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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091231
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20240627BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240627BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L79/08 Z
C08L71/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023079879
(22)【出願日】2023-05-15
(31)【優先権主張番号】111149616
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】黄 威儒
(72)【発明者】
【氏名】張 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】劉 家霖
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BP01W
4J002CH07Y
4J002CM04X
4J002DJ019
4J002EK037
4J002EU196
4J002EW048
4J002EW158
4J002EX039
4J002FD019
4J002FD138
4J002FD146
4J002FD157
4J002GQ00
4J002GQ01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】樹脂組成物中のBMI樹脂の比率を下げ、性能を有効に向上させることのできる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、SBS樹脂、BMI樹脂、架橋剤、および下記の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含み、

式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nは、3~25の整数である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンスチレン樹脂と、
ビスマレイミド樹脂と、
架橋剤と、
下記の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と、
【化1】
を含み、Rが、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nが、3~25の整数である樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレンブタジエンスチレン樹脂の重量比が、10wt%~40wt%の範囲である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ビスマレイミド樹脂の重量比が、10wt%~40wt%の範囲である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記架橋剤の重量比が、10wt%~30wt%の範囲である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量比が、10wt%~40wt%の範囲である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
過酸化物、難燃剤、二酸化ケイ素、シリコンカップリング剤、またはその組み合わせをさらに含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記過酸化物の量が、0.1phr~2phrの範囲である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記難燃剤の量が、25phr~40phrの範囲である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記二酸化ケイ素の量が、30wt%~60wt%の範囲である請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記シリコンカップリング剤の量が、0.1phr~5phrの範囲である請求項6に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂組成物には、液状ゴム樹脂およびビスマレイミド(bismaleimide, BMI)樹脂がよく添加される。しかしながら、樹脂組成物中のビスマレイミド樹脂の比率が高すぎると、吸水率が上昇しやすい。そのため、いかにして樹脂組成物中のビスマレイミド樹脂の比率を下げて、競争力を持たせるかが、本分野の技術者が開発すべき目標となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記事情に鑑みて、いかにして樹脂組成物中のビスマレイミド樹脂の比率を下げて、競争力を持たせるかが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、樹脂組成物中のBMI樹脂の比率を下げると同時に、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率(Dk)、および/または誘電正接(Df)に関して性能を有効に向上させ、競争力を発揮することのできる樹脂組成物を提供する。
【0005】
本発明の樹脂組成物は、スチレンブタジエンスチレン(Styrene-Butadiene-Styrene, SBS)樹脂、ビスマレイミド(BMI)樹脂、架橋剤、および下記の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含む。
【0006】
【化1】
【0007】
式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nは、3~25の整数である。
【0008】
本発明の1つの実施形態において、SBS樹脂の重量比は、10wt%~40wt%の範囲である。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、ビスマレイミド樹脂の重量比は、10wt%~40wt%の範囲である。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、架橋剤の重量比は、10wt%~30wt%の範囲である。
