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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009086
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240112BHJP
   B23K 26/36 20140101ALI20240112BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20240112BHJP
   B23K 26/361 20140101ALI20240112BHJP
【FI】
B23K26/00 N
B23K26/36
B23K26/03
B23K26/361
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023194330
(22)【出願日】2023-11-15
(62)【分割の表示】P 2022044922の分割
【原出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000132725
【氏名又は名称】株式会社ソディック
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】今井 哲也
(72)【発明者】
【氏名】神 武志
(57)【要約】
【課題】超短パルスレーザを用いたより高精度の加工を行うことが可能なレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】
本発明によれば、照射装置と、制御装置とを備え、前記照射装置は、パルス幅が10ピコ秒未満のパルスレーザ光を所定の低フルエンスで照射して、母材中に介在物を含有する被加工物から1以上の加工レイヤーを順次加工し、加工レイヤー全面にわたりパルス幅が10ピコ秒未満の前記パルスレーザ光を前記低フルエンスよりも高い高フルエンスで照射することにより、前記低フルエンスの前記パルスレーザ光の照射により前記介在物の存在に起因して生じた突起を除去するように構成され、前記制御装置は、切替部と、切替条件設定部とを備え、前記切替部は、前記照射装置から出力される前記パルスレーザ光を前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間で切替条件に基づき切り替え、前記切替条件設定部は、前記被加工物の条件に基づき前記切替条件を設定する、レーザ加工装置が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工装置であって、
照射装置と、制御装置とを備え、
前記照射装置は、パルス幅が10ピコ秒未満のパルスレーザ光を所定の低フルエンスで照射して、母材中に介在物を含有する被加工物から1以上の加工レイヤーを順次加工し、加工レイヤー全面にわたりパルス幅が10ピコ秒未満の前記パルスレーザ光を前記低フルエンスよりも高い高フルエンスで照射することにより、前記低フルエンスの前記パルスレーザ光の照射により前記介在物の存在に起因して生じた突起を除去するように構成され、
前記制御装置は、切替部と、切替条件設定部とを備え、
前記切替部は、前記照射装置から出力される前記パルスレーザ光を前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間で切替条件に基づき切り替え、
前記切替条件設定部は、前記被加工物の条件に基づき前記切替条件を設定する、レーザ加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記照射装置は、最終加工の加工レイヤーに対して前記低フルエンスの前記パルスレーザ光を照射して加工を完了するように構成されている、レーザ加工装置。
【請求項3】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記加工レイヤーの画像を取得する撮像装置と、
前記画像を解析して前記加工レイヤーの表面上の前記突起を検出する画像処理装置とを備え、
前記切替部は、前記突起の検出結果に基づき前記パルスレーザ光を前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間で切り替える、レーザ加工装置。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザ加工装置であって、
前記画像処理装置は、前記画像を解析して前記加工レイヤーの前記表面上の前記突起の数又は面積を取得する、レーザ加工装置。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記切替条件設定部は、前記切替条件として低フルエンス加工レイヤー数と高フルエンス加工レイヤー数とを設定し、
前記切替部は、前記低フルエンス加工レイヤー数に基づき前記パルスレーザ光を前記低フルエンスから前記高フルエンスへ切り替え、前記高フルエンス加工レイヤー数に基づき前記パルスレーザ光を前記高フルエンスから前記低フルエンスへ切り替える、レーザ加工装置。
【請求項6】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記切替条件設定部は、前記切替条件として低フルエンス加工深さと高フルエンス加工深さとを設定し、
前記切替部は、前記低フルエンス加工深さに基づき前記パルスレーザ光を前記低フルエンスから前記高フルエンスへ切り替え、前記高フルエンス加工深さに基づき前記パルスレーザ光を前記高フルエンスから前記低フルエンスへ切り替える、レーザ加工装置。
【請求項7】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記照射装置は、前記パルスレーザ光を前記高フルエンスとしての第1高フルエンスと第1高フルエンスよりも低い第2高フルエンスとで照射可能に構成され、
前記切替部は、前記照射装置から出力される前記パルスレーザ光を、前記低フルエンスと、第1高フルエンスと、第2高フルエンスとの間で前記切替条件に基づき切り替えるように構成される、レーザ加工装置。
【請求項8】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記制御装置は、フルエンス設定部を備え、
前記フルエンス設定部は、加工条件に基づき前記高フルエンス及び前記低フルエンスの値を設定し、
前記加工条件には、前記被加工物の材質が含まれる、レーザ加工装置。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザ加工装置であって、
前記加工条件には、前記パルスレーザ光の走査速度及び繰り返し周波数がさらに含まれる、レーザ加工装置。
【請求項10】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記加工レイヤーは、端部に隣接する領域である第1領域と、第1領域とは異なる領域である第2領域とを含み、
