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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091184
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
A61F2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022207693
(22)【出願日】2022-12-24
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100184550
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 珠美
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 響子
(72)【発明者】
【氏名】中畑 義弘
(72)【発明者】
【氏名】長坂 信司
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA25
4C097BB01
4C097SA02
(57)【要約】
【課題】より良好な視野が得られ易い眼内レンズを提供する。
【解決手段】眼内レンズ1は、円盤形状のレンズ部2を備える。レンズ部2の前面および後面の少なくとも一方に、互いに異なる屈折力を有する3つ以上の分節領域20が形成されている。複数の分節領域20は、屈折力が最も小さい遠用領域20Aと、屈折力が最も大きい近用領域20Bと、遠用領域20Aの屈折力と近用領域20Bの屈折力の間の屈折力を有する中間領域20Cを含む。複数の分節領域20は、レンズ部2の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円盤形状のレンズ部を備えた眼内レンズであって、
前記レンズ部の前面および後面の少なくとも一方に、互いに異なる屈折力を有する3つ以上の分節領域が形成されており、
複数の前記分節領域は、
屈折力が最も小さい遠用領域と、
屈折力が最も大きい近用領域と、
前記遠用領域の屈折力と、前記近用領域の屈折力の間の屈折力を有する中間領域と、
を含むと共に、
複数の前記分節領域は、前記レンズ部の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有することを特徴とする眼内レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の眼内レンズであって、
前記レンズ部における複数の前記分節領域の間には、互いに隣接する一対の前記分節領域の一方の前記分節領域の端部から、他方の前記分節領域の端部へかけて曲率半径が連続的に変化することで、前記一対の分節領域の端部同士を滑らかに接続する移行部が形成されていることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の眼内レンズであって、
前記分節領域および前記移行部の両方が、前記レンズ部の光軸に対して平行に前記レンズ部に入射する光を、前記光軸に近づく方向に屈折させることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項4】
請求項2に記載の眼内レンズであって、
前記レンズ部の前記中央部から外側に広がる前記移行部の中心角は、5度以上30度以下であることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項5】
請求項1に記載の眼内レンズであって、
前記レンズ部の前記中央部から外側に広がる、前記遠用領域、前記近用領域、および前記中間領域の各々の中心角は、前記遠用領域の中心角が最も大きく、前記中間領域の中心角が最も小さいことを特徴とする眼内レンズ。
【請求項6】
請求項5に記載の眼内レンズであって、
前記遠用領域の中心角は140度以上であり、
前記近用領域の中心角は90度以上であり、
前記中間領域の中心角は30度以上であることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項7】
請求項1に記載の眼内レンズであって、
前記近用領域の屈折力は+2.5D以上+4.0D以下であり、
前記中間領域の屈折力は+1.0D以上+2.5D以下であることを特徴とする眼内レンズ。
【請求項8】
請求項1に記載の眼内レンズであって、
前記レンズ部の前面および後面の少なくとも一方に、装用者の乱視を矯正するトーリック面が形成されていることを特徴とする眼内レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、眼内に挿入される眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
眼内に挿入される眼内レンズとして、レンズ部への入射光を複数の焦点に振り分けて集光させる多焦点眼内レンズが知られている。多焦点眼内レンズによると、装用者に疑似的な調節力を与えることができる。多焦点眼内レンズには、屈折力が互いに異なる複数の領域が光学部に形成された屈折型のレンズと、光の回折現象を利用した回折型のレンズがある。屈折型の多焦点眼内レンズは、回折型の多焦点眼内レンズに比べて、装用者の網膜に到達する光のロスが少ないといった利点がある。
【0003】
従来の屈折型の多焦点眼内レンズでは、レンズ部において、屈折力が互いに異なる複数の領域が同心円状に設けられているものが一般的である。レンズ部における複数の領域が同心円状に配置されている場合、装用者の瞳孔が小さくなると、同心円上に配置された複数の領域のうち、中心部近傍に配置された領域のみを光が通過し、周辺部に配置された領域には光が通過しないので、多焦点の効果が得られ難くなる。
【0004】
そこで、特許文献1に記載の多焦点眼内レンズでは、円盤形状の光学部が、周辺から幾何中心に向けて延びる境界線によって複数の領域に分割され、分割された各々の領域に異なるパターンで微小プリズム群が形成されることで、各々の領域に異なる屈折力が付与される。各領域をレンズ部の光軸に接するように形成することで、装用者の瞳孔の大きさに関わらず多焦点の効果を得ることを目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-125292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の多焦点眼内レンズは、微小プリズム群の加工が困難であり、高い精度で加工することが難しいうえに、眼内に挿入する際に微小プリズム群が破損し易いという問題もある。さらに、微小プリズム群を通過する光の一部が意図しない方向に散乱してしまい、網膜に集光する光の量が減少してしまうので、良好な視野が得られ難いという問題もある。
【0007】
本開示の典型的な目的は、より良好な視野が得られ易い眼内レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示における典型的な実施形態が提供する眼内レンズは、円盤形状のレンズ部を備えた眼内レンズであって、前記レンズ部の前面および後面の少なくとも一方に、互いに異なる屈折力を有する3つ以上の分節領域が形成されており、複数の前記分節領域は、屈折力が最も小さい遠用領域と、屈折力が最も大きい近用領域と、前記遠用領域の屈折力と、前記近用領域の屈折力の間の屈折力を有する中間領域と、を含むと共に、複数の前記分節領域は、前記レンズ部の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。
【0009】
