(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090946
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】グリーンタイヤの内面塗装装置、塗装方法、及び、空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/58 20060101AFI20240627BHJP
B29D 30/06 20060101ALI20240627BHJP
B29C 33/02 20060101ALI20240627BHJP
B05B 3/02 20060101ALI20240627BHJP
B05B 13/04 20060101ALI20240627BHJP
B05B 3/04 20060101ALI20240627BHJP
B05C 13/02 20060101ALI20240627BHJP
B05B 13/06 20060101ALI20240627BHJP
B05C 7/02 20060101ALI20240627BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20240627BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20240627BHJP
B05D 7/22 20060101ALI20240627BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240627BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B29C33/58
B29D30/06
B29C33/02
B05B3/02 G
B05B13/04
B05B3/04 Z
B05C13/02
B05B13/06
B05B3/02 A
B05C7/02
B05D5/00 Z
B05D7/02
B05D7/22 Z
B05D3/00 C
B05D7/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207153
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100184343
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 邦弘
【テーマコード(参考)】
4D075
4F033
4F035
4F042
4F202
4F215
4F501
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AA38
4D075AA51
4D075AA62
4D075AA67
4D075AA76
4D075AA81
4D075AA85
4D075CA07
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA19
4D075DB35
4D075DC08
4D075DC13
4D075EA05
4F033PA11
4F033PB02
4F033PB33
4F035AA04
4F035CA01
4F035CA05
4F035CB03
4F035CB13
4F035CB27
4F035CB29
4F035CD05
4F035CD08
4F035CD12
4F035CD18
4F035CD19
4F035CE02
4F035CE05
4F035CE06
4F042AA01
4F042AB00
4F042BA08
4F042BA10
4F042DF07
4F042DF11
4F042DF24
4F042DF29
4F042DH09
4F042EA05
4F042EA23
4F202AA45
4F202AH20
4F202CA21
4F202CB01
4F202CM41
4F202CZ02
4F202CZ04
4F202CZ08
4F202CZ20
4F215AH20
4F215VD01
4F215VK41
4F215VL27
4F501TC01
4F501TD41
4F501TE22
4F501TV16
(57)【要約】
【課題】グリーンタイヤの内面に塗布される離型剤の塗り漏れを抑制できるグリーンタイヤの内面塗装装置、塗装方法、および、空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】グリーンタイヤ10の内面塗装装置1は、スプレーガン5と、スプレーガン5をタイヤ10の回転軸O3を中心に回転させる又は回転軸O3を中心に回転させる回転機構6と、グリーンタイヤ10の軸方向の一方側に位置して一方側ビード13cを保持する一方側チャック機構31と、タイヤ10の軸方向の他方側に位置して他方側ビード13dを保持する他方側チャック機構36と、タイヤ10の外側に配置され一方側チャック機構31及び他方側チャック機構36の少なくとも一方を、他方に対して、軸方向に移動させて、タイヤ10の赤道線CLから一方側ビード13c及び他方側ビード13dまでの軸方向距離がそれぞれ所定の離間距離となるように広げるビード間拡大機構4とを備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリーンタイヤの内面に離型剤を噴射して塗布するスプレーガンと、
前記スプレーガンを前記グリーンタイヤの回転軸を中心に回転させる、または、前記グリーンタイヤを前記回転軸を中心に回転させる、回転機構と、
前記グリーンタイヤの軸方向の一方側に位置して、前記グリーンタイヤの一方側ビードを保持する一方側チャック機構と、
前記グリーンタイヤの軸方向の他方側に位置して、前記グリーンタイヤの他方側ビードを保持する他方側チャック機構と、
前記グリーンタイヤの外側に配置され、前記一方側チャック機構、および、前記他方側チャック機構の少なくとも一方を、他方に対して、少なくとも前記軸方向に移動させて、前記グリーンタイヤの赤道線から前記一方側ビードおよび前記他方側ビードまでの前記軸方向の距離がそれぞれ所定の離間距離となるように広げるビード間拡大機構と、を備えるグリーンタイヤの内面塗装装置。
【請求項2】
前記スプレーガンをタイヤ径方向に移動させる径方向移動機構を備える請求項1に記載のグリーンタイヤの内面塗装装置。
【請求項3】
前記所定の離間距離をbとしたときに、前記所定の離間距離bは、以下を満たす、請求項1または請求項2に記載のグリーンタイヤの内面塗装装置。
b=(S×A1)/2+A2
b:所定の離間距離
S:設計断面幅
A1:設計断面幅に対するグリーンタイヤの断面幅に応じた第1係数
A2:ビード厚さに応じた第2係数
【請求項4】
前記第1係数A1は、1.1以上1.4以下に設定されている、請求項3に記載のグリーンタイヤの内面塗装装置。
【請求項5】
前記第2係数A2は、30mm以上50mm以下に設定されている、請求項4に記載のグリーンタイヤの内面塗装装置。
