(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090956
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】副室式ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 19/14 20060101AFI20240627BHJP
F02F 3/26 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F02B19/14 A
F02B19/14 C
F02B19/14 B
F02F3/26 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207175
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100087653
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴江 正二
(72)【発明者】
【氏名】末廣 貴一
(72)【発明者】
【氏名】小林 泰
(72)【発明者】
【氏名】天呑 将成
(72)【発明者】
【氏名】高▲崎▼ 慧斗
【テーマコード(参考)】
3G023
【Fターム(参考)】
3G023AA02
3G023AA04
3G023AB05
3G023AC04
3G023AD02
3G023AD14
3G023AD22
3G023AD23
3G023AD27
3G023AD28
3G023AD29
(57)【要約】
【課題】噴孔とリセスとの関係に着目してのさらなる鋭意研究により、燃焼速度を速めるなどによって燃焼状態の改善を図り、燃費やスモークの改善が可能となるように、より改良された副室(IDI)式ディーゼルエンジンを提供する。
【解決手段】主燃焼室5、主燃焼室5から偏心した箇所に設けられる副室6とが噴孔9を介して連通され、ピストン8の天井壁8Aにおける前記噴孔9から主燃焼室5へ噴出される燃焼流が吹き付けられる箇所に受止めリセスRが形成され、受止めリセスRの燃焼流の流れ方向Qで最上流側となるリセス始端20Aの位置は、噴孔9の主燃焼室側開口における燃焼流の流れ方向Qで最上流側となる噴孔出口始端9aの位置よりも、燃焼流の流れ方向Qで上流側に寄せられており、副室6における燃焼流の流れ方向Qで上流側となる前置箇所dが、副室6の容積が大きくなる側に凹まされている副室式ディーゼルエンジン。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主燃焼室と、前記主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、ピストンの天井壁における前記噴孔から前記主燃焼室へ噴出される燃焼流が吹き付けられる箇所に受止めリセスが形成され、
前記受止めリセスの前記燃焼流の流れ方向で最上流側となるリセス始端の位置は、前記噴孔の主燃焼室側開口における前記燃焼流の流れ方向で最上流側となる噴孔出口始端の位置よりも、前記燃焼流の流れ方向で上流側に寄せられており、
前記副室における前記燃焼流の流れ方向で上流側となる前置箇所が、前記副室の容積が大きくなる側に凹まされている副室式ディーゼルエンジン。
【請求項2】
前記前置箇所は、前記副室における主燃焼室側に寄った箇所に設けられている請求項1に記載の副室式ディーゼルエンジン。
【請求項3】
主燃焼室と、前記主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、ピストンの天井壁における前記噴孔から前記主燃焼室へ噴出される燃焼流が吹き付けられる箇所に受止めリセスが形成され、
前記受止めリセスの前記燃焼流の流れ方向で最上流側となるリセス始端の位置は、前記噴孔の主燃焼室側開口における前記燃焼流の流れ方向で最上流側となる噴孔出口始端の位置よりも、前記燃焼流の流れ方向で上流側に寄せられるとともに、