本開示に係る眼内レンズによると、より良好な視野が得られ易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】眼内レンズ1の平面図である。
図2】眼内レンズ挿入器具100を右斜め上方から見た斜視図である。
図3】プランジャー300を右斜め上方から見た斜視図である。
図4】眼内レンズ1の移動および変形が適切に行われた状態を示す概略説明図である。
図5】複数の分節領域20が形成された眼内レンズ1の一例を示す平面図である。
図6】遠用領域20Aと近用領域20Bについて、レンズ部2の幾何中心Oを通り、且つレンズ部2のレンズ面に対して垂直な断面の断面図を模式的に比較した図である。
図7】遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角を変えた4つの眼内レンズ1のMTF曲線を比較した図である。
図8】遠用領域と近用領域の間に移行部を形成しない場合と移行部を形成する場合の眼内レンズ1のMTF曲線を比較した図である。
図9図5に示す眼内レンズ1において、屈折力の合計値を算出するラインを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<概要>
本開示における眼内レンズの第1態様について説明する。本開示で例示する眼内レンズは、円盤形状のレンズ部を備える。レンズ部の前面および後面の少なくとも一方に、互いに異なる屈折力を有する3つ以上の分節領域が形成されている。複数の分節領域は、屈折力が最も小さい遠用領域と、屈折力が最も大きい近用領域と、遠用領域の屈折力と近用領域の屈折力の間の屈折力を有する中間領域を含む。複数の分節領域は、レンズ部の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。
【0012】
本開示で例示する眼内レンズでは、屈折力が互いに異なる複数の分節領域が、レンズ部の中央部から外側に向けて放射状に広がる。従って、複数の領域が同心円状に配置された眼内レンズとは異なり、装用者の瞳孔が小さくなった場合でも、複数の分節領域の全てを光が通過し易くなる。さらに、複数の分節領域は、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。従って、分節領域に微小プリズム群等を形成する場合に比べて、意図しない方向に散乱する光の量が減少する。その結果、網膜に至る光のロスが生じにくくなり、より良好な視野が得られ易くなる。また、高い精度で加工し易く、且つ、眼内への挿入時に破損が生じる可能性も低い。
【0013】
複数の分節領域は、レンズ部の中央部における1つの基準点から外側に向けて放射状に広がっていてもよい。つまり、各々の分節領域のうち、レンズ部の中央部から外側に向けて延びる直線状の端部は、全て同一の基準点を通過してもよい。この場合、装用者の瞳孔が小さくなっても、レンズ部の中央部に一定の領域(例えば円形の領域等)を別途形成する場合に比べて、複数の分節領域の各々を通過する光の量が確保され易くなる。その結果、装用者の瞳孔の大きさに関わらず、多焦点の効果が得られ易くなるので、装用者の視野が良好になり易くなる。
【0014】
なお、各々の分節領域のレンズ面は、球面でも非球面でもよい。また、各々の分節領域内では屈折力は略一定となる。つまり、後述する移行部をレンズ面に設ける場合、移行部では領域内で屈折力が変化するのに対し、分節領域では領域内で屈折力が略一定となる。
【0015】
レンズ部における複数の分節領域の間には、移行部が形成されていてもよい。移行部は、互いに隣接する一対の分節領域の一方の分節領域の端部から、他方の分節領域の端部へかけて曲率半径が連続的に変化することで、一対の分節領域の端部同士を滑らかに接続してもよい。レンズ部に移行部が形成されない場合、互いに隣接する一対の分節領域の境界には段差等が生じる場合があるので、段差等によって光が乱反射して視野が悪化する現象(例えば、ハローまたはグレア等)が生じる場合もある。これに対し、隣接する一対の分節領域の間に移行部が形成されることで、段差等による光の乱反射の影響が生じにくくなる。さらに、レンズ部に移行部が形成される場合、移行部内の各領域の屈折力は、隣接する一方の分節領域の屈折力から、他方の分節領域の屈折力へと滑らかに移行する。その結果、レンズ部には、各々の分節領域の屈折力に加えて、各分節領域の屈折力の間の屈折力も付与される。よって、レンズ部に移行部を形成することで、多焦点眼内レンズの焦点深度拡張(EDOF:Expanded Depth of Focus)の効果も適切に得られる。
【0016】
分節領域および移行部の両方が、レンズ部の光軸に対して平行にレンズ部に入射する光を、光軸に近づく方向に屈折させてもよい。この場合、レンズ部を通過する光のうち、網膜に到達せずにロスする光の量が減少する。よって、より良好な視野が得られ易くなる。なお、レンズ部に移行部を形成せずに眼内レンズを製造することも可能である。この場合でも、分節領域に微小プリズム群等を形成する場合に比べて良好な視野が得られ易くなる。
【0017】
レンズ部の中央部から外側に広がる移行部の中心角は、5度以上30度以下であってもよい。この場合、複数の分節領域による多焦点の効果と、焦点深度拡張効果が共に適切に得られ易くなる。
【0018】
なお、移行部の中心角は、15度以上20度以下であってもよい。この場合、複数の分節領域による多焦点の効果と、焦点深度拡張効果がさらに適切に得られ易くなる。
【0019】
レンズ部の中央部から外側に広がる、遠用領域、近用領域、および中間領域の各々の中心角は、遠用領域の中心角が最も大きく、中間領域の中心角が最も小さくてもよい。この場合、遠用領域による遠方視と、近用領域による近方視が、共に焦点深度が拡大された状態で適切に得られやすくなる。
【0020】
遠用領域の中心角は140度以上であり、近用領域の中心角は90度以上であり、中間領域の中心角は30度以上であってもよい。この場合、遠用領域による遠方視と、近用領域による近方視が、共に焦点深度が拡大された状態で適切に得られやすくなる。
【0021】
近用領域の屈折力は+2.5D以上+4.0D以下であり、中間領域の屈折力は+1.0D以上+2.5D以下であってもよい。この場合、複数の分節領域による多焦点の効果と、焦点深度拡張効果が共に適切に得られ易くなる。
【0022】
なお、近用領域の屈折力は+3.0D以上+3.5D以下であり、中間領域の屈折力は+1.5D以上+2.0D以下であってもよい。この場合、多焦点の効果と、焦点深度拡張効果がさらに適切に得られ易くなる。
【0023】
レンズ部の前面および後面の少なくとも一方に、装用者の乱視を矯正するトーリック面が形成されていてもよい。この場合、遠方視と近方視が共に得られることに加え、装用者の乱視も矯正できる眼内レンズが提供される。
【0024】
なお、複数の分節領域は、レンズ面における前面(つまり、装用者の眼内に装着された際に、眼の前側(角膜側)を向く面)に形成されていてもよい。この場合、レンズ面の後面の形状が滑らかになり易くなるので、レンズ面の後面と眼の後嚢の間に細胞等が入り込んで後発白内障が発生することが抑制され易くなる。また、レンズ面における前面に、複数の分節領域とトーリック面が共に形成されてもよい。この場合、レンズ面にトーリック面を形成する場合でも後発白内障の発生が抑制され易くなる。ただし、分節領域とトーリック面の少なくとも一方を、レンズ面の後面に形成することも可能である。分節領域が形成される面と、トーリック面が形成される面が異なっていてもよい。
【0025】
