(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091086
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】印刷用前処理液
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240627BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240627BHJP
C09D 11/324 20140101ALI20240627BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B41M5/00 132
C09D11/54
C09D11/324
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 112
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207484
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江川 剛
(72)【発明者】
【氏名】吉川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】黒田 あずさ
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2C056HA42
2H186AB02
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2H186FB50
2H186FB56
2H186FB58
4J039AD10
4J039BA04
4J039BA13
4J039BA14
4J039BA29
4J039BA35
4J039BC13
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4J039EA46
4J039EA47
4J039FA02
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】低吸液性印刷基材、特により極性の低い低吸液性印刷基材に印刷を行う際においても、インクの基材密着性に優れ、異なる色のインク間での滲みが抑制された画像鮮明性に優れる印刷物を得ることができる、印刷用前処理液、該印刷用前処理液由来の表面処理層を有する表面処理印刷基材、該印刷用前処理液を含むインクセット、及び該印刷用前処理液を用いる画像形成方法を提供する。
【解決手段】スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含有する印刷用前処理液、該印刷用前処理液由来の表面処理層を有する表面処理印刷基材、該印刷用前処理液を含むインクセット、及び該印刷用前処理液を用いる画像形成方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含有する、印刷用前処理液。
【請求項2】
スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)の含有量のポリウレタン樹脂(b)の含有量に対する質量比[スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)/ポリウレタン樹脂(b)]が0.1以上10以下である、請求項1に記載の印刷用前処理液。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂(a)のスルホン酸基密度が0.1mmol/g以上0.8mmol/g以下である、請求項1又は2に記載の印刷用前処理液。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂(a)が、スルホン酸基を含むカルボン酸成分(a-1)由来の構成単位とスルホン酸基を含まないカルボン酸成分(a-2)由来の構成単位とを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の印刷用前処理液。
【請求項5】
前記スルホン酸基を含むカルボン酸成分(a-1)が、5-スルホイソフタル酸、2-スルホテレフタル酸、及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種以上である、請求項4に記載の印刷用前処理液。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂(b)がポリエーテル系ウレタン樹脂である、請求項1~5のいずれか1項に記載の印刷用前処理液。
【請求項7】
塩基性化合物(c)として有機アミンを更に含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の印刷用前処理液。
【請求項8】
有機溶媒(d)として水溶性有機溶媒を更に含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の印刷用前処理液。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の印刷用前処理液由来の、スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層を少なくとも一方の面に有する、表面処理印刷基材。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の印刷用前処理液と、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクとを含む、インクセット。
【請求項11】
着色材が顔料である、請求項10に記載のインクセット。
【請求項12】
下記工程1及び工程2を含む、画像形成方法。
工程1:請求項1~8のいずれか1項に記載の印刷用前処理液を印刷基材に付与した後、該印刷基材上の該印刷用前処理液を乾燥し、スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層を少なくとも一方の面に有する表面処理印刷基材を得る工程
工程2:工程1で得られた表面処理印刷基材のスルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層に、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクを付与して画像を形成する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用前処理液、該印刷用前処理液由来の表面処理層を有する表面処理印刷基材、該印刷用前処理液を含むインクセット、及び該印刷用前処理液を用いる画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商業印刷や産業印刷分野では、従来の普通紙、コピー紙と呼ばれる高吸液性基材への印刷に加えて、オフセットコート紙のような低吸液性のコート紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン(NY)等の非吸液性の樹脂フィルムを用いた商業印刷向けの基材への印刷が求められてきている。
低吸液性又は非吸液性の基材上に画像形成を行った場合、液体成分の吸収が遅い、又は吸収されないため、これらの基材に対するインクの密着性が十分でなく、画質が悪化するという問題がある。そこで、インクの密着性や画質を改善するため、インク中に含まれる顔料粒子を凝集させる成分を含む処理液を予め基材表面に付与することで、液体成分の吸収が遅い基材の表面に顔料粒子を凝集させて画像を形成する画像形成方法が提案されている。
【0003】
引用文献1には、低吸液性基材に対するインクの密着性、得られる印刷物の画像鮮鋭性及び画像均一性を優れたものにすることができる処理液と、該処理液を含むインクセット等の提供を課題として、ポリエステル樹脂(a)をエマルションとして含有する処理液であって、該ポリエステル樹脂(a)がスルホン酸基を含み、該ポリエステル樹脂(a)のスルホン酸基密度が0.1mmol/g以上0.8mmol/g以下である処理液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、低吸液性印刷基材でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような極性が高い基材に対するインクの密着性はある程度高いものの、より極性の低い低吸液性印刷基材での密着性は十分でなく、更なる向上が求められている。また、異なる色のインクが重なる部分におけるインクの滲みについては改善の余地があることが判明した。
本発明は、低吸液性印刷基材、特により極性の低い低吸液性印刷基材に印刷を行う際においても、インクの基材密着性に優れ、異なる色のインク間での滲みが抑制された画像鮮明性に優れる印刷物を得ることができる、印刷用前処理液、該印刷用前処理液由来の表面処理層を有する表面処理印刷基材、該印刷用前処理液を含むインクセット、及び該印刷用前処理液を用いる画像形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、スルホン酸基を有するポリエステル樹脂及びポリウレタン樹脂を含有する印刷用前処理液を用いて、印刷基材上にスルホン酸基を有するポリエステル樹脂及びポリウレタン樹脂を含む表面処理層を形成し、該表面処理層に画像を形成することによって、前記課題を解決しうることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[4]を提供する。
[1]スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含有する、印刷用前処理液。
[2]前記[1]に記載の印刷用前処理液由来の、スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層を少なくとも一方の面に有する、表面処理印刷基材。
[3]前記[1]に記載の印刷用前処理液と、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクとを含む、インクセット。
[4]下記工程1及び工程2を含む、画像形成方法。
工程1:前記[1]に記載の印刷用前処理液を印刷基材に付与した後、該印刷基材上の該印刷用前処理液を乾燥し、スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層を少なくとも一方の面に有する表面処理印刷基材を得る工程
工程2:工程1で得られた表面処理印刷基材のスルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層に、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクを付与して画像を形成する工程
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低吸液性印刷基材、特により極性の低い低吸液性印刷基材に印刷を行う際においても、インクの基材密着性に優れ、異なる色のインク間での滲みが抑制された画像鮮明性に優れる印刷物を得ることができる、印刷用前処理液、該印刷用前処理液由来の表面処理層を有する表面処理印刷基材、該印刷用前処理液を含むインクセット、及び該印刷用前処理液を用いる画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[印刷用前処理液]
本発明の印刷用前処理液(以下、「本発明の前処理液」又は「前処理液」ともいう)は、スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)(以下、「スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)」ともいう)及びポリウレタン樹脂(b)を含有する。
本発明の前処理液は、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクで画像を形成する印刷基材の表面処理に用いられる。
本発明において、「水系インク」とは、インクに含まれる媒体中で、水が質量基準で最大の比率を占めているものであることを意味する。インクに含まれる「媒体」とは、着色材、必要に応じて用いられるポリマー及び界面活性剤を除いた液体成分を意味する。
なお、本明細書において、「少なくとも着色材及び水を含有する水系インク」を単に「水系インク」又は「インク」ともいう。
本発明の前処理液は水系であることが好ましい。
本発明において前処理液が「水系」であるとは、前処理液に含まれる液体成分において、水が質量基準で最大の比率を占めているものであることを意味する。
本発明の前処理液により処理される低吸液性印刷基材は、布帛、普通紙、及びインクジェット専用紙のような水系インクの吸収性に富むものではなく、汎用コート紙のような水系インクを吸収し難い低吸液性印刷基材、及び、金属、陶器、及び樹脂フィルムのような水系インクを吸収しない非吸液印刷基材を含む概念を意味する。
本発明において、低吸液性印刷基材、特により極性の低い低吸液性印刷基材におけるインクの密着性を単に「基材密着性」とも称し、異なる色のインク間での滲みを抑制した画像鮮明性を単に「画像鮮明性」とも称する。
【0010】
本発明によれば、低吸液性印刷基材、特により極性の低い低吸液性印刷基材においても、インクの密着性に優れ、異なる色のインク間での滲みが抑制された画像鮮明性に優れる印刷物を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
本発明の前処理液は、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を含有するため、スルホン酸基を有さない汎用のポリエステル樹脂に比べて極性を特に高くすることができる。そのため、本発明の前処理液で極性の低い低吸液性印刷基材の表面を処理した際には、該極性の低い低吸液性印刷基材の表面を水系インクが濡れ広がり易くする作用を奏し、均一なインク塗膜を形成することができ、また、該水系インクで画像を形成する際にはインクの合一や偏在が起こり難く、異なる色のインク間での滲みを抑制することができ、画像鮮明性を向上させることができると考えられる。また、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)は通常の疎水性部位も有するため、該極性の低い低吸液性印刷基材との親和性を発現でき、該水系インクの密着性の向上にも寄与することができると考えられる。
