IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

特開2024-91030かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム
<>
  • 特開-かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム 図1
  • 特開-かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム 図2
  • 特開-かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム 図3
  • 特開-かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム 図4
  • 特開-かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム 図5
  • 特開-かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム 図6
  • 特開-かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム 図7
  • 特開-かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091030
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システム
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/34 20060101AFI20240627BHJP
   G01B 15/02 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
E02D5/34 Z
G01B15/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207293
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達
【テーマコード(参考)】
2D041
2F067
【Fターム(参考)】
2D041AA01
2D041BA44
2D041DA01
2F067AA28
2F067BB17
2F067BB25
2F067EE05
2F067HH02
2F067JJ02
2F067KK08
2F067NN05
(57)【要約】
【課題】地下水の噴出を抑制しながら、かぶり厚さを計測するためのかぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システムを提供する。
【解決手段】かぶり厚さ計測システム10は、耐圧盤が上部周囲に設けられたコンクリート製の既存杭のかぶり厚さを計測する。かぶり厚さ計測システム10の制御部21は、既存杭に鉛直方向に延在して形成された探査孔に挿入されたレーダ探査機15から発信された送信波の探査孔の周囲の計測反射性状を取得する。制御部21は、取得した計測反射性状を用いて、既存杭の外周位置と杭主筋の位置とを算出し、算出した外周位置と杭主筋の位置とを用いて、既存杭のかぶり厚さを特定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部の周囲に耐圧盤を設けたコンクリート製の地下躯体のかぶり厚さを計測する計測方法であって、
鉛直方向に延在する探査孔を前記地下躯体に形成し、
前記探査孔に挿入したレーダ探査機から発信された送信波の前記探査孔の周囲の計測反射性状を取得し、
前記取得した計測反射性状を用いて、前記地下躯体の外周位置と鉄筋位置とを算出し、
前記算出した外周位置と前記鉄筋位置とを用いて、前記地下躯体のかぶり厚さを算出することを特徴とするかぶり厚さ計測方法。
【請求項2】
鉛直方向に延在する校正用の孔を前記地下躯体に更に形成し、
前記探査孔に挿入したレーダ探査機から発信された前記校正用の孔に対する校正用反射性状を取得し、
前記取得した校正用反射性状を、キャリブレーション用情報として用いることにより、前記計測反射性状のキャリブレーションを行なって、前記地下躯体の外周位置と鉄筋位置とを算出することを特徴とする請求項1に記載のかぶり厚さ計測方法。
【請求項3】
上部の周囲に耐圧盤を設けたコンクリート製の地下躯体のかぶり厚さを計測する制御部を備えたかぶり厚さ計測システムであって、
前記制御部は、
前記地下躯体に鉛直方向に延在して形成された探査孔に挿入されたレーダ探査機から発信された送信波の前記探査孔の周囲の計測反射性状を取得し、
前記取得した計測反射性状を用いて、前記地下躯体の外周位置と鉄筋位置とを算出し、
