(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090812
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】燃料電池セル及び燃料電池セルに用いられるセラミックス多孔質体
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0258 20160101AFI20240627BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20240627BHJP
【FI】
H01M8/0258
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206941
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】大西 一樹
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA08
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD05
5H126EE03
5H126EE06
5H126EE22
5H126GG11
5H126GG12
5H126JJ01
5H126JJ03
5H126JJ04
(57)【要約】
【課題】燃料電池において電極触媒層への燃料電池用ガスの拡散性に優れ、触媒の反応効率を高めることにより、発電効率及び燃料電池の寿命を向上させることのできる燃料電池セルを提供すること。
【解決手段】電解質層2と、前記電解質層の両面側で前記電解質層を挟むように配置されたアノード側の電極触媒層3とカソード側の電極触媒層4とを備える燃料電池セル1であって、一対の前記電極触媒層の外側に配置された一対のガス拡散層5、6と、前記一対のガス拡散層の外側に配置された一対の板状のセパレータ7、8とを備え、前記ガス拡散層と、セパレータとの間にガス透過性のセラミックス多孔質体9、20が配置され、前記ガス拡散層に対し、前記セラミックス多孔質体を介して、ガスが供給される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、前記電解質層の両面側で前記電解質層を挟むように配置されたアノード側の電極触媒層とカソード側の電極触媒層とを備える燃料電池セルであって、
一対の前記電極触媒層の外側に配置された一対のガス拡散層と、前記一対のガス拡散層の外側に配置された一対の板状のセパレータとを備え、
アノード側の電極触媒層の外側に配置された第一の前記ガス拡散層と、前記第一のガス拡散層の外側に配置された第一の前記セパレータとの間に、ガス透過性の第一のセラミックス多孔質体が配置され、前記第一のガス拡散層に対し、前記第一のセラミックス多孔質体を介して、燃料ガスが供給され、
カソード側の電極触媒層の外側に配置された第二の前記ガス拡散層と、前記第二のガス拡散層の外側に配置された第二の前記セパレータとの間に、ガス透過性の第二のセラミックス多孔質体が配置され、前記第二のガス拡散層に対し、前記第二のセラミックス多孔質体を介して、酸化ガスが供給されることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
前記セラミックス多孔質体は、円筒形多孔質体であって、円筒内部を流されたガスが円筒外部に拡散されて、前記ガス拡散層に供給されることを特徴とする請求項1に記載された燃料電池セル。
【請求項3】
前記円筒形多孔質体の直径は、3mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項2に記載された燃料電池セル。
【請求項4】
前記セラミックス多孔質体は、板状に形成され、厚さが少なくとも0.1mm以上であることを特徴とする請求項1に記載された燃料電池セル。
【請求項5】
前記セラミックス多孔質体の平均気孔径が3μm以上15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載された燃料電池セル。
【請求項6】
前記セラミックス多孔質体は焼結された粒径10μm以上75μm以下の粒子からなることを特徴とする請求項1に記載された燃料電池セル。
【請求項7】