第1領域に照射される前記パルスレーザ光のスポット径は、第2領域に照射される前記パルスレーザ光のスポット径よりも小さく、
第1領域に照射される前記パルスレーザ光のフルエンスは、第2領域に照射される前記パルスレーザ光のフルエンスと等しく設定される、レーザ加工装置。
【請求項11】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記加工レイヤーは、前記母材中に前記介在物を含有する合金鋼により構成され、
前記高フルエンスは、前記介在物のレーザアブレーション閾値以上である、レーザ加工装置。
【請求項12】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記照射装置は、レーザ発振器を備え、
前記レーザ発振器の出力パルスエネルギーを変化させることにより前記パルスレーザ光の前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間の切り替えを行うように構成される、レーザ加工装置。
【請求項13】
請求項1に記載のレーザ加工装置であって、
前記パルスレーザ光のスポット径を変化させることにより前記パルスレーザ光の前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間の切り替えを行うように構成される、レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パルス幅がシングルピコ秒以下の超短パルスレーザを被加工物に照射すると、照射部分の材料が非熱的に飛散して除去(アブレーション)される。このような現象を利用した超短パルスレーザ加工は、原子サイズ程度の微細加工を可能にし、また照射部分の周囲への熱影響が小さいため多様な材料に対して高品質な加工を可能にする。特許文献1には、ワイヤ放電加工において用いられるワイヤ電極のダイヤモンド製ダイスの製造方法として、フェムト秒レーザを用いた加工により高い面精度を有するダイス孔を短時間で形成することが可能な方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6340459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
被加工物の加工対象部分を所定の除去量を有する複数の加工レイヤーに分割し、超短パルスレーザを照射することにより加工レイヤーを順次加工していくと、加工の途中で加工レイヤーの表面に断面が略楕円形状の突起が発生する場合がある。このような突起の発生は、金属及び樹脂を含む多様な材料において確認されている。また、一度突起が発生すると加工レイヤーの加工の進行とともに突起が成長してしまうため、特に比較的深さが深い有底穴等の加工において加工品質の低下を招く要因となっていた。
【0005】
加工レイヤーの加工に必要なフルエンスの下限(レーザアブレーション閾値)よりもはるかに高いフルエンスで超短パルスレーザを照射することにより、突起の発生を抑制することが可能である。しかし、このような高フルエンスで加工を行うと、材料への熱影響が大きくなり、加工面の精度が低下するおそれがある。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、超短パルスレーザを用いたより高精度の加工を行うことが可能なレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、レーザ加工装置であって、照射装置と、制御装置とを備え、前記照射装置は、パルス幅が10ピコ秒未満のパルスレーザ光を所定の低フルエンスで照射して被加工物から1以上の加工レイヤーを順次加工し、前記パルスレーザ光を前記低フルエンスよりも高い高フルエンスで照射して、前記加工レイヤーの表面上に発生する突起を除去するように構成され、前記制御装置は、切替部と、切替条件設定部とを備え、前記切替部は、前記照射装置から出力される前記パルスレーザ光を前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間で切替条件に基づき切り替え、前記切替条件設定部は、前記被加工物の条件に基づき前記切替条件を設定する、レーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るレーザ加工装置においては、パルスレーザ光のフルエンスを低フルエンスと高フルエンスとの間で切替条件に基づき切り替え可能である。加工レイヤーの表面上に突起が発生した場合には、高フルエンスに切り替えて照射して突起を除去することが可能である。また、突起の除去後は、低フルエンスに切り替えて加工レイヤーの加工を継続することにより、高フルエンスでの加工を最小限に留め、熱影響による加工面の精度の低下を抑制することが可能となる。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
好ましくは、前記レーザ加工装置は、前記加工レイヤーの画像を取得する撮像装置と、前記画像を解析して前記加工レイヤーの前記表面上の前記突起を検出する画像処理装置とを備え、前記切替部は、前記突起の検出結果に基づき前記パルスレーザ光を前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間で切り替える。
好ましくは、前記画像処理装置は、前記画像を解析して前記加工レイヤーの前記表面上の前記突起の数又は面積を取得する。
好ましくは、前記切替条件設定部は、前記切替条件として低フルエンス加工レイヤー数と高フルエンス加工レイヤー数とを設定し、前記切替部は、前記低フルエンス加工レイヤー数に基づき前記パルスレーザ光を前記低フルエンスから前記高フルエンスへ切り替え、前記高フルエンス加工レイヤー数に基づき前記パルスレーザ光を前記高フルエンスから前記低フルエンスへ切り替える。
好ましくは、前記切替条件設定部は、前記切替条件として低フルエンス加工深さと高フルエンス加工深さとを設定し、前記切替部は、前記低フルエンス加工深さに基づき前記パルスレーザ光を前記低フルエンスから前記高フルエンスへ切り替え、前記高フルエンス加工深さに基づき前記パルスレーザ光を前記高フルエンスから前記低フルエンスへ切り替える。
好ましくは、前記照射装置は、前記パルスレーザ光を前記高フルエンスとしての第1高フルエンスと第1高フルエンスよりも低い第2高フルエンスとで照射可能に構成され、前記切替部は、前記照射装置から出力される前記パルスレーザ光を、前記低フルエンスと、第1高フルエンスと、第2高フルエンスとの間で前記切替条件に基づき切り替えるように構成される。
好ましくは、前記制御装置は、フルエンス設定部を備え、前記フルエンス設定部は、加工条件に基づき前記高フルエンス及び前記低フルエンスの値を設定し、前記加工条件には、前記被加工物の材質が含まれる。
好ましくは、前記加工条件には、前記パルスレーザ光の走査速度及び繰り返し周波数がさらに含まれる。
