IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱造船株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-船舶 図1
  • 特開-船舶 図2
  • 特開-船舶 図3
  • 特開-船舶 図4
  • 特開-船舶 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090910
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
   B63B 43/04 20060101AFI20240627BHJP
   B63B 43/26 20060101ALI20240627BHJP
   B63B 25/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B63B43/04
B63B43/26
B63B25/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207093
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】518022743
【氏名又は名称】三菱造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】竹村 浩紀
(72)【発明者】
【氏名】栗林 周平
(57)【要約】
【課題】万が一の浸水時における船体の安定性を高める。
【解決手段】船舶は、船体と、第一水密甲板と、機関区域と、タンク格納室と、第二水密甲板と、を備えている。船体は、一対の舷側及び船底を有する。第一水密甲板は、船体内に設けられている。第一水密甲板は、船体内を上層区域及び下層区域に区画する車両乗込甲板として設けられている。機関区域は、下層区域に設けられて、燃料を燃焼する燃焼装置を収容している。タンク格納室は、下層区域に設けられて、燃焼装置への燃料を貯留する燃料タンクを格納している。第二水密甲板は、下層区域に設けられている。第二水密甲板は、第一水密甲板とともに下層区域の上部に水密区画を形成する車両甲板として設けられている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の舷側及び船底を有する船体と、
前記船体内に設けられて、前記船体内を上層区域及び下層区域に区画する車両乗込甲板としての第一水密甲板と、
前記下層区域に設けられて、燃料を燃焼する燃焼装置を収容する機関区域と、
前記下層区域に設けられて、前記燃焼装置への燃料を貯留する燃料タンクを格納したタンク格納室と、
前記下層区域に設けられて、前記第一水密甲板とともに前記下層区域の上部に水密区画を形成する車両甲板としての第二水密甲板と、
を備える船舶。
【請求項2】
前記第二水密甲板は、
前記船体に損傷が生じて前記下層区域内に浸水した場合における損傷後の喫水線よりも下側に配置されている
請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記第一水密甲板は、
前記船体に損傷が生じて前記下層区域内に浸水した場合における損傷後の喫水線よりも上側に配置されている
請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
前記下層区域には、上下に間隔をあけて複数の車両甲板が設けられ、
前記第二水密甲板は、複数の前記車両甲板のうち最も上方に位置する前記車両甲板として設けられている
請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項5】
前記第二水密甲板よりも下方に位置する他の前記車両甲板に至る車両通路を封止する水密扉をさらに備える
請求項4に記載の船舶。
【請求項6】
前記燃料タンクは、前記第二水密甲板よりも下方に位置する
請求項4に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
フェリー、RORO(Roll-on/Roll-off船)、PCTC(Pure Car & Truck Carrier)等の船舶は、多数の車両を搭載可能な車両甲板を船体内に備えている。このような船舶においては、車両甲板上における車両の通行の妨げとなる隔壁をなるべく設けず、車両甲板上に、広い車両搭載スペースを確保している。
【0003】
このような船舶においては、更に、万が一の浸水時に備え、船体内に水密甲板を設けることが行われている。例えば、特許文献1には、水密甲板(乾舷甲板)と、水密式の上部蓋と、水密扉と、を備えた構成が開示されている。水密甲板は、船体内に配置されている。水密式の上部蓋は、船内ランプから乾舷甲板に至る車両通路を開閉する。水密扉は、船内ランプから下部車両甲板に至る車両通路を封止する。
