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特開2024-90973ガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフィー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090973
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ガスクロマトグラフ及びガスクロマトグラフィー
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/08 20060101AFI20240627BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20240627BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20240627BHJP
   G01N 30/46 20060101ALI20240627BHJP
   G01N 30/54 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N30/08 G
G01N30/02 Z
G01N30/26 E
G01N30/46 A
G01N30/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207200
(22)【出願日】2022-12-23
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)令和4年6月9日に第2回環境化学物質3学会合同大会要旨集をウェブサイトにて公開 (2)令和4年6月9日に第2回環境化学物質3学会合同大会プログラムをウェブサイトにて公開 (3)令和4年6月14日に一般社団法人日本環境化学会第30回環境化学討論会(第2回環境化学物質3学会合同大会)にて発表 (4)令和4年6月14日に一般社団法人日本環境化学会第30回環境化学討論会(第2回環境化学物質3学会合同大会)ランチョンセミナーにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】591146239
【氏名又は名称】いであ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】松村 徹
(72)【発明者】
【氏名】中村 好宏
(72)【発明者】
【氏名】森 大樹
(57)【要約】
【課題】大量の試料からの超微量の特定の分析成分の分析感度の超高感度化を実現できるガスクロマトグラフを提供する。
【解決手段】第1カラム4と第2カラム5の間と、第2カラム5と検出器6の間のメインライン2にはそれぞれコールドトラップ7a、7bが取付けられ、且つ第1カラム4と第2カラム5の間では、開閉可能なパージライン10と圧力調整可能なメイクアップガス導入ライン12が分岐接続されている。従って、分析成分とその近傍の非分析成分がトラップ中のコールドトラップ7aに向かって運ばれてそこでトラップされた後に、第2カラム5で分離され、更に、コールドトラップ7bで分析成分がピンポイントでトラップされる。このクロマトグラフィーによれば、超微量の特定成分の分析感度の超高感度化を実現できる。また、二段のカラムを併用することで、分析成分の高超分離化(選択性向上)が期待できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料気化部と、第1カラムと、第2カラムと、検出器がメインラインに直列に接続され、前記試料気化部で気化した試料がキャリアガスに乗せられて運ばれ、前記第1カラムと前記第2カラムを通過して後段の前記検出器に運ばれるガスクロマトグラフであって、
前記第1カラムと前記第2カラムの間と、前記第2カラムと前記検出器の間のメインラインにはそれぞれコールドトラップが取付けられ、且つ
前記第1カラムと前記第2カラムの間では、前記メインラインに上流側からそれぞれ開閉可能なパージラインと圧力調整可能なメイクアップガス導入ラインが分岐接続されていることを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項2】
請求項1に記載したガスクロマトグラフにおいて、
