(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090958
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ポリ乳酸をベースとする新規ポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 63/60 20060101AFI20240627BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20240627BHJP
C08G 18/42 20060101ALI20240627BHJP
C08G 18/73 20060101ALI20240627BHJP
C08G 18/77 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08G63/60
C08G18/32 018
C08G18/42 080
C08G18/73
C08G18/77
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207179
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】507106180
【氏名又は名称】環テックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】598152091
【氏名又は名称】ハイケム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】504119985
【氏名又は名称】片山 義博
(71)【出願人】
【識別番号】595067763
【氏名又は名称】重原 淳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】道信 剛志
(72)【発明者】
【氏名】ジョシ マンジュシャ
(72)【発明者】
【氏名】片山 義博
(72)【発明者】
【氏名】重原 淳孝
(72)【発明者】
【氏名】亀山 敏治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 惇
(72)【発明者】
【氏名】亀山 昂暉
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 立維
(72)【発明者】
【氏名】高 裕一
(72)【発明者】
【氏名】久保 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】李 昌林
(72)【発明者】
【氏名】馬 傑
(72)【発明者】
【氏名】李 洪国
【テーマコード(参考)】
4J029
4J034
【Fターム(参考)】
4J029AA02
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC02
4J029AD01
4J029AE01
4J029AE02
4J029AE03
4J029AE06
4J029BA01
4J029BA02
4J029BA05
4J029CE03
4J029CE06
4J029CF19
4J029EA05
4J029EH03
4J029GA30
4J029GA69
4J029GA92
4J029HA01
4J029HB01
4J029JA091
4J029JA301
4J029JF471
4J029KB16
4J029KD02
4J029KD07
4J029KD09
4J029KE06
4J029KH05
4J029KH06
4J034BA08
4J034CA04
4J034CB03
4J034CC28
4J034CC45
4J034CC62
4J034CC65
4J034CD06
4J034DA01
4J034DB04
4J034DC50
4J034DE04
4J034DF24
4J034HA07
4J034HC03
4J034KB02
4J034KC17
4J034KD02
4J034KE02
4J034QA05
4J034RA03
4J034RA07
4J034RA08
4J034RA09
4J034RA10
4J034RA11
4J034RA12
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高分子量の、耐熱性等に優れたポリ乳酸をベースとする新規ポリマー及びその製造方法の提供。
【解決手段】式(I)で表される構造単位:
(式中、R
1は存在しないか、又は炭素数1~10のアルキレンである)
とポリ乳酸ジオールを構造単位に含む、コポリマー。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I)で表される構造単位:
【化1】
(式中、R
1は存在しないか、又は炭素数1~10のアルキレンである)
と下記の一般式(II)で表される構造単位:
【化2】
(式中、各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表す)とを含む、コポリマー。
【請求項2】
分子量が1,000~2,000,000の範囲にある、請求項1に記載のコポリマー。
【請求項3】
2-ピロン-4,6ージカルボン酸(PDC)又はその誘導体に下記式(III)で表されるポリ乳酸ジオール
【化3】
(式中、各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表す)を触媒の存在下で重合させる工程を含む、請求項1又は2に記載のコポリマーを製造する方法。
【請求項4】
