(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091422
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】二軸配向ポリプロピレンフィルム
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240627BHJP
B29C 55/12 20060101ALI20240627BHJP
H01G 4/32 20060101ALI20240627BHJP
H01G 4/18 20060101ALI20240627BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20240627BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B29C55/12
H01G4/32 511L
H01G4/18
B32B15/085 Z
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023156680
(22)【出願日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2022205301
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川島 雄大
(72)【発明者】
【氏名】舩冨 剛志
【テーマコード(参考)】
4F071
4F100
4F210
5E082
【Fターム(参考)】
4F071AA20
4F071AC11
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4F210QW36
5E082AB04
5E082EE07
5E082EE23
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5E082FF05
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5E082FG35
5E082KK02
5E082LL04
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 本発明は、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるフィルムコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れる二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】 縦軸を長手方向の破断強度(MPa)、横軸を長手方向の破断伸度(%)として描いた曲線をSSカーブとし、25℃の雰囲気下のSSカーブ及び150℃で1分間熱処理を行った場合のSSカーブにおいて、破断伸度40%~100%の区間における破断強度の傾きをそれぞれ順にΔS(MPa/%)、ΔS150(MPa/%)としたときに、ΔS150/ΔS≧0.80を満たすことを特徴とする、二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦軸を長手方向の破断強度(MPa)、横軸を長手方向の破断伸度(%)として描いた曲線をSSカーブとし、25℃の雰囲気下のSSカーブ及び150℃で1分間熱処理を行った場合のSSカーブにおいて、破断伸度40%~100%の区間における破断強度の傾きをそれぞれ順にΔS(MPa/%)、ΔS150(MPa/%)としたときに、ΔS150/ΔS≧0.80を満たすことを特徴とする、二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
前記ΔS150が0.90MPa/%以上0.98MPa/%以下である、請求項1に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
厚みtが1.0μm以上5.0μm以下である、請求項1または2に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
フィルムコンデンサ用誘電体として用いられる、請求項1または2に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
請求項1または2に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を有する、金属膜積層フィルム。
【請求項6】
請求項5に記載の金属膜積層フィルムを有する、フィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコンデンサの誘電体として用いた際に、高温・高電圧環境下において高い耐電圧性を有する二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルム、およびこれらを用いたフィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸配向ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、及び電気特性などに優れるため、包装用途、テープ用途、及びケーブルラッピングやフィルムコンデンサをはじめとする電気用途などの様々な用途に用いられている。
【0003】
中でもフィルムコンデンサ用途においては、その優れた高耐電圧特性、低損失特性から、フィルムコンデンサの誘電体として特に好ましく用いられている。最近では、各種電気設備がインバーター化されつつあり、それに伴いフィルムコンデンサの小型化、大容量化の要求が一層強まってきている。さらに、特に自動車(ハイブリッドカーや電気自動車を含む。)や太陽光発電、風力発電等の用途では使用環境の高温化(85℃以上125℃以下を示す。)が進んでおり、フィルムコンデンサに対する耐熱化要求が高まっている。
【0004】
フィルムコンデンサの耐熱化とは高温下での耐電圧向上を意味するものであり、これと小型化を同時に実現するには、フィルムコンデンサに用いる二軸配向ポリプロピレンフィルムの薄膜化と耐電圧性を両立することが必要となる。
【0005】
これまで、フィルムコンデンサとしたときに高温環境下で優れた性能を示し、かつ薄膜のポリプロピレンフィルムとして、例えば、125℃における長手方向の伸度50%における応力を制御することで高温でのフィルムコンデンサ特性と信頼性を向上したフィルムが提案されている(例えば、特許文献1)。また、高融点のポリプロピレンに溶融型核剤を添加することにより延伸性を向上し、125℃におけるフィルムの機械強度を向上させたフィルムの提案もなされている(例えば、特許文献2)。
【0006】
さらには高立体規則性ポリプロピレン原料を溶融押出後に急冷し、キャストシートにメゾ相を形成させることでフィルムの結晶配向度を向上したフィルムや(例えば、特許文献3)、高立体規則性ポリプロピレン樹脂を使用し、押出ホッパー内の酸素濃度を低下させるとともに酸化防止剤の添加量を適正化しフィルターの濾過精度を高めることで絶縁破壊電圧を向上したフィルム(例えば、特許文献4)も提案されている。その他には、高メソペンタッド分率、かつ低冷キシレン可溶部(CXS)のポリプロピレン原料を使用し、溶融押出温度を多段式低温化し、二軸延伸時に面積延伸倍率及び幅方向の延伸倍率を適正化することで絶縁破壊電圧を向上したフィルムの提案もなされている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-033211号公報
【特許文献2】国際公開第2016/043172号
【特許文献3】国際公開第2016/182003号
【特許文献4】国際公開第2017/159103号
