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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090969
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
F16J15/34 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207195
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】青沼 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】榎本 浩二
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041BB01
3J041BC02
3J041BD01
3J041DA15
(57)【要約】
【課題】摺動部と母材部とが接合層により接合された摺動部品において、接合層における剥離を抑制し、より高性能なメカニカルシールを実現するための摺動部品を提供すること。
【解決手段】炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料からなる摺動部1とシリコン系セラミックス母材部2からなる摺動部品Zであって、前記摺動部と前記母材部とは、純度99.5%以上のシリコンからなる厚みが40μm以上300μm以下の接合材3により接合されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料からなる摺動部とシリコン系セラミックス母材部からなる摺動部品であって、
前記摺動部と前記母材部とは、純度99.5%以上のシリコンからなる接合材により接合されており、
その接合層の厚みが40μm以上300μm以下であることを特徴とする摺動部品。
【請求項2】
前記摺動部の前記母材部に対する接合面は、粗面化されていることを特徴とする請求項1に記載された摺動部品。
【請求項3】
前記摺動部が有する細孔が、熱硬化性樹脂から炭素化されたカーボン成分により封止されていることを特徴とする請求項1に記載された摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部品に関し、例えば、メカニカルシールに好適な摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールに用いられる摺動部に対して、炭化ケイ素等のセラミックスを用いることが古くから知られているが、近年、硬くて摩耗しにくく、好適な密封特性と潤滑性を有する炭素繊維強化炭化ケイ素セラミックスの適用が注目されている。
【0003】
摺動部を炭素繊維強化炭化ケイ素セラミックスで形成し、これを摺動部品として単体で使用した場合、その弾性率が低いため、使用時に変形し、摺動面から漏れが生じやすい。そのため、摺動部を、より弾性率の大きい基材(例えば炭化ケイ素セラミックス)に取り付け、摺動部品を構成することが行われている。
【0004】
図4に、摺動部を基材である母材部に取り付けた従来の摺動部品の一例について、その一部を拡大断面図で示す。摺動部11は、母材部12の一主面12aに沿って接合材13を介して取り付けられる。摺動部11の摺動面11aは母材部12の前記一主面12aと平行となるように配置される。そして、摺動部11の母材部12に接する外縁部は、接合材13による曲面のメニスカス部Mによって被覆されている。
【0005】
上記のように摺動部11は、接合材13によって母材12と接合されるが、使用時に接合材13からなる接合層から剥離が生じることがあるという課題があった。
この課題に対し、本願出願人は、特許文献1において、摺動部が炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料(炭素繊維強化炭化ケイ素セラミックス)、母材部がシリコン系セラミックス(炭化ケイ素セラミックス)、接合材がシリコンからなる摺動部品を開示している。