PDCの誘導体がビス(2-ヒロドキシエチル)2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(BHPDC)である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
下記一般式(IV)で表される繰り返し単位を有するポリエステル化合物
【化4】
(式中、nは2~2000の整数を表し、
PLLAは下記の一般式(II)で表される:
【化5】
(式中、各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表す)。
【請求項6】
lが4である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
分子量1,000~2,000,000の範囲にある、請求項5又は6に記載の化合物。
【請求項8】
請求項5に記載の一般式(IV)で表される繰り返し単位を有するポリエステル化合物の製造方法であって、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)に下記式(III)で表わされるポリ乳酸ジオール
【化6】
(式中、各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表す)
を触媒の存在下で重合させる工程を含む、方法。
【請求項9】
lが4である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
一般式(IV)の化合物の分子量が1,000~2,000,000の範囲にある、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
下記一般式(V)で表されるポリウレタン化合物
【化7】
(式中、R
2はその構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の二価残基であり、
各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表し、
pは1~20の整数を表し、
xは2~2000の整数を表し、
yは2~2000の整数を表す)。
【請求項12】
一般式(V)の化合物の分子量が1,000~2,000,000の範囲にある、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項11に記載の一般式(V)で表される繰り返し単位を有するポリウレタン化合物の製造方法であって、下記式(III)で表わされるポリ乳酸ジオール
【化8】
(式中、各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表す)にジイソシアネートを重合させ、その後ビス(2-ヒロドキシエチル)2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を添加しさらに重合させる工程を含む、方法。
【請求項14】
lが4である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
一般式(V)の化合物の分子量が1,000~2,000,000の範囲にある、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子量の耐熱性等に優れたポリ乳酸をベースとする新規ポリマー及びその製造方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
カーボンニュートラルかつ持続可能な社会の構築が強く望まれていることから、バイオマス由来の再生可能プラスチックの重要性が高まっている。ポリ乳酸は、このような課題達成のための最も有望な候補の1つである。ポリ乳酸の再生可能な資源であるL-乳酸(LA)から自己重合によって容易に調製でき、その優れた生体適合性と生分解性により、医療材料をはじめとする様々な用途における重要な材料となっている。ポリ乳酸の欠点は、既存の生体高分子に共通する機械的強度や耐熱性の欠如などである。そのため、さまざまなエンジニアリングプラスチックの代替としてのポリ乳酸の応用研究はあまり成功に至ってない。たとえば、ガラス転移温度(Tg)が約60℃であるといった室温よりもかなり高い温度であるにもかかわらず、ポリ乳酸は室温では非常に脆いといった問題を抱えている。
これらの欠点を克服するために、主に2つのアプローチが一般的に採用されてきた。1つは、熱的に安定した材料やポリマーとのブレンドである。しかしながら、ポリ乳酸と相容性がある材料は比較的少なく、理想的な添加材料がないのが現状である。もう1つは、共有結合を介してポリマー主鎖に芳香環を導入する方法である。芳香環はポリマーの機械的強度や耐熱性の向上に寄与するからである。
【0003】
生分解性はポリ乳酸の重要なプラス要因の1つであるため、組み込む芳香族成分もバイオマスに由来するのが有利である。本発明者らは、代表的なバイオマス資源であるリグニンからバイオリアクターにより2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(2-pyrone-4,6-dicarboxylic acid)(以下「PDC」と略すことがある)を効率的に得る方法を確立してきた(特許文献1)。PDCはその2官能性を通じ、生分解性のポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂等のポリマーの製造に利用されることが報じられている(例えば、特許文献2)。リグニンは製紙工程で大量に生産されるが、産業廃棄物扱いされることがあり、そのため環境面からもその有効活用が産業界で強く望まれている。PDCは、2個のカルボン酸を有する小分子であり、本発明者は以前に重合と重付加のための二官能性モノマーとしてのその能力に着目し、PDCとポリ乳酸の重合を試みた(非特許文献1)。例えば、ビス (2-ヒドロキシエチル) テレフタレートとの重合によって得られたポリエステルは、ポリマー中で高いPDC 含量を示し、熱安定性が向上した (非特許文献2)。しかしながら、そのようにして製造したポリエステルは溶融性、弾性、有機溶剤への高い溶解性などといった脂肪族ポリマーの有利な特性を有しないという問題を抱えた。
