IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

特開2024-91067中間体化合物の製造方法、配位子の製造方法、および四級不斉炭素含有化合物の製造方法
<>
  • 特開-中間体化合物の製造方法、配位子の製造方法、および四級不斉炭素含有化合物の製造方法 図1
  • 特開-中間体化合物の製造方法、配位子の製造方法、および四級不斉炭素含有化合物の製造方法 図2
  • 特開-中間体化合物の製造方法、配位子の製造方法、および四級不斉炭素含有化合物の製造方法 図3
  • 特開-中間体化合物の製造方法、配位子の製造方法、および四級不斉炭素含有化合物の製造方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091067
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】中間体化合物の製造方法、配位子の製造方法、および四級不斉炭素含有化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/08 20060101AFI20240627BHJP
   C07C 69/612 20060101ALI20240627BHJP
   C07C 67/30 20060101ALI20240627BHJP
   C07B 53/00 20060101ALI20240627BHJP
   B01J 27/08 20060101ALI20240627BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20240627BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240627BHJP
【FI】
C07D207/08
C07C69/612 CSP
C07C67/30
C07B53/00 G
B01J27/08 Z
B01J31/22 Z
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207352
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 務
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BA42A
4G169BB08B
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD02A
4G169BD02B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD06A
4G169BD06B
4G169BD13B
4G169BE20A
4G169BE20B
4G169BE36A
4G169BE36B
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169CB02
4G169CB25
4G169CB57
4G169CB62
4G169CB68
4G169CB70
4G169DA02
4H006AA02
4H006AB84
4H006AC41
4H006AC81
4H006BA07
4H006BE23
4H006FE11
4H039CA60
4H039CF30
(57)【要約】      (修正有)
【課題】製造コストを低減できる中間体化合物の製造方法の提供。
【解決手段】例えば、第1の原料化合物として5-メチルサリチル酸メチルを用い、ハロゲン化水素、およびホルムアルデヒドを、酸触媒の存在下、20℃以上100℃以下で反応させて、第2の原料化合物を合成する第1の反応工程と、合成した第2の原料化合物と第3の原料化合物とを、20℃以上150℃以下で反応させて、第4の原料化合物(中間体化合物)を合成する第2の反応工程と、を含む製造方法である。

【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、
は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
で表される第1の原料化合物、ハロゲン化水素、およびホルムアルデヒドを、酸触媒の存在下、20℃以上100℃以下で反応させて、
下記式(2):
【化2】
(式(2)中、RおよびRは、式(1)と同様であり、
Xはハロゲン原子を示す。)
で表される第2の原料化合物を合成する第1の反応工程と、
前記第2の原料化合物と、下記式(3):
【化3】
(式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示す。)
で表される第3の原料化合物とを、20℃以上150℃以下で反応させて、
下記式(4):
【化4】
(式(4)中、RおよびRは、式(1)と同様であり、RおよびRは、式(3)と同様である。)
で表される第4の原料化合物を合成する第2の反応工程と、
を含む、中間体化合物の製造方法。
【請求項2】
前記第2の反応工程における副生成物の収率が、20%以下である、請求項1に記載の中間体化合物の製造方法。
【請求項3】
前記第4の原料化合物と、有機ハロゲン化合物とを、有機リチウム化合物の存在下で反応させて、
下記式(5):
【化5】
(式(5)中、RおよびRは、式(3)と同様であり、
およびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示す。)
で表される化合物を合成する第3の反応工程、
を含む、配位子の製造方法。
【請求項4】
前記式(5)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示し、
およびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示す、請求項3に記載の配位子の製造方法。
【請求項5】
前記配位子が、亜鉛触媒用である、請求項3に記載の配位子の製造方法。
【請求項6】
前記有機リチウム化合物が、ブチルリチウムである、請求項3に記載の配位子の製造方法。
【請求項7】
下記式(6):
【化6】
(式(6)中、R11およびR12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を示し、
13およびR14は、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示し、但し、R13およびR14は同一の官能基ではない。)
で表される化合物を、請求項3に記載の式(5)で表される化合物を配位子とする亜鉛触媒および還元剤の存在下で部分還元反応を行い、
下記式(7):
【化7】
(式(7)中、R11、R13およびR14は、式(6)と同様である)
で表される四級不斉炭素含有化合物を合成する反応工程を含む、四級不斉炭素含有化合物の製造方法。
【請求項8】
前記還元剤が、金属水素化物である、請求項7に記載の四級不斉炭素含有化合物の製造方法。
【請求項9】
前記金属水素化物が、トリアルコキシシラン、水素化ホウ素ナトリウム、および水素化トリブチルスズからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項8に記載の四級不斉炭素含有化合物の製造方法。
【請求項10】
前記四級不斉炭素含有化合物の光学純度が、80%ee以上である、請求項7に記載の四級不斉炭素含有化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間体化合物を製造する方法に関する。また、本発明は、当該中間体化合物を用いて、触媒用の配位子を製造する方法に関する。さらに、本発明は、当該配位子を有する触媒を用いた四級不斉炭素含有化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光学活性な化合物は、片方のエナンチオマーのみが有用あるいは有害であることがあり、光学異性体を含まないキラルな化合物として合成する必要がある。その合成方法の1種として触媒を用いた不斉合成反応があり、様々な触媒が検討されてきた。
【0003】
また、目的の四級不斉炭素含有化合物を得るためには、化合物の光学状態を保持したままで反応工程を進めることが要求される。例えば、非特許文献1では、マロン酸ジエチル原料をトリターシャリーブトキシアルミニウムリチウム触媒で部分還元する反応方法が開示されているが、片方のエステルをアルコールに還元する際に要望する光学状態が保持できずにラセミ状態となることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters(1999),40(30),5467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、四級不斉炭素含有化合物の合成反応に使用可能な触媒用配位子およびその中間体化合物を効率的に製造する方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の化合物を配位子とした触媒を用いた不斉合成反応によって、選択的かつ効率的に四級不斉炭素含有化合物を合成できることを見出した。また、当該配位子およびその中間体化合物の効率的な製造方法を見出した。本発明者は、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 下記式(1):
【化1】
(式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、
は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
で表される第1の原料化合物、ハロゲン化水素、およびホルムアルデヒドを、酸触媒の存在下、20℃以上100℃以下で反応させて、
下記式(2):
【化2】
(式(2)中、RおよびRは、式(1)と同様であり、
Xはハロゲン原子を示す。)
で表される第2の原料化合物を合成する第1の反応工程と、
前記第2の原料化合物と、下記式(3):
【化3】
(式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示す。)
で表される第3の原料化合物とを、20℃以上150℃以下で反応させて、
下記式(4):
【化4】
(式(4)中、RおよびRは、式(1)と同様であり、RおよびRは、式(3)と同様である。)
で表される第4の原料化合物を合成する第2の反応工程と、
を含む、中間体化合物の製造方法。
[2] 前記第2の反応工程における副生成物の収率が、20%以下である、[1]に記載の中間体化合物の製造方法。
[3] 前記第4の原料化合物と、有機ハロゲン化合物とを、有機リチウム化合物の存在下で反応させて、
下記式(5):
【化5】
(式(5)中、RおよびRは、式(3)と同様であり、
およびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示す。)
で表される化合物を合成する第3の反応工程、
を含む、配位子の製造方法。
[4] 前記式(5)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示し、
およびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示す、[3]に記載の配位子の製造方法。
