IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニバーシティ・オブ・シンシナティの特許一覧

特開2024-9140TRPV2受容体アゴニストを用いる拡張期心機能不全の治療
<>
  • 特開-TRPV2受容体アゴニストを用いる拡張期心機能不全の治療 図1-1
  • 特開-TRPV2受容体アゴニストを用いる拡張期心機能不全の治療 図1-2
  • 特開-TRPV2受容体アゴニストを用いる拡張期心機能不全の治療 図2
  • 特開-TRPV2受容体アゴニストを用いる拡張期心機能不全の治療 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009140
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】TRPV2受容体アゴニストを用いる拡張期心機能不全の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240112BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20240112BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20240112BHJP
   A61K 31/69 20060101ALI20240112BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20240112BHJP
   A61K 31/05 20060101ALI20240112BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P9/04
A61K31/192
A61K31/69
A61K31/352
A61K31/05
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】23
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023196822
(22)【出願日】2023-11-20
(62)【分割の表示】P 2020203311の分割
【原出願日】2014-03-13
(31)【優先権主張番号】61/778,826
(32)【優先日】2013-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507243164
【氏名又は名称】ユニバーシティ・オブ・シンシナティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジャック・ルビンスタイン
(72)【発明者】
【氏名】キース・ダブリュー・ジョーンズ
(57)【要約】
【課題】本発明が解決しようとする課題は、HFpEF及びその前兆を患っている患者を治療する方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、拡張期心機能不全を治療するのに有効な量のTRPV2受容体アゴニストを投与することに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における心筋細胞に対して一過性受容体電位バニロイド2(TRPV2)受容体を刺激して拡張期心機能不全を治療するのに十分なレベルまで心臓弛緩の速度を増加させるのに効果的な量のTRPV2受容体アゴニストを投与することを含む、対象において拡張期心機能不全を治療する方法であって、
前記TRPV2受容体アゴニストの量が、注入、経口投与、又は経皮投与の少なくとも1つで投与される、方法。
【請求項2】
前記TRPV2受容体アゴニストが、プロベネシド、2-アミノエトキシジフェニルボレート(2APB)、カンナビノール、カンナビジオール、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記拡張期心機能不全が、保持された駆出率を伴う心不全(HFpEF)又はHFpEFの前兆からなる群から選択される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記HFpEFの前兆が、拡張機能障害、左室弛緩障害による左室肥大、及び左室弛緩障害による浸潤性心筋症からなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記TRPV2受容体アゴニストの量が、向上した標準6分間歩行テストの結果、向上したニューヨーク心臓協会(NYHA)等級、より低い利尿薬の用量要求、より低い血清B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度、血清ナトリウム濃度の正常化、又はこれらの組み合わせをもたらすのに十分な量である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記注入が静脈内注入である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記注入が、ボーラス注入又は持続的静脈内注入の少なくとも1つである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記TRPV2受容体アゴニストの量が徐放性製剤として投与される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記TRPV2受容体アゴニストの徐放性製剤が、TRPV2受容体アゴニストの治療的血漿中濃度を1日当たり約18時間から1日当たり約24時間までの期間維持する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記TRPV2受容体アゴニストがプロベネシドであり、治療上有効な量の該プロベネシドが約1 mg/kg/日から約100g/kg/日までの範囲の用量である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記TRPV2受容体アゴニストがプロベネシドであり、治療上有効な量の該プロベネシドが1日当たり約8時間から1日当たり約24時間までの期間にわたって投与される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記対象が、治療上有効量の前記TRPV2受容体アゴニストで少なくとも1週間の間治療される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記対象が、治療上有効な量の前記TRPV2受容体アゴニストで少なくとも1月の間治療される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
1日当たり約18時間から1日当たり約24時間までの期間TRPV2受容体アゴニストの治療的血漿中濃度を維持する投与計画で対象にTRPV2受容体アゴニストを投与することを含む、対象における拡張期心機能不全を治療する方法であって、
