(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091043
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】アルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/072 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
C01B21/072 B
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207321
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】514173696
【氏名又は名称】國家中山科學研究院
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阮建龍
(72)【発明者】
【氏名】施政宏
(57)【要約】
【課題】従来の技術は、製造周期の長時間により、生産コストが上がり、かつ研磨粉砕過程中に異物が入りやすくなるため、窒化アルミニウム粉末の純度に影響する課題等があった。
【解決手段】アルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法は、(A)アルミニウム金属粉体と炭素源とを提供し、前記アルミニウム金属粉体と前記炭素源とを均等に混合して、混合粉末を形成するステップと、(B)前記混合粉末を窒素含有ガス雰囲気で中低温窒化反応させ、炭化アルミニウム中間相を含有する一部窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、(C)炭化アルミニウム中間相を除去するために、前記一部窒化した窒化アルミニウム粉体を窒素含有ガス雰囲気で高温窒化反応させ、完全に窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、(D)前記完全に窒化した窒化アルミニウム粉体に大気で炭素の除去を行い、高純度窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルミニウム金属粉体と炭素源とを提供し、前記アルミニウム金属粉体と前記炭素源とを均等に混合して、混合粉末を形成するステップと、
(B)前記混合粉末を窒素含有ガス雰囲気で中低温窒化反応させ、炭化アルミニウム中間相を含有する一部窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、
(C)炭化アルミニウム中間相を除去するために、前記一部窒化した窒化アルミニウム粉体を窒素含有ガス雰囲気で高温窒化反応させ、完全に窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、
(D)前記完全に窒化した窒化アルミニウム粉体に対して大気で炭素の除去を行い、高純度窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、を含む、
アルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項2】
前記ステップ(A)のアルミニウム金属粉体は、純度が99%以上であり、平均粒径が10~100μmである、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項3】
前記ステップ(A)の炭素源は、グラファイト、カーボンブラック又は活性炭のいずれか1つから選択され、その純度が99%以上であり、平均粒径が30μm未満であり、BET比表面積が0.1~500m2/gである、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項4】
前記ステップ(A)における均等に混合する方法は、乾式混合又は湿式混合の製造プロセスのいずれか1つである、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項5】
前記ステップ(A)におけるアルミニウム金属粉体と炭素源との混合重量比例は、1:0.3~1.0である、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項6】
