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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091413
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ガラスラン
(51)【国際特許分類】
   B60J 10/76 20160101AFI20240627BHJP
   B60J 10/50 20160101ALI20240627BHJP
   B60J 10/16 20160101ALI20240627BHJP
【FI】
B60J10/76
B60J10/50
B60J10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023145097
(22)【出願日】2023-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2022206403
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120765
【弁理士】
【氏名又は名称】小滝 正宏
(74)【代理人】
【識別番号】100097076
【弁理士】
【氏名又は名称】糟谷 敬彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 康広
(72)【発明者】
【氏名】野尻 昌利
【テーマコード(参考)】
3D201
【Fターム(参考)】
3D201AA06
3D201AA21
3D201BA01
3D201CA19
3D201DA34
3D201DA36
3D201EA02C
3D201EA03A
3D201FA04
(57)【要約】
【課題】 ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることが可能なガラスランを提供する。
【課題を解決するための手段】
車両のドア1のドアフレーム3の内周に取付けられ、底壁20と、底壁20から延設される車内側側壁40及び車外側側壁30と、車内側側壁40に連結される車内側シールリップ41と、車外側側壁30に連結される車外側シールリップ31を備え、ドアガラス4の昇降を案内するガラスラン10であって、車外側壁30には、車外側壁30を構成する材料より硬度の高い硬質部35が形成され、硬質部35は、車外側シールリップ31と当接する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドアのドアフレームの内周に取付けられ、底壁と、該底壁から延設される車内側側壁及び車外側側壁と、前記車内側側壁に連結される車内側シールリップと、前記車外側側壁に連結される車外側シールリップを備え、ドアガラスの昇降を案内するガラスランであって、
前記車外側側壁には、前記車外側側壁を構成する材料より硬度の高い硬質部が形成され、
前記硬質部は、前記車外側シールリップと当接することを特徴とするガラスラン。
【請求項2】
前記硬質部は、前記車外側側壁を車内側から車外側に貫通して形成され、前記硬質部は、前記ドアフレームに当接する請求項1に記載のガラスラン。
【請求項3】
前記硬質部は、前記車外側側壁の車内側面から内部に形成される請求項1に記載のガラスラン。
【請求項4】
前記硬質部は、前記車外側側壁の車内側面から車内側に突出して形成される請求項1に記載のガラスラン。
【請求項5】
前記硬質部が形成された前記車外側壁の硬質部形成部と前記ドアフレームが当接する請求項3又は請求項4に記載のガラスラン。
【請求項6】
前記車外側側壁の車外側面には、車外側硬質部が形成され、前記車外側硬質部が前記ドアフレームに当接する請求項5に記載のガラスラン。
【請求項7】
前記硬質部は、前記車外側側壁の中立軸を含んで形成される請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のガラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等車両のドアに形成されたドアフレームに取付けられるガラスランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等車両の静粛性向上は、乗員の快適性が高められるので、商品力向上のアピール度が高い。又、今後急速に普及が進むことが予想される電気自動車においては、従来搭載されているエンジンが無くなるので、そのエンジン音が無くなることによって残存する主な騒音は、ロードノイズと風切音が顕在化する。したがって、それらの低減技術の必要性が従来以上に高まっている。
【0003】
風切音は、走行時の風が車両に当たって車室外で発生する音が車体を透過して車室内に届く音である。その透過経路では、車室内の乗員の耳の位置に近いドアガラスの寄与が最も大きいことが分かっており、ドアガラスの板厚増加やアコースティックガラスの設定等の対策が行われているが、重量増とコストアップが障害になっている。