【0011】
本発明の1つの実施形態において、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量比は、10wt%~40wt%の範囲である。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、樹脂組成物は、過酸化物、難燃剤、二酸化ケイ素、シリコンカップリング剤、またはその組み合わせを含む。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、過酸化物の量は、0.1phr~2phrの範囲である。
【0014】
本発明の1つの実施形態において、難燃剤の量は、25phr~40phrの範囲である。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、二酸化ケイ素の量は、30wt%~60wt%の範囲である。
【0016】
本発明の1つの実施形態において、シリコンカップリング剤の量は、0.1phr~5phrの範囲である。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の樹脂組成物は、SBS樹脂、ビスマレイミド樹脂、架橋剤を特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせることによって、SBS樹脂、ビスマレイミド樹脂、架橋剤、および上述した変性ポリフェニレンエーテル樹脂の化学構造の間の官能基相互作用により優れた反応性をもたらすことができるため、ビスマレイミド樹脂の比率を下げると同時に、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接等に関して性能を有効に向上させ、競争力を発揮することができる。
【0018】
本発明の特徴および利点をより分かり易くするため、下記の実施形態を引用し、以下に詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。しかしながら、これらの実施形態は例であり、本発明を限定するものではない。
【0020】
ここで、「ある数値から別の数値」で表示した範囲は、明細書において当該範囲内の全ての数値を列挙することを回避するための概要的表示方法である。したがって、特定数値範囲についての描写は、当該数値範囲内の任意の数値および当該数値範囲内の任意の数値により限定される比較的小さな数値範囲を含み、明細書において任意の数値および比較的小さな数値範囲が明記されていることと同じである。
【0021】
本実施形態において、樹脂組成物は、SBS樹脂、ビスマレイミド樹脂、架橋剤、および構造式(1)を有する変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂を含み、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nは、3~25の整数である。したがって、本発明の樹脂組成物は、SBS樹脂、ビスマレイミド樹脂、架橋剤を特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせることによって、SBS樹脂、ビスマレイミド樹脂、架橋剤、および上述した変性ポリフェニレンエーテル樹脂の化学構造の間の官能基相互作用により優れた反応性をもたらすことができるため、ビスマレイミド樹脂の比率を下げると同時に、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接等に関して性能を有効に向上させ、競争力を発揮することができる。ここで、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、SBS樹脂、ビスマレイミド樹脂、および架橋剤について、以下に詳しく説明する。
【0022】
【化2】
【0023】
さらに、多くの樹脂系システムの中で、本発明は、BMI含有樹脂系システムについて、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接等の樹脂組成物の多くの特性を実質的に改善できることを明確に実証し、それに基づいて、本発明の樹脂組成物がBMI含有樹脂系システムの応用分野において有益な効果を有することを明確に実証する。
【0024】
いくつかの実施形態において、樹脂組成物は、回路基板に応用され、樹脂組成物で作られた回路基板の誘電率(Dk)は、3.1~3.4であり、誘電正接(Df)は、0.025より小さく、ガラス転移温度は、220℃より高く、熱膨張係数は、20ppm/℃より小さく、剥離強度は、4lb/inより大きく、吸水率は、0.3%より小さいため、吸水率が低く、誘電特性が低い樹脂組成物であってもよい。例えば、5G通信の応用分野において、回路基板の高周波伝送の要求を満たすために、比較的低い吸収性および比較的低い誘電特性が必要とされるが、既存のBMI含有樹脂系システムは、吸水性の問題を引き起こすことがよくあるため、本発明は、変性ポリフェニレンエーテル樹脂とSBS樹脂、ビスマレイミド樹脂、および架橋剤の反応によりBMI含有樹脂系システムの吸水性を有効に低減できることを明確に実証する。つまり、本発明の樹脂組成物は、5G通信に応用する際に実質的に改善された技術的性能を有するが、本発明はこれに限定されない。
【0025】
SBS樹脂
【0026】
いくつかの実施形態において、SBS樹脂は、10%~40%のスチレン(styrene)系比率、60%~90%の1,2-ブタジエン(butadiene)系比率、および10%~30%の1,4-ブタジエン系比率を有する。SBS樹脂の分子量(MW)は、約3500~5500である。さらに、液状ゴムの代わりにSBS樹脂を使用することによって、樹脂間の相分離を改善して、流動性および充填性を向上させることができ、それにより、低い誘電特性を維持しながら全体的な加工性を強化することができるが、本発明はこれに限定されない。
【0027】
いくつかの実施形態において、SBS樹脂の重量比は、樹脂組成物の樹脂の総重量に対し、10wt%~40wt%の範囲(例えば、10wt%、15wt%、20wt%、30wt%、40wt%、または上記10wt%~40wt%内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0028】
ビスマレイミド樹脂
【0029】
