(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090829
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】滅菌容器に収容されるエピナスチン含有水性医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/55 20060101AFI20240627BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240627BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240627BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A61K31/55
A61P27/02
A61K9/08
A61K47/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022206968
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100162695
【弁理士】
【氏名又は名称】釜平 双美
(74)【代理人】
【識別番号】100156155
【弁理士】
【氏名又は名称】水原 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100162684
【弁理士】
【氏名又は名称】呉 英燦
(74)【代理人】
【識別番号】100158414
【弁理士】
【氏名又は名称】秦野 正和
(72)【発明者】
【氏名】桃川 雄介
(72)【発明者】
【氏名】井上 博行
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD22
4C076DD23D
4C076DD30
4C076DD49
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB12
4C086MA03
4C086MA05
4C086NA03
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】より安全かつ高品質の、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有する水性医薬組成物及びその医薬品の提供。
【解決手段】0.1%(w/v)濃度のエピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有する水性医薬組成物であって、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下であり、滅菌された樹脂製容器に収容される水性医薬組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1%(w/v)濃度のエピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有する水性医薬組成物であって、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下であり、滅菌された樹脂製容器に収容される水性医薬組成物。
【請求項2】
滅菌された樹脂製容器が、電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌された樹脂製容器である、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項3】
ほう酸類の濃度が0.05~0.5%(w/v)未満である、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項4】
ほう酸類の濃度が0.1%(w/v)である、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項5】
ほう酸類が、ほう酸及びほう砂からなる群より選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項6】
イオン性等張化剤が、塩化ナトリウムである、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項7】
樹脂製容器が、ポリエチレン又はポリプロピレン製である、請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項8】
樹脂製容器が、3ピース型点眼容器である、請求項1又は2に記載の水性医薬組成物。
【請求項9】
点眼剤である、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項10】
エピナスチン又はその塩が、エピナスチン塩酸塩である、請求項1に記載の水性医薬組成物。
【請求項11】
有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩と、添加剤としてほう酸類、塩化ナトリウム及びpH調節剤のみを含有し、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下である、水性医薬組成物であって、電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌された、ポリエチレン又はポリプロピレン製の樹脂製容器に収容される水性医薬組成物。
【請求項12】