前記セラミックス多孔質体は、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、または炭化ケイ素(SiC)のいずれかの粒子が焼結されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載された燃料電池セル。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の燃料電池セルに用いられるセラミックス多孔質体であって、
シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、または炭化ケイ素(SiC)のいずれかの焼結された粒径10μm以上75μm以下の粒子からなり、
平均気孔径が3μm以上15μm以下に形成されていることを特徴とする請求項7に記載されたセラミックス多孔質体。
【請求項9】
円筒形に形成され、直径が3mm以上20mm以下であることを特徴とする請求項8に記載されたセラミックス多孔質体。
【請求項10】
板状に形成され、厚さが少なくとも0.1mm以上であることを特徴とする請求項8に記載されたセラミックス多孔質体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば水素(燃料)と酸素(酸化剤)の化学エネルギーを、一対の酸化還元反応によって電気に変換する燃料電池セル及び燃料電池セルに用いられるセラミックス多孔質体に関し、特にGDL(ガス拡散層)に供給するガスを均一化するセラミックス多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、例えば水素(燃料)と酸素(酸化剤)の化学エネルギーを、一対の酸化還元反応によって電気に変換する電気化学電池である。燃料電池は、化学反応を維持するために燃料と(通常は空気からの)酸素を継続的に供給する必要がある。燃料電池の発電に伴って生じる生成物は、原理的に水のみであるため、地球環境への負荷がほとんどなく、クリーンな発電システムとして注目されている。
【0003】
燃料電池は、電解質膜の両面に電極触媒層が配置された、電極接合体(MEA)を基本単位として構成される。MEA(Membrane Electrode Assembly)は、
図5に示すように電解質膜11と、電解質膜11を挟むように配置されたアノード(燃料極)側の電極触媒層12、カソード(空気極)側の電極触媒層13とを有する。
【0004】
燃料電池の運転時には、アノード(燃料極)側の電極触媒層12に水素を含む燃料ガスを、カソード(空気極)側の電極触媒層13に酸素を含む酸化ガスを、それぞれ供給することにより、起電力を得る。アノードでは酸化反応が、カソードでは還元反応が進行し、外部回路に起電力を供給する。
【0005】
燃料電池においては、例えば特許文献1に開示されるように、通常は、MEAの各電極触媒層12、13の外側にガス拡散層14、15(GDL(Gas Diffusion Layer))が配置され、ガス拡散層の外側にセパレータ16、17がさらに配置されて、燃料電池セル10が構成される。燃料電池は、通常は、所望の電力に基づき、必要となる複数の燃料電池セル10の組み合わせ(燃料電池スタック)として使用される。
【0006】
なお、ガス拡散層14、15は、燃料である水素や空気の電極(触媒)への供給、電極での化学反応により生じた電子の集電、電解質膜の保湿および生成水の排出、といった多くの役割を担う。ガス拡散層14、15は、ガス透過性や導電性のほか、耐酸性や機械的強度など多様な要求を満たす必要があり、一般にカーボンペーパーやカーボンクロスが使われている。ガス拡散層14、15がカーボンペーパーにより構成される場合、複数枚のカーボンペーパーを積層することにより、ガス拡散範囲等を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、板状のセパレータ16、17の一面には、ガス供給溝(ガス供給ライン)16a、17aが例えば並列に多数形成されており、このガス供給溝16a、17aを燃料電池用ガス(水素、空気)が流される。ガス供給溝16a、17aの開口側からは、ガス拡散層14、15へ向けて燃料電池用ガスが供給されることになる。
【0009】
しかしながら、例えば
図6(a)、(b)に示すように、複数並列に配置された複数のガス供給溝16a、17aにおいて、隣り合うガス供給溝16a、17aの間には壁部16b、17bがあるため、この壁部16b、17bの幅が大きいほど、セパレータ16、17に向き合うガス拡散層14、15に吹き付けられるガス量が均一とならない。そのため、ガス拡散層14、15における燃料電池用ガスの拡散が不十分となり、電極触媒層の一面に供給されるガス量にばらつきが生じるという課題があった。また、それに起因する発電量の不安定化、触媒の使用効率低下、電池寿命の低下といった問題が生じていた。
