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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091065
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】耐熱シート
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20240627BHJP
   B32B 17/02 20060101ALI20240627BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20240627BHJP
   H01M 50/204 20210101ALI20240627BHJP
【FI】
H01M10/658
B32B17/02
H01M10/647
H01M50/204 401H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207350
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】猪川 寛
(72)【発明者】
【氏名】森下 正士
【テーマコード(参考)】
4F100
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA01E
4F100AG00A
4F100AG00E
4F100AK25B
4F100AK25D
4F100AR00B
4F100AR00D
4F100BA05
4F100BA07
4F100CA08B
4F100CA08D
4F100DG15A
4F100DG15C
4F100DG15E
4F100EH01
4F100EH41A
4F100EH41E
4F100EJ17
4F100GB31
4F100GB41
4F100JA13A
4F100JA13E
4F100JJ03
4F100JJ03E
4F100JK11A
4F100JK11C
4F100JL13B
4F100JL13D
4F100YY00A
4F100YY00E
5H031EE03
5H031EE04
5H031HH08
5H031KK02
5H040AA27
5H040AT02
5H040AT06
5H040AY04
5H040AY08
5H040CC01
5H040LL04
5H040NN03
(57)【要約】
【課題】電池のセルが仮に熱暴走した場合でも、飛散した破片の貫通を防止することが可能な耐熱シート及び当該耐熱シートを備えるバッテリーケースを提供すること。
【解決手段】衝撃吸収層と該衝撃吸収層に隣接する耐熱層とを備える耐熱シートであって、前記衝撃吸収層は、前記耐熱層に隣接する側に設けられた衝撃吸収接着層と、該衝撃吸収接着層に前記耐熱層とは反対側で隣接する衝撃吸収不織布層とを備え、前記衝撃吸収不織布層は、無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成され、前記衝撃吸収接着層は、JIS K6850に準拠する引張試験において、引張開始位置から当該衝撃吸収接着層が破断するまでの変位量が0.7mm以上であり、前記耐熱層は、耐熱性無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される、耐熱シート。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝撃吸収層と該衝撃吸収層に隣接する耐熱層とを備える耐熱シートであって、
前記衝撃吸収層は、前記耐熱層に隣接する側に設けられた衝撃吸収接着層と、該衝撃吸収接着層に前記耐熱層とは反対側で隣接する衝撃吸収不織布層とを備え、
前記衝撃吸収不織布層は、無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成され、
前記衝撃吸収接着層は、JIS K6850に準拠する引張試験において、引張開始位置から当該衝撃吸収接着層が破断するまでの変位量が0.7mm以上であり、
前記耐熱層は、耐熱性無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される、耐熱シート。
【請求項2】
前記衝撃吸収不織布層の無機繊維及び/又は前記耐熱層の耐熱性無機繊維がガラス繊維である、請求項1記載の耐熱シート。
【請求項3】
前記耐熱層の耐熱性無機繊維がSガラス繊維である、請求項1又は2に記載の耐熱シート。
【請求項4】
前記衝撃吸収接着層が、両面テープである請求項1又は2に記載の耐熱シート。
【請求項5】
前記両面テープが、衝撃吸収シートと、該衝撃吸収シートの両面に設けられた粘着層とで構成され、前記衝撃吸収シートが不織布で構成される、請求項4に記載の耐熱シート。
【請求項6】
前記衝撃吸収接着層が難燃性材料を含む、請求項請求項1又は2に記載の耐熱シート。
【請求項7】
前記衝撃吸収層の厚みが1.5~3.0mmである、請求項1又は2に記載の耐熱シート。
【請求項8】
前記耐熱層の厚みが0.1~2.0mmである、請求項1又は2に記載の耐熱シート。
【請求項9】
前記衝撃吸収不織布層の不織布の密度が0.1~0.2g/cmである、請求項1又は2に記載の耐熱シート。
【請求項10】
前記耐熱層の密度が0.4~0.8g/cmである、請求項1又は2に記載の耐熱シート。
【請求項11】
前記衝撃吸収不織布層の不織布及び/又は前記耐熱層の不織布が湿式抄紙法による不織布である、請求項1又は2に記載の耐熱シート。
【請求項12】
電池を保持、収容する筐体を備えるバッテリーケースにおいて、
請求項1又は2に記載の耐熱シートが、前記耐熱層が前記電池に面するように、前記筐体の内側に設けられている、バッテリーケース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱シートに関し、特に、例えばリチウムイオン電池等のバッテリーケースの内側に設けることが可能な耐熱シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、デジタルカメラ、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯型電子機器の電源として広く利用されている。近年、地球温暖化への対応のため、従来化石燃料をエネルギー源として用いていた、自動車、飛行機、船舶などの輸送機の分野においても、リチウムイオン二次電池がエネルギー源の全部又は一部として採用されつつある。
【0003】
