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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090923
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】冷媒漏れ検知装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 3/00 20190101AFI20240627BHJP
   B60K 11/04 20060101ALI20240627BHJP
   B60K 1/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60K11/04 G
B60K1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207115
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】521537852
【氏名又は名称】ダイムラー トラック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100176946
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 智恵
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジャドン バラン
【テーマコード(参考)】
3D038
3D235
5H125
【Fターム(参考)】
3D038AA03
3D038AB01
3D038AC14
3D038AC22
3D038AC23
3D235AA01
3D235BB22
3D235CC12
3D235CC13
3D235CC15
3D235DD11
3D235DD19
3D235FF25
3D235FF43
3D235HH02
3D235HH12
3D235HH13
3D235HH44
5H125AA01
5H125AC12
5H125CD06
5H125DD05
5H125EE05
5H125EE08
5H125EE09
5H125EE15
5H125EE23
5H125FF22
5H125FF23
(57)【要約】
【課題】冷媒の漏れを早期に検知する。
【解決手段】冷媒漏れ検知装置1の判定部40は、車両始動時に、第1温度センサ22により測定された駆動装置の温度を初期駆動装置温度として取得するとともに第2温度センサ16により測定された冷媒の温度を初期冷媒温度として取得し、車両作動時に、第1温度センサ22で測定された前記温度を現在駆動装置温度とし、第2温度センサ16で測定された前記温度を現在冷媒温度とし、流量センサ17で測定された流量を現在流量とし、トルクセンサ24で検出されたトルクを現在トルクとし、回転数センサ25で測定された回転数を現在回転数とし、及び、電圧計31で測定された電圧を現在電圧として、それぞれ取得する。判定部40は、取得した情報を用いて駆動装置の指標を示す基準駆動装置温度を算出し、取得した現在駆動装置温度と算出した基準駆動装置温度とを比較することで冷媒の漏れの有無を判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置を冷却する冷媒が循環する冷却回路からの前記冷媒の漏れを検知する電動車両の冷媒漏れ検知装置であって、
インバータ及びモータを含む前記駆動装置の温度を測定する第1温度センサと、
前記駆動装置に対する前記冷媒の入口における前記冷媒の温度を測定する第2温度センサと、
前記冷媒の流量を測定する流量センサと、
前記モータのトルクを検出するトルクセンサと、
前記モータの回転数を測定する回転数センサと、
前記モータの動力源であるバッテリの電圧を測定する電圧計と、
前記冷却回路からの冷媒の漏れの有無を判定する判定部と、を備え、
前記判定部は、
前記電動車両の始動時に、前記第1温度センサにより測定された前記温度を初期駆動装置温度として取得するとともに前記第2温度センサにより測定された前記温度を初期冷媒温度として取得し、
