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特開2024-91058ボールねじ装置用ナット及びボールねじ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091058
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ボールねじ装置用ナット及びボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 25/22 20060101AFI20240627BHJP
   F16H 25/24 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
F16H25/22 A
F16H25/22 C
F16H25/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207341
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 諒
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA02
3J062AA22
3J062AB22
3J062BA12
3J062CD07
3J062CD22
3J062CD54
3J062CG83
(57)【要約】
【課題】軸方向寸法の小型化を図れる、ボールねじ装置用ナットを実現する。
【解決手段】ボールねじ装置用のナット8を、ナット本体19と、ナット本体19の外周面から径方向外側に向けて突出したフランジ部20と、ナット本体19の取付孔24a~24cに取り付けられた循環こま21a~21cとを備えるものとし、フランジ部20を、円周方向に離隔して配置された複数のフランジ片22から構成する。循環こま21aを、ナット本体19のうち、円周方向に関してフランジ片22から外れた部分で、かつ、フランジ片22と軸方向位置が重なる部分に設ける。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝及び1乃至複数の循環溝をそれぞれ有するボールねじ装置用ナットであって、
内周面に前記ナット側ボールねじ溝を有し、かつ、前記ナット側ボールねじ溝を切り欠くように径方向に貫通した1乃至複数の取付孔を有する、略円筒形状のナット本体と、
前記ナット本体の外周面から径方向外側に向けて突出したフランジ部と、
前記取付孔に取り付けられた循環こまと、を備え、
少なくとも1つの前記循環溝は、前記循環こまに備えられており、
前記フランジ部は、円周方向に離隔して配置された複数のフランジ片又は円周方向一部に切り欠き部を備えた1つのフランジ片から構成されており、
前記循環こまは、前記フランジ部が複数の前記フランジ片から構成される場合には、前記ナット本体のうち、円周方向に関して前記フランジ片から外れた部分で、かつ、前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられており、前記フランジ部が前記切り欠き部を備えた1つの前記フランジ片から構成される場合には、円周方向の位相が前記切り欠き部と一致する部分で、かつ、前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられている、
ボールねじ装置用ナット。
【請求項2】
全ての前記循環溝は、前記循環こまに備えられている、請求項1に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項3】
前記循環こまは、複数備えられており、
複数の前記循環こまは、円周方向に等間隔に配置されている、
請求項1に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項4】
前記フランジ部は、複数の前記フランジ片から構成されており、
複数の前記フランジ片は、円周方向に等間隔に配置されている、
請求項1に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項5】
前記フランジ片は、回り止め部材と円周方向に係合可能な案内部を有する、請求項1に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項6】
前記フランジ片は、回転部材の内周面に備えられた係合凹部と係合して前記回転部材に対する相対回転を阻止する、請求項1に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項7】
前記ナット本体は、軸方向一方側の端面の円周方向一部に、ねじ軸との相対回転を阻止するための軸方向突起を有する、請求項1に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項8】
前記軸方向突起は、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまに対し、円周方向の位相をずらして配置されている、請求項7に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項9】
前記ナット本体に外嵌されたスリーブを備える、請求項1に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項10】
前記フランジ部は、前記ナット本体の外周面の軸方向一方側の端部に備えられており、
前記スリーブは、円筒形状を有し、軸方向一方側の端部により、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまの少なくとも一部を径方向外側から覆っている、
請求項9に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項11】
前記フランジ部は、前記ナット本体の軸方向一方側の端部に備えられ、かつ、複数の前記フランジ片から構成されており、
前記スリーブは、軸方向一方側の端部に、円周方向に離隔して配置された複数の覆い片を有しており、
前記覆い片は、円周方向に隣り合う前記フランジ片同士の間部分に配置され、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまを径方向外側から覆っている、
請求項9に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項12】
前記循環こまは、前記ナット本体に対しかしめ固定されている、請求項1に記載したボールねじ装置用ナット。
【請求項13】
ねじ軸と、ナットと、複数のボールと、を備え、
前記ナットが、請求項1~12のうちのいずれか1項に記載したボールねじ装置用ナットである、ボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置用ナット及びボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットとの間でボールを転がり運動させるため、ねじ軸とナットとを直接接触させる滑りねじ装置に比べて、高い効率が得られる。このため、ボールねじ装置は、例えば電動モータなどの駆動源の回転運動を直線運動に変換するために、自動車の電動ブレーキ装置やオートマチックマニュアルトランスミッション(AMT)、工作機械の位置決め装置など、各種機械装置に組み込まれている。
【0003】
ボールねじ装置は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝を有するねじ軸と、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝を有するナットと、軸側ボールねじ溝とナット側ボールねじ溝との間に配置された複数のボールとを有する。軸側ボールねじ溝とナット側ボールねじ溝とは、径方向に互いに対向するように配置され、螺旋状の負荷路を構成する。負荷路の始点と終点とは、循環手段により接続されている。循環手段は、負荷路の終点にまで達したボールを負荷路の始点にまで戻し、ボールを循環させる。
【0004】
なお、負荷路の始点と終点とは、ねじ軸とナットとの軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)に応じて入れ替わる。また、ボールねじ装置は、用途に応じて、ねじ軸とナットとのうちの一方を回転運動要素とし、ねじ軸とナットとのうちの他方を直線運動要素として用いられる。
【0005】
ボールを循環させるための循環手段としては、従来から各種構造が考えられているが、ボールねじ装置を小型に構成できるなどの理由から、循環こまが広く使用されている。
【0006】