0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有し、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下である水性医薬組成物が、滅菌された樹脂製容器に収容されている、医薬製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滅菌容器に収容されるエピナスチン含有水性医薬組成物、より詳しくは0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有する水性医薬組成物であって、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下であり、滅菌された樹脂製容器に収容される水性医薬組成物(以下、「本発明の水性医薬組成物」ともいう)に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品は、有効性と安全性を確保するための厳格な管理が義務づけられている。例えば、「新有効成分含有医薬品のうち製剤の不純物に関するガイドライン」には、医薬品の品質を確保するために、新製剤の製造中あるいは安定性試験において認められた分解生成物(原薬の分解生成物又は原薬と医薬品添加物もしくは直接容器/施栓系との反応による生成物)についてその量の限度値(閾値)が定められており、その値を超えると、分解生成物の構造決定、さらには分解生成物の安全性の確認等が必要であると規定されている。したがって、医薬品の開発においては、その製造中あるいは保存中に分解生成物が閾値を超えて生成されないように処方設計及び製造工程を管理する必要がある。
【0003】
点眼液のような水性液剤は、人体において特に鋭敏な器官である眼に直接投与されるため、点眼容器の開封時までは無菌状態を保つことが厳しく求められている。このような水性液剤は、通常、製造時に滅菌処理することによって無菌状態に調製され、その多くは、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂を成形した樹脂製容器に保存されている。一方で、これらの樹脂製容器は耐熱性に劣るとの問題があることが知られている。
【0004】
エピナスチン又はその塩を含む医薬品としては、例えば、通常1回1滴、1日4回点眼の用法・用量で使用される、エピナスチン塩酸塩を有効成分とするアレジオン(登録商標)点眼液0.05%(非特許文献1)、また、アレジオン(登録商標)点眼液0.05%よりも1日当たりの投薬の回数を減らした、エピナスチン塩酸塩を有効成分とするアレジオン(登録商標)LX点眼液0.1%(非特許文献2)が知られている。
【0005】
特許文献1には、0.1%(w/v)濃度のエピナスチン又はその塩及びほう酸又はその塩を含有する、ソフトコンタクトレンズの変質を抑制する眼科用組成物が開示されている。また、これらの眼科用組成物が、汎用される方法として例えば、蒸留水に各成分を溶解又は懸濁させ、浸透圧、pH等を所定の範囲に調整し、濾過滅菌又は加熱滅菌処理することによって調製できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】アレジオン(登録商標)点眼液0.05%添付文書
【非特許文献2】アレジオン(登録商標)LX点眼液0.1%添付文書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
服薬アドヒアランスの観点から、従来の製剤に比べて、より安全で、より高品質の医薬品を提供することは常に強く求められている。点眼液などの水性液剤は、使用する添加剤の種類によって原薬の類縁物質等の不純物が生じることがある。また、水性液剤は容器に収容して保存されるため、一定期間保存すると一定量の分解生成物が生じ得る。従来の製剤においても分解生成物の生成を十分に抑制できているが、そのような分解生成物をより一層抑制することは、従来の製剤に比べて製剤の品質の向上をもたらし、有効性及び安全性のさらなる改善につながり、水性液剤の開発にあたっては非常に有意義なことである。
【0009】
そこで、本発明は、より安全かつ高品質の、有効成分としてエピナスチン又はその塩を含有する水性医薬組成物及びその医薬品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、エピナスチン又はその塩を含有する水性医薬組成物について鋭意研究を行ったところ、点眼液に汎用される添加剤や容器の滅菌有無の違いによって、エピナスチン由来の類縁物質の生成量が変化することを見出した。その中でもエピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有し、ほう酸類の濃度を0.5%(w/v)以下に調整した水性医薬組成物が、組成物中のエピナスチン由来の類縁物質の生成を抑制し、さらに前記水性医薬組成物を滅菌された樹脂製容器に収容することによって、組成物中のエピナスチン由来の類縁物質の生成が効果的に抑制できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
具体的に、本発明は以下を提供する。
(1)0.1%(w/v)濃度のエピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有する水性医薬組成物であって、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下であり、滅菌された樹脂製容器に収容される水性医薬組成物。
(2)滅菌された樹脂製容器が、電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌された樹脂製容器である、(1)に記載の水性医薬組成物。
(3)ほう酸類の濃度が0.05~0.5%(w/v)未満である、(1)又は(2)に記載の水性医薬組成物。
(4)ほう酸類の濃度が0.1%(w/v)である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(5)ほう酸類が、ほう酸及びほう砂からなる群より選択される少なくとも一つである、(1)~(4)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(6)イオン性等張化剤が、塩化ナトリウムである、(1)~(5)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(7)樹脂製容器が、ポリエチレン又はポリプロピレン製である、(1)~(6)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(8)樹脂製容器が、3ピース型点眼容器である、(1)~(7)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(9)点眼剤である、(1)~(8)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(10)エピナスチン又はその塩が、エピナスチン塩酸塩である、(1)~(9)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(11)有効成分として0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩と、添加剤としてほう酸類、塩化ナトリウム及びpH調節剤のみを含有する水性医薬組成物であって、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下であり、電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌された樹脂製容器に収容される水性医薬組成物。