前記算出した外周位置と前記鉄筋位置とを用いて、前記地下躯体のかぶり厚さを算出することを特徴とするかぶり厚さ計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、既存杭等の地下躯体のコンクリートのかぶり厚さを計測するかぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存杭の健全性を確認するために、既存杭のかぶり厚さを調査することが行なわれていた。この場合、既存杭のかぶり厚さは、既存杭の杭頭が露出するまで斫った後、目視等により行われていた。
【0003】
また、基礎杭の性状を把握するために、ボアホールレーダを用いることが行なわれている(例えば、特許文献1参照。)。この文献には、基礎杭に軸方向に沿って形成された孔に、ボアホールレーダの送受信部を挿入し、所定深さ位置での杭直方向全周の反射データを取得する。そして、これを、所定深さ単位に実施することで、基礎杭における評価対象部分の3次元のデータを取得する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-030802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、地下水位が高い透水性地盤(砂質地盤等)に、建物の杭が囲まれている場合、被圧地下水が建物に溢れ出てこないように、既存杭の杭頭の周囲に耐圧盤が設けられている。このような建物の既存杭の健全性として既存杭のかぶり厚さを確認する場合、通常、既存杭が露出するまで斫る必要がある。しかし、既存杭が露出するように斫る場合には、耐圧盤も、部分的に斫る必要がある。この場合、耐圧盤を介して地下水が噴出することがあった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するかぶり厚さ計測方法は、上部の周囲に耐圧盤を設けたコンクリート製の地下躯体のかぶり厚さを計測する計測方法であって、鉛直方向に延在する探査孔を前記地下躯体に形成し、前記探査孔に挿入したレーダ探査機から発信された送信波の前記探査孔の周囲の計測反射性状を取得し、前記取得した計測反射性状を用いて、前記地下躯体の外周位置と鉄筋位置とを算出し、前記算出した外周位置と前記鉄筋位置とを用いて、前記地下躯体のかぶり厚さを算出する。
【0007】
更に、上記課題を解決するかぶり厚さ計測システムは、上部の周囲に耐圧盤を設けたコンクリート製の地下躯体のかぶり厚さを計測する制御部を備えたかぶり厚さ計測システムであって、前記制御部は、前記地下躯体に鉛直方向に延在して形成された探査孔に挿入されたレーダ探査機から発信された送信波の前記探査孔の周囲の計測反射性状を取得し、前記取得した計測反射性状を用いて、前記地下躯体の外周位置と鉄筋位置とを算出し、前記算出した外周位置と前記鉄筋位置とを用いて、前記地下躯体のかぶり厚さを算出する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、地下水の噴出を抑制しながら、かぶり厚さを計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態におけるかぶり厚さ計測システムの構成を説明する説明図である。
図2】実施形態におけるハードウェア構成の説明図である。
図3】実施形態におけるかぶり厚さを計測するときの既存杭やパイルキャップ周囲の状態を示す正面断面図である。
図4】実施形態におけるかぶり厚さを計測するときの各種寸法を説明するための既存杭の上面図である。
図5】実施形態におけるかぶり厚さ計測方法の処理手順を説明する流れ図である。
図6】実施形態における実験で測定されたレーダ探査の探査孔を形成したときの状態を説明する上面図である。
図7】実施形態における実験で測定されたレーダ探査による反射画像の説明図であって、(a)は図6における(a)方向に発信した電磁波の反射性状、(b)は図6における(b)方向に発信した電磁波の反射性状、(c)は図6における(c)方向に発信した電磁波の反射性状を示す。
図8】変更例におけるキャリブレーションに用いるレーダ媒質の比誘電率を測定するための測定方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1図7を用いて、かぶり厚さ計測方法及びかぶり厚さ計測システムを具体化した一実施形態を説明する。本実施形態では、地下躯体として鉄筋コンクリート製の既存杭のかぶり厚さを計測するかぶり厚さ計測システムとして説明する。ここでは、既存杭は、砂質地盤等の地下水位が高い透水性地盤に囲まれている場合を想定する。この場合、既存杭の杭頭(上端部)の周囲に耐圧盤が設けられている。
【0011】
(かぶり厚さ計測システムの構成)
図1に示すように、かぶり厚さ計測システム10は、レーダ探査機15、反射波測定器16及び計測装置20を備える。
