(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091019
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】プレキャスト部材の接合構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/22 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
E04B1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207271
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田野 健治
(72)【発明者】
【氏名】新上 浩
(72)【発明者】
【氏名】永元 直樹
(57)【要約】
【課題】プレキャスト部材の損傷を抑制できるプレキャスト部材の接合構造を提供する。
【解決手段】柱梁構造体(2)を構成するプレキャスト部材の接合構造は、プレキャスト柱部材13と、プレキャスト柱部材13の第1方向(X方向)を向く側面に対向して配置される第1プレキャスト梁部材11と、プレキャスト柱部材13と第1プレキャスト梁部材11との間に形成される第1目地21に設けられる第1目地材22と、第1プレキャスト梁部材11をプレキャスト柱部材13の仕口に圧接するべく仕口及び第1プレキャスト梁部材11に第1方向のプレストレスを導入する第1緊張材23とを備え、第1目地材22の弾性率がプレキャスト柱部材13の弾性率及び第1プレキャスト梁部材11の弾性率よりも低い。第1目地材22が変形することにより、仕口部材14及び第1プレキャスト梁部材11の損傷が抑制される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱梁構造体を構成するプレキャスト部材の接合構造であって、
プレキャスト柱部材と、
前記プレキャスト柱部材の第1方向を向く側面に対向して配置される第1プレキャスト梁部材と、
前記プレキャスト柱部材と前記第1プレキャスト梁部材との間に形成される第1目地に設けられる第1目地材と、
前記第1プレキャスト梁部材を前記プレキャスト柱部材の仕口に圧接するべく前記仕口及び前記第1プレキャスト梁部材に前記第1方向のプレストレスを導入する第1緊張材と、を備え、
前記第1目地材の弾性率が前記プレキャスト柱部材の弾性率及び前記第1プレキャスト梁部材の弾性率よりも低い、プレキャスト部材の接合構造。
【請求項2】
前記第1目地材の靭性が前記プレキャスト柱部材の靭性及び前記第1プレキャスト梁部材の靭性よりも高い請求項1に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項3】
前記第1目地材の圧縮強度が前記プレキャスト柱部材の圧縮強度及び前記第1プレキャスト梁部材の圧縮強度よりも低い請求項1又は2に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項4】
前記プレキャスト柱部材の前記第1方向に直交する第2方向を向く側面に対向して配置される第2プレキャスト梁部材と、
前記プレキャスト柱部材と前記第2プレキャスト梁部材との間に形成される第2目地に設けられる第2目地材と、
前記第2プレキャスト梁部材を前記プレキャスト柱部材の前記仕口に圧接するべく前記仕口及び前記第2プレキャスト梁部材に前記第2方向のプレストレスを導入する第2緊張材と、を備え、
前記第2目地材の弾性率が前記プレキャスト柱部材の弾性率及び前記第2プレキャスト梁部材の弾性率よりも低い、請求項1に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項5】
1対の前記プレキャスト柱部材が鉛直方向に積層され、
1対の前記プレキャスト柱部材の間に形成される第3目地に設けられる第3目地材と、
1対の前記プレキャスト柱部材を互いに圧接するべく上方の前記プレキャスト柱部材に前記鉛直方向のプレストレスを導入する第3緊張材と、を備え、
前記第3目地材の弾性率が前記プレキャスト柱部材の弾性率よりも低い、請求項1に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項6】
前記プレキャスト柱部材のそれぞれが、前記仕口をなす仕口部材と、前記仕口部材の下方に配置される柱主部材とを有し、
