(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091062
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20240627BHJP
C10M 105/04 20060101ALN20240627BHJP
C10M 105/38 20060101ALN20240627BHJP
C10M 107/08 20060101ALN20240627BHJP
C10M 145/14 20060101ALN20240627BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20240627BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20240627BHJP
C10N 40/04 20060101ALN20240627BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20240627BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M105/04
C10M105/38
C10M107/08
C10M145/14
C10M107/02
C10N20:02
C10N40:04
C10N30:06
C10N30:00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207347
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100132137
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】上田 真央
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 真二
(72)【発明者】
【氏名】篠田 憲明
(72)【発明者】
【氏名】小川 仁志
(72)【発明者】
【氏名】岸 美里
(72)【発明者】
【氏名】床桜 大輔
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA07A
4H104BB34A
4H104CA04A
4H104CB08C
4H104EA02A
4H104LA03
4H104LA20
4H104PA02
(57)【要約】
【課題】高出力、高回転のギヤ機構に対してギヤオイルとして適用できる耐久性を維持しつつ、さらなる燃費低減を実現することができる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】
本発明のある態様は、潤滑油組成物である。当該潤滑油組成物は、100℃における動粘度が2~8mm2/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)と、100℃における動粘度が3~6mm2/sであり3価以上のポリオールのエステルであるエステル化合物(A-2)と、ポリブテン(A-3)と、構造中に窒素を有するポリメタアクリレート(B-1)と、リン化合物(C-1)と、を含む潤滑油組成物であり、前記ポリメタアクリレート(B-1)の含有量が、1.5~10質量%であり、リンの含有量が前記潤滑油組成物の全質量に対して0.18~0.30質量%であり、40℃における動粘度が25mm2/s~45mm2/sである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
100℃における動粘度が2~8mm2/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)と、
100℃における動粘度が3~6mm2/sであり3価以上のポリオールのエステルであるエステル化合物(A-2)と、
ポリブテン(A-3)と、
構造中に窒素を有するポリメタアクリレート(B-1)と、
リン化合物(C-1)と、
を含む潤滑油組成物であり、
前記ポリメタアクリレート(B-1)の含有量が、1.5~10質量%であり、
リンの含有量が前記潤滑油組成物の全質量に対して0.18~0.30質量%であり、かつ、40℃における動粘度が25mm2/s~45mm2/sである、潤滑油組成物。
【請求項2】
前記ポリブテン(A-3)の100℃における動粘度が50mm2/s以上である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)を前記潤滑油組成物の全質量に対して30~80質量%含有し、前記エステル化合物(A-2)を前記潤滑油組成物の全質量に対して5~20質量%含有し、かつ前記ポリブテン(A-3)を前記潤滑油組成物の全質量に対して2~30質量%含有する、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
100℃における動粘度が30~50mm2/sであるポリアルファオレフィン(A-4)を含有する、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
前記エステル化合物(A-2)は、3価又は4価のポリオールと飽和脂肪酸とのエステルである、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
前記エステル化合物(A-2)は、トリメチロールプロパンと直鎖の炭素数8乃至炭素数10の飽和カルボン酸とのエステル化合物である、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
GL-5自動車用ハイポイドギヤ油として用いられる、請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関する。特に、本発明は、自動車用ギヤ油、自動車用ハイポイドギヤ油として使用される潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用のギヤ油に要求される耐荷重性能は、自動車の高出力化に伴いAPI(American Petroleum Institute)のギヤ油タイプのGL-4からGL-5のレベルが必要となってきている。