【0010】
前記ガス拡散層14、15によるガス拡散が不十分となる課題を解決するために、ガス拡散層14、15を積層したカーボンペーパーにより構成し、積層枚数を多くしてガス拡散層14、15の厚みをより大きくすることが考えられる。そのように構成すれば、ガス拡散層14、15中において、通過するガスがより拡散されるため、電極触媒層に放出するガスの拡散を均一に近づけることができる。
しかしながら、ガス拡散層14、15を構成するカーボンペーパーの使用枚数が多いと、ガス拡散層14、15の厚みが大きくなるために、燃料電池の出力低下や、燃料電池セルが大型化するといった課題があった。
【0011】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、燃料電池において電極触媒層への燃料電池用ガスの拡散性に優れ、触媒の反応効率を高めることにより、発電効率及び燃料電池の寿命を向上させることのできる燃料電池セル及び燃料電池セルに用いられるセラミックス多孔質体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る燃料電池セルは、電解質層と、前記電解質層の両面側で前記電解質層を挟むように配置されたアノード側の電極触媒層とカソード側の電極触媒層とを備える燃料電池セルであって、一対の前記電極触媒層の外側に配置された一対のガス拡散層と、前記一対のガス拡散層の外側に配置された一対の板状のセパレータとを備え、アノード側の電極触媒層の外側に配置された第一の前記ガス拡散層と、前記第一のガス拡散層の外側に配置された第一の前記セパレータとの間に、ガス透過性の第一のセラミックス多孔質体が配置され、前記第一のガス拡散層に対し、前記第一のセラミックス多孔質体を介して、燃料ガスが供給され、カソード側の電極触媒層の外側に配置された第二の前記ガス拡散層と、前記第二のガス拡散層の外側に配置された第二の前記セパレータとの間に、ガス透過性の第二のセラミックス多孔質体が配置され、前記第二のガス拡散層に対し、前記第二のセラミックス多孔質体を介して、酸化ガスが供給されることに特徴を有する。
【0013】
なお、前記セラミックス多孔質体は、円筒形多孔質体であって、円筒内部を流されたガスが円筒外部に拡散されて、前記ガス拡散層に供給されることが望ましい。
また、前記円筒形多孔質体の直径は、3mm以上20mm以下であることが望ましい。
或いは、前記セラミックス多孔質体は、板状に形成されてもよく、その場合は厚さが少なくとも0.1mm以上であることが望ましい。
また、前記セラミックス多孔質体の平均気孔径が3μm以上15μm以下であることが望ましい。
また、前記セラミックス多孔質体は焼結された粒径10μm以上75μm以下の粒子からなることが望ましい。
また、前記セラミックス多孔質体は、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、または炭化ケイ素(SiC)のいずれかの粒子が焼結されて形成されていることが望ましい。
【0014】
このように本発明によれば、ガス拡散層と、セパレータとの間にガス透過性のセラミックス多孔質体が配置される。
これにより、セパレータの内側に供給された燃料ガスあるいは酸化ガスは、セラミックス多孔質体を通過し、ガス拡散層側へ放出される。セラミックス多孔質体内において、燃料ガス、あるいは酸化ガスは十分に分散してガス拡散層側に放出されるため、ガス拡散層の一面には、ほぼ均一にガス(空気または水素)が吹き付けられる。そのため、ガス拡散層を通過し、電極触媒層の一面に供給されるガスのばらつき発生を抑制することができる。すなわち、ガス拡散層にガスが入り込む段階から、従来に比べ格段に均一化されることになる。その結果、触媒の反応効率を高くし、発電効率及び燃料電池の寿命を向上することができる。
さらに、ガス拡散層と、セパレータとの間にガス透過性のセラミックス多孔質体を配置することで燃料電池用ガスの均一分散性を向上させ、ガス拡散層が複数の積層されたカーボンペーパーにより構成される場合には、カーボンペーパーの使用枚数を減らすことができる。ガス拡散層を形成するカーボンペーパーの使用枚数を減らすことで、燃料電池用ガスの分散性の制御が容易になり、且つ省スペース化を可能とすることができる。その結果、電極の搭載数を増やすことができ、燃料電池の出力向上を実現することができる。
