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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091123
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】紙製容器およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 5/44 20060101AFI20240627BHJP
   D21H 21/14 20060101ALI20240627BHJP
   D21H 19/18 20060101ALI20240627BHJP
   D21H 19/20 20060101ALI20240627BHJP
   B65D 5/60 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B65D5/44 Z
D21H21/14 Z
D21H19/18
D21H19/20 A
B65D5/60 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207595
(22)【出願日】2022-12-23
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】川真田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】大根田 真也
(72)【発明者】
【氏名】畠山 知也
【テーマコード(参考)】
3E060
4L055
【Fターム(参考)】
3E060AA03
3E060AB18
3E060BA22
3E060BC02
3E060DA21
4L055AA02
4L055AC06
4L055AC09
4L055AG51
4L055AG58
4L055AG63
4L055AG71
4L055AH24
4L055BE08
4L055EA06
4L055EA10
4L055EA40
4L055FA19
4L055GA05
4L055GA47
4L055GA48
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、従来よりも簡便な方法で十分な防水性と耐油性を備え、リサイクル性が良好な紙製容器を提供することである。
【解決手段】本発明によって、少なくとも内側となる面に、防水耐油層側から測定した30分コッブ吸水度が40g/m2以下、かつ、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」により測定したはつ油度がキットナンバー7以上である防水耐油層を有する紙製容器の内側底部に紙製シートを設けた、耐油性に優れた紙製容器が提供される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内側となる面に、防水耐油層側から測定した30分コッブ吸水度が40g/m以下、かつ、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」により測定したはつ油度がキットナンバー7以上である防水耐油層を有する紙製容器の内側底部に、紙製シートが設けられている、紙製容器。
【請求項2】
前記紙製容器が箱形状である、請求項1に記載の紙製容器。
【請求項3】
前記紙製容器が段ボール製である、請求項1または2に記載の紙製容器。
【請求項4】
前記防水耐油層が塗工により設けられている、請求項1または2に記載の紙製容器。
【請求項5】
前記防水耐油層が、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン樹脂の少なくとも1つの樹脂および撥水性ワックスを含有する防水性樹脂層である、請求項4に記載の紙製容器。
【請求項6】
少なくとも内側となる面に、防水耐油層側から測定した30分コッブ吸水度が40g/m以下、かつ、かつ、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」により測定したはつ油度がキットナンバー7以上である防水耐油層を有する紙製容器の内側底部に紙製シートを設けたうえで物を収容する、紙製容器の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箱底面への油の浸みだしを抑制する紙製のシートを設けた紙製容器およびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の物品を包装するために、紙基材を用いた種々の形態からなる紙製容器や梱包材等が使用されている。一般に、紙製の容器や梱包材は、紙基材をベース素材とすることから、水蒸気等の透過に加えて油分の付着および/または吸着が極めて容易であり、包装している物品から発生する、および/または包装している物品に付着している湿気や油分による強度低下を来すことがある。そのため、機械部品のように油分が付着している物品や、揚げ物等のように油分が豊富な食品を輸送する場合、ビニール袋等の樹脂製の梱包材を使用する、もしくは、紙製の容器や梱包材が耐油性を具備する必要がある。
【0003】
このため、紙基材の表面に、撥水性と耐油性を兼ね備えた組成物を塗工して塗工層を形成する方法、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム等をラミネートして樹脂被膜を形成する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、紙の少なくとも片面に、ワックスエマルジョンおよび水不溶性合成樹脂エマルジョンと共に界面活性剤を加えた混合液を塗布後、加熱処理を施して、最外層に界面活性剤の層を形成した防湿紙が記載されている。また、特許文献2には、基紙の少なくとも片面に、少なくとも2層の塗工層を有し、最表面に位置する塗工層はワックスを封入したマイクロカプセルを含有し、塗工量が固形分換算0.5g/m以上2.5g/m以下であり、この最表面の塗工層と基紙との間に位置する塗工層はアクリル系共重合体および/またはスチレン系共重合体を含有する防湿ライナが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-266096号公報
【特許文献2】特開2011-162899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
脱プラスチックの流れの中で発泡スチロールを代替する紙製容器が要求されており、そのような容器のひとつとして段ボール箱が注目されている。
段ボール箱を取り扱う上で、特に内容物が機械部品のように油分が付着している物品や、揚げ物等のように油分が豊富な食品などの油分の高い品物の場合、一般的に用いられている段ボール箱に直接投入、保管した場合、油が浸み込み箱の強度が低下してしまう。そのため、段ボール箱の内面に用いられるライナについては特許文献1や特許文献2に代表される加工処理を行ったライナを用いる必要がある。
