(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024090983
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】応力ひずみ曲線を推定するモデルの構築方法、及び応力ひずみ曲線の推定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/08 20060101AFI20240627BHJP
G01N 33/20 20190101ALI20240627BHJP
G01N 3/18 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G01N3/08
G01N33/20 100
G01N3/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207218
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100135703
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 英隆
(72)【発明者】
【氏名】入谷 賢佑
【テーマコード(参考)】
2G055
2G061
【Fターム(参考)】
2G055AA03
2G055BA14
2G055CA09
2G055CA10
2G055CA11
2G055CA22
2G055CA29
2G055FA01
2G061AA01
2G061AB01
2G061AC03
2G061BA17
2G061BA20
2G061CA02
2G061DA11
2G061EA01
2G061EA04
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】外挿の範囲であって精度よく応力ひずみ曲線を推定することができるモデルの構築方法、及び当該モデルを用いた応力ひずみ曲線の推定方法を提供すること。
【解決手段】コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定に関連する特徴量推定モデルを構築する構築方法は、複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における応力とひずみとの間の関係を示す複数の応力ひずみ曲線データと、複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料の複数の第1状態量データと、を取得する第1取得工程と、第1計算式を示す応力計算モデル及び複数の応力ひずみ曲線データから、複数の第1金属材料のそれぞれに対応する複数の第1特徴量データを算出する算出工程と、第1状態量データから第1特徴量データを算出するための第2計算式を示す特徴量推定モデルを構築する構築工程と、を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定に関連する特徴量推定モデルを構築する構築方法であって、
複数の応力ひずみ曲線データと、複数の第1状態量データと、を取得する第1取得工程であって、前記複数の応力ひずみ曲線データのそれぞれは、応力ひずみ曲線が既知である複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における応力とひずみとの間の関係を示し、前記複数の第1状態量データのそれぞれは、前記複数の第1金属材料のうちの対応する前記第1金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む、第1取得工程と、
ひずみから応力を算出するための第1計算式を示す応力計算モデルであって、前記第1計算式における係数群を示す複数の特徴量を含む前記応力計算モデル、及び前記複数の応力ひずみ曲線データから、複数の第1金属材料のそれぞれに対応する前記複数の特徴量の少なくとも一部を含む複数の第1特徴量データを算出する算出工程と、
前記複数の第1金属材料のそれぞれに対応する前記複数の第1特徴量データと前記複数の第1状態量データとの関係を示す係数行列を決定することによって前記第1状態量データから前記第1特徴量データを算出するための第2計算式を示す前記特徴量推定モデルを構築する構築工程と、
を含む、特徴量推定モデルを構築する構築方法。
【請求項2】
応力ひずみ曲線が未知である第2金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む第2状態量データを取得する第2取得工程と、
請求項1に記載の構築方法によって構築された前記特徴量推定モデル及び前記第2状態量データに基づいて、前記係数群の少なくとも一部を示す第2特徴量データを算出し、前記第2特徴量データを用いて前記応力計算モデルから、前記第2金属材料の応力ひずみ曲線を示す前記第1計算式を推定する推定工程と、
を含む、コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定方法。
【請求項3】
前記推定工程は、前記特徴量推定モデルに対して前記第2状態量データを代入して前記第2特徴量データを算出することを含む、請求項2に記載の応力ひずみ曲線の推定方法。
【請求項4】
前記第1金属材料及び前記第2金属材料は、鋼材である、請求項2に記載の応力ひずみ曲線の推定方法。
【請求項5】
前記複数の応力ひずみ曲線データは、前記第1金属材料の特定の相に関する応力とひずみとの関係を示し、前記推定工程は、前記第2金属材料の前記特定の相に関する前記未知の応力ひずみ曲線を示す前記第2計算式を推定する、請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の応力ひずみ曲線の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属材料の応力ひずみ曲線を推定するモデルの構築方法、及び応力ひずみ曲線の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強度は、鉄鋼製品の重要は品質指標の1つであり、材料強度一般的な表現方法として応力ひずみ曲線がある。鋼材の組成及び温度と応力ひずみ曲線との間の関係を表現する統一的な理論は現状存在せず、例えば非特許文献1に示すように機械学習による推定方法が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】足立吉隆、松下康弘、上村逸郎、井上純哉、「機械学習支援の材料情報統合システム」、システム/情報/制御、第61巻、第5号、2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機械学習による推定方法は、モデルの学習に利用されるデータの範囲外である外挿範囲での推定の場合、精度が低下しやすいという課題がある。
【0005】
本開示は、外挿の範囲であって精度よく応力ひずみ曲線を推定することができるモデルの構築方法、及び当該モデルを用いた応力ひずみ曲線の推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1は、
コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定に関連する特徴量推定モデルを構築する構築方法であって、
複数の応力ひずみ曲線データと、複数の第1状態量データと、を取得する取得工程であって、複数の応力ひずみ曲線データのそれぞれは、応力ひずみ曲線が既知である複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における応力とひずみとの間の関係を示し、複数の第1状態量データのそれぞれは、複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む、第1取得工程と、
ひずみから応力を算出するための第1計算式を示す応力計算モデルであって、第1計算式における係数群を示す複数の特徴量を含む応力計算モデル、及び複数の応力ひずみ曲線データから、複数の第1金属材料のそれぞれに対応する複数の特徴量の少なくとも一部を含む複数の第1特徴量データを算出する算出工程と、
複数の第1金属材料のそれぞれに対応する複数の第1特徴量データと複数の第1状態量データとの関係を示す係数行列を決定することによって第1状態量データから第1特徴量データを算出するための第2計算式を示す特徴量推定モデルを構築する構築工程と、
を含む、特徴量推定モデルを構築する構築方法である。
【0007】
本発明の態様2は、
応力ひずみ曲線が未知である第2金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む第2状態量データを取得する第2取得工程と、