【0004】
このような構成により、万が一、水密区画よりも下側で船体内への浸水が生じた場合、船体内の水密区画よりも上側における浮力により、船体の沈没を防ぐ。また、水密区画よりも下側で船体内に侵入した水が、錘として機能し、浸水時における船体の安定性確保に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-84043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車両甲板を備える船舶において、天然ガスやアンモニアを燃料として用いるものがある。このような船舶においては、天然ガスやアンモニアを貯留するため、船体内の乾舷甲板の下側に、大きな燃料タンクを備えることがある。この場合、燃料タンクにより、水密区画よりも下側の船体内の容積が占められ、万が一の浸水時に、水密区画よりも下側で船体内に侵入する水の量が少なくなる。すると、錘として機能する水の量が少なくなり、水密区画よりも船体下側の浮力が相対的に増加するため、浸水時における船体の安定性が低くなってしまうことがある。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであって、万が一の浸水時における船体の安定性を高めることができる船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示に係る船舶は、船体と、第一水密甲板と、機関区域と、タンク格納室と、第二水密甲板と、を備えている。前記船体は、一対の舷側及び船底を有する。前記第一水密甲板は、前記船体内に設けられている。前記第一水密甲板は、前記船体内を上層区域及び下層区域に区画する車両乗込甲板として設けられている。前記機関区域は、前記下層区域に設けられて、燃料を燃焼する燃焼装置を収容している。前記タンク格納室は、前記下層区域に設けられて、前記燃焼装置への燃料を貯留する燃料タンクを格納している。前記第二水密甲板は、前記下層区域に設けられている。前記第二水密甲板は、前記第一水密甲板とともに前記下層区域の上部に水密区画を形成する車両甲板として設けられている。
【発明の効果】
【0009】
本開示の船舶によれば、万が一の浸水時における船体の安定性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施形態に係る船舶の側面図である。
図2】本開示の実施形態に係る船舶を船首尾方向から見た断面図である。
図3】本開示の実施形態に係る船舶におけるタンク格納室の構成を示す断面図である。
図4】本開示の実施形態に係る船舶において、第二水密甲板上の構成を示す断面図である。
図5】本開示の実施形態に係る船舶の変形例における、第二水密甲板上の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係る船舶を図1図5を参照して説明する。
図1に示すように、本開示の実施形態の船舶1は、船体2と、機関区域20と、タンク格納室40と、第一水密甲板11と、第二水密甲板12と、を備えている。船舶1の船種は、車両を搭載可能なものであれば特定のものに限られない。船舶1の船種は、例えばフェリー、RORO船(Roll-on/Roll-off船)、PCTC(Pure Car & Truck Carrier)等を例示できる。
【0012】
図2は、本開示の実施形態に係る船舶を船首尾方向から見た断面図である。
図1図2に示すように、船体2は、その外殻をなす、一対の舷側3A,3Bと、船底4と、を有している。舷側3A,3Bは、左右舷側をそれぞれ形成する一対の舷側外板からなる。船底4は、これら舷側3A,3Bを接続する船底外板からなる。これら一対の舷側3A,3B及び船底4により、船体2の外殻は、船首尾方向FAに直交する断面において、U字状を成している。
【0013】
船体2は、その内部に、第一水密甲板11としての乾舷甲板、上甲板8を含む、複数層の甲板を備えている。この実施形態における第一水密甲板11(乾舷甲板)は、満載喫水線よりも上方に配置される全通甲板のうち、最下層に配置される全通甲板である。第一水密甲板11は、着岸時に船体2の外部から内部に車両が乗り込む際の車両乗込甲板である。上甲板8は、全通甲板のうち、最上層に配置される全通甲板である。
【0014】
複数層の甲板のうちの少なくとも一部は、車両甲板7とされている。車両甲板7には、複数の車両が積載可能となっている。本開示の実施形態では、車両甲板7は、上下方向に間隔をあけて複数層設けられている。本開示の実施形態では、車両甲板7は、第一水密甲板11よりも下側に、複数層設けられている。なお、本開示の実施形態において、複数層の車両甲板7のうち、最も船底4に近い最下層の車両甲板7を車両甲板7Aと称する。