【0015】
また、上記課題を解決するために本発明に係る燃料電池セルに用いられるセラミックス多孔質体は、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、または炭化ケイ素(SiC)のいずれかの焼結された粒径10μm以上75μm以下の粒子からなり、平均気孔径が3μm以上15μm以下に形成されていることに特徴を有する。
なお、セラミックス多孔質体は、円筒形に形成され、直径が3mm以上20mm以下であることが望ましい。
或いは、板状に形成され、厚さが少なくとも0.1mm以上であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
燃料電池において電極触媒層への燃料電池用ガスの拡散性に優れ、触媒の反応効率を高めることにより、発電効率及び燃料電池の寿命を向上させることのできる燃料電池セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明に係る燃料電池セルの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、水素の供給方向から見た
図1の一部断面図であり、
図2(b)は酸素の供給方向から見た
図1の一部断面図である。
【
図3】
図3(a)、(b)は、
図1の燃料電池セルの変形例を示すセパレータの正面図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、
図1の燃料電池セルの変形例であって、
図4(a)は、水素の供給方向から見た一部断面図であり、
図4(b)は酸素の供給方向から見た一部断面図である。
【
図5】
図5は、従来の燃料電池セルの構成を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6(a)は、水素の供給方向から見た
図5の一部断面図であり、
図6(b)は酸素の供給方向から見た
図5の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る燃料電池セルについて図面を用いて説明する。
図1は、本発明に係る燃料電池セルの構成を模式的に示す斜視図である。
図1において、説明のために各層は離れた状態で示しているが、実際には各層は、密接した状態で配置される。
図1に示す燃料電池セル1は、電解質層2と、電解質層2の両面側で電解質層2を挟むように配置されたアノード(燃料極)側の電極触媒層3と、カソード(空気極)側の電極触媒層4とを有する。電解質層2と、電極触媒層3、4とにより電極接合体(MEA)が構成されている。
【0019】
電解質層2は、燃料電池の運転時にアノード側の電極触媒層3で生成したプロトンを膜厚方向に沿ってカソード側の電極触媒層4へと選択的に透過させる機能を有する。また、電解質層2は、アノード側に供給される燃料ガス(水素)とカソード側に供給される酸化剤ガス(空気)とを混合させないための隔壁としての機能をも有する。
電解質層2としては、特に限定されず、燃料電池の技術分野において従来公知の高分子電解質からなる膜が適宜採用できる。
【0020】
電極触媒層3、4は、実際に電池反応が進行する層である。具体的には、アノード側の電極触媒層3では水素の酸化反応が進行し、カソード側の電極触媒層4では酸素の還元反応が進行する。電極触媒層3、4は、触媒成分、触媒成分を担持する導電性の触媒担体及び高分子電解質を含む。
カソード側の電極触媒層3に用いられる触媒成分は、酸素の還元反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。また、アノード側の電極触媒層4に用いられる触媒成分もまた、水素の酸化反応に触媒作用を有するものであれば特に制限はなく公知の触媒が同様にして使用できる。
【0021】
また、MEAの電極触媒層3、4の外側には、一対のガス拡散層(GDL)5、6が配置されている。ガス拡散層5、6は、例えば、炭素繊維等の導電性繊維を多数含む、抄紙法により製造されたカーボンペーパーが複数積層されたものからなる。炭素繊維等の導電性繊維は、短繊維でも長繊維でもよいが、分散性、抄紙のしやすさ(抄紙性)等を考慮すると、短繊維が好ましい。なお、繊維長が短いと、得られるガス拡散層5、6においてガス透過路や水排出路となる通路(空孔、気孔、細孔)の長さが過剰に長くなることを抑えることができ、また通路の多様な方向性を獲得できる。その結果、ガスや水分を逃がし易い方向に透過させるのに有利となり、ガスや水分の透過性を高めることが可能となる。
