(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091041
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ヒータ装置及び車両用シート
(51)【国際特許分類】
H05B 3/00 20060101AFI20240627BHJP
B60N 2/56 20060101ALI20240627BHJP
A47C 7/74 20060101ALI20240627BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H05B3/00 310D
B60N2/56
A47C7/74 B
H05B3/14 F
H05B3/00 310C
H05B3/00 330Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207318
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金 東鉉
(72)【発明者】
【氏名】高月 涼太
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】津田 悠登
【テーマコード(参考)】
3B084
3B087
3K058
3K092
【Fターム(参考)】
3B084JA06
3B084JF02
3B087DE10
3K058AA13
3K058CA03
3K058CA04
3K058CB18
3K058CE03
3K058CE13
3K058CE22
3K092QB14
3K092QB30
3K092QC19
3K092RF04
3K092RF24
3K092VV25
(57)【要約】
【課題】炭素素材が満遍なく配設された発熱部の破損による温度上昇を防止又は抑制する。
【解決手段】面状ヒータ22は、面状の発熱部24と、発熱部24の両端部に接続された一対の電極30とを有し、一対の電極30間に電圧が印加されることで発熱部24が発熱する。発熱部24は、各々にカーボンナノチューブが張り巡らされるように分散され、各々が互いに非接触状態で一対の電極30間に架け渡された複数の短冊状の短冊部26によって構成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面状の発熱部と、前記発熱部の両端部に接続された一対の電極とを有し、前記一対の電極間に電圧が印加されることで前記発熱部が発熱する面状発熱体であって、
前記発熱部は、各々に炭素素材が満遍なく配設され、各々が互いに非接触状態で前記一対の電極間に架け渡された複数の短冊状の短冊部によって構成されている面状発熱体。
【請求項2】
前記発熱部は、前記複数の短冊部の間に形成された複数のスリットを有する請求項1に記載の面状発熱体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された面状発熱体と、
前記面状発熱体への給電を制御する制御部と、
を備えたヒータ装置。
【請求項4】
車両の乗員が着座するシートクッション及び前記乗員の背部を支持するシートバックを有するシート本体と、
前記面状発熱体が前記シート本体に配設された請求項3に記載のヒータ装置と、
を備えた車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素素材が満遍なく配設された発熱層を有する面状発熱体、該面状発熱体を備えたヒータ装置、及び該ヒータ装置を備えた車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、PTC特性を有する面状発熱体が開示されている。この面状発熱体は、電気絶縁性の基材と、基材上に配置された一対の電極と、酸素と窒素とのいずれかを介して架橋された樹脂組成物と、樹脂組成物に混入された少なくとも繊維状導電体とフレーク状導電体とのいずれかを含み、一対の電極と電気的に接続された高分子抵抗体と、を備えている。
【0003】
下記特許文献2には、車両の座席に設けられ、座席に着座している乗員に温感を与える面状のシートヒータが開示されている。このシートヒータは、伸縮性を有する膜状の基材と、基材に保持され、電力が供給されることによって発熱するカーボンナノチューブが張り巡らされるように分散された発熱層と、発熱層に接続された一対の電極とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2007/110976号
【特許文献2】特開2019-127256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された面状発熱体は、PTC特性を有するため、温度上昇によって抵抗値が上昇し、ある温度に達すると、抵抗値が急激に増加する。このため、異常発熱の危険性を無くすことができるが、即暖性に劣るという欠点がある。
【0006】
上記特許文献2に開示されたシートヒータは、電熱線からの熱伝導で面状に広がる構造ではなく、炭素素材であるカーボンナノチューブが満遍なく配設された発熱層の全面が発熱する構造を有している。このような発熱層の一部に破損が生じた場合、破損部分の周りの温度が意図せず上昇する。特に発熱層において電流の流れをさえぎる方向に亀裂が生じた場合、顕著な温度上昇が生じるという問題がある。
【0007】