【請求項6】
前記スプレーガンの噴射口から、前記ビード間拡大機構によって拡大された状態における前記一方側ビード及び前記他方側ビードまでのそれぞれのタイヤ径方向の距離aは、以下を満たす、請求項1または請求項2に記載のグリーンタイヤの内面塗装装置。
a=b/tanθ
a:スプレーガンの噴射口からビードまでのタイヤ径方向の距離
b:所定の離間距離
θ:スプレーガンの噴射角度
【請求項7】
前記ビード間拡大機構は、前記一方側チャック機構を固定して、前記他方側チャック機構を前記軸方向に移動させる、請求項1または請求項2に記載のグリーンタイヤの内面塗装装置。
【請求項8】
前記他方側チャック機構は、離型剤が塗布された後の前記グリーンタイヤを次の工程へ搬送するための搬送用ローダに取り付けられている、請求項1または請求項2に記載のグリーンタイヤの内面塗装装置。
【請求項9】
前記請求項1または前記請求項2に記載のグリーンタイヤの内面塗装装置を用いたグリーンタイヤの内面塗装方法であって、
前記一方側チャック機構及び前記他方側チャック機構によって、前記一方側ビード及び前記他方側ビードをチャックすること、
前記ビード間拡大機構によって、前記一方側チャック機構及び前記他方側チャック機構の少なくとも一方をタイヤ軸方向の外側に移動させて、前記グリーンタイヤの軸方向の中心から前記一方側ビードおよび前記他方側ビードまでの前記軸方向の距離がそれぞれ所定の離間距離bとなるように広げること、
前記グリーンタイヤのサイズに対応する、タイヤ径方向の前記スプレーガンを移動させて調整すること、
前記回転機構によって、前記スプレーガンを回転、または、前記グリーンタイヤを回転させた状態で、前記スプレーガンから前記グリーンタイヤの内面に離型剤を噴射することと、
を含む、前記グリーンタイヤの内面塗装方法。
【請求項10】
請求項9に記載の前記グリーンタイヤの内面塗装方法を含む空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリーンタイヤの内面塗装装置、塗装方法、及び、空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、グリーンタイヤの加硫は、金型にセットしたグリーンタイヤの内面にタイヤ加硫用ブラダーを押し当てて行われる。このように、グリーンタイヤの内面に密着されたブラダーは、加硫後のタイヤ内面から取り出される。加硫後のタイヤの内面からのブラダーの密着を解消しやすくするために、タイヤの径方向内側に配置されたスプレーガンから離型剤を噴射することで、グリーンタイヤの内面に離型剤が塗布されるようになっている。
【0003】
特許文献1には、タイヤのサイズに合わせて、スプレーガンを径方向に移動することで、異なるサイズのタイヤに対してもグリーンタイヤ内面に均一に離型剤を塗布できる内面塗装装置が開示されている。
【0004】
特許文献2には、タイヤ軸方向一方側からグリーンタイヤの内面側に挿入されて、一方側のビードを保持する一方側チャック機構、および、他方側のビードを保持する他方側チャック機構によって、グリーンタイヤのビード間隔を拡大させた状態で、スプレーガンからグリーンタイヤ内面に離型剤を塗布できる内面塗装装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-161832号公報
【特許文献2】特開平4-83633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されている内面塗装装置においては、ビード間隔を拡大させる構造を備えていないため、例えば、グリーンタイヤの内面のうちタイヤ内径側に位置するビード部側の部分に塗り漏れが生じる場合がある。特許文献2に開示されている内面塗装装置においては、一方側チャック機構及び他方側チャック機構がタイヤ軸方向一方側から挿入されるため、グリーンタイヤの内面側に他方側チャック機構の駆動機構が配置されている。そのため、駆動機構の構成によっては、駆動機構がスプレーガンの噴射を遮って、グリーンタイヤの内面を塗装する際に、塗り漏れが生じる場合がある。すなわち、いずれの場合においても、グリーンタイヤの内面に対する離型剤の塗り漏れについて、改善の余地がある。
【0007】
本発明は、グリーンタイヤの内面に塗布される離型剤の塗り漏れを抑制できるグリーンタイヤの内面塗装装置、塗装方法、および、空気入りタイヤの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、グリーンタイヤの内面に離型剤を噴射して塗布するスプレーガンと、前記スプレーガンを前記グリーンタイヤの回転軸を中心に回転させる、または、前記グリーンタイヤを前記回転軸を中心に回転させる、回転機構と、前記グリーンタイヤの軸方向の一方側に位置して、前記グリーンタイヤの一方側ビードを保持する一方側チャック機構と、前記グリーンタイヤの軸方向の他方側に位置して、前記グリーンタイヤの他方側ビードを保持する他方側チャック機構と、前記グリーンタイヤの外側に配置され、前記一方側チャック機構、および、前記他方側チャック機構の少なくとも一方を、他方に対して、少なくとも前記軸方向に移動させて、前記グリーンタイヤの赤道線から前記一方側ビードおよび前記他方側ビードまでの前記軸方向距離がそれぞれ所定の離間距離となるように広げるビード間拡大機構と、を備えるグリーンタイヤの内面塗装装置を提供する。
【0009】
本発明の一態様によれば、ビード間を拡大することで、ビードのタイヤ内径側の部分の塗り漏れが抑制されると共に、グリーンタイヤの内面側に、一方側および他方側チャック機構と、ビード間拡大機構とが配置されていないので、グリーンタイヤの内面塗装時の塗り漏れも抑制できる。
【0010】
前記スプレーガンをタイヤ径方向に移動させる径方向移動機構を備えてもよい。
【0011】
本構成によれば、グリーンタイヤのサイズに応じて、スプレーガンのグリーンタイヤの内面に対する距離を変更できるので、サイズの異なるグリーンタイヤにおいても、グリーンタイヤの内面に対する離型剤の塗り漏れを抑制できる。
【0012】
前記所定の離間距離をbとしたときに、前記所定の離間距離bは、以下を満たすことが好ましい。
b=(S×A1)/2+A2
b:所定の離間距離
S:設計断面幅
A1:設計断面幅に対するグリーンタイヤの断面幅に応じた第1係数
A2:ビード厚さに応じた第2係数
【0013】
グリーンタイヤの内面は、サイドウォールからビード部の径方向内側に向かって曲率中心がタイヤ内面側に位置し、軸方向外側に向かって凸となるように湾曲する第1湾曲部を有する。さらに、ビードにおける径方向内側に位置する内側部分には、ビードコアが配置されているため、サイドウォールよりも軸方向のゴム厚さ(ビード厚さ)が厚くなっている。そのため、ビードの内側部分におけるグリーンタイヤの内面は、第1湾曲部に連続すると共に、曲率中心がタイヤの外面側に位置し、軸方向内側に向かって凸となるように湾曲する第2湾曲部を有する。