【0022】
また、ガス拡散層5、6の外側には、一対の板状のセパレータ7、8がさらに配置されている。セパレータ7、8は、材質は特に限定されないが、例えばカーボン製、或いは金属製である。セパレータ7、8のガス拡散層5、6に臨む一面には、ガス供給溝7a、8aが並列に多数形成されている。ガス供給溝7a、8aは、カーボン製セパレータの場合には溝(リブ)を例えば、切削加工によって形成し、金属製セパレータの場合には溝(リブ)を例えば、プレス加工によって形成する。
図2(a)に示すガス供給溝7aの幅w1は3mm、隣り合うガス供給溝7a間の壁部7bの幅w2は3mm、ガス供給溝7aの深さ(壁部7b高さ)d1は5mmに形成されている。また、壁部7b先端とガス拡散層5との間の距離は0mmに形成されている。また、
図2(b)に示すガス供給溝8aの幅w3は3mm、隣り合うガス供給溝8a間の壁部8bの幅w4は3mm、ガス供給溝8aの深さ(壁部8b高さ)d2は5mmに形成されている。また、壁部8b先端とガス拡散層6との間の距離は0mmに形成されている。また、本実施の形態においては、セパレータ7に形成された直線状のガス供給溝7aと、セパレータ8に形成された直線状のガス供給溝8aとは互いに直交する方向に配置される。
【0023】
また、ガス供給溝7a、8aには、ガス透過性のセラミックス多孔質体として、直径3mm以上20mm以下の円筒形多孔質体9が配置されている。即ち、ガス拡散層5、6と、セパレータ7、8との間に円筒形多孔質体9が配置される。なお、円筒形多孔質体9の直径が3mm未満の場合、円筒形多孔質体9の強度が維持できず、また製造困難であり、20mmを超える場合、燃料電池自体が大型化してしまう。円筒形多孔質体9の直径に合わせて、セパレータの溝の幅と深さを調整する。
この円筒形多孔質体9は、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、または炭化ケイ素(SiC)のいずれかの粒径10μm以上75μm以下の粒子からなる気孔率20%以上40%以下の多孔質な円筒体である。
【0024】
この円筒形多孔質体9を、シリカ(SiO2)により形成する場合は、例えば、平均粒子径30μm以上50μm以下の球状シリカをバインダと混合して鋳型に鋳込み、40℃以上60℃以下の所定の温度で3時間以上5時間以下放置することによりゲル化させる。次いで、例えば、このゲルを離型し、1200℃以上1400℃以下の所定の温度で10時間以上15時間以下保持することにより焼成する。このように1200℃以上1400℃以下の焼成工程を経ることで粒子の脱落が生じ難い部材を得ることができる。
【0025】
円筒形多孔質体9をアルミナにより形成する場合は、原料となる結晶性アルミナ粉末にバインダや造孔材を添加し、鋳型で成形後に非酸化性雰囲気下において1700℃以上2000℃以下で3時間以上12時間以下、焼成する。1700℃以上2000℃以下で焼成することにより、粒子の脱落が生じ難い部材に形成される。
【0026】
結晶性アルミナ粉末には、α-アルミナ粉体、β-アルミナ粉体およびγ-アルミナ粉体のいずれも用いることができるが、コストが安く、取り扱いの容易なα-アルミナ粉体が好ましい。これらのアルミナ粉体の平均粒子径としては、得られる円筒形多孔質体9を構成するアルミナの粒径が10μm以上75μm以下となるようなものであればよく、平均粒子径が異なるアルミナ粉体を混合した混合体を用いてもよい。例えば、平均粒子径が3μm以上のアルミナ粉体100重量部に対して、平均粒子径が3μm未満のアルミナ粉体10~500重量部の混合体は、圧壊強度および形状性において優れた多孔体を形成する。また、アルミナ粉体は、微小な一次粒子の集合体であってもよい。
【0027】
また、円筒形多孔質体9を炭化ケイ素(SiC)により形成する場合は、平均粒子径20μm以上300μm以下の炭化ケイ素原料に有機バインダを添加、混合し、鋳型で成形後に非酸化性雰囲気下で、2000℃以上2300℃以下の温度で例えば2時間行う。2000℃以上2300℃以下の焼成工程を経ることで粒子の脱落が生じ難い部材を得ることができる。炭化ケイ素(SiC)からなる円筒形多孔質体9の場合、複数の炭化ケイ素粒子が結合して骨格をなし、それらの間に多数の気孔が形成される。
【0028】
