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特開2024-91001不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091001
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/235 20060101AFI20240627BHJP
   B01J 27/199 20060101ALI20240627BHJP
   C07C 57/055 20060101ALI20240627BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C07C51/235
B01J27/199 Z
C07C57/055 A
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207248
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川口 徹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 寛人
(72)【発明者】
【氏名】平岡 良太
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA15
4G169BA01B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC10A
4G169BC16A
4G169BC21A
4G169BC22A
4G169BC23A
4G169BC25A
4G169BC26A
4G169BC26B
4G169BC27A
4G169BC27B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC32A
4G169BC35A
4G169BC43A
4G169BC46A
4G169BC50A
4G169BC51A
4G169BC54A
4G169BC54B
4G169BC58A
4G169BC59A
4G169BC59B
4G169BC60A
4G169BC64A
4G169BC66A
4G169BC67A
4G169BC68A
4G169BD03A
4G169BD07A
4G169BD07B
4G169CB10
4G169CB17
4G169CB20
4G169CB74
4G169DA06
4G169EC25
4G169EC28
4G169EE06
4G169FC08
4H006AA02
4H006AB46
4H006AC46
4H006BA05
4H006BA12
4H006BA13
4H006BA14
4H006BB61
4H006BB62
4H006BC10
4H006BC19
4H006BE30
4H006BS10
4H039CA65
4H039CC60
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンを高収率で得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】固定床多管型反応器を用いて、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンを製造する製造方法であって、反応管のガス流れ方向に対し2層以上の触媒層を設け、反応管の最もガス入口側の触媒層(1層目)に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をx、反応管の最もガス入口側の触媒層から数えて2層目に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をyとしたときに、下記式(1)を満たす不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。
0.71<x/y<1.50(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定床多管型反応器を用いて、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンを製造する製造方法であって、
反応管のガス流れ方向に対し2層以上の触媒層を設け、
反応管の最もガス入口側の触媒層(1層目)に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をx、反応管の最もガス入口側の触媒層から数えて2層目に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をyとしたときに、下記式(1)を満たす不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。

0.71 < x/y < 1.50 (1)
【請求項2】
前記反応管の最もガス入口側の触媒層(1層目)に用いられる触媒と反応管の最もガス入口側の触媒層から数えて2層目に用いられる触媒の触媒活性成分に使用される元素が同じである請求項1に記載の不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンの製造方法。
【請求項3】
反応管の全ての層において、使用される触媒の触媒活性成分組成が下記式(2)で表される触媒である請求項1に記載の不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンの製造方法。

Mo10a1b1Cuc1Asd1e1f1g1(2)
(式中、Mo、V、P、Cu、As、Oはそれぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、ヒ素及び酸素を表し、XはAg、Mg、Zn、Al、B、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Sb、Cr、Re、Bi、W、Fe、Co、Ni、Ce及びThからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1及びg1は各元素の原子比を表し、a1は0.1≦a1≦6.0、b1は0.5≦b1≦6.0、c1は0<c1≦3.0、d1は0<d1<3.0、e1は0≦e1≦3.0、g1は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)