このように、摺動部と母材部が、共に接合材と同じシリコンを共通の構成材料としているので、各部材の接合の親和性が高く、好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-139432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、接合材にシリコンを用いた場合であっても、摺動部品の使用時において接合層に剥離が生じ、短時間で使用不能となることがあった。
本願出願人は、摺動部品全体の構成について検討を続ける上で、特に接合材にシリコンを用いることを前提として、接合層剥離の原因解明と解決手段について鋭意研究を行い、本発明をするに至った。
本発明の目的は、摺動部と母材部とが接合層により接合された摺動部品において、接合層における剥離を抑制し、より高性能なメカニカルシールを実現するための摺動部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明に係る摺動部品は、炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料からなる摺動部とシリコン系セラミックス母材部からなる摺動部品であって、前記摺動部と前記母材部とは、純度99.5%以上のシリコンからなる接合材により接合されており、その接合層の厚みが40μm以上300μm以下であることを特徴とする。
なお、前記摺動部の前記母材部に対する接合面は、粗面化されていることが望ましい。
また、前記摺動部が有する細孔が、熱硬化性樹脂から炭素化されたカーボン成分により封止されていることが望ましい。
【0009】
このように本発明に係る摺動部品にあっては、炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料からなる摺動部と、シリコン系セラミックスからなる母材部とを接合する接合材を純度99.5%以上のシリコン材料により形成し、接合材からなる接合層の厚みを40μm以上300μm以下とした。また、摺動部の母材との接合面を粗面化した。これにより、使用時に高温となった際に金属不純元素の多い界面層が形成される虞がなく、摺動部の剥離発生をより抑制することができる。
さらには、摺動部内部の空隙や微細なクラックがカーボン成分で封止された構成とすることにより、封止する媒体の漏れをより抑制することができる。
【発明の効果】
【0010】
摺動部と母材部とが接合層により接合された摺動部品において、接合層における剥離を抑制し、より高性能なメカニカルシールを実現するための摺動部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係る摺動部品を示す側面概略図(A)と正面概略図(B)である。
図2図1(A)の摺動部とその近傍を拡大した断面概略図である。
図3図1(A)の接合層近傍を拡大した断面概略図である。
図4】従来の一態様に係る摺動部の形態を示す断面概略図である。
図5】(A)(B)ともに実際の母材部と摺動部とを接合層で接合した様子を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第一の実施の形態)
以下、図面も参照して本発明に係る第一の実施の形態について詳細に説明する。本発明は、炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料からなる摺動部とシリコン系セラミックス母材部からなる摺動部品であって、前記摺動部と前記母材部とが、純度99.5%以上のシリコンからなる接合材により接合され、その接合層の厚みが40μm以上300μm以下となるものである。
【0013】
図1は、本発明の一態様に係る摺動部品を示す側面概略図(A)と正面概略図(B)である。ここで、摺動部品Zは、回転軸を中心にした円筒体なので、正面は前記回転軸と垂直な一面、側面は前記回転軸と平行で前記正面と垂直な一面、である。
【0014】
なお、本発明で示す概略図は、説明のために形状を模式的に簡素化かつ強調したものであり、ハッチングの一部を省略しており、また、細部の形状、寸法、および比率は実際と異なる。また、同一の構成については符号を省略、さらに、説明に不要なその他の構成は記載していない。
【0015】
図1に示す通り、摺動部品Zは、図示しない別の摺動部と面接触して摺動する好ましくは円環状に形成された摺動部1と、この摺動部1を固定する母材部2からなり、母材部2の中央に図示せぬ回転軸が貫通する貫通孔2Aを有する円筒体である。
【0016】