また、様々な道路状況に対応して運転される自動車用ギヤユニットは、油膜の形成されにくい低速条件での駆動を想定する必要がある上に、ユニットの小型化に伴うギヤ油充填量の減少による発熱によりギヤ油温度が上昇し、粘度低下に起因する油膜破断も発生しやすい傾向にもあるため、ギヤ油にはさらなる耐久性が求められている。
このような耐久性を求められるギヤ油はギヤ歯面上の油膜形成を保持するためSAE(Society of Automotive Engineers)の粘度番号90を採用するのが一般的であった。
【0003】
しかし、一方では省燃費性も求められており、これを実現するためには、攪拌抵抗を低減させ、これに対処するために低粘度化が必要となる。こうした、ギヤ歯面の保護と低粘度化の双方の要求を満足するために、従来手法に基づいて低粘度基油に対して極圧添加剤の添加量を増量させるといった方法を採用すると、極圧添加剤として用いられているリン・硫黄系添加剤が、銅成分を含む部品に対する腐食性の悪影響を高め、装置寿命の短命化を招来する危険性が多い。そのため、このような銅や銅合金の腐食を低下させるギヤ油用の添加剤組成物も提案されている(特許文献1)。
また、基油に炭化水素系合成油とエステル系合成油を採用してGL-5レベルを維持し、一方で低粘度化を図り、耐久性と省燃費性の両立を達成する技術も提案されている(特許文献2)。
【0004】
さらに、フィッシャー・トロプシュ由来基油とポリアルファオレフィン及びエステル化合物とを組み合わせることで、ディファレンシャルギヤ部の良好な耐焼き付き性を実現することができるような技術も提案されているが(特許文献3および特許文献4)、一方で、低粘度化によるベアリングやギヤにおける耐疲労性の低下については、使用負荷条件の制限や軸受の構造変更などでの対応が必要であり、低粘度油で従来のSAE粘度番号90を要求するギヤユニットへの完全置き換えは困難であった。ここでいう疲労とは、ギヤやベアリングの摺動面に繰り返し荷重がかかった際に、金属表面あるいは表面直下に生じる応力の蓄積により発生する材料損傷の一種であり、一般的には低粘度化による油膜厚さの減少により問題となることが知られている。すなわち、省燃費性と耐疲労性能は潤滑油設計においては背反する性能であり、低粘度化しても耐疲労性能を悪化させない技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-323850号公報
【特許文献2】特開2008-179780号公報
【特許文献3】特開2017-115038号公報
【特許文献4】特開2021-66795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高出力の自動車、およびその他の高出力、高回転のギヤ機構において、耐久性を維持しつつさらなる燃費低減を実現できる、GL-5レベルの自動車用ギヤ油などに適用可能な潤滑油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、潤滑油組成物である。当該潤滑油組成物は、100℃における動粘度が2~8mm2/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)と、100℃における動粘度が3~6mm2/sであり3価以上のポリオールのエステルであるエステル化合物(A-2)と、ポリブテン(A-3)と、構造中に窒素を有するポリメタアクリレート(B-1)と、リン化合物(C-1)と、を含む潤滑油組成物であり、前記ポリメタアクリレート(B-1)の含有量が、1.5~10質量%であり、リンの含有量が前記潤滑油組成物の全質量に対して0.18~0.30質量%であり、40℃における動粘度が25mm2/s~45mm2/sである。
上記態様の潤滑油組成物において、前記ポリブテン(A-3)の100℃における動粘度が50mm2/s以上であってもよい。
前記フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)を前記潤滑油組成物の全質量に対して30~80質量%含有し、前記エステル化合物(A-2)を前記潤滑油組成物の全質量に対して5~20質量%含有し、かつ前記ポリブテン(A-3)を前記潤滑油組成物の全質量に対して2~30質量%含有してもよい。
100℃における動粘度が30~50mm2/sであるポリアルファオレフィン(A-4)を含有してもよい。
前記エステル化合物(A-2)は、3価又は4価のポリオールと飽和脂肪酸とのエステルであってもよい。
前記エステル化合物(A-2)は、トリメチロールプロパンと直鎖の炭素数8乃至炭素数10の飽和カルボン酸とのエステル化合物であってもよい。
また、GL-5自動車用ハイポイドギヤ油として用いられてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高出力の自動車その他の高出力、高回転のギヤ機構に対してギヤオイルとして適用できる耐久性を維持しつつ、さらなる燃費低減を実現することができるGL-5レベルの自動車用ギヤ油などに適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
ギヤ機構について省燃費を図るには、主として、(1)金属同士の接触によって生ずるギヤ歯面間のすべりを低減すること、(2)回転するギヤ歯車が潤滑油を攪拌することに要するエネルギーを低減すること、(3)潤滑油膜を介在したギヤ歯面間でおこる高圧力条件下でのすべり摩擦を低減すること、の3点を高度にバランスさせることによって行う必要がある。
【0010】
こうしたバランスをとる為に、通常、上記(1)のためには添加する油性剤の効果的活用によって摩擦係数の低下を図り、上記(2)のためには低粘度基油の採用によって低粘度化を図り、上記(3)のためにはせん断力の小さな基油を選択することによってトラクション係数の低下を図るという手段を講じることが考えられる。
【0011】
また、良好な耐荷重能を実現させるためには、(4)極圧添加剤の使用によってギヤ歯面に強固な金属皮膜を形成すること、(5)金属同士の接触を妨げるような油膜を形成すること、などが必要とされる。また、この油膜の保持は軸受の耐疲労性能にも影響を及ぼすものである。
【0012】