【請求項4】
前記式(2)において、a1、c1が以下式(3)を満たす請求項3に記載の不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンの製造方法。

0.5 ≦ a1/c1 ≦ 5.0 (3)
【請求項5】
触媒が不飽和カルボン酸化合物の製造用である、請求項1から4のいずれか一項に記載の不飽和カルボン酸の製造方法。
【請求項6】
不飽和カルボン酸化合物がメタクリル酸である請求項5に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化反応によって、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、または共役ジエンの製造方法に関し、従来の方法より高選択的に、かつ安定的に目的物を得ることができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法や、ブテン類から1,3-ブタジエンを製造する気相接触酸化方法は工業的に広く実施されている。
特に不飽和カルボン酸の製造方法においては、使用される触媒やその製造方法が数多く提案されている。不飽和カルボン酸の中でもメタクリル酸を製造するための触媒はモリブデン、リンを主成分とするもので、ヘテロポリ酸及び/又はその塩の構造を有するものである。
【0003】
このメタクリル酸製造用触媒については、安定的に目的物を得ること、また高選択的に目的物を得ることを課題として、様々な提案がなされている。
例えば、特許文献1のようにヘテロポリ酸部分中和塩の触媒前駆体の有機物の質量%、昇温時の重量減少割合、昇温速度を管理することにより、性能の低下を伴わずに生産性良くメタクリル酸製造用触媒を得る手法が提案されている。
また特許文献2ではX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率に着目した技術が開示されている。その他、非特許文献1ではヘテロポリ酸触媒の酸量と反応成績に関して記載されている。
【0004】
さらに上記課題に対して触媒の製造方法からアプローチされたものもある。例えば、特許文献3では、ヘテロポリ酸部分中和塩の触媒前駆体を少なくとも2回、ガス流通下に350~500℃の温度で1~30時間熱処理を行い、各回の熱処理の間に触媒前駆体を250℃以下まで一旦冷却し、かつ、各回の熱処理温度の差を30℃以内とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法が提案されている。特許文献4では、Mo-V-P-Cu系ヘテロポリ酸を活性成分とし、水、あるいはアルコール及び/又はアルコールの水溶液をバインダーとして、コーティング法により成型を行う場合に、成型に用いる触媒粉末の含水率、成型工程の温度と湿度、焼成工程の温度と湿度管理を行うことを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法が提案されている。しかし、これらの技術では反応管に触媒を導入した際に局所的な発熱(ホットスポット)が発生し、過度な酸化反応の進行により目的生成物の収率低下が課題として挙げられる。
【0005】
ホットスポットの抑制方法として、特許文献5では複数個の反応帯に活性の異なる複数個の酸化触媒を原料ガス入口側から出口側に向かって活性がより高くなるように充填し、高選択率で目的とするメタクリル酸を得る方法が提案されている。さらに特許文献6では、触媒層の各反応帯における単位触媒質量あたりの酸化反応量を管理することで、触媒層内の酸化反応負荷を均一化することにより、局部的な触媒の劣化を抑制し、触媒を長期安定的に利用する方法が提案されている。
しかし、これらの方法を用いても十分なメタクリル酸選択率を実現することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2011-240219号公報
【特許文献2】国際公開2019/188955
【特許文献3】日本国特開2000-210566号公報
【特許文献4】日本国特開2012-148202号公報
【特許文献5】日本国特開平4-210937号公報
【特許文献6】国際公開2005/21480
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Molecular Catalysis 438(2017)47-54
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、高い収率で不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、または共役ジエンを安定して製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討の結果、X線回折強度において、特定の関係になるように触媒が充填された場合に、上記課題を解決し、目的化合物を高収率で得ることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下1)~6)に関する。
1)
固定床多管型反応器を用いて、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンを製造する製造方法であって、
反応管のガス流れ方向に対し2層以上の触媒層を設け、
反応管の最もガス入口側の触媒層(1層目)に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をx、反応管の最もガス入口側の触媒層から数えて2層目に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をyとしたときに、下記式(1)を満たす不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法。

0.71 < x/y < 1.50 (1)

2)
