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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090957
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】黒鉛材料及び黒鉛材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/205 20170101AFI20240627BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20240627BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C01B32/205
H01B1/04
H01B13/00 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207177
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】干川 康人
【テーマコード(参考)】
4G146
5G301
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA02
4G146AB02
4G146AB04
4G146AB07
4G146AC02A
4G146AC02B
4G146AC03A
4G146AC03B
4G146AC11A
4G146AC11B
4G146AC17A
4G146AC17B
4G146AC30A
4G146AD22
4G146BA12
4G146BA15
4G146BA43
4G146BA48
4G146BC03
4G146BC04
4G146BC23
4G146BC33B
4G146BC34A
4G146BC34B
4G146BC37B
4G146CB19
4G146CB24
4G146CB32
4G146CB34
4G146CB40
5G301BA02
(57)【要約】
【課題】黒鉛シート(黒鉛膜)からなる中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料であって、高い導電性を有する黒鉛材料及びその製造方法を提供することを提供すること。
【解決手段】複数の黒鉛膜の積層体からなり、厚み2.0~6.8nmである外殻層と、該外殻層の内側に形成されている中空部と、を有する中空黒鉛ナノ粒子を含み、X線回折スペクトルにおいて、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であり、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が1.3~4.9°であること、を特徴とする黒鉛材料。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の黒鉛膜の積層体からなり、厚み2.0~6.8nmである外殻層と、該外殻層の内側に形成されている中空部と、を有する中空黒鉛ナノ粒子を含み、
X線回折スペクトルにおいて、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であり、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が1.3~4.9°であること、
を特徴とする黒鉛材料。
【請求項2】
前記中空黒鉛ナノ粒子の前記外殻層が6~20層の前記黒鉛膜からなることを特徴とする請求項1記載の黒鉛材料。
【請求項3】
透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の円形度が0.60~0.92であり、前記中空部の最大内径が15~200nmであること特徴とする請求項1記載の黒鉛材料。
【請求項4】
透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の前記外殻層の厚みに対する前記中空黒鉛ナノ粒子の前記中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)が6~30であること特徴とする請求項3記載の黒鉛材料。
【請求項5】
透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が19~210nmであること特徴とする請求項4記載の黒鉛材料。
【請求項6】
透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が42nm以上であり、前記中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が3.0以上であること特徴とする請求項1記載の黒鉛材料。
【請求項7】
透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の前記外殻層の厚みに対する前記中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)が6~45であること特徴とする請求項6記載の黒鉛材料。
【請求項8】
タングステン酸化物粉末を窒素含有有機物と共に加熱することにより、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る炭化物合成工程と、
該炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物中の炭化タングステンを溶解させることにより、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得る炭化タングステン溶解工程と、
該中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を1000℃以上で加熱することにより、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得る熱処理工程と、
を有することを特徴とする黒鉛材料の製造方法。
【請求項9】
前記タングステン酸化物粉末が、透過型電子顕微鏡観察におけるアスペクト比が3.0以上であり、最長外径が0.1~10μmであるタングステン酸粉末であること特徴とする請求項8記載の黒鉛材料の製造方法。
【請求項10】
前記炭化タングステン溶解工程において溶解させた炭化タングステンを乾燥及び酸化させることにより、タングステン酸化物粉末を得る再生工程を有し、
該再生工程を行い得られるタングステン酸化物粉末を、前記炭化物合成工程で用いることを特徴とする請求項8記載の黒鉛材料の製造方法。
【請求項11】
炭化タングステンナノ粒子粉末を炭素源と共に加熱し、該炭化タングステンナノ粒子の表面に炭素層を析出させることにより、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る被覆工程と、
該炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物中の炭化タングステンを溶解させることにより、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得る炭化タングステン溶解工程と、
該中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を1000℃以上で加熱することにより、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得る熱処理工程と、
を有することを特徴とする黒鉛材料の製造方法。
【請求項12】
透過型電子顕微鏡観察において、前記炭化タングステンナノ粒子粉末の平均粒子径が15~200nmであることを特徴とする請求項11記載の黒鉛材料の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛材料、特に導電助剤として用いられる黒鉛材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートグリッド社会の実現や電気自動車の高効率化が希求され、電池に対してもさらなる特性改善が求められている。そうした要求に対応すべく、高エネルギー密度で小型・軽量化が可能なリチウムイオン電池を始め、従来より様々なタイプの電池が検討され、実用化されてきた。それら電池のさらなる特性改善のために、各種電池における活物質や導電助剤等について、様々な検討がなされている。
【0003】
電池材料の一つとして、従来より炭素材料が活用されてきた。炭素は導電性が高く、耐薬品性に優れ、副反応も生じないため、一次電池、二次電池(蓄電池)、燃料電池等の化学電池では特に多用されており、活物質、導電助剤(導電補助材)、吸着剤等の様々な役目を果たしている。中でもグラフェンは、熱伝導度、電気伝導度、機械的(引っ張り)強度に優れており、エレクトロニクス、エネルギー材料など様々な分野で期待されている炭素材料である。
【0004】
グラフェンを含む多孔質炭素材料の製造方法として、鋳型粒子の表面に炭素を被覆させた後、鋳型粒子を除去し、炭素材料を高温で焼成することによる製造方法が知られている。例えば、特許文献1では、鋳型としてアルミナナノ粒子を用いて、CVD法により鋳型粒子の表面に炭素を被覆させた後、鋳型を除去することによって、数層のグラフェンシートを基本骨格とした多孔質炭素材料が得られることが開示されている。このような多孔質炭素材料は柔軟性を有していることから、導電助剤などに適用した場合、充放電に伴う電極の膨張収縮をナノオーダーで吸収することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-164889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、グラフェンの導電性を向上させる上では個々のグラフェンシート間の電子移動抵抗を抑制する必要があるため、グラフェンシートの面積は大きいことが好ましい。特許文献1に記載のような多孔質炭素材料においては、グラフェンシートの面積を広げるためには鋳型を大きくしなければならないが、鋳型を大きくすると、引用文献1に記載のものでは強度が保てなくなり、構造が潰れ易くなるという課題があった。
【0007】
そのため、引用文献1には、個々の炭素材料の粒径が大きくできないため、導電助剤に用いたときに、導電パスを形成する粒子数が増えてしまい、その結果、接触抵抗が大きくなってしまい、導電性が低くなってしまうという問題があった。
