IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イビデン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-イネ科植物のための成長促進剤 図1
  • 特開-イネ科植物のための成長促進剤 図2
  • 特開-イネ科植物のための成長促進剤 図3
  • 特開-イネ科植物のための成長促進剤 図4
  • 特開-イネ科植物のための成長促進剤 図5
  • 特開-イネ科植物のための成長促進剤 図6
  • 特開-イネ科植物のための成長促進剤 図7
  • 特開-イネ科植物のための成長促進剤 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091096
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】イネ科植物のための成長促進剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/42 20060101AFI20240627BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20240627BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240627BHJP
   A01G 22/22 20180101ALI20240627BHJP
【FI】
A01N37/42
A01N37/36
A01G7/06 A
A01G22/22 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207543
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】高田 久美子
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
【Fターム(参考)】
2B022EA01
2B022EB05
2B022EB06
4H011AB03
4H011BB06
(57)【要約】
【課題】イネ科植物のための成長促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とするイネ科植物のための成長促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とするイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項2】
前記オキソ脂肪酸が、下記式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
[式(I)中、R1は、6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R2は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数2~8のアルキル基を示す。]、
または、下記式(II):
HOOC-(R3)-C(=O)-CH=CH-R4 (II)
[式(II)中、R3は、3個~10個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R4は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数4~11の炭化水素基を示す。]で表される請求項1記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項3】
前記式(I)において、R1が、前記式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含み、および
前記式(II)において、R4が、前記式(II)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含む請求項2記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項4】
前記式(I)で表されるオキソ脂肪酸および前記式(II)で表されるオキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸である請求項3記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項5】
前記式(I)において、R1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、および、R2が、炭素数5のアルキル基であり、ならびに
前記式(II)において、R3が、炭素数7の直鎖または分岐の炭化水素基であり、および、R4が、炭素数7でCH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-の構造を有している請求項3記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項6】
前記オキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項7】
前記イネ科植物の成長促進剤が、少なくとも2種以上のオキソ脂肪酸を含む、請求項1記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項8】
前記式(I)で表される少なくとも1種のオキソ脂肪酸と、前記式(II)で表される少なくとも1種のオキソ脂肪酸とを含む請求項2記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項9】
前記式(I)で表されるオキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸であり、および、前記式(II)で表されるオキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸である請求項8記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項10】
13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸の含有量に対する、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸の含有量の比が、重量比で0.3~2.0である請求項9記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項11】
前記成長促進剤は、平均気温30℃以上の条件下でイネ科植物を栽培する場合に使用される請求項1記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項12】