[5] 前記配位子が、亜鉛触媒用である、[3]または[4]に記載の配位子の製造方法。
[6] 前記有機リチウム化合物が、ブチルリチウムである、[3]~[5]のいずれかに記載の配位子の製造方法。
[7] 下記式(6):
【化6】
(式(6)中、R11およびR12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を示し、
13およびR14は、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示し、但し、R13およびR14は同一の官能基ではない。)
で表される化合物を、請求項3に記載の式(5)で表される化合物を配位子とする亜鉛触媒および還元剤の存在下で部分還元反応を行い、
下記式(7):
【化7】
(式(7)中、R11、R13およびR14は、式(6)と同様である)
で表される四級不斉炭素含有化合物を合成する反応工程を含む、四級不斉炭素含有化合物の製造方法。
[8] 前記還元剤が、金属水素化物である、[7]に記載の四級不斉炭素含有化合物の製造方法。
[9] 前記金属水素化物が、トリアルコキシシラン、水素化ホウ素ナトリウム、および水素化トリブチルスズからなる群から選択される少なくとも1種である、[7]または[8]に記載の四級不斉炭素含有化合物の製造方法。
[10] 前記四級不斉炭素含有化合物の光学純度が、80%ee以上である、[7]~[9]のいずれかに記載の四級不斉炭素含有化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、四級不斉炭素含有化合物の合成反応に使用可能な触媒用配位子およびその中間体化合物を効率的に製造する方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該配位子を有する触媒を用いて、効率的から選択的に四級不斉炭素含有化合物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で得られた中間体化合物のH-NMRスペクトルである。
図2】実施例1で得られた配位子のH-NMRスペクトルである。
図3】実施例2で得られた四級不斉炭素含有化合物H-NMRスペクトルである。
図4】実施例2で得られた四級不斉炭素含有化合物の13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[中間体化合物の製造方法]
本発明による中間体化合物の製造方法は、第1の反応工程と、第2の反応工程とを含むものである。本発明による中間体化合物の製造方法は、第1の反応工程の後に精製工程をさらに含んでもよい。以下、各工程について詳述する。
【0011】
(第1の反応工程)
第1の反応工程では、下記式(1):
【化8】
(式(1)中、Rは、ハロゲン原子で置換されてもよい炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~6のアルキル基で置換されたアミノ基を示し、
は、炭素数1~6のアルキル基を示す。)
で表される第1の原料化合物、ハロゲン化水素、およびホルムアルデヒドを、酸触媒の存在下で反応させて、下記式(2):
【化9】
(式(2)中、RおよびRは、式(1)と同様であり、
Xはハロゲン原子を示す。)
で表される第2の原料化合物を合成する。
【0012】
上記式(1)中、Rは、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、または炭素数1~4のアルキル基で置換されたアミノ基を示す。Rは、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示し、より好ましくは炭素数1~2のアルキル基を示す。
【0013】
上記式(1)で表される第1の原料化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。下記式中、Meはメチル基を示し、Etはエチル基を示し、tBuはターシャリーブチル基を示す(以下、他の化学式の記載においても同様である)。第1の原料化合物は、1種単独でも用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化10】



【0014】
第1の反応工程で用いるハロゲン化水素としては、例えば、臭化水素、塩化水素、およびヨウ化水素等が挙げられる。これらの中でも、臭化水素を用いることが好ましい。
【0015】
第1の反応工程で用いる酸触媒としては、例えば、硫酸、塩酸等が挙げられる。これらの中でも、硫酸を用いることが好ましい。
【0016】
第1の反応工程は、不活性ガス(窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下で行ってもよい。
反応温度は、好ましくは20℃以上100℃以下であり、より好ましくは30℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上80℃以下である。
反応時間は、特に制限されないが、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは2時間以上36時間以下であり、さらに好ましくは3時間以上24時間以下であり、さらにより好ましくは4時間以上12時間以下である。
【0017】
上記式(2)中、RおよびRの好ましい態様は、上記式(1)と同様である。
Xとしては、臭素原子、塩素原子、およびヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、好ましくは臭素原子である。
【0018】