好ましくは、前記加工レイヤーは、端部に隣接する領域である第1領域と、第1領域とは異なる領域である第2領域とを含み、第1領域に照射される前記パルスレーザ光のスポット径は、第2領域に照射される前記パルスレーザ光のスポット径よりも小さく、第1領域に照射される前記パルスレーザ光のフルエンスは、第2領域に照射される前記パルスレーザ光のフルエンスと等しく設定される。
好ましくは、前記加工レイヤーは、母材中に介在物を含有する合金鋼により構成され、前記高フルエンスは、前記介在物のレーザアブレーション閾値以上である。
好ましくは、前記照射装置は、レーザ発振器を備え、前記レーザ発振器の出力パルスエネルギーを変化させることにより前記パルスレーザ光の前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間の切り替えを行うように構成される。
好ましくは、前記パルスレーザ光のスポット径を変化させることにより前記パルスレーザ光の前記低フルエンスと前記高フルエンスとの間の切り替えを行うように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置1の概略構成図である。
図2】レーザ加工装置1の制御装置8の概略構成図である。
図3図3Aは、レーザ加工装置1の加工対象である被加工物10の平面図である。図3Bは、図3AのA-A線における被加工物10の断面図である。
図4図4Aから図4Cは、レーザ加工装置1による被加工物10の加工レイヤーの加工の態様を示す断面図である。
図5図5A及び図5Bは、レーザ加工装置1による加工レイヤーL上の突起20の除去の態様を示す断面図である。
図6】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置1を用いた加工方法のフロー図である。
図7】変形例4におけるパルスレーザ光71の照射態様を説明するための図である。
図8図8A及び図8Bはそれぞれ、実施例1及び比較例1において形成された有底穴10aの加工面の画像であり、有底穴10aを上方から撮像して得られた画像である。
図9図9Aは、比較例2において形成された有底穴10aの加工面の画像であり、有底穴10aを上方から撮像して得られた画像である。図9Bは、図9Aの領域Bを拡大した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴事項について独立して発明が成立する。
【0012】
1.レーザ加工装置1
図1に示すように、本実施形態のレーザ加工装置1は、パルス幅が10ピコ秒未満のパルスレーザ光71を被加工物10に照射し、照射箇所の材料を飛散させることにより被加工物10を所望の形状に加工する。レーザ加工装置1は、レーザ発振器2と、光学系3と、走査装置4と、ビームスプリッタ51と、集光レンズ52と、結像レンズ53と、撮像装置91と、画像処理装置92と、制御装置8とを備える。
【0013】
レーザ発振器2は、レーザ光源(不図示)から発振されたレーザ光をパルス幅が10ピコ秒未満のパルスレーザ光71に変換し、所定のパルスエネルギーに調節して出力する。なお、パルス幅とは、パルスレーザ光7の1パルスあたりの時間幅を指す。光学系3は、内蔵されたレンズ(不図示)によりレーザ発振器2から出力されたパルスレーザ光71のビーム径を調整する。光学系3は、例えば、ビームエキスパンダを用いて構成することができる。
【0014】
パルスレーザ光71による加工においては、被加工物10の加工対象部分を深さ方向において1以上の加工レイヤーに分割し、上面側から当該加工レイヤーを順次加工することで被加工物10を所望の形状に加工する。走査装置4は、各加工レイヤーに対してパルスレーザ光71を2次元走査する。走査装置4は、第1ガルバノミラー41と、第2ガルバノミラー42と、各ガルバノミラー41,42の動作をそれぞれ制御するアクチュエータ(不図示)を備える。光学系3から出力されたパルスレーザ光71は、第1ガルバノミラー41に反射されることにより水平1軸方向である第1方向に走査されるとともに、第2ガルバノミラー42に反射されることにより第1方向に垂直な他の水平1軸方向である第2方向に走査される。これにより、加工レイヤーの所定箇所にパルスレーザ光71が照射され、照射箇所の材料が除去される。なお、走査装置4によるパルスレーザ光71の走査方式は、上記のガルバノスキャン方式に限定されるものではない。例えば、被加工物10が載置されるテーブルを駆動し、テーブルとともに移動する被加工物10に対してパルスレーザ光71を走査する方式や、レーザ発振器2を駆動することにより被加工物10に対してパルスレーザ光71を走査する方式を用いることも可能である。
【0015】
ビームスプリッタ51は、走査装置4から出力されたパルスレーザ光71を反射し、且つ被加工物10からの反射光72を透過させるように構成される。ビームスプリッタ51は、走査装置4から出力されたパルスレーザ光71の光路上であって、鉛直方向に沿って集光レンズ52と結像レンズ53の間の位置に配置される。これにより、走査装置4から出力されたパルスレーザ光71は、ビームスプリッタ51により反射されて集光レンズ52を経由して被加工物10上に照射される。また、被加工物10からの反射光72は、ビームスプリッタ51を透過し、結像レンズ53を経由して撮像装置91に到達する。
【0016】
集光レンズ52は、ビームスプリッタ51の下方に配置され、走査装置4から出力されたパルスレーザ光71のビーム径を調整する。集光レンズ52は、対物レンズを用いて構成することができる。光学系3及び集光レンズ52におけるビーム径の調整により、加工レイヤーにパルスレーザ光71を所定のスポット径(加工レイヤー上の照射箇所におけるパルスレーザ光71のビーム径)で照射することが可能となる。結像レンズ53は、ビームスプリッタ51の上方に配置され、被加工物10からの反射光72を集光し、撮像装置91において結像させる。
【0017】
この他、ビームスプリッタ51と集光レンズ52との間、又は集光レンズ52の下方に、パルスレーザ光71を複数のサブビームに分割するためのビーム分割素子(不図示)をさらに配置してもよい。ビーム分割素子を用いることにより、所定の形状を複数加工する総加工時間が短縮される。
【0018】
撮像装置91は、被加工物10の加工レイヤーの画像を取得する。撮像装置91は、集光レンズ52の上方に配置され、これにより加工レイヤーを上方から見た画像を取得することができる。撮像装置91は、例えば、CMOSカメラ又はCCDカメラを用いて構成することができる。また、撮像装置91による撮像に際し、被加工物10を照らすためにLEDライト等の照明装置を必要に応じて用いてもよい。
【0019】
画像処理装置92は、撮像装置91が取得した加工レイヤーの画像を解析して加工レイヤーの表面上の突起20を検出する。本実施形態の画像処理装置92は、画像を解析して加工レイヤーの表面上の突起20の数又は面積を取得するように構成されている。具体的には、撮像装置91が取得した画像に対して適宜補正を行った後に、加工レイヤーの表面において突起20が存在する部分とそれ以外の部分(突起20が存在せず加工レイヤー自体が露呈している部分)とを識別するための2値化処理を行う。通常、加工レイヤーの表面において突起20が存在する部分はそれ以外の部分と比較して画像において明るく表示される。このような画像上の明るさの差異を利用して、突起20が存在する部分とそれ以外の部分を2値化処理により識別する。
