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特開2024-90824正極板、非水電解質二次電池、及び正極板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090824
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】正極板、非水電解質二次電池、及び正極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240627BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20240627BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20240627BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M50/531
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206962
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】池田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H043
5H050
【Fターム(参考)】
5H043AA19
5H043BA19
5H043EA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA02
5H050EA12
5H050GA04
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】保護層を形成するためのスラリーの塗布性が良好である正極板の製造方法によって得られた正極板を提供する。
【解決手段】正極板は、金属箔の表面に、正極活物質を含む活物質層及び保護層を有する。活物質層と保護層とは、正極板の平面視において隣接している。保護層は、比表面積が5.0m/g以下であるマグネシアを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の表面に、正極活物質を含む活物質層及び保護層を有する正極板であって、
前記活物質層と前記保護層とは、前記正極板の平面視において隣接しており、
前記保護層は、比表面積が5.0m/g以下であるマグネシアを含む、正極板。
【請求項2】
前記保護層に含まれる前記マグネシアの比表面積は、4.0m/g以下である、請求項1に記載の正極板。
【請求項3】
前記保護層は、前記保護層の総量に対して前記マグネシアを15重量%以上25重量%以下含む、請求項1に記載の正極板。
【請求項4】
前記保護層はさらに、バインダを含む、請求項1に記載の正極板。
【請求項5】
前記保護層はさらに、導電性炭素材料を含む、請求項1に記載の正極板。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の正極板を備えた非水電解質二次電池。
【請求項7】
正極原反から正極板を得る正極板の製造方法であって、
前記正極原反は、金属箔の表面に、正極活物質を含む活物質層及び保護層を有し、
前記正極原反の平面視において、前記活物質層と前記保護層とが隣接しており、
前記製造方法は、前記正極原反を準備する工程(S1)を含み、
前記工程(S1)は、前記金属箔の表面に、前記保護層を形成するためのスラリーを塗布する工程を含み、
前記スラリーは、比表面積が5.0m/g以下であるマグネシアを含む、正極板の製造方法。
【請求項8】
前記スラリーに含まれる前記マグネシアの比表面積は、4.0m/g以下である、請求項7に記載の正極板の製造方法。
【請求項9】
前記製造方法はさらに、前記正極原反をレーザで切断する工程(S2)を含み、
前記工程(S2)は、前記保護層を切断する工程を含む、請求項7に記載の正極板の製造方法。
【請求項10】
前記正極板は、電極タブを有し、
前記工程(S2)は、前記正極原反を前記レーザで切断することにより前記電極タブを形成する工程を含む、請求項9に記載の正極板の製造方法。
【請求項11】
前記レーザは、連続発振レーザである、請求項9又は10に記載の正極板の製造方法。
【請求項12】
前記工程(S2)での前記連続発振レーザの出力は、400W以上1200W以下である、請求項11に記載の正極板の製造方法。
【請求項13】