前記電動車両の作動時に、前記第1温度センサで測定された前記温度を現在駆動装置温度とし、前記第2温度センサで測定された前記温度を現在冷媒温度とし、前記流量センサで測定された前記流量を現在流量とし、前記トルクセンサで検出された前記トルクを現在トルクとし、前記回転数センサで測定された前記回転数を現在回転数とし、及び、前記電圧計で測定された前記電圧を現在電圧として、それぞれ取得し、
前記初期駆動装置温度、前記初期冷媒温度、前記現在冷媒温度、前記現在流量、前記現在トルク、前記現在回転数、及び、前記現在電圧を用いて前記駆動装置の温度指標を示す基準駆動装置温度を算出し、取得した前記現在駆動装置温度と算出した前記基準駆動装置温度とを比較することで前記冷媒の漏れの有無を判定する
ことを特徴とする電動車両の冷媒漏れ検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置を冷却する冷媒が循環する冷却回路からの冷媒の漏れを検知する電動車両の冷媒漏れ検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリに充電された電力を用いて走行する電動車両では、バッテリをはじめ、電動モータなどの高電圧コンポーネントが搭載される。高電圧コンポーネントでは動作時に発熱が生じるため、電動車両には、これらの高電圧コンポーネントを冷却するための冷却回路が備えられている。
【0003】
例えば特許文献1には、電動機を冷却する冷却システムが開示されている。この文献では、電動機、ラジエータ及びポンプが冷却パイプで連結されており、冷却パイプを流れる冷媒は電動機を冷却し、熱交換により温度上昇した冷媒はラジエータで冷却されてポンプにより強制循環されて冷却に供されるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-75050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、冷却性能を確保する観点から、冷却回路のパイプには常時適量の冷媒が循環することが要求される。
しかしながら、走行時にパイプが破損するなどの予期せぬ事態により、冷却回路から冷媒が漏れた場合、高電圧コンポーネントを十分に冷却することができなくなるため、高電圧コンポーネントが高温になりすぎる虞がある。
さらに、冷媒の流量減少によって冷媒自体の温度が上昇することもあり、パイプの材質によっては高温の冷媒がパイプを損傷させる可能性がある。例えば、各コンポーネントに繋がるパイプの入口部分が金属製ではなく樹脂製である場合、この入口部分が損傷しやすい。そのため、仮に入口部分の付近に電気配線エリアが存在する場合、電気配線エリアへの冷媒の漏れが発生する可能性がある。
【0006】
本件は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、冷却回路からの冷媒の漏れを早期に検知することができる冷媒漏れ検知装置を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本件は上記の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様又は適用例として実現できる。
本適用例に係る冷媒漏れ検知装置は、駆動装置を冷却する冷媒が循環する冷却回路からの前記冷媒の漏れを検知する電動車両の冷媒漏れ検知装置であって、インバータ及びモータを含む前記駆動装置の温度を測定する第1温度センサと、前記駆動装置に対する前記冷媒の入口における前記冷媒の温度を測定する第2温度センサと、前記冷媒の流量を測定する流量センサと、前記モータのトルクを検出するトルクセンサと、前記モータの回転数を測定する回転数センサと、前記モータの動力源であるバッテリの電圧を測定する電圧計と、前記冷却回路からの冷媒の漏れの有無を判定する判定部と、を備える。