前記治療的血漿中濃度が、対象における心筋細胞に対してTRPV2受容体を刺激して前記対象における拡張期心機能不全を治療するのに十分なレベルまで心臓弛緩の速度を増加させるのに十分な量である、方法。
【請求項15】
前記TRPV2受容体アゴニストが、プロベネシド、2-アミノエトキシジフェニルボレート(2APB)、カンナビノール、カンナビジオール、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記拡張期心機能不全が、保持された駆出率を伴う心不全(HFpEF)及びHFpEFの前兆からなる群から選択される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記HFpEFの前兆が、拡張機能障害、左室弛緩障害による左室肥大、及び左室弛緩障害による浸潤性心筋症からなる群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記TRPV2受容体アゴニストの量が、向上した標準6分間歩行テストの結果、向上したNYHA等級、より低い利尿薬の用量要求、より低い血清BN)濃度、血清ナトリウム濃度の正常化、又はこれらの組み合わせをもたらすのに十分な量である、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記投与計画が、前記TRPV2受容体アゴニストの用量の静脈内投与を含む、請求項14~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記投与計画が、前記TRPV2受容体アゴニストの用量の経口投与を含む、請求項14~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記投与計画が、前記TRPV2受容体アゴニストの用量の経皮投与を含む、請求項14~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記投与計画が、前記TRPV2受容体アゴニストの経口投与、静脈注入、及び経皮投与の少なくとも2つの組み合わせを含む、請求項14~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記対象が、治療上有効量の前記TRPV2受容体アゴニストで少なくとも1週間の間治療される、請求項14~22のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2013年3月13日に出願された米国第61/778,826の優先権を主張するものであり、この開示の全体は参照により本願明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、概して拡張期心機能不全の治療に関し、より具体的にはTRPV2受容体アゴニストを用いる拡張期心不全の治療に関する。
【背景技術】
【0003】
心不全の最も一般的な形態は、保持された駆出率を伴う心不全(HFpEF)及びその前兆状態、拡張機能障害、左室弛緩障害による左室肥大、並びに左室弛緩障害による浸潤性心筋症として知られる変異形である。HFpEFは、たとえ適切に収縮することができても(すなわち、正常な収縮機能)、心臓が十分に拡張して心臓拡張期の間に充填する能力の欠如により、以前は「拡張期心不全」として知られていた。HFpEFは概して、もっぱら60歳を超える年齢の人に影響を及ぼす疾患であり、今日まで治療法は知られていない。HFpEF及びその前兆状態を患っている患者は、非常に予後が不良であり、今までの一連のネガティブな臨床試験から救いがなく、非常に少数の、大規模なNIHの資金による研究が、全国でこの疾患に焦点を当てている。
【0004】
HFpEF及びその前兆状態の現在の処置は、利尿による症状の緩和及び心臓に対する負荷の低減として知られる治療法に基づいている。これらの治療法は、心不全の他の変異形(すなわち、収縮期心不全、低下EFによるHFとしても知られている)に対して主に試験され、最良でHFpEFの症状を減少させたが、(心臓収縮機能を改善する薬物は多くあるが)心臓の拡張機能を改善させる薬物治療は知られていないので、根本的な原因を治療はできない。HFpEF及びその前兆を患っている患者を治療する方法が必要とされている。
【0005】
一過性受容体電位(TRP)ファミリーのイオンチャネルは、腎臓学及び神経学において何年も研究されてきた。いくつかのTRPはまた、血管緊張(TRPC1、TRPVc6、及びTRPM4)、脳血流(TRPM4)、新生内膜過形成(TRPC1)、及び肺高血圧症(TRPC6)の重要なメディエーターであることも発見された。しかしながら最近まで、このファミリー中でたった数個のチャネル(例えば、血圧過負荷に対する反応に対する心臓肥大の発生におけるTRPC3/6/7等)しか直接的な心臓効果を有すると確認されていなかった。一過性受容体電位バニロイド(TRPV)ファミリーにおいて、直接的な心臓効果が見出だされた非常に興味深い研究が行われている。最初に、マウスの心臓の全ての腔の室拡張を引き起こすTRPV2の心臓の特異的過剰発現が確認された。続いて、TRPV1ノックアウトマウスが、野生型同腹子に比べて左前下行動脈の結紮後に増加した梗塞サイズ及び減少した生存率を示すことが見いだされた。興味深いことに、特異的アゴニストによるTRPV1活性化が虚血/再灌流(I/R)傷害に対する保護をもたらすことも他の研究により見いだされた。
【0006】
プロベネシドは、最近、TRPV2の選択的なアゴニストであることが同定された。プロベネシドは、非常に安全なプロファイルを有する高脂溶性の安息香酸誘導体であり、ペニシリンの尿細管排泄を減少させるために1950年代に開発され、それからいくつかの抗生物質及び抗ウイルスの血清濃度を向上するために用いられてきた。これはまた、脳、肝臓、及び眼における能動輸送過程の競合的阻害剤であることも見いだされ、これらの分野で研究されたが、その腎臓の効果以外の臨床使用は確立されなかった。
【0007】
プロベネシド(ベネミドとして示される)を用いる最初の試験の間、プロベネシドは強力な尿酸排泄効果を有することが確認され、直ちに痛風の治療の標準薬になった。有機アニオン輸送体(OAT)の競合阻害剤として作用し、そのため尿から血清中へ尿酸のOATが媒介する再摂取を阻害することにより、腎近位管による有機酸の再吸収、例えば尿酸の阻害を介して、血清中の尿酸濃度が低減することが見いだされた。たとえプロベネシドが最小の有害作用プロファイルを有しているとしても、他の痛風のための治療法が改善した有効性を示していることから、その臨床的使用は顕著に減少している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「Remington」:The Science and Practice of Pharmacy (第19版)、A. R. Gennaro、Mack Publishing Company、Easton、Pa.1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