【特許文献5】特許第6885484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1~5に記載のポリプロピレンフィルムは、いずれも120℃を超える高温環境下での絶縁破壊電圧が十分な水準ではなく、さらにフィルムコンデンサとしたときの高温環境下の長期使用における信頼性ついても、十分とは言い難いものであった。
【0009】
そこで、本発明は、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるフィルムコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れる二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題は、以下により達成できる。すなわち、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、縦軸を長手方向の破断強度(MPa)、横軸を長手方向の破断伸度(%)として描いた曲線をSSカーブとし、25℃の雰囲気下のSSカーブ及び150℃で1分間熱処理を行った場合のSSカーブにおいて、破断伸度40%~100%の区間における破断強度の傾きをそれぞれ順にΔS(MPa/%)、ΔS150(MPa/%)としたときに、ΔS150/ΔS≧0.80を満たすことを特徴とする、二軸配向ポリプロピレンフィルムである。
【0011】
また、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは以下の態様とすることや、以下のとおり金属蒸着膜積層フィルム、フィルムコンデンサとすることもできる。
(1) 縦軸を長手方向の破断強度(MPa)、横軸を長手方向の破断伸度(%)として描いた曲線をSSカーブとし、25℃の雰囲気下のSSカーブ及び150℃で1分間熱処理を行った場合のSSカーブにおいて、破断伸度40%~100%の区間における破断強度の傾きをそれぞれ順にΔS(MPa/%)、ΔS150(MPa/%)としたときに、ΔS150/ΔS≧0.80を満たすことを特徴とする、二軸配向ポリプロピレンフィルム。
(2) 前記ΔS150が0.90MPa/%以上0.98MPa/%以下であることを特徴とする(1)に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
(3) 厚みtが1.0μm以上5.0μm以下である、(1)または(2)に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
(4) フィルムコンデンサ用誘電体として用いられる、(1)~(3)のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
(5) (1)~(4)のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を有する、金属膜積層フィルム。
(6) (5)に記載の金属膜積層フィルムを有する、フィルムコンデンサ。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるフィルムコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れる二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、縦軸を長手方向の破断強度(MPa)、横軸を長手方向の破断伸度(%)として描いた曲線をSSカーブとし、25℃の雰囲気下のSSカーブ及び150℃で1分間熱処理を行った場合のSSカーブにおいて、破断伸度40%~100%の区間における破断強度の傾きをそれぞれ順にΔS(MPa/%)、ΔS150(MPa/%)としたときに、ΔS150/ΔS≧0.80を満たすことを特徴とする。以下、さらに詳しく本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルム、金属膜積層フィルム、およびフィルムコンデンサについて説明する。
【0014】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、直交する2方向にキャストシートを延伸した二軸延伸フィルムである。つまりここでいう二軸配向とは、直交する2方向(主に長手方向と幅方向)に延伸したという意味である。また、長手方向とは、フィルムの製造工程においてフィルムが走行する方向(フィルムロールの状態ではフィルムの巻き方向)をいい、幅方向とは、フィルム面に平行かつ長手方向と垂直な方向をいう。
【0015】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、高温環境下での耐電圧特性の観点から、縦軸を長手方向の破断強度(MPa)、横軸を長手方向の破断伸度(%)として描いた曲線をSSカーブとし、25℃の雰囲気下のSSカーブ及び150℃で1分間熱処理を行った場合のSSカーブにおいて、破断伸度40%~100%の区間における破断強度の傾きをそれぞれ順にΔS(MPa/%)、ΔS150(MPa/%)としたときに、ΔS150/ΔS≧0.80を満たすことが重要である。上記観点から、ΔS150/ΔS≧0.84であることがより好ましく、ΔS150/ΔS≧0.88であることがさらに好ましく、ΔS150/ΔS≧0.92であることが特に好ましい。
【0016】
ΔS150/ΔS<0.80である場合、二軸配向ポリプロピレンフィルムにおいて加工時や高温環境下での非晶拘束の緩和が増大する。そのため、このような二軸配向ポリプロピレンフィルムを誘電体としたフィルムコンデンサは、使用した際にショート破壊しやすくなる。
【0017】
長手方向の破断強度(MPa)及び長手方向の破断伸度(%)は、長手方向を長辺として切り出した長方形のポリプロピレンフィルムサンプル(10mm×150mmサイズ)を引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)に、初期チャック間距離20mmでセットし、室温の環境下で引張速度を300mm/分としてフィルムの引張試験を行うことにより測定することができる(その詳細は後述する。)。
【0018】
ΔS150/ΔSを0.80以上または上記好ましい範囲とするには、後述する通りフィルム製膜時の縦延伸工程を特定の条件とする方法が挙げられる。より具体的には、縦延伸工程の加熱ロールにて延伸した直後に高温となった一軸延伸フィルムを、低い温度で、かつ冷却ロールの表面温度ムラを小さくするように急速冷却することが効果的である。このとき冷却温度を低く、また、冷却ロールの表面温度ムラを小さくすることで、二軸配向ポリプロピレンフィルムのΔS150/ΔSを大きくすることができる。また、冷却時の好ましい温度は20℃以上30℃以下であり、冷却ロールの表面温度ムラを低くする手段としてはヒートパイプ式の冷却ロールを用いることができる。また、二軸配向ポリプロピレンフィルムに後述する高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を含有させ、後述する好ましい範囲内でその含有量を調整することによっても、ΔS150/ΔSを大きくすることができる。なお、ここに挙げた方法は適宜組み合わせることもできる。
【0019】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、高温環境下での耐電圧特性の観点から、ΔS150が0.90MPa/%以上0.98MPa/%以下であることが好ましく、0.92MPa/%以上0.98MPa/%以下であることがより好ましく、0.94MPa/%以上0.98MPa/%以下であることが特に好ましい。
【0020】