また、本発明者は直接脱水重合によるポリ乳酸とPDCのハイブリッド生体高分子の調製に成功している(非特許文献3)。その重合条件は、触媒、モノマー供給比、重合時間と温度などを変更・調節することで最良のものを導き出している。しかしながら、得られるポリエステルの分子量の上限は10,000程度に留まる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Michinobu T et al., Polym J., 40(1), 68-75 (2008)
【非特許文献2】Michinobu T et al., Polym J., 41(10), 843-848 (2009)
【非特許文献3】Michinobu T et al., J. Macromolecular Science, (2010), 7, 564-570
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-278549号公報
【特許文献2】特開2004-256747号公報
【特許文献3】CN106832244A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、分子量の大きい、耐熱性等に優れたポリ乳酸とPDC又はその誘導体のコポリマーの提供が所望される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、PDC又はその誘導体に、ポリ乳酸の代わりにポリ乳酸ジオールを重合させることで、分子量が数万から数百万のオーダーのポリ乳酸をベースとするポリマーの獲得に成功した。
(1)下記の一般式(I)で表される構造単位:
【化1】
(式中、R
1は存在しないか、又は炭素数1~10、好ましくは2~8のアルキレンである)
と下記の一般式(II)で表される構造単位:
【化2】
(式中、各oは独立して5~20、好ましくは2~10の整数を表し、
lは1~20、好ましくは2~8の整数を表す)とを含む、コポリマー。
(2)分子量が1,000~2,000,000の範囲にある、(1)に記載のコポリマー。
(3)2-ピロン-4,6ージカルボン酸(PDC)又はその誘導体に下記式(III)で表されるポリ乳酸ジオール
【化3】
(式中、各oは独立して5~20、好ましくは5~10の整数を表し、
lは1~20、好ましくは2~8の整数を表す)を触媒の存在下で重合させる工程を含む、(1)又は(2)に記載のコポリマーを製造する方法。
(4)PDCの誘導体がビス(2-ヒロドキシエチル)2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(BHPDC)である、(3)に記載の方法。
(5)下記一般式(IV)で表される繰り返し単位を有するポリエステル化合物
【化4】
(式中、nは2~2000の整数を表し、
PLLAは下記の一般式(II)で表される:
【化5】
(式中、各oは独立して5~20、好ましくは5~10の整数を表し、
lは1~20、好ましくは2~8の整数を表す)。
(6)lが4である、(5)に記載の化合物。
(7)分子量1,000~2,000,000の範囲にある、(5)又は(6)に記載の化合物。
(8)(5)に記載の一般式(IV)で表される繰り返し単位を有するポリエステル化合物の製造方法であって、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)に下記式(III)で表わされるポリ乳酸ジオール
【化6】
(式中、各oは独立して5~20、好ましくは5~10の整数を表し、
lは1~20、好ましくは2~8の整数を表す)
を触媒の存在下で重合させる工程を含む、方法。
(9)lが4である、(8)に記載の方法。
(10)一般式(IV)の化合物の分子量が1,000~2,000,000の範囲にある、(8)に記載の方法。
(11)下記一般式(V)で表されるポリウレタン化合物
【化7】
(式中、R
2はその構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の二価残基であり、
各oは独立して5~20、好ましくは5~10の整数を表し、
lは1~20、好ましくは2~8の整数を表し、
pは1~20、好ましくは2~8の整数を表し、
xは2~2000、好ましくは5~1000、より好ましくは10~500の整数を表し、
yは2~2000、好ましくは5~1000、より好ましくは10~500の整数を表す)。
(12)一般式(V)の化合物の分子量が1,000~2,000,000の範囲にある、(11)に記載の方法。
(13)(11)に記載の一般式(V)で表される繰り返し単位を有するポリウレタン化合物の製造方法であって、下記式(III)で表わされるポリ乳酸ジオール
【化8】
(式中、各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表す)にジイソシアネートを重合させ、その後ビス(2-ヒロドキシエチル)2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を添加しさらに重合させる工程を含む、方法。