さらに、本発明の前処理液はポリウレタン樹脂(b)も含有する。そのため、異なる色のインクの画像形成領域をこれらのインクが重なるように隣接して順に印刷するような状況においては、本発明の前処理液由来の表面処理層に含まれるポリウレタン樹脂(b)が有する極性が高いウレタン基の作用により、該表面処理層に第2のインクが保持され、第1のインクの画像形成領域へ第2のインクが流れ込むことを抑制できているため、異なる色のインク間での滲みを抑制でき、画像鮮明性を向上させることができると考えられる。さらに、本発明においては、ポリウレタン樹脂(b)は、弾性に富みかつ柔軟であるため、上述の該極性の低い低吸液性印刷基材とスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の親和性発現効果を更に高めることができ、該水系インクの密着性の向上にも寄与していると考えられる。
【0011】
<スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)>
本発明の処理液は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、スルホン酸基を有するポリエステル樹脂(a)(スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a))を含有する。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)は、少なくともスルホン酸基を含むカルボン酸成分(a-1)(以下、「(a-1)成分」ともいう)を含有するカルボン酸成分(以下、「(a-ac)成分」ともいう)とアルコール成分(以下、「(a-al)成分」ともいう)とを重縮合してなるものであることが好ましい。すなわち、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)は、少なくとも(a-1)成分を含有するカルボン酸成分由来の構成単位とアルコール成分由来の構成単位とを有するものであることが好ましい。
なお、本発明における「カルボン酸成分」としては、例えば、カルボン酸、それらの無水物、及び炭素数1以上3以下のアルキルエステルが挙げられる。なお、アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、カルボン酸成分の炭素数に含めない。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0012】
(カルボン酸成分(a-ac))
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を構成するカルボン酸成分(a-ac)は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、少なくともスルホン酸基を含むカルボン酸成分(a-1)を含有する。
(a-1)成分が有するスルホン酸基は-SO3Mで表され、該スルホン酸基の少なくとも一部が塩を形成しているものであることが好ましい。すなわち、上記化学式中、Mは、好ましくは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、及び有機アンモニウムからなる群から選ばれる1種以上である。
(a-1)成分が有するスルホン酸基が形成している塩としては、塩基性化合物から形成されてなり、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及び有機アンモニウム塩からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
(a-1)成分が有するスルホン酸基が形成している塩がアルカリ金属塩である場合、アルカリ金属は塩基性化合物としてアルカリ金属水酸化物から供給されることが好ましい。また、(a-1)成分が有するスルホン酸基が形成している塩がアンモニウム塩又は有機アンモニウム塩である場合、アンモニウム又は有機アンモニウムは塩基性化合物としてアンモニア又は有機アミンから供給されることが好ましい。
【0013】
(a-1)成分としては、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、スルホン酸基を有するジカルボン酸、スルホン酸基を有するトリカルボン酸、スルホン酸基を有するテトラカルボン酸、及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられるが、より好ましくはスルホン酸基を有するジカルボン酸又はその塩であり、更に好ましくは5-スルホイソフタル酸、2-スルホテレフタル酸、4-スルホ-2,6-ナフタレンジカルボン酸、及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種以上、より更に好ましくは5-スルホイソフタル酸、2-スルホテレフタル酸、及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種以上である。
(a-1)成分は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0014】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を構成するカルボン酸成分(a-ac)は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、(a-1)成分に加えて、スルホン酸基を含まないカルボン酸成分(a-2)(以下、「(a-2)成分」ともいう)を構成成分として含有することが好ましい。すなわち、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)は、前記と同様の観点から、好ましくはスルホン酸基を含むカルボン酸成分(a-1)由来の構成単位とスルホン酸基を含まないカルボン酸成分(a-2)由来の構成単位とを含有し、より好ましくは少なくとも(a-1)成分及び(a-2)成分を含有するカルボン酸成分(a-ac)由来の構成単位とアルコール成分(a-al)由来の構成単位とを含むものであり、更に好ましくは少なくとも(a-1)成分及び(a-2)成分からなるカルボン酸成分(a-ac)とアルコール成分(a-al)との重縮合物である。
【0015】
(a-2)成分としては、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、及び3価以上の多価カルボン酸からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジカルボン酸からなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは芳香族ジカルボン酸である。
【0016】
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が好ましく、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸がより好ましく、テレフタル酸が更に好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;アジピン酸、コハク酸(コハク酸は、アルキル基及び/又はアルケニル基で置換されていてもよい)等の飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
脂環族ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸が挙げられる。
3価以上の多価カルボン酸としては、トリメリット酸、2,5,7-ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸が挙げられる。
(a-2)成分は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0017】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を構成するカルボン酸成分(a-ac)中の(a-1)成分の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは3モル%以上、より好ましくは4モル%以上、更に好ましくは5モル%以上、より更に好ましくは6モル%以上であり、そして、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、更に好ましくは15モル%以下、更に好ましくは10モル%以下である。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を構成するカルボン酸成分(a-ac)中の(a-2)成分の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは85モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上であり、そして、好ましくは97モル%以下、より好ましくは96モル%以下、更に好ましくは95モル%以下、より更に好ましくは94モル%以下である。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を構成するカルボン酸成分(a-ac)中の(a-1)成分と(a-2)の合計含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下であり、より更に好ましくは100モル%である。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)における(a-1)成分と(a-2)成分とのモル比〔(a-1)成分/(a-2)成分〕は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.04以上、更に好ましくは0.05以上であり、そして、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、更に好ましくは0.3以下、より更に好ましくは0.2以下、より更に好ましくは0.1以下、より更に好ましくは0.07以下である。
【0018】
(アルコール成分(a-al))
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を構成するアルコール成分(a-al)としては、ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられ、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくはジオールである。
ジオールとしては、例えば、炭素数2以上12以下の脂肪族ジオール、脂環族ジオール、及び芳香族ジオールからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
炭素数2以上12以下の脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール等のα,ω-アルカンジオール;1,2-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオールが挙げられる。
脂環族ジオールとしては、例えば、1,4-シクロヘキサンジオール、水素添加ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン)、及びそれらの炭素数2以上4以下のアルキレンオキシド(平均付加モル数2以上16以下)付加物、ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンの炭素数2以上4以下のアルキレンオキシド(平均付加モル数2以上16以下)付加物が挙げられる。
芳香族ジオールとしては、例えば、ヒドロキノン、1,4-ベンゼンジメタノール、4,4-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,5-ジヒドロキシナフタレンが挙げられる。
3価以上の多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、及びこれらのアルキレン(炭素数2以上4以下)オキシド付加物(平均付加モル数1以上16以下)が挙げられる。
これらの中でも、アルコール成分(a-al)は、より好ましくは脂肪族ジオールであり、更に好ましくは炭素数2以上12以下のα,ω-アルカンジオールであり、より更に好ましくは炭素数2以上8以下のα,ω-アルカンジオールであり、より更に好ましくは炭素数2以上6以下のα,ω-アルカンジオールであり、より更に好ましくはエチレングリコールである。
アルコール成分(a-al)は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0019】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を構成するアルコール成分(a-al)中の脂肪族ジオールの含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上であり、そして、好ましくは100モル%以下である。