(12)ほう酸類が、ほう酸である、(11)に記載の水性医薬組成物。
(13)ほう酸類が、ほう砂である、(11)に記載の水性医薬組成物。
(14)ほう酸類が、ほう酸及びほう砂である、(11)に記載の水性医薬組成物。
(15)樹脂製容器が、ポリエチレン又はポリプロピレン製である、(11)~(14)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(16)点眼剤である、(11)~(15)のいずれか1つに記載の水性医薬組成物。
(17)エピナスチン又はその塩を含有する水性医薬組成物に、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有することによって、エピナスチン由来の類縁物質の生成を抑制する方法。
(18)エピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有する水性医薬組成物を電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌された樹脂製容器に収容することによって、エピナスチン由来の類縁物質の生成を抑制する方法。
(19)エピナスチン又はその塩の濃度が0.1%(w/v)である、(17)又は(18)に記載の方法。
(20)ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下である、(17)~(19)のいずれか1つに記載の方法。
(21)ほう酸類が、ほう酸及び/又はほう砂である、(17)~(20)のいずれか1つに記載の方法。
(22)0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有し、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下である水性医薬組成物を電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌された樹脂製容器に収容することによって、該水性医薬組成物の保存安定性を向上させる方法。
(23)0.1%(w/v)の濃度のエピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有し、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下である水性医薬組成物を電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌された樹脂製容器に収容することによって、該水性医薬組成物中のエピナスチン又はその塩の含量を安定化させる方法。
(24)0.1%(w/v)濃度のエピナスチン又はその塩と、ほう酸類と、イオン性等張化剤を含有し、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下である水性医薬組成物が、滅菌された樹脂製容器に収容されている、医薬製品。
(25)0.1%(w/v)濃度のエピナスチン又はその塩と、ほう酸類と、イオン性等張化剤を含有し、ほう酸類の濃度が0.5%(w/v)以下である水性医薬組成物が、滅菌された樹脂製容器に収容されている、眼科用医薬製品。
【0012】
なお、前記(1)から(25)の各構成は、任意に2以上を選択して組み合わせることができる。
【0013】
さらに、本発明は以下も提供する。
(26)治療が必要な患者に、治療上の有効量の(1)~(16)のいずれかに記載の水性医薬組成物を投与することを特徴とする、アレルギー性疾患の治療方法。
(27)アレルギー性疾患の治療に使用する、(1)~(16)のいずれかに記載の水性医薬組成物。
(28)アレルギー性疾患を治療するための医薬を製造するための、(1)~(16)のいずれかに記載の水性医薬組成物の使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、エピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有する水性医薬組成物を滅菌された樹脂製容器に収容することによって、エピナスチン由来の類縁物質の生成を効果的に抑制することができる。その結果、水性医薬組成物の保存安定性が向上し、より安全かつ高品質のエピナスチン又はその塩を含有する医薬品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0016】
本発明において、「エピナスチン」とは、化学名(±)-3-Amino-9,13b-dihydro-1H-dibenz[c,f]imidazo[1,5-a]azepineで表される化合物であり、また下記式:
【化1】
で表される化合物である。
【0017】
本発明の水性医薬組成物において、含有されるエピナスチンはラセミ体であってもよく、光学異性体であってもよい。
【0018】
本発明の水性医薬組成物において、含有されるエピナスチンは塩であってもよく、医薬として許容される塩であれば特に制限はない。塩としては例えば、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。
【0019】
無機酸との塩としては、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等との塩が挙げられる。
有機酸との塩としては、酢酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、アラニン、乳酸、馬尿酸、1,2-エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、没食子酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、硫酸ラウリル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等との塩が挙げられる。
