(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091190
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】分子間力を低下させた水
(51)【国際特許分類】
C02F 1/48 20230101AFI20240627BHJP
【FI】
C02F1/48 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022212932
(22)【出願日】2022-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】592151476
【氏名又は名称】伝導工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592060020
【氏名又は名称】河原 豊
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 利夫
(72)【発明者】
【氏名】河原 豊
【テーマコード(参考)】
4D061
【Fターム(参考)】
4D061DA03
4D061DB06
4D061EC05
4D061EC18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】分子間力が弱められた水を提供する。
【解決手段】磁気処理によって、室温における蒸発速度が、当該磁気処理前に比べて、同一条件で当該蒸発速度を測定して、当該蒸発速度が10%以上または0.01ミリメートル毎時以上にまで高められている水または天然水を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気処理によって、室温における蒸発速度が、当該磁気処理前に比べて、同一条件で当該蒸発速度を測定して、当該蒸発速度が10%以上または0.01ミリメートル毎時以上にまで高められている水または天然水。
【請求項2】
磁気処理によって、氷結させたのちの加熱融解過程における氷の融解熱量が、当該磁気処理前に比べて、同一条件で当該融解熱量を測定して、当該融解熱量が10%以上減少している水または天然水。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水または天然水のうち、植物の生育を促進する等の生物の代謝を高める活性を示す水または天然水。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の水または天然水のうち、生物の代謝を高める活性を示す作用が磁気処理日から30日以上経過しても持続する水または天然水。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気処理による水の分子間の結合力の変化を、従来の酸素同位体17Oの核磁気共鳴スペクトルの半価幅を測定する方法に比べて、より簡便に、より安価に、かつ確実に評価できる方法を発見したことに関する。また、本発明の評価方法を用いて、様々な磁気処理水を評価する中で、磁気処理日から数ヶ月の期間が経過しても、処理前の水に比べて水の結合力が低く抑えられ、生物学的活性を示す(例えば、植物の生育を促進する)水を製造可能であることを発見したことに関する。
【背景技術】
【0002】
水、及び天然水に生物学的活性を付与する手段として磁気処理が行われてきた。磁気処理の装置としては、水道パイプを数千から数万ガウスの磁石のN極S極で挟んだ状態でパイプに水を流すという簡単な装置(非特許文献1)、大掛かりな循環型の装置(非特許文献2)、等、様々なものが考案されてきた。しかし、磁気処理による水の分子間の結合力の変化の評価方法については、17O-NMR法(酸素同位体17Oの核磁気共鳴スペクトルの半価幅を測定する方法)しか報告がなく(非特許文献1、2)、磁気処理効果の確認のための、より簡便で安価な方法が求められてきた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】紀國 聡,工藤憲三,深澤達矢,清水達雄,水の磁気処理効果に関する基礎的研究.衛生工学シンポジウム論文集,第11巻,123-126頁,2003年.