第1カラムと第2カラムはカラム内の固定相が同じまたは異なるものを任意に選択可能になっていることを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項3】
請求項2に記載したガスクロマトグラフにおいて、
前段のコールドトラップと後段のコールドトラップは、一つのコールドトラップの共用で構成されていることを特徴とするガスクロマトグラフ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載したクロマトグラフを使用したガスクロマトグラフィーであって、
パージラインを開いた状態で、メイクアップガス導入ラインから導入されるメイクアップガスの導入圧力をキャリアガスの注入圧力よりも高くした状態を、成分カットモードでは、前段のコールドトラップに向かう前に成分を前記メインライン上からカットするのに利用し、分離・分析モードでは、前記前段のコールドトラップでトラップされていた成分を第2カラムに向かって運ぶのに利用することを特徴とするガスクロマトグラフィー。
【請求項5】
請求項4に記載したガスクロマトグラフィーにおいて、
後段のコールドトラップはピンポイントトラップとして使用することを特徴とするガスクロマトグラフィー。
【請求項6】
請求項5に記載したガスクロマトグラフィーにおいて、
第1カラムと第2カラムのカラム内の固定相を異ならせて、成分の分離を2段階にわたって実施することを特徴とするガスクロマトグラフィー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフ、特に恒温槽内の構成に特徴を有するガスクロマトグラフと、そのクロマトグラフを使用したガスクロマトグラフィーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ測定においては、試料溶液は有機溶媒でありこの中に測定対象成分が溶解している。一般的には試料溶液0.5μL~1.5μLを試料注入部に注入する。試料注入部の内容積は、0.5cm3~1cm3(注入部に設置するライナー(ガラス製の筒)の種類によって異なる)であり、注入する有機溶媒の気化容積が測定で設定する試料注入部の温度(通常は100℃~300℃)において試料注入部の内容積より大きければ、有機溶媒は試料注入部からオーバーフローしてしまい、注入量全量をカラムに導入することができなくなる。また、多量の溶媒成分をそのまま注入し続けて検出器まで運ばせると、検出器に悪影響を与える。
【0003】
これに対応して、特許文献1では、試料を段階的に小量ずつ気化させて順次カラムに導入することにより、最大で30μLの注入を実現すると共に、分析カラムの前段にプレカラムと流路分岐部を配設することにより、溶媒成分をカットし、更に、直前にコールドトラップで成分を濃縮することで、注入の際の時間差でできたバンド幅の広がりを狭めた上で、分析カラムに導入させることが提案されている。
【0004】
特許文献1のガスクロマトグラフでは、分析感度がその前世代に比べて約10倍になったことから、現在では、血液中に含まれるダイオキシン類やPCBの測定の標準になっている。また、環境省のヒト曝露調査、各種疫学調査や、油症患者認定の測定としても使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-272386号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
而して、最近では、生体成分の分析にも積極的にガスクロマトグラフィーが使用されてきているが、使用の拡大につれて生体成分特有の課題が出てきている。
例えば、乳幼児からの採血した血液を分析試料にする場合、成人と同量(例えば真空採血管では約10mL)の採血は不可能である。また、生体成分の分析では、分析成分は、多数の異性体全てが分析対象となるようなダイオキシン類等と異なり、特定の限られたものになっている場合が多い。
【0007】
本発明は、このような分離・分析にも対応できるよう、溶媒成分を大量に含む試料からの超微量の特定成分の分析感度の超高感度化を実現できる、新規且つ有用なガスクロマトグラフを提供することを、その目的とする。また、本発明は、分析成分の超高分離化(選択性向上)も期待できる、新規且つ有用なガスクログラフを提供することを、その目的とする。