【0012】
レーダ探査機15は、指向性のボアホールレーダであって、探査本体部151と送受信部とを備える。送受信部は、送信アンテナ部155及び受信アンテナ部156を備える。
レーダ探査機15は、防水加工が周囲に施された、例えば500mm~600mmの細長い円筒形状を有する。そして、後述するように探査孔h1内に縦長に挿入された状態において、送信アンテナ部155は、既存杭31の径方向に送信可能に設定されて、探査本体部151からの発信信号によってパルス状の電磁波(送信波)を径方向に向けて発信する。受信アンテナ部156は、既存杭31の外表面、又は既存杭31の鉄筋としての杭主筋33で反射した電磁波の反射波を受信し、この受信に応じた電気信号を探査本体部151に出力する。探査本体部151は、送信アンテナ部155及び受信アンテナ部156による送受信による電磁波の送受信を制御し、実施した探査による反射データを反射波測定器16に供給する。
反射波測定器16は、レーダ探査機15から取得した電磁波の反射性状(測定値)を画像として生成し、反射波画像として計測装置20に送信する。
【0013】
(ハードウェア構成例)
図2は、計測装置20等として機能する情報処理装置H10のハードウェア構成例である。
【0014】
情報処理装置H10は、通信装置H11、入力装置H12、表示装置H13、記憶装置H14、プロセッサH15を有する。なお、このハードウェア構成は一例であり、他のハードウェアを有していてもよい。
【0015】
通信装置H11は、他の装置との間で通信経路を確立して、データの送受信を実行するインターフェースである。
入力装置H12は、計測者の入力を受け付ける装置である。
表示装置H13は、各種情報を表示するディスプレイやタッチパネル等である。
記憶装置H14は、計測装置20の各種機能を実行するためのデータや各種プログラムを格納する。
【0016】
プロセッサH15は、記憶装置H14に記憶されるプログラムやデータを用いて、計測装置20における各処理を制御する。プロセッサH15の一例としては、CPUやMPU等がある。このプロセッサH15は、ROM等に記憶されるプログラムをRAMに展開して、各種処理に対応する各種プロセスを実行する。例えば、プロセッサH15は、計測装置20のアプリケーションプログラムが起動された場合、後述する各処理を実行するプロセスを動作させる。
【0017】
プロセッサH15は、自身が実行するすべての処理についてソフトウェア処理を行なうものに限られない。例えば、プロセッサH15は、自身が実行する処理の少なくとも一部についてハードウェア処理を行う専用のハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路:ASIC)を備えてもよい。
【0018】
(計測装置20の構成)
図1の計測装置20は、かぶり厚さを計測するためのコンピュータシステムである。この計測装置20は、制御部21及び計測データ記憶部22を備えている。
【0019】
制御部21は、後述する処理(測定結果取得段階、校正段階及び厚さ算出段階等を含む処理)を行なう。このためのかぶり厚さ計測プログラムを実行することにより、制御部21は、測定結果取得部211、校正部212及び厚さ算出部213等として機能する。
【0020】
測定結果取得部211は、反射波測定器16において生成した反射波の画像を取得して、計測データ記憶部22に記憶する。
校正部212は、後述する校正用の孔h2を用いて、反射波の反射性状を校正する処理を実行する。
【0021】
厚さ算出部213は、既存杭31のかぶり厚さを特定する。この場合、厚さ算出部213は、計測データ記憶部22に記録された反射波性状を用いて、既存杭31の外周位置(既存杭31と地面との境界)までの距離と、既存杭31の杭主筋33までの距離とを算出し、既存杭31のかぶり厚さを算出する。
計測データ記憶部22は、取得した反射波の画像データを記憶する。
【0022】
(かぶり厚さ計測方法)
次に、図3図6を用いて、かぶり厚さ計測方法について説明する。
まず、かぶり厚さを計測する既存杭31の配置及び既存杭31の構成について説明する。
【0023】
図3に示すように、本実施形態では、既存杭31は、地下水位が高い透水性地盤(砂質地盤等)に囲まれている。このため、既存杭31の杭頭(上部)の周囲には、コンクリート製の耐圧盤36が形成されている。これにより、被圧地下水が既存杭31や耐圧盤36によって上方に噴出しないように抑制されている。
【0024】
既存杭31及びその周囲の耐圧盤36の上方には、パイルキャップ37が形成され、パイルキャップ37の上には基礎梁38が形成されている。
図4に示すように、既存杭31は、複数の杭主筋33が1つの円上に離散して配置された状態でコンクリート34に埋設されている。
【0025】