摺動部1は、メカニカルシールに適用する際に要求される特性を満たすものであるが、本発明では、より過酷な条件下で優れた摺動性能を発揮することを前提として、シリコン系の繊維強化セラミックスが好適に適用される。
【0017】
また、母材部2の弾性率は摺動部1の弾性率よりも大きい。摺動部1は、繊維強化セラミックスが好適であるが、この繊維強化セラミックスは前述したとおり弾性率が低いので、メカニカルシールとして使用する際に、流体の封止圧力により変形して、封止材の漏れが生じる。また、強度も十分とは言えず、耐久性を高めるという点では、不安が残るものといえる。
【0018】
そこで、摺動する面を有する摺動部1は、摺動特性に特化した物性とし、変形防止と耐久性向上は、摺動部1を直接固定する母材部2に担保させることで、トータルでメカニカルシールとして優れた特性を有するようにした。これを具体化した一形態が、母材部2の弾性率が摺動部1の弾性率よりも大きい、というものである。
【0019】
母材部2としては、摺動部1がシリコン系の繊維強化セラミックスの場合、繊維を含まない単一のシリコン系のセラミックスが好ましい。具体的な組み合わせとしては、摺動部1が炭素繊維強化炭化ケイ素セラミックスの場合、母材部2は、いわゆる単一組成の炭化ケイ素セラミックスである。ここでいう単一組成とは、主成分が炭化ケイ素、という意味で用いており、数%の他の元素(シリコン、ボロン、不可避不純物)を含んでいてもかまわない。
【0020】
なお、上記した弾性率の差については、用いられる材料、摺動部1または母材部2の形状にも依存するので、一義的に規定することは容易ではないが、セラミックス材料を摺動部として用いるという限定条件下においては、母材部2の弾性率は摺動部1の弾性率の1.1倍以上1.5倍以下がより好ましい。
【0021】
母材部2の弾性率が摺動部1の弾性率の1.1倍未満では、母材としての強度の面で不十分であり、本発明の効果が得られにくい。一方、母材部2の弾性率が摺動部1の弾性率の1.5倍を超えると、弾性率以外の物性、例えば熱膨張係数も差が大きくなり、母材部2と摺動部1の接触部で熱応力差に起因する亀裂の発生を誘発する恐れがあり、これも好ましくない。
【0022】
なお、摺動部1は摩擦係数が低く耐摩耗性が良好であることから、摺動部1による層の厚みは1mm以下でも良い。この場合、より高弾性の母材部2の構成割合が相対的に増加することから変形しにくくなり、より厳しい環境下における液漏れの抑制が期待できる。
【0023】
また、好ましい形態として、摺動部1の摺動面と平行な母材部2の一主面には摺動部を嵌合させる嵌合部2cが設けられている。図2は、図1(A)の摺動部とその近傍を拡大した断面概略図である。
図2に示す通り、摺動部1の摺動面1aと平行な母材部2の一主面2aに、摺動部1が嵌め込まれるように、凹形状の嵌合部2cが設けられている。ここで、摺動部1の摺動面1aと平行な母材部2の一主面2aとは、互いに平行であることを厳密に要求するものではなく、設計上の誤差、使用年数の経過による摺動面1aの摩耗、摺動部1の位置ずれ等を考慮し、実用上支障のない範囲で、完全な平行からのずれ(1%程度)は許容される。
【0024】
なお、好ましくは母材部2の一主面2aと平行する摺動部1の幅をL1、母材部2の一主面2aに形成された嵌合部2cに埋設される摺動部1の埋設厚さ寸法をL2としたときに、L1/L2が1.5以上20以下の範囲である。嵌合部2cを設けることで、図4に示す従来例のように、摺動部材11と母材部12が、互いに平面同士で接合する形態と比べて、特に、回転軸の径方向に対するずれ防止が強力になる。
【0025】
摺動部1と母材部2は、接合材3により嵌合部2cで接合されている。図2に示すように、摺動部1と母材部2は、母材部2の一部が嵌合部2cに差し込まれるような形で挿入され、接合材3が介在して嵌合部2cで接合されている。すなわち接合材3は、接着剤のような役割を担っているともいえる。
【0026】
具体的には、摺動部1が炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料(炭素繊維強化炭化ケイ素セラミックス)、母材部2がシリコン系セラミックス(炭化ケイ素セラミックス)、接合材3がシリコンからなる。このように、摺動部1と母材部2が、共に接合材3と同じシリコンを共通の構成材料としているので、各部材の接合の親和性が高く、好ましい。
【0027】