本開示における眼内レンズの第2態様について説明する。本開示で例示する眼内レンズは、変形可能であり、眼内レンズ挿入器具の内部の通路を通じて前端部の挿入口から患者眼の眼内に挿入される。眼内レンズ挿入器具は、押出部材とノズルを備える。押出部材は、通路の軸である押出軸に沿って通路内を前方に移動することで、眼内レンズを前方に押し出す。ノズルの通路面積は、前方に向かう程小さくなるように形成されている。ノズルは、前端部に挿入口を有し、押出部材によって眼内レンズが通路内を前方に押し出される過程で眼内レンズを折り畳んだ後、挿入口から眼内レンズを排出する。眼内レンズは略円盤形状のレンズ部を備える。レンズ部の幾何中心を通り、且つレンズ部のレンズ面に対して垂直となる条件を満たす任意の方向の断面を、仮想断面として想定する。本開示の眼内レンズでは、仮想断面を想定する方向に応じて、仮想断面におけるレンズ部の断面積が変化する。眼内レンズがノズルによって折り畳まれる際に、押出軸に対して垂直となる方向の仮想断面(第1断面)におけるレンズ部の断面積が、他の方向の仮想断面における断面積以下となる。
【0026】
本開示における眼内レンズが、眼内レンズ挿入器具の押出軸に対して適切な角度でノズルの通路内を押し出されると、押出軸に垂直な方向におけるレンズ部の断面積の最大値(つまり、折り畳まれた状態のレンズ部の断面積が最大となる、第1断面における断面積)が小さくなる。従って、本開示の眼内レンズは、ノズルの通路内で小さく折り畳むことが可能である。
【0027】
幾何中心から仮想断面に沿って一方の外周へ延びるライン上の屈折力と、幾何中心から仮想断面に沿って他方の外周へ延びるライン上の屈折力の合計値を、任意の各方向の仮想断面について算出する。この場合、第1断面に沿う一対のライン上の屈折力の合計値が、他の方向の仮想断面に沿う一対のライン上の屈折力の合計値以上となるように、眼内レンズが設計されてもよい。
【0028】
レンズ部では、屈折力が大きい部位の曲率半径は、屈折力が小さい部位の曲率半径よりも小さくなる。換言すると、レンズ部では、屈折力が大きい部位のレンズ面のカーブは、屈折力が小さい部位のレンズ面のカーブよりも急になる。ここで、レンズ部の幾何中心に段差を設けることは光学的に望ましくないので、想定される仮想断面の方向に関わらず、仮想断面中の幾何中心におけるレンズ部の厚みは同一とされる。その結果、屈折力が大きい部位(レンズ面のカーブが急な部位)のレンズ部側面(コバ部)の厚みは、屈折力が小さい部位(レンズ面のカーブが緩やかな部位)のレンズ部側面の厚みよりも小さくなる。従って、幾何中心から仮想断面に沿って両方向に延びるライン上の屈折力の合計値が大きくなる程、仮想断面におけるレンズ部の断面積は小さくなる。よって、第1断面に沿うライン上の屈折力の合計値が、他の方向の仮想断面に沿うライン上の屈折力の合計値以上となるように、眼内レンズが設計されることで、第1断面におけるレンズ部の断面積が適切に小さくなる。その結果、眼内レンズはノズルの通路内で小さく折り畳まれ易くなる。
【0029】
なお、第1断面におけるレンズ部2の構成の規定方法を変更することも可能である。例えば、幾何中心から仮想断面に沿って一方の外周へ延びるライン上のレンズ部の曲率半径(例えば、ライン上の曲率半径の平均値等。以下も同様。)と、幾何中心から仮想断面に沿って他方の外周へ延びるライン上の曲率半径の合計値を、任意の各方向の仮想断面について算出する。この場合、第1断面に沿うライン上の曲率半径の合計値が、他の方向の仮想断面に沿うライン上の曲率半径の合計値以下となるように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合でも、第1断面におけるレンズ部の断面積が適切に小さくなる。
【0030】
また、眼内レンズが、装用者の乱視を矯正するトーリック眼内レンズである場合には、レンズ部に強主経線と弱主経線が存在する。強主経線とは、任意の経線のうち、曲率半径が小さく屈折力が最大となる経線を示す。また、弱主経線とは、曲率半径が大きく屈折力が最小となる経線を示す。トーリック眼内レンズでは、第1断面の位置が、レンズ部の強主経線に一致するように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合も、第1断面におけるレンズ部の断面積が適切に小さくなる。
【0031】
眼内レンズは、一対の支持部をさらに備えていてもよい。一対の支持部は、レンズ部の側面の異なる部位から外側に向けて延びると共に、患者眼の眼内でレンズ部を支持する。一対の支持部の各々の基端部を通過する方向の仮想断面(第2断面)におけるレンズ部の断面積が、他の方向の仮想断面における断面積以上となるように、眼内レンズが設計されてもよい。
【0032】
一対の支持部の各々の基端部は、眼内でレンズ部を安定して支持するために、レンズ部の側面のうち厚みが大きい部分に接続されることが望ましい。また、レンズ部の側面のうち、厚みが小さい部分に支持部の基端部が接続されると、眼内レンズの眼内への挿入時に支持部が折り曲げられた際に、支持部の基端部およびレンズ部に意図しない変形または破損等が生じ易くなる。ここで、一対の支持部の各々の基端部を通過する方向の第2断面におけるレンズ部の断面積が、他の方向の仮想断面における断面積以上となるように、眼内レンズが設計されることで、レンズ部の側面のうち、一対の支持部の基端部が接続される部位の厚みが大きくなる。その結果、支持部の基端部の剛性が確保されるので、意図しない変形または破損等が生じにくくなり、眼内レンズがさらに適切に眼内に設置され易くなる。また、一対の支持部の変形量も均等になり易くなるので、眼内レンズの眼内への挿入時における安定性も向上し易くなる。
【0033】
幾何中心から仮想断面に沿って一方の外周へ延びるライン上の屈折力と、幾何中心から仮想断面に沿って他方の外周へ延びるライン上の屈折力の合計値を、任意の各方向の仮想断面について算出する。この場合、第2断面に沿うライン上の屈折力の合計値が、他の方向の仮想断面に沿うライン上の屈折力の合計値以下となるように、眼内レンズが設計されてもよい。
【0034】
前述したように、屈折力が小さい部位(レンズ面のカーブが緩やかな部位)のレンズ部側面(コバ部)の厚みは、屈折力が大きい部位(レンズ面のカーブが急な部位)のレンズ部側面の厚みよりも大きくなる。よって、第2断面に沿うライン上の屈折力の合計値が、他の方向の仮想断面に沿うライン上の屈折力の合計値以上となるように眼内レンズが設計されることで、レンズ部の側面のうち、一対の支持部の基端部が接続される部位の厚みが大きくなる。
【0035】
なお、第2断面の方向を規定する方法を変更することも可能である。例えば、幾何中心から仮想断面に沿って一方の外周へ延びるライン上のレンズ部の曲率半径(例えば、ライン上の曲率半径の平均値等。以下も同様。)と、幾何中心から仮想断面に沿って他方の外周へ延びるライン上の曲率半径の合計値を、任意の各方向の仮想断面について算出する。この場合、第2断面に沿う一対のライン上の曲率半径の合計値が、他の方向の仮想断面に沿う一対のライン上の曲率半径の合計値以下となるように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合でも、レンズ部の側面のうち、一対の支持部の基端部が接続される部位の厚みが大きくなる。
【0036】
また、トーリック眼内レンズでは、第2断面の位置が、レンズ部の弱主経線に一致するように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合も、レンズ部の側面のうち、一対の支持部の基端部が接続される部位の厚みが大きくなる。
【0037】
レンズ部の前面および後面の少なくとも一方に、複数の分節領域が形成されていてもよい。複数の分節領域は、レンズ部の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有していてもよい。第1断面におけるレンズ部の断面積が、他の方向の仮想断面における断面積以下となるように、複数の分節領域がレンズ部に配置されていてもよい。
