(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091232
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 35/00 20060101AFI20240627BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20240627BHJP
C08L 71/12 20060101ALI20240627BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240627BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08L35/00
C08K5/17
C08L71/12
C08K3/36
C08K5/5415
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023081474
(22)【出願日】2023-05-17
(31)【優先権主張番号】111149614
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲徳▼超
(72)【発明者】
【氏名】黄 威儒
(72)【発明者】
【氏名】張 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】劉 家霖
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BH00W
4J002CH07X
4J002DJ017
4J002EN076
4J002EX038
4J002FD017
4J002FD146
4J002FD318
4J002GQ01
(57)【要約】
【目的】ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接の性能を有効に向上させ、競争力を発揮することのできる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】樹脂組成物は、ジアミン、ビスマレイミド樹脂、および下記の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含み、式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nは、3~25の整数である。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンと、
ビスマレイミド樹脂と、
下記の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と、
【化1】
を含み、Rが、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nが、3~25の整数である樹脂組成物。
【請求項2】
前記ジアミンの重量比範囲が、20wt%~60wt%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量比範囲が、80wt%より小さいか、それに等しい請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ビスマレイミド樹脂が、ポリフェニルメタンマレイミド樹脂であり、前記ポリフェニルメタンマレイミド樹脂の重量比範囲が、20wt%~60wt%である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
触媒、難燃剤、シリカ、シロキサンカップリング剤、またはその組み合わせをさらに含む請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記触媒の使用量が、0.005phr~1phrである請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記難燃剤の使用量が、25phr~40phrである請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記シリカの重量比範囲が、40wt%~70wt%である請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記シロキサンカップリング剤の使用量が、0.1phr~5phrである請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記樹脂組成物で作られた回路基板の誘電率が、3.2~3.5であり、誘電正接が、0.0035より小さく、ガラス転移温度が、280℃より高く、熱膨張係数が、15ppm/℃より小さく、剥離強度が、4lb/inより大きく、吸水率が、0.4%より小さい請求項1に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関するものである
【背景技術】
【0002】
ジアミン(diamine)およびビスマレイミド(bismaleimide, BMI)樹脂に由来するポリイミド(polyimide, PI)樹脂に基づく樹脂組成物は、高い剛性、低い熱膨張係数、および高いガラス転移温度(Tg)の利点を有する。異なる産業分野において幅広く使用されるため、いかにしてポリイミドシステムに基づく樹脂組成物を改善し、競争力を持たせるかが、本分野の技術者の目標となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、ポリイミド系システムにおけるガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率(Dk)、および/または誘電正接(Df)に関して性能を有効に向上させ、競争力を発揮することのできる樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の樹脂組成物は、ジアミン、ビスマレイミド樹脂、および下記の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂を含む。