シリコンからなる接合材3は、シリコンの純度が99.5%以上である。本願出願人の研究の結果、シリコン原料の純度が低い場合には、炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料からなる摺動部1の表面層とシリコン接合層3A(図3参照)との界面にAlやFe等の不純物元素が多い界面層(金属不純物が固溶した界面層)が存在し、その金属不純物が固溶した界面層を起因として、摺動部品の使用時において接合層3Aに剥離が生じ、短時間で使用不能となることがわかった。具体的には、99.5%未満であると、使用時に高温となった際に金属不純元素の多い界面層が形成される虞があることを知見した。
【0028】
また、図3に示すように接合材3により摺動部1と母材部2とを接合した後に形成される接合層3Aの厚さtは、40μm以上300μm以下であり、好ましくは50μm以上200μm以下である。接合層3Aの厚さtが300μmより大きいと接合層の熱膨張の影響により欠陥が生じやすくなり、結果として内部でクラックが生じる虞がある。40μmより小さいと、炭化ケイ素焼成体と炭素繊維強化炭化ケイ素セラミックスの接合表面の形態の影響が生じやすく接合層の形成が不十分で内部に欠陥が生じやすくなる。その結果として、極端な強度低下が発生する虞がある。
【0029】
また、本願出願人の研究によれば、接合層3Aの剥離が生じやすい箇所は、摺動部材1の接合面における滑らかな面で接合層3Aが接していることがわかった。
そのため、摺動部1の母材2との接合面は、サンドブラストにより粗面加工が施されていることが望ましい。具体的には、例えば、サンドブラスト装置により摺動部1の接合面に対し、#220の炭化ケイ素メディアを0.2MPaの圧力で5sec以上10sec以下噴出し粗面化する。
これにより、摺動部1側の接合面に滑らかな面が無くなり、母材2との接合をより強固なものとし、摺動部1の剥離をより抑制することができる。
なお、接合層3Aの厚さを測定する際に、摺動部側の表面が粗面化されると、測定に誤差が出ることが考えられる。図5(A)(B)の顕微鏡写真のように摺動部側の表面は、10μmから50μmほどの凹凸を有している。そのため、任意の断面を顕微鏡で撮影し、表面の凹凸を一様に馴らした仮想的な面を基準面として想定して測定すればよい。
【0030】
さらに母材部2の一主面2a上に位置する嵌合部2cの外縁部は、接合材3からなる曲面のメニスカス部Mにより被覆されている。図2に示すように、母材部2の一主面2a上に位置する嵌合部の外縁部2b、すなわち、摺動部1と嵌合部の継ぎ目に相当する円環状の箇所は、むき出しではなく、接合材3で覆われており、その形状は、例えば特許文献1に記載の発明に例示される、いわゆるメニスカス形状である。
【0031】
メニスカス部Mは、摺動部1と母材部2の接合強度の保持、嵌合部2cのシール性確保、という役割を担っている。なお、本発明では、円環状に凹ませた嵌合部2cの全周域に亘って、このメニスカス部Mが一様に形成されている形状が理想的ではあるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、メニスカス部Mは、前記嵌合部2cの全周域の一部に形成されていてもよい(おおむね6割以上)。なお、好ましくは、メニスカス部Mと嵌合部2cの外縁部2bとの最短距離が、L2の0.1倍以上0.7倍以下である。
【0032】
以上、本発明に係る第一の実施の形態によれば、摺動部品Zは、炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料からなる摺動部1とシリコン系セラミックスからなる母材部2とを接合する接合材3として純度99.5%以上のシリコン材料を用いて厚さ40μm以上300μm以下の接合層3Aを形成した。また、摺動部1の母材2との接合面を粗面化した。これにより、使用時に高温となった際に金属不純元素の多い界面層が形成される虞がなく、摺動部1の剥離発生をより抑制することができる。
【0033】
なお、前記第一の実施の形態においては、摺動部1の摺動面と平行する母材部2の一主面には摺動部1を嵌合させる嵌合部が設けられているものとしたが、本発明にあっては、その構成に限定されるものではなく、図4のように母材部2の平坦な一主面に摺動部1を接合材3により接合するようにしてもよい。
【0034】
(第二の実施の形態)