一方、リチウムイオン電池は、例えば何らかの原因で電極の短絡が生じると急激に温度が上昇する熱暴走が発生することが知られている。熱暴走が発生し、制御不能になると、電池が破裂し、その破片が飛び散ったり、発火したりする危険がある。特に、リチウムイオン電池がバッテリーモジュールのように複数のセルで構成されている場合、あるセルで熱暴走が発生すると他の隣接するセルに伝播して熱暴走する可能性がある。一般に、リチウムイオン電池には、このような状況を防止し、安全性を確保するための対策は施されているが、輸送機では携帯型電子機器と異なり、過酷な環境で使用され、また、交通事故などにより輸送機が大破することがあり、その結果として熱暴走が発生し、その制御が困難になることも想定される。そのため、輸送機の分野では、より一層の安全対策が求められる。
【0004】
このような、リチウムイオン電池の熱暴走を抑制したり、仮に熱暴走が起こり、電池の破裂や発火が生じた場合でも、延焼や破片の飛散を抑制することを目的とした材料が提案されている(特許文献1、2)。
【0005】
特許文献1には、無機耐火性プレートレットと、結合剤と、粘度調整剤と、液体とを有する、電気絶縁および防火コーティング組成物が記載され、この組成物は、ガラス繊維などの無機繊維紙と組み合わせて構成され得ることが記載されている。そして、特許文献1に記載の発明によると、熱暴走事象を受けている1つ以上の個々のバッテリーセルの影響を軽減し、それにより、バッテリーモジュールまたはバッテリーパック内の隣接する電池への熱暴走事象の伝播を防止することができるとされている。
【0006】
特許文献2には、無機接着剤によって無機粒子及び無機繊維を含む不織布層に結合された少なくとも1つの無機布地層を含み、前記無機接着剤は、所定比率の無機成分と、所定比率の有機添加剤と、を含む改質無機接着剤である、多層材料が記載されている。この多層材料は、再充電可能な電気エネルギー貯蔵システムにおける断熱バリアとして使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2021-509690号公報
【特許文献2】特表2022-536556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載の発明によると、熱暴走の際の熱の伝播をある程度抑制できる可能性はあると考えられる。しかし、引用文献1に記載の発明では、無機繊維紙に無機耐火性プレートレットなどの成分を含浸などにより組み合わせているため、熱暴走の際に飛散した破片がセル筐体を貫通し、場合によっては隣接するセルを損傷する可能性がある。また、特許文献2に記載の発明では、無機接着剤によって無機繊維を含む不織布層と無機布地層とが結合されているため、無機接着剤の可撓性の低さから飛散する破片が容易に突き抜ける可能性が高い。無機接着剤に可撓性を付与する有機添加剤を添加することは記載されているが、限界がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、電池のセルが仮に熱暴走した場合でも、飛散した破片の貫通を防止することが可能な耐熱シート及び当該耐熱シートを備えるバッテリーケースを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前述の課題解決のために鋭意検討を行った。その結果、所定の衝撃吸収層と所定の耐熱層とを備える耐熱シートを採用することで、前述の課題を解決可能であることを見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
本発明の第一は、衝撃吸収層と該衝撃吸収層に隣接する耐熱層とを備える耐熱シートであって、前記衝撃吸収層は、前記耐熱層に隣接する側に設けられた衝撃吸収接着層と、該衝撃吸収接着層に前記耐熱層とは反対側で隣接する衝撃吸収不織布層とを備え、前記衝撃吸収不織布層は、無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成され、前記衝撃吸収接着層は、JIS K6850に準拠する引張試験において、引張開始位置から当該衝撃吸収接着層が破断するまでの変位量が0.7mm以上であり、前記耐熱層は、耐熱性無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される、耐熱シートに関する。
【0012】
本発明の実施形態では、前記衝撃吸収不織布層の無機繊維及び/又は前記耐熱層の耐熱性無機繊維がガラス繊維であってもよい。
【0013】
本発明の実施形態では、前記耐熱層の耐熱性無機繊維がSガラス繊維であってもよい。
【0014】
本発明の実施形態では、前記衝撃吸収接着層が、両面テープであってもよい。この場合、前記両面テープが、衝撃吸収シートと、該衝撃吸収シートの両面に設けられた粘着層とで構成され、前記衝撃吸収シートが不織布で構成されてもよい。
【0015】
本発明の実施形態では、前記衝撃吸収接着層が難燃性材料を含んでもよい。
【0016】
本発明の実施形態では、前記衝撃吸収層の厚みが1.5~3.0mmであってもよい。
【0017】
本発明の実施形態では、前記耐熱層の厚みが0.1~2.0mmであってもよい。
【0018】
本発明の実施形態では、前記衝撃吸収不織布層の不織布の密度が0.1~0.2g/cmであってもよい。
【0019】
本発明の実施形態では、前記耐熱層の密度が0.4~0.8g/cmであってもよい。
【0020】
本発明の実施形態では、前記衝撃吸収不織布層の不織布及び/又は前記耐熱層の不織布が湿式抄紙法による不織布であってもよい。
【0021】
本発明の第二は、電池を保持、収容する筐体を備えるバッテリーケースにおいて、前述の耐熱シートが、前記耐熱層が前記電池に面するように、前記筐体の内側に設けられている、バッテリーケースに関する。
【0022】
本発明の第一及び第二では、前述の実施形態の各構成を任意に組み合わせて適用することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、電池のセルが仮に熱暴走した場合でも、飛散した破片の貫通を防止することが可能な耐熱シート及び当該耐熱シートを備えるバッテリーケースを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る耐熱シートの断面構造の一例を模式的に示した説明図である。
図2】本発明の実施形態に係るバッテリーケースに複数の電池(セル)を収容する際の本発明の実施形態に係る耐熱シートの配置を説明するための斜視図である。