植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤である請求項1記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項13】
水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩をさらに含む請求項1記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【請求項14】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項13記載のイネ科植物のための成長促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネ科植物のための成長促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
イネは、世界でもっとも重要なヒトの食品作物の1種である。したがって高い生産性が望まれる植物である。しかしながら、イネは高温ストレスによる影響を受けやすく、極端な高温では、イネ収率が低くなってしまう可能性がある。このため、高温下でイネの成長を促進するための研究がなされている。
【0003】
特許文献1には、6-アニリノプリン誘導体によりイネを処理することで、イネの高温ストレスに対する耐性を改善する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、脂肪燃焼効果を示す機能性成分として知られているケトオクタデカジエン酸を、酵素を利用することによって効率良く製造するケトオクタデカジエン酸の製造方法が開示されている。そして、得られたケトオクタデカジエン酸を、強力な抵抗性誘導効果を示すとして利用できることが記載されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、オキソ脂肪酸誘導体またはその塩もしくはエステルを有効成分として含むことを特徴とする、土壌汚染や毒性が低く、抵抗性誘導効果に優れた植物賦活剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-31654号公報
【特許文献2】特開2020-25534号公報
【特許文献3】国際公開第2018/168860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の薬剤は、複雑な化合物であるため、合成するためのコストが高くなる。また、天然に存在する物質ではないので、土壌中に残留すると土壌汚染を引き起こす可能性もあるため、土壌灌注することはできず、使用方法に制限がある。
【0008】
また、特許文献2および3には、抵抗性誘導を発現する植物賦活剤が開示されているが、高温ストレス下でイネの成長を促進することについて知見されているわけではない。
【0009】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、植物に適宜散布または灌注することで、安全に、かつ、安定的および効果的にイネ科植物の成長を促進させることができる成長促進剤、特には高温下での栽培における成長を促進することのできる成長促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むイネ科植物のための成長促進剤に関する。
【0011】
前記オキソ脂肪酸が、下記式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
[式(I)中、R1は、6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R2は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数2~8のアルキル基を示す。]、
または、下記式(II):
HOOC-(R3)-C(=O)-CH=CH-R4 (II)
[式(II)中、R3は、3個~10個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R4は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数4~11の炭化水素基を示す。]
で表されるオキソ脂肪酸であることが好ましい。
【0012】
前記式(I)において、R1が、前記式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含み、および前記式(II)において、R4が、前記式(II)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含むことが好ましい。
【0013】
前記式(I)で表されるオキソ脂肪酸および前記式(II)で表されるオキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸であることが好ましい。
【0014】
前記式(I)において、R1が、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり、および、R2が、炭素数5のアルキル基であり、ならびに前記式(II)において、R3が、炭素数7の直鎖または分岐の炭化水素基であり、および、R4が、炭素数7でCH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-の構造を有していることが好ましい。
【0015】
前記オキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
前記イネ科植物のための成長促進剤は、少なくとも2種以上のオキソ脂肪酸を含むことが好ましい。
【0017】
前記イネ科植物のための成長促進剤は、前記式(I)で表される少なくとも1種のオキソ脂肪酸と、前記式(II)で表される少なくとも1種のオキソ脂肪酸とを含むことが好ましい。
【0018】
前記イネ科植物のための成長促進剤において、前記式(I)で表されるオキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸であり、および、前記式(II)で表されるオキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸であることが好ましい。
【0019】
前記イネ科植物のための成長促進剤であって、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸の含有量に対する、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸の含有量の比が、重量比で0.3~2.0であることが好ましい。
【0020】