【0015】
図1に示すように、機関区域20は、船体2内の一部に設けられている。機関区域20は、船首尾方向FAの船尾2b側に配置されている。本実施形態において、機関区域20は、機関室23と、燃料準備室25と、を含んでいる。機関室23と、燃料準備室25とは、中間隔壁22により隔てられている。機関室23は、中間隔壁22よりも船首尾方向FAにおける船尾2bに近い側に形成されている。機関室23には、主機、補機、発電機用エンジン(いずれも図示せず)等の燃焼装置24が収容されている。本実施形態では、燃焼装置24としての主機、補機、及び発電機用エンジンは、例えば、LNG(液化天然ガス)を燃料として駆動される。
【0016】
燃料準備室25は、中間隔壁22よりも船首尾方向FAにおける船首2aに近い側に形成されている。燃料準備室25には、後述する燃料タンク50から供給される燃料を気化させる気化器(図示せず)等の機器27が収容されている。
【0017】
図3は、本開示の実施形態に係る船舶におけるタンク格納室の構成を示す断面図である。図4は、本開示の実施形態に係る船舶において、第二水密甲板上の構成を示す断面図である。
図1から図3に示すように、タンク格納室40は、その内部に、LNGを貯留可能な燃料タンク50を収容している。本実施形態の燃料タンク50は、一対の舷側3A,3Bを結ぶ方向である船幅方向Dwに、二つ並べて設けられている。各燃料タンク50は、例えば、水平方向に延びる円筒状をなしている。本実施形態において、各燃料タンク50は、船首尾方向FAに延びるように配置されている。なお、燃料タンク50は、円筒状に限られるものではなく、燃料タンク50は球形、方形等であってもよい。また、燃料タンク50の個数は二個に限られない。燃料タンク50は、例えば、一個だけ設けたり、三個以上設けたりしてもよい。
【0018】
図1図4に示すように、上下に間隔を開けて設けられた複数の車両甲板7のうち、車両甲板7D上には、燃料タンク50に各種の配管を接続するためのタンクコネクションスペース55が設けられている。なお、車両甲板7Dは、第一水密甲板11よりも下方の下層区域A2に位置する複数層の車両甲板7Aから車両甲板7Dのうちの最上層に位置している。
【0019】
タンク格納室40は、水密区画であり、上下方向Dvから見た際に、二つの燃料タンク50の周囲を囲むように形成された壁部41と、タンクコネクションスペース55の周囲を囲むように形成された壁部41Dと、を有している。
壁部41は、一対の側壁42A,42Bと、前壁43Aと、後壁44Aと、を有している。
【0020】
一対の側壁42A,42Bは、船幅方向Dwに間隔をあけて設けられている。側壁42Aは、船幅方向Dwで舷側3Aに近い側に設けられ、側壁42Bは、船幅方向Dwで舷側3Bに近い側に設けられている。そして、側壁42Aは、舷側3Aから船幅方向Dwの内側に離間して設けられ、側壁42Bは、舷側3Bから、船幅方向Dwの内側に離間して設けられている。一対の側壁42A,42Bは、それぞれ後壁44Aから船首尾方向FAの船首2a側に向かって延びている。一対の側壁42A,42Bは、船幅方向Dwから見た際に、それぞれ二つの燃料タンク50の全体を船幅方向Dwから覆うように形成されている。上記のように側壁42A,42Bを舷側3A,3Bから離間させているため、舷側3A,3Bが損傷した際の側壁42A,42Bの損傷確率が低くなっている。
【0021】
前壁43Aは、一対の側壁42A,42Bの船首尾方向FAの船首2a側の端部同士を結ぶように設けられている。前壁43Aは、船首尾方向FAの船首2a側から見た際に、二つの燃料タンク50の全体を船首2a側から覆うように形成されている。
【0022】
後壁44Aは、一対の側壁42A,42Bの船首尾方向FAの船尾2b側の端部同士を結ぶように設けられている。後壁44Aは、船首尾方向FAの船尾2b側から見た際に、二つの燃料タンク50の全体を船尾2b側から覆うように形成されている。
【0023】
二つの燃料タンク50は、上方から見た際に、一対の側壁42A,42Bと、前壁43Aと、後壁44Aとに囲まれている。
【0024】
壁部41を構成する、一対の側壁42A,42B、前壁43A、及び後壁44Aは、最下層の車両甲板7Aから上方に向かって立ち上がるように形成されている。一対の側壁42A,42B、前壁43A、及び後壁44Aの各々の上端は、複数の車両甲板7A~7Dのうち、最上層の車両甲板7Dの下面に接続されている。
【0025】
タンク格納室40の壁部41は、最下層の車両甲板7Aと最上層の車両甲板7Dとの間に配置された車両甲板7B,7Cを上下方向Dvに貫通して設けられている。車両甲板7B,7Cには、壁部41に囲まれた部分に、上下方向Dvに貫通する開口71B,71Cが形成されている。換言すると、車両甲板7B,7Cは、上方から見た際に、壁部41内には設けられておらず、壁部41の外側にのみ設けられている。