エピナスチンの塩としては、一塩酸塩(エピナスチン塩酸塩)が特に好ましい。
【0020】
本発明の水性医薬組成物において、含有されるエピナスチン又はその塩は、水和物又は溶媒和物の形態をとってもよい。
【0021】
本発明の水性医薬組成物において、エピナスチン又はその塩の含有量は、薬効、点眼回数、ソフトコンタクトレンズへの影響の有無、服薬アドヒアランス等の様々な要素を鑑みた上で、0.1%(w/v)が好ましい。エピナスチン又はその塩の含有量が0.1%(w/v)より低いと、十分な薬効を得るために点眼量や点眼回数を増やさなければならない。また、その含有量を0.1%(w/v)超とすると、理論的にはさらに点眼回数を減少せしめる可能性はあるが、ソフトコンタクトレンズを変形させる作用を生じることもあり、ソフトコンタクトレンズ装用時への使用に影響を及ぼす可能性がある。
【0022】
なお、本発明において、「%(w/v)」は、本発明の水性医薬組成物100mL中に含まれる対象成分の質量(g)を意味する。本発明においてエピナスチンの塩が含有される場合、その値はエピナスチンの塩の含有量である。また、本発明においてエピナスチン又はその塩が、水和物又は溶媒和物の形態をとって含有される場合、その値はエピナスチン又はその塩の、水和物又は溶媒和物の含有量である。以下、特に断りがない限り同様とする。
【0023】
本発明の水性医薬組成物において、ほう酸類は、エピナスチン由来の類縁物質の生成の抑制に寄与するものであるが、医薬品の添加剤、例えば緩衝剤、防腐剤、安定化剤、等張化剤、溶解補助剤、pH調節剤等としての作用も有する。そのため、ほう酸類は、医薬品の添加剤としても使用することができる。
また、本発明の水性医薬組成物において、ほう酸類は、1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0024】
本発明において、ほう酸類とは、ほう素のオキソ酸及びその縮合物、それらの塩並びにそれらの水和物であり、例えば、ほう酸(オルトほう酸)、ポリほう酸、メタほう酸、ほう砂、四ほう酸ナトリウム(テトラほう酸ナトリウム)、八ほう酸ナトリウム(オクタほう酸ナトリウム)、ポリほう酸ナトリウム、メタほう酸ナトリウム、四ほう酸カリウム(テトラほう酸カリウム)、八ほう酸カリウム(オクタほう酸カリウム)、ポリほう酸カリウム、メタほう酸カリウム、ポリほう酸アンモニウム、四ほう酸アンモニウム(テトラほう酸アンモニウム)、八ほう酸アンモニウム(オクタほう酸アンモニウム)、ポリほう酸アンモニウム、メタほう酸アンモニウム等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。ほう酸類は、好ましくは、ほう酸及び/又はほう砂であり、より好ましくは、ほう酸である。
【0025】
本発明の水性医薬組成物において、ほう酸類の含有量は、種類によって適宜調整することができる。ほう酸類の含有量が多すぎるとエピナスチン由来の類縁物質を生成する傾向があることから、その含有量の上限は、例えば3%(w/v)以下であり、2%(w/v)以下が好ましく、1.5%(w/v)以下がより好ましく、1%(w/v)以下がさらに好ましく、0.5%(w/v)以下がさらにより好ましく、0.5%(w/v)未満が特に好ましい。また、その含有量は、例えば0.001~3%(w/v)であり、0.005~2%(w/v)が好ましく、0.01~1.5%(w/v)がより好ましく、0.01~1%(w/v)、0.05~1%(w/v)がさらに好ましく、0.05~0.5%(w/v)、0.1~0.5%(w/v)がさらにより好ましく、0.05~0.5%(w/v)未満、0.1~0.5%(w/v)未満が特に好ましい。また、その含有量は、0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.15%(w/v)、0.2%(w/v)、0.25%(w/v)、0.3%(w/v)、0.35%(w/v)、0.4%(w/v)、0.45%(w/v)又は0.5%(w/v)であってもよい。
【0026】
本発明の水性医薬組成物において、イオン性等張化剤は、エピナスチン由来の類縁物質の生成の抑制に寄与するものである。また、イオン性等張化剤は等張化剤としての作用を有することから、医薬品の添加剤として使用することができる。また、安定化剤、可溶化剤、緩衝剤等の作用を有するイオン性等張化剤であれば、前記作用のための医薬品の添加剤として使用することもできる。
また、本発明の水性医薬組成物において、イオン性等張化剤は、1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0027】
イオン性等張化剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。イオン性等張化剤は、好ましくは、塩化ナトリウムである。
【0028】
本発明の水性医薬組成物において、イオン性等張化剤の含有量は、種類によって適宜調整することができる。その含有量は、例えば、0.001~10%(w/v)である。また、その含有量は、0.01~5%(w/v)が好ましく、0.1~3%(w/v)がより好ましく、0.1~2%(w/v)がさらに好ましく、0.1~1%(w/v)がよりさらに好ましく、0.5~1%(w/v)が特に好ましい。
【0029】
本発明の水性医薬組成物には、ほう酸類、イオン性等張化剤の他に、必要に応じて医薬品の添加剤、例えば、緩衝剤、粘稠化剤、界面活性化剤、安定化剤、防腐剤、抗酸化剤、pH調節剤等を加えることができる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、また、2種以上を適宜組み合わせて用いてもよく、適量を含有することができる。
【0030】
本発明の水性医薬組成物に緩衝剤を含有する場合の緩衝剤は、医薬品の添加剤として使用可能な緩衝剤を適宜含有することができる。その例として、リン酸又はその塩、炭酸又はその塩、クエン酸又はその塩、酢酸又はその塩、酒石酸又はその塩、ε-アミノカプロン酸又はその塩、グルタミン酸又はその塩、有機アミン等が挙げられ、これらは水和物又は溶媒和物であってもよい。
【0031】