前記工程(S2)での前記連続発振レーザの走査速度は、7660mm/秒以下である、請求項11に記載の正極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極板、非水電解質二次電池、及び正極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属箔の表面に活物質層を有し、この活物質層の側縁部に隣接して保護層を有する正極板が知られている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-093839号公報
【特許文献2】特開2022-116966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
保護層は、金属箔の表面に無機フィラーを含むスラリーを塗布することによって形成される。無機フィラーとしてマグネシアを用いた場合、スラリーの静置粘度が増加することがあった。スラリーの静置粘度の増加は、金属箔表面にスラリーを塗り広げにくくする原因となり得、ひいては保護層に欠陥を生じさせる原因となり得る。
【0005】
本開示は、保護層を形成するためのスラリーの塗布性が良好である正極板の製造方法、正極板、及びそれを備えた非水電解質二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔1〕 金属箔の表面に、正極活物質を含む活物質層及び保護層を有する正極板であって、
前記活物質層と前記保護層とは、前記正極板の平面視において隣接しており、
前記保護層は、比表面積が5.0m/g以下であるマグネシアを含む、正極板。
〔2〕 前記保護層に含まれる前記マグネシアの比表面積は、4.0m/g以下である、〔1〕に記載の正極板。
〔3〕 前記保護層は、前記保護層の総量に対して前記マグネシアを15重量%以上25重量%以下含む、〔1〕又は〔2〕に記載の正極板。
〔4〕 前記保護層はさらに、バインダを含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の正極板。
〔5〕 前記保護層はさらに、導電性炭素材料を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の正極板。
〔6〕 〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の正極板を備えた非水電解質二次電池。
〔7〕 正極原反から正極板を得る正極板の製造方法であって、
前記正極原反は、金属箔の表面に、正極活物質を含む活物質層及び保護層を有し、
前記正極原反の平面視において、前記活物質層と前記保護層とが隣接しており、
前記製造方法は、前記正極原反を準備する工程(S1)を含み、
前記工程(S1)は、前記金属箔の表面に、前記保護層を形成するためのスラリーを塗布する工程を含み、
前記スラリーは、比表面積が5.0m/g以下であるマグネシアを含む、正極板の製造方法。
〔8〕 前記スラリーに含まれる前記マグネシアの比表面積は、4.0m/g以下である、〔7〕に記載の正極板の製造方法。
〔9〕 前記製造方法はさらに、前記正極原反をレーザで切断する工程(S2)を含み、
前記工程(S2)は、前記保護層を切断する工程を含む、〔7〕又は〔8〕に記載の正極板の製造方法。
〔10〕 前記正極板は、電極タブを有し、
前記工程(S2)は、前記正極原反を前記レーザで切断することにより前記電極タブを形成する工程を含む、〔9〕に記載の正極板の製造方法。
〔11〕 前記レーザは、連続発振レーザである、〔9〕又は〔10〕に記載の正極板の製造方法。
〔12〕 前記工程(S2)での前記連続発振レーザの出力は、400W以上1200W以下である、〔11〕に記載の正極板の製造方法。
〔13〕 前記工程(S2)での前記連続発振レーザの走査速度は、7660mm/秒以下である、〔11〕又は〔12〕に記載の正極板の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、保護層を形成するためのスラリーの塗布性が良好である正極板の製造方法及び正極板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本開示の一実施形態に係る正極板の一例を示す概略平面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る正極原反の一例を示す概略平面図である。
図3】せん断速度に対するスラリーの粘度を示すグラフである。
図4】実施例で作製した試料(2)のヤケ幅を示すグラフである。
図5】実施例で作製した試料(4)のヤケ幅を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(正極板)