前記反応管の最もガス入口側の触媒層(1層目)に用いられる触媒と反応管の最もガス入口側の触媒層から数えて2層目に用いられる触媒の触媒活性成分に使用される元素が同じである上記1)に記載の不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンの製造方法。
3)
反応管の全ての層において、使用される触媒の触媒活性成分組成が下記式(2)で表される触媒である上記1)又は2)に記載の不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンの製造方法。

Mo10a1b1Cuc1Asd1e1f1g1(2)
(式中、Mo、V、P、Cu、As、Oはそれぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、ヒ素及び酸素を表し、XはAg、Mg、Zn、Al、B、Ge、Sn、Pb、Ti、Zr、Sb、Cr、Re、Bi、W、Fe、Co、Ni、Ce及びThからなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a、b、c、d、e及びgは各元素の原子比を表し、a1は0.1≦a1≦6.0、b1は0.5≦b1≦6.0、c1は0<c1≦3.0、d1は0<d1<3.0、e1は0≦e1≦3.0、g1は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)

4)
前記式(2)において、a1、c1が以下式(3)を満たす上記3)に記載の不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンの製造方法。

0.5 ≦ a1/c1 ≦ 5.0 (3)

5)
触媒が不飽和カルボン酸化合物の製造用である、上記1)から4)のいずれか一項に記載の不飽和カルボン酸の製造方法。
6)
不飽和カルボン酸化合物がメタクリル酸である上記5)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸または共役ジエンを高収率で得ることができ、また長期運転においても、安定して製造できる製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、反応管のガス流れ方向に対し2層以上の触媒層を設け、反応管の最もガス入口側の触媒層(1層目)に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をx、反応管の最もガス入口側の触媒層から数えて2層目に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をyとしたときに、上記式(1)を満たす不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【0013】
[反応管中の触媒層について]
本発明では、反応管中の2層以上の触媒層を有することを特徴とする。
形成される触媒層は、好ましくは2~5層であり、さらに好ましくは2~3層であり、2層である場合が最も好ましい。なお本明細書において、原料ガスの入口側を上層と表現する場合があり、また最も入口側を第1層目として表現する場合もある。ガスの最も出口側を最下層と表現する場合があり、触媒層としては第1層目から下層に向かって数えることで第2層目、第3層目を特定する。
2層以上の触媒層を形成するということは、つまり種類の異なる触媒を反応管中に充填することである。ここで種類の異なる触媒とは触媒の触媒活性成分の組成が異なる場合のみを意味するのではなく、不活性担体への担持率が異なる場合や、不活性物質による希釈率が異なる場合も含む概念である。
【0014】
[X線回折強度について]
本発明の製造方法では、反応管の最もガス入口側の触媒層(1層目)に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をx、反応管の最もガス入口側の触媒層から数えて2層目に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=10.7±0.3°の回折線強度に対する2θ=19.1±0.3°の回折線強度の比率をyとしたときに、上記式(1)を満たすことを特徴とする。
ここで、X線回折測定は、次の装置および条件にて行う。

使用装置:(株式会社リガク製UltimaIV)X線 :CuKα線(λ=0.154nm)出力 :40kV、30mA発散スリット:開放発散立て制限スリット:10mm散乱スリット:開放受光スリット:0.3mm測定範囲:10~30°測定速度:毎分10°ステップ:0.02°スキャンタイプ:連続データ平滑化:パラメーター自動データBG除去処理:ピーク閾値0.10、強度閾値0.01データKα2除去:強度比0.50
【0015】
<x/yおよびx,yの値>
上記(1)で表されるとおり、x/yの上限は、1.50であり、下限は0.71である。
上記x/yの上限として、更に好ましくは、順に1.45、1.43、1.42、1.40、1.38、1.35、1.30であり、特に好ましくは1.29である。下限として好ましくは、順に0.75、0.77、0.79、0.80、0.90、1.00、1.10、1.15、1.20であり、特に好ましくは1.25である。従ってx/yの最も好ましい範囲は1.25以上1.29以下である。
またxの上限として好ましくは、順に1.0、0.80、0.70、0.60、0.50であり、特に好ましくは0.40である。xの下限として好ましくは、順に0.10、0.20、0.25、0.30であり、特に好ましくは0.35である。従ってxの最も好ましい範囲は0.35以上0.40以下である。
またyの上限として好ましくは、順に1.0、0.80、0.70、0.60、0.50、0.40であり、特に好ましくは0.30である。yの下限として好ましくは、順に0.10、0.15、0.20、0.25であり、特に好ましくは0.27である。従ってyの最も好ましい範囲は0.27以上0.30以下である。
【0016】
[触媒組成について]
<第1層目と第2層目の触媒>