図3】本発明の実施形態に係るバッテリーケースに複数の電池(セル)が収容された状態の断面構造を模式的に示した説明図である。
図4】JIS K6850に準拠して行う引張せん断接着強さの試験方法に使用する試験片の概要を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施形態に係る耐熱シートは、衝撃吸収層と、この衝撃吸収層に隣接する耐熱層とを備える。衝撃吸収層は、衝撃吸収接着層と、この衝撃吸収接着層に隣接する衝撃吸収不織布層とを備える。また、衝撃吸収接着層は、衝撃吸収層において耐熱層に隣接する側に設けられ、衝撃吸収不織布層は、衝撃吸収層において耐熱層とは反対側で、衝撃吸収接着層と隣接する。即ち、耐熱シートは、衝撃吸収不織布層、衝撃吸収接着層、耐熱層がこの順で積層された層構造を有するシートである(例えば、図1参照)。衝撃吸収接着層は、JIS K6850に準拠する引張せん断接着強さ試験において、引張開始位置から当該衝撃吸収接着層が破断するまでの変位量が0.7mm以上である。衝撃吸収不織布層は、無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される。耐熱層は、耐熱性無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される。
【0026】
耐熱性無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される耐熱層は、優れた耐熱性、断熱性を有し、例えばリチウムイオン電池が熱暴走した時に想定される高温(例えば1000℃程度)であっても、高熱に起因する貫通穴が生じることを大幅に抑制することができ、また、不織布による多孔質構造と相俟って、優れた断熱性を有し、衝撃吸収層を保護することができる。無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される衝撃吸収不織布層は、不織布による多孔質構造と相俟って良好な断熱性、衝撃吸収性を有する。衝撃吸収接着層は、所定の特性を有することで、耐熱層と衝撃吸収不織布層とを良好に接合するとともに、良好な衝撃吸収性を有し、耐熱シート全体として良好な可撓性を付与することができ、耐熱シートを折り曲げた状態でも使用可能であり、その状態でも、耐熱シートの機能を効果的に発揮させることができる。以下、各層について説明する。
【0027】
衝撃吸収層は、衝撃吸収接着層と衝撃吸収不織布層とを備え、両層が隣接して設けられる。
【0028】
衝撃吸収接着層は、衝撃吸収不織布層と耐熱層とを接合するとともに、衝撃吸収性及び可撓性を有する。衝撃吸収性は、後述する実施例の欄に記載の耐ブラスト試験により評価するものとし、その耐ブラスト試験において、耐熱シート全体として、噴出物が貫通しない特性を示せば、衝撃吸収接着層も衝撃吸収性を有するものとする。また、可撓性は、後述する実施例の欄に記載のJIS K6850に準拠する引張せん断接着強さ試験において、引張開始位置から当該衝撃吸収接着層が破断するまでの変位量が0.7mm以上である場合に可撓性を有するものとする。このような衝撃吸収接着層は、例えば、流動性を有する塗布型接着剤を用いてその硬化又は固化させた塗膜により形成させたり、所定の形状を有する粘着型接着材料により形成させたりすることができる。
【0029】
塗布型接着剤としては、耐熱性の観点から、(a)熱硬化性樹脂、(b)熱硬化性樹脂やゴム材を有効成分として含む有機系の塗布型接着剤が好ましい。このような塗布型接着剤としては、例えば、硬化型ポリウレア、硬化型ポリウレタン、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、アクリル樹脂、これらの混合物を有効成分或いは主成分とする有機樹脂系の接着剤が挙げられる。これらのうち、衝撃吸収性の観点からは、硬化型ポリウレア、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂から選択される少なくとも1種を有効成分或いは主成分として含む有機樹脂系の接着剤が好ましい。
【0030】
粘着型接着材料は、予め所定の形状を有し、常温下又はそれより高い温度に加熱下で、所定の圧力を付加することで、耐熱層及び衝撃吸収不織布層と接合可能になるものである。このような粘着型接着材料としては、例えば、(i)耐熱性熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂の可撓性を有する樹脂シート、(ii)シート状の基材の両面に粘着層が形成された可撓性を有する複合シート等が挙げられる。これらのうち、衝撃吸収性、接着性の観点から、(ii)の複合シートが好ましい。このような(ii)の複合シートは、いわゆる両面テープを採用することができる。
【0031】
(ii)の複合シートの基材は、粘着層を形成可能で可撓性を有するものであればよいが、衝撃吸収性を有する衝撃吸収シートであるのが好ましい。このような基材としては、例えば、不織布、樹脂フィルム等などが挙げられるが、衝撃吸収性の観点からは不織布が好ましい。不織布の構成繊維は、セルロース系繊維、耐熱性樹脂繊維、無機繊維何れでもよいが、断熱性、難燃性の観点から、無機繊維を主な構成繊維として含まれるのが好ましい。また、無機繊維は、後述する衝撃吸収不織布層を構成する無機繊維と同様のものを採用することが可能であるが、衝撃吸収性、断熱性、難燃性の観点から、ガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は後述するものを用いることができるが、コストの観点からはEガラス繊維がより好ましい。
【0032】
(ii)の複合シートの粘着層は、天然又は合成高分子材料を粘着成分として含むのが好ましい。このような高分子材料としては、例えば、アクリル系高分子材料、シリコーン系高分子材料、ゴム系高分子材料(但しシリコーン系を除く)などが挙げられる。これらのうち、電蝕、電気絶縁性の観点からは、アクリル系高分子材料、ゴム系高分子材料(但しシリコーン系ゴムを除く)が好ましく、耐熱性の観点から、アクリル系高分子材料が特に好ましい。
【0033】
アクリル系高分子材料としては、例えば、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸アルキルエステルモノマーとアクリル酸などの官能基含有モノマーとの共重合体などをイソシアネートなどにより架橋したものが挙げられる。
【0034】