また、本発明は、上記のガスクロマトグラフを使用して、超高感度化等を実際に実現可能なガスクロマトグラフィーを提案することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために為されたものであり、[1]の発明は、試料気化部と、第1カラムと、第2カラムと、検出器がメインラインに直列に接続され、前記試料気化部で気化した試料がキャリアガスに乗せられて運ばれ、前記第1カラムと前記第2カラムを通過して後段の前記検出器に運ばれるガスクロマトグラフであって、前記第1カラムと前記第2カラムの間と、前記第2カラムと前記検出器の間のメインラインにはそれぞれコールドトラップが取付けられ、且つ前記第1カラムと前記第2カラムの間では、前記メインラインに上流側からそれぞれ開閉可能なパージラインと圧力調整可能なメイクアップガス導入ラインが分岐接続されていることを特徴とするガスクロマトグラフである。
【0009】
[2]の発明は、[1]の発明に係るガスクロマトグラフにおいて、第1カラムと第2カラムはカラムの長さ、内径、固定相(内壁に塗布されている薬液)の種類及び厚さが同じまたは異なるものを任意に選択可能になっていることを特徴とするガスクロマトグラフである。
【0010】
[3]の発明は、[2]の発明に係るガスクロマトグラフにおいて、前段のコールドトラップと後段のコールドトラップは、一つのコールドトラップの共用で構成されていることを特徴とするガスクロマトグラフである。
【0011】
[4]の発明は、[1]から[3]のいずれかの発明に係るクロマトグラフを使用したガスクロマトグラフィーであって、パージラインを開いた状態で、メイクアップガス導入ラインから導入されるメイクアップガスの導入圧力をキャリアガスの注入圧力よりも高くした状態を、成分カットモードでは、前段のコールドトラップに向かう前に成分を前記メインライン上からカットするのに利用し、分離・分析モードでは、前記前段のコールドトラップでトラップされていた成分を第2カラムに向かって運ぶのに利用することを特徴とするガスクロマトグラフィーである。試料流路において物理的に開閉するバルブが存在しないため、流路のデッドボリュームを小さくすることが可能で、バルブ構造部への目的成分の吸着による測定への悪影響を排除できる。
【0012】
[5]の発明は、[4]の発明に係るガスクロマトグラフィーにおいて、後段のコールドトラップはピンポイントトラップ(秒単位での制御が可能)として使用することを特徴とするガスクロマトグラフィーである。
【0013】
[6]の発明は、[5]の発明に係るガスクロマトグラフィーにおいて、第1カラムと第2カラムはカラムの長さ、内径、固定相(内壁に塗布されている薬液)の種類及び厚さの組み合わせを異ならせて、成分の分離を2段階にわたって実施することを特徴とするガスクロマトグラフィーである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のクロマトグラフを使用したクロマトグラフィーでは、超微量の特定成分の分析感度の超高感度化を実現できる。また、二段のカラムを併用することで、分析成分の高超分離化(選択性向上)が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係るガスクロマトグラフの構成の説明図である。
図2図1のガスクロマトグラフを使用したガスクロマトグラフィーにおける、非分析対象物質を系外に排出するモードの説明図である。
図3図2に続く、分析対象物質のトラップモードの説明図である。
図4図3に続く、溶出時間が分析対象物質より遅い物質のカットモードの説明図である。
図5図4に続く、分析成分の分離・分析モードの説明図である。
図6図1の別例のガスクロマトグラフの構成の説明図である。
図7】通常のGC-MS(コールドトラップ無し)の測定結果のクロマトグラフである。
図8】上側が前段のコールドトラップをしたタイプ(SCLV)、下段が前段および後段のコールドトラップをしたタイプ(Double Cryo-Focusing System)(=本発明)の測定結果のクロマトグラフである。
図9】No.3とNo.4の分離に係るバルブのON/OFFのタイミングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態に係るクロマトグラフ1について、図面にしたがって説明する。