円筒形多孔質体9がシリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、または炭化ケイ素(SiC)のいずれかにより形成されている場合でも、気孔率が20%以上40%以下(特に20%の場合に効果が高い)を単層又は多層で構成され、平均気孔径が3μm以上15μm以下(特に3μmの場合に効果が高い)に形成されている。
【0029】
気孔率が20%未満の場合には、ガスの吐出量不足であり、40%を超える場合は、ガスの吐出が不均一になる。また、平均気孔径が3μm未満の場合には、ガスの吐出量不足であり、15μmを超える場合は、ガスの吐出が不均一になる。
このように円筒形多孔質体9は、多孔質に形成され、且つ円筒形状であることから燃料電池用ガスを円筒内部から円筒外部に向けて、全周方向、即ち360°全方位に均一に放出することができる。
【0030】
図2(a)は、水素の供給方向から見た
図1の一部断面図であり、
図2(b)は酸素の供給方向から見た
図1の一部断面図である。酸素、または水素を供給するガス供給源(図示せず)からセパレータ7、8に対しては、ガス供給溝7a、8aに配置された円筒形多孔質体9の開口端部から筒内部にガス(水素、酸素)が供給される。円筒形多孔質体9内部に供給されたガスは、筒軸方向に流れ進むとともに、円筒形多孔質体9が多孔質に形成されているため、
図2(a)、(b)に示すように円筒外部に向けて全周にわたり径外方向にガスが放出される。但し、ガス供給溝7a、8a側に放出されたガスは、溝底部に跳ね返って再び円筒形多孔質体9を通過し、ガス拡散層5、6側へ放出されることになる。
【0031】
これにより、ガス拡散層5、6の一面には、ほぼ均一にガス(水素または酸素)が吹き付けられる。そのため、ガス拡散層5、6内をさらに拡散されて、電極触媒層3、4の一面に供給されるガスは、均一な供給量となって、ばらつきが生じることがない。その結果、触媒の反応効率が高くなり、発電効率及び燃料電池の寿命が向上する。
さらに、円筒状多孔質体9を配置することで燃料電池用ガスの均一分散性が向上し、結果的にガス拡散層5、6を形成するカーボンペーパーの使用枚数を減らすことができる。ガス拡散層5、6を形成するカーボンペーパーの使用枚数が減ると、燃料電池用ガスの分散性の制御が容易になり、且つ省スペース化に繋がる。その結果、電極の搭載数を増やすことができ、燃料電池の出力向上に繋がる。
【0032】
なお、
図1に示した構成において、セパレータ7、8に形成されたガス供給溝7a、8aを一方向にガスが流れるように形成した例を示したが、本発明にあっては、溝形状を限定するものではない。例えば、
図3(a)、(b)に示すようにガスが流れる方向が交互に逆向きとなるようにガス供給溝7a、8aを形成してもよい。
【0033】
また、
図1、
図2においては、ガス拡散層5、6と、セパレータ7、8との間にガス透過性のセラミックス多孔質体としての円筒形多孔質体9を配置した例を示したが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、
図4に示すように、円筒形多孔質体9に代えて、ガス拡散層5、6と、セパレータ7、8との間にガス透過性のセラミックス多孔質体としての板状多孔質体20を配置してもよい。板状多孔質体20は、円筒形多孔質体9と同じ材質、焼成方法により形成することができる。板状多孔質体20の厚さは少なくとも0.1mm以上が望ましい。板状多孔質体20の厚さが0.1mmより小さいと、効果が得られず、また、破損しやすくなる虞がある。好ましくは、板状多孔質体20の厚さは0.5mm以上である。板状多孔質体20の厚さが厚すぎると大型化されてしまい、ガスの透過に大きな圧力を要するので、1.0mm以下が良い。
【0034】
また、前記実施の形態において、燃料電池を運転する際に用いられる燃料は水素として説明したが、本発明にあっては、特に限定されない。
例えば、燃料電池を運転する際の燃料として、水素、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、第1級ブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどを用いることができる。
【0035】
以上のように本発明に係る実施の形態によれば、ガス拡散層5、6と、セパレータ7、8との間にガス透過性のセラミックス多孔質体(円筒形多孔質体9、板状多孔質体20)が配置される。これによりガス供給溝7a、8a側に放出されたガスは、セラミックス多孔質体を通過し、ガス拡散層5、6側へ放出されることになる。セラミックス多孔質体内において、燃料ガス、あるいは酸化ガスは十分に分散してガス拡散層5、6側に放出されるため、ガス拡散層5、6の一面には、ほぼ均一にガス(水素または酸素)が吹き付けられる。そのため、ガス拡散層5、6内をさらに拡散されて、電極触媒層3、4の一面に供給されるガスは、均一な供給量となって、ばらつきが生じることがない。その結果、触媒の反応効率を高くし、発電効率及び燃料電池の寿命を向上することができる。