前記判定部は、前記電動車両の始動時に、前記第1温度センサにより測定された前記温度を初期駆動装置温度として取得するとともに前記第2温度センサにより測定された前記温度を初期冷媒温度として取得し、前記電動車両の作動時に、前記第1温度センサで測定された前記温度を現在駆動装置温度とし、前記第2温度センサで測定された前記温度を現在冷媒温度とし、前記流量センサで測定された前記流量を現在流量とし、前記トルクセンサで検出された前記トルクを現在トルクとし、前記回転数センサで測定された前記回転数を現在回転数とし、及び、前記電圧計で測定された前記電圧を現在電圧として、それぞれ取得し、前記初期駆動装置温度、前記初期冷媒温度、前記現在冷媒温度、前記現在流量、前記現在トルク、前記現在回転数、及び、前記現在電圧を用いて前記駆動装置の温度指標を示す基準駆動装置温度を算出し、取得した前記現在駆動装置温度と算出した前記基準駆動装置温度とを比較することで前記冷媒の漏れの有無を判定する。
【0008】
本適用例によれば、車両始動時の二つの初期情報と車両作動時のリアルタイムな情報である複数のセンサ値とを用いて基準駆動装置温度が算出されるととともに、この基準駆動装置温度が車両作動時のリアルタイムな駆動装置の温度(現在駆動装置温度)と比較されることで冷媒の漏れの有無が判定される。基準駆動装置温度は、駆動装置の安全な動作が保証される温度の指標であり、いわば推定温度である。これに対し、現在駆動装置温度は、車両作動時における第1温度センサの測定値そのものである。駆動装置の温度は、冷却回路を循環する冷媒の流量によって変化するため、これら二つの温度を比較することで冷媒の漏れの有無をリアルタイムで判定可能であり、早期に漏れを検知することができる。
【発明の効果】
【0009】
本適用例に係る電動車両の冷媒漏れ検知装置によれば、冷却回路からの冷媒の漏れを早期に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る冷媒漏れ検知装置を含む全体構成を示すブロック図である。
図2図1の冷媒漏れ検知装置の制御構成を説明するブロック図である。
図3図1の冷媒漏れ検知装置のVCUで実施される検知制御の内容を例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図面を参照して、実施形態としての冷媒漏れ検知装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0012】
[1.全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る冷媒漏れ検知装置1を含む全体構成を示すブロック図である。冷媒漏れ検知装置1は、電気自動車やハイブリッド車等の電動車両(不図示)に搭載されるものであり、冷却回路10、駆動装置20、バッテリ30及びVCU(Vehicle Control Unit)40を備える。冷却回路10上の構成要素の一部、駆動装置20、バッテリ30及びVCU40は不図示のケーブル等によって電気的に接続されている。
【0013】
(冷却回路10)
冷却回路10は、駆動装置20の温度を調整する(おもに冷却する)ための冷媒を循環させるための回路であり、駆動装置20の周囲や近傍等に配置される。冷却回路10は、冷媒が流通する流路11,12と、いずれかの流路11,12上に設けられた、ラジエータ13,流量制御部15,第2温度センサ16及び流量センサ17とを含んで構成されている。
【0014】
流路11,12は、例えば樹脂製のパイプ(配管)やホース等によって構成される。図1では、駆動装置20とラジエータ13とを循環する流路11と、この流路11から分岐して駆動装置20を迂回して再び流路11に合流する流路12とを例示する。これら二つの流路11,12は、パイプ同士や図示しないコネクタ部品等を介して接続されている。以下、前者の流路11をメイン流路11ともいい、後者の流路12をバイパス流路12ともいい、両者を特に区別しない場合は符号を省略して単に「流路」ともいう。流路11,12内を流通する冷媒としては、冷却水や冷却オイル等を用いることができる。
【0015】
ラジエータ13は、内部に冷媒が流通し、外気と熱交換することで冷媒を冷却する熱交換器である。ラジエータ13は、温度上昇した冷媒を冷却して再び冷却回路10へ戻す機能を有している。ラジエータ13には、ファン14が併設されており、ファン14を駆動させることで負圧を発生させて、ラジエータ13への外気の導入を促進する。
【0016】
