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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091076
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】転写装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20240627BHJP
   B23K 26/57 20140101ALI20240627BHJP
【FI】
H01L21/52 C
B23K26/57
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207386
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江川 航平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 達弥
(72)【発明者】
【氏名】陣田 敏行
(72)【発明者】
【氏名】風間 浩一
(72)【発明者】
【氏名】藤重 遥
(72)【発明者】
【氏名】新井 義之
【テーマコード(参考)】
4E168
5F047
【Fターム(参考)】
4E168AD18
4E168AE05
4E168CB04
4E168CB07
4E168DA25
4E168EA05
4E168EA15
4E168EA20
4E168JA14
5F047FA02
(57)【要約】
【課題】活性エネルギー線が照射された箇所が必要以上に密集することを防ぐことができる転写装置を提供する。
【解決手段】転写基板22へ活性エネルギー線11を照射することによって転写基板22が保持する素子21を被転写基板23へ転写する転写装置10であり、間欠的に活性エネルギー線11を出射するエネルギー出射部12と、転写基板22に対するエネルギー出射部12から出射された活性エネルギー線11の照射位置を制御する照射位置制御部15と、を備え、照射位置制御部15による転写基板22への活性エネルギー線11の照射位置の移動速度に応じて転写基板22への活性エネルギー線の照射時間間隔が調節される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写基板へ活性エネルギー線を照射することによって当該転写基板が保持する素子を被転写基板へ転写する転写装置であり、
間欠的に活性エネルギー線を出射するエネルギー出射部と、
前記転写基板に対する前記エネルギー出射部から出射された活性エネルギー線の照射位置を制御する照射位置制御部と、
を備え、
前記照射位置制御部による前記転写基板への活性エネルギー線の照射位置の移動速度に応じて前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が調節されることを特徴とする、転写装置。
【請求項2】
活性エネルギー線の照射位置の移動方向が変更されるときに、前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が比較的長く調節されることを特徴とする、請求項1に記載の転写装置。
【請求項3】
前記転写基板が保持する一つの素子の保持領域に対して照射位置を変更しながら複数回活性エネルギー線を照射することによって素子を前記被転写基板へ転写することを特徴とする、請求項1に記載の転写装置。
【請求項4】
前記エネルギー出射部による活性エネルギー線の出射時間間隔は調節可能であり、当該出射時間間隔が調節されることにより前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が調節されることを特徴とする、請求項1に記載の転写装置。
【請求項5】
前記エネルギー出射部から出射された活性エネルギー線が前記転写基板へ照射されることを阻止する照射阻止部をさらに有し、当該照射阻止部が作動することによって前記エネルギー出射部から出射された活性エネルギー線の一部を前記転写基板へ到達させなくすることにより、前記転写基板への前記活性エネルギー線の照射時間間隔を長くすることを特徴とする、請求項1に記載の転写装置。
【請求項6】
前記照射阻止部は音響光学素子であることを特徴とする、請求項5に記載の転写装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光エネルギーを転写基板に照射することにより素子を被転写基板へ転写する転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体チップはコスト低減のために小型化され、この小型化した半導体チップを高精度に実装するための取組みが行われている。この小型化したチップを高速で実装するにあたり、転写基板に接合されたチップの転写基板との接合面へレーザを照射することによってアブレーションを生じさせ、チップを転写基板から剥離、付勢させて被転写基板へと転写する、いわゆるレーザリフトオフなる手法が採用されている。