【0005】
【0006】
式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nは、3~25の整数である。
【0007】
本発明の1つの実施形態において、ジアミンの重量比範囲は、20wt%~60wt%である。
【0008】
本発明の1つの実施形態において、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量比範囲は、80wt%より小さいか、それに等しい。
【0009】
本発明の1つの実施形態において、ビスマレイミド樹脂は、ポリフェニルメタンマレイミド樹脂であり、ポリフェニルメタンマレイミド樹脂の重量比範囲は、20wt%~60wt%である。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、樹脂組成物は、さらに、触媒、難燃剤、シリカ、シロキサンカップリング剤、またはその組み合わせを含む。
【0011】
本発明の1つの実施形態において、触媒の使用量は、0.005phr~1phrである。
【0012】
本発明の1つの実施形態において、難燃剤の使用量は、25phr~40phrである。
【0013】
本発明の1つの実施形態において、シリカの重量比範囲は、40wt%~70wt%である。
【0014】
本発明の1つの実施形態において、シロキサンカップリング剤の使用量は、0.1phr~5phrである。
【0015】
本発明の1つの実施形態において、樹脂組成物で作られた回路基板の誘電率は、3.2~3.5であり、誘電正接は、0.0035より小さく、ガラス転移温度は、280℃より高く、熱膨張係数は、15ppm/℃より小さく、剥離強度は、4lb/inより大きく、吸水率は、0.4%より小さい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明のポリイミドシステムに基づく樹脂組成物は、ジアミンを架橋剤として、特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせる。その結果、ジアミンと上述した変性ポリフェニレンエーテル樹脂の間の官能基相互作用により優れた反応性をもたらし、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接の性能を有効に向上させることができるため、樹脂組成物に競争力を持たせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。しかしながら、これらの実施形態は例であり、本発明を限定するものではない。
【0018】
ここで、「ある数値から別の数値」で表示した範囲は、明細書において当該範囲内の全ての数値を列挙することを回避するための概要的表示方法である。したがって、特定数値範囲についての描写は、当該数値範囲内の任意の数値および当該数値範囲内の任意の数値により限定される比較的小さな数値範囲を含み、明細書において任意の数値および比較的小さな数値範囲が明記されていることと同じである。
【0019】
本実施形態において、樹脂組成物は、ジアミン、ビスマレイミド樹脂、および構造式(1)を有する変性ポリフェニレンエーテル(polyphenylene ether, PPE)樹脂を含む。式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nは、3~25の整数である。したがって、本発明のポリイミドシステムに基づく樹脂組成物は、ジアミンを架橋剤として使用し、特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせる。その結果、ジアミンと上述した変性ポリフェニレンエーテル樹脂の間の官能基相互作用により優れた反応性をもたらし、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接の性能を有効に向上させるため、樹脂組成物に競争力を持たせることができる。ここで、変性ポリフェニレンエーテル樹脂およびジアミンについて、以下に詳しく説明する。
【0020】
【0021】
さらに、多くの樹脂システムの中で、本発明は、ポリイミドシステムがガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接等の樹脂組成物の多くの特性を実質的に改善できることを明確に例証する。これに基づいて、本発明の樹脂組成物は、ポリイミドシステムの応用分野において有益な効果を有することを明確に実証する。
【0022】
いくつかの実施形態において、樹脂組成物は、回路基板に応用することができ、樹脂組成物で作られた回路基板の誘電率は、3.2~3.5であり、誘電正接は、0.0035より小さく、ガラス転移温度は、280℃より高く、熱膨張係数は、15ppm/℃より小さく、剥離強度は、4lb/inより大きく、吸水率は、0.4%より小さいため、吸水率が低く、誘電特性が低い樹脂組成物であってもよい。例えば、5G通信の応用分野において、回路基板の高周波伝送の要求を満たすために、比較的低い吸収性および比較的低い誘電特性が必要とされる。既存のポリイミドシステムは、吸水性および誘電特性が高い問題を有することがよくあるため、本発明は、変性ポリフェニレンエーテル樹脂とジアミンの反応によりポリイミドシステムの吸水性および誘電特性を有効に低減できることを明確に実証する。つまり、本発明の樹脂組成物は、5G通信に応用され、実質的に改善された技術効率性を有することができるが、本発明はこれに限定されない。
【0023】
ジアミン
【0024】
いくつかの実施形態において、ジアミンは、ジアミン構造を有する一級アミン化合物であってもよく、下記の一般式(A1)~一般式(A8)で表されるジアミン化合物から選択することができる。
【0025】
【0026】
上述した一般式(A1)~一般式(A8)において、R1は、独立して、炭素数1~6の一価炭化水素基またはアルコキシ基から選択され、Aは、独立して、-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CH2-、-C(CH3)2-、-NH-、または-CONH-の二価連結基から選択され、n1は、0~4の整数から独立して選択される。
