(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091200
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】含水ゲルシート形成用コート剤および含水ゲルシート
(51)【国際特許分類】
C09D 201/08 20060101AFI20240627BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240627BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240627BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C09D201/08
C09K3/00 103L
C09D5/02
B32B27/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003463
(22)【出願日】2023-01-13
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2022206197
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高野 陽一
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AH03B
4F100AK01B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100JA06B
4F100JB09B
4F100JB10B
4F100JM10B
4F100YY00B
4J038CG031
4J038JB18
4J038KA03
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA24
4J038NA26
4J038PB01
(57)【要約】
【課題】 強酸性領域ではないpHを有しながら十分なポットライフを有し、かつゲル化が短時間で十分に進行することで塗工時にロール巻取りが可能であり、生産性に優れる含水ゲルシート形成用コート剤を提供すること。
【解決手段】 少なくとも一部が中和された水溶性または水膨潤性カルボキシ基含有ポリマー(A)、オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物および水を含み、pHが4以上11未満であり、25℃24時間後における粘度上昇率が100%以下である、含水ゲルシート形成用コート剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が中和された水溶性または水膨潤性カルボキシ基含有ポリマー(A)、オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物および水を含み、pHが4以上11未満であり、25℃24時間後における粘度上昇率が100%以下である、含水ゲルシート形成用コート剤。
【請求項2】
25℃における粘度が100mPa・s以上50000mPa・s未満である、請求項1に記載の含水ゲルシート形成用コート剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の含水ゲルシート形成用コート剤から形成される、水分率が1質量%以上30質量%未満である含水ゲル層。
【請求項4】
シート状基材の少なくとも一方の面に、請求項3に記載の含水ゲル層が積層された、含水ゲルシート。
【請求項5】
ロール状に巻き取られていることを特徴とする、請求項4に記載の含水ゲルシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水ゲルシート形成用コート剤および含水ゲルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
適度な粘着力と低皮膚刺激性、水分保持性、クッション性を有する含水ゲルシートは、基材上にゲル層が積層された積層体として、医療用パップ剤、医療用電極固定材、シート状皮膚冷却材、創傷被覆材、シート状化粧用パック、仮固定材、防振材、導電材料、農業用シートなどとして幅広く使用されている。
【0003】