前記ステップ(B)の中低温窒化反応の温度は、700℃~1200℃であり、反応時間は、1~8時間である、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項7】
前記ステップ(B)の窒素含有ガスは、アンモニア、窒素ガス、空気、窒素ガスと水素ガスの混合ガスのいずれかの組み合わせのグループの1つから選択される、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項8】
前記ステップ(C)の高温窒化反応の温度は、1200℃~1800℃であり、反応時間は、2~20時間である、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項9】
前記ステップ(C)の窒素含有ガスは、アンモニア、窒素、窒素ガスと水素ガスの混合ガスのいずれかの組み合わせのグループの1つから選択される、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【請求項10】
前記ステップ(D)の炭素の除去温度は、500℃~900℃であり、炭素の除去時間は、10~50時間である、
請求項1に記載のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム粉体の製造方法に関するものであり、特にアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウム(AlN)は、新規な電子セラミック材料であり、その優位な熱伝導性特性及び電気絶縁等の特性があるため、現在最も人気のある先端材料の1つとなっており、その特殊な物理性質は、高熱伝導係数、高抵抗率、低誘電率、低熱膨脹係数、優れた耐熱性、優れた機械強度、高い化学安定性及び毒性を有しない等の特性を含んでいることから、電子セラミック基板、電子素子の実装材、抗腐蝕素子、高導熱添加剤等の様々な応用範囲に応用することができる。
【0003】
窒化アルミニウムは、六方晶系のウルツ鉱(Wurtzite)構造に属するものであり、その原子間は、四面体で配置される強い共有結合であるため、融点が高く、かつ熱伝導性が優れた数少ない高熱伝導率を有する非金属固体であり、理論密度値は、3.26g/cm3である。
【0004】
窒化アルミニウムは、(1)低原子量であり、(2)原子の結合が強く、(3)結晶構造が簡易であり、(4)格子振盪均質性が高い等の四項の通則を満たすことから、熱伝導係数の理論値は、320W/mKに達することができ、市販の窒化アルミニウム製品の熱伝導係数は、170~230W/mKである。高純度の窒化アルミニウムは、無色で光透過能力を有するが、その性質は、化学純度及び密度の影響を十分容易に受けやすい。
【0005】
窒化アルミニウムは、酸素原子に対して強い親和性があるため、製造工程において、一部の酸素が窒化アルミニウムの格子中に入り込み、異物欠陥が形成されてしまうことにより、熱伝導能力が悪化してまう。これは、格子中の異物存在のような欠陥が音子の散乱を引き起こしてしまうので、熱伝導率が明らかに低下し、また、緻密度が比較的劣る窒化アルミニウムについて、熱伝導係数も低いためである。
【0006】
現在、窒化アルミニウム粉体の製造方法は、主に、直接窒化法と、燃焼合成法と、炭素熱還元法との三種類に分けられる。
【0007】
1.直接窒化法は、アルミニウム粉体を窒素ガスの中で加熱して、アルミニウム粉体を直接窒化反応させて、窒化アルミニウム粉末にする。その反応式は、以下の通りである。
2Al(s)+N2(g)→2AlN(s)
【0008】
AlとNとは、500℃で反応が発生し始め、500~600℃のとき、アルミニウム粒子の表面酸化膜は、反応を通じて、揮発性のある低級酸化物が生成されることで、除去される。粒子には、表面上に次第に生成された窒化物膜によって窒素を更に浸透しにくくさせることで、窒化速度が遅くなるため、窒化効率を向上させるように二次窒化を行わなくてはならない。即ち、一次窒化が800℃で一時間温度を維持し、生成物に対してボールミリングを経た後、1200℃で二次窒化を行えば、均等な窒化アルミニウム粉体を生成することができる。
【0009】
2.燃焼合成法は、アルミニウム粉体を高圧で外部熱源により点火させた後、AlとNとの反応が生成した高化学反応熱を利用することで、アルミニウム粉体が窒化アルミニウムに完全に変換されるまで、反応が自発的に継続される。燃焼合成法によって窒化アルミニウム粉末を製造するのは、実質的に依然としてアルミニウムの直接窒化であるため、反応式は、依然として、