本発明では、最もガス入口側の触媒層(1層目)に用いられる触媒と2層目に用いられる触媒の触媒活性成分に使用される元素が同じである場合が好ましい。すなわち、第1層目の触媒活性成分と第2層目に用いられる触媒活性成分に使用される元素が同じであり、上記x/yの関係について、式(1)を充足するものとする為に、(i)各活性成分比率を変える方法、(ii)以下記載の製造方法、より具体的には予備焼成の温度、時間を変更する方法、(iii)本焼成の温度、時間を変更する方法が用いられる場合等が考えられるが、(i)による方法が最も好ましい。
【0017】
<具体的触媒組成>
また、x/yの調整方法として最も好ましくは(i)であり、その場合の具体的触媒組成としては、上記式(2)を満たす組成が用いられる場合が好ましい。
具体的には、下記一般式(2)で表される。
[化2]
Mo10a1b1Cuc1Asd1e1f1g1(2)
ここで、Mo、V、P、Cu、As及びOは、それぞれモリブデン、バナジウム、リン、銅、砒素及び酸素を表す。XはAg(銀)、Mg(マグネシウム)、Zn(亜鉛)、Al(アルミニウム)、B(ホウ素)、Ge(ゲルマニウム)、Sn(錫)、Pb(鉛)、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Sb(アンチモン)、Cr(クロム)、Re(レニウム)、Bi(ビスマス)、W(タングステン)、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)、Ce(セリウム)及びTh(トリウム)からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。YはK(カリウム)、Rb(ルビジウム)、Cs(セシウム)及びTl(タリウム)からなる群から選ばれる少なくとも一種の元素を表す。a1、b1、c1、d1、e1、f1及びg1は、各元素の原子比を表し、a1は0.1≦a1≦6.0、b1は0≦b1≦6.0、c1は0<c1≦3.0、d1は0<d1<3.0、e1は0≦e1≦3.0、f1は0≦f1≦3.0、g1は他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。また本発明における組成は活性成分を意味し、不活性担体としては炭化珪素、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム、ステアタイト等を用いることができる。
【0018】
上記式(2)の組成において、Xとして好ましいものは、Zn、Ag、Fe、Sbであり、更に好ましくはAg、Fe、Sbであり、特に好ましくはFe、Sbであり、最も好ましくはSbである。
【0019】
上記式(2)の組成において、Yとして好ましいものは、K、Rb、Csであり、更に好ましくは、K、Csであり、最も好ましくはCsであるが、Y成分を含まない触媒は特に本発明の効果が顕著に表れる傾向にある。
【0020】
上記式(2)の組成において、第1層目として用いられる場合のa1~g1の好ましい範囲は以下である。
a1の下限は好ましい順に、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40、0.45、0.50であり、最も好ましくは0.55である。a1の上限は望ましい順に、5.0、3.0、2.0、1.0、0.80、0.70であり、最も好ましくは0.65である。すなわちa1の最も好ましい範囲は、0.55≦a1≦0.65である。
b1の下限は好ましい順に、0、0.10、0.30、0.50、0.70、0.90、1.00、1.10であり、最も好ましくは1.15である。b1の上限は好ましい順に、5.0、4.0、3.0、2.0であり、最も好ましくは1.50である。すなわちb1の最も好ましい範囲は、1.15≦b1≦1.50である。
c1の下限は好ましい順に、0.10、0.20、0.30、であり、最も好ましくは0.40である。c1の上限は好ましい順に、2.0、1.50、1.20、1.00、0.80、0.70、0,60、であり、最も好ましくは0.50である。すなわちc1の最も好ましい範囲は、0.40≦c1≦0.50である。
d1の下限は好ましい順に、0.10、0.20、0.30、0.40であり、最も好ましくは0.45である。d1の上限は好ましい順に、2.00、1.50、1.20、1.00、0.80であり、最も好ましくは0.55である。すなわちd1の最も好ましい範囲は、0.45≦d1≦0.55である。
e1の上限は好ましい順に、2.00、1.50、1、0.50、0.10、0.080であり、最も好ましくは0.075である。またe1の下限は好ましい順に0、0.010、0.030、0.050であり、0.060が特に好ましい。従ってe1の最も好ましい範囲は、0.060≦e1≦0.075である。
f1の上限は好ましい順に、2.00、1.50、1.00、0.50、0.1、最も好ましくは0.05である。なおf1の下限は0であり、Yは含有しない、すなわちf1=0の触媒が第1層目触媒として用いられる場合の最も好ましい組成である。
【0021】
また前記式(2)の触媒が第1層目触媒として用いられる場合において、a1とc1の関係が上記式(3)を満たす場合、特に好ましい触媒組成である。
a1/c1の上限は好ましい順に5.0、4.0、3.0、2.0、1.8、1.6であり、特に好ましくは1.40である。また下限としては好ましい順に、0.5、0.55,0.65、0.70、0.75であり特に好ましくは0.80である。従って、a1/c1の最も好ましい範囲は、0.80≦a1/c1≦1.40である。
【0022】
上記式(2)の組成において、第2層目として用いられる場合のa1~g1の好ましい範囲は以下である。
a1の下限は好ましい順に、0.20、0.25、0.30、0.35、0.40であり、最も好ましくは0.45である。a1の上限は望ましい順に、5.0、3.0、2.0、1.0、0.80、0.70、0.60であり、最も好ましくは0.55である。すなわちa1の最も好ましい範囲は、0.45≦a1≦0.55である。
b1の下限は好ましい順に、0、0.10、0.30、0.50、0.70、0.80であり、最も好ましくは0.90である。b1の上限は好ましい順に、5.0、4.0、3.0、2.0、1.50、1.20であり、最も好ましくは1.10である。すなわちb1の最も好ましい範囲は、0.90≦b1≦1.10である。