【0008】
また、特許文献1に記載の多孔質炭素材料の製造方法においては、鋳型除去の際に、フッ酸による処理又はアルカリでのオートクレーブ処理が必要である。とりわけ、フッ酸は、極めて強い腐食性を有することから、従来方法により工業的な製造の実施を実現するのは困難である。更に、鋳型に適したアルミナナノ粒子は高価であり、除去後の再利用も困難であることから、コスト面においても不利である。
【0009】
そこで、本発明は、黒鉛シート(黒鉛膜)からなる中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料であって、高い導電性を有する黒鉛材料及びその製造方法を提供することにある。また、本発明は、該黒鉛材料を安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、(A)タングステン酸化物を出発物質として窒素源による還元によって窒化タングステンへと還元した後、炭素源による炭化タングステンを合成することにより、生成する炭化タングステンナノ粒子の周りには、タングステンの触媒能に由来する結晶性の高い黒鉛膜の積層体からなる層が形成され、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子が得られ、更に、これを過酸化水素水などに浸漬すると炭化タングステンが溶解し、中空構造を有する中空炭素ナノ粒子が形成されること、(B)この中空炭素ナノ粒子を1000℃以上の温度で熱処理することによって、複数の黒鉛膜の積層体からなる外殻層と、該外殻層の内側に形成されている中空部と、を有する中空黒鉛ナノ粒子であって、導電性を高くすることができる構成を有する中空黒鉛ナノ粒子が得られることを見出した。
【0011】
上記工程で得られた中空黒鉛ナノ粒子の基本骨格は6~20層の黒鉛膜の積層体である。本発明者は、従来技術に対して黒鉛膜の層数を適切な数に制御することによって、構造の強度を向上させ、鋳型の大型化にも対応可能な中空黒鉛ナノ粒子を形成することに成功した。鋳型を大型化することにより、黒鉛膜の面積を大きくすることができるため、個々の黒鉛膜間の電子移動抵抗を抑制し、導電性を向上させることができる。また、上記工程で得られた中空黒鉛ナノ粒子は、黒鉛膜の層数が適切に制御されているため、柔軟性を有していることから、導電助剤などに適用した場合、充放電に伴う電極の膨張収縮をナノオーダーで吸収することが可能である。
【0012】
更に、溶解した炭化タングステンを噴霧熱分解法などによって乾燥及び酸化させることで、タングステン酸化物が得られ、このタングステン酸化物は再び炭素被覆炭化タングステンナノ粒子の製造に利用することができる。このように原料を再利用することにより、製造コストを低く抑えることが可能になる。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)複数の黒鉛膜の積層体からなり、厚み2.0~6.8nmである外殻層と、該外殻層の内側に形成されている中空部と、を有する中空黒鉛ナノ粒子を含み、
X線回折スペクトルにおいて、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であり、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が1.3~4.9°であること、
を特徴とする黒鉛材料。
(2)前記中空黒鉛ナノ粒子の前記外殻層が6~20層の前記黒鉛膜からなることを特徴とする(1)の黒鉛材料。
(3)透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の円形度が0.60~0.92であり、前記中空部の最大内径が15~200nmであること特徴とする(1)記載の黒鉛材料。
(4)透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の前記外殻層の厚みに対する前記中空黒鉛ナノ粒子の前記中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)が6~30であること特徴とする(3)の黒鉛材料。
(5)透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が19~210nmであること特徴とする(4)の黒鉛材料。
(6)透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が42nm以上であり、前記中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が3.0以上であること特徴とする(1)の黒鉛材料。
(7)透過型電子顕微鏡観察において、前記中空黒鉛ナノ粒子の前記外殻層の厚みに対する前記中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)が6~45であること特徴とする(6)の黒鉛材料。
(8)タングステン酸化物粉末を窒素含有有機物と共に加熱することにより、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る炭化物合成工程と、
該炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物中の炭化タングステンを溶解させることにより、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得る炭化タングステン溶解工程と、
該中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を1000℃以上で加熱することにより、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得る熱処理工程と、
を有することを特徴とする黒鉛材料の製造方法。
(9)前記タングステン酸化物粉末が、透過型電子顕微鏡観察におけるアスペクト比が3.0以上であり、最長外径が0.1~10μmであるタングステン酸粉末であること特徴とする(8)の黒鉛材料の製造方法。
(10)前記炭化タングステン溶解工程において溶解させた炭化タングステンを乾燥及び酸化させることにより、タングステン酸化物粉末を得る再生工程を有し、
該再生工程を行い得られるタングステン酸化物粉末を、前記炭化物合成工程で用いることを特徴とする(8)の黒鉛材料の製造方法。
(11)炭化タングステンナノ粒子粉末を炭素源と共に加熱し、該炭化タングステンナノ粒子の表面に炭素層を析出させることにより、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る被覆工程と、
該炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物中の炭化タングステンを溶解させることにより、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得る炭化タングステン溶解工程と、
該中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を1000℃以上で加熱することにより、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得る熱処理工程と、
を有することを特徴とする黒鉛材料の製造方法。
(12)透過型電子顕微鏡観察において、前記炭化タングステンナノ粒子粉末の平均粒子径が10~200nmであることを特徴とする(11)の黒鉛材料の製造方法。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、黒鉛シート(黒鉛膜)からなる中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料であって、高い導電性を有する黒鉛材料及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、該黒鉛材料を安価に製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第一の形態の中空黒鉛ナノ粒子の形態例の模式的な端面図である。
図2】本発明の第二の形態の中空黒鉛ナノ粒子の形態例の模式的な端面図である。
図3】炭化タングステン溶解工程を行い得られる中空炭素ナノ粒子の模式図である。
図4】実施例1の炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物の透過型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例1で用いた原料のタングステン酸の透過型電子顕微鏡写真である。
図6】実施例2の炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物の透過型電子顕微鏡写真である。
図7】実施例3の炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物の透過型電子顕微鏡写真である。
図8】実施例4の炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、適宜図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の本発明の詳細な説明は実施形態の例示のひとつであり、本発明は本実施形態に何ら限定して解釈されるものではない。
【0017】
本発明の黒鉛材料は、
複数の黒鉛膜の積層体からなり、厚みが2.0~6.8nmである外殻層と、該外殻層の内側に形成されている中空部と、を有する中空黒鉛ナノ粒子を含み、
X線回折スペクトルにおいて、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であり、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が1.3~4.9°であること、
を特徴とする。
【0018】
本発明の黒鉛材料は、炭素を主成分とする材料である。そして、本発明の黒鉛材料は、複数の黒鉛膜の積層体からなる外殻層と、該外殻層の内側に形成されている中空部と、を有する中空黒鉛ナノ粒子を含む。中空黒鉛ナノ粒子は、鋳型である炭化タングステンナノ粒子の形態を反映した空孔を有する中空構造を有しており、好ましくはメソ孔を有する。なお、国際純正及び応用化学連合(IUPAC)では、直径2nm以下の細孔をミクロ孔、直径2~50nmの細孔をメソ孔、直径50nm以上の細孔をマクロ孔と定義している。メソ孔を有する材料を総称してメソポーラス材料と称している。