2Al(s)+N2(g)→2AlN(s)である。
【0010】
この方法が製造する窒化アルミニウム粉末は、直接窒化法のように1000℃より高い温度で長時間窒化する必要がなく、点火以外の外部熱源が必要でないので、エネルギー消費が少なく、コストが低く、生産効率が高い。しかし、燃焼合成の過程において、直接窒化法と同じく、アルミニウムの融点が低いため、燃焼合成反応が高温であるとき、溶融したアルミニウムは凝集が発生しやすく、窒素が粉末内に浸透することを阻害するため、アルミニウム粉体が完全に窒化しにくい。よって、反応生成物は何回も粉砕と窒化処理を行う必要がある。
【0011】
3.炭素熱還元法は、超微細酸化のアルミニウム粉体と高純度のカーボンブラックとを出発原料として、ボールミリング混合を経た後、流動する窒素雰囲気において、1400~1800℃でカーボンブラックを用いて酸化アルミニウムを還元して、還元されたアルミニウムと窒素とが流動状態下で反応して窒化アルミニウムを生成する。その反応方程式は以下の通りである。
Al2O3(s)+3C(s)+N2(g)→2AlN(s)+3CO
【0012】
炭素還元反応は、酸化アルミニウムと炭素とのモル比が1:3である必要があるが、酸化アルミニウムを完全に変換しようとする場合、より多くの炭素を必要とする。過量の炭素を加えることで、反応速度を速くすることができ、その上アルミニウム粉体の変換効率を向上させることもできることから、粒度が均等な窒化アルミニウム粉体を得ることができる。
【0013】
しかし、この方法にも欠点が存在しており、過量の炭素が完全に反応した後、600~900℃の乾燥した空気において、炭素の除去を行わなくてはならない。この方法では、二回の炭素除去が必要であるため、コストが比較的高いが、その後の粉砕研磨ステップの省略により、炭素熱還元法は、比較的高純度の窒化アルミニウム粉末を製造することができる。
【0014】
CN1544316Aの中国特許出願は、燃焼合成法で窒化アルミニウム粉体を製造する方法を公開しており、当該方法は、重量比(1~3):(1~7)でアルミニウム粉体と窒化アルミニウム希釈剤を混合し、そして、0.5~2.5wt%のNH4F又はNH4Cl添加剤を加えた上、無水エタノールを溶媒として、10~12時間ボールミリング混合を行った後、乾燥工程を行い、乾燥後の粉体を合成反応釜内に入れて真空引きの後、窒素を8~10MPaまで供給し、点火剤を点火すると、アルミニウム粉体の自己燃焼を引き起こして、窒化アルミニウム粉体を反応合成する。
【0015】
CN102531611Bの中国特許出願は、窒化アルミニウム粉体の製造方法を公開しており、当該方法は、アルミニウム粉体及び表面変質剤を均等に混ぜて反応物を形成し、前記表面変質剤は、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムのいずれかの組み合わせのグループの1つから選択され、かつ前記表面変質剤は、前記反応物総重量の0.1~30%を占める。
【0016】
前記反応物を容器に入れることで、前記容器中の反応物が窒素含有ガス(ガス圧力は0.1~30大気圧である)に曝されると共に、660℃以上の温度まで加熱され、それにより前記反応物が燃焼する。加熱の過程では、前記表面変質剤と前記アルミニウム粉体との反応が生じて、前記アルミニウム粉体の表面にセラミック層が形成されることにより、アルミニウム粉体が高温による凝集を引き起こすことを防止し、かつ前記アルミニウム粉体が燃焼のため前記窒素含有ガスと合成反応することにより、窒化アルミニウムを形成することができる。
【0017】
CN106744740Aの中国特許出願は、窒化アルミニウム粉体の製造方法を公開しており、当該方法は、アルミニウム粉体と2%~20%の窒化アルミニウム添加剤とを十分に混合して焼結炉に投入され、N2とH2との混合雰囲気で、3~5℃/minの速度で500~800℃まで温度を上昇させて2~6時間温度を維持して、その後3~7℃/minの速度で300℃まで温度を下げた後、室温まで自然冷却することで、一次焼成生成物を得ることができ、一次焼成生成物を粉砕した後、融剤を加えて、焼結炉に投入され、N2とH2との混合雰囲気で、5~10℃/minの速度で800~1100℃まで温度を上昇させて6~9時間温度を維持し、そして3~7℃/minの速度で300℃まで温度を下げた後、室温まで自然冷却することで、二次焼成生成物を得ることができる。