しかし、特許文献1のワックス層を形成する方法では、単にワックス組成物を1層塗工しても、耐油性や透湿度を十分に抑制することは困難であり、耐油性や透湿度を十分に抑制するためにはワックス組成物を多数回塗工することが必要となり、製造工程が著しく煩雑になる。加えて、折り曲げ加工を行った際、折り曲げ部より油が浸み込みやすくなり、浸み込んだ油により箱の強度が低下してしまう。さらに、特許文献2のような樹脂被膜でラミネートする方法では、ラミネート加工のため製造工程が煩雑となることに加え、樹脂被膜でラミネートした紙または板紙は、使用後に古紙として回収使用する際の離解性が著しく悪く、再利用化が困難であった。
【0006】
このような事情に鑑み、本発明の課題は、従来よりも簡便な方法で十分な防水性と耐油性を備え、リサイクル性が良好な紙製容器、およびその使用方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討したところ、少なくとも内面となる側に防水耐油層を設けた紙製容器の底部に、箱底面への油の浸みだしを抑制することを目的とした紙製のシートを設けることにより、十分な防水性と耐油性を兼ね備えた紙製容器を開発することに成功した。
【0008】
以下に限定されるものではないが、本発明は、下記の態様を包含する。
[1]少なくとも内側となる面に、防水耐油層側から測定した30分コッブ吸水度が40g/m以下、かつ、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」により測定したはつ油度がキットナンバー7以上である防水耐油層を有する紙製容器の内側底部に、紙製シートが設けられている、紙製容器。
[2]前記紙製容器が箱形状である、[1]に記載の紙製容器。
[3]前記紙製容器が段ボール製である、[1]または[2]に記載の紙製容器。
[4]前記防水耐油層が塗工により設けられている、[1]または[2]に記載の紙製容器。
[5]前記防水耐油層が、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン樹脂の少なくとも1つの樹脂および撥水性ワックスを含有する防水性樹脂層である、[4]に記載の紙製容器。
[6]少なくとも内側となる面に、防水耐油層側から測定した30分コッブ吸水度が40g/m以下、かつ、かつ、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」により測定したはつ油度がキットナンバー7以上である防水耐油層を有する紙製容器の内側底部に紙製シートを設けたうえで物を収容する、紙製容器の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来よりも簡便な方法で、十分な防水性と耐油性を兼ね備えた紙製容器、および紙製容器の使用方法が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、耐油性を評価する際に作製した紙製容器の概略図である。
図2図2は、紙製容器の内面底部に設けたシートの写真である。
図3図3は、耐油性の評価方法を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、紙製容器(紙容器)の内面全体が防水性を有し、かつ、紙製容器の底部への油分浸みこみを防止する紙製のシートを設けた紙製容器、および、その使用方法に関する。本発明において防水性とは、1週間以上の長時間水にさらしても水が浸みこまない機能を意味する。また、本発明において耐油性とは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」により測定したはつ油度がキットナンバー7以上であることを意味する。さらに、本発明の好ましい態様において本発明に係る紙製容器は、油分が付着した内容物を収容し3日間放置しても、外箱の外面への油の浸み出しが発生しないとともに、底部をはじめとした箱の形状が変形しない、あるいは、若干変形はみられるが箱の形状が維持されるものをいう。
本発明に係る紙製容器の用途には特に制限はなく、例えば、揚げ物を始めとした油分を含む食料品を収容したり、電動ドリル、電動のこぎり、インパクトドライバー、グラインダー、カッター、ドリル刃、ドライバー、ビット、レンチ、スパナなどの道工具類およびその部品、モーターなどの部品、ボルト、ナット、くぎ、ベアリング、ギア、ねじ類をはじめとした各種部品等の機械油が付着した物品を収容したりする容器として好適に用いることができる。
【0012】
紙製容器
本発明に係る紙製容器に用いられる紙の種類は特に限定されず、包装紙、加工原紙、段ボール原紙、紙器用板紙、雑板紙、厚紙など適宜選択してよく、好ましい形態において、本発明に係る紙製容器は段ボール製である。段ボールの厚みは、好ましい態様において2.5~15mmである。段ボールとは、平らな紙(ライナ)と波型の紙(中しん)を接着剤で貼り合わせて作られ、商品の包装や緩衝材、荷物の運送、物品を保管するときなどの様々な用途に好適に使用される。また、本発明に係る紙製容器の形状については、内容物を適切な状態で収容することができれば特に限定されないが、好ましい形態において、本発明に係る紙製容器は箱の形状をしており、より好ましい形態においては、段ボール箱である。
【0013】
本発明の紙製容器に用いられる段ボールシートは、一般に、ライナと、波型に加工した中しんをコルゲーターを用いて貼り合わせることにより製造することができる。コルゲーターとしては、公知のものを制限なく使用することができるが、一般的なコルゲーターは、シングルフェーサ、ダブルバッカー、カッターによって構成される。また、ライナと中芯原紙を接着するための製糊装置、さらに、糊を溶かすための熱を発生させる装置などが合わせて使用される。
【0014】
また、本発明の紙製容器に用いられる段ボールシートを製造する際、ライナと中しんの接着には接着剤を用いる。接着剤は公知の物を利用することができるが、段ボールシート断面における水濡れ、結露および湿気等により段ボール箱の強度が低下しにくくなる観点から、耐水接着剤を使用することが好ましい。耐水接着剤とは、通常の段ボール用接着剤に、耐水化剤を加えたものである。耐水化剤としては特に限定されず、合成樹脂エマルジョンやケトンアルデヒド樹脂等が含まれているものがあげられる。
【0015】
段ボールのライナについては後述するが、用途に応じてクラフトライナ、ジュートライナなどを使用することができる。ライナの坪量も特に制限されず、例えば、ライナ全体の坪量を70~550g/mとすることができ、100~500g/mとしたり、150~450g/mとしたりしてもよい。
【0016】
段ボールを構成する中しんについては、Aフルート、Bフルート、Cフルート、Wフルート、Eフルートなどを特に制限なく使用することができる。中しんの坪量も特に制限されず、120g/m、160g/m、180g/m、強化180g/m、強化200g/mなどを好適に使用することができる。
【0017】
本発明に係る紙製容器は、例えば、1枚のブランクシートを用いて折り曲げることにより、また必要に応じ接着剤によって貼合したりすることによって段ボールから製造される。接着剤の種類については特に限定されず、水系、水分散系、溶液系、無溶剤系、固体系等が挙げられ、接着面となる紙素材の表面の状態などに応じて適宜選択することができる。
