IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ グローブライド株式会社の特許一覧

特開2024-91034釣部材等の基材を塗装する塗装物及びこれを形成する方法
<>
  • 特開-釣部材等の基材を塗装する塗装物及びこれを形成する方法 図1
  • 特開-釣部材等の基材を塗装する塗装物及びこれを形成する方法 図2
  • 特開-釣部材等の基材を塗装する塗装物及びこれを形成する方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091034
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】釣部材等の基材を塗装する塗装物及びこれを形成する方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 87/00 20060101AFI20240627BHJP
   A01K 89/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
A01K87/00 630N
A01K89/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207306
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】坂田 尚弘
【テーマコード(参考)】
2B019
【Fターム(参考)】
2B019AA06
2B019AB51
2B019AC00
2B019AD03
2B019AD10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高輝度で不良の少ない安定した金属調外観を有する、インジウム粒子構造体を有する金属層を含む塗装物及び魚釣用リール若しくは釣竿及びこれを形成する方法を提供する。
【解決手段】釣部材の基材の表面に直接又は間接的に設けられる、多数のインジウムフレークを含むインジウム粒子構造体を多数有する金属層1aを含む塗装物1であって、インジウムフレークのそれぞれの粒子径は、累積中位値50%の粒子径が1μm以下であり、インジウム粒子構造体の粒子径が、40μmから300μmの範囲である魚釣用リール若しくは釣竿。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣部材の基材の表面に直接又は間接的に設けられる、多数のインジウムフレークを含むインジウム粒子構造体を多数有する金属層を含む塗装物であって、
前記インジウムフレークのそれぞれの粒子径は、累積中位値50%の粒子径が1μm以下であり、前記インジウム粒子構造体の粒子径が、40μmから300μmの範囲であることを特徴とする塗装物。
【請求項2】
前記インジウム粒子構造体は、前記塗装物表面の単位面積当たりに占める割合が25%以上、より好ましくは50%以上であり、100%未満、より好ましくは90%以下の範囲を占める、請求項1に記載の塗装物。
【請求項3】
前記インジウム粒子構造体の高さは、0.1μmから10μmの範囲の高さである、請求項1又は2に記載の塗装物。
【請求項4】
前記基材と前記金属層との間に下塗層が形成されている、請求項1に記載の塗装物。
【請求項5】
前記金属層の表面に上塗層が形成される、請求項1に記載の塗装物。
【請求項6】
多数のインジウムフレークを溶剤に分散させてスプレー放射により吹き付ける工程と、該溶剤を乾燥させる工程と、を含み、これらを複数回繰り返して塗装物を形成する塗装方法であって、
前記インジウムフレークのそれぞれの粒子径は、累積中位値50%の粒子径が1μm以下であり、前記インジウム粒子構造体の粒子径が、40μmから300μmの範囲であることを特徴とする塗装物の塗装方法。
【請求項7】
前記溶剤は、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、又はエステル系溶剤のいずれか1つ又はいずれか2つ以上の組み合わせである、請求項6に記載の塗装物。
【請求項8】
リール本体と、該リール本体の表面の少なくとも一部に形成された請求項1に記載の塗装物とを備えることを特徴とする魚釣用リール。
【請求項9】
竿体と、該竿体の表面の少なくとも一部に形成された請求項1に記載の塗装物とを備えることを特徴とする釣竿。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣部材等の基材を塗装する塗装物及びこれを形成する方法に関する。また、本発明は、このような塗装物を有する魚釣用リール又は釣竿に関する。また、本発明は、ゴルフクラブシャフト、テニスラケットなどのスポーツ用品及びこれに塗装物を形成する方法にも適用できる。