態様1に記載の構築方法によって構築された特徴量推定モデル及び第2状態量データに基づいて、係数群の少なくとも一部を示す第2特徴量データを算出し、第2特徴量データを用いて応力計算モデルから、第2金属材料の応力ひずみ曲線を示す第1計算式を推定する推定工程と、
を含む、コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定方法である。
【0008】
本発明の態様3は、
推定工程は、特徴量推定モデルに対して第2状態量データを代入して第2特徴量データを算出することを含む、態様2に記載の応力ひずみ曲線の推定方法である。
【0009】
本発明の態様4は、
第1金属材料及び第2金属材料は、鋼材である、態様2に記載の応力ひずみ曲線の推定方法である。
【0010】
本発明の態様5は、
複数の応力ひずみ曲線データは、第1金属材料の特定の相に関する応力とひずみとの関係を示し、推定工程は、第2金属材料の特定の相に関する未知の応力ひずみ曲線を示す第2計算式を推定する、態様2から態様4のいずれか1つに記載の応力ひずみ曲線の推定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、外挿の範囲であっても精度よく応力ひずみ曲線を推定することができるモデルの構築方法、及び当該モデルを用いた応力ひずみ曲線の推定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の実施形態に係る構築方法及び推定方法を実行する制御装置の一例の概略図
【
図2】本開示の実施形態に係る金属材料の応力ひずみ曲線を推定するためのモデルの構築方法のフローチャート
【
図3】本開示の実施形態に係る構築方法において演算回路が取得した材料データを示す表
【
図4】本開示の実施形態に係る金属材料の応力ひずみ曲線を推定する推定方法のフローチャート
【
図5】本開示の実施形態に係る推定方法において演算回路が取得した材料データを示す表
【
図6】第1取得工程及び第2取得工程で取得した金属材料の状態量データの分布を示すグラフ
【
図7A】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について内挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図7B】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について内挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図7C】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について内挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図7D】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について内挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図7E】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について内挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図8A】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について外挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図8B】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について外挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図8C】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について外挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図8D】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について外挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図8E】本開示の実施形態に係る推定方法によって所定の相について外挿領域において推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフ
【
図9】本開示の実施形態に係る推定方法によって推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線との比較結果を記載したグラフ
【
図10】本開示の実施形態に係る構築方法において定められた応力計算モデルの物理的な解釈を説明するためのグラフ
【
図11】所定の試験情報を有する金属材料について、所定の状態量データの変化に対する係数の変化への影響の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本開示に係る実施形態を説明する。ただし、以下に説明する構成は、本開示の一例に過ぎず、本開示は下記の実施形態に限定されない。本開示における技術は、これに限定されず、これら実施形態以外であっても、本開示に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更、置き換え、付加、省略などが可能である。
【0014】
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術に熟練した人々にとっては種々の変形及び修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本開示の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【0015】
上記したように、応力ひずみ曲線は、材料強度の一般的な表現として使用され得る。また、応力ひずみ曲線は、有限要素法などを用いた材料強度の解析においても利用され得る。したがって、鋼材及び鋼材を構成要素とする製品の開発において、鋼材の組成及び温度から応力ひずみ曲線を高精度に推定することは、重要である。しかし、鋼材の組成及び温度と、応力ひずみ曲線との関係を表現する統一的な理論は現状存在していない。そのため、一般的に、応力ひずみ曲線は、組成毎、及び温度毎の応力とひずみとの関係を示す応力ひずみ曲線データに基づいて推定される。例えば、推定は、線形補間若しくはスプライン補間などの補間手法、又は多項式近似又は機械学習を利用した統計モデルによる推定方法を用いて行われ得る。
【0016】
しかし、上記した従来手法は、所定の条件で推定精度が低下しやすいという課題を有する。例えば、従来手法は、推定の基となる応力ひずみ曲線データの数が少ない場合、精度が低下し得る。また、従来手法は、推定が、推定の基となる応力ひずみ曲線データの範囲外を対象とする外挿の場合、精度が低下し得る。
【0017】
また、従来の補間方法は、組成及び温度などの鋼材の状態を表す変数の2つ以上を変化させる場合、典型的に変数の重み付けパラメータを人為的に設定する必要がある。したがって、従来の補間方法は、計算結果及び推定精度が、当該人為的な設定によって変化するという課題を有する。
【0018】
また、従来の統計モデルを用いた推定方法は、モデルの計算機構を物理的に解釈することが難しく、予測の理由又は傾向を把握することが困難であるという課題を有する。また、従来の機械学習を用いた推定方法は、事前に設定される機械学習のハイパパラメータの設定によって、推定精度が変化する。ハイパパラメータの例としてパラメータ数が挙げられる。例えば、機械学習による推定方法は、パラメータ数が多いと未知のデータに対する推定、特に外挿領域での推定の精度が低下しやすい。また、機械学習による推定方法は、パラメータ数が少ないと既知のデータに対する推定と未知のデータに対する推定において精度差は小さくなりやすいが、既知のデータに対する推定精度は低下しやすい。したがって、機械学習による推定方法は、ハイパパラメータを人為的に適切に調整しなければならないという課題がある。
【0019】
本開示は、上記した課題の少なくとも一部を改善する構築方法及び推定方法を提供することができる。
【0020】
本開示に係る構築方法は、コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定に関連する特徴量推定モデルを構築する。構築方法は、第1取得工程と、算出工程と、構築工程と、を含み得る。
【0021】