含水ゲルシートのゲル層は、架橋や不溶化が施された親水性ポリマーを水で膨潤させたものであり、親水性ポリマーの種類、架橋や不溶化の方法などにより様々な種類のものが存在する。ゲル層に用いられるポリマーとして、非架橋型のポリアクリル酸又はその塩、架橋型のポリアクリル酸又はその塩や、カルボキシメチルセルロース又はその塩などのカルボキシ基含有ポリマーが知られている。カルボキシ基含有ポリマーを架橋する方法としては、水酸化アルミニウムや硫酸アルミニウムなどの多価金属陽イオンとの間でイオン結合コンプレックスを形成させる方法が知られており、この方法が工業的に多く用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、粘着層と非粘着性のゲル層とが積層された固体状接触媒体であって(請求項6、
図1)、前記粘着層は、カルボキシ基含有ポリマーと、ポリ(メタ)アクリル酸塩類と、多価無機塩と、アルコール類と、前記カルボキシ基と結合する高分子架橋剤とを含む旨開示されている(請求項1)。
また、特許文献2には、カルボキシ基含有ポリマーと、前記カルボキシ基含有ポリマーとイオン結合する架橋剤とを含有し、pHが1以上3未満であり、水分率が1~30質量%であることを特徴とする含水ゲルシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-151298号公報
【特許文献2】特許第6593566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来一般に用いられている上記の多価金属陽イオンをカルボキシ基含有ポリマーの水溶液に混合した場合、室温にて速やかに架橋反応が進行しゲルが生じるため、多価金属陽イオンとカルボキシ基含有ポリマーを含む含水ゲルシート形成用コート剤(以下、単に「コート剤」と表記することもある)を流動性のある状態に保持できる期間(以下、「ポットライフ」と称す)が短くなる。
したがって、ロールコータなどを用いて、カルボキシ基含有ポリマーの水溶液と多価金属陽イオンとを含むようなコート剤を基材上に塗工しようとしても、コート剤を調整してから塗工装置に供給するまでの間に、既に架橋反応が進行して流動性が消失し、塗工ができなくなるという問題があった。
含水ゲルシート形成用コート剤ではないが、例えば、特許文献1記載の固体状接触媒体における粘着層を形成するための原液は、カルボキシ基含有ポリマーと、ポリ(メタ)アクリル酸塩類を架橋する架橋剤として多価無機塩を必須成分としており、十分なポットライフを得にくいものと考えられる。
【0007】
この問題を解決するために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はこのナトリウム塩などに代表されるキレート剤などをゲル化速度調整剤としてコート剤に添加することが行われている。ゲル化速度調整剤が添加されたコート剤は、ゲル化反応が遅延され塗工時に十分な流動性を有するようになるために、コート剤の調製後、ロールコータなどを用いて基材上に塗工することが可能になる。しかし、塗工後もゲル化反応の遅延効果が残るため、ゲル化が十分に進行するまでの間、塗工物を変形させずに長時間保つこと(以下、「シーズニング」と称す)が必要とされるという問題があった。
従って、枚葉の基材にコート剤を塗工する場合、塗工後の枚葉状態の含水ゲルシートを変形させずに架橋反応の終了を待つための生産設備が必要になるという問題があった。
【0008】
枚葉ではなく、ウエブ状の長尺の基材上にコート剤を塗工する場合、塗工後の長尺の含水ゲルシートを長尺のまま巻き取ることなく変形させずに架橋反応の終了を待つためのさらに大掛かりな特別な生産設備が必要になるという問題があった。塗工後の長尺の含水ゲルシートを、架橋が十分に進行していない状態でロール状に巻き取ろうとすると、巻き取り時の圧力により、塗工されたコート剤がロール状の含水ゲルシートの端からはみ出してしまうという不具合が生じる。
ウエブ状の長尺の含水ゲルシートをシーズニングせずにロール状に巻き取ることが可能となれば、スリッティングや打ち抜きなどの次の加工工程へロール状で搬送できるため製造工程が簡略化され、製品をロール状で供給することも可能になるなど、枚葉の含水ゲルシートに比較して格段に生産性が向上する。
【0009】
特許文献2には、塗工時のポットライフと生産性向上という課題が開示されている。