【0038】
この場合、複数の領域が同心円上に配置された眼内レンズとは異なり、装用者の瞳孔が小さくなった場合でも、複数の分節領域の各々を光が通過して網膜に集光する。また、複数の分節領域は、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。従って、分節領域に微小プリズム群等を形成する場合に比べて、意図しない方向に散乱する光の量が減少する。その結果、網膜に至る光のロスが生じにくくなり、より良好な視野が得られ易くなる。また、高い精度で加工し易く、且つ、眼内への挿入時に破損が生じる可能性も低い。さらに、眼内レンズは、ノズルの通路内で小さく折り畳まれて眼内に挿入される。
【0039】
ただし、前述したように、本開示の第2態様で例示した技術は、複数の分節領域が形成されていない眼内レンズ(例えば、トーリック眼内レンズ等)に適用することも可能である。また、複数の分節領域と、装用者に乱視を矯正するトーリック面の両方がレンズ部に形成されていてもよい。なお、レンズ面の前面および後面のうち、分節領域が形成される面と、トーリック面が形成される面は、同一の面であってもよいし異なる面であってもよい。
【0040】
<実施形態>
以下、本開示における典型的な実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の眼内レンズ1は、眼内レンズ挿入器具100によって患者眼の眼内に挿入される。以下の説明では、眼内レンズ1のうち、眼内レンズ挿入器具100によって先に眼内に挿入される側の方向(図1の左側)を、眼内レンズ1の前方とする。
【0041】
(眼内レンズの概略構成)
図1を参照して、本実施形態における眼内レンズ1の概略構成について説明する。眼内レンズ1は、レンズ部2と支持部3を備える。本実施形態の眼内レンズ1は、レンズ部2と支持部3が一体成型された、所謂ワンピース型の眼内レンズである。ただし、本開示で例示する技術の少なくとも一部は、レンズ部2と支持部3が別部材で形成された、所謂3ピース型の眼内レンズにも適用できる。眼内レンズ1は変形することができる。眼内レンズ1の材料には、例えば、BA(ブチルアクリレート)、HEMA(ヒドロキシエチルメタクリレート)等の単体、アクリル酸エステルとメタクリル酸エステルの複合材料等の種々の軟性の材料を採用できる。
【0042】
レンズ部2は、眼内レンズ1を装用した装用者の眼(つまり、患者眼)に所定の屈折力を与える。レンズ部2に付与される屈折力の詳細については後述する。レンズ部2の形状は円盤形状である。本実施形態で例示するレンズ部2の光軸は、レンズ部2の幾何中心Oを通り、且つ、レンズ部2のレンズ面に垂直な方向(上下方向)に延びる。ただし、レンズ部2の光軸は、レンズ部の幾何中心Oと一致していなくてもよい。
【0043】
本実施形態の眼内レンズ1は、一対の支持部3(前方支持部3A、および後方支持部3B)を備える。一対の支持部3の基端部4(つまり、前方支持部3Aの基端部4Aと、後方支持部3Bの基端部4B)は、レンズ部2の外周部の側面の異なる部位(本実施形態では、円盤形状であるレンズ部2の外周部における正反対の部位の各々)に接続されている。眼内レンズ1が患者眼の眼内に装用されると、一対の支持部3は、患者眼の眼内でレンズ部2を支持する。
【0044】
詳細は後述するが、本実施形態では、眼内レンズ挿入器具100のノズル180(図2および図4参照)の通路内を眼内レンズ1が進行する際の、眼内レンズ1の進行方向Dが、予め想定されている。つまり、眼内レンズ1がノズル180の通路内を進行する際に、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dは、ノズル180の通路の軸である押出軸A(図2および図4参照)に一致する。
【0045】
前方支持部3Aは、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100の設置部130に設置された状態で、レンズ部2の外周部の側面から眼内レンズ挿入器具100の前方に向けて湾曲して延び出す(図4参照)。つまり、前方支持部3Aは、周方向に湾曲したループ形状であり、前方支持部3Aの先端部は自由端とされている。後方支持部3Bは、眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100の設置部130に設置された状態で、レンズ部2の外周部から眼内レンズ挿入器具100の後方に向けて湾曲して延び出す(図4参照)。つまり、後方支持部3Bは、周方向に湾曲したループ形状であり、後方支持部3Bの先端部も自由端とされている。
【0046】
(眼内レンズ挿入器具)
眼内レンズ挿入器具100について説明する。以下の説明では、眼内レンズ挿入器具100における本体部101のノズル180側の方向(図2の紙面左下側)を眼内レンズ挿入器具100の前方、プランジャー300の押圧部370の方向(図2の紙面右上側)を眼内レンズ挿入器具100の後方とする。また、図2の紙面上側を眼内レンズ挿入器具100の上方、図2の紙面下側を眼内レンズ挿入器具100の下方、図2の紙面右下側を眼内レンズ挿入器具100の右方、図2の紙面左上側を眼内レンズ挿入器具100の左方とする。
【0047】
まず、図2を参照して、本実施形態の眼内レンズ挿入器具100の全体構成について説明する。前述したように、眼内レンズ挿入器具100は、変形可能な眼内レンズ1を眼内に挿入するために使用される。眼内レンズ挿入器具100は、本体部101とプランジャー300を備える。本体部101は略筒状であり、本体部101の内部の通路を通じて眼内レンズ1が眼内に挿入される。プランジャー300は棒状であり、本体部101の内部の通路を前後方向に移動することができる。プランジャー300は、押出軸(通路の軸)Aに沿って前方に移動することで、本体部101の内部に装填された眼内レンズ1を押し出す。
【0048】
本実施形態の本体部101およびプランジャー300は、樹脂材料で形成されている。眼内レンズ挿入器具100は、モールド成型、樹脂の削り出しによる切削加工等によって形成されてもよい。眼内レンズ挿入器具100が樹脂材料で形成されることで、使用者は、使用済みの眼内レンズ挿入器具100を容易に廃棄することができる。
【0049】
本実施形態では、粘着性を有する軟性の眼内レンズ1を円滑に眼内に挿入するために、本体部101の内壁に潤滑コーティング処理が行われている。また、本実施形態の眼内レンズ挿入器具100は、無色透明または無色半透明で形成されている。従って、使用者は、眼内レンズ挿入器具100の内部に充填されている眼内レンズ1の変形状態等を、眼内レンズ挿入器具100の外側から容易に視認することができる。
【0050】
図2を参照して、本体部101について説明する。本体部101は、本体筒部110と、設置部130と、ノズル(挿入部)180を備える。
【0051】
本体筒部110は、前後方向に延びる筒状に形成されており、本体部101の後端側(基端側)に位置する。本体筒部110の後端よりもやや前方の外周には、使用者によって把持される張り出し部111が形成されている。
【0052】
設置部130は、本体筒部110の前端側に接続されている。設置部130には眼内レンズ1が設置(装填)される。詳細には、設置部130は保持部160とセット部170を備える。保持部160は、眼内レンズ挿入器具100が保管状態とされている場合に眼内レンズ1を保持する。セット部170は、先端部の軸を中心として回動可能に設けられている。セット部170が回動されると、保持部160に保持されている眼内レンズ1が、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動して位置決めされる。
【0053】