【0014】
このように第1湾曲部および/または第2湾曲部を備えたグリーンタイヤは、特に、第1湾曲部のうち最大幅位置よりも径方向内側の部分、および、第2湾曲部のうち最も軸方向内側の位置よりも径方向外側の部分が、グリーンタイヤの回転軸側に配置されるスプレーガンに対して隠れた状態となる場合がある。最大幅位置は、サイドウォールにおける外表面のプロファイルラインが、タイヤ赤道線から軸方向に最も離れた位置であって、設計断面幅の径方向位置と一致する。
【0015】
本構成によれば、設計断面幅、設計断面幅に対するグリーンタイヤの断面幅、および、ビード厚さに応じて、所定の離間距離を設定できるので、最大幅位置におけるグリーンタイヤの断面幅よりも軸方向外側にビード部を配置することができる。
【0016】
より詳しくは、一般に、加硫工法上の都合から、グリーンタイヤは、空気入りタイヤに対して外径が小さく、設計断面幅よりもグリーンタイヤの断面幅(最大幅位置における断面幅)が広くなることが知られている。すなわち、グリーンタイヤの断面幅は、設計断面幅よりも広くなるため、所定の離間距離を設計断面幅に設定しても、ビードはグリーンタイヤの断面幅よりも軸方向外側に広げることができない。
【0017】
これに対して、本構成によれば、設計断面幅に対するグリーンタイヤの断面幅に対応させて、ビードを軸方向外側に広げることができる。その結果、グリーンタイヤは、第1湾曲部の湾曲が延ばされる(曲率が小さくなる)ように変形すると共に、第2湾曲部のうち最も軸方向内側の位置よりも径方向外側の部分がグリーンタイヤの内面で最も軸方向外側に位置されるように変形する。これにより、第1および第2湾曲部によってスプレーガンの方向から見たときに隠れてしまうグリーンタイヤの内面がスプレーガン側に現れて、グリーンタイヤの内面におけるビード側の塗り漏れを抑制できる。
【0018】
前記第1係数A1は、1.1以上1.4以下に設定されていてもよい。
【0019】
本構成によれば、第1係数A1を設計断面幅に対するグリーンタイヤの断面幅に応じて適切な値に設定できるので、より効果的にグリーンタイヤの内面におけるビード側の塗り漏れを抑制できる。第1係数A1が1.1未満である場合は、所定の離間距離bが不足して、第1湾曲部が変形せずにタイヤ内面におけるビード間側に塗り漏れが生じ得る。第1係数A1が1.4を超過すると、不必要にビード間を広げることになるとともに、スプレーガンの噴射角度によっては、タイヤ径方向の移動距離が不足して、タイヤ幅方向外側に位置するビード周辺に塗り漏れが生じ得る。
【0020】
前記第2係数A2は、30mm以上50mm以下に設定されていてもよい。
【0021】
本構成によれば、第2係数A2をビード厚さに応じて適切な値に設定できるので、より効果的にグリーンタイヤの内面におけるビード側の塗り漏れを抑制できる。第2係数A2が30mm未満の場合、所定の離間距離bが不足して、第2係数A2が50mmを超過すると、不必要にビード間を広げることになる。
【0022】
前記スプレーガンの噴射口から、前記ビード間拡大機構によって拡大された状態における前記一方側ビード及び前記他方側ビードまでのそれぞれのタイヤ径方向の距離aは、以下を満たすことが好ましい。
a=b/tanθ
a:スプレーガンの噴射口からビードまでのタイヤ径方向の距離
b:所定の離間距離
θ:スプレーガンの噴射角度
【0023】
本構成によれば、グリーンタイヤのサイズに合わせて、より具体的には、所定の離間距離およびスプレーガンの噴射角度に応じて、スプレーガンの径方向位置が調整されるので、グリーンタイヤの内面に塗りもれなく離型剤を塗布することができる。
【0024】
前記ビード間拡大機構は、前記一方側チャック機構を固定して、前記他方側チャック機構を前記軸方向に移動させてもよい。
【0025】
本構成によれば、他方側チャック機構のみを動作させるので、一方側チャック機構及び他方側チャック機構をそれぞれ動作させる場合に比べて、ビード間拡大機構を簡素な構造にすることができる。
【0026】
前記他方側チャック機構には、離型剤が塗布された後の前記グリーンタイヤを次の工程へ搬送するための搬送用ローダが取り付けられていてもよい。
【0027】
本構成によれば、ビード間拡大機構によってビード間を広げる際に、他方側ビードをチャックするための他方側チャック機構を、搬送用ローダのためのチャック機構として使用できるので、グリーンタイヤ搬送のためのチャック機構を別途用意する必要がない。
【0028】
前記グリーンタイヤの内面塗装装置を用いたグリーンタイヤの内面塗装方法であって、前記一方側チャック機構及び前記他方側チャック機構によって、前記グリーンタイヤの前記一方側ビード及び前記他方側ビードをそれぞれチャックすることと、前記ビード間拡大機構によって、前記一方側チャック機構及び前記他方側チャック機構の少なくとも一方をタイヤ軸方向の外側に移動させて、前記グリーンタイヤの軸方向の中心から前記一方側ビードおよび前記他方側ビードまでの前記軸方向距離がそれぞれ所定の離間距離となるように広げることと、前記グリーンタイヤのサイズに対応する、タイヤ径方向の前記スプレーガンを移動させて調整することと、前記回転機構によって、前記スプレーガンを回転、または、前記グリーンタイヤを回転させた状態で、前記スプレーガンから前記グリーンタイヤの内面に離型剤を噴射することと、を含む前記グリーンタイヤの内面塗装方法を提供する。
【0029】
前記グリーンタイヤの内面塗装方法を含む空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0030】
本発明のグリーンタイヤの内面塗装装置、内面塗装方法、及び、空気入りタイヤの製造方法によれば、グリーンタイヤの内面塗装時の塗り漏れを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の一実施形態に係る内面塗布装置によって内面に離型剤が塗布されるグリーンタイヤの子午線方向における概略半断面図。
【
図2】グリーンタイヤの内面塗装装置の待機状態の概略構成図。
【
図3】グリーンタイヤの内面塗装装置の一方側チャック機構のチャック状態の概略構成図。
【
図4】内面塗装装置のビードのチャック状態を示す概略構成図。
【
図5】内面塗装装置のビード間拡大状態を示す概略構成図。
【
図6】ビード間の所定距離およびスプレーガンの位置の設定方法を示す説明図。
【
図7】
図6におけるVII-VII線に沿った断面図。
【
図8】
図6におけるVIII-VIII線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0033】
本発明は、未加硫の空気入りタイヤ(グリーンタイヤ)10の内周面に離型剤を塗布するための塗装装置、塗装方法、および、塗装方法を用いて製造された空気入りタイヤに関するものである。この塗装装置および塗装方法の説明に先立ち、