リン酸又はその塩としては、リン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム(以下、リン酸水素ナトリウムともいう)、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。また、本発明の水性医薬組成物においては、リン酸又はその塩を含まないことも好ましい。
【0032】
炭酸又はその塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。
【0033】
クエン酸又はその塩としては、クエン酸、クエン酸一ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。
【0034】
酢酸又はその塩としては、酢酸、酢酸ナトリウム等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。
【0035】
酒石酸又はその塩としては、酒石酸、酒石酸一ナトリウム、酒石酸二ナトリウム等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。
【0036】
ε-アミノカプロン酸又はその塩としては、ε-アミノカプロン酸、ε-アミノカプロン酸ナトリウム、ε-アミノカプロン酸塩酸塩等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。
【0037】
グルタミン酸又はその塩としては、グルタミン酸、グルタミン酸一ナトリウム、グルタミン酸二ナトリウム、グルタミン酸塩酸塩等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。
【0038】
有機アミンとしては、トロメタモール等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。
【0039】
本発明の水性医薬組成物に緩衝剤を含有する場合の緩衝剤の含有量は、緩衝剤の種類などにより適宜調整することができる。その含有量は、0.001~10%(w/v)が好ましく、0.01~5%(w/v)がより好ましく、0.1~5%(w/v)がさらに好ましく、0.1~2%(w/v)が特に好ましい。
また、本発明の水性医薬組成物に緩衝剤を含有する場合には、緩衝剤を1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0040】
本発明の水性医薬組成物に粘稠化剤を含有する場合の粘稠化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な粘稠化剤を適宜含有することができる。その例として、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
本発明の水性医薬組成物に粘稠化剤を含有する場合の粘稠化剤の含有量は、粘稠化剤の種類などにより適宜調整することができる。その含有量は、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01~3%(w/v)がより好ましく、0.1~2%(w/v)がさらに好ましい。
また、本発明の水性医薬組成物に粘稠化剤を含有する場合には、粘稠化剤を1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0042】
本発明の水性医薬組成物に界面活性化剤を含有する場合の界面活性化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な界面活性化剤を適宜含有することができる。その例として、カチオン性界面活性化剤、アニオン性界面活性化剤、非イオン性界面活性化剤等が挙げられる。
【0043】
カチオン性界面活性化剤としては、アルキルアミン塩、アルキルアミンポリオキシエチレン付加物、脂肪酸トリエタノールアミンモノエステル塩、アシルアミノエチルジエチルアミン塩、脂肪酸ポリアミン縮合物、アルキルイミダゾリン、1-アシルアミノエチル-2-アルキルイミダゾリン、1-ヒドロキシルエチル-2-アルキルイミダゾリン等が挙げられる。なお、塩化ベンザルコニウム等の第四級アンモニウムカチオンは、カチオン性界面活性化剤の性質を有しているが、これらは本発明におけるカチオン性界面活性化剤には含まれない。
【0044】
アニオン性界面活性化剤としては、レシチン等のリン脂質等が挙げられる。
【0045】
非イオン性界面活性化剤としては、ステアリン酸ポリオキシル40等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリソルベート80、ポリソルベート60、ポリソルベート40、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート、ポリソルベート65等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油50、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;ポリオキシル5ヒマシ油、ポリオキシル9ヒマシ油、ポリオキシル15ヒマシ油、ポリオキシル35ヒマシ油、ポリオキシル40ヒマシ油等のポリオキシルヒマシ油;ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、ポリオキシエチレン(42)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(54)ポリオキシプロピレン(39)グリコール、ポリオキシエチレン(196)ポリオキシプロピレン(67)グリコール、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(20)グリコール等のポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール;ショ糖ステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル;トコフェロールポリエチレングリコール1000コハク酸エステル(ビタミンE TPGS)等が挙げられる。
【0046】
本発明の水性医薬組成物に界面活性化剤を含有する場合の界面活性化剤の含有量は、界面活性化剤の種類などにより適宜調整することができる。その含有量は、0.01~1%(w/v)が好ましく、0.05~0.5%(w/v)がより好ましく、0.05~0.2%(w/v)がさらに好ましい。