このような省燃費性と耐荷重能および耐疲労性能を両立させるためには、先ず、潤滑油組成物の主要な組成材料の選定が重要なポイントの一つである。すなわち、低温においては低粘度であって攪拌抵抗が低く、高温で発生する極圧状態においては、厚い油膜を保持できる組成材料が好ましい。
【0013】
この厚い油膜を保持するためには、ポリブテン、特には高粘度のポリブテンを基油として使用し、さらにエステル基油に加えてフィッシャー・トロプシュ由来基油を混合して使用することができる。
【0014】
また、ピニオンギヤを支持するベアリングやギヤの良好な耐摩耗性を実現させるためには、フィッシャー・トロプシュ由来基油、ポリブテン及びエステル化合物に加えて、リンを含む化合物を一定量以上混合して使用することが有効である。
【0015】
一方、リンを含む化合物はその含有量が多くなると酸化安定性が悪化し、スラッジの生成が促進されることがある。スラッジが多く生成されると、金属やシール材など各種材料における潤滑性が悪化することが知られており好ましくない。そこで、酸化安定性を良好に維持するためにフィッシャー・トロプシュ由来基油、ポリブテン及びエステル化合物に加えて、構造中に窒素を有するポリメタアクリレートを使用することが有効である。
【0016】
(潤滑油組成物)
実施形態に係る潤滑油組成物は、100℃における動粘度が2~8mm2/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)と、100℃における動粘度が3~6mm2/sであり3価以上のポリオールのエステルであるエステル化合物(A-2)と、ポリブテン(A-3)と、構造中に窒素を有するポリメタアクリレート(B-1)と、リン化合物(C-1)と、を含み、前記ポリメタアクリレート(B-1)の含有量が、1.5~10質量%であり、リンの含有量が前記潤滑油組成物の全質量に対して0.18~0.30質量%であり、かつ、40℃における動粘度が25mm2/s~45mm2/sである。なお、「動粘度」は、JIS K2283:2000に準じて測定された値である。
実施形態に係る潤滑油組成物の各構成成分について説明する。
【0017】
<フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)>
フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)は、当技術分野において既知である。「フィッシャー・トロプシュ由来」という用語は、基油が、フィッシャー・トロプシュ法の合成生成物である又はこの合成生成物に由来することを意味する。フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)は、GTL(ガス液化)基油とも称することができる。潤滑油組成物内で基油として好都合に使用できる適切なフィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)は、例えば、EP0776959、EP0668342、WO97/21788、WO00/15736、WO00/14188、WO00/14187、WO00/14183、WO00/14179、WO00/08115、WO99/41332、EP1029029、WO01/18156及びWO01/57166において開示されているものである。
【0018】
フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)の100℃における動粘度は2~8mm2/sである。フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)の100℃における動粘度が2mm2/s以上であることにより、高温における蒸発量を抑えることにより、組成物の粘度上昇を抑制し、ひいては省燃費の効果を十分に得ることができる。フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)の100℃における動粘度が8mm2/s以下であることにより、高粘度PAO(ポリアルファオレフィン)との混合で組成物の粘度指数(VI)を十分に高くすることできる。
【0019】
フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)の含有量は、潤滑油組成物の全質量(100質量%)に対して30~80質量%が好ましく、40~75質量%がより好ましく、50~75がさらに好ましく、60~75質量%が特に好ましく、65~70質量%が最も好ましい。フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)の含有量が30質量%以上であることにより、潤滑油組成物が40℃において25~45mm2/s程度の粘度を維持するために使用される高粘度(400~700mm2/s)のポリブテンの量を低減でき、ひいては合成油の比率を下げることができるため、経済的である。フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)の含有量が80質量%以下であることにより、高粘度のポリブテンの配合量に対する制限が緩くなり、耐疲労性能を保持するために十分な量を含むことができる。
本実施形態の潤滑油組成物に用いられるフィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)としては、例えば、リセラX415としてロイヤルダッチシェル社から市場で入手可能なフィッシャー・トロプシュ由来基油が挙げられる。
フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0020】
<エステル化合物(A-2)>
エステル化合物(A-2)としては、3価以上のポリオールのエステルが挙げられる。
【0021】
エステル化合物(A-2)の例として挙げられるポリオールエステルは、3~4価のポリオール及びそのエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種と、炭素数が4~12の脂肪酸とから得られる脂肪酸エステルからなる。2価以下のポリオールのエステルは、動粘度が低くなり、またシールの膨潤性を過剰にすることがある。以下、3~4価のポリオール及びそのエチレンオキサイド付加物について順次説明する。
【0022】