HFpEF及びその前兆を患っている患者を治療する方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は特定の実施形態とともに記載されるが、本発明はこうした実施形態に限定されないことが理解される。一方、本発明の精神及び範囲内に含まれ得る限り、本発明はすべての変更、改良、及び同等物を含む。
【0011】
本発明の一態様は、拡張期心機能不全又は拡張期心機能不全の症状を治療するのに有効な一過性受容体電位バニロイド2(「TRPV2」)アゴニストの量を投与することを含む、対象における保持された駆出率を伴う心不全(HFpEF)及びその前兆(例えば、拡張機能障害、左室弛緩障害による左室肥大、及び左室弛緩障害による浸潤性心筋症)等の拡張期心機能不全を治療する方法に関する。TRPVアゴニストは、注入(注射)、経口投与、又は経皮投与の少なくとも1つにより投与され得る。好ましいTRPVアゴニストとしては、プロベネシド、2-アミノエトキシジフェニルボレート(2APB)、カンナビノール、カンナビジオール、及びそれらの組み合わせの医薬製剤が挙げられる。本発明の一実施形態において、TRPVアゴニストは約1mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲で投与される。注入により投与される場合、TRPVアゴニストはボーラス注入若しくは持続的静脈内注入の少なくとも1つ、又はボーラス(初期量)及びその後の静脈内注入で投与され得る。一実施形態において、プロベネシドは約8時間から約24時間の間にわたって投与される。プロベネシドは、短期間、すなわち1週間未満の治療のために使用することができ、又は長期間、すなわち数週間、数ヵ月、又は数年の期間にわたって投与され得る。プロベネシドは、心機能を臨床的に改善するのに十分な量で投与することができ、結果として、例えば、標準6分間歩行テスト(又は「標準化した6分間歩行テスト」)、改善したニューヨーク心臓協会(NYHA)等級、より低い利尿薬の用量要求、より低い血清BNP濃度、血清ナトリウム濃度の正常化、及びこれらの組み合わせに基づく定量可能な臨床観察により決定することができる、心機能不全における改善をもたらし得る。
【0012】
添付する図面(これらは本明細書に組み込まれ、その一部を構成する)は、上記した本発明の一般記載とともに、本発明の例示的な実施例を詳細に説明し、以下の詳細な説明は本発明の理念を説明するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1-1】図1Aは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスにおける基準(ベースライン)の左心室の収縮機能を示すグラフである。図1Bは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスにおけるベースラインの左心室の収縮機能を示すグラフである。
図1-2】図1Cは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスにおける弛緩速度を示すグラフである。
図2図2Aは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスからの予備収縮した剥皮血管において、発生した力に対するプロベネシドの用量反応効果を示すグラフである。図2Bは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスからの予備収縮した剥皮血管において、弛緩(緩和)割合に対するプロベネシドの用量反応効果を示すグラフである。図2Cは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスからの予備収縮した血管において、発生した力に対するプロベネシドの用量反応効果を示すグラフである。図2Dは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスからの予備収縮した血管において、弛緩割合に対するプロベネシドの用量反応効果を示すグラフである。
図3図3Aは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスから単離した心筋細胞における収縮率(%)を示すグラフである。図3Bは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスから単離した心筋細胞における収縮速度を示すグラフである。図3Cは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスからの単離した心筋細胞における弛緩速度を示すグラフである。図3Dは、野生型及びTRPV2ノックアウトマウスからの1組の代表的なトレース図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様は、対象においてTRPV受容体アゴニストを用いて、本明細書ではまとめて「拡張期心機能不全」と示す、(従前から拡張期心不全として知られていた)保持された駆出率を伴う心不全(HFpEF)、及び拡張機能障害、左室弛緩障害による左室肥大、及び左室弛緩障害による浸潤性心筋症等のHFPEFの前兆を治療する新規な方法に関する。プロベネシドは、近年、一過性受容体電位バニロイド2(TRPV2)イオンチャネルのアゴニストと同定された。TRPV2は、プロベネシド、2-アミノエトキシジフェニルボレート(2APB)、カンナビノール、及びカンナビジオール等の特定のアゴニストに加えて、細胞の膨潤及び熱により活性化される、僅かにカルシウム選択性カチオンチャネルである。本明細書に記載しているとおり、心筋に存在するTRPV2受容体は、心臓弛緩を向上させることができる。特定の理論に束縛されることなく、TRPV2受容体のアゴニストは、細胞質から筋小胞体中へのカルシウムの除去を向上させることにより、心臓細胞におけるカルシウム処理を改善する。
【0015】
拡張期心機能不全又は拡張期心機能不全の症状を治療する際、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効な用量は、心臓の心臓弛緩及び拡張機能を増加させて、心機能不全の少なくともいくつかの症状を緩和するのに十分な血清中のTRPV2受容体アゴニスト及びその活性代謝物の濃度(レベル)を達成する用量である。例えば、TRPV2受容体アゴニストは、臨床的に拡張期心機能を改善するのに十分な量で投与され、結果として、例えば、標準6分間歩行テスト、改善したニューヨーク心臓協会(NYHA)等級、より低い利尿薬の用量要求、より低い血清BNP濃度、血清ナトリウム濃度の正常化、及びこれらの組み合わせに基づく定量可能な臨床観察により決定され得るもの等の、拡張期心機能不全における改善をもたらし得る。改善は、例えば、治療の実行の前後の間で行われる観察を比較することにより測定できる。
【0016】