図1は、本開示の一実施形態に係る正極板の一例を示す概略平面図である。正極板10は、電池に用いることができ、例えば非水電解質二次電池に用いることができる。正極板10は、金属箔11の表面に正極活物質を含む活物質層12及び保護層13を有し、正極板10の平面視において活物質層12と保護層13とが隣接している。活物質層12及び保護層13は、金属箔11の片面又は両面に設けることができる。正極板10は、外部端子(正極端子)との接続部となる電極タブ14を有することができる。電極タブ14は、正極板10の平面視において、正極板10の側縁部に設けられた保護層13から外側に向かって突出するように設けることができる(図1)。電極タブ14は、金属箔11表面に活物質層12及び保護層13が形成されていない、金属箔11の表面が露出した領域を有することができ、保護層13の一部を含んでいてもよい。
【0010】
金属箔11は、正極集電体として機能し、例えばアルミニウム及びアルミニウム合金等のアルミニウム材料を用いて形成できる。
【0011】
活物質層12は、正極活物質に加えて、結着材及び導電助剤のうちの一方又は両方を含んでいてもよい。正極活物質としては、例えば、層状系又はスピネル系等のリチウム遷移金属酸化物(例えば、LiNiCoMnO、LiNiO2、LiCoO2、LiFeO2、LiMn24、LiNi0.5Mn1.54、LiCrMnO4、LiFePO4、LiNi1/3Co1/3Mn1/32)が挙げられる。
【0012】
結着材としては例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、及び、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0013】
導電助剤としては炭素材料が挙げられる。炭素材料としては、繊維状炭素、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、コークス、及び、活性炭からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。繊維状炭素としては、カーボンナノチューブ(CNT)が挙げられる。CNTは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)であってもよく、2層カーボンチューブ(DWCNT)等の多層カーボンナノチューブであってもよい。
【0014】
保護層13は、正極板10の電極タブ14が設けられる側縁部において、活物質層12の側縁に沿って設けられることが好ましい。保護層13は通常、金属箔11及び活物質層12よりも電気伝導度が小さい。活物質層12に隣接して保護層13を設けることにより、電池に含まれる電極体のセパレータの破損等によって正極板10の金属箔11と負極活物質層とが接触することを抑制し、電池の内部短絡の発生を抑制することができる。
【0015】
保護層13は、比表面積(BET)が5.0m/g以下であるマグネシア(MgO)(以下「本MgO」ともいう。)を含む。本MgOは、粒子であることが好ましい。本MgOの比表面積は、好ましくは4.5m/g以下であり、より好ましくは4.0m/g以下であり、通常0.5m/g以上であり、1.0m/g以上であってもよい。後述するように、保護層13は、金属箔11上に本MgOを含むスラリーを塗布することによって形成される。静置粘度が増加したスラリーは、金属箔11上に塗布したときに塗り広げにくい傾向にある。本MgOを含むスラリーは静置粘度の増加を抑制できるため、スラリーの塗布性に優れ、金属箔11上に塗布した際の塗布ムラの発生を抑制できる。これにより、金属箔11上に形成される保護層13に欠陥が発生することを抑制できることが期待できる。
【0016】
マグネシアの比表面積は、マグネシアの粒径、マグネシアの製造時の焼成温度及び焼成時間等を制御することによって調整することができる。本MgOの比表面積は、本MgO表面に液体窒素を吸着させ、その吸着量から比表面積を求める吸着法によって算出することができる。
【0017】
保護層13は、本MgOに加えて、バインダ及び導電性炭素材料のうちの一方又は両方を含んでいてもよく、さらに、本MgO以外のフィラー粒子を含んでいてもよい。バインダとしては例えば、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。導電性炭素材料としては例えば、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック等)、黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン、及びフラーレンからなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。本MgO以外のフィラー粒子としては、絶縁性のフィラー粒子が挙げられ、例えば本MgO以外の無機酸化物粒子、窒化物粒子、金属水酸化物粒子、粘度鉱物粒子、ガラス粒子等が挙げられる。