水酸基を3個以上有するポリオールとしては、具体的には、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン、ジ-(トリメチロールプロパン)、トリ-(トリメチロールプロパン)、ペンタエリスリトール、ジ-(ペンタエリスリトール)、トリ-(ペンタエリスリトール)、グリセロール、ポリグリセロール(グリセロールの2~20量体)、1,3,5-ペンタントリオール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセロール縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール及びマンニトール等の多価アルコール、並びにキシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース、ラフィノース、ゲンチアノース及びメレジトース等の糖類、並びにこれらの部分エーテル化物、並びにメチルグルコシド(配糖体)等がある。
これらのうち、水酸基を3個有するポリオールが熱酸化安定性、添加剤溶解性及び低温流動性のバランスが良好であるため好ましく、中でもトリメチロールプロパンが最も好ましい。
【0023】
上記ポリオールエチレンオキサイド付加物は、上記のポリオールにエチレンオキサイドを1~4モル、好ましくは1~2モルの割合で付加して得られる。好ましくは、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、及びペンタエリスリトールのエチレンオキサイド付加物である。付加モル数が4モルを超えると、得られる脂肪酸エステルの耐熱性が悪くなることがある。
上記3~4価のポリオール及びそのエチレンオキサイド付加物は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0024】
エステル化合物(A-2)の原料に用いられる脂肪酸は、特に制限されず、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物などを用いることができ、さらにこれらの脂肪酸は、直鎖脂肪酸、分岐を有する脂肪酸、又はこれらの混合物であってもよい。飽和脂肪酸としては、例えば、直鎖飽和脂肪酸を50モル%以上含有する飽和脂肪酸、分岐鎖飽和脂肪酸を50モル%以上含有する飽和脂肪酸などが挙げられる。得られる脂肪酸エステルの高温における安定性を有する点、潤滑油として適切な粘度を有し、粘度指数が高いなどの点から、飽和脂肪酸が好ましく、特に直鎖飽和脂肪酸が好ましい。
【0025】
上記の脂肪酸は、炭素数が4~12の脂肪酸、好ましくは炭素数が6~12の脂肪酸、さらに好ましくは炭素数が8~10の脂肪酸である。炭素数が3以下の脂肪酸を使用した場合には、期待されるエステルの添加効果が十分ではないことがある。一方、炭素数が12を超える脂肪酸を使用した場合には、得られるエステルの低温流動性に劣ることがある。
【0026】
上記直鎖飽和脂肪酸としては、例えば酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプチル酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、及びラウリン酸が挙げられる。
これらのうち、カプリル酸及びカプリン酸が最も適切な粘度を示すため好ましく、カプリル酸及びカプリン酸の混合物がより好ましい。
【0027】
エステル化合物(A-2)は、上記3~4価のポリオール及びそのエチレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも1種と、脂肪酸とを任意の割合で反応させることによって得られる。好ましくは、当該ポリオール及びその付加物1モルに対して、脂肪酸が2~6モル程度、より好ましくは2.1~5モル程度の割合で反応させることにより得られる。
【0028】
エステル化合物(A-2)は、好ましくはアルコール部分が完全にエステル化した完全エステル化合物であり、例えば3価以上のポリオールの完全エステル化合物である。
エステル化合物(A-2)は、トリオールエステルが好ましい。最も好ましいエステル化合物は、トリメチロールプロパンと直鎖の炭素数8乃至炭素数10の飽和カルボン酸とのエステル化合物である。
【0029】
エステル化合物(A-2)は、100℃における動粘度が3~6mm2/sであるエステル化合物である。エステル化合物は100℃における動粘度が3mm2/s以上であることにより、高温時の蒸発損失を抑制することができる。100℃における動粘度が6mm2/s以下であることにより低温流動性の低下を抑制することができる。エステル化合物(A-2)の100℃における動粘度は、好ましくは4~5mm2/sである。
【0030】
エステル化合物(A-2)の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して5~20質量%が好ましく、7~15質量%がより好ましく、8~12質量%がさらに好ましいエステル化合物(A-2)の含有量が5質量%以上であることにより、添加剤の溶解性が低下することを抑制することができる。エステル化合物(A-2)の含有量が20質量%以下であることにより、加水分解される可能性を低減し、極圧添加剤との金属表面への競争吸着の発生を抑制することができる。
エステル化合物(A-2)は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
<ポリブテン(A-3)>
ポリブテン(A-3)は、イソブチレンを主体として一部にノルマルブテンが反応した共重合体からなる長鎖の合成系炭化水素化合物である。
【0032】
ポリブテン(A-3)は、重合度などによって種々の粘度のものが得られるが、高粘度のポリブテンが好ましくは使用される。
【0033】
ポリブテン(A-3)は、100℃における動粘度が、50mm2/s以上である高粘度のポリブテンを使用することが好ましい。ポリブテンの100℃における動粘度が50mm2/s以上であることにより、潤滑油組成物の油膜厚さが薄くなりすぎることを抑制することができる。
【0034】