【0018】
接着剤の使用量は、充分な接着強度を有すれば特に限定されないが、面塗布の場合は0.5~2000g/mとしてもよく、5~1500g/mとしてもよく、10~1000g/mとしてもよい。また線塗布の場合は、アプリケーターのノズル径、ノズルもしくは紙素材の移動速度、塗布時の接着剤粘度、接着する紙の幅等に応じて塗布幅を適宜変更することができ、また単位長さあたりの塗布量も特に限定されないが例えば0.1~30g/mとしてもよく、0.5~20g/mとしてもよく、1~15g/mとしてもよい。
【0019】
本発明に用いられる紙製容器の形状は特に限定されず、例えばJIS Z 1507に例示されている段ボール箱や、1枚のブランクシートを折り曲げることにより形成され、底部とすべての側壁部が折曲線を介し連接しており、側壁部のすべてが折曲線を介して連接しているウォータータイト型の箱など、強度や使用用途に応じて適宜選択して良い。
紙素材を製函して箱などの紙製容器を製造する場合、製函機を用いることができる。使用する製函機は特に制限されず、例えば、垂直式や水平式の製函機を用いることができる。
【0020】
段ボールのライナ
本発明の紙製容器に係る段ボールのライナについて、その坪量は特に制限されず、例えば、10~800g/mとすることができる。ライナが単層紙である場合、坪量は10~300g/mの範囲で適宜設定することができ、30~250g/mの範囲としてもよい。また、ライナが2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、その坪量は70~800g/mの範囲で適宜設定することができる。
【0021】
本発明の紙製容器に用いるライナは、耐油性を有しており、好ましい態様において、防水層側のはつ油度がキットナンバー7以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。ここで、はつ油度は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」に準拠してライナの防水層側から測定することができ、キットナンバーの値が大きい程、耐油性が高いことを意味する。
【0022】
本発明の紙製容器に用いるライナは、好ましい態様において、防水性にも優れており、より好ましい態様において、表面の120秒コッブ吸水度が3g/m以下であり、2g/m以下がより好ましく、1g/m以下であってよい。なお、120秒コッブ吸水度を測定した際に1g/m未満(吸水せず測定限界値未満の場合も含む)である紙においては、好ましい態様において、表面の30分コッブ吸水度が155g/m以下であり、100g/m以下がより好ましく、50g/m以下がさらに好ましく、25g/m以下がさらに好ましく、最も好ましくは10g/m以下であってよい。本発明においてコッブ吸水度は、JIS P8140(コッブ法)に準拠して、100mlの蒸留水を防水層に接触させ、規定時間後に吸収された水の単位面積あたりの重量を測定する。測定時間を伸ばした条件下でもコッブ吸水度が低いほど、防水層の吸水性が低いものとなる。
【0023】
本発明の紙製容器に用いるライナは、好ましい態様において防湿性にも優れており、例えば、透湿度は100g/m・24h以下であり、より好ましくは75g/m・24h以下、さらに好ましくは50g/m・24h以下である。ここで、紙の透湿度は、JIS Z 0208に準拠して防水紙の防水層側から測定することができ、数値が小さい程、防湿性が高いことを意味する。
【0024】
その他の物性については、特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。本発明においては、例えば、表側の王研式平滑度を1秒~100秒、縦伸びが1.0~15.0%、横伸びが2.0~12.0%、比圧縮強度が100~350N・m/g、比破裂強度が2.80~5.00kPa・m/gとなるように設定することができる。
【0025】
(紙基材)
本発明に係る段ボールに用いられるライナは、紙基材と、紙基材の少なくとも一方の面に設けられた防水耐油層と、を少なくとも有している。本発明において紙基材の坪量は特に制限されず、例えば、10~800g/mとすることができる。紙基材が単層紙である場合、坪量は10~300g/mの範囲で適宜設定することができ、例えば、紙基材がクラフト紙の場合、坪量を30~250g/mの範囲で設定することができる。また、紙基材が2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、その坪量は70~800g/mの範囲で適宜設定することができる。
【0026】
本発明に係るライナに用いる紙基材は、防水耐油層を設ける面の120秒コッブ吸水度が25g/m以下、好ましくは20g/m以下、より好ましくは15g/m以下の範囲である。また、本発明に係るライナに用いる紙基材は、120秒コッブ吸水度が5g/m以上であり、好ましくは7g/m以上、より好ましくは10g/m以上である。本発明においては、ワックスなどの撥水剤を塗工するなどして120秒コッブ吸水度を調整することができるが、120秒コッブ吸水度が上記の範囲であることにより、防水耐油塗料の溶媒中に含まれた水分の過剰な浸透による紙力低下防止と、防水耐油塗料中の固形分が紙層表面へ滞留することにより確実な被覆が行われ耐油性、防水性および防湿性の向上を両立させることができる。
【0027】
本発明に係るライナに用いる紙基材は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.68「紙及び板紙-はっ水性試験方法」に準拠して測定した撥水度がR4以上であり、R6以上であることが好ましく、R8以上であることがより好ましい。紙基材の撥水度がR4以上であると、防水耐油材を塗工する際、防水耐油材および/または防水耐油材の溶媒に含まれる水分が紙基材へ過剰に浸透することがなく、紙の強度低下を抑制することができる。
本発明に係るライナに用いる紙基材は、好ましい態様において防水耐油層を設ける面の点滴吸油度が5秒以上であり、より好ましくは7秒以上、さらに好ましくは10秒以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは80秒以下、より好ましくは75秒以下、さらに好ましくは70秒以下である。吸油度が上記の範囲であることにより、防水耐油材に含まれるワックスが紙表面にとどまり紙層に浸み込みにくいことから、紙基材の耐油性、防水性および防湿性を向上させることができる。紙基材の吸油度は、注射針H5号を備えたマイクロシリンジを用いて、動粘性係数が3cStに調整した軽油1号をサンプル表面に1滴滴下し、表面の光沢がみえなくなるまでの時間を測定する。
【0028】
ライナに用いる紙基材の物性は特に制限されず、防水耐油紙の用途に応じて適宜設定することができる。本発明においては、例えば、縦伸びが1.0~15.0%、横伸びが2.0~12.0%、比圧縮強度が100~350N・m/g、比破裂強度が2.80~5.00kPa・m/gとなるように設定することができる。
【0029】