【0026】
各燃料タンク50は、例えば、最下層の車両甲板7A上に、支持台(図示せず)を介して設けられている。本実施形態において、各燃料タンク50は、上下方向に間隔を開けて設けられた複数層の車両甲板7A~7Dのうち、最上層に位置する車両甲板7Dの下方に配置されている。各燃料タンク50は、複数層の車両甲板7B,7Cに形成された開口71B,71Cを通して、上下方向Dvに複数の階層を跨がるように設けられている。
【0027】
壁部41Dは、最上層の車両甲板7D上において、タンク格納室40を構成する。壁部41Dは、タンクコネクションスペース55の周囲を囲むように形成されている。このように最上層の車両甲板7D上に設けられた壁部41Dは、上述した側壁42A,42Bと、後壁44Aと、前壁43Dと、により構成されている。すなわち、本実施形態の壁部41と壁部41Dとは、前壁43Aと前壁43Dとの配置のみが異なっている。前壁43Dは、車両甲板7A~7C上の階層に設けられた壁部41の前壁43Aよりも、船首尾方向FAの船尾2bに近い側に配置されている。
【0028】
図4に示すように、最上層の車両甲板7D上には、前壁43Dと、一対の舷側3A,3Bとの間を塞ぐ区画壁48A,48Bが設けられている。一方の区画壁48Aは、前壁43Dと、一方の舷側3Aとの間を塞いでいる。他方の区画壁48Bは、前壁43Dと、他方の舷側3Bとの間を塞いでいる。
【0029】
図1図2に示すように、船体2の内側は、第一水密甲板11により、第一水密甲板11よりも上側の上層区域A1と、第一水密甲板11よりも下側の下層区域A2とに区画されている。上記機関区域20、及びタンク格納室40は、下層区域A2内に設けられている。
【0030】
第二水密甲板12は、下層区域A2に設けられている。第二水密甲板12は、第一水密甲板11に対して下側に設けられている。本開示の実施形態において、第二水密甲板12は、下層区域A2に上下方向Dvに間隔を開けて配置された複数の車両甲板7A~7Dのうち、最も上方に配置された車両甲板7Dである。換言すると、第二水密甲板12は、第一水密甲板11の直下に配置された車両甲板7Dである。本実施形態の燃料タンク50は、タンクコネクションスペース55を除いて第二水密甲板12よりも下方に位置している。
【0031】
第一水密甲板11、及び第二水密甲板12は、車両を固定するためのラッシングベルトを係止させるラッシングベルト孔(図示せず)、階段室(図示せず)等の開口を備えている。水密性を確保するために、開口を適宜の蓋等によって閉塞できるようにしている。ラッシングベルト孔は、例えば、凹状の金物で全数を甲板裏から溶接等により塞ぐ構成を例示できる。また、各階層を行き来するための階段室の開口は、水密扉等により開閉可能にする構成を例示できる。
また、図4に示すように、本実施形態では、第二水密甲板12から第二水密甲板12よりも下方に位置する他の前記車両甲板7Cに至るスロープである車両通路120が設けられているため、第二水密甲板12に車両通路120を封止可能な水密扉125を設けている。
【0032】
図1図4に示すように、本実施形態の第二水密甲板12は、前壁43D、及び区画壁48A,48Bよりも、船首尾方向FAの船首2aに近い側に形成されている。
第一水密甲板11と、第二水密甲板12との間は、前壁43D、及び区画壁48A,48Bにより、船首尾方向FAの船尾2b側から閉塞されている。このようにして、船体2内には、第一水密甲板11と、第二水密甲板12と、一対の舷側3A,3Bと、前壁43D、及び区画壁48A,48Bと、により囲まれることで、下層区域A2の上部に水密区画Awが形成されている。なお、本実施形態では、前壁43D、及び区画壁48A,48Bよりも船首尾方向FAの船尾2bに近い側が燃料準備室25とされている。
【0033】
例えば、第二水密甲板12よりも下側で、船体2に損傷が生じた場合、第二水密甲板12よりも下側の下層区域A2が浸水する。このとき、図2に示すように、第二水密甲板12は、下層区域A2が最大限に浸水した場合における損傷後の喫水線Lcよりも下方に配置されている。また、第一水密甲板11は、損傷後の喫水線Lcよりも上側に配置されている。
【0034】
(作用効果)
上記実施形態の船舶1は、船体2内を上層区域A1及び下層区域A2に区画する車両乗込甲板としての第一水密甲板11と、下層区域A2に設けられている第二水密甲板12と、を備えている。これら第一水密甲板11と第二水密甲板12とにより、下層区域A2の上部に水密区画Awが形成されている。
【0035】