第1取得工程は、コンピュータの演算回路が複数の応力ひずみ曲線データと、複数の第1状態量データと、を取得する工程である。複数の応力ひずみ曲線データのそれぞれは、応力ひずみ曲線が既知である複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における応力とひずみとの間の関係を示す。複数の第1状態量データのそれぞれは、複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む。
【0022】
算出工程は、演算回路が、応力計算モデル、及び複数の応力ひずみ曲線データから、複数の第1金属材料のそれぞれに対応する複数の特徴量の少なくとも一部を含む複数の第1特徴量データを算出する工程である。応力計算モデルは、ひずみから応力を算出するための第1計算式を示す。また、応力計算モデルは、第1計算式における係数群を示す複数の特徴量を含む。
【0023】
構築工程は、演算回路が、第1状態量データから第1特徴量データを算出するための第2計算式を示す特徴量推定モデルを構築する工程である。演算回路は、複数の第1金属材料のそれぞれに対応する複数の第1特徴量データと複数の第1状態量データとの関係を示す係数行列を決定することによって、特徴量推定モデルを構築する。
【0024】
このような方法によれば、演算回路は、外挿の範囲であっても精度よく応力ひずみ曲線を推定できるモデルを構築することができる。
【0025】
また、本開示に係る推定方法は、コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線を推定する。推定方法は、第2取得工程と、推定工程と、を含み得る。
【0026】
第2取得工程は、コンピュータの演算回路が、応力ひずみ曲線が未知である第2金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む第2状態量データを取得する工程である。推定工程は、演算回路が、上記構築方法により作成された応力計算モデル及び第2状態量データに基づいて第2特徴量データを算出する。第2特徴量データは、上記した係数群の少なくとも一部を示す。また、演算回路は、第2特徴量データを用いて応力計算モデルから、第2金属材料の応力ひずみ曲線を示す第1計算式を推定する。
【0027】
このような方法によれば、演算回路は、上記構築方法により作成された特徴量推定モデルを用いて、外挿の範囲であっても精度よく応力ひずみ曲線を推定することができる。
【0028】
(実施形態)
以下、本開示の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0029】
[1.構成]
図1は、本開示の一実施形態に係る構築方法及び推定方法を実行する制御装置10の一例の概略図である。
図1に示すように制御装置10は、演算回路11、記憶装置12、入出力インタフェース装置13、及び通信回路14を備える。制御装置10は、本実施の形態に係る構築方法及び推定方法を実行可能な装置である。制御装置10は、例えばコンピュータである。
【0030】
演算回路11は、制御装置10における処理を実行する制御部である。演算回路11は、プログラムを実行することで所定の機能を実現するCPUまたはMPUのような汎用プロセッサを含む。演算回路11は、記憶装置12と通信可能に構成され、当該記憶装置12に格納された演算プログラム等を呼び出して実行することにより、制御装置10における各種の処理を実現する。制御装置10における処理は、例えば、第1取得工程、算出工程、及び構築工程を含み得る。また、制御装置10における処理は、例えば、第2取得工程及び推定工程を含み得る。演算回路11は、ハードウェア資源とソフトウェアとが協働して所定の機能を実現する態様に限定されず、所定の機能を実現する専用に設計されたハードウェア回路でもよい。すなわち、演算回路11は、CPU、MPU以外にも、GPU、FPGA、DSP、ASIC等、種々のプロセッサで実現され得る。このような演算回路11は、例えば、半導体集積回路である信号処理回路で構成され得る。
【0031】
記憶装置12は、種々の情報を記憶できる記憶媒体である。記憶装置12は、例えば、DRAM、SRAM、フラッシュメモリ等のメモリ、HDD、SSD、その他の記憶デバイス又はそれらを適宜組み合わせて実現される。記憶装置12は、上記したように演算回路11が行う各種の処理を実現するためのプログラムを格納する。また、記憶装置12は、後述する応力ひずみ曲線データ、状態量データ、特徴量データ、応力計算モデル及び特徴量推定モデルなど、制御装置10が取得した情報、及び算出した情報を格納し得る。
【0032】
入出力インタフェース装置13は、ユーザからの情報の入力のための入力装置、及びユーザへの情報の出力のための出力装置としての機能を有する。入出力インタフェース装置13は、1以上のヒューマン・マシン・インタフェースを備える。ヒューマン・マシン・インタフェースは、例えば、キーボード、ポインティングデバイス(マウス、トラックボール等)、タッチパッド等の入力装置、ディスプレイ、スピーカ等の出力装置を含む。また、ヒューマン・マシン・インタフェースは、インセル型タッチパネル搭載のディスプレイ(例えば液晶パネルまたは有機ELパネル)等の入出力装置を含む。
【0033】
通信回路14は、有線または無線により装置またはシステムと通信回線を介して接続するためのインタフェース装置である。当該インタフェース装置は、例えば、USB(登録商標)またはイーサネット(登録商標)等の有線通信規格に準拠した通信を行うことが可能である。または、インタフェース装置は、例えばWi-Fi(登録商標)、Bluetooth(登録商標)、携帯電話回線等の無線通信規格に準拠した通信を行うことが可能である。
【0034】
[2.構築方法]
次に、
図2を参照しつつ、本開示の実施形態に係る金属材料の応力ひずみ曲線を推定するためのモデルの構築方法について説明する。
図2は、本実施形態に係る金属材料の応力ひずみ曲線を推定するためのモデルの構築方法のフローチャートを示す。後述するように、本開示に係る実施形態において、演算回路11は、応力ひずみ曲線を推定するためのモデルを構築する構築方法と、作成されたモデルを用いて、応力ひずみ曲線が未知である金属材料の応力ひずみ曲線を推定する推定方法と、を実行する。本開示の実施形態において、金属材料は、具体的には鉄鋼などの鋼材であるが、これに限定されない。本開示の構築方法及び推定方法は、応力ひずみ曲線で強度特性を表現可能な任意の金属材料に対して適用され得る。
【0035】
以下、本開示における、一部の用語の定義を記載する。本開示において、応力ひずみ曲線が既知である金属材料は、適宜、第1金属材料とも称される。応力ひずみ曲線が未知である金属材料は、適宜、第2金属材料とも称される。金属材料の応力とひずみとの間の関係を示すデータは、適宜、応力ひずみ曲線データとも称される。金属材料の応力ひずみ曲線に関する少なくとも一部の試験情報は、適宜、材料データとも称される。試験情報は、例えば、応力ひずみ曲線が既知である金属材料について、当該応力ひずみ曲線の取得時の試験条件を表す情報を示す。試験情報は、応力が未知である金属材料の場合、当該金属材料が、本実施形態に係る推定方法において推定される応力ひずみ曲線で表される物性を示す際の試験条件を表す情報を示す。つまり、試験情報は、当該金属材料において、推定される応力ひずみ曲線を得るために行われ得る試験(例えば引張試験)の試験条件を表す情報を示し得る。
【0036】
試験情報は、金属材料の少なくとも一部の組成、及び試験時の金属材料の温度を含み得る。したがって、材料データは、金属材料の少なくとも一部の組成、及び試験時の金属材料の温度を含み得る。本明細書において、温度は、金属材料の応力ひずみ曲線が得られる温度を示す。応力ひずみ曲線が既知である金属材料の場合、材料データの温度は、当該金属材料が当該応力ひずみ曲線で表される物性を示す際の温度を意味する。応力ひずみ曲線が未知である金属材料の場合、材料データの温度は、当該金属材料が、本実施形態に係る推定方法において推定される応力ひずみ曲線で表される物性を示す際の温度を意味する。
【0037】
後述する炭素含有率、ケイ素含有率、及び温度のデータは、適宜、状態量データとも称される。第1金属材料における少なくとも一部の試験情報を示す状態量データは、適宜、第1状態量データとも称される。第2金属材料における少なくとも一部の試験情報を示す状態量データは、適宜、第2状態量データとも称される。後述する式(1)に示すベクトルは、適宜、状態量ベクトルとも称される。後述する式(6)に示すベクトルは、適宜、特徴量ベクトルとも称される。後述する4つの特徴量a1、a3、a5、a6は、適宜、特徴量データとも称される。後述する、各金属材料に関する最適な特徴量a1,j
*、a3,j
*、a5,j
*、及びa6,j
*は、適宜、第1特徴量データとも称される。第2金属材料に関して算出された特徴量データは、適宜、第2特徴量データとも称される。
【0038】