ゴム系高分子材料(但しシリコーン系ゴムを除く)としては、例えば、天然ゴム;合成ゴム;天然ゴム及び/又は合成ゴムとロジン系やテルペン系粘着付与樹脂との混合物;ポリイソブチレン、エチレン-プロピレンゴムなどのオレフィン系ゴム;オレフィン系ゴムと水添ロジン系や水添テルペン系樹脂との混合物;スチレン-エチレン・ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)などのスチレン系エラストマー;スチレン系エラストマーと水添ロジン系や水添テルペン系樹脂との混合物等が挙げられる。
【0035】
シリコーン系高分子材料としては、例えば、ポリジメチルシロキサンなどからなるシリコーンゴムとシリコーンレジンを過酸化物などにより架橋したもの等が挙げられる。
【0036】
衝撃吸収接着層には、より効果的な延焼防止の観点から、難燃性材料を含むのが望ましい。特にリチウムイオン二次電池のバッテリーケースに耐熱シートを適用する場合は、セルが発火した場合に他のセルへの延焼を抑制するのにより効果的である。このような難燃性材料としては、公知の難燃剤を用いることができる。このような難燃剤としては、例えば、赤リン、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム、リン酸アミド等の無機リン化合物;リン酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスホラン化合物、有機系含窒素リン化合物、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロオキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロオキシナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等の環状有機リン化合物、及びそれをエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の化合物と反応させた誘導体等の有機リン化合物;トリアジン化合物、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、フェノチアジン等の窒素系難燃剤;シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂等のシリコーン系難燃剤;金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩化合物、金属粉、ホウ素化合物、低融点ガラス等の無機難燃剤などが挙げられる。これらの難燃剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0037】
難燃性材料は、塗布型接着剤及び粘着型接着材料の形態に応じて定法に従って適用することができる。塗布型接着剤の場合は、例えば前述の樹脂材料と難燃剤とを混合することで難燃性を付与することができる。粘着型接着材料の場合は、例えば、粘着層を構成する高分子材料と難燃剤とを混合する、基材に難燃剤をコーティングしたり、難燃剤を含む材料で基材を形成する等により難燃性を付与することができる。
【0038】
衝撃吸収接着層を構成する複合シートとしては、例えば市販の両面テープを使用することができ、特に難燃性を有するものとして、日東電工株式会社製のNo.5011N、DIC株式会社製のダイタックシリーズ、株式会社寺岡製作所製のNo.725Fなどが挙げられる。
【0039】
衝撃吸収不織布層は、衝撃吸収性、耐熱性、難燃性の観点から、無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される。即ち、構成繊維には、50質量%以上の無機繊維を含むのが好ましく、75質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。また、後述するように、バインダー繊維を用いる場合は、不織布の強度の観点から無機繊維は構成繊維中95質量%以下が好ましい。バインダー繊維を用いず、繊維以外のバインダー成分を用いる場合は、無機繊維は構成繊維中100質量%とすることができる。
【0040】
無機繊維としては、衝撃吸収性、耐熱性、難燃性を付与可能な限り特に限定はなく、例えば、ガラス繊維、玄武岩繊維、セラミック繊維、多結晶繊維、非バイオ永続繊維(Non-bio-persistent fibers)、アルミナ繊維、シリカ繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、ケイ酸ホウ素繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、1種単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。このうち、より良好な耐熱性を付与する観点から、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維が好ましい。コストの観点からは、ガラス繊維がより好ましい。ガラス繊維としては、例えば、Eガラス繊維、Sガラス繊維、Rガラス繊維、ECRガラス繊維、Cガラス繊維、ARガラス繊維等が挙げられる。このうち、コストの観点から、Eガラス繊維が好ましい。
【0041】
無機繊維の繊維径は、不織布の強度、厚みの観点から、1~18μmが好ましく、6~13μmがより好ましい。繊維長は、不織布の強度等の観点から、1~30mmが好ましい。
【0042】
衝撃吸収不織布層を構成する不織布には、無機繊維のほか、耐熱性を有する有機繊維や、バインダー繊維を含んでもよい。耐熱性を有する有機繊維としては、例えば、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性樹脂の繊維が挙げられる。バインダー繊維は、熱水で軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性繊維であり、例えば、ポリビニル系繊維、セルロース系繊維、変性ビニル系共重合体からなる繊維などが挙げられる。
【0043】
