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▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091073
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】固形燃料の粉砕方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/44 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
C10L5/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207382
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】原田 道成
(72)【発明者】
【氏名】小野 顕
(72)【発明者】
【氏名】姉帶 一樹
【テーマコード(参考)】
4H015
【Fターム(参考)】
4H015AA13
4H015AB01
4H015BA01
4H015BB10
4H015CA03
4H015CB01
(57)【要約】
【課題】 本発明の課題は、物質収率や熱量収率が高く、リサイクルや環境保護の観点から、ハンドリングしやすく、輸送性が向上され、ミルでの粉砕性に優れる木材の粉砕物を成形物とした固形燃料を提供することである。
【解決手段】 木材の粉砕物を含む成形物から成る固形燃料を粉砕する工程において、該固形燃料をシリカ系化合物(好ましくはシリカ、コロイダルシリカ、石英、珪藻土、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、シリカ/アルミナ複合粒子、クレー、珪砂のいずれか1種以上)の存在下で粉砕する固形燃料の粉砕方法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材の粉砕物を含む成形物から成る固形燃料を粉砕する工程において、該固形燃料をシリカ系化合物の存在下で粉砕することを特徴とする固形燃料の粉砕方法。
【請求項2】
前記シリカ系化合物が、シリカ、コロイダルシリカ、石英、珪藻土、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、シリカ/アルミナ複合粒子、クレー、珪砂のいずれか1種以上である、請求項1に記載の固形燃料の粉砕方法。
【請求項3】
前記シリカ系化合物を固形燃料に対して0.005~3質量%添加する、請求項1または2に記載の固形燃料の粉砕方法。
【請求項4】
前記固形燃料が、直径5~15mm、長さ3~50mmの円柱状のペレットである、請求項1または2に記載の固形燃料の粉砕方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラーに供給される木材の粉砕物を含む成形物から成る固形燃料の粉砕方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料の枯渇化及びCO排出による地球温暖化への対策として、バイオマスを原料とする燃料の利用が検討されている。一般にバイオマスとは、エネルギー源又は工業原料として利用することのできる生物体をいい、代表的なものは木材、建築廃材、農産廃棄物等である。
【0003】
バイオマスを原料として固形燃料を製造する技術として、例えば、バイオマスを炭化して固体燃料を製造する方法が知られている。これは、バイオマスを炭化炉に投入して酸素欠乏雰囲気下で所定時間加熱して炭化処理し、固体燃料を製造するものである。このようにして製造された固体燃料は、発電設備や焼却設備等の燃焼設備の燃料に用いられるが、この場合、燃焼効率を向上させるために固体燃料を細かく粉砕して微粉燃料として用いることがある。
【0004】
特許文献1には、製材廃材、間伐材、庭木、建築廃材等の木質系バイオマスを240~300℃で15~90分間、熱分解した後に粉砕する方法が開示されている。また、特許文献2には穀類、実、種子を含むバイオマスを酸素濃度1~5%、処理温度350~400℃で30~90分間加熱して炭化処理することで、石炭と同等の粉砕性を有する固体燃料を製造する方法が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、木材チップを圧縮して脱水し、熱利用に供することが記載されており、特許文献4には、木材などの植物性材料を圧縮固化して固形燃料を製造することが記載されている。さらにまた、非特許文献1には、レシプロプレス機を用いてバークを圧縮脱水してボイラーなどにおいて熱利用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-026474号公報
【特許文献2】特開2009-191085号公報
【特許文献3】特開2008-036666号公報
【特許文献4】特開2010-189457号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】International Journal Energy Engineering, 2014年, volume 4, pages 8-16