本発明の一態様は、治療上有効量のTRPV2受容体アゴニスト、例えばプロベネシド、2-アミノエトキシジフェニルボレート(2APB)、カンナビノール、カンナビジオール及びこれらの組み合わせの医薬的に許容される製剤を投与して、例えば心臓弛緩及び拡張機能を改善すること等により、前記した心機能不全の症状を治療することを含む、対象における拡張期心機能不全又は拡張期心機能不全の症状を治療する方法に関する。TRPV2受容体アゴニストは、心臓弛緩及び拡張機能を治療的に改善するのに十分なレベル(濃度)の血清レベルをもたらす、任意の形態で投与され得る。
【0017】
本発明の一態様は、治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストを注入により投与することを含む、対象における拡張期心機能不全又は拡張期心機能不全の症状を治療する方法に関する。一実施形態において、注入は静脈内投与である。所定の患者において心臓弛緩及び拡張機能を改善することにより心臓機能を十分に改善するのに必要とされる用量は、治療の有効性及びクリアランス率により必要とされる点滴のために大きく変化する。そのため、一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは、約1mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲で投与される。用語「日」は24時間サイクルであることが理解される。別の実施形態において、延長放出製剤は、約1mg/kg/日から約50mg/kg/日の範囲のTRPV2受容体アゴニストの合計用量を含む。一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約1mg/kg/日から約20mg/kg/日の範囲である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約5mg/kg/日から約50mg/kg/日の範囲である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約10mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の投与量である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約50mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の投与量である。
【0018】
治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストは、ボーラス注入において、持続注入により、又はボーラス注入と持続注入の組み合わせにより注入することができる。用語「ボーラス注入」は、比較的短い時間にわたって1回分量が送達される注入と理解される。用語「持続注入」は、点滴等によって送達される注入であると理解され、ここで、投与量はTRPV2受容体アゴニスト治療において要求される時間で、計量された方法で送達される。一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは約30分/日から約24時間/日の間の範囲の時間にわたる持続注入により投与される。別の実施形態において、治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストは、約8時間/日から約24時間/日の期間にわたって投与される。いくつかの状況において、TRPV2受容体アゴニストは、少なくとも1日で最大7日までの持続注入により投与される。他の状況において、TRPV2受容体アゴニストは、対象を治療するのに必要な場合、複数の週、複数の月、さらには複数の年にわたる日数等の、より長い期間の間投与され得る。そのため、本発明の実施形態は、拡張期心機能不全及び拡張期心機能不全の症状を治療するためのTRPV2受容体アゴニストの長い期間の投与に関する。
【0019】
いくつかの例において、ボーラス注入と持続注入の組み合わせは対象を治療するのに望ましい場合がある。例えば、ボーラス注入は、投与量、すなわち対象中にTRPV2受容体アゴニストの所望の治療的濃度を迅速に達成するためのTRPV2受容体アゴニストの用量を送達するのに利用することができ、また、持続注入は所望の治療期間にわたって所望の治療濃度を維持又は用量設定するのに利用することができる。例えば、非代償性HFpEF等からの急性の苦痛を患っている対象は、TRPV2受容体アゴニストのボーラス静脈注入での緊急治療を必要とするだろう。最初のボーラス注入後、対象は、その後の一定の期間の間、たとえば持続注入等でTRPV2受容体アゴニストの維持投与又は用量設定を必要とするだろう。代わりに、TRPV2受容体アゴニストの維持投与は、続けてのボーラス注入により達成され得る。TRPV2受容体アゴニストの持続注入はまた、代償性HFpEF又は心機能不全の他の形態を患っている対象を治療するのに有用でもある。
【0020】
本発明の別の態様は、心臓弛緩及び拡張機能を改善するのに治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストの用量の経口投与を介して投与することを含む、対象において拡張期心機能不全又は拡張期心機能不全の症状を治療する方法に関する。一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約1mg/kg/日から約25mg/kg/日までの範囲である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約5mg/kg/日から約25mg/kg/日の範囲の用量である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約5mg/kg/日から約20mg/kg/日の範囲の用量である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約5mg/kg/日から約15mg/kg/日の範囲の用量である。TRPV2受容体アゴニストの経口用量は、24時間の期間の間に単一又は複数回投与で投与することができ、また一般的に、数日、数週間、数カ月、又は数年の間投与され得る。一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは、少なくとも2週間の期間にわたって経口投与され、又は代わりの実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは複数の月又は一年以上の間投与される。そのため、本発明の実施形態は、拡張期心機能不全及び拡張期心機能不全の症状を治療するための、TRPV2受容体アゴニストの長期間の投与に関する。
【0021】