例えば特開2016-114185号公報(特許文献1)には、循環こまを使用した、こま式のボールねじ装置が開示されている。図14は、特開2016-114185号公報に記載された、従来構造のボールねじ装置100を示している。
【0007】
ボールねじ装置100は、ねじ軸101と、ナット102と、複数のボール103とを備える。なお、本明細書及び特許請求の範囲で、軸方向、径方向及び円周方向とは、特に断らない限り、ねじ軸に関する軸方向、径方向及び円周方向をいう。
【0008】
ねじ軸101は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝104を有している。ねじ軸101は、ナット102の内側に挿通され、ナット102と同軸上に配置されている。
【0009】
ナット102は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝105及び複数の循環溝106をそれぞれ有している。
【0010】
ナット102は、ナット本体107と、フランジ部108と、複数の循環こま109とから構成されている。
【0011】
ナット本体107は、円筒形状を有しており、内周面にナット側ボールねじ溝105を有している。ナット側ボールねじ溝105と軸側ボールねじ溝104とは、径方向に対向するように配置され、螺旋状の負荷路110を構成する。また、ナット本体107は、ナット側ボールねじ溝105を切り欠くように径方向に貫通した、複数の取付孔111を有している。
【0012】
フランジ部108は、ナット本体107の外周面から径方向外側に向けて突出している。フランジ部108は、円周方向に連続した円環形状を有しており、ナット本体107の外周面の軸方向一方側の端部に備えられている。フランジ部108は、ナット102を他の機械部品に固定する用途で使用される。
【0013】
循環こま109は、ナット本体107の取付孔111に取り付けられている。循環こま109は、軸側ボールねじ溝104に対向する径方向内側面に、略S字状の循環溝106を有している。循環溝106は、負荷路110の始点と終点とを接続する。
【0014】
複数のボール103は、負荷路110及び循環溝106に転動可能に配置されている。
【0015】
従来構造のボールねじ装置100では、ねじ軸101を回転駆動することで、ナット102を軸方向に往復移動させる。この際、ボール103は、負荷路110の内側を転動する。そして、負荷路110の終点にまで達したボール103は、循環溝106を通じて、負荷路110の始点にまで戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2016-114185号公報
【特許文献2】特開2021-122843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
循環こまを取り付けるための取付孔は、ナット本体に切削加工を施すことにより形成される場合が多い。このため、従来構造のボールねじ装置100のように、ナット本体107の外周面に円環形状のフランジ部108を備える構造においては、ナット本体107のうちで、フランジ部108が備えられた部分ではなく、フランジ部108から軸方向に外れた部分に、取付孔111を形成することが行われている。これは、フランジ部が備えられた部分に取付孔を形成した場合、フランジ部の分だけ加工量が増大し、コストの増大を招くなどの理由からである。
【0018】
したがって、従来構造のボールねじ装置100のように、ナット本体107の外周面に円環形状のフランジ部108を備える構造においては、ナット本体107の内周面のうちでフランジ部108と軸方向位置が重なる部分に、循環溝106を配置することは難しい。この結果、その分だけ、ナット本体107のうちでフランジ部108から軸方向に外れた部分の軸方向寸法を長くする必要があり、ナット102の軸方向寸法が大型化しやすくなる。
【0019】
以上のような問題は、円環状のフランジ部を有するナットであれば、フランジ部を、他の機械部品に固定する用途で使用するものに限らず、例えば特開2021-122843号公報(特許文献2)に開示されるように、フランジ部を、回り止め部材と円周方向に係合させて、ねじ軸に対するナットの供回りを防止する用途で使用するものなどにも同様に生じる。
【0020】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、軸方向寸法の小型化を図れるボールねじ装置用ナット、及び、ボールねじ装置用ナットを備えたボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットは、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝及び1乃至複数の循環溝をそれぞれ有するもので、ナット本体と、フランジ部と、循環こまとを備える。
前記ナット本体は、略円筒形状で、内周面に前記ナット側ボールねじ溝を有し、かつ、前記ナット側ボールねじ溝を切り欠くように径方向に貫通した1乃至複数の取付孔を有している。
前記フランジ部は、前記ナット本体の外周面から径方向外側に向けて突出している。
前記循環こまは、前記取付孔に取り付けられている。
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、少なくとも1つの前記循環溝は、前記循環こまに備えられている。
また、前記フランジ部は、円周方向に離隔して配置された複数のフランジ片又は円周方向一部に切り欠き部を備えた1つのフランジ片から構成されている。
また、前記循環こまは、前記フランジ部が複数の前記フランジ片から構成される場合には、前記ナット本体のうち、円周方向に関して前記フランジ片から外れた部分で、かつ、前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられており、前記フランジ部が前記切り欠き部を備えた1つの前記フランジ片から構成される場合には、円周方向の位相が前記切り欠き部と一致する部分で、かつ、前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられている。
【0022】
なお、前記循環こまが前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられているとは、前記ナット本体のうちで前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に、前記循環こまの全体が備えられている場合に限らず、前記循環こまの一部のみが備えられている場合も含む。
いずれにしても、前記循環こまを複数備える場合には、全ての前記循環こまが、前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられている必要はなく、少なくとも1つの前記循環こまが、前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられていれば良い。
【0023】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、全ての前記循環溝を、前記循環こまに備えることができる。
あるいは、本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、一部の前記循環溝を前記循環こまに備え、残りの前記循環溝を前記ナット本体の内周面に直接備えることもできる。
【0024】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記循環こまを複数備えることができる。そして、複数の前記循環こまを、円周方向に等間隔に配置することができる。
あるいは、本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記循環こまを1つだけ備えることもできる。
【0025】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記フランジ部を、複数の前記フランジ片から構成し、複数の前記フランジ片を、円周方向に等間隔に配置することができる。
あるいは、本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記フランジ部を、複数の前記フランジ片から構成し、複数の前記フランジ片を、円周方向に不等間隔に配置することもできる。
【0026】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記フランジ片を、回り止め部材と円周方向に係合可能な案内部を有するものとすることができる。この場合には、前記フランジ片に、前記回り止め部材と円周方向に係合して、前記ねじ軸に対する前記ナットの供回りを防止する機能を持たせることができる。