【0020】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を構成するアルコール成分(a-al)のヒドロキシ基(OH基)に対するカルボン酸成分(a-ac)のカルボキシ基(COOH基)の当量比(COOH基/OH基)は、基材密着性を向上させる観点から、好ましくは0.65以上、より好ましくは0.80以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0021】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のスルホン酸基密度は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.15mmol/g以上、更に好ましくは0.2mmol/g以上、より更に好ましくは0.25mmol/g以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは0.8mmol/g以下、より好ましくは0.6mmol/g以下、更に好ましくは0.5mmol/g以下、より更に好ましくは0.4mmol/g以下、より更に好ましくは0.35mmol/g以下、より更に好ましくは0.3mmol/g以下である。
本発明において、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のスルホン酸基密度は、該スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の構成単位の種類及び含有量から計算で算出することができる。スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)として2種以上の樹脂を混合して用いる場合、該スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のスルホン酸基密度は、各樹脂の構成単位の種類及び含有量と各樹脂の配合比率とから計算で算出することができる。
また、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の構成単位が未知の場合、元素分析(イオンクロマトグラフ法)により硫黄原子を定量することでスルホン酸基密度を導き出すことができる。
【0022】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは5,000以上、より好ましくは7,500以上、更に好ましくは10,000以上であり、そして、ポリエステル樹脂(a)をエマルションとして前処理液に配合する際の該エマルションの分散安定性の観点から、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは30,000以下、より更に好ましくは20,000以下である。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)は、実施例に記載の方法で測定することができる。スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)として2種以上の樹脂を混合して用いる場合、重量平均分子量(Mw)は、2種以上の樹脂の混合物として、実施例に記載の方法により測定される。
【0023】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)は、カルボン酸成分(a-ac)とアルコール成分(a-al)とを重縮合して得られる。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)は、例えば、カルボン酸成分(a-ac)とアルコール成分(a-al)とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じてエステル化触媒を用いて、180℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
エステル化触媒としては、例えば、スズ触媒、チタン触媒、三酸化アンチモン、酢酸亜鉛、二酸化ゲルマニウム等の金属化合物が挙げられる。中でも、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の製造におけるエステル化反応の反応効率の観点から、スズ触媒が好ましい。スズ触媒としては、酸化ジブチルスズ、ジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(II)、又はこれらの塩等が好ましく、ジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(II)がより好ましい。
更に必要に応じて、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)等のエステル化助触媒;4-tert-ブチルカテコール、ヒドロキノン等のラジカル重合禁止剤を用いてもよい。
【0024】
本発明においてスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)は、前処理液において水系媒体中に分散した分散状態を呈する、いわゆるエマルションの形態であることが好ましい。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルションの製造方法としては、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を水系媒体の存在下で分散させる工程を含む方法が好ましい。かかる方法としては、例えば、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)と水系媒体とを必要に応じて分散機等を用いて混合及び分散する方法、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を含む有機溶媒溶液に水系媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法が挙げられる。これらの中でも、操作の簡便性の観点から、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)と水系媒体とを混合及び分散する方法が好ましい。
【0025】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルションの製造方法においては、前述したようにスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のスルホン酸基の少なくとも一部が塩を形成している場合には、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のスルホン酸基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和する工程を更に含んでもよい。塩基性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、及び有機アミンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
【0026】
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルションのpH(25℃)は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは4.5以上、より好ましくは5以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは6.5以下、より好ましくは6以下である。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルションのpHは、実施例に記載の方法で測定することができる。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルションの平均粒径は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは150nm以下、より好ましくは130nm以下、更に好ましくは100nm以下、より更に好ましくは90nm以下、より更に好ましくは70nm以下である。
スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルションの平均粒径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0027】
<ポリウレタン樹脂(b)>
本発明の処理液は、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)に加えて、ポリウレタン樹脂(b)も含有する。
ポリウレタン樹脂(b)は、少なくともアルコール成分(b-1)(以下、「(b-1)成分」ともいう)とポリイソシアネート成分(b-2)(以下、「(b-2)成分」ともいう)とを重付加してなるものであることが好ましい。すなわち、ポリウレタン樹脂(b)は、少なくとも(b-1)成分由来の構成単位と(b-2)成分由来の構成単位とを含むものであることが好ましい。
【0028】
(アルコール成分(b-1))
(b-1)成分としては、ジオール、トリオール等の分子内に複数のヒドロキシ基を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、ジオールが好ましい。
ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ビスフェノールA及びそのアルキレンオキシド付加物、水素化ビスフェノールA及びそのアルキレンオキシド付加物、シクロヘキサンジメタノール及びそのアルキレンオキシド付加物、ポリエステルジオール、ポリウレタンジオール、ポリエーテルジオール、並びにポリカーボネートジオールからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられ、より好ましくはポリエステルジオール、ポリエーテルジオール、及びポリカーボネートジオールからなる群から選ばれる1種以上である。
【0029】
ポリエステルジオールとしては、例えば、炭素数2以上30以下のジオールと芳香族ジカルボン酸とのポリエステルジオールが好ましく挙げられる。
ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
ポリカーボネートジオールとしては、例えば、炭素数2以上8以下のアルカンジオールからなるポリカーボネートポリオールが好ましく挙げられる。
これらの中でも、ジオールは、更に好ましくはポリエーテルジオール及びポリカーボネートジオールからなる群から選ばれる1種以上であり、より更に好ましくはポリエーテルジオールである。すなわち、ポリウレタン樹脂(b)は、好ましくはポリエーテル系ウレタン樹脂及びポリカーボネート系ポリウレタン樹脂からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはポリエーテル系ウレタン樹脂である。
ポリエーテル系ウレタン樹脂を構成するポリエーテルジオールとしては、好ましくはポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、及びポリテトラメチレンエーテルグリコールからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはポリテトラメチレンエーテルグリコールである。
(b-1)成分は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0030】
(ポリイソシアネート成分(b-2))
(b-2)成分としては、ジイソシアネート、トリイソシアネート、テトライソシアネート等の分子内に複数のイソシアネート基を有する化合物が挙げられる。これらの中でも、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、ジイソシアネートが好ましい。
ジイソシアネートとしては、炭素数8以上22以下のジイソシアネートが好ましく挙げられる。これらの中でも、より好ましくはヘキサメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4-又は2,6-トリレンジイソシアネート、m-又はp-キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、及び4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートからなる群から選ばれる1種以上である。
(b-2)成分は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0031】
(カルボキシ基を有する構成成分(b-3))
ポリウレタン樹脂(b)は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは酸基を有する。ポリウレタン樹脂(b)が酸基を有する場合、ポリウレタン樹脂(b)は、(b-1)成分及び(b-2)成分に加えて、カルボキシ基を有する構成成分(b-3)(以下、「(b-3)成分」ともいう)を更に重付加してなるものであることが好ましい。すなわち、ポリウレタン樹脂(b)は、少なくとも(b-1)成分由来の構成単位と(b-2)成分由来の構成単位と(b-3)成分由来の構成単位とを有するものであることが好ましい。
(b-3)成分としては、カルボキシ基を有するジオール化合物、カルボキシ基を有するジイソシアネートが挙げられる。これらの中でも、カルボキシ基を有するジオール又はその塩が好ましい。カルボキシ基を有するジオールは、好ましくはジアルカノールカルボン酸又はその塩であり、より好ましくはジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸及びこれらの塩からなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはジメチロールプロピオン酸又はその塩である。
(b-3)成分は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0032】
ポリウレタン樹脂(b)が(b-3)成分由来の構成単位を有する場合、ポリウレタン樹脂(b)を構成する原料モノマー総量中の(b-3)成分の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは0.7質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上であり、そして、前記と同様の観点から好ましくは10質量%以下、より好ましくは7質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、より更に好ましくは4質量%以下である。