二軸配向ポリプロピレンフィルムのΔS150が0.90MPa/%以上であることにより、加工時や高温環境下での非晶拘束の緩和が抑えられる。そのため、このような二軸配向ポリプロピレンフィルムを誘電体として用いたフィルムコンデンサは、使用した際にショート破壊し難くなる。一方、ΔS150が0.98MPa/%以下であることにより、フィルムコンデンサ素子加工時のフィルム搬送、素子巻取においてシワの発生を抑えることができる。
【0021】
ΔS150を0.90MPa/%以上0.98MPa/%以下または上記好ましい範囲とするには、ΔS150/ΔSを0.80以上または上記好ましい範囲とする方法と同じ方法を用いることができる。
【0022】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、製膜性や機械強度、高温耐電圧特性、フィルムコンデンサの誘電体として用いた際の体積当たりの容量の観点から、厚みtが1.0μm以上5.0μm以下であることが好ましい。上記観点から、厚みtは1.2μm以上4.8μm以下であるとより好ましく、1.4μm以上4.5μm以下であるとさらに好ましい。厚みtを1.0μm以上とすることで、二軸配向ポリプロピレンフィルムを機械強度や高温耐電圧特性に優れたものとすることができ、また、その製膜および加工時における破断を軽減することができる。一方、厚みを5.0μm以下とすることにより、二軸配向ポリプロピレンフィルムをフィルムコンデンサの誘電体として用いた際に、体積当たりの容量をより大きくすることができる。なお、厚みはJIS C 2330(2014)に準じ、マイクロメーター法により測定することができ、その詳細は後述する。
【0023】
二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みは、例えば、Tダイのスリット幅、Tダイからの吐出量、キャストドラムの回転速度、延伸倍率の積等を調整することにより調節することができる。より具体的には、Tダイのスリット幅を小さく、Tダイからの吐出量を少なく、キャストドラムの回転速度を大きく、延伸倍率の積を大きくすることで、二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みを小さくすることができる。なお、これらの方法は適宜組み合わせて用いてもよい。
【0024】
次に本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムに用いられるポリプロピレン樹脂原料について説明する。
【0025】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、ポリプロピレン樹脂を主成分とする限り、ポリプロピレン樹脂の詳細は特に限定されないが、高立体規則性のポリプロピレン樹脂を高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)としたときに、高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)を主成分として含むことが好ましい。
【0026】
ここで、「高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)を主成分とする」とは、二軸配向ポリプロピレンフィルムの全樹脂成分100質量%中に、高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)が50.0質量%より多く100質量%以下含まれることを意味し、より好ましくは80.0質量%以上94.0質量%以下、さらに好ましくは85.0質量%以上94.0質量%以下であり、特に好ましくは87質量%以上94質量%以下である。このような態様とすることにより、二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐熱性と高温下における耐電圧の両立が容易となる。
【0027】
また、「高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)」とは、直鎖状のアイソタクチックポリプロピレン樹脂、より具体的には、230℃で測定したときの溶融張力(MS)が1.0cN以下である直鎖状のポリプロピレン樹脂を意味する。このようなアイソタクチックポリプロピレン樹脂は、フィルムコンデンサ用途で一般的に使用されるポリプロピレン樹脂として知られている。MSとは、ポリプロピレン樹脂を230℃に加熱して溶融させ、溶融ポリプロピレンを押出速度15mm/分で吐出ストランドし、このストランドを6.5m/分の速度で引き取る際の張力をいう(詳細な測定方法は後述)。なお、後述する高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)についても、溶融張力の測定方法、条件は同様とする。
【0028】
高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)は、冷キシレン可溶部(CXS)が0.5質量%以上4.0質量%以下、メソペンタッド分率(mmmm)が0.960以上0.995以下、溶融流動指数(MFR)が0.5g/10分以上5.0g/10分以下であることが好ましい。高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)として好適に用いることができるポリプロピレン樹脂として具体的には、ボレアリス社製“Borclean”(商標)(HC300BF、HC318BFなど)等が例示される。
【0029】
高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)のCXSは、0.5質量%以上4.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であるとより好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下であるとさらに好ましい。CXSは、ポリプロピレン樹脂を135℃のキシレンで完全溶解させた後、20℃で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分のことである。すなわち、CXSは、立体規則性や分子量が低いなどの理由により結晶化し難い成分に相当すると考えられる。高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)のCXSが4.0質量%以下であると、二軸配向ポリプロピレンフィルムの耐熱性や高温での耐電圧性を高めることができる。そのため、フィルムコンデンサに使用した場合において、高温環境下での緩和が抑えられて熱寸法安定性が向上し、漏れ電流を抑えることができる。また、高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)のCXSが0.5質量%以上であると、製膜時の延伸性悪化を防ぐことができる。
【0030】
CXSは以下の手順により定量することができる。まず、ポリプロピレン樹脂0.5gを135℃の沸騰キシレン100mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶化させてろ過する。次いで、ろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法で定量し、沸騰キシレン溶解前のポリプロピレン樹脂の質量をX0(g)、ろ過液に溶解しているポリプロピレン成分の質量をX(g)としてCXSを下記式(1)から求める。
式(1): CXS(質量%)=(X/X0)×100 。
【0031】