前記成長促進剤が、平均気温30℃以上の条件下でイネ科植物を栽培する場合に使用されるイネ科植物のための成長促進剤であることが好ましい。
【0021】
前記イネ科植物のための成長促進剤が、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられるイネ科植物のための成長促進剤であることが好ましい。
【0022】
前記イネ科植物のための成長促進剤は、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩をさらに含むことが好ましい。
【0023】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
なお、「オクタデカエン酸」は慣用的な表記であり(例えば、特開平3-14539号公報等)、上述の「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」は、「9,10,13-トリヒドロキシオクタデカ-11-エン酸」または「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」とも表記される。「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(1)で示されるものである。
【0025】
【化1】
【0026】
同様に、上述の「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」は、「9,12,13-トリヒドロキシオクタデカ-10-エン酸」または「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」とも表記される。「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(2)で示されるものである。
【0027】
【化2】
【発明の効果】
【0028】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、イネ科植物の良好な成長を促進し得る。また、栽培されるイネ科植物が高温ストレスに暴露されたまたは暴露されるであろう場合にも、本発明の成長促進剤をイネ科植物に処理することによって、高温障害が起こることなくその植物の成長を顕著に促進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】高温条件に付される各供試作物の成長促進剤液施用前の生育状態を示す図である。
図2】成長促進剤液施用後、高温条件下で栽培された各供試作物の生育状態を示す図である。
図3】通常温度条件に付される各供試作物の成長促進剤液施用前の生育状態を示す図である。
図4】成長促進剤液施用後、通常温度条件下で栽培された各供試作物の生育状態を示す図である。
図5】高温条件下での生育調査の結果を示す図である。
図6】高温条件下での生育調査の結果を示す図である。
図7】通常温度条件下での生育調査の結果を示す図である。
図8】通常温度条件下での生育調査の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とするイネ科植物のための成長促進剤である。
【0031】
本発明におけるイネ科植物とは、おおよそ700属と8000種が属する被子植物単子葉類の科の植物を意味し、特にはアジアイネを指し、アジアイネの中でも高温耐性の低いジャポニカ種を指す。本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、このようなイネ科植物、特にはアジアイネ、例えばジャポニカ種などに好適に適用される。
【0032】
後記実施例に示すように、イネ科植物に、本発明の成長促進剤を施用すると、イネ科植物の成長を促進することができ、特には高温条件下における栽培でもイネ科植物の成長が促進される。
【0033】
このため、本発明の成長促進剤が施用される植物では、高温ストレスに暴露された場合であっても、植物の成長における高温障害は見られず、したがって、高温条件下での栽培でも優れた収量増加効果および向上された収穫効率をもたらすことができる。
【0034】
本明細書において、「植物の成長を促進する(以下、「成長促進」と記すことがある。)」とは、葉面積増加、草丈の増加、植物体重量の増加、種子数または重量の増加、子実の数または重量の増加、根の断面の直径または長さ等の増加、根の数、特には細根数の増加をいう。
【0035】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、その有効成分として、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。
【0036】
より具体的には、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、
下記式(I):
HOOC-(R1)-CH=CH-C(=O)-R2 (I)
[式(I)中、R1は、6個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R2は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数2~8のアルキル基を示す。]、
または、下記式(II):
HOOC-(R3)-C(=O)-CH=CH-R4 (II)
[式(II)中、R3は、3個~10個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の、飽和または不飽和の炭化水素基を示す。R4は、1つまたはそれ以上の分岐および/または二重結合を含んでいてもよい、炭素数4~11の炭化水素基を示す。]
で表されるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする。
【0037】
なお、オキソ脂肪酸や上記式(I)または(II)で表される化合物としては、同一の構造式を有するそのすべての幾何異性体および立体異性体を含む。本明細書において使用される場合、用語「立体異性体」は、本開示の化合物に存在し得る様々な立体異性体配置のいずれかを指し得る。例えば本開示の式(I)または(II)で表される化合物は、二重結合を含み、ここで置換基はEまたはZ配置であり得る。
【0038】
好ましくは、本発明のイネ科植物のための成長促進剤に含まれるオキソ脂肪酸において、例えば、上記式(I)のR1は式(I)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含み得る。また、上記式(II)のR4は式(II)におけるカルボニル基のαおよびβ炭素の間の二重結合と共役二重結合を形成する二重結合を含み得る。
【0039】