【0018】
二次焼成生成物を粉砕して分級した後、窒化アルミニウム粉体を得ることができる。融剤は、NH4HCO3とAlCl3との混合物であり、かつ両者の質量比は、1:2であり、融剤の添加量は、窒化アルミニウム添加剤の1/2~1/4である。
【0019】
TWI496736Bの台湾特許出願は、球状窒化アルミニウム粉末の製造方法を公開しており、当該方法は、酸化アルミニウム又は水和酸化アルミニウム100質量部、希土金属化合物0.5~30質量部、炭素粉末38~46質量部の混合物を窒素含有雰囲気で1620~1900℃の温度で2時間以上窒化還元を行った後、酸化ガスで脱炭素を行い、酸化ガスが空気であることがより好ましく、脱炭素処理温度が500~900℃であることによって、球状窒化アルミニウム粉末を製造する。
【0020】
現在、よくある窒化アルミニウム粉体の合成方法は、主に、直接窒化法、燃焼合成法及び炭素熱還元法である。アルミニウム粉体の直接窒化法の利点は、コストが低く、原料供給源が広く、設備コストが低くかつ技術が簡単であるが、その窒化反応過程は、制御が容易でなく、製品の品質の安定性に欠け、かつ製品が凝集することを引き起こしやすいから、その後の研磨粉砕ステップを増加させる必要がある。こうすると、製造周期を延長することにより、生産コストが上がり、かつ研磨粉砕の過程中に異物が入りやすくなるため、窒化アルミニウム粉末の純度に影響する。
【0021】
燃焼合成法は、主に、アルミニウムと窒素との反応で生成された高化学反応熱を用いることにより、反応が自発的に起こる。熱源を別途設ける必要はないため、エネルギー消費が少なく、生産効率が高いが、当該方法は、高圧で行う必要があるため、設備性能への要求が高く、かつ自発的な反応の過程が制御し難しいと同時に、高温燃焼の合成反応で、溶融されたアルミニウムの凝集が発生しやすいため、生成された生成物も研磨粉砕処理が必要であり、生産コストの周期管理及び窒化アルミニウム粉末の合成純度に対して極めて不利となっている。
【0022】
炭素熱還元法の利点は、原料の供給源が広く、合成粉末の純度が高く、性能が安定し、粉末の粒度分布が均等であり、凝集が起こりづらい等であるので、窒化アルミニウム粉末を生成する理想的な工業化方法である。しかし、この方法では、開始原料である酸化アルミニウム及びカーボンブラックの品質要求に対して比較的高く、原料が均等に混合しにくく、反応温度が高く、合成時間が長く、過量の炭素が反応した後、炭素の除去処理を行う必要があるから、工程は比較的煩雑である。
【0023】
上記課題を解決するために、本出願人は、従来技術の欠点に鑑みて、アルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法を提供する。当該方法は、アルミニウム金属を開始原料として、炭素還元の構想を参照することで直接窒化法の工程技術を改良してアルミニウム粉体と炭素の混合ステップが加入され、炭化アルミニウム中間相の生成により、アルミニウム粉体が高温の溶融で凝集する問題を回避した結果、その後の研磨粉砕の作業を省略することができると共に、窒化反応の温度を下げて、窒化反応の時間を短くして、高純度の窒化アルミニウム粉体を製造することができる。以下は、本願発明の簡単な説明である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は、窒化アルミニウム粉体の製造方法に関するものであり、特にアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法に関するものである。本発明は、アルミニウム粉体と炭素との混合、中低温窒化、高温窒化及び大気炭素除去等のステップを組み合わせて、アルミニウム粉体からの一般的な直接窒化とは異なる窒化アルミニウム粉体の製造方法を提供する。
【0025】