前記仕口部材と前記柱主部材との間に形成される第4目地に前記第3目地材が設けられ、
前記第3目地材の弾性率が前記仕口部材の弾性率及び前記柱主部材の弾性率よりも低い、請求項5に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項7】
前記第1目地材が前記第1プレキャスト梁部材の断面の少なくとも上部及び下部に設けられ、
前記第1プレキャスト梁部材の断面の高さ方向の中間部に無収縮モルタルが設けられている請求項1に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項8】
前記第3目地材が前記プレキャスト柱部材の断面のうちの外周部に設けられ、
前記プレキャスト柱部材の断面の中央部に無収縮モルタルが設けられている請求項5又は6に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【請求項9】
前記第3緊張材のための定着具が、前記仕口部材の上面に配置され、前記柱主部材の上面に配置されない請求項6に記載のプレキャスト部材の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱梁構造体を構成するプレキャスト部材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ラーメン構造の建物の柱及び梁からなる柱梁構造体に、プレキャストコンクリート製の柱部材(プレキャスト柱部材)や梁部材(プレキャスト梁部材)が用いられることがある。これらのプレキャスト部材は一般的に、機械式鉄筋継手及び目地グラウトを用いて互いに剛結合される。
【0003】
特許文献1には、プレキャストコンクリート柱に大梁受け用顎が一体成形され、プレキャストコンクリート大梁が大梁端部の突起を大梁受け用顎に支持されて柱間に架設された梁と柱の接合構造が開示されている。この接合構造では、大梁受け用突起と大梁端部の顎との接合面に梁と柱の強度よりも低い強度の充填材が設けられ、プレキャストコンクリート大梁はPC鋼線によりプレストレスを付与されてプレキャストコンクリート柱に緊張定着されている。
【0004】
アンボンドプレストレストコンクリート(アンボンドPC)構造は、建物に振動が生じた際には、プレストレス力が保持され、緊張材が全長にわたって変形できるために耐震性に優れている。一方で、コンクリート柱の緊張材が破断した場合には、プレストレスが保持されなくなり、建物に大きな被害が発生するおそれがある。それを防止するために、第1及び第2のプレキャスト柱に跨って、緊張材と鉄筋とが設けられたプレキャスト柱の接合構造が提案されている(特許文献2)。
【0005】
また、アンボンドPC構造は、プレキャスト部材の端部間が開くことで揺れに対して変形に富み、建物の損傷を小さくすることができる一方で、部材の端部のコンクリートが圧縮されることで破壊されやすい。このPCaPC構造体の圧縮破壊を防止するために、互いに対向するように上下方向に配置されたプレキャスト部材の一方又は双方の端面の周縁部が曲面に成形されたアンボンドプレキャストPC構造が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2718594号公報
【特許文献2】特開2021-161717号公報
【特許文献3】特開2021-156152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2記載の接合構造では、プレキャスト柱の端部間が開くことができないため、揺れに対する変形が乏しく、建物の損傷が大きくなる。特許文献3の接合構造は、プレキャスト部材の端部間が開くことで部材の損傷を抑制することはできるが、プレキャスト部材が圧縮力を受けたときに、プレキャスト部材が損傷することを抑制できない。したがって、損傷時の修復が大がかりになる。また、損傷したプレキャスト部材は再利用することができない。
【0008】
本発明は、以上の背景に鑑み、プレキャスト部材の損傷を抑制できるプレキャスト部材の接合構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、柱梁構造体(2)を構成するプレキャスト部材の接合構造であって、プレキャスト柱部材(13)と、前記プレキャスト柱部材の第1方向(X方向)を向く側面に対向して配置される第1プレキャスト梁部材(11)と、前記プレキャスト柱部材と前記第1プレキャスト梁部材との間に形成される第1目地(21)に設けられる第1目地材(22)と、前記第1プレキャスト梁部材を前記プレキャスト柱部材の仕口に圧接するべく前記仕口及び前記第1プレキャスト梁部材に前記第1方向のプレストレスを導入する第1緊張材(23)と、を備え、前記第1目地材の弾性率が前記プレキャスト柱部材の弾性率及び前記第1プレキャスト梁部材の弾性率よりも低い。