以下、本発明に係る第二の実施の形態について説明する。この本発明に係る第二の実施形態では、上記説明した第一の実施の形態の構成に対し、摺動部1の構成を一部変えたものとなる。そのため、以下の説明においては第一の実施形態と共通する部材については同一の符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0035】
上記した第一の実施形態のように、摺動部1を炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料で形成する場合、これは炭素繊維と、炭化ケイ素とシリコンとのセラミックマトリックスで構成されている。さらに、この炭素繊維強化シリコン系セラミックス複合材料は、製造プロセスの最終工程において、シリコンを含浸する熱処理により緻密化を行う(緻密化処理という)。
【0036】
しかしながら、この緻密化処理にあっては、それぞれの構成材料が固有の物理特性を有するため、熱処理後の冷却における個々の成分の熱膨張差により摺動部1内に微細なクラックが生じる。この摺動部1をメカニカルシールとして適用した場合、過酷な使用環境でも破断しにくいが、前記クラックを通じて封止する媒体の漏れが生じる虞がある。また、漏れの他の原因として前記熱膨張差によるクラック以外に、含浸するシリコンで完全に充填されなかった空隙も発生することがある。
【0037】
これら漏れの原因となる空隙や微細なクラック(以下、これら空隙やクラックを細孔ともいう)を低減するため、樹脂を充填して封止することが考えられる。しかしながら、熱硬化性樹脂の耐熱温度は100℃~200℃程度が一般的である。更に熱可塑性樹脂を用いた場合は100℃以下である。即ち、樹脂により細孔を埋めることは容易にできるが、耐熱温度が低いためメカニカルシールのような過酷な環境化では摺動時に生じる摩擦熱により樹脂成分が劣化し、漏れだけではなく樹脂の変質により固着などが生じ、最終的に摺動摩耗部品として機能しなくなる。
【0038】
耐熱性を確保しながら細孔を封止するためにはセラミックスで細孔を充填する必要がある。しかしながら、一般的なセラミックスは自己潤滑性が無いばかりか、セラミック前駆体の金属アルコキシドなどを含浸充填しても収率が悪いために容易に充填することは困難であった。また、充填プロセスやその後の熱処理で加圧することで収率を向上させるなどの追加プロセスも考えられるが、設備コストが高くなる等の課題があった。
【0039】
この課題を解決するため、本発明に係る第二の実施の形態では、第一の実施の形態と同様に、摺動部1にシリコン系の繊維強化セラミックスを用いるが、緻密化処理において生じたクラックや空隙などの細孔をカーボン成分により封止している。
このカーボン成分は、前記緻密化処理後の繊維強化セラミックスのクラックや空隙等の細孔に、熱硬化性樹脂(好ましくはフェノール樹脂)を含浸し、熱処理(例えば180℃)により硬化後、さらに不活性雰囲気下で高熱処理(例えば600℃)して熱硬化樹脂を炭化させ、カーボン成分に変質させたものである(このクラックや空隙等の細孔の封止処理は複数回繰り返すことが好ましい)。このように摺動部1中の細孔をカーボン成分により封止する技術によれば、細孔をセラミックスで封止する場合のように設備コストが高くなることもなく容易に細孔を封止することができる。
【0040】
このように本発明に係る第二の実施形態によれば、摺動部1は、繊維強化セラミックス中のクラックや空隙などの細孔がカーボン成分により封止されるため、従来の緻密化処理のみを施した繊維強化セラミックスからなる摺動部材よりも、封止する媒体の漏れをより抑制することができる。
【実施例0041】
以下、本発明を実験例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらにより制限されるものではない。
【0042】
[実験1]
実験1では、本発明の第一の実施の形態について検証を行った。即ち、以下に示す方法で、摺動部1、母材部2、そして、接合部3を作製し、これらの組み合わせからなる摺動部品Zを製造した。そして、摺動部品Zを用いて被摺動面に対し機械研磨を実施し、目視による漏れの評価を行った。
また、摺動部品の接合の曲げ強度評価のために、以下に示すプロセスを用いて摺動部と母材とを接合したブロックを作製した。このブロックを任意の寸法に加工し、JIS-R1624 セラミック接合の曲げ強度試験により四点曲げ強度評価を行った。