【0004】
ところで、ドアガラス以外にも、ドアガラスとドアフレームとの間のシール材であるガラスランにおいて、特に1kHz以上の高周波数域の騒音の低減が可能であり、この低減効果の増大化検討が行われている。
【0005】
ガラスランによる騒音低減技術として、例えば、以下の特許文献1に記載の技術が知られている。図9に示すように、ガラスラン100は、底壁200、車外側側壁300と車内側側壁400を基本骨格としてチャンネル状(断面コ字形状)に形成されている。車外側側壁300の先端にはドアガラス600に当接するカバーリップ340が形成され、車外側側壁300のカバーリップ340より底壁200側の車内側には、底壁200側に突出し、ドアガラス600に摺接する車外側シールリップ310が形成されている。
【0006】
一方、車内側側壁400の先端には、ドアガラス600に摺接する車内側第1シールリップ450と、車内側第1シールリップ450より底壁200側に形成され、ドアガラス600に摺接する車内側第2シールリップ460が共に底壁200側に向けて形成され、車内側第1シールリップ450と車内側第2シールリップ460は、ドアガラス600との摺接時に、互いに当接しない。その結果、車内側シールリップを複数形成することにより、矢印Aで示すガラスラン透過ルートにおける透過音の遮蔽効果が増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-24388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、風切音による騒音を低減する技術には、ドアガラスの振動エネルギーをドアガラスに当接する部品に効率的に流して散逸させる、いわゆるインピーダンスマッチングを利用して振動を低減することも可能であるが、現時点ではその検討は十分行われていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インピーダンスマッチングに着目し、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させ、風切音による騒音を低減することを可能とするガラスランを提供するものである。
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1の本発明は、車両のドアのドアフレームの内周に取付けられ、底壁と、底壁から延設される車内側側壁及び車外側側壁と、車内側側壁に連結される車内側シールリップと、車外側側壁に連結される車外側シールリップを備え、ドアガラスの昇降を案内するガラスランであって、車外側側壁には、車外側側壁を構成する材料より硬度の高い硬質部が形成され、硬質部は、車外側シールリップと当接することを特徴とするガラスランである。
【0011】
請求項1の本発明では、ガラスランの車外側側壁には、車外側側壁を構成する材料より硬度の高い硬質部が形成され、硬質部は、車外側シールリップと当接するので、車外側側壁を含むガラスランの剛性が増大し、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができる。その結果、風切音による騒音を低減することができる。
【0012】
なお、硬質部が車外側シールリップと当接し、車外側側壁を含むガラスランの剛性を増大させ、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させるためには、硬質部と車外側シールリップとの当接面積を広くする、すなわち、硬質部と車外側シールリップが面で当接することが望ましく、硬質部の車内側の面が全面で車外側シールリップの車内側に当接することがさらに望ましい。
【0013】
ここで、「ガラスランの剛性」は、ドアガラスでガラスランを押圧した時の押圧部位の変位量に対するガラスランからの反力の増加量で表される。したがって、「ガラスランの剛性が増大する」とは、変位と反力との関係において、その傾き(勾配)が大きくなることをいう。
【0014】
ドアガラスとガラスランとの間のインピーダンスマッチングにおいては、ドアガラスのインピーダンスはドアガラスの質量が、ガラスランのインピーダンスはガラスランの剛性が支配的であると考えられる。ガラスランによる騒音低減が期待される1kHz以上の高周波数域においては、ドアガラスのインピーダンスは、ガラスランのインピーダンスより大きい。したがって、ガラスランの剛性を増大させることによりガラスランのインピーダンスをガラスのインピーダンスに近づける、又は等しくすることができれば、インピーダンスマッチングによりドアガラスの振動エネルギーを効率的にガラスランに流して散逸させることができるので、風切音による騒音を低減することができると考える。
【0015】
請求項2に記載の本発明は、請求項1の発明において、硬質部は、車外側側壁を車内側から車外側に貫通して形成され、硬質部は、ドアフレームに当接する請求項1に記載のガラスランである。
【0016】