例えば、オキソ脂肪酸としてはケトオクタデカジエン酸などが好適に挙げられる。さらに好ましくは、上記式(I)において、R1は、炭素数9の直鎖または分岐の炭化水素基であり得、および、R2は、炭素数5のアルキル基であり得る。また、上記式(II)において、R3は、炭素数7の直鎖または分岐の炭化水素基であり得、および、R4は、炭素数7の場合、CH3-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-の構造を有していることが好ましい。
【0040】
例えば、ケトオクタデカジエン酸としては、具体例として、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸等が挙げられる。本明細書における「有効成分」とは、列挙されている具体例を含むオキソ脂肪酸を意味している。オキソ脂肪酸には植物の成長を活性化する特性があるが、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を有効成分として含む本発明のイネ科植物のための成長促進剤を植物の茎葉または根の一部に接触させることで、植物の成長を促進させ、その結果、高い収穫量、および、より良い作物品質を得ることができる。好ましくは、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、有効成分の一つであるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩として、少なくとも2種以上のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を含む。
【0041】
前記オキソ脂肪酸の誘導体としてはエステルが望ましい。本発明のオキソ脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。
【0042】
オキソ脂肪酸の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩等、農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0043】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、有効成分として、少なくとも2種以上のオキソ脂肪酸を含んでいてもよい。2種以上のオキソ脂肪酸を組み合わせることにより、本発明のイネ科植物のための成長促進剤がさらに高い成長促進効果を示すことがある。例えば、2種のオキソ脂肪酸は、上記式(I)で表される少なくとも1種のオキソ脂肪酸と、上記式(II)で表される少なくとも1種のオキソ脂肪酸との組み合わせであり得る。例えば好ましくは、2種のオキソ脂肪酸は、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)と13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)との組み合わせであってもよい。
【0044】
本発明の一実施形態において、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、オキソ脂肪酸として13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体および9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体を含む。例えば、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量は、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量に対して、重量比で1.0~10.0であり、好ましくは2.0~5.0である。
【0045】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤においては、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、テルペンなどのホルモンの前駆体、アミノ酸、核酸、リン脂質などを含んでいてもよい。
【0046】
本発明のイネ科植物の成長促進剤は、本発明のイネ科植物のための成長促進剤で処理されるイネ科植物が、高温ストレスに暴露されたまたは暴露されるであろう植物であっても、当該処理されたイネ科植物に優れた成長促進をもたらすことが可能である。例えば、本発明のイネ科植物のための成長促進剤においては、平均気温30℃以上の条件でイネ科植物を栽培する場合、または平均気温30℃以上の条件でイネ科植物が栽培される可能性がある場合に使用されることが望ましい。このような条件下における栽培では、イネ科植物は高温障害を受けやすく、成長が抑制されるため草丈や重量が増加しないという問題が生じてしまう。本発明はこのような高温条件においても、イネ科植物の成長を促進する働きがあるため、特に有益である。施用されたイネ科植物において高い収穫量が得られる。なお、本明細書において「平均気温」とは、イネ科植物の幼穂形成期中の1日の最高気温の平均値として定義される。
【0047】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤の一実施形態において、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物は、10mg/L以下の濃度で用いられ得る。オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の好ましい濃度は、施用されるイネ科植物の栽培状態および生育段階、イネ科植物のための成長促進剤の施用時期や施用方法等に依存し、また、施用量に適するように適宜設定することができるが、濃度が10mg/Lを超える場合は、植物にとっての薬害を生じる虞がある。オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の濃度の下限は特に限定されないが、0.05mg/L以上が好ましい。本発明の好ましい一実施形態において、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物は、0.05~10mg/Lである。
【0048】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤には、必要に応じて、イネ科植物のための成長促進剤として使用するのに適した相溶性の界面活性剤および/または希釈剤もしくは担体が含有されていてもよい。例えば、希釈剤により、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の溶媒への分散性が向上する場合がある。また、本発明で使用されるオキソ脂肪酸誘導体の希釈剤への溶解性や分散性を向上させるために、例えば分散助剤や湿潤剤などの界面活性剤などが含有されていてもよい。これらの添加成分としては、農業上容認可能な薬剤であれば特に限定されない。また、本発明のイネ科植物のための成長促進剤には、界面活性剤や希釈剤、担体以外の、農薬製剤などに通常用いられる成分、例えばpH調整剤、イネ科の植物体または土壌への展着力を高めるための展着剤、バインダー、抗酸化剤などや例えば1種以上の肥料成分などの植物に有益な他の成分が、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、さらに含有されていてもよい。