【0033】
ポリウレタン樹脂(b)が(b-3)成分由来の構成単位を有する場合、(b-3)成分によりポリウレタン樹脂(b)に導入されてなるカルボキシ基は少なくともその一部が、塩を形成しているものであることが好ましい。
ポリウレタン樹脂(b)のカルボキシ基が形成している塩としては、塩基性化合物から形成されてなり、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、及び有機アンモニウム塩からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。カルボキシ基が形成している塩がアルカリ金属塩である場合、アルカリ金属は塩基性化合物としてアルカリ金属水酸化物から供給され、カルボキシ基が形成している塩がアンモニウム塩又は有機アンモニウム塩である場合、アンモニウム又は有機アンモニウムは塩基性化合物としてアンモニア又は有機アミンから供給されることが好ましい。これらの中でも、ポリウレタン樹脂(b)のカルボキシ基が形成している塩は、好ましくは有機アンモニウム塩であり、より好ましくはアルキルアミン塩であり、より好ましくはジエチルアミン塩及びトリエチルアミン塩からなる群から選ばれる1種以上である。
【0034】
ポリウレタン樹脂(b)は任意の公知の重合法を用いて重付加することにより製造することができる。重合法としては、溶液重合法が好ましい。溶液重合に用いる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、トルエン、キシレンが挙げられる。前記重付加では、必要に応じて鎖伸長剤や反応停止剤を併用してもよい。鎖伸長剤を用いることにより、更に分子量を増加させることができる。鎖伸長剤としては、ポリオールやポリアミンが挙げられ、反応停止剤としては、モノアルコールやモノアミンが挙げられる。
【0035】
本発明においてポリウレタン樹脂(b)は、前処理液において水系媒体中に分散した分散状態を呈する、いわゆるエマルションの形態であることが好ましい。
ポリウレタン樹脂(b)のエマルションの製造方法としては、ポリウレタン樹脂(b)を水系媒体の存在下で分散させる工程を含む方法が好ましい。かかる方法としては、例えば、ポリウレタン樹脂(b)と水系媒体とを必要に応じて分散機等を用いて混合及び分散する方法、ポリウレタン樹脂(b)を含む有機溶媒溶液に水性媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法が挙げられる。これらの中でも、操作の簡便性の観点から、転相乳化させる方法が好ましい。
【0036】
ポリウレタン樹脂(b)のエマルションの平均粒径は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは150nm以下、より好ましくは140nm以下、更に好ましくは130nm以下、より更に好ましくは120nm以下、より更に好ましくは110nm以下である。
ポリウレタン樹脂(b)のエマルションの平均粒径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0037】
本発明の前処理液は、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)以外の他の樹脂を含有していてもよい。
かかる他の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、スルホン酸基を有しないポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂が好ましく挙げられる。
本発明の前処理液中のスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)、ポリウレタン樹脂(b)、及び他の樹脂の合計含有量に対するスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)の合計含有量の質量比[(スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)の合計含有量)/(スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)、ポリウレタン樹脂(b)、及び他の樹脂の合計含有量)]は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させるから、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上であり、より更に好ましくは100質量%である。
なお、本発明の前処理液がポリエステル構造を有する樹脂を含有している場合、該樹脂がポリウレタン樹脂(b)に該当する場合は、ポリウレタン樹脂(b)とみなす。
また、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)がポリウレタン樹脂(b)にも該当する場合は、該樹脂はスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)ではなくポリウレタン樹脂(b)とみなす。
【0038】
<塩基性化合物(c)>
本発明の前処理液は、pHを調整し、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、塩基性化合物(c)を更に含有することが好ましい。
塩基性化合物(c)は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
塩基性化合物(c)としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物、アンモニア、有機アミンが挙げられる。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムが挙げられるが、水酸化ナトリウムが好ましい。有機アミンとしては、水溶性アミンが好ましい。これらの中でも、塩基性化合物(c)は、好ましくは有機アミンであり、より好ましくは水溶性アミンである。
なお、前記水溶性アミンにおける「水溶性」とは、水100gに対する20℃における溶解度が5g(5g/100gH2O)以上であることを意味する。
前記水溶性アミンの炭素数は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは2以上、より好ましくは3以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは8以下、より好ましくは6以下である。
本発明の前処理液が含有する塩基性化合物(c)の沸点は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは100℃以上、より更に好ましくは150℃以上、より更に好ましくは180℃以上、より更に好ましくは200℃以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下、更に好ましくは260℃以下である。
なお、塩基性化合物(c)として2種以上の塩基性化合物を用いる場合には、塩基性化合物(c)の沸点は、各塩基性化合物の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。
【0039】
本発明の前処理液が塩基性化合物(c)として水溶性アミンを含有する場合、該水溶性アミンとしては、例えば、アルキルアミン及びアルカノールアミンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
アルキルアミンとしては、ジエチルアミン(沸点55.5℃)、トリエチルアミン(沸点89℃)、ジプロピルアミン(沸点110℃)、ヘキシルアミン(沸点131℃)ジメチルヘキシルアミン(沸点148℃)等の炭素数4以上8以下のアルキルアミンが好ましく挙げられる。
アルカノールアミンとしては、モノエタノールアミン(沸点170℃)、モノイソプロパノールアミン(沸点160℃)、モノイソブタノールアミン(沸点165℃)、N-メチルエタノールアミン(沸点156℃)、N,N-ジメチルエタノールアミン(沸点133℃)、N-メチルジエタノールアミン(沸点245℃)等の水と混和する炭素数2以上8以下のアルカノールアミンが好ましく挙げられる。
これらの中でも、塩基性化合物(c)は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは炭素数2以上8以下のアルカノールアミンであり、より好ましくはモノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、モノイソブタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン(沸点133℃)、及びN-メチルジエタノールアミンからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはN-メチルジエタノールアミンである。
【0040】
本発明の前処理液において、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)が、そのスルホン酸基の少なくとも一部が塩を形成しているものである場合、そのスルホン酸基に塩を形成させる塩基性化合物、及びポリウレタン樹脂(b)が(b-3)成分に由来する構成単位を有するものであって、その(b-3)成分のカルボキシ基の少なくとも一部が塩を形成しているものである場合、そのカルボキシ基に塩を形成させる塩基性化合物は、塩基性化合物(c)には含まれない。
【0041】
<有機溶媒(d)>
本発明の前処理液は有機溶媒(d)を更に含有することが好ましい。
有機溶媒(d)としては、水と任意の割合で混和できる水溶性有機溶媒が好ましい。
本発明の前処理液は、前述のとおり水系であることが好ましいため、本発明の前処理液中の水溶性有機溶媒の含有量は、本発明の前処理液中の水の含有量よりも少ないことが好ましい。
有機溶媒(d)は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の前処理液に用いられる水溶性有機溶媒としては、例えば、多価アルコール、多価アルコールエーテル、1価アルコール、及びケトンからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの中でも、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは多価アルコール及び多価アルコールエーテルからなる群から選ばれる1種以上である。
本発明の前処理液に用いられる水溶性有機溶媒の沸点は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは90℃以上、より好ましくは130℃以上、更に好ましくは150℃以上、より更に好ましくは170℃以上であり、そして、好ましくは250℃以下、より好ましくは230℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
なお、水溶性有機溶媒を2種以上用いる場合には、水溶性有機溶媒の沸点は、各水溶性有機溶媒の含有量(質量%)で重み付けした加重平均値である。
【0043】
前記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール(沸点197℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)、1,3-プロパンジオール(沸点214℃)、1,2-ブタンジオール(沸点193℃)、1,2-ペンタンジオール(沸点206℃)、1,2-ヘキサンジオール(沸点223℃)等の1,2-アルカンジオール、ジエチレングリコール(沸点245℃)、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール(沸点232℃)、1,3-プロパンジオール(沸点210℃)、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,4-ブタンジオール(沸点230℃)、3-メチル-1,3-ブタンジオール(沸点203℃)、及び1,5-ペンタンジオール(沸点242℃)、2-メチル-2,4-ペンタンジオール(沸点196℃)からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
【0044】
前記多価アルコールエーテルとしては、例えば、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。これらの中でも、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましい。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキルエーテル部位のアルキル基の炭素数は、好ましくは1以上であり、そして、好ましくは6以下、より好ましくは4以下である。アルキレングリコールモノアルキルエーテルのアルキルエーテル部位のアルキル基は、直鎖及び分岐鎖のいずれであってもよい。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点136℃)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点144℃)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(沸点151℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点194℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点207℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点230℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点248℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点190℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点231℃)、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点243℃)からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