いくつかの実施形態において、ビスマレイミド樹脂は、フェニルメタンマレイミド(phenylmethane maleimide)樹脂(CAS登録番号:67784-74-1;例えば、BMI-2300(大和化学工業株式会社製、商品名、例えば、構造式(A)))、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン(bis-(3-ethyl-5-methyl-4-maleimidephenyl)methane)(CAS登録番号:105391-33-1;例えば、BMI-70(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名、例えば、構造式(B)))、またはその組み合わせであってもよいが、本発明はこれに限定されない。
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
いくつかの実施形態において、ビスマレイミド樹脂は、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン(BMI-70)を含まずに、ポリフェニルメタンマレイミド樹脂(BMI-2300)のみを含むことができるため、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を使用することによって、樹脂組成物中のポリフェニルメタンマレイミド樹脂の量を減らすことができる。BMI樹脂の重量比は、樹脂組成物の樹脂の総重量に対し、10wt%~40wt%の範囲(例えば、10wt%、15wt%、20wt%、30wt%、40wt%、または上記10wt%~40wt%内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0033】
架橋剤
【0034】
いくつかの実施形態において、架橋剤は、熱硬化性樹脂の架橋度を向上させ、基板の剛性と靱性および加工性を調整するために使用される。架橋剤の例は、トリアリルシアヌレート(triallyl cyanurate, TAC)、トリアリルイソシアヌレート(trially isocyanurate, TAIC)、 トリメタアリルイソシアヌレート(trimethallyl isocyanurate, TMAIC)、ジアリルフタレート(diallyl phthalate)、ジビニルベンゼン(divinylbenzene)、または1,2,4-トリアリルトリメリテート(1,2,4-triallyl trimellitate)、あるいはその組み合わせを含むことができるが、本発明はこれに限定されない。
【0035】
いくつかの実施形態において、架橋剤の重量比は、樹脂組成物の樹脂の総重量に対し、10wt%~30wt%の範囲(例えば、10wt%、15wt%、20wt%、30wt%、または上記10wt%~30wt%内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0036】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂
【0037】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法は、順番に以下のステップを含む。説明すべきこととして、本実施形態におけるステップの順番および実際の操作方法は、必要に応じて調整することができるため、本発明はこれに限定されない。
【0038】
大分子量ポリフェニレンエーテル(polyphenylene ether, PPE)樹脂を提供し、大分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、第1数平均分子量(Mn)を有する。大分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の第1数平均分子量(Mn)は、18,000以上であり、好ましくは、20,000以上であるが、本発明はこれに限定されない。
【0039】
大分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の一般的な化学構造式(1‐1)は、下記の通りである。式中、nは、150~300の整数であり、好ましくは、165~248の整数である。
【0040】
【化5】
【0041】
いくつかの実施形態において、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、ポリフェニレンオキシド(polyphenylene oxide, PPO)とも称される。ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、優れた絶縁性、耐酸性・耐アルカリ性、優れた誘電率、および比較的低い誘電正接を有する。そのため、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、比較的良好な電気特性を有し、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、高周波プリント基板用の絶縁基板材料として使用するのに比較的適しているが、本発明はこれに限定されない。
【0042】
大分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を提供した後、クラッキングプロセス(cracking process)を実行して、大分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を分解し、第2数平均分子量を有し、且つビスフェノール官能基で変性された小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(フェノール性末端基を有する小分子PPEとも称す)を形成する。第2数平均分子量は、第1数平均分子量(すなわち、分解前のポリフェニレンエーテル樹脂材料の数平均分子量)より小さい。小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の第2数平均分子量(Mn)は、12,000以下であり、好ましくは、10,000以下であるが、本発明はこれに限定されない。
【0043】
さらに詳しく説明すると、クラッキングプロセスは、ビスフェノール(フェノール物質)と第1数平均分子量を有する大分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を過酸化物の存在下で反応させて、大分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を分解し、第1数平均分子量より小さい第2数平均分子量を有する小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を形成することと、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の一側をフェノール官能基で変性することを含み、その一般的な化学構造式(1‐2)は、下記の通りである。式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示す。