ポリブテン(A-3)の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して2~30質量%が好ましく、2~25がより好ましく、3~20質量%がより好ましい。ポリブテン(A-3)の含有量が2質量%以上であることにより、油膜厚さが薄くなりすぎることを抑制することができる。ポリブテン(A-3)の含有量が30質量%以下であることにより、潤滑油組成物の粘度が高くなりすぎ、省燃費性が低下することを抑制することができる。
ポリブテン(A-3)は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
<ポリアルファオレフィン(PAO)(A-4)>
ポリアルファオレフィン(PAO)(A-4)には、各種アルファオレフィンの重合物又はこれらの水素化物が含まれる。アルファオレフィンとしては任意のものが用いられるが、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、炭素数5乃至19のα-オレフィンなどが挙げられる。
ポリアルファオレフィンの製造にあたっては、上記アルファオレフィンの1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
アルファオレフィンとしては、エチレン及びプロピレンが好ましく、エチレン及びプロピレンを組み合せたものが、高い増粘効果を示すためより好ましい。エチレン及びプロピレンの組み合せの比率は任意の割合でよいが、エチレンとプロピレンとの比は、20:80~80:20が好ましく、30:70~70:30がより好ましい。
【0036】
ポリアルファオレフィン(A-4)は、使用するアルファオレフィンの種類、重合度などによって種々の粘度のものが得られるが、高粘度のポリアルファオレフィンが好ましくは使用される。
【0037】
ポリアルファオレフィン(A-4)は、100℃における動粘度が、30~50mm2/sである高粘度のポリアルファオレフィンを使用する。ポリアルファオレフィン(A-4)の100℃における動粘度が30mm2/s以上であることにより、潤滑油組成物の粘度指数向上効果を十分に得ることができるポリアルファオレフィン(A-4)の100℃における動粘度が50mm2/s以下であることにより、潤滑油組成物の油膜厚さが薄くなりすぎることを抑制することができる。
ポリアルファオレフィン(A-4)の100℃における動粘度は30~50mm2/sが好ましく、35~45mm2/sがより好ましい。
【0038】
ポリアルファオレフィン(A-4)の含有量の上限は、潤滑油組成物の全質量に対して30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。ポリアルファオレフィン(A-4)の含有量が30質量%以下であることにより、潤滑油組成物の粘度が高くなりすぎ、省燃費性が低下することを抑制することができる。ポリアルファオレフィン(A-4)の含有量の下限は、特に制限されないが、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。
ポリアルファオレフィン(A-4)は1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0039】
<ポリメタアクリレート(B-1)>
ポリメタアクリレート(B-1)は、分子構造中に窒素を含有するポリメタアクリレートであり、窒素は、例えば、アミノ基/アルキルアミノ基やアミド基等として分子中に導入される。ポリメタアクリレート(B-1)の質量を基準とする窒素含有量(窒素原子含有量)は、特に限定されないが、0.01~2.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることがより好ましく、0.2~0.5質量%であることが特に好ましい。ポリメタアクリレート(B-1)の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して、1.5~10質量%であり、2~8質量%であることが好ましく、2~5質量%であることがより好ましい。ポリメタアクリレート(B-1)の含有量を上記範囲とすることにより、酸化安定性を向上させることができる。
ポリメタアクリレート(B-1)の重量平均分子量は、10,000~80,000が好ましく、15,000~60,000がより好ましい。
【0040】
<リン化合物(C-1)>
リン化合物(C-1)としては、例えば、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステル、亜リン酸エステル、チオリン酸、ジチオリン酸亜鉛、チオリン酸又はジチオリン酸とアルカノール又はポリエーテル型アルコールとのエステルあるいはその誘導体、リン含有カルボン酸、リン含有カルボン酸エステルが挙げられる。
【0041】
上記リン酸エステルとしては、例えば、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリウンデシルホスフェート、トリドデシルホスフェート、トリトリデシルホスフェート、トリテトラデシルホスフェート、トリペンタデシルホスフェート、トリヘキサデシルホスフェート、トリヘプタデシルホスフェート、トリオクタデシルホスフェート、トリオレイルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリス(iso-プロピルフェニル)ホスフェート、トリアリルフォスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、及びキシレニルジフェニルホスフェートなどが挙げられる。
【0042】