当該方法は、炭素源の導入でアルミニウム粉体の表面に炭化アルミニウム中間相を生成することにより、アルミニウム粉体の間に溶融・凝集する現象が生じることを回避する結果、アルミニウム粉体同士の間に隙間を有することができるため、窒化ガス雰囲気に十分流通させ、前記アルミニウム粉体と反応させることにより、窒化効率を向上させ、更に、アルミニウム粉体の凝集による後続の研磨粉砕ステップを不要とすることもできるため、異物が入り込むことを減少させて産出された窒化アルミニウム粉体の純度を高めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の構想によると、(A)アルミニウム金属粉体と炭素源とを提供し、前記アルミニウム金属粉体と前記炭素源とを均等に混合して、混合粉末を形成するステップと、(B)前記混合粉末を窒素含有ガス雰囲気で中低温窒化反応させ、炭化アルミニウム中間相を含有する一部窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、(C)炭化アルミニウム中間相を除去するために、前記一部窒化した窒化アルミニウム粉体を窒素含有ガス雰囲気で高温窒化反応させ、完全に窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、(D)前記完全に窒化した窒化アルミニウム粉体に対して大気で炭素の除去を行い、高純度窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、を含むことを特徴とするアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法が提供される。
【0027】
本発明は、アルミニウム金属を開始原料として、炭素還元の構想を参照することで、直接窒化法の製造工程技術を改良してアルミニウム粉体と炭素の混合ステップが加入され、二段式窒化熱処理工程を導入して炭化アルミニウム中間相の生成により、アルミニウム粉体が高温の溶融で凝集する問題を回避すると同時に、窒化反応の温度を下げて、窒化反応の時間を短くして、高純度の窒化アルミニウム粉体を製造する。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、炭素熱還元法の利点を残しつつ、直接窒化法の欠点を改善したものであって、アルミニウム粉体からの一般的な直接窒化とは異なる窒化アルミニウム粉体の製造方法を提供する。当該方法は、直接窒化法により生成させたアルミニウム粉体が凝集する問題を避けることができ、かつアルミニウム粉体の直接窒化法と比べて、本発明は、炭素の混ぜるステップ及び炭素の除去ステップを導入しているが、その後の研磨ステップを省略することもできるため、余分な異物の混入を回避し、炭素熱還元法により産出された窒化アルミニウム粉体の純度が比較的高いという利点を残すことができる。
【0029】
以上の概述と以下の詳細な説明及び図面は、いずれも本発明の所要の目的を達するために採る方法、手段、効果を説明するためのものである。本発明の他の目的及び利点については、後続の説明と図面で述べる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明に係るアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法のフロー図である。
【
図2】本発明の実施例が中低温窒化及び高温窒化後の各段階における窒化アルミニウム粉末のX線回折パターンを示す図である。
【
図3】本発明の実施例が中低温窒化、高温窒化及び大気炭素除去後における窒化アルミニウム粉末のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の構想によると、(A)アルミニウム金属粉体と炭素源とを提供し、前記アルミニウム金属粉体と前記炭素源とを均等に混合して、混合粉末を形成するステップと、(B)前記混合粉末を窒素含有ガス雰囲気で中低温窒化反応させ、炭化アルミニウム中間相を含有する一部窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、(C)炭化アルミニウム中間相を除去するために、前記一部窒化した窒化アルミニウム粉体を窒素含有ガス雰囲気で高温窒化反応させ、完全に窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、(D)前記完全に窒化した窒化アルミニウム粉体に対して大気で炭素の除去を行い、高純度窒化アルミニウム粉体を形成するステップと、を含むことを特徴とするアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法が提供される。
【0032】
前記ステップ(A)のアルミニウム金属粉体は、純度が99%以上であり、平均粒径が10~100μmであり、前記炭素源は、グラファイト、カーボンブラック又は活性炭のいずれか1つから選択され、その純度が99%以上であり、平均粒径が30μm未満であり、BET比表面積が0.1~500m2/gである。