高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)のメソペンタッド分率(mmmm)は0.960以上0.995以下であることが好ましく、0.965以上0.995以下であるとより好ましく、0.970以上0.995以下であるとさらに好ましい。メソペンタッド分率(mmmm)は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、数値が高いものほど結晶化度や融点が高く、高温下での耐電圧特性に優れる。高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)のメソペンタッド分率が0.960以上であると、二軸配向ポリプロピレンフィルムとしたときに高温耐電圧特性や寸法安定性を保ちやすい。一方、高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)のメソペンタッド分率が0.995以下であると、製膜性を保ち、安定して二軸配向ポリプロピレンフィルムが得られやすい。なお、メソペンタッド分率は、ポリプロピレン樹脂試料を溶媒に溶解させて、13C-NMRを用いて測定することができ、その詳細な条件等は実施例に示す。
【0032】
高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)のMFRは、JIS K 7210-1(2014)に準拠して230℃、2.16kgの条件で測定した場合において、0.5g/10分以上5.0g/10分以下であることが好ましく、1.0g/10分以上4.5g/10分以下であるとより好ましく、1.5g/10分以上4.0g/10分以下であるとさらに好ましい。直鎖状ポリプロピレン樹脂(A)のMFRを0.5g/10分以上とすると、製膜性を保ち安定して二軸配向ポリプロピレンフィルムが得られやすい。一方、高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)のMFRを5.0g/10分以下とすると、二軸配向ポリプロピレンフィルムとしたときに寸法安定性や高温耐電圧特性を保ちやすい。なお、以下、後述する高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)についても、MFRの測定方法、条件は同様とする。
【0033】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、製膜性と耐電圧特性の観点から、高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を含むことが好ましい。高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)とは、230℃で測定したときの溶融張力(MS)が1.0cNを超えるポリプロピレン樹脂であり、このようなポリプロピレン樹脂を含むことで溶融特性が良好となり、フィルム成形性が向上する。
【0034】
高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)のMFRは、1.0g/10分以上4.0g/10分未満であることが好ましい。高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)のMFRを1.0g/10分以上とすると、製膜性が保たれ、安定して二軸配向ポリプロピレンフィルムが得られやすい。一方、高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)のMFRを4.0g/10分未満とすると、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムは寸法安定性や高温下での耐電圧特性に優れたものとなる。MFRを上記範囲内とするためには、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布を制御する方法などが好ましい。
【0035】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成する全樹脂成分100質量%中に高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を6.0質量%以上30.0質量%以下含有することが好ましく、6.0質量%以上25.0質量%以下含有することがより好ましく、8.0質量%以上20.0質量%以下含有することがさらに好ましく、10.0質量%以上20.0質量%以下含有することが特に好ましく、12.0質量%以上20.0質量%以下含有することが最も好ましい。二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成する全成分100質量%中に占める高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)の含有量を上記範囲とすることで、分子鎖の絡み合いによりΔS150/ΔSが大きくなり、高温環境下での絶縁破壊電圧が向上する。より具体的には、二軸配向ポリプロピレンフィルムを構成する全樹脂成分100質量%中に高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を6.0質量%以上含むことにより、長鎖分岐ポリプロピレンによる球晶サイズの制御効果が十分に発揮され、延伸工程で生成する絶縁欠陥を低く抑えることができる。そのため、二軸配向ポリプロピレンフィルムの高温環境での絶縁破壊電圧が向上する。一方、高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)には、その構造を安定させるために酸化防止剤などの不純物が多く添加されていることが多い。そのため、高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)の量を30.0質量%以下に抑えることで、二軸配向ポリプロピレンフィルムを用いてフィルムコンデンサ素子を作製したときに、その寿命の悪化を軽減できる。
【0036】
高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を得るには、ポリプロピレン樹脂に高エネルギーイオン化放射線を用いる方法(例えば、特開昭62-121704号公報に記載の方法)、ポリプロピレン樹脂に特定の有機過酸化物を反応させる方法(例えば、特許第2869606号公報に記載の方法)、ポリプロピレン樹脂に熱分解性ラジカル形成剤とエチレン系多官能不飽和モノマーを反応させる方法(例えば、特開平10-330436号公報に記載の方法)、ポリプロピレン樹脂の重合時に特定の触媒を用いる方法(例えば、特開2009-057542号公報に記載の方法)などが好ましく用いられる。
【0037】
より具体的には、高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)としては、例えばLyondell Basell社製“Pro-fax”(登録商標)(PF-814など)、Borealis社製“Daploy”(商標)(WB130HMS、WB135HMSなど)、日本ポリプロ社製“WAYMAX”(登録商標)(MFX6、MFX8、EX6000、EX8000など)等を用いることができる。
【0038】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムに含有させる高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)は、分子鎖中に分岐構造を有するポリプロピレン樹脂であることが好ましい。なお、分子鎖中に分岐構造を有するポリプロピレン樹脂とは、カーボン原子10,000個中に対し5箇所以下の内部3置換オレフィンを有するポリプロピレン樹脂であり、この内部3置換オレフィンの存在は、1H-NMRスペクトルのプロトン比により確認することができる。
【0039】