前記案内部としては、前記フランジ片を軸方向に貫通する案内孔の他、凹溝状の案内凹溝又は突起状の案内凸部などを採用することもできる。
【0027】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記フランジ片に、例えばプーリや歯車などの回転部材の内周面に備えられた係合凹部と係合して、前記回転部材に対する相対回転を阻止する機能を持たせることができる。
【0028】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記ナット本体を、軸方向一方側の端面の円周方向一部に、ねじ軸との相対回転を阻止するための軸方向突起を有するものとすることができる。
【0029】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記軸方向突起を、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまに対し、円周方向の位相をずらして配置することができる。
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記軸方向突起を、前記フランジ片に対し、円周方向の位相が一致する部分に配置することができる。
【0030】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記ナット本体に外嵌されたスリーブを備えることができる。
【0031】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記フランジ部を、前記ナット本体の軸方向一方側の端部に備え、かつ、前記スリーブを、円筒形状を有し、軸方向一方側の端部により、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまの少なくとも一部を径方向外側から覆うことができる。
【0032】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記フランジ部を、前記ナット本体の軸方向一方側の端部に備えられ、かつ、複数の前記フランジ片から構成されたものとし、前記スリーブを、軸方向一方側の端部に、円周方向に離隔して配置された複数の覆い片を有するものとすることができる。そして、前記覆い片を、円周方向に隣り合う前記フランジ片同士の間部分に配置し、該覆い片により、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまを径方向外側から覆うことができる。
【0033】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記循環こまを、前記ナット本体に対してかしめ固定することができる。
あるいは、本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットでは、前記循環こまを、前記ナット本体に対して接着固定することもできる。
【0034】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールと、を備え、前記ナットを、本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットとすることができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の一態様にかかるボールねじ装置用ナットによれば、軸方向寸法の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を備えた電動アクチュエータを示す断面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を備えた電動アクチュエータから、第2ハウジング部、電動モータ及び転がり軸受を取り外して、軸方向一方側から見た端面図である。
図3図3は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を構成するナットを、循環こまを取り付けた状態で、軸方向一方側から見た端面図である。
図4図4は、図3のA-A線断面に相当する模式図である。
図5図5は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を構成するナットを示す斜視図である。
図6図6は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を構成するナットからスリーブ及び循環こまを取り外し、径方向外側から見た図である。
図7図7は、実施の形態の第1例にかかるボールねじ装置を構成するナットからスリーブ及び循環こまを取り外して示す斜視図である。
図8図8は、実施の形態の第2例を示す、図5に相当する図である。
図9図9は、実施の形態の第2例にかかるボールねじ装置を構成するナットからスリーブを取り出して示す斜視図である。
図10図10は、実施の形態の第3例にかかるボールねじ装置を構成するナットにプーリを外嵌した状態を示す端面図である。
図11図11は、実施の形態の第3例を示す、図5に相当する図である。
図12図12は、実施の形態の第4例を示す、図5に相当する図である。
図13図13は、実施の形態の第5例を示す、図5に相当する図である。
図14図14は、従来構造のボールねじ装置を示す断面図である。
【0037】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図7を用いて説明する。
【0038】
[ボールねじ装置の全体構成]
本例のボールねじ装置1は、こま式のボールねじ装置であり、電動ブレーキブースターなどの電動アクチュエータ2に組み込まれ、駆動源である電動モータ3の回転運動を、ピストン4の直線運動に変換する用途で使用される。
【0039】
電動アクチュエータ2は、ボールねじ装置1と、電動モータ3と、ピストン4と、ハウジング5とを備える。
【0040】
電動アクチュエータ2は、ボールねじ装置1により電動モータ3の回転運動を直線運動に変換し、ピストン4をハウジング5のシリンダ孔6内でストロークさせることで、目標とするブレーキ油圧を発生させる。
【0041】
ボールねじ装置1は、ねじ軸7と、ナット8と、複数のボール9とを備える。
【0042】
ねじ軸7は、電動モータ3により回転駆動され、使用時に回転運動する回転運動要素である。ねじ軸7は、ナット8の内側に挿通され、ナット8と同軸に配置されている。ナット8は、ハウジング5に固定された回り止め部材10により、ねじ軸7に対する供回りが防止されており、使用時に直線運動する直線運動要素である。このため、本例のボールねじ装置1は、ねじ軸7を回転駆動し、ナット8を直線運動させる態様で使用される。直線運動要素であるナット8には、ピストン4が外嵌されている。
【0043】
ねじ軸7の外周面とナット8の内周面との間には、螺旋状の負荷路11が備えられている。負荷路11には、複数のボール9が転動可能に配置されている。ねじ軸7とナット8とを相対回転させると、負荷路11の終点に達したボール9は、ナット8の内周面に備えられた循環溝12a~12dを通じて、負荷路11の始点へと戻される。
【0044】
以下、ボールねじ装置1の各構成部品の構造について説明する。
以下の説明において、軸方向、径方向及び円周方向とは、特に断らない限り、ねじ軸7に関する軸方向、径方向及び円周方向をいう。また、軸方向一方側とは、図1図4及び図6の右側を指し、軸方向他方側とは、図1図4及び図6の左側を指す。
【0045】
〔ねじ軸〕
ねじ軸7は、金属製で、ねじ部13と、ねじ部13の軸方向一方側に隣接配置された嵌合軸部14とを有する。ねじ部13と嵌合軸部14とは、同軸に配置されており、互いに一体に構成されている。
【0046】
ねじ部13は、外周面に螺旋状の軸側ボールねじ溝15を有する。軸側ボールねじ溝15は、ねじ部13の外周面に、切削加工(研削加工)、又はスルーフィード式などの転造加工を施すことにより形成されている。本例では、軸側ボールねじ溝15の条数を1条としている。軸側ボールねじ溝15の断面の溝形状(溝底形状)は、ゴシックアーチ溝又はサーキュラアーク溝である。ねじ部13は、軸方向一方側の端面に、平坦面状の突き当て面16を有する。
【0047】
嵌合軸部14は、ねじ部13よりも小さい外径を有する。嵌合軸部14は、外周面に雄スプライン歯17を全周にわたり有している。
【0048】
〔ナット〕
ナット8は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝18及び複数(図示の例では4つ)の循環溝12a~12dをそれぞれ有する。
【0049】
ナット8は、略円筒形状を有するナット本体19と、ナット本体19の外周面から径方向外側に向けて突出したフランジ部20と、複数の循環こま21a~21dとを備える。
【0050】