しかし、特許文献2に記載されるゲルシートは強酸性であり、被着体に対する刺激性や腐食性の懸念があるほか、医療用・化粧用シート剤としての有効成分を含有させる場合に、当該有効成分の化学構造によっては変性や分解が起こるという問題が生じ得る。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、強酸性領域ではないpHを有しながら十分なポットライフを有し、かつゲル化が短時間で十分に進行することで塗工時にロール巻取りが可能であり、生産性に優れる含水ゲルシート形成用コート剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討の結果、上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、少なくとも一部が中和された水溶性または水膨潤性カルボキシ基含有ポリマー(A)、オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物および水を含み、pHが4以上11未満であり、25℃24時間後における粘度上昇率が100%以下である、含水ゲルシート形成用コート剤に関する。
【0013】
また、本発明は、25℃における粘度が100mPa・s以上50000mPa・s未満である、上記含水ゲルシート形成用コート剤に関する。
【0014】
さらに、本発明は、上記含水ゲルシート形成用コート剤から形成される、水分率が1質量%以上30質量%未満である含水ゲル層に関する。
【0015】
さらに、本発明は、シート状基材の少なくとも一方の面に、上記含水ゲル層が積層された、含水ゲルシートに関する。
【0016】
さらにまた、本発明は、ロール状に巻き取られていることを特徴とする、上記含水ゲルシートに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、強酸性領域ではないpHを有しながら十分なポットライフを有し、かつゲル化が短時間で十分に進行することで塗工時にロール巻取りが可能であり、生産性に優れる、含水ゲルシート形成用コート剤を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明の含水ゲルシート形成用コート剤は、少なくとも一部が中和された水溶性または水膨潤性カルボキシ基含有ポリマー(A)(以下、単に「カルボキシ基含有ポリマー(A)」または「ポリマー(A)」とも表記する)、オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物および水を含み、pHが4以上11未満であり、25℃24時間後における粘度上昇率が100%以下、すなわち元の粘度の2倍以内に収まるコート剤である。
【0020】
本発明に用いる、少なくとも一部が中和された水溶性または水膨潤性カルボキシ基含有ポリマー(A)としては、(メタ)アクリル酸(「アクリル酸」と「メタクリル酸」とを併せて「(メタ)アクリル酸」と表記する。以下同様)のホモポリマーおよび共重合体などの合成ポリマー、ヒアルロン酸、カラギナン、ペクチン、アラビアガム、キサンタンガム、ジェランガム、寒天、トラガントガムなどの多糖類、グリシニン(大豆たんぱく)などのタンパク質等が挙げられる。カルボキシ基含有ポリマーは1種または2種以上の成分を用いることができる。これらの中でも、ポリアクリル酸が好適に用いられる。
【0021】
本発明に用いるポリマー(A)としては、非架橋型ポリマーおよび架橋型ポリマーの両方を適宜使用することができる。非架橋型ポリマーとは、単官能モノマーから得られるポリマーであり、直鎖構造を有するものである。架橋型ポリマーとは多官能モノマーを含むモノマー群から得られるポリマーであり、架橋構造を有するものである。
【0022】
本発明に用いる非架橋型カルボキシ基含有ポリマーの質量平均分子量は、2万以上が好ましく、15万以上がより好ましい。また、質量平均分子量の上限値は、特に制限はないが、概ね500万以下である。質量平均分子量2万以上の非架橋型ポリマーを用いることでシート化に必要なゲル強度を得ることができる。
【0023】
架橋型カルボキシ基含有ポリマーは、25℃での0.2%中和粘度として1,500mPa・s以上35,000mPa・s以下であるものが好ましく、2,000mPa・s以上30,000mPa・s以下であるものがより好ましい。もしくは、25℃での0.5%中和粘度として5,000mPa・s以上75,000mPa・s以下であるものが好ましく、5,400mPa・s以上70,000mPa・s以下であるものがより好ましい。25℃での0.2%中和粘度として1,500mPa・s以上、もしくは、25℃での0.5%中和粘度として5,000mPa・s以上の架橋型カルボキシ基含有ポリマーを用いることでゲル強度を向上させることができる。25℃での0.2%中和粘度として35,000mPa・s以下、もしくは、25℃での0.5%中和粘度として75,000mPa・s以下の架橋型カルボキシ基含有ポリマーを用いることで塗液粘度上昇によるハンドリング性低下を抑止できる。尚、「0.2%中和粘度」とは、架橋型カルボキシ基含有ポリマーを0.2質量%含む水溶液を