【0020】
このような2値化処理は、画像のピクセル単位、又は画像を格子状に分割したセル単位で行われることが好ましい。例えば、画像のピクセル単位で2値化処理を行い、突起20が存在する部分を白色に、それ以外の部分を黒色にラベリングする。そして、白色にラベリングされたピクセルのうち外縁の少なくとも一部が重複するもの同士を1以上の領域にグルーピングし、当該領域の数を突起20の数として用いることができる。或いは、白色にラベリングされたピクセル数をカウントし、当該ピクセル数に1つのピクセルの面積を乗じて、加工レイヤーの表面上における突起20の存在部分の面積として用いることができる。
【0021】
2.制御装置8
制御装置8は、レーザ加工装置1の上記構成要素を制御する。以下、制御装置8の制御動作のうち、本発明に関係する制御に限定して説明する。図2に示すように、制御装置8は、入力部81と、数値制御部82と、照射制御部83とを備える。
【0022】
なお、下記の各構成要素は、ソフトウェアによって実現してもよく、ハードウェアによって実現してもよい。ソフトウェアによって実現する場合、CPUがコンピュータプログラムを実行することによって各種機能を実現することができる。プログラムは、内蔵の記憶部に格納してもよく、コンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体に格納してもよい。また、外部の記憶部に格納されたプログラムを読み出し、いわゆるクラウドコンピューティングにより実現してもよい。ハードウェアによって実現する場合、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、又はDRP(Dynamically Reconfigurable Processor)などの種々の回路によって実現することができる。本実施形態においては、様々な情報やこれを包含する概念を取り扱うが、これらは、0又は1で構成される2進数のビット集合体として信号値の高低によって表され、上述のソフトウェア又はハードウェアの態様によって通信や演算が実行され得るものである。
【0023】
制御装置8の外部には、CAD装置93及びCAM装置94が設置される。CAD装置93は、被加工物10の加工形状及び寸法を示す三次元形状データ(CADデータ)を作成するためのものである。CAM装置94は、CADデータに基づき、被加工物10を加工する際のレーザ加工装置1の動作手順データ(CAMデータ)を作成するためのものである。CAMデータには、例えば、各加工レイヤーにおけるパルスレーザ光71の照射位置のデータや、パルスレーザ光71に係る各種設定のデータなどが含まれる。
【0024】
入力部81は、数値制御部82における各種処理に必要な情報を作業者が入力するためのものであり、例えば、タッチパネル、キーボード、又はマウスにより構成することができる。入力情報には、例えば、被加工物10の材質、パルスレーザ光71の走査速度、パルスレーザ光71の繰り返し周波数(単位時間あたりのパルス生成数)等が含まれる。入力情報は、数値制御部82へ送られる。
【0025】
数値制御部82は、CAMデータ及び入力部81からの入力情報に対して数値制御プログラムを用いた処理を行うことで、レーザ加工装置1の各構成要素に対する動作指令を作成する。数値制御部82は、演算部84と記憶部85とを備える。
【0026】
演算部84は、記憶部85に記憶されている数値制御プログラムを用いて、レーザ加工装置1の各構成要素に対する動作指令を作成する。演算部84は、切替条件設定部86と、フルエンス設定部87と、切替部88とを備える。
【0027】
切替条件設定部86は、被加工物10の条件に基づき、パルスレーザ光71のフルエンスの切替条件を設定する。本実施形態においては、被加工物10の加工レイヤーを加工する際には比較的低いフルエンス(低フルエンスFL)でパルスレーザ光71を照射し、加工レイヤーの表面上に発生した突起20を除去する際には低フルエンスFLよりも高いフルエンス(高フルエンスFH)でパルスレーザ光71を照射する。なお、フルエンスとは、パルスレーザ光7の照射スポットにおける単位面積あたりのエネルギー量を指し、本発明におけるフルエンスとは、加工レイヤー上の照射箇所におけるパルスレーザ光71のフルエンスを指す。切替条件設定部86は、パルスレーザ光71を低フルエンスFLと高フルエンスFHとの間で切り替える際の条件を設定する。
【0028】
被加工物10の条件には、例えば、被加工物10の材質が含まれる。本実施形態の切替条件設定部86は、被加工物10の条件に基づき、加工レイヤーの表面上に発生する突起20の数又は面積の閾値を設定する。例えば、被加工物10の条件と閾値との関係をデータベース又は数値制御プログラムとして記憶部85に記憶させ、切替条件設定部86が入力情報に含まれる被加工物10の材質に応じてデータベース又は数値制御プログラムから対応値を読み出すことで閾値を決定することができる。
【0029】
フルエンス設定部87は、加工条件に基づき、低フルエンスFL及び高フルエンスFHの値を設定する。例えば、加工条件に対応する最適な低フルエンスFL及び高フルエンスFHのデータベース又は数値制御プログラムを記憶部85に記憶させ、フルエンス設定部87が入力情報に含まれる加工条件に応じて対応値を読み出すことで、低フルエンスFL及び高フルエンスFHの値を設定することができる。或いは、変数としての加工条件から低フルエンスFL及び高フルエンスFHの値を求めるための関数を記憶部85に記憶させ、フルエンス設定部87が当該関数を用いて低フルエンスFL及び高フルエンスFHを算出し設定してもよい。なお、フルエンス設定部87による低フルエンスFL及び高フルエンスFHの設定の詳細については、後述する。
【0030】
切替部88は、切替条件設定部86により設定された切替条件に基づき、照射装置から出力されるパルスレーザ光71を、低フルエンスFLと高フルエンスFHとの間で切り替える。本実施形態の切替部88は、画像処理装置92から加工レイヤーの表面上の突起20の数又は面積のデータを受け取り、突起20の数又は面積と切替条件設定部86により設定された閾値との比較を行う。切替部88は、比較により低フルエンスFLから高フルエンスFHへ、又は高フルエンスFHから低フルエンスFLへの切替が必要と判断した場合、照射制御部83に対してパルスレーザ光71のフルエンスの切替のための動作指令を出力する。具体的には、切替部88は、フルエンス設定部87により設定された低フルエンスFL又は高フルエンスFHの具体的な値に基づき、照射箇所におけるパルスレーザ光71のフルエンスが所定の値となるように、数値制御プログラムを用いて動作指令を作成し照射制御部83に対して出力する。
【0031】
記憶部85は、CAMデータ、入力部81から送られた入力情報、数値制御プログラム、切替条件設定部86及びフルエンス設定部87で用いられるデータベースや関数等を記憶する。