【0019】
本発明の黒鉛材料は、炭素を主成分とする。ここで、「炭素を主成分とする」とは、炭素のみからなる、実質的に炭素からなる、の双方を含む概念であり、炭素以外の元素が含まれていてもよい。「実質的に炭素からなる」とは、全体の80~100質量%、好ましくは全体の95~100質量%、より好ましくは全体の98~100質量%が炭素から構成されることを意味する。
【0020】
粉末X線回折ピークの線幅から結晶子の大きさを知る方法として、下記のシェラーの式が知られている。
L=Kλ/βcоsθ
式中、Lは結晶子の大きさであり、Kは形状因子(定数)であり、λはX線の波長であり、βは半値幅であり、θはブラッグ角(回折角2θの1/2)である。ある特定のピークを比較する場合、θがほぼ一定値であり、Kおよびλは定数であるため結晶子の大きさLは半値幅βの大きさに反比例する。
【0021】
本発明の黒鉛材料のX線回折スペクトルにおいて、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅の値は、黒鉛膜の積層方向の外殻層の厚みを意味する。炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が小さいほど黒鉛膜の積層数が多く、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が大きいほど黒鉛膜の積層数が少ないことを意味する。また、炭素材料が積層のない単層の黒鉛膜から構成される場合、炭素の(002)面に由来する回折ピークは観測されない。
【0022】
本発明の黒鉛材料は、X線回折スペクトルにおいて、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅の値が、1.3~4.9°である。炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が1.3~4.9°である場合、外殻層を形成する黒鉛膜の積層数は6~20層であると考えられる。本発明の黒鉛材料では、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅は、球状黒鉛粒子の柔軟性と良好な導電パスを両立する観点から、1.8~3.9°であることが好ましく、2.2~3.0°であることがより好ましい。
【0023】
本発明の黒鉛材料のX線回折スペクトルにおいて、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅の値は、黒鉛膜の面内方向の広さを意味する。炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が小さいほど黒鉛膜の面積は大きく、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が大きいほど黒鉛膜の面積が小さいことを意味する。黒鉛膜の面積が大きいということは、黒鉛膜の結晶性が高いということであるから、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が小さいほど黒鉛膜の結晶性、すなわち導電性が高いことを意味する。
【0024】
本発明の黒鉛材料は、X線回折スペクトルにおいて、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅は3.2°以下であり、接触抵抗の低くなる広いグラフェンシート構造を得る観点から、1.6°以下であることが好ましく、1.0°以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明の黒鉛材料は、複数の黒鉛膜の積層体からなる外殻層を有する中空黒鉛ナノ粒子を含む。中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みは、2.0~6.8nmであり、好ましくは2.3~5.0nm、より好ましくは3.0~4.0nmである。中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みが上記範囲にあることにより、球状黒鉛粒子の柔軟性と良好な導電パスを両立することができる。
【0026】
本発明の黒鉛材料において、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層は、6~20層の黒鉛膜により形成されていることが好ましく、7~15層の黒鉛膜により形成されていることがより好ましい。中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成している黒鉛膜の層数が上記範囲にあることにより、球状黒鉛粒子の柔軟性と良好な導電パスを両立することができる。
【0027】
本発明の黒鉛材料としては、上記本発明の黒鉛材料のうち、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の円形度が0.60~0.92であり、中空部の最大内径が15~200nmであるもの(以下、本発明の第一の形態の黒鉛材料とも記載する。)が挙げられる。また、本発明の第一の形態の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)が6~30であるものが好ましい。また、本発明の第一の形態の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が19~210nmであるものが好ましい。
【0028】
本発明の第一の形態の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子について、図1を参照して説明する。図1は、本発明の第一の形態の黒鉛材料の形態例の模式的な端面図である。図1中、中空黒鉛ナノ粒子1は、複数の黒鉛膜2の積層体からなる外殻層3と、外殻層3の内側に形成されている中空部4と、を有する。中空黒鉛ナノ粒子の円形度は、中空黒鉛ナノ粒子1を透過型電子顕微鏡観察したときに、得られる画像において、中空黒鉛ナノ粒子1の外縁の形状の円形度を指す。また、中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径は、中空黒鉛ナノ粒子1を透過型電子顕微鏡観察したときに、得られる画像において、中空黒鉛ナノ粒子1の中空部4の内径のうち、最も内径が大きくなる位置の長さを指す。また、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)は、中空黒鉛ナノ粒子1を透過型電子顕微鏡観察したときに、得られる画像において、中空黒鉛ナノ粒子1の外殻層3の厚み5に対する中空黒鉛ナノ粒子1の中空部4の最大内径6の比(最大内径6/外殻層の厚み5)を指す。また、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径は、中空黒鉛ナノ粒子1を透過型電子顕微鏡観察したときに、得られる画像において、中空黒鉛ナノ粒子1の外径のうち、最も外径が大きくなる位置の長さを指す。
【0029】
本発明の第一の形態の黒鉛材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の円形度が0.60~0.92であり、好ましくは0.60~0.90、より好ましくは0.60~0.88である。なお、中空黒鉛ナノ粒子の円形度は、透過型電子顕微鏡観察を行い得られる画像から、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子をそれぞれ画像ソフトなどを用いて輪郭線に沿って単色に塗りつぶし、画像ソフト(三谷商事社製WinROOF)で画像解析し、円形度を求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の円形度とする。
【0030】
本発明の第一の形態の黒鉛材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径が、15~200nmであり、好ましくは20~150nm、より好ましくは25~130nmである。なお、中空黒鉛ナノ粒子の中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径は、透過型電子顕微鏡観察を行い得られる画像から、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子それぞれの中空部の最大内径を求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径とする。
【0031】
本発明の第一の形態の黒鉛材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)が、6~30であることが好ましく、より好ましくは8~25、より好ましくは10~20である。なお、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)は、透過型電子顕微鏡観察を行い得られる画像から、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子をそれぞれの中空部の最大内径を求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径とし、また、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子をそれぞれから任意の位置の外殻層の厚みを求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みとし、「中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径/中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚み」の値を計算する。
【0032】