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、木材などの植物性バイオマスを炭化して得られる燃料は、一般に、物質収率及び熱量収率が低いという問題がある。また、木材などのバイオマスを原料として固形燃料を製造する場合、バイオマスの運搬コストなどがかかるため、石炭などと比較するとコスト的にも問題があった。そのため、取り扱いや運搬を容易にするために木材の粉砕物をペレットのような成形物として固形燃料とすることが検討されている。しかしながら、ボイラーに投入する前にミルで粉砕する必要があるが、その際に粉砕性に問題があることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、木材の粉砕物を含む成形物からなる固形燃料のミルにおける粉砕性の改善を検討したところ、シリカ系化合物の存在下で、固形燃料の成形物を粉砕することによって、ミルでの粉砕性を顕著に改善できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
これに限定されるものではないが、本発明は、以下の態様を包含する。
(1) 木材の粉砕物を含む成形物から成る固形燃料を粉砕する工程において、該固形燃料をシリカ系化合物の存在下で粉砕することを特徴とする固形燃料の粉砕方法。
(2) 前記シリカ系化合物が、シリカ、コロイダルシリカ、石英、珪藻土、アルミナ、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、シリカ/アルミナ複合粒子、クレー、珪砂のいずれか1種以上である、(1)に記載の固形燃料の粉砕方法。
(3) 前記シリカ系化合物を固形燃料に対して0.005~3質量%添加する、(1)または(2)に記載の固形燃料の粉砕方法。
(4) 前記固形燃料が、直径5~15mm、長さ3~50mmの円柱状のペレットである、(1)または(2)に記載の固形燃料の粉砕方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、木材の粉砕物を含む成形物から成る固形燃料をミルで粉砕することを容易にすることが可能となる。すなわち、本発明によれば、ミルにおける粉砕性が改善されることにより、ボイラーへの燃料の供給や燃焼性が向上し、結果的に効率的な発電が可能となる。木質系バイオマスから簡便な方法で固形燃料を製造できるため、物質収率や熱量収率が高く、リサイクルや環境保護の観点からも本発明は極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、木材の粉砕物を含む成形物から成る固形燃料を粉砕する技術に関する。本発明においては、木材を原料として使用するが、木材を含んでいれば、その他に、草本類などを含んでいてもよい。木材としては、木材チップ、樹皮(バーク)、おが屑、鋸屑や林地残材、建設廃材などを挙げることができ、好ましい例としては、木材チップを原料として挙げることができる。本発明において木材の樹種は特に制限されず、広葉樹、針葉樹のいずれも使用できる。また、木材は一種類のみを使用してもよく、複数種類を混合して用いてもよい。また、本発明においては、木部だけでなく樹皮も原料として使用することができる。
【0013】
本発明で使用する広葉樹は特に制限されないが、例えば、アカシア、ユーカリ、パラゴムノキ、ブナ、シナ、シラカバ、ポプラ、ナラ、イタヤカエデ、センノキ、ニレ、キリ、ホオノキ、ヤナギ、セン、ウバメガシ、コナラ、クヌギ、トチノキ、ケヤキ、ミズメ、ミズキ、アオダモ等、が挙げられる。また、本発明で使用する針葉樹は特に制限されないが、例えば、スギ、エゾマツ、カラマツ、クロマツ、アカマツ、トドマツ、ヒメコマツ、イチイ、ネズコ、ハリモミ、イラモミ、イヌマキ、モミ、サワラ、トガサワラ、アスナロ、ヒバ、ツガ、コメツガ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤ、トウヒ、イエローシーダー(ベイヒバ)、ロウソンヒノキ(ベイヒ)、ダグラスファー(ベイマツ)、シトカスプルース(ベイトウヒ)、ラジアータマツ、イースタンスプルース、イースタンホワイトパイン、ウェスタンラーチ、ウェスタンファー、ウェスタンヘムロック、タマラック等、が挙げられる。
【0014】
本発明において、成形物とする前の木材は50mm以下のサイズに粉砕された粉砕物を使用することが好ましく、0.1~30mmのサイズのものを使用することが好ましい。なお、本発明において、粉砕物のサイズとは、篩い分け器の円形の穴の大きさによって篩い分けされたものである。木材を粉砕するための装置としては、ナイフ切削型バイオマス燃料用チッパーで粉砕処理することが好ましい。
【0015】
本発明の固形燃料は、上述のように木材を含むが、木材の重量比率は、例えば、50質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがさらに好ましく、90質量%以上としてもよい。また、一つの態様において、木材のみを原料として使用することも可能である。
【0016】
本発明において、得られた木材の粉砕物をブリケットやペレット状の成形物とするが、成形物の嵩密度(JIS K 2151の6「かさ密度試験方法」に従って測定)が600kg/m以上680kg/m以下が好ましく、620~670kg/mがより好ましく、630~660kg/mがさらに好ましい。成形物とすることにより、固形燃料として取り扱いを改善することができ、また、輸送コストを削減することができる。
【0017】
固形燃料の成形物は、円柱状のペレットの形体の場合は、直径5~15mm、長さ3~50mmとすることが好ましい。なお、成形物の直径は5~15mmの範囲であることが望ましく、6~13mmがより望ましく、7~11mmがさらに望ましい。