図1を参照しながら、塗装方法が適用されるグリーンタイヤ10の構成について概略を説明する。
【0034】
図1は、本実施形態におけるグリーンタイヤ10の子午線方向における半断面図であり、タイヤ赤道線CLに対して一方側のみ示されている。
図1に示すように、空気入りタイヤ10は、トレッド面を有するトレッド11と、トレッド11のタイヤ幅方向両側からタイヤ径方向内側に延びる一対のサイドウォール12と、各サイドウォール12の内径端に位置する一対のビード13とを備えている。トレッド11およびサイドウォール12の内側には、一対のビード13の間に架け渡されるようにカーカスプライ14が配設されている。
【0035】
トレッド11のカーカスプライ14のタイヤ径方向外側には、トレッドゴム15が配設されている。カーカスプライ14の内側には、空気圧を保持するためのインナライナ16が配設されている。ビード13は、鋼線等の収束体をゴム被覆してなる環状のビードコア17と、ビードコア17に連設されてタイヤ径方向外側に延びる断面三角形状の環状のビードフィラー18とを有する。サイドウォール12のカーカスプライ14のタイヤ幅方向外側には、サイドウォールゴム19が配設されている。
【0036】
本明細書では、タイヤ径方向において、ビードフィラー18の先端部18aより外径側に位置する部分をサイドウォール12と称し、内径側に位置する部分をビード13と称している。
【0037】
グリーンタイヤ10の内面Gは、サイドウォール12からビード13の径方向外側に位置する外側部分13aにかけて設けられた第1湾曲部G1と、第1湾曲部G1に連続すると共にビード13の径方向内側に位置する内側部分13bに設けられた第2湾曲部G2とを有する。
【0038】
第1湾曲部G1は、曲率中心O1がタイヤ内面側に位置し、軸方向外側に向かって凸となるように湾曲する。ビード13の内側部分13bには、ビードコア17が配置されているため、サイドウォール12よりも軸方向のゴム厚さ(ビード厚さ)tが厚くなっている。そのため、第2湾曲部G2は、曲率中心O2がタイヤ外面側に位置し、軸方向内側に向かって凸となるように湾曲する。
【0039】
このように第1湾曲部G1および第2湾曲部G2を備えたグリーンタイヤ10は、特に、第1湾曲部G1のうち最大幅位置Z1よりも径方向内側の部分、および、第2湾曲部G2のうち最も軸方向内側の位置Z2よりも径方向外側の部分が、グリーンタイヤ10の径方向内側に配置されるスプレーガン5に対して隠れた状態となる場合がある。言い換えると、
図2に示すように、隠れた状態となる部分は、スプレーガン5から噴射される離型剤S1の放射領域よりも外側に位置する部分である。最大幅位置Z1は、サイドウォール12における外表面のプロファイルラインが、タイヤ赤道線CLからタイヤ軸方向に最も離れた位置である。
【0040】
この場合、
図2に示すように、スプレーガン5から噴射される離型剤S1が、グリーンタイヤ10の内面Gに塗布されずに塗り漏れが生じることがある。本発明の実施形態における内面塗装装置1は、このようなグリーンタイヤ10の内面Gの塗り漏れを抑制する構成を備えている。
【0041】
図2~
図8を参照しながら、グリーンタイヤ10の内面に離型剤を塗布するための内面塗装装置1について説明する。以下の実施形態の説明において、「上」、「下」、「左」、「右」、「高さ」、「幅」、「前後」等の方向を示す用語は、特段の説明がある場合を除いて、載置台2に載置された横倒し状態のグリーンタイヤ10の軸方向が延びる方向を上下方向として、グリーンタイヤ10を径方向側から見た場合の方向を指すものとする。
【0042】
図2に示すように、本実施形態において、内面塗装装置1は、加硫前の横倒し状態のグリーンタイヤ10の内面Gに、ミスト状の離型剤を噴霧して塗布する。離型剤としては、粉体からなる無機成分と、シリコーン成分と、界面活性剤と、水とを含む公知の離型剤が使用される。
【0043】
内面塗装装置1は、グリーンタイヤ10を配置する載置台2と、グリーンタイヤ10のビード13を保持するビードチャック機構3と、ビード13間を拡大するためのビード間拡大機構4と、グリーンタイヤ10の内面に離型剤を噴射するスプレーガン5と、スプレーガン5をグリーンタイヤ10の回転軸O3周りに回転させる回転機構6と、スプレーガン5のタイヤ軸方向位置(
図2における上下方向位置)を移動させる軸方向移動機構7と、スプレーガン5のタイヤ径方向位置(
図2における左右方向位置)を移動させる径方向移動機構8とを備える。
【0044】
図2を参照すると、載置台2は、中央部に上下方向に貫通する貫通穴21を有するリング状である。載置台2には、グリーンタイヤ10を横倒し状態で載置することができる。グリーンタイヤ10は、回転軸O3が貫通穴21の中心と一致するように配置される。
【0045】
ビードチャック機構3は、ビード13のうちタイヤ軸方向一方側(
図2の下側)に位置する一方側ビード13cを保持する一方側チャック機構31と、タイヤ軸方向他方側(
図2の上側)に位置する他方側ビード13dを保持する他方側チャック機構36とを有する。
【0046】
一方側チャック機構31は、昇降台32と、昇降台32の上下方向位置を調整する昇降用エアシリンダ33と、一方側ビード13cに対して係合可能な係止板34と、係止板34を径方向移動させるためのチャック用エアシリンダ35とを有する。
【0047】
昇降台32は、載置台2の下面から所定の隙間を空けて平行に設けられた円盤状の板部材である。昇降台32の中央部には、昇降台32を上下方向に貫通する貫通穴32aが設けられている。貫通穴32aの中心は、載置台2の貫通穴21の中心および回転軸O3と一致している。
【0048】
昇降用エアシリンダ33は、昇降台32の下方に配置され、ピストンロッド33aの先端が昇降台32の下面に固定されている。昇降用エアシリンダ33の動作により、昇降台32が昇降する。
【0049】
係止板34は、平面視でグリーンタイヤの内径に沿って円弧状に湾曲し、上下方向に延びる複数の板部材である。各係止板34の上端には、径方向外側に屈曲して一方側ビード13cに係合される爪34aが設けられている。本実施形態において、係止板34は、回転軸O3周りに等間隔で3個配置されている。
【0050】
チャック用エアシリンダ35は、昇降台32の上面に固定されている。チャック用エアシリンダ35のピストンロッド35aは、係止板34の径方向外側の面に固定されている。本実施形態において、チャック用エアシリンダ35は、各係止板34に対応させて設けられ、回転軸O3周りに等間隔で3個配置されている。
【0051】
ピストンロッド35aを径方向内側にストロークさせた状態では、爪34aの径方向位置が一方側ビード13cの内端よりも内径側(回転軸O3側)に位置するように設定されている。一方、ピストンロッド35aを径方向外側にストロークさせた状態では、