上記酸性リン酸エステルの具体例としては、モノブチルアシッドホスフェート、モノペンチルアシッドホスフェート、モノヘキシルアシッドホスフェート、モノヘプチルアシッドホスフェート、モノオクチルアシッドホスフェート、モノノニルアシッドホスフェート、モノデシルアシッドホスフェート、モノウンデシルアシッドホスフェート、モノドデシルアシッドホスフェート、モノトリデシルアシッドホスフェート、モノテトラデシルアシッドホスフェート、モノペンタデシルアシッドホスフェート、モノヘキサデシルアシッドホスフェート、モノヘプタデシルアシッドホスフェート、モノオクタデシルアシッドホスフェート、モノオレイルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジペンチルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、ジヘプチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ジウンデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、ジトリデシルアシッドホスフェート、ジテトラデシルアシッドホスフェート、ジペンタデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘプタデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルアシッドホスフェート、及びジオレイルアシッドホスフェートなどが挙げられる。
【0043】
上記酸性リン酸エステルのアミン塩としては、前記酸性リン酸エステルのメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、及びトリオクチルアミンなどのアミンとの塩などが挙げられる。
【0044】
上記亜リン酸エステルとしては、ジブチルホスファイト、ジペンチルホスファイト、ジヘキシルホスファイト、ジヘプチルホスファイト、ジオクチルホスファイト、ジノニルホスファイト、ジデシルホスファイト、ジウンデシルホスファイト、ジドデシルホスファイト、ジオレイルホスファイト、ジフェニルホスファイト、ジクレジルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリペンチルホスファイト、トリヘキシルホスファイト、トリヘプチルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリウンデシルホスファイト、トリドデシルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及びトリクレジルホスファイトなどが挙げられる。
【0045】
リン化合物(C-1)の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対してリンの含有量(リン原子含有量)が0.18~0.30質量%が好ましく、0.18~0.25質量%がより好ましく、0.18~0.22質量%がさらに好ましい。リンの含有量が0.18質量%以上であることにより、耐摩耗性を十分に発揮することができる。リンの含有量が0.30質量%以下であることにより、スラッジの生成が著しく増加することを抑制することができる。リン化合物(C-1)については1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
上記成分の他に、さらに性能を向上させるため、必要に応じて種々の添加剤を適宜使用することができる。これらのものとしては、極圧添加剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、金属不活性剤、油性向上剤、消泡剤、流動点降下剤、清浄分散剤、防錆剤、抗乳化剤等や、その他の公知の潤滑油添加剤を挙げることができる。なお、上述したリン化合物(C-1)は、種々の性能添加剤に含まれる成分として存在することがある。たとえば、極圧添加剤は、後述するようにリン化合物や硫黄化合物などを含むパッケージとして使用されることがある。この場合、上述したリン化合物(C-1)は、極圧添加剤に含まれるリン化合物を含む。
【0047】
上記極圧添加剤としては、硫黄系極圧添加剤やリン化合物若しくはこれらを組み合わせた物、又はホスフォロチオネートなどを用いることができる。硫黄系極圧添加剤としては、下記の一般式(1)で表される炭化水素硫化物、硫化テルペン、油脂と硫黄との反応生成物である硫化油脂などが使用される。
(化1)
R1-Sy-(R3-Sy)n-R2 (1)
上記一般式(1)中、R1、R2は一価の炭化水素基で、それぞれ同一でも異なっていてもよく、R3は二価の炭化水素基、yは1以上の整数で、好ましくは1~8で、繰り返し単位中においてそれぞれのyが同一又は異なる数であることもあり、nは0又は1以上の整数である。
上記R1、R2の一価の炭化水素基としては、炭素数2~20の直鎖又は分枝の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基)、炭素数6~26の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、エチル基、プロピル基、ブチル基、ノニル基、ドデシル基、プロペニル基、ブテニル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、ヘキシルフェニル基などが挙げられる。
上記R3の二価の炭化水素基としては、炭素数2~20の直鎖又は分枝の飽和又は不飽和脂肪族炭化水素基、炭素数6~26の芳香族炭化水素基が挙げられ、具体的には、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、フェニレン基などが挙げられる。
【0048】
上記一般式(1)で表される炭化水素硫化物の代表的なものは、硫黄オレフィン及び一般式(2)で示されるポリサルファイド化合物である。
(化2)
R1-Sy-R2 (2)
上記一般式(2)中、R1、R2は、上記一般式(1)と同じであり、yは2以上の整数である。
具体的には、例えば、ジイソブチルジサルファイド、ジオクチルポリサルファイド、ジターシャリーノニルポリサルファイド、ジターシャリーブチルポリサルファイド、ジターシャリーベンジルポリサルファイド、あるいはポリイソブチレンやテルペン類などのオレフィン類を硫黄などの硫化剤で硫化した硫化オレフィン類などが挙げられる。
【0049】