(14)lが4である、(13)に記載の方法。
(15)一般式(V)の化合物の分子量が1,000~2,000,000の範囲にある、(13)に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性に優れたポリ乳酸をベースとするポリマーを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】PLLA-1000及びPLLA-1000-PDCの
1H-NMRスペクトル
【
図2】PLLA-1000及びPLLA-1000-PDCのGPC
【
図3】PLLA-2000及びPLLA-2000-PDCの
1H-NMRスペクトル
【
図4】PLLA-2000及びPLLA-2000-PDCのGPC
【
図5】PLLA-3000及びPLLA-3000-PDCの
1H-NMRスペクトル
【
図6】PLLA-3000及びPLLA-3000-PDCのGPC
【
図7】140℃×30min→160℃×3日の条件(Entry 5)で重合させたPLLA-2000-PDCのGPC
【
図8】140℃×30min(常圧)→160℃×8h(減圧)の条件(Entry 6)で重合させたPLLA-2000-PDCのGPC
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者は、PDC又はその誘導体に、ポリ乳酸の代わりにポリ乳酸ジオールを重合させることで、分子量が数万から数百万のオーダーのポリ乳酸をベースとするポリマーの獲得に成功した。
【0011】
PDC又はその誘導体
PDCはリグニン等の植物芳香族成分の生分解最終中間体であり、工業的スケールで製造でき、機能性プラスチック原料や化学製品の原料として有望視されている。PDCは、例えば、特許文献1記載の発酵法により、バニリン、シリンガアルデヒド、バニリン酸、シリンガ酸もしくはプロトカテク酸のようなリグニン等の植物由来の低分子化合物、又はその混合物から容易に得ることができる。PDCの誘導体は例えばその炭素数1~4のアルキルエステル、例えばメチルエステル、エチルエステル、n-プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル等が挙げられる。特に好ましいのはビス(2-ヒロドキシエチル)2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(BHPDC)である。
【0012】
ポリ乳酸をベースとするポリマー
本発明の新規のポリ乳酸をベースとするコポリマーは下記の構成単位を含む:
下記の一般式(I)で表される構造単位:
【化9】
(式中、R
1は存在しないか、又は炭素数1~10のアルキレンである)
と下記の一般式(II)で表される構造単位:
【化10】
(式中、各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表す)。
上記コポリマーは、好ましくは分子量1,000~2,000,000の範囲、より好ましくは分子量10,000~2,000,000の範囲、より好ましくは分子量20,000~2,000,000の範囲、より好ましくは分子量100,000~2,000,000の範囲にある。ここでいう分子量は重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、ピークトップ分子量(Mp)のいずれであってもよい。
上記コポリマーはポリエステルでもポリウレタンであってもよい。
【0013】
上記コポリマーはPDCやPDC誘導体に下記式(III)のポリ乳酸ジオールを触媒の存在下で重合させることで製造することができる。
【化11】
(式中、各oは独立して5~20の整数を表し、
lは1~20の整数を表す)。
【0014】
式(III)のポリ乳酸ジオール
式(III)のポリ乳酸ジオールは例えば、分子量が500g/mol~10,000g/molであり、分子量分布が1.1~1.5であり、生分解性が良好であり、生分解性材料の合成のための用途要求を満たすことができる。
【0015】
上記ポリ乳酸ジオールは、例えば特許文献3に記載の方法に従って得ることができる。具体的には有機化合物を触媒、ジオール化合物を開始剤として用いてラクチドの重合反応を実施し、上記ポリ乳酸ジオールを得ることができる。
【0016】
ここで用いる触媒は、例えば4-ジメチルアミノピリジン、1,5,7-トリアジドビシクロ(4.4.0)デカン-5-エン、1,8-ジアザビシクロウンデカン-7-エン、7-メチル-1,5,7-トリアジドビシクロ(4.4.0)デカン-5-エン、ホスファゼン、チオ尿素のいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせを含むが、これに限定されない。
【0017】
ラクチドは、L-ラクチド、D-ラクチド、DL-ラクチドのいずれか1種または2種以上の組み合わせを含むが、これに限定されない。
【0018】
ジオール化合物は、脂肪族ジオール、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、グリセリンのいずれか1種又は2種以上の組み合わせであることがより好ましいが、これに限定されない。脂環族ジオール、芳香族ジオールのいずれか1種又は2種以上の組み合わせを含む場合もあるが、これに限定されない。
【0019】
触媒とラクチドの質量比は(1.0×10-4~5.0×10-3):1であることが好ましい。