【0003】
特許文献1には、アブレーション技術を用いて素子を転写する素子の転写装置が開示されている。この素子の転写装置では、レーザビームを発生させるレーザ光源と、そのレーザ光源からのレーザビームを所要の方向に反射させる反射手段と、その反射手段と連動してレーザビームの照射及び非照射を制御する制御手段とを有するレーザ照射装置を用いて、転写基板上に複数配列された素子の一部に対してレーザビームを選択的に照射し、素子を保持する層のアブレーション(溶発)を発生させる。この選択的なアブレーションによって素子の一部が被転写基板上に転写される。すなわち、レーザリフトオフにより素子が転写基板から被転写基板へ転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-041500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で示される転写装置では、反射手段が折り返す動作をする場合など加減速状態となるときに転写基板上でレーザが照射された箇所が密集するおそれがあった。特に図7に示すように転写基板122における一つの素子121の保持領域に照射位置を変えながら複数のレーザ光111を照射することによって素子121の転写を行う場合、レーザが照射された箇所が密集する箇所において素子121がダメージを受け、素子121に割れなどが生じる可能性があるという問題があった。
【0006】
本願発明は、上記問題点を鑑み、活性エネルギー線が照射された箇所が必要以上に密集することを防ぐことができる転写装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の転写装置は、転写基板へ活性エネルギー線を照射することによって当該転写基板が保持する素子を被転写基板へ転写する転写装置であり、間欠的に活性エネルギー線を出射するエネルギー出射部と、前記転写基板に対する前記エネルギー出射部から出射された活性エネルギー線の照射位置を制御する照射位置制御部と、を備え、前記照射位置制御部による前記転写基板への活性エネルギー線の照射位置の移動速度に応じて前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が調節されることを特徴としている。
【0008】
本発明の転写装置によれば、加減速状態であるときのように転写基板への活性エネルギー線の照射位置の移動速度が比較的遅いときには前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が比較的長くなるよう調節されることにより、活性エネルギー線が照射された箇所が密集することを防ぐことができる。
【0009】
また、活性エネルギー線の照射位置の移動方向が変更されるときに、前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が比較的長く調節されると良い。
【0010】
このように活性エネルギー線の照射位置の移動方向が変更されるときには活性エネルギー線の照射位置の移動速度の減速が伴うため、そのときに活性エネルギー線が照射された箇所が密集することを防ぐことができる。
【0011】
また、前記転写基板が保持する一つの素子の保持領域に対して照射位置を変更しながら複数回活性エネルギー線を照射することによって素子を前記被転写基板へ転写する場合に本発明が好適に用いられる。
【0012】
また、前記エネルギー出射部による活性エネルギー線の出射時間間隔は調節可能であり、当該出射時間間隔が調節されることにより前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が調節されると良い。
【0013】
こうすることにより、加減速状態であるときの前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が長くなるようにすることができる。
【0014】
また、前記エネルギー出射部から出射された活性エネルギー線が前記転写基板へ照射されることを阻止する照射阻止部をさらに有し、当該照射阻止部が作動することによって前記エネルギー出射部から出射された活性エネルギー線の一部を前記転写基板へ到達させなくすることにより、前記転写基板への前記活性エネルギー線の照射時間間隔を長くすると良い。
【0015】
また、このとき前記照射阻止部は音響光学素子であると良い。
【0016】