本発明に係るライナに用いる紙基材は、好ましい態様において、防水耐油層を設ける側より測定した透湿度が1500g/m・24h以上であり、より好ましくは1750g/m・24h以上、さらに好ましくは2000g/m・24h以上である。透湿度の上限は特に限定されないが、好ましい態様において、5000g/m・24h以下であり、より好ましくは4500g/m・24h以下、さらに好ましくは4000g/m・24h以下である。防水耐油層を設ける面の透湿度が上記の範囲であることにより、塗工後の乾燥工程において効率よく防水耐油材および/または防水耐油材の溶媒中の水分を紙層側へ蒸発させることから、均一に被覆する防水耐油層を設けることができ、耐油性、防水性および防湿性が向上する。
【0030】
本発明に係るライナに用いる紙基材は、好ましい態様において、防水耐油層を設ける面の水接触角が75度以上であり、77度以上であることがより好ましい。水接触角が上記の範囲であることにより、防水耐油材および/または防水耐油材の溶媒中に含まれる水分が紙基材へ過剰に浸透することを防ぎ、紙基材の強度低下を防ぐことができる。
【0031】
中しん原紙
得られたライナに、波状に加工した中しん原紙を貼り合わせることにより、本発明に係る段ボールを得ることができる。一般に中しん原紙は、コルゲーターで波状に加工され、その表裏にライナを貼り合わせて、強度の高い段ボールが製造されるが、多層に加工した段ボールや、波状の中しん原紙が表面にでている片面段ボールも知られている。本発明において好ましい態様として、中芯の両面にライナを貼り合わせた段ボール、もしくは多層に加工した段ボールであることが好ましい。
【0032】
中しん原紙の坪量は特に制限されないが、60~250g/mが好ましく、70~240g/mがより好ましく、80~230g/mがさらに好ましい。
【0033】
本発明においては、強化中しんを使用することが好ましく、耐水強化中しんを使用することがより好ましい。強化中しんとは、抄紙工程で紙力剤等を添加することにより、JIS P 3904に規定される中しん原紙の性能を満足する一般中しんと比較し圧縮強度を向上させた中しんを指す。また、耐水強化中しんとは、強化中しんの製造工程にて、さらに耐水剤を添加することにより、圧縮強度だけでなく耐水性を向上させた中しんを指す。内添紙力剤としては、ポリアクリルアミド(PAM)を用いてもよく、その場合の添加量は、紙料固形分に対して0.1%~5.0%が好ましく、0.2%~2.0%がより好ましい。
【0034】
中しん原紙は、原紙の片面または両面に、澱粉系化合物を含む塗工液を塗布することによって設けられたクリア(透明)塗工層を有しても良い。澱粉塗工とは、例えば、ポンド式2ロールサイズプレス、フィルム転写型の塗工方式であるゲートロールコーターやロッドメタリングサイズプレス、非接触塗工方式であるカーテンコーターやスプレーコーターなどのコーター(塗工機)を使用して、澱粉系化合物を含む塗布液(表面処理液)を原紙上に塗布することをいう。
【0035】
澱粉塗工の量は、中しんの強度を損なわない範囲であれば特に制限されず、下限は片面あたり固形分で0.2g/m以上としてもよく、0.8g/m以上としてもよく、2.0g/m以上としてもよく、3.0g/m以上としてもよく、4.0g/m以上としてもよい。上限は特に限定しないが、塗工量を多くすると澱粉をクリア塗工する前の原紙坪量を下げる必要があり、澱粉塗工前の原紙の引張り強度や引裂き強度が低下し、断紙が発生しやすくすることから、澱粉系化合物の塗工量は、片面あたり8.0g/m以下が好ましく、6.0g/m以下としてもよい。
本発明においては、必要に応じて、分散剤、増粘剤、保水剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤等、通常の澱粉塗工に配合される各種助剤を適宜使用できる。
【0036】
中しん原紙に澱粉系化合物を塗布するための塗工機としては、例えば2ロールサイズプレス、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレス、ブレードコーター、バーコーター、スプレーコーター、エアーナイフコーター、カーテンコーターを用いることができる。本発明においては、ゲートロールコーター、ロッドメタリングサイズプレスなどのフィルム転写方式の塗工機を用いても効果を発揮することができる。
【0037】
中しん原紙の原料パルプとしては、後述するが特に制限なく公知のものを使用することができる。本発明で用いる中しん原紙のパルプ原料としては、古紙パルプを多く配合することが好ましい。本発明において全パルプに占める古紙パルプの配合率は、50重量%以上が好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましく、90重量%以上であってもよい。
【0038】
中しん原紙に添加する填料、添加剤については後述するが公知のものを使用することができ、抄紙方法も公知の抄紙方法を用いることができる。また、中しん原紙に種々の表面処理を施すことができ、例えば、カレンダによって表面処理を行ってもよく、中芯原紙に滑剤を塗布してもよい。滑剤としては、特にワックス系の滑剤を用いてよく、塗布量としては、0.005g/m~0.1g/mが好ましい。本発明においては、滑剤は、原紙をカレンダに通紙する際に、カレンダロールに滑剤を噴霧し紙に転写する方式が好ましい。このようにすることにより滑剤の塗布以外に、カレンダロールの表面に汚れが付着するのを防止する事が可能となるためである。上記の通り、滑剤を塗布することにより、カレンダロールの表面に汚れが付着するのをより効果的に防止することができる。
【0039】
得られた中しん原紙は、公知のコルゲーターを用いて波型に加工(フルーテッド)することができる。波形加工としては、用途に応じて公知のあらゆる加工を施すことができるが、例えば、Aフルート、Bフルート、Cフルート、Eフルート、Fフルート、Gフルート、AAAフルート、AAフルートなどを中しん原紙に施してもよい。
【0040】
段ボールシートへの加工
本発明の紙製容器に用いられる段ボールシートは、ライナと、波型に加工した中しんをコルゲーターを用いて貼り合わせることにより得られる。
【0041】
コルゲーターとしては、公知のものを制限なく使用することができるが、一般的なコルゲーターは、シングルフェーサ、ダブルバッカー、カッターによって構成される。また、ライナと中芯原紙を接着するための製糊装置、さらに、糊を溶かすための熱を発生させる装置などが合わせて使用される。
【0042】
また、本発明の紙製容器に用いられる段ボールシートを製造する際、ライナと中芯の接着には接着剤を用いるが、段ボールシート断面における水濡れ、結露および湿気等により段ボール箱の強度が低下しにくくなる観点から、耐水接着剤を使用することが好ましい。耐水接着剤とは、通常の段ボール用接着剤に、耐水化剤を加えたものである。耐水化剤としては特に限定されず、合成樹脂エマルジョンやケトンアルデヒド樹脂等が含まれているものがあげられる。
【0043】
紙製容器の底部に設けるシート
本発明においては、箱底部への油分浸透による変形を防止する目的で、紙製容器内面底部に中敷きとしてシートを設けて使用することを特徴とする。本発明におけるシートの材料については特に限定せず、ポリエチレン、ポリプロピレン、バイオプラスチック等の樹脂製、天然繊維や合成繊維等で製造された布製、新聞紙やクラフト紙、グラシン紙や多層板紙、白板紙、ライナ、ライナと中しんからなる段ボールシート等の紙製シート等公知の材料を用いたものを用いてよい。