【0020】
重合反応の温度は好ましくは100~180℃、より好ましくは120~160℃、重合反応の時間は好ましくは1~10時間、より好ましくは3~6時間、温度と時間を適宜調整することで、所望の範囲の分子量のポリ乳酸ジオールにすることができる。好ましい実施形態において、上記ポリ乳酸ジオールの製造方法は、保護雰囲気中で重合反応を行うことを含む。保護雰囲気としては、窒素雰囲気を用いることが好ましい。
【0021】
ポリ乳酸をベースとするポリエステル
一般式(IV)で表される繰り返し単位を有するポリエステル化合物
【化12】
の製造は、PDCと式(III)のポリ乳酸ジオールとの、触媒的に有効な量の触媒を使用し、重合反応を行うことで実施できる。
【0022】
重合触媒は金属または非金属であってよく、様々な非金属の有機触媒を含む。適した金属触媒は、亜鉛粉末、スズ粉末、アルミニウム、マグネシウムおよびゲルマニウム、金属酸化物、例えば酸化スズ(II)、酸化アンチモン(III)、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン(IV)および酸化ゲルマニウム(IV)、金属ハロゲン化物、例えば塩化スズ(II)、塩化スズ(IV)、臭化スズ(II)、臭化スズ(IV)、フッ化アンチモン(III)、フッ化アンチモン(V)、酸化亜鉛、塩化マグネシウムおよび塩化アルミニウム、硫酸塩類、例えば硫酸スズ(II)、硫酸亜鉛および硫酸アルミニウム、炭酸塩類、例えば炭酸マグネシウムおよび炭酸亜鉛、ホウ酸塩類、例えばホウ酸亜鉛、有機カルボキシレート類、例えば酢酸スズ(II)、オクタン酸スズ(II)、乳酸スズ(II)、酢酸亜鉛および酢酸アルミニウム、有機スルホン酸塩類、例えばトリフルオロメタンスルホン酸スズ(II)、トリフルオロメタンスルホン酸亜鉛、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、メタンスルホン酸スズ(II)およびp-トルエンスルホン酸スズ(II)、ジブチルスズジラウラート(DBTL)、Sb2O3、Ti(IV)bu、Ti(IV)isoおよびその他を含む。重合触媒は、非金属の酸、例えば有機酸であってもよい。有機酸は弱酸であっても強酸であってもよい。適した有機酸の例は、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、1-ブタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、p-キシレン-2-スルホン酸、ナフタレン-1-スルホン酸およびナフタレン2-スルホン酸、および強酸、例えば塩酸、硫酸、氷酢酸、およびリン酸を含む。前記方法の好ましい態様において、重合触媒はオクタン酸スズ(II)である。
【0023】
触媒をニートで、または溶剤に溶解して添加することによって、反応混合物中への触媒の添加を実施できる。触媒を溶解するために使用できる、適した溶剤は、限定されずに、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドおよびトルエンを含む。
【0024】
前記重合反応は、反応混合物を、約100℃~約300℃の温度で、約0.1時間~約10日間、好ましくは約0.5時間~約5日間の範囲の時間、加熱重合して、溶融された反応混合物中にポリエステルを形成することを含む。また、反応は所定時間前重合させ、その後所定時間後重合させるといった複数の段階の重合工程を採用してもよい。例えば、100℃~約300℃の温度、好ましくは約120~160℃の温度で約0.1時間~約5時間、好ましくは約0.5~2時間前重合させ、その後、100℃~約300℃の温度、好ましくは約150~200℃の温度で約1日~約7日間、好ましくは約2~5日間加熱することで後重合させることで、所望の分子量のポリエステルを製造することができる。
【0025】
得られたポリエステルの精製方法としては、公知の方法を採用可能である。たとえば、上記重合反応によって得られた粗ポリマーを溶媒に分散、溶解させ、沈殿物を濾過又は遠心分離などにより除去し、得られた溶液を減圧下で乾燥させ、ポリエステルの固形物を獲得することができる。溶媒としては、本発明のポリエステルが溶解するものであればよく、特に制限はなく適宜選択することができるが、例えば極性溶媒、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム又はジクロロエタン等の塩素置換炭化水素溶媒、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド及びこれらの誘導体などが挙げられる。
【0026】
本発明の耐熱性に優れたポリエステルは、日用品、包装材料、医薬品、電気機器材料、家電筐体、自動車材料等の用途として幅広く利用される。特に好ましくは、織物、編物、不織布、カップ等の成形品等の様々な繊維製品の形態を採ることができ、例えばシャツやブルゾン、パンツ、コートといった衣料用途、カップやパッド等の衣料資材用途、カーテンやカーペット、マット、家具等のインテリア用途、さらにベルト、ネット、ロープ、重布、袋類、フェルト、フィルター等の産業資材用途、車両内装用途にも好適に用いることができる。
【0027】
ポリ乳酸をベースとするポリウレタン
一般式(V)で表される繰り返し単位を有するポリウレタン化合物
【化13】
(式中、R
2はその構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の二価残基であり、
各oは独立して5~20、好ましくは5~10の整数を表し、