前記受止めリセスの前記噴孔に対応した噴孔対応箇所の深さが、前記受止めリセスにおける前記噴孔対応箇所以外の箇所より深められている副室式ディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記噴孔対応箇所は、前記燃焼流の流れ方向に沿って上下に切った断面視で球面状又は円弧状に凹まされている請求項3に記載の副室式ディーゼルエンジン。
【請求項5】
前記リセス始端の位置は前記噴孔出口始端の位置よりも、前記噴孔の前記燃焼流の流れ方向の長さの10~20%の長さ分寄せられている請求項1~4の何れか一項に記載の副室式ディーゼルエンジン。
【請求項6】
前記噴孔は、前記副室から前記主燃焼室の中央部に向かう傾斜孔に形成されている請求項1~4の何れか一項に記載の副室式ディーゼルエンジン。
【請求項7】
前記噴孔は、主噴孔と、前記主噴孔の両脇に配置される一対の副噴孔とが連なる複葉形状の孔に形成されている請求項6に記載の副室式ディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主燃焼室に噴孔を介して連なる副室が設けられた構造のディーゼルエンジン、即ち、副室式ディーゼルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主燃焼室(主室)の他に副燃焼室(副室)を設けた副室(IDI:Indirect Injection)式ディーゼルエンジンは、副室内に燃料を噴射して着火させ、副室の燃焼ガスが噴孔(絞り)を通じて主室内に噴出して燃焼が完了する、というものである。直噴(DI:Direct Injection)式ディーゼルエンジンは、「燃焼室表面積が大きくて絞り損失と熱損失が大きい」というIDIの弱点をカバーできる良さがあり、近年では多用されてきている。
【0003】
副室(IDI)式は、限られた副室内で燃料を噴射するので、火炎の流速を高くできて低圧の噴射弁でも確実に着火できる良さがある。また、副室内は空気量が少なく燃焼圧と燃焼温度が低いため、直噴(DI)式に比べて、ディーゼルノックが発生しづらく、NOx生成量が少ないという利点もある。従って、副室式は比較的低速型のエンジンに適したシステムであることから、農機や建機、発電機、或いは後進国向けの各種産業機器などにおいては、依然として重要な動力源である。
【0004】
副室式ディーゼルエンジンにおいては、実質的に燃焼室となる副室での渦流を強めることや、副室から主燃焼室への火炎伝播速度を速めることが重要なポイントであると考えられる。特許文献1では、渦流を弱めることなく始動性の改善が可能となる技術が開示され、特許文献2は、ピストンの天井壁に設けられるリセスの構造工夫により、燃焼効率を向上させる技術を開示している。
【0005】
しかしながら、技術の進歩や環境的要因から、副室式においても、さらなる燃費向上やスモークの改善が求められてきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-180744号公報
【特許文献2】特開平7-279671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、噴孔とリセスとの関係に着目してのさらなる鋭意研究により、燃焼速度を速めるなどによって燃焼状態の改善を図り、燃費やスモークの改善が可能となるように、より改良された副室(IDI)式ディーゼルエンジンを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、副室式ディーゼルエンジンにおいて
主燃焼室と、前記主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、ピストンの天井壁における前記噴孔から前記主燃焼室へ噴出される燃焼流が吹き付けられる箇所に受止めリセスが形成され、
前記受止めリセスの前記燃焼流の流れ方向で最上流側となるリセス始端の位置は、前記噴孔の主燃焼室側開口における前記燃焼流の流れ方向で最上流側となる噴孔出口始端の位置よりも、前記燃焼流の流れ方向で上流側に寄せられており、
前記副室における前記燃焼流の流れ方向で上流側となる前置箇所が、前記副室の容積が大きくなる側に凹まされていることを特徴とする。
【0009】
第2の本発明は、副室式ディーゼルエンジンにおいて、
