【0051】
消費回路13は、パルス発生回路9と並列接続されている。消費回路13は、抵抗R1とスイッチング素子SW5とが直列接続された構成を有している。抵抗R1は、トランス7と容量性負荷である平行平板電極17との間で主に発生する電気振動のエネルギーを消費することでリンギングを抑制する。消費回路13に設けられているスイッチング素子SW5がオンの状態になることで、電気振動のエネルギーが抵抗R1へと伝送され、当該電気振動のエネルギーを抵抗R1で消費できるようになる。また、スイッチング素子SW5をオフの状態にすることで、消費回路13はパルス発生回路9から電気的に切り離されるように構成されている。実施例1において、抵抗R1は本発明における消費用抵抗に相当する。実施例1において、スイッチング素子SW5は本発明における抵抗用スイッチング素子に相当する。
【0052】
主制御部15は、パルス電源装置3の各構成を統括制御する制御回路であり、スイッチ制御部21と消費時間制御部23とを備えている。スイッチ制御部21は、パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4、および消費回路13に設けられているスイッチング素子SW5の各々について、オン/オフの状態を切り換える制御を独立に行う制御回路である。スイッチ制御部21が各スイッチング素子を切り換える態様については後述する。
【0053】
消費時間制御部23は、スイッチング素子SW5をオンの状態にするタイミングおよび期間について、予め定められたタイミングおよび期間となるようにスイッチ制御部21を制御する制御回路である。スイッチング素子SW5をオンの状態にするタイミングおよび期間については、操作者の指示を入力する入力部(図示しない)を用いて入力された内容などに基づいて予め定められる。入力部の構成の例として、キーボード式、マウス式、タッチパネル式の入力装置が挙げられる。主制御部15は、当該入力部を用いて入力された指示内容に従って、パルス電源装置3の各構成を統括制御する。消費時間制御部23が、スイッチング素子SW5をオンの状態にするタイミングおよび期間を制御することにより、パルス波(インパルス信号)が生成された後にリンギングが発生する期間(リンギング期間)を所望の長さとなるように調節できる。
【0054】
<パルス電源装置の動作>
ここで実施例1において、パルス電源装置3を備える誘電体バリア放電装置1の動作について説明する。実施例1に係る誘電体バリア放電装置1では
図2および
図3に示すように、スイッチング素子SW1ないしスイッチング素子SW5のオン/オフの状態の組み合わせについて、状態1ないし状態4を1周期として当該4つの状態が繰り返される。以下、各々の状態におけるスイッチ制御部21の制御動作および誘電体バリア放電装置1の動作について詳細に説明する。
【0055】
第1に、状態1における動作について説明する。状態1では、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW4がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW2、スイッチング素子SW3、およびスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0056】
状態1の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laとパルス発生回路9とが電気的に接続される。そして電源11からパルス発生回路9に電力が供給され、
図4に示すようにスイッチング素子SW1を経由してF1の方向に電流が流れる。その結果、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへと正のパルス波Pxによる正のパルス電圧が印加され、平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生する。すなわち、第1電極17aと第2電極17bとの間に誘電体バリア放電によるプラズマPrが発生する。なお
図4などにおいて、主制御部15の記載を適宜省略している。
【0057】
二次巻き線Lbを経由して平行平板電極17にパルス電圧が印加されると、容量性負荷である平行平板電極17とトランス7との間で電気振動が発生する。すなわち平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生すると、放電の停止後においても平行平板電極17において(1/2)・CV2に相当するエネルギーが蓄積しており、平行平板電極17とトランス7との間で当該エネルギーが共振されて電気振動が発生する。なお、(1/2)・CV2の数式において、Cは静電容量(単位:F)を表し、Vは電圧(単位:V)を表している。