図3に示すように、爪34aの径方向位置が一方側ビード13cと重複するように設定されている。
【0052】
昇降用エアシリンダ33のピストンロッド33aを上側にストロークさせると共に、ピストンロッド35aを径方向内側にストロークさせた状態では、係止板34は一方側ビード13cとの係合が解除され、一方側チャック機構31はチャック解除状態となる。一方、
図5に示すように、ピストンロッド35aを径方向外側にストロークさせるとともに、ピストンロッド33aを下側にストロークさせた状態では、係止板34が一方側ビード13cに係合され、一方側チャック機構31はチャック状態となる。
【0053】
図2に示すように、他方側チャック機構36は、ベース部材37と、他方側ビード13dに対して係合可能な係止板38と、係止板38を径方向移動させるためのチャック用エアシリンダ39とを有する。
【0054】
ベース部材37は、ビード間拡大機構4の後述のアーム42の下面に取り付けられた円盤状の板部材である。ベース部材37の中心は、載置台2に載置されるグリーンタイヤの回転軸O3と一致している。
【0055】
係止板38は、平面視でグリーンタイヤの内径に沿って円弧状に湾曲し、上下方向に延びる複数の板部材である。各係止板34の下端部には、径方向外側に屈曲して他方側ビード13dに係合する爪38aが設けられている。本実施形態において、係止板38は、回転軸O3周りに等間隔で3個配置されている。
【0056】
チャック用エアシリンダ39は、ベース部材37の下面に固定されている。チャック用エアシリンダ39のピストンロッド39aは、係止板38の径方向外側の面に固定されている。本実施形態において、チャック用エアシリンダ39は、各係止板38に対応させて設けられ、回転軸O3周りに等間隔で3個配置されている。
【0057】
ピストンロッド39aを径方向内側にストロークさせた状態では、爪38aの径方向位置が他方側ビード13dの内端よりも径方向内側に位置するように設定される。言い換えると、他方側チャック機構36はチャック解除いる。ピストンロッド39aを径方向内側にストロークさせた状態では、係止板38は他方側ビード13dとの係合が解除され、他方側チャック機構36はチャック解除状態となる。
【0058】
一方、
図4に示すように、ピストンロッド39aを径方向外側にストロークさせた状態では、爪38aの径方向位置が他方側ビード13dと重複するように設定されている。言い換えると、ピストンロッド39aを径方向外側にストロークさせ状態では、係止板38が他方側ビード13dに係合され、他方側チャック機構36はチャック状態となる。
【0059】
図2に示すように、ビード間拡大機構4は、グリーンタイヤ10の外側に配置されている。ビード間拡大機構4は、後述のアーム42を介して、他方側チャック機構36をタイヤ軸方向に移動させるための昇降機構である。
【0060】
ビード間拡大機構4は、本体フレーム41と、本体フレーム41に沿って昇降するアーム42と、アーム42を駆動するためのモータ43と、駆動スプロケット44と、従動スプロケット45と、チェーン46とを備える。
【0061】
本体フレーム41は、上下方向に延びる柱状部材で、載置台2に配置されたグリーンタイヤ10の径方向一方側のトレッド11の外側に配置されている。アーム42は、本体フレーム41に直交すると共に、本体フレーム41から載置台2側に延びる梁部材である。アーム42は、
図4に示す準備状態から
図5に示すビード間拡大状態との間で本体フレーム41に沿って上下方向に移動可能である。
【0062】
図2に示すように、モータ43は、本体フレーム41の下部に固定され、制御装置(図示せず)を介して駆動制御される。モータ43には、回転検出部が設けられており、ロータ角度情報を制御装置に対して出力するようになっている。モータ43は、例えば、サーボモータで構成されていてもよい。
【0063】
駆動スプロケット44は、本体フレーム41の下部に配置され、モータ43の出力軸と接続されている。従動スプロケット45は、本体フレーム41の上部に回転可能に軸支されている。チェーン46は、駆動スプロケット44と従動スプロケット45との間に掛け渡され、一端がアーム42の上端に、他端がアーム42の下端に連結され、全体として無端ループ状に形成されている。
【0064】
ビード間拡大機構4は、モータ43の回転駆動力が駆動スプロケット44を介してチェーン46に伝達され、チェーン46が駆動スプロケット44と従動スプロケット45との間を往復移動することで、チェーン46に連結されたアーム42を昇降動作させる。言い換えると、アーム42は、モータ43の回転量を制御することによって、チェーン46の移動方向および移動量が制御されて、アーム42の昇降が制御されるようになっている。
【0065】
このアーム42の位置を制御することで、アーム42に固定された他方側チャック機構36の上下方向位置を調整されるので、一方側ビード13cおよび他方側ビード13dそれぞれのタイヤ赤道線CLからの所定の離間距離bが調整できるようになっている。所定の離間距離bの設定方法については後述する。
【0066】
図5に二点鎖線で示すように、ビード間拡大状態におけるグリーンタイヤ10のタイヤ赤道線CLの載置台2からの上下方向位置に爪38aが位置するときのアーム42の位置を基準位置P0として、アーム42を基準位置P0から所定の離間距離b上方に持ち上げたビード拡大位置P1に配置することで、一方側ビード13cと他方側ビード13dとの間を所定の離間距離bに拡大させたビード間拡大状態が得られる。基準位置P0は、タイヤサイズによって異なるため、例えば、予めタイヤサイズから算出してもよいし、制御装置にあらかじめ記憶されたタイヤサイズと基準位置P0の関係のテーブルから読み込んでもよい。
【0067】
図2および
図6に示すように、スプレーガン5は、後述の柱部材61の上部に軸方向移動可能に取り付けられている。スプレーガン5は、噴射方向が回転軸O3と直交する方向に設定されており、噴射角度θは、例えば、離型剤を塗布する最も大径のグリーンタイヤ10の内面に合わせて設定されている。スプレーガン5には、液体の離型剤及び圧縮空気を供給する供給管が接続されており、供給装置(図示せず)から離型剤及び圧縮空気が供給されて、スプレーガン5のノズルからミスト状の離型剤が噴射されるようになっている。
【0068】
スプレーガン5は、グリーンタイヤ10の内面部側に配置されるとともに、グリーンタイヤ10に対して軸方向位置および径方向位置が変更可能となっている。スプレーガン5の配置については、詳細を後述する。
【0069】
図2に示すように、回転機構6は、スプレーガン5を取り付けるための柱部材61と、柱部材61が接続されるテーブル部材62と、テーブル部材62の下方に配置された円筒部材63と、テーブル部材62に固定されて円筒部材63に対して回転可能な軸部材64と、軸部材64を回転駆動するためのモータ65とを有する。
【0070】