そして、以下の手順で、計測領域S1を含む領域において、既存杭31の杭主筋33(杭主筋33の既存杭31の外周側の端部位置)からコンクリート34の外周位置までの距離(かぶり厚さT1)を計測する。
まず、図5に示すように、基礎梁及びパイルキャップを斫る(ステップS11)。
本実施形態では、図3に示すように、耐圧盤36の上面よりも余裕高さ分、高い位置まで、基礎梁38及びパイルキャップ37の一部(図における右側部分)を削る。この場合、耐圧盤36と既存杭31のコンクリート34との打ち継ぎの所から水が漏れてくることがあるが、水中ポンプで十分に対応することができる。
【0026】
次に、探査孔及び校正用の孔を形成する(ステップS12)。具体的には、削ったパイルキャップ37の上面から、垂直方向に延在する円筒の長孔を探査孔h1として穿孔する。この場合、図4に示すように、既存建物の設計図面に基づいて既存杭31の位置を予測し、既存杭31の外周位置から100mm~200mmの範囲となる位置に探査孔h1を形成する。
【0027】
また、図3に示すように、探査孔h1は、例えば、直径75mmで、既存杭31の杭頭から長さL1=約1m分の長さを有するように形成する。
更に、図4に示すように、探査孔h1から100mm~200mmの範囲となる位置に、校正用の孔h2を形成する。この場合、探査孔h1から校正用の孔h2までの距離が、探査孔h1から既存杭31の外周位置までの距離と、ほぼ同じになるように、校正用の孔h2を設けるのが好ましい。更に、校正用の孔h2は、探査孔h1と同じ直径で形成する。
また、図3に示すように、校正用の孔h2は、探査孔h1よりも浅く、例えば、耐圧盤36の厚み程度の深さを有する。
【0028】
次に、探査孔に挿入したレーダ探査機を用いた計測処理を実行する(ステップS13)。具体的には、探査孔h1に挿入したレーダ探査機15は、回転しながら、送信アンテナ部155から電磁波を送信するとともに、受信アンテナ部156において、反射した電磁波を取得して、探査孔h1の周囲の反射波測定値を取得する。
【0029】
そして、レーダ探査機15は、取得した反射波測定値を反射波測定器16に送信する。反射波測定器16は、取得した反射測定値から反射波画像を生成し、この反射波画像(反射波測定値)を、計測装置20の制御部21に送信する。この場合、校正用の孔h2が位置する方向から取得した反射波測定値が、校正用反射性状に対応し、その他の方向において取得した反射波測定値が、計測反射性状に対応する。
【0030】
次に、計測装置20の制御部21は、既存杭の外周位置及び杭主筋の位置の計測処理を実行する(ステップS14)。具体的には、制御部21の校正部212は、入力装置H12を介して入力された、探査孔h1と校正用の孔h2との実測距離を取得する。ここで、制御部21は、杭主筋33の直径(鉄筋径)も、入力装置H12を介して取得する。
【0031】
次に、校正部212は、校正用の孔h2に対する反射波画像(反射波測定値)に応じて、校正用の孔h2において反射した反射波までの距離が実測距離となるように、既存杭31内における計測用の比誘電率を、キャリブレーション用情報として算出する。
【0032】
そして、制御部21の厚さ算出部213は、既存杭31の外周位置及び杭主筋33の位置を特定する。具体的には、厚さ算出部213は、探査孔h1の周囲の反射波画像に基づいて、既存杭31の外周位置と、既存杭31の杭主筋33の位置(鉄筋位置)とを特定する。この場合、コンクリートの既存杭31とその周囲の土との境界における反射波と、鉄筋である杭主筋33における反射波とは、反射の強度が異なるため、反射波画像において区別できる。
【0033】
そして、厚さ算出部213は、探査孔h1の周囲において、既存杭31とその周囲の土との境界(既存杭31の外周)における反射地点、杭主筋33における反射地点を、それぞれ区別して、複数個所、特定する。次に、厚さ算出部213は、算出した比誘電率を適用して、これら特定した複数の反射地点までの距離を特定する。
【0034】
そして、厚さ算出部213は、既存杭31とその周囲の土との境界(既存杭31の外周)における反射地点までの距離を円弧で結ぶことにより、既存杭31の外周を示す円弧を生成する。更に、厚さ算出部213は、離散した鉄筋における反射地点までの距離を円弧で結ぶことにより、杭主筋33の中心C1側の端部位置を示す円弧を生成する。そして、厚さ算出部213は、既存杭31の外周を示す円弧の中心と、杭主筋33の中心C1側の端部位置を示す円弧との中心が一致するように調整する。このとき、一致させた中心が既存杭31の中心C1となる。
次に、厚さ算出部213は、中心C1から、既存杭31の外周を示す円弧までの距離を、既存杭31の外周位置までの距離R2として算出する。更に、厚さ算出部213は、中心C1から、杭主筋33の中心C1側の端部位置を示す円弧までの距離に、杭主筋33の直径を加えることにより、中心C1から杭主筋33の外側(杭主筋33の既存杭31の外周側の端部位置)までの距離R1を算出する。