【非特許文献2】増田純雄,石川勝美,田辺公子,楠田哲也,石黒政儀,廃水の磁気処理に関する一考察.環境技術,第21巻,2号,103-106頁,1992年.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水を17O-NMR法で測定して、酸素同位体17Oの核磁気共鳴スペクトルがシャープになる(半価幅が小さくなる)場合、このことは、一部の水の分子間の水素結合が切れて、水分子の水素結合で形成される集合体(クラスター)の大きさが小さくなり、水分子の動きが活発化していることを示していると理解された(非特許文献1、2)。つまり、十分に磁気処理された水では、分子間の水素結合が弱められていることになる。水の分子間力が弱められれば、水の蒸発速度は高められることになる。したがって、水の蒸発速度を精度良く測定できる簡便な安価な測定装置が発明出来れば、汎用性の低い高額で複雑な17O-NMR法に替えて磁気処理の効果を確認できるようになり、磁気処理された水の品質管理が容易になる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
水の蒸発過程における水蒸気圧の変化に注目すると、水面ではその時の温度の飽和水蒸気圧になっている(水と水蒸気が常に平衡状態)。一方、水面から十分に離れた場所ではその時の測定環境の湿度にまで水蒸気圧は低下する。この言わば水分子の濃度差によって水の蒸発が推進される。この様な濃度差による分子の移動は拡散現象としてとらえることが出来、次式で表せる。
蒸発速度=(拡散係数)×(飽和水蒸気圧-測定環境の湿度)÷(移動距離)(1)
試料間で蒸発速度を精度よく比較できるようにするためには、特に移動距離を厳密に揃えられる測定環境の整備が必要となる。移動距離とは具体的には実験室の空気流に蒸発した水分子が合流するまでの距離を指す。通常のシャーレでは深さが1センチメートル程度しかないため、シャーレに水を注いで、液面の水位の変化を見るだけの単純な蒸発実験では、実験室の空気流の流れが直接、液面に到達する恐れがあり、移動距離が不安定となるため、試料間での蒸発速度の違いを再現性良く評価することは不可能となる。一方、測定温度・湿度の環境を試料間で揃えるためには、試料水の入ったシャーレは出来るだけまとめて実験室内に配置する必要がある。そこで、試料となる水を、温度・湿度を制御した実験室内の特定の場所に集めるための上面が開放された測定ボックスを考案し、当該測定ボックス内で各試料水の重量の時間変化を計測することで、試料間の蒸発速度が精度よく測定可能となることを確認し本発明に至った。考案した測定ボックスの深さは(1)式の移動距離に対応する。この長さは少なくとも30センチメートル以上とすることが好ましく、ボックス底面の作業スペースは、0.2平方メートル以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
水に対する磁気処理の効果を、
17O-NMR法(酸素同位体
17Oの核磁気共鳴スペクトルの半価幅の低下度から評価する方法)は、簡便とは言えず高価な評価方法であったが、これに替えて、当該発明では、簡便な水の蒸発速度の評価から磁気処理した水の分子間力の変化の評価が可能なため、磁気処理した水の品質管理も容易となった(実施例1)。なお、実施例1に記した蒸発速度の大きく異なる2種類の天然水について、テフロンシート面に対して各天然水を滴下して液滴が形成する接触角度を測定したところ、全く有意な差が認められなかった(比較例1および比較例2)。磁気処理による水の分子間力の変化を評価する方法として、蒸発速度の測定の方が接触角度の測定に比べて有効であることが分かる。さらに、様々な磁気処理水を評価する中で、蒸発速度が数ヶ月の期間において、処理前の水に比べて顕著に高い水を製造可能であること確認することが出来た(実施例2及び
図2参照)。
【0007】
磁気処理によって天然水の蒸発速度が未処理に比べて、好ましくは35%以上、又は0.01ミリメートル毎時以上にまで高められた場合、当該磁気処理した天然水を使用して植物を生育すると、実施例3と比較例3の結果を比較して明らかなように、当該磁気処理水を使用した場合に収穫量が多くなるうえに、
図3と
図4を比較して明らかなように、当該磁気処理水を使用した生育によって植物の全長に占める可食部分の割合が大きく、逆に言えば根を短く出来ることを確認した。さらに、実施例4に記すように磁気処理した天然水を用いた生育試験の場合、暗所内の湿度が高くなりやすい環境においても、カビの発生は認められなかったが、比較例4に記すように、磁気処理していない天然水を用いた生育試験では、同様に暗所内に保管されたとき、生育試験開始後9日目において明らかなカビの発生を確認した。
【0008】
植物の生育を促進する様な生物学的活性を示す磁気水の製造に用いる天然水の電気伝導率としては、25~28℃において100マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm)以下のものが好ましく、70マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm)以下のものが最も好ましい。
【0009】