【0043】
(実施例1)
(摺動部1)
成形用原料は、カーボンコートされた平均長さ5mmの炭素短繊維50重量部、平均粒径0.2μmの炭化珪素粉30重量部、フェノール樹脂10重量部を混錬、乾燥、解砕、篩別混合して作製した。この成形用原料を180℃に加熱した鉄製の型(外径90mm×内径50mm×厚さ30mm)に入れ、1000N/cm2の加圧の条件下で一軸圧縮し硬化させた後に脱型して、還元雰囲気下にて1800℃で1時間の焼成を実施した。さらに続けて、前記工程により得られた焼成体に、133Paの減圧下にて1500℃で1時間の溶融シリコン(純度99.5%)含浸を行った(緻密化処理)。所望の寸法に研削加工し、ここで得られた摺動部1は、密度2.5g/cm、開気孔率0.5%であった。
また、摺動面1aは、サンドブラスト装置により摺動部1の接合面に対し、#220の炭化ケイ素メディアを0.2MPaの圧力で5sec以上10sec以下噴出し粗面化した。
【0044】
(母材部2)
平均粒径0.7μmの炭化ケイ素粉末原料(α‐SiC、純度98%)に対して、焼結助剤として炭化ホウ素0.5wt%、フェノール樹脂系バインダをC換算で5wt%、そして、分散媒としてアルコールを、それぞれ樹脂製ボールミルにて混合してスラリーを調製した。前記スラリーをスプレードライにより造粒した後に、外径90mm×内径50mm×厚さ30mm、片方の主面に幅5mm×深さ0.2mmの嵌合部が形成される金型を用意し、これを用いて成形体を形成した。前記成形体を、圧力200kg/cm2で一軸プレス成形し、続けて2200℃で3時間焼成することで、母材部2となる炭化ケイ素焼結体を作製した。得られた炭化ケイ素焼結体の密度は3.1g/cm、開気孔率は0.3%の緻密体であった。
【0045】
(接合部3)
純度99.5%の粉末シリコンを有機溶剤に分散させたスラリーを用意し、これを母材部2の嵌合部2cの内面に塗布し、さらに摺動部1を嵌合した。これを、133Paの減圧下にて1450℃で1時間加熱することでシリコンを溶融して、接合を行った。接合層の厚みは、100μmであった。
【0046】
摺動部品Zにおいて、その摺動面は機械研磨を行い、Ra0.1μm、Rzjis0.9μmに仕上げた。シール特性はJIS(B2405)に基づくメカニカルシール性能試験装置(条件1:3MPa,15m/sec,条件2:1MPa,50m/sec,条件3:6MPa,10m/sec(回転速度から割り出される速さ))を使用し評価した。
被摺動面は同じハイブリッドセラミックス製メカシール、媒体をタービン油として実施した。漏れの評価は目視で行った。
また、接合強度の評価として、四点曲げ強度の測定を行った。
【0047】
(比較例1)
比較例1では、接合部として、純度95%の粉末シリコンを有機溶剤に分散させたスラリーを用いた。接合層の厚さは150μmとした。その他の製造条件は実施例1と同様である。得られた摺動部1の密度は2.4g/cm3、開気孔率は0.8%であった。
【0048】
実施例1および比較例1によるシール評価の結果を表1に示す。表1において、液水漏れなしを○、不連続に水漏れありを△、連続して液水漏れありを×とした。
【表1】
【0049】
表1に示すように、実施例1では摺動部品の変形が抑制され、液水漏れが抑えられたと同時に接合層に剥離が生じないという結果が得られた。
【0050】
(比較例2)
比較例2では、接合層の厚さは30μmとした。その他の製造条件は実施例1と同様である。
【0051】
(比較例3)
比較例3では、接合層の厚さは400μmとした。その他の製造条件は実施例1と同様である。
【0052】
(比較例4)
比較例4では、接合部として、純度95%の粉末シリコンを有機溶剤に分散させたスラリーを用いた。接合層の厚さは100μmとした。その他の製造条件は実施例1と同様である。
【0053】
(実施例3)
実施例3では、接合部の厚さを50μmとした。その他の条件は実施例1と同様である。
【0054】
(実施例4)
実施例4では、接合部の厚さを280μmとした。その他の条件は実施例1と同様である。
【0055】
(実施例5)
実施例5では、摺動部の接合面に粗面化加工(サンドブラスト)を施さなかった。その他の条件は実施例1と同様である。
【0056】
実施例1、3、4、5及び比較例1、2、3、4のセラミックス接合強度の評価結果を表2に示す。