本例では、フランジ部20の構造を工夫することで、ナット本体19のうちでフランジ部20と軸方向位置が重なる部分に循環こま21aを配置することを可能とし、ナット8の軸方向寸法の小型化を実現する。このため先ず、フランジ部20の構造を説明し、その後、ナット本体19及び循環こま21a~21dの構造を説明する。
【0051】
〈フランジ部〉
本例では、従来構造において円環形状を有していたフランジ部のうちで、機能及び強度を確保するのに必要な部分を残し、かつ、その他の部分を除去することで、フランジ部20を、円周方向に連続した円環形状ではなく、円周方向に不連続な断続フランジとしている。
【0052】
本例のフランジ部20は、円周方向に離隔して配置された複数(図示の例では3つ)のフランジ片22から構成されている。フランジ部を複数のフランジ片から構成する場合、フランジ片の数は、3つに限定されず、フランジ片に求められる機能及び強度等に基づいて適宜決定することができる。
【0053】
複数のフランジ片22のそれぞれは、ナット本体19と一体に備えられており、ナット本体19の外周面の軸方向一方側の端部に備えられている。ただし、フランジ片を、ナット本体とは別体に構成し、ナット本体に対して固定することもできる。
【0054】
複数のフランジ片22は、互いに同じ形状を有している。本例では、フランジ片22は、略矩形板状に構成されている。ただし、フランジ片の形状は、互いに異ならせることもできる。
【0055】
複数のフランジ片22は、円周方向に等間隔に配置されている。図示の例では、3つのフランジ片22が、120度間隔で配置されている。ただし、複数のフランジ片は、円周方向に不等間隔に配置することもできる。
【0056】
フランジ片22のそれぞれは、特許請求の範囲に記載した案内部に相当する、回り止め部材10と円周方向に係合可能な案内孔23を有している。このため、フランジ片22は、回り止め部材10と円周方向に係合して、ねじ軸7に対するナット8の供回りを防止する機能を発揮する。
【0057】
案内孔23は、フランジ片22の径方向中間部に備えられており、フランジ片22を軸方向に貫通している。案内孔23には、回り止め部材10が、軸方向に摺動可能に挿通されている。案内孔23の内側に、滑りブッシュを介して、回り止め部材10を挿通することもできる。
【0058】
図示の例では、回り止め部材10の断面形状を円形状としているため、案内孔23の断面形状(開口形状)についても、円形状としている。なお、案内孔の断面形状は、回り止め部材と円周方向に係合することで、ナットの回り止めを図ることができれば、円形状に限らず、矩形状、半円弧形状など、その他の形状を採用することもできる。また、ナットの回り止めを図るために、フランジ片の径方向外側面に、回り止め部材と円周方向に係合可能な凹溝状の案内凹溝又は突起状の案内突部を設けることもできる。
【0059】
フランジ片22の軸方向一方側の側面は、ナット本体19の軸方向一方側の端面と面一に配置されている。ただし、フランジ片22の軸方向一方側の側面は、ナット本体19の軸方向一方側の端面よりも軸方向他方側にオフセットして配置することもできる。
【0060】
フランジ片22の円周方向寸法、軸方向寸法及び径方向寸法(径方向突出量)は、フランジ片22に求められる機能及び強度等に基づいて決定される。本例のように、フランジ片22をナット8の供回りを防止する用途で用いる場合には、フランジ片22の円周方向寸法は、ナット本体19の外周面の周長の1/20~1/4程度とすることができ、図示の例では、ナット本体19の外周面の周長の約1/9である。また、本例の用途では、フランジ片22の軸方向寸法は、ナット本体19の軸方向寸法(全長)の1/4~1/10程度とすることができ、図示の例では、ナット本体19の軸方向寸法の約1/6である。また、本例の用途では、フランジ片22の径方向寸法は、ナット本体19の径方向厚さ寸法の0.5~3倍程度とすることができ、図示の例では、ナット本体19の径方向厚さ寸法の約1.5倍である。
【0061】
〈ナット本体〉
ナット本体19は、金属製で、円筒形状を有している。ナット本体19は、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝18を有している。また、ナット本体19は、ナット側ボールねじ溝18を切り欠くように径方向に貫通した、取付孔24a~24dを有している。
【0062】
本例では、上述したように、ナット本体19の外周面の軸方向一方側の端部に備えられたフランジ部20を、円周方向に離隔した複数のフランジ片22から構成している。このため、ナット本体19は、軸方向一方側の端部に、フランジ片22が外周面に備えられた部分円環状のフランジ形成部25と、フランジ片22が外周面に備えられていない部分円環状のフランジ非形成部26とを円周方向に交互に備えている。
【0063】
フランジ非形成部26は、ナット本体19のうち、フランジ片22から円周方向に外れた部分で、かつ、フランジ片22と軸方向位置が一致する部分に存在する。フランジ非形成部26の外周面(径方向外側面)は、ナット本体19の中心軸を中心とする部分円筒面により構成されている。なお、フランジ非形成部26は、図6及び図7に示すように、ナット本体19の外周面の軸方向他方側の端部乃至中間部と同径としても良いし、異径としても良い。
【0064】
図示の例では、ナット本体19は、フランジ形成部25とフランジ非形成部26とを、それぞれ3つずつ備えている。
【0065】
本例では、ナット本体19の内周面に、循環溝12a~12dを直接備えていない。このため、ナット8が備えている全ての循環溝12a~12dは、循環こま21a~21dに設けられたものである。ただし、ナットが備える循環溝のうち、軸方向位置がフランジ部と一致する循環溝を除く全部又は一部の循環溝を循環こまに備え、残りの循環溝をナット本体の内周面に直接備えることもできる。
【0066】
ナット側ボールねじ溝18は、螺旋形状を有しており、ナット本体19の内周面に、例えば切削加工(研削加工)又は転造タップ加工(切削タップ加工)を施すことにより形成されている。本例では、ナット側ボールねじ溝18は、ナット本体19の内周面の軸方向一方側の端部から軸方向他方側の端部にわたる範囲に形成されている。
【0067】
ナット側ボールねじ溝18は、軸側ボールねじ溝15と同じリードを有する。このため、ねじ軸7のねじ部13をナット8の内側に挿通配置した状態で、軸側ボールねじ溝15とナット側ボールねじ溝18とは径方向に対向するように配置され、螺旋状の負荷路11を構成する。ナット側ボールねじ溝18の条数は、軸側ボールねじ溝15と同様に1条である。ナット側ボールねじ溝18の断面の溝形状も、軸側ボールねじ溝15と同様に、ゴシックアーチ溝又はサーキュラアーク溝である。本例では、ナット側ボールねじ溝18の軸方向一方側の端部は、フランジ片22と軸方向位置が重なる部分に備えられている。
【0068】
取付孔24a~24dのそれぞれは、循環こま21a~21dを取り付けるための貫通孔であり、ナット本体19の内外両周面に開口している。
【0069】
本例では、取付孔24a~24dは、複数備えられている。複数の取付孔24a~24dは、円周方向位置及び軸方向位置を互いにずらして配置されている。
【0070】
本例では、複数の取付孔24a~24dのうちで最も軸方向一方側の取付孔24aは、ナット本体19の軸方向一方側の端部を構成する複数のフランジ非形成部26のうちの1つのフランジ非形成部26に形成されている。具体的には、取付孔24aの軸方向一方側の半部が、フランジ非形成部26に形成されている。取付孔24aの軸方向他方側の半部は、フランジ非形成部26から軸方向他方側に外れた部分に形成されている。ただし、取付孔全体をフランジ非形成部に形成することもできる。
【0071】
複数の取付孔24a~24dのうちで最も軸方向他方側の取付孔24dは、ナット本体19の軸方向他方側の端部に形成されている。残りの取付孔24b、24cは、ナット本体19の軸方向中間部に形成されている。
【0072】
複数の取付孔24a~24dは、円周方向に等間隔に配置されている。図示の例では、4つの取付孔24a~24dが、90度間隔で配置されている。
【0073】
取付孔24a~24dのそれぞれは、エンドミルなどの切削工具を用いた切削加工により形成されており、ナット本体19の外周面及び内周面のそれぞれに開口している。取付孔24a~24dのそれぞれは、ナット本体19の内周面に形成されたナット側ボールねじ溝18の一部を切り欠くように形成されている。取付孔24a~24dのそれぞれの中心軸は、ナット本体19の放射方向に向けて配置されている。
【0074】
取付孔24a~24dのそれぞれは、矩形状(角丸矩形状)の断面形状を有しており、長手方向を円周方向に向けるとともに、短手方向を軸方向に向けて形成されている。つまり、取付孔24a~24dのそれぞれは、軸方向幅よりも円周方向幅のほうが大きくなってる。ただし、取付孔24a~24dの円周方向幅は、フランジ非形成部26の外周面の円周方向寸法よりも小さい。