中和した場合の粘度を意味し、B型粘度計による測定値を表す。中和剤としては水酸化ナトリウムを提示できる。
【0024】
また、前記と同様の理由で、20℃での0.2%中和粘度として1,500mPa・s以上35,000mPa・s以下であるものも好ましく用いられ、2,000mPa・s以上30,000mPa・s以下であるものがより好ましく用いられる。もしくは、20℃での0.5%中和粘度として5,000mPa・s以上75,000mPa・s以下であるものも好ましく用いられ、5,400mPa・s以上70,000mPa・s以下であるものがより好ましく用いられる。
【0025】
なお、カルボキシ基含有ポリマーとしては上記のほかにエマルジョン型ポリマーも存在するが、エマルジョン型ポリマーとは水中にポリマー粒子が懸濁状態で存在するものを指し、水溶性および水膨潤性のいずれにも該当しないため、少なくとも一部が中和された水溶性または水膨潤性カルボキシ基含有ポリマー(A)にエマルジョン型ポリマーは含まれない。
【0026】
オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物は、同一分子内にオキサゾリン基またはカルボジイミド基を1つ以上有する化合物であり、前記カルボキシ基含有ポリマーと反応し架橋構造を形成することを目的として用いるため、2つ以上の反応部位を有する化合物であることが好ましい。これら化合物としては、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、1,3-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、1,4-フェニレンビス(2-オキサゾリン)、1,4-ジ(2-オキサゾリン-2-イル)ピペラジン、1,1’-(1,3-プロパンジイル)ビス(3-tert-ブチルカルボジイミド)などが挙げられる。また複数のオキサゾリン基またはカルボジイミド基を持つ高分子化合物であっても良い。オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物は、1種または2種以上の成分を用いることができる。なかでも、高分子化合物であるポリオキサゾリン、ポリカルボジイミドが好適に用いられる。
【0027】
前記オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物は、任意の量を使用できるが、カルボキシ基含有ポリマー(A)100質量部に対して0.1質量部以上50質量部未満であることが好ましく、0.5質量部以上40質量部未満であることがより好ましい。オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物の使用量が0.1質量部以上であることでコート剤の水分率低下に伴うゲル化が速やかに進行し、50質量部未満であることで含水ゲルシート形成用コート剤の十分なポットライフが確保でき、過剰なオキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物を含まない含水ゲルシートを得ることができる。
【0028】
含水ゲルシートは、必要に応じてカルボキシ基含有ポリマー(A)、オキサゾリン化合物およびカルボジイミド化合物以外の親水性ポリマー、エマルジョン型ポリマー、その他添加剤等を更に含有していてもよい。
【0029】
親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどのノニオン性合成ポリマー;
ポリアリルアミン又はその塩、ポリエチレンイミン又はその塩、ポリアクリルアミド又はその塩、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリビニルピリジンなどのカチオン性合成ポリマー;
ポリスチレンスルホン酸又はその塩などのアニオン性合成ポリマー;
デンプン、ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンドシードガムなどのノニオン性多糖類;
キトサンなどのカチオン性多糖類等が挙げられる。
これらの親水性ポリマーは架橋剤との反応には寄与しないが、添加するポリマーの種類や量に応じて塗液のレオロジーおよび形成されるゲル層のゲル強度や粘着力などの物性を調節することができる。
【0030】