【0058】
トランス7において一次側巻き線Laと二次側巻き線Lbは電磁結合されているので、発生した当該電気振動はトランス7を経由して二次側(放電部5の側)から一次側(パルス電源装置3の側)へと伝達される。当該電気振動は、パルス波の生成後にリンギング波が発生する原因となる。すなわち
図6(a)に示すように、電気振動に起因して正のパルス波Pxの発振後にリンギング波Kxが発生する。そこで実施例1に係るパルス電源装置3では、状態2の動作によってリンギング波Kxを減衰させる。
【0059】
第2に、状態2における動作について説明する。状態2では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に配設されているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0060】
状態2の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laとパルス発生回路9との電気的接続が断たれるとともに、一次巻き線Laと消費回路13とが電気的に接続される。その結果、
図5に示すように電気振動のエネルギー(電気振動エネルギーEr)が消費回路13へと流れ、消費回路13に設けられている抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。抵抗R1においてエネルギーが消費されることにより、一次側において電気振動エネルギーErは速やかに消失していく。この場合、一次側巻き線Laと二次側巻き線Lbは電磁結合されているため、一次側から二次側に対して電気振動エネルギーErが伝達されることも防止される。その結果、一次側に抵抗R1を配設することで二次側においても電気振動エネルギーErが速やかに消失する。よって、状態1において正のパルス波Pxが生成された後に発生するリンギング波Kxは、状態2の動作によって迅速に減衰されて消滅する。従って、状態1においてパルス信号(パルス波)が発振された後のリンギング期間を大幅に短縮できる。
【0061】
第3に、状態3における動作について説明する。状態3では、スイッチング素子SW2およびスイッチング素子SW3がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW1、スイッチング素子SW4、およびスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
【0062】
状態3の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laとパルス発生回路9とが電気的に接続され、電源11からパルス発生回路9に電力が供給される。そしてスイッチング素子SW3を経由して、
図4に示される符号F1とは逆方向に電流が流れる。すなわち状態3では状態1とは逆極性の電圧が印加される。その結果、一次巻き線Laから二次巻き線Lbへと負のパルス波Pyによる負のパルス電圧が印加され、平行平板電極17において誘電体バリア放電が発生する。すなわち、第1電極17aと第2電極17bとの間に誘電体バリア放電によるプラズマPrが発生する。
【0063】
平行平板電極17に負のパルス電圧が印加されると、状態1と同様に、容量性負荷である平行平板電極17とトランス7との間で電気振動が発生する。すなわち
図6(a)に示すように、放電後の電気振動に起因して負のパルス波Pyの生成後にリンギング波Kyが発生する。そこで実施例1に係るパルス電源装置3では、状態4の動作によってリンギング波Kyを減衰させる。
【0064】
第4に、状態4における動作について説明する。状態4では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に配設されているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。すなわち、状態4におけるスイッチング素子SW1~SW5のオン/オフの組み合わせ態様は状態2における組み合わせ態様と同じである。
【0065】
状態4の組み合わせ態様に従ってスイッチング素子SW1~SW5が切り換えられることにより、一次巻き線Laと消費回路13とが電気的に接続される。その結果、