図2に示すように、本実施形態に係る構築方法は、第1取得工程S11と、算出工程S12と、構築工程S13と、を含む。
【0039】
[2-1.第1取得工程]
上記したように、まず、演算回路11は、第1取得工程S11において、構築方法において用いる所定のデータを取得する。演算回路11は、所定のデータを取得すると、当該データを記憶装置12に格納する。所定のデータは、応力ひずみ曲線が既知である金属材料に関する応力ひずみ曲線データ、及び当該金属材料に関する材料データを含む。材料データを取得することで、演算回路11は、応力ひずみ曲線が既知である金属材料について、当該応力ひずみ曲線の取得時の試験情報を取得することができる。応力ひずみ曲線データを取得することで、演算回路11は、当該金属材料について、当該材料に所定の引張加重が生じた際の応力とひずみとの間の関係を取得することができる。
【0040】
本実施形態に係る構築方法及び推定方法において、所定の金属材料における応力ひずみ曲線データと材料データとは一意に対応する。したがって、演算回路11は、取得した、応力ひずみ曲線が既知の所定の金属材料における応力ひずみ曲線データと材料データとを関連付けて、記憶装置12に格納してもよい。金属材料の応力ひずみ曲線は、ひずみが加えられる際の金属材料の温度によって変化し得るため、演算回路11は、同一の組成を有する金属材料であっても、温度が異なる場合、異なる材料データとして取得する。
【0041】
図3は、本実施形態に係る構築方法において演算回路11が取得した材料データを示す表である。具体的には、
図3に示す材料データは、応力ひずみ曲線が既知である金属材料の材料データを示す。
図3に示すように、本実施形態に係る構築方法において、演算回路11は、8個の材料データを取得する。以下、本明細書において、8個の材料データは適宜、それぞれ、第1データ、第2データ、第3データ、第4データ、第5データ、第6データ、第7データ、及び第8データと称される。第1データから第8データは、
図3に示す材料データの番号jと対応する。
図3に示すように、材料データは、金属材料の組成の一部及び温度を含む。金属材料の組成は、当該金属材料が含む元素に関する含有重量分率(%)を示す。本実施形態において、材料データは、炭素、ケイ素、マンガン、ニッケル、クロム、及びモリブデンの含有率を含む。
【0042】
図3に示すように、第1データにおいて、炭素含有率は、0.20%である。第2データにおいて、炭素含有率は、0.30%である。第3データにおいて、炭素含有率は、0.30%である。第4データにおいて、炭素含有率は、0.40%である。第5データにおいて、炭素含有率は、0.20%である。第6データにおいて、炭素含有率は、0.30%である。第7データにおいて、炭素含有率は、0.30%である。第8データにおいて、炭素含有率は、0.40%である。
【0043】
図3に示すように、第1データにおいて、ケイ素含有率は、0.20%である。第2データにおいて、ケイ素含有率は、0.15%である。第3データにおいて、ケイ素含有率は、0.25%である。第4データにおいて、ケイ素含有率は、0.20%である。第5データにおいて、ケイ素含有率は、0.20%である。第6データにおいて、ケイ素含有率は、0.15%である。第7データにおいて、ケイ素含有率は、0.25%である。第8データにおいて、ケイ素含有率は、0.20%である。
【0044】
図3に示すように、第1データから第8データのそれぞれにおいて、マンガン含有率は、0.9%である。第1データから第8データのそれぞれにおいて、ニッケル含有率は、0.8%である。第1データから第8データのそれぞれにおいて、クロム含有率は、2.0%である。第1データから第8データのそれぞれにおいて、モリブデン含有率は、0.3%である。
【0045】
図3に示すように、第1データから第4データのそれぞれにおいて、温度は、25℃である。第5データから第8データのそれぞれにおいて、温度は、200℃である。上記及び
図3から分かるように、第1データと第5データ、第2データと第6データ、第3データと第7データ、第4データと第8データは、それぞれ、温度のみが異なる、同一の組成を有する金属材料に関する材料データである。
【0046】
本実施形態において、異なる材料データ同士では、炭素含有率、ケイ素含有率、及び温度の少なくとも1つが互いに異なる。本実施形態に係る構築方法において、演算回路11は、材料データのうち、状態量データを示す炭素含有率、ケイ素含有率、及び温度を用いて算出工程S12以降の処理を実行する。演算回路11は、
図3に示す材料データのうち、状態量データのみを取得してもよい。したがって、所定のデータは、材料データの代わりに状態量データを含んでもよい。材料データと同様、本実施形態に係る構築方法及び推定方法において、所定の金属材料における応力ひずみ曲線データと状態量データとは一意に対応する。後述する、応力ひずみ曲線が未知である金属材料の状態量データについても同様である。
【0047】
演算回路11は、状態量データの各パラメータを変数として、後述する特徴量推定モデルで用いる。本実施形態において、パラメータは、炭素含有率、ケイ素含有率、及び温度を含む。本明細書において、演算回路11は、各状態量データを、式(1)に示すベクトルで用いる。
【0048】
【0049】
上記したように、式(1)に示すベクトルは、適宜、状態量ベクトルとも称される。式(1)において、添え字jは、
図3に示す各材料データの番号jを示す。番号jは、材料データ毎、つまり金属材料毎に付されている。C
jは、番号jの状態量データを示す。T
jは、状態量データC
jにおける温度を示す。C
C,jは、状態量データC
jにおける炭素含有率を示す。C
Si,jは、状態量データC
jにおけるケイ素含有率を示す。
【0050】
上記したように、演算回路11は、所定のデータとして、応力ひずみ曲線が既知である金属材料における応力ひずみ曲線データを取得する。具体的には、演算回路11は、
図3に示す第1データから第8データのそれぞれに対応する、応力ひずみ曲線が既知の8種類の金属材料に関する応力ひずみ曲線データを取得する。つまり、演算回路11は、8個の応力ひずみ曲線データを取得する。応力ひずみ曲線データは、適宜、符号S
jを用いて示され得る。応力ひずみ曲線データS
jは、番号jの金属材料における応力ひずみ曲線データを示す。
【0051】
本実施形態に係る構築方法において、演算回路11は、物性計算ソフトJMatPro(登録商標)を用いて、当該物性計算ソフトに所望の試験情報を入力して算出されたデータを応力ひずみ曲線データとして取得する。当然、取得方法は、このような方法に限定されない。例えば、演算回路11は、試験(例えば引張試験)に基づいて取得した応力ひずみ曲線データと状態量データとの組み合わせを用いてもよいし、任意の記憶装置に格納された過去に蓄積した応力ひずみ曲線データと状態量データとの組み合わせを用いてもよい。
【0052】
応力ひずみ曲線データを取得することで、演算回路11は、当該データを取得した金属材料について、所定のひずみが加えられた際に金属材料に生じる応力を特定することができる。複数の応力ひずみ曲線データのそれぞれは、応力ひずみ曲線が既知の複数の金属材料のうちの対応する金属材料における応力とひずみとの間の関係を示す。
【0053】
[2-2.算出工程]
演算回路11は、所定のデータを取得すると、算出工程S12を実行する。演算回路11は、算出工程S12において、まず、ひずみから応力を算出するための計算式を示す応力計算モデルを定める。当該計算式は、第1計算式の一例である。応力計算モデルは、複数の特徴量を含む。複数の特徴量は、当該計算式における係数群を示す。本実施形態において、応力計算モデルは、式(2)で定められる。
【0054】
【0055】
式(2)において、ハット記号(^)付きσ(以下、「σ^」と示す)は、応力の推定値[MPa]を示す。εは、ひずみ[無次元]を示す。ε0は、所定の定数[無次元]を示す。a1は、特徴量[無次元]を示す。a3は、特徴量[無次元]を示す。a5は、特徴量[MPa]を示す。a6は、特徴量[MPa]を示す。a1からa6は、応力計算モデルにおける係数を示す。係数群は、係数a1から係数a6を含む。式(2)は、金属材料にひずみεが生じている際に、当該金属材料に生じている応力の推定値σ^を算出することができる。式(2)において、係数a2及び係数a4は、それぞれ式(3)及び式(4)で表現される。また、本実施形態において、ε0は、式(5)に示すように、4.0である。
【0056】
【0057】
したがって、応力の推定値σ^は、4つの特徴量a
1、a
3、a
5、a
6、及びひずみεを用いて表現され得る。上記したように特徴量データは、4つの特徴量a
1、a
3、a
5、a
6を示す。本明細書において、演算回路11は、各特徴量を、式(6)に示すベクトルで用いる。
【数6】
【0058】