主燃焼室と、前記主燃焼室から偏心した箇所に設けられる副室とが噴孔を介して連通され、ピストンの天井壁における前記噴孔から前記主燃焼室へ噴出される燃焼流が吹き付けられる箇所に受止めリセスが形成され、
前記受止めリセスの前記燃焼流の流れ方向で最上流側となるリセス始端の位置は、前記噴孔の主燃焼室側開口における前記燃焼流の流れ方向で最上流側となる噴孔出口始端の位置よりも、前記燃焼流の流れ方向で上流側に寄せられるとともに、
前記受止めリセスの前記噴孔に対応した噴孔対応箇所の深さが、前記受止めリセスにおける前記噴孔対応箇所以外の箇所より深められていることを特徴とする。
【0010】
本発明に関して、上述した構成(手段)以外の特徴構成や手段ついては、特許請求の範囲における請求項2や請求項4~7を参照のこと。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リセス始端の位置を、燃焼流の流れ方向で噴孔出口始端の位置より上流側に寄せられてオフセットされているから、噴孔より主燃焼室に噴き出る燃焼流(燃焼ガス)がピストン(の天井壁)に当たってしまうおそれなく円滑にリセス始端部に流れるようになる。
【0012】
そして、記副室における前記燃焼流の流れ方向で上流側となる前置箇所が、前記副室の容積が大きくなる側に凹まされているので、次のような作用効果が得られる。即ち、圧縮行程における8の上昇移動に伴う圧縮空気の主燃焼室から噴孔を介しての副室への入り込み時に、外方に膨らむ前置箇所の下端部(主燃焼室側の端部)のエッジ箇所(角部)により、前置箇所に通常の圧縮空気の流れによる正規渦とは別の向きの新たな渦、即ち逆渦が形成されるようになる。
【0013】
その結果、正規渦と逆渦との相乗作用によって副室内での燃焼がより促進されるようになり、リセス始端のオフセット構造と相まって、高温な燃焼ガスを素早く主燃焼室へ促せて、スモーク低減、燃費向上の各種効果を得ることが可能な副室式ディーゼルエンジンを提供することができる。
【0014】
第2の本発明によれば、リセス始端の位置を、燃焼流の流れ方向で噴孔出口始端の位置より上流側に寄せられてオフセットされているから、噴孔より主燃焼室に噴き出る燃焼流(燃焼ガス)がピストン(の天井壁)に当たってしまうおそれなく円滑にリセス始端部に流れるようになる。
【0015】
また、噴孔対応箇所の深さが受止めリセスにおけるその他の箇所の深さよりも深く形成されているので、圧縮行程におけるピストンの上昇移動に伴う圧縮空気の主燃焼室から噴孔を介しての副室への入り込みの流れが、円滑で効率良く促進されるようになる。
【0016】
その結果、噴孔対応箇所の深さをより深める構成と、リセス始端のオフセット構造との相乗により、高温な燃焼ガスを素早く主燃焼室へ促せて、スモーク低減、燃費向上の各種効果を得ることが可能な副室式ディーゼルエンジンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】副室式ディーゼルエンジンの燃焼室部位を示す要部の縦断面図
【
図2】(A)
図1の噴孔周辺を示す拡大断面図、(B)ピストン(天井壁)と口金(噴孔)との関係を示す展開図
【
図3】別構造による受止めリセスを含む噴孔付近の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明による副室式ディーゼルエンジンの実施の形態を、農用トラクタなどに適用される産業用のディーゼルエンジンの場合について、図面を参照しながら説明する。
図1は、インジェクタとグロープラグを含むようにシリンダヘッドを、その長手方向(気筒直列方向)に対して約25度傾いた線(面)で切った断面図に相当する。
【0019】
図1に、副室式ディーゼルエンジンの一例である過流式の産業用ディーゼルエンジンの副室周辺部の断面図が示されている。1はシリンダブロック、2はシリンダヘッド、3はインジェクタ、4はグロープラグ、5は主燃焼室(主室)、6は副室(副燃焼室)、7は副室形成用の口金、8はピストン、8Pはピストン中心、9は口金7に形成された噴孔、10はウォータジャケット(シリンダヘッド2の冷却水通路)である。
【0020】