図5に示すように電気振動エネルギーErが消費回路13へと流れ、抵抗R1において電気振動エネルギーErは速やかに消費される。一次側巻き線Laと二次側巻き線Lbは電磁結合されているため、抵抗R1において電気振動エネルギーErが消費されることにより、トランス7の一次側において電気振動は速やかに消失していく。その結果、トランス7の二次側においても電気振動は速やかに消失する。よって、状態3において負のパルス信号(負のパルス波Py)が発振された後に発生するリンギングの波(リンギング波Ky)は、状態4の動作によって迅速に減衰される。従って、状態3において負のパルス波Pyが発振された後のリンギング期間Ryについても大幅に短縮できる。
【0066】
状態4の動作が完了することによって、状態1ないし状態4を1周期とする一連の動作が完了する。その後、状態4から状態1に戻り、状態1ないし状態4からなる一連の動作を適宜繰り返すことで誘電体バリア放電によるプラズマ処理を実行する。
【0067】
なお
図2に示すように、パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4のいずれかと、消費回路13に設けられているスイッチング素子SW5とが同時にオンの状態にならないよう、デッドタイムDT1およびDT2が設けられている。すなわちスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられてからデッドタイムDT1が経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW1およびSW4がオンの状態に切り換えられて状態1が開始される。そしてスイッチング素子SW1およびSW4がオフの状態に切り換えられて状態1が終了したタイミングからデッドタイムDT2を経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW5はオフの状態からオンの状態に切り換えられて状態2が開始される。
【0068】
なお状態3の前後においても、同様にデッドタイムDT3およびDT4が設けられている。すなわちスイッチング素子SWがオフの状態に切り換えられてからデッドタイムDT3が経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW2およびSW3がオンの状態に切り換えられて状態3が開始される。そしてスイッチング素子SW2およびSW3がオフの状態に切り換えられて状態3が終了したタイミングからデッドタイムDT4を経過したタイミングにおいて、スイッチング素子SW5はオフの状態からオンの状態に切り換えられて状態4が開始される。
【0069】
デッドタイムDT1~DT4の長さは、図示しない入力部を用いて所望の数値を入力することによって設定できる。消費時間制御部23は設定されたデッドタイムDT1~DT4の数値に応じてスイッチ制御部21の動作を制御することにより、状態1ないし状態4の開始タイミングおよび実行期間を制御する。すなわち消費時間制御部23によって、状態2および状態4の開始タイミングおよび実行期間、言い換えると電気振動エネルギーErを消費する動作の開始タイミングおよび実行期間が制御される。
【0070】
<実施例1の構成による効果>
実施例1に係るパルス電源装置3では、パルス発生回路9と並列に消費回路13を配設することで、パルス信号の周波数を向上できる。
図6は、実施例1に係るパルス電源装置3による周波数向上の効果を示す図である。
図6(a)は従来の電源装置における出力側の電圧波形を示す図であり、
図6(b)は実施例1のパルス電源装置3における出力側の電圧波形を示す図である。
【0071】
一般的に、パルス電源装置においてパルス信号を生成させると、トランスの二次巻き線側において電気振動が発生して一次巻き線側へと伝達される。その結果、
図6(a)に示すように、状態1のようにスイッチング素子を切り換えて正のパルス波Pxを発振させた後にリンギング波Kxが発生する。また、状態3のようにスイッチング素子を切り換えて負のパルス波Pyを発振させた後においてもリンギング波Kyが発生する。
【0072】
従来の電源装置では、電気振動を積極的に消費させることを目的とする回路が設けられていないため、パルス波を発生させる回路に設けられているスイッチング素子や線路などに元来存在する抵抗成分によって、電気振動は徐々に減衰していく、そのため、従来の構成では電気振動が減衰するために比較的長時間を要する。そのため
図6(a)に示すようにリンギング波Kxが発生するリンギング期間Rx、およびリンギング波Kyが発生するリンギング期間Ryの各々が長期化する。リンギング期間Rxが長い場合、パルス波Pxとパルス波Pyとの間隔Fを短くするとパルス波Pyがリンギング波Kxと重複し、パルス波Pyの波形が崩れるという事態が容易に発生する。パルス波Pyの波形が崩れると所望の誘電体バリア放電を実行することが困難になる。よって、リンギング期間RxおよびRyが比較的長い従来の構成では、パルス波の形状を維持しつつ、パルス波の周波数を向上させることが困難である。