上記したように、式(6)に示すベクトルは、適宜、特徴量ベクトルと称される。式(2)において、Aは、特徴量ベクトルである。
【0059】
次に、演算回路11は、取得した応力ひずみ曲線データSjのそれぞれについて、最適な特徴量ベクトルAjを算出する。本実施形態に係る算出工程S12において、jは、1から8の間の数字である。本実施形態において、演算回路11は、式(7)に示すAj
*を数理最適化の一手法として非線形最適化を用いて算出する。具体的には、各応力ひずみ曲線データSjについて、演算回路11は、二乗平均平方根誤差RMSEpが最小値となるような特徴量ベクトルAjを、最適な特徴量ベクトルAj
*として算出する。二乗平均平方根誤差RMSEpは、式(8)で表される。
【0060】
【0061】
a1,j
*は、特徴量a1に対応する、番号jの金属材料に関する最適な特徴量を示す。a3,j
*は、特徴量a3に対応する、番号jの金属材料に関する最適な特徴量を示す。a5,j
*は、特徴量a5に対応する、番号jの金属材料に関する最適な特徴量を示す。a6,j
*は、特徴量a6に対応する、番号jの金属材料に関する最適な特徴量を示す。上記したように、第1特徴量データは、各金属材料に関する最適な特徴量a1,j
*、a3,j
*、a5,j
*、及びa6,j
*を示す。つまり、各第1特徴量データは、番号jにより示される複数の金属材料(j=1~8)に対応する金属材料に関する複数の特徴量a1,j
*、a3,j
*、a5,j
*、及びa6,j
*(j=1~8)を含む。第1特徴量データに含まれる各特徴量は、上記した特徴量ベクトルAj
*の各成分に対応する。
【0062】
式(8)において、kは、番号jの金属材料に関する応力ひずみ曲線データSjにおけるデータの番号を示す。つまり、式(8)において、σj,kは、応力ひずみ曲線データSjの番号kにおける応力値を示す。Nは、応力ひずみ曲線データSjにおけるデータの最大の番号を示す。σ^j,kは、応力ひずみ曲線データSjにおける、番号kでの応力の推定値を示す。したがって、演算回路11は、応力ひずみ曲線データSjに基づいて、応力値σj,kと、応力の推定値σ^j,kと間の二乗平均平方根誤差(k=1~N)が最小となる特徴量ベクトルAjを、最適な特徴量ベクトルAj
*として算出する。演算回路11は、応力ひずみ曲線データSj(j=1~8)のそれぞれについて、特徴量ベクトルAj
*を算出する。
【0063】
[2-3.構築工程]
次に、演算回路11は、構築工程S13を実行する。演算回路11は、構築工程S13において、応力ひずみ曲線が既知の金属材料に関する状態量データである第1状態量データから当該金属材料に対応する第1特徴量データを算出することができる計算式を示す特徴量推定モデルを定める。それによって、演算回路11は、応力ひずみ曲線が未知の金属材料に関する状態量データから当該金属材料に対応する特徴量データを算出することができる計算式を示す特徴量推定モデルを定めることができる。当該計算式は、第2計算式の一例である。上記したように、第2特徴量データは、応力ひずみ曲線が未知の金属材料に関する特徴量データを示す。本実施形態において、特徴量推定モデルは、式(9)で定められる。特徴量推定モデルは、式(9)~式(11)に示すように、非線形変換及び重回帰式を組み合わせて表される。
【0064】
【0065】
式(9)において、Wは、重回帰式における係数行列を示す。ベクトルA’は、重回帰式における目的変数を示す。式(10)において、ハット記号付きa1は、特徴量a1,j
*に対応する。ハット記号付きa3は、特徴量a3,j
*に対応する。ハット記号付きa5は、特徴量a5,j
*に対応する。ハット記号付きa6は、特徴量a6,j
*に対応する。したがって、番号jに関するベクトルAj’は、式(12)のように表され得る。
【0066】
【0067】
式(11)において、ベクトルC’は、重回帰式における説明変数を示す。CCは、状態量CC,jに対応する。CSiは、状態量CSi,jに対応する。CC
2は、状態量CC,jの二乗に対応する。CCCSiは、状態量CC,jと状態量CSi,jとの積に対応する。Tは、状態量Tjに対応する。したがって、番号jに関するベクトルCj’は、式(13)のように表され得る。
【0068】
【0069】
本実施形態において、演算回路11は、式(9)、取得した状態量データCj、及び算出した特徴量データAj
*を用いて、Wを決定する。具体的には、演算回路11は、Aj’、及びCj’の各組み合わせに対して重回帰分析を適用することで、Wを算出する。複数の第1金属材料のそれぞれに対応する複数の第1特徴量データと複数の第1状態量データとの関係を示す係数行列Wを決定することで、演算回路11は、第1状態量データから第1特徴量データを算出するための第2計算式を示す特徴量推定モデルを構築できる。それによって、演算回路11は、任意の状態量データCに基づく状態量ベクトルC’から対応する特徴量ベクトルA’を算出する特徴量推定モデルを構築することができる。
【0070】
本実施形態において,演算回路11は、重回帰式を用いた特徴量推定モデルを定めるがこれに限定されない。例えば、演算回路11は、統計手法による定式化、ドメイン知識(理論式等)と統計手法とを組み合わせた定式化により、特徴量推定モデルを定めてもよい。統計手法を用いる場合、例えば機械学習を利用して特徴量推定モデルが定められ得る。この場合、従来手法と同様、本開示に係る構築方法おいても当該機械学習においてハイパパラメータの調整が必要となり得る。しかし、本開示に係る構築方法によれば、後述するように特徴量推定モデルを用いて算出された特徴量を用いる応力計算モデルの自由度が削減されているため、ハイパパラメータの調整に起因する推定精度の増減の影響は、従来手法に比べて抑制され得る。
【0071】
[3.推定方法]
次に
図4を参照しつつ、本開示の実施形態に係る金属材料の応力ひずみ曲線を推定する方法について説明する。
図4は、本実施形態に係る金属材料の応力ひずみ曲線を推定する推定方法のフローチャートを示す。推定方法は、第2取得工程S21と、推定工程S22と、を含む。
【0072】
[3-1.第2取得工程]
次に演算回路11は、作成した応力計算モデル及び特徴量推定モデルに基づいて、応力ひずみ曲線が未知である金属材料の応力ひずみ曲線を推定する推定方法を実行する。まず、演算回路11は、第2取得工程S21を実行する。演算回路11は、第2取得工程S21において、応力ひずみ曲線を推定する対象である、応力ひずみ曲線が未知である金属材料に関する材料データを取得する。
【0073】
図5は、第2取得工程S21において演算回路11が取得した材料データを示す表である。具体的には、
図5に示す材料データは、応力ひずみ曲線が未知である金属材料の材料データを示す。つまり、
図5に示す材料データは、本実施形態に係る推定方法によって応力ひずみ曲線を推定する金属材料の試験情報を示す。
図5に示すように、本実施形態に係る推定方法において、演算回路11は、10個の材料データを取得する。以下、本明細書において、10個の材料データは適宜、それぞれ、第9データ、第10データ、第11データ、第12データ、第13データ、第14データ、第15データ、第16データ、第17データ、及び第18データと称される。第9データから第18データは、
図5に示す材料データの番号jと対応する。
【0074】
本実施形態に係る推定方法において、演算回路11は、応力ひずみ曲線が未知である金属材料の材料データを複数取得するが、これに限定されない。応力ひずみ曲線を推定する金属材料の組成及びその温度が1種類の場合、演算回路11が取得する材料データは、当該金属材料に関するデータのみでよい。
【0075】
図5に示すように、材料データは、金属材料の組成の一部及び温度を含む。
図3に示す材料データと同様、
図5に示す材料データは、炭素、ケイ素、マンガン、ニッケル、クロム、及びモリブデンの含有率を含む。
【0076】
図5に示すように、第9データにおいて、炭素含有率は、0.10%である。第10データにおいて、炭素含有率は、0.10%である。第11データにおいて、炭素含有率は、0.30%である。第12データにおいて、炭素含有率は、0.30%である。第13データにおいて、炭素含有率は、0.45%である。第14データにおいて、炭素含有率は、0.10%である。第15データにおいて、炭素含有率は、0.10%である。第16データにおいて、炭素含有率は、0.30%である。第17データにおいて、炭素含有率は、0.30%である。第18データにおいて、炭素含有率は、0.45%である。
【0077】
図5に示すように、第9データにおいて、ケイ素含有率は、0.10%である。第10データにおいて、ケイ素含有率は、0.30%である。第11データにおいて、ケイ素含有率は、0.20%である。第12データにおいて、ケイ素含有率は、0.30%である。第13データにおいて、ケイ素含有率は、0.35%である。第14データにおいて、ケイ素含有率は、0.10%である。第15データにおいて、ケイ素含有率は、0.30%である。第16データにおいて、ケイ素含有率は、0.20%である。第17データにおいて、ケイ素含有率は、0.30%である。第18データにおいて、ケイ素含有率は、0.35%である。