図1に示すように、このクロマトグラフ1では、ガス流通可能な管路で構成されたメインライン2に、試料注入気化部3と、第1カラム4と、第2カラム5と、検出器(質量分析計等)6がこの順で直列に接続されている。
【0017】
試料注入気化部3にはキャリアガス供給ラインが接続されており、液体試料が注入されると、試料注入気化部3で加熱されて気化し、キャリアガス(不活性ガス)に乗せられた状態で、注入口から少しずつゆっくりとメインライン2側に移動し、最終的に検出器6まで運ばれる。試料は、途中で第1カラム4と第2カラム5を通過する(試料に含まれる成分はクロマトグラフィー分離される。)。
第1カラム4と第2カラム5はキャピラリーカラムで構成されており、その長さ、内径、固定相(液相)種類、固定相(液相)膜厚は同じでも異ならしてもよく、試料の種類や分析目的に応じて任意に選択可能になっている。
【0018】
第1カラム4と第2カラム5の間と、第2カラム5と検出器6の間には、いずれもコールドトラップ7が取付けられている。
コールドトラップ7では、クーラントを供給するクーラントライン8がバルブ9によって開閉されるようになっており、バルブ9が開かれてクーラントが供給されると、試料中の成分がクーラントにより冷却されると、その成分は、コールドトラップ7でトラップされて移動が阻止される(沸点と蒸気圧によって)。一方、バルブ9が閉じられてクーラントの供給が停止すると、コールドトラップ7の温度は、瞬時にガスクロマトグラフ恒温槽の温度(200℃~350℃)にまで上昇し、トラップは解除されてトラップされていた成分が移動可能になる。
【0019】
このように、コールドトラップ7は、バルブ9の開閉により、トラップ/解除に切替え可能になっている。
クーラントは、液化炭酸(約-80℃)、空気(室温、冷却空気)、液体窒素等コールドトラップ7でトラップする目的成分の性状によってケースバイケースで使用する。
【0020】
第1カラム4と第2カラム5の間では、メインライン2に、上流側からパージライン10とメイクアップガス導入ライン12がそれぞれ四方継手13を介して分岐接続されている。パージライン10はバルブ11を動かして開閉するようになっている。また、メイクアップガス導入ライン12はメイクアップガス源に接続されており、メインライン2に導入されるメイクアップガスの導入圧力は調整可能になっている。通常、メイクアップガスはキャリアガスと同種類のものを使用する。
【0021】
パージライン10が閉じられた状態で、分岐箇所で、メイクアップガスのメインライン2への導入圧力が、第1カラム4から出てきたメインライン2の上流側のガス圧力、すなわち注入圧力よりも低いと、キャリアガスはメインライン2中を通過して更に下流側に向かう。また、メイクアップガスはキャリアガスの流れと共に同じく下流側に向かう。
【0022】
一方、パージライン10が開かれた状態で、分岐箇所で、メイクアップガスのメインライン2への導入圧力が、第1カラム4から出てきたメインライン2の上流側のキャリアガスの注入圧力よりも高くなると、キャリアガスはメイクアップガスにより更に下流側に向かうのが阻止される。パージライン10は開通しているので、第1カラム4から出てきたキャリアガスはパージライン10に導かれて排出される。従って、キャリアガスは逆流することはない。
メイクアップガスは分岐箇所から先では二股に別れるので、一部はパージライン10に向かいキャリアガスと共に排出されるが、残りは前段コールドトラップ7aに向かう。
このようにガスの圧力バランスを変え、パージライン10を開閉することで、ガスの流れ方向が変わる。
【0023】
上記の構成は、殆ど全体が恒温槽14に収容されているが、試料気化部3は、試料の打込み口(注入口)側が恒温槽14より出ている。また、コールドトラップ7側のバルブ9とパージライン10側のバルブ11はいずれもニードルバルブで構成されており、これらのバルブ9、11も恒温槽14外に配置されて熱影響を受けないように配慮されている。
【0024】
バルブ9、11のそれぞれの開閉のタイミング、更に、バルブ11の開閉タイミングと連係したガス圧力のバランスの調整、恒温槽14の昇温等は、試料に応じたタイムスケジュールに従って最適に制御可能になっている。
【0025】
ガスクロマトグラフ1は上記したように構成されており、このガスクロマトフラフ1を使用したガスクロマトグラフィーについて説明する。
図2に示す先行成分カットモードでは、パージライン10が開かれた状態で、メイクアップガスの導入圧力がキャリアガスの注入圧力よりも高くなっており、キャリアガスはメイクアップガスの導入圧力に屈して更に下流側に向かうのが阻止され、パージライン10に向かう流れになっている。