lは1~20、好ましくは2~8の整数を表し、
pは1~20、好ましくは2~8の整数を表し、
xは2~2000、好ましくは5~1000、より好ましくは10~500の整数を表し、
yは2~2000、好ましくは5~1000、より好ましくは10~500の整数を表す)の製造は、(1)式(III)のポリ乳酸ジオールにジイソシアネートを重合させることでプレポリマーを製造し、(2)そのプレポリマーにさらにビス(2-ヒロドキシエチル)2-ピロン-4,6-ジカルボン酸を添加し、重合させる工程を含ませることで実施できる。
なお、その構造中に活性水素を有さないヘテロ原子を含んでいてもよい炭化水素系の二価残基を示すR
2は、R
3、R
3-(OR
3)
a、又はR
4-(O
2C-R
3-CO
2R
4)
b(但し、R
3及びR
4は各々独立に、炭素数1~24の飽和又は不飽和炭化水素の二価残基を示し;a及びbは各々独立に、1~4の整数を示す)が好ましい。ここで、R
3としては、例えば、炭素数1~24の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基(例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基等)、炭素数3~8の環状アルカンの二価残基(例えば、シクロヘキシレン基等)、炭素数5~10の芳香族炭化水素の二価残基(フェニレン基、トリレン基、キシリレン基、ナフチレン基、メチルナフチレン基、ビフェニレン基等)、炭素数1~6のアルキル基と炭素数6~14のアリール基とからなる炭素数7~24のアラルキルの二価残基、炭素数8~24のアルキルアリールアルキル基の二価残基等挙げられる。R
3-(OR
3)
a基としては、例えば、-CH
2CH
2-(OCH
2CH
2)
2-が挙げられる。R
4-(O
2C-R
3-CO
2R
4)
b基としては、-CH
2CH
2-(O
2C-CH
2CH
2-CO
2CH
2CH
2)-が挙げられる。これらの炭化水素系の二価残基は、アルキル基(好ましくは、C
1-C
6アルキル)、アルコキシ基(好ましくは、C
1-C
6アルコキシ)、アルカノイル基(好ましくは、C
2-C
6アルカノイル)、アリール基(好ましくは、C
6-C
14アリール)、アラルキル基(好ましくは、C
7-C
18アラルキル)等の活性水素を有さない置換基で更に置換されていてもよい。R
2としては、炭素数1~24の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、又は炭素数5~10の芳香族炭化水素の二価残基が好ましい。
【0028】
ジイソシアネートとしては、特に制限されるものではないが、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)、ナフタレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;エチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等の脂肪族ジイソシアネート;水素添加4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(HMDI)、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、イソフォロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加m-キシリレンジイソシアネート(HXDI)、ノルボルナンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の脂環式ジイソシアネートなどが挙げられる。好ましいのはヘキサメチレンジイソシアネートである。
【0029】
重合には触媒は必ずしも必要ではないが、通常のポリウレタンの製造に用いられる触媒、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N,N,N′,N′-テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、N-メチル-N’-ジメチルアミノエチルピペラジン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ブタンジアミン、1,2-ジメチルイミダゾール及びその他の第3級アミン類;ジメチルアミンなどの第2級アミン類;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、及びその他のアルカノールアミン類;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド及びその他のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド類;ナトリウムフェノラートなどのアルカリ金属フェノラート;水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;ナトリウムメトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、2-エチルヘキサン酸カリウムなどのカルボン酸のアルカリ金属塩;トリエチルホスフィンなどのホスフィン類;カリウム-サリチルアルデヒドなどの金属キレート化合物;スタナスアセテート、スタナスオクトエート(スタナス2-エチルヘキソエート)及びその他の有機スズ(II)化合物;ジブチルチンオキシド、ジブチルチンジクロライド、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジブチルチンマレエート、ジオクチルチンジアセテート及びその他の有機スズ(IV)化合物;ジアルキルチタネートなどのその他の有機金属化合物を挙げることができる。トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N′,N′-トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサハイドロ-s-トリアジンなどのイソシアヌレート化触媒も使用できる。好ましくはジブチルチンジラウレート(DBTDL)が使用される。これらの触媒は、反応混合物中で、約0.001~1重量%用いることが好ましい。