【0027】
上述した一般式(A3)において、一般式(A2)と重複するものは、排除される。上述した一般式(A5)において、一般式(A4)と重複するものは、排除される。
【0028】
一般式(A1)で表されるジアミンは、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、または(3,3’-ジアミノ)ジフェニルアミンであるが、本発明はこれに限定されない。
【0029】
一般式(A2)で表されるジアミンは、例えば、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]アニリン、または3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]アニリンであるが、本発明はこれに限定されない。
【0030】
一般式(A3)で表されるジアミンは、例えば、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3-bis(4-aminophenoxy)benzene, TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3-bis(3-aminophenoxy)benzene, APB)、4,4’-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ジオキシ]ビスアニリン、4,4’-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ジオキシ]ビスアニリン、または4,4’-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ジオキシ]ビスアニリンであるが、本発明はこれに限定されない。
【0031】
一般式(A4)で表されるジアミンは、例えば、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、またはビス[4,4’-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリドであるが、本発明はこれに限定されない。
【0032】
一般式(A5)で表されるジアミンは、例えば、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリンまたは4,4’-[オキシビス(3,1-フェノキシ)]ビスアニリンであるが、本発明はこれに限定されない。
【0033】
一般式(A6)で表されるジアミンは、例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(2,2-Bis[4-(4-aminophenoxy)phenyl]propane, BAPP)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(Bis[4-(4-aminophenoxy)phenyl]ether, BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(Bis[4-(4-aminophenoxy)phenyl]sulfone, BAPS)、またはビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(Bis[4-(4-aminophenoxy)phenyl]ketone, BAPK)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0034】
一般式(A7)で表されるジアミンは、例えば、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビスフェニルまたはビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビスフェニルであるが、本発明はこれに限定されない。
【0035】
上述した一般式(A8)において、mは、6~8から独立して選択される整数である。
【0036】
いくつかの実施形態において、一般式(A8)の構造を有する化合物は、ポリフェニレンエーテルジアミン(polyphenylene ether diamine)(以下、略してPPE-NH2)と称してもよい。
【0037】
いくつかの実施形態において、上述したジアミン構造を有する一級アミン化合物は、一般式(A1)~一般式(A8)で表されるジアミン化合物から選択することができ、4,4-ジアミノジシクロヘキシルメタン(4,4-diaminodicyclohexylmethane, PACM;CAS登録番号:1761-71-3)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3-bis(4-aminophenoxy)benzene, TPE-R;CAS登録番号:2479-46-1)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(2,2-bis[4-(4-aminophenoxy)phenyl]propane, BAPP;CAS登録番号:13080-86-9)、またはこれらの組み合わせから選択することができる。
【0038】
いくつかの実施形態において、ジアミンの重量比範囲は、樹脂組成物中の樹脂の総重量に対し、20wt%~60wt%(例えば、20wt%、25wt%、30wt%、40wt%、50wt%、60wt%、または上記20wt%~60wt%内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0039】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂
【0040】
変性ポリフェニレンエーテル樹脂の製造方法は、順番に以下のステップを含む。説明すべきこととして、本実施形態におけるステップの順番および実際の操作方法は、必要に応じて調整することができるため、本発明はこれに限定されない。