高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)は、α晶核剤としての作用を有しながら、一定範囲の添加量であれば結晶形態による粗面形成も可能とする。すなわち、高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を含むことで、溶融押出した樹脂シートの冷却工程で生成するポリプロピレンの球晶サイズを小さく制御でき、高温下での耐電圧特性に優れた二軸配向ポリプロピレンフィルムを得ることができる。
【0040】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有させてもよい。また、これらの成分は本発明の効果を損なわない限り、1種類であっても複数であってもよい。
【0041】
上記した添加剤の中で、酸化防止剤の種類の選定、および含有量の調整は二軸配向ポリプロピレンフィルムの長期耐熱性の観点から重要である。すなわち、酸化防止剤としては、立体障害性を有するフェノール系のものが好ましい。具体的には、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)、BASFジャパン社製“Irganox”(登録商標)1330(分子量775.2)、BASFジャパン社製“Irganox”(登録商標)1010(分子量1177.7)などが挙げられる。なお、これらの酸化防止剤は、本発明の効果を損なわない限り単独使用、もしくは併用することできる。上記添加剤の総含有量は、二軸配向ポリプロピレンフィルムの樹脂成分を100質量部としたときに、0.01質量部以上1.00質量部以下であることが好ましく、0.05質量部以上0.90質量部以下であるとより好ましく、0.10質量部以上0.60質量部以下であるとさらに好ましい。
【0042】
なお、二軸配向ポリプロピレンフィルムは、高温環境下での耐電圧特性に優れることから、フィルムコンデンサ用誘電体として用いられることが好ましい。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムコンデンサ用の誘電体として用いるにあたりその表面に金属蒸着を施すが、通常、二軸配向ポリプロピレンフィルムは表面エネルギーが低く、蒸着した金属の密着性が課題となることがある。そのため、二軸配向ポリプロピレンフィルムには、二軸延伸後に表面処理を施すことが好ましい。具体的な表面処理方法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、グロー処理、火炎処理などを採用することができる。なお、これらの表面処理は単独で用いても併用してもよい。
【0043】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上記した高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)を主成分とし、さらに高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を含むポリプロピレン樹脂組成物をシート状に成型し、二軸延伸することによって得ることが好ましい。二軸延伸の方法としては、製膜安定性、厚み均一性の観点でテンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。特に長手方向に延伸後、幅方向に延伸することが好ましい。
【0044】
次に本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法を以下に説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0045】
まず、上記した高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)、高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を上記の質量比でドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、200~260℃にて溶融押出を行う(このとき、上記の酸化防止剤を混合させてもよい。)。次に、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて、異物や変性ポリマーなどを除去する。そしてシート状に成形した溶融ポリマーをTダイよりキャストドラム上に吐出して冷却固化することによりキャストシートを形成し、これを冷却ロールで冷却させる。
【0046】
キャストドラムの温度は、β晶および球晶を適切に生成させる観点から80℃以上120℃以下であることが好ましく、85℃以上115℃以下であるとさらに好ましく、85℃以上110℃以下であればさらに好ましい。キャストドラム温度を80℃以上とすることで、キャストシート中に形成されるβ晶が少なくなり過ぎず、二軸延伸後に得られるフィルムの滑り性が保たれるため、製膜および加工時のフィルム搬送工程におけるシワの発生やフィルムロールの巻姿の悪化を防ぐことができる。一方、キャストドラム温度を120℃以下とすることで、キャストシート中にβ晶が過剰に形成されるのを防ぐことができ、製膜および加工時のフィルムの搬送工程における蛇行の発生やフィルムロールの巻姿の悪化が軽減される。
【0047】
キャストドラムの幅方向と円周方向の表面温度をより均一に制御する方法について、キャストドラムの表面温度が不均一となるメカニズムを踏まえて具体例を以下に述べる。キャストドラムは通常、その内部に幅方向と平行に、若しくは螺旋状に配管が設けられている(このようなキャストドラムの方式は、スパイラル式ということがある。)。そして、この配管の一方の端部から温度を制御した冷却媒体を流入し、他方の端部から流出させることにより、キャストドラムの表面温度を制御することができる。しかしながら、螺旋状の配管部分は熱伝達率が低下し、またキャストドラム表面のフィルム冷却時の熱量により冷却媒体の流入時と流出時の温度差が発生することにより、キャストドラムの表面温度が不均一になる。
【0048】
また、冷却媒体としては一般的に工業用水が使用される。この工業用水中には、鉄やマンガン等の金属成分の他、蒸発残留物などの異物が含まれているため、長期間にわたって冷却ドラムの配管内に工業用水を流し続けると、冷却ドラムの内側側面に上記の異物が付着して部分的に堆積することや、異物が配管側面の金属と反応して凝集物となることがある。これらの堆積物や凝集物の発生や落下により、冷却ドラム表面の温度ムラが局所的に発生するため、定期的に配管の洗浄等を行うこと等により、これらの堆積物や凝集物を早期に取り除くことで冷却ドラムの表面の温度をより均一に制御することができる。
【0049】
キャストドラムの表面温度をより均一に制御する方法としては、キャストドラム表面の肉厚内に複数のジャケット室を有するキャストドラムを使用する方法がさらに好ましい。ジャケット室内に気液二相の熱媒体を封入することで熱伝導によって局部的に高温となったキャストドラム表面に液相熱媒体が接すると、これにより液相熱媒体は気化されて気相熱媒体に相変換する。この気相熱媒体が、未だ局部的に低温状態にあるキャストドラム表面に接すると、液化されて再び液相熱媒体に相変換する。このようにして熱媒体は高温のキャストドラム表面に触れることにより気化して潜熱を奪い、ついで低温のキャストドラム表面に触れて気化して潜熱を与えることにより、キャストドラム表面温度をより均一に制御することができる。なお、「キャストドラム表面の肉厚」とは、キャストドラムを回転軸が中心軸である円柱に見立てたときの側面を形成する円筒形の部位をいう。
【0050】
また、Tダイから吐出された溶融シートがキャストドラムに着地した後、キャストドラムに密着している時間は0.8秒以上3.0秒以下であることが好ましく、1.0秒以上3.0秒以下であることがより好ましい。密着している時間を0.8秒以上とすると、溶融シートを固化しやすく、その後の延伸工程での破断を軽減できる。一方、密着している時間を3.0秒以下とすると、キャストシート中にβ晶が過剰に形成されるのを防ぐことができ、製膜および加工時のフィルムの搬送工程における蛇行の発生やフィルムロールの巻姿の悪化が軽減される。