c1の下限は好ましい順に、0.11、0.15、0.17であり、最も好ましくは0.18である。c1の上限は好ましい順に、2.0、1.50、1.20、1.00、0.80、0.70、0,60、0.50、0.40、0.30であり、最も好ましくは0.25である。すなわちc1の最も好ましい範囲は、0.18≦c1≦0.25である。
d1の下限は好ましい順に、0.10、0.20、0.30、0.40であり、最も好ましくは0.45である。d1の上限は好ましい順に、2.00、1.50、1.20、1.00、0.80であり、最も好ましくは0.55である。すなわちd1の最も好ましい範囲は、0.45≦d1≦0.55である。
e1の上限は好ましい順に、2.00、1.50、1.00、0.50、0.30であり、最も好ましくは0.20である。またe1の下限は好ましい順に0、0.010、0.030、0.050、0.070、0080であり、0.090が特に好ましい。従ってe1の最も好ましい範囲は、0.090≦e1≦0.20である。
f1の上限は好ましい順に、2.00、1.50、1.00、0.50、0.1、最も好ましくは0.05である。なおf1の下限は0であり、Yは含有しない、すなわちf1=0の触媒が第2層目触媒として用いられる場合の最も好ましい組成である。
【0023】
また前記式(2)の触媒が第2層目触媒として用いられる場合において、a1とc1の関係が上記式(3)を満たす場合、特に好ましい触媒組成である。
a1/c1の上限は好ましい順に5.0、4.0、3.0であり、特に好ましくは2.80である。また下限としては好ましい順に、1.00、1.20、1.40、1.60、1.80であり特に好ましくは2.00である。従って、a1/c1の最も好ましい範囲は、2.00≦a1/c1≦2.80である。
【0024】
<銅の量について>
さらに、反応管の2層目に用いられる触媒に含まれる銅の量に対する、1層目に用いられる触媒に含まれる銅の量比が0.3以上5.0以下である場合がより好ましい態様である。更に好ましい下限としては、順に0.5、0.7、0.9、1.0、1.5、1.8であり、特に好ましくは2.0である。また上限は順に4.8、4.5、4.2、4.0、3.8、3.5、3.2、3.0である場合が好ましく、2.8が特に好ましい。すなわち2.0以上2.8以下である場合が最も好ましい。
【0025】
なお、本発明の製造方法では第1層目と第2層目の触媒において上記式(1)の関係が認められる限り、第3層目以降の触媒層の有無やその種類に特に制限はないが、第3層目以降の層を設ける場合には、上記式(2)で表される触媒を用いる場合が好ましい。
【0026】
[X線回折強度(その他のピーク)について]
本発明の製造方法では、第1層目に用いられる触媒と第2層目に用いられる触媒のX線回折測定における回折線強度比について、上記以外のピークにも特徴がある。具体的には、第1層目に用いられる触媒の2θ=24.9±0.3°の回折線強度に対する2θ=25.7±0.3°の回折線強度の比率をα、第2層目に用いられる触媒のX線回折測定における2θ=24.9±0.3°の回折線強度に対する2θ=25.7±0.3°の回折線強度の比率をβとしたときに、下記式(4)を満たすことが好ましい。
[式4]
0.30 ≦ α/β ≦ 1.20 (4)

上記α/βの上限として、更に好ましくは、順に1.15、1.10、1.05、1.00、0.95であり、特に好ましくは0.90である。下限として好ましくは、順に0.40、0.45、0.50、0.55、0.60、0.65、0.70、0.75であり、特に好ましくは0.80である。従ってα/βの最も好ましい範囲は0.80以上0.90以下である。
またαの上限として好ましくは、順に1.00、0.95、0.90、0.85であり、特に好ましくは0.80である。αの下限として好ましくは、順に0.20、0.40、0.60、0.65であり、特に好ましくは0.70である。従ってαの最も好ましい範囲は0.70以上0.80以下である。
またβの上限として好ましくは、順に1.50、1.30、1.10、1.00であり、特に好ましくは0.95である。βの下限として好ましくは、順に0.20、0.40、0.60、0.70であり、特に好ましくは0.80である。従ってβの最も好ましい範囲は0.80以上0.95以下である。
【0027】
[充填長について]
本発明の製造方法では、第1層目に用いられる触媒の充填長と第2層目に用いられる触媒の充填長が特定の関係にある場合がさらに好ましい態様である。具体的には、第1層目の触媒層の充填長をS、第2層目の触媒層の充填長をTとしたときに、下記式(5)を満たすことが好ましい。
[式5]
0.65 ≦ S/T ≦ 1.40 (5)

上記S/Tの上限として、更に好ましくは、順に1.35、1.30、1.25、1.20、1.18、1.15、1.12、1.11であり、特に好ましくは1.10である。下限として好ましくは、順に0.70、0.75、0.80、0.85、0.90、0.95、0.98、1.00、1.01、1.02、1.03、1.04であり、特に好ましくは1.05である。従ってS/Tの最も好ましい範囲は1.05以上1.10以下である。
【0028】
[触媒の製造方法]
本発明に用いられる触媒の製造方法は、(a)構成金属をそれぞれ又は複数含む化合物を水に分散し、これらの化合物の水溶液又は水分散体(以下、両者を含めてスラリー液という)を調製する工程、(b)工程(a)で得られたスラリー液を乾燥してスラリー乾燥体を得る工程、(c)工程(b)で得られたスラリー乾燥体を成型する工程、(d)工程(c)で得られた被覆成型物を焼成する工程が含まれる。以下、工程ごとに好ましい実施形態を記載するが、本発明の実施においては、下記実施形態に限られるものではない。
【0029】
工程(a)は活性成分元素を含む化合物を準備する工程、それら化合物と水とを混合する工程を含む。