上記ホスフォロチオネートとしては、具体的には、トリブチルホスフォロチオネート、トリペンチルホスフォロチオネート、トリヘキシルホスフォロチオネート、トリヘプチルホスフォロチオネート、トリオクチルホスフォロチオネート、トリノニルホスフォロチオネート、トリデシルホスフォロチオネート、トリウンデシルホスフォロチオネート、トリドデシルホスフォロチオネート、トリトリデシルホスフォロチオネート、トリテトラデシルホスフォロチオネート、トリペンタデシルホスフォロチオネート、トリヘキサデシルホスフォロチオネート、トリヘプタデシルホスフォロチオネート、トリオクタデシルホスフォロチオネート、トリオレイルホスフォロチオネート、トリフェニルホスフォロチオネート、トリクレジルホスフォロチオネート、トリキシレニルホスフォロチオネート、クレジルジフェニルホスフォロチオネート、キシレニルジフェニルホスフォロチオネート、トリス(n-プロピルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(n-ブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(イソブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(s-ブチルフェニル)ホスフォロチオネート、トリス(t-ブチルフェニル)ホスフォロチオネート等が挙げられる。
【0050】
上記極圧添加剤は、単独で又は適宜混合して使用することができる。この極圧添加剤の添加量は、潤滑油組成物の全質量に対して、3~20質量%、好ましくは5~15質量%となるように使用するとよい。なお、上記極圧添加剤として硫黄系化合物とリン系化合物の混合物である極圧添加剤パッケージは製品の品質管理上好適であり、例えば、ルーブリゾール社のアングラモール99,98Aや6043、アフトンケミカル社のハイテック340、380各シリーズなどが挙げられる。
【0051】
本実施形態の潤滑油組成物に対して、粘度特性や低温流動性を向上させるために、粘度指数向上剤や流動点降下剤を添加することができる。
粘度指数向上剤としては、例えばポリメタクリレート類やエチレン-プロピレン共重合体、スチレン-ジエン共重合体、ポリイソブチレン、ポリスチレンなどのオレフィンポリマー類等の非分散型粘度指数向上剤や、これらに含窒素モノマーを共重合させた分散型粘度指数向上剤等が挙げられる。その添加量は潤滑油組成物の全質量に対して、0.5~15質量%の範囲、好ましくは1~10質量%の範囲で使用するとよい。経済的な観点から、粘度指数向上剤は、使用しないことが好ましい。
また、流動点降下剤としては、例えばポリメタクリレート系のポリマーが挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.01~5質量%の範囲で使用できる。経済的な観点から、流動点降下剤を使用しないことが好ましい。
【0052】
本実施形態において使用する酸化防止剤としては、潤滑油に使用されるものが実用的には好ましく、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤を挙げることができる。これらの酸化防止剤は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.01~5質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0053】
本実施形態の潤滑油組成物に添加される金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール、4-メチル-ベンゾトリアゾール、4-エチル-ベンゾトリアゾールなどの4-アルキル-ベンゾトリアゾール類、5-メチル-ベンゾトリアゾール、5-エチル-ベンゾトリアゾールなどの5-アルキル-ベンゾトリアゾール、1-ジオクチルアミノメチル-2,3-ベンゾトリアゾールなどの1-アルキル-ベンゾトリアゾール類、1-ジオクチルアミノメチル-2,3-トルトリアゾールなどの1-アルキル-トルトリアゾール類等のベンゾトリアゾール誘導体、ベンゾミダゾール、2-(オクチルジチオ)-ベンゾイミダゾール、2-(デシルジチオ)-ベンゾイミダゾール、2-(ドデシルジチオ)-ベンゾイミダゾールなどの2-(アルキルジチオ)-ベンゾイミダゾール類、2-(オクチルジチオ)-トルイミダゾール、2-(デシルジチオ)-トルイミダゾール、2-(ドデシルジチオ)-トルイミダゾールなどの2-(アルキルジチオ)-トルイミダゾール類等のベンゾイミダゾール誘導体などが挙げられる。これらの金属不活性剤は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.01~0.5質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0054】
本実施形態の潤滑油組成物に対して、消泡性を付与するために、消泡剤を添加してもよい。本実施形態の潤滑油組成物に適した消泡剤として、例えばジメチルポリシロキサン、ジエチルシリケート、フルオロシリコーン等のオルガノシリケート類、ポリアルキルアクリレート等の非シリコーン系消泡剤が挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.0001~0.1質量%の範囲で単独又は複数組み合わせて使用できる。
【0055】
本実施形態の潤滑油組成物に適した抗乳化剤として、通常、潤滑油添加剤として使用される公知のものが挙げられる。その添加量は、潤滑油組成物の全質量に対して、0.0005~0.5質量%の範囲で使用できる。
【0056】
本実施形態潤滑油組成物は、フィッシャー・トロプシュ由来基油(A-1)、エステル化合物(A-2)、ポリブテン(A-3)、ポリメタアクリレート(B-1)、およびリン化合物(C-1)さらには任意の添加剤を、任意の順序で混合して調製することができる。
【0057】
本実施形態の潤滑油組成物は、動粘度が40℃において25mm2/s~45mm2/sの範囲に入るものである。25mm2/s以上であることにより、デフの信頼性を十分に得ることができる。45mm2/s以下であることにより、十分な燃費性能を得ることができる。
また、本実施形態の潤滑油組成物は、動粘度が100℃において4mm2/s以上、好ましくは5mm2/s以上、10mm2/s未満、より好ましくは6mm2/s以上8mm2/s未満で、特に好ましくは6.3mm2/s以上8.0mm2/s未満である。4mm2/s以上であることにより、デフの信頼性を十分に得ることができる。10mm2/s未満であることにより、十分な燃費性能を得ることができる。
【0058】