冷却回路10における、流速、液圧等の制御は流量制御部15によりなされている。流量制御部15は、例えば循環する冷媒を所定の流速で圧送する機能や、流速を変化させる機能を備えたポンプ15Aを含み、冷却回路10へ流す冷媒の流量や流速を制御する。また、流量制御部15は、オリフィス等の流量規制装置15Bを含み、物理的に流路(図1ではバイパス流路12)の断面積等を減らすなどして流量制御機能の一部を担う。流量制御部15はVCU40によって制御されてよい。
【0017】
冷却回路10における、メイン流路11とバイパス流路12との流量割合の制御(調整)は、流量制御部15によって実現される。流量制御部15の一つの例は、流速の可変制御が可能なポンプ15Aと、バイパス流路12の一部の流路断面積を狭窄させた定流量オリフィス15Bとによって実現される。この場合、定流量オリフィス15B自体は断面積を変化させるものではなく、流量制御部15全体に対する電子制御は発生しないが、ポンプ15Aとの協働により、流量割合を制御しているといえる。
【0018】
流量制御部15の他の例は、所定の流量で冷媒を圧送するポンプ15Aと、バイパス流路12の一部の流路断面積の狭窄量を変化させる可変オリフィス15Bとによって実現される。この場合、おもに可変オリフィス15Bを電子制御することで流量割合を制御可能である。なお、ポンプ15Aの出力を併せて制御してもよい。
【0019】
第2温度センサ16は、流路上に設けられ、冷媒の温度を測定する。図1に例示する第2温度センサ16は、メイン流路11上の駆動装置20に対する冷媒の入口付近に設けられており、駆動装置20を冷却する前の冷媒の温度を測定する。第2温度センサ16で測定された冷媒の温度はVCU40に伝達される。
【0020】
流量センサ17は、流路上に設けられ、循環する冷媒の流量を測定する。図1に例示する流量センサ17は、メイン流路11上の駆動装置20に対する冷媒の入口付近に設けられており、駆動装置20を冷却する冷媒の流量を測定する。流量センサ17で測定された冷媒の流量はVCU40に伝達される。
【0021】
(駆動装置20)
駆動装置20は、冷却回路10の冷却対象であり、インバータ21及びモータ23を含む電動ドライブモジュール(eDM;図1の一点鎖線枠)である。モータ23は、電動車両等の駆動源となる回転電動機である。インバータ21は、車載のバッテリ30の電源の電力(直流電流)とモータ23側の交流電流とを相互に変換する電力変換装置である。モータ23及びインバータ21は、例えば高電圧ケーブル等を使用することなく電気的に接続されてコンパクトな構成となっていてもよい。
【0022】
駆動装置20には第1温度センサ22が設けられている。第1温度センサ22は、インバータ21の温度(インバータ温度)を測定するインバータ温度センサ22A及びモータ23の温度(モータ温度)を測定するモータ温度センサ22Bを含む。各温度センサ22A,22Bで測定されたインバータ温度及びモータ温度は、VCU40に伝達される。以下、インバータ温度センサ22A及びモータ温度センサ22Bをまとめて第1温度センサ22と総称し、インバータ温度及びモータ温度をまとめて駆動装置20の温度と総称する。
【0023】
モータ23は、モータ23のトルクを検出するトルクセンサ24と、モータ23の回転数を測定する回転数センサ25とを備える。トルクセンサ24は、例えばモータ23の回転軸(不図示)のトルクを検出する軸トルクセンサである。トルクセンサ24で検出されたトルクはVCU40に伝達される。回転数センサ25は、例えばエンコーダやレゾルバ等であり、モータ23の回転数(回転速度や回転方向)を測定する。回転数センサ25で測定された回転数はVCU40に伝達される。
【0024】
(バッテリ30)
バッテリ30は、モータ23を駆動するための電力が蓄電された数100V系電源である高電圧二次電池であり、モータ23の動力源である。バッテリ30には直流電力が蓄積されており、インバータ21によって交流変換された後、モータ23に供給される。また、減速時や降坂時にはモータ23を回生駆動させることにより交流電力を発電し、インバータ21によって整流して直流化し、バッテリ30に蓄積可能となっている。
バッテリ30は、バッテリ30の電圧を測定する電圧計31を備える。電圧計31で測定された電圧はVCU40に伝達される。
【0025】
(冷媒の流通)