【0051】
溶融シートをキャストドラムへ密着させる方法としては、静電印加法、エアーナイフ法、ニップロール法、水中キャスト法などの手法を採用することができるが、厚みむら抑制、高速製膜化、フィルムの表面形状制御の観点からエアーナイフ法が好ましい。エアーナイフのエアー温度は60℃以上100℃以下であることが好ましい。エアーナイフ温度を60℃以上とすることで、キャストシート中に形成されるβ晶が少なくなり過ぎず、二軸配向ポリプロピレンフィルムの滑り性が保たれるため、製膜および加工時のフィルム搬送工程においてシワの発生やフィルムロールの巻姿の悪化が軽減される。一方、エアーナイフ温度を100℃以下とすることで、キャストシート中にβ晶が過剰に形成されず、製膜および加工時のフィルムの搬送工程における二軸配向ポリプロピレンフィルムの蛇行の発生やフィルムロールの巻姿の悪化が軽減される。
【0052】
キャストドラム温度とエアーナイフのエアー温度の差(高い方の温度から低い方の温度を引いた温度)は、キャストシート両面に同等なβ晶を形成して二軸配向ポリプロピレンフィルムとしたときの滑り性を高く保つ観点から、30℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましく、15℃以下であるとさらに好ましい。この温度の差を30℃以下とすると、両面の冷却条件の乖離が抑えられるため、キャストシートの表裏で異なる凹凸が形成されにくく、フィルムの表裏で滑り性が同等となりやすい。そのため、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムをコンデンサ素子加工に用いた際に、巻取工程で巻込まれるエアーの量が安定し、熱処理工程後にフィルムの層間の間隙やエアー量が均一となりやすい。その結果、フィルムコンデンサとして使用した際に高い保安性を実現でき、フィルムコンデンサの寿命の低下が軽減される。
【0053】
一方、この温度の差の下限は特に制限されず理論上0℃となる。但し、製膜安定性を考慮すると、キャストドラム温度をエアーナイフのエアー温度よりも相対的に高くすることが好ましく、キャストドラム温度からエアーナイフのエアー温度を引いた差が1℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましい。キャストドラムとエアーナイフを用いた冷却工程では、キャストドラム温度をエアーナイフのエアー温度と等しくすると、キャストドラムに密着させて冷却する面に比べて、エアーナイフのエアーにより空冷する面の冷却効率が劣る。そのため、キャストドラム温度をエアーナイフのエアー温度よりも相対的に高くすることで、両面の冷却効率を同程度に揃えることが容易となり、冷却条件の差によるキャストシートの物性ムラが軽減される結果、製膜がより安定する。
【0054】
キャストドラムにより固化したキャストシートは、さらに冷却ロールで冷却することが好ましく、当該冷却ロールの温度は10℃以上60℃以下であることが好ましい。冷却ロールの温度を10℃以上とすると、その後の高温熱処理工程でフィルムを所望の温度まで上昇させるのが容易となる。一方、冷却温度を60℃以下とすると、キャストシート中の結晶形成が軽減され、二軸延伸後に得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの表面形状の長手方向へのばらつきを容易に低減することができる。
【0055】
次に、縦延伸工程にてキャストシートを長手方向に延伸する。一般的にβ晶法を利用する二軸配向ポリプロピレンフィルムの特徴的なクレーター状の表面形状は、縦延伸工程におけるキャストドラムを通じて生成されたβ晶からのα晶への転移による凹部形成(転移による体積減少)により生成される。縦延伸ロールの温度や温度ムラの制御の方法は、前述のキャストドラムと同様に、表面の肉厚内に複数のジャケット室を有する縦延伸ロールを使用する方法などがある。
【0056】
また、キャストシートを温度110℃以上150℃以下、好ましくは120℃以上150°以下に制御した予熱ロールに通し、ロール間の周速差によって所定の延伸速度、延伸倍率で長手方向に延伸(縦延伸)する。長手方向の延伸倍率は4.0倍以上7.0倍以下であることが好ましく、5.0倍以上7.0倍以下であるとさらに好ましい。延伸倍率を4.0倍以上とすることで、フィルムの表面形状は均一となり高温耐電圧特性も向上する。縦延伸倍率を7.0倍以下とすると、縦延伸工程や次の横延伸工程でのフィルムの破断が軽減される。
【0057】
また、長手方向に延伸したフィルムを温度20℃以上30℃以下、好ましくは20℃以上25℃以下、より好ましくは20℃以上24℃以下に制御したロールに通し、加熱延伸したフィルムを冷却する。高温環境下での耐電圧を維持するためには、この冷却工程でより急速に冷却することで非晶拘束の緩和を抑えることが効果的である。冷却温度を20℃以上とすることによりフィルムの製膜安定性を確保しながら高温環境下での耐電圧を維持することが可能となる。また、30℃以下にすることで製膜安定性を確保しながら非晶拘束の緩和を抑制することが可能となるため、得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムをフィルムコンデンサの誘電体として用いた際に、フィルムコンデンサの寿命を改善することができる。縦延伸後のフィルムを急速に冷却する方法としては、冷却性能の高いヒートパイプ式の冷却ロールを用いることが効果的である。ヒートパイプ式の冷却ロールの内部は真空で作動液が封じ込められており、封じ込められた作動液はロールの回転により遠心力で外筒の内壁に張り付く。このヒートパイプ式の冷却ロールに高温の一軸延伸フィルムが接触すると当該フィルムから熱が伝わり作動液が蒸発し、蒸発した作動液が冷却水管に接触して凝縮した後、凝縮した作動液は遠心力により飛ばされて再び内壁に張り付く。そのため、比較的安定して冷却ロールの温度を一定に保ちやすい。高温で延伸したフィルムの結晶、非晶は緩みやすい状況にあるため、ヒートパイプ式の冷却ロールを用いることで、非晶拘束の緩和を抑制することができ、ΔS150/ΔSを保ちやすくなるため、素子加工時や高温環境下での耐電圧を維持することが可能となる。
【0058】
一般的な冷却ロールは、通常、その内部に幅方向と平行に、若しくは螺旋状に配管が設けられている。そして、この配管の一方の端部から温度を制御した冷却媒体を流入し、他方の端部から流出させることにより、冷却ロールの表面温度を制御することができる。しかしながら、螺旋状の配管部分は熱伝達率が低下し、また冷却ロール表面のフィルム冷却時の熱量により冷却媒体の流入時と流出時の温度差が発生することにより、冷却ロールの表面温度が不均一になる。高温環境下での耐電圧の観点から冷却ロールの表面温度は低い方が望ましいが、従来の冷却ロールでは表面温度にムラが発生し、冷却温度を下げると流入部と流出部に発生した温度ムラが大きくなり延伸ムラによる横延伸工程での破れが多発する。そのため、ヒートパイプ式の冷却ロールを用いることで、流入部と流出部の表面温度が均一になり冷却温度を下げることが可能となる。
【0059】
縦延伸したフィルムが冷却ロールに接地した後、冷却ロールに密着している時間は0.3秒以上0.6秒以下であることが好ましく、0.4秒以上0.6秒以下であることがより好ましい。密着している時間が0.3秒以上とすると、一軸延伸後のフィルムを十分に冷却することができ、非晶拘束を向上できる。一方、冷却ロールに密着している時間を0.6秒以下にすると過剰な冷却によりフィルムの延伸性が悪化して次の横延伸工程以降の工程でフィルム破れが発生しやすくなる。
【0060】