柱部材61は、載置台2の上面よりも上方から貫通穴21,32aを通過して下方にかけて上下方向に延びている。柱部材61は、テーブル部材62に対して径方向に移動可能に取り付けられている。テーブル部材62は、例えば、円盤状の板部材で構成されている。テーブル部材62の中心は、回転軸O3と一致するように配置されている。
【0071】
円筒部材63は、軸心が回転軸O3と一致するように立設されている。軸部材64は、円筒部材63の内部に勘合された軸受66を介して、円筒部材63に対して回転可能に配置されている。軸部材64の上端は、テーブル部材62に固定され、下端部はモータ65に接続されている。
【0072】
モータ65は、円筒部材63の下端部に配置され、制御装置(図示せず)を介して駆動制御される。モータ65には、回転検出部が設けられており、ロータ角度情報を制御装置に対して出力するようになっている。
【0073】
モータ65の回転駆動力が軸部材64を介してテーブル部材62に伝達され、テーブル部材62と一体的に回転する柱部材61が回転し、柱部材61に取り付けられたスプレーガン5が回転軸O3を中心に回転する。
【0074】
図6に示すように、軸方向移動機構7は、柱部材61に設けられて上下方向に延びるレール部71と、レール部71上を摺動するスライダ(図示せず)とを有し、スライダにはブラケット等を介してスプレーガン5が固定されている。軸方向移動機構7は、例えば、ステッピングモータでボールねじを回転させることにより、ボールねじナットに固定されたスライダが軸方向に移動するように構成されてもよい。軸方向移動機構7によって、スプレーガン5の噴射口5aの軸方向位置が、各タイヤサイズに応じたビード間拡大状態におけるグリーンタイヤ10のタイヤ赤道線CLと一致する位置に配置されるようになっている。
【0075】
径方向移動機構8は、テーブル部材62上に設けられて径方向に延びるレール部81と、レール部81上を摺動するスライダ(図示せず)とを有し、スライダにはブラケット等を介して柱部材61が固定されている。径方向移動機構8は、軸方向移動機構7同様に、例えば、ステッピングモータでボールねじを回転させることにより、ボールねじナットに固定されたスライダが径方向に移動するように構成されてもよい。径方向移動機構8によって、スプレーガン5の噴射口5aの径方向位置が各タイヤサイズに応じた所望の位置に設定できるように構成されている。
【0076】
次に、
図5及び
図6を参照しながら、ビード間の所定の離間距離b、および、スプレーガン5の径方向位置の決め方について説明する。
図6には、説明の都合上、ビード拡大前の状態のグリーンタイヤ10(二点鎖線)とビード拡大状態のグリーンタイヤ10(実線)のタイヤ赤道線CLを一致させている。
【0077】
図5に示すように、ビード間拡大機構4によって、アーム42を基準位置P0からビード拡大位置P1に移動させると、一方側ビード13cおよび他方側ビード13dと、グリーンタイヤ10のタイヤ赤道線CLとの軸方向の離間距離が、それぞれ所定の離間距離bに広がるように構成されている。所定の離間距離bは、ビード13の内面側がビード拡大前の状態のグリーンタイヤ10の最大幅位置Z1における断面幅S1よりも軸方向において外側に位置するように設定されている。
【0078】
一般に、加硫工法上の都合から、グリーンタイヤは、空気入りタイヤに対して外径が小さく、設計断面幅Sよりもグリーンタイヤの断面幅(最大幅位置における断面幅)S1が広くなることが知られている。すなわち、グリーンタイヤの断面幅S1は、設計断面幅Sよりも広くなるため、ビードをタイヤ赤道線CLから所定の離間距離b離間させたときのビードの軸方向位置を、設計断面幅Sに一致するように設定しても、ビードはグリーンタイヤの断面幅S1よりも軸方向外側に広げることができない。
【0079】
したがって、所定の離間距離bは、以下を満たすように設定されている。第1係数A1および第2係数A2については、詳細を後述する。
b=(S×A1)/2+A2・・・・・(1)
b:所定の離間距離
S:設計断面幅
A1:設計断面幅に対するグリーンタイヤの断面幅に応じた第1係数
A2:ビード厚さに応じた第2係数
【0080】
設計断面幅Sとは、JIS規格で採用している設計断面幅算出式を利用したJIS D4202-1994の「設計断面幅S」に記載されており、下記の式(2)から各タイヤサイズの設計断面幅Sが算出される。
【0081】
断面幅は、タイヤの総幅から、タイヤの側面の模様、文字などを除いた幅である。総幅は、タイヤを適用リムに装着し、既定の空気圧を充填した無負荷状態のタイヤサイドウォール間の間隔である(タイヤの側面の模様、文字などすべて含む)。適用リムは、タイヤの性能を有効に発揮させるために適したリムである。
【0082】
リム幅の呼びは、断面幅の呼びSNと、タイヤの種類、適用リム、および偏平比により定められる係数K1(係数K1は、JIS D4202-1994の表6から選択する。)との積で求めた値(理論リム幅Rthという。)に最も近い規定のリム幅Rm(規定のリム幅Rmは、JIS D4202-1994の表7から選択する。)に、対応するリム幅の呼びで表す。
Rth=K1×SN・・・・・(2)
【0083】
設計断面幅Sは、式(2)で求めたリム幅の呼びをもつリムに装着したときのタイヤ幅であり、次の式(3)から求める。係数K2は、タイヤの種類、適用リム、および偏平比により定められる(JIS D4202-1994の表6参照)。
S=SN+K2(Rm-Rth)・・・・・(3)
【0084】
第1係数A1は、設計断面幅Sに対するグリーンタイヤの断面幅S1に応じた係数である。第1係数A1は、設計断面幅Sに対するグリーンタイヤの断面幅S1の比率が大きくなるほど大きな値となるように設定されている。第1係数A1は、1.1以上1.4以下の範囲を選択することができる。
【0085】
図6に破線で示すように、設計断面幅Sの半分と第1係数A
1の積の分、一方側ビード13cおよび他方側ビード13dを、タイヤ赤道線CLから軸方向の外側にそれぞれ配置させると、一方側および他方側ビード13c,13dの軸方向における内側の部分がグリーンタイヤ10の断面幅S1よりも外側に位置するように拡大される。これにより、グリーンタイヤ10は、第1湾曲部G1が延ばされるように変形されて、
図6に二点鎖線で示されているビード拡大前の状態でスプレーガン5側から見たときに隠れてしまうグリーンタイヤ10の第1湾曲部G1を、スプレーガン5側に現すことができるようになっている。
【0086】
第2係数A
2は、グリーンタイヤ10のビード13の軸方向の厚さtに関する係数である。ビード13の厚さtは、
図1に示すように、ビードコア17の中心を通って軸方向に延びる直線L1に沿ったビード13の厚さである。第2係数A
2は、ビード13の厚さtが大きくなるほど大きな値となるように設定されている。第2係数A
2は、30mm以上50mm以下の範囲を選択することができる。