【0045】
<界面活性剤>
本発明の前処理液は、界面活性剤を更に含有することが好ましい。
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。
界面活性剤は公知の任意のものを用いることができるが、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくはアセチレングリコール系界面活性剤であり、より好ましくは、HLBが0以上5以下であるアセチレングリコール系界面活性剤であり、更に好ましくはHLBが0以上4以下であるアセチレングリコール系界面活性剤であり、より更に好ましくは2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールである。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、日信化学工業株式会社及びAir Products & Chemicals社製のサーフィノールシリーズが挙げられる。
【0046】
本発明の処理液は、顔料、染料等の着色材を含まないことが好ましい。本発明の処理液が実質的に着色材を含まない場合には、該処理液から形成された印刷基材の表面処理層に、水系インクで画像を形成する際にインクの色みに影響を与えることなく、基材密着性に優れ、異なる色のインク間での滲みが抑制された画像鮮明性に優れる印刷物を得ることができる。
【0047】
(前処理液の各成分の含有量)
本発明の前処理液中のスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、より更に好ましくは10質量%以上、より更に好ましくは13質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、より更に好ましくは16質量%以下である。
本発明の前処理液中のポリウレタン樹脂(b)の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは12質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
本発明の前処理液中のスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の含有量のポリウレタン樹脂(b)の含有量に対する質量比[スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)/ポリウレタン樹脂(b)]は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.5以上、より更に好ましくは1以上、より更に好ましくは2以上、より更に好ましくは3以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは7以下、更に好ましくは6以下、より更に好ましくは5以下、より更に好ましくは4以下である。
本発明の前処理液中の塩基性化合物(c)の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、より更に好ましくは0.7質量%以上、より更に好ましくは1質量%以上であり、そして、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、より更に好ましくは2質量%以下である。
本発明の前処理液中の有機溶媒(d)の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上、より更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは12質量%以下、より更に好ましくは10質量%以下である。
本発明の前処理液中の界面活性剤の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、そして、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、より更に好ましくは0.05質量%以下である。
本発明の前処理液中の水の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、そして、処理液の乾燥性の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0048】
本発明の前処理液の静的表面張力(20℃)が、好ましくは10mN/m以上、より好ましくは20mN/m以上、更に好ましくは30mN/m以上、より更に好ましくは35mN/m以上、より更に好ましくは40mN/m以上であり、そして、好ましくは55mN/m以下、より好ましくは50mN/m以下、更に好ましくは45mN/m以下である。
【0049】
(前処理液の調製)
本発明の前処理液は、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)、ポリウレタン樹脂(b)、必要に応じて有機溶媒(d)、塩基性化合物(c)、水を適宜混合して用いる。スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)がそれぞれエマルションの形態である場合は、エマルションの形態のまま混合することが好ましい。
【0050】
本発明の前処理液は、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等の各種印刷用として好適に用いることができる。これらの中でも、基材密着性及び画像鮮明性の観点から、インクジェット印刷用として用いることが好ましい。
【0051】
[表面処理印刷基材]
本発明の前処理液は、低吸液性印刷基材の表面処理に用いることが好ましい。
本発明の前処理液により処理してなる表面処理印刷基材は、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクの印刷に用いても、基材密着性に優れ、異なる色のインク間での滲みが抑制された画像鮮明性に優れる印刷物を得ることができる。当該観点から、本発明の前処理液は、低吸液性印刷基材の表面に付与され、その後乾燥することにより、表面処理印刷基材を構成する成分の一つとなる。すなわち、本発明の表面処理印刷基材は、前記前処理液由来の、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層を少なくとも一方の面に有する印刷基材である。
本発明の表面処理印刷基材の表面処理に供する印刷基材及び表面処理印刷基材の製造方法の説明は、後述する画像形成方法の工程1の項における説明と同様であるため省略する。
【0052】
[インクセット]
本発明の前処理液により処理してなる表面処理印刷基材は、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクの印刷に用いても、基材密着性に優れ、異なる色のインク間での滲みが抑制された画像鮮明性に優れる印刷物を得ることができる。当該観点から、前述の前処理液は、少なくとも着色材及び水を含有する水系インク(以下、単に「水系インク」ともいう)と共にインクセットとして用いることが好ましい。すなわち、本発明のインクセットは、前述の前処理液と、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクとを含む。
本発明のインクセットは、水系インクとして、好ましくは無彩色、有彩色等から選ばれる1色以上の着色インクを含み、より好ましくは無彩色及び有彩色からなる群から選ばれる2色以上の着色インクを含み、更に好ましくは無彩色及び有彩色からなる群から選ばれる2色以上の着色インクである。
本発明のインクセットは、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等の各種印刷用のインクセットとして好適に用いることができる。これらの中でも、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、インクジェット印刷用のインクセットとして用いることが好ましい。
【0053】
<水系インク>
水系インクは、少なくとも着色材及び水を含有する。
【0054】
〔着色材〕
前記インクに用いられる着色材としては、染料及び顔料のいずれも用いることができる。これらの中でも、該着色材としては、耐水性、耐光性、耐候性等を有する観点から、顔料を用いることが好ましい。
顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれであってもよい。
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、金属酸化物が挙げられる。
黒色インクにおいては、カーボンブラックが好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラックが挙げられる。白色インクにおいては、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム等の金属酸化物が挙げられ、これらの中でも、二酸化チタンが好ましい。
有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、ジアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、チオインジゴ顔料、アントラキノン顔料、キノフタロン顔料が挙げられる。
色相は特に限定されず、有彩色インクにおいては、イエロー、マゼンタ、シアン、レッド、ブルー、オレンジ、グリーン等の有彩色顔料をいずれも用いることができる。
顔料は、1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0055】
水系インクが着色材として顔料を含有する場合、該インク中で顔料は媒体に分散されてなる。水系インクに用いられる顔料は、自己分散型顔料の形態、及び顔料をポリマーで分散させた粒子の形態から選ばれる1種以上の形態で用いることができる。中でも、顔料の分散安定性、並びに基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、水系インク中の顔料の形態は、顔料をポリマー(以下、「顔料分散ポリマー」ともいう)で分散させた粒子の形態であることが好ましい。
ここで、「顔料を顔料分散ポリマーで分散させた粒子」の形態としては、顔料を含有するポリマー粒子(以下、「顔料含有ポリマー粒子」ともいう)の形態が好ましい。顔料含有ポリマー粒子の形態としては、顔料分散ポリマーが顔料を包含した形態の粒子、顔料分散ポリマーと顔料からなる粒子の表面に顔料の一部が露出している形態の粒子、顔料分散ポリマーが顔料の一部に吸着している形態の粒子を意味し、これらの混合物であってもよい。これらの中では、顔料分散ポリマーが顔料を包含した形態の粒子がより好ましい。
【0056】
〔顔料分散ポリマー〕
顔料分散ポリマーは、水系媒体に顔料を分散させる顔料分散能を有するポリマーである。ここで、「水系媒体」とは、水が質量基準で最大の比率を占めている媒体を意味する。
顔料分散ポリマーとしては、ビニル系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリウレタン系ポリマー等が挙げられる。これらの中でも、顔料の分散安定性、並びに基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニルモノマーの付加重合により得られるビニル系ポリマーが好ましい。
【0057】
顔料分散ポリマーは、顔料の分散安定性、並びに基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、イオン性基を有することが好ましい。顔料分散ポリマーがビニル系ポリマーである場合、イオン性基は、イオン性基を有するイオン性ビニルモノマー(以下、「イオン性ビニルモノマー」ともいう)によりビニル系ポリマーの骨格に導入されてなるものが好ましい。
イオン性ビニルモノマーとしては、アニオン性、カチオン性のいずれもが挙げられるが、アニオン性であることが好ましい。アニオン性を発現するイオン性基としては、酸基が好ましく、該酸基としてはカルボキシ基が好ましい。
イオン性ビニルモノマーの具体例としては、特開2018-80255号公報の段落〔0017〕に記載のものが挙げられる。それらの中では、好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる1種以上である。
顔料を顔料分散ポリマーで分散させた粒子において、イオン性ビニルモノマーによって導入されたイオン性基は、その一部又は全部が塩基性化合物又は酸性化合物によって中和されていることが好ましい。顔料分散ポリマーが中和されている状態であれば、顔料分散ポリマーはイオン性を帯び、顔料を水系媒体中で良好に分散させることができる。
【0058】
また、顔料が、有機顔料又は無機顔料としてカーボンブラックである場合は、顔料分散ポリマーは、顔料の分散安定性、並びに基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、疎水性基を有することが好ましい。顔料分散ポリマーがビニル系ポリマーである場合、疎水性基は、上記と同様の観点から、疎水性基を有する疎水性ビニルモノマー(以下、「疎水性ビニルモノマー」ともいう)により顔料分散ポリマーの骨格に導入されてなるものが好ましい。
すなわち、本発明において、顔料が、有機顔料又は無機顔料としてカーボンブラックである場合は、顔料分散ポリマーは、イオン性ビニルモノマー由来の構成単位と、疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを含むビニル系ポリマーが好ましい。
【0059】