シリンダブロック1は、シリンダ(シリンダボア)1Bを形成するシリンダバレル(シリンダ壁)1Aを有し、シリンダ1Bにはピストン8が内嵌されている。シリンダブロック1の上面(符記省略)とシリンダヘッド2の底面2aとの間にはガスケット11が挟まれ(介装され)ている。なお、ピストン8の圧縮上死点(ほぼ
図1に示される状態)においては、主燃焼室5の容積は0(ゼロ)に近付き、実質的に副室6が燃焼室になる。
【0021】
シリンダヘッド2にはインジェクタ3が装備され、インジェクタ3の先端噴射部3aが副室6の上部に臨むように配置されている。副室6は、シリンダ1B内に形成される主燃焼室5に、その主燃焼室5の偏心箇所に設けられる噴孔9を介して連通されている。なお、
図2(A)においては、ガスケット11(
図1参照)の図示は省略してある。
【0022】
図1、
図2(A)に示されるように、噴孔9は、副室6の壁面(内周面)wの略接線方向で、かつ、主燃焼室5の中央部(ピストン軸心8P)に向かい、シリンダヘッド底面2a(この実施例では水平線)に対して傾斜角θで傾いた孔心9Pを有する傾斜孔に形成されている。インジェクタ3は、先端噴射部3aからの噴射燃料が噴孔9に向かうように傾斜配置されている。
【0023】
シリンダヘッド2におけるピストン8の軸心8Pからシリンダ周壁側に偏心した位置に、シリンダ1Bに開口する状態の副室形成穴2Aが形成され、副室形成穴2Aには副室形成用の口金(チャンバー)7が収容されている。副室形成穴2Aは、シリンダヘッド2の主燃焼室5に臨むシリンダヘッド底面2aから上に向けて順に、大径の開口部12と、小径の胴部収容部13と、胴部収容部13よりも奥に位置する空洞部14とを有して構成されている。
【0024】
開口部12には、カップ状に形成された口金7の底部7Aが収容されている。胴部収容部13は、口金7の胴部7Bが収容される箇所であって開口部12よりも小径である。空洞部14は半球よりも少し大きい略半球形に凹んだ箇所に形成され、胴部収容部13とは段付き面(符記省略)で繋がる構成とされている。副室6は、その上下方向に延びる中心線(図示省略)が、ピストン8の外周端より若干ピストン軸心8Pに寄るように、シリンダ1Bに対して配置されている。
【0025】
図1、
図2(A)に示されるように、口金7は、円柱状の胴部7Bと底部7Aとを含んだ段付円柱状の金具で形成されている。底部7Aは胴部7Bの一端側を胴部7Bの外径よりも大径で周方向に張り出たフランジ状の部位であって平らな底面7aを有して形成されている。胴部7Bの他端側には、胴部7Bの上端面から半球よりも少し小さい略半球形の副室形成用凹部7Cが形成されている。
【0026】
球形(卵球形、まゆ形)の副室6は、空洞部14と副室形成用凹部7Cとで構成され、噴孔9は、副室形成用凹部7Cと主燃焼室5とを連通させる部位として底部7Aから胴部7Bにかけて形成されている。つまり、シリンダヘッド2における主燃焼室5に隣り合う状態で副室形成穴2Aに嵌着される口金7には、副室6を形成するための副室形成用凹部7Cが形成される胴部7Bと、噴孔9とが形成されている。
【0027】
図1~
図2(A),(B)に示されるように、噴孔9は、主噴孔9Aと、主噴孔9Aの両脇に配置される一対の副噴孔9B,9Bとが連なる三つ葉形状(複葉形状の一例)の孔に形成されている。つまり、滑らかに3つに分割された先端部を持ち、かつ、基端が丸められた扇形を呈する噴孔9に形成されている(噴孔9の三つ葉形状は、ハート形の膨らみ先端側の中央にもう1つ外に向けての膨らみを設けて、計3つの膨らみあるような形状を呈している)。また、燃焼流の流れ方向で噴孔9の上流側に若干離れて左右それぞれに配置される一対の補助噴孔15,15を設けてもよい。
【0028】
図2(B)は、平面視によるピストン8と底面視による口金7とを、燃焼流の流れ方向Q(孔心9P方向)で隣り合わせて描いたものであり、噴孔軸心である孔心9Pの左右に関しては、ピストン8と口金7とは互いに対応する位置関係にある。例えば、補助噴孔15は、ピストン軸心8Pに沿う小円径の垂直孔に形成されており、一対の補助噴孔15,15どうしは、孔心9Pに対して対称となる位置関係にある。なお、噴孔9から方向を変えられて主燃焼室5へと流れる燃焼流の流れ方向Q〔
図2(A)を参照〕は、平面視では孔心9P方向と互いに同じ方向〔