【0018】
本発明において、木材の粉砕物を成形物とするための成形装置は特に限定されていないが、ブリケッター(北川鉄工所製)、リングダイ式ペレタイザー(CPM製)、フラットダイ式ペレタイザー(ダルトン製)等が望ましい。
【0019】
本発明において、木材の粉砕物を成形物とする際には、木材の粉砕物の水分率を8~50%とすることが好ましく、9~30%がより好ましく、10~20%がさらに好ましい。水分が8%より少ないとブリケッターやペレタイザーの内部で閉塞が発生し、安定した成形物の製造ができない。水分率が50%を超えると成形することが困難で、粉体状またはペースト状で排出される。
【0020】
本発明の固体燃料の成形物は、機械的耐久性(木質ペレット品質規格 6.5機械的耐久性の試験方法に準拠)が95%以上であることが好ましく、この範囲の機械的耐久性であれば、輸送時に粉砕されて粉化しない十分な硬さを有している。機械的耐久性とはペレットの壊れにくさを示すもので、一定量の機械的衝撃を与えた際に壊れずに粉化しなかった質量割合である。より好ましい態様において本発明の固体燃料の成形物の機械的耐久性は97%以上である。
【0021】
本発明において、木材の粉砕物100質量部に対してバインダーを1~50質量部添加してもよい。バインダーは特に限定されていないが、有機高分子(リグニン、澱粉など)、無機高分子(アクリル酸アミドなど)、農業残渣(ふすま(小麦粉製造時に発生する残渣)など)等が望ましい。木質系バイオマスを効率よく有効利用することを目的としている観点から、バインダー添加部数は少ない方が望ましく、1~50質量部、より好ましくは1~20質量部が望ましい。ただし、50質量部以上添加しても高密度化が不可能であるというわけではない。
【0022】
本発明において、木材の粉砕物を含む成形物から成る固形燃料をボイラーに投入する前にミルにて粉砕する必要がある。固形燃料を粉砕する工程において、シリカ系化合物の存在下で粉砕することにより、粉砕性は改善される。シリカ系化合物としては、シリカ、コロイダルシリカ、石英、珪藻土、アルミナ、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸塩、シリカ/アルミナ複合粒子、クレー、カオリン、珪砂のいずれか1種以上である。シリカ系化合物を固形燃料に対して0.005~3質量%添加して粉砕することが好ましく、さらに好ましくは0.01~1質量%である。添加量が0.005質量%未満であると粉砕性の改善は不十分であり、3質量%を超えて添加しても粉砕性の改善は「打ちとなる。シリカ系化合物の好ましい平均粒径は、1nm~50μmである。
【0023】
本発明で得られる固体燃料は、ボイラー用燃料として用いられる。バイオマスボイラー用燃料として用いられる他、石炭と混焼することが可能であるので、石炭ボイラー用燃料としても好適である。
【実施例0024】
以下、実施例にて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。また、本明細書において、部、%などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0025】
[実施例1]
ベトナム産アカシアの皮付きチップをディスクチッパーにて粉砕処理した。粉砕後、15mmのスクリーンを通過したものを原料として、乾燥機で120℃、20分間乾燥処理を行い、水分を10%に調製した。得られた粉砕物の水分を12%に調整し、リングダイ式ペレタイザー(CPM社製、ダイ穴直径8mm、ダイ有効孔長52mm)を用いて高密度化処理を行い、固形燃料の成形物(ペレット)を得た。得られた固形燃料の成形物は、平均長25.8mm、平均径8.5mm、嵩密度651kg/m、機械的耐久性98.6%であった。これらの測定方法は下記に示した。
得られた固形燃料の成形物に対して固形分として0.0163%となるように濃度50%アルミノケイ酸塩スラリーを添加して、バイオマス専用ミル(IHI製バイオマスミル、Aミル)にて粉砕した。この粉砕物をバイオマスボイラーに投入して燃焼させた。この際のバイオマス専用ミルにおけるミル差圧、電力を計測した。
【0026】
・平均長、平均径: ISO17829:2015に従って測定した。
・嵩密度: ISO17829:2015に従って測定した。
・機械的耐久性: ISO17831:2015に従って測定した。
【0027】
[実施例2]~[実施例3]
バイオマス専用ミルを(IHI製バイオマスミル、Bミル)または(IHI製バイオマスミル、Cミル)に変更した以外は、実施例1と同様にバイオマスボイラーに投入して燃焼させた。
【0028】
[比較例1]~[比較例3]
アルミノケイ酸塩スラリーを添加しないでバイオマス専用ミルで粉砕した以外は、実施例1と同様にバイオマスボイラーに投入して燃焼させた。
【0029】
[比較例4]
アルミノケイ酸塩スラリーの代わりに水を添加してバイオマス専用ミルで粉砕した以外は、実施例1と同様にバイオマスボイラーに投入して燃焼させた。
【0030】
【表1】
【0031】
表1に示されるように、実施例1~3のアルミノケイ酸塩を添加して粉砕した場合、ミル電力が上昇した。これは、固形燃料の成形物を粉砕する際にミルの粉砕ローラへの食込みが向上したので、粉砕する際の電力が上昇するのである。また、ミル差圧は低下しており、このことも粉砕性が改善されたことを示している。すなわち、これらの結果より、アルミノケイ酸塩を添加することにより木材を含む固形燃料の成形物の粉砕性が改善されることが示された。