本発明は上記事実を考慮し、炭素素材が満遍なく配設された発熱部の破損による温度上昇を防止又は抑制することができる面状発熱体及びこれを備えたヒータ装置並びに該ヒータ装置を備えた車両用シートを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様の面状発熱体は、面状の発熱部と、前記発熱部の両端部に接続された一対の電極とを有し、前記一対の電極間に電圧が印加されることで前記発熱部が発熱する面状発熱体であって、前記発熱部は、各々に炭素素材が満遍なく配設され、各々が互いに非接触状態で前記一対の電極間に架け渡された複数の短冊状の短冊部によって構成されている。
【0009】
なお、請求項1に記載の「炭素素材」には、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、カーボンブラック、グラフェン等が含まれる。
【0010】
第1の態様の面状発熱体によれば、面状の発熱部の両端部に一対の電極が接続されており、一対の電極に電圧が印加されることで発熱部が発熱する。発熱部は、各々に炭素素材が満遍なく配設された複数の短冊状の短冊部によって構成されている。複数の短冊部は、互いに非接触状態で一対の電極間に架け渡されている。これにより、複数の短冊部の一つ一つに流れる電流が少なくなるので、何れかの短冊部に亀裂等の破損が生じた場合でも、異常発熱が低く抑えられる。また、何れかの短冊部が完全に切断された場合には、当該短冊部に電流が流れなくなる。よって、発熱部の破損による温度上昇を防止又は抑制することができる。
【0011】
第2の態様の面状発熱体は、第1の態様又は第2の態様において、前記発熱部は、前記複数の短冊部の間に形成された複数のスリットを有する。
【0012】
第2の態様の面状発熱体によれば、面状の発熱部に形成された複数のスリットによって複数の短冊部が互いに非接触とされるため、例えば炭素素材が満遍なく配設されたフィルムに複数のスリットを形成することで、発熱部を容易に製造することができる。
【0013】
第3の態様のヒータ装置は、第1の態様の面状発熱体と、前記面状発熱体への給電を制御する制御部と、を備えている。
【0014】
第3の態様のヒータ装置によれば、制御部によって面状発熱体への給電が制御される。この面状発熱体は、第1の態様又は第2の態様のものであるため、前述した効果が得られる。
【0015】
第4の態様の車両用シートは、車両の乗員が着座するシートクッション及び前記乗員の背部を支持するシートバックを有するシート本体と、前記面状発熱体が前記シート本体に配設された第3の態様のヒータ装置と、を備えている。
【0016】
第4の態様の車両用シートによれば、シート本体は、車両の乗員が着座するシートクッションと、乗員の背部を支持するシートバックとを有している。このシート本体には、ヒータ装置の面状発熱体が配設されている。このヒータ装置は、第3の態様のものであるため、前述した効果が得られる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、炭素素材が満遍なく配設された発熱部の破損による温度上昇を防止又は抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る車両用シートを示す側面図である。
【
図2】実施形態に係るヒータ装置を示す回路図である。
【
図3】実施形態に係る面状発熱体の一部が破損した状態を示す正面図である。
【
図4】比較例に係る面状発熱体を示す正面図である。
【
図5】比較例に係る面状発熱体の一部が破損した状態を示す正面図である。
【
図6】比較例に係る面状発熱体の破損部分の周辺が異常発熱している状態を示す正面図である。
【
図7】実施形態の変形例に係る面状発熱体を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1~
図3を参照して本発明の一実施形態に係る車両用シート10について説明する。なお、
図1に示される矢印FR及びUPは、車両用シート10の前方及び上方を示している。
【0020】
図1に示されるように、本実施形態に係る車両用シート10は、シート本体12と、ヒータ装置20とを備えている。シート本体12は、車両の乗員が着座するシートクッション14と、乗員の背部を支持するシートバック16と、乗員の頭部を支持するヘッドレスト18とを有している。シートクッション14には、ヒータ装置20が備える面状発熱体である面状ヒータ22が配設されている。面状ヒータ22は、例えばシートクッション14の表皮とパッド材との間に介在している。なお、面状ヒータ22がシートバック16にも配設された構成にしてもよい。
【0021】
図2に示されるように、ヒータ装置20は、上記の面状ヒータ22の他、制御部である制御ECU32(
図1及び
図3では図示省略)を備えている。面状ヒータ22は、面状の発熱部24と、発熱部24の両端部に接続された一対の電極30とを有しており、一対の電極30間に電圧が印加されることで発熱部24が発熱する構成になっている。一対の電極30は、導電性を有する材料によって長尺薄板状に形成されたバスバーであり、平行に配置され、互いに短手方向に離間して対向している。
【0022】
発熱部24は、各々に炭素素材が満遍なく配設された複数の短冊状の短冊部26によって構成されている。各短冊部26は、一例としてカーボンナノチューブ(carbon nanotube:CNT)フィルムによって構成されている。カーボンナノチューブフィルムは、例えば基材層と発熱層と絶縁層とが積層されて構成されている。基材層及び絶縁層は、例えばポリエステル、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミドをフィルムまたは布様にしたもの(不織布を含む)によって構成されている。発熱層は、例えば基材層上に施されたカーボンナノチューブのコーティング膜によって構成されている。カーボンナノチューブは、中空円筒の構造をした炭素の結晶であり、電流が流れると発熱する発熱体である。カーボンナノチューブは、発熱層の各部に張り巡らされるように分散されている。このカーボンナノチューブフィルムでは、電流経路に垂直又は略垂直な亀裂が生じると、抵抗値が上昇し局所的な温度上昇が発生するが、電流経路に水平又は略水平な亀裂が生じても、抵抗値が殆ど上昇しない。