図2(B)を参照〕を向いている。
【0029】
図2(B)に示されるように、口金7の底面7aに開口する噴孔9は、孔心9Pに沿う方向である燃焼流の流れ方向Qの長さである前後長さ(全長)bよりも燃焼流の流れ方向Qに対する左右方向の長さである左右長さ(横幅)aが大きい(a>b)横長形状に形成されている。つまり、主噴孔9Aと一対の副噴孔9B,9Bとの並び方向の長さ(左右長さa)が、噴孔9の(主噴孔9Aの)全長(孔心9P方向長さ:前後長さb)よりも長い噴孔9に設定されている。
【0030】
図1及び
図2(A)に示されるように、ピストン8の天井壁8Aにおける噴孔9から主燃焼室5へ噴出される燃焼流が吹き付けられる箇所に受止めリセスRが形成されるとともに、吸気弁リセス16及び排気弁リセス17が形成されている。
図1において、18は吸気バルブ(図示省略)の軸部を通す軸孔、18Aはバルブ座、19はシール材である。また、噴孔9の傾斜角θは、
図1,2では45度に描かれているが、それ以外の角度や、或いは40~50度などの範囲であってもよい。
【0031】
図2(A)、(B)に示されるように、受止めリセスRは、その平面視(ピストン軸心8Pの方向視)の形状が、燃焼流の流れ方向Qで下流側ほど横幅が大きくなる先拡がり形状に形成されている。詳しくは、噴孔9に対応した位置を始端として燃焼流の流れ方向Qで下流側ほど横幅が大きくなる扇形に設定されている。なお、受止めリセスRの形状は、台形や長方形など、扇形以外の形状でも良い。
【0032】
平面視で扇形を呈する受止めリセスRは、小幅の始端縁(始端)20Aと、円弧状の外周縁22と、一側(左側)縁24、及び他側(右側)縁25を有している。一側縁24の先端側の大部分は、深さ関係によって排気弁リセス17に吸収されており、他側縁25の先端側及び外周縁22の他側縁25側部分は、深さ関係によって吸気弁リセス16に吸収されている〔
図2(B)参照〕が、これには限らない。
【0033】
図2(B)に示されるように、噴孔9の縦横寸法比は、噴孔9の左右長さaと前後長さbとの長さ割合の範囲は、1.3b≦a≦1.6bであり、好ましくは1.4b≦a≦1.5bに設定される(a=約1.46bで図示されている)。また、一対の補助噴孔15,15に対応するように、ごく浅い補助リセス21を、天井壁8Aにおけるリセス始端部20の位置(燃焼流の流れ方向Qで最上流端の位置)付近を中心とする円弧状のものとして設けてもよい。
【0034】
図1、
図2(A)に示されるように、受止めリセスRは、その燃焼流の流れ方向Qで上流側の部分であるリセス始端部20の深さが最も深く、燃焼流の流れ方向Qで下流側に行くに従って深さが浅くなるように、滑らかな湾曲底面又は直線底面(符記省略)を有する不均一深さのリセスに形成されている。そして、受止めリセスRの燃焼流の流れ方向Qで最上流側となるリセス始端20Aの位置は、噴孔9の主燃焼室側開口(符記省略)における燃焼流の流れ方向Qで最上流側となる噴孔出口始端9aの位置よりも、燃焼流の流れ方向Qで上流側に寄せられている。
【0035】
つまり、
図2(A)に示されるように、燃焼流の流れ方向Qでのリセス始端20Aの位置は、噴孔出口始端9aの位置よりも長さ(距離)eでオフセットされている(
図3も参照〕。そのオフセット量eは、噴孔9の燃焼流の流れ方向の長さbの10~20%の長さ分であれば(0.1b≦e≦0.2b)好都合であるが、それには限らない。
【0036】
図2(A)に示されるように、副室6における燃焼流の流れ方向Qで噴孔9より上流側となる前置箇所dが、副室6の容積が大きくなる側に凹まされている。具体的には、前置箇所dは、室6における主燃焼室側に寄った箇所である下半部、即ち、副室6が外方に膨出するように口金7の副室形成用凹部7Cを凹まし形成することで設けられている。前置箇所dは、図示のように比較的先が尖った湾曲状の凹みや、球面状(図示省略)に凹ますなど、その形状は任意である。
【0037】
口金7の底面7aにおける噴孔9の開始位置よりも受止めリセスRの開始位置を若干量(長さe)でオフセットしてあるから(リセス始端20Aの位置を、燃焼流の流れ方向Qで噴孔出口始端9aの位置より上流側に寄せてあるから)、噴孔9より主燃焼室5に噴き出る燃焼流(燃焼ガス)がピストン天井壁8Aに当たってしまうおそれなく円滑にリセス始端部20に流れるようになる。