不織布は特に限定はなく、JIS L0222に定義されているもののほか、抄紙などの紙状のもの、フェルト状のものを含む。不織布は、公知の方法で得られるものであり、先ず、繊維のウェブ(或いはフリース)を形成した後、ウェブの繊維間を結合させことで得ることができる。ウェブの形成方法としては、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等を採用することができ、ウェブの繊維間を結合させる方法としては、サーマルボンド法、ケミカルボンド法、ニードルパンチ法、水流絡合法などを採用することができる。このうち無機繊維の不織布を作製する場合は、湿式法抄紙法を採用することが好ましい。湿式抄紙法では、無機繊維を含む抄紙スラリーを調製し、湿式法でウェブを形成する、即ち、抄紙する。抄紙された湿紙ウェブは、抄紙スラリーの成分に応じ、加熱したり(サーマルボンド法に類する)、バインダー成分を塗布したり(ケミカルボンド法に類する)した後、乾燥して不織布を得ることができる。抄紙スラリーには、必要に応じて、分散剤、紙力増強剤、増粘剤、無機填料、消泡剤などを適宜添加することができる。また、バインダー繊維以外のバインダーとしては、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、水溶性セルロース、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の公知の高分子系材料等が挙げられる。高分子系材料は、必要に応じて架橋剤、カップリング剤等を併用しても良い。したがって、湿式抄紙法により得られる無機繊維の不織布(即ち、湿式抄紙法の不織布)には、無機繊維の他に、前述のようにバインダー繊維及び/又はこれ以外の高分子系材料等のバインダー成分が含まれる。
【0044】
衝撃吸収不織布層の密度は、衝撃吸収性の観点から、0.1~0.2g/cmが好ましい。密度は、例えば、不織布の目付(単位面積当たりの質量)と厚みから算出することができる。衝撃吸収不織布層中の無機繊維の含有量は、層全体中80~95重量%であるのが好ましい。
【0045】
衝撃吸収不織布層を構成する不織布は、市販のものを使用することができ、例えば、王子製紙株式会社製、グラスパー(登録商標)、オリベスト株式会社製、グラベスト(登録商標)などが挙げられる。
【0046】
衝撃吸収層、即ち、衝撃吸収接着層及び衝撃吸収不織布層の全体の厚みは、衝撃吸収性の観点から、1.5~3.0mmが好ましい。厚みは、例えば、耐熱シート及び耐熱層の厚みを定圧ノギスなどにより測定し、両者の厚みの差から算出することができる。また、衝撃吸収不織布層の厚みは、衝撃吸収性の観点から、1.2~2.95mmが好ましい。衝撃吸収接着層の厚みは、衝撃吸収層及び衝撃吸収不織布層の厚みに応じて設定することができる。
【0047】
耐熱層は、耐熱性無機繊維を主な構成繊維として含む不織布で構成される。耐熱層は、後述するバッテリーケースの電池側に面するように設けられるため、衝撃吸収不織布層より高い耐熱性が求められ、例えば、リチウムイオン二次電池のセルが熱暴走した時に想定され得る1000℃程度でも溶融しないことが求められる。したがって、このような耐熱性を有する範囲で、前述の衝撃吸収不織布層を構成する各種の無機繊維を採用することができる。それらのうち、耐熱性、コスト等の観点から、Sガラス繊維が特に好ましい。
【0048】
耐熱層を構成する不織布は、耐熱性無機繊維を主な構成繊維として含む。即ち、構成繊維には、50質量%以上の無機繊維を含むのが好ましく、75質量%以上がより好ましく、85質量%以上がさらに好ましい。また、後述するように、バインダー繊維を用いる場合は、不織布の強度の観点から耐熱性無機繊維は構成繊維中95質量%以下が好ましい。バインダー繊維を用いず、繊維以外のバインダー成分を用いる場合は、耐熱性無機繊維は構成繊維中100質量%とすることができる。
【0049】
耐熱無機繊維の繊維径は、不織布の強度、厚みの観点から、1~18μmが好ましい。繊維長は、不織布の強度等の観点から、1~30mmが好ましい。
【0050】
耐熱層を構成する不織布には、耐熱性無機繊維のほか、耐熱性を有する有機繊維や、バインダー繊維を含んでもよい。これらの耐熱性を有する有機繊維及びバインダー繊維は、それぞれ例えば特開2021-96935号公報に記載のフィブリル化耐熱繊維及び湿熱接着性バインダー繊維を用いることができる。
【0051】
フィブリル化耐熱繊維としては、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリ-p - フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ- p - フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリテトラフルオロエチレン等の耐熱性樹脂からなるフィブリル化繊維が用いられる。これらの中でも、親水性が高く、フィブリル化しやすい全芳香族ポリアミドが好ましい。フィブリル化耐熱性繊維において、質量加重平均繊維長は、0.02mm以上1.50mm以下であることが好ましい。また、長さ加重平均繊維長は、0.02mm以上1.00mm以下であることが好ましい。フィブリル化耐熱性繊維の平均繊維幅は、0.5μm以上40.0μm以下が好ましく、3.0μm以上35.0μm以下がより好ましく、5.0μm以上30.0μm以下がさらに好ましい。不織布に含まれる全構成繊維に対するフィブリル化耐熱繊維の含有率は、2質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0052】
湿熱接着性バインダー繊維とは、湿潤状態において、ある温度で繊維状態から流動、又は容易に変形して接着機能を発現する繊維のことをいう。具体的には、熱水(例えば、80~120℃程度)で軟化して自己接着、又は他の繊維に接着可能な熱可塑性繊維であり、例えば、ポリビニル系繊維(ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなど)、セルロース系繊維(メチルセルロースなどのC1-3アルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのヒドロキシC1-3アルキルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシC1-3アルキルセルロース、又はその塩など)、変性ビニル系共重合体からなる繊維(イソブチレン、スチレン、エチレン、ビニルエーテルなどのビニル系単量体と、無水マレイン酸などの不飽和カルボン酸、又は、その無水物との共重合体、又はその塩など)などが挙げられる。これらのうち、ポリビニル系繊維が好ましく、ポリビニルアルコール(PVA)繊維がより好ましい。また、PVA繊維は、架橋性官能基を有するモノマーで変性されたPVA繊維、或いは、架橋剤を用いて紡糸時、或いは、紡糸後に温和な条件下で架橋を行ったPVA繊維が好ましく、シラノール変性PVA繊維がより好ましい。