疎水性ビニルモノマーの「疎水性」とは、該ビニルモノマーを25℃のイオン交換水100gへ飽和するまで溶解させたときに、その溶解量が10g未満であるものをいい、その溶解量は、好ましくは5g以下、より好ましくは1g以下である。
疎水性ビニルモノマーの疎水性基としては、アルキル基、芳香族基、及びシリコーン基からなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
疎水性ビニルモノマーとしては、好ましくはアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマー、芳香族基含有マクロモノマー、及びシリコーン系マクロモノマーからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは芳香族基含有モノマー及び芳香族基含有マクロモノマーからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは芳香族基含有モノマーである。
疎水性ビニルモノマーの具体例としては、特開2018-80255号公報の段落〔0018〕~〔0021〕に記載のものが挙げられる。これらの中では、好ましくはスチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー;ベンジル(メタ)アクリレート;及びスチレン系マクロマーからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはスチレン系モノマー及びスチレン系マクロマーからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはスチレン系モノマーであり、より更に好ましくはスチレン及びα-メチルスチレンからなる群から選ばれる1種以上である。
【0060】
顔料分散ポリマーは、顔料の分散安定性、並びに基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、ノニオン性基を有していてもよい。顔料分散ポリマーがビニル系樹脂である場合、ノニオン性基は、ノニオン性基を有するノニオン性ビニルモノマー(以下、「ノニオン性ビニルモノマー」ともいう)により顔料分散ポリマーの骨格に導入することができる。すなわち、本発明において、顔料が無機顔料である場合は、顔料分散ポリマーは、イオン性ビニルモノマー由来の構成単位と、ノニオン性ビニルモノマー由来の構成単位とを含むビニル系ポリマーが好ましい。
ノニオン性ビニルモノマーの具体例としては、特開2018-80255号公報の段落〔0022〕~〔0023〕に記載のものが挙げられる。それらの中では、好ましくはメトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;フェノキシ(エチレングリコール・プロピレングリコール共重合)(n=1~30、その中のエチレングリコール:n=1~29)(メタ)アクリレート及びからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートであり、更に好ましくはメトキシポリエチレングリコール(n=1~30)(メタ)アクリレートである。
イオン性ビニルモノマー、疎水性ビニルモノマー、及びノニオン性ビニルモノマーは、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0061】
顔料分散ポリマーは、架橋剤で架橋してもよい。すなわち、水系インク中の顔料の形態は、顔料を架橋された顔料分散ポリマーで分散させた粒子の形態であってもよい。
架橋剤としては、顔料分散ポリマーが有する官能基と反応し得る官能基を2以上有する化合物が挙げられる。例えば、顔料分散ポリマーがカルボキシ基を有する場合、架橋剤としては、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が好ましく挙げられ、炭素数3以上8以下の炭化水素基を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテルがより好ましい。
【0062】
〔定着助剤ポリマー〕
水系インクは、定着助剤として機能するポリマー(以下、「定着助剤ポリマー」ともいう)を更に含有してもよい。定着助剤ポリマーとしては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等の縮合系ポリマー;アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂等のビニル系ポリマーが挙げられる。これらの中でも、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、アクリル系樹脂が好ましい。
定着助剤ポリマーは、顔料を含有しないポリマー粒子として水系インクに含まれることが好ましい。顔料を含有しないポリマー粒子は、インクの生産性を向上させる観点から、水系媒体中に分散してなる水系分散体として用いることが好ましい。
【0063】
定着助剤ポリマーがアクリル系樹脂である場合、定着助剤ポリマーは、好ましくはカルボキシ基含有ビニルモノマー由来の構成単位と、疎水性ビニルモノマー由来の構成単位とを含むアクリル系樹脂である。
カルボキシ基含有ビニルモノマーの具体例としては、特開2018-80255号公報の段落〔0017〕で例示されているカルボン酸モノマーが好ましく挙げられる。それらの中でも、好ましくはアクリル酸及びメタクリル酸からなる群から選ばれる1種以上である。
疎水性ビニルモノマーとしては、特開2018-80255号公報の段落〔0018〕~〔0021〕で例示されているアルキル(メタ)アクリレート、芳香族基含有モノマーが好ましく挙げられる。また、塩化ビニルモノマーも用いることができる。それらの中でも、アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。
カルボキシ基含有ビニルモノマー及び疎水性ビニルモノマーは、それぞれ、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
【0064】
顔料分散ポリマー及び定着助剤ポリマーは、同一でも異なっていてもよい。すなわち、顔料を顔料分散ポリマーで分散させた粒子と、定着助剤ポリマーから構成される顔料を含有しない粒子とは、異なる組成(構造)であってもよく、また、組成(構造)も含めて同一のポリマーであって、顔料の有無だけが異なるものであってもよい。
顔料分散ポリマー及び定着助剤ポリマーは、公知の重合法により重合したものを用いてもよく、また、市販品を用いることもできる。
定着助剤ポリマーとしては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法等より重合してなるものが好ましく挙げられ、乳化重合法により重合して定着助剤ポリマー粒子の水系分散体として水系インクに配合することがより好ましい。
【0065】
水系インクは、上記成分の他に、通常用いられる水溶性有機溶媒、界面活性剤、保湿剤、湿潤剤、浸透剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤等の各種添加剤を含有してもよい。
水系インクは、水と任意の割合で混和できる水溶性有機溶媒を更に含有することが好ましい。水溶性有機溶媒としては、多価アルコール及び多価アルコールアルキルエーテルからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。
水系インクは、界面活性剤を更に含有することが好ましい。
界面活性剤としては、好ましくはシリコーン系界面活性剤、より好ましくはポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤である。
ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤の具体例としては、信越化学工業株式会社製のKFシリーズ;日信化学工業株式会社製のシルフェイスSAG;ビックケミー・ジャパン株式会社製のBYKシリーズ等が挙げられる。
【0066】
(水系インクの各成分の含有量)
水系インク中の着色材の含有量は、画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは6質量%以上であり、そして、基材密着性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは12質量%以下である。
水系インク中の顔料分散ポリマーの含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは0.1質量%以上であり、そして、好ましくは10質量%以下、より好ましくは6質量%以下、更に好ましくは4質量%以下である。
水系インク中の顔料及び顔料分散ポリマーの合計含有量に対する顔料の質量割合(顔料導入率)は、画像鮮明性の観点から、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上であり、そして、基材密着性の観点から、好ましくは99質量%以下、より好ましく98質量%以下である。
水系インク中の定着助剤ポリマーの含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下である。
水系インク中の水溶性有機溶媒の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは45質量%以下、より好ましく40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
水系インク中の水の含有量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。
【0067】
水系インクの平均粒径は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは90nm以上であり、そして、前記と同様の観点から、好ましくは500nm以下、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
水系インクの平均粒径は、実施例に記載の方法で測定することができる。
水系インクの粘度(32℃)が、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは2mPa・s以上、更に好ましくは3mPa・s以上であり、そして、好ましくは30mPa・s以下、より好ましくは20mPa・s以下、更に好ましくは10mPa・s以下である。
水系インクの静的表面張力(20℃)が、好ましくは15mN/m以上、より好ましくは20mN/m以上、更に好ましくは25mN/m以上であり、そして、好ましくは40mN/m以下、より好ましくは35mN/m以下、更に好ましくは30mN/m以下である。
水系インクのpH(25℃)が、好ましくは5以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは7.5以上、より更に好ましくは8以上、より更に好ましくは8.5以上であり、そして、好ましくは10以下、より好ましくは9.7以下、更に好ましくは9.5以下である。
【0068】
[画像形成方法]
前述のインクセットを用いた画像形成方法としては、下記工程1及び工程2を含む方法が好ましい。
工程1:前記前処理液を印刷基材に付与した後、該印刷基材上の該前処理液を乾燥し、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層を少なくとも一方の面に有する表面処理印刷基材を得る工程
工程2:工程1で得られた表面処理印刷基材のスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層に、少なくとも着色材及び水を含有する水系インクを付与して画像を形成する工程
【0069】
(工程1)
工程1は、前記前処理液を印刷基材に付与した後、該印刷基材上の該前処理液を乾燥し、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層を少なくとも一方の面に有する表面処理印刷基材を得る工程である。
【0070】
工程1で用いる印刷基材としては、コート紙及び樹脂フィルム等の低吸液性基材が好ましく挙げられ、基材密着性の効果を発揮する観点から、樹脂フィルムがより好ましい。
樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエステルフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、及びナイロンフィルムからなる群から選ばれる1種以上が好ましく挙げられる。これらの樹脂フィルムは、二軸延伸フィルム、一軸延伸フィルム、無延伸フィルムであってもよく、必要に応じてコロナ処理等の表面処理を行っていてもよい。
工程1で用いる印刷基材の厚さは特に制限はない。印刷基材としては、厚さ1μm未満の薄肉フィルムを用いることもできるが、基材の変形抑制、及び入手性の観点から、印刷基材の厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、そして、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは30μm以下である。
樹脂フィルムの市販品としては、「FOR-AQ」(フタムラ化学株式会社製、コロナ処理二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、厚さ30um)、「ルミラーT60」(東レ株式会社製、ポリエチレンテレフタレート)、「FE2001」(フタムラ化学株式会社製、コロナ処理ポリエチレンテレフタレート)、「PVC80B P」(リンテック株式会社製、塩化ビニル)、「カイナスKEE70CA」(リンテック株式会社製、ポリエチレン)、「ユポSG90 PAT1」(リンテック株式会社製、ポリプロピレン)、「ボニールRX」(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製、ナイロン)等が挙げられる。
【0071】