【0026】
試料が試料気化部3に注入された後、恒温槽14の昇温に伴って試料が徐々に気化して気化したものからキャリアガスに乗せられて第1カラム4に向かって運ばれ、第1カラム4では試料中の成分は各々の特性に応じて分離されて、第1カラム4から出てくる。通常は溶媒成分が最初に溶出して出てくる。続いて、分析成分よりも早く溶出する成分は測定対象でない場合を説明する。これらの先行成分は、矢印に示すように、キャリアガスに乗せられてパージライン10を通って外に排出されて、検出器6に向かうルートからカットされる。
【0027】
図3に示す分析成分のトラップモードでは、パージライン10が閉じられた状態で、メイクアップガスの導入圧力よりもキャリアガスの注入圧力が高くなっており、キャリアガスがメイクアップガスの導入圧力に抗して前段コールドトラップ7aに向かう流れになっている。
第1カラム4から分析成分とその近傍の非分析成分が続いて溶出して出てくると、これらの成分は、矢印に示すように、キャリアガスに乗せられてメインライン2を通って予め冷却されてトラップ中のコールドトラップ7aに向かって運ばれてそこでトラップされる。
【0028】
図4に示す後続成分カットモードでは、先行成分カットモードと同様に、パージライン10が開かれた状態で、メイクアップガスの導入圧力がキャリアガスの注入圧力よりも高くなっており、分析成分よりも溶出し難い非分析成分が後続成分として溶出して出てくると、これらの後続成分は、矢印に示すように、キャリアガスに乗せられてパージライン10を通って外に排出されて、検出器6に向かうルートからカットされる。
このモード中は、分析成分とその近傍の非分析成分はコールドトラップ7aでトラップ状態にある。
【0029】
図5に示す分析成分の分離・分析モードでは、パージライン10が開かれた状態で、メイクアップガスの導入圧力がキャリアガスの注入圧力よりも高く、且つ第2カラム5での流量が目的値になるように設定されている。
トラップが解除されて恒温槽14の温度で急速な加熱脱着が起こると、移動可能になった分析成分とその近傍の非分析成分は、矢印に示すように、そのメイクアップガスに乗せられて第2カラム5に向かい、そこで分離され、溶出し易い順に出てきて、検出器6まで運ばれる。試料気化部3から時間差で注入される際にできた時間幅が前段コールドトラップ7aを経由することで補償されている。
【0030】
分析成分とその近傍の非分析成分は検出器6に到達する直前には後段のコールドトラップ7bを通るが、このコールドトラップ7bはピンポイントトラップとして使用されており、トラップ/解除のタイミングを、特定の分析成分が溶出して通過する時間帯に絞って合わせられている。特定の分析対象成分の溶出時間に絞ってコールドトラップを行うことにより、そのピークバンド幅を狭めることが可能になっている。
【0031】
クロマトグラフィーは上記のようになっており、特許文献1では試料の大量注入(5μL~30μL)が目的になっていたが、このクロマトグラフィーでは更に一歩進んで、分析成分とその近傍の非分析成分だけを分析カラムである第2カラム5で分離した上で、後段コールドトラップ7bでは特定の分析成分に絞ってそのピークバンド幅が狭められており、分析成分のピーク波形は非常にシャープになり、超高感度化が図れている。検出感度はクロマトグラムの面積であり、クロマトグラムの形状は近似的に正規分布(ガウス分布)である。したがって、ピーク幅が狭くなり、ピーク形状がシャープになれば検出感度(SN比)が増大する。
【0032】
第1カラム4と第2カラム5の固定相(液相)の種類を異なるものとすれば、前段のカラムでは溶出時間帯が同じで分離不可能である成分でも、後段のカラムで溶出時間帯が異なれば分離できるので、前段と後段のカラムを併用することで、成分の高分離化(選択性の向上)が図れる。
また、前段と後段のカラムでは溶出して出てくる順序が異なる場合があるので、カラムの種類を調整、選択して、分析成分が後段のカラムから最も遅く出てくるようにした上で、後段コールドトラップ7bでその分析成分のピークバンド幅を狭めれば時間帯が後ろにずれるので、更なる超高感度化が期待できる。
【0033】