工程(a)においては本発明の触媒の必須の活性成分元素及び任意の活性成分元素を含む化合物を用いる。前記化合物を例示すると、活性成分元素の塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酸化物又は酢酸塩等が挙げられる。好ましい化合物をより具体的に例示すると硝酸コバルト等の硝酸塩、酢酸銅等の酢酸塩、酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化銅、三酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化亜鉛又は酸化ゲルマニウム等の酸化物、正リン酸、リン酸、硼酸、リン酸アルミニウム又は12タングストリン酸等の酸(又はその塩)等が挙げられるが、これらに限られない。これら活性成分を含む化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。工程(a)では、各活性成分を含む化合物と水とを均一に混合し、スラリー液を得る。前記スラリー液においては、全ての成分が水に溶解している必要は無く、その一部または全体が懸濁状態であっても差し支えない。スラリー液における水の使用量は、用いる化合物の全量を完全に溶解できるか、または均一に混合できる量であれば特に制限はない。工程(b)における乾燥方法や乾燥条件を勘案して、水の使用量を適宜決定すれば良い。通常、水の量はスラリー液調製用化合物の合計質量100部に対して、200~2000部程度である。水の量は多くてもよいが、多過ぎると工程(b)の乾燥工程のエネルギーコストが高くなり、又完全に乾燥できない場合も生ずるなどのデメリットが多い。
【0030】
本発明において、工程(a)において用いられる攪拌機の攪拌翼の形状は特に制約はなく、プロペラ翼、タービン翼、パドル翼、傾斜パドル翼、スクリュー翼、アンカー翼、リボン翼、大型格子翼などの任意の攪拌翼を1段あるいは上下方向に同一翼または異種翼を2段以上で使用することができる。また、反応槽内には必要に応じてバッフル(邪魔板)を設置しても良い。
【0031】
工程(b)では工程(a)で得られたスラリー液を完全に乾燥させる。前記乾燥の方法には特に制約はないが、例えばドラム乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、蒸発乾固などが挙げられる。これらのうち本発明においては、スラリー液を短時間に粉末又は顆粒に乾燥することができる噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥の乾燥温度はスラリー液の濃度、送液速度等によって異なるが、概ね乾燥機の出口における温度が70~150℃である。
【0032】
工程(c)は工程(b)で得られたスラリー乾燥体を焼成する工程(本工程は必須ではない)、スラリー乾燥体を添加剤と混合する工程、スラリー乾燥体又はスラリー乾燥体と添加剤の混合物を成型する工程を含む。
工程(c)では工程(b)で得られたスラリー乾燥体を成型する。なお、スラリー乾燥体を250℃から350℃程度で焼成してから成型すると、機械的強度や触媒性能が向上する場合があるので、成型前にスラリー乾燥体を焼成してもよい。上記(ii)予備焼成の温度、時間を変更する方法を採用する場合、この工程において、100~400℃で予備焼成を行う場合が好ましく、より好ましくは250℃~380℃、更に好ましくは270℃~360℃、特に好ましくは290℃~340℃である。 成型方法は特に制約はなく、酸化反応において反応ガスの圧力損失を小さくするために、スラリー乾燥体を柱状物、錠剤、リング状、球状等に成型する他、不活性担体にスラリー乾燥体を被覆してもよい。このうち選択性の向上や反応熱の除去が期待できることから、不活性担体にスラリー乾燥体を被覆し、被覆触媒とするのが好ましい。この被覆工程は以下に述べる転動造粒法が好ましい。この方法は、例えば固定容器内の底部に、平らなあるいは凹凸のある円盤を有する装置中で、円盤を高速で回転することにより、容器内の担体を自転運動と公転運動の繰返しにより激しく攪拌させ、ここにバインダーと工程(b)で得られたスラリー乾燥体並びにこれらに、必要により、他の添加剤例えば成型助剤、強度向上剤を添加した被覆用混合物を担体に被覆する方法である。バインダーの添加方法は、1)前記被覆用混合物に予め混合しておく、2)被覆用混合物を固定容器内に添加するのと同時に添加、3)被覆用混合物を固定容器内に添加した後に添加、4)被覆用混合物を固定容器内に添加する前に添加、5)被覆用混合物とバインダーをそれぞれ分割し、2)~4)を適宜組み合わせて全量添加する等の方法が任意に採用しうる。このうち5)においては、例えば被覆用混合物の固定容器壁への付着、被覆用混合物同士の凝集がなく担体上に所定量が担時されるようオートフィーダー等を用いて添加速度を調節して行うのが好ましい。バインダーは水/または1気圧以下での沸点が150℃以下の有機化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種/またはそれらの水溶液であることが好ましい。水以外のバインダーの具体例としてはメタノール、エタノール、プロパノール類、ブタノール類等のアルコール、好ましくは炭素数1~4のアルコール、エチルエーテル、ブチルエーテル又はジオキサン等のエーテル、酢酸エチル又は酢酸ブチル等のエステル、アセトン又はメチルエチルケトン等のケトン等並びにそれらの水溶液が挙げられ、特にエタノールが好ましい。バインダーとしてエタノールを使用する場合、エタノール/水=10/0~0/10(質量比)、好ましくは水と混合し9/1~1/9(質量比)とすることが好ましい。これらバインダーの使用量は、被覆用混合物100質量部に対して通常2~60質量部、好ましくは10~50質量部である。
【0033】
上記被覆における不活性担体の具体例としては、炭化珪素、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ムライト、アランダム、ステアタイト等が挙げられ、好ましくは炭化珪素、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、ステアタイト、更に好ましくはアルミナ、シリカ、シリカアルミナである。担体の直径としては1~15mm、好ましくは2.5~10mmの球形担体等が挙げられる。担体中の当該成分は90質量%以上が好ましく、更に好ましくは95質量%以上である。これら担体は通常は10~70%の空孔率を有するものが用いられる。担体と被覆用混合物の割合は通常、被覆用混合物/(被覆用混合物+担体)=10~75質量%、好ましくは15~60質量%となる量を使用する。被覆用混合物の割合が大きい場合、被覆触媒の反応活性は大きくなるが、機械的強度が小さくなる傾向にある。逆に、被覆用混合物の割合が小さい場合、機械的強度は大きいが、反応活性は小さくなる傾向がある。なお、前記において、必要により使用する成型助剤としては、シリカゲル、珪藻土、アルミナ粉末等が挙げられる。成型助剤の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~60質量部である。また、更に必要により触媒活性成分及び反応ガスに対して不活性な無機繊維(例えば、セラミックス繊維又はウィスカー等)を強度向上剤として用いることは、触媒の機械的強度の向上に有用である。これら繊維の使用量は、触媒活性成分固体100質量部に対して通常1~30質量部である。また本発明における不活性担体とは原料及び生成物に活性を持たない担体であり、例えば一般的に公知である反応条件におけるメタクロレインの転化率が3.0%以下であることが挙げられる。