エマルジョン型ポリマーとしては、任意のエマルジョン型ポリマーを使用できる。含水ゲルシートがヒト皮膚に適用する用途の場合、安全性を鑑みてヒト皮膚に対し使用実績のあるアクリルエマルジョンが好適に用いられるが、アクリルエマルジョンに限定されるものではない。例えば、水を主成分とする分散媒中で、例えばn-ブチル(メタ)アクリレートや2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとし、該主モノマーと共重合可能な(メタ)アクリル酸などのカルボキシ基含有モノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマー、ジメチルアクリルアミドなどのアミド基含有モノマーなどを副モノマーとして、常法により、主モノマーを単独で乳化重合するか、または主モノマーと副モノマーとを乳化重合することにより得られる。
また、乳化重合によらずとも、例えば溶液重合をおこなった後に水を加えて、さらに脱溶剤をおこなう方法等によってもエマルジョン型ポリマーを得ることができる。
【0031】
その他添加剤としては、乾燥調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤(染料ないし顔料)、薬剤、フィラー(粒子状ないし繊維状)、導電性付与剤などが挙げられる。
【0032】
乾燥調整剤としては、塗液粘度に与える影響が小さい、重量平均分子量1万以下の親水性化合物を好ましく用いることができる。例えば、グリセリンやポリエチレングリコールといった常温液体の化合物、糖類などが挙げられる。乾燥調整剤を用いることで、乾燥工程における過剰な水分蒸発によるゲルの使用感低下を抑制することができ、更に含水ゲルシート作製後の水分率変化を抑制することができる。
【0033】
前記乾燥調整剤の使用量は、ゲル層中の水を除く全量中10~95質量%であることが好ましく、15~92質量%であることがより好ましい。10質量%以上であることで過乾燥が抑止でき、95質量%以下であることで十分な強度を有するゲルとなる。
【0034】
pH調整剤としては、前記コート剤のpHを4以上11未満に調整することが可能な任意の成分を用いることができる。pH調整剤としては、酢酸、ギ酸、乳酸、酒石酸、シュウ酸、安息香酸、グリコール酸、リンゴ酸、クエン酸、塩酸、硝酸、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、酢酸緩衝液等が挙げられる。pH調整剤は、任意の量を添加できる。
【0035】
前記コート剤のpHは4以上11未満である。pH4以上であることで架橋反応に寄与する分子型カルボキシ基の過剰生成が抑止され、良好なポットライフが得られる。また、pH11未満であることでゲル化に必要な分子型カルボキシ基が確保でき、良好な巻取り性が得られる。より好ましくは、pHは6以上9未満である。尚、「分子型カルボキシ基」とはイオン化していないカルボキシ基を指す。
【0036】
本発明の含水ゲルシート形成用コート剤は、25℃における粘度が100mPa・s以上50000mPa・s未満であることが好ましく、500mPa・s以上30000mPa・s未満であることがより好ましい。低粘度過ぎると、シリコーン等による剥離処理がなされた剥離シートに塗工した際、ハジキ等の生ずるおそれがあり、高粘度過ぎると、攪拌が困難になり、また塗工時に液輸送性の低下、塗工面荒れなどの問題が生じる。
また、コート剤の不揮発分濃度は20質量%以上70質量%未満であることが好ましい。
【0037】
前記コート剤は25℃24時間後における粘度上昇率が100%以下であることが重要であり、50%以下であることが好ましい。
25℃24時間後における粘度上昇率が100%以下であることで、塗工に必要なポットライフが十分に確保でき、安定した塗工が可能となる。
尚、粘度上昇率が100%とは、例えば100mPa・sであったコート剤粘度が200mPa・sになることを言う。
【0038】
本発明のコート剤を基材上に塗工し、乾燥して水分の一部を揮発除去することにより、速やかにポリマー(A)の架橋が進行し、含水ゲル層が得られる。コート剤を塗工する基材に特に制限は無いが、例えば、シート状の基材、ブロック状あるいは凹凸のある金属またはプラスチック成形物などが挙げられる。
【0039】
コート剤を塗工する方法としては、流動性を有する材料を塗工できる方法であれば特に制限はないが、例えば、ロールコータ、ナイフコータ、グラビアコータ、バーコータ、ダイコータ、ディップコータ、スプレーコータなどを用いる方法が挙げられる。塗工されるコート剤の量は特に制限はないが、塗膜量として1~2000g/m2であることが好ましい。
【0040】