【0018】
保護層13は、保護層13の総量に対して本MgOを15重量%以上25重量%以下含むことが好ましく、17重量%以上23重量%以下含んでいてもよく、18重量%以上22重量%以下含んでいてもよい。保護層13中のバインダの含有量は、保護層13の総量に対して、5重量%以上60重量%以下であってもよく、10重量%以上50重量%以下であってもよい。保護層13中の導電性炭素材料の含有量は、保護層13の総量に対して、0.1重量%以上10重量%以下であってもよく、1重量%以上5重量%以下であってもよい。保護層13に含まれるフィラー粒子の総量に対する本MgOの含有量は、好ましくは80%重量%以上100重量%以下であり、より好ましくは90%重量%以上100重量%以下であり、95%重量%以上100重量%以下であってもよい。
【0019】
後述するように、正極板10を製造する際に保護層13をレーザで切断すると、保護層13にヤケが発生する。保護層13のヤケは、正極板10の画像検査等における誤検出の原因となり得る。本実施形態の保護層13はマグネシアを含むため、マグネシアの代わりにアルミナ(Al)を用いて形成された保護層に比較すると、レーザーで切断したときに発生するヤケ幅を小さくできる。そのため、正極板10の画像検査等における誤検出を抑制できる。
【0020】
(正極板の製造方法)
図2は、本開示の一実施形態に係る正極原反の一例を示す概略平面図である。正極板10の製造方法は、正極原反20から正極板10を得る方法であり、例えば上記した図1に示す正極板10を製造する方法である。正極原反20は、金属箔11の表面に、正極活物質を含む活物質層12及び保護層13を有し、正極原反20の平面視において活物質層12と保護層13とが隣接している。図2に示すように、正極原反20には例えば、活物質層12の両側縁に隣接するように保護層13を設けることができる。活物質層12及び保護層13は、金属箔11の片面又は両面に設けることができる。金属箔11、活物質層12、及び保護層13を構成する材料としては、上記で説明したものが挙げられる。正極原反20は通常、帯状であって、複数の正極板10を切り出すことができる長さ及び幅を有する。
【0021】
正極板10の製造方法は、正極原反20を準備する工程(S1)を含む。工程(S1)は、金属箔11の表面に、保護層13を形成するためのスラリーを塗布する工程(S1b)を含み、スラリーは本MgOを含む。塗布されたスラリーを乾燥する等により保護層13が形成される。スラリーに含まれる本MgOの比表面積は、上記で説明した範囲内である。
【0022】
スラリーは、本MgO及び分散媒を混合することによって調製できる。スラリーはさらに、バインダ及び導電性炭素材料のうちの一方又は両方を含んでいてもよい。バインダ及び導電性炭素材料としては、上記で説明したものが挙げられる。スラリーは例えば、バインダと分散媒とを混合した混合液に、本MgOを添加して混合した後、導電性炭素材料を添加して混合することによって調製できる。
【0023】
スラリーは公知の方法によって塗布することができ、例えばスロットダイコータ又はロールコータによって塗布できる。
【0024】
工程(S1)はさらに、金属箔11の表面に、活物質層12を形成するための正極活物質を含む正極スラリーを塗布する工程(S1a)を含んでいてもよい。塗布された正極スラリーを乾燥し、必要に応じて圧縮する等により活物質層12を形成した後、上記工程(S1b)を行うことが好ましい。この場合、工程(S1b)で塗布されるスラリーは、活物質層12に隣接するように塗布すればよい。
【0025】
正極板10の製造方法では例えば、正極原反20から正極板10を得るために、第1切断線L1及び第2切断線L2に沿って正極原反20を切断する。第1切断線L1は、正極原反20の活物質層12が形成された領域に、例えば図2に示すように、活物質層12の幅(第1切断線L1に直交する方向の長さ)を2分割するように直線状に設定することができる。第2切断線L2は、例えば図2に示すように、正極板10の電極タブ14が設けられる側縁部を形成するように、正極原反20の保護層13が形成された領域及び金属箔11が露出した領域に設定することができる。第1切断線L1及び第2切断線L2に沿った正極原反20の切断は、レーザ、切断刃、金型、ロータリースリッタ、カッター等によって行うことができる。レーザは、連続発振レーザ(CWレーザ(continuous wave laser))であってもよく、パルスレーザであってもよい。第1切断線L1及び第2切断線L2に沿った切断に用いる切断方法は、同じであってもよく異なっていてもよい。