【0075】
〈循環こま〉
循環こま21a~21dのそれぞれは、循環溝12a~12dを有している。循環こま21a~21dは、ナット本体19に備えられた取付孔24a~24dと同数(図示の例では4つ)備えられている。
【0076】
循環こま21a~21dは、取付孔24a~24dに取り付けられている。具体的には、循環こま21a~21dは、ナット本体19の軸方向一方側の端部を構成するフランジ非形成部26に形成された取付孔24a、ナット本体19の軸方向他方側の端部に形成された取付孔24d、及び、ナット本体19の軸方向中間部に形成された取付孔24b、24cに、それぞれ1つずつ取り付けられている。
【0077】
最も軸方向一方側の循環こま21aは、フランジ非形成部26の取付孔24aに取り付けられることで、ナット本体19のうち、円周方向に関してフランジ片22から外れた部分で、かつ、フランジ片22と軸方向位置が重なる部分に備えられている。具体的には、循環こま21aは、その軸方向一方側半部が、フランジ片22と軸方向位置が重なる部分に備えられている。このため、循環こま21aに備えられた循環溝12aは、ナット本体19の内周面のうちでフランジ片22と軸方向位置が重なる部分に配置されている。
【0078】
複数の循環こま21a~21dは、円周方向に等間隔に配置されている。図示の例では、4つの循環こま21a~21dが、90度間隔で配置されている。また、4つの循環こま21a~21dは、軸方向に等間隔に配置されている。
【0079】
循環こま21a~21dのそれぞれは、金属製又は合成樹脂製である。循環こま21a~21dのそれぞれが金属製である場合には、例えば、Fe-Ni-C(1~8%Ni、~0.8%C)やFe-Cr-C(0.5~2%Cr、~0.8%C)、SCM415やSUS630などの金属粉末(MIM用合金)を原料として、金属粉末射出成形法(MIM)により製造することができる。
【0080】
循環こま21a~21dのそれぞれは、略四角柱形状を有しており、自身の中心軸を取付孔24a~24dの中心軸に一致させた状態で、取付孔24a~24dの内側に挿入されている。なお、循環こまの形状は、略四角柱形状に限定されず、取付孔の孔形状に合わせて、円柱形状や長円形柱形状などに構成することもできる。
【0081】
循環こま21a~21dのそれぞれは、軸側ボールねじ溝15と径方向に対向する径方向内側面(先端面)に、略S字状に湾曲した循環溝12a~12dを有している。循環溝12a~12dのそれぞれは、ナット側ボールねじ溝18の軸方向に隣り合うねじ溝同士をなめらかに接続する。循環溝12a~12dのそれぞれは、半長円形の断面形状を有する。循環溝12a~12dのそれぞれは、ボール9の直径よりもわずかに大きな溝幅を有し、循環溝12a~12dを移動するボール9が、軸側ボールねじ溝15のねじ山を乗り越えることができる溝深さを有している。
【0082】
循環こま21a~21dをナット本体19に対し取り付けた状態で、循環溝12a~12dのそれぞれの1対の開口部は、円周方向反対側に開口し、ナット側ボールねじ溝18の軸方向に隣り合うねじ溝にそれぞれ接続される。これにより、循環溝12a~12dのそれぞれは、負荷路11の始点と終点とにそれぞれ接続される。そして、循環溝12a~12dと、軸側ボールねじ溝15とナット側ボールねじ溝18(のおよそ1巻きの範囲)との間に形成された負荷路11とにより、1つのサーキットを構成する。負荷路11の始点及び終点とは、別な言い方をすれば、負荷路11と循環溝12a~12dとの接続点である。なお、負荷路11の始点と終点とは、ねじ軸7とナット8との軸方向に関する相対変位の方向(相対回転方向)が変わり、ボール9の移動方向が変化することに伴って、入れ替わる。
【0083】
本例では、図示は省略するが、循環こま21a~21dを取付孔24a~24dに径方向外側から挿入した状態で、循環こま21a~21dの外周側面の径方向外側部に設けられた外向鍔部を、取付孔24a~24dの開口縁部に設けられた凹部の底面(座面)に突き当てている。これにより、循環こま21a~21dが、取付孔24a~24dから径方向内側に抜け出ることを防止している。
【0084】
〈軸方向突起〉
ナット本体19は、軸方向突起27をさらに備える。軸方向突起27は、ナット本体19の軸方向一方側の側面の円周方向一部に備えられており、軸方向一方側に向けて突出している。軸方向突起27は、ナット8のストロークエンドを規制するために利用される。本例では、軸方向突起27は、ナット本体19と一体に備えられているが、軸方向突起をナット本体とは別体として、軸方向突起をナット本体に対して固定することもできる。
【0085】
軸方向突起27は、ナット本体19の軸方向一方側の端部を構成するフランジ形成部25の軸方向一方側の側面に設けられている。このため、軸方向突起27は、最も軸方向一方側に配置された循環こま21aに対し、円周方向の位相がずれている。図示の例では、軸方向突起27は、最も軸方向一方側に配置された循環こま21aに対し、180度位相がずれている。
【0086】
〈スリーブ〉
ナット8は、循環こま21a~21dが取付孔24a~24dから径方向外側に抜け出ることを防止するために、スリーブ28をさらに備える。
【0087】
スリーブ28は、亜鉛メッキ鋼板やステンレス鋼板などの防錆性を有する金属製で、円筒形状を有している。スリーブ28は、ナット本体19に外嵌されている。具体的には、スリーブ28は、ナット本体19のうちで、フランジ部20が備えられた軸方向一方側の端部を除く部分に外嵌されている。スリーブ28の軸方向一方側の端部は、フランジ片22の軸方向他方側の側面の径方向内側の端部に突き当てられている。
【0088】
スリーブ28は、軸方向一方側の端部により、フランジ非形成部26の取付孔24aに取り付けられた循環こま21aの一部(軸方向他方側の半部)を、径方向外側から覆っている。また、スリーブ28は、軸方向他方側の端部及び軸方向中間部により、残りの循環こま21b~21dの全体を径方向外側から覆っている。これにより、スリーブ28は、全ての循環こま21a~21dが取付孔24a~24dから径方向外側に抜け出ることを防止している。
【0089】
スリーブ28は、軸方向他方側の端部に、径方向内側に向けて折れ曲がったかしめ部である係止鍔部29を有している。係止鍔部29は、ナット本体19の外周面の軸方向他方側の端部に備えられた係止溝30に係止されている。これにより、スリーブ28が、ナット本体19から軸方向他方側に抜け出ることを防止している。
【0090】
〈ボール〉
ボール9は、所定の直径を有する鋼球であり、負荷路11及び循環溝12a~12dに転動可能に配置されている。負荷路11に配置されたボール9は、圧縮荷重を受けながら転動するのに対し、循環溝12a~12dに配置されたボール9は、圧縮荷重を受けることなく、後続のボール9に押されて転動する。
【0091】
〔ストッパ〕
本例のボールねじ装置1は、直線運動するナット8のストロークエンドを規制するためのストッパ31をさらに備える。ストッパ31は、ねじ軸7の嵌合軸部14の軸方向他方側の端部に相対回転不能に外嵌されている。ストッパ31は、円環形状を有するボス部32と、突起部33とを有する。
【0092】
ボス部32は、嵌合軸部14に対して相対回転不能に外嵌されている。具体的には、ボス部32は、内周面に備えられた雌スプライン歯34を、嵌合軸部14の外周面に備えられた雄スプライン歯17に対しスプライン係合させることで、嵌合軸部14に対して相対回転不能に外嵌されている。また、ボス部32の軸方向他方側の側面は、ねじ部13の突き当て面16に突き当てられ、かつ、ボス部32の軸方向一方側の側面は、後述するモータ出力軸44の軸方向他方側の端面に突き当てられている。突起部33は、ボス部32の外周面の円周方向一部から径方向に突出している。
【0093】
本例のボールねじ装置1では、ナット8が直線運動してストロークエンドに達すると、ナット8に備えられた軸方向突起27と、ストッパ31に備えられた突起部33とが、円周方向に係合する。これにより、ねじ軸7の回転が阻止されるため、ナット8のストロークエンドを規制することが可能になる。
【0094】
次に、上述したボールねじ装置1とともに電動アクチュエータ2を構成するハウジング5、電動モータ3、及びピストン4の構造について説明する。
【0095】
〔ハウジング〕
ハウジング5は、第1ハウジング部35と第2ハウジング部36とを軸方向に組み合わせてなる。第1ハウジング部35及び第2ハウジング部36のそれぞれは、例えばアルミニウム合金等の金属製で、有底円筒形状を有している。
【0096】
第1ハウジング部35は、内部に、段付き孔である挿通孔37を有する。挿通孔37は、軸方向一方側にのみ開口している。挿通孔37の中心軸は、ねじ軸7の中心軸と同軸に配置されている。