【0010】
この態様によれば、プレキャスト柱部材が第1プレキャスト梁部材から第1方向の圧縮力及びそれを発生させる曲げモーメントを受けたときに、第1目地材が変形することで両プレキャスト部材の損傷が抑制される。
【0011】
上記の態様において、前記第1目地材の靭性が前記プレキャスト柱部材の靭性及び前記第1プレキャスト梁部材の靭性よりも高いと良い。
【0012】
この態様によれば、第1目地材が変形したときに脆性破壊することが抑制される。
【0013】
上記の態様において、前記第1目地材の圧縮強度が前記プレキャスト柱部材の圧縮強度及び前記第1プレキャスト梁部材の圧縮強度よりも低いと良い。
【0014】
この態様によれば、両プレキャスト部材が損傷する前に第1目地材が破壊されるため、両プレキャスト部材の損傷が抑制される。これにより、両プレキャスト部材の再利用が可能である。
【0015】
上記の態様において、前記プレキャスト柱部材の前記第1方向に直交する第2方向(Y方向)を向く側面に対向して配置される第2プレキャスト梁部材(12)と、前記プレキャスト柱部材と前記第2プレキャスト梁部材との間に形成される第2目地(26)に設けられる第2目地材(27)と、前記第2プレキャスト梁部材を前記プレキャスト柱部材の前記仕口に圧接するべく前記仕口及び前記第2プレキャスト梁部材に前記第2方向のプレストレスを導入する第2緊張材(28)と、を備え、前記第2目地材の弾性率が前記プレキャスト柱部材の弾性率及び前記第2プレキャスト梁部材の弾性率よりも低いと良い。
【0016】
この態様によれば、プレキャスト柱部材が第2プレキャスト梁部材から第2方向の圧縮力及びそれを発生させる曲げモーメントを受けたときに、第2目地材が変形することで両プレキャスト部材の損傷が抑制される。
【0017】
上記の態様において、1対の前記プレキャスト柱部材が鉛直方向に積層され、1対の前記プレキャスト柱部材の間に形成される第3目地(31)に設けられる第3目地材(32)と、1対の前記プレキャスト柱部材を互いに圧接するべく上方の前記プレキャスト柱部材に前記鉛直方向のプレストレスを導入する第3緊張材(33)と、を備え、前記第3目地材の弾性率が前記プレキャスト柱部材の弾性率よりも低いと良い。
【0018】
この態様によれば、鉛直方向に積層された1対のプレキャスト柱部材間を力又はモーメントが伝達されたときに、第3目地が変形することで両プレキャスト柱部材の損傷が抑制される。
【0019】
上記の態様において、前記プレキャスト柱部材のそれぞれが、前記仕口をなす仕口部材(14)と、前記仕口部材の下方に配置される柱主部材(15)とを有し、前記仕口部材と前記柱主部材との間に形成される第4目地(36)に前記第3目地材が設けられ、前記第3目地材の弾性率が前記仕口部材の弾性率及び前記柱主部材の弾性率よりも低いと良い。
【0020】
この態様によれば、第3目地材が仕口部材の上下に設けられ、仕口部材と上下の柱主部材との間を力又はモーメントが伝達されたときに、第3目地及び第4目地に設けられた第3目地材が変形する。よって、プレキャスト柱部材を構成する仕口部材及び柱主部材の損傷がより効果的に抑制される。
【0021】
上記の態様において、前記第1目地材が前記第1プレキャスト梁部材の断面の少なくとも上部及び下部に設けられ、前記第1プレキャスト梁部材の断面の高さ方向の中間部に無収縮モルタル(40)が設けられていると良い。
【0022】
この態様によれば、第1緊張材によって仕口及び第1プレキャスト梁部材にプレストレスが導入されたときに、第1目地の幅が小さくなることが抑制される。これにより、プレキャスト柱部材に生じる曲げモーメントが小さくなる。なお、第1プレキャスト梁部材の断面の上部及び下部に第1目地材が設けられているため、プレキャスト柱部材が第1プレキャスト梁部材から第1方向の圧縮力を発生させる曲げモーメントを受けたときの両プレキャスト部材の損傷は抑制される。
【0023】
上記の態様において、前記第3目地材が前記プレキャスト柱部材の断面のうちの外周部に設けられ、前記プレキャスト柱部材の断面の中央部に無収縮モルタル(40)が設けられていると良い。
【0024】