冷却回路10における冷媒の流通を説明する。ラジエータ13で冷却された冷媒は、冷却回路10内をポンプ15Aによって、所定の流量で一定方向に流通し、駆動装置20方向と、バイパス流路12方向に分岐して所定の流量割合で流通する(図1中の破線矢印)。
【0026】
駆動装置20方向へ流入する冷媒は、インバータ21やモータ23の周囲や近傍を流通してこれらを冷却し、熱交換により温度上昇した状態でバイパス流路12を流通した冷媒と合流する。一方で、バイパス流路12へ流入する冷媒は、冷却する対象はなく、基本的に大きな温度変化がない状態で、駆動装置20方向から流れてきた冷媒と合流する。
【0027】
冷媒の合流により、駆動装置20方向から流れてきた冷媒の温度よりも、冷媒全体の温度は低くなる。そして、合流した冷媒はラジエータ13へ帰還する。
ラジエータ13に帰還した冷媒は、熱交換により冷却されて、再度ラジエータ13から流出してポンプ15Aに流入することにより、駆動装置20の冷却サイクルが繰り返される。
【0028】
(VCU40)
VCU40は、電動車両に搭載された各種装置を統合制御するための電子制御装置であり、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込みデバイスとして構成されている。本実施形態のVCU40は、冷媒漏れ検知装置1の一部をなし、各センサから取得した値に基づいて冷却回路10からの冷媒の漏れの有無を判定する機能を持つ。
【0029】
図2に示すように、VCU40の入力側には、第1温度センサ22(22A,22B)、第2温度センサ16、流量センサ17、トルクセンサ24、回転数センサ25、電圧計31が接続される。VCU40で実施される判定を含む検知制御については後述する。なお、本実施形態のVCU40は、冷媒漏れ検知装置1として判定した結果を出力装置50に出力する機能も持つ。すなわち、VCU40の出力側には出力装置50が接続される。
【0030】
図2に示す出力装置50は、運転者にVCU40の判定結果を提供するための装置である。出力装置50は、車両の運転席付近、例えばダッシュボードやステアリングホイールに設けられてもよい。判定結果の提供方法は、例えば、車両に搭載されるナビゲーションシステムの画面に視覚的に提示してもよく、あるいは、ブザー音などにより聴覚的に報知してもよい。
【0031】
[2.機能構成]
図2は、図1のVCU40で実施される検知制御を説明するブロック図である。検知制御とは、冷却回路10から冷媒が漏れている可能性があるか否か、及び、冷媒が漏れているか否かの少なくとも一方を判定し、漏れの有無(あるいは漏れの可能性の有無)を検知するための制御である。本実施形態の検知制御はVCU40によって実現される。以下、VCU40の当該機能を判定部40と称して説明する。
【0032】
本実施形態の判定部40は、まず、電動車両の始動時に、第1温度センサ22により測定された駆動装置20の温度を初期駆動装置温度として取得するとともに、同じく始動時に、第2温度センサ16により測定された冷媒の温度を初期冷媒温度として取得する。電動車両の始動時とは、駆動装置20を始動または停止させるための始動停止スイッチ(不図示)のオン信号をVCU40が受信した時でよい。なお、図1に示す例では、第1温度センサ22が二箇所に(インバータ21とモータ23とのそれぞれに)設けられているため、初期駆動装置温度としては、インバータ温度及びモータ温度の平均値や中央値を取得してもよいし、それぞれの温度を取得してもよい。
【0033】
また、判定部40は、電動車両の作動時に、第1温度センサ22で測定された駆動装置20の温度を現在駆動装置温度とし、第2温度センサ16で測定された冷媒の温度を現在冷媒温度とし、及び、流量センサ17で測定された冷媒の流量を現在流量として、それぞれ取得する。さらに、判定部40は、同じく車両作動時に、トルクセンサ24で測定されたモータ23のトルクを現在トルクとし、回転数センサ25で測定されたモータ23の回転数を現在回転数とし、及び、電圧計31で測定されたバッテリ30の電圧を現在電圧として、それぞれ取得する。つまり、判定部40は、車両作動中(車両が始動したのち終了するまで)は、上記六つの情報を随時取得する。なお、現在駆動装置温度としては、初期駆動装置温度と同様、インバータ温度及びモータ温度の平均値や中央値を取得してもよいし、それぞれの温度を取得してもよい。ただし、初期駆動装置温度と現在駆動装置温度とは同様の方法で取得される。