コート剤を乾燥して水分の一部を揮発除去する方法としては特に制限は無いが、風乾や加熱といった方法が挙げられる。加熱における温度は特に制限はないが、50℃~200℃が好ましく、80℃~120℃であることがより好ましい。加熱における雰囲気温度が50℃以上であることで時間的に効率良くコート剤を乾燥でき、200℃以下であることで急激な水分率変化を抑止し、気泡の発生による外観不良、含水ゲル層の不均一化を防ぐことができる。
【0041】
コート剤により形成される含水ゲル層の水分率は、1質量%以上30質量%未満であることが好ましく、2質量%以上25質量%未満であることがより好ましい。含水ゲル層の水分率が1質量%以上であることで含水ゲル層の柔軟性が担保できる。また、水分率が30質量%未満となることでゲル化が速やかに進行する。含水ゲル層の水分率は、カールフィッシャー水分計を用いて測定することができる。装置は市販のものが使用可能であり、例えば電量法カールフィッシャー水分計CA-200型(三菱化学アナリテック社製)などが使用できる。
【0042】
前記含水ゲル層のpHは4以上11未満である。含水ゲル層のpHは、それを形成するコート剤のpHが反映される。含水ゲル層のpHは、平面センサを有するpHメータを用いて測定することができる。装置は市販のものが使用可能であり、例えばLAQUAtwin <pH-22B>(堀場製作所社製)などが使用できる。
【0043】
コート剤を塗工し、シート状基材の少なくとも一方の面に含水ゲル層が積層された含水ゲルシートを得る方法としては、以下の2通りの方法がある。
(1)直接塗工:樹脂フィルム等の基材上にコート剤を塗工し、乾燥工程後、必要に応じて、形成された含水ゲル層を保護する目的で、表面が剥離処理された剥離シートを貼り合わせる方法。
(2)転写塗工:塗工の際の支持体である剥離シート上にコート剤を塗工し、乾燥工程後、その表面に樹脂フィルム等の基材を貼り合わせ、形成された含水ゲル層と基材とを一体化する方法。
【0044】
上記(2)の転写塗工は、基材に熱がかかることがなく、また塗工機の構造に由来する強い張力が基材に加えられることがないため、特にポリウレタン、不織布といった熱可塑性、高伸縮性の基材を用いる製品の製造で多く利用されている。
【0045】
含水ゲルシートの基材としては、樹脂フィルム、天然繊維、半合成繊維、合成繊維、又はこれらの複合繊維からなる布帛又は編物、不織布、紙、並びに合成紙などを用いることができる。これらの基材はプライマー処理や撥水/親水処理などの表面処理が施されていてもよく、同種又は異種基材と複合化されていてもよい。なかでもポリウレタンや不織布およびこれらの複合基材は、コート剤により形成される含水ゲル層との密着性が良いので好ましく使用されるが、前記したように、これらのものを基材として使用する場合には、転写塗工によることが好ましい。
なお剥離シートの種類は特に制限はなく、シリコーン樹脂などにより表面が剥離処理されたシートなどを使用することができる。基材および剥離シートの厚さは特に制限はないが、5~3000μmであることが好ましい。
【0046】
塗工され、加熱乾燥により水分の一部が除去された塗膜に、直接塗工の場合には剥離シートを貼り合わせ、転写塗工の場合には基材を貼り合わせることにより含水ゲルシートが得られ、必要に応じてこれらをロール状に巻き取ることができる。巻き取りにあたっては、通常のワインダーを使用することができる。
【実施例0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<原料>
表1~3に示した実施例および比較例で用いたコート剤の原料は以下のとおりである。
<<カルボキシ基含有ポリマー(A)>>
・ジュリマーAC-10SH:非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量100万、不揮発分濃度10質量%の水溶液、東亜合成株式会社製
・ジュリマーAC-10L:非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量2.5万、不揮発分濃度40質量%の水溶液、東亜合成株式会社製
・アクアリックAS58:非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量80万、粉末状、日本触媒株式会社製
・アクアリックHL-415:非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量1万、不揮発分濃度45質量%の水溶液、日本触媒株式会社製
・アロンビスSX:非架橋型ポリアクリル酸ナトリウム、質量平均分子量450万、粉末状、東亜合成株式会社製