ノズル180は、設置部130の前端側に接続されている。ノズル180内の通路面積は、眼内レンズ1を前方に押し進める過程で眼内レンズ1を小さく変形させるために、前方に向かう程小さくなる。つまり、ノズル180には、先細りの内部空間が形成されている。ノズル180の前端には、先端が斜めに切断された円筒状の挿入部182が設けられている。挿入部182は眼内に差し込まれる。挿入部182の前端には、眼内レンズ1を内部の通路から前方に排出するための開口である挿入口183が形成されている。本体部101の内部の通路は、本体筒部110の後端からノズル180の前端の挿入口183まで貫通している。
【0054】
図3を参照して、プランジャー300の概略構成について説明する。本実施形態のプランジャー300は、押出部材310と、軸基部350と、押圧部370を備える。
【0055】
押圧部370は、プランジャー300の後端に形成されている。押圧部370は、押出軸A(図2参照)と直交する方向に延びる板状の部材である。押圧部370には、使用者がプランジャー300を前方へ押し出す際に、使用者の指が接触する。
【0056】
軸基部350は、押圧部370の前端側から前方に延びる棒状の部材である。本実施形態では、軸基部350は、押出軸Aに直交する断面の形状が略H状となるように形成されている。押出軸Aに直交する断面の形状が略矩形である本体筒部110に、軸基部350が挿入されることで、本体部101に対するプランジャー300の押出軸Aの周方向の回転が抑制される。プランジャー300が前方へ移動し、眼内レンズ1の眼内への挿入が完了する位置に到達すると、軸基部350の前端下部の傾斜面が、本体部101の所定箇所に形成された傾斜面に接触する。その結果、プランジャー300の前端が挿入口183(図2参照)から過度に突き出ることが防止される。
【0057】
押出部材310は、棒状の部材であり、押出軸Aの軸方向に沿って軸基部350の前端から前方に延びる。押出部材310は、押出軸Aに直交する断面の形状が略円形となるように形成されている。また、押出部材310の太さは、本体部101の挿入口183を通過できる太さとなっている。押出部材310は、本体部101の通路内を押出軸Aに沿って前方に移動することで、眼内レンズ1を小さく折り畳みながら前方に押し出して、挿入口183から眼内に排出する。
【0058】
図4を参照して、本実施形態の眼内レンズ挿入器具10によって眼内レンズ1を眼内に挿入する際の、眼内レンズ1の移動および変形の状態について説明する。まず、作業者は、セット部170(図2参照)を回転させることで、設置部130の保持部160(図2参照)に保持されている眼内レンズ1を、プランジャー300によって押し出されることが可能な待機位置に移動させる。ここで、図4(a)に示すように、保持部160に保持された眼内レンズ1における後方支持部3Bの基端部4Bは、押出軸Aに対して左右のいずれかの方向にずれている。
【0059】
次いで、作業者は、注入器等を用いて潤滑剤(粘弾性物質)を設置部130内に注入し、プランジャー300の前方への移動を開始させる。その結果、図4(a)に示すように、押出部材310が眼内レンズ1の後方支持部3Bに接触する。
【0060】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、図4(b)に示すように、後方支持部3Bは、押出部材310によってレンズ部2に近づく方向に移動する(曲げられる)。その結果、後方支持部3Bはレンズ部2の上方へ変形移動し、後方支持部3Bの先端が前方を向く。図4(b)に示す状態を、後方支持部3Bのタッキングが行われた状態と言う場合もある。
【0061】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、押出部材310がレンズ部2に接触し、眼内レンズ1の全体が前方へ移動する。図4(c)に示すように、眼内レンズ1がノズル180に到達すると、先細りとなっているノズル180の内壁に前方支持部3Aが接触する。その結果、前方支持部3Aがレンズ部2の上方へ変形移動し、前方支持部3Aの先端が後方を向く。つまり、前方支持部3Aのタッキングが行われる。また、先細りとなっているノズル180の内壁に前方支持部3Aが接触することで、予め想定された眼内レンズ1の進行方向D(図1参照)が、眼内レンズ挿入器具100の押出軸Aと略一致する。
【0062】
プランジャー300がさらに前方に押し進められると、眼内レンズ1のレンズ部2も、先細りとなっているノズル180の内壁に接触する。その結果、図4(d)に示すように、眼内レンズ1のレンズ部2は小さく折り畳まれていく。
【0063】
図4(e)に示すように、眼内レンズ1は、前方に押し進められる程小さく折り畳まれる。ノズル180の通路面積は前方へ向かう程狭くなるので、眼内レンズ1にかかる負荷は徐々に増加し得る。しかし、本実施形態の眼内レンズ1は、ノズル180によってより小さく折り畳まれやすくなるように設計されている。この詳細は後述する。
【0064】
(レンズ部の分節領域)
本実施形態の眼内レンズ1のレンズ部2に形成されている分節領域20について説明する。図5に示すように、本実施形態の眼内レンズ1では、円盤形状のレンズ部2の前面および後面の少なくとも一方に、3つ以上の分節領域20(20A,20B,20C)が形成されている。
【0065】
複数の分節領域20は、互いに異なる屈折力を有する。詳細には、本実施形態のレンズ部2には、遠用領域20A、近用領域20B、および中間領域20Cが形成されている。遠用領域20Aは、複数の分節領域20の中で最も小さい屈折力を有する。近用領域20Bは、複数の分節領域20の中で最も大きい屈折力を有する。中間領域20Cは、遠用領域20Aの屈折力と、近用領域20Bの屈折力の間の屈折力を有する。従って、レンズ部2における遠用領域20A、近用領域20B、および中間領域20Cを通過した光が装用者の網膜に集光することで、多焦点の効果が得られる。なお、本開示では、各々の分節領域20は、領域内の部位に関わらず屈折力が略同一となる領域とする。
【0066】
レンズ部2をレンズ面に対して垂直な方向から見た場合に、複数の分節領域20は、レンズ部2の中央部から外側に向けて放射状に広がる。つまり、各々の分節領域20は、レンズ部2の中央部の1点から外側に向けて直線状に延びる境界線によって分節されている。従って、複数の領域が同心円状に配置された眼内レンズとは異なり、装用者の瞳孔が小さくなった場合でも、複数の分節領域20の全てを光が通過し易くなる。その結果、装用者の瞳孔の大きさに関わらず、多焦点の効果が得られ易くなる。なお、分節領域20の境界線は直線に限定されず、曲線等であってもよいし、屈曲していてもよい。
【0067】
詳細には、本実施形態の眼内レンズ1では、レンズ部2の中央部における1つの基準点(本実施形態では、レンズ部2の幾何中心O)から外側に向けて放射状に広がる。つまり、各々の分節領域20のうち、レンズ部2の中央部から外側に向けて延びる直線状の境界線(端部)は、全て同一の基準点を通過する。従って、装用者の瞳孔が小さくなっても、レンズ部2の中央部に一定の領域(例えば円形の領域等)を別途形成する場合に比べて、複数の分節領域20の各々を通過する光の量が確保され易くなる。その結果、装用者の瞳孔の大きさに関わらず、多焦点の効果が得られ易くなるので、装用者の視野が良好になり易くなる。ただし、レンズ部2の中央部に一定の領域を設けることも可能である。この場合でも、複数の領域が同心円状に配置される場合に比べて、装用者の瞳孔の大きさに関わらず多焦点の効果が得られ易くなる。
【0068】