【0034】
判定部40は、取得した各種情報を用いて、駆動装置20の温度指標を示す基準駆動装置温度を算出する。具体的には、判定部40は、VCU40内の演算モジュールに各種情報を入力することで、基準駆動装置温度を算出する。基準駆動装置温度とは、駆動装置20の安全な動作が保証される温度の指標である。つまり、各種情報に基づき、現時点で駆動装置20が安全に動作するためには駆動装置20の温度はこの程度の温度でなければならない(この程度の温度になっているはず)という指標(基準)となる温度が基準駆動装置温度である。
【0035】
演算モジュールは、取得した各種情報を条件とした場合の駆動装置20の基準駆動装置温度を推定(導出、算出)するための仮想熱モデルである。なお、本実施形態では、駆動装置20の基準駆動装置温度が、インバータ21及びモータ23のそれぞれについて算出される。仮想熱モデルは、各種情報と駆動装置20の基準駆動装置温度とを対応付けたマップであるとも言える。各種情報と駆動装置20の基準駆動装置温度との関係性は、実車による車両レベル試験結果及びCAEシミュレーション等に基づいて三次元マップとして予め規定され、VCU40内に保存しておくことができる。仮想熱モデルは、車両レベル試験結果及びCAEシミュレーションの両方又は一方に基づいて複数作成されてよい。仮想熱モデルに基づいて算出される基準駆動装置温度は、駆動装置20が十分に冷却されている状態、つまり冷却回路10において冷媒の漏れが生じていないことを示す温度であるとも言える。
【0036】
判定部40は、算出した基準駆動装置温度及び取得した現在駆動装置温度を比較することで冷媒の漏れの有無を判定する。具体的には、判定部40は、基準駆動装置温度と現在駆動装置温度との差(温度差)Tdを算出し、算出した温度差Tdを閾値温度(以下、単に閾値という)Tthと比較する。ここでは、現在駆動装置温度から基準駆動装置温度を減じた値を温度差Tdとして算出する。なお、インバータ温度及びモータ温度のそれぞれを初期駆動装置温度及び現在駆動装置温度として取得する場合には、インバータ温度及びモータ温度のそれぞれについて温度差Tdを算出し、それぞれの温度差Tdを閾値Tthと比較する。
【0037】
本実施形態では、上記の閾値Tthとして値の異なる二つの閾値Tth1,Tth2を用いる。すなわち、温度差Tdを二つの閾値Tth1,Tth2とそれぞれ比較する。以下、二つの閾値Tth1,Tth2を区別する場合は、値の小さい一方を第1閾値Tht1といい、値の大きい他方を第2閾値Tth2という。閾値Tth1,Tth2は、例えば、仮想熱モデルの温度範囲を、推奨域、適正域、高温域という三段階で分けた場合に、推奨域の上限を示す値を第1閾値Tth1として用い、適正域の上限を示す値を第2閾値Tth2として用いてよい。閾値Tth1,Tth2は同一又は異なる仮想熱モデルから選択されてよい。本実施形態では、第1閾値Tth1は前述のCAEシミュレーションに基づいて予め設定された予測最高値を選択し、第2閾値Tth2は前述の車両レベル試験結果に基づいて予め設定された値を選択した例で説明する。
【0038】
まず、本実施形態の判定部40は、下記の条件1が成立する場合は冷媒の漏れの有無の判定を行なわず、下記の条件1が成立しない場合には冷媒の漏れの有無の判定を行なう。
条件1:温度差Tdが第1閾値Tth1未満である(Td<Tth1)。
条件1が成立する場合は、駆動装置20の温度は推奨域にあるため、冷却回路10の冷却性能が適正に維持されている状態であるといえる。この場合、判定部40は、冷媒の漏れは無いと判定する。このときは冷却回路10が正常であることから、出力装置50への出力は行なわれない。一方、条件1が成立する場合は、何らかの原因で駆動装置20の温度が上昇している状態であるといえる。
【0039】
次に、判定部40は、下記の条件2が成立するか否かを判定する。
条件2:温度差Tdが第1閾値Tth1以上、且つ、第2閾値Tth2未満である
(Tth1≦Td<Tth2)。