本発明におけるシートの形状についても特に限定されないが、好ましい態様として、少なくとも紙製容器の底部の90%以上、より好ましくは紙製容器の底部全体、さらに好ましくは紙製容器の底部全体および側壁下部を被覆する形状に加工したシートである。
【0044】
紙製シート
本発明に置いては、前述の紙製容器と合わせたリサイクル性の観点から、好ましい態様として、紙製容器内面底部に設けるシートは紙製であり、より好ましい態様として、紙製容器底部に設けるシートは前述する防水耐油材が塗工された、紙製の防水耐油シートである。また、前述した防水耐油性紙や中芯と同一の材料を用いたシートを用いてもよく、ライナと中しんを貼合接着して作製された段ボールシートを用いてもよい。
【0045】
紙製シートに用いる防水耐油紙の坪量は特に制限されないが、例えば、30~800g/mとすることができる。防水耐油層を設ける前の紙製シートが単層紙である場合、防水紙の坪量は、例えば、35~400g/mや40~300g/m、さらには50~200g/mとすることができる。また、紙製シートが2層以上の紙層を有する多層抄き板紙である場合、防水耐油紙の坪量は75~800g/mや100~700g/m、さらには200~600g/mとすることができる。
【0046】
紙製の防水耐油シートは、前述する防水耐油ライナに記載した防水耐油性を有していることが好ましい。すなわち、好ましい態様において、防水耐油シートの防水耐油層側のはつ油度がキットナンバー7以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましく、9以上であることがさらに好ましい。ここで、防水耐油紙のはつ油度は、「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41)に準拠して防水紙の防水層側から測定することができ、キットナンバーの値が大きい程、耐油性が高いことを意味する。
【0047】
紙製の防水耐油性シートは防水性を有していてもよく、好ましい態様において、表面の120秒コッブ吸水度が3g/m以下であり、2g/m以下がより好ましく、1g/m以下であってよい。なお、120秒コッブ吸水度を測定した際に1g/m未満(吸水せず測定限界値未満の場合も含む)である紙においては、好ましい態様において、表面の30分コッブ吸水度が25g/m以下であり、20g/m以下がより好ましく、10g/m以下であってよい。
【0048】
紙製の防水耐油性シートは防湿性を有していてもよく、好ましい態様において、透湿度は100g/m・24h以下であり、より好ましくは75g/m・24h以下、さらに好ましくは50g/m・24h以下である。
【0049】
紙製の防水耐油性シートは、好ましい態様において、防水耐油層側の点滴吸油度が500秒以上であり、より好ましくは550秒以上、さらに好ましくは600秒以上である。この点滴吸油度の秒数が長いほど耐油性が高いことを意味する。
【0050】
紙製容器用ライナ、紙製容器用段ボールの中しん、紙製容器底部に設ける紙製シートの原料
紙製容器に用いられるライナおよび中しん、紙製容器底部に設ける紙製シート(以下「紙素材」と表記する。)の原料パルプとしては、その使用部位および用途に応じて特に制限なく公知のものを使用することができる。具体的には、例えば、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、砕木パルプ(GP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、ケミカルパルプ(CP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)などの木材由来の各種パルプ、ケナフ、バガス、竹、麻、ワラなどから得られた非木材パルプを挙げることができる。
【0051】
紙素材は、古紙パルプを含有するものであってもよく、また、古紙パルプを含有しないものであってもよい。古紙パルプを含有する場合であって、例えば、紙素材が単層紙である場合、好ましくは全パルプに占める古紙パルプの配合率は10質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、最も好ましくは70質量%以上とすることができ、また、100質量%(古紙由来のパルプのみからなる)とすることができる。また、古紙パルプ以外のパルプとしてクラフトパルプを配合してもよく、全量クラフトパルプとしてもよい。
【0052】
古紙パルプとしては、段ボール古紙、上白、特白、中白、白損などの未印刷古紙を離解した古紙パルプ、上質紙、上質コート紙、中質紙、中質コート紙、更紙などに印刷された古紙、および筆記された古紙、廃棄機密文書等の紙類、雑誌古紙、新聞古紙を離解後脱墨したパルプ(DIP)などを使用することができる。
【0053】
また、紙素材の抄造では、サイズ剤や撥水剤を内添または外添させることができ、さらに、強度を向上させるために紙力増強剤を内添させることができる。サイズ剤としては、例えば、ロジン系サイズ剤、ロジンエマルジョン系サイズ剤、α-カルボキシルメチル飽和脂肪酸など、また、中性ロジン系サイズ剤、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニル無水コハク酸(ASA)、カチオンポリマー系サイズ剤などが挙げられる。また、撥水剤としては、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ワックスなどが挙げられる。また、紙力増強剤としては、ポリアクリルアミド(PAM)や変性でん粉などの従来から使用されている紙力増強剤が挙げられる。外添する場合の塗工量は特に制限されず、例えば、10g/m以下としてもよく、5g/m以下としてもよく、3g/m以下としてもよく、2g/m以下としてもよい。
【0054】
また、必要に応じて紙素材に公知の填料を内添させることができ、無機填料や有機填料を制限なく使用することができる。無機填料としては、例えば、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、クレー、焼成クレー、デラミネーティッドクレー、イライト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などが挙げられ、有機填料としては、例えば、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0055】
さらに、紙素材の品質に影響のない範囲で、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性アルミニウム化合物、水溶性アルミニウム化合物、多価金属化合物、シリカゾルなどを内添して使用してもよい。
【0056】
紙素材は、公知の抄紙方法で製造することができる。例えば、長網抄紙機、ギャップフォーマー型抄紙機、ハイブリッドフォーマー型抄紙機、オントップフォーマー型抄紙機、丸網抄紙機などを用いて行うことができるが、これらに限定されない。