実施例3に記す植物の生育に有効であった天然水について、隣接する水の分子間の状態を確認するために、実施例5に記すように、当該磁気処理した天然水を、一旦、氷結させたのち、生成した氷の加熱過程における融解熱量を示差走査熱量計を用いて測定したところ、融解熱量は283ジュール毎グラムであった。一方、比較例5に記すように、同様に測定した磁気処理していない天然水の融解熱量は330ジュール毎グラムであった。磁気処理による融解熱量の大きな減少は、氷を形成する水の分子間力が減少したことを示すものと理解できる。したがって、実施例1と実施例5の結果は、磁気処理による隣接する水分子の分子間力の低下を相互に独立した測定方法によって評価できていることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】測定ボックス内に置かれた2個のシャーレのうち、未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))が注がれたシャーレと、当該天然水に磁気処理を行い、磁気処理日から測定日までに42日間経過した天然水が注がれたシャーレについて、蒸発試験開始からの時間経過に伴う各シャーレ内の残留水の重さの変化を示す図である。(実施例1)
【
図2】未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))を磁気処理して、当該磁気処理天然水の製造日からの経過日数の増加に伴い、磁気処理による水の蒸発速度の増加分(磁気処理の効果)が減少していく様子を示す図である。(実施例2)
【
図3】未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))について、実施例1に用いた磁気処理と同様な条件で磁気処理を行い、磁気処理日から41日間経過した天然水のみを用いて、ルッコラスプラウトの生育試験を2022年5月4日から10日間行い、結果、得られたルッコラスプラウトの苗の外観を示す図である。(実施例3)
【
図4】未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))のみを用いて、ルッコラスプラウトの生育試験を2022年5月4日から10日間行い、結果、得られたルッコラスプラウトの苗の外観を示す図である。(比較例3)
【
図5】実施例1で用いた未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))に対して、実施例1で施した磁気処理と同様な条件で磁気処理を行い42日間経過した天然水について、氷結過程(毎分5℃の降温速度)における結晶の生成による発熱量、及び昇温過程(毎分5℃の昇温速度)における氷の融解による吸熱量を示差走査熱量計を用いて測定し、各過程において観測された発熱・吸熱曲線を示す図である。当該測定では氷結と融解を2度繰り返している。
【
図6】実施例1で用いた未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))について、氷結過程(毎分5℃の降温速度)における結晶の生成による発熱量、及び昇温過程(毎分5℃の昇温速度)における氷の融解による吸熱量を示差走査熱量計を用いて測定し、各過程において観測された発熱・吸熱曲線を示す図である。当該測定では氷結と融解を2度繰り返している。
【発明を実施するための形態】
【実施例0011】
室温28℃、相対湿度55%に設定された実験室内に測定ボックスを設置した。当該ボックス内には、試料水を注ぎ入れるためのシャーレ(内径87mm)2個と、上皿電子天秤を設置した。各シャーレに、未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))と、当該天然水に磁気処理を行い測定日までに42日間経過した天然水を、各々25.6グラム注ぎ入れ、上方が開放されたシャーレの水面から蒸発する水によるシャーレ内の残留水の重量の低下を測定し、
図1に示す結果を得た。経過時間に対して、明らかに磁気処理した天然水の重量減少の方が、グラフの傾きが急であるため速いことが分かる。各グラフの傾きは蒸発速度に対応するため、傾きから蒸発速度を求めたところ、未処理天然水では毎時0.265グラムとなり、磁気処理した天然水では毎時0.342グラムの減少速度となった。シャーレ開口面積と測定温度における水の密度から1時間当たりの水面の低下量を計算すると、未処理天然水では0.0447ミリメートルとなり、磁気処理した天然水では0.0578ミリメートルとなった。
実施例1で用いた未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))を、25℃の実験室内で十分長時間保管した後、実験室内のテフロン製シートに滴下して、液滴がシート面と形成する接触角度をθ/2法で求めたところ、5回の測定の平均値は117.4度、標準偏差は0.49となった。
実施例1で用いた未処理の天然水(電気伝導率、28℃、約60マイクロジーメンス毎センチメートル(μS/cm))について、実施例1に用いた磁気処理と同様な条件で磁気処理を行い測定日までに43日間経過した天然水を、25℃の実験室内で十分長時間保管した後、実験室内のテフロン製シートに滴下して、液滴がシート面と形成する接触角度をθ/2法で求めたところ、5回の測定の平均値は117.0度、標準偏差は0.63となった。