【0030】
溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の脂環式炭化水素系溶媒;酢酸エステル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は2種以上を組み合わせて使用することもできる。溶媒の使用量は、原料モノマーの総量100重量部に対して、通常20~1,000重量部の量で用いられる。
重合反応は、0℃~室温で、場合により加熱して、1時間~数時間行えばよい。
【0031】
次いで上記プレポリマーの重合反応液に(BHPDC)を添加し、さらに室温で数時間から数日にわたり重合させ、所望の分子量の式(V)のポリウレタンが製造される。
【0032】
本発明のポリウレタンを含む組成物は、使用にあたって、従来のポリウレタン組成物に使用される各種添加剤、例えばリン系化合物、ハロゲン含有化合物等の難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、可塑剤などを添加することができる。
【0033】
本発明のポリウレタンは、シート、フィルム、ベルト、ホース、防振材、靴底、人工皮革、合成皮革、繊維処理剤、塗料、接着剤、防水材、弾性繊維、床材など各種用途に有用である。また、本発明のポリウレタンが発泡ウレタンの場合には、断熱材、構造材、保護材、遮音材等の各種用途、例えば、自動車用カーペット、天井・壁用の衝撃吸収用や吸音用クッション材、各種安全部品の内張り、ガスケット、エアーフィルター、家庭用及び業務用カーペット、衣料用などに有用である。
【0034】
以下に、いくつかの実施形態によって本発明の技術的態様をさらに詳細に説明する。しかしながら、選択された実施形態は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明を説明するためにのみ使用される。
【0035】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
実施例1(ポリエステルの合成)
PDC(1当量)に、1,4-ブタンジオールとラクチドを重合させることで製造したポリ乳酸ジオール(分子量約1000(PLLA1000)、分子量約2000(PLLA2000)又は分子量約3000(PLLA3000))それぞれ1当量を触媒Sb
2O
3(0.05当量)の存在下、140℃で30分前重合させ、その後180℃で5日間かけて後重合させた。
反応系は下記のとおり:
【化14】
【0037】
それぞれ反応混合物にジクロロメタンを添加し、茶色の沈殿物を濾過して除去し、残存溶液を真空乾燥させることでポリマー生成物を得た。それぞれのポリマーの
1H NMR(CDCl
3)及びGPC(THF)を測定した。その結果を
図1から6に示す。得られた反応溶液やポリマーの収量、収率、分子量を表1にまとめた:
【0038】
【0039】
以上から、PDCとポリ乳酸ジオールを重合させることで、分子量が100,000を超えるポリ乳酸をベースとするポリエステルを製造できることがわかった。
【0040】
実施例2(ポリエステルの合成)
ポリ乳酸ジオール(PLLA)とPDCの重合物について、PLLAの分子量を2,000のものに固定し、反応条件検討を開始した。
N2雰囲気下で140℃×30min→160℃×3日の条件(Entry 5)での反応、および140℃×30min(常圧)→160℃×9h(減圧)の条件(Entry 6)で反応を行った(表1)。Entry 5は反応時間を延ばすことで高分子量分が増えるかどうかの確認が目的である。Entry6は減圧下で反応させることで時間短縮を目的としている。
【0041】
【0042】
Entry5では反応時間を3日に延ばしたことでGPCで高分子量のものが増えることがわかる(
図7)。Entry 6の160℃での反応を減圧下で行ったものでは高分子量側はなだらかな肩状であった(
図8)。収率は13%程であり、他の20時間反応させたものと同等であった。
【0043】
実施例3(ポリウレタンの合成)
分子量2,000のPLLAジオール 3.0 g (1.50 mmol)をTHF 20mLに溶解させ、室温、Ar雰囲気下で攪拌した。ここにヘキサメチレンジイソシアネート 0.5 g (3 mmol)を加えた後、さらにジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)を4滴加えて室温で3時間攪拌した。その後、BHPDC 0.3 g (1.10 mmol)を溶かしたTHF溶液10mLを加えて、さらに室温で24時間攪拌した。メタノール2mLを加えて重合を停止した後、大量のメタノールに反応溶液を注いで白色沈殿を得た。白色沈殿を濾過により回収した後、少量のTHFに溶解させた。THF溶液を大量のヘキサンに注いで再沈殿精製した。室温で24時間真空乾燥して目的高分子を得た。
反応系は下記のとおり:
【化15】