【0032】
照射制御部83は、数値制御部82から送られた動作指令に従い、レーザ加工装置1の各構成要素を制御する。パルスレーザ光71を低フルエンスFLと高フルエンスFHとの間で切り替える場合には、レーザ発振器2を制御してパルスレーザ光71の出力パルスエネルギーを変化させることにより、又は光学系3或いは集光レンズ52を制御してパルスレーザ光71のスポット径を変化させることにより、所望のフルエンスへ調整することができる。
【0033】
3.フルエンスの設定
次に、フルエンス設定部87によるフルエンスの設定について、さらに詳細に説明する。本実施形態のフルエンス設定部87は、所定の加工条件に基づき低フルエンスFL及び高フルエンスFHの値を設定する。加工条件としては、被加工物10の材質、パルスレーザ光71の走査速度、及びパルスレーザ光71の繰り返し周波数が例示される。
【0034】
本実施形態において、低フルエンスFLの値は、被加工物10の材質に基づき、加工レイヤーを構成する材料の除去に必要なフルエンスの下限であるレーザアブレーション閾値以上となるように設定される。また、フルエンスが低すぎると加工レイヤーの加工効率が低下し、フルエンスが高すぎると加工品質が低下する。具体的には、フルエンスが高すぎると、熱影響により加工面に微小孔が生じ面粗度が増大したり、硬度等の材料特性の変化や材料の歪みが生じたり、パルスレーザ光71の照射時に発生するスパッタ(パルスレーザ光71の照射箇所又はその周辺から飛散する材料の粒子)が増加する。
【0035】
さらに、低フルエンスFLの値は、パルスレーザ光71の走査速度及び繰り返し周波数を考慮して設定されることが好ましい。具体的には、パルスレーザ光71の走査速度及び繰り返し周波数で決まるスポット間隔に対して加工時に設定された低フルエンスFLの値による加工効果が、変化しないようにすることが好ましい。例えば、低フルエンスFLの値を、加工レイヤーを構成する材料のレーザアブレーション閾値以上とし、且つパルスレーザ光71の走査速度及び繰り返し周波数で決まるスポット間隔に対して加工時に設定された低フルエンスFLの値による加工効果が変化しないように調節することができる。なお、本発明における加工効果とは、加工レイヤー上の領域に照射されるパルスレーザ光71による単位体積当たりの加工に要したエネルギー量を指す。つまり、低フルエンスFLの値による加工効果とは、加工レイヤー上の領域に低フルエンスFLで照射されるパルスレーザ光71による単位体積当たりの加工に要したエネルギー量を指す。
【0036】
パルスレーザ光71は、各加工レイヤー上を所定のスポット間隔でラスタ走査又はベクトル走査される。ここで、スポット間隔とは、パルスレーザ光71の走査方向(加工レイヤー上における照射スポットの進行方向)に沿って隣り合う2つの照射スポットの中心間の距離を指す。パルスレーザ光71の走査速度及び繰り返し周波数によってスポット間隔は決まり、例えば、繰り返し周波数が大きく、走査速度が遅いほど、スポット間隔は小さくなり、隣り合う照射スポット同士の重複領域が大きくなる。照射スポット同士の重複領域においては、パルスレーザ光71の照射対象の加工レイヤー及び当該加工レイヤーの下側に存在する材料への熱影響がそれ以外の領域と比べて大きいため、熱影響による加工面の精度低下が起きやすくなる。上記の構成においては、スポット間隔が比較的小さい(重複領域が大きい)場合には、低フルエンスFLの値を小さく設定し、スポット同士の重複領域への熱影響を抑制することが可能となる。
【0037】
一方、加工レイヤーの加工の進行とともに加工レイヤーの表面上に発生する突起20は、多くの場合、加工レイヤーの加工に適した低フルエンスFLでのパルスレーザ光71の照射によっては除去が困難である。例えば、合金鋼製の被加工物10においては母材としての合金鋼に含有される介在物が原因となり断面が略楕円形状の突起20が発生するが、介在物のレーザアブレーション閾値は合金鋼のレーザアブレーション閾値よりもはるかに高いため、加工レイヤーの加工に適した低フルエンスFLでのパルスレーザ光71の照射によっては突起20を除去することが困難である。従って、一旦突起20が発生すると、加工レイヤーが順次加工されるにつれて突起20が深さ方向に成長してしまう。ここで、介在物とは、合金鋼の製造工程において不可避的に混入し、除去が困難な微量の非金属化合物を指す。合金鋼の介在物は、通常粒径が数μm~数十μm程度であり、母材としての合金鋼中に不規則に分布して含有されている。介在物としては、例えば、Al、MgO、CaO等の酸化物系介在物、MnS、CaS等の硫化物系介在物、TiN、NbN等の窒化物系介在物が挙げられる。
【0038】
高フルエンスFHは、このように発生した突起20を除去するために、低フルエンスFLよりも高い値に設定される。高フルエンスFHが低フルエンスFLに対してα倍の値である場合(すなわち、FH=α×FLの場合)、例えば、2≦α≦20であり、具体的には例えば、α=2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。また、突起20の除去効率と材料への熱影響を両立させるためには、7≦α≦15となるように高フルエンスFHを設定すること好ましい。また、被加工物10の材料が合金鋼の場合は、介在物を起点とする突起20を効率的に除去するために、高フルエンスFHを介在物のレーザアブレーション閾値以上に設定することが好ましい。さらに、パルスレーザ光71の走査速度及び繰り返し周波数で決まるスポット間隔に対して加工時に設定された高フルエンスFHの値による加工効果が、変化しないようにすることが好ましい。なお、高フルエンスFHの値による加工効果とは、加工レイヤー上の領域に高フルエンスFHで照射されるパルスレーザ光71による単位体積当たりの加工に要したエネルギー量を指す。
【0039】
4.被加工物10の加工方法
次に、図3Aから図6を参照して、本実施形態のレーザ加工装置1を用いた被加工物10の加工方法について説明する。以下、レーザ加工装置1による加工の一例として、図3A及び図3Bに示す被加工物10に対して有底穴10aを形成する場合について説明する。被加工物10は合金鋼製であり、形成対象の有底穴10aは、平面視におけるサイズがW1×W2の矩形の開口部を有し、深さがDである。
【0040】
図6に示すように、加工に先駆けて、作業者は、被加工物10の材質、パルスレーザ光71の走査速度、パルスレーザ光71の繰り返し周波数等の条件を入力部81に入力する(ステップS1)。入力部81は、入力情報を取り込んで数値制御部82へ送る。フルエンス設定部87は、加工条件に基づき低フルエンスFL及び高フルエンスFHの値を設定する。また、切替条件設定部86は、被加工物10の条件に基づきパルスレーザ光71のフルエンスの切替条件を設定する(ステップS2)。数値制御部82は、レーザ加工装置1の各構成要素に対する動作指令を作成し、照射制御部83へ送る。
【0041】
本実施形態においては、加工対象部分を、被加工物10の上面側からn個の加工レイヤーL,L,L,......Lに分割する。なお、各加工レイヤーL,L,L,......Lの厚みは、同一でもよく、相互に異なっていてもよい。