次に、縦延伸により得られた一軸配向フィルムの幅方向両端部をクリップで把持し、温度140℃以上170℃以下に制御したテンター式延伸機にて延伸倍率5.0倍以上15.0倍以下で幅方向に延伸する。さらに、幅方向に5~15%弛緩しつつ、温度150~170℃で熱固定する。
【0061】
次に、二軸延伸されたフィルムの少なくとも片面に空気中、窒素中、炭酸ガス中、あるいはこれらの混合気体中でコロナ放電処理を行い、クリップで把持したフィルムの耳部をカットして除去し、端部を除去したフィルムを巻取機でマスターロールとして巻取る。最後に、スリッターにて、マスターロールから巻き出したフィルムを特定の幅でスリットし、フィルムロールとしてコアに巻回し、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを得る。
【0062】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムコンデンサ用誘電体として好ましく用いられるが、フィルムコンデンサのタイプに限定されるものではない。具体的には、電極構成の観点では箔巻フィルムコンデンサ、金属蒸着膜フィルムコンデンサのいずれであってもよいし、絶縁油を含有させた油浸タイプのフィルムコンデンサや絶縁油を全く使用しない乾式フィルムコンデンサにも好ましく用いられる。また、形状の観点では、巻回式であっても積層式であっても構わない。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの特性から特に金属蒸着膜フィルムコンデンサとして好ましく用いられる。
【0063】
次に、本発明の金属膜積層フィルムについて説明する。本発明の金属膜積層フィルムは、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を有する。金属膜を形成する方法として、二軸配向ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面にアルミニウム等の金属を蒸着して、フィルムコンデンサの内部電極となる金属膜を設ける方法が好ましく用いられる。このとき、アルミニウムと同時あるいは逐次に、例えば、ニッケル、銅、金、銀、クロム、および亜鉛などの他の金属成分を蒸着することもできる。また、金属膜上にオイルなどで保護層を設けることもできる。金属膜の厚さは、フィルムコンデンサの電気特性と保安性の観点から20nm以上100nm以下であることが好ましい。また、同様の理由により、金属膜の表面抵抗値が1Ω/sq以上20Ω/sq以下であることが好ましい。表面抵抗値は、使用する金属種と膜厚で制御可能である。
【0064】
本発明では、必要により金属膜を形成後、金属膜積層フィルムに特定の温度でエージング処理を施したり、熱処理を施したりすることができる。また、絶縁もしくは他の目的で、金属膜積層フィルムの少なくとも片面にポリフェニレンオキサイドなどのコーティングを施すこともできる。
【0065】
本発明のフィルムコンデンサは、本発明の金属膜積層フィルムを有する。つまり、本発明のフィルムコンデンサは、本発明の金属膜積層フィルムを積層することにより得られる積層型フィルムコンデンサと、金属膜積層フィルムを巻回して得られる巻回型フィルムコンデンサの両方を含む。以下、巻回型フィルムコンデンサの好ましい製造方法を次に説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0066】
まず、二軸配向ポリプロピレンフィルムの片面にアルミニウムを真空蒸着する。その際、フィルムの長手方向に走るマージン部を有するストライプ状にアルミニウムを蒸着する。次に、表面の各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、表面が一方にマージンを有したテープ状の巻取リールを作製する。左もしくは右にマージンを有するテープ状の巻取リールを左マージン、および右マージンのもの各1本ずつを、幅方向に蒸着部分がマージン部よりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回すことにより巻回体を得る。巻回体を熱処理後、幅方向の両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサを得ることができる。
【0067】
フィルムコンデンサの用途は、車輌、家電(テレビや冷蔵庫など)、一般雑防、自動車(ハイブリッドカー、パワーウインドウ、ワイパーなど)、および電源など多岐に亘っており、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを用いたフィルムコンデンサもこれらの用途に好適に用いることができる。
【実施例0068】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、特性は以下の方法により測定や評価を行い、原料としては以下のものを使用した。
【0069】
[測定、評価方法]
(1)メソペンタッド分率(mmmm)
ポリプロピレン樹脂試料を溶媒に溶解し、13C-NMRを用いてメソペンタッド分率(mmmm)を測定、算出した(参考文献:新版 高分子分析ハンドブック 社団法人日本分析化学会・高分子分析研究懇談会 編 1995年 P609~611)。測定装置及び条件は以下のとおりである。
【0070】
A.測定装置及び条件
装置:Bruker社製 DRX-500
測定核:13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
測定濃度:10質量%
溶媒:ベンゼン/重オルトジクロロベンゼン=質量比1:3混合溶液
測定温度:130℃
スピン回転数:12Hz
NMR試料管:5mm管
パルス幅:45°(4.5μs)
パルス繰り返し時間:10秒
データポイント:64K
換算回数:10,000回
測定モード:complete decoupling。
【0071】
B.解析条件
LB(ラインブロードニングファクター)を1.0としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとし、WINFITソフト(Bruker社製)を用いて、ピーク分割を行った。その際に、高磁場側のピークから以下のようにピーク分割を行い、さらに付属ソフトにより自動フィッティングを行った。その後、ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmのピーク分率の合計を求めた。なお、上記測定を5回行い、その平均値を測定試料のメソペンタッド分率(mmmm)とした。
(ピーク分割)
(a)mrrm
(b)(c)rrrm(2つのピークとして分割)
(d)rrrr
(e)mrmr
(f)mrmm+rmrr
(g)mmrr
(h)rmmr
(i)mmmr
(j)mmmm。
【0072】
(2)溶融流動指数(MFR)(単位:g/10min)
JIS K 7210-1(2014)に準拠して230℃、2.16kgの条件で測定した。
【0073】
(3)溶融張力(MS)(単位:cN)
株式会社東洋精機製作所メルトテンションテスター(キャピラリー直径2.1mm、シリンダー径9.55mm)を用いて、以下の手順で測定した。まず、ポリプロピレン樹脂を230℃に加熱して溶融した。次いで、溶融ポリプロピレン樹脂を押出速度15mm/分で吐出ストランドし、このストランドを6.5m/分の速度で引き取る際の張力を測定し、得られた値をMS(cN)とした。
【0074】
(4)冷キシレン可溶部(CXS 単位:質量%)
ポリプロピレン樹脂0.5gを135℃の沸騰キシレン100mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶化させた。その後、ろ過により結晶等の固形物を除去し、ろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法で定量した。沸騰キシレン溶解前のポリプロピレン樹脂の質量をX0(g)、ろ過液に溶解しているポリプロピレン成分の質量をX(g)として、CXSを下記式(1)から求めた。