【0097】
挿通孔37は、軸方向一方側部に、ナット8を軸方向に挿通可能なナット挿通孔38を有する。このため、ナット挿通孔38は、フランジ部20の外径(フランジ片22の外接円直径)よりも大きな内径を有している。ナット挿通孔38は、円筒面状の内周面を有している。
【0098】
挿通孔37は、ナット挿通孔38よりも軸方向他方側に、ナット挿通孔38よりも小径のシリンダ孔6を有する。シリンダ孔6の内周面には、図示しない複数のシール凹溝が備えられている。シール凹溝には、シリンダ孔6の内周面とピストン4の外周面との間を密封する図示しないOリングが装着されている。
【0099】
挿通孔37は、ナット挿通孔38とシリンダ孔6との間に、軸方向一方側を向いた段差面39を有する。段差面39は、挿通孔37の中心軸に直交する平坦面である。第1ハウジング部35は、段差面39に開口した第1固定孔40を有している。第1固定孔40は、段差面39の円周方向複数箇所(本例では3箇所)に備えられている。
【0100】
第2ハウジング部36は、内部に収容孔41を有する。収容孔41は、軸方向他方側にのみ開口している。収容孔41は、第1ハウジング部35のナット挿通孔38よりも小さな内径を有する。第2ハウジング部36は、軸方向他方他側の端部に、嵌合部42を有する。嵌合部42は、第2ハウジング部36のうちで嵌合部42の軸方向一方側に隣接する部分に比べて、外径が小さい。第2ハウジング部36は、嵌合部42の軸方向他方側の端面に開口した第2固定孔43を有している。第2固定孔43は、嵌合部42の軸方向他方側の端面の円周方向複数箇所(本例では3箇所)に備えられている。
【0101】
第1ハウジング部35と第2ハウジング部36とは、挿通孔37の中心軸と収容孔41の中心軸とを一致させ、かつ、第1固定孔40と第2固定孔43との円周方向の位相を一致させるとともに、第1ハウジング部35の軸方向一方側の端部を第2ハウジング部36の嵌合部42に外嵌した状態で互いに固定されている。
【0102】
〔電動モータ〕
電動モータ3は、第2ハウジング部36の収容孔41に収容されている。電動モータ3は、モータ出力軸44を備えている。モータ出力軸44は、ねじ軸7と同軸に配置されている。モータ出力軸44は、軸方向他方の端面に開口する係合孔45を有する。係合孔45の内周面には、全周にわたり雌スプライン歯46が備えられている。本例では、係合孔45の内側に、ねじ軸7を構成する嵌合軸部14の軸方向一方側の端部乃至中間部を挿入し、嵌合軸部14の外周面に備えられた雄スプライン歯17を雌スプライン歯46に対しスプライン係合させることで、ねじ軸7とモータ出力軸44とをトルク伝達可能に接続している。なお、モータ出力軸とねじ軸とを、直接接続せずに、減速機構を介して接続することもできる。
【0103】
モータ出力軸44は、2つの転がり軸受47a、47bにより、第2ハウジング部36に対し回転自在に支持されている。一方の転がり軸受47aは、深溝玉軸受であり、モータ出力軸44の軸方向一方側の端部を、収容孔41の奥部に対し回転自在に支持している。他方の転がり軸受47bは、4点接触型の玉軸受であり、モータ出力軸44の軸方向他方側の端部を、収容孔41の開口部に対し回転自在に支持している。本例では、モータ出力軸44の軸方向他方側の端部を支持する転がり軸受47bの径を、モータ出力軸44の軸方向一方側の端部を支持する転がり軸受47aの径よりも大きくしている。
【0104】
〔ピストン〕
ピストン4は、金属製で、有底円筒形状を有している。ピストン4は、ナット本体19に対して外嵌固定されている。具体的には、ピストン4は、ナット本体19の外周面の軸方向他方側の端部に備えられた小径部48に対して外嵌固定されている。ピストン4は、ナット8と同軸に配置されている。ピストン4は、シリンダ孔6に軸方向の移動可能に嵌装されている。
【0105】
〔回り止め部材〕
本例の電動アクチュエータ2は、ねじ軸7に対するナット8の供回りを防止するために、回り止め部材10を備える。回り止め部材10は、軸方向に伸長した軸状部材である。本例では、回り止め部材10は、鉄系合金等の金属製で、円柱形状を有している。このため、回り止め部材10は、円形の断面形状を有している。回り止め部材10の外径は、ナット8に備えられた案内孔23の内径よりもわずかに小さい。
【0106】
本例では、回り止め部材10は、案内孔23と同数の3本備えられている。3本の回り止め部材10は、円周方向に等間隔に配置されている。
【0107】
回り止め部材10の中心軸は、挿通孔37の中心軸と平行に配置されている。回り止め部材10の軸方向一方側の端部は、第2固定孔43に挿入されて第2ハウジング部36に固定されており、回り止め部材10の軸方向他方側の端部は、第1固定孔40に挿入されて第1ハウジング部35に固定されている。このため、回り止め部材10は、第1ハウジング部35と第2ハウジング部36とに掛け渡されている。
【0108】
回り止め部材10は、案内孔23を軸方向に挿通している。これにより、回り止め部材10は、案内孔23に対して円周方向に係合している。また、回り止め部材10は、案内孔23に対して軸方向に摺動可能である。
【0109】
〈動作説明〉
本例の電動アクチュエータ2は、電動モータ3によりねじ軸7を回転駆動すると、回り止め部材10によりハウジング5に対する相対回転が阻止されたナット8が、回り止め部材10に対し案内孔23を軸方向に摺動させながら、ナット挿通孔38を軸方向に移動する。そして、ナット8に外嵌されたピストン4を、シリンダ孔6内でストロークさせる。これにより、シリンダ孔6の内側に充填した液体又は気体を、図示しない連通孔を通じて排出又は吸入し、目標とするブレーキ油圧を発生させる。
【0110】
ナット8がねじ軸7に対して軸方向一方側に相対移動してストロークエンドに達すると、ナット8に備えられた軸方向突起27と、ストッパ31に備えられた突起部33とが円周方向に係合する。これにより、ねじ軸7の回転が阻止される。このように、本例のボールねじ装置1は、ストッパ31により、ナット8がねじ軸7に対して軸方向一方側に相対移動することに関するストロークエンドを規制することができる。なお、ナット8がねじ軸7に対して軸方向他方側に相対移動することに関するストロークエンドは、従来から知られた各種のストローク制限機構を利用して規制することができる。
【0111】
以上のような本例では、ナット8の軸方向寸法の小型化を図ることができる。
すなわち、本例のボールねじ装置1を構成するナット8は、ナット本体19の外周面に備えられたフランジ部20を、円周方向に離隔した複数のフランジ片22から構成することで、ナット本体19のうちでフランジ片22と軸方向位置が一致する部分に、フランジ片22が外周面に備えられていないフランジ非形成部26を設け、該フランジ非成形部26に取付孔24aを形成している。このため本例では、加工量を増大させずに、フランジ片22と軸方向位置が一致する部分に取付孔24aを加工できる。
【0112】
そして、フランジ非形成部26の取付孔24aに取り付けられた循環こま21aは、ナット本体19のうち、円周方向に関してフランジ片22から外れた部分で、かつ、フランジ片22と軸方向位置が重なる部分に配置されるため、循環溝12aを、ナット本体19の内周面のうちでフランジ片22と軸方向位置が重なる部分に配置できる。したがって、本例によれば、ナット本体19のうちでフランジ部20から軸方向他方側に外れた部分の軸方向寸法を短縮化できるため、ナット8の軸方向寸法の小型化を図れる。
【0113】
また、本例では、フランジ部20を、円周方向に離隔した複数のフランジ片22から構成しているため、ナット8の軽量化を図ることができる。
【0114】
また、本例では、軸方向突起27を、最も軸方向一方側に配置された循環こま21aに対し、円周方向の位相をずらして配置している。つまり、軸方向突起27と、フランジ非形成部26に形成された取付孔24aとの円周方向の位相をずらしている。これにより、軸方向突起27を、ナット本体19のうちで、フランジ非形成部26に取付孔24aを形成することで強度が低下した部分ではなく、フランジ非形成部26の取付孔24aから円周方向に位相がずれることで強度を十分に確保できる部分に設けている。このため本例では、軸方向突起27がストッパ31の突起部33と勢い良く係合した場合にも、ナット本体19に変形などが生じることを抑制できる。
【0115】
また、本例では、複数の循環こま21a~21dを円周方向に等間隔に配置して、循環溝12a~12dを円周方向に等間隔に配置している。このため、ナット8により、ボール9を介して、ねじ軸7を全周にわたって径方向外側から支持することができる。また、ナット8の剛性が円周方向に関して変化するのを抑えることができる。
【0116】
また、本例では、複数の取付孔24a~24dを円周方向に等間隔に配置しているため、ナット8の剛性を確保しやすくなる。