【0057】
また、本発明の紙素材の平滑度を調整するため、必要に応じ平滑化処理を行ってもよい。平滑化処理には、通常のカレンダ、スーパーカレンダ、グロスカレンダ、ソフトカレンダ、熱カレンダ、シューカレンダなどの平滑化処理装置を用いることができる。平滑化処理装置は、加圧装置の形態、加圧ニップの数、加温、線圧などを適宜調整してよい。
【0058】
防水耐油層
本発明に係る防水耐油紙は、紙基材上に設けられた防水耐油層を有しており、本発明の好ましい態様において防水耐油層は、防水耐油性樹脂層であり、より好ましくは塗工により設けられたものである。また本発明の好ましい態様において、防水耐油層は合成樹脂および撥水性ワックスを含有する。合成樹脂は、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂の少なくとも1種類を含有することが好適である。特に、合成樹脂がスチレン系樹脂および/またはアクリル系樹脂であることが好適である。
【0059】
本発明を構成する防水耐油層が含有することのできるスチレン系樹脂とは、構造中にスチレン骨格を有するスチレン系単量体の共重合割合が50質量%以上であることが好ましく、スチレン系単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0060】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等が挙げられる。
【0061】
また、スチレン単量体と共重合可能な単量体として、例えば、メチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、メチルフェニルメタクリレート等のアルキルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸、マレイン酸、イタコン酸等の無水物である不飽和ジカルボン酸無水物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン等が挙げられる。これらは1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0062】
本発明を構成する防水耐油層が含有することのできるアクリル系樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸及びこれらの誘導体であるアクリル系単量体の共重合割合が50質量%以上である樹脂であり、アクリル系単量体の重合体のみからなるものであってもよい。
【0063】
アクリル系単量体としては、例えば、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸t-ブチルシクロヘキシル、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル等のアクリル酸エステル等を挙げることができ、アクリル系樹脂は、これらのアクリル系単量体から選ばれる1種以上の単量体を重合したものであってよい。
【0064】
また、アクリル系単量体と共重合可能な単量体としては、スチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド、無水マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸無水物、メタクリル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらは1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで用いることができる。
【0065】
本発明の好ましい態様においては、防水耐油層に撥水性ワックスが含有されている。防水耐油層が含有する撥水性ワックスとしては、例えば、ポリエチレン系ワックス、フィッシャートロプシュワックス、油脂系合成ワックス(脂肪酸エステル系、脂肪酸アミド、ケトン・アミン類)、水素硬化油等の合成ワックス、蜜蝋、木蝋、パラフィン系ワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス等を挙げることができる。これらのワックスは、1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができ、特に、パラフィンを含む炭化水素系ワックスが好適である。
【0066】
本発明では、白色度を向上させることを目的として、耐油性および防水性を損なわない範囲で防水耐油層に顔料を含有させてもよい。この場合、顔料を含有させることで防水耐油層の表面の白色度が、紙基材の白色度と比較して1%以上高くなっていることが好ましい。このような顔料としては、炭酸カルシウム、酸化チタン、カオリン、クレー、エンジニアードカオリン、デラミネーティッドクレー、タルク、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、珪酸、珪酸塩、コロイダルシリカ、サチンホワイト、マイカ、モンモリトナイト等の無機顔料を挙げることができ、これらの顔料を1種単独、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができる。これらの顔料の中で、特に、防水耐油層の耐油性、防湿性、ならびに防水性を阻害し難い点で、粒子が扁平な形状であるカオリンや炭酸カルシウムもしくはマイカが好適である。このような扁平形状の無機顔料は、アスペクト比が10以上であることが好ましい。防水耐油層における顔料の含有量は、5質量%以上、40質量%以下、好ましくは10質量%以上、35質量%以下とすることができる。顔料の含有量が5質量%未満であると、白色度の向上効果が十分に得られず、40質量%を超えると、合成樹脂成分が有する防水耐油層の耐油性、防湿性、および防水性の機能が十分発揮できないことがあるので好ましくない。また、その他の塗工剤として、例えば、バインダー、安定剤、消泡剤、粘性改良剤、保水剤、防腐剤、着色剤等を含有させてもよい。
【0067】
本発明において防水耐油層は、上記のような成分を含有する塗工剤を紙基材上に塗工して乾燥することにより形成することができる。防水耐油層の塗工量は、4~20g/mとすることが好ましく、20g/mを超えると、防水耐油性の更なる向上は望めない一方で、製造コストの増大を来すことがある。
【0068】
本発明に係る防水耐油紙に設けられた防水耐油層は、好ましい態様において、平均の厚みが5.5~20μmであり、5.6~15μmがより好ましく、5.7~12.5μmがさらに好ましい。ここで、防水耐油層の平均厚みは、サンプルを短冊状に切断し、その断面を任意の10箇所において電子顕微鏡を用いた観察により測定した防水層の厚みの平均値である。
【0069】
また、本発明係る防水耐油紙は、防水耐油層の単位厚さ当たりの透湿度が15(g/m・24h)/μm以下が好ましく、10(g/m・24h)/μm以下がより好ましく、7(g/m・24h)/μmがさらに望ましい。ここで、防水耐油層の単位厚さ当たりの透湿度は、ライナの防水耐油層側からJIS Z 0208に準拠して測定した透湿度を平均防水耐油層厚みで除して算出する。