請求項2に記載の本発明では、硬質部は、車外側側壁を車内側から車外側に貫通して形成され、硬質部は、ドアフレームに当接するので、硬質部が車外側シールリップに当接してドアフレームとドアガラスとに挟まれることにより、車外側側壁を含むガラスランの剛性を増加させることができる。その結果、車外側シールリップから硬質部が形成された車外側壁に伝達された振動エネルギーは効率的に減衰され、風切音による騒音をさらに低減することができる。
【0017】
請求項3の本発明は、請求項1の発明において、硬質部は、車外側側壁の車内側面から内部に形成されるガラスランである。
【0018】
又、請求項4の本発明は、請求項1の発明において、硬質部は、車外側側壁の車内側面から車内側に突出して形成されるガラスランである。
【0019】
請求項3と請求項4の本発明は、車外側側壁について、硬質部を形成する場所を規定するものであり、請求項3の発明では、ガラスランをドアフレームに取付けた時に、特に、車外側シールリップと車外側側壁との間の空間が狭い場合に有用である。硬質部を車外側側壁の車内側面から内部に形成し、硬質部が車外側シールリップに当接することにより、車外側側壁を含むガラスランの剛性が増大し、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができる。その結果、風切音による騒音を低減することができる。
【0020】
又、請求項4の発明では、ガラスランをドアフレームに取付けた時に、特に、車外側シールリップと車外側側壁との間の空間が広い場合に有用であり、硬質部を車外側側壁の車内側面から車内側に突出して形成し、硬質部が車外側シールリップに当接することにより、車外側側壁を含むガラスランの剛性が増大し、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができる。その結果、風切音による騒音を低減することができる。
【0021】
請求項5の本発明は、請求項3又は請求項4の発明において、硬質部が形成された車外側壁の硬質部形成部とドアフレームが当接するガラスランである。
【0022】
請求項5に記載の本発明では、硬質部が形成された車外側壁の硬質部形成部とドアフレームが当接するので、硬質部が形成された車外側壁の硬質部形成部が車外側シールリップに当接してドアフレームとドアガラスとに挟まれることにより、車外側側壁を含むガラスランの剛性を増加させることができる。その結果、硬質部が形成された車外側壁の硬質部形成部に伝達された振動エネルギーは効率的に減衰され、風切音による騒音をさらに低減することができる。
【0023】
ここで、「硬質部形成部」とは、硬質部が車外側側壁を車内側側から車外側に横断する領域をいう。
【0024】
請求項6の本発明は、請求項5の発明において、車外側側壁の車外側面には、車外側硬質部が形成され、車外側硬質部がドアフレームに当接するガラスランである。
【0025】
請求項6の本発明では、車外側側壁の車外側面には、車外側硬質部が形成され、車外側硬質部がドアフレームに当接するので、車外側側壁を含むガラスランの剛性がさらに増大し、硬質部が形成された車外側壁の硬質部形成部に伝達された振動エネルギーはより効率的に減衰され、風切音による騒音をさらに低減することができる。
【0026】
請求項7の本発明は、請求項1から請求項4の発明において、硬質部は、車外側側壁の中立軸を含んで形成されるガラスランである。
【0027】
例えば、ドアフレームにおいて、車両上方部分では、窓部の外周方向に凸状に湾曲している場合が多く、ガラスランもドアフレームの形状に追従変形させる必要がある。この場合、車外側側壁では、底壁側が伸張し、車外側シールリップを形成する側は収縮することになるが、硬質部は、収縮、伸張共にし難いので、追従変形に対しては阻害の要因になる可能性がある。
【0028】
請求項7の本発明では、硬質部は、車外側側壁の中立軸を含んで形成されるので、ドアフレームの形状にガラスランを追従変形させる場合に、硬質部がその変形を阻害することが少なく、ガラスランをドアフレームの湾曲形状に合わせて追従変形させることが容易になる。
【0029】
ここで、「中立軸」とは、物体に曲げモーメントを掛けた場合に、伸び縮みしない面をいい、材料力学における用語である。
【発明の効果】
【0030】
車両のドアのドアフレームの内周に取付けられ、底壁と、底壁から延設される車内側側壁及び車外側側壁と、車内側側壁に連結される車内側シールリップと、車外側側壁に連結される車外側シールリップを備え、ドアガラスの昇降を案内するガラスランであって、車外側壁には、車外側壁を構成する材料より硬度の高い硬質部が形成され、硬質部は、車外側シールリップと当接するので、車外側側壁を含むガラスランの剛性が増大し、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができる。その結果、風切音による騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】自動車用ドアの正面図である。