こうすることにより、仮にエネルギー出射部からの活性エネルギー線の出射時間間隔が一定であっても、照射位置の移動速度が比較的遅いときの前記転写基板への活性エネルギー線の照射時間間隔が長くなるようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の転写装置により、活性エネルギー線が照射された箇所が必要以上に密集することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態における転写装置を説明する図である。
図2図1に示す転写装置による転写基板へのレーザ光の照射状態を表す図である。
図3図2に示す照射状態を形成させるための機器のデータ授受形態の例である。
図4】本発明の他の実施形態における転写装置を説明する図である。
図5図4に示す転写装置による転写基板へのレーザ光の照射状態を表す図である。
図6】レーザ光の照射スポットの軌跡の一例を表す図である。
図7】従来の転写装置による転写基板へのレーザ光の照射状態を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態における転写装置について、図1を参照して説明する。
【0020】
転写装置10は、レーザ光11を照射するレーザ出射部12、転写基板22を保持して少なくともX軸方向、Y軸方向に移動可能な転写基板把持部13、転写基板把持部13の下側にあって転写基板22と隙間を有して対向するように被転写基板23を保持する被転写基板把持部14、および図示しない制御部を備えており、転写基板22にレーザ光11を照射することによって転写基板でアブレーションを生じさせ、転写基板22から被転写基板23へ素子21を転写する。
【0021】
レーザ出射部12は、本発明におけるエネルギー出射部の一実施形態であり、活性エネルギー線であるエキシマレーザなどのレーザ光11を間欠的に出射する装置であり、転写装置10に固定して設けられる。本実施形態においては、レーザ出射部12はスポット状のレーザ光11を出射し、レーザ光11は、制御部により角度が調節されるガルバノミラー15およびfθレンズ16を介してX軸方向およびY軸方向の照射位置が制御され、転写基板把持部13に保持された転写基板22に複数配置されている素子21に選択的に照射する。レーザ光11が転写基板22を通して素子21近傍に入射することによって、転写基板22と素子21との間で活性エネルギー(光エネルギー)の付与によるアブレーションが生じ、このアブレーションによって素子21は付勢され、転写基板22から被転写基板23へ素子21が転写される。なお、本説明では素子21はたとえば半導体チップである。また、ガルバノミラー15のようにレーザ光11の照射位置を制御する部材を本説明では照射位置制御部とも呼ぶ。
【0022】
転写基板把持部13は開口を有し、転写基板22の外周部近傍を吸着把持する。転写基板把持部13に保持された転写基板22へこの開口を介してレーザ出射部12から発せられたレーザ光11を当てることができる。
【0023】
転写基板22は、ガラスなどを材料としてレーザ光11を透過することが可能な基板であり、下面側で素子21を保持する。また、この転写基板22の素子21を保持する面には図2(a)に示すようにリリース層24が形成されており、このリリース層24の表面は粘着性を有する。このリリース層24の表面の粘着力が素子21の保持力となり、素子21を粘着保持する。また、このリリース層24はレーザ光11が照射されることによりアブレーションが生じ、分解されてガス化することにより消失する。
【0024】
また、転写基板把持部13は図示しない移動機構により、少なくともX軸方向、Y軸方向に関して被転写基板把持部14に対して相対移動する。図示しない制御部がこの移動機構を制御し、転写基板把持部13の位置を調節することにより、転写基板22に保持された素子21の被転写基板23に対する相対位置を調節することができる。
【0025】
被転写基板把持部14は、上面に平坦面を有し、素子21の転写工程中、転写基板22のリリース層24およびリリース層24が保持する素子21と被転写基板23の被転写面が対向するように被転写基板23を把持する。この被転写基板把持部14の上面には複数の吸引孔が設けられており、吸引力により被転写基板23の裏面(素子21が転写されない方の面)を把持する。
【0026】
ここで、本実施形態における被転写基板23は、ガラスなどを材料とする基板であり、図2(a)に示すように被転写面(素子21を受ける側の面)には、粘着性を有するキャッチ層25が設けられ、転写基板22から転写された素子21を粘着保持する。
【0027】
なお、本実施形態では、転写基板把持部13のみがX軸方向およびY軸方向に移動することにより転写基板把持部13と被転写基板把持部14とがXY方向に相対移動する形態をとっているが、被転写基板23の寸法が大きく、レーザ光11の照射範囲の直下に被転写基板23の全面が位置できない場合には、被転写基板把持部14にもX軸方向およびY軸方向の移動機構が設けられていても良い。
【0028】