【0035】
次に、計測した外周位置及び杭主筋の位置を用いて既存杭のかぶり厚さの特定処理を実行する(ステップS15)。具体的には、制御部21の厚さ算出部213は、算出した既存杭31の外周位置までの距離R2から、杭主筋33の外側までの距離R1を減算することにより、既存杭31のかぶり厚さT1を算出する。そして、算出したかぶり厚さT1を、計測した反射波画像に関連付けて計測データ記憶部22に記憶するとともに、表示装置H13に表示する。
【0036】
(実際の反射性状)
図6は、実際に探査孔h3を形成した地下躯体50の状態を示した上面図である。この図において、地下躯体50は、柱55を備える。そして、設計図面によって既存杭51の位置を特定した。図6において、探査孔h3に上述したレーダ探査機15を挿入して、(a),(b),(c)の3方向に対して反射性状を取得した。
【0037】
図7(a)、図7(b)、図7(c)は、それぞれ図6における(a),(b),(c)方向において取得した反射性状を示す反射波画像である。なお、図7(a)~図7(c)における「コア孔」は、探査孔h3のことである。
【0038】
図7(a)及び図7(b)において、それぞれ探査孔h3から外周位置(土との境界)までの距離が160mm、140mmとして特定された。そして、これら2方向の距離以外の周囲における複数の既存杭51の外周位置までの距離を特定し、これらを円弧で繋げることで、既存杭51の外周位置を特定する。
【0039】
また、図7(c)においては、80mmの距離において杭主筋33が検出されている。このような杭主筋33が検出された画像において、既存杭31の周囲における複数の杭主筋33までの距離を算出し、これらを円弧に繋げることで、杭主筋33の位置を特定する。
【0040】
(作用)
基礎梁38及びパイルキャップ37の一部を削った後、既存杭31に鉛直方向に延在する探査孔h1を形成する。そして、この探査孔h1に挿入したレーダ探査機15を用いて、既存杭31の外周位置までの距離及び杭主筋33までの距離を取得し、これらの距離から既存杭31のかぶり厚さを算出する。従って、既存杭31のかぶり厚さを特定するために、耐圧盤36に孔を開ける必要がない。
【0041】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態のかぶり厚さ計測システム10の制御部21は、既存杭31に形成した鉛直方向に延在する探査孔h1に挿入されたレーダ探査機15からの反射波測定値を取得する。制御部21は、取得した反射波測定値を用いて、既存杭31の中心C1から外周位置までの距離R2と中心C1から杭主筋33の外側までの距離R1とを算出し、これらの距離R1,R2を用いて、既存杭31のかぶり厚さT1を算出する。従って、既存杭31の杭頭を露出させずに既存杭31のかぶり厚さT1を算出することができるので、既存杭31の杭頭の露出のために耐圧盤36に孔を開ける必要がないため、被圧地下水の噴出を抑制することができる。
更に、従来、図3の領域PA1まで削る必要があった。一方、本発明では、パイルキャップ37の途中まで斫ればよいので、斫り作業を短時間で行なうことができる。
【0042】
(2)本実施形態では、既存建物の設計図面に基づいて既存杭31の位置を予測し、既存杭31の外周位置から100mm~200mmとなる位置に探査孔h1を形成する。レーダ探査機15は、200mm以下の距離の反射性状は精度よく特定できるため、探査孔h1から200mm以下にある既存杭31の外周位置や杭主筋33を精度よく特定することができる。
【0043】
(3)本実施形態の制御部21は、レーダ探査機15を用いて、既存杭31の中心C1から外周位置までの距離R2とともに、杭主筋33の中心C1側の端部位置までの距離を特定する。既存杭31の杭頭から上方に突出している杭主筋33の位置が、地中における配置とは異なることがある。このため、レーダ探査機15により実際に計測した杭主筋33の中心C1側の端部位置までの距離と杭主筋33の鉄筋径とを用いて算出した距離R1を用いることにより、地中における実際のかぶり厚さT1を特定することができる。
【0044】
(4)本実施形態では、探査孔h1の近傍に校正用の孔h2を形成する。そして、計測装置20の制御部21は、校正用の孔h2に対する反射波測定値を用いて比誘電率を算出し、この比誘電率を用いて既存杭31の外周位置までの距離R2、杭主筋33までの距離R1を特定する。探査孔h1には地下水が流れこんでいるため、探査孔h1から既存杭31の外周や杭主筋33までの比誘電率は、コンクリートのみの比誘電率とは異なる。このため、実際に測定された校正用の孔h2の反射波測定値を用いて、比誘電率を特定することにより、既存杭31の外周位置や杭主筋33の位置を精度よく特定することができる。
【0045】