また、本発明の水性医薬組成物に界面活性化剤を含有する場合には、界面活性化剤を1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0047】
本発明の水性医薬組成物に安定化剤を含有する場合の安定化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な安定化剤を適宜含有することができる。その例として、エデト酸又はその塩、シクロデキストリン、チオ硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0048】
エデト酸又はその塩としては、エデト酸、エデト酸一ナトリウム、エデト酸二ナトリウム(以下、エデト酸ナトリウムともいう)、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム等が挙げられ、これらは水和物であってもよい。
【0049】
本発明の水性医薬組成物に安定化剤を含有する場合の安定化剤の含有量は、安定化剤の種類などにより適宜調整することができる。その含有量は、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01~3%(w/v)がより好ましく、0.01~1%(w/v)がさらに好ましい。
また、本発明の水性医薬組成物に安定化剤を含有する場合には、安定化剤を1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0050】
本発明の水性医薬組成物に防腐剤を含有する場合の防腐剤は、医薬品の添加剤として使用可能な防腐剤を適宜含有することができる。その例として、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化ポリドロニウム、塩化セチルピリジニウム、臭化ベンザルコニウム、臭化ベンゼトニウム、臭化メチルベンゼトニウム、セトリミド、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、亜塩素酸ナトリウム、クロロブタノール等が挙げられる。また、塩化ベンザルコニウムは細胞障害性があり、曝露量が増えると角膜上皮障害を引き起こす可能性が増大することから、塩化ベンザルコニウムを含有しないことも好ましい。
【0051】
本発明の水性医薬組成物に防腐剤を含有する場合の防腐剤の含有量は、防腐剤の種類などにより適宜調整することができる。その含有量は、0.0001~0.1%(w/v)が好ましく、0.001~0.05%(w/v)がより好ましい。また、本発明の水性医薬組成物は、実質的に防腐剤を含有することなく、防腐効果を発揮し得るため、本発明の水性医薬組成物においては、防腐剤を含有しなくてもよい。
また、本発明の水性医薬組成物に防腐剤を含有する場合には、防腐剤を1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0052】
本発明の水性医薬組成物に抗酸化剤を含有する場合の抗酸化剤は、医薬品の添加剤として使用可能な抗酸化剤を適宜含有することができる。その例として、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0053】
本発明の水性医薬組成物に抗酸化剤を含有する場合の抗酸化剤の含有量は、抗酸化剤の種類などにより適宜調整することができる。その含有量は、0.001~5%(w/v)が好ましく、0.01~3%(w/v)がより好ましく、0.1~2%(w/v)がさらに好ましい。
また、本発明の水性医薬組成物に抗酸化剤を含有する場合には、抗酸化剤を1種又は2種以上一緒に用いてもよい。
【0054】
本発明の水性医薬組成物にpH調節剤を含有する場合のpH調節剤は、医薬品の添加剤として使用可能なpH調節剤を適宜含有することができる。pH調節剤は、例えば、酸又は塩基である。酸としては例えば、塩酸、リン酸等が挙げられ、塩基としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0055】
本発明の水性医薬組成物において、pHは、医薬品として許容される範囲内にあればよく、例えば4.0~8.5又は4.0~8.0の範囲内であり、6.0~8.0が好ましく、6.5~7.5がより好ましい。特に好ましいpHは、6.7~7.3であるが、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2又は7.3であってもよい。
【0056】
本発明の水性医薬組成物の浸透圧比は、医薬品として許容される範囲内にあればよく、例えば、0.5~2.0であり、0.7~1.6が好ましく、0.8~1.4がより好ましく、0.9~1.2がさらに好ましい。
【0057】
本発明において、「水性医薬組成物」とは、水を含有する医薬用組成物を意味する。本発明の水性医薬組成物に含まれる水の含有量は特に制限はされないが、水性医薬組成物の総重量に対して、10%(w/v)以上が好ましく、30%(w/v)以上がより好ましく、50%(w/v)以上がさらに好ましい。さらには、水の含有量は、水性医薬組成物の総重量に対して、70%(w/v)以上が好ましく、90%(w/v)以上がより好ましく、95%(w/v)以上がさらに好ましい。
【0058】
本発明において、「水性医薬組成物の保存安定性を向上させる」とは、一定期間の保存後のエピナスチン又はその塩の分解を抑えてエピナスチン又はその塩の含量の低下を抑制し、保存中の本発明の水性医薬組成物の安定性を高めることを意味する。
【0059】
本発明において、「エピナスチン又はその塩の含量を安定化する」とは、本発明の水性医薬組成物においてエピナスチン又はその塩の含量の低下を抑制し、エピナスチン又はその塩の含量を安定に維持させることを意味する。
【0060】
本発明において、「医薬製品」とは、本発明の水性医薬組成物が容器に収容されている状態にある製品を意味する。好ましくは、眼科用医薬製品であり、より好ましくは点眼用医薬製品である。
【0061】
本発明において、「アレルギー性疾患」とは、外部からの抗原に対する免疫反応によって引き起こされる疾患又はその症状を指す。外部からの抗原とは、例えば花粉である。アレルギー性疾患の例として、アレルギー性結膜炎が挙げられるが、これに限定されるものではない。本発明において、アレルギー性疾患の治療とは、アレルギー性疾患又はその症状のあらゆる治療(例えば、治癒、改善、軽減、進行の抑制等)及びその予防を指す。また、アレルギー性疾患の再発の阻止も含まれる。