以上の構成を有する転写装置10において、素子21を挟んで転写基板22と被転写基板23とが対向した状態において転写基板22を通して素子21に向けてレーザ光11が照射され、リリース層24にレーザ光11が照射されることによって、レーザ光11のエネルギーによってリリース層24の材料の一部が分解され、ガスが発生する。そして、転写基板22における一つの素子21の保持領域において、このリリース層24の材料の分解およびガスの発生が行われることにより、リリース層24の内部もしくは転写基板22とリリース層24の境界部にブリスタ24aが形成される。ブリスタ24aが形成されたとき、リリース層24の表面と素子21の接触面積が減少するのと同時にリリース層24による素子21の保持力が減少し、その結果素子21は転写基板22から離れ、被転写基板23へと移動する。すなわち、レーザリフトオフが行われる。
【0029】
本実施形態の転写装置による転写基板へのレーザ光の照射状態を図2に示す。図2(a)は、レーザ出射部におけるレーザ光の出射状態、図2(b)は、図1におけるAA矢視図であり、転写基板に対するレーザ光の照射状態である。
【0030】
本実施形態では、図2(b)に示す通り、転写基板22に設けられたリリース層24における一つの素子21が保持されている領域(図2(b)における破線部)において照射位置を変更しながらレーザ光11を複数回照射することにより、素子21を転写基板22から被転写基板23へ転写する。このレーザ光11の照射位置(以下、照射スポットとも呼ぶ)の変更は、本実施形態では前述の通り照射位置制御部であるガルバノミラー15によって行われる。
【0031】
このとき、本実施形態におけるレーザ光11の照射スポットの移動の軌跡は、図2(b)に示すようにX軸方向の直線状の移動、移動方向の90度回転、Y軸方向の直線状の移動、移動方向の90度回転、が繰り返されて、略渦巻き形態となっている。
【0032】
ここで、照射スポットの軌跡がこのような略渦巻き形態になるようにガルバノミラー15によって転写基板22(リリース層24)上のレーザ光11の照射位置を制御する場合、照射スポットが直線状に移動するときは移動速度を一定(速度V1とする)とすることは可能である一方、本実施形態における90度回転のように移動方向の変更が行われるときには、照射スポットの移動速度には速度V1からの減速および速度V1までの加速が発生し、速度V1に対して比較的遅い移動速度となる。
【0033】
このとき仮にリリース層24へのレーザ光11の照射タイミングが一定であった場合には、図7に示したようにレーザ光11が実際に照射された箇所が密集することになり、リリース層24が消失してなおレーザ光11が照射され、素子21にダメージが与えられる可能性がある。
【0034】
これに対し、本発明では、照射位置制御部(ガルバノミラー15)による転写基板22へのレーザ光11の照射位置の移動速度に応じて、転写基板22へのレーザ光11の照射時間間隔が調節される。具体的には、転写基板22へのレーザ光11の照射位置の移動速度が所定の速度V1であって比較的速い状態であるときには転写基板22へのレーザ光11の照射時間間隔に対し、この所定の速度V1に達するまでの加減速状態であるときのように比較的移動速度が遅い状態のときには転写基板22へのレーザ光11の照射時間間隔が比較的長くなるよう調節されている。
【0035】
本実施形態では、さらに具体的には、図2(b)に示す例において照射スポットが所定の速度V1で直線状に移動する状態におけるレーザ光11の照射時間間隔(たとえば照射予定位置26aに照射するためのレーザ光11aのトリガパルス(図2(a)参照)と照射予定位置26bに照射するためのレーザ光11bのトリガパルスの時間間隔)は、図2(a)に示す時間間隔T1であるとする。
【0036】
これに対し、照射予定位置26cへのレーザ光11の照射の前後では照射スポットの移動方向が変更されるために照射スポットの移動速度には速度V1からの減速および速度V1までの加速が発生するため、照射スポットが照射予定位置26bから照射予定位置26cに到達するための時間および照射予定位置26cから照射予定位置26dに到達するための時間は照射スポットが照射予定位置26aから照射予定位置26bに到達するための時間よりも長くなる。これに応じ、照射予定位置26bに照射するレーザ光11bのトリガパルスと照射予定位置26cに照射するレーザ光11cのトリガパルスとの時間間隔T2は、時間間隔T1よりも長く設定されている。また、レーザ光11cのトリガパルスと照射予定位置26dに照射するレーザ光11dのトリガパルスとの時間間隔も、同様に時間間隔T2とされている。
【0037】
こうすることにより、照射スポットの移動方向が変更される箇所のように移動速度の加減速が伴う箇所において実際にレーザ光11が照射される箇所が密集することを防ぐことができる。そのため、必要量を超えるエネルギーがレーザ光11によってリリース層24ひいては素子21に局所的に付与されることを防ぐことができる。