【0078】
図5に示すように、第9データから第18データのそれぞれにおいて、マンガン含有率は、0.9%である。第9データから第18データのそれぞれにおいて、ニッケル含有率は、0.8%である。第9データから第18データのそれぞれにおいて、クロム含有率は、2.0%である。第9データから第18データのそれぞれにおいて、モリブデン含有率は、0.3%である。したがって、マンガン含有率、ニッケル含有率、クロム含有率及びモリブデン含有率のそれぞれは、第1データから第18データにおいて、同一である。
【0079】
図5に示すように、第9データから第13データのそれぞれにおいて、温度は、25℃である。第14データから第18データのそれぞれにおいて、温度は、200℃である。上記及び
図5から分かるように、第9データと第14データ、第10データと第15データ、第11データと第16データ、第12データと第17データ、第13データと第18データは、それぞれ、温度のみが異なる、同一の組成を有する金属材料に関する材料データである。
【0080】
本実施形態に係る推定方法において、演算回路11は、取得した状態量データを用いて推定工程S22の処理を実行する。本実施形態において、演算回路11は、第2取得工程S21において、応力ひずみ曲線が未知である金属材料の状態量データを取得するがこれに限定されない。演算回路11は、詳細は後述する推定工程S22を実行するまでに、当該状態量データを取得すればよい。したがって、演算回路11は、第1取得工程S11において、応力ひずみ曲線が未知である金属材料に関する状態量データを取得してもよい。
【0081】
[3-2.推定工程]
演算回路11は、第2状態量データを取得すると、推定工程S22を実行する。演算回路11は、推定工程S22において、応力計算モデル及び特徴量推定モデル、及び応力ひずみ曲線が未知である金属材料の状態量データを用いて、当該金属材料の応力ひずみ曲線データを推定する。
図5に示すように、応力ひずみ曲線が未知である金属材料は、番号j=9~18で示されている。したがって、本実施形態において、演算回路11は、各応力ひずみ曲線データS
j(j=9~18)を推定する。当然、応力ひずみ曲線を推定する金属材料は1つであってもよいし、さらに多くの金属材料について推定してもよい。
【0082】
演算回路11は、番号jの金属材料(j=9~18)について、第2取得工程S21で取得した当該金属材料の状態量データに基づいてベクトルCj’を算出する。
【0083】
演算回路11は、算出したベクトルCj’を式(9)に代入して、ベクトルAj’を算出する。当該ベクトルAj’の各成分は、番号jに対応する金属材料における、応力計算モデルの特徴量を示す。当該ベクトルAj’の成分は、第2特徴量データの一例である。演算回路11は、算出した第2特徴量データに基づいて、当該金属材料についての式(2)の係数a2、a4を算出する。それによって、演算回路11は、当該金属材料についての式(2)の係数a1~a6を決定する。係数a1~a6が定められるため、演算回路11は、σとεとの間の関係を表す式を推定できる。つまり、演算回路11は、当該金属材料に関する応力ひずみ曲線を示す式を推定できる。
【0084】
本実施形態において、演算回路11は、応力ひずみ曲線が未知の金属材料として、
図5に示す番号j=9~18の金属材料の状態量データ(つまり、第2状態量データ)を取得しているが、実際には、当該金属材料は、応力ひずみ曲線が既知の金属材料である。以下、上記した推定方法によって推定した応力ひずみ曲線と、当該応力ひずみ曲線に対応する既知の応力ひずみ曲線との間の比較を通じて、本推定方法の精度について記載する。なお、本実施形態において、番号j=9~18の金属材料の応力ひずみ曲線データは、番号j=1~8の応力ひずみ曲線データと同様、物性計算ソフトJMatPro(登録商標)を用いて取得されている。
【0085】
図6は、上記した第1取得工程S11及び第2取得工程S21で取得した金属材料の状態量データの分布を示すグラフである。
図6の横軸は、炭素含有率(%)である。
図6の縦軸は、ケイ素含有率(%)である。
【0086】
図6における白丸は、第1取得工程S11で取得した状態量データの分布を示す。換言すると、白丸は、
図3に示す、応力ひずみ曲線が既知であるとして扱った金属材料の状態量データ、つまり第1状態量データ、の分布を示す。
図6に示すように、上記した構築方法において応力計算モデル及び特徴量推定モデルの構築に用いた第1状態量データは、4つの分布の点を有する。
【0087】
図6における黒丸は、第2取得工程S21で取得した状態量データの分布を示す。換言すると、黒丸は、
図5に示す、応力ひずみ曲線が未知であるとして扱った金属材料の状態量データ、つまり第2状態量データ、の分布を示す。
図6に示すように、応力ひずみ曲線の推定に用いた第2状態量データは、5つの分布の点を有する。
図6に示すように、黒丸のうちの1つの点は、白丸の4つの点で囲まれた範囲内に含まれる。したがって、当該黒丸に対応する第2状態量データは、第1状態量データの内挿領域に含まれる。具体的には、番号j=11、16に示す状態量データが、内挿領域に該当する状態量データを示す。その他の黒丸に対応する第2状態量データは、第1状態量データの外挿領域に含まれる。具体的には、番号j=9~10、12~15、17~18に示す状態量データが、外挿領域に該当する状態量データを示す。
【0088】
図7A~
図7E及び
図8A~
図8Eは、推定された応力ひずみ曲線と、既知の応力ひずみ曲線とを比較したグラフを示す。各図において、縦軸は、応力を示す。横軸は、ひずみを示す。
図7A~
図7Eのグラフは、状態量データC
11に対応する金属材料に関する応力ひずみ曲線の比較を示す。
図8A~
図8Eのグラフは、状態量データC
10に対応する金属材料に関する応力ひずみ曲線の比較を示す。上記したように、状態量データC
11に対応する金属材料は、内挿領域で推定される金属材料である。状態量データC
10に対応する金属材料は、外挿領域で推定される金属材料である。
図7A~
図7E及び
図8A~
図8Eにおいて、グラフ上にプロットされた各点は、既知の応力ひずみ曲線に基づく応力とひずみとの間の関係を示す。グラフ上に記載された線は、本実施形態に係る推定方法で推定された第1計算式に基づいて描写された応力ひずみ曲線を示す。
【0089】
本実施形態に係る構築方法及び推定方法では、金属材料として、鉄鋼材料が使用されている。金属材料が鉄鋼材料である場合、同一の組成であっても当該鉄鋼材料を構成する相によって応力ひずみ曲線は変わり得る。したがって、本実施形態に係る構築方法で構築されるモデルは、当該相によって異なり得る。そのため、本実施形態に係る構築方法及び推定方法は、金属材料の相ごとに独立して実行され得る。本実施形態において、構築方法及び推定方法が実行される相は、オーステナイト、ベイナイト、フェライト、マルテンサイト、及びパーライトである。当然、他の相について本開示に係る構築方法及び推定方法が実行されてもよい。
【0090】
具体的には、例えば、演算回路11は、第1取得工程S11において、オーステナイトに関する複数の応力ひずみ曲線データと、
図3に示す複数の第1状態量データとを取得する。オーステナイトに関する応力ひずみ曲線データは、上記と同様に、物性計算ソフトJMatPro(登録商標)を用いて取得され得る。他の相に関する応力ひずみ曲線データも、同様に、物性計算ソフトJMatPro(登録商標)を用いて取得され得る。演算回路11は、算出工程S12及び構築工程S13において、オーステナイトに関する金属材料の応力ひずみ曲線データと、第1状態量データとを用いて、応力計算モデル及び特徴量推定モデルを構築する。演算回路11は、当該応力計算モデル、当該特徴量推定モデル、及びオーステナイトに関する第2状態量データを用いて応力ひずみ曲線データを推定する。それによって、演算回路11は、構成相がオーステナイトである金属材料について、応力ひずみ曲線を推定することができる。演算回路11は、他の相についても実行することで、各相についての応力ひずみ曲線を推定することができる。
【0091】
図7A及び
図8Aに示すグラフにおいて、ANは、オーステナイトに関する応力ひずみ曲線を示す。
図7B及び
図8Bに示すグラフにおいて、BNは、ベイナイトに関する応力ひずみ曲線を示す。
図7C及び
図8Cに示すグラフにおいて、FRは、フェライトに関する応力ひずみ曲線を示す。
図7D及び
図8Dに示すグラフにおいて、MSは、マルテンサイトに関する応力ひずみ曲線を示す。
図7E及び