【0062】
本発明において、「患者」とは、ヒトのみに限らずその他の動物、例えば、イヌ、ネコ、ウマなども意味する。患者は、好ましくは哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。本発明において、「治療上の有効量」とは、未治療対象と比べて、疾患及びその症状の治療効果をもたらす量又は疾患及びその症状の進行の遅延をもたらす量などを意味する。
【0063】
本発明の水性医薬組成物は、医薬として用いられ、非経口(例えば、局所)投与に適している。本発明の水性医薬組成物の非経口投与経路としては、医薬品として許容される局所投与経路、例えば、眼への局所投与(例えば、点眼投与)、点鼻(経鼻)投与、耳への局所投与(例えば、点耳投与)、吸入投与、噴霧投与、経皮投与、皮膚上投与、注射投与などが挙げられる。好ましくは、眼への局所投与である。
【0064】
本発明の水性医薬組成物は、眼科用製剤、耳鼻科用製剤、吸入用製剤、経皮吸収用製剤として用いることができ、その剤形は、医薬品として使用可能なものであれば特に制限されるものではない。剤形としては、例えば、液剤、懸濁剤等の経口投与剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、吸入剤(吸入粉末剤、吸入液剤、吸入エアゾール剤)、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、経皮吸収型製剤、貼付剤(テープ剤、パップ剤)、外用液剤(ローション剤、リニメント剤)、外用固形剤(外用散剤)、スプレー剤(ポンプスプレー剤、外用エアゾール剤)、注射剤(輸液剤、埋め込み注射剤、持続性注射剤)等の局所投与剤が挙げられる。好ましくは点眼剤である。これらは当該技術分野における通常の方法に従って製造することができる。
【0065】
本発明の水性医薬組成物は、構成成分が全て溶解又は一部懸濁していてもよく、またエマルション、半固体状の形態であってもよい。本発明の水性医薬組成物は、構成成分が全て溶解している溶液状態であることがより好ましく、水溶液であることが最も好ましい。例えば、眼科用であれば点眼剤(点眼液)が特に好ましい。
【0066】
本発明の水性医薬組成物がエマルションである場合は、水中油型エマルション(水相を連続相として、水相と分散した油性液滴から構成されるエマルション)であっても油中水型エマルション(油相を連続相として、油と分散した水性液滴から構成されるエマルション)であってもよい。
【0067】
本発明の水性医薬組成物を眼科用製剤として使用する場合は、特にアレルギー性結膜炎の治療剤として有用である。また、本発明の水性医薬組成物は、特に断りのない限り、エピナスチン又はその塩以外の医薬品活性成分、例えば他の点眼剤に用いられる有効成分を含んでいてもよいし、エピナスチン又はその塩を唯一の有効成分として含んでいてもよい。
【0068】
本発明の水性医薬組成物を点眼剤として眼に投与する場合、所望の薬効を奏するのに十分であれば用法用量に特に制限はない。本発明の水性医薬組成物は、1回1又は2滴、1日1~10回、好ましくは1日1~6回、より好ましくは1日2~4回、さらに好ましくは1日2回又は1日4回、特に好ましくは1日2回に分けて点眼することができる。
【0069】
本発明の水性医薬組成物は、滅菌された樹脂製容器に収容して提供される。容器の滅菌方法としては、例えば、電子線(EB)滅菌、エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌、過酸化水素滅菌、ガンマ線滅菌等が挙げられ、好ましくは電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌である。
【0070】
本発明において、「電子線滅菌」又は「EB滅菌」とは、電子線を利用して菌等を死滅させることができる滅菌方法であり、電子線を用いて滅菌処理する方法であれば特に制限されない。例えば、照射する線量であれば1~100kGy、照射時間であれば数秒~数分の間で、適宜選択できる。
【0071】
本発明において、「エチレンオキサイドガス滅菌」又は「EOG滅菌」とは、エチレンオキサイドガスを用いて菌等を死滅させることができる滅菌方法であり、エチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理する方法であれば特に制限されない。例えば、滅菌温度は30~60℃、滅菌時間は1~10時間、使用されるガスはエチレンオキサイドガスのみ、又はエチレンオキサイドガスと二酸化炭素等との混合ガスであってもよく、適宜選択できる。
【0072】
本発明において、「過酸化水素滅菌」とは、過酸化水素を利用して菌等を死滅させることができる滅菌方法であり、過酸化水素を用いて滅菌処理する方法であれば特に制限されない。
【0073】
本発明において、「ガンマ線滅菌」とは、ガンマ線を利用して菌等を死滅させることができる滅菌方法であり、ガンマ線を用いて滅菌処理する方法であれば特に制限されない。
【0074】
本発明において、滅菌された容器は、滅菌処理ができる容器であればよいが、好ましくは樹脂製容器である。
【0075】
本発明において、樹脂製容器は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリプロピレン-ポリエチレンコポリマー、ポリ塩化ビニル、アクリル、ポリスチレン、ポリ環状オレフィンコポリマー等の材質が少なくとも容器の一部に使用されている樹脂製容器である。例えば、樹脂製容器の材質がポリエチレンである場合、ポリエチレンはその密度によって分類されることから、樹脂製容器は、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等の材質が少なくとも容器の一部に使用されている樹脂製容器を用いることができる。樹脂製容器の材質は、より好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリエチレンテレフタレートであり、さらに好ましくは、ポリエチレン又はポリプロピレンであり、さらにより好ましくは、ポリエチレンであり、特に好ましくは低密度ポリエチレンである。
【0076】