上記式(2)で表される第2の原料化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化11】









【0019】
(精製工程)
精製工程では、上記の第1の反応工程で得られた上記式(2)で表される第2の原料化合物および酸触媒等を含む反応溶液を精製して、第2の原料化合物を単離する工程である。精製工程の精製手段は、特に限定されず、従来公知の精製手段を用いることができる。精製手段としては、例えば、減圧ろ過、再結晶、分液、カラムクロマト精製および溶媒留去等が挙げられる。
【0020】
(第2の反応工程)
第2の反応工程では、第1の反応工程で得られた上記式(2)で表される第2の原料化合物と、下記式(3):
【化12】
(式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示す。)
で表される第3の原料化合物とを反応させて、
下記式(4):
【化13】
(式(4)中、RおよびRは、式(1)と同様であり、RおよびRは、式(3)と同様である。)
で表される第4の原料化合物を合成する。
【0021】
上記式(3)中、RおよびRは、それぞれ独立して、好ましくは置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示し、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基で置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示し、さらに好ましくは炭素数1~2のアルコキシ基で置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示す。芳香族炭化水素基としては、アリール基およびアラルキル基等が挙げられる。なお、アリール基には、単環芳香族炭化水素基だけでなく、多環芳香族炭化水素基も含まれる。
【0022】
上記式(3)で表される第3の原料化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。第3の原料化合物は、1種単独でも用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化14】
【0023】
第2の反応工程では、反応を促進するために、炭酸塩を触媒として添加してもよい。反応触媒としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、炭酸カリウムを用いることが好ましい。
【0024】
第2の反応工程では、第2の原料化合物と第3の原料化合物の物質量モル比は、好ましくは1:1~1:10であり、より好ましくは1:1.5~1:5.0であり、さらに好ましくは1:1.7~1:3.0であり、最も好ましくは1:2.0~1:2.5である。第2の原料化合物と第3の原料化合物の物質量モル比を調節することで、第2の反応工程の反応効率を向上させることができる。
【0025】
第2の反応工程は、不活性ガス(窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下で行ってもよい。
反応温度は、好ましくは20℃以上150℃以下であり、より好ましくは20℃以上100℃以下であり、さらに好ましくは20℃以上80℃以下である。
反応時間は、特に制限されないが、好ましくは1時間以上48時間以下、より好ましくは2時間以上36時間以下であり、さらに好ましくは3時間以上24時間以下であり、さらにより好ましくは4時間以上12時間以下である。
【0026】
上記式(4)中、RおよびRの好ましい態様は、上記式(1)と同様であり、RおよびRの好ましい態様は、上記式(3)と同様である。
【0027】
上記式(4)で表される第4の原料化合物(中間体化合物)の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化15】




上記式中、Arは上記式(3)と同様である。
【0028】
第2の反応工程では、第2の原料化合物の種類、第3の原料化合物の種類、およびそれらの物質量比等を調節することにより、反応効率を向上させ、副生成物の収率を抑制することができる。第2の反応工程では、第4の原料化合物(中間体化合物)の収率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上である。また、第2の反応工程における副生成物の収率は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、さらに好ましくは10%以下である。第2の反応工程では、原料化合物(中間体化合物)の収率を向上させながら、副生成物の収率を抑制することで、第2の反応工程の後の精製工程を簡略ないし省略することもできる。
【0029】
[配位子の製造方法]
本発明による配位子の製造方法は、第3の反応工程とを含むものである。本発明による配位子の製造方法は、第3の反応工程の後に精製工程をさらに含んでもよい。以下、各工程について詳述する。
【0030】
(第3の反応工程)
第3の反応工程では、第2の反応工程で得られた上記式(4)で表される第4の原料化合物(中間体化合物)と、有機ハロゲン化合物とを、有機リチウム化合物の存在下で反応させて、
下記式(5):
【化16】
(式(5)中、RおよびRは、式(3)と同様であり、
およびRは、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示す。)
で表される化合物を合成する。
【0031】
第3の反応工程で用いる有機ハロゲン化合物としては、有機臭素化物、有機塩化物、および有機ヨウ化物等が挙げられる。有機物の構造としては、上記式(5)中、RおよびRの化学構造を与えられる物であれば、特に限定されない。