この態様によれば、第3緊張材によって上方のプレキャスト柱部材にプレストレスが導入されたときに、第3目地の幅が小さくなることが抑制される。なお、プレキャスト柱部材の断面の外周部に第3目地材が設けられているため、両プレキャスト柱部材間に鉛直方向の圧縮力を発生させる曲げモーメントが発生しても、両プレキャスト柱部材の損傷は抑制される。
【0025】
上記の態様において、前記第3緊張材のための定着具(25)が、前記仕口部材の上面に配置され、前記柱主部材の上面に配置されないと良い。
【0026】
この態様によれば、第4目地を追加的に設けることで仕口部材の損傷を効果的に抑制しつつ、定着具の数の増加によるコスト及び施工手間の増大を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上の態様によれば、プレキャスト部材の損傷を抑制できるプレキャスト部材の接合構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】実施形態に係る建物の架構を一部分解して示す斜視図
【
図2】第1プレキャスト梁部材の接続構造を示す側面図(
図1中のII矢視図)
【
図4】第2プレキャスト梁部材の接続構造を示す側面図(
図1中のIV矢視図)
【
図6】プレキャスト柱部材の接続構造を示す側面図(
図1中のIV矢視図)
【
図8】変形例に係る第1プレキャスト梁部材の第1目地の断面図
【
図9】変形例に係るプレキャスト柱部材の第3目地の断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の説明で「内側」及び「外側」という場合は、建築物の内側及び外側を意味する。
【0030】
図1~
図6は本発明の実施形態を示している。
図1に示されるように、建物は柱梁構造体として架構2を有する。架構2は、水平面上で交差するX方向(第1方向)及びY方向(第2方向)に所定の間隔を空けて互いに離間するように配置された強化コンクリートからなる複数の柱3を含む。本実施形態では、X方向及びY方向は互いに直交し、柱3はX方向に3列以上に、Y方向に3列以上に配置されている。X方向及びY方向の少なくとも一方に柱3が2列に配置されても良い。
【0031】
ここで強化コンクリートとは、コンクリートの強度(特に引張強度)を高めるために鉄筋や、補強繊維(カーボン繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等)、PC材(コンクリートにプレストレスを導入するための細長い部材;PC鋼線やPC鋼棒、PC鋼撚り線、FRPロッド、その他の線又は棒状の部材)の補強材が埋め込まれた或いは混入されたコンクリート系の材料を意味する。強化コンクリートは、鉄筋コンクリート(RC)、FRC(Fiber Reinforced Concrete)PRC(Prestressed Reinforced Concrete)PC(Prestressed Concrete)であってよく、コンクリート系の材料を主な材料とするものであればその他のものであってもよい。
【0032】
X方向に互いに隣接する柱3間には、X方向に延在する強化コンクリートからなる複数の第1梁4が架設されており、これらの柱3及び第1梁4によってX方向に延在するX方向架構2Xが構成される。また、Y方向に互いに隣接する柱3間には、Y方向に延在する強化コンクリートからなる複数の第2梁5が架設されており、これらの柱3及び第2梁5によってY方向に延在するY方向架構2Yが構成される。第1梁4及び第2梁5は、鉛直方向に互いに整合する位置で柱3に接合されている。すなわち、柱3と第1梁4との仕口及び柱3と第2梁5との仕口が共通の仕口を構成している。
【0033】
これらの第1梁4及び第2梁5の上方或いは上部には図示しないスラブが構築される。第2梁5は第1梁4よりも長く、Y方向の柱3のピッチはX方向の柱3のピッチよりも大きい。X方向に互いに隣接する2本の第2梁5間には、X方向に延在する1又は複数の小梁が架設されてもよい。第1梁4、第2梁5及びスラブは鉛直方向に複数層に構築され、架構2は多層ラーメン構造をしている。
【0034】
この架構2は後述する構成を有することにより組立及び解体が容易であり、且つリユースが可能である。よって、この架構2は期限付き建築物(万博施設や被災者のための仮設住宅等、仮設建物と恒久建物との中間的な建築物)に好適である。また架構2は、建築物の広さを拡大、縮小したり、建築物の高さを高層化、低層化したりする用途にも好適である。或いは、架構2は物流倉庫やオフィスビル、集合住宅、商用施設等の建築物に利用されてもよい。