【背景技術】
【0002】
従来より、外観品質を向上させることが出来るものとして、インジウム蒸着を用いることが知られている。
【0003】
このような表面装飾構造として、例えば、特許文献1では車両の前端開口部に設けられ、桟部によって格子状に形成されたラジエータグリルに取り付けられたグリルカバー構造において、透明の平板基材で形成されたグリルカバー正面部の裏面側一部に黒色層を形成し、その上からラジエータグリルの桟部と略同一色のグリル色層を設け、該グリル色層は、後面側を平滑面とする厚みに形成し、インジウム蒸着によって形成されたグリルカバー構造について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-344032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る方法では、釣部材に高輝度で不良の少ない安定した外観(金属色調)を有する塗装物を形成することが難しいという問題があった。
【0006】
本発明の目的の一つは、高輝度で不良の少ない安定した金属調外観を有する、インジウム粒子構造体を有する金属層を含む塗装物、これを形成した魚釣用リール若しくは釣竿及びこれを形成する方法を提供することにある。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る塗装物は、釣部材の基材の表面に直接又は間接的に設けられる、多数のインジウムフレークを含むインジウム粒子構造体を多数有する金属層を含む塗装物であって、前記インジウムフレークのそれぞれの粒子径は、累積中位値50%の粒子径が1μm以下であり、前記インジウム粒子構造体の粒子径が、40μmから300μmの範囲である。
【0008】
本発明の一実施形態に係る塗装物において、前記インジウム粒子構造体は、前記塗装物表面の単位面積当たりに占める割合が25%以上、より好ましくは50%以上であり、100%未満、より好ましくは90%以下の範囲を占める。
【0009】
本発明の一実施形態に係る塗装物において、前記インジウム粒子構造体の高さは、0.1μmから10μmの範囲の高さである。
【0010】
本発明の一実施形態に係る塗装物において、前記基材と前記金属層との間に下塗層が形成されている。
【0011】
本発明の一実施形態に係る塗装物において、前記金属層の表面に上塗層が形成される。
【0012】
本発明の一実施形態に係る塗装物を形成する塗装方法は、多数のインジウムフレークを溶剤に分散させてスプレー放射により吹き付ける工程と、該溶剤を乾燥させる工程と、を含み、これらを複数回繰り返して塗装物を形成する塗装方法であって、前記インジウムフレークのそれぞれの粒子径は、累積中位値50%の粒子径が1μm以下であり、前記インジウム粒子構造体の粒子径が、40μmから300μmの範囲である。
【0013】
本発明の一実施形態に係る塗装物において、前記溶剤は、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、又はエステル系溶剤のいずれか1つ又はいずれか2つ以上の組み合わせである。
【0014】
本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、リール本体と、該リール本体の表面の少なくとも一部に形成された上記いずれかの塗装物とを備える。
【0015】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、竿体と、該竿体の表面の少なくとも一部に形成された上記いずれかの塗装物とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記各実施形態によれば、高輝度で不良の少ない安定した金属調外観を有する、インジウム粒子構造体を有する金属層を含む塗装物、これを形成した魚釣用リール若しくは釣竿及びこれを形成する方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る塗装物を模式的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る塗装物を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る塗装物を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。複数の図面において共通する構成要素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0019】