図2図1のドアフレームに用いるガラスランを示す正面図である。
図3】本発明の第1の実施形態のガラスランであり、図2のX-X断面図である。
図4】比較形態のガラスランであり、図2のX-X断面図である。
図5】騒音測定を説明する図である。
図6】本発明の第2の実施形態のガラスランであり、図2のX-X断面図である。
図7】本発明の第3の実施形態のガラスランであり、図2のX-X断面図である。
図8】本発明の第4の実施形態のガラスランであり、図2のX-X断面図である。
図9】従来のガラスランの取付構造を示す断面図である(特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の第1の実施形態について図1から図3図5に基づいて説明する。なお、図1図2は、後述する本発明の第2から第4の実施形態にも適用される。図1は自動車の左側のフロントドア1を車外側からみた正面図を示す。このフロントドア1を構成するドア本体2の上部には、ドアフレーム3が装着されている。このドアフレーム3とドア本体2の上端縁とにより窓開口が形成されている。ドアフレーム3とドア本体2の内部にはガラスラン10が取付られ、ドアガラス4の昇降動作を案内するようになっている。なお、本発明は、左側のフロントドア1のみならず、右側のフロントドア、左右のリヤドアにも適用可能である。又、ドアガラスの昇降するスライドドアにも適用可能である。
【0033】
図2はガラスラン10のみを簡略化して車外側からみた正面図である。このガラスラン10はドアフレーム3の横枠部に対応する第1の押出成形部11と、フロントドア1の前側の縦枠部に対応する第2の押出成形部12と、後側の縦枠部と対応する第3の押出成形部13とにより構成されている。第1の押出成形部11の前端部は第2の押出成形部12の上端部に対し第1の型成形部14により接続されている。又、第1の押出成形部11の後端部は第3の押出成形部13の上端部に対し第2の型成形部15により接続されている。
【0034】
図3は、図2のX-X断面図であり、ドアフレーム3の横枠部に対応する第1の押出成形部11において、ドアガラス4を閉め切った時の断面図である。なお、図3は、ガラスラン10を後述する騒音低減効果を測定するために、治具60に取付けた断面図である。治具60の内面の形状は、ガラスラン10を車両に取付けるドアフレーム3の形状をトレースしている。図3に示すように、ガラスラン10は、底壁20、車外側側壁30と車内側側壁40を基本骨格とし、チャンネル状(断面が略コ字形)に形成されている。底壁20と車外側側壁30、車内側側壁40の連結部は、車外側及び車内側の溝部21、21により自由状態で展開可能に連結されている。
【0035】
底壁20は、略板状に形成されている。底壁20のドアガラス4側の面には、ドアガラス4方向に突出するドアガラス側リップ22が形成されている。ドアガラス側リップ22は、ドアガラス4側に凸状に湾曲して形成され、ドアガラス側リップ22のドアガラス4側とドアガラス4が当接する。又、ドアガラス側リップ22の先端部分が底壁20に当接する。なお、ドアガラス側リップ22は、形成しなくてもよい。
【0036】
車外側側壁30の車内側には、車外側側壁30の先端部分から車内側、且つ底壁20側方向に突出してドアガラス4に摺接する車外側シールリップ31が形成されている。車外側側壁30と車外側シールリップ31の連結部分の底壁20側には、車外側シールリップ凹部32が形成され、車外側シールリップ31を撓み易くしている。又、車外側側壁30の車外側には、第1保持リップ33と第2保持リップ34が形成され、屈曲している治具60(車両装着時はドアフレーム3)の内面を挟むように保持している。
【0037】
又、車外側側壁30には、車外側側壁30を構成する材料より硬度の高い硬質部35が形成されている。本実施形態では、硬質部35は、車外側側壁30の車内側(ドアガラス4側)から車外側(治具60側(車両装着時はドアフレーム3側))に貫通して形成されている。車外側側壁30における中立軸の位置を破線で示した。
【0038】
硬質部35は、車外側側壁30の中立軸の位置を含んで形成されている。その結果、ドアフレーム3の形状にガラスラン10を追従変形させる場合に、硬質部35がその変形を阻害することがなく、ガラスラン10をドアフレーム3の湾曲形状に合わせて追従変形させることができる。
【0039】
又、硬質部35は、車外側シールリップ31に当接する位置に形成されている。車外側シールリップ31と硬質部35が当接することにより、車外側側壁30を含むガラスラン10の剛性が増大し、ドアガラス4との当接時にドアガラス4の振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができる。その結果、風切音による騒音を低減することができる。
【0040】