【0033】
前記ステップ(A)は、乾式混合又は湿式混合の製造プロセスのいずれか1つであるが、湿式混合の製造プロセスの場合、乾燥工程を経る必要があり、それにより混合粉末を得ることができる。前記アルミニウム金属粉体と前記炭素源との混合重量比例は、1:0.3~1.0である。湿式混合の製造プロセスとしては、湿式ボールミリング製造プロセスを用いることができる。
【0034】
前記ステップ(B)の中低温窒化反応の温度は、700℃~1200℃であり、反応時間は、1~8時間である。
【0035】
前記ステップ(B)の窒素含有ガスは、アンモニア、窒素、空気、窒素と水素の混合ガスのいずれかの組み合わせのグループの1つから選択される。
【0036】
前記ステップ(C)の高温窒化反応の温度は、1200℃~1800℃であり、反応時間は、2~20時間である。
【0037】
前記ステップ(C)の窒素含有ガスは、アンモニア、窒素、窒素ガスと水素ガスとの混合ガスのいずれかの組み合わせのグループの1つから選択される。
【0038】
前記ステップ(D)の炭素の除去温度は、500℃~900℃であり、炭素の除去時間は、10~50時間である。
【0039】
以下は、特定の具体的事例により本発明を実施するための形態を説明したものであり、当業者は、本明細書に開示された内容を介して本発明の利点及び効果を容易に理解することができる。
【0040】
図1を参照されたい。
図1は、本発明に係るアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法のフロー図であり、本発明は、(A)アルミニウム金属粉体と炭素源とを提供し、前記アルミニウム金属粉体と前記炭素源とを均等に混合して、混合粉末を形成するS101と、(B)前記混合粉末を窒素含有ガス雰囲気で中低温窒化反応させ、炭化アルミニウム中間相を含有する一部窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するS102と、(C)炭化アルミニウム中間相を除去するために、前記一部窒化した窒化アルミニウム粉体を窒素含有ガス雰囲気で高温窒化反応させ、完全に窒化した窒化アルミニウム粉体を形成するS103と、(D)前記完全に窒化した窒化アルミニウム粉体に対して大気下で炭素の除去を行い、高純度窒化アルミニウム粉体を形成するS104と、を含む。
【0041】
ステップS101における前記アルミニウム金属粉体は、本実施例において、純度が99%以上であり、平均粒径が30~80μmである造粒アルミニウム粉体であることが好ましい。ステップS101における前記炭素源は、本実施例において、カーボンブラックであり、純度が99%以上であり、平均粒径が30μm未満であり、BET比表面積が0.1~100m2/gであることが好ましい。ステップS101における前記混合粉末は、本実施例において、混合重量比例がアルミニウム粉体:カーボンブラック=1:0.3~0.5であることが好ましい。
【0042】
混合粉末において、炭素源の使用量が過度に多い場合、上記アルミニウム源は、ほぐれた状態で混合粉末中に存在し、熱処理を加えて窒化するとき、窒化アルミニウムの粒子は十分に成長することができないことから、結晶性に影響してしまい、かつ過度に多い炭素源の使用量はその後の炭素除去ステップの困難度を増すこととなってしまう。炭素源の使用量が過度に少ない場合、アルミニウム源の凝集が激しく、得られた窒化アルミニウム粉末が多数の粗大粒子を含むか、互いに凝集してしまうことがあるため、改めて研磨粉砕の処理を経る必要がある。
【0043】
ステップS102における前記中低温窒化反応温度は、本実施例において、900~1100℃であることが好ましく、前記反応時間は、2~4時間であることが好ましく、ステップS102における前記窒素含有ガスは、窒素であることが好ましい。
【0044】
ステップS103における前記高温窒化反応温度は、本実施例において1400~1600℃であることが好ましく、前記反応時間は、4~8時間であることが好ましく、ステップS103における前記窒素含有ガスは、窒素であることが好ましい。
【0045】
ステップS104における前記炭素の除去処理は、炭素を酸化させて除去するものであり、実施には酸化ガスを用いるが、この酸化ガスとしては、例えば、空気や酸素等炭素を除去できるものであればよく、即ち、採用の制限もないが、経済性及び産出される窒化アルミニウムの酸素濃度を考慮すると、前記酸化ガスは、本実施例において空気(大気雰囲気)が使用されることが適している。