【0042】
加工の開始時には、レーザ加工装置1は、パルスレーザ光71を低フルエンスFLで照射して被加工物10から加工レイヤーL,L,L,......を順次加工する(ステップS3)。具体的には、図4Aに示すように、1層目(最上位)の加工レイヤーLに対してパルスレーザ光71を低フルエンスFLで照射することにより、加工レイヤーLを加工する。次に、図4Bに示すように、加工レイヤーLの直下に位置する2層目の加工レイヤーLにパルスレーザ光71を低フルエンスFLで照射し、加工レイヤーLを加工する。同様の操作を3層目以降の加工レイヤーL,L...に対して繰り返し、深さ方向に加工レイヤーを順次加工する。
【0043】
次に、撮像装置91は、被加工物10の加工レイヤーの画像を取得する(ステップS4)。画像処理装置92は、取得された画像を解析して加工レイヤーの表面上の突起20の数Nを取得する(ステップS5)。なお、撮像装置91による加工レイヤーの画像の取得は、所定数の加工レイヤーが加工されるごとに行われてもよく、深さ方向に所定の厚み分の加工レイヤーが加工されるごとに行われてもよく、低フルエンスFLでの照射による加工が所定時間進行するごとに行われてもよい。
【0044】
切替部88は、突起20の数Nと切替条件設定部86により設定された閾値THとの比較を行う(ステップS6)。突起20の数Nが閾値TH以下である場合、切替部88は高フルエンスFHへの切替は不要と判断し、低フルエンスFLでの照射による加工レイヤーの加工が続行される。突起20の数Nが閾値THよりも大きい場合、切替部88は高フルエンスFHへの切替が必要と判断し、照射制御部83に対してパルスレーザ光71を高フルエンスFHへ切り替えるための動作指令を出力する。
【0045】
フルエンスの切替後、レーザ加工装置1は、パルスレーザ光71を高フルエンスFHで照射して加工レイヤーの表面上に発生した突起20を除去する(ステップS7)。図5Aに示すようにk層目の加工レイヤーL上に突起20が発生した場合、加工レイヤーLに対してパルスレーザ光71を高フルエンスFHで照射する。これにより、突起20が加工レイヤーとともに除去される。
【0046】
撮像装置91は、被加工物10の加工レイヤーの画像を取得する(ステップS8)。画像処理装置92は、取得された画像を解析して加工レイヤーの表面上の突起20の数Nを取得する(ステップS9)。なお、撮像装置91による加工レイヤーの画像の取得は、所定数の加工レイヤーが加工されるごとに行われてもよく、深さ方向に所定の厚み分の加工レイヤーが加工されるごとに行われてもよく、高フルエンスFHでの照射による加工が所定時間進行するごとに行われてもよい。
【0047】
切替部88は、突起20の数Nと切替条件設定部86により設定された閾値THとの比較を行う(ステップS10)。突起20の数Nが閾値THよりも大きい場合、高フルエンスFHでの照射による突起20の除去が続行される。突起20の数Nが閾値TH以下である場合、切替部88は低フルエンスFLへの切替が必要と判断し、照射制御部83に対してパルスレーザ光71を低フルエンスFLへ切り替えるための動作指令を出力する。
【0048】
高フルエンスFHでのパルスレーザ光71の照射は、切替部88により低フルエンスFLへの切替が行われるまでに、1以上の加工レイヤーに対して実行される。低フルエンスFLへの切替後は、再びパルスレーザ光71を低フルエンスFLで照射することにより、加工レイヤーが順次加工される。例えば、加工レイヤーLを含むm個の加工レイヤーに対してパルスレーザ光71を高フルエンスFHで照射して突起20を除去した後、切替部88により低フルエンスFLへの切替がおこなわれた場合、図5Bに示すように、k+m層目以降の加工レイヤーLk+m,Lk+m+1,......に対してパルスレーザ光71が低フルエンスFLで照射され、加工レイヤーが順次加工される。
【0049】
以上の工程を、n層目の加工レイヤーLnが加工されるまで繰り返すことにより、図4Cのような所望の深さDを有する有底穴10aを形成することができる。なお、有底穴10aの加工面の精度を高めるために、最終加工(少なくともn層目の加工レイヤーLを含む部分を加工する加工)を低フルエンスFLでの照射により実行して加工を完了させることが好ましい。
【0050】
5.作用効果
本実施形態のレーザ加工装置1の制御装置8は、切替部88と、切替条件設定部86とを備え、切替条件設定部86が設定した切替条件に基づき、切替部88がパルスレーザ光71を低フルエンスFLと高フルエンスFHとの間で切り替える。低フルエンスFLでの照射による加工レイヤーの加工の進行とともに加工レイヤー上に突起20が発生した場合は、高フルエンスFHへ切り替えて突起20を除去することが可能である。また、突起20の除去後は低フルエンスFLへ切り替えて加工レイヤーの加工を継続することが可能であり、これにより高フルエンスFHでの加工を最小限に留め、材料への熱影響による加工面の精度の低下を抑制することが可能である。また、一部の加工レイヤーをパルスレーザ光71の高フルエンスFHでの照射により加工するため、低フルエンスFLでの照射のみにより加工を行った場合と比較して、総加工時間が短縮される。
【0051】
また、本実施形態のレーザ加工装置1は、加工レイヤーの画像を取得する撮像装置91、及び画像を解析して突起20を検出する画像処理装置92を備え、切替部88は突起20の検出結果に基づきパルスレーザ光71を低フルエンスFLと高フルエンスFHとの間で切り替える。突起20の発生をリアルタイムで監視可能であるため、突起20の発生時には即時に高フルエンスFHに切り替えて突起20を除去し、突起20の成長を回避することができる。また、突起20の除去完了後は即時に低フルエンスFLに切り替えることで、材料への熱影響を抑制することが可能である。
【0052】
6.他の実施形態
本発明は、以下の態様でも実施可能である。
【0053】
<変形例1及び変形例2>
上記実施形態では、撮像装置91により加工レイヤーの画像を取得し、画像処理装置92により画像を解析して突起20を検出し、突起20の検出結果と切替条件設定部86が設定した閾値との比較により切替部88がパルスレーザ光71のフルエンスを切り替える構成であった。切替部88及び切替条件設定部86の構成は、これに限定されるものではなく、他の構成としてもよい。
【0054】
変形例1として、切替条件設定部86を、切替条件として低フルエンス加工レイヤー数NLと高フルエンス加工レイヤー数NHを設定するように構成し、切替部88を、低フルエンス加工レイヤー数NLに基づきパルスレーザ光71を低フルエンスFLから高フルエンスFHへ切り替え、高フルエンス加工レイヤー数NHに基づきパルスレーザ光71を高フルエンスFHから低フルエンスFLへ切り替えるように構成してもよい。具体的には、レーザ加工装置1が低フルエンスFLでのパルスレーザ光71の照射により加工レイヤーの加工を開始した後、NL層の加工レイヤーが加工された時点で、切替部88は、パルスレーザ光71を低フルエンスFLから高フルエンスFHへ切り替える。さらに、レーザ加工装置1が高フルエンスFHでのパルスレーザ光71の照射によりNH層の加工レイヤーを加工した時点で、切替部88は、パルスレーザ光71を高フルエンスFHから低フルエンスFLへ切り替える。以降、低フルエンスFLでの照射によるNL層の加工レイヤーの加工、及び高フルエンスFHでの照射によるNH層の加工レイヤーの加工を、所望の深さDを有する有底穴10aが形成されるまで繰り返す。