図1を参照して、本発明の一実施形態に係る塗装物について説明する。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る塗装物1は、釣部材の基材2の表面に直接又は間接的に設けられる、多数のインジウムフレークを含むインジウム粒子構造体を多数有する金属層1aを含む塗装物1であって、当該インジウムフレークのそれぞれの粒子径は、累積中位値50%の粒子径が1μm以下であり、当該インジウム粒子構造体の粒子径が、40μmから300μmの範囲である。ここで、釣部材とは、魚釣り用リール、釣竿、リールシート、ルアー、又はグリップを指す。また、インジウムフレークとは、例えば、剥離性を有する基材上に真空蒸着によりインジウムを有する金属層を形成し、金属層を剥離、粉砕、分散させることで得られる蒸着インジウム粒子を指し、インジウム粒子構造体とは、多数(通常は、1万~100億個の粒子)のインジウムフレークの集合体を指す。また、塗装物とは当該金属層を含む塗装膜又は塗装層と言い換えることもできる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る塗装物によれば、高輝度で不良の少ない安定した金属調外観を有する、インジウム粒子構造体を有する金属層を含む塗装物を提供することが可能となる。より詳細には、高輝度で不良が少なく安定した金属調塗膜構造を形成することが可能となる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る塗装物において、前記インジウム粒子構造体は、前記塗装物表面の単位面積当たりに占める割合が25%以上、より好ましくは50%以上であり、100%未満、より好ましくは90%以下の範囲を占める。このようにして、高輝度外観を形成することが可能となる。
【0022】
本発明の一実施形態に係る塗装物において、前記インジウム粒子構造体の高さは、0.1μmから10μmの範囲の高さである。このようにして、曇りのない良好な外観を形成することが可能となる。
【0023】
次に、図2に示すように、本発明の一実施形態に係る塗装物1において、当該基材2と金属層1aとの間に下塗層3が形成されている。このようにして、平滑性の高い高輝度外観を形成することが可能となる。
【0024】
次に、図3に示すように、本発明の一実施形態に係る塗装物1において、当該金属層1aの表面に上塗層4が形成される。このようにして、金属層の定着が可能となる。
【0025】
本発明の一実施形態に係る塗装物を形成する塗装方法は、多数のインジウムフレークを溶剤に分散させてスプレー放射により吹き付ける工程と、該溶剤を乾燥させる工程と、を含み、これらを複数回繰り返して塗装物を形成する塗装方法であって、前記インジウムフレークのそれぞれの粒子径は、累積中位値50%の粒子径が1μm以下であり、前記インジウム粒子構造体の粒子径が、40μmから300μmの範囲である。
【0026】
本発明の一実施形態に係る塗装物を形成する方法によれば、高輝度で不良の少ない安定した金属調外観を有する、インジウム粒子構造体を有する金属層を含む塗装物を提供することが可能となる。
【0027】
本発明の一実施形態に係る塗装物を形成する方法について、より詳細に説明する。まず、塗装物を形成する対象となる釣部材を用意する(ステップ1)。そして、必要に応じて、釣部材の素材(基材)に下塗りを塗布し、平滑な層(下塗層)を形成する(ステップ1.2)。素材(基材)表面の平滑性が高い場合は、必ずしも素材(基部)にこのような下塗層を設けなくてもよい。
【0028】
次に、当該素材(基材)に多数のインジウムフレークを溶剤に分散させてスプレー放射(例えば、スプレーガン)を用いて塗布する(ステップ2)。その際、微粒化したインジウム粒子が素材(基材)に着弾後、インジウム粒子構造体を形成し、当該インジウム粒子構造体の粒子径(溶剤が蒸発した状態)が40μm以上300μm以下の範囲で広がるように制御することで着弾後のインジウム粒子構造体の重なりを抑制することができる。
【0029】