【0041】
まず、高分子量ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂材料を提供し、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、第1数平均分子量(Mn)を有する。高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の第1数平均分子量(Mn)は、18,000以上であり、好ましくは、20,000以上であるが、本発明はこれに限定されない。
【0042】
高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、下記の化学構造一般式(1-1)を有する。式中、nは、150~330の整数であり、好ましくは、165~248の整数である。
【0043】
【0044】
いくつかの実施形態において、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、ポリフェニレンオキシド(polyphenylene oxide, PPO)とも称される。ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、優れた絶縁性、耐酸性・耐アルカリ性、優れた誘電率、および比較的低い誘電正接を有する。そのため、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、エポキシ樹脂材料より優れた電気特性を有し、ポリフェニレンエーテル樹脂材料は、高周波プリント基板用の絶縁基板材料として使用するのに比較的適しているが、本発明はこれに限定されない。
【0045】
高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を提供した後、クラッキングプロセス(cracking process)を実施して、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を分解し、第2数平均分子量を有し、且つビスフェノール官能基で変性された低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(フェノール性末端基を有する小分子PPEとも称す)を形成する。第2数平均分子量は、上述した第1数平均分子量(すなわち、分解前のポリフェニレンエーテル樹脂材料の数平均分子量)より小さい。低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の第2数平均分子量(Mn)は、12,000以下であり、好ましくは、10,000以上であるが、本発明はこれに限定されない。
【0046】
さらに詳しく説明すると、クラッキングプロセスは、ビスフェノール(フェノール物質)と第1数平均分子量を有する高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(すなわち、高分子量PPE)を使用して、過酸化物の存在下で反応させることを含む。その結果、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料が分解され、第1数平均分子量より小さい第2数平均分子量を有する低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料が形成される。低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の一側は、フェノール官能基で変性され、その化学構造は、下記の一般式(1-2)である。式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示す。
【0047】
【0048】
例えば、下記の表2に示すように、Rは、例えば、直接結合、メチレン、エチレン、イソプロピリデン、1-メチルプロピル、スルホン(sulfone)、またはフルオレン(fluorene)であってもよい。式中、nは、3~25の整数であり、好ましくは、10~18の整数である。いくつかの実施形態において、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の数平均分子量(Mn)は、一般的に、500g/mol~5,000g/molであり、好ましくは、1,000g/mol~3,000g/molであり、特に好ましくは、1,500g/mol~2,500g/molである。また、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の重量平均分子量(Mw)は、一般的に、1,000g/mol~10,000g/molであり、好ましくは、1,500g/mol~5,000g/molであり、特に好ましくは、2,500g/mol~4,000g/molであるが、本発明はこれに限定されない。
【0049】
いくつかの実施形態において、ビスフェノール化合物は、4,4’-ビスフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールB、ビスフェノールS、ビスフェノールフルオレン、4,4’-エチレンビスフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェノールベンゼン、3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、および2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパンからなる材料群より選択される少なくとも1つである。ビスフェノール化合物の種類は、下記の表1に示した通りである。
【0050】
【0051】
2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基は、下記の表2に示した通りである。
【0052】
【0053】