【0073】
一方、実施例1に係るパルス電源装置3では、パルス波PxおよびPyを生成させるパルス発生回路9とは別に、消費回路13を備えている。そして、トランス7の一次巻き線Laの側においてパルス発生回路9と消費回路13とは並列接続されている。消費回路13はスイッチング素子SW5と抵抗R1とを備えており、スイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられると一次巻き線Laと消費回路13が電気的に接続され、抵抗R1による電気振動の消費が開始されるように構成されている。
【0074】
すなわち実施例1に係る装置では、パルス波を発生させるパルス発生回路9とは別の回路として、電気振動のエネルギーを消費することを目的とする消費回路13を備えている。この場合、パルス波の生成によってプラズマ放電を発生させた後にスイッチング素子SW5をオンにすることで、パルス波の生成後に発生する電気振動のエネルギーは、消費回路13によって速やかに消費されて消失する。その結果、
図6(b)に示すように、電気振動に起因してパルス波の生成後に発生するリンギング波Kxおよびリンギング波Kyは、速やかに減衰して消滅していく。よって、リンギング波Kxが発生するリンギング期間Rx、およびリンギング波Kyが発生するリンギング期間Ryの各々は従来のパルス電源装置と比べて大幅に短縮化される。
【0075】
リンギング期間RxおよびRyが短縮化すると、
図6(c)に示すように、パルス波Pxとパルス波Pyとの間隔Fを短くしても、パルス波Pyの発振時間がリンギング期間Rxと重複することを回避できる。すなわち、間隔Fを短くしてパルス波を高周波数化した場合であっても、パルス波Pyとリンギング波Kxが合成されてパルス波Pyが所望の形状から崩れることを防止できるので、パルス波PxおよびPyの周波数を向上させつつパルス波PxおよびPyの波形を所望の形状に維持させることが可能となる。よって、好適なパルス波の発振とパルス波の高周波化とを兼ね備えたパルス電源装置の実現が可能となる。
【0076】
また実施例1に係るパルス電源装置3では、消費回路13にスイッチング素子SW5を備えており、スイッチ制御部21および消費時間制御部23によってスイッチング素子SW5のオン/オフを切り換えるタイミングと期間とを任意に変更できる構成となっている。すなわち、状態1において正のパルス波Pxを発振させた後、状態2を開始するタイミングと状態2を継続させる期間とを任意に設定できる。同様に、状態3において負のパルス波Pyを発振させた後、状態4を開始するタイミングと状態4を継続させる期間とを任意に設定できる。言い換えると、スイッチング素子SW5、スイッチ制御部21、および消費時間制御部23を備えることにより、
図2に示されるデッドタイムDT2およびDT4の長さを適宜変更できる。
【0077】
パルス電源装置では、パルス波の出力条件またはトランスの出力側における構成などによっては、リンギング波を一定量残存させることが望ましい場合がある。一例として、プラズマを発生させる誘電体バリア放電装置1にパルス電源装置3を用いる構成において、プラズマ放電の持続性を向上させるためにパルス波に加えて一定期間はリンギング波を維持させることが好ましい場合がある。実施例1ではデッドタイムDT2などの長さを適宜変更することにより、リンギング期間Rxなどの長さを任意に調整できる。
【0078】
図7(a)および
図7(b)は、
図2に示すタイミングチャートと比べてデッドタイムDT2の長さを長くしている構成を実施例1の比較例として挙げている。
図7(a)で示す比較例では、状態1と状態2との間のデッドタイムについて符号DT2Aを付し、実施例1におけるデッドタイムDT2と区別することとする。すなわち実施例1に係るデッドタイムDT2と比べて、比較例に係るデッドタイムDT2Aは長い時間である。
【0079】
当該比較例の構成では、正のパルス波Pxが発振される状態1が終了した後、デッドタイムDT2Aが経過した後に状態2の動作が開始される。すなわちスイッチング素子SW1~SW4がオフになった後、デッドタイムDT2Aが経過するまでの間はスイッチング素子SW5もオフの状態となっており消費回路13に電気振動エネルギーErが流れない。よってデッドタイムDT2Aの間は電気振動エネルギーErが消費回路13に消費されることがないので、パルス波Pxの後に発生するリンギング波Kxは減衰されることなく残存する。
【0080】