さらに、ガス拡散層5、6と、セパレータ7、8との間にガス透過性のセラミックス多孔質体を配置することで燃料電池用ガスの均一分散性を向上させ、結果的にガス拡散層5、6を形成するカーボンペーパーの使用枚数を減らすことができる。ガス拡散層5、6を形成するカーボンペーパーの使用枚数を減らすことで、燃料電池用ガスの分散性の制御が容易になり、且つ省スペース化を可能とすることができる。その結果、電極の搭載数を増やすことができ、燃料電池の出力向上を実現することができる。
なお、本発明において、平均気孔径と気孔率は、水銀ポロシメータで測定すればよい。また、粒径は、レーザー回析法で測定すればよい。
【実施例0036】
以下、本発明に係る燃料電池セル及び燃料電池セルに用いられるセラミックス多孔質体について、さらに実施例に基づき説明する。
【0037】
(実験1)
実験1では、本発明の燃料電池セルが備える円筒形多孔質体のガス分散性能について観察し検証した。
【0038】
(実施例1)
実施例1では、上記実施の形態に示したセパレータの溝に円筒形多孔質体(直径6mm、長さ40mm、平均気孔径3μm、気孔率20%)を配置し、スプレーノズルからこの円筒形多孔質体の内部に流量0.30MPaでガス(窒素)を流した。
また、円筒形多孔質体をセパレータとの間で挟むようにガス拡散層を配置し、このガス拡散層を透過するガスを、シュリーレン法により観察した。
実施例1の結果、ガス拡散層から一様にガスが流れ出ており、円筒形多孔質体から吹き付けられるガスが円筒形多孔質体周囲全方向に広範囲に拡散することを確認することができた。
【0039】
(比較例1)
比較例1では、スプレーノズルから直接、気体(窒素)をピンポイントでガス拡散層に吹き込み、その様子をシュリーレン法により観察した。
比較例1の結果、ガス拡散層から流れ出るガスはノズルを当てた付近に集中しており、ガス拡散層だけでは拡散範囲が狭いことが確認された。
【0040】
(実験2)
実験2では、本発明の燃料電池セルが備える円筒形多孔質体の好ましい構成について検証した。
まず、円筒状のセラミックス多孔質体の直径の下限を検証した(その他の条件として、長さ40mm、平均気孔径3μm、気孔率20%)。円筒状のセラミックス多孔質体の直径が2mmの場合は、その製造時、及びセパレータの溝に配置する施工時に強度不足により多数が破損した。一方、直径3mmの場合は、破損なく製造し施工することができた。
【0041】
次に、円筒状のセラミックス多孔質体の直径の上限を検証した(その他の条件として、長さ40mm、平均気孔径3μm、気孔率20%)。円筒状のセラミックス多孔質体の直径が25mmの場合は、燃料電池セルの構成要素全てが大型化し、電極触媒の体積当たりの電気化学反応量を十分なものにすることができなかった。一方、直径20mmの場合は、電極触媒の体積当たりの電気化学反応量を十分にすることができた。
よって、円筒状のセラミックス多孔質体の直径は3mm以上20mm以下が好ましいことを確認した。
【0042】
続いて、円筒状のセラミックス多孔質体の平均気孔径の下限について検証した(その他の条件として、直径6mm、長さ40mm、気孔率20%)。円筒状のセラミックス多孔質体の平均気孔径が2μmでは、セラミックス多孔質体からのガス吐出量が不十分であった。一方、円筒状のセラミックス多孔質体の平均気孔径が3μmでは十分なガス吐出量が得られた。
【0043】
次に、円筒状のセラミックス多孔質体の平均気孔径の上限について検証した(その他の条件として、直径6mm、長さ40mm、気孔率20%)。円筒状のセラミックス多孔質体の平均気孔径が20μmでは、ガスの供給が不均一となりムラが生じた。一方、円筒状のセラミックス多孔質体の平均気孔径が15μmではガス吐出の均一性が良好であった。
よって、セラミックス多孔質体の平均気孔径は、3μm以上15μm以下が好ましいことを確認した。
【0044】
なお、このように平均気孔径が3μm以上15μm以下のセラミックス多孔質体を製造するには、粒径10μm以上75μm以下の粒子を用いることで、気孔を容易に制御できる。また、多孔体の気孔率は、20%以上40%以下になるように製造するとよい。