【0053】
湿熱接着性バインダー繊維の繊度は、0.1~5.6デシテックスが好ましく、繊維長は、1~15mmが好ましい。不織布に含まれる全構成繊維に対する湿熱接着性バインダー繊維の含有率は、3質量%以上20質量%以下が好ましい。
【0054】
耐熱層を構成する不織布には、前述の無機繊維、耐熱性を有する有機繊維及びバインダー繊維以外に、必要に応じて、性能を阻害しない範囲で、他の繊維が含まれてもよい。このような繊維としては、レーヨン、キュプラ、リヨセル繊維等の再生繊維;アセテート、トリアセテート、プロミックス等の半合成繊維;ポリオレフィン系、ポリアミド系、ポリアクリル系、ビニロン系、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル系、ベンゾエート系、ポリクラール、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、これらの誘導体等の合成樹脂繊維が挙げられる。
【0055】
耐熱層を構成する不織布は、後述する無機粒子層を形成しない状態において、厚みは0.1~2.0mmが好ましく、また、密度は0.07~0.3g/cmが好ましい。厚みは、例えば定圧ノギスにより測定することができる。密度は、例えば、目付と厚みから算出することができる。
【0056】
耐熱層を構成する不織布は、後述する無機粒子層を形成しない状態のもの(以下、基材と称する場合がある。)において、衝撃吸収不織布層を構成する不織布と同様に、JIS L0222に定義されているもののほか、抄紙などの紙状のもの、フェルト状のものを含み、前述のように公知の方法で得ることができる。
【0057】
耐熱層を構成する不織布は、耐火性向上の観点から、無機粒子層を有するのが好ましい。このような無機粒子層は、例えば、特開2021-96935号公報に記載のように、無機粒子と無機バインダーを含有している層により構成することができる。この無機粒子層は、基材を構成する構成繊維の表面全体を被覆する被覆層と、基材の少なくとも片方の表面を完全に覆った断熱層とを有する。
【0058】
無機粒子としては、不定形シリカ等の珪素酸化物、αアルミナ、γアルミナ等のアルミナ;ベーマイト等のアルミナ水和物;ダイアスポア、ギプサイト等のアルミニウム酸化物及びその水和物、アルミナ-シリカ複合酸化物、カオリン、焼成カオリン、タルク、天然雲母等の粘土鉱物、合成雲母、チタン酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、二水和石膏、及びアルミン酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン等が挙げられる。
【0059】
無機バインダーとしては、例えば、セピオライト、コロイダルシリカ、水ガラス、アルミナゾル、ベントナイトなどが挙げられる。無機バインダーは、1種単独で使用しても良いし、2種以上組み合わせて使用しても良い。無機粒子層に含まれる無機バインダーの含有率は、無機粒子の総量に対して、2質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0060】
無機粒子層の含有率は、「無機粒子層の塗工量(g/m)/基材坪量(g/m)×100」で算出される値で、90質量%以上が好ましい。
【0061】
基材に対して無機粒子層を形成する場合、例えば、無機粒子と無機バインダーを含む無機粒子層形成用塗工液を調製し、この塗工液を用いて公知の含浸、塗工装置により基材に塗工液を含浸させ乾燥後、その表面にさらに塗工液を塗布して乾燥させることで基材に無機粒子層を形成することができる。塗工液に使用可能な溶剤としては、無機バインダーや無機粒子を均一に溶解又は分散できるものであれば特に限定されない。例えば、トルエン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、イソプロピルアルコール等のアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、水等が挙げられる。
【0062】
無機粒子層には、前記無機粒子及び無機バインダーの他に、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の各種分散剤、塗工液の液安定性を増すため、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキサイド等の各種増粘剤、各種保水剤、各種の濡れ剤、防腐剤、消泡剤等の各種添加剤を、必要に応じて添加することもできる。
【0063】
無機粒子層を形成した場合の耐熱層を構成する不織布(耐熱層)の密度は、可撓性及び断熱性を両立する観点から、0.4~0.8g/cmが好ましい。また、無機粒子層を形成した場合の耐熱層を構成する不織布(耐熱層)の厚みは、耐熱層の機能を発揮し、例えばバッテリーケースの内側の限られた空間に設置可能とする観点から、0.1~2.0mmであるのが好ましく、0.1~1.0mmであるのがより好ましい。厚みは、例えば定圧ノギスにより測定することができる。
【0064】
耐熱層を構成する不織布は、市販のものを使用することができ、例えば、三菱製紙株式会社製のバリファイヤGPシリーズ、オリベスト株式会社製のネオベスト等が挙げられる。
【0065】
耐熱シートは、定法に従って製造することができる。例えば、衝撃吸収不織布層を構成する不織布、耐熱層を構成する不織布、及び、衝撃吸収接着層を準備し、この衝撃吸収接着剤層を両不織布の間に配置させ、必要に応じて加熱及び/又は加圧下で、接着層を介して両不織布を接合させ、衝撃吸収不織布層、衝撃吸収接着層及び耐熱層がこの順で積層した耐熱シートが得られる。衝撃吸収接着層が複合シートの粘着型接着剤の場合は、各不織布と複合シートを連続的に搬送しながら、必要に応じて加熱及び/又は加圧が可能な加熱加圧装置に供給しながら複合シートの接着層により両不織布を接合して、3層の積層体を得ることができる。このような加熱加圧装置としては、例えば、特開2009-28730号公報に記載のものが挙げられる。
【0066】
耐熱シートの厚みは、衝撃吸収性、耐熱性の観点、バッテリーケースの内側の限られた空間に設置可能にする観点から、1.5~4.0mmが好ましい。このように厚みが小さい場合でも、耐熱シートは、(1)前述良好な耐衝撃性を有しており、例えば後述する実施例の欄に記載のブラスト試験において噴出物により貫通穴が生じることがない、(2)良好な耐火性を有しており、例えば後述する実施例の欄に記載の燃焼試験において、火炎によって貫通穴が生じることがない、という優れた特性を有する。