そして比較例ではデッドタイムDT2Aが経過すると状態2に係る動作が開始する。すなわちスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられ、抵抗R1による電気振動エネルギーErの消費が開始されてリンギング波Kxは速やかに減衰する。その結果、比較例では
図7(b)に示すように、パルス波Pxの後に発生するリンギング期間Rxの長さは
図2に示される実施例1と比べて、デッドタイムDT2Aの長さに応じて長くなる。なお
図7(a)および
図7(b)では、1往復分のリンギング波Rxが減衰されることなく維持される程度にデッドタイムDT2Aの長さが調整されている。このようにリンギング期間Rxを必要に応じて長くすることにより、プラズマ放電の維持などに必要な分のリンギング波Kxのみを発生させる一方で、パルス波の高周波化の妨げとなる分のリンギング波は速やかに減衰させることができる。よって、パルス電源装置3において、パルス波出力の好適化とパルス波の高周波化とを両立させることができる。
【0081】
また実施例1に係るパルス電源装置3では、電気振動エネルギーErを消費させて電気振動を減衰させる消費回路13をトランス7の一次側に配設させている。平行平板電極17を例とする、トランス7の二次側(トランス7の出力側)の回路の電圧は一例として数kV程度であり、一例として200V程度であるトランス7の一次側の回路と比べて高い電圧となっている。そのためトランス7の二次側に電気振動を減衰させる回路を配設させた場合、二次側の高電圧に耐えることができる部品などが必要となるのでパルス電源装置のコストが高くなるとともに構成が大型化、複雑化するという問題が懸念される。
【0082】
一方、実施例1では比較的低電圧である一次側に消費回路13を配設させているので、比較的安価な材料を用いて電気振動を減衰させる構成を実現できる。また、一次側において電気振動を減衰させることで、トランス7の一次側から二次側に伝達する電気振動を低減できるので、結果として一次側と二次側との間における電気振動は速やかに減衰して消失させることができる。従って、トランス7の一次側の回路に消費回路13を配設することにより、パルス電源装置3の低コスト化とパルス波の高周波化とを両立させることができる。
【0083】
また実施例1では、パルス波を発生させるパルス発生回路9と、電気振動エネルギーErを消費させる消費回路13とを並列接続させている。すなわち抵抗R1は電気振動の消費に専ら用いられる回路である消費回路13に配置されており、パルス波を発生させるパルス発生回路9には、抵抗R1を例とする、電気振動エネルギーErを積極的に消費させることを目的とした構成が配設されていない。そのため、パルス波PxまたはPyを発振させる場合(状態1または状態3)において、抵抗R1などがパルス波の生成を妨げてしまいパルス波の出力が低減するという事態を回避できる。一方、リンギング波を減衰させる必要がある事態になった場合には状態2または状態4に移行してスイッチング素子SW5をオンの状態に切り換え、消費回路13を活性化させて電気振動を抵抗R1によって消費させる。従ってパルス電源装置3において、パルス波Pxなどの出力効率を向上させつつ、電気振動エネルギーErの減衰効率も向上させることができる。
次に、本発明の実施例2を説明する。なお、実施例1で説明した誘電体バリア放電装置1およびパルス電源装置3と同一構成については同一符号を付すに留め、異なる構成部分である構成について詳述する。実施例2に係るパルス電源装置3Aは、消費回路13の代わりに消費回路13Aを備えているという点において、実施例1に係るパルス電源装置3と相違する。すなわち実施例2に係る消費回路13Aについて、実施例1に係る消費回路13と比較しつつ重点的に説明する。
第1に、状態1における動作について説明する。状態1では実施例1と同様に、スイッチング素子SW1およびスイッチング素子SW4がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW2、スイッチング素子SW3、およびスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
第2に、状態2における動作について説明する。実施例2に係る状態2のスイッチング操作は実施例1に係る状態2と同様である。すなわち、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13Aに配設されているスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。そして状態2の動作によってリンギングを減衰させる。