本発明の第一の形態の黒鉛材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が、19~210nmであることが好ましく、より好ましくは23~160nm、より好ましくは44~138nmである。本発明において、中空黒鉛ナノ粒子の外径が大きいほど、中空黒鉛ナノ粒子を構成する黒鉛膜の面積が大きくなる。よって、中空黒鉛ナノ粒子の外径が大きいほど黒鉛膜の結晶性および導電性が向上する。そのため、本発明の第一の形態の黒鉛材料では、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径は、導電性が高くなる点で、好ましくは19nm以上、より好ましくは23nm以上、より好ましくは44nm以上である。また、中空黒鉛ナノ粒子の外径が210nm以下であることで、中空黒鉛ナノ粒子の強度を損なうことなく、構造を適切に保持しやすくなり好ましい。そのため、本発明の第一の形態の黒鉛材料では、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径は、構造の保持性が高くなる点で、好ましくは160nm以下、より好ましくは138nm以下である。なお、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径は、透過型電子顕微鏡観察を行い得られる画像から、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子それぞれの最大外径を求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径とする。
【0033】
本発明の黒鉛材料としては、上記本発明の黒鉛材料のうち、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が42nm以上であり、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が3.0以上であるもの(以下、本発明の第二の形態の黒鉛材料とも記載する。)が挙げられる。つまり、本発明第二の形態の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子は、長細く、長尺状の形状であり、長径が大きいので、導電パスが長くなるため、接触抵抗を減らすことができ、そのことにより、導電助剤として優れた導電性を示す。また、本発明の第二の形態の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)が6~45であるものが好ましい。なお、黒鉛膜の積層方向とは、黒鉛膜に対して垂直方向である。
【0034】
本発明の第二の形態の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子について、図2を参照して説明する。図2は、本発明の第二の形態の黒鉛材料の形態例の模式的な端面図である。図2中、中空黒鉛ナノ粒子11は、複数の黒鉛膜12の積層体からなる外殻層13と、外殻層13の内側に形成されている中空部14と、を有する。中空黒鉛ナノ粒子の最大外径は、中空黒鉛ナノ粒子11を透過型電子顕微鏡観察したときに、得られる画像において、中空黒鉛ナノ粒子11の外径のうち、最も外径が大きくなる位置の長さを指す。また、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径は、中空黒鉛ナノ粒子11を透過型電子顕微鏡観察したときに、得られる画像において、中空黒鉛ナノ粒子11の外径のうち、最も外径が小さくなる位置の長さを指す。また、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)は、中空黒鉛ナノ粒子11を透過型電子顕微鏡観察したときに、得られる画像において、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)を指す。また、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)は、中空黒鉛ナノ粒子11を透過型電子顕微鏡観察したときに、得られる画像において、中空黒鉛ナノ粒子11の外殻層の厚み15に対する中空黒鉛ナノ粒子の外殻層13を形成する黒鉛膜12の積層方向16に見たときの中空部の内径17の比(中空部の内径/外殻層の厚み)を指す。
【0035】
本発明の第二の形態の黒鉛材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が、42nm以上であり、好ましくは98nm以上、より好ましくは140nm以上である。本発明において、中空黒鉛ナノ粒子の外径が大きいほど、中空黒鉛ナノ粒子を構成する黒鉛膜の面積が大きくなる。よって、中空黒鉛ナノ粒子の外径が大きいほど黒鉛膜の結晶性および導電性が向上する。また、中空黒鉛ナノ粒子の外径の上限は、特に制限されないが、10000nm以下であることが好ましい。なお、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径は、透過型電子顕微鏡観察を行い得られる画像から、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子それぞれの最大外径を求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径とする。
【0036】
本発明の第二の形態の黒鉛材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が、3.0以上であり、好ましくは7.0以上、より好ましくは10.0以上である。また、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)の上限は、特に制限されないが、250.0以下であることが好ましい。なお、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)は、透過型電子顕微鏡観察を行い得られる画像から、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子それぞれの最小外径を求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径とし、また、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子それぞれの最大外径を求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径とし、「中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)」を計算する。
【0037】
本発明の第二の形態の黒鉛材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)が、6~45であることが好ましく、より好ましくは7.5~40、より好ましくは9~30である。なお、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)は、透過型電子顕微鏡観察を行い得られる画像から、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子をそれぞれの任意の位置の外殻層の厚みを求め、得られる20個の値を平均して、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みとし、また、任意に中空黒鉛ナノ粒子を20個選択し、選択した中空黒鉛ナノ粒子をそれぞれから任意の位置において、黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径を求め、得られる20個の値を平均して、黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径とし、「黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径/中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚み」の値を計算する。
【0038】
本発明の黒鉛材料は、本発明の効果を損なわない範囲で、「本発明の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子」以外の黒鉛粒子を含有していてもよい。本発明の黒鉛材料中、「本発明の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子」以外の黒鉛粒子の含有量は、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましくは0.0質量%である。
【0039】
本発明の黒鉛材料の比表面積は、特に制限されないが、130~1000m/gであることが好ましい。黒鉛材料の比表面積が小さいほど結晶性が高く欠陥が少ないことを示す。本発明の黒鉛材料の比表面積は、130~800m/gであることがより好ましく、130~600m/gであることがより好ましい。なお、本発明において、黒鉛材料の比表面積は、全自動表面積測定装置(マイクロトラックベル社製BELSORP-miniX)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.2の範囲におけるBET多点法により算出することにより測定される。
【0040】
本発明の黒鉛材料の用途は、適宜選択されるが、黒鉛膜の積層体からなる外殻層で形成されており、径が大きく、外殻層が適切な厚みを有しているので、導電性が高く、且つ、内径に対する外殻層の厚みが小さいので、柔軟性を有していることから、導電助剤用として特に優れている。
【0041】
なお、本発明の黒鉛材料は、炭素材料を前駆体として製造されてもよい。本発明に係る炭素材料は、複数の炭素膜の積層体からなる外殻層を有する中空炭素ナノ粒子を含む。
【0042】
本発明に係る炭素材料は、複数の炭素膜の積層体からなる外殻層を有する中空炭素ナノ粒子を含む。中空炭素ナノ粒子の外殻層の厚みは、2.3~7.6nm、好ましくは2.6~5.8nm、より好ましくは3.3~4.8nmである。中空炭素ナノ粒子の外殻層の厚みが上記範囲にあることにより、中空炭素ナノ粒子を黒鉛化後に球状黒鉛粒子の柔軟性と良好な導電パスを両立し得る中空黒鉛ナノ粒子を形成できる。
【0043】
本発明に係る炭素材料において、中空炭素ナノ粒子の外殻層は、6~20層の炭素膜により形成されていることが好ましく、7~15層の炭素膜により形成されていることがより好ましい。中空炭素ナノ粒子の外殻層を形成している炭素膜の層数が上記範囲にあることにより、中空炭素ナノ粒子を黒鉛化後に球状黒鉛粒子の柔軟性と良好な導電パスを両立し得る中空黒鉛ナノ粒子を形成できる。