条件2が成立する場合は、駆動装置20の温度は適正域にあるが、冷却回路10の冷却性能が低下している状態であるといえる。この場合、判定部40は、冷媒の漏れの可能性が有ると判定する。このとき、判定部40(あるいはVCU40)は、出力装置50に出力し、運転者に対して冷却回路10の異常を報知してよいし、VCU40のメモリに判定結果を故障コード(ダイアグコード)として記録(保存)してもよい。
【0040】
上記の条件1及び2のいずれも満足しない場合、温度差Tdは下記の条件3を満たす。
条件3:温度差Tdが第2閾値Tth2以上である(Tth2≦Td)。
条件3を満たす場合は、駆動装置20の温度は高温域にあるため、冷却回路10の冷却性能が大幅に低下している状態であるといえる。この場合、判定部40は、冷媒の漏れが有ると判定する。また、このとき、判定部40(あるいはVCU40)は、出力装置50に出力し、運転者に対して冷却回路10の至急点検の要請を報知することが好ましく、VCU40のメモリに判定結果を故障コード(ダイアグコード)として記録(保存)することが好ましい。
【0041】
[3.フローチャート]
図3は、図1の冷媒漏れ検知装置1のVCU40で実施される検知制御の内容を例示したフローチャートである。このフローは、電動車両が始動したタイミングで(例えば、始動停止スイッチのオン信号を受信したタイミングで)開始され、電動車両が走行終了するまで(例えば、始動停止スイッチからオフ信号を受信するまで)、VCU40において実施される。
【0042】
まず、判定部40は、電動車両の始動時に、検知制御で必要となる各種情報を取得する。具体的には、判定部40は、電動車両の始動時に、第1温度センサ22で測定された駆動装置20の温度を初期駆動装置温度として取得するとともに、第2温度センサ16で測定された冷媒の温度を初期冷媒温度として取得する(ステップS1)。
【0043】
次に、判定部40は、電動車両の作動時に、検知制御で必要となる各種情報を取得する。具体的には、判定部40は、電動車両の作動時に、第1温度センサ22で測定された駆動装置20の温度を現在駆動装置温度として、第2温度センサ16で測定された冷媒の温度を現在冷媒温度として、流量センサ17で測定された冷媒の流量を現在流量として、トルクセンサ24で測定されたモータ23のトルクを現在トルクとして、回転数センサ25で測定されたモータ23の回転数を現在回転数として、及び、電圧計31で測定されたバッテリ30の電圧を現在電圧として、それぞれ取得する(ステップS2)。
【0044】
判定部40は、ステップS2で取得した各種情報を用いて上記の基準駆動装置温度を算出する(ステップS3)。例えば、判定部40は、前述のマップ(仮想熱モデル)に基づいて基準駆動装置温度を算出する。次いで、判定部40は、現在駆動装置温度から基準駆動装置温度を減じることで温度差Tdを算出する(ステップS4)。
【0045】
続いて、判定部40は、温度差Tdが第1閾値Tth1未満であるか否か(条件1の成否)を判定する(ステップS5)。温度差Tdが第1閾値Tth1未満である(条件1が成立する;ステップS4でYes)場合は、冷媒の漏れは無いと判定し、「冷媒の漏れなし」を検知する(ステップS6)。この場合、出力装置50へ出力することなく、ステップS6からステップS2へフローをリターンする。
【0046】
温度差Tdが第1閾値Tth1未満でない(条件1が成立しない;ステップS5でNo)場合は、ステップS7に進み、冷媒の漏れの可能性が有るか、あるいは、漏れがあるかが判定される。判定部40は、温度差Tdが第1閾値Tth1以上、且つ、第2閾値Tth2未満であるか否か(条件2の成否)を判定する(ステップS7)。温度差Tdが第1閾値Tth1以上、且つ、第2閾値Tth2未満である(条件2が成立する;ステップS7でYes)場合は、冷媒の漏れの可能性があると判定し、「漏れの可能性あり」を検知する(ステップS8)。この場合、出力装置50へ出力し、運転者に“冷却回路に異常あり”を報知してよい。また、この場合は、ステップS8からステップS2へフローをリターンし、冷媒の漏れが本当に発生しているか否かを判定し続けてよい。
【0047】
温度差Tdが第2閾値Tth2未満でない(条件2が成立しない;ステップS7でNo)場合は、ステップS9に進む。この場合は、温度差Tdが第2閾値Tth2以上であるため、冷媒の漏れがあると判定し、「漏れあり」を検知する(ステップS9)。この場合は、出力装置50へ出力し、運転者に“冷却回路の至急点検要”を報知したり故障コードを記録したりしたのち、このフローを終了する。