【0038】
上記の通りレーザ光11の照射時間間隔を調節するための機器構成およびデータの授受形態を図3(a)に示す。
【0039】
本実施形態では、ガルバノミラー15の角度を調節するガルバノモータ41とガルバノモータ41の動作を制御するガルバノコントローラ42とが配線で連結されており、そのガルバノコントローラ42とレーザ出射部12とが配線で連結されている。
【0040】
また、図示しない制御部には、一つの素子21を転写させるためにリリース層24に照射するレーザ光11の複数の照射予定位置のデータ、および照射スポットの移動パターンのデータがあらかじめ保存されており、この移動パターンのデータがガルバノコントローラ42に入力されたときに、この移動パターンを実現させるための動作指令がガルバノコントローラ42からガルバノモータ41に発せられる。そして、この動作指令に基づいてガルバノモータ41が駆動し、ガルバノミラー15の角度が連続的に変化することにより、所定の移動パターンに従ってリリース層24にレーザ光11が照射される。
【0041】
ここで、ガルバノコントローラ42は、ガルバノモータ41の速度、加減速を考慮して、上記移動パターン上に設定されているレーザ光11の各照射予定位置への到達時刻を算出する。また、本実施形態ではガルバノコントローラ42はレーザ出射部12にレーザ光11を出射(出力)するためのトリガとなるトリガパルスを送信するトリガ回路も兼ねており、上記到達時刻毎にガルバノコントローラ42がレーザ出射部12へトリガパルスを発信することにより、リリース層24上の任意の照射予定位置にレーザ光11を照射する。
【0042】
ここで、ガルバノコントローラ42は上記の通りガルバノモータ41の加減速を考慮して各照射予定位置への到達時間を算出するため、ガルバノモータ41の加減速により不用意に実際にレーザ光11が照射された箇所が密集することを防ぐことができる。
【0043】
なお、上記のレーザ光11の複数の照射予定位置のデータ、および照射スポットの移動パターンのデータは、オペレータが手入力で作成しても良く、また、AIなどを利用して図示しない制御部が自動的に生成しても良い。このとき、自動的に生成させるためのパラメータとして、素子21の形状情報、レーザ出射部12から出射されるレーザ光11の情報(エネルギー、形状など)、リリース層24をアブレーションさせるために必要なエネルギー情報などが準備されると良い。
【0044】
ここで、転写装置10は出射するレーザ光11の時間間隔だけでなく出力も調節可能であっても良い。そして、上記加減速状態である時にその他の状態の時よりもレーザ光11の出力を小さくすることにより、必要量を超えるエネルギーがレーザ光11によって局所的に付与されることをさらに防ぐことができる。
【0045】
次に、レーザ光11の照射時間間隔を調節するための他の実施形態における機器構成およびデータの授受形態を図3(b)に示す。
【0046】
本実施形態では、ガルバノモータ41がガルバノコントローラ42およびトリガ回路43に配線で連結されている。このトリガ回路43は、レーザ出射部12にレーザ光11を出射(出力)するためのトリガとなるトリガパルスを送信するものであり、レーザ出射部12と配線で連結されている。
【0047】
また、図示しない制御部には、一つの素子21を転写させるためにリリース層24に照射するレーザ光11の複数の照射位置のデータ、およびレーザ光11の照射スポットの移動パターンのデータがあらかじめ保存されている。
【0048】
そして、ガルバノモータ41からガルバノコントローラ42およびトリガ回路43にガルバノモータ41の位置情報が連続して送信される。そして、ガルバノモータ41の位置情報がレーザ光11の照射予定位置に相当することをトリガ回路43が確認したときに、トリガ回路43がレーザ出射部12へトリガパルスを発信することにより、リリース層24に設けられた各照射予定位置にレーザ光11が照射される。
【0049】
この実施形態の場合、トリガ回路43はガルバノモータ41の位置情報から判断してトリガパルスを発信するため、所定の照射予定位置に到達する時間に関わらず、照射スポットがその照射予定位置に到達したときにレーザ出射部12からレーザ光11が出射される。そのため、照射スポットの移動速度やその加減速に関わらず、所望の位置にレーザ光11を照射することができ、結果的に照射スポットの移動速度が所定の速度である状態であるときの転写基板22へのレーザ光11の照射時間間隔に対し、この所定の速度に達するまでの加減速状態であるときの転写基板22へのレーザ光11の照射時間間隔が長くなる。
【0050】
また、ガルバノコントローラ42とトリガ回路43が別個に設けられていることにより、ガルバノモータ41の動作を止めずにレーザ出射部12からレーザ光11を出射することができる。
【0051】