(5)本実施形態のレーダ探査機15は、防水加工が周囲に施された細長い円筒形状を有する。探査孔h1に被圧地下水が染み出てきた状態においても、反射波測定値を取得することができる。
【0046】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、探査孔h1の近傍に校正用の孔h2を設けた。そして、探査孔h1に挿入したレーダ探査機15から校正用の孔h2までの反射波測定値(反射波画像)を用いて算出した比誘電率を、キャリブレーション用情報として用いる。キャリブレーション用情報は、これに限られない。例えば、校正用の孔h2までの反射波測定値(反射波画像)と、探査孔h1から校正用の孔h2までの距離とを用いて、実際の長さに対応する反射波画像における長さ(寸法比率)を特定する。そして、特定した反射波画像における寸法比率に応じて、既存杭31の外周位置及び杭主筋33に対する反射波画像(反射波測定値)から、実際の距離R1,R2を特定してもよい。
【0047】
更に、校正用の孔h2を設けずに、既存杭31の外周位置及び杭主筋33までの距離の算出に必要なレーダ媒質の比誘電率を制御部21に記憶させて、この比誘電率を用いてキャリブレーションを行なってもよい。この場合、一般的な比誘電率を用いてもよいし、別途、かぶり厚さT1の計測時の計測状態を考慮した実験等により調査した値を用いてもよい。
【0048】
例えば、図8に示すように、図示しない容器に、水71、コンクリートブロック72及び水を含ませた砂73を積層させる。この場合、例えば、水71の層の厚さL5を50mm、コンクリートブロック72の厚さL6を100mm~200mmとする。そして、水71の水面にレーダ探査機70を配置して、電磁波を砂73に向けて送信する。この場合、電磁波は、コンクリートブロック72と砂73との境界で反射する。このようにして計測した比誘電率を用いてもよい。また、計測時の計測状態等の条件によっては、キャリブレーションを省略してもよい。
【0049】
・上記実施形態においては、かぶり厚さ計測システム10の計測装置20は、レーダ探査機15が取得した反射波測定値(反射波画像)を、反射波測定器16を介して取得し、既存杭31のかぶり厚さT1を算出した。かぶり厚さは、計測装置が行なう代わりに、反射波測定値を用いて手動で計算して算出してもよい。
・上記実施形態においては、計測装置20は、離散した杭主筋33における反射地点までの距離を円弧で結ぶことにより、杭主筋33の中心C1側の端部位置を示す円弧を生成する。そして、この円弧から杭主筋33の鉄筋径を加算して、杭主筋33における既存杭31の外周側の端部位置までの距離R1を算出した。鉄筋径を考慮できれば、この算出方法に限られない。例えば、レーダ探査機と杭主筋33の方向(位置関係)に応じた割合で鉄筋径を考慮して、距離R1を算出してもよい。
【0050】
・上記実施形態のかぶり厚さ計測システム10は、既存杭31のかぶり厚さT1を計測した。計測するかぶり厚さは、既存杭に限られず、コンクリート製の地下にある地下躯体のかぶり厚さであれば、例えば、壁杭や基礎梁等のかぶり厚さを計測してもよい。
【0051】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、以下に追記する。
(A)前記制御部は、
前記地下躯体に鉛直方向に延在するように形成された校正用の孔の校正用反射性状を、前記探査孔に挿入したレーダ探査機によって取得し、
前記校正用の孔の校正用反射性状を、キャリブレーション用情報として用いることにより、前記計測反射性状のキャリブレーションを行なって、前記地下躯体の外周位置と鉄筋位置とを算出することを特徴とする請求項3に記載のかぶり厚さ計測装置。
【0052】
(B)前記制御部は、
前記探査孔に挿入された前記レーダ探査機が、前記地下躯体の外周までのレーダ媒質の比誘電率を記憶しており、
前記記憶したレーダ媒質の比誘電率を、キャリブレーション用情報として用いることにより、前記計測反射性状のキャリブレーションを行なって、前記地下躯体の外周位置と鉄筋位置とを算出することを特徴とする請求項3に記載のかぶり厚さ計測装置。
【符号の説明】
【0053】
C1…中心、h1,h3…探査孔、h2…孔、L5,L6…厚さ、R1,R2…距離、S1…計測領域、T1…厚さ、10…かぶり厚さ計測システム、15,70…レーダ探査機、16…反射波測定器、20…計測装置、21…制御部、22…計測データ記憶部、31,51…地下躯体としての既存杭、33…鉄筋としての杭主筋、34…コンクリート、36…耐圧盤、37…パイルキャップ、38…基礎梁、50…地下躯体、55…柱、71…水、72…コンクリートブロック、73…砂、151…探査本体部、155…送信アンテナ部、156…受信アンテナ部、211…取得部、212…校正部、213…厚さ算出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8