又、硬質部35は、治具60(車両装着時はドアフレーム3)に当接している。その結果、硬質部35が車外側シールリップ31に当接して治具60(車両装着時はドアフレーム3)とドアガラス4とに挟まれることにより、車外側側壁30を含むガラスラン10の剛性をより増加させることができる。その結果、硬質部35に伝達された振動エネルギーは効率的に減衰され、風切音による騒音をより低減することができる。
【0041】
なお、本実施形態では、図3に示すように、車外側シールリップ31の車外側の面が、車外側シールリップ凹部32を除いて、車外側側壁30の車内側の面に面で当接し、車外側シールリップ31の先端部分が硬質部35に当接している。その結果、車外側側壁30を含むガラスラン10の剛性がさらに増大し、ドアガラス4との当接時にドアガラス4の振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができるので、風切音による騒音をさらに低減することができる。
【0042】
車内側側壁40の車外側には、車内側側壁40の先端部分から車外側、底壁20側に突出してドアガラス4に摺接する車内側シールリップ41が形成されている。又、車内側側壁40の車外側面であり、車内側シールリップ41より底壁20側には、車外側、且つ底壁20側に突出するサブリップ50が形成されている。サブリップ50は、車内側シールリップ41の車内側面に当接し、車内側シールリップ41のドアガラス4の車内側面への押圧力を高めている。なお、サブリップ50は、底壁20側と反対方向に突出して形成してもよい。さらに、サブリップ50は、形成しなくてもよい。
【0043】
車内側側壁40の車内側には、第1保持リップ42と当接リブ43が形成され、屈曲して形成されている治具60(車両装着時はドアフレーム3側)の内面を保持している。
【0044】
本実施形態において、硬質部35は、PP(ポリプロピレン)を使用し、硬質部35を除くガラスラン10は、IRHD(国際ゴム硬さ)が80±5のオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を使用し、押出成形によって作製した。なお、硬質部35は、他の部分と同じTPOを使用してもよく、この場合は、IRHDが100±5であることが望ましい。さらに、PP以外の硬質樹脂材料、例えば、ポリスチレン等のオレフィン系樹脂を使用してもよい。
【0045】
ドアガラス4を閉じ切った時、図3に示すように、ドアガラス4の車外側面には、車外側シールリップ31が、ドアガラス4の車内側面には、車内側シールリップ41が弾接し、ドアガラス4の先端部分には、ドアガラス側リップ23が弾接している。
【0046】
図4は、比較形態であり、図3と同一形状であり、硬質部35の形成されていないガラスラン10である。上記の実施形態と同一部分には、同一符号を付した。
【0047】
図5は、騒音測定を説明する図である。車両の室内における人間の耳の位置(図5の破線の円)に音源70を設置する。ドアガラス4の車外側に、ドアガラス4の振動を受信する加速度ピックアップ71(振動レベル計)を20箇所貼り付けた。加速度ピックアップ71は、振動レベル計のセンサ部分であり、振動加速度に比例した電気信号を出力する。 図5に示すように、ドアガラス4の車両上方の横枠部の位置に、図2の第1の押出成形部11であり、断面が図3図4のガラスラン10を装着し、騒音測定を実施、結果を比較した。
【0048】
人間の耳に感じる周波数特性が等比的であるため、分析はオクターブ分析を使用した。騒音に対して可聴周波数の周波数範囲において、1/3 オクターブの規格に定められたバンドパスフィルタを通して各々の帯域毎の音圧レベルを測定する。なお、バンドパスフィルタの特性などはJIS C 1513:2002を参照されたい。
【0049】
騒音測定の結果、本実施形態(図3)のガラスラン10では、比較形態(図4)のガラスラン10の測定結果と比較して、2.5kHzから5kHzの領域において、算術平均で0.5dBの低減効果が確認された。
【0050】
上記の効果は、ガラスラン10において、車外側側壁30に車外側側壁30より硬度の高い硬質部35を形成し、硬質部35を車外側シールリップ31と当接させることにより、ガラスラン10の剛性が増大し、ガラスラン10とドアガラス4との剛性差が小さくなり、インピーダンスマッチングによりドアガラス4の振動エネルギーを車外側側壁30の硬質部35、すなわち、ガラスラン10に効率的に流して(伝達して)散逸させることができたことに基づく結果と考える。その結果、風切音による騒音を低減することができる。
【0051】
又、硬質部35は、車外側側壁30の中立軸の位置を含んで形成されているので、ドアフレームの形状にガラスラン10を追従変形させる場合に、硬質部35がその変形を阻害することがなく、ガラスラン10をドアフレーム3の湾曲形状に合わせて追従変形させることができる。
【0052】
したがって、ガラスラン10の基本骨格の形状を変更する必要もなく、ガラスラン10の他の性能(例えば、ドアフレーム3への装着性、雨滴やチリ等他の侵入防止に関するドアガラス4との間のシール性能等)に影響を与えることもない。
【0053】