【0055】
変形例2として、切替条件設定部86を、切替条件として低フルエンス加工深さDLと高フルエンス加工深さDFとを設定するように構成し、切替部88を、低フルエンス加工深さDLに基づきパルスレーザ光71を低フルエンスFLから高フルエンスFHへ切り替え、高フルエンス加工深さDFに基づきパルスレーザ光71を高フルエンスFHから低フルエンスFLへ切り替えるように構成してもよい。具体的には、レーザ加工装置1が低フルエンスFLでのパルスレーザ光71の照射により加工レイヤーの加工を開始した後、深さDL分の加工レイヤーが加工された時点で、切替部88は、パルスレーザ光71を低フルエンスFLから高フルエンスFHへ切り替える。さらに、レーザ加工装置1が高フルエンスFHでのパルスレーザ光71の照射により深さDF分の加工レイヤーを加工した時点で、切替部88は、パルスレーザ光71を高フルエンスFHから低フルエンスFLへ切り替える。以降、低フルエンスFLでの照射による深さDL分の加工レイヤーの加工、及び高フルエンスFHでの照射による深さDH分の加工レイヤーの加工を、所望の深さDを有する有底穴10aが形成されるまで繰り返す。
【0056】
突起20の起点は所定の深さ分の加工レイヤーの加工が進行するごとに発生し、このような起点の深さ方向の分布は、被加工物10の条件である被加工物10の材質によって異なる。従って、各種材質に対して事前調査として試験加工を行って起点の分布を把握することによって、突起20を除去しながら加工を進めるうえで最適な低フルエンス加工レイヤー数NL及び高フルエンス加工レイヤー数NH、又は低フルエンス加工深さDL及び高フルエンス加工深さDFを決定することができる。上記の例においては、材質ごとに最適な低フルエンス加工レイヤー数NL及び高フルエンス加工レイヤー数NH、又は低フルエンス加工深さDL及び高フルエンス加工深さDFを記憶部85にデータベース又は数値制御プログラムとして記憶させ、切替条件設定部86が入力情報に含まれる被加工物10の材質に応じて対応値を読み出すことで、低フルエンス加工レイヤー数NL及び高フルエンス加工レイヤー数NH、又は低フルエンス加工深さDL及び高フルエンス加工深さDFを設定することができる。
【0057】
変形例1及び変形例2においては、低フルエンス加工レイヤー数NL及び高フルエンス加工レイヤー数NH、又は低フルエンス加工深さDL及び高フルエンス加工深さDFに基づき、フルエンスの切替が行われる。このような構成においても、発生した突起20を比較的早い段階で除去し突起20の成長を回避するとともに、材料への熱影響による加工面の精度の低下を抑制することが可能である。また、上記の例においては、実際の加工時においては撮像装置91及び画像処理装置92による監視を要しない。
【0058】
<変形例3>
上記実施形態では、有底穴10aの形成のための加工において低フルエンスFL及び高フルエンスFHの値をそれぞれ1つの固定値とした。低フルエンスFL及び高フルエンスFHの設定は、これに限定されるものではなく、低フルエンスFL及び高フルエンスFHとしてそれぞれ2つ以上のフルエンスを設定してもよい。例えば、照射装置を、パルスレーザ光71を高フルエンスFHとしての第1高フルエンスFH1と第1高フルエンスFH1よりも低い第2高フルエンスFH2とで照射可能に構成し、切替部88を、照射装置から出力されるパルスレーザ光71を低フルエンスFLと、第1高フルエンスFH1と、第2高フルエンスFH2との間で切替条件に基づき切り替えるように構成してもよい。
【0059】
具体的には、切替部88は、突起20を除去するために低フルエンスFLからの切替を行う際に、パルスレーザ光71を第1高フルエンスFH1へ切り替える。パルスレーザ光71を第1高フルエンスFH1で照射して突起20の少なくとも一部を除去した後、パルスレーザ光71を第1高フルエンスFH1よりも低い第2高フルエンスFH2へ切り替え、第2高フルエンスFH2での照射により突起20を完全に除去する。なお、第1高フルエンスFH1から第2高フルエンスFH2への切替は、加工レイヤーの表面上に発生する突起20の数又は面積に基づく切替条件を設定し、当該切替条件に基づき実行してもよい。或いは、第1高フルエンスFH1により所定の層数又は加工深さ分の加工レイヤーが加工された時点で、第2高フルエンスFH2へ切り替えてもよい。
【0060】
変形例3においては、高フルエンスFHを2段階で設定し、突起20の少なくとも一部が除去された時点で比較的低い第2高フルエンスFH2へ切り替える。これにより、突起20を効率的に除去しつつ、被加工物10の材料への熱影響をより効果的に抑制することが可能となる。
【0061】
<変形例4>
同一の加工レイヤーへのパルスレーザ光71の照射に際し、パルスレーザ光71のスポット径を変化させてもよい。変形例4として、図7に示す加工レイヤーLにおけるパルスレーザ光71の照射態様を説明する。加工レイヤーLは、端部に隣接する領域である第1領域R1と、第1領域R1とは異なる領域である第2領域R2とを含む。具体的には、加工レイヤーLの外縁に沿った領域を第1領域R1とし、第1領域R1よりも内側の領域を第2領域R2とする。制御装置8は、パルスレーザ光71を低フルエンスFL又は高フルエンスFHで照射する際、第1領域R1に照射されるパルスレーザ光71の照射スポットSP1のスポット径H1が、第2領域R2に照射されるパルスレーザ光71の照射スポットSP2のスポット径H2よりも小さくなるように、レーザ加工装置1を制御する。こここで、高フルエンスFH及び低フルエンスFLの照射の何れにおいても、第1領域R1に照射されるパルスレーザ光71のフルエンスは、第2領域R2に照射されるパルスレーザ光71のフルエンスと等しく設定される。また第1領域R1と第2領域R2の境界においてはパルスレーザ光71の照射スポットSP1と照射スポットSP2が重なるようにレーザ加工装置1を制御してもよい。
【0062】
例えば、第1領域R1に対してパルスレーザ光71を低フルエンスFLで照射する際には、制御装置8は、光学系3又は集光レンズ52を制御してビーム径を調整することによりパルスレーザ光71を所望のスポット径H1とし、且つレーザ発振器2を制御して出力パルスエネルギーを調整することによりパルスレーザ光71を低フルエンスFLとする。さらに、第2領域R2に対してパルスレーザ光71を低フルエンスFLで照射する際には、制御装置8は、光学系3又は集光レンズ52を制御してビーム径を調整することによりパルスレーザ光71を所望のスポット径H1とし、且つレーザ発振器2を制御して出力パルスエネルギーを調整することによりパルスレーザ光71を低フルエンスFLとする。