【0035】
架構2は、プレキャストコンクリートからなる複数種類のプレキャストコンクリート製の部材(以下、プレキャスト部材という)を組み立てて構築される。これらのプレキャスト部材は、第1梁4をなす複数の第1プレキャスト梁部材11と、第2梁5をなす複数の第2プレキャスト梁部材12と、階層ごとに設けられた複数のプレキャスト柱部材13とを含んでいる。プレキャスト柱部材13は、第1プレキャスト梁部材11及び第2プレキャスト梁部材12との仕口をなす仕口部材14と、仕口部材14の下方にて上下に延在する柱主部材15とにより構成されている。
【0036】
柱主部材15は、柱3の本体(図示例では、仕口よりも下の部分の全体)をなしており、基礎上或いは下層の柱3の上面に接合される。なお、階高が大きい場合や柱3の断面寸法が大きく重量が重くなる場合等、取り扱いが困難な場合には、柱主部材15が上下に分割された2つ以上のプレキャスト部材によって構成されてもよい。
【0037】
下層のプレキャスト柱部材13の上面に上層の柱主部材15が接合され、その上面に上層の仕口部材14が接合されて、1階層の柱3(プレキャスト柱部材13)が構築される。第1プレキャスト梁部材11は、X方向に互いに隣接配置された1対の柱3の仕口(仕口部材14)に両端を接合される。第2プレキャスト梁部材12は、Y方向に互いに隣接配置された1対の柱3の仕口(仕口部材14)に両端を接合される。上記手順が繰り返されることで建築物の階層が増える。
【0038】
第1プレキャスト梁部材11、第2プレキャスト梁部材12、並びに、仕口部材14及び柱主部材15を含むプレキャスト柱部材13は、同一の材料によって形成されていて良く、異なる材料によって形成されていても良い。これらのプレキャスト部材には、例えば、繊維補強コンクリートが使用される。これらのプレキャスト部材は、同程度の弾性率、靭性及び、圧縮強度を有すると良い。
【0039】
図2は第1プレキャスト梁部材11の接続構造を示す側面図であり、
図1中のII矢視図である。
図3は
図2中のIII部の拡大図である。
図2及び
図3に示すように、第1プレキャスト梁部材11の両端部と、1対のプレキャスト柱部材13のX方向を向く側面との間には、第1目地21が形成されている。第1目地21には第1目地材22が充填されている。
【0040】
第1目地材22は例えば、低靭性高弾性モルタル、繊維補強モルタル、ポリマーセメントモルタルであってよい。具体的には、第1目地材22は、仕口部材14の弾性率及び第1プレキャスト梁部材11の弾性率よりも低い弾性率を有する。また第1目地材22は、仕口部材14の靭性及び第1プレキャスト梁部材11の靭性よりも高い靭性を有する。更に第1目地材22は、仕口部材14の圧縮強度及び第1プレキャスト梁部材11の圧縮強度よりも低い圧縮強度を有する。
【0041】
第1プレキャスト梁部材11及び仕口部材14には、第1緊張材23をX方向に挿通するための第1緊張材挿通孔24が形成されている。第1緊張材挿通孔24には第1緊張材23が挿通される。第1緊張材23は、緊張状態で定着具25によって両端を仕口部材14に定着されることにより、仕口部材14及び第1プレキャスト梁部材11にプレストレスを導入し、第1プレキャスト梁部材11を仕口部材14に圧接する。第1緊張材挿通孔24に充填材は充填されていない。すなわち、第1緊張材23はアンボンド緊張材である。
【0042】
図4は第1プレキャスト梁部材11の接続構造を示す側面図であり、
図1中のIV矢視図である。
図5は
図4中のV部の拡大図である。
図4及び
図5に示すように、第2プレキャスト梁部材12の両端部と、1対のプレキャスト柱部材13のY方向を向く側面との間には、第2目地26が形成されている。第2目地26には第2目地材27が充填されている。
【0043】
第2目地材27は例えば、低靭性高弾性モルタル、繊維補強モルタル、ポリマーセメントモルタルであってよい。具体的には、第2目地材27は、仕口部材14の弾性率及び第2プレキャスト梁部材12の弾性率よりも低い弾性率を有する。また第2目地材27は、仕口部材14の靭性及び第2プレキャスト梁部材12の靭性よりも高い靭性を有する。更に第2目地材27は、仕口部材14の圧縮強度及び第2プレキャスト梁部材12の圧縮強度よりも低い圧縮強度を有する。
【0044】