【0034】
工程(d)では工程(c)で得られた成型された工程(b)の乾燥体又は被覆触媒を焼成する。前記乾燥体又は被覆触媒はそのまま触媒として接触気相酸化反応に供することもできるが、焼成すると構造が安定すること、また、触媒性能が向上することから、焼成することが好ましい。また、焼成温度が高すぎるとヘテロポリ酸が分解し、触媒性能が低下することがあるため、焼成温度は通常100~400℃、好ましくは250℃~380℃、更に好ましくは270℃~360℃、特に好ましくは290℃~340℃である。焼成時間は短すぎるとヘテロポリ酸の構造が不安定となって触媒性能が低下することが懸念され、長すぎると触媒の製造効率が低下する。通常の焼成時間は1~20時間である。なお、焼成は、通常空気雰囲気下に行われるが、窒素のような不活性ガス雰囲気下もしくはエタノールのような還元ガス雰囲気で行ってもよい。不活性ガスもしくは還元ガス雰囲気下での焼成後に必要に応じて更に空気雰囲気下で焼成を行ってもよい。上記のようにして得られた焼成後の被覆触媒全体に対する活性成分の割合は、10~60質量%である。 上記(iii)本焼成の温度、時間を変更する方法を採用する場合、この工程において、この工程において、100~400℃で予備焼成を行う場合が好ましく、より好ましくは250℃~380℃、更に好ましくは270℃~360℃、特に好ましくは290℃~340℃である。
【0035】
[本発明の用途等]
本発明の製造方法は、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール等を原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する反応やブテン類から1,3-ブタジエンを製造する用途に適用でき、高選択率で安定した運転を可能とする。特にメタクロレインを分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してメタクリル酸を製造する反応に使用する場合において、より顕著にその効果を確認することができる。
前記メタクロレインまたはメタクリル酸の製造方法において原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば出発原料物質が常温で1~10容量%、好ましくは4~9容量%、分子状酸素が3~20容量%、好ましくは4~18容量%、水蒸気が0~60容量%、好ましくは4~50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが20~80容量%、好ましくは30~60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に240~450℃で、常圧~10気圧の圧力下で、空間速度300~5000h-1で導入し反応を行う。
【実施例0036】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において「部」は重量部を、「%」は重量%をそれぞれ意味する。
【0037】
[実施例1]
1)触媒の調製
(被覆触媒(A)の調製)
触媒活性成分固体の組成が、以下となるように酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化第二銅、燐酸水溶液、砒酸水溶液、三酸化アンチモンの計量を実施した。
Mo100.61.2As0.5Sb0.1Cu0.5
(gは他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)
純水(重量比で酸化モリブデンの7倍量)に酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化第二銅、燐酸水溶液、及び砒酸水溶液を添加し、92℃で10時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液に三酸化アンチモンを加え、4時間加熱撹拌して濃緑色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を噴霧乾燥しスラリー乾燥体を得た。次いで得られたスラリー乾燥体214部、強度向上材(アルミナーシリカ繊維)29.8部を均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.8mm)200部に90%エタノール水溶液約30部をバインダーとして被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において310℃で6時間かけて焼成を行い目的とする被覆触媒(A)を得た。
【0038】
(被覆触媒(B)の調製)
触媒活性成分固体の組成が、以下となるように酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化第二銅、燐酸水溶液、砒酸水溶液、三酸化アンチモンの計量を実施した。
Mo100.51.0As0.5Sb0.1Cu0.2
(gは他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)