【0063】
変形例4においては、端部に隣接する第1領域R1においては、比較的小さいスポット径H1でパルスレーザ光71を照射することにより、加工レイヤーLの端部、特に隅角部分を高精度な形状で加工することが可能となる。一方、第1領域R1とは異なる第2領域R2においては、比較的大きいスポット径H2でパルスレーザ光71を照射することにより、加工効率を高めることが可能となる。また、第1領域R1及び第2領域R2には、パルスレーザ光71が等しいフルエンスで照射されているため、同一加工レイヤーL内における加工面の精度は略一定に維持できる。
【0064】
<その他>
上記実施形態においては有底穴の形成を例として示したが、本発明のレーザ加工方法の適用対象となる加工形状は、これに限定されるものではない。本発明のレーザ加工方法は、例えば、溝形状の形成、及び表面仕上げにも適用可能である。ここで、溝形状とは、窪みの4側面のうち少なくとも1つの側面が開放されている形状を指す。
【0065】
また、上記実施形態においては、合金鋼製の被加工物10を加工対象としたが、本発明のレーザ加工方法の適用対象となる被加工物10の材質は、これに限定されるものではない。本発明のレーザ加工方法は、例えば、炭素鋼等の他の金属素材や、樹脂素材にも適用可能である。
【0066】
また、上記実施形態においては、1台のレーザ発振器2から出力されるパルスレーザ光71のフルエンスを、出力パルスエネルギー又はスポット径を変化させることで低フルエンスFLと高フルエンスFHとの間で切り替えるが、フルエンスの切替の態様は、これに限定されるものではない。例えば、レーザ発振器2、光学系3、及び走査装置4から構成される照射装置を2台設けてもよい。この場合、一方の照射装置から出力される第1パルスレーザ光を低フルエンスFLで、他方の照射装置から出力される第2パルスレーザ光を高フルエンスFHで照射可能に構成し、照射制御部83により2台の照射装置を切り替えることでフルエンスの切替を行うことができる。
【実施例0067】
以下、本発明の詳細な内容について実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0068】
レーザ加工装置1を用いて、被加工物10に対して超短パルスレーザ加工を行って有底穴10aを形成し、有底穴10aの加工面の状態を観察した。実施例1においては、パルス幅が410[fs]のパルスレーザ光71(波長:515[nm]、周波数200[kHz])を、SUS304製の被加工物10に対して、走査速度500[mm/s]、スポット径9[μm]、スポット間隔2.5[μm]、ライン間隔2.5[μm]の条件でラスタ走査した。ここで、ライン間隔とは、ラスタ走査におけるパルスレーザ光71の走査方向と直交する水平1軸方向において隣り合う2つの照射スポットの中心間の距離を指す。
【0069】
低フルエンスFLを0.63[J/cm]とし、低フルエンスFLでの照射においては加工レイヤー1層あたりの加工深さを0.36[μm]としてパルスレーザ光71を照射して加工レイヤーを順次加工した。また、高フルエンスFHを6.3[J/cm]とし、高フルエンスFHでの照射においては加工レイヤー1層あたりの加工深さを1.5[μm]として、パルスレーザ光71を照射して加工レイヤー上の突起20を加工レイヤーとともに除去した。低フルエンス加工レイヤー数NLを50層とし、高フルエンス加工レイヤー数NHを5層として、低フルエンス加工レイヤー数NL及び高フルエンス加工レイヤー数NHに基づき切替部88によりパルスレーザ光71を低フルエンスFLと高フルエンスFHとの間で切り替えながら加工レイヤーの加工を繰り返した。有底穴10aの最下部を構成する50層分を低フルエンスFLでの照射により加工して加工を終了し、平面視におけるサイズが1000×1000[μm]の略正方形の開口部を有し、深さ481[μm]の有底穴10aが得られた。
【0070】
比較例1においては、高フルエンスFHでの照射を行わず、パルスレーザ光71を低フルエンスFLでのみ照射して加工を行った。低フルエンスFLを0.63[J/cm]とし、1層あたりの加工深さを0.36[μm]として、パルスレーザ光71を照射して加工レイヤーを順次加工した。その他の条件は、実施例1と同様に設定した。平面視におけるサイズが1000×1000[μm]の略正方形の開口部を有し、深さ477[μm]の有底穴10aが得られた。
【0071】
比較例2においては、低フルエンスFLでの照射を行わず、パルスレーザ光71を高フルエンスFHでのみ照射して加工を行った。高フルエンスFHを6.3[J/cm]とし、1層あたりの加工深さを1.5[μm]として、パルスレーザ光71を照射して加工レイヤーを順次加工した。その他の条件は、実施例1と同様に設定した。平面視におけるサイズが1000×1000[μm]の略正方形の開口部を有し、深さ468[μm]の有底穴10aが得られた。
【0072】
図8A及び図8Bはそれぞれ、実施例1及び比較例1において形成された有底穴10aの加工面の画像であり、有底穴10aを上方から撮像して得られた画像である。実施例1の有底穴10aは、底面及び側面において突起20が数個確認されたのみで、面粗度の指標である算術平均粗さRaが約0.13μmであり、比較的高精度な加工面を有していた。なお、算術平均粗さRaは、JIS B 0601-2001に準じて測定された。一方、比較例1の有底穴10aは、底面及び側面において突起20が多数確認され、算術平均粗さRaは約2.0μmであった。
【0073】
図9Aは、比較例2において形成された有底穴10aの加工面の画像であり、有底穴10aを上方から撮像して得られた画像である。図9Bは、図9Aの領域Bを拡大した画像である。比較例2の有底穴10aは、底面及び側面において突起20がほぼ確認されなかった。一方、加工面には熱影響により生じた微小孔が多数確認され、算術平均粗さRaは約0.26μmであった。
【0074】
以上、本発明に係る種々の実施形態を説明したが、これらは例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。当該新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。当該実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1 :レーザ加工装置
2 :レーザ発振器
3 :光学系
4 :走査装置
8 :制御装置
10 :被加工物
10a :有底穴
20 :突起
41 :第1ガルバノミラー
42 :第2ガルバノミラー
51 :ビームスプリッタ
52 :集光レンズ
53 :結像レンズ
71 :パルスレーザ光
72 :反射光
81 :入力部
82 :数値制御部
83 :照射制御部
84 :演算部
85 :記憶部
86 :切替条件設定部
87 :フルエンス設定部
88 :切替部
91 :撮像装置
92 :画像処理装置
93 :CAD装置
94 :CAM装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9