本発明の別の態様は、約18時間/日と約24時間/日の間の期間、TRPV2受容体アゴニスト及びその活性代謝物の治療的血漿中濃度を維持するTRPV2受容体アゴニストの徐放性製剤の投与を含む、対象における拡張期心機能不全又は拡張期心機能不全の症状を治療する方法に関する。徐放性製剤は、経口製剤、注入製剤、又は経皮製剤であり得る。一実施形態において、徐放性製剤は、臨床的に拡張期心機能を改善するために、TRPV2受容体アゴニストの全投与量を含み、例えば、標準6分間歩行テスト、改善したニューヨーク心臓協会(NYHA)等級、より低い利尿薬の用量要求、より低い血清BNP濃度、血清ナトリウム濃度の正常化、及びこれらの組み合わせに基づく定量可能な臨床的観察等で定義することができる拡張期心機能不全における改善をもたらす。TRPV2受容体アゴニストの投薬は、心臓弛緩及び拡張機能を改善するのに所望の効果を達成するか、又は維持するために用量設定を必要とし得る。この改善は、例えば、治療の前後で行われる観察の比較に基づいて測定することができる。そのため、十分に心臓機能を改善するのに要求される投与量は、治療の進行及び対象間に応じて、所定の対象において広く変化し得る。そのため、一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは、約1mg/kg/日から約100mg/kg/日までの範囲で投与される。用語「日」は24時間サイクルであることが理解される。別の実施形態において、徐放性製剤は、約1mg/kg/日から約50mg/kg/日の範囲のTRPV2受容体アゴニストの全投与量を含む。代わりの実施形態において、徐放性製剤は、約1mg/kg/日から約25mg/kg/日までのTRPV2受容体アゴニストの全投与量を含む。一実施形態において、治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストは、約1mg/kg/日から約20mg/kg/日までの範囲である。別の実施形態において、治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストは、約5mg/kg/日から約50mg/kg/日の範囲である。別の実施形態において、治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストは、約10mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の用量である。別の実施形態において、治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストは、約50mg/kg/日から約100mg/kg/日までの範囲の用量である。一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは、少なくとも2週間にわたって対象に経口的に投与され、又は代わりの実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは複数の月又は1年以上の間投与される。そのため、本発明の実施形態は、心機能不全及び心機能不全の症状を治療するための、TRPV2受容体アゴニストの長期間の投与に関する。
【0022】
本発明の別の態様は、心臓弛緩及び拡張機能を改善するのに治療上有効量のTRPV2受容体アゴニストを、ゲル又はパッチ等を用いて経皮投与により投与することを含む、対象における拡張期心機能不全又は拡張期心機能不全の症状を治療する方法に関する。一実施形態において、経皮製剤は、約18時間/日から約24時間/日の間の期間、TRPV2受容体アゴニスト及びその活性代謝物の治療的血漿中濃度を維持する。一実施形態において、経皮製剤は、拡張期心機能を臨床的に改善するためのTRPV2受容体アゴニストの全投与量を含み、例えば、標準6分間歩行テスト、改善したニューヨーク心臓協会(NYHA)等級、より低い利尿薬の用量要求、より低い血清BNP濃度、血清ナトリウム濃度の正常化、及びこれらの組み合わせに基づく定量可能な臨床的観察等で定義することができる拡張期心機能不全における改善をもたらす。この改善は、例えば、治療の前後で行われる観察の比較に基づいて測定することができる。
【0023】
TRPV2受容体アゴニスト投薬は、心臓弛緩及び拡張機能の改善の所望の効果を達成又は維持するために用量設定を必要とする場合がある。そのため、経皮的に投与される、十分に拡張期心機能を改善するために必要とされる用量は、治療の進行及び対象間に応じて、所定の対象において広く変化し得る。そのため、一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは約1mg/kg/日から約100mg/kg/日までの範囲で投与される。用語「日」は24時間サイクルであることが理解される。別の実施形態において、徐放性製剤は、約1mg/kg/日から約50mg/kg/日の範囲のTRPV2受容体アゴニストの全投与量を含む。代わりの実施形態において、徐放性製剤は、約1mg/kg/日から約25mg/kg/日までのTRPV2受容体アゴニストの全投与量を含む。一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約1mg/kg/日から約20mg/kg/日までの範囲である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約5mg/kg/日から約50mg/kg/日の範囲である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約10mg/kg/日から約100mg/kg/日の範囲の用量である。別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストの治療上有効量は、約50mg/kg/日から約100mg/kg/日までの範囲の用量である。一実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは少なくとも1週間の期間にわたって対象に経皮的に投与され、別の実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは、複数の月又は1年以上の間投与される。そのため、本発明の実施形態は、拡張期心機能不全及び拡張期心機能不全の症状を治療するためのTRPV2受容体アゴニストの長期間の投与に関する。
【0024】
治療的血漿中濃度の達成は、例えば、標準6分間歩行テスト、改善したニューヨーク心臓協会(NYHA)等級、より低い利尿薬の用量要求、より低い血清BNP濃度、血清ナトリウム濃度の正常化、及びこれらの組み合わせ等で、対象の心臓機能における臨床的改善を定量することにより評価し得る。この改善及び決定は、例えば、治療の前後で行われる観察の比較に基づいて決定され得る。例えば、NYHA等級の1つの低下、例えば4から3への低下、又は6分間歩行テストにおける歩行した距離の増加は、どちらも定量可能な改善の指標となる。代わりに、TRPV2受容体アゴニスト及びその代謝物の濃度は、対象の血液において測定され得る。徐放性製剤及び経皮製剤は、非代償性HFpEFを患う対象を救うのに用いることができるが、これらの製剤は特に、拡張期心機能不全及び拡張期心機能不全の症状を患っている対象のための、TRPV2受容体アゴニストの維持及び用量設定に有用である。