【表2】
【0057】
表2の四点曲げ強度の結果から比較例1~4よりも実施例1の方が、接合強度が向上していることが分かった。更に評価後のサンプル外観から実施例1では摺動部の中でクラックが生じていたが、接合層にはクラックは見られなかった。それに対して比較例のサンプルでは、接合面でクラックが生じ、摺動部が剥離した。
また、実施例1の接合部分の断面を観察した結果、摺動部内部のシリコンマトリックスとシリコン接合層は一体化し強固に接合していることを確認した。
【0058】
[実験2]
実験2では、本発明の第二の実施の形態について検証を行った。即ち、以下に示す方法で、摺動部1を作製し、この密度と開気孔率を測定し、その後、表面を機械研磨し、表面粗さを測定して摺動部中の空隙の封止状態を検証した。
【0059】
(実施例2)
(摺動部1)
実施例2では、シリコン浸漬による緻密化処理までは、実施例1と同様の条件、及びプロセスにより摺動部1を作製した。この段階で得られた摺動部1は、密度2.5g/cm、開気孔率0.5%であった。
【0060】
続けて封孔処理を行った。前記得られた摺動部1を液状フェノール樹脂に浸漬し、真空容器に設置後、ロータリーポンプにより10min程度減圧し、摺動部中の空隙やクラックにフェノール樹脂を含浸させた。その後、常圧に戻し、フェノール樹脂の浸漬液から摺動部を取り出し、表面に付着しているフェノール樹脂を拭き取った。含浸後の摺動部を180℃で熱処理し、含浸したフェノール樹脂を硬化させた。そして、得られた摺動部中の樹脂硬化体を不活性雰囲気下600℃で熱処理し、フェノール樹脂を炭化させカーボン成分に変質させた。
このような封孔処理を再度繰り返し行い最終的な摺動部1を得た。
この密度と開気孔率をセラミックのJIS規格であるJIS R1634で測定した。測定後表面を機械研磨し表面粗さ(Ra、Rzjis)を測定した。
【0061】
(比較例5)
比較例5では、封孔処理していない摺動部を作製した。封孔処理を行わない以外は、実施例2と同様にして摺動部を作成した。得られた摺動部の密度と開気孔率をセラミックのJIS規格であるJIS R1634で測定した。測定後表面を機械研磨し表面粗さ(Ra、Rzjis)を測定した。
【0062】
実施例2および比較例5の結果を表3に示す。
【表3】
【0063】
表3に示すように封孔処理を行うことで欠陥となるクラックや空隙が減少しその結果開気孔率が大幅に低下した。更に空隙を埋めたことで密度も向上した。
また、封孔処理によって空隙は埋設され、その結果、Ra(算術平均粗さ)、Rzjis(十点平均粗さ)共に低減した。Ra(算術平均粗さ)はRzjis(十点平均粗さ)よりも大幅に小さくなっていることから、小さい孔が封止されていることが分かった。
また、実施例2と比較例5の摺動部を実施例1と同じ条件で母材部に取り付けてメカニカルシールとして試験をしたところ、1MPaの圧力まで使用できたものの、比較例5では液漏れが生じていることが確認された。一方、実施例2の摺動部には、液漏れは生じていなかった。
【符号の説明】
【0064】
Z 摺動部品
1 摺動部
1a 摺動面
L1 摺動部の幅
L2 嵌合部に埋設する摺動部の厚さ寸法
2 母材部
2A 貫通部
2a 摺動部の摺動面と平行な前記母材部の一主面
2b 嵌合部の外縁部
2c 嵌合部
3 接合材
3A 接合層
M メニスカス部
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2022-12-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0048
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0048】
実施例1および比較例1によるシール評価の結果を表1に示す。表1において、漏れなしを○、不連続に漏れありを△、連続して漏れありを×とした。
【表1】
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0049
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0049】
表1に示すように、実施例1では摺動部品の変形が抑制され、漏れが抑えられたと同時に接合層に剥離が生じないという結果が得られた。