図6は、遠用領域20Aと近用領域20Bについて、レンズ部2の幾何中心Oを通り、且つレンズ部2のレンズ面に対して垂直な断面の断面図を模式的に比較した図である。図6に示すように、本実施形態の眼内レンズ1に形成された複数の分節領域20は、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。なお、各々の分節領域20のレンズ面は、球面でもよいし非球面でもよい。レンズ面が非球面である場合、本開示における「曲率半径」の用語は、非球面のレンズ面に近似させた球面の曲率半径として解釈してもよい。
【0069】
図6に示す例では、屈折力が小さい遠用領域20Aの曲率半径は、屈折力が大きい近用領域20Bの曲率半径よりも大きくなる。換言すると、屈折力が小さい遠用領域20Aのレンズ面のカーブは、屈折力が大きい近用領域20Bのレンズ面のカーブよりも緩やかになる。複数の分節領域20の各々の曲率半径を変えて、各々の分節領域20の屈折力を変えることで、分節領域20の各々に異なる微小プリズム群等を形成して屈折力を変える場合に比べて、意図しない方向に散乱する光の量が減少する。その結果、網膜に至る光のロスが生じにくくなり、より良好な視野が得られ易くなる。また、本実施形態の眼内レンズ1は高い精度で加工し易く、且つ、眼内への挿入時に破損等が生じる可能性も低い。
【0070】
なお、図6に示すように、レンズ部2の幾何中心Oには段差等は設けられていない。従って、屈折力が大きい部位(レンズ面のカーブが急な部位)のレンズ部2の側面(コバ部)の厚みは、屈折力が小さい部位(レンズ面のカーブが緩やかな部位)のレンズ部2の側面の厚みよりも小さくなる。
【0071】
図5に示すように、レンズ部2をレンズ面に対して垂直な方向から見た場合に、レンズ部2における複数の分節領域20の間には移行部21(21A,21B,21C)が形成されている。各々の移行部21は、自身を介して互いに隣接する一対の分節領域20の一方の分節領域20の端部から、他方の分節領域20の端部へかけて曲率半径が連続的に変化することで、一対の分節領域20の端部同士を滑らかに接続する。
【0072】
図5に示す例では、遠用領域20Aの屈折力は0D、近用領域20Bの屈折力は+3.25D、中間領域20Cの屈折力は+2.0Dとされている。従って、遠用領域20Aと近用領域20Bの間に形成された移行部21Aでは、遠用領域20A側の端部から近用領域20B側の端部へ近づくに従って、屈折力が0Dから+3.25Dへ滑らかに変化する。近用領域20Bと中間領域20Cの間に形成された移行部21Bでは、近用領域20B側の端部から中間領域20C側の端部へ近づくに従って、屈折力が+3.25Dから+2.0Dへ滑らかに変化する。中間領域20Cと遠用領域20Aの間に形成された移行部21Cでは、中間領域20C側の端部から遠用領域20A側の端部へ近づくに従って、屈折力が+2.0Dから0Dへ滑らかに変化する。
【0073】
レンズ部2に移行部21が形成されない場合、互いに隣接する一対の分節領域20の境界には段差等が生じる場合があるので、段差等によって光が乱反射して視野が悪化する現象(例えば、ハローまたはグレア等)が生じる場合もある。これに対し、隣接する一対の分節領域20の間に移行部21が形成されることで、段差等による光の乱反射の影響が生じにくくなる。さらに、レンズ部2に移行部21が形成される場合、移行部21内の各領域の屈折力は、隣接する一方の分節領域20の屈折力から、他方の分節領域20の屈折力へと滑らかに移行する。その結果、レンズ部2には、各々の分節領域20の屈折力に加えて、各分節領域20の屈折力の間の屈折力も付与される。よって、レンズ部2に移行部21を形成することで、多焦点眼内レンズの焦点深度拡張(EDOF:Expanded Depth of Focus)の効果も適切に得られる。
【0074】
本実施形態の眼内レンズ1では、分節領域20および移行部21の両方が、レンズ部2の光軸に対して平行にレンズ部2に入射する光を、光軸に近づく方向に屈折させる。その結果、レンズ部2を通過する光のうち、網膜に到達せずにロスする光の量が減少する。よって、より良好な視野が得られ易くなる。
【0075】
レンズ部2の中央部(本実施形態では、基準点である幾何中心O)から外側に広がる各々の移行部21の中心角は、5度以上30度以下に設計されている。この場合、複数の分節領域20による多焦点の効果と、焦点深度拡張効果が共に適切に得られ易くなる。なお、各々の移行部21の中心角は、15度以上20度以下に設計されていることがより望ましい。一例として、図5に例示する眼内レンズ1に形成された3つの移行部21の中心角は、全て20度に設計されている。ただし、複数の移行部21をレンズ部2に形成する場合、各々の移行部21の中心角は同一でなくてもよいことは言うまでもない。
【0076】
レンズ部2の中央部から外側に広がる、遠用領域20A、近用領域20B、および中間領域20Cの各々の中心角は、遠用領域20Aの中心角CAが最も大きく、中間領域20CCの中心角CCが最も小さく設計されている。この場合、遠用領域20Aによる遠方視と、近用領域20Bによる近方視が、共に焦点深度が拡大された状態で適切に得られやすくなる。
【0077】
詳細には、遠用領域20Aの中心角CAは140度以上、近用領域20Bの中心角CBは90度以上、中間領域20Cの中心角CCは30度以上に設計されている。この場合、遠用領域20Aによる遠方視と、近用領域20Bによる近方視が、共に焦点深度が拡大された状態で適切に得られやすくなる。一例として、図5に例示する眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角CAは150度、近用領域20Bの中心角CBは100度、中間領域20Cの中心角CCは50度に設計されている。
【0078】
本実施形態の眼内レンズ1では、近用領域20Bの屈折力は+2.5D以上+4.0D以下、中間領域20Cの屈折力は+1.0D以上+2.5D以下に設計されている。この場合、複数の分節領域20による多焦点の効果と、焦点深度拡張効果が共に適切に得られ易くなる。なお、近用領域20Bの屈折力は+3.0D以上+3.5D以下、中間領域20Cの屈折力は+1.5D以上+2.0D以下に設計されていることがより望ましい。一例として、図5に例示する眼内レンズ1では、遠用領域20Aの屈折力は0D、近用領域20Bの屈折力は+3.25D、中間領域20Cの屈折力は+2.0Dに設計されている。
【0079】
レンズ部2の前面および後面の少なくとも一方に、装用者の乱視を矯正するトーリック面を形成することも可能である。この場合、遠方視と近方視が共に得られることに加え、装用者の乱視も矯正できる眼内レンズ1が提供される。なお、複数の分節領域20は、レンズ面における前面(つまり、装用者の眼内に装着された際に、眼の前側(角膜側)を向く面)に形成されていてもよい。この場合、レンズ面の後面の形状が滑らかになり易くなるので、レンズ面の後面と眼の後嚢の間に細胞等が入り込んで後発白内障が発生することが抑制され易くなる。また、レンズ面における前面に、複数の分節領域20とトーリック面が共に形成されてもよい。この場合、レンズ面にトーリック面を形成する場合でも後発白内障の発生が抑制され易くなる。ただし、分節領域20とトーリック面の少なくとも一方を、レンズ面の後面に形成することも可能である。分節領域20が形成される面と、トーリック面が形成される面が異なっていてもよい。
【0080】
図7を参照して、遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角を変えた場合のMTFの特性について説明する。MTF(Modulation Transfer Function)とは、コントラストを示す指標である。図7のグラフでは、デフォーカス量(焦点ずれ、度数ずれの量)を横軸、MTFを縦軸とする、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線を示す。
【0081】