本発明の水性医薬組成物を点眼剤として使用する場合、その点眼容器は、1部材から構成されるものであってもよく、複数の部材から構成されるものであってもよい。本発明の水性医薬組成物は、例えば、1部材から構成される1ピース型点眼容器、2部材から構成される2ピース型点眼容器又は3部材から構成される3ピース型点眼容器のいずれに収容されていてもよいが、好ましくは3ピース型点眼容器である。例えば、3ピース型点眼容器は、本発明の水性医薬組成物を収容する容器本体と中栓、キャップの3部材から形成される。またブロー成形と薬液充填を同時に行う一体成型型容器もその部材数に即して前記の点眼容器に含まれる。容器が複数の部材から形成される場合には、同一の材質による部材で形成されてもよく、異なる材質による部材で形成されてもよい。なお、容器本体の材質は、ポリエチレン等の樹脂であるが、他の部材の材質は、特に制限はなく、一般に汎用される点眼剤の材質であればよい。点眼容器は、好ましくは、すべての部材が樹脂製の容器である。
【0077】
本発明の水性医薬組成物を点眼剤として使用する場合、本発明の水性医薬組成物は、マルチドーズ型容器、1回使い切りのユニットドーズ型容器又はPFMD(Preservative Free Multi Dose)容器のいずれに収容されていてもよい。
【実施例0078】
以下に、製剤例及び試験例を示すが、これらは本発明をより良く理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
製剤例
以下に本発明の代表的な製剤例を示す。なお、下記製剤例において各成分の含有量は製剤1mL中の含量である。
【0080】
製剤例1
エピナスチン塩酸塩 1mg
ほう酸 1mg
塩化ナトリウム 7mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0081】
製剤例2
エピナスチン塩酸塩 1mg
ほう酸 5mg
塩化ナトリウム 5mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0082】
製剤例3
エピナスチン塩酸塩 1mg
ほう酸 1mg
エデト酸ナトリウム 0.5mg
塩化ナトリウム 7mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0083】
製剤例4
エピナスチン塩酸塩 1mg
ほう酸 4.5mg
エデト酸ナトリウム 0.1mg
塩化ナトリウム 5mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0084】
製剤例5
エピナスチン塩酸塩 1mg
ほう酸 1mg
クエン酸ナトリウム 1.5mg
塩化ナトリウム 5mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0085】
製剤例6
エピナスチン塩酸塩 1mg
ほう酸 0.5mg
リン酸水素ナトリウム 1mg
塩化ナトリウム 5mg
希塩酸 適量
水酸化ナトリウム 適量
精製水 適量
pH 7.0
【0086】
試験例
1.安定性試験
(1)被験製剤の調製
表1に示す組成に従って、エピナスチン塩酸塩、ほう酸、イオン性等張化剤として塩化ナトリウムを精製水に所定量を溶解し、さらにpH調節剤(希塩酸及び/又は水酸化ナトリウム)と精製水を加えて濾過滅菌を行うことにより、被験製剤1(pH7.0)を調製した。
被験製剤1の調製方法と同様の方法にて、被験製剤2及び3を調製した。さらに、イオン性等張化剤を非イオン性等張化剤として汎用されるマンニトール又は濃グリセリンに変更した以外は被験製剤1の調製方法と同様の方法にて、被験製剤4及び5を調製した。また、ほう酸をリン酸二水素ナトリウム水和物及びリン酸水素ナトリウム水和物に変更した以外は被験製剤1の調製方法と同様の方法にて、被験製剤6を調製した。
なお、被験製剤1~6はすべて等張となるように等張化剤の添加量を調製した。
【表1】
【0087】
(2)試験方法
電子線滅菌処理(線量:50kGy)されたポリエチレン点眼容器、エチレンオキサイドガス滅菌処理(エチレンオキサイド濃度:480mg/L、温度:40℃、処理時間:3時間)が施されたポリエチレン点眼容器又はポリプロピレン点眼容器に、(1)で調製した被験製剤1~5を充填し、点眼剤1~9を調製した。また未滅菌のポリエチレン点眼容器に、(1)で調製した被験製剤6を充填し、点眼剤10を調製した。点眼剤1~10を60℃で30日間保管し、充填直後と30日間保管後のエピナスチン由来の類縁物質の量を測定し、類縁物質の総量を算出した。
なお、類縁物質の測定については、液体クロマトグラフィーを用いて汎用される分析方法で行った。また類縁物質の総量については、定量限界値(0.05%)以上の類縁物質の量を合計することによって算出した。
【0088】
(3)試験結果及び考察
試験結果を表2に示す。
【表2】
【0089】
表2に示されるように、点眼剤3、点眼剤4、点眼剤7の比較において、ほう酸の含有量を少なくするほどエピナスチン由来の類縁物質の生成が抑制され、ほう酸の濃度が0.5%(w/v)以下とすることによりその類縁物質の生成がさらに抑制されることが確認された。また、点眼剤7~9の比較において、非イオン性等張化剤として用いられるマンニトール又は濃グリセリンよりもイオン性等張化剤である塩化ナトリウムを含有することにより、類縁物質の生成が抑制されることが確認された。さらに、点眼剤4~7において、エピナスチン塩酸塩、0.5%(w/v)以下のほう酸、塩化ナトリウムを含有する組成物を電子線滅菌又はエチレンオキサイドガス滅菌されたポリエチレン製容器又はポリプロピレン製容器に充填することによって、組成物中のエピナスチン由来の類縁物質の生成が効果的に抑制されることが確認された。
【0090】
したがって、0.1%(w/v)濃度のエピナスチン又はその塩、0.5%(w/v)以下のほう酸類及びイオン性等張化剤を含有する水性医薬組成物を滅菌された樹脂製容器に収容することによって、エピナスチン由来の類縁物質を効果的に抑制でき、そして、高い保存安定性を維持できることが示された。
本発明は、エピナスチン又はその塩、ほう酸類及びイオン性等張化剤を含有する水性医薬組成物を滅菌された樹脂製容器に収容することによって、エピナスチン由来の類縁物質の生成を効果的に抑制することができる。その結果、より安全かつ高品質のエピナスチン又はその塩を含有する医薬品を提供することができる。