・ジュンロンPW-120:架橋型ポリアクリル酸、0.2%中和粘度8,000~20,000mPa・s/25℃、粉末状、東亜合成株式会社製
・アクペックHV-505ED:架橋型ポリアクリル酸、0.2%中和粘度15,000~30,000mPa・s/20℃、0.5%中和粘度40,000~70,000mPa・s/20℃、粉末状、住友精化株式会社製
・レオジック260H:架橋型ポリアクリル酸ナトリウム、0.2%中和粘度7,000~13,000mPa・s/25℃、粉末状、東亜合成株式会社製
【0048】
<<オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物>>
・エポクロスWS-300:ポリオキサゾリン、オキサゾリン基量7.7 mmol/g(有効成分として)、不揮発分濃度10質量%、日本触媒株式会社製
・エポクロスWS-700:ポリオキサゾリン、オキサゾリン基量4.5mmol/g(有効成分として)、不揮発分濃度25質量%、日本触媒株式会社製
・エポクロスK-2010E:ポリオキサゾリン、オキサゾリン基量1.8 mmol/g(有効成分として)、不揮発分濃度40質量%、エマルジョンタイプ、日本触媒株式会社製
・カルボジライトV-02:ポリカルボジイミド、NCN当量(カルボジイミド基1molあたりの化学式量;有効成分として)590、不揮発分濃度40質量%、日清紡株式会社製
・カルボジライトE-02:ポリカルボジイミド、NCN当量(カルボジイミド基1molあたりの化学式量;有効成分として)445、不揮発分濃度40質量%、エマルション/ディスパージョンタイプ、日清紡株式会社製
【0049】
<<アクリルエマルジョン>>
・TOCRYL FSK-6649T:アクリル酸アルキル共重合体エマルション、不揮発分濃度58質量%、pH7.1、トーヨーケム株式会社製
<<親水性ポリマー>>
・ゴーセノールEG-40:ポリビニルアルコール、4%粘度43.0mPa・s/20℃、粉末状、日本合成化学株式会社製
<<乾燥調整剤>>
・グリセリン:試薬特級、キシダ化学株式会社製
<<pH調整剤>>
<<溶媒>>
・精製水:富士フイルム和光純薬株式会社製
<<基材>>
・基材1:約11μmの厚みのポリウレタンフィルム
・基材2:約180μmの厚みの不織布
【0050】
<コート剤>
表1~3に示した配合組成に従い、常温で精製水に所定量の原料を溶解または分散し、表1~3に記載の粘度およびpHとなるようにpH調整剤として水酸化ナトリウム、塩酸を任意の量添加し、コート剤を得た。
後述する方法に従って、得られたコート剤のpH、粘度、ポットライフ、塗工性を評価した。
【0051】
<含水ゲル層、含水ゲルシート>
得られたコート剤を用いて、後述する方法に従って、含水ゲル層、含水ゲルシートを作製し、含水ゲル層のpH、水分率、ゲル化度、成膜状態を評価した。
【0052】
[コート剤のpH]
LAQUAtwin <pH-22B>(堀場製作所社製)を用いて、コート剤のpHを25℃で測定した。
【0053】
[コート剤の粘度]
TVB10/15形B型粘度計(東機産業社製)を用いて、配合後、1時間以内のコート剤の粘度を25℃で測定した。
【0054】
[コート剤のポットライフ]
配合後25℃で24時間放置したコート剤の粘度上昇率を評価した。評価は以下の基準で行った。なお、評価を×とした比較例は、以降の評価を中止した。
◎:上昇率50%以下。(極めて良好)
○:上昇率が50%より大きく、80%以下。(良好)
△:上昇率が80%より大きく、100%以下。(実用下限)
×:上昇率が100%より大きい、またはゲル化し塗工不可。(不良)
【0055】
[コート剤の塗工性]
コート剤を、剥離シートであるシリコーン剥離処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にコート剤量が約100g/m2になるようにナイフコータで塗工し、塗工した際の状態を目視観察した。評価は以下の基準で行った。
◎:ハジキや耳高が見られず膜の厚みが全体に均一である。(極めて良好)
○:やや耳高となるがハジキは無く、性能や生産性への影響は無い。(良好)
△:端部が明らかな耳高となるが膜の大部分は想定膜厚を保ち、生産性への影響は軽微である。あるいは高粘度のため塗工方式が制限されるが適切な塗工方式により塗工可能である。(実用下限)
×:ハジキが塗膜全体に広がり膜厚不均一となる、またはランダムに円状のハジキが形成される、または塗液粘度が高く塗工困難である。(不良)
【0056】
[含水ゲル層のpH]