【0044】
本発明に係る炭素材料としては、本発明に係る炭素材料のうち、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の円形度が0.60~0.96であり、中空部の最大内径が15~200nmであるもの(以下、本発明の第一の形態の炭素材料とも記載する。)が挙げられる。また、本発明の第一の形態の炭素材料に係る中空炭素ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空炭素ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)が5~27であるものが好ましい。また、本発明の第一の形態の炭素材料に係る中空炭素ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の最大外径が20~216nmであるものが好ましい。
【0045】
本発明の第一の形態の炭素材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の円形度が0.60~0.96であり、好ましくは0.65~0.96、より好ましくは0.70~0.96である。
【0046】
本発明の第一の形態の炭素材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の中空部の最大内径が15~200nmであり、好ましくは20~150nm、より好ましくは25~130nmである。
【0047】
本発明の第一の形態の炭素材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空炭素ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)が、好ましくは5~27、より好ましくは7~22であり、より好ましくは9~18である。
【0048】
本発明の第一の形態の炭素材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の最大外径が、好ましくは20~216nm、より好ましくは24~166nmであり、より好ましくは45~144nmである。本発明において、中空炭素ナノ粒子の外径が大きいほど、中空炭素ナノ粒子を構成する炭素膜の面積が大きくなる。よって、中空炭素ナノ粒子の外径が大きいほど炭素膜の結晶性および導電性が向上する。そのため、本発明の第一の形態の炭素材料では、中空炭素ナノ粒子の最大外径は、導電性が高くなる点で、好ましくは24nm以上、より好ましくは45nm以上である。また、中空炭素ナノ粒子の外径が216nm以下であることで、中空黒鉛ナノ粒子の強度を損なうことなく、構造を適切に保持しやすくなる。そのため、本発明の第一の形態の炭素材料では、中空炭素ナノ粒子の最大外径は、構造の保持性が高くなる点で、好ましくは166nm以下、より好ましくは144nm以下である。
【0049】
本発明に係る炭素材料としては、上記本発明に係る炭素材料のうち、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の最大外径が43nm以上であり、中空炭素ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が3.0以上であるもの(以下、本発明の第二の形態の炭素材料とも記載する。)が挙げられる。また、本発明の第二の形態の炭素材料に係る中空炭素ナノ粒子は、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空炭素ナノ粒子の外殻層を形成する炭素膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)が5~40であるものが好ましい。
【0050】
本発明の第二の形態の炭素材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の最大外径が、好ましくは43nm以上、より好ましくは99nm以上、より好ましくは141nm以上である。本発明において、中空炭素ナノ粒子の外径が大きいほど、中空炭素ナノ粒子を構成する炭素膜の面積が大きくなる。よって、中空炭素ナノ粒子の外径が大きいほど炭素膜の結晶性および導電性が向上する。また、中空炭素ナノ粒子の外径の上限は、特に制限されないが、10000nm以下であることが好ましい。
【0051】
本発明の第二の形態の炭素材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が、3.0以上であり、好ましくは7.0以上、より好ましくは10.0以上である。また、中空炭素ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)の上限は、特に制限されないが、250.0以下であることが好ましい。
【0052】
本発明の第二の形態の炭素材料では、透過型電子顕微鏡観察において、中空炭素ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空炭素ナノ粒子の外殻層を形成する炭素膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)が、好ましくは5~40、より好ましくは6~35であり、より好ましくは7~26である。
【0053】
本発明の炭素材料(本発明に係る炭素材料)に係る中空炭素ナノ粒子と、本発明の黒鉛材料に係る中空黒鉛ナノ粒子では、外殻層を形成するものが、前者が炭素膜であり、後者が黒鉛膜である点で異なるものの、透過型電子顕微鏡観察においては、外殻層の膜の積層構造並びに外形及び中空部の形状は、同様に観察されるため、透過型電子顕微鏡観察における、中空炭素ナノ粒子の円形度、中空炭素ナノ粒子の中空部の最大内径、中空炭素ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空炭素ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)、中空炭素ナノ粒子の最大外径、中空炭素ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)、中空炭素ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空炭素ナノ粒子の外殻層を形成する炭素膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)は、中空黒鉛ナノ粒子の分析方法と同様に行い得られる値である。つまり、本発明に係る炭素ナノ粒子の透過型電子顕微鏡観察における各値については、本発明の黒鉛ナノ粒子の各値の「黒鉛」を「炭素」と読み替えればよい。
【0054】
本発明に係る炭素材料は、本発明の効果を損なわない範囲で、「本発明の炭素材料に係る中空炭素ナノ粒子」以外の炭素粒子を含有していてもよい。本発明に係る炭素材料中、「本発明の炭素材料に係る中空炭素ナノ粒子」以外の炭素粒子の含有量は、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、更に好ましくは0.0質量%である。
【0055】
本発明に係る炭素材料の比表面積は、特に制限されないが、200~1400m/gであることが好ましい。炭素材料の比表面積が小さいほど黒鉛化後の材料の欠陥が少なく、導電性が高くなる。本発明に係る炭素材料の比表面積は、200~1000m/gであることがより好ましく、200~800m/gであることがより好ましい。なお、本発明において、炭素材料の比表面積は、全自動表面積測定装置(マイクロトラックベル社製BELSORP-miniX)を用い、窒素吸着等温線における相対圧0.05~0.2の範囲におけるBET多点法により算出することにより測定される。
【0056】
本発明に係る炭素材料は、本発明の黒鉛材料の前駆体として好適である。つまり、本発明に係る炭素材料は、1000℃以上、好ましくは1300~3000℃、より好ましくは1800~3000℃で熱処理されることにより、本発明の黒鉛材料となる。また、本発明に係る炭素材料の用途としては、適宜選択されるが、炭素膜の積層体からなる外殻層で形成されており、径が大きく、外殻層が適切な厚みを有しているので、導電性が高く、且つ、内径に対する外殻層の厚みが小さいので、柔軟性を有していることから、導電助剤として用いることができる。
【0057】
本発明の黒鉛材料は、如何なる製造方法により製造されたものであってもよく、製造方法は特に制限されないが、以下に示す本発明の黒鉛材料の製造方法により、好適に製造される。
【0058】
本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態は、
タングステン酸化物粉末を窒素含有有機物と共に加熱することにより、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る炭化物合成工程と、
該炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物中の炭化タングステンを溶解させることにより、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得る炭化タングステン溶解工程と、
該中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を1000℃以上で加熱することにより、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得る熱処理工程と、
を有することを特徴とする。
【0059】
本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態に係る炭化物合成工程は、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る工程である。炭化物合成工程については、明確な反応機構は不明だが、タングステン酸化物を出発物質として、タングステン酸化物粉末を窒素含有有機物と共に加熱することにより、タングステン酸化物を窒化タングステンへと還元し、その後、生成する窒化タングステンを、窒素含有有機物中の炭素を炭素源として用いて炭化することで、炭化タングステンのナノ粒子を生成させると共に、生成した炭化タングステンナノ粒子の表面を炭素で被覆し、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る工程であると考えられる。