【0025】
TRPV2受容体アゴニストの投薬及び投与経路は、対象の最適な治療をもたらすために組み合わされ得る。例えば、TRPV2受容体アゴニストは、拡張期心機能不全HPpEFを罹患している急性疾患の対象において、1/mg/kgから最大50mg/kgの用量によるボーラス療法として投与され得る。この治療が症状の改善に十分な場合、次に医師は、各個人の事象に基づいて必要とされる、用量設定された1mg/kg/時間から最大100mg/kg/時間までの速度での持続注入を開始することを選択できる。さらに、ある患者は、200mg/日から最大4g/日の範囲で、ゲル形態又はカプセル(scored capsule)で投与され得る、非経口TRPV2受容体アゴニストへの移行を必要としてもよい。
【0026】
本明細書で用いられるTRPV2受容体アゴニストとしては、これらに限定されないが、薬学的に許容される形態のTRPV2受容体アゴニスト、例えば薬学的に許容される塩又は溶媒和物が挙げられる。例示的なTRPV2受容体アゴニストとしては、プロベネシド、Z-APB、カンナビノール及びカンナビジオールが挙げられる。好ましいTRPV2アゴニストはプロベネシドである。TRPV2受容体アゴニストの組成物は、薬学的に許容される担体中でin vivoで投与され得る。用語「薬学的に許容される」は、生物学的に又は他の望ましくない材料であることを意味する。そのため、この組成物は対象に対して、望ましくない生物学的作用を起こさずに、又はそれが含まれる医薬組成物の他の成分のいずれかと有害に相互作用せずに投与され得る。担体は、当業者に知られているように、TRPV2受容体アゴニストの分解を最小化し、対象における有害な副作用を最小化するように本質的に選択される。
【0027】
適切な担体及びそれらの製剤は、「Remington」:The Science and Practice of Pharmacy (第19版)、A. R. Gennaro、Mack Publishing Company、Easton、Pa.1995に記載されている。静脈投与において、製剤を等張にするために、適当な量の薬学的に許容される塩を製剤中に用いる。薬学的に許容される担体の例としては、これらに限定されないが、生理食塩水、リンガー溶液、及びデキストロース溶液が挙げられる。この溶液のpHは、薬学的に許容できる範囲であり、好ましくは約5から約8.5であり、より好ましくは約7.8から約8.2である。さらなる担体は、例えば、医薬組成物を含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックス等の徐放性製剤が挙げられ、このマトリックスは、例えば、フィルム、リポソーム、又は微粒子等の成形品の形態である。当業者にとっては、例えば、投与経路及び投与される組成物の濃度に応じて、特定の担体がより好ましいことが明らかであろう。例えば、当業者は上述した注入、又は摂取により体内に導入するために適当な具体的な担体を選択し得る。
【0028】
一実施形態において、注入可能なTRPV2受容体アゴニストの製剤は、プロベネシド等のTRPV2受容体アゴニストの粉末(酸形態)を、0.1Mの水酸化ナトリウム中に溶解することにより調製される。次いで、この溶液を0.2Mのリン酸緩衝液(pH=7.4)で希釈する。次いで、TRPV2受容体アゴニストを生理食塩水又は他の静脈注入に適した担体で保管濃度、例えばプロベネシドにおいては4.2mg/mlまで希釈して、ストック溶液を形成する。次いで、ストック溶液は、食塩水又は他の注入可能な溶液で投与に望ましい用量まで希釈され得る。
【0029】
摂取のために、TRPV2受容体アゴニストは、薬剤の経口投与として当業者に知られている通り、錠剤として形成されるか、カプセル化されるか、又は液体若しくはゲル中に溶解又は懸濁され得る。いくつかの実施形態において、TRPV2受容体アゴニストは、例えば、対象による吸収のために特定の期間にわたってTRPV2受容体アゴニストの放出を制御する1以上の賦形剤の使用等により、持続放出のために製剤化される。
【0030】
TRPV2受容体アゴニストの医薬組成物はまた、バインダー、増粘剤、希釈剤、緩衝液、保存剤、表面活性剤等を、TRPV2受容体アゴニスト及び担体に加えて含み得る。
【0031】
記載した組成物は、全身投与に好適であり得る。例えば、この組成物は当業者に公知の他の方法により投与されることができ、例えば、経口、非経口(例えば、静脈注入、筋肉注入、腹腔内注入、又は皮下注入)、座薬、又は、例えばゲル若しくはパッチ製剤による経皮投与が挙げられる。こうした製剤は、上述した方法又は当業者に公知の方法により調製することができる。
【実施例0032】
心臓弛緩におけるTRPV2の役割をTRPV2受容体アゴニストであるプロベネシドを用いてげっ歯類で評価した。プロベネシドは、改善した心臓弛緩及び改善した拡張機能をもたらし、これはTRPV2受容体アゴニストが拡張期心機能不全、例えばHfpEF及びその前兆状態の治療に有用であり得ることを示唆している。
【0033】
方法
動物
シンシナティ大学の施設内動物管理使用委員会(IACUC)及び実験動物の管理と使用に関する指針(NIH、1996年改訂)に従ってすべての動物手順を行った。すべての野生型(WT)マウス(B6129SF2/J F2及びC57BL6J、Jacksonラボラトリー)及びTRPV2-/-マウス(Dr. M. Caterina(John’s Hopkins, Baltimore, MD)により提供されたつがい)は12-16週齢の雄であった(REF)。試験の前に、通常のげっ歯類の飼料及び水を自由に摂取させ、14時間/10時間の明/暗サイクル(6AMから8PM)で飼育した。
【0034】
溶液及び投薬
水溶性プロベネシド(Molecular Probes, Life Technologies, Eugene, Oregon)をすべての筋細胞試験に用いた。
【0035】
超音波心臓(心エコー)検査
すべての超音波心臓検査試験を、MS400プローブ(30 MHz中心周波数)を用いるVevo 2100超音波装置(Visualsonics, Toronto CA)を用いて行い、また、Vevostrainソフトウェア(Visualsonic,Vevo2100, v1.1.1 B1455)を用いる別のワークステーションで後処理した。MモードとBモードの両方で深さ2~10mmでの傍胸骨の長軸(PSLAX)及び短軸(SAZ)の視野から画像を得た。Mモードの画像から、左心室の空洞のサイズ及び厚さを測定し、また、駆出率(EF)、収縮率(FS)、拍出量(SV)、及び心拍出量(CO)の計算を上述したとおり(REF)に行った。マウスを吸入イソフルラン(1.5-2%)で麻酔させた。
【0036】
in vivoでの心臓血管機能