これにより、第二水密甲板12よりも下方において、船体2に損傷が生じ、下層区域A2内に浸水した場合、第二水密甲板12よりも上側への水の浸入が抑えられる。第一水密甲板11よりも上方の上層区域A1と、第一水密甲板11と第二水密甲板12とにより形成される水密区画Awに存在する空気により、船体2に浮力を作用させることができる。
【0036】
下層区域A2に、機関区域20に加えてタンク格納室40が設けられる場合、第二水密甲板12よりも下方の下層区域A2の容積が狭められており、下層区域A2に侵入する水の量も相対的に少なくなる。このため、喫水が浅くなり、浸水時に、船体2の下部に侵入する水が錘のように機能して船体2の安定性を高める効果が低減してしまう。例えば、第二水密甲板12を有さない場合、図2に示す損傷後の喫水線Lc2のように船体2が大きく傾いてしまう可能性が有る。
【0037】
これに対し、本実施形態の船舶1では、第一水密甲板11と第二水密甲板12との間の水密区画Awの浮力を有効に利用できるので、船体2の傾きを、最も傾いた時でも損傷後の喫水線Lcのような傾きまで減少させることができる。その結果、万が一の浸水時における船体2の安定性を高めることができる。
【0038】
また、第二水密甲板12は、車両甲板7であるため、車両甲板7上には、隔壁が設けられることが少なく、車両甲板7上の広い範囲に水密区画Awを形成することができる。したがって、この水密区画Aw内の空気による浮力は、平面視した際に、船首尾方向FA、及び船幅方向Dwに広く拡がる範囲に作用し、この点においても船体2の安定性向上に有効に寄与する。
【0039】
また、上記実施形態では、船体2に損傷が生じて下層区域A2内に浸水した場合における損傷後の喫水線Lcよりも下側に第二水密甲板12が配置されている。これにより、第一水密甲板11と第二水密甲板12との間の水密区画Aw内の空気によって発揮する浮力を利用して船体2が傾くことをより一層抑制して安定させることができる。
【0040】
また、上記実施形態では、第一水密甲板11が損傷後の喫水線Lcよりも上側に配置されている。これにより、第一水密甲板11よりも上側の上層区域A1への浸水を、より確実に抑えることができる。
【0041】
また、上記実施形態では、第二水密甲板12は、複数の前記車両甲板7のうち最も上方に位置する車両甲板7Dとして設けられている。これにより、下層区域A2において、第二水密甲板12の下側における船体2内の容積を、できるだけ大きく確保し、浸水した際に、下層区域A2に流入する水の量を増やすことで、船体2の安定性を向上させることができる。
【0042】
また、上記実施形態では、第二水密甲板12に車両通路120が設けられている場合、水密扉125で車両通路120を封止することで、第二水密甲板12における水密性を容易に確保することができる。
【0043】
また、上記実施形態では、燃料タンク50が、第二水密甲板12よりも下方に位置している。そのため、燃料タンク50が第二水密甲板12よりも上方にまで至っている場合と比較して、船体2の重心の位置を低くすることができる。したがって、船体2の安定性をより一層高めることができる。
【0044】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施の形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
なお、上記実施形態では、2つの燃料タンク50を備えるようにしたが、その形状、設置数、配置等については、適宜変更可能である。
【0045】
また、上記実施形態では、タンク格納室40を、車両甲板7A~7D上の階層にわたって設けるようにしたが、その階層数は適宜変更可能である。
【0046】
また、上記実施形態では、最上層の車両甲板7D上において、タンクコネクションスペース55を囲うタンク格納室40の壁部41Dを、船幅方向Dwの中央部に配置するようにしたが、これに限られない。例えば、図5に示すように、タンクコネクションスペース55を囲うタンク格納室40の壁部41Eを、船幅方向Dwの一方側に寄せ、いずれか一方の舷側3Aに接続するようにしてもよい。この場合、壁部41Eと他方の舷側3Bとの間を塞ぐ、区画壁48Cは、前壁43Dに対して船首尾方向FAの船尾2b側に配置してもよい。この場合、第二水密甲板12の一部12eが、壁部41Eと他方の舷側3Bとの間で、船首尾方向FAの船尾2bに近い側に向かって延びている。
【0047】
さらに、タンクコネクションスペース55は、最上層の車両甲板7D上に限らず、例えば、車両甲板7A~7C上等、他の階層に配置してもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、船体2内に、第一水密甲板11と、第二水密甲板12とを備えるようにしたが、第一水密甲板11よりも上方の上層区域A1に、さらに他の水密甲板を備えるようにしてもよい。さらに、上層区域A1は、浮力を得ることが可能な構造であれば如何なる構造であってもよく、例えば、複数層の車両甲板を設けたり、居室を設けたりしてもよい。