【0060】
炭化物合成工程に係るタングステン酸化物としては、酸化タングステン(WO)やタングステン酸(HWO)などの6価タングステン酸化物が好ましい。タングステン酸(HWO)は、通常、針状結晶であり、炭化物合成工程に用いられるタングステン酸(HWO)粉末としては、透過型電子顕微鏡観察におけるアスペクト比が3.0以上であり、最長外径が0.1~10μm程度のものが好ましい。なお、本発明において、アスペクト比、最長外形、平均粒子径は、透過型電子顕微鏡観察を行い得られる画像から、任意に20個選択し、選択したそれぞれの各値を求め、得られる20個の値を平均することにより測定されたものである。これらのうち、炭化物合成工程に係るタングステン酸化物としては、タングステン酸(HWO)が、炭化物合成工程での反応条件を選択することにより、最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が、大きい、例えば、3.0以上の長尺状の中空黒鉛ナノ粒子が得易くなる点で、好ましい。
【0061】
炭化物合成工程に係る窒素含有有機物は、窒素原子を含有する有機化合物のことであり、特に制限されないが、シアノ基を含有するポリアクリロニトリル、アクリロニトリル、アセトニトリルや、アミノ基を含有する尿素、メラミン樹脂などが好ましい。炭化物合成工程においては、先ずは、窒素含有有機物に含まれる窒素が窒素源となり、還元剤として作用し、タングステン酸化物を還元し、窒化タングステンへと変換する。
【0062】
炭化物合成工程においては、更に、窒素含有有機物に含まれる炭素が炭素源となり、タングステンに固溶することで、窒化タングステンが炭化され、炭化タングステンナノ粒子が形成されると考えられる。このとき、固溶限界を超える量の炭素が炭化タングステンナノ粒子の表面に析出するため、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子が得られる。なお、タングステンの触媒能に由来して、炭化タングステンナノ粒子の表面に析出する炭素は、非常に結晶性の高い炭素膜となる。
【0063】
炭化物合成工程において、タングステン酸化物粉末と窒素含有有機物とを加熱するときの加熱温度は、600~1300℃であることが好ましい。炭化物合成工程における加熱温度が上記範囲にあることにより、窒化タングステンを経由した炭化タングステン形成が進みやすくなる。炭化物合成工程における加熱温度は、タングステン酸化物の窒化と炭化の反応が効率よく進む観点から、800~1200℃であることがより好ましい。
【0064】
炭化物合成工程において、タングステン酸化物粉末と窒素含有有機物とを加熱するときに、所定の加熱温度まで昇温するとき及び/又は所定の温度で加熱している間及び/又は所定の温度での加熱後に降温するときに、窒素ガス等の不活性ガスを反応系に供給してもよい。不活性ガスの供給量は適宜選択される。
【0065】
炭化物合成工程では、炭化タングステンナノ粒子の表面に形成される外殻層を形成する炭素膜の層数が6~20層である炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る。なお、炭化物合成工程では、タングステン酸化物粉末への窒素含有有機化合物の供給量、供給時間、供給温度、タングステン酸化物粉末と窒素含有有機物とを加熱するときの加熱温度等を適宜選択することにより、炭化タングステンナノ粒子の表面に形成される外殻層を形成する炭素膜の層数を6~20層に調節することができる。
【0066】
炭化物合成工程を行うことにより得られる炭素被覆炭化タングステンナノ粒子では、炭素膜の積層体からなる外殻層が、炭化タングステンナノ粒子の表面を被覆している。そして、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態では、炭化物合成工程を行い得られた炭素被覆炭化タングステンナノ粒子の外殻層を形成する炭素膜の積層数が、炭化タングステン溶解工程及び熱処理工程を経て得られる中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の黒鉛膜の積層数に反映される。つまり、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態では、炭化物合成工程を行い得られた炭素被覆炭化タングステンナノ粒子の外殻層を形成する各炭素膜が、炭化タングステン溶解工程及び熱処理工程を経て得られる中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の各黒鉛膜に変換される。
【0067】
本発明の黒鉛材料の製造方法に係る炭化タングステン溶解工程は、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物中の炭化タングステンを溶解させることにより、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得る工程である。
【0068】
炭化タングステン溶解工程において、炭化タングステンを溶解させる手法は特に制限されないが、例えば、取り扱いの容易性の観点から、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を、過酸化水素水に浸漬させる手法が好ましい。
【0069】
炭化タングステン溶解工程の一態様において、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を、過酸化水素水に浸漬させることにより、炭化タングステンを溶解させることができる。炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を過酸化水素水に浸漬させる時間や温度等の条件は、炭化タングステンが十分に溶解する条件を適宜選択することができる。
【0070】
炭化タングステン溶解工程を行い得られる中空炭素ナノ粒子は、中空構造を有する炭素材料であって、ナノ粒子からなる材料である。炭化タングステン溶解工程を行い得られる中空炭素ナノ粒子は、導電性が高く、且つ、内径に対する外殻層の厚みが小さいので、柔軟性を有していることから、導電助剤などに好適に用いることができる。例えば、図3には、炭化タングステン溶解工程を行い得られる中空炭素ナノ粒子の模式図を示す。図3は、炭化タングステン溶解工程を行い得られる中空炭素ナノ粒子の一例の透過型電子顕微鏡写真である。図3に示すように、炭化タングステン溶解工程を行い得られる中空炭素ナノ粒子には、複数の層からなる外殻層23及びその内側に中空部24が形成されていることが確認される。
【0071】
本発明の黒鉛材料の製造方法に係る熱処理工程は、炭化タングステン溶解工程を行い得られる中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を、1000℃以上で加熱することにより、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得る工程である。
【0072】
熱処理工程において、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を加熱する温度は1000℃以上であることが好ましい。熱処理工程における加熱温度が上記範囲にあることにより、中空炭素ナノ粒子を構成する炭素の結晶性が向上し、中空黒鉛ナノ粒子を得ることができる。熱処理工程における加熱温度は、炭素の結晶性を向上させ、高い導電性を有する材料を形成する観点から、1300℃以上であることがより好ましく、1800℃以上であることがより好ましい。また、適切な強度と柔軟性を有した中空構造を形成する観点から、3000℃以下であることがより好ましい。また、熱処理工程における加熱時間は、炭素膜が黒鉛膜に十分に変換される範囲で、適宜選択される。また、熱処理工程における加熱雰囲気は、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気である。
【0073】
本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態を行うことにより、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得ることができる。本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態を行うことにより得られる中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料としては、前記本発明の黒鉛材料が挙げられる。本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態を行うことにより得られる中空黒鉛ナノ粒子は、中空構造を有する黒鉛材料であって、6~20層の黒鉛膜の積層体からなる材料である。中空黒鉛ナノ粒子は結晶性の高さに由来する高い導電性を有しており、導電助剤用途に適する。また、中空黒鉛ナノ粒子は、柔軟性を有していることから、導電助剤などに適用した場合、充放電に伴う電極の膨張収縮をナノオーダーで吸収することが可能である。
【0074】
本発明の黒鉛材料の製造方法の内第二の形態は、
炭化タングステンナノ粒子を炭素源と共に加熱し、該炭化タングステンナノ粒子の表面に炭素層を析出させることにより、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る被覆工程と、
該炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物中の炭化タングステンを溶解させることにより、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得る炭化タングステン溶解工程と、
該中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を1000℃以上で加熱することにより、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得る熱処理工程と、
を有することを特徴とする。
【0075】