図8Eに示すグラフにおいて、PLはパーライトに関する応力ひずみ曲線を示す。
【0092】
図7A~
図7Eのグラフが示すように、内挿領域に含まれる状態量データC
11を有する金属材料の推定された応力ひずみ曲線は、いずれの相でも、既知の応力ひずみ曲線に対して精度よく推定されている。
図8A~
図8Eのグラフが示すように、外挿領域に含まれる状態量データC
10を有する金属材料の推定された応力ひずみ曲線は、ベイナイト及びフェライトにおいて、
図7A~
図7Eに示す比較結果と比べて、若干精度が低下しているが、既知の応力ひずみ曲線に対して精度よく推定されている。番号j=10、11に関する金属材料に関するグラフのみ、
図7A~
図7E及び
図8A~
図8Eに記載されているが、他の金属材料についても、同等の比較結果が取得される。
【0093】
図9は、番号j=9~18に関する金属材料における比較結果を記載したグラフである。具体的には、
図9のグラフには、番号j=9~18に関する金属材料の各相についての、本実施形態に係る推定方法により推定された応力ひずみ曲線と既知の応力ひずみ曲線との比較結果が記載されている。
図9のグラフにおいて、比較結果は、決定係数を用いて表されている。
図9において、縦軸は、決定係数を示す。
図9において、黒丸はそれぞれ、各金属材料に関する決定係数の値を示す。
図9に示すように、本実施形態に係る推定方法における比較結果を示す決定係数は、いずれも1に近い値を有する。具体的には、各比較結果の決定係数の平均値は、0.995である。各比較結果の決定係数の最小値は、0.919である。したがって、本実施形態に係る推定方法によって推定された応力ひずみ曲線は、いずれも、既知の応力ひずみ曲線に対して非常に高い精度で推定されている。
【0094】
このように、本開示に係る構築方法及び推定方法によれば、演算回路11は、応力ひずみ曲線の推定に用いる第2状態量データがモデル構築に用いた第1状態量データに対して内挿領域に位置する場合、精度よく応力ひずみ曲線を推定できる。また、演算回路11は、第2状態量データが第1状態量データに対して外挿領域に位置する場合であっても、精度よく応力ひずみ曲線を推定できる。
【0095】
また、本実施形態に係る構築方法では、演算回路11は、8個の状態量データを用いて応力計算モデル及び特徴量推定モデルを作成している。8個の状態量データは、具体的には、組成が異なる4個のデータと、2つの温度との組み合わせによって構成されている。当該構築方法で作成されたモデルによって推定された応力ひずみ曲線は、既知の応力ひずみ曲線と比較すると、決定係数がいずれも1に近い値を有しており、非常に高い精度で推定できている。このように本開示に係る構築方法及び推定方法によれば、演算回路11は、少ないデータ数でモデルを作成したとしても、当該モデルの作成に用いた金属材料に組成等が類似する未知の金属材料に関する応力ひずみ曲線を非常に高い精度で推定することができる。
【0096】
図10は、本開示に係るモデルの構築方法において定められた応力計算モデルの物理的な解釈を説明するためのグラフを示す。
図10において、横軸は、ひずみεを示す。縦軸は、応力σを示す。応力ひずみ曲線を定める算出工程S12において記載した式(3)、(4)は、式(2)に示す応力計算モデルに対して境界条件を式(14)、(15)として定めることで取得され得る。
【0097】
【0098】
つまり、式(2)においてε=0の場合にσ=a
6であるという境界条件を定めると、式(4)が取得され得る。
図10において、点Aは、当該境界条件を示している。式(2)においてε=ε
0の場合のσから、ε=0の場合のσを減算した値がa
5であるという境界条件を定めると、式(3)が取得され得る。
図10において、点Bは、当該境界条件を示している。
【0099】
このように定めることで、
図10に示すように、式(2)は、係数a
6が応力ひずみ曲線のε=0における縦軸の切片を表すと解釈され得る。また、式(2)は、係数a
5が応力ひずみ曲線の縦軸方向の倍率を表すと解釈され得る。式(2)は、残りの係数a
1、a
3が応力ひずみ曲線の形状を表すと解釈され得る。このように、本開示に係る構築方法及び推定方法によれば、ユーザは、応力計算モデルにおける各特徴量の物理的な意味を解釈することができる。したがって、ユーザは、当該特徴量の変化の傾向を把握することで、強度特性の考察を効率的に実行でき、推定する金属材料の検討に役立てることができる。
【0100】
また、本開示に係る構築方法及び推定方法によれば、応力ひずみ曲線に対する各状態量の影響が、単純なグラフで可視化され得る。
図11は、当該可視化の一例を示す。
図11は、
図11は、番号j=1~4の金属材料であって、かつオーステナイト相に該当する金属材料について、温度が25℃の場合に、炭素含有率(%)の変化に対する係数a
6の変化への影響の一例を示すグラフである。
【0101】
図11に示すように、本実施形態において用いている、オーステナイト相に該当する金属材料は、炭素含有率C
Cが0.2(%)の場合、係数a
6(つまり、ε=0の場合の応力σ)は、約150(MPa)を示す。それに対して、炭素含有率C
Cが0.4(%)の場合、係数a
6は、約215(MPa)を示す。このように、番号j=1~4の金属材料、オーステナイト相、かつ25℃という条件では、炭素含有率0.2%から0.4%の範囲では、炭素含有率が高いほど、ひずみε=0の場合の応力σが大きくなっている。したがって、本開示に係る構築方法及び推定方法によれば、各状態量の影響が単純なグラフで可視化され得る。ユーザは、特定の条件において、金属材料の組成の変更によって、当該金属材料の物性がどのように変化するか検討することができる。したがって、本開示に係る構築方法及び推定方法は、ユーザによる金属材料の組成の検討に有用であり得る。例えば、ユーザは、降伏応力が最大化される組成を検討する際に、試験条件の検討に当該構築方法及び推定方法を用いることで、どの組成を用いるべきか効率的に検討することができる。
【0102】
[効果]
本実施形態に係る構築方法によれば、例えば以下の効果を奏することができる。
【0103】
本開示の実施形態に係る、コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定に関連する特徴量推定モデルを構築する構築方法は、第1取得工程と、算出工程と、構築工程と、を含む。第1取得工程において、コンピュータの演算回路11は、複数の応力ひずみ曲線データと、複数の第1状態量データと、を取得する。複数の応力ひずみ曲線データのそれぞれは、応力ひずみ曲線が既知である複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における応力とひずみとの間の関係を示す。複数の第1状態量データのそれぞれは、複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む。算出工程において、演算回路11は、応力計算モデル、及び複数の応力ひずみ曲線データから、複数の第1金属材料のそれぞれに対応する複数の特徴量の少なくとも一部を含む複数の第1特徴量データを算出する。応力計算モデルは、ひずみから応力を算出するための第1計算式を示す。また、応力計算モデルは、第1計算式における係数群を示す複数の特徴量を含む。構築工程において、演算回路11は、第1状態量データから第1特徴量データを算出するための第2計算式を示す特徴量推定モデルを構築する。演算回路11は、複数の第1金属材料のそれぞれに対応する複数の第1特徴量データと複数の第1状態量データとの関係を示す係数行列を決定することによって、特徴量推定モデルを構築する。
【0104】
このような構築方法によれば、構築されたモデルは、従来技術に比べて、応力ひずみ曲線特有の非線形性を表現することができる。また、本構築方法によれば、従来の統計手法と比べて、モデルの自由度が削減されるため、構築されたモデルは、構築に用いられたデータに対する過剰適合を抑制することができる。したがって、演算回路11は、モデル構築の際に用いる応力ひずみ曲線データの数が少なかったとしても、応力ひずみ曲線を精度よく推定できるモデルを構築することができる。また、演算回路11は、外挿の範囲であっても応力ひずみ曲線を精度よく推定できるモデルを構築することができる。本構築方法によれば、人為的にパラメータを設定する余地が少ないため、作成されたモデルに基づいて推定される応力ひずみ曲線の精度は、より安定し得る。
【0105】
また、本実施形態に係る、コンピュータにより実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定方法は、第2取得工程と、推定工程と、を含む。第2取得工程において、コンピュータの演算回路11は、応力ひずみ曲線が未知である第2金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む第2状態量データを取得する。推定工程において、演算回路11は、上記構築方法により作成された応力計算モデル及び第2状態量データに基づいて第2特徴量データを算出する。第2特徴量データは、上記した係数群の少なくとも一部を示す。また、演算回路11は、第2特徴量データを用いて応力計算モデルから、第2金属材料の応力ひずみ曲線を示す第1計算式を推定する。