【0032】
第3の反応工程で用いる有機リチウム化合物としては、アルキルリチウムを用いることが好ましい。アルキルリチウムのアルキル基の炭素数は、好ましくは1~6であり、より好ましくは1~4である。アルキル基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。アルキルリチウムとしては、例えば、メチルリチウム、ブチルリチウム(n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム)が挙げられる。ブチルリチウムの中でも、反応性の観点から、n-ブチルリチウムを用いることが好ましい。
【0033】
第3の反応工程は、不活性ガス(窒素;ヘリウム、アルゴンなどの希ガスなど)雰囲気下で行ってもよい。
反応温度は、好ましくは-100℃以上100℃以下であり、より好ましくは-80℃以上90℃以下であり、さらに好ましくは0℃以上80℃以下である。
反応時間は、特に制限されないが、好ましくは10分間以上12時間以下、より好ましくは20分間以上6時間以下であり、さらに好ましくは30分間以上3時間以下である。
【0034】
上記式(5)中、RおよびRの好ましい態様は、上記式(3)と同様である。
およびRは、それぞれ独立して、好ましくは置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示し、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基で置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示し、さらに好ましくは炭素数1~2のアルコキシ基で置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示す。芳香族炭化水素基としては、アリール基およびアラルキル基等が挙げられる。なお、アリール基には、単環芳香族炭化水素基だけでなく、多環芳香族炭化水素基も含まれる。
【0035】
上記式(5)で表される配位子の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。第1の原料化合物は、1種単独でも用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化17】




上記式中、Arは上記式(3)と同様である。
上記式中、Arは下記式で表される。
【化18】
【0036】
第3の反応工程では、上記式(5)で表される化合物(配位子)の収率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上である。第3の反応工程では、反応条件を適宜調節することで、収率を向上させることができる。
【0037】
(精製工程)
精製工程では、上記の第3の反応工程で得られた上記式(2)で表される第2の原料化合物および酸触媒等を含む反応溶液を精製して、第2の原料化合物を単離する工程である。精製工程の精製手段は、特に限定されず、従来公知の精製手段を用いることができる。精製手段としては、例えば、減圧ろ過、再結晶、分液、カラムクロマト精製および溶媒留去等が挙げられる。
【0038】
本発明の製造方法により得られた配位子は、触媒用として好適であり、特に、亜鉛触媒用として好適である。
【0039】
[四級不斉炭素含有化合物の製造方法]
本発明による四級不斉炭素含有化合物の製造方法は、四級不斉炭素を含有するエステルを部分還元反応によって光学状態を保持したままで四級不斉炭素を含有するアルコールを合成する反応工程を含む。本発明による四級不斉炭素含有化合物の製造方法は、部分還元反応工程の後に精製工程をさらに含んでもよい。以下、各工程について詳述する。
【0040】
(部分還元反応工程)
部分還元反応工程では、下記式(6):
【化19】
(式(6)中、R11およびR12は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基を示し、
13およびR14は、それぞれ独立して、置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示し、但し、R13およびR14は同一の官能基ではない。)
で表される化合物を、上記式(5)で表される化合物を配位子とする亜鉛触媒および還元剤の存在下で部分還元反応を行い、
下記式(7):
【化20】
(式(7)中、R11、R13およびR14は、式(6)と同様である)
で表される四級不斉炭素含有化合物を合成する。
【0041】
上記式(6)中、R11およびR12は、それぞれ独立して、好ましくは炭素数1~4のアルキル基を示し、より好ましくは炭素数1~2のアルキル基を示す。
13およびR14は、それぞれ独立して、好ましくはハロゲン原子、炭素数1~4のアルコキシ基、またはエステル基で置換されてもよい炭素数1~12の炭化水素基を示す。炭化水素基としては、例えば、炭素数1~4のアルキル基や、炭素数6~12の芳香族炭化水素基等が挙げられる。芳香族炭化水素基としては、アリール基およびアラルキル基が挙げられる。なお、アリール基には、フェニル基等の単環芳香族炭化水素基だけでなく、ナフチル基等の多環芳香族炭化水素基も含まれる。
本発明の好ましい実施態様としては、例えば、上記式(6)中、R13が炭素数1~4のアルキル基を示し、R14がハロゲン原子、炭素数1~4のアルコキシ基、またはエステル基で置換されてもよい炭素数6~12の芳香族炭化水素基を示す化合物が挙げられる。
【0042】