消費回路13Aに設けられている抵抗R1は電気振動エネルギーErを消費するが、単位時間あたりに消費できる電気振動エネルギーErは上限がある。従って、大量の電気振動エネルギーErが発生して消費回路13Aに流れると、短い時間では電気振動エネルギーErの全てを抵抗R1では消費しきれない場合がある。
一方、消費回路13Aにおいて抵抗R1と並列接続されているコンデンサC1は、単位時間あたりに蓄積できる電気振動エネルギーErが非常に高い。言い換えると、コンデンサC1のエネルギー蓄積効率の上限は、抵抗R1のエネルギー消費効率の上限と比べて非常に高い。そのため、実施例2では消費回路13Aに流れる電気振動エネルギーErのうち、抵抗R1では消費しきれない分はコンデンサC1に流れて迅速に蓄積される。言い換えると、電気振動エネルギーErのうち一部(電気振動エネルギーEr1)は抵抗R1において消費され、残りの大部分の電気振動エネルギーEr(電気振動エネルギーEr2)はコンデンサC1に蓄積される。
このように、実施例2に係る消費回路13Aでは抵抗R1による電気振動エネルギーErの消費とコンデンサC1による電気振動エネルギーErの蓄積とが並行して行われるので、抵抗R1による消費のみを行う実施例1の消費回路13と比べて、電気振動エネルギーErをより迅速に消費回路13Aによって消費または蓄積できる。言い換えると、実施例2に係る消費回路13Aは電気振動エネルギーErをより迅速に処理できる。その結果、実施例2では電気振動に起因して発生するリンギング波Kxの減衰効率をさらに向上できる。
なお実施例2では実施例1と同様に、状態1において正のパルス波Pxの生成が完了してからデッドタイムDT2が経過した後、状態2の動作が開始される。またデッドタイムDT2の長さは任意に変更可能である。そのため実施例1と同様に、実施例2においてもリンギング波Kxの減衰が開始されるタイミングを任意に調節できる。
実施例2では、抵抗R1による消費およびコンデンサC1による蓄積の結果、電気振動エネルギーErが全て消費回路13Aに消費または蓄積されることで、状態2の動作は完了する。すなわち消費回路13を備える実施例1では、電気振動エネルギーErを全て抵抗R1で消費しなければ状態2が完了されない。その一方で消費回路13Aを備える実施例2では、電気振動エネルギーErを全て抵抗R1で消費しきれなくとも一時的にコンデンサC1へ残りの電気振動エネルギーErを全て蓄積させることで状態2を完了できる。状態2を維持する期間の長さは、電気振動エネルギーErの量などの諸条件に応じて、入力部などを用いて任意に設定可能である。消費時間制御部23は設定された時間に応じて、状態2を維持するようにスイッチ制御部21を制御する。電気振動エネルギーErが消費回路13Aによって消費または蓄積されると、状態2から状態3へと移行する。すなわち状態1に係るパルス波の生成によって発生した電気振動エネルギーErが全て消費回路13Aにまたは蓄積されると、状態2から状態3へと移行する。
第3に、実施例2の状態3における動作について説明する。実施例2の状態3は実施例1に存在しない過程である。実施例2において状態3では、スイッチング素子SW1~SW5の全てがオフの状態に切り換えられる。パルス発生回路9に設けられているスイッチング素子SW1~SW4はオフの状態であるので、パルス波は発振されない。また、消費回路13Aに設けられているスイッチング素子SW5がオフの状態であるので、消費回路13Aへ新たに電気振動エネルギーErが流れることもない。
このように実施例2に係る消費回路13Aではスイッチング素子SW5をオフに切り換えた状態であっても、コンデンサC1に蓄積されている電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費し続けることができる。消費回路13Aにおいて消費され続ける電気振動エネルギーは、時定数τ=CRに相当する時間をかけて減少する。なお時定数τ=CRの式において、Cは静電容量(単位:F)を表し、Rは電気抵抗(単位:Ω)を表す。状態3が開始された後、適宜のタイミングにおいて状態4へと移行する。
第4に、実施例2の状態4における動作について説明する。実施例2の状態4は、実施例1の状態3と同様の過程である。すなわち実施例2の状態4では、スイッチング素子SW2およびスイッチング素子SW3がオンの状態に切り換えられる一方、スイッチング素子SW1、スイッチング素子SW4、およびスイッチング素子SW5がオフの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