図6から図8は、本発明の第2の実施形態から第4の実施形態に対応する図であり、図3に対して、硬質部35を形成する位置のバリエーションに関するものである。
【0054】
図6は、第2の実施形態を示す図であり、上記の第1の実施形態の変形例である。本第2の実施形態では、硬質部35は、車外側側壁30の車内側面36から車外側側壁30の内部に形成され、車外側側壁30の車内側(ドアガラス4側)に露出して形成されている。本第2の実施形態に適用されるドアフレームは、上記第1の実施形態と同じである。車外側側壁30における中立軸の位置を破線で示した。
【0055】
なお、図6では、図3に比較して、硬質部35の厚さが薄く形成されているので、図における車外側側壁30の上下方向に長く形成した。そのため、ドアフレーム3の形状にガラスラン10を追従変形させる場合の容易性については、図3(第1の実施形態)の場合より幾分劣る。
【0056】
図6において、硬質部35が車外側側壁30を車内側から車外側に横断する領域が硬質部形成部となる。車外側シールリップ31の車内側は、車外側シールリップ凹部32を除き、ほぼ全面で硬質部35に当接している。その結果、車外側側壁30を含むガラスラン10の剛性を増加させることができる。その結果、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができるので、風切音による騒音を低減することができる。
【0057】
又、硬質部形成部が、治具60側(車両装着時はドアフレーム3側)に当接しているので、ドアフレーム3とドアガラス4とに挟まれることにより、車外側側壁30を含むガラスラン10の剛性をさらに増加させることができる。その結果、硬質部35が形成された車外側側壁30の硬質部形成部に伝達された振動エネルギーは効率的に減衰され、風切音による騒音をさらに低減することができる。
【0058】
図7は、第3の実施形態を示す図であり、ガラスラン10は、上記の第1及び第2の実施形態と異なるドアフレームを有するドア構造に対応するものである。ドアフレーム3は、アウターフレーム55とインナーフレーム56で構成されている。本第3の実施形態のガラスラン10は、ドアフレーム3に取付けられた時に、車外側シールリップ31と車外側側壁30との間の空間が、上記の第1の実施形態及び第2の実施形態の場合に比較して広いことが特徴である。なお、図7のガラスラン10は、図3のガラスラン10と形状が異なるが、同じ機能を有する部位には、同じ呼称及び同じ番号を付した。又、左記箇所の説明は省略する。
【0059】
車外側側壁30の先端部分の車外側には、車外側シールリップ31とは反対側に向けて車外側カバーリップ39が形成されている。又、底壁20側の先端部分の車外側には、車外側カバーリップ39方向に車外側リップ51が形成されている。又、車外側リップ51と車外側カバーリップ39の間の車外側側壁30の車外側は、車外側リップ51側に凸部52が形成されている。
【0060】
車内側側壁40の先端部分の車外側には、車内側シールリップ41とは反対側に向けて車内側カバーリップ44が形成されている。又、底壁20側の先端部分の車内側には、車内側カバーリップ44方向に車内側リップ45が形成されている。
【0061】
ガラスラン10の車外側側壁30と車外側カバーリップ39の間にアウターフレーム55が挿入され、ガラスラン10の車外側は、車外側側壁30、凸部52、車外側カバーリップ39と車外側リップ51によってアウターフレーム55に保持される。
一方、車内側側壁40と車内側カバーリップ44の間にインナーフレーム56が挿入され、ガラスラン10の車内側は、車内側側壁40、車内側カバーリップ44と車内側リップ45によってインナーフレーム56に保持される。
【0062】
本第3の実施形態において、硬質部35は、車外側側壁30の車内側面36から車内側に、略台形形状に突出して形成されている。上記の通り、車外側シールリップ31と車外側側壁30との間の空間が広いので、硬質部35は、車外側側壁30の車内側面36から車内側に突出して形成することにより、車外側シールリップ31の車外側の面を、略台形形状の硬質部35の上辺部に面で当接させることができる。
【0063】
その結果、硬質部35の形成された車外側側壁30がアウターフレーム55(ドアフレーム3)とドアガラス4とに挟まれることにより、車外側側壁30を含むガラスラン10の剛性が増大し、ドアガラス4の振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができるので、風切音による騒音を低減することができる。
【0064】
図8は、第4の実施形態を示す図であり、上記の第3の実施形態の変形例である。本第4の実施形態では、第3の実施形態に加え、車外側側壁30の車外側面37から車外側に突出して車外側硬質部38が形成されている。車外側硬質部38の材料と硬度は、硬質部35と同じである。車外側硬質部38をさらに形成することにより、上記の第3の実施形態に対して、車外側側壁30を含むガラスラン10の剛性がさらに増大し、ドアガラス4の振動エネルギーをより効率的に流して散逸させることができるので、風切音による騒音をさらに低減することができる。