前記前処理液の印刷基材への付与方法については、特に制限はなく、塗布法、浸漬法、インクジェット方式による方法等の公知の方法が挙げられる。塗布法、浸漬法としては、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、ブレードコーター、ワイヤーバーコーター、ロッドコーター、含浸コーター、キャストコーター、エアーナイフコーター、リバースコーター、リップコーター、キスコーター等を用いる方法が挙げられる。これらの中でも、好ましくは塗布法及びインクジェット方式による方法からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは塗布法である。
【0072】
前記前処理液の印刷基材への付与量は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、固形分で、好ましくは0.1g/m2以上、より好ましくは0.2g/m2以上、更に好ましくは0.3g/m2以上であり、そして、好ましくは10g/m2以下、より好ましくは8g/m2以下、更に好ましくは5g/m2以下、より更に好ましくは3g/m2以下、より更に好ましくは1g/m2以下である。
【0073】
工程1において、前記前処理液を印刷基材に付与した後、該印刷基材上の前処理液を乾燥させる。乾燥方法は特に制限されず、自然乾燥、熱風乾燥等の公知の方法を採用することができる。
工程1における乾燥温度は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして、印刷基材の熱による変形を抑制する観点、及びエネルギー低減の観点から、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは120℃以下、より更に好ましくは90℃以下である。
工程1における乾燥時間は、基材密着性及び画像鮮明性を向上させる観点から、好ましくは1秒以上、より好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上であり、そして、印刷基材の熱による変形を抑制する観点、及びエネルギー低減の観点から、好ましくは30分以下、より好ましくは15分以下である。
【0074】
(工程2)
工程2は、工程1で得られた表面処理印刷基材のスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)及びポリウレタン樹脂(b)を含む表面処理層に、水系インクを付与して画像を形成する工程である。
工程2において水系インクを付与して画像を形成する方法には特に制限はなく、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等が挙げられる。これらの中でも、インクジェット印刷に用いることが好ましい。インクジェット印刷は、インクジェット記録ヘッドの吐出ノズルから表面処理印刷基材の表面処理層に水系インクを吐出して画像を形成することができる。
インクジェット印刷における吐出方式としては、ピエゾ方式及びサーマル方式のいずれも好ましく採用することができる。
工程2において画像の形成に用いる水系インクが2色以上である場合には、インクジェット印刷に用いるインクジェット記録装置は、2色以上の水系インクを吐出する複数のインクジェット記録ヘッドを有していてもよい。
【実施例0075】
以下の合成例、製造例、実施例及び比較例において、「部」は特記しない限り「質量部」である。各種の物性は、以下の方法により測定又は算出した。
【0076】
(1)顔料分散ポリマーの重量平均分子量(Mw)の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー法により求めた。測定試料は、ガラスバイアル中に顔料分散ポリマー0.1gを下記溶離液10mLと混合し、25℃で10時間、マグネチックスターラーで撹拌し、シリンジフィルター「DISMIC-13HP」(PTFE製、0.2μm、アドバンテック株式会社製)で濾過したものを用いた。測定条件を下記に示す。
GPC装置:東ソー株式会社製「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperAWM-H」、「TSKgel SuperAW3000」、「TSKgel guardcolum Super AW-H」
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液
流速:0.5mL/min
標準物質:分子量既知の単分散ポリスチレンキット 東ソー株式会社製「PStQuick b(F-550、F-80、F-10、F-1、A-1000)」、「PStQuick c(F-288、F-40、F-4、A-5000、A-500)」
【0077】
(2)スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の重量平均分子量(Mw)の測定
ゲル浸透クロマトグラフィー法により求めた。測定試料は、N,N-ジメチルホルムアミドにスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)を溶解した溶液(固形分濃度0.3質量%)を調製し、その溶液100μLを用いた。測定条件を下記に示す。
GPC装置:東ソー株式会社製「HLC-8120GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSKgel α-M」×2本
溶離液:N,N-ジメチルホルムアミドに、リン酸及びリチウムブロマイドをそれぞれ60mmol/Lと50mmol/Lの濃度となるように溶解した液
流速:1.0mL/min
標準物質:分子量既知の単分散ポリスチレン
【0078】
(3)固形分濃度の測定
30mLのポリプロピレン製容器(φ:40mm、高さ:30mm)を精秤し、該容器中にデシケーターで恒量化した硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬工業株式会社製 試薬)約10.0gを量り取って硫酸ナトリウムの質量を精秤した。そこへ、測定サンプル約1gを添加して混合させた後、測定サンプルの質量を精秤した。次いで、105℃で2時間維持して揮発分を除去し、デシケーター内で更に15分間放置した後、揮発分除去後の測定サンプルを含む容器全体の質量を精秤した。該容器全体の質量の精秤値から容器及び硫酸ナトリウムの質量の精秤値を差し引いて揮発分除去後の測定サンプル(残渣)の質量を算出した。揮発分除去後の測定サンプル(残渣)の質量を、揮発分除去前の測定サンプルの質量の精秤値で除して固形分濃度(質量%)とした。
【0079】
(4)平均粒径の測定
レーザー粒子解析システム「ELS-8000」(大塚電子株式会社)を用いて測定されるキュムラント平均粒径を、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルション、ポリウレタン樹脂(b)のエマルション、水分散体中の顔料含有ポリマー粒子又は定着助剤ポリマー粒子及び水系インクのそれぞれの平均粒径とした。
測定条件は、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回であり、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力した。測定試料の固形分濃度は、5×10-3質量%とした。
【0080】
(5)顔料含有ポリマー粒子の水分散体及び前処理液の粘度の測定
E型粘度計(東機産業株式会社製、型番:TV-25、標準コーンロータ1°34’×R24使用、回転数100rpm)にて20℃における顔料含有ポリマー粒子の水分散体又は前処理液の粘度を測定した。
【0081】
(6)水系インクの粘度の測定
上記E型粘度計「TV-25」によって、標準コーンロータ1°34’×R24を用い、回転数50rpmで、32℃における水系インクの粘度を測定した。
【0082】
(7)水系インク及び前処理液の静的表面張力の測定
20℃に調整したサンプル5gの入った円柱ポリエチレン製容器(直径3.6cm×深さ1.2cm)に白金プレートを浸漬し、表面張力計(協和界面化学株式会社製、「CBVP-Z」)を用いて、ウィルヘルミ法で20℃における静的表面張力を測定した。
【0083】
(8)pHの測定
pH電極「6337-10D」(株式会社堀場製作所製)を使用した卓上型pH計「F-71」(株式会社堀場製作所製)を用いて、25℃におけるpHを測定した。
【0084】
合成例1-1(顔料分散ポリマー(I-1)の合成)
メタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)16部、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製)44部、スチレンマクロモノマー「AS-6S」(東亞合成株式会社製、数平均分子量6,000、固形分50%)30部、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート「ブレンマーPME-200」(日油株式会社)25部を混合し、モノマー混合液115部を調製した。
反応容器内に、メチルエチルケトン(以下、「MEK」ともいう)18部及び連鎖移動剤として2-メルカプトエタノール0.03部、及び前記モノマー混合液の10質量%(11.5部)を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
別途、滴下ロートに前記モノマー混合液の残りの90質量%(103.5部)、2-メルカプトエタノール0.27部、MEK42部及び重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)「V-65」(富士フイルム和光純薬株式会社製)3部を混合した混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の混合液を撹拌しながら75℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から75℃で2時間経過後、前記重合開始剤3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に75℃で2時間、80℃で2時間熟成させ、更にMEK50部を加え、顔料分散ポリマー(I-1)(重量平均分子量:50,000)のMEK溶液(固形分濃度45質量%)であった。
【0085】
製造例1-1(黒色顔料含有ポリマー粒子の水分散体Kの製造)
合成例1-1で得られた顔料分散ポリマー(I-1)のMEK溶液95.2部及びMEK53.9部を混合し、中和剤として5N水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウムの含有量16.9質量%)15.0部とアンモニア水(アンモニア含有量25質量%)0.5部、及びイオン交換水341.3部を加え、更にカーボンブラック顔料としてC.I.ピグメント・ブラック7(P.B.7、キャボット社製)100部を加えて顔料混合物を得た。顔料分散ポリマー(I-1)の中和度は水酸化ナトリウムに対して80モル%、アンモニアについて9モル%であった。
得られた顔料混合物を、ディスパー翼を用いて7,000rpm、20℃の条件下で1時間混合し、更にマイクロフルイダイザー「高圧ホモジナイザーM-140K」(Microfluidics社製)を用いて、180MPaの圧力で15パス分散処理し、黒色顔料分散液を得た。
得られた黒色顔料分散液を、減圧下60℃でMEKとアンモニアを除去し、更に一部の水を除去した後、遠心分離し、液相部分をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5μm、材質:酢酸セルロース)でろ過して粗大粒子を除き、黒色顔料含有ポリマー粒子の水分散体(固形分濃度25質量%)であった。
得られた黒色顔料含有ポリマー粒子の水分散体100部に対して、エポキシ架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、商品名「デナコールEX-321L」、エポキシ当量130)0.45部及びイオン交換水15.23部を加え、撹拌しながら70℃、3時間の加熱をした後、室温まで冷却し、上記フィルターでろ過して粗大粒子を除き、黒色顔料を架橋された顔料含有ポリマー(I-1)で分散してなる黒色顔料含有ポリマー粒子の水分散体K(固形分濃度22質量%)を得た。得られた黒色顔料含有ポリマー粒子の水分散体Kの各種物性を表1に示す。
【0086】
製造例1-2(白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体Wの製造)
5Lポリ容器に、ポリアクリル酸の水溶液(東亞合成株式会社製、商品名「ジュリマーAC-10SL」、固形分濃度40質量%)2500部、及びイオン交換水3.57部を添加し、該容器を氷浴で冷却、溶液を100rpmで撹拌しながら5N水酸化ナトリウム水溶液1666.43部をゆっくりと添加して中和させた。中和させた水溶液にイオン交換水を添加して固形分濃度を20質量%に調整して、ポリアクリル酸の水酸化ナトリウム中和物水溶液を得た。
2Lポリ容器に、ポリアクリル酸の水酸化ナトリウム中和物水溶液を30.0部、C.I.ピグメント・ホワイト6(P.W.6、石原産業株式会社製、酸化チタン(銘柄:CR80))を300部、及び水を306部加えて、ジルコニアビーズを1000部添加して、卓上型ポットミル架台(アズワン株式会社)にて8時間分散を行った。金属メッシュを用いてジルコニアビーズを除去し、イオン交換水で固形分濃度を調整して白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体W(固形分濃度30質量%)を得た。得られた白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体Wの各種物性を表1に示す。
【0087】
【0088】
製造例2-1(定着助剤ポリマー(II-1)粒子の水分散体Pの製造)