左心室の性能及び局部血流量の測定を、上記したWT及びTRPV2-/-マウスの別々のグループで行った(Lorenz、2008 #1)。簡単に説明すると、マウスをケタミン(50 μg/gBW)及びイナクチン(チオブタバルビタル、100 μg/gBW, Sigma, MA)の腹腔内注入により麻酔させた。気管切開を行い(PE-90)、体温をモニタリングし、フィードバック制御された加熱テーブルで維持した。血圧測定のために右大腿動脈を液体で満たされたポリエチレンチューブでカニューレ挿入し、また、低コンプライアンスの圧力変換器(COBE Cardiovascular, Arvada, CO)を接続した。右大腿静脈を薬剤の送達のためにカニューレ挿入した。高信頼性の、1.2F Scisense血圧カテーテル(Scisense, London, ON, Canada)を右頸動脈に挿入し、心機能をモニタリングするために左心室に進入させた。ECGリードを右及び左腕、並びに左足に配置し、右足をBIOAmp(ADInstruments, Colorado Springs, CO)に連結した。頸動脈の血流測定のために、左頸動脈を単離(隔離)して、TS420流量計(Transonic Systems, Ithaca, NY)に接続した0.5-PSB血管周囲流プローブを装着した。血圧、流量、及びECGシグナルを、PowerLabシステム(ADInstruments)を用いて記録、解析した。血行動態計測を基本状態、及びi.v.での30及び100μg/gのプロベネシドの投与後、各投与の間5分で行った(100μg/μlの投与量は0.3及び1.0μl/gBWボーラスで送達した)。測定は、各投与期間の最後の30~40秒で行った。最大の発生圧力dP/dt (dP/dtmax)及び40mmHgでのdP/dtの発生圧力(dP/dt40)を圧力波形の一次導関数から計算した。脳血管抵抗(CVR)を平均動脈圧及び平均脳血流から計算した(CVR=MAP/CBF)。
【0037】
単離心筋細胞
通常の技術により心筋細胞を単離した。簡単に説明すると、成体マウスをペントバルビタールナトリウム(50mg/kg)で麻酔にかけ、心臓を摘出し、ランゲンドルフ装置上で0.65ユニット/mlのリベラーゼTH(Roche, Indianapolis, IN)を含む酸素含有溶液を用いて、37℃でかん流した。消化後、左心室組織を摘出し、細分化し、ピペッティングにより分離させ、240-μmのスクリーンで濾過した。次いで、細胞懸濁液を25、100、200μm、及び1mM Ca-タイロードで洗浄し、さらなる解析のために1.8mM Ca-タイロード中で再懸濁した。すべての試験を室温(22~25°C)で、140mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2, 10mM グルコース、10mM HEPES、1.8mM CaCl2を含み、NaOHを用いてpH 7.4に調整した標準タイロード溶液中で行った。
【0038】
細胞収縮及び細胞内カルシウム測定([Ca] i )
細胞をGrassスティミュレータ(モデルS88, Grass, West Warwick, RI, USA)により発生した電圧パルスを送達する1組の白金電極を用いて、0.5Hzの刺激頻度で細胞のペースを設定した。細胞の収縮をビデオエッジ検出器(Crescent Electronicsモデル VED-105, UT, USA)を用いて測定し、このシグナルをコンピュータでデジタル化して記録した。Ca2+シグナル測定のために、膜透過性の形態の蛍光Ca2+標識Fura-2 (Fura-2 /AM; 2μM)で細胞をロード(処理)し、Delta Scanデュアルビーム分光光度計(Photon Technology International)を用いて、ベースライン条件で、10mMのカフェインの迅速な適用により340及び380nmで交互に活性化(刺激)させた。Ca2+-一過性(トランジェント)は、生じる510nmの放射の340/380nm比として表わされた。SR Ca2+ロードを10mMのカフェインの迅速な適用によって測定した。データをFelixソフトウェア(Photon Technology International)で解析した。
【0039】
単離大動脈の血管平滑筋の反応性
血管平滑筋の収縮特性の解析を、無傷の(+ E)及び内皮剥皮した(-E)胸部大動脈において、DMTミオグラフ(Danish Myoテクノロジー, Marietta GA)を用いて行った。大動脈を切開し、いくつかにおいて、30ゲージ針で内皮表面を優しく擦ることにより機械的に内皮を除去した。190μmのステンレススチールピンを用いてDMT Multi-Wire Myograph System上に環を置いた。浴溶液は、37℃で、25mmol/L NaH2CO3で緩衝され、NaCl 118mmol/L、KCl 4.73mmol/L、MgCl2 1.2mmol/L、EDTA 0.026mmol/L、KH2PO4 1.2mmol/L、CaCl2 2.5mmol/L、及びグルコース 5.5mmol/Lを含んでおり、pHは95%O2/5% CO2でバブリングした場合に7.4であった。データをPowerLabシステム(ADInstruments)を用いて収集し、解析した。各大動脈の残りの長さを、AD Instruments DMT標準化モジュールを用いて、100mmHgの推定経壁圧で推定外周の90%に設定した。試験の開始前に、各大動脈セグメントを、再現性を確保するために100mM KCl及び10μMフェニレフリンに暴露した。プロベネシドの用量の増加(10-7 Mから10-2 Mまで)における累積濃度-力の関係を最初に試験し、プロベネシドが収縮を誘発できるかを調べた。プロベネシドの弛緩作用を調べるための別の試験において、血管環を最初に3μMのフェニレフリンで収縮させ、次いでプロベネシドの濃度を10-7 Mから10-2まで増加させて暴露させた。3μMのフェニレフリンにおける最大の収縮力及びプロベネシドの弛緩作用におけるEC50を通常のロジスティック非線形曲線フィッティング(OriginLab, Northampton MA)を用いて求めた。
【0040】
データ解析
適切な繰り返し測定により、1要因対象内デザイン又は2もしくは3要因混合デザインのいずれかを用いる分散分析(ANOVA)により統計解析を行った。必要な場合、個々の対比を用いてグループの効果及び相互作用を比較し、テューキーの事後検定を用いて適切に個々の平均を比較した(SigmaStat v3.5, Point Richmond, CA)。データを平均±S.E.M.で表し、P<0.05で有意差を認めた。
【0041】
結果
野生型及びTRPV2-/-マウスにおけるプロベネシドに対するin vivoの反応(応答)
【0042】
侵襲的心臓血行動態