本発明の黒鉛材料の製造方法の内第二の形態に係る被覆工程は、炭化タングステンナノ粒子粉末を出発物質として、炭化タングステンナノ粒子粉末を炭素源と共に加熱することにより、炭化タングステンナノ粒子の表面を炭素で被覆し、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る工程である。
【0076】
被覆工程に係る炭化タングステンナノ粒子粉末は、炭化タングステン(WC)のナノ粒子の集合物である。炭化タングステンナノ粒子粉末の透過型電子顕微鏡観察における平均粒子径は、15~200nmが好ましい。
【0077】
被覆工程に係る炭素源としては、特に制限されないが、例えば、メタン、エタン、プロパン、アセチレン、ベンゼン、トルエン、ヘキサン等の炭化水素化合物や、ピッチ、クレオソート油、フェノール樹脂、フラン樹脂等が挙げられる。炭素層の層数制御のし易さの観点から、炭素源は気体または気化できるものが好ましく、中でも炭化水素化合物が好ましい。
【0078】
被覆工程においては、炭素源に含まれる炭素が、炭化タングステンナノ粒子の表面に析出するため、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子が得られる。なお、タングステンの触媒能に由来して、炭化タングステンナノ粒子の表面に析出する炭素は、非常に結晶性の高い炭素膜からなる。
【0079】
被覆工程において、炭化タングステンナノ粒子と炭素源とを加熱するときの加熱温度は、600~1100℃であることが好ましい。被覆工程における加熱温度が上記範囲にあることにより、粒子表面に炭素層を適切に被覆させることができる。被覆工程における加熱温度は、高い結晶性を有する良質な炭素膜を被覆させる観点から、800~1100℃であることが好ましく、900~1100℃であることがより好ましい。
【0080】
被覆工程において、炭化タングステンナノ粒子と炭素源とを加熱するときに、所定の加熱温度まで昇温するとき及び/又は所定の温度で加熱している間及び/又は所定の温度での加熱後に降温するときに、窒素ガス等の不活性ガスを反応系に供給してもよい。不活性ガスの供給量は適宜選択される。また、炭素源がガス状の化合物の場合、不活性と共に、反応系に供給することが好ましい。
【0081】
被覆工程では、炭化タングステンナノ粒子の表面に形成される外殻層を形成する炭素膜の層数が6~20層である炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得る。なお、被覆工程では、炭化タングステンナノ粒子粉末への炭素源の供給量、供給時間、供給温度、タングステン酸化物粉末と窒素含有有機物とを加熱するときの加熱温度等を適宜選択することにより、炭化タングステンナノ粒子の表面に形成される外殻層を形成する炭素膜の層数を6~20層に調節することができる。
【0082】
被覆工程を行うことにより得られる炭素被覆炭化タングステンナノ粒子では、炭素膜の積層体からなる外殻層が、炭化タングステンナノ粒子の表面を被覆している。そして、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第二の形態では、被覆工程を行い得られた炭素被覆炭化タングステンナノ粒子の外殻層を形成する炭素膜の積層数が、炭化タングステン溶解工程及び熱処理工程を経て得られる中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の黒鉛膜の積層数に反映される。つまり、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第二の形態では、被覆工程を行い得られた炭素被覆炭化タングステンナノ粒子の外殻層を形成する各炭素膜が、炭化タングステン溶解工程及び熱処理工程を経て得られる中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の各黒鉛膜に変換される。
【0083】
本発明の黒鉛材料の製造方法の内第二の形態に係る炭化タングステン溶解工程及び熱処理工程は、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第二の形態に係る炭化タングステン溶解工程の処理対象が、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第二の形態に係る被覆工程を行い得られる炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物であること以外は、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態に係る炭化タングステン溶解工程及び熱処理工程と同様である。
【0084】
本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態においては、
前記炭化タングステン溶解工程において溶解させた炭化タングステンを乾燥及び酸化させることにより、タングステン酸化物粉末を得る再生工程を有し、
該再生工程を行い得られるタングステン酸化物粉末を、前記炭化物合成工程で用いることができる。
つまり、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態では、先に行った炭化タングステン溶解工程において溶解させた炭化タングステンを取り出し、乾燥及び酸化させることにより、タングステン酸化物粉末を再生し、得られる再生タングステン酸化物粉末を、炭化物合成工程で用いるタングステン酸化物粉末として再利用する。
【0085】
再生工程では、炭化タングステン溶解工程において溶解させた炭化タングステンを、適宜、乾燥及び酸化させる。溶解させた炭化タングステンを乾燥及び酸化させる方法としては、例えば、噴霧熱分解法などが挙げられる。なお、再生工程における温度条件は炭化タングステンが適切に乾燥及び酸化する条件を適宜選択することができる。
【0086】
そして、本発明の黒鉛材料の製造方法の内第一の形態が、再生工程を有し、且つ、再生工程を行い得られるタングステン酸化物粉末を、炭化物合成工程で再利用することにより、安価に、本発明の中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料及び本発明の中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を製造することができる。
【実施例0087】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、以下に示す実施例は、本発明の一例であって、それらに限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
<炭化物合成工程>
タングステン酸(HWO:和光純薬製)20gを回転炉中央の反応管内(内径46mm、外径50mm、長さ190mm)に入れ、2rpmの速度で炉を回転させ、窒素ガスを流量400ml/分で流しながら、昇温速度10℃/分で800℃まで加熱し、30分間保持した後、5℃のアセトニトリルを入れた容器に、窒素ガスをバブリングさせながら通すことで、アセトニトリル蒸気を炉内に導入させながら4時間保持した。その後、アセトニトリルへのバブリングを止め、窒素ガスだけを流しながら30分間保持した後、加熱を止め、自然冷却を行い、室温まで冷却し、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得た。
次いで、得られた炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を、透過型電子顕微鏡にて観察した。得られた画像を図4に示す。その結果、炭化タングステン酸粒子の表面に、7層の炭素膜が形成されていることが確認された。また、原料のタングステン酸も透過型電子顕微鏡で観察した。得られた画像を図5に示す。
【0089】
<炭化タングステン溶解工程>
上記で得た炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物1gを過酸化水素水(和光純薬製)50g中に入れ、6時間静置し、1μmの親水性メンブレンフィルターで分離、蒸留水で良く洗浄して、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得た。得られた中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、7層の炭素膜で形成されている外殻層を有し且つ中空部が形成されていることが確認された。
【0090】
<熱処理工程>
上記で得た中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料1gを、窒素ガス雰囲気で1200℃、2時間の熱処理を行い、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得た。得られた中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、7層の黒鉛膜で形成されている外殻層を有し且つ中空部が形成されていることが確認された。また、得られた中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料のX線回折分析を行ったところ、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であり、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が3.9°であった。また、透過型電子顕微鏡観察により観察された7層の黒鉛膜からなる外殻層の厚みは、2.3nmに相当する。また、透過型電子顕微鏡観察で得られた画像を解析したところ、中空黒鉛ナノ粒子の円形度が0.84であり、中空部の最大内径が32nmであり、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)が13.6であり、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が37nm以上であった。
【0091】
(実施例2)
<被覆工程>