【0087】
図6に実線で示すように、第2係数A
2分さらに、一方側ビード13cおよび他方側ビード13dを、タイヤ赤道線CLから軸方向外側にそれぞれ移動させることで、ビード13の厚さtによってスプレーガンの方向から見たときに隠れてしまうグリーンタイヤ10の内面Gを、スプレーガン5側に現すことができるようになっている。
【0088】
ここで、275/80R22.5の空気入りタイヤを例に挙げて、所定の離間距離bの算出方法を説明する。まず、理論リム幅は、Rth=K1×SN、SN=275、K1=0.75(JIS D4202-1994の表6参照)から、Rth=206.25となる。使用リム幅は、算出した理論リム幅Rthに最も近い規定のリム幅RmをJIS D4202-1994の表7から選択すると、計算上規定のリム幅は8.25となる。しかしながら、275/80R22.5を採用する実際の国内市場では、計算上の規定のリム幅よりもひとつ狭い7.5が使用されることが一般的であるため、ここでは実際の市場で採用されているリム幅を使用リム幅として採用する。使用リム幅の選択については、これに限られるものではなく、計算上の規定のリム幅を選択してもよいし、各国の事情に合わせて実際に市場で使用されている使用リム幅を選択できる。
【0089】
式(3)および、算出されたSN、RmRthから、設計断面幅はS=269となるので、式(1)b=(S×A1)/2+A2とから、所定の離間距離b=188mmとなる。なお、本実施形態では、第1係数A1=1.2、および、第2係数A2=40が選択されている。
【0090】
図6に示すように、スプレーガン5の噴射口5aからビード間拡大状態における一方側ビード13c及び他方側ビード13dまでのそれぞれのタイヤ径方向の距離aは、径方向移動機構8によって、スプレーガン5をテーブル部材62上において、径方向に移動させて調整する。
【0091】
距離aは、スプレーガン5の噴射口5aを通って径方向に延びる直線L2と、噴射口5aと所定の離間距離bに拡大された一方側ビード13cおよび他方側ビード13dとをそれぞれ結んだ直線L3とがなす角が、スプレーガン5の噴射角度θと一致するように設定される。スプレーガン5の軸方向位置は、ビード間拡大状態におけるタイヤ赤道線CLに一致するようにスプレーガン5の位置が調整されるので、直線L2とタイヤ赤道線CLは一致する。
【0092】
より詳しくは、距離aは、スプレーガン5の噴射口5aを通って径方向に延びる直線L2に対する噴射角度θと、所定の離間距離bと、次式(4)に基づいて算出される。
a=b/tanθ・・・・・(4)
a:スプレーガンの噴射口からビードまでのタイヤ径方向の距離
2b:所定の離間距離
θ:スプレーガンの噴射角度
【0093】
次に、本実施形態におけるグリーンタイヤ10の内面塗装方法について説明する。
【0094】
図2に示すように、昇降用エアシリンダ33のピストンロッド33aを下側にストロークさせると共に、一方側チャック機構31のピストンロッド35aを径方向内側にストロークさせ、昇降台32および一方側チャック機構31が下方にあるとき、横倒しの状態で載置台2上にグリーンタイヤ10が載置される。このとき、アーム42は、本体フレーム41の上側に配置されている。載置台2上にグリーンタイヤ10が載置された後に、一方側チャック機構31が径方向内側配置された状態で、
図3に示すように、昇降用エアシリンダ33のピストンロッド33aを上側にストロークさせて、昇降台32および一方側チャック機構31が待機位置に移動される。このとき、一方側チャック機構31の爪34aは、ビード13の内径側かつビード13よりもグリーンタイヤ10のタイヤ赤道線CL側に位置している。言い換えると、一方側チャック機構31は、一方側ビード13cを保持していないチャック解除状態である。
【0095】
図7に示すように、待機状態において、グリーンタイヤ10の内面のインナライナ16の接合部16aが、スプレーガン5の噴射口5aの周方向位置と一致している。本実施形態においては、インナライナ16の接合部16aに対応するグリーンタイヤ10の外面には、バーコード等の目印16bが貼り付けられているが、これに限られるものではなく、インナライナ16の接合部16aをカメラ等の撮像装置で検出してもよい。
【0096】
図3に示すように、一方側チャック機構31のピストンロッド35aを径方向外側にストロークさせて、係止板34を一方側ビード13cに圧接させる。これにより、一方側チャック機構31は、一方側ビード13cを保持したチャック状態となる。
【0097】
その後、他方側チャック機構36のピストンロッド39aを径方向内側にストロークさせた状態で、アーム42を下降させる。このとき、他方側チャック機構36の爪38aは、ビード13の内径側かつビード13よりもグリーンタイヤ10のタイヤ赤道線CL側に位置している。言い換えると、他方側チャック機構36は、他方側ビード13dを保持していないチャック解除状態である。
【0098】
そして、
図4に示すように、他方側チャック機構36のピストンロッド39aを径方向外側にストロークさせて、係止板38を他方側ビード13dに圧接させる。これにより、他方側チャック機構36は、他方側ビード部13dを保持したチャック状態となる。
【0099】
次いで、
図5に示すように、昇降用エアシリンダ33のピストンロッド33aを下側にストロークさせて、一方側ビード13cを爪34aと載置台との間に挟持し、ビード間拡大機構4のアーム42を上昇させて、他方側ビード13dを一方側ビード13cから離間させたビード間拡大状態となる。
【0100】
一方側ビード13cを載置台上に固定した状態で、アーム42を、ビード拡大位置P1まで上昇させて、他方側ビード13dを上昇させて、一方側ビード13cおよび他方側ビード13dと、グリーンタイヤ10のタイヤ赤道線CLとの軸方向の離間距離が、それぞれ所定の離間距離bに広がる。本実施形態では、所定の離間距離bは、グリーンタイヤ10から得られる空気入りタイヤのタイヤサイズ、および、上述の式(1)によって算出する。
【0101】
図5を参照すると、ビード間の拡大過程において、グリーンタイヤ10は、径方向に対向するトレッド間の径方向距離が近づくように変形する。第1湾曲部G1は、径方向内側に向かうに連れて軸方向の中央側に向かって湾曲した状態から、径方向内側に向かうに連れて軸方向の外側に向かって傾斜するように変形する。
【0102】
ビード間拡大状態となった後に、
図6に示すように、スプレーガン5の軸方向位置を調整する。軸方向移動機構7のモータを回転させて、スプレーガン5の上下方向位置を移動させることで、スプレーガン5の噴射口5aの軸方向位置をビード間拡大状態におけるタイヤ赤道線CLに一致させる。
【0103】