コート剤を、剥離シートであるシリコーン剥離処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にコート剤量が約100g/m2になるようにナイフコータで塗工し、100℃で1.5分間乾燥し、含水ゲル層を形成した。LAQUAtwin <pH-22B>(堀場製作所社製)を用いて、形成した含水ゲル層の表面に平面センサを当て、含水ゲル層のpHを測定した。
なお、実施例36~42は実施例1と同一のコート剤を用いて乾燥条件を変更した場合である。乾燥条件は以下の通り。実施例36は100℃で30分間、実施例37は100℃で20分間、実施例38は100℃で5分間、実施例39は100℃で3分間、実施例40は100℃で2分間、実施例41は100℃で0.5分間、実施例42は100℃で0.3分間。
【0057】
[含水ゲル層の水分率]
pH測定の場合に記載したゲル層について、カールフィッシャー水分計CA-200型(三菱化学アナリテック社製)を用いて、水分率を測定した。
【0058】
[含水ゲル層のゲル化度]
【0059】
(含水ゲル層のゲル化度)
pH測定の場合に記載した含水ゲル層を形成後1時間以内に剥離シートから剥がし、質量を測定した後、精製水に40℃24時間浸漬後、100℃1時間乾燥し、残存成分の質量を測定し、以下の計算式によりゲル化度を算出した。含水ゲル層のゲル化度は、成膜状態に関係し、ロール状に巻き取れるか否かに影響を及ぼす。
ゲル化度(%)= 浸漬後の残存成分の質量(g)/ 浸漬前の含水ゲル層の質量(g)×100
【0060】
[含水ゲル層の成膜状態1(塗工幅の広がり)]
pH測定の場合に記載した方法に従い、コート剤を剥離シートに塗工後、各条件で乾燥し、塗工幅について塗工直後(乾燥前)と乾燥後とを対比し、以下の基準で評価した。
◎:塗工直後と比べ塗工幅変化が1mm未満(極めて良好)。
○:塗工直後と比べ塗工幅変化が1mm以上5mm未満(良好)。
△:塗工直後と比べ塗工幅変化が5mm以上10mm未満(実用下限)。
×:塗工直後と比べ塗工幅変化が10mm以上となり膜厚も安定しない(不良)。
【0061】
[含水ゲル層の成膜状態2(基材1における端部の浮き)]
pH測定の場合に記載した方法に従い、コート剤を剥離シートに塗工後、各条件で乾燥し、含水ゲル層に基材1を貼り合せ、巻取張力100N(1000mmあたり)にて30mの巻き取りロールサンプルを作製した。25℃1週間保管後、ロール中間部(ロールの終端部から約15mの位置)の幅方向の端部の状態を目視で評価した。
◎:巻き解いても浮きは発生していない(極めて良好)。
○:巻き解くと浮きが若干生じているものの、許容範囲である(良好)。
△:巻き解くと端部の浮きが散見されるが、大部分が基材に密着しており、使用可能である(実用下限)。
×:巻き解くと大部分が基材と密着しておらず、使用できない(不良)。
【0062】
[含水ゲル層の成膜状態3(基材2における含水ゲル層の裏染み)]
pH測定の場合に記載した方法に従い、コート剤を剥離シートに塗工後、各条件で乾燥し、含水ゲル層に基材2を貼り合せ、巻取張力100N(1000mmあたり)にて30mの巻き取りロールサンプルを作製した。25℃1週間保管後、ロールを解いて基材2の裏へのゲル層の染み出し状態を評価した。
◎:ロールの巻き終わり部から巻き始め部に至るまで、基材2の裏には含水ゲル層は染み出していない(極めて良好)。
○:ロールの巻き始め部において、基材2の裏に含水ゲル層が到達しかけ、点状の変色が数箇所観察されるが、指触しても粘着性はない(良好)。
△:ロールの巻き始め部において、基材2の裏に含水ゲル層が染み出し、点状の変色が数箇所観察され、指触すると若干粘着性を帯びているが、巻き始め部以外の大部分は含水ゲル層が染み出しておらず、使用可能である(実用下限)。
×:ロールの巻き終わり部から巻き始め部に至るまで基材2の裏に含水ゲル層が染み出しており、粘着性を帯びていた(不良)。
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
実施例1~42はいずれも、コート剤のポットライフは十分に長く、塗工工程での塗工不良が無く、含水ゲル層のゲル化度が一定以上であるために成膜状態が優れ、ロール状に巻き取れる含水ゲルシートを作製することができた。一方、比較例1~3は、コート剤のポットライフ、塗工性、含水ゲル層のゲル化度、含水ゲル層の成膜状態のいずれかに不具合が見られた。
少なくとも一部が中和された水溶性または水膨潤性カルボキシ基含有ポリマー(A)、オキサゾリン化合物またはカルボジイミド化合物および水を含み、pHが4以上11未満であり、25℃24時間後における粘度上昇率が100%以下である、含水ゲルシート形成用コート剤。