【0117】
また、本例では、ストッパ31を、ねじ軸7の突き当て面16と、モータ出力軸44の軸方向他方側の端面との間で挟持している。このため、ストッパ31が、ねじ軸7の嵌合軸部14に対し軸方向に変位することを防止できる。このため、ナット8のストロークエンドを正確に規制できる。
【0118】
また、本例では、モータ出力軸44の軸方向両側の端部を、ハウジング5に対し2つの転がり軸受47a、47bにより回転自在に支持しているため、モータ出力軸44とねじ軸7との同軸度を高めることができる。さらに、ねじ軸7に接続するモータ出力軸44の軸方向他方側の端部を、4点接触型の転がり軸受47bにより支持しているため、モータ出力軸44とねじ軸7との同軸度をより高めることができる。したがって、ボールねじ装置1の効率の向上を図れる。
【0119】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図8及び図9を用いて説明する。
【0120】
本例では、ナット本体19に外嵌するスリーブ28aの形状のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0121】
すなわち、スリーブ28aは、軸方向一方側の端部に、円周方向に離隔して配置された複数の覆い片49を有している。これにより、スリーブ28aの軸方向一方側の端部の形状を、櫛歯形状としている。
【0122】
複数の覆い片49は、スリーブ28aをナット本体19に外嵌した状態で、円周方向に隣り合うフランジ片22同士の間に配置されている。つまり、複数の覆い片49のそれぞれは、フランジ非形成部26の外周面を覆っている。これにより、フランジ非形成部26の取付孔24aに取り付けられた循環こま21aの全体を、覆い片49により径方向外側から覆っている。
【0123】
以上のような本例では、フランジ非形成部26の取付孔24aに取り付けられた循環こま21aが径方向外側に抜け出ることを有効に防止できる。また、複数の覆い片49のそれぞれを、円周方向に隣り合うフランジ片22同士の間に配置しているため、スリーブ28aがナット本体19に対して相対回転することも有効に防止できる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0124】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図10及び図11を用いて説明する。
【0125】
本例では、フランジ部20aの機能及び形成位置を、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0126】
すなわち、フランジ部20aは、回転部材であるプーリ50の内周面に備えられた係合凹部51と係合して、プーリ50に対する相対回転を阻止する機能を有している。
【0127】
フランジ部20aは、円周方向に離隔した2つのフランジ片22aから構成されている。フランジ片22aのそれぞれは、ナット本体19aの外周面の軸方向一方側の端部から軸方向他方側の端部にわたる範囲(全長)に備えられている。フランジ片22aの断面形状は、径方向外側に向かうほど円周方向寸法が小さくなる先細の略台形状である。
【0128】
本例では、ナット本体19aの外周面の全長に備えられたフランジ部20aを、円周方向に離隔した複数のフランジ片22aから構成しているため、ナット本体19aは、軸方向一方側の端部から軸方向他方側の端部にわたる範囲に、フランジ片22aが外周面に備えられた部分円環状のフランジ形成部25aと、フランジ片22aが外周面に備えられていない部分円環状のフランジ非形成部26aとを円周方向に交互に備えている。
【0129】
本例の場合にも、フランジ非形成部26aは、ナット本体19aのうち、フランジ片22aから円周方向に外れた部分で、かつ、フランジ片22aと軸方向位置が一致する部分に存在する。
【0130】
本例では、ナット本体19aに備えられた全ての取付孔24a~24dを、フランジ非形成部26aに形成している。そして、循環こま21a~21dのそれぞれを、取付孔24a~24dに取り付けている。
【0131】
本例では、循環こま21a~21dのそれぞれは、ナット本体19aに対してかしめ固定されている。具体的には、取付孔24a~24dのそれぞれの径方向外側の開口縁部を塑性変形させることにより形成した図示しないかしめ部により、循環こま21a~21dをナット本体19aに対して固定している。ただし、循環こまの一部を塑性変形させることにより形成したかしめ部により、循環こまをナット本体に対してかしめ固定することもできる。あるいは、ナット8に外嵌したプーリ50の内周面を利用して、循環こま21a~21dが取付孔24a~24dのそれぞれから径方向外側へ抜け出ることを防止することもできる。
【0132】
以上のような本例では、循環こま21a~21dが取付孔24a~24dから径方向外側に抜け出るのを防止するためのスリーブを省略できるため、部品点数の削減を図れるとともに、軽量化を図ることができる。また、フランジ片22aの軸方向寸法を、実施の形態の第1例の構造に比べて長くしているため、フランジ片22aの強度向上を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0133】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、図12を用いて説明する。
【0134】
本例では、フランジ部20bの構造を、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0135】
すなわち、フランジ部20bは、円周方向一部に切り欠き部52を備えた1つのフランジ片22bから構成されている。
【0136】
本例の切り欠き部52は、フランジ部20bの円周方向の一部を、フランジ部20bの径方向内側の端部から径方向外側の端部にわたり部分円環状に切り欠いている。このため本例では、切り欠き部52が備えられた部分に、ナット本体19(フランジ非形成部26)の外周面が露出している。
【0137】
フランジ片22bは、円周方向両側に、それぞれ円周方向に関して反対側を向いた円周方向端面53a、53bを有している。円周方向端面53a、53bは、それぞれ平坦面である。
【0138】
フランジ片22bの円周方向寸法は、実施の形態の第1例のフランジ片22の円周方向寸法よりも長い。フランジ片22bの中心角は、フランジ片22bに求められる機能及び強度等に基づいて決定されるが、例えば150度~330度程度とすることができる。図示の例では、フランジ片22bの中心角は270度である。
【0139】
フランジ片22bは、円周方向の複数箇所(図示の例では3箇所)に、案内孔23を有する。複数の案内孔23は、円周方向に等間隔に配置されている。
【0140】
本例では、最も軸方向一方側の取付孔24aを、ナット8のうちで、円周方向の位相が切り欠き部52と一致する部分で、かつ、フランジ片22bと軸方向位置が重なる部分に形成している。このため、取付孔24aに取り付けられた循環こま21aは、ナット8のうちで、円周方向の位相が切り欠き部52と一致する部分で、かつ、フランジ片22bと軸方向位置が重なる部分に備えられている。このため、循環こま21aに備えられた循環溝12a(図4等参照)は、ナット本体19の内周面のうちでフランジ片22bと軸方向位置が重なる部分に配置されている。
【0141】
以上のような本例では、フランジ片22bの剛性を、実施の形態の第1例の構造に比べて高くできるため、フランジ片22bが変形することを効果的に抑制できる。したがって、フランジ片22bに備えられた案内孔23と回り止め部材10との摺動性を高めることができる。また、フランジ部20b(フランジ片22b)を切削加工により形成する場合には、実施の形態の第1例に構造に比べて、加工量を少なくできるため、加工工数の低減を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0142】
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、図13を用いて説明する。
【0143】
本例では、フランジ部20cの構造を、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0144】
すなわち、フランジ部20cは、実施の形態の第3例の構造と同様に、円周方向一部に切り欠き部52aを備えた1つのフランジ片22cから構成されている。
【0145】
本例の切り欠き部52aは、フランジ部20cの円周方向の一部を、直線的に切り欠いている。このため、フランジ片22cは、Dカット形状を有しており、外周面の円周方向の一部に平坦面状の切り欠き面54を備えている。フランジ片22cの径方向寸法は、円周方向の位相が切り欠き部52aと一致する部分で、円周方向の位相が切り欠き部52aから外れた部分よりも小さくなる。