本実施形態の潤滑油組成物は、高出力の自動車その他の高出力、高回転のギヤ機構に対してギヤオイルとして適用できる。特に、APIのギヤ油タイプがGL-5というレベルの優れた耐久性、耐焼き付き性を維持しつつ、さらなる省燃費性に加えて、ギヤやベアリングの良好な耐摩耗性及び良好な耐疲労性能を実現でき、GL-5レベルの自動車用ギヤ油、GL-5自動車用ハイポイドギヤ油などに効果的に適用できる。
【実施例0059】
以下、本発明について、実施例、比較例及び参考例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
実施例及び比較例の調製にあたり、下記の組成の材料を用意した。
1.フィッシャー・トロプシュ由来基油(GTL基油)(A-1)
(A-1-1)100℃における動粘度が2.7mm2/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油
(A-1-2)100℃における動粘度が7.8mm2/sであるフィッシャー・トロプシュ由来基油
2.エステル化合物(A-2)
TMP(トリメチロールプロパンと直鎖の炭素数8及び炭素数10のカルボン酸とのエステル);100℃における動粘度が4.42mm2/sであるエステル基油
3.ポリブテン(A-3)
(A-3-1)100℃における動粘度が600mm2/sであるポリブテン
(A-3-2)100℃における動粘度が3700mm2/sであるポリブテン
(A-3-3)100℃における動粘度が85mm2/sであるポリブテン
4.ポリアルファオレフィン(PAO)(A-4)
(A-4-1)100℃における動粘度が38.6 mm2/sである中粘度のエチレン-プロピレン共重合体からなるポリアルファオレフィン
(A-4-2)100℃における動粘度が595mm2/sである高粘度のエチレン-プロピレン共重合体からなるポリアルファオレフィン
5.分散剤:
ポリメタアクリレート(B-1)窒素を有するポリメタアクリレート
イミド系分散剤(B-1’)コハク酸イミド
6.性能添加剤:
極圧剤パッケージ(GL-5添加剤パッケージ)であって、硫化オレフィン、リン化合物(C-1)としてのリン酸エステル等を配合したもの
表1における、硫化オレフィンおよびリン酸エステルの「質量%」は、性能添加剤の全質量を基準とした硫黄およびリンの含有量である。
【0060】
(実施例及び比較例)
上記した組成材料を用いて、表1に示す組成により実施例1及至10並びに比較例1乃至5の潤滑油組成物を調製した。
【0061】
(参考例1)
参考例1は乗用車用ギヤ油である。この乗用車用ギヤ油は、APIのギヤ油タイプがGL―5レベルで、SAE粘度グレードが75W-85の条件を満足する。
【0062】
(油膜厚さの測定)
潤滑油の油膜厚さ測定にはPCS Instruments社製、EHD2(Ultra Thin Film Measurement System)を使用した。以下の条件でのガラスディスクとAISI52100スチールボール間の油膜厚さを測定した。
荷重:20N、油温:120℃、ディスク回転速度:3m/s
得られた油膜厚さから、オイル性能を以下の通り判断した。
80nm以上:合格
80nm未満:不合格
【0063】
(酸化安定性試験:ISOT)
潤滑油の酸化安定性評価としてISOTを実施した。試験は以下の点を除きJIS2514-1に準拠して実施した。
油温:160℃、試験時間:96h
得られた結果から、以下の通りオイル性能を判断した。JIS2514-1に規定されているラッカー棒の着色程度に使用するカラースケール(9段階)を用いて、ビーカー壁面のスラッジ固着による変色を定量化し、以下の通りオイル性能を判断した。
(判定基準)
軽微(ビーカー壁面の変色がカラースケールで5以下):合格
重度(ビーカー壁面の変色がカラースケールで6以上):不合格
【0064】
(耐疲労試験:MPR)
耐疲労試験にMPRを使用した。試験片材料には、PCS Instruments社純正MPRローラー・ディスクを使用した。材質が16MnCr5、 ディスク表面粗さがRa約0.1μmで、面取りされたローラーを使用した。試験条件は以下のとおりである。
荷重:700N、捲き込み速度:3m/s、 滑り率:10%、油温:135℃、試験サイクル:800万サイクル
光学顕微鏡を用いて、試験後に、ローラー表面を観察した。具体的には、ランダムに選択された10箇所の光学顕微鏡写真から疲労面積比=(疲労面積/摺動面積)*100を定量した。その際、表面亀裂とピットのコントラスト差を利用して疲労面積を定量した。また、疲労面積比からオイル性能を以下の通り判断した。
2.0%未満:合格
2.0%以上:不合格
【0065】
(試験結果)
各試験の結果を表1に示す。
【表1】
【0066】
(考察)
表1に示す結果から明らかなように、参考例1の乗用車用ギヤ油は、APIのギヤ油タイプがGL―5レベルで、SAE粘度グレードが75W-85の条件を満足するが、動粘度が高い事からオイルによる攪拌損失が大きく、期待する省燃費性を発揮することは難しい。さらに、MPR試験における摺動面の疲労面積も大きく、前述の合格基準を満たさない。
一方、省燃費性の改善を目的として攪拌抵抗を抑えるために、40℃での動粘度を35mm2/sと低く調整した比較例1は、MPR試験における摺動面の疲労面積も大きく、前述の合格基準を満たさない。このことから、省燃費性の改善を目的に低粘度化するためには、耐疲労性能を補う必要があることが分かる。
そこで、疲労改善効果があることが知られている性能添加剤に含まれるリンを増量した比較例2は、低粘度でありながらMPR試験における耐疲労性能が合格基準を満足した。しかし、酸化安定性試験において重度のスラッジを生成するため合格基準を満たさない。通常、スラッジ生成の改善にはコハク酸イミド(B-1’)を使用することが一般的であるが、比較例3ではスラッジの生成が重度であり、改善効果が認められない。
加えて、比較例2及び3は耐疲労性能の指標となる油膜厚さが薄く、十分な耐疲労性能が期待できない。そこでポリブデン(A-3-1)を添加した比較例4は、油膜厚さが厚くなることが確認できたが、スラッジの生成は重度で変わりがない。また、ポリメタクリレート(B1)を1質量%だけ添加した比較例5は、スラッジの生成が重度であった。
これに対し、実施例1乃至10の潤滑油組成物は、低粘度でありながら油膜厚さも厚くMPR試験における摺動面の疲労面積も小さく、さらに酸化安定性試験におけるスラッジ生成も軽微であり、合格基準をいずれも満足する。