【0023】
カーボンナノチューブフィルムからなる複数の短冊部26は、一対の電極30の短手方向(すなわち一対の電極30の対向方向)を長手方向とする長尺帯状をなしており、一対の電極30の長手方向に隙間28をあけて並んでいる。複数の短冊部26は、互いに非接触状態で一対の電極30間に架け渡されており、一対の電極30に対して電気的に接続されている。複数の短冊部26と一対の電極30とは、例えば接着等の手段で接合されている。
【0024】
制御ECU32は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、ストレージ及び入出力I/Fを含んで構成されている。CPU、ROM、RAM、ストレージ及び入出力I/Fは、バスを介して相互に通信可能に接続されている。CPUは、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPUは、ROMからプログラムを読み出し、RAMを作業領域としてプログラムを実行する。入出力I/Fには、面状ヒータ22の一対の電極30が電気的に接続されている。
【0025】
制御ECU32は、ROMに記憶されたプログラムに基づいて面状ヒータ22への電源供給を行う構成になっている。この制御ECU32は、例えば車両用シート10等に設けられたヒータスイッチがオンになると、面状ヒータ22への給電を開始する。それにより、面状ヒータ22の一対の電極30間に電圧が印加され、複数の短冊部26に電流が流れることにより、複数の短冊部26が発熱する。
【0026】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0027】
上記構成の車両用シート10では、シート本体12のシートクッション14に、ヒータ装置20の面状ヒータ22が配設されており、制御ECU32によって面状ヒータ22への給電が制御される。この面状ヒータ22では、面状の発熱部24の両端部に一対の電極30が接続されており、一対の電極30に電圧が印加されることで発熱部24が発熱する。
【0028】
発熱部24は、各々にカーボンナノチューブが満遍なく配設された複数の短冊状の短冊部26によって構成されている。複数の短冊部26は、互いに非接触状態で一対の電極30間に架け渡されている。これにより、複数の短冊部26の一つ一つに流れる電流が少なくなるので、何れかの短冊部26に亀裂等の破損が生じた場合(
図3の符号C参照)でも、異常発熱が低く抑えられる。各短冊部26において電流が流れる方向を限定することができるので、何れかの短冊部26の破損時に、破損部分の周辺に電流が回り込むことを抑止することができる。また、何れかの短冊部26が完全に切断された場合には、当該短冊部26に電流が流れなくなる。よって、発熱部24の破損による温度上昇を防止又は抑制することができる。
【0029】
上記の効果について、
図4~
図6に示される比較例を用いて補足説明する。この比較例は、本実施形態に係る面状ヒータ22と同様に発熱部24と一対の電極30とを備えているが、発熱部24が複数の短冊部26によって構成されておらず、一枚のカーボンナノチューブフィルムによって構成されている。この比較例において、発熱部24の一部に破損(
図5の符号C参照)が生じると、破損部分の周りの温度が意図せず上昇する(
図6の符号F参照)。このような温度上昇を、本実施形態では防止又は抑制することができるので、ヒータ装置20の安全性が向上する。しかも、面状ヒータ22の局部的な異常発熱を検出するための温度センサが不要になるため、低コスト化に寄与する。
【0030】
なお、上記実施形態では、発熱部24が複数の短冊部26に分割された構成にしたが、これに限るものではない。例えば
図7に示される変形例のように構成してもよい。この変形例では、発熱部24は、複数の短冊部26の間に形成された複数のスリット34を有している。この発熱部24は、カーボンナノチューブフィルムに複数のスリット34を形成することで製造され、当該カーボンナノチューブフィルムに一対の電極30が接合されることで面状ヒータ22’が製造される。この変形例では、発熱部24や面状ヒータ22’の製造が容易である。
【0031】
また例えば、発熱部は、フィルムや布などに絶縁を保てる間隔を開けてカーボンナノチューブを印刷や塗布、浸透させたものでもよい。
【0032】
また、上記実施形態では、ヒータ装置20が面状ヒータ22を一つだけ備えた構成にしたが、これに限らず、ヒータ装置が複数の面状ヒータを備えた構成にしてもよい。
【0033】
また、上記実施形態では、ヒータ装置20が車両用シート10に設けられた構成にしたが、これに限らず、本発明に係るヒータ装置は、衣類や車両以外の椅子、便座等に設けてもよいし、床暖房に用いてもよい。
【0034】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲が上記実施形態に限定されないことは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
10 車両用シート
12 シート本体
14 シートクッション
16 シートバック
20 ヒータ装置
22 面状ヒータ(面状発熱体)
26 短冊部
28 隙間
30 電極
32 制御ECU(制御部)
34 スリット