【0049】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤には、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物が含まれていればよく、それらの由来などは特に限定されるものではない。本発明のケトオクタデカジエン酸などのオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩は例えば化学合成によって得られるものでもよく、また、例えば微生物を用いて製造されるものや微生物由来の酵素を脂肪酸などの基質に作用させて得られるものなどであってもよい。本発明のイネ科植物のための成長促進剤には所望の濃度のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物が含まれていればよく、例えばオキソ脂肪酸誘導体として、微生物を用いて製造されるオキソ脂肪酸が使用される場合、オキソ脂肪酸を含有する混合物がイネ科植物のための成長促進剤に使用されてもよい。微生物によって分泌されたバイオサーファクタントなどが混合物中に含まれている場合、前述したような添加成分を含有させなくても、本発明のイネ科植物のための成長促進剤の分散性を向上させる可能性がある。オキソ脂肪酸やその誘導体自体が不溶性である場合に、バイオサーファクタントにより乳化して水に分散させることができる場合がある。
【0050】
本発明の一実施形態において、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、有効成分としてオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩をさらに含んでいてもよい。さらに賦活効果の高いイネ科植物のための成長促進剤が得られることがある。
【0051】
水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩としては、以下の式(III)および/または(IV)で示される構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩が好適に使用され得る。
HOOC-(R5)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R6 (III)、および/または
HOOC-(R5)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R6 (IV)
(式(III)および/または(IV)中、R5は、4個~12個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない。R6は、2個~8個の炭素原子を有する直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)。
【0052】
なお、水酸化脂肪酸の誘導体やその塩としては、オキソ脂肪酸の誘導体またはその塩として上記に例示されたものが好適に使用され得る。また、本開示の水酸化脂肪酸は、式(III)および/または(IV)で表される化合物のすべての幾何異性体および立体異性体を含む。
【0053】
本発明の一実施形態において、上記式(III)および/または(IV)におけるR5の炭化水素基は6個~8個の炭素原子を有し、R6の炭化水素基は4個~6個の炭素原子を有する。また、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR5は、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、R6は、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である。さらに、別の一実施形態において、上記水酸化脂肪酸におけるR5は、炭素数7のアルキレン基(-(CH27-)であり、R6は、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)であることが好ましい。
【0054】
好ましくは、本開示の水酸化脂肪酸は、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸からなる群より選択される少なくとも1種であり得るがこれらに限定されるわけではない。
【0055】
上述されるように、本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物含むイネ科植物のための成長促進剤は、イネ科植物に施用されることにより、イネ科植物に優れた成長促進をもたらし、その結果、イネ科植物の子実の成長を促進し、子実の収量を高める顕著に優れた植物賦活効果を示すことを特徴とする。
【0056】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、施用されるイネ科植物において、葉中での存在量と子実の収量とに相関があると考えられる葉中の糖やアミノ酸の含有量を増加させることができる。すなわち、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、植物の子実の成長を促進し、植物個体あたりの子実重および子実数を増加させることができる。よって、本発明のイネ科植物の成長促進剤は収量増加剤である。なお、子実の「収量増加」とは、収穫される子実が増大することを意味し、例えば植物個体あたりの子実重量および/または子実数が、本発明のイネ科植物のための成長促進剤で処理されなかった植物群よりも増加することを意味している。
【0057】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤はまた、施用されるイネ科植物において、子実の収量増加に関連する葉中の植物ホルモンの含有量を増加させることができる。本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、例えば、花芽形成促進および子房の成長促進の生理作用をもつ植物ホルモンの含有量を増加させることができる。
【0058】