ここで、インジウム粒子構造体の着弾後の広がりが、40μm未満であると、溶剤の揮発が速いため、インジウムフレークが十分に広がることができず、その結果集まり、白くなってしまう。他方で、インジウム粒子構造体形成後の粒子径(溶剤が蒸発した状態)が300μmよりも大きいと、着弾後のインジウム粒子構造体の広がりが大きいため、近接するインジウム粒子構造体同士が合体し、大きな島部を形成する。島部の大きさは目視で確認できる大きさになるため、均一な鏡面外観を得ることはできない。また、溶剤の揮発が遅い為、塗り重ねには適さない。ここで、着弾とは、例えば、スプレー放射の場合、微粒化されたインジウムフレーク含有溶剤が基材に到達することを指すものとする(本明細書を通じて同様)。また、例えば、スプレーガンを用いた塗装については、パターン圧、霧化圧、吐出量、ガン距離、ガン移動速度、塗装回数を調整することで着弾後、インジウム粒子構造体の広がりを制御することが可能となる。次に、塗布された溶剤を乾燥させる(ステップ3)。これを必要に応じて複数回繰り返す(塗り重ねる)ことでより均一な仕上がりとなる。また、当該溶剤として、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、又はエステル系溶剤のいずれか1つ又はいずれか2つ以上の組み合わせを用いることができる。
【0030】
次に、インジウム粒子の着弾により形成されたインジウム粒子構造体の溶剤蒸発後の粒子径(溶剤が蒸発した状態)の違いによる外観への影響について説明する。まず、インジウム粒子の着弾により形成されたインジウム粒子構造体の溶剤蒸発後の粒子径(溶剤が蒸発した状態)が、20μmから120μm未満でありかつその厚み(高さ)10μmより大きい場合、200倍に拡大した顕微鏡で観察すると、表1に示すように、塗装時の塗料微粒化サイズが小さいため、着弾後直ぐに乾燥してしまい、インジウム粒子構造体が十分に広がらずに、インジウムフレークが集まり、厚みの厚い部分が部分的に白化して全体的に曇って見え、外観が良好でないことが判った。なお、20μmから120μm未満でありかつその厚み(高さ)0.1μm未満である場合、厚みが薄すぎて白化しないものの、光沢がなく暗いため、金属外観とはならないことも判った。
【0031】
【表1】
【0032】
これに対して、インジウム粒子の着弾により形成されたインジウム粒子構造体の溶剤蒸発後の粒子径(溶剤が蒸発した状態)が、40μmから300μmの範囲(例えば、50μmから260μmである場合)でかつ厚み(高さ)が0.1μmから10μmの範囲の場合、200倍に拡大した顕微鏡で観察すると、表2に示すように、塗装時の塗料微粒化サイズが適切なものとなり、着弾後のインジウム粒子構造体の重なりを抑制することができることで、良好な外観をもたらすことが判った。特に、インジウム粒子構造体形成後、10秒程度で溶剤が乾燥するため、塗り重ね時に安定した金属調が発現することも判った。
【0033】
【表2】
【0034】
次に、インジウム粒子の着弾により形成されたインジウム粒子構造体の溶剤蒸発後の粒子径(溶剤が蒸発した状態)が、300μmより大きい範囲の場合(例えば、330μm以上の場合)、200倍に拡大した顕微鏡で観察すると、表3に示すように、着弾後のインジウム粒子構造体の広がりが大きい(塗装時の塗料微粒化サイズが大きい)ため、着弾後のインジウム粒子構造体が広がる過程で重なり、大きな島部と大きな海部に分かれてしまうため、海島模様に見え色ムラに見えてしまい、均一な鏡面外観を得ることができないことが判った。また、溶剤の乾燥に1分以上掛かるため、乾燥後に塗り重ねに支障が出ることが判った。
【0035】
【表3】
【0036】
以上のように、インジウム粒子の着弾により形成されたインジウム粒子構造体の溶剤蒸発後の粒子径(溶剤が蒸発した状態)が40μmから300μmの範囲でかつ厚み(高さ)が0.1μmから10μmの範囲では、高輝度で不良の少ない安定した金属調外観を有する、インジウム粒子構造体を有する金属層を含む塗装物を提供することが可能となることが判った。
【0037】
図示しないが、本発明の一実施形態に係る魚釣用リールは、リール本体と、該リール本体の表面の少なくとも一部に形成された上記いずれかの塗装物とを備えるように構成される。このようにして、高輝度で不良の少ない安定した金属調外観を有する、インジウム粒子構造体を有する金属層を含む塗装物を形成した魚釣用リールを提供することが可能となる。
【0038】
また、同様に図示しないが、本発明の一実施形態に係る釣竿は、竿体と、該竿体の表面の少なくとも一部に形成された上記いずれかの塗装物とを備えるように構成される。このようにして、高輝度で不良の少ない安定した金属調外観を有する、インジウム粒子構造体を有する金属層を含む塗装物を形成した釣竿を提供することが可能となる。
【0039】
また、本発明は、ゴルフクラブシャフト、テニスラケットなどのスポーツ用品及びこれに塗装物を形成する方法にも適用できる。
【0040】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 塗装物
1a 金属層
2 基材
3 下塗層
4 上塗層
図1
図2
図3