【0048】
[4.作用及び効果]
上述した冷媒漏れ検知装置1では、センサによって取得された各種情報を用いて、冷却回路10に適量の冷媒が循環している場合の駆動装置20の指標温度である基準駆動装置温度が算出される。これに対し、第1温度センサの測定値そのものである現在駆動装置温度は、現在の駆動装置20の温度である。現在駆動装置温度は、駆動装置20の作動状態に応じて変化する発熱度合いや冷却回路10を循環する冷媒の流量に応じて変化する冷却度合いが反映された温度である。したがって、これら二つの温度は冷却回路10の冷却性能を表しているといえる。このため、取得方法の異なる二つの温度を比較することで、冷却回路10の冷媒が適量でなくなったか否か(すなわち、漏れが発生したか否か)をリアルタイムで判定できる。言い換えると、冷却回路10からの冷媒の漏れの有無は、これら二つの温度差Td(数値)の大きさによって判定できるため、冷却回路10からの冷媒の漏れの有無を早期に検知することができる。
【0049】
さらに、上述した冷媒漏れ検知装置1では、基準駆動装置温度と現在駆動装置温度との温度差Tdを、異なる二つの閾値Tth1,Tth2と比較している。駆動装置20の温度範囲の推奨域の上限を示す第1閾値Tth1と、推奨域を超えた適正域の上限を示す第2閾値Tth2とを用いて段階的に判定することで、冷媒の漏れをより早期に検知することができる。
【0050】
以上のように、上述した冷媒漏れ検知装置1によれば、早期に、しかも正確に、冷媒の漏れを検知でき、冷却回路10の冷却性能の低下を検出することができる。これにより、特にコンパクト化が進むことで高温になりやすい駆動装置20等のeDMを常時十分に冷却することができ、eDMの性能を一定に維持することができる。また、これにより、各コンポーネントに繋がるパイプが樹脂製である場合でも、樹脂製のパイプやパイプの樹脂部分の損傷を防止することができる。このため、例えば、樹脂部分の近傍に電気配線エリアが配置されていたとしても、電気配線エリアへの冷媒の侵入が発生せず、各コンポーネントの寿命を長期化できる。よって、電動車両の安全な走行に寄与することができる。
【0051】
[5.変形例]
前述した実施形態では、仮想熱モデル、第1閾値Tth1及び第2閾値Tth2は、車両レベル試験結果及びCAEシミュレーションに基づいて算出される例を示したが、この算出方法に限られず、別の手法で算出されてよい。また、前述した実施形態では、各種情報に基づく仮想熱モデルを例示したが、パラメータは前述の情報に限らず、外気温や電動車両自体の温度も考慮して選択,算出されてよい。さらに、このような温度による判定に変えて、第2温度センサ16を駆動装置20に対する冷媒流れの上流及び下流側の両側に設けて、複数の冷媒の温度を測定して、冷媒の漏れの有無を判定してもよい。
【0052】
前述した実施形態では、二つの閾値Tth1,Tth2を用いる判定方法を説明したが、一つの閾値Tthを用いて、漏れの可能性の判定は省略し、漏れの有無のみを判定してもよい。また、第1温度センサ22をインバータ21及びモータ23のいずれか一方のみに設けてもよい。なお、冷却回路10の具体的な構成は一例であり、図1に示すものに限られない。また、判定部40は、車両作動時のうち駆動装置20が作動しているときに限り、六つの情報を取得して上記の判定を実施してもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 冷媒漏れ検知装置
10 冷却回路
11 メイン流路(流路)
12 バイパス流路(流路)
13 ラジエータ
14 ファン
15 流量制御部
15A ポンプ(流量制御部)
15B オリフィス(流量制御部)
16 第2温度センサ
17 流量センサ
20 駆動装置
21 インバータ
22 第1温度センサ
22A インバータ温度センサ(第1温度センサ)
22B モータ温度センサ(第1温度センサ)
23 モータ
24 トルクセンサ
25 回転数センサ
30 バッテリ
31 電圧計
40 VCU,判定部
50 出力装置
Td 温度差
Tth1 第1閾値
Tth2 第2閾値
図1
図2
図3