式(1): CXS(質量%)=(X/X0)×100 。
【0075】
(5)二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚み(単位:μm)
JIS C 2330(2014)に準じ、マイクロメーター法により二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みを測定した。
【0076】
(6)SSカーブ 破断強度/破断伸度(25℃雰囲気下)
長手方向を長辺方向として切り出した長方形のポリプロピレンフィルム(10mm×150mmサイズ)を、測定試料とした。次にサンプル引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)に、初期チャック間距離20mmでセットし、室温の環境下で引張速度を300mm/分としてフィルムの引張試験を行った。この際、試料の中心がチャック間の真ん中の近傍にくるように、試料の長さ方向の位置を調整した。測定時のサンプル伸び率(%)を破断伸度、その時のフィルムにかかっていた荷重をリアルタイムで読み取り、試験前の試料の断面積(フィルム厚み×幅(10mm))で除した値を、破断強度として算出した。測定はサンプル毎に各々3回ずつ行い、その破断伸度の算術平均値と破断強度の算術平均値より、長手方向のSSカーブを描いた。
【0077】
(7)SSカーブ 破断強度/破断伸度(150℃-1分の熱処理後)
フィルムを150℃で1分熱処理する方法は、中抜きされた幅20mmの四角い金属製フレームを用い、そのフレーム面の4辺には両面テープ(ニチバン社製“ナイスタック”(登録商標)NW-H15接着力02)を貼り、金属製フレームの全面にフィルムが被さるようにフィルムを貼り付け、さらに同寸法の金属製フレームでフィルムを挟み込む。このとき、フィルムに皺が入らないように貼り付ける。次いで、金属フレーム/両面テープ/フィルム/金属フレームの状態で、フレームの4辺をクリップで挟み固定したサンプルを作成し、150℃に加熱されたオーブン中へ1分間放置した。1分後にサンプルを取り出し、常温で5分間放置したあと、金属フレームの内枠に沿ってフィルムを切り出し、150℃1分熱処理後のフィルムとした。150℃1分間の熱処理を行ったフィルムについて(6)と同様の方法にて破断伸度、破断強度の測定を行い、SSカーブを描いた。
【0078】
(8)キャストドラム、縦延伸予熱ロール、縦延伸冷却ロールの表面温度、及びムラ
キャストドラム、及び縦延伸予熱ロール、縦延伸冷却ロールの表面温度を、サーモグラフィ(FLUKE社製、Ti29工業用/商業用サーモグラフィ、測定可能な温度範囲-20℃~600℃)で測定し、その平均値、最大値、及び最小値を読み取った。得られた平均値をキャストドラム、及び縦延伸ロールの表面温度とし、得られた最大値と最小値の差をキャストドラム、及び縦延伸ロールの表面温度ムラとした。
【0079】
(9)製膜安定性
フィルムの製膜性について、下記判断基準により評価した。なお、フィルム破れが発生したことにより製膜を中止してから製膜を再開するまでの時間は観察時間より除外した。
◎:48時間を超えてフィルム破れの発生がなかった。
○:48時間で1回~3回のフィルム破れが発生した。
△:48時間で4回以上のフィルム破れが発生した。
×:フィルム破れにより製膜ができなかった
(10)フィルムコンデンサ製造における素子加工性評価
二軸配向ポリプロピレンフィルムのコロナ処理を施した側の面に、株式会社ULVAC社製真空蒸着機で表面抵抗値が15Ω/sqとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。その際、長手方向に走るマージン部を有するストライプ状にアルミニウムを蒸着した(蒸着部の幅79.0mm、マージン部の幅1.0mmの繰り返し。)。次いで、各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、左右いずれかの端部に0.5mmのマージン部を有する全幅40mmのテープ状の巻取リールを作製した。得られたリールの左マージン、および右マージンのもの各1本ずつを幅方向に蒸着部分がマージン部より0.5mmはみ出すように2枚を重ね合わせて巻回し、静電容量120μFの巻回体を得た。なお、巻回には株式会社皆藤製作所社製KAW-4NHBを使用した。最後に140℃の減圧雰囲気中で巻回体を10時間熱処理した。この巻回体を目視にて観察し、外観や内部にシワや形状のゆがみのあるものを不良品とした。巻回体を同様に300個作製して同様の評価を繰り返し、下記判断基準により巻回体の加工性を評価した。
◎:不良品なし。
〇:不良品1個以下。
△:不良品2個以上3個未満。
×:不良品4個以上。
【0080】
(11)フィルムコンデンサにおける寿命評価
(10)に記載の方法により静電容量120μFの巻回体を得た。その後、140℃の減圧雰囲気中で巻回体を10時間熱処理し、幅方向の両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接してフィルムコンデンサを得た。次にフィルムコンデンサ15個について、以下の手順で寿命評価を実施した。まず、室温にて静電容量(C0)を測定した。次いで、120℃の高温下でフィルムコンデンサに325VDC/μm(厚みが2.0μmのとき、印加電圧は650V)の電圧を1000時間印加した。その後、室温にて静電容量(C)を測定し、電圧印加前後の静電容量の変化率(ΔC)を下記式(2)から算出した。なお、静電容量は日置電機株式会社製のLCRハイテスター3522-50により測定した。
式(2): ΔC=((C0-C)/C0)×100
フィルムコンデンサ15個の電圧印加前後の静電容量の変化率(ΔC)の平均値をそのサンプルの電圧印加前後の静電容量の変化率とし、下記判断基準により評価した。電圧印加前後の静電容量の変化率(ΔC)が小さいほど、高温下での静電容量の減少が抑制されていることを示しており、フィルムコンデンサの寿命評価は良好といえる。
◎:ΔCが2%未満
〇:ΔCが2%以上3%未満
△:ΔCが3%以上5%未満
×:ΔCが5%以上。
【0081】
[原料]
(1)樹脂
高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A):
ボレアリス社製“Borclean”(商標)HC300BF メソペンタッド分率が0.980、CXSが1.2質量%、MFRが3.3g/10分、MSが1.0cNである高立体規則性ポリプロピレン樹脂
高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I):
Borealis社製“Daploy”(商標)(WB135HMS) MFRが2.5g/10分、MSが32.0cNである高溶融張力ポリプロピレン樹脂。
【0082】
(2)酸化防止剤
酸化防止剤1:BASFジャパン社製“Irganox”(登録商標)1010
酸化防止剤2:2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT)。
【0083】
(実施例1)
高立体規則性ポリプロピレン樹脂(A)および高溶融張力ポリプロピレン樹脂(I)を80.0:20.0(質量比)で混合したポリプロピレン樹脂混合物、酸化防止剤1、および酸化防止剤2を、99.5:0.4:0.1(質量比)でドライブレンドして単軸の溶融押出機に供給し、250℃で溶融押出を行った。その後、押し出された溶融ポリプロピレン樹脂組成物より25μmカットの焼結フィルターで異物を除去し、さらにT型スリットダイよりシート状に吐出した。さらに、シート状の溶融ポリプロピレン樹脂組成物を、