なお、このとき、トリガ回路43自身がガルバノモータ41から送信された位置情報を速度情報に変換することによってガルバノモータ41の速度を検知し、図3(a)の例と同様にガルバノモータ41の速度情報をもとにレーザ光11の出射時間間隔を調整する形態であっても良い。
【0052】
次に、本発明の他の実施形態における転写装置を、図4および5を用いて説明する。
【0053】
本実施形態における転写装置10は、図1に示した転写装置に対して、レーザ出射部12からガルバノミラー15に到達するまでのレーザ光11の経路に照射阻止部30が設けられていることが異なる。
【0054】
照射阻止部30は、自身が作動しているときにはレーザ出射部12から出射されたレーザ光11を転写基板22へ到達させなくする部材である。
【0055】
本実施形態では、照射阻止部30は音響光学素子(Acousto-optic Material、AOM)であり、作動することによりレーザ光11を回折させる。レーザ出射部12から出射し、この音響光学素子30の作動により回折したレーザ光11は、図5(a)に示すようにガルバノミラー15に当たらない経路を進む。そのため、音響光学素子30が作動した場合、レーザ出射部12から出射したレーザ光11は転写基板22に照射されずに間引かれる形となる。
【0056】
図5(b)は、本実施形態の転写装置による転写基板へのレーザ光の照射状態を表す図であり、図4におけるBB矢視図である。
【0057】
本実施形態では図2に示したようにレーザ出射部12からのレーザ光11の出射の時間間隔に特に差は設けておらず、一定の時間間隔で間欠的にレーザ光11が出射されるようになっている。そのため、ガルバノミラー15が加減速状態であって比較的低速になっている場合にはレーザ光11が照射されるであろう箇所は密集する。
【0058】
ここで、このようなガルバノミラー15が加減速状態である場合には音響光学素子30が作動して適度にレーザ出射部12から出射されたレーザ光11がリリース層24に到達するのを阻止することにより、リリース層24にレーザ光11が実際に照射された箇所が密集することを防ぐことができる。
【0059】
特に、本実施形態ではレーザ出射部12から出射されるレーザ光11の出射時間間隔は一定であっても構わないため、レーザ光11の出射が安定する。そのため、いわゆるジャイアントパルスが発生することを抑止することができる。
【0060】
以上の転写装置により、活性エネルギー線が照射された箇所が必要以上に密集することを防ぐことが可能である。
【0061】
ここで、本発明の転写装置は、以上で説明した形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。たとえば、上記の説明では一つの素子に対し照射位置を変更しながら複数回レーザ光を照射することによって素子を転写基板から被転写基板へ転写しているが、これに限らずたとえば1回のレーザ光の照射で一つの素子を転写する場合であっても本発明の転写装置を用いても良い。
【0062】
また、上記の説明では、レーザ光の照射スポットの軌跡は略渦巻き状であるが、これに限らずたとえば図6に示すようにプラスX方向の直線状の移動、マイナスY方向のシフトを伴った移動方向の反転、マイナスX方向の直線状の移動、マイナスY方向のシフトを伴った移動方向の反転、が繰り返された形態、すなわち略ジグザク形態であっても良い。この場合、照射スポットの移動方向が反転するときに移動速度の減速および加速が生じるため、このときに上記の実施形態と同様にレーザ光の照射時間間隔を比較的長くすることにより、レーザ光が照射された箇所が密集することを回避することができる。
【0063】
また、上記の説明では、転写基板のリリース層はレーザ光の照射により内部にブリスタを形成し、その結果素子をリリースするものであるが、これに限らずたとえばレーザ光の照射によりガスの発生とともに消失するものであっても良い。
【0064】
また、上記の説明では、照射阻止部は音響光学素子であるが、これに限らずたとえばミラー、シャッターなどであっても良い。
【0065】
また、上記の説明の通りレーザ光の照射時間間隔を比較的長くするタイミングは、必ずしも照射スポットの移動方向を変更するときに限らない。
【符号の説明】
【0066】
10 転写装置
11 レーザ光(活性エネルギー線)
11a~11d レーザ光
12 レーザ出射部(エネルギー出射部)
13 転写基板把持部
14 被転写基板把持部
15 ガルバノミラー(照射位置制御部)
16 Fθレンズ
21 素子
22 転写基板
22a ガラス面
23 被転写基板
24 リリース層
24a ブリスタ
25 キャッチ層
26a~d 照射予定位置
30 音響光学素子(照射阻止部)
41 ガルバノモータ
42 ガルバノコントローラ
43 トリガ回路
111 レーザ光
121 素子
122 転写基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7