上記式(6)で表される化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。当該化合物は、1種単独でも用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【化21】





【0043】
部分還元反応で用いる亜鉛触媒としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、亜鉛触媒としては、ジエチル亜鉛が好ましい。
【0044】
部分還元反応で用いる亜鉛触媒は、亜鉛と配位子の物質量モル比は、好ましくは1:1~3:1であり、より好ましくは1.5:1~2.5:1であり、さらに好ましくは1.9:1~2.1:1である。亜鉛と配位子の物質量モル比を調節することで、生成物(四級不斉炭素含有化合物)の光学純度を向上させることができる。
【0045】
部分還元反応で用いる還元剤は、好ましくは金属水素化物である。金属水素化物としては、トリアルコキシシラン、水素化ホウ素ナトリウム、および水素化トリブチルスズ等が挙げられる。トリアルコキシシランとしては、トリメトキシシランおよびトリエトキシシランが挙げられる。
【0046】
上記式(7)中、R11、R13およびR14の好ましい態様は上記式(6)と同様である。
【0047】
上記式(7)で表される四級不斉炭素含有化合物の好ましい実施形態としては、以下の化合物が挙げられる。
【化22】





【0048】
部分還元反応では、上記式(7)で表される四級不斉炭素含有化合物の収率は、好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上である。部分還元反応では、反応条件を適宜調節することで、収率を向上させることができる。
【0049】
部分還元反応で得られた上記式(7)で表される四級不斉炭素含有化合物の光学純度(%ee)は、好ましくは80%ee以上であり、より好ましくは85%ee以上であり、さらに好ましくは90%ee以上である。
なお、四級不斉炭素含有化合物の光学純度(%ee)は、下記式で算出することができる。
(A-A)/(A+A)×100
(式中、AおよびAはそれぞれ、鏡像異性体(S体、R体)のモル分率である)
【0050】
(精製工程)
精製工程では、上記の部分還元反応工程で得られた上記式(7)で表される四級不斉炭素含有化合物および亜鉛媒等を含む反応溶液を精製して、当該四級不斉炭素含有化合物を単離する工程である。精製工程の精製手段は、特に限定されず、従来公知の精製手段を用いることができる。精製手段としては、例えば、減圧ろ過、再結晶、分液、カラムクロマト精製および溶媒留去等が挙げられる。
【0051】
(溶媒)
本発明における上記の各反応工程では、反応に不活性な溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては、特に制限されず、慣用の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒;ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン、ジクロロペンタフルオロプロパン等の含フッ素有機溶媒等を用いることができる。これらの中でも、ベンゼン、トルエン、o-,m-,p-キシレン、メシチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF(テトラヒドロフラン)、ヘキサフルオロベンゼン、m-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、p-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、α,α,α-トリフルオロメチルベンゼン等、及びこれらの混合物が好ましい。
【実施例0052】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
<分析条件1>
下記で得られた中間体化合物および配位子の構造は以下の方法により分析した。
(1)中間体化合物および配位子の構造の分析は、後述する条件でH-NMRを用いて行った。
H-NMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
H-NMR測定条件:周波数400MHz、CDCl溶媒
・中間体化合物の検出ピーク(TMS内部基準):δ10.88(s,1H),7.58(d,2H),7.50(m,1H),7.42(d,2H),7.06(s,1H),6.79(m,4H),5.29(s,1H),3.92(m,1H),3.91(s,3H),3.75(s,3H),3.71(s,3H),3.33(m,2H),2.88(m,1H),2.43(m,1H),1.92-1.47(m,4H)
・配位子の検出ピーク(TMS内部基準):δ8.70(d,0.6H),8.64(d,0.4H),8.37(m,1H),7.86(m,4H),7.38(m,7H),7.32(m,2H),7.10(m,1H),6.78(s,0.4H),6.67(m,4H),6.63(m,2H),6.59(s,0.6H),6.06(s,1H),3.83(m,1H),3.73(m,6H),3.68(s,0.4H),3.55(d,0.6H),3.32(m,1H),3.12(s,0.4H),2.85(m,0.6H),2.43(m,1H),2.04(m,1H),1.99-1.35(m,4H)
【0054】
<分析条件2>
下記で得られた四級不斉炭素含有化合物の構造および光学純度(%ee)は以下の方法により分析した。
(1)四級不斉炭素含有化合物の構造の分析は、後述する条件でH-NMRおよび13C-NMRを用いて行った。
HNMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
H-NMR測定条件(TMS内部基準):周波数400MHz、CDCl溶媒
・四級不斉炭素含有化合物の検出ピーク:δ7.34(m,2H),7.29(m,3H),4.20(m,2H),4.05(dd,1H),3.62(dd,1H),2.53(m,1H),1.65(s,3H),1.22(t,3H)
13C-NMR条件)
・NMR測定装置:BRUKER JAPAN社製
13C-NMR測定条件:周波数100MHz、CDCl溶媒
・四級不斉炭素含有化合物の検出ピーク(TMS内部基準):δ176.1,140.6,128.6,127.3,126.2,69.8,61.1,52.6,20.0,14.0
(2)四級不斉炭素含有化合物の光学純度(%ee)は、後述する条件で光学HPLCを用いて行った。
(HPLC条件)
・HPLC装置:Agilent株式会社製、型番HP1260
・カラム:ダイセル株式会社製、CHIRALPAK ID-3カラム
・流速:1.0mL/分
・移動相:10%イソプロパノール/90%ヘキサン
・温度:35℃
・検出:UV230nm
【0055】
[実施例1]
<中間体化合物の合成>
ナスフラスコの中に、5-メチルサリチル酸メチル(第1の原料化合物)4.105g(1当量)、パラホルムアルデヒド1.113g(1.5当量)、および48%臭素化水素溶液30.813g(7.4当量)を加えて、特級硫酸を滴下しながら、70℃で8時間、下記の反応を行った(第1の反応工程、反応式I)。
【化23】
【0056】
続いて、得られた反応液について室温まで冷却して、結晶を析出させた。この結晶を水でかけ洗いしながら、減圧ろ過を行って、生成物(第2の原料化合物)を得た。第2の原料化合物の収率は44%であった。
【0057】
次に、ナスフラスコの中に、上記で得られた第2の原料化合物0.259g(2.1当量)、下記式で表される第3の原料化合物0.313g(1当量)、炭酸カリウム0.552g(4当量)、および溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミド4mLを加えて、室温(25℃)で9時間、下記の反応を行った(第2の反応工程、反応式II)。
【化24】
【0058】
続いて、得られた反応液に塩化アンモニウム水溶液を添加して反応を失活させた。その後、塩化メチレンを用いて溶媒抽出、次いで乾燥および溶媒留去を行って、生成物(第4の原料化合物)を得た。得られた生成物を上記の分析条件1でH-NMR測定を行い、図1に示すH-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、上記式の第4の原料化合物(中間体化合物)であることを確認した。第4の原料化合物(中間体化合物)の収率は88%であった。
【0059】
<配位子の合成>
ナスフラスコの中に、上記で得られた第4の原料化合物0.360g(1当量)、1-ブロモナフタレン1.213g(8当量)、15%n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液2.502g(8当量)、および溶媒としてテトラヒドロフラン15mLを加えて、-78℃から室温(25)℃まで上昇させた後、65℃で1時間、下記の反応を行った(第3の反応工程、反応式III)。
【化25】
【0060】
続いて、得られた反応液に塩化アンモニウム水溶液を添加して反応を失活させた。その後、酢酸エチルを用いて溶媒抽出を行って、溶媒抽出、次いで乾燥および溶媒留去を行って、生成物(配位子)を得た。得られた生成物を上記の分析条件1でH-NMR測定を行い、図2に示すH-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、上記式の配位子であることを確認した。中間体化合物の収率は89%であった。
【0061】
[実施例2]
<四級不斉炭素含有ジアリール化合物の合成>
まず、上記で得られた配位子21.6mg(0.1等量)、ジエチル亜鉛72.6mg(0.2等量)および脱水トルエンを混合し、触媒液を調製した。
次に、フラスコの中に、マロン酸ジエチル75.0mg(1等量)、トリメトキシシラン110.0mg(3等量)、および脱水トルエンを加えて混合した。その後、フラスコ内に上記で調製した触媒液を0℃で添加し、0℃で7時間、下記の不斉合成反応を行った。Ligandは上記で得られた配位子を示す。
【化26】
【0062】
続いて、得られた反応液にトリエチルアミン・3フッ化水素を添加して反応を失活させた。その後、ジエチルエーテル溶媒で反応物を希釈してから減圧ろ過を行った。そのろ過物を濃縮した後にカラムクロマト精製(展開液はヘキサン/酢酸エチル=2/1の混合液)を行って、生成物(四級不斉炭素含有化合物)を得た。得られた生成物を上記の分析条件2でH-NMR測定および13C-NMR測定を行い、図3に示すH-NMRスペクトルおよび図4に示す13C-NMRスペクトルを得た。スペクトル解析の結果、上記式の四級不斉炭素含有化合物であることを確認した。四級不斉炭素含有化合物の収率は88%であった。
【0063】
また、得られた四級不斉炭素含有化合物を上記の分析条件2で光学HPLC分析を行った結果、光学純度は92%eeであった。
【0064】
[比較例1]
実施例2において亜鉛触媒を含む触媒液の代わりにアルミニウム触媒(トリターシャリーブトキシアルミニウムリチウム)を添加し、THF溶媒下で合成を行った以外は、同様にして反応を行った。
【0065】
得られた四級不斉炭素含有化合物を実施例2と同様に分析した結果、光学純度は0%eeであった。

図1
図2
図3
図4