いくつかの実施形態において、過酸化物の材料の種類は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、およびジクミルパーオキサイドからなる材料群より選択される少なくとも1つである。過酸化物の材料の種類は、下記の表3に示した通りである。
【0054】
【0055】
クラッキングプロセスを行った後、硝化プロセス(nitrification process)を実施して、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料をニトロ化反応させ、さらに、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部をそれぞれ下記の化学構造一般式(1-3)を有するニトロ官能基(末端ニトロPPEとしても知られる)で変性する。
【0056】
【0057】
さらに詳しく説明すると、硝化プロセスは、4-ハロニトロベンゼン(4-halo nitrobenzene)材料および分解されてビスフェノール官能基で変性された低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料をアルカリ環境中でニトロ化反応させて、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部をそれぞれニトロ官能基で変性することを含む。ニトロ化反応は、4-ハロニトロベンゼン材料および低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を用いてアルカリ環境中で行われ、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の端部は、負帯電性酸素イオンを形成する。負帯電性酸素イオンは、4-ハロニトロベンゼンを容易に攻撃して、4-ハロニトロベンゼンのハロゲンを除去し、さらに、ハロニトロベンゼン官能基を低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部に変性する。つまり、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部は、上述した反応メカニズムによりニトロ官能基でそれぞれ変性することができる。
【0058】
いくつかの実施形態において、硝化プロセスは、ポリフェニレンエーテル樹脂材料を8~14のpH値、好ましくは、10~14のpH値を有するアルカリ環境中でニトロ化させるプロセスであるが、本発明はこれに限定されない。
【0059】
いくつかの実施形態において、4-ハロニトロベンゼン材料の化学構造は、下記の一般式であり、材料の種類は、下記の表4に示した通りである。式中、Xは、ハロゲンであり、好ましくは、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、またはヨウ素(I)である。
【0060】
【0061】
【0062】
硝化プロセスを実施した後、水素化プロセス(hydrogenation process)を実施して、ポリマー鎖の2つの端部がそれぞれニトロ官能基で変性された低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を水素化反応させ、ポリマー鎖の両端においてアミノ官能基で変性された低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(アミン末端PPE)に還元する。その化学構造は、下記の一般式(1-4)である。
【0063】
【0064】
さらに詳しく説明すると、水素化プロセスは、水素化溶媒(hydrogenation solvent)および低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(ポリマー鎖の2つの端部がそれぞれニトロ官能基で変性された)を使用して、水素化反応を行うことを含み、水素化溶媒の材料の種類は、ジメチルアセトアミド(dimethylacetamide, DMAC;CAS登録番号:127-19-5)、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran, THF;CAS登録番号:109-99-9)、トルエン(toluene;CAS登録番号:108-88-3)、およびイソプロパノール(isopropanol;CAS登録番号:67-63-0)からなる材料群より選択される少なくとも1つである。いくつかの実施形態において、水素化溶媒としてジメチルアセトアミドを使用することによって、水素化プロセスは、優れた水素化転化率(例えば、99%より高い水素化転化率)を達成することができるが、本発明はこれに限定されない。言及すべきこととして、水素化転化率を制御するパラメータは、(1)溶媒選択および混合した溶媒の比率、(2)触媒添加量、(3)水素化反応時間、(4)水素化反応温度、および(5)水素化反応圧力を含む。水素化溶媒の材料の種類は、下記の表5に示した通りである。
【0065】
【0066】
水素化プロセスを実施した後、合成プロセス(synthesis process)を実施する。合成プロセスは、水素化プロセスにおいて形成され、ポリマー鎖の2つの端部がそれぞれニトロ官能基で変性された低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(すなわち、末端アミノ基を有するPPE)および無水マレイン酸(maleic anhydride)を使用して合成反応を行い、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を合成することを含む。その化学構造は、一般式(1-5)である。
【0067】
【0068】
式中、Rは、2つのヒドロキシフェニル官能基の間に位置するビスフェノール化合物の化学基を示し、nは、3~25の整数であり、好ましくは、10~18の整数である。無水マレイン酸の化学構造は、下記の通りである。
【0069】
【0070】