【0044】
【化6】
【0045】
例えば、下記の表2に示すように、Rは、例えば、直接結合、メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、1-メチルプロピル、スルホン(sulfone)、またはフルオレン(fluorene)であってもよい。nは、3~25の整数であり、好ましくは、10~18の整数である。いくつかの実施形態において、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の数平均分子量(Mn)は、一般的に、500g/mol~5,000g/molであり、好ましくは、1,000g/mol~3,000g/molであり、特に好ましくは、1,500g/mol~2,500g/molである。また、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の重量平均分子量(Mw)は、一般的に、1,000g/mol~10,000g/molであり、好ましくは、1,500g/mol~5,000g/molであり、特に好ましくは、2,500g/mol~4,000g/molであるが、本発明はこれに限定されない。
【0046】
いくつかの実施形態において、ビスフェノール化合物は、4,4’-ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、4,4’-チリデンビスフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン、3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、および2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパンからなる群より選択される少なくとも1つである。ビスフェノール化合物の種類は、下記の表1に示した通りである。
【0047】
【表1】
【0048】
上述したビスフェノール化合物の2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置する化学基は、下記の表2に示した通りである。
【0049】
【表2】
【0050】
いくつかの実施形態において、過酸化物の材料は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンジール、およびジクミルパーオキサイドからなる群より選択される少なくとも1つである。過酸化物の材料の種類は、下記の表3に示した通りである。
【0051】
【表3】
【0052】
クラッキングプロセスを行った後、硝化プロセス(nitrification process)を行って、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料をニトロ化反応させ、さらに、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部をそれぞれニトロ官能基(末端ニトロPPEとしても知られる)で変性する。その一般的な化学構造式(1‐3)は、下記の通りである。
【0053】
【化7】
【0054】
さらに詳しく説明すると、硝化プロセスは、4-ハロニトロベンゼン(4-halo nitrobenzene)材料および分解されてビスフェノール官能基で変性された小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を使用して、アルカリ環境中でニトロ化を行い、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部をそれぞれニトロ官能基で変性することを含む。ニトロ化は、4-ハロニトロベンゼン材料および小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を用いてアルカリ環境中で行われ、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の端部は、負帯電性酸素イオンを形成する。負帯電性酸素イオンは、4-ハロニトロベンゼンを容易に攻撃して、4-ハロニトロベンゼンのハロゲンを除去し、さらに、ハロニトロベンゼン官能基を小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部に変性する。つまり、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部は、上述した反応メカニズムによりニトロ官能基でそれぞれ変性することができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、硝化プロセスは、ポリフェニレンエーテル樹脂材料を8~14のpH値、好ましくは、10~14のpH値を有するアルカリ環境中でニトロ化させるプロセスであるが、本発明はこれに限定されない。
【0056】
いくつかの実施形態において、4-ハロニトロベンゼン材料の一般的な化学構造式は、下記の通りである。
【化8】
材料の種類は、下記の表4に示した通りであり、好ましくは、Xは、フッ素元素(F)、塩素元素(Cl)、臭素元素(Br)、またはヨウ素元素(I)である。
【0057】
【表4】
【0058】
硝化プロセスを行った後、水素化プロセス(hydrogenation process)を行って、ポリマー鎖の両端においてそれぞれ変性されたニトロ官能基を有する小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を水素化し、ポリマー鎖の2つの端部がそれぞれアミノ官能基で変性された小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(末端アミノ基PPE)に還元する。その一般的な化学構造式(1‐4)は、下記の通りである。
【0059】
【化9】
【0060】