【0067】
以上のような耐熱シートは、所定の層を備えるため、所定の形状に沿って連続して配置することができる。また、耐熱層は可撓性とともに優れた耐熱性、耐火性を有し、衝撃吸収層は可撓性とともに優れた衝撃吸収性を有するため、特にリチウムイオン二次電池を収容するバッテリーケースの内側に設置することで、あるセルが熱暴走した時に、他の隣接するセルに熱暴走が伝播するのを抑制したり、仮にセルの爆発が発生した場合でも、セルの破片が飛散することを防止することができる。つまり、以上のような耐熱シートは、電池、特に複数のセルで構成されるリチウムイオン二次電池を収容するバッテリーケースの内側に設けられるものとして、好適である。さらに、自動車などの輸送機に設けられるリチウムイオン二次電池のバッテリーケース用としてより好適である。
【0068】
以下では、図面を参照し、実施形態に係る耐熱シートを用いたバッテリーケースの実施形態の一例について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る耐熱シート1の断面構造を模式的に示した断面図である。図2は、図1に示す断面構造の耐熱シート1が設けられるバッテリーケース2に、複数の電池(セル)3を収容する際の、耐熱シート1の配置を説明するための斜視図である。図3は、図2に示すバッテリーケース2に複数の電池(セル)が収容された時の状態を示した断面図である。
【0069】
図1に示す耐熱シート1は、衝撃吸収層10と耐熱層13の積層体であり、図2に示すようにシート状の構造を有し、バッテリーケース2の内側の構造に合わせて折り曲げることが可能な可撓性を有する。衝撃吸収層10は、耐熱層13に近接する側から順に衝撃吸収接着層11、衝撃吸収不織布層12が形成されている。耐熱層10、衝撃吸収層11、衝撃吸収不織布層12は前述の構成を有する。
【0070】
図2、3に示すバッテリーケース2は、収容体20と蓋体21とを有する筐体2aと、筐体2aの内側に設けられた耐熱シート1とを備える。本実施形態では、収容体20は、開口部22を有し、端子30を有する複数の電池3を内側に収容可能となっており、また、蓋体21は、収容体20の開口部22に対して開閉可能に設けられている。筐体2aには蓋体21と収容体20とを一体化可能な固定具が設けられる。開口部22は、電池3を受け入れ可能な構造を有する。そして、収容体20に、端子30が蓋体21側を向くように複数の電池3を開口部22から収容し、公知の構成で保持した後、端子30が設けられている電池3の蓋体21に近接する側を耐熱シート1で覆うように配置して、さらに蓋体21を被せて、開口部22を蓋体21で覆い、バッテリーケース2の内側に複数の電池3を設置し、それらを筐体2に収容する。この際、耐熱シート1は、耐熱層13が電池3側、特に、電池3の端子30が設けられている側に面するように設けられるのが好ましい。耐熱シート1は、予め蓋体21の内側に設けられていてもよい。この場合、耐熱シート1は、衝撃吸収接着層を構成するような両面テープを介して蓋体21の内側に接合されてもよい。収容体20の内側に複数の電池3を配置する構成は、従来の構成を採用することができる。また、必要に応じて、複数の電池(セル)3のうち、隣接するセル3間に、耐熱層13がセル3側に面するように2つの耐熱シート1を重ね合わせて配置してもよい。またこの場合、全ての隣接するセル3間に設ける必要はなく、区分けしたモジュール間に設けてもよい。
【0071】
バッテリーケース2の筐体2aの内側に、耐熱シート1の耐熱層13側が電池3に面するように耐熱シート1が設けられているため、前述のように、電池(セル)3のうちの1つが熱暴走した場合でも、他の隣接するセルに熱暴走が伝播するのを抑制したり、仮にセルの爆発が発生した場合でも、セルの破片が飛散することを防止することができる。
【実施例0072】
以下、実施例に基づき本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0073】
(実施例1)
耐熱層として、耐熱ガラス繊維不織布(三菱製紙株式会社製、バリファイヤGP50-TR。無機粒子層が形成されている。Sガラス繊維を主な構成繊維とし、湿熱接着バインダー繊維、フィブリル化耐熱繊維を含む。基材としての不織布は湿式抄紙法により得られたものである。密度:0.68g/cm。厚み:0.16mm)、衝撃吸収不織布層として、ガラス繊維不織布(王子エフテックス株式会社製、グラスパーPGWY-270。Eガラス繊維の不織布。不織布は湿式抄紙法により得られたものである。密度:0.12g/cm。厚み:2.3mm。)、衝撃吸収接着層として、複合シート(日東電工株式会社製、No.5011N。両面テープであり、衝撃吸収シートが不織布、粘着層がアクリル系粘着剤で無機酸化物の難燃性材料を含む。厚み:0.15mm)を使用し、耐熱層、衝撃吸収接着剤層、衝撃吸収不織布層をこの順で重ね合わせ、0.3MPaで押圧しながら常温下で30秒間保持して各層を接合させ、耐熱シートを得た。耐熱シートの大きさは120mm×100mmとした。
【0074】
(実施例2)
耐熱層として、バリファイヤGP50-TRに替えて、三菱製紙株式会社製、バリファイヤGP100-TR(無機粒子層が形成されている。Sガラス繊維を主な構成繊維とし、湿熱接着バインダー繊維、フィブリル化耐熱繊維を含む。基材としての不織布は湿式抄紙法により得られたものである。密度:0.52g/cm。厚み:0.37mm。)を用いた以外は、実施例1と同様にして耐熱シートを得た。
【0075】
(実施例3)
衝撃吸収接着層として、No.5011Nに替えて、DIC株式会社製、ダイタック#8810NR-TD(両面テープであり、衝撃吸収シートが不織布、粘着層がアクリル系粘着剤で難燃性材料を含む。厚み:0.155mm)を使用した以外は実施例2と同様にして、耐熱シートを得た。
【0076】
(実施例4)
衝撃吸収接着層として、No.5011Nに替えて、株式会社寺岡製作所製、No.725F(両面テープであり、衝撃吸収シートが不織布、粘着層がアクリル系粘着剤で難燃性材料を含む。厚み:0.10mm)を使用した以外は実施例2と同様にして、耐熱シートを得た。
【0077】
(実施例5)
衝撃吸収接着層として、No.5011Nに替えて、マクセル株式会社製、スリオンテープ No.5486(両面テープであり、衝撃吸収シートが紙(セルロース系繊維)製不織布、粘着層がアクリル系粘着剤である。厚み:0.14mm)を使用した以外は実施例2と同様にして、耐熱シートを得た。
【0078】