1000mLセパラブルフラスコ中にメタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)5部、メチルメタクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)145部、2-エチルヘキシルアクリレート(富士フイルム和光純薬株式会社製)50部、及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(花王株式会社製、乳化剤、商品名「ラテムルE-118B」、有効分26質量%)18.5部、イオン交換水96部、過硫酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を仕込み、撹拌羽根で撹拌(300rpm)し、モノマー乳化液を得た。
別途、反応容器内に、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(ラテムルE-118B)4.6部、イオン交換水186部、及び過硫酸カリウム0.08部を入れ、窒素ガス置換を十分行った。窒素雰囲気下、撹拌羽根で撹拌(200rpm)しながら80℃まで昇温し、前記モノマー乳化液を滴下ロート中に仕込み、該モノマー乳化液を3時間かけて滴下して反応させて、定着助剤ポリマー(II-1)粒子の水分散体P(固形分濃度41.6質量%)を得た。得られた水分散体P中の定着助剤ポリマー(II-1)粒子の平均粒径は100nmであった。
【0089】
製造例I-1(黒色水系インクBk-1の製造)
製造例1-1で得られた黒色顔料含有ポリマー粒子の水分散体K(固形分濃度22質量%)508.94部、製造例2-1で得られた定着助剤ポリマー(II-1)粒子の水分散体P(固形分濃度41.6質量%)48.28部、プロピレングリコール(沸点188℃)286.00部、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点230℃)44.00部、シリコーン系界面活性剤(信越化学工業株式会社製、ポリエーテル変性シリコーン、商品名「KF-6011」、HLB14.5)(以下、「KF-6011」と表記する)5.50部、及びイオン交換水207.28部を添加して混合した。得られた混合液をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5.0μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、黒色水系インクBk-1を得た。該黒色水系インクの各種物性を表2に示す。
【0090】
製造例I-2(白色水系インクW-1の製造)
製造例1-2で得られた白色顔料含有ポリマー粒子の水分散体W(固形分濃度30質量%)374.15部、製造例2-1で得られた定着助剤ポリマー粒子の水分散体P(固形分濃度41.6質量%)132.63部、プロピレングリコール(沸点188℃)286.00部、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点230℃)44.00部、シリコーン系界面活性剤(KF-6011)5.50部、1N水酸化ナトリウム水溶液22.81部、及びイオン交換水234.91部を添加して混合した。得られた混合液をフィルター「ミニザルトシリンジフィルター」(ザルトリウス社製、孔径:5.0μm、材質:酢酸セルロース)で濾過し、白色水系インクW-1を得た。該白色水系インクの各種物性を表2に示す。
【0091】
【0092】
(スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)の合成)
合成例2-1及び比較合成例2-1
表3に示す原料モノマー、及びジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(原料モノマー総量100質量部に対する量:0.5質量部)を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した内容量500mLの四つ口フラスコに入れ、マントルヒーター中で、大気圧の窒素雰囲気下、180℃から210℃まで2時間かけて昇温してさらに210℃で1時間反応させた後、減圧して8.3kPaの圧力下で更に1時間反応した。得られたスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a1)及びスルホン酸基を有さないポリエステル樹脂(ac1)は、それぞれ室温まで冷却後に細かく粉砕して粉末状にして得た。スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a1)及びスルホン酸基を有さないポリエステル樹脂(ac1)のスルホン酸基密度及び重量平均分子量をそれぞれ表3に示す。
【0093】
【0094】
(スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルションの製造)
製造例II-1
イオン交換水75gを耐熱ガラス瓶に入れ、スターラーにて100rpm条件で撹拌しながら室温から80℃まで昇温した。80℃に到達したら、粉末状のスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a1)を25g添加し、5時間撹拌を継続し、均一な乳白色に変化したら室温まで冷却し、金属メッシュで濾過してスルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a1)のエマルションを得た。スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a1)のエマルションの固形分濃度は25質量%、平均粒径は58nm、pHは5.2であった。
【0095】
比較製造例II-1
イオン交換水74.5g及びN-メチルジエタノールアミン0.5gを耐熱ガラス瓶に入れ、スターラーにて100rpm条件で撹拌しながら室温から80℃まで昇温した。80℃に到達したら、粉末状のスルホン酸基を有さないポリエステル樹脂(ac1)を25g添加し、5時間撹拌を継続し、均一な乳白色に変化したら室温まで冷却し、金属メッシュで濾過してスルホン酸基を有さないポリエステル樹脂(ac1)のエマルションを得た。スルホン酸基を有さないポリエステル樹脂(ac1)のエマルションの固形分濃度は25質量%、平均粒径は66nm、pHは6.1であった。
【0096】
(ポリウレタン樹脂(b)のエマルションの製造)
製造例III-1
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、表4に示す配合組成にて、1,4-ブタンジオールからなるポリエーテルポリオール、イソホロンジイソシアネート、及びMEKを加え、75℃で1時間反応させることで、プレポリマーを30質量%含むMEK溶液を得た。さらに、ジメチロールプロピオン酸、トリエチルアミン、及びMEKを加え、75℃で1時間反応させ、プレポリマーを50質量%含むMEK溶液を得た。次に、この溶液を45℃まで冷却し、続いて、水及びジエチルアミンを混合してジメチロールプロピオン酸由来の構成単位の少なくとも一部をジエチルアミン塩とした乳化分散液を得た。得られた乳化分散液を50℃で2時間減圧蒸留してMEK及び一部の水を留去し、固形分濃度25質量%のポリウレタン樹脂(b1)のエマルションを得た。ポリウレタン樹脂(b1)のエマルションの平均粒径を表4に示す。
【0097】
製造例III-2
表4に示す配合組成に変更した以外は、製造例III-1と同様の方法でポリウレタン樹脂(b2)のエマルションを得た。ポリウレタン樹脂(b2)のエマルションの平均粒径を表4に示す。
【0098】
【0099】
表4において使用した各成分は以下の通りである。
1,4-ブタンジオールからなるポリエーテルポリオール:ポリテトラメチレンエーテルグリコール(グレード:PTMG1000)、分子量1,000、水酸基価112.2(mgKOH/g)(三菱ケミカル株式会社製)
1,6-ヘキサンジオールからなるポリカーボネートポリオール:ポリカーボネートジオール(グレード:デュラノールT6002)、分子量2,000、水酸基価56.1(mgKOH/g)(旭化成株式会社製)
イソホロンジイソシアネート:東京化成工業株式会社製 試薬
4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート:東京化成工業株式会社製 試薬
ジメチロールプロピオン酸:東京化成工業株式会社製 試薬
トリエチルアミン:東京化成工業株式会社製 試薬
ジエチルアミン:東京化成工業株式会社製 試薬
【0100】
実施例1~5及び比較例1~2
以下に示す手順で前処理液1~5及びC1~C2を調製し、得られた各前処理液を塗布した印刷基材にインクジェット印刷を行い、基材密着性及び画像鮮明性を評価した。
(前処理液の調製)
表5に示す量のイオン交換水、有機溶媒(d)としてジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及び塩基性化合物(c)としてN-メチルジエタノールアミンを200mLビーカーに入れ、室温にてスターラーで30分間撹拌して混合液を得た。次いで、スルホン酸基含有ポリエステル樹脂(a)のエマルション、ポリウレタン樹脂(b)のエマルション、界面活性剤として2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのプロピレングリコール溶液(有効分50質量%)(日信化学工業株式会社製、商品名「サーフィノール104PG50」)を該混合液に入れ30分間撹拌した後、金属メッシュで濾過して前処理液1~5及びC1~C2を得た。
【0101】
(工程1:表面処理印刷基材の作製工程)
下記の低吸液性印刷基材をA4サイズにカットし、ワイヤーバーコーター#4を用いてコロナ処理面に各前処理液を塗布した。次いで、60℃に設定した乾燥機にいれ10分間乾燥させ、各前処理液で処理してなる表面処理OPP基材を得た。低吸液性印刷基材に対する前処理液の付与量は、固形分として0.8g/m2であった。
〔低吸液性印刷基材〕
コロナ処理OPP(フタムラ化学株式会社製、商品名「FOR-AQ」、コロナ処理二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、厚さ30um)
【0102】
(工程2:画像形成工程)
(1)黒色水系インクを用いた基材密着性の評価用印刷物の作製
温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェット記録ヘッド(京セラ株式会社製「KJ4B-HD06MHG-STDV」、ピエゾ式)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)に表2に記載の黒色水系インクBk-1を充填した。
印刷条件(ヘッド電圧26V、駆動周波数20kHz、吐出液滴量7pL、ヘッド温度32℃、記録解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPa)を設定し、印刷基材の長手方向と搬送方向が同じになる向きに、印刷基材として工程1で得られた表面処理OPP基材を搬送台に減圧で固定した。
前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、Duty100%のベタ画像を10cm×10cmの範囲に印刷し、印刷箇所が60℃で10分間保持されるようにホットプレート上にて加熱乾燥を行い、黒色水系インクを用いてベタ画像を形成した基材密着性の評価用印刷物を得た。
【0103】
(2)画像鮮明性の評価用印刷物の作製
前記(1)と同様の印刷条件を設定し、前記(1)と同様の方法で印刷基材として工程1で得られた表面処理OPP基材を搬送台に減圧で固定した。
前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、Duty100%の6ptのアルファベット抜き文字(アルファベット文字部分はインクを印刷せず、アルファベット文字の背景となる部分に黒ベタ印刷する)を印刷し、印刷箇所が60℃で10分間保持されるようにホットプレート上にて加熱乾燥を行い、黒色水系インクを用いた印刷物を得た。
次いで、温度25±1℃、相対湿度30±5%の環境で、インクジェット記録ヘッド(京セラ株式会社製、「KJ4B-HD06MHG-STDV」、ピエゾ式)を装備した印刷評価装置(株式会社トライテック製)に白色水系インクW-1を充填した。
印刷条件(ヘッド電圧26V、駆動周波数20kHz、吐出液滴量16pL、ヘッド温度32℃、記録解像度600dpi、吐出前フラッシング回数200発、負圧-4.0kPa)を設定し、前記黒色水系インクを用いて印刷された面に更にインクジェット印刷できるように、印刷基材の長手方向と搬送方向が同じになる向きで搬送台に減圧で固定した。
前記印刷評価装置に印刷命令を転送し、Duty100%のベタ画像を該アルファベット抜き文字部分の範囲が完全に被覆されるように印刷した後、該印刷箇所が60℃で10分間保持されるようにホットプレート上にて加熱乾燥を行い、黒色水系インクと白色水系インクを用いた画像鮮明性の評価用印刷物を得た。
【0104】
(印刷物の評価)
〔基材密着性の評価〕
前記(1)の方法により得られた黒色水系インクを用いた評価用印刷物のベタ画像部にテープ(ニチバン株式会社製、セロテープ(登録商標)CT-18S、18mm幅)を貼り付け、テープの端を90°の角度で一気に引き剥がし、引き剥がした後の画像の表面状態を観察し、画像の残存面積を目視にて確認し、インクの基材密着性を評価した。画像の剥離が全くないものを残存面積100%とし、数値化した。結果を表5に示す。
【0105】
〔画像鮮明性の評価〕
前記(2)の方法により得られた黒色水系インクと白色水系インクを用いた画像鮮明性の評価用印刷物の印刷されていない面側からの抜き文字の視認性を確認し、下記評価基準に基づいて画像鮮明性を評価した。結果を表5に示す。
(評価基準)
A:文字の太りや細りが見られず、視認性が良好である。
A-:一部の文字にごくわずかな太りや細りが見られるが、実用上問題はない。
B:一部の文字に太りや細りが見られるが文字は判別可能で実用に供することができる。
C:文字に太りや細りが見られ、実用に供することができない。
【0106】
【0107】
表5から、実施例1~5の前処理液は、比較例1及び2と比べて、OPPに対する密着性に優れていることから、極性の低い低吸液性印刷基材に印刷を行う際においてもインクの基材密着性に優れることがわかる。また、実施例1~5の前処理液は、比較例1及び2と比べて、抜き文字の視認性に優れていることから、異なる色のインク間での滲みが抑制された画像鮮明性に優れる印刷物を得ることができることがわかる。