第2プレキャスト梁部材12及び仕口部材14には、第2緊張材28をY方向に挿通するための第2緊張材挿通孔29が形成されている。第2緊張材挿通孔29には第2緊張材28が挿通される。第2緊張材28は、緊張状態で定着具25によって両端を仕口部材14に定着されることにより、仕口部材14及び第2プレキャスト梁部材12にプレストレスを導入し、第2プレキャスト梁部材12を仕口部材14に圧接する。第2緊張材挿通孔29に充填材は充填されていない。すなわち、第2緊張材28はアンボンド緊張材である。
【0045】
図6は第1プレキャスト梁部材11の接続構造を示す側面図であり、
図1中のIV矢視図である。
図6に示すように、柱主部材15と下層階の仕口部材14との間には第3目地31が形成されている。仕口部材14と下方の柱主部材15との間には第4目地36が形成されている。第3目地31及び第4目地36には第3目地材32が充填されている。
【0046】
第3目地材32は例えば、低靭性高弾性モルタル、繊維補強モルタル、ポリマーセメントモルタルであってよい。具体的には、第3目地材32は、仕口部材14の弾性率及び柱主部材15の弾性率よりも低い弾性率を有する。また第3目地材32は、仕口部材14の靭性及び柱主部材15の靭性よりも高い靭性を有する。更に第3目地材32は、仕口部材14の圧縮強度及び柱主部材15の圧縮強度よりも低い圧縮強度を有する。
【0047】
柱主部材15及び仕口部材14には、第3緊張材33を鉛直方向に挿通するための第3緊張材挿通孔34が形成されている。第3緊張材挿通孔34には第3緊張材33が挿通される。第3緊張材33は、カップラー35によって下端を下方の第3緊張材33の上端に接合され、緊張状態で定着具25によって上端を仕口部材14に定着される。これにより第3緊張材33は、仕口部材14及び柱主部材15にプレストレスを導入し、柱主部材15を下層階の仕口部材14に、仕口部材14を下方の柱主部材15に圧接する。第3緊張材挿通孔34に充填材は充填されていない。すなわち、第3緊張材33はアンボンド緊張材である。
【0048】
建物の架構2は以上のように構成されている。次に、
図7を参照して実施形態に係る架構2の作用効果について説明する。
図7(A)は本発明の
図5に対応する側面図(X方向から見た側面図)を示し、
図7(B)は比較例を示している。比較例は従来の柱梁接合構造を示している。比較例において、本発明と同様の部材には同じ符号を付している。図示省略するが、
図3に対応するY方向から見た側面においても、同様の作用効果が奏される。
【0049】
地震時、架構2の柱梁接合部には曲げモーメントが発生する。
図7(B)に示すように、従来の構造では、柱3の仕口にひび割れ38が発生し、プレキャスト柱部材13全体を交換する必要が生じる。
【0050】
これに対し本発明では、
図7(A)に示すように、仕口部材14の側面や上面、下面に形成される目地に、目地を形成する仕口部材14及び対応するプレキャスト部材よりも低弾性、高靭性、低圧縮強度の目地材が使用されている。そのため、目地材の変形によって曲げモーメントが吸収され、揺れに対する架構2の変形が富む。これにより、仕口部材14及び対応するプレキャスト部材の損傷が抑制され、架構2の破損が抑制される。地震エネルギーが大きく、揺れが大きい場合には、仕口部材14及び対応するプレキャスト部材が損傷する前に目地材が損傷する。これにより、架構2は損傷するが、修復は目地のみ行えばよく、プレキャスト部材は再利用できるため、修復作業が大がかりにならずに済む。以下、具体的に説明する。
【0051】
図2及び
図3を参照して説明したように、第1目地材22の弾性率はプレキャスト柱部材13の弾性率及び第1プレキャスト梁部材11の弾性率よりも低い。そのため、プレキャスト柱部材13が第1プレキャスト梁部材11からX方向の圧縮力及びそれを発生させる曲げモーメントを受けたときに、第1目地材22が変形する。これにより両プレキャスト部材の損傷が抑制される。
【0052】
また第1目地材22の靭性はプレキャスト柱部材13の靭性及び第1プレキャスト梁部材11の靭性よりも高い。そのため、第1目地材22が変形したときに脆性破壊することが抑制される。
【0053】
更に第1目地材22の圧縮強度はプレキャスト柱部材13の圧縮強度及び第1プレキャスト梁部材11の圧縮強度よりも低い。そのため、両プレキャスト部材が損傷する前に第1目地材22が破壊される。これにより、両プレキャスト部材の損傷が抑制される。よって、両プレキャスト部材の再利用が可能である。
【0054】
図4及び