図6のクロマトグラフ15は別例であり、クロマトグラフ1と同じ部品を用いて構成されているが、視認の便宜のため、各部品は簡略図示されている。このクロマトグラフ15では、クロマトグラフ1と異なり、第1カラム4と第2カラム5の間のメインライン2が、検出器6側に回り込んでおり、単一のコールドトラップ7を共用した形になっている。
前段コールドトラップ7aとして動作させると後段コールドトラップ7bも同時に動作することになるが、それぞれの冷却時間帯が異なり、前段あるいは後段の一方のコールドトラップ作動している時、他方の動作(流路中の成分)には関係しないので支障はない。
前段と後段のコールドトラップを共用しひとつとすることで、装置が簡略化でき、コストの観点から優位であるし、また故障対策ともなる。
【0034】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形・変更が可能である。
例えば、特開2001-343376に記載された内容に準じて、前段コールドトラップ7a~第2カラム5~後段コールドトラップ7bと連なる下流側のメインラインを並列化して複数設け、第1カラム4と連なる上流側のメインラインを分岐させて上記下流側のメインラインに繋げることも可能である。
また、検出器も質量分析計に限定されない。
【実施例0035】
このクロマトグラフィーのシステムを用いて、多環芳香族炭化水素を、表1の条件で測定した例のクロマトグラフを図7で示す。
【0036】
以下の表1が、通常のGC-MS測定(コールドトラップ無し)の分析条件を示し、表2が、コールドトラップ有りのGC-MS測定の分析条件を示した。
【表1】
【表2】
【0037】
コールドトラップのタイミングの条件(液化炭酸バルブのON/OFFのタイミング)は分析成分毎にピーク位置を考慮して任意に設定した。
具体的には、前段のコールドトラップ7aでは、先行で流れてくる分析成分から最も後続で流れてくる分析成分を一旦まとめて同時にトラップした状態を実現し、後段のコールドトラップ7bでは、個々の分析成分をfocusingしてトラップしており、複数の分析成分は同時にはトラップされない。
【0038】
図7は通常のGC-MS(コールドトラップ無し)、図8は上側が前段のコールドトラップをしたタイプ(Solvent Cut Large Volume Injection System = SCLV)、下段が前段および後段のコールドトラップをしたタイプ(Double Cryo-Focusing System)(=本発明)の測定結果を示している。
分析成分は、No.1(フルオランテン)、No.2(ピレン)、No.3(ベンゾ[a]アントラセン)、No.4(クリセン)、No.5(ベンゾ[b]フルオランテン)、No.6(ベンゾ[k]フルオランテン)、No.7(ベンゾ[a]ピレン)、No.8(インデノ[1,2,3-c,d]ピレン)、No.9(ベンゾ[a,h]アントラセン、No.10(ベンゾ[g,h,i]ペリレン)であった。
【0039】
分析成分(Nos.1~10)のピーク強度は、コールドトラップすることにより、どの分析成分のクロマトグラフも、ピーク強度が高くなったが、前段および後段のコールドトラップを実施し、後段では分析成分毎にピンポイントトラップを行うことにより、全てのクロマトグラフのピーク強度が格段に高く、波形がシャープになった。
No.2に着目すると、通常では、SN=28.6、SCLVでは、SN=67.7、 Double Cryo-Focusing Systemでは、SN=735.5であり、通常からSCLVに変更する程度では、S/N=2.3倍程度であったが、SCLVからDouble Cryo-Focusing System に変更すると、S/N=735.5倍にもなっていた。
また、No.3とNo.4、No.5とNo.6、No.8とNo9は、SCLVでは近接したピークが Double Cryo-Focusing Systemでは綺麗に分離していた。
なお、図9では、一例として、No.3とNo.4の分離に係るバルブのON/OFFのタイミングを示している。
【符号の説明】
【0040】
1…クロマトグラフ 2…メインライン 3…試料気化部
4…第1カラム 5…第2カラム 6…検出器
7…コールドトラップ 8…クーラントライン 9…バルブ
10…パージライン 11…バルブ
12…メイクアップガス導入ライン 13…四方継手
14…恒温槽 15…クロマトグラフ(別例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9