【0065】
なお、本第4の実施形態では、車外側側壁30の車外側面37から車外側に突出して車外側硬質部38を形成したが、アウターフレーム55の車内側の面と車外側側壁30との当接状況によっては、車外側側壁30の車外側面37から内側に車外側硬質部38を形成してもよい。
【0066】
本発明の実施形態において、ガラスラン10を構成する材料としては、ゴム、熱可塑性エラストマー、軟質合成樹脂等で形成することができる。ゴムの場合は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)が、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)や動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)が耐候性、リサイクル、コスト等の観点から望ましい。
【0067】
本発明は、特許請求の範囲に記載以外に、以下の観点を含む。
【0068】
請求項7において、前記硬質部は、前記車外側側壁の中立軸を含んで形成される請求項5又は請求項6に記載のガラスラン。
【0069】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0070】
例えば、上記の第1の実施形態から第4の実施形態では、図2のドアフレーム3の横枠部に対応する第1の押出成形部11に適用したが、フロントドア1の前側の縦枠部に対応する第2の押出成形部12、後側の縦枠部と対応する第3の押出成形部13、第1の型成形部14、第2の型成形部15に適用することができる。なお、この場合、ガラスラン10の押出成形部と型成形部は、その後に追従変形を伴わないので、車外側側壁30の硬質部35を形成する位置は、中立軸でなくてもよい。
【0071】
例えば、本第4の実施形態は、第2の実施形態にも適用できる。すなわち、車外側側壁30の車内側に硬質部35を、車外側に車外側硬質部38を、いずれも車外側側壁30の車内側面36と車外側面37の内側に形成する。
【0072】
例えば、本第1の実施形態の硬質部35を第3の実施形態と第4の実施形態のドアフレームを有するドア構造に適用してもよい。この場合、硬質部35全体が車外側側壁30を貫通してもよく、硬質部35の一部が車外側側壁30を貫通してもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 フロントドア
2 ドア本体
3 ドアフレーム
10 ガラスラン
20 底壁
22 ドアガラス側リップ
30 車外側側壁
31 車外側シールリップ
35 硬質部
36 車内側面
37 車外側面
38 車外側硬質部
40 車内側側壁
41 車内側シールリップ
60 治具
70 音源
71 ピックアップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0015
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0015】
請求項2に記載の本発明は、請求項1の発明において、硬質部は、車外側側壁を車内側から車外側に貫通して形成され、硬質部は、ドアフレームに当接するガラスランである。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0056
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0056】
図6において、硬質部35が車外側側壁30を車内側から車外側に横断する領域が硬質部形成部となる。車外側シールリップ31の車外側は、車外側シールリップ凹部32を除き、ほぼ全面で硬質部35に当接している。その結果、車外側側壁30を含むガラスラン10の剛性を増加させることができる。その結果、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができるので、風切音による騒音を低減することができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0060】
車内側側壁40の先端部分の車内側には、車内側シールリップ41とは反対側に向けて車内側カバーリップ44が形成されている。又、底壁20側の先端部分の車内側には、車内側カバーリップ44方向に車内側リップ45が形成されている。
【手続補正4】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図6
【補正方法】変更
【補正の内容】
図6
【手続補正5】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図7
【補正方法】変更
【補正の内容】
図7
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図8
【補正方法】変更
【補正の内容】
図8