【0026】
正極板10の製造方法は、正極原反20をレーザで切断する工程(S2)を含み、工程(S2)は、保護層13を切断する工程を含むことが好ましい。工程(S2)は、正極原反20をレーザで切断することにより電極タブ14を形成する工程を含んでいてもよい。電極タブ14を形成する場合、正極原反20において、保護層13を切断するとともに金属箔11が露出した領域をレーザで切断してもよい。工程(S2)は、図2に示す第2切断線L2に沿って正極原反20を切断する工程であってもよい。マグネシアはアルミナよりも融点が高いため、本MgOを含む保護層13は、アルミナを用いた保護層に比較すると、レーザで切断したときに発生するヤケ幅を小さくできる。これにより、正極板10の画像検査等における誤検出を抑制できる。
【0027】
工程(S2)ではCWレーザを用いることが好ましい。CWレーザは、パルスレーザに比較するとピーク出力が相対的に小さいため、レーザ照射時の衝撃によって保護層13が吹き飛ばされることを抑制できる。工程(S2)でCWレーザを用いた場合の出力は、好ましくは400W以上1200W以下であり、400W以上1000W以下であってもよく、500W以上800W以下であってもよく、500W以上700W未満であってもよく、500W以上600W以下であってもよい。
【0028】
工程(S2)でCWレーザを用いた場合の走査速度は、好ましくは7660mm/秒以下であり、3000mm/秒以上7500mm/秒以下であってもよく、6000mm/秒超7000mm/秒以下であってもよい。走査速度は、正極原反とレーザーとが相対移動するときの速度を表す。正極原反及びレーザのうちの一方のみを移動させる場合、移動させる方の移動速度が走査速度となる。正極原反及びレーザの両方をそれぞれ逆方向に移動させる場合、正極原反及びレーザそれぞれの移動速度の合計が走査速度となる。
【0029】
マグネシアはアルミナよりも融点が高いため、マグネシアの代わりにアルミナを用いた保護層に比較すると、本MgOを含む保護層13は、レーザでの切断後の再溶着が生じにくい。そのため、上記のように、CWレーザで切断する際の出力を小さくしたり、走査速度を大きくしたりした場合にも、再溶着を抑制し、良好な切断品質(切断箇所の加工幅、バリの長さ、及びヤケ幅)を実現しつつ、正極板10の製造効率を向上できる。これに対し、アルミナを用いた保護層では、再溶着を抑制するために、レーザ出力を例えば700W以上とし、走査速度を5000mm/秒以下とする必要があり、レーザの低出力化及び走査速度の高速化が難しく、製造効率を向上しにくい。アルミナを用いた保護層では、上記したようにレーザでの切断によりヤケ幅が大きくなるため、正極板の切断品質も低下しやすい。
【0030】
工程(S2)でCWレーザを用いた場合のCWレーザのスポット径は、例えば10μm以上60μm以下であってもよく、20μm以上50μm以下であってもよい。
【0031】
(非水電解質二次電池)
非水電解質二次電池は、上記した正極板を備える。非水電解質二次電池は通常、電極体と電解質とを備える。非水電解質二次電池はさらに、電極体及び電解質を収容するケースを含むことができる。電極体は、上記した正極板の活物質層と、負極板の負極活物質層との間に、セパレータが挟み込まれた構造を有する。電極体は、巻回型電極体であってもよく、積層型電極体であってもよい。非水電解質二次電池では、正極板が有する電極タブの束が正極端子に接続され、負極板が有する電極タブの束が負極端子に接続される。
【0032】
負極板は、負極集電体上に負極活物質層を有する。負極集電体は例えば、銅及び銅合金等の銅材料を用いて構成された金属箔である。負極活物質層は、負極活物質を含み、さらに結着材及び導電助剤のうちの一方又は両方を含んでいてもよい。
【0033】
負極活物質としては、黒鉛(グラファイト)等の炭素(C)原子を含む炭素系活物質;ケイ素(Si)、錫(Sn)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、ゲルマニウム(Ge)からなる群から選択される元素を含む金属単体又は金属酸化物等の金属元素を含む金属系活物質が挙げられる。結着材としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)等のセルロース系結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)、等が挙げられる。導電助剤としては、繊維状炭素、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。繊維状炭素は、上記で説明したものが挙げられる。