【0106】
このような方法によれば、演算回路11は、上記した構築方法で構築したモデルを用いて、所望の試験条件を有する金属材料の応力ひずみ曲線を精度よく推定することができる。上記したように、構築されたモデルは、従来技術に比べて、応力ひずみ曲線特有の非線形性を表現することができ、また、従来の統計手法と比べてモデルの自由度が削減されるため、構築に用いられたデータに対する過剰適合を抑制することができる。したがって、演算回路11は、モデル構築の際に用いる応力ひずみ曲線データの数が少なかったとしても、所望の金属材料の応力ひずみ曲線を精度よく推定することができる。また、演算回路11は、外挿の範囲であっても所望の金属材料の応力ひずみ曲線を精度よく推定することができる。したがって、本推定方法によれば、例えば、応力ひずみ曲線の実験データに基づいて高強度な鋼材組成が探索される場合、高精度に応力ひずみ曲線を推定できるため、実験点数が低減され得る。本推定方法によれば、作成されたモデルは、人為的にパラメータを設定する余地が少ないため、所望の金属材料の応力ひずみ曲線をより安定した精度で推定することができる。また、上記方法により構築されたモデルの計算機構は、従来の手法と比べて物理的な意味が解釈しやすいため、本推定方法を用いるユーザは、試験情報に基づいてより効率的に強度特性を検討することができる。
【0107】
また、本開示に係る推定方法において、推定工程は、特徴量推定モデルに対して第2状態量データを代入して第2特徴量データを算出することを含む。
【0108】
このような方法によれば、演算回路11は、上記した構築方法で構築した特徴量推定モデルで示される計算式に対して、応力ひずみ曲線を推定する金属材料の組成及び温度等の試験情報を代入すると、第2特徴量データを算出できる。演算回路11は、第2特徴量データに基づいて、応力計算モデルで示される計算式の係数を決定して、応力ひずみ曲線を推定する計算式を算出することができる。したがって、演算回路11は、所望の金属材料の試験情報に基づいて、当該金属材料の応力ひずみ曲線を精度よく推定することができる。
【0109】
また、本開示に係る推定方法において、複数の応力ひずみ曲線データは、第1金属材料の特定の相に関する応力とひずみとの関係を示し、推定工程は、第2金属材料の当該特定の相に関する未知の応力ひずみ曲線を示す第2計算式を推定する。
【0110】
このような方法によれば、演算回路11は、例えば、金属材料のオーステナイト相に関する応力ひずみ曲線を推定する場合、オーステナイト相の既知の応力ひずみ曲線データを用いて構築されたモデルを用いる。したがって、演算回路11は、モデルの構築に利用された金属材料の相と、同一の相に関する金属材料の応力ひずみ曲線を推定することができる。したがって、演算回路11は、所望の金属材料の試験情報に基づいて、当該金属材料の応力ひずみ曲線を精度よく推定することができる。
【0111】
(変形例)
上記の実施形態に係る構築方法及び推定方法における各工程S11~S13及びS21~S22は、制御装置10の演算回路11により実行されるがこれに限定されない。例えば、構築方法における各工程S11~S13を演算回路11が実行し、推定方法における各工程S21~S22を別の装置の演算回路が実行してもよい。この場合、演算回路11が、作成した応力計算モデル及び特徴量推定モデルを当該別の装置へと送信することで、当該別の装置の演算回路は、本開示に係る推定方法を実行できる。当然、本開示に係る構築方法における各工程S11~S13を別の装置の演算回路が実行し、推定工程における各工程S21~S22を演算回路11が実行してもよい。
【0112】
上記の実施形態において、演算回路11は、構築方法を実行して応力計算モデル及び特徴量推定モデルを作成し、当該モデルを用いて推定方法を実行するがこれに限定されない。演算回路11は、あらかじめ構築方法を実行して応力計算モデル及び特徴量推定モデルを作成し、当該モデルを記憶装置12に格納してもよい。演算回路11は、その後、あらかじめ作成したモデルに関する第1状態量データに対応する第2状態量データを取得すると、当該モデルを用いて、推定方法を実行してもよい。このように実行することで、演算回路11は、事前に応力計算モデル及び特徴量推定モデルを作成した金属材料に類似する金属材料についての応力ひずみ曲線を推定する場合、再び当該モデルを作成する必要が無く、応力ひずみ曲線を効率的に推定することができる。
【0113】
(態様のまとめ)
以上の説明から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。以下では、実施形態との対応関係を明示するためだけに、符号を括弧付きで付している。
【0114】
(態様1)本開示に係る、コンピュータ(10)により実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定に関連する特徴量推定モデルを構築する構築方法は、
複数の応力ひずみ曲線データと、複数の第1状態量データと、を取得する第1取得工程であって、前記複数の応力ひずみ曲線データのそれぞれは、応力ひずみ曲線が既知である複数の第1金属材料のうちの対応する第1金属材料における応力とひずみとの間の関係を示し、前記複数の第1状態量データのそれぞれは、前記複数の第1金属材料のうちの対応する前記第1金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む、第1取得工程と、
ひずみから応力を算出するための第1計算式を示す応力計算モデルであって、前記第1計算式における係数群を示す複数の特徴量を含む前記応力計算モデル、及び前記複数の応力ひずみ曲線データから、複数の第1金属材料のそれぞれに対応する前記複数の特徴量の少なくとも一部を含む複数の第1特徴量データを算出する算出工程と、
前記複数の第1金属材料のそれぞれに対応する前記複数の第1特徴量データと前記複数の第1状態量データとの関係を示す係数行列を決定することによって前記第1状態量データから前記第1特徴量データを算出するための第2計算式を示す前記特徴量推定モデルを構築する構築工程と、
を含む。
【0115】
(態様2)本開示に係る、コンピュータ(10)により実行される金属材料の応力ひずみ曲線の推定方法は、
応力ひずみ曲線が未知である第2金属材料における少なくとも一部の試験情報を含む第2状態量データを取得する第2取得工程と、
態様1に記載の構築方法によって構築された前記特徴量推定モデル及び前記第2状態量データに基づいて、前記係数群の少なくとも一部を示す第2特徴量データを算出し、前記第2特徴量データを用いて前記応力計算モデルから、前記第2金属材料の応力ひずみ曲線を示す前記第1計算式を推定する推定工程と、
を含む。
【0116】
(態様3)態様1の推定方法において、前記推定工程は、前記特徴量推定モデルに対して前記第2状態量データを代入して前記第2特徴量データを算出することを含んでもよい。
【0117】
(態様4)態様2又は態様3の推定方法において、前記第1金属材料及び前記第2金属材料は、鋼材であってもよい。
【0118】
(態様5)態様2から態様4のいずれかの推定方法において、前記複数の応力ひずみ曲線データは、前記第1金属材料の特定の相に関する応力とひずみとの関係を示し、前記推定工程は、前記第2金属材料の前記特定の相に関する前記未知の応力ひずみ曲線を示す前記第2計算式を推定してもよい。
【0119】
本明細書において、「第1」、「第2」などの用語は、説明のためだけに用いられるものであり、相対的な重要性又は技術的特徴の順位を明示又は暗示するものとして理解されるべきではない。「第1」と「第2」と限定されている特徴は、1つ又はさらに多くの当該特徴を含むことを明示又は暗示するものである。
【0120】
本開示に記載の構築方法及び推定方法は、ハードウェア資源、例えば、プロセッサ、メモリ、と、ソフトウェア資源(コンピュータプログラム)との協働などによって実現される。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本開示によれば、外挿の範囲であっても精度よく応力ひずみ曲線を推定することができるモデルの構築方法、及び当該モデルを用いた応力ひずみ曲線の推定方法を提供することができるため、この種の産業分野において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0122】
10 制御装置
11 演算回路
12 記憶装置
13 入出力インタフェース装置
14 通信回路