さらに詳しく説明すると、水素化プロセスは、水素化溶媒(hydrogenation solvent)でポリマー鎖の2つの端部においてそれぞれ変性されたニトロ官能基を有する小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料と水素化反応を行うことを含み、水素化溶媒の材料の種類は、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide, DMAC)(CAS登録番号:127-19-5)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran, THF)(CAS登録番号:109-99-9)、トルエン(toluene)(CAS登録番号:108-88-3)、およびイソプロパノール(isopropanol)(CAS登録番号:67-63-0)を含む材料群のうちの少なくとも1つから選択される。いくつかの実施形態において、水素化溶媒としてジメチルアセトアミドを使用することによって、水素化プロセスは、優れた水素化転化率(例えば、99%より高い水素化転化率)を達成することができるが、本発明はこれに限定されない。言及すべきこととして、水素化転化率を制御するパラメータは、(1)溶媒選択および混合した溶媒の比率、(2)触媒添加量、(3)水素化反応時間、(4)水素化反応温度、および(5)水素化反応圧力を含む。水素化溶媒の材料の種類は、下記の表5に示した通りである。
【0061】
【表5】
【0062】
水素化プロセスを行った後、合成プロセス(synthesis process)を行う。合成プロセスは、上述した水素化プロセスにおいて形成されたポリマー鎖の2つの端部においてそれぞれ変性されたアミノ官能基(すなわち、末端アミノ基PPE)を有する小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を無水マレイン酸(maleic anhydride)で合成し、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を合成することを含む。その一般的な化学構造式(1‐5)は、下記の通りである。
【0063】
【化10】
【0064】
式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nは、3~25の整数であり、好ましくは、10~18の整数である。無水マレイン酸の化学構造は、下記の通りである。
【0065】
【化11】
【0066】
さらに詳しく説明すると、合成プロセスにおいて、まず、ポリマー鎖の2つの端部がそれぞれアミノ官能基で変性された小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(すなわち、末端アミノ基PPE)を無水マレイン酸と混合して、開環反応(ring-opening reaction)を行う。合成プロセスは、さらに、脱水剤としてpトルエンスルホン酸(p-toluene-sulfonic acid)を使用して閉環反応(ring-closing reaction)を行い、その後、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を合成する。言及すべきこととして、上記のステップにおいて形成されたポリマー鎖の2つの端部がそれぞれビスマレイミドで変性された小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、その化学構造が主鎖のポリフェニレンエーテルを有し、同時に、ポリマー鎖の末端位置は、耐熱性の高い反応基(すなわち、ビスマレイミド)に変性される。それにより、合成された樹脂材料は、比較的低い誘電率および誘電正接を有する。上述した一連の材料変性手順に基づいて、大分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料に分解することができ、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の分子構造をビスフェノール官能基で変性することができ、さらに、小分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部をビスマレイミドで変性する。
【0067】
いくつかの実施形態において、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量は、樹脂組成物の樹脂の総重量に対し、10wt%~40wt%の範囲(例えば、10wt%、15wt%、20wt%、30wt%、40wt%、または上記10wt%~40wt%内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0068】
いくつかの実施形態において、樹脂組成物は、過酸化物、難燃剤、二酸化ケイ素、シリコンカップリング剤、またはその組み合わせも含み、過酸化物の量は、0.1phr~2phrの範囲(例えば、0.1phr、0.5phr、1phr、1.5phr、2phr、または上記0.1phr~2phr内の任意の値)であり、難燃剤の量は、25phr~40phrの範囲(例えば、25phr、30phr、32phr、34phr、38phr、40phr、または上記25phr~40phr内の任意の値)であり、二酸化ケイ素の量は、30wt%~60wt%の範囲(例えば、30wt%、35wt%、40wt%、45wt%、50wt%、60wt%、または上記30wt%~60wt%内の任意の値)であり、シリコンカップリング剤の量は、0.1phr~5phrの範囲(例えば、0.1phr、0.5phr、1phr、2phr、3phr、5phr、または上記0.1phr~5phr内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。ここで、phrの単位は、100重量部の樹脂組成物の樹脂毎に追加された他の材料の重量部として定義することができ、二酸化ケイ素の重量比率は、樹脂組成物の樹脂の重量に難燃剤の重量を加算したものを基礎とする。樹脂組成物の樹脂は、例えば、SBS樹脂、ビスマレイミド樹脂、架橋剤、および変性ポリフェニレンエーテル樹脂である。
【0069】
いくつかの実施形態において、過酸化物は、Luf(1,3-1,4-ビス(tert-ブチルペロキシイソプロピル)ベンゼン、下記の構造であってもよいが、本発明はこれに限定されない。
【化12】
【0070】