純水(重量比で酸化モリブデンの7倍量)に酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化第二銅、燐酸水溶液、及び砒酸水溶液を添加し、92℃で10時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。続いて、この溶液に三酸化アンチモンを加え、4時間加熱撹拌して濃緑色の透明溶液を得た。続いて、この溶液を噴霧乾燥しスラリー乾燥体を得た。次いで得られたスラリー乾燥体214部、強度向上材(アルミナーシリカ繊維)29.8部を均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.8mm)200部に90%エタノール水溶液約30部をバインダーとして被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において340℃で6時間かけて焼成を行い目的とする被覆触媒(B)を得た。
【0039】
2)メタクリル酸の製造
100mLメスシリンダーを用いて、50mLの被覆触媒(A)、被覆触媒(B)の嵩比重を測定し、内径18.4mmのステンレス反応管の1層目に嵩比重から算出した13.7ml分の被覆触媒(A)を充填し、2層目に嵩比重から算出した13.7ml分の被覆触媒(B)を充填し(S/T=1.08となった)、原料ガス(組成(モル比);メタクロレイン:酸素:水蒸気:窒素=1:2:4:18.6)、空間速度(SV)450hr-1の条件で、メタクロレインの酸化反応を実施した。反応浴温度を290℃に調整し、メタクリル酸収率を算出した。メタクリル酸収率は75.8%であった。
なおメタクリル酸収率は次の通りに定義される。
メタクリル酸収率=生成したメタクリル酸のモル数/導入したメタクロレインのモル数×100
【0040】
3)X線回折測定
得られた触媒のX線回折測定は、次の装置および条件で行った。
使用装置:(株式会社リガク製UltimaIV)X線 :CuKα線(λ=0.154nm)出力 :40kV、30mA発散スリット:開放発散立て制限スリット:10mm散乱スリット:開放受光スリット:0.3mm測定範囲:10~30°測定速度:毎分10°ステップ:0.02°スキャンタイプ:連続データ平滑化:パラメーター自動データBG除去処理:ピーク閾値0.10、強度閾値0.01データKα2除去:強度比0.501層目に用いられる被覆触媒(A)の回折線強度の比率xは0.37、2層目に用いられる被覆触媒(B)の回折線強度の比率yは0.29となり、x/yは1.28となった。
また1層目に用いられる被覆触媒(A)の回折線強度の比率αは0.75、2層目に用いられる被覆触媒(B)の回折線強度の比率βは0.89となり、α/βは0.84となった。
【0041】
[実施例2]
1)触媒の調製
(被覆触媒(C)の調製)
被覆成型物を空気流通下において320℃で焼成した以外は、被覆触媒(A)と同じ条件で被覆触媒(C)を得た。
(被覆触媒(D)の調製)
触媒活性成分固体の組成が、以下となるように酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化第二銅、燐酸水溶液、砒酸水溶液の計量を実施した。
Mo100.71.1As0.5Cu0.2
(gは他の元素の原子価ならびに原子比により定まる値である。)
純水(重量比で酸化モリブデンの7倍量)に酸化モリブデン、五酸化バナジウム、酸化第二銅、燐酸水溶液、及び砒酸水溶液を添加し、92℃で10時間加熱攪拌して赤褐色の透明溶液を得た。この溶液を噴霧乾燥しスラリー乾燥体を得た。
次いで得られたスラリー乾燥体214部、強度向上材(アルミナーシリカ繊維)29.8部を均一に混合して、球状多孔質アルミナ担体(粒径3.8mm)200部に90%エタノール水溶液約30部をバインダーとして被覆成型した。次いで得られた成型物を空気流通下において320℃で6時間かけて焼成を行い目的とする被覆触媒(D)を得た。
【0042】
2)メタクリル酸の製造
原料ガス導入側に被覆触媒(C)、生成ガス出口側に被覆触媒(D)を充填した以外は実施例1と同じ条件にてメタクリル酸製造を実施した(S/T=0.92)。メタクリル酸収率は74.9%であった。
【0043】
3)X線回折測定
1層目に用いられる被覆触媒(C)の回折線強度の比率xは0.47、2層目に用いられる被覆触媒(D)の回折線強度の比率yは0.33となり、x/yは1.42となった。
また1層目に用いられる被覆触媒(C)の回折線強度の比率αは0.61、2層目に用いられる被覆触媒(D)の回折線強度の比率βは0.75となり、α/βは0.81となった。
【0044】
[実施例3]
2)メタクリル酸の製造
1層目に被覆触媒(B)、2層目に被覆触媒(A)を充填した以外は実施例1と同じ条件にてメタクリル酸製造を実施した(S/T=0.92)。メタクリル酸収率は74.9%であった。
【0045】
なお上記のとおり、1層目に用いられる被覆触媒(B)の回折線強度の比率xは0.29、2層目に用いられる被覆触媒(A)の回折線強度の比率yは0.37であり、x/yは0.78である。 また1層目に用いられる被覆触媒(B)の回折線強度の比率αは0.89、2層目に用いられる被覆触媒(A)の回折線強度の比率βは0.75となり、α/βは1.19となった。
【0046】
[比較例1]
2)メタクリル酸の製造
1層目に被覆触媒(D)、2層目に被覆触媒(C)を充填した以外は実施例1と同じ条件にてメタクリル酸製造を実施した。メタクリル酸収率は74.5%であった。
【0047】
なお、上記のとおり1層目に用いられる被覆触媒(D)の回折線強度の比率xは0.33、2層目に用いられる被覆触媒(C)の回折線強度の比率yは0.47であり、x/yは0.70である。 また1層目に用いられる被覆触媒(D)の回折線強度の比率αは0.75、2層目に用いられる被覆触媒(C)の回折線強度の比率βは0.61となり、α/βは1.23となった。
【0048】
以上より、x/yが上記式(1)を満たすように充填された反応管を用いてメタクリル酸を製造した実施例1~3では、比較例1のように充填されたものに比べて、メタクリル酸収率が0.4%以上高いことが確認された。従って、本発明の製造方法の有用性が具体的に実証された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製造方法は、不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸、又は共役ジエンの製造において高収率で目的化合物を得ることを可能にするものである。