図7でMTF曲線が示されたA,B,C,Dの4つの眼内レンズ1では、遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角が、前述した望ましい条件の範囲内で変更されている。詳細には、Aの眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角を180度、屈折力を0Dとし、近用領域20Bの中心角を120度、屈折力を+3.5Dとし、中間領域20Cの中心角を60度、屈折力を+1.75Dとしている。Bの眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角を180度、屈折力を0Dとし、近用領域20Bの中心角を120度、屈折力を+3.25Dとし、中間領域20Cの中心角を60度、屈折力を+1.75Dとしている。Cの眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角を180度、屈折力を0Dとし、近用領域20Bの中心角を120度、屈折力を+3.25Dとし、中間領域20Cの中心角を60度、屈折力を+2.0Dとしている。Dの眼内レンズ1では、遠用領域20Aの中心角を170度、屈折力を0Dとし、近用領域20Bの中心角を120度、屈折力を+3.25Dとし、中間領域20Cの中心角を70度、屈折力を+2.0Dとしている。図7でMTF曲線が示されたA,B,C,Dの4つの眼内レンズ1では、実際には、中心角が5度の移行部が各領域の間に設けられている。
【0082】
図7に示すように、A,B,C,Dの4つの眼内レンズ1のいずれにおいても、遠方視に対応するデフォーカス量0Dの近傍でMTFが極大値を有すると共に、近方視に対応するデフォーカス量-1.5D~-2.5Dの範囲でも極大値を有する。さらに、いずれの眼内レンズ1においても、遠方視および近方視の各々について焦点深度が適切に拡大されている。以上の結果から、遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角を、前述した望ましい条件の範囲内に設定することで、遠方視と近方視が、共に焦点深度が拡大された状態で適切に得られやすくなることが分かる。また、遠用領域20A、近用領域20B、中間領域20Cの各々の屈折力と中心角を適宜調整することで、眼内レンズ1のMTFの特性を調整できることが分かる。
【0083】
図8を参照して、遠用領域と近用領域の間に移行部を形成しない場合と移行部を形成する場合のMTFの特性について説明する。図8のグラフでは、図7のグラフと同様に、デフォーカス量(焦点ずれ、度数ずれの量)を横軸、MTFを縦軸とする、空間周波数50lp/mmにおけるMTF曲線を示す。
【0084】
図8では、遠用領域と近用領域の間に移行部を形成していない「移行部なし」の眼内レンズのMTF曲線と、遠用領域と近用領域の間に移行部を形成した「移行部あり」のMTF曲線が示されている。詳細には、「移行部なし」の眼内レンズでは、遠用領域の中心角を180度、屈折力を0Dとし、近用領域の中心角を180度、屈折力を+3.0Dとしている。「移行部あり」の眼内レンズでは、遠用領域の中心角を90度、屈折力を0Dとし、近用領域の中心角を90度、屈折力を+3.0Dとしている。また、「移行部あり」の眼内レンズでは、遠用領域と近用領域の間に、中心角を90度とする2つの移行部が形成されている。
【0085】
図8に示すように、「移行部あり」の眼内レンズでは、遠方視に対応するMTFの極大値と、近方視に対応するMTFの極大値が、共に「移行部なし」の眼内レンズに比べて互いに近づいている。また、「移行部あり」の眼内レンズでは、「移行部なし」の眼内レンズに比べて焦点深度の拡大効果が向上している。以上のように、眼内レンズのレンズ部に移行部を形成することで、多焦点眼内レンズの焦点深度拡張(EDOF)の効果が適切に得られることが分かる。
【0086】
(レンズ部の断面積)
本実施形態の眼内レンズ1のレンズ部2の断面積について説明する。図4を参照して説明したように、本実施形態の眼内レンズは、眼内レンズ挿入器具100によって患者眼の眼内に挿入される。詳細には、眼内レンズ1は、押出部材310によって、眼内レンズ挿入器具100の通路内を押出軸Aに沿って前方に移動する。眼内レンズ1がノズル180に到達すると、先細りとなっている(つまり、前方に向かう程通路面積が小さくなる)ノズル180の内壁に前方支持部3Aが接触することで、予め想定された眼内レンズ1の進行方向D(図1および図4参照)が、眼内レンズ挿入器具100の押出軸Aと略一致する。その後、眼内レンズ1のレンズ部2は、先細りとなっているノズル180の内壁に接触することで小さく折り畳まれる。
【0087】
図5に示すように、レンズ部2の幾何中心Oを通り、且つレンズ部2のレンズ面に対して垂直となる条件を満たす任意の方向の仮想断面を想定する。図5に示す第1断面S1および第2断面S2は、複数想定される仮想断面の一例である。前述したように、本実施形態の眼内レンズ1では、仮想断面を想定する方向に応じて、仮想断面におけるレンズ部2の断面積が変化する。
【0088】
眼内レンズ1が眼内レンズ挿入器具100のノズル180によって折り畳まれる際に、眼内レンズ挿入器具100の押出軸A(図2および図4参照)に対して垂直となる方向の仮想断面を、第1断面S1とする。前述したように、眼内レンズ1がノズル180に到達すると、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dは、押出軸Aと一致する。従って、第1断面S1は、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dに対して垂直な仮想断面と表現することも可能である。本実施形態の眼内レンズ1では、第1断面S1におけるレンズ部2の断面積が、他の方向の仮想断面における断面積以下となっている。従って、眼内レンズ1が押出軸Aに対して適切な角度でノズル180の通路内を押し出されると、押出軸Aに垂直な方向におけるレンズ部2の断面積の最大値(つまり、折り畳まれた状態のレンズ部2の断面積が最大となる、第1断面S1における断面積)が小さくなる。よって、本実施形態の眼内レンズ1は、ノズル180の通路内で小さく折り畳むことが可能である。
【0089】
第1断面S1とレンズ部2の構成の関係について、さらに説明する。図6を参照して説明したように、レンズ部2では、屈折力が大きい部位の曲率半径は、屈折力が小さい部位の曲率半径よりも小さくなる。換言すると、レンズ部2では、屈折力が大きい部位のレンズ面のカーブは、屈折力が小さい部位のレンズ面のカーブよりも急になる。ここで、レンズ部2の幾何中心Oに段差を設けることは光学的に望ましくないので、想定される仮想断面の方向に関わらず、仮想断面中の幾何中心Oにおけるレンズ部の厚みは同一とされる(図6参照)。その結果、屈折力が大きい部位(レンズ面のカーブが急な部位)のレンズ部2の側面(コバ部)の厚みは、屈折力が小さい部位(レンズ面のカーブが緩やかな部位)のレンズ部2の側面の厚みよりも小さくなる。つまり、レンズ部2では、屈折力が大きい部位程、厚みが小さくなる。
【0090】
ここで、レンズ部2において、幾何中心Oから仮想断面に沿って一方の外周へ延びるライン上の屈折力と、幾何中心Oから同一の仮想平面に沿って他方の外周へ延びるライン上の屈折力の合計値を、任意の各方向の仮想断面について算出する。例えば、図9に示す例では、幾何中心Oから第1断面S1に沿って一方の外周へ延びるラインLX1の屈折力(図5に示す遠用領域20Aの屈折力0D)と、幾何中心Oから第1断面S1に沿って他方の外周へ延びるラインLY1の屈折力(図5に示す近用領域20Bの屈折力+3.25D)の合計値は、+3.25Dとなる。
【0091】