いくつかの実施形態において、難燃剤は、ハロゲンフリー難燃剤であり、具体的な例は、リン系難燃剤であってもよく、トリフェニルホスフェート(TPP)、レゾルシノールジホスフェート(RDP)、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート(BPAPP)、ビスフェノールAビス(ジメチル)ホスフェート(BBC)、レゾルシノールジホスフェート(CR-733S)、レゾルシノール-ビス(ジ-2,6-ジメチルフェニルホスフェート(PX-200)等のリン酸エステル(phosphate ester)から選択することができ;ポリビス(フェノキシ)ホスファゼン(SPB-100)等のホスファゼン;ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン(melamine phosphate, MPP)、メラミンシアヌレート(melamine cyanurate)から選択することができ;DOPO(例えば、構造式(C))、DOPO-HQ(例えば、構造式(D))、ビスDOPO派生構造(例えば、構造式(E))等のDOPO難燃剤の1つ以上の組み合わせ; アルミニウム含有次亜リン酸脂質(例えば、構造式(F))から選択することができる。
【0071】
【化13】
【0072】
いくつかの実施形態において、二酸化ケイ素は、球形の二酸化ケイ素であり、好ましくは、合成方法を使用して製造することにより、電気特性を下げ、流動性およびゲル充填性を維持することができる。球形の二酸化ケイ素は、表面改質のアクリルまたはビニルを有し、純度は、99.0%以上であり、平均粒径(D50)は、約2.0μm~3.0μmであるが、本発明はこれに限定されない。
【0073】
いくつかの実施形態において、シリコンカップリング剤は、シロキサン(siloxane)化合物を含むことができるが、本発明はこれに限定されない。また、官能基の種類に応じて、アミノシラン(amino silane)化合物、エポキシシラン(epoxy silane)化合物、ビニルシラン化合物、エステルシラン化合物、ヒドロキシシラン化合物、イソシアネートシラン化合物、メチルアクリルオキシシラン化合物、およびアクリルオキシシラン化合物に分けられ、回路基板内のガラス繊維布または粉末の相溶性および架橋度を強化することができるが、本発明はこれに限定されない。
【0074】
説明すべきこととして、本発明の樹脂組成物は、実際の設計要求に応じてプレプレグ(prepreg)または銅張基板(copper clad substrate, CCL)に加工することができるが、上述した具体的な実施形態は、本発明を限定するものではなく、樹脂組成物が、本発明の保護範囲に属する全てのものを含んでいればよい。
【0075】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明の効果について説明するが、本発明の保護範囲は、実施例の範囲に限定されない。
【0076】
各実施例および比較例の銅箔基板を下記の方法に基づいて評価した。
【0077】
ガラス転移温度(℃)を動的機械分析器(dynamic mechanical analyzer, DMA)でテストする。
【0078】
吸水率(%):サンプルを120℃および2atmの圧力鍋で120分間加熱した後、加熱前と後の重量変化を計算する。
【0079】
288℃はんだ耐性および耐熱性(秒):サンプルを120℃および2atmの圧力鍋で120分間加熱した後、288℃のはんだ付け用加熱炉に浸し、サンプルが破裂および層剥離するのに必要な時間を記録する。
【0080】
誘電率(Dk):アジレント(Agilent)E4991A誘電分析装置により10GHzの周波数で誘電率(Dk)を測定する。
【0081】
誘電正接(Df):アジレントE4991A誘電分析装置により10GHzの周波数で誘電正接(Df)を測定する。
【0082】
熱機械分析装置(thermomechanical analyzer, TMA)で熱膨張係数(CTE)をテストする。
【0083】
銅箔剥離強度(lb/in):銅箔と回路キャリアの間の剥離強度をテストする。
【0084】
<実施例1~2および比較例1>
【0085】
表6の樹脂組成物をトルエンと混合して、熱硬化型樹脂組成物のワニス(varnish)を形成し、南亜ガラス繊維布(南亜プラスチックス社;布タイプ:1078LD)を用いて室温でワニスを染み込ませてから、130℃で数分間(含浸装置で)乾燥させ、樹脂含有量が70wt%のプリプレグを得る。最後に、4片のプリプレグを厚さが35μmの2つの銅箔の間に重ね合わせ、25kg/cm2の圧力および85℃の温度で20分間一定の温度で保持し、3℃/分の加熱速度で210℃まで加熱した後、さらに120分間一定の温度で保持してから、130℃までゆっくり冷却して、厚さが0.59mmの銅箔基板を得る。ここで、表6の変性ポリフェニレンエーテル樹脂を小分子PPE(Mn=1,600)に分解して、溶剤中に入れ、ジメチルアセトアミド中で溶解して、炭酸カリウムおよびテトラフルオロニトロベンゼンを追加し、温度を140℃に上げる。そして、8時間反応させた後に温度を室温まで下げて、フィルタリングを行って固体を除去し、溶液をメタノール/水で沈殿させて、その沈殿物を生成物(PPE-NO2)とする。それから、生成物を溶剤(ジメチルアセトアミド)に入れて、90℃で8時間水素化し、それをPPE-NH2とする。その生成物をトルエンに入れて、無水マレイン酸およびpトルエンスルホン酸を追加し、温度を120℃に上げて逆流させ、8時間反応を行って、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を得る。
【0086】
作製した銅箔基板の物理特性をテストし、その結果を表6に詳しく示す。表6の実施例1~2および比較例の結果を比較すると、以下の結果が得られる:比較例1と比較して、実施例1~2は、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接等に関して性能を有効に向上させることができる。
【0087】
【表6】
【0088】
説明すべきこととして、上記の回路基板を例として使用するが、本発明の樹脂組成物の応用分野は、回路基板の分野に限定されず、本分野の技術者であれば、本発明の保護範囲に属する全ての吸水性および耐熱性塗料等の分野に均等に応用することができる。
【0089】
以上のように、本発明の樹脂組成物は、SBS樹脂、BMI樹脂、架橋剤を特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせることによって、SBS樹脂、BMI樹脂、架橋剤、および上述した変性ポリフェニレンエーテル樹脂の上述した化学構造の間の官能基相互作用により優れた反応性をもたらすことができるため、BMI樹脂の比率を下げると同時に、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接等に関して性能を有効に向上させ、競争力を発揮することができる。
【0090】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0091】
樹脂組成物は、樹脂組成物分野に応用することができる。
【外国語明細書】