【0038】
そして、噴孔9の燃焼流の流れ方向Qで上流側の副室形成用凹部7Cを外方に膨出させてなる前置箇所dを設けてあるので、次のような作用効果が得られる。即ち、圧縮行程におけるピストン8の上昇移動に伴う圧縮空気の主燃焼室5から噴孔9を介しての副室6への入り込み時に、
図2(A)に示されるように、前置箇所dの下端部と噴孔9とによるエッジ箇所(角部)で副室6内に、つまりは前置箇所d内に、通常の圧縮空気の流れによる正規渦Uとは別の新たな渦、即ち逆渦uが形成されるようになる。逆渦uの回転方向は正規渦Uの回転方向とは逆向きになる。
【0039】
その結果、圧縮工程での主燃焼室5から副室6に流れ込む圧縮空気流による正規渦Uと逆渦u〔
図2(A)を参照〕との相乗作用によって副室6内での燃焼がより促進されるようになり、前述の「リセス始端20Aのオフセット構造」と相まって、高温な燃焼ガスを素早く主燃焼室5へ促せて、スモーク低減、燃費向上の各種効果を奏することができる副室式ディーゼルエンジンが実現されている。
【0040】
〔別実施形態〕
図3に示されるように、受止めリセスRの噴孔9に対応した噴孔対応箇所fの深さhが、受止めリセスRにおける噴孔対応箇所f以外の箇所tの深さsより深められている構成(h>s)を持つ副室式ディーゼルエンジンでもよい。噴孔対応箇所fは、燃焼流の流れ方向Qに沿って上下に切った断面視で球面状又は円弧状に、或いはすり鉢状で滑らかに凹まされている。「その他の箇所t」とは、受止めリセスRにおける噴孔対応箇所f以外の箇所のことである。また、リセス始端部20と噴孔対応箇所fとはイコールでも異なっていてもよい。
【0041】
受止めリセスRは、
図3に示されるように、噴孔対応箇所fの深さhが、その他の箇所tの深さsよりも深く形成されている。例えば、噴孔対応箇所fの深さhを、その他の箇所tの深さsの2倍以上(h≧2s)に設定すれば好都合である。また、受止めリセスRは(その底面は)、その他の箇所tと噴孔対応箇所fとは燃焼流の流れ方向Qでに円滑に連続されている。
【0042】
図3は、受止めリセスの深さを一様なものとして描いてあるが、一様でない深さの場合(
図1の受止めリセスRを参照)は、その最大深さの2倍以上の深さを噴孔対応箇所fのhとして適用すれば好都合である。なお、
図3に示す構成においても、
図2(A)に示す場合と同様に、口金7の底面7aにおける噴孔9の開始位置よりも受止めリセスRの開始位置が若干量(長さe)でオフセットされている。
【0043】
別実施形態による副室式ディーゼルエンジンでは、噴孔対応箇所fの深さhがその他の箇所tの深さsよりも深く形成されているので、圧縮行程におけるピストン8の上昇移動に伴う圧縮空気の主燃焼室5から噴孔9を介しての副室6への入り込みの流れが、円滑で効率良く促進されるようになる。従って、前述の「リセス始端20Aのオフセット構造」と相まって、高温な燃焼ガスを素早く主燃焼室5へ促せて、スモーク低減、燃費向上の各種効果を奏することができる。
【0044】
〔別実施例〕
リセス始端20Aの位置を、燃焼流の流れ方向Qで噴孔出口始端9aの位置より上流側に寄せるオフセット量eは、噴孔9の燃焼流の流れ方向の長さbの10%未満(0<e<0.1b)或いは20%超え(0.2b<e<g:g=天井壁8Aの外周端と9aとの間隔)でも可能である。また、リセス始端20Aが、噴孔出口始端9aから補助噴孔15までの距離x(図示省略)の範囲(0.1b≦e≦x)でもよい。距離xは補助噴孔15の中心までや、遠近側の孔外周縁などが考えられる。
【0045】
前置箇所dの副室形成用凹部7Cからの凹み量(長さ)や凹み面積は、種々の変更設定が可能である。噴孔9の形状は、縦長形状や、二つ葉形状など、三つ葉や横長形状以外でもよい。
【符号の説明】
【0046】
5 主燃焼室
6 副室
8 ピストン
8A 天井壁
9 噴孔
9A 主噴孔
9B 副噴孔
9a 噴孔出口始端
20A リセス始端
Q 燃焼流の流れ方向
R 受止めリセス
d 前置箇所
f 噴孔対応箇所
h 深さ(噴孔対応箇所)
s 深さ(その他の箇所)
t その他の箇所