炭化タングステン(WC:粒子径100~200nm、和光純薬製)20gを回転炉中央の反応管内(内径46mm、外径50mm、長さ190mm)に入れ、2rpmの速度で炉を回転させ、窒素ガスを流量400ml/分で流しながら、昇温速度10℃/分で800℃まで加熱し、30分間保持した後、60ml/分のメタンガス及び340ml/分の窒素を炉内に導入させながら6時間保持した。その後、メタンガスを流すのを止め、窒素ガスだけを400ml/分で流しながら30分間保持した後、加熱を止め、自然冷却を行い、室温まで冷却し、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得た。
次いで、作製した炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を、透過型電子顕微鏡にて観察した。得られた画像を図6に示す。その結果、炭化タングステン酸粒子の表面に、8層の炭素膜が形成されていることが確認された。
【0092】
<炭化タングステン溶解工程>
上記で得た炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物1gを用いる他は、実施例1と同様に行い、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得た。得られた中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、8層の炭素膜で形成されている外殻層を有し且つ中空部が形成されていることが確認された。
【0093】
<熱処理工程>
上記で得た中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料1gを用いる他は、実施例1と同様に行い、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得た。得られた中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、8層の黒鉛膜で形成されている外殻層を有し且つ中空部が形成されていることが確認された。また、得られた中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料のX線回折分析を行ったところ、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であり、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が3.4°であった。また、透過型電子顕微鏡観察により観察された8層の黒鉛膜からなる外殻層の厚みは、2.7nmに相当する。また、透過型電子顕微鏡観察で得られた画像を解析したところ、中空黒鉛ナノ粒子の円形度が0.82であり、中空部の最大内径が26nmであり、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)が9.7であり、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が32nm以上であった。
【0094】
(実施例3)
<炭化物合成工程>
タングステン酸(HWO:和光純薬製)10gとポリアクリロニトリル(PAN)粉末50gを、反応管内(内径46mm、外径50mm、長さ190mm)の中央に入れ、窒素ガスを流量50ml/分で流しながら昇温速度10℃/分で1000℃まで加熱し、1時間保持した。その後、加熱を止め、窒素ガスを流量100ml/分にして自然冷却を行い、室温まで冷却し、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得た。
次いで、得られた炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を、透過型電子顕微鏡にて観察した。得られた画像を図7に示す。その結果、炭化タングステン酸粒子の表面に、9層の炭素膜が形成されていることが確認された。
【0095】
<炭化タングステン溶解工程>
上記で得た炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物1gを用いる他は、実施例1と同様に行い、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得た。得られた中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、9層の炭素膜で形成されている外殻層を有し且つ中空部が形成されていることが確認された。
【0096】
<熱処理工程>
上記で得た中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料1gを用いる他は、実施例1と同様に行い、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得た。得られた中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、9層の黒鉛膜で形成されている外殻層を有し且つ中空部が形成されていることが確認された。また、得られた中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料のX線回折分析を行ったところ、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であり、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が3.0°であった。また、透過型電子顕微鏡観察により観察された9層の黒鉛膜からなる外殻層の厚みは、3.0nmに相当する。また、透過型電子顕微鏡観察で得られた画像を解析したところ、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が480nm以上であり、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が20.0以上であり、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)が6.0であった。
【0097】
(実施例4)
<被覆工程>
ポリアクリロニトリル粉末50gとすることに代えて、ポリアクリロニトリル粉末30gとすること以外は、実施例3と同様に行い、炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を得た。
次いで、作製した炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物を、透過型電子顕微鏡にて観察した。得られた画像を図8に示す。その結果、炭化タングステン酸粒子の表面に、6層の炭素膜が形成されていることが確認された。
【0098】
<炭化タングステン溶解工程>
上記で得た炭素被覆炭化タングステンナノ粒子を含む被覆処理物1gを用いる他は、実施例1と同様に行い、中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を得た。得られた中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料を、透過型電子顕微鏡にて観察したところ、6層の炭素膜で形成されている外殻層を有し且つ中空部が形成されていることが確認された。
【0099】
<熱処理工程>
上記で得た中空炭素ナノ粒子を含む炭素材料1gを用いる他は、実施例1と同様に行い、中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を得た。得られた中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料を、透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、6層の黒鉛膜で形成されている外殻層を有し且つ中空部が形成されていることが確認された。また、得られた中空黒鉛ナノ粒子を含む黒鉛材料のX線回折分析を行ったところ、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅が3.2°以下であり、炭素の(002)面に由来するピークの半値幅が4.5°であった。また、透過型電子顕微鏡観察により観察された6層の黒鉛膜からなる外殻層の厚みは、2.0nmに相当する。また、透過型電子顕微鏡観察で得られた画像を解析したところ、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径が290nm以上であり、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)が12.1以上であり、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)が10.0であった。
【0100】
(透過型電子顕微鏡観察)
測定試料粉末をエタノール中で超音波分散させ、分散液をマイクログリッド(応研商事)に滴下した後、乾燥させることで観察試料を調製した。次いで、透過型電子顕微鏡(TEM,JEOL:JEM-2010,加速電圧200kV)を用い観察した。
【0101】
(透過型電子顕微鏡観察画像の画像分析)
画像ソフト(三谷商事社製WinROOF)を用いて画像解析し、中空黒鉛ナノ粒子の円形度、中空部の最大内径、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の中空部の最大内径の比(最大内径/外殻層の厚み)、中空黒鉛ナノ粒子の最大外径、中空黒鉛ナノ粒子の最小外径に対する最大外径の比(最大外径/最小外径)、中空黒鉛ナノ粒子の外殻層の厚みに対する中空黒鉛ナノ粒子の外殻層を形成する黒鉛膜の積層方向に見たときの中空部の内径の比(中空部の内径/外殻層の厚み)を求めた。
【0102】
(X線回折分析)
測定試料粉末をX線回折装置(株式会社リガク製UltimaIV)により、Cu-Kα線のX線を使用して分析し、炭素の(10)面に由来するピークの半値幅、及び炭素の(002)面に由来するピークの半値幅を求めた。
【符号の説明】
【0103】
1、11 中空黒鉛ナノ粒子
2、12 黒鉛膜
3、13 外殻層
4、14 中空部
5、15 外殻層の厚み
6 最大内径
16 中空黒鉛ナノ粒子の外殻層13を形成する黒鉛膜12の積層方向
17 中空黒鉛ナノ粒子の外殻層13を形成する黒鉛膜12の積層方向16に見たときの中空部の内径17
23 中空炭素ナノ粒子の外殻層
24 中空炭素ナノ粒子の中空部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8