【0146】
本例では、最も軸方向一方側の取付孔24aを、ナット8のうちで、円周方向の位相が切り欠き部52a(切り欠き面54)と一致する部分で、かつ、フランジ片22bと軸方向位置が重なる部分に形成している。このため、取付孔24aに取り付けられた循環こま21aは、円周方向の位相が切り欠き部52aと一致する部分で、かつ、フランジ片22cと軸方向位置が重なる部分に備えられている。このため、循環こま21aに備えられた循環溝12a(図4等参照)は、ナット本体19の内周面のうちでフランジ片22cと軸方向位置が重なる部分に配置されている。
【0147】
以上のような本例の場合にも、フランジ片22cの剛性を、実施の形態の第1例の構造に比べて高くできるため、フランジ片22cが変形することを効果的に抑制できる。また、本例のフランジ片22cは、円環形状のフランジ部に対しエンドミルなどの切削工具を直線的に動かすことで形成できるため、加工工数の低減を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第4例と同じである。
【0148】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0149】
本発明を実施する場合に、ナットを構成するフランジ部は、ナット本体の外周面の軸方向端部に限らず、ナット本体の軸方向中間部に備えることもできる。また、ナット本体の外周面に、軸方向に離隔して複数のフランジ部を設けることもできる。
【0150】
また、実施の形態の第1例では、フランジ片に設けられた貫通孔を、回転部材と円周方向に係合させるための案内孔として利用する場合について説明したが、例えば、遊星歯車を回転自在に支持するピニオンピンを挿通支持するための支持孔として利用することもできる。この場合には、フランジ部は、遊星減速機構を構成するキャリアとして機能する。
【0151】
本開示の態様1にかかるボールねじ装置用ナットは、内周面に螺旋状のナット側ボールねじ溝及び1乃至複数の循環溝をそれぞれ有するボールねじ装置用ナットであって、
内周面に前記ナット側ボールねじ溝を有し、かつ、前記ナット側ボールねじ溝を切り欠くように径方向に貫通した1乃至複数の取付孔を有する、略円筒形状のナット本体と、
前記ナット本体の外周面から径方向外側に向けて突出したフランジ部と、
前記取付孔に取り付けられた循環こまと、を備え、
少なくとも1つの前記循環溝は、前記循環こまに備えられており、
前記フランジ部は、円周方向に離隔して配置された複数のフランジ片又は円周方向一部に切り欠き部を備えた1つのフランジ片から構成されており、
前記循環こまは、前記フランジ部が複数の前記フランジ片から構成される場合には、前記ナット本体のうち、円周方向に関して前記フランジ片から外れた部分で、かつ、前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられており、前記フランジ部が前記切り欠き部を備えた1つの前記フランジ片から構成される場合には、円周方向の位相が前記切り欠き部と一致する部分で、かつ、前記フランジ片と軸方向位置が重なる部分に備えられている。
【0152】
本開示の態様2にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様1において、全ての前記循環溝を、前記循環こまに備えることができる。
【0153】
本開示の態様3にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様1又は前記態様2のいずれかにおいて、前記循環こまを複数備え、複数の前記循環こまを、円周方向に等間隔に配置することができる。
【0154】
本開示の態様4にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様1~前記態様3のいずれかにおいて、前記フランジ部を、複数の前記フランジ片から構成し、複数の前記フランジ片を、円周方向に等間隔に配置することができる。
【0155】
本開示の態様5にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様1~前記態様4のいずれかにおいて、前記フランジ片を、回り止め部材と円周方向に係合可能な案内部を有するものとすることができる。
【0156】
本開示の態様6にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様1~前記態様4のいずれかにおいて、前記フランジ片を、回転部材の内周面に備えられた係合凹部と係合して前記回転部材に対する相対回転を阻止するものとすることができる。
【0157】
本開示の態様7にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様1~前記態様6のいずれかにおいて、前記ナット本体を、軸方向一方側の端面の円周方向一部に、ねじ軸との相対回転を阻止するための軸方向突起を有するものとすることができる。
【0158】
本開示の態様8にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様7において、前記軸方向突起を、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまに対し、円周方向の位相をずらして配置することができる。
【0159】
本開示の態様9にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様1~前記態様8のいずれかにおいて、前記ナット本体に外嵌されたスリーブを備えることができる。
【0160】
本開示の態様10にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様9において、前記フランジ部を、前記ナット本体の外周面の軸方向一方側の端部に備えられたものとし、前記スリーブを、円筒形状を有し、軸方向一方側の端部により、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまの少なくとも一部を径方向外側から覆うことができる。
【0161】
本開示の態様11にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様9において、前記フランジ部を、前記ナット本体の軸方向一方側の端部に備えられ、かつ、複数の前記フランジ片から構成されたものとし、前記スリーブを、軸方向一方側の端部に、円周方向に離隔して配置された複数の覆い片を有するものとし、前記覆い片を、円周方向に隣り合う前記フランジ片同士の間部分に配置し、前記循環こまのうちで最も軸方向一方側に配置された前記循環こまを径方向外側から覆うものとすることができる。
【0162】
本開示の態様12にかかるボールねじ装置用ナットは、前記態様1~前記態様11のいずれかにおいて、前記循環こまを、前記ナット本体に対しかしめ固定することができる。
【0163】
本開示の態様13にかかるボールねじ装置は、ねじ軸と、ナットと、複数のボールと、を備え、前記ナットを、前記態様1~前記態様12のうちのいずれかのボールねじ装置用ナットとすることができる。
【符号の説明】
【0164】
1 ボールねじ装置
2 電動アクチュエータ
3 電動モータ
4 ピストン
5 ハウジング
6 シリンダ孔
7 ねじ軸
8 ナット
9 ボール
10 回り止め部材
11 負荷路
12a~12d 循環溝
13 ねじ部
14 嵌合軸部
15 軸側ボールねじ溝
16 突き当て面
17 雄スプライン歯
18 ナット側ボールねじ溝
19、19a ナット本体
20、20a~20c フランジ部
21a~21d 循環こま
22、22a~22c フランジ片
23 案内孔
24a~24d 取付孔
25、25a フランジ形成部
26、26a フランジ非形成部
27 軸方向突起
28、28a スリーブ
29 係止鍔部
30 係止溝
31 ストッパ
32 ボス部
33 突起部
34 雌スプライン歯
35 第1ハウジング部
36 第2ハウジング部
37 挿通孔
38 ナット挿通孔
39 段差面
40 第1固定孔
41 収容孔
42 嵌合部
43 第2固定孔
44 モータ出力軸
45 係合孔
46 雌スプライン歯
47a、47b 転がり軸受
48 小径部
49 覆い片
50 プーリ
51 係合凹部
52、52a 切り欠き部
53a、53b 円周方向端面
54 切り欠き面
100 ボールねじ装置
101 ねじ軸
102 ナット
103 ボール
104 軸側ボールねじ溝
105 ナット側ボールねじ溝
106 循環溝
107 ナット本体
108 フランジ部
109 循環こま
110 負荷路
111 取付孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14