【0046】
また、炭素の除去効率及び窒化アルミニウム表面の過度酸化を考慮すると、前記炭素の除去温度は本実施例において600~750℃であることが好ましく、前記炭素の除去時間は20~30時間であることが好ましい。
【0047】
図2を参照されたい。これは、本発明の実施例が中低温窒化及び高温窒化後の各段階における窒化アルミニウム粉末のX線回折パターンを示すものである。アルミニウム粉体とカーボンブラックとの混合重量比例が1:0.5である混合物を開始粉末として、まず、950℃の中低温窒化を行い、その反応時間は、2時間であり、その後1500℃の高温窒化を行い、その反応時間は、4時間である。
【0048】
上記各段階生成物粉末のX線回折パターンは、
図2に示す通り、中低温窒化後、炭化アルミニウム(Al
4C
3)中間相を含有する一部窒化した窒化アルミニウム粉末を形成し、高温窒化後、炭化アルミニウム中間相を除去することにより、完全に窒化した窒化アルミニウム粉末を形成するが、粉末には依然として余分なカーボンブラックが含まれている。
【0049】
図3を参照されたい。これは、本発明の実施例が中低温窒化、高温窒化及び大気炭素の除去後における窒化アルミニウム粉末のX線回折パターンを示すものである。上記中低温窒化及び高温窒化が完了した窒化アルミニウム粉末に対して大気雰囲気下で炭素の除去作業を行い、炭素の除去温度は600℃であり、炭素の除去時間は30時間であり、炭素除去後の窒化アルミニウム粉末のX線回折パターンは、
図3に示すように、大気炭素を除去した後、余分なカーボンブラックを除去することにより、高純度の窒化アルミニウム粉末を形成する。
【0050】
上記実施例の説明を通じて、本発明のアルミニウム金属による窒化アルミニウム粉体を製造する方法は、アルミニウム金属を開始原料として、炭素還元の構想を参照することで、直接窒化法の製造工程技術を改良してアルミニウム粉体と炭素の混合ステップが加入され、二段式窒化熱処理工程を導入する。
【0051】
前記二段式窒化熱処理工程の第一段階は、中低温窒化であり、アルミニウム粉体の表面に炭化アルミニウム中間相を生成することにより、アルミニウム粉体の間に溶融・凝集する現象の発生を回避する結果、アルミニウム粉体同士の間に隙間を有することができるため、窒化ガス雰囲気に十分流通させ、前記アルミニウム粉体と反応させることで、窒化効率を向上させ、アルミニウム粉体の凝集による後続の研磨粉砕ステップを不要とすることもできるため、異物が入り込むことを減少させる。
【0052】
第二段階は、高温窒化であり、炭化アルミニウム中間相を除去し、窒化の程度を更に高めて、最後に粉体から余分な炭素源を取り除く大気炭素の除去を行うことにより、高純度の窒化アルミニウム粉体を製造する。
【0053】
本発明は、溶解霧化による廃アルミニウムターゲットの再生アルミニウム粉末を開始原料として、高い経済価値のある窒化アルミニウム粉体を産出することができるため、廃棄物の循環再生の応用を強化することにより、循環経済産業の発展を促すことができる。
【0054】
直接窒化法と比べて、本発明は、炭素の混合及び炭素の除去ステップが増えたため、製造工程のコスト及びエネルギー消費コストが必然的に増加するが、廉価な再生原料の使用と価値向上の加工により、製品の全体価値を向上させることができる。現在、5N級の廃アルミニウムターゲットの回收価格は、200台湾ドル/kgしかない。
【0055】
溶解霧化によって廃アルミニウムターゲットを再生して高純度アルミニウム粉体にした場合、再生コストは、約1000台湾ドル/kgであり、炭素の混合と窒化を行うことにより、高純度窒化アルミニウム粉末を産出するコストは、約1500台湾ドル/kgであり、つまり総コストは、約2700台湾ドル/kgであり、一方、高純度窒化アルミニウム粉末の販売価格は、約5000台湾ドル/kgであり、約2300台湾ドル/kgの経済的利益があるから、相当な経済的効果を有する。
【0056】
上記実施例は、例示的に本発明の特徴及び効果を説明したものであり、本発明の実質的な技術内容の範囲を制限するものではない。当業者であれば、本発明の精神及び範疇に反することないで、上記実施例に修正及び変更を加えることができる。よって、本発明の権利保護範囲は、特許請求の範囲に記載されたものに準ずる。
【符号の説明】
【0057】
S101-S105 ステップ