図5を参照して説明したように、第2目地材27の弾性率はプレキャスト柱部材13の弾性率及び第2プレキャスト梁部材12の弾性率よりも低い。そのため、プレキャスト柱部材13が第2プレキャスト梁部材12からY方向の圧縮力及びそれを発生させる曲げモーメントを受けたときに、第2目地材27が変形する。これにより両プレキャスト部材の損傷が抑制される。
【0055】
図6を参照して説明したように、第3目地31に設けられた第3目地材32の弾性率はプレキャスト柱部材13の弾性率よりも低い。そのため、鉛直方向に積層された1対のプレキャスト柱部材13間を力又はモーメントが伝達されたときに、第3目地材32が変形する。これにより両プレキャスト柱部材13の損傷が抑制される。
【0056】
また、仕口部材14と柱主部材15との間に形成される第4目地36に第3目地材32が設けられ、第3目地材32の弾性率は仕口部材14の弾性率及び柱主部材15の弾性率よりも低い。そのため、仕口部材14と上下の柱主部材15との間を力又はモーメントが伝達されたときに、第3目地31及び第4目地36に設けられた第3目地材32が変形する。よって、プレキャスト柱部材13を構成する仕口部材14及び柱主部材15の損傷がより効果的に抑制される。
【0057】
第4目地36が追加的に設けられることで仕口部材14の損傷が効果的に抑制される。ここで、第3緊張材33のための定着具25は、仕口部材14の上面に配置され、柱主部材15の上面に配置されていない。そのため、定着具25の数の増加によるコスト及び施工手間の増大が抑制される。
【0058】
次に、
図8~
図9を参照して本実施形態の変形例について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0059】
図8は変形例に係る第1プレキャスト梁部材11の第1目地21の断面図である。
図8(A)に示すように、第1目地材22は第1プレキャスト梁部材11の断面の上部及び下部に設けられている。一方、第1プレキャスト梁部材11の断面の高さ方向の中間部には無収縮モルタル40が設けられている。
【0060】
そのため、第1緊張材23によって仕口部材14及び第1プレキャスト梁部材11にプレストレスが導入されたときに、第1目地21の幅が小さくなることが抑制される。これにより、プレキャスト柱部材13に生じる曲げモーメントが小さくなる。
【0061】
なお、第1プレキャスト梁部材11の断面の少なくとも上部及び下部に第1目地材22が設けられればよく、
図8(B)に示すように、第1目地材22が第1プレキャスト梁部材11の断面の上部及び下部を含む外周部に設けられてもよい。この構成によっても、プレキャスト柱部材13が第1プレキャスト梁部材11からX方向の圧縮力を発生させる曲げモーメントを受けたときに、両プレキャスト部材が損傷することが抑制される。
【0062】
図9は変形例に係るプレキャスト柱部材13の第3目地31の断面図である。
図9に示すように、第3目地材32はプレキャスト柱部材13の断面のうちの外周部に設けられている。プレキャスト柱部材13の断面の中央部には無収縮モルタル40が設けられている。
【0063】
そのため、第3緊張材33によって上方のプレキャスト柱部材13にプレストレスが導入されたときに、第3目地31の幅が小さくなることが抑制される。なお、プレキャスト柱部材13の断面の外周部に第3目地材32が設けられているため、両プレキャスト柱部材13間に鉛直方向の圧縮力を発生させる曲げモーメントが発生しても、両プレキャスト柱部材13の損傷は抑制される。
【0064】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、或いは構築手順等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。また、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0065】
2 :架構
2X :X方向架構
2Y :Y方向架構
3 :柱
4 :第1梁
5 :第2梁
11 :第1プレキャスト梁部材
12 :第2プレキャスト梁部材
13 :プレキャスト柱部材
14 :仕口部材
15 :柱主部材
21 :第1目地
22 :第1目地材
23 :第1緊張材
24 :第1緊張材挿通孔
25 :定着具
26 :第2目地
27 :第2目地材
28 :第2緊張材
29 :第2緊張材挿通孔
31 :第3目地
32 :第3目地材
33 :第3緊張材
34 :第3緊張材挿通孔
35 :カップラー
36 :第4目地
40 :無収縮モルタル