【0070】
本発明係る防水耐油紙は、好ましい態様において、例えば、紙基材の少なくとも一方の面に、防水耐油材を塗工し、塗工した防水耐油材を乾燥することによって製造することができる。防水耐油層の形成は、公知の塗工方式を使用して塗工剤を塗工して行うことができ、例えば、エアナイフ塗工、カーテン塗工、ブレード塗工、ゲートロール塗工、ダイ塗工等の塗工方式を用いることができる。また、塗工層は、単層であっても複数層であってもよく、複数の塗工層を順次塗工してもよく、カーテン塗工などにより2層以上を同時に塗工してもよい。塗工層を乾燥する際、好ましくは、乾燥工程出口の塗工層温度が120℃未満となるように調整する。塗工剤を塗工する際の塗工速度は、塗工剤の粘度、目標塗工量を考慮して適宜設定することができる。
【0071】
好ましい態様として、紙基材への塗工剤の塗工を、エアナイフ塗工やカーテン塗工といった輪郭塗工方式により行うことにより、紙基材表面への塗工剤の塗工量が均一となり、したがって塗膜厚みが均一となり、後工程である乾燥工程において塗工層におけるブリスターの発生を抑制することができる。また、接触塗工方式に比べて塗工剤の使用量を低減することができ、製造コストを抑えることができる。
【0072】
紙基材に塗工された塗工剤を乾燥して塗工層とするが、この乾燥工程では、出口での塗工層温度が120℃未満とすることが好ましく、100℃以下となるように調整してもよい。出口での塗工層温度が120℃以上であると、塗工層におけるブリスターの発生率が高くなることがあり、また、塗工層が形成された後に巻き取られた防水耐油ライナにブロッキングが発生することがある。一方、出口での塗工層温度は、60℃以上が好ましく、70℃がより好ましく、80℃以上とすることもできる。出口での塗工層温度が60℃未満であると、場合によって、塗工層が形成された後に巻き取られた防水耐油ライナにブロッキングが発生することがあるだけでなく、塗工層の乾燥が不十分であるため耐油、防水、防湿性能を十分に発現できないことがある。
【0073】
乾燥工程出口での塗工層温度の設定は、紙基材の坪量および紙厚を考慮して設定することができる。例えば、紙基材が多層抄き板紙であって坪量および紙厚の大きい段ボールのライナの場合、単層紙であって坪量および紙厚が相対的に小さいクラフト紙に比べて塗工層の表面にブリスターが発生し易い傾向にある。その理由は限定されないが、段ボールのライナの場合、クラフト紙に比べて坪量および紙厚が大きいと共に透気性が低いことが多く、クラフト紙と同じ紙中水分値であっても、乾燥工程において紙基材内部で気化した多くの水分が十分に逃げきれないため、塗工層の表面にブリスターが発生し易くなると考えられる。このため、紙基材の坪量および紙厚が大きいほど、乾燥工程出口での塗工層温度を、上記の範囲内で低目に調整することが好ましい。
ここで、乾燥工程の出口とは、乾燥工程における乾燥ゾーンが1個の場合、当該乾燥ゾーンの出口であり、乾燥工程における乾燥ゾーンが複数個の場合、最も下流側の乾燥ゾーンの出口である。
【0074】
乾燥工程出口での塗工層温度の調整は、乾燥時間、乾燥ゾーンの温度の調節により行うことができる。乾燥時間は、紙基材の送り速度、乾燥ゾーンの個数、長さ、乾燥ゾーンの機器能力(風量、赤外線出力)等で決定される。また、乾燥方式としては、公知の乾燥方式を用いることができ、例えば、蒸気シリンダ加熱乾燥方式、熱風乾燥方式、ガス式赤外線乾燥方式、電気式赤外線乾燥方式等を挙げることができ、これらのいずれか1種、あるいは、2種以上の組み合わせで使用することができる。
【実施例0075】
以下に、具体例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の具体例によって限定されるものではない。なお、本明細書において、特に記載しない限り、濃度などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとする。
【0076】
ライナの製造
(1)防水耐油ライナ(サンプル ライナA)
段古紙パルプ100%からなる裏層、古紙パルプ100%からなる中層、未晒クラフトパルプ70%および段古紙パルプ30%からなる表層を、裏層:中層:表層=25:60:15の重量比で抄き合わせ、ドライヤにて乾燥後、パラフィン系ワックスおよびロジンを含む撥水剤を表層側に片面塗工し、再度ドライヤにて乾燥後、カレンダを用いて平滑化処理を行って紙基材を製造した(坪量:282.6g/m、表面の120秒コッブ吸水度:12.9g/m、撥水剤の塗工量:約1g/m)。
得られた紙基材のの表層側にエアナイフを用いてスチレン・アクリル系樹脂とパラフィン系ワックスを含有する防水材(マイケルマン、VaporCoat2200)を10.0g/m塗布し、乾燥工程出口における塗工層の温度が80℃となるよう熱風乾燥して防水耐油ライナ(サンプル ライナA)を得た(坪量:291.4g/m、表面の120秒コッブ吸水度:0.1g/m)。
【0077】
(2)一般ライナ (サンプル ライナB)
段古紙パルプ100%からなる裏層、古紙パルプ100%からなる中層、未晒クラフトパルプ70%および段古紙パルプ30%からなる表層を、裏層:中層:表層=25:60:15の重量比で抄き合わせ、ドライヤにて乾燥後、カレンダを用いて平滑化処理を行って一般ライナ(サンプル ライナB)を製造した(坪量:281.3g/m、表面の120秒コッブ吸水度:27.7g/m)。
【0078】
(3)ラミネートライナ (サンプル ラミライナ)
一般ライナ(サンプル ライナB)の表層側に、厚さ20μmのポリエチレン製フィルムを積層後、温度80℃に加熱したローラーを用いて接着しラミネート加工したラミネートライナを得た(坪量:289g/m)。
【0079】
中しん原紙の製造(サンプル 中しん)
段古紙パルプ100重量%のパルプスラリーに、防水材0.4%を添加して紙料を調成した。次いで、この紙料から単層で抄紙し、ドライヤにて乾燥後、カレンダを用いて平滑化処理を行って中しん原紙を製造した(坪量:約200g/m)。

各ライナサンプル、および中しん原紙の紙質を表1に示す。
【0080】
【表1】
【0081】
段ボールシート、および段ボール箱の製造
防水耐油ライナサンプル、および一般ライナサンプルを用いて、製函用段ボールシートを作製した(Aフルート、厚み:5mm)。具体的には、各サンプルを表ライナ、一般ライナ(サンプル ライナB)を裏ライナとして用い、表層側(防水層側)が段ボールシートの外側になるように、中しん原紙を介して表ライナと裏ライナを接着して、段ボールシートを製造した。
得られた段ボールシートを、表ライナの表側(防水層面側)が内側となるようにして、図1に示すような蓋つき段ボール箱(本体の内寸:縦28cm×横22cm×深さ13cm、蓋の内寸:縦30cm×横24cm×深さ13cm)を作製した。
【0082】
中敷き用紙サンプルの製造
(1)防水耐油ライナ、一般ライナ、ラミネートライナ、中しん、段ボールシート
前述の方法で製造した防水耐油ライナ(サンプル ライナA)、一般ライナ(サンプル ライナB)、ラミネートライナ(サンプル ラミライナ)、中しん(サンプル 中しん)、防水耐油ライナを用いた段ボールシート(サンプル 段ボールシートA)、一般ライナを用いた段ボールシート(サンプル 段ボールシートB)を、それぞれ中敷き用紙サンプルとした。