無傷の麻酔マウスモデルを用いて、LV圧力発生及び頸動脈の血流を同時に測定することにより、プロベネシドの用量の増加による心臓と血管の効果を調べた。図1A及び1Bに示すとおり、心臓の収縮性能は、ベースラインにおいて、プロベネシドの注入の間、WTマウスに比べてTRPV2-/-マウスにおいて顕著に低下した。心臓機能の侵襲的測定は、減少した最大発生圧力/時間(dP/dtmax) (図1A)、減少した拡張機能の傾向を伴う40 mmHgの発生圧力(dP/dt40) (図1B)、及び負になった圧力/時間(dP/dtmin) (図1C)で証明されるように、減少した拡張機能TRPV2の抑制(撤廃)(TRPV2-/-)がベースラインで減少した収縮機能を有することを実証している。重要なことに、プロベネシドの投与は、WTマウスにおいて収縮機能の確固たる刺激をもたらし、この効果はTRPV2-/-マウスにおいて顕著に弱まった。確認されたプロベネシドのLV dP/dtに対する効果は、通常ボーラス投与の1分以内で最大であり、また、(報告した測定の時間で)少なくとも5分間安定であった。反応の同様の傾向が、拡張機能の1指標としてdP/dt分で確認された(図1C)。
【0043】
血管平滑筋における生体外(ex vivo)機能
血管平滑筋におけるex vivo機能を調べた。単離した大動脈における最初の試験を行い、関連した濃度範囲で、プロベネシドの他の血管収縮作用があるかどうかを調べ、無傷の内皮があってもなくても、たとえ10mMの高い濃度であっても(データ示さず)、増加した力発生の証拠は確認されなかった。次いで、3 mMのフェニレフリンを用いる血管セグメントの事前収縮の後で、プロベネシドの濃度上昇の弛緩効果を調べ、結果を図2A~2Dに示した。内皮剥皮血管(-E、図2A及び2B)において、野生型マウス(n=8)及びTRPV2-/-(n=8)マウスの間にフェニレフリンに対する反応において発生した最大張力に差はなかった(5.99 ± 0.74 対 6.07 ± 0.55 mN)。これらの事前収縮血管のプロベネシドの増加した濃度への反応において、両方のマウスのグループで、1mMの濃度まで有意な遅延的反応は無く、10mMで発生した張力は最大値の約25%まで低下した(図2B)。内皮のない野生型とTRPV2-/-マウスの間に、濃度-反応特性における差はなかった(EC50: それぞれ4.56 ± 0.34 対 4.59 ± 0.52 mM)。
【0044】
無傷の内皮を有する野生型及びTRPV2-/-血管(+E、図2C及び2D)において、フェニレフリンに対する反応において発生した最大張力は、-E血管よりも大幅に小さかったが、これらの2つの遺伝子型の間に差はなかった(WT及びTRPV2-/-において、それぞれ1.45 ± 0.12 対 1.75 ± 0.25 mN)。無傷の内皮を有する血管は、プロベネシドに対して-E血管よりもいくらかより反応性であり、しかし、重ねて言うが、2つの遺伝子型の間に濃度-反応特性において差はなかった(EC50: それぞれ0.67 ± 0.21 対 0.52 ± 0.11 mM、図2D)。プロベネシドに対する+E血管の増加した反応性は、プロベネシドに対する遅延的反応における内皮のいくらかの、TRPV2非依存のメカニズムによる関与を示唆している。
【0045】
単離された心筋細胞機能
生体内(in vivo)でTRPV2-/-マウスにおける減少した収縮性に関連したメカニズムをさらに調べるために、負荷に依存しない系を表す、単離した心筋細胞における機械特性を評価した。WTに比べて、TRPV2-/-筋細胞は顕著に低下した収縮率(FS、P<0.001、図3A)、収縮速度(+dL/dt、P<0.001、図3B)、及び再伸長速度(relengthening rate、-dL/dt、P<0.001、図3C)を示した。図3Dは、野生型(WT)及びノックアウト型(KO)マウスにおける細胞長さの代表的なトレース図である。
【0046】
考察
TRPV2の作用機序について、プロベネシド療法は、上述したとおり、推定されるTRPV2の刺激を通して、単離したWT心筋細胞において、細胞質のCa2+濃度の増加及び増加したCa2+スパーク(sparks)をもたらした。また、上述した通り、以前から成長因子調節チャンネル(GRC)として知られていたTRPV2の心臓における過剰発現は、Ca2+の過負荷により心筋症を生じる。この発見は、研究者により、たとえすべての細胞の受容体濃度が正常及びジストロフィー筋の間で相違しなくても、TRPV2が筋細胞の変性における重要な因子であることを示唆するものと推定された。したがって、著しい過剰発現の試験的条件下でCa2+の流入が顕著に多く、そのため心筋症の発生に関連するけれども、生理学的条件下で、TRPV2が筋弛緩において、Ca2+一過性における小さな変化を通じて、重要でないが臨床的に関連し容易に測定可能な役割を担っていることが推定できる。
【0047】
血管緊張においてTRPV2が担う役割に関して、血管の表現型はTRPV2の排除並びに少量及び多量の投与量とは関連しておらず、(たとえ内皮剥皮血管であっても)プロベネシドの有意な血管作動性効果はない。この重要な発見は、こうした患者のための潜在的な第1の治療法になり得る、血圧に対して中立的な効果を有する安全で有力な心筋弛緩剤(拡張機能剤)としての、ヒトのHFpEFの治療のために重要な意義を有している。
【0048】
非常に安全な臨床プロファイルを有する、FDAに承認された薬剤プロベネシドはまた、何十年もの間見過ごされてきた心筋収縮力に影響を与える特性を有していた。この効果は、筋小胞体(SR)放出を通して、また、βADR刺激の従来の変力経路を通さずに、筋細胞のCa2+における一過性の増加の2次的なものである。臨床的に使用されるすべての現段階で利用可能な見込みのある変力物質は、β受容体を直接刺激するか、又は下流(すなわち、ミルリノン)を刺激し、代謝要求を増加させ、プロアポトーシスシグナル伝達経路を活性化し、そして、死亡率の増加を引き起こす悪性の不整脈を促進することが分かった。さらに、これらの変力物質の1つを除いてすべてが、それらの臨床的な有用性を制限する、血管収縮及び後負荷の増加を引き起こす血管アドレナリン受容体も刺激する。本明細書で開示するデータは、以前からの発見である、侵襲的測定で解明されたとおりプロベネシドが変力物質であることを確認するだけではなく、少量(30 mg/kg)又は多量(100 mg/kg)のプロベネシドの用量が野生型のマウスにおいて拡張機能を増加させることを最初に見出した。
【0049】
結論
TRPV2は、中立的な血管効果を有する有力な心筋弛緩剤として作用するプロベネシドのSRの新規な特性に寄与し得る。これらのデータは、TRPV2アゴニストが、HfpEF及びその前兆状態等の拡張期心機能不全を患う患者のための治療の選択肢を提供することができることを示している。
【0050】
本発明が1以上の実施形態の記載により詳細に説明し、また、これらの実施形態はかなり詳細に記載したが、これらは特許請求の範囲をこうした詳細な範囲にまで制限する又は限定するものとしては意図されない。本明細書で示した又は説明した種々の特性は、単独または組み合わせで用いられ得る。さらなる利点及び改良点は、当業者には容易に理解できるであろう。そのため、より広い態様における発明は、本明細書に示し、記載した特定の詳細な記載、代表的な装置及び方法、並びに例示的な実施例までには限定されない。したがって、本発明の概念から脱却しない限り、こうした詳細な記載からの逸脱がされ得る。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
【外国語明細書】