さらに、第一水密甲板11と第二水密甲板12との間の高さは、他の車両甲板7C,7Bの間の高さよりも大きくしてもよい。
【0049】
<付記>
実施形態に記載の船舶1は、例えば以下のように把握される。
【0050】
(1)第1の態様に係る船舶1は、一対の舷側3A,3B及び船底4を有する船体2と、前記船体2内に設けられて、前記船体2内を上層区域A1及び下層区域A2に区画する車両乗込甲板としての第一水密甲板11と、前記下層区域A2に設けられて、燃料を燃焼する燃焼装置24を収容する機関区域20と、前記下層区域A2に設けられて、前記燃焼装置24への燃料を貯留する燃料タンク50を格納したタンク格納室40と、前記下層区域A2に設けられて、前記第一水密甲板11とともに前記下層区域A2の上部に水密区画Awを形成する車両甲板7としての第二水密甲板12と、を備えている。
【0051】
これにより、第二水密甲板12よりも下方において、船体2に損傷が生じ、下層区域A2内に浸水した場合、第二水密甲板12よりも上側への水の浸入が抑えられる。これにより、第一水密甲板11よりも上方の上層区域A1と、第一水密甲板11と第二水密甲板12とにより形成される水密区画Awに存在する空気により、船体2に浮力が作用する。下層区域A2に、機関区域20とタンク格納室40とが設けられることにより、第二水密甲板12よりも下方の下層区域A2の容積が狭められており、下層区域A2に侵入する水の量も少なくなる。このため、浸水時に、船体2の下部に侵入する水が、錘のように機能して、船体2の安定性を高める効果が低減してしまうものの、上層区域A1と、水密区画Awとに存在する空気による浮力が高まる。その結果、万が一の浸水時における船体2の安定性を高めることができる。
【0052】
(2)第2の態様に係る船舶1は、(1)の船舶1であって、前記第二水密甲板12は、前記船体2に損傷が生じて前記下層区域A2内に浸水した場合における損傷後の喫水線Lcよりも下側に配置されている。
【0053】
これにより、第一水密甲板11と第二水密甲板12との間の水密区画Aw内の空気によって発揮する浮力により、船体2がそれ以上に沈むのを抑えることができる。
【0054】
(3)第3の態様に係る船舶1は、(1)又は(2)の船舶1であって、前記第一水密甲板11は、前記船体2に損傷が生じて前記下層区域A2内に浸水した場合における損傷後の喫水線Lcよりも上側に配置されている。
【0055】
これにより、第一水密甲板11よりも上側の上層区域A1への浸水を、より確実に抑えることができる。
【0056】
(4)第4の態様に係る船舶1は、(1)から(3)の何れか一つの船舶1であって、前記下層区域A2には、上下に間隔をあけて複数の車両甲板7が設けられ、前記第二水密甲板12は、複数の前記車両甲板7のうち最も上方に位置する前記車両甲板7として設けられている。
【0057】
これにより、下層区域A2において、第二水密甲板12の下側における船体2内の容積を大きく確保し、浸水した際に、下層区域A2に流入する水の量を増やすことで、船体2の安定性を向上させることができる。
【0058】
(5)第5の態様に係る船舶1は、(4)の船舶1であって、前記第二水密甲板12よりも下方に位置する他の前記車両甲板7に至る車両通路120を封止する水密扉125をさらに備える。
【0059】
これにより、第二水密甲板12に車両通路120が設けられている場合、水密扉125で車両通路120を封止することで、第二水密甲板12における水密性を容易に確保することができる。
【0060】
(6)第6の態様に係る船舶1は、(4)又は(5)の船舶1であって、前記燃料タンク50は、前記第二水密甲板12よりも下方に位置する。
【0061】
これにより、燃料タンク50が第二水密甲板12よりも上方にまで至っている場合と比較して、船体2の重心の位置を低くすることができ、船体2の安定性を高めることができる。
【符号の説明】
【0062】
1…船舶 2…船体 2a…船首 2b…船尾 3A,3B…舷側 4…船底 7,7A~7D…車両甲板 8…上甲板 11…第一水密甲板 12…第二水密甲板 12e…一部 20…機関区域 21…隔壁 22…中間隔壁 23…機関室 24…燃焼装置 25…燃料準備室 27…機器 40…タンク格納室 41,41D,41E…壁部 42A,42B…側壁 43A,43D…前壁 44A…後壁 48A~48C…区画壁 50…燃料タンク 55…タンクコネクションスペース 71B,71C…開口 120…車両通路 125…水密扉 A1…上層区域 A2…下層区域 Aw…水密区画 Dv…上下方向 Dw…船幅方向 FA…船首尾方向 Lc…損傷後の喫水線
図1
図2
図3
図4
図5