【0083】
(2)防水耐油クラフト紙 (サンプル クラフトA)
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)に内添サイズ剤および紙力剤を配合した紙料か
ら抄造したクラフト紙を紙基材として使用した(単層紙、坪量:74g/m、白色度:19%)。 紙基材の片面に、スチレン・アクリル系樹脂とワックスを含有する防水材(VaporCoat2200、マイケルマン、ガラス転移点:39℃)100重量部に対し、シリカ系消泡剤(SNデフォーマー777、サンノプコ)0.5重量部を加えた塗工液を、エアナイフを用いて10.9g/m塗布し、乾燥工程出口における塗工層の温度が80℃となるよう熱風乾燥して中敷き用紙サンプル2-Aを得た(坪量:84.9g/m)。
【0084】
(3)一般クラフト紙(サンプル クラフトB)
サンプル クラフトAと同じ紙基材(クラフト紙)を、加工せず、そのままの状態で中敷き用一般クラフト(サンプル クラフトB)とした(坪量:74g/m)。
【0085】
(4)ラミネートクラフト紙 (サンプル ラミクラフト)
一般クラフト(サンプル クラフトB)の片面に厚さ20μmのポリエチレン製フィルムを積層後、温度70℃に加熱したローラーを用いて接着してラミネート加工し、ラミネートクラフト紙(サンプル ラミクラフト)とした(坪量:84.8g/m)。

中敷き用の各クラフト紙の紙質を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
紙製中敷きの製造
得られたサンプルについて、箱の底部内寸に合うよう、縦28cm×横22cmに切断し、紙製中敷きを作製し、箱の底部にセットした。なお、塗工層もしくはラミネート層を設けたサンプルにおいては、塗工層もしくはラミネート層が箱の内側となるようにセットした。
また、比較として市販のポリエチレン製袋(厚さ0.01mm)を、縦28cm×横22cmのシート状となるように切断し、ポリエチレン製の中敷き(サンプル PEシート)とした。
【0088】
サンプルの評価
(坪量) JIS P 8124に準拠して測定した。
(平均塗工層厚み、単位塗工層厚さ当たり透湿度) サンプルを短冊状に切断し、その断面を任意の10箇所において電子顕微鏡を用いた観察により塗工層の厚みを測定し、平均値を算出して平均塗工層厚みとした。また、透湿度を平均塗工層厚みで除して、単位塗工層当たり透湿度を求めた。
(王研式平滑度) JIS P 8155に準拠し、デジタル型王研式透気度平滑度試験機(旭精工)を用いて王研式平滑度を測定した。
(縦伸び、横伸び) JIS P 8113に準拠して測定した。
(比圧縮強さ) JIS P 8126に準拠して圧縮強さを測定し、これを坪量で除して比圧縮強さを算出した。
(比破裂強さ) JIS P 8131に準拠して破裂強さを測定し、これを坪量で除して比破裂強さを算出した。
(コッブ吸水度) JIS P 8140に準拠し、コッブ法により測定を行った。すなわち、100mlの蒸留水を表面(塗工面)に接触させ、規定時間後に吸収された水の単位面積あたりの重量を測定した。なお、測定時間は、通常の規定時間である120秒(2分間)に加え、30分でも測定を行った。
(透湿度) JIS Z 0208に準拠し、表面側(塗工面側)から測定した。
(撥水度) JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.68「紙及び板紙-はっ水性試験方法」に準拠し、表面側(塗工面側)を測定した。
(接触角) 蒸留水をサンプル表面に1滴(50μl)滴下してから1秒後の接触角を接触角測定装置(DAT1100 FIBRO System AB製)により測定した。
(はつ油度) JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41「紙及び板紙-はつ油度試験方法-キット法」に準拠し、表面側(塗工面側)を測定した。
(点滴吸油度) 注射針H5号を備えたマイクロシリンジを用いて、動粘性係数が3cStに調整した軽油1号をサンプル表面に1滴滴下し、表面の光沢がみえなくなるまでの時間を測定した。
【0089】
(耐油性) 段ボール箱の内側に紙製中敷き(図2参照。)をセット後、縦5か所×横8か所の計40か所、それぞれ機械油2mlを直径約20mmの円形となるよう滴下した(図3)。その後、25℃の室内にて1時間、24時間(1日)、72時間(3日)、168時間(1週間)放置し、中敷きへの吸油状況および段ボール側の油シミ付着状況を目視にて確認した。評価基準は、下記のとおりである。
○:段ボール箱の内面に油シミが認められない。
×:段ボール箱の内面に油シミが認められる。
【0090】
(混合リサイクル性)段ボールシートサンプルおよび中敷き用紙サンプルを、それぞれ25mm角のサイズに切り取り、段ボールシートサンプル30g:内袋用紙サンプル10gの割合で計り取り、45℃の水1.5Lを加え2%に希釈後、Tappi式離解機を用いて30分間離解を行った。次いで、JIS P 8222に準拠してシート形成およびプレスを行って湿紙を得た後、50℃に熱したプレートにて2時間乾燥して手抄きシートを作製した(坪量:約50g/m)。
次いで、下記の基準に基づいて、手抄きシート表面の様子を目視で評価した。
〇:紙表面に目立つ異物などはなく、リサイクル上問題となる点は特にない。
×:紙表面に異物などが目立ち、リサイクル上問題となる。
【0091】
【表3】
【0092】
表3に示す通り、本発明の中敷きを用いた紙製容器は、油を多量に付着した物品を収容しても、段ボール箱への油の浸みだしが発生しておらず、油の浸みだしによる紙製容器本体への影響はなかった。特に、箱内面、および中敷きの双方に防水耐油塗工層を有する紙素材を用いた紙製容器(ライナAを箱内面に、ライナA、クラフトA、段ボールシートA、または、段ボールシートBを中敷きとして用いた容器)は、離解試験を行っても異物などが無く、リサイクル性に優れていることが示された。
【0093】
一方、内面に防水耐油層を有しない紙製容器(ライナBを用いた箱)はリサイクル性に優れるものの、箱本体に防水耐油材を塗工していないため、紙面への油の浸透が発生しており、浸み出した油が段ボール箱の内面を濡らしていた。
【0094】
上記の実験結果から、本発明の紙製容器は、特に油分を豊富に含む物品を対象とする包装材として好適に使用できることがわかった。
【符号の説明】
【0095】
1 紙製容器(蓋付箱)
2 箱本体
3 蓋体
4 底部
5 折線
6 側面部
7 折線
8 側面部
9、10、11 折線
12 折込部
13a,13b 突片部
14 凹部
15a、15b 突部
16 折線
17 係止片部
18a,18b 嵌合口
19 連接部
20 切り込み
21 上部開口部
22 天板部
23 折線
24 側面部
25 折線
26 側面部
27 折線
28 折り重ね片
29 折線
30 突片
31 切断線部
31a 切断線部の一部
32 切り込み
33 開口端部
34 中敷きシート
D 深さ
H 高さ
W1 縦幅
図1
図2
図3