さらに詳しく説明すると、合成プロセスにおいて、まず、ポリマー鎖の2つの端部がそれぞれアミノ官能基で変性された低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料(すなわち、末端アミノ基を有するPPE)を無水マレイン酸と混合して、開環反応(ring-opening reaction)を行う。合成プロセスは、さらに、脱水剤としてpトルエンスルホン酸(p-toluene-sulfonic acid)を使用して閉環反応(ring-closing reaction)を行い、その後、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を合成する。言及すべきこととして、ポリマー鎖の2つの端部は、上記のステップにより低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料中のビスマレイミドでそれぞれ変性され、その化学構造もポリフェニレンエーテル主鎖を有し、ポリマー鎖の末端位置は、耐熱性の高い反応基(すなわち、ビスマレイミド)に変性される。そのため、合成樹脂材料は、比較的低い誘電率および誘電正接を有する。上述した一連の材料変性手順に基づいて、高分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料を低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料に分解することができる。低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料の分子構造は、ビスフェノール官能基で変性することができ、低分子量ポリフェニレンエーテル樹脂材料のポリマー鎖の2つの端部は、さらに、ビスマレイミドで変性される。
【0071】
いくつかの実施形態において、変性ポリフェニレンエーテル樹脂の重量比範囲は、樹脂組成物中の樹脂の総重量に対し、80wt%より小さいか、それに等しい(例えば、5wt%、10wt%、20wt%、40wt%、60wt%、または80wt%より小さいか、それに等しい任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。
【0072】
いくつかの実施形態において、ビスマレイミド樹脂は、ポリフェニルメタンマレイミド(polyphenylmethane maleimide)樹脂(CAS登録番号:67784-74-1;BMI-2300(大和化学工業株式会社製、商品名、構造式(A)))である。ポリフェニルメタンマレイミ樹脂の重量比範囲は、樹脂組成物中の樹脂の総重量に対し、20wt%~60wt%(例えば、20wt%、25wt%、30wt%、40wt%、50wt%、60wt%、または上記20wt%~60wt%内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。そのため、変性ポリフェニレンエーテル樹脂(ビスマレイミドによって)を使用した後に、ポリフェニルメタンマレイミ樹脂の使用量を減らすことができ、ビス-(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン(bis-(3-ethyl-5-methyl-4-maleimidephenyl)methane)(CAS登録番号:105391-33-1;BMI-70(ケイ・アイ化成株式会社製、商品名、例えば、構造式(B)))を使用しなくてもよい。
【0073】
【0074】
いくつかの実施形態において、樹脂組成物は、さらに、触媒、難燃剤、シリカ、シロキサンカップリング剤、またはその組み合わせを含み、触媒の使用量は、0.005phr~1phr(例えば、0.005phr、0.01phr、0.05phr、0.1phr、0.5phr、1phr、または上記0.005phr~1phr内の任意の値)であり、難燃剤の使用量は、25phr~40phr(例えば、25phr、30phr、32phr、34phr、38phr、40phr、または上記25phr~40phr内の任意の値)であり、シリカの重量比範囲は、40wt%~70wt%(例えば、40wt%、45wt%、50wt%、60wt%、70wt%、または上記40wt%~70wt%内の任意の値)であり、シロキサンカップリング剤の使用量は、0.1phr~5phr(例えば、0.1phr、0.5phr、1phr、2phr、3phr、5phr、または上記0.1phr~5phr内の任意の値)であるが、本発明はこれに限定されない。ここで、単位phrは、樹脂組成物中の樹脂100重量部毎の他の材料の重量部として定義することができ、シリカの重量比は、樹脂組成物中の樹脂の重量に難燃剤の重量を加算したものを基礎とする。樹脂組成物中の樹脂は、例えば、ジアミン、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、およびポリフェニルメタンマレイミ樹脂である。
【0075】
いくつかの実施形態において、触媒は、2-エチル4-メチルイミダゾール(2-ethyl 4-methylimidazole, 2E4MZ;CAS登録番号:931-36-2;下記の構造式)であってもよく、ジアミンおよび樹脂(例えば、変性ポリフェニレンエーテル樹脂および/またはポリフェニルメタンマレイミ樹脂)は、熱硬化プロセスの間に触媒されることによって、より優れた反応性を有するが、本発明はこれに限定されない。
【0076】
【0077】
いくつかの実施形態において、難燃剤は、ハロゲンフリー難燃剤であり、具体的な例は、リン系難燃剤であってもよく、トリフェニルホスフェート(TPP)、レゾルシノールジホスフェート(RDP)、ビスフェノールAビス(ジフェニル)ホスフェート(BPAPP)、ビスフェノールAビス(ジメチル)ホスフェート(BBC)、レゾルシノールジホスフェート(CR-733S)、レゾルシノール-ビス(ジ-2,6-ジメチルフェニルホスフェート(PX-200)等のリン酸エステル(phosphate ester)から選択することができ;ポリビス(フェノキシ)ホスファゼン(SPB-100)等のホスファゼン(phosphazene)から選択することができ;ポリリン酸アンモニウム、リン酸メラミン(melamine phosphate, MPP)、メラミンシアヌレート(melamine cyanurate);DOPO(構造式(C))、DOPO-HQ(構造式(D))、ビスDOPO派生構造(構造式(E))等のDOPO難燃剤の1つ以上の組み合わせ; アルミニウム含有次亜リン酸脂質(構造式(F))から選択することができる。