なお実施例2の状態4ではスイッチング素子SW5がオフに切り換えられているので、消費回路13Aはパルス発生回路9および一次巻き線Laの各々から電気的に切り離されている。そのため、状態4においても状態3と同様に、コンデンサC1に蓄積している電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費させ続けることができる。
第5に、実施例2の状態5における動作について説明する。実施例2の状態5における動作は実施例2の状態2と同様である。すなわち実施例2の状態5では、パルス発生回路9に配設されている4つのスイッチング素子SW1~SW4が全てオフの状態に切り換えられる一方、消費回路13に配設されているスイッチング素子SW5がオンの状態に切り換えられるよう、スイッチ制御部21は各々のスイッチング素子SW1~SW5を制御する。
状態6の動作が完了することによって、状態1ないし状態6を1周期とする一連の動作が完了する。その後、状態6から状態1に戻り、状態1ないし状態6からなる一連の動作を適宜繰り返すことで誘電体バリア放電によるプラズマ処理を実行する。
また消費回路13Aはスイッチング素子SW5をオフに切り換えることによってパルス発生回路9から電気的に切り離される。そのためスイッチング素子SW5をオフにした状態とすることで、一時的にコンデンサC1へ蓄積されていた電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費させることができる。つまり、全てのスイッチング素子SW1~SW5がオフの状態(状態3または状態6)のみならず、スイッチング素子SW5がオフであってパルス発生回路9が一次巻き線Laと接続されてパルス波を発振する状態(状態1または状態4)であっても、コンデンサC1へ蓄積されていた電気振動エネルギーErを抵抗R1で消費させることができる。言い換えると、パルス発生回路9でパルス波を新たに生成させる動作と並行して、前回のパルス波を生成させた時に発生した電気振動エネルギーErを消費回路13Aで消費させることが可能となる。このような動作は、スイッチ制御部21はコンデンサC1に電気振動エネルギーErが蓄積されている状態で、消費回路13Aのスイッチング素子SW5をオフの状態に切り換えるとともにスイッチング素子SW1~SW4の少なくとも1つをオンに切り換えることで実行される。
すなわち実施例2では、状態4において負のパルス波Pyを生成させつつ、以前に正のパルス波Pxの生成時に発生してコンデンサC1に蓄積した電気振動エネルギーEr2を抵抗R1で消費させることができる。言い換えると実施例2の構成では、電気振動エネルギーEr2をコンデンサC1に蓄積させた場合、スイッチング素子SW5をオフにした状態であってもコンデンサC1に蓄積されたエネルギーを抵抗R1で消費できる。そしてスイッチング素子SW5をオフにすると消費回路13Aはパルス発生回路9と電気的に分離されるので、次にスイッチング素子をオンの状態にするまではパルス発生回路9を作動させ、パルス波を生成させつつ電気振動エネルギーEr2を抵抗R1で消費できる。
なお、消費回路13を備える実施例1ではコンデンサC1を備えていないので、スイッチング素子SW5がオンの状態である期間のみ(状態2または状態4の期間のみ)、抵抗R1による電気振動エネルギーErの消費が可能である。よって実施例1では抵抗R1による電気振動エネルギーErの消費が完了するまで状態2を維持する(スイッチング素子SW5をオンにする)必要がある。スイッチング素子SW5がオンの状態にして電気振動エネルギーErを消費している際に、スイッチング素子SW1~SW4のいずれかをオンの状態にしてパルス発生回路9を作動させると、抵抗R1があるために、電圧降下が起こってトランス7に十分な電圧がかからなくなり、トランス7の二次側に所望の電圧を得ることができなくなる。
一方で消費回路13Aを備える実施例2では、全てのスイッチング素子SWをオフにする状態3において、任意のタイミングで状態4へと移行して次のパルス波を発振させることができる。同様に、状態6における任意のタイミングで次の状態1へと移行できる。その結果、状態1で発振されるパルス波Pxと状態4で発振されるパルス波Pyとの間隔Fをより短くできるので、パルス電源装置3Aにおいてパルス波をより高周波化できる。また、実施例2では実施例1と比べてスイッチング素子SW5をオンの状態に維持する期間を短くできるので、スイッチング素子SW5に負担がかかることを回避できる。さらには、処理対象物によっては、パルス波にリンギング波の成分を付加した方が最適なプラズマとなる場合がある。この場合、消費回路13Aはスイッチング素子SW5がオフの時にエネルギーを消費している為、実施例1に係る消費回路13と比べて、デッドタイムのタイミングコントロールが取りやすくなる。