したがって、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、イネ科の穀物類の収量増加に好適に使用することができる。施用されたイネ科植物において子実収量の多収化が達成され得る。本発明のイネ科植物のための成長促進剤が施用されるイネ科植物としては、イネ(米)に限定される訳ではなく、例えば、コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ハダカムギ等のムギ類、イネ、モロコシ、トウモロコシ、アワ、キビ、ヒエ、シコクビエ、トウジンビエ、シバなどの植物に好適に施用され得る。
【0059】
また、本発明のイネ科植物の成長促進剤が施用され得るイネ(米)の種類としては、上述したアジアイネやアジアイネのジャポニカ種などに限定される訳ではなく、目的に応じて適宜選択することができる。例示され得るイネの品種としては、例えば、白鶴錦、山田錦、五百万石、美山錦、雄町、八反、八反錦、吟風、ゆめさんさ、若水、夢の香等の酒米、日本晴、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、キヌヒカリ、ななつぼし、はえぬき等の食用米などが挙げられる。
【0060】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、任意の方法でイネ科の植物に施用することができる。当該植物の根、茎、葉等の植物体に接触する方法であれば施用方法は特に限定されない。本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、イネ科の植物体に直接接するように施用されてもよく、また、イネ科の植物体が定着した土壌、培地等の栽培担体に施用してもよい。例えば、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として使用され得る。具体的な施用方法は、施用されるイネ科植物の栽培形態等によって適宜選択され得るが、例えば、地上液剤散布、地上固形散布、空中液剤散布、空中固形散布、液面散布、施設内施用、土壌混和施用、土壌灌注施用、塗布処理等の表面処理、育苗箱施用、単花処理、株元処理等が例示され得る。また、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、イネ科植物の肥料成分と混合して、植物用肥料として使用してもよい。また、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、多孔質構造体やカプセル内に包含されたり、シート等に含侵されたりして、徐放性の薬剤として使用されてもよい。本発明のイネ科植物のための成長促進剤としての形態は特に限定されない。本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、液状またはゲル状の形態であってもよく、また固体状態(ブロック状、粉末状、顆粒状等)の形態であってもよい。液状組成物の場合、そのまま、あるいは希釈して使用する濃縮タイプとすることができる。本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、イネ科植物の栽培において植物に植物成長促進効果を付与し、施用された植物において、作物重量の増加などの植物体の増加による子実収量増大、および、花芽形成促進作用を及ぼすことなどによる子実の多収化および収穫効率の向上をもたらす。
【0061】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、散布等の簡便な処理によってイネ科植物に対して成長促進効果をもたらすことができるため、特殊な設備等を用意する必要がなく、この点においても本発明は非常に有利である。さらに、オキソ脂肪酸などは、天然に存在する脂肪酸の酸化物であり、本発明のイネ科植物のための成長促進剤の環境負荷は低く、かつ、施用されるイネ科植物への薬害もほとんどないという点においても、本発明のイネ科植物のための成長促進剤は優れている。
【0062】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤のイネ科の植物体および/または栽培担体への施用は、例えば、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物が、水および/または水溶性溶媒に溶解または分散した液体の状態でイネ科植物体および/または栽培担体に施用される方法によって行うことができる。例えば、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物が溶解または分散された液体が、対象の植物体の地上部(茎、葉等)に噴霧または塗布され得る。
【0063】
本発明のイネ科植物のための成長促進剤の対象植物への施用は、当該植物の種々の生育ステージであり得る。例えば、施用は、播種後出芽前後などの発芽期、育苗時、苗移植時、栄養生長期、分げつ期、幼穂形成期、穂ばらみ期、開花前、出穂直前または出穂期などの生殖生長期などであって良い。施用は、例えば苗移植時などに少なくとも一回行われればよい。また、複数回に分けて施用されてもよい。本発明のイネ科植物のための成長促進剤は、高温条件での栽培において、当該植物の成長を顕著に促進することができるため、平均気温が30℃以上である場合や、平均気温が30℃以上になることが予想される場合に好適に施用され得る。
【実施例0064】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
・成長促進剤液の調製
脂肪酸を含む原料として、純度90%のリノール酸(日油(株)製)580gを用い、これに炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)216g、リン酸水素二カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)280g、および、蒸留水13000mLを加えて試験溶液を調製した。この時の試験溶液のpHは9.0であった。
【0066】
試験溶液にリポキシゲナーゼ(ナカライテスク(株)製、大豆由来)を40mg添加し、酸素を曝気し攪拌しながら15℃で3時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に90分間置いた。得られた反応溶液をA液とした。
【0067】
A液6500mLにリン酸(富士フイルム和光純薬(株)製)35mLを加えてpH7.0に調整した。この溶液に酸素を曝気攪拌しながら50℃で22時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に2時間置いた。得られた反応液をB液とした。
【0068】