【0078】
【0079】
いくつかの実施形態において、シリカは、球形のシリカであり、好ましくは、合成方法を使用して作製されることによって、電気特性を下げ、流動性および接着剤充填性を維持することができる。球形のシリカは、アクリルまたはビニル表面改質を有し、純度は、99.0%以上であり、平均粒径(D50)は、約2.0μm~3.0μmであるが、本発明はこれに限定されない。
【0080】
いくつかの実施形態において、シロキサンカップリング剤は、シロキサン(siloxane)化合物を含むことができるが、本発明はこれに限定されない。また、官能基の種類に応じて、アミノシラン(amino silane)化合物、エポキシシラン(epoxy silane)化合物、ビニルシラン化合物、エステルシラン化合物、ヒドロキシシラン化合物、イソシアネートシラン化合物、メチルアクリルオキシシラン化合物、およびアクリルオキシシラン化合物に分けられ、回路基板内のガラス繊維布または粉末の相溶性および架橋度を強化することができるが、本発明はこれに限定されない。
【0081】
説明すべきこととして、本発明の樹脂組成物は、実際の設計要求に応じてプレプレグ(prepreg)または銅張基板(copper clad substrate, CCL)に加工することができるが、上述した具体的な実施形態は、本発明を限定するものではなく、含まれる樹脂組成物がいずれも本発明の保護範囲に属していればよい。
【0082】
ここで、下記の実施例および比較例を挙げて、本発明の効果を明らかにするが、本発明の保護範囲は、実施形態の範囲に限定されない。
【0083】
実施例および比較例において生成した銅箔基板を下記の方法で評価する。
【0084】
ガラス転移温度(℃)を動的機械分析器(dynamic mechanical analyzer, DMA)でテストする。
【0085】
吸水率(%):サンプルを120℃および2atmの圧力鍋で120分間加熱した後、加熱前と後の重量変化を計算する。
【0086】
288℃はんだ耐性耐熱性(秒):サンプルを120℃および2atmの圧力鍋で120分間加熱した後、288℃のはんだ付け用加熱炉に浸し、サンプルの層剥離に必要な時間を記録する。
【0087】
誘電率(Dk):誘電分析装置(dielectric analyzer)HPアジレント(Agilent)E4991Aで周波数10GHzの間の誘電率(Dk)を測定する。
【0088】
誘電正接(Df):誘電分析装置HPアジレントE4991Aで周波数10GHzの間の誘電正接(Df)を測定する。
【0089】
熱機械分析装置(thermomechanical analyzer, TMA)で熱膨張係数(coefficient of thermal expansion, CTE)をテストする。
【0090】
銅箔剥離強度(lb/in):銅箔と回路キャリアの間の剥離強度をテストする。
【0091】
<実施例1~2および比較例1>
【0092】
表6の樹脂組成物をメチルエチルケトンと混合して、熱硬化型樹脂組成物のワニス(varnish)を形成する。南亜ガラス繊維布(南亜プラスチックス社;布種型番1078LD)を用いて上述したワニスを室温で染み込ませてから、130℃(含浸装置)で数分間乾燥させ、樹脂含有量が70wt%のプリプレグを得る。最後に、4片のプリプレグを厚さが35μmの2つの銅箔の間に重ね合わせ、25kg/cm2の圧力および85℃の温度で、20分間一定の温度で保持し、3℃/分の加熱速度で210℃まで加熱した後、120分間一定の温度で保持する。次に、130℃までゆっくり冷却して、厚さが0.59mmの銅箔基板を得る。ここで、表6の変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、分解された小分子PPE(Mn=1,600)をジメチルアセトアミドの溶剤中で溶解して、炭酸カリウムおよびテトラフルオロニトロベンゼンを追加し、140℃まで加熱する。8時間反応させた後、室温まで冷却して、フィルタリングを行って固体を除去し、溶液をメタノール/水で沈殿させて、その沈殿物を生成物(PPE-NO2)とする。それから、生成物を溶剤ジメチルアセトアミドに入れて、90℃で8時間水素化し、それをPPE-NH2とする。その生成物をトルエンに入れて、無水マレイン酸およびpトルエンスルホン酸を追加し、温度を120℃に上げて逆流させ、8時間反応を行って、変性ポリフェニレンエーテル樹脂を生成する。
【0093】
試験により作られた銅箔基板の物理特性を表6に詳しく示す。表6の実施例1~2および比較例の結果を比較すると、下記の結論を得ることができる:比較例1と比較して、実施例1~2は、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電正接等を有効に向上させることができる。
【0094】
【0095】
説明すべきこととして、上記の回路基板を例として使用するが、本発明のポリイミドシステムの応用分野は、回路基板の分野に限定されず、本発明が属する技術分野において周知の知識を有する者であれば、本発明の保護範囲に属する全ての吸水性および耐熱性塗料等に均等に応用することができる。
【0096】
以上のように、本発明のポリイミドシステムに基づく樹脂組成物は、ジアミンを架橋剤として使用し、特定の構造式を有する変性ポリフェニレンエーテル樹脂と組み合わせる。その結果、ジアミンと上述した変性ポリフェニレンエーテル樹脂の間の官能基相互作用により優れた反応性をもたらし、ガラス転移温度、熱膨張係数、剥離強度、吸水性、耐熱性、誘電率、および/または誘電の性能を有効に向上させることができるため、樹脂組成物に競争力を持たせることができる。
【0097】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の樹脂組成物は、競争力を有するため、異なる産業分野において幅広く使用することができる。
【外国語明細書】