(実施例6)
耐熱層として、三菱製紙株式会社製、バリファイヤGP100-TR、衝撃吸収不織布層として、王子エフテックス株式会社製、グラスパーPGWY-270を用い、衝撃吸収接着層として、セメダイン株式会社製、スーパーXG(塗布型接着剤(樹脂)であり、変性シリコーン樹脂85%含有する樹脂成分を有効成分とする有機樹脂系の接着剤である。)2.32gを用い、耐熱層の一方の面の全体に均一になるように塗布し、衝撃吸収不織布層に塗布型接着剤を塗布した側に重ね合わせ、0.3MPaで押圧しながら常温で24時間放置して塗布型接着剤を硬化させ、耐熱シートを得た。耐熱シートの大きさは120mm×100mmとした。
【0079】
(実施例7)
耐熱層として、三菱製紙株式会社製、バリファイヤGP100-TR、衝撃吸収不織布層として、王子エフテックス株式会社製、グラスパーPGWY-270を用い、衝撃吸収接着層として、セメダイン株式会社製、EP001N(塗布型接着剤(樹脂)であり、エポキシ樹脂とシリコーン変性樹脂との混合物を有効成分とする有機樹脂系の接着剤である。)3.14gを用い、耐熱層の一方の面の全体に、均一になるように塗布し、衝撃吸収不織布層に塗布型接着剤を塗布した側に重ね合わせ、0.3MPaで押圧しながら常温で24時間放置して塗布型接着剤を硬化させ、耐熱シートを得た。耐熱シートの大きさは120mm×100mmとした。
【0080】
(比較例1)
耐熱層として、三菱製紙株式会社製、バリファイヤGP100-TR、衝撃吸収不織布層として、王子エフテックス株式会社製、グラスパーPGWY-270を用い、衝撃吸収接着層を設けず、耐熱層と衝撃吸収不織布層とを重ね合わせ、端部を金属クリップで挟んで固定することにより両者を連結して、耐熱シートを得た。耐熱シートの大きさは120mm×100mmとした。
【0081】
(比較例2)
耐熱層として、三菱製紙株式会社製、バリファイヤGP100-TR、衝撃吸収不織布層として、王子エフテックス株式会社製、グラスパーPGWY-270を用い、衝撃吸収接着層として、富士化学株式会社製、珪酸ソーダ3号(水ガラスである無機系接着剤)である。二酸化ケイ素:28~30重量%、酸化ナトリウム:9~10重量%、モル比(二酸化ケイ素/酸化ナトリウム):3.1~3.3、比重(20℃):1.39~1.42、固形分39重量%)3.11gを用い、耐熱層の一方の面の全体に、均一に塗布し、衝撃吸収不織布層に塗布型接着剤を塗布した側に重ね合わせ、100℃で24時間加熱して塗布型接着剤を固化し、耐熱シートを得た。耐熱シートの大きさは120mm×100mmとした。
【0082】
(評価)
<耐熱シートの厚みの測定及び衝撃吸収層の厚みの算出>
実施例及び比較例で得られた耐熱シートの厚みを、定圧ノギス(株式会社ミツトヨ製、定圧キャリパ TD25-20C、測定力0.5~1N)により測定した。
耐熱シートの厚みから既知の耐熱層の厚みを引いて衝撃吸収層の厚みを算出した。
【0083】
<引張試験>
<<試験サンプルの作製>>
JIS K6850に準拠して試験を行った。まず、図4に示す試験サンプルを作製した。図4に示すガラス繊維強化エポキシ樹脂製の板(100mm×25mm×3mm)を2枚用意し、それぞれ長手方向の一方の端部に図4に示すあて板(ガラス繊維強化エポキシ樹脂製、37.5mm×25mm×3mm)を接合してつかみ部分とした。一方の板の他方の端部(あて板を設けていない側の端から長手方向12.5mmの範囲)に各実施例及び比較例で用いた衝撃吸収接着層(両面テープ、塗布型接着剤)を設け、もう一方の板のあて板を設けていない側の端部を図4に示すように重ね合わせ、衝撃吸収接着層の構成に応じて下記の条件で圧着した。
(a)両面テープ:実施例1~5で使用
0.3MPaで押圧しながら、室温で24時間保持した。
(b)塗布型接着剤(樹脂):実施例6、7で使用
0.3MPaで押圧しながら、室温で24時間保持した。
(c)塗布型接着剤(水ガラス):比較例2で使用
0.3MPaで押圧しながら、100℃で24時間保持した。
【0084】
<<測定>>
得られた各試験サンプルについて、株式会社島津製作所製、オートグラフ AG-Xplusを用い、チャック間距離を112.5mmとし、引張速度を1.0mm/minとして、引張試験を行い、引張せん断強度と引張開始位置からの変位量を測定し、破断時の変位量を求めた。
【0085】
<耐ブラスト試験>
実施例及び比較例で得られた耐熱シートを120mm×100mmの大きさに裁断して試験サンプルを作製し、試験サンプルを鋼板(SUS304製、厚み:3mm)の上に設置してクリップで鋼板に固定し、ブラスト処理機(厚地鉄工株式会社製、アスコンブラストマシン 型式BA-2型)を用い、下記条件で耐ブラスト試験を行った。評価基準は以下のとおりである。
(1)試験条件
設定吐出圧力:0.5MPa
吐出口径:φ4mm
吐出口距離:試験サンプルの鉛直方向上側5mm、10mm、30mmの3水準
吐出物:特殊鋼(多角粒子、大きさ:125~425μm)
照射時間:30秒
(2)評価基準
◎:吐出口高さ5mmで吐出物が貫通しなかった
○:吐出口高さ5mmで吐出物が貫通したが10mmでは貫通しなかった
△:吐出口高さ10mmで吐出物が貫通したが30mmでは貫通しなかった
×:吐出口高さ30mmで吐出物が貫通した
【0086】
<燃焼試験>
実施例及び比較例で得られた各耐熱シートについて、下記条件で炎を照射して燃焼試験を行った。
(1)試験条件
(a)照射面:耐熱層
(b)設置方法:
各耐熱シートの長手方向の両端部をクリップで固定して、耐熱層が鉛直下側に面するように水平に設置し、耐熱シートの鉛直下側から炎を照射するようにガスバーナーを設置した。
(c)ガスバーナーの火炎口と耐熱シート(耐熱層)表面との距離:30mm
(d)炎が当たる部分の耐熱シートの温度:1100℃
(e)照射時間:10分
(2)評価基準
○:貫通穴が生じなかった
×:貫通穴が生じた
【0087】
各試験の結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
表1に示すように、所定の耐熱層及び衝撃吸収層を有する耐熱シートは、所定条件の耐ブラスト試験において吐出物が貫通せず、優れた耐衝撃性を有し、例えばリチウムイオン二次電池のバッテリーケース用として好適であることが分かる。
【符号の説明】
【0090】
1 耐熱シート
2 バッテリーケース
2a 筐体
3 電池(セル)
10 衝撃吸収層
11 衝撃吸収接着層
12 衝撃吸収不織布層
13 耐熱層
20 収容体
21 蓋体
22 開口部
30 端子
図1
図2
図3
図4