上記で得られたA液全量とB液全量を混合し、得られた混合液を、標準物質としてケイマンケミカル社製の13-oxoODA(13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、13-oxo-9,11-octadecadienoic acid)、9-oxoODA(9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、9-oxo-10,12-octadecadienoic acid)、およびラローダンファインケミカルズ社製の9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸(9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸、9,10,13-trihydroxy-11-octadecenoic acid)、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸(9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸、9,12,13-trihydroxy-10-octadecenoic acid)を用い、MS2スペクトル解析を用いてLC-MSにて定量した。また、ケトオクタデカジエン酸(13-oxoODA、9-oxoODA)については検出波長 UV 272nmで、トリヒドロキシオクタデカエン酸については検出波長 UV 210nmで、絶対検量線法により定量を行った。
【0069】
(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率3.7%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は1.7%であった。また、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸を併せた収率は、1.2%(LC-MSによるピークの分離不能)であり、リノール酸の回収率は84.1%であった。
【0070】
なお、収率(%)は以下の式に基づいて求めた。
収率(%)=(生成した13-oxoODA、9-oxoODA、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸のwt%)/(使用した原料リノール酸の初期wt%)
【0071】
上記で得られた、A液およびB液の混合液0.8mLをイオン交換水で2000mLに希釈したものを成長促進剤の基準液とし、A液およびB液の混合液4.0mLをイオン交換水で2000mLに希釈したものを成長促進剤の5倍量液(基準液の濃度の5倍の意味)とした。基準液中および5倍量液中の13-oxoODAの濃度はそれぞれ0.4ppm(≒0.37ppm)、2ppm(≒1.9ppm)であった。さらに、基準液と5倍量液を、イオン交換水を用いてそれぞれ1000倍に希釈して、散布用の成長促進剤の基準液と散布用の成長促進剤の5倍量液とした。
【0072】
・イネの成長促進効果
イネ種籾(品種:日本晴)(1区あたり5g)を水に浸し、20℃の人工気象器内で3日間吸水させた後、32℃に一晩おき、鳩胸状に催芽させた。ポット(直径10cm、高さ5cm、容積0.4L)に、オートクレーブ滅菌(120℃、20分間)した培土(野菜と花の種まき培土(タキイ種苗(株)製);肥料成分量は、N:270mg/L、P25:200mg/L、K2O:280mg/L;pH7.0)300mLを詰め、水200mLを混合し、催芽種子(1区あたり8g)を播種した。播種後、人工気象器(LH-60FL3-DT:(株)日本医化器械製作所製)において、日照:明14時間/暗10時間、気温:28℃/23℃設定で栽培した。
【0073】
播種後7日間、幼穂形成期まで栽培した後に、上述の1000倍に希釈した散布用の基準液と5倍量液を葉面にスプレーボトルを用いて散布した。散布は、1ポット当たり、1000倍希釈前の基準液に換算して10μL(基準量区)、1000倍希釈前の5倍量液に換算して10μL分(5倍量区)の施用量となるように行った。また、対照として、イオン交換水を散布用の成長促進剤液(基準液、5倍量液)に代えて、葉面に散布し、無施用区とした。
【0074】
施用後、人工気象器において、通常温度条件(日照:明14時間/暗10時間、気温:28℃/21℃設定)で、または高温条件(日照:明14時間/暗10時間、気温:35℃/25℃設定)で、各供試作物を栽培した。なお、無処理区も、成長促進剤液を散布しないこと以外は、同様に栽培した。
【0075】
施用後7日間栽培した後に各区における供試作物の生育調査を行った。なお、追肥および農薬の散布は実施しなかった。施用前のそれぞれの供試作物および施用後7日間栽培した後のそれぞれの供試作物の生育状態が図1~4に示されている。図1は、高温条件に付される各供試作物の成長促進剤液の施用前の生育状態を示している。図2は、成長促進剤液の施用後、高温条件下で7日間栽培された各供試作物の生育状態を示している。図3は、通常温度条件に付される各供試作物の成長促進剤液の施用前の生育状態を示している。図4は、成長促進剤液の施用後、通常温度条件下で7日間栽培された各供試作物の生育状態を示している。
【0076】
供試作物の生育調査は、各区から無作為に抽出した10株を用いて、草丈および地上部湿重量を測定することにより行われた。草丈は、各供試作物について地上部分の茎の根元から先端の枝葉までの長さを測定したものである。地上部湿重量は、各供試作物の地上部を切り取り、重量を測定して、植物の新鮮重量を求めたものである。各生育調査の結果を表1(高温条件下)および表2(通常温度条件下)、ならびに、図5および6(高温条件下)、図7および8(通常温度条件下)にそれぞれ示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
本実施例の成長促進剤を施用後、35℃の高温条件下で栽培した供試試料区では、表1ならびに図5および6に示されるように、基準量区および5倍量区ともに、無施用区と比較して草丈の長さおよび地上部湿重量が有意に増加した。図1および2の比較からも、35℃の高温条件下の栽培において、基準量区および5倍量区の供試植物の成長が顕著に促進されていることが分かる。一方、供試試料を施用後、28℃の通常温度条件下で栽培した供試試料区は、表2ならびに図7および8に示されるように、基準量区および5倍量区ともに、無施用区と比較して、地上部湿重量が有意に増加していた。図3および4に示されるように、28℃の通常温度条件下の栽培では、草丈の長さは、基準量区と5倍量区とで無施用区より増加したものの、有意差は示さなかった。
【0080】
以上の結果から、本実施例の成長促進剤は、イネ科植物の成長を促進させる賦活剤としての効果を有していることがわかる。さらに、本実施例の成長促進剤は、特に、高温ストレスに暴露されたまたは暴露されるであろうイネ科植物においてもその成長を効果的に促進することがわかる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8