次いで、スプレーガン5の径方向位置を調整する。径方向移動機構8のモータを回転させて、スプレーガン5の径方向位置を移動させることで、一方側ビード13cから他方側ビード13dがスプレーガン5の放射範囲内に位置するように調整する。スプレーガン5の径方向位置は、予め定められた噴射角度θおよび所定の離間距離b、および、上述の式(4)から算出される。
【0104】
スプレーガン5の噴射口5aからビードまでのタイヤ径方向の距離aは、スプレーガンの噴射角度θを一定とした場合、離間距離bに比例する。言い換えると、距離aは、設計断面幅Sに比例するので、タイヤサイズが大きくなるほど、距離aは大きく設定される。
【0105】
グリーンタイヤ10とスプレーガン5が所定の位置に配置された後、
図7に示すように、軸部材64がモータ65によって駆動され、回転軸O3を中心に350度回転し、その間にスプレーガン5から離型剤がグリーンタイヤ10の内面に向かって噴射される。ただし、インナライナ16の接合部16aよりも僅かに広い微小角度θ1(例えば、接合部16aを挟んで±5度)の部分を除く全域Aに離型剤が塗布される。
【0106】
グリーンタイヤ10の内面Gに離型剤が塗布された後、
図2の待機状態に戻される。本実施形態では、ビード間拡大機構4が離型剤が塗布された後の前記グリーンタイヤを次の工程へ搬送するための搬送用ローダ9としての機能を有しており、グリーンタイヤ10は、搬送用ローダ9に取り付けられている他方側チャック機構36によって他方側ビード13dがチャックされて、次工程に搬送される。次工程以降の加硫成型等の空気入りタイヤ製造工程を経て、空気入りタイヤが得られる。
【0107】
図8に示すように、インナライナ16の接合部16aが軸方向に対して傾斜している場合は、離型剤がスプレーガン5から傾斜した接合部16aと平行な平面内で扇形状に噴射される。
【0108】
以上の構成より、本発明に係る一実施形態のグリーンタイヤの内面塗装装置、塗装方法および空気入りタイヤは、以下の効果を有する。
【0109】
本発明の一態様のグリーンタイヤ10の内面塗装装置1によれば、ビード13間を拡大することで、ビード13のタイヤ内径側の部分の塗り漏れが抑制されると共に、グリーンタイヤ10の内面G側に、一方側および他方側チャック機構31,36と、ビード間拡大機構4とが配置されていないので、グリーンタイヤ10の内面塗装時の塗り漏れを抑制できる。
【0110】
径方向移動機構8によって、スプレーガン5をタイヤ径方向に移動させることができるので、サイズの異なるグリーンタイヤ10においても、グリーンタイヤ10の内面Gに対する離型剤の塗り漏れを抑制できる。
【0111】
設計断面幅S、設計断面幅Sに対するグリーンタイヤの断面幅S1、および、ビード厚さtに応じて、所定の離間距離bを設定できるので、グリーンタイヤの最大幅位置Z1における断面幅S1よりも軸方向外側にビード13を配置することができる。ビード13を軸方向外側に広げると、グリーンタイヤ10が、第1湾曲部G1の湾曲が延ばされる(曲率が小さくなる)ように変形すると共に、第2湾曲部G2のうち最も軸方向内側の位置Z2よりも径方向外側の部分がグリーンタイヤ10の内面Gで最も軸方向外側に位置されるように変形する。これにより、第1および第2湾曲部G1,G2によってスプレーガン5の方向から見たときに隠れてしまうグリーンタイヤ10の内面Gがスプレーガン5側に現れて、グリーンタイヤ10の内面Gにおけるビード13側の塗り漏れを抑制できる。
【0112】
第1係数A1を、設計断面幅Sに対するグリーンタイヤの断面幅S1応じて適切な値に設定できるので、より効果的にビード13側の塗り漏れを抑制できる。第1係数A1が1.1未満である場合は、所定の離間距離bが不足して、タイヤ内面Gにおけるビード13側に塗り漏れが生じ得る。第1係数A1が1.4を超過すると、不必要にビード13間を広げることになるとともに、スプレーガン5の噴射角度θによっては、タイヤ径方向の移動距離が不足して、タイヤ軸方向外側に位置するビード13周辺に塗り漏れが生じ得る。
【0113】
第2係数A2をビード厚さtに応じて適切な値に設定できるので、より効果的にグリーンタイヤ10の内面Gにおけるビード13側の塗り漏れを抑制できる。第2係数A2が30mm未満の場合、所定の離間距離bが不足して、第2係数A2が50mmを超過すると、不必要にビード13間を広げることになる。
【0114】
グリーンタイヤ10のサイズに応じて、スプレーガン5の噴射口5aから、ビード間拡大機構4によって拡大された状態における一方側ビード13c及び他方側ビード13dまでのそれぞれのタイヤ径方向の距離aを調整することができるので、グリーンタイヤ10の内面Gに塗りもれなく離型剤を塗布することができる。距離aは、所定の離間距離bおよびスプレーガン5の噴射角度θに応じて、スプレーガンの径方向位置が調整される。
【0115】
ビード間拡大機構4は、一方側チャック機構31を固定して、他方側チャック機構36を軸方向に移動させるので、一方側チャック機構31及び他方側チャック機構36をそれぞれ動作させる場合に比べて、ビード間拡大機構4を簡素な構造にすることができる。
【0116】
他方側チャック機構36には、離型剤が塗布された後のグリーンタイヤ10を次の工程へ搬送するための搬送用ローダ9が取り付けられているので、ビード間拡大機構4によってビード13間を広げる際に、他方側ビード13dをチャックするための他方側チャック機構36を、搬送用ローダ9のためのチャック機構として使用できるので、グリーンタイヤ10搬送のためのチャック機構を別途用意する必要がない。
【0117】
本実施形態では、ビード間拡大機構4によってビード13間を拡大した後に、スプレーガン5の径方向位置を調整する構成について説明したが、これに限られるものではなく、スプレーガン5の径方向位置を調整した後に、ビード13間を拡大してもよいし、両工程が同時に行われてもよい。
【0118】
本実施形態では、一方側チャック機構31をロックして、ビード間拡大機構4が他方側チャック機構36を軸方向に移動させる構成について説明したが、これに限られるものではなく、一方側チャック機構31を移動させてもよいし、両チャック機構が互いに離間するように構成されてもよい。
【0119】
本実施形態では、回転機構6によって、スプレーガン5を回転させた状態で、スプレーガン5からグリーンタイヤ10の内面Gに離型剤を噴射する構成について説明したが、これに限られるものではなく、スプレーガン5を固定して、グリーンタイヤ10を回転させてもよい。
【0120】
なお、本発明は、前期実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0121】
1 内面塗装装置
4 ビード間拡大機構
5 スプレーガン
5a 噴射口
6 回転機構
8 径方向移動機構
9 搬送用ローダ
10 グリーンタイヤ
13c 一方側ビード
13d 他方側ビード
31 一方側チャック機構
36 他方側チャック機構
A1 第1係数
A2 第2係数
a 距離
b 所定の離間距離
CL グリーンタイヤの赤道線
G 内面
O3 回転軸