本実施形態の眼内レンズ1では、第1断面S1に沿う2つのラインLX1,LY1上の屈折力の合計値が、他の方向の仮想断面に沿う2つのライン上の屈折力の合計値以上となるように、レンズ部2が設計されている。従って、レンズ部2では屈折力が大きい部位程厚みが小さくなるので、第1断面S1におけるレンズ部2の断面積が、他の方向の仮想断面におけるレンズ部2の断面積以下となる。その結果、第1断面S1におけるレンズ部2の断面積が適切に小さくなるので、眼内レンズ1はノズル180の通路内で小さく折り畳まれ易くなる。
【0092】
なお、第1断面S1におけるレンズ部2の構成の規定方法を変更してもよい。例えば、幾何中心Oから仮想断面に沿って一方の外周へ延びるライン上のレンズ部2の曲率半径(例えば、ライン上の曲率半径の平均値等。以下も同様。)と、幾何中心Oから同一の仮想断面に沿って他方の外周へ延びるライン上の曲率半径の合計値を、任意の各方向の仮想断面について算出する。この場合、第1断面S1に沿う2つラインLX1,LY1上の曲率半径の合計値が、他の方向の仮想断面に沿う2つのライン上の曲率半径の合計値以下となるように、眼内レンズ1が設計されてもよい。この場合でも、第1断面S1におけるレンズ部2の断面積が適切に小さくなる。
【0093】
支持部3(3A,3B)の基端部4(4A,4B)と、レンズ部2の関係について説明する。図1図5図9に示すように、本実施形態の眼内レンズ1は、一対の支持部3(3A,3B)を備える。一対の支持部3は、レンズ部2の側面(コバ部)の異なる部位から外側に向けて延びる。一対の支持部3の各々の基端部4は、眼内でレンズ部2を安定して支持するために、レンズ部2の側面のうち厚みが大きい部分に接続されることが望ましい。また、レンズ部2の側面のうち、厚みが小さい部分に支持部3の基端部4が接続されると、眼内レンズ1の眼内への挿入時に支持部3が折り曲げられた際に、レンズ部2に意図しない変形または破損等が生じ易くなる。
【0094】
ここで、図5および図9に示すように、一対の支持部3の各々の基端部4を通過する方向の仮想断面を、第2断面S2とする。本実施形態の眼内レンズ1では、第2断面におけるレンズ部2の断面積が、他の方向の仮想断面における断面積以上となっている。その結果、レンズ部2の側面のうち、一対の支持部3の基端部4が接続される部位の厚みが大きくなる。よって、支持部3の基端部4の剛性等が確保されるので、意図しない変形または破損等が生じにくくなり、眼内レンズ1がさらに適切に眼内に設置され易くなる。また、一対の支持部3の変形量も均等になり易くなるので眼内レンズ1の眼内への挿入時における安定性も向上し易くなる。
【0095】
第2断面S2とレンズ部2の構成の関係について、さらに説明する。図9に示す例では、幾何中心Oから第2断面S2に沿って一方の外周へ延びるラインLX2の屈折力(図5に示す遠用領域20Aの屈折力0D)と、幾何中心Oから第2断面S2に沿って他方の外周へ延びるラインLY2の屈折力(図5に示す中間領域20Cの屈折力+2.0D)の合計値は、+2.0Dとなる。本実施形態の眼内レンズ1では、第2断面S2に沿う2つのラインLX2,LY2(図9参照)上の屈折力の合計値が、他の方向の仮想断面に沿う2つのライン上の屈折力の合計値以下となるように、レンズ部2が設計されている。従って、レンズ部2では屈折力が小さい部位程厚みが大きくなるので、第2断面S2におけるレンズ部2の断面積が、他の方向の仮想断面におけるレンズ部2の断面積以上となる。その結果、レンズ部2の側面のうち、一対の支持部3の基端部4が接続される部位の厚みが大きくなる。
【0096】
なお、第2断面S2におけるレンズ部2の構成の規定方法を変更してもよい。例えば、第2断面S2に沿う2つラインLX2,LY2上の曲率半径の合計値が、他の方向の仮想断面に沿う2つのライン上の曲率半径の合計値以上となるように、眼内レンズ1が設計されてもよい。この場合でも、レンズ部2の側面のうち、一対の支持部3の基端部4が接続される部位の厚みが大きくなる。
【0097】
図5に示すように、本実施形態の眼内レンズ1のレンズ部には、前面および後面の少なくとも一方に、複数の分節領域20(20A,20B,20C)が形成されている。複数の分節領域20は、レンズ部2の中央部から外側に向けて放射状に広がると共に、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。本実施形態の眼内レンズ1では、第1断面S1におけるレンズ部2の断面積が、他の方向の仮想断面における断面積以下となるように、複数の分節領域20(図5に示す例では、複数の分節領域20と移行部21)がレンズ部2に配置されている。また、第2断面S2におけるレンズ部2の断面積が、他の方向の仮想断面における断面積以上となるように、複数の分節領域20(図5に示す例では、複数の分節領域20と移行部21)がレンズ部2に配置されている。従って、複数の領域が同心円上に配置された眼内レンズとは異なり、装用者の瞳孔が小さくなった場合でも、複数の分節領域20の各々を光が通過して網膜に集光する。また、複数の分節領域20は、曲率半径が互いに異なることで異なる屈折力を有する。従って、分節領域に微小プリズム群等を形成する場合に比べて、意図しない方向に散乱する光の量が減少する。その結果、網膜に至る光のロスが生じにくくなり、より良好な視野が得られ易くなる。さらに、眼内レンズ1は、ノズルの通路内で小さく折り畳まれて眼内に挿入される。
【0098】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。まず、上記実施形態で例示された複数の技術の一部のみを眼内レンズに採用することも可能である。例えば、第1断面S1におけるレンズ部2の断面積を小さくする技術を採用せずに、曲率半径が互いに異なる3つ以上の分節領域20をレンズ部2に形成する技術のみを採用することも可能である。この場合、眼内レンズは、眼内レンズ挿入器具100を用いずに眼内に挿入されてもよい。また、支持部を備えていない眼内レンズに3つ以上の分節領域を形成してもよい。支持部を備える眼内レンズに3つ以上の分節領域を形成する場合でも、支持部の数および形状等は、上記実施形態で例示したものに限定されない。
【0099】
また、3つ以上の分節領域20をレンズ部2に形成する技術を採用せずに、第1断面S1におけるレンズ部2の断面積を小さくする技術を採用のみを採用することも可能である。例えば、第1断面S1におけるレンズ部2の断面積を小さくする技術を、装用者の乱視を矯正するトーリック眼内レンズに採用することも可能である。この場合、トーリック眼内レンズでは、第1断面の位置が、レンズ部の強主経線に一致するように、眼内レンズが設計されてもよい。この場合も、第1断面におけるレンズ部の断面積が適切に小さくなる。
【0100】
また、上記実施形態では、先細りとなっているノズル180の内壁に、眼内レンズ1の前方支持部3Aが接触することで、予め想定された眼内レンズ1の進行方向Dが、眼内レンズ挿入器具100の押出軸Aと略一致する。しかし、眼内レンズ1の進行方向を眼内レンズ挿入器具100の押出軸Aと略一致させる方法を変更することも可能である。例えば、眼内レンズ1の進行方向Dを押出軸Aと略一致させるためのガイド等が、別途設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 眼内レンズ
2 レンズ部
3 支持部
4 基端部
20 分節領域
20A 遠用領域
20B 近用領域
20C 中間領域
21(21A,21B,21C) 移行部
100 眼内レンズ挿入器具
180 ノズル
183 挿入口
A 押出軸
D 進行方向
O 幾何中心
S1 第1断面
S2 第2断面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9