【0034】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート(フィルム、不織布等)が挙げられる。多孔質シートは、単層構造であってもよく、2層以上の多層構造であってもよい。
【0035】
電解質としては、非水電解液が挙げられ、例えば、有機溶媒等の非水溶媒中に支持塩を含有させたものが挙げられる。非水溶媒としては例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジエチルカーボネート(DEC)等が挙げられる。支持塩としては例えば、過塩素酸リチウム(LiClO)及び六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等が挙げられる。
【0036】
ケースは、電極体を収容する筐体である。ケースは、金属製であることが好ましく、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、鉄、又は鉄合金等を用いて形成できる。
【実施例0037】
以下、実施例及び比較例を示して本開示をさらに具体的に説明する。
[試料の作製]
分散媒とポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを混合した混合液に、表1に示す無機酸化物粒子を添加し、撹拌翼の回転数を2000~6000rpmとして120分間撹拌した後、導電性炭素材料(アセチレンブラック等)を添加し、撹拌翼の回転数を2000~6000rpmとして30分間撹拌して、スラリーを調製した。
【0038】
塗布厚みが125μmとなるアプリケータを用いて、アルミニウム箔の両面に上記で調製したスラリーを塗布し、温度120℃前後で十分に乾燥させて、アルミニウム箔の表面に保護層が形成された試料(1)~(4)を作製した。
【0039】
[無機酸化物粒子の比表面積の測定]
表1に示す無機酸化物粒子の表面に液体窒素を吸着させた。吸着法により、無機酸化物粒子表面の液体窒素の吸着量から比表面積を求めた。結果を表1に示す。
【0040】
[スラリーの粘度の測定]
試料(1)~(4)を得るためのスラリーについて、温度23~28℃、せん断速度0.01~10000s-1における粘度を、Anton Paar社製のMCRレオメータを用いて測定した。結果を図3に示す。図3中、各プロットを説明する無機酸化物粒子は、各スラリーに含まれる無機酸化物粒子の種類(表1)を表す。
【0041】
無機酸化物粒子として比表面積が3.7m/g及び4.7m/gであるAlを用いて上記した手順で調製したスラリーについて、上記した手順で粘度を測定したところ、試料(4)を得るために用いたスラリーの粘度と同じであった。
【0042】
図3に示すグラフから、MgOの比表面積によって、スラリーの静置粘度が異なることがわかる。一方、Alを用いたスラリーでは、MgOを用いたスラリーとは異なり、Alの比表面積によって静置粘度に変化が見られないことがわかる。
【0043】
[スラリーの塗布性の評価]
試料の作製において、アルミニウム箔の表面にスラリーを塗布したときに、塗り広がりやすかったものを「A」とし、塗り広がりにくかったものを「B」と評価した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
[レーザでの切断の評価]
連続発振式レーザを用い、出力400~1200W、走査速度7660mm/s以下の範囲内で、試料(2)及び試料(4)の保護層が形成された領域を切断した。切断した部分の保護層をマイクロスコープで観察し、再溶着の有無を確認し、切断した部分の加工幅、ヤケ幅、及びバリの長さ(いずれも、平面視において切断線に直交する方向の長さ)を測定した。加工幅は、試料の切断により保護層が消失している部分の幅とした。ヤケ幅は、切断により保護層が変色している幅とした。再溶着の有無の結果を表2に示し、切断時のレーザの出力に対するヤケ幅の測定結果を図4及び図5に示す。図4は、試料(2)のヤケ幅を示すグラフであり、図5は、試料(4)のヤケ幅を示すグラフである。グラフ中の白丸で示すプロットはヤケ幅の平均値を表す。図4及び図5から、試料(2)のヤケ幅は試料(4)のヤケ幅よりも小さいことがわかる。試料(2)及び試料(4)の加工幅及びバリの長さは、いずれも正極板の切断品質として許容される範囲内であった。
【0046】
【表2】
【符号の説明】
【0047】
10 正極板、11 金属箔、12 活物質層、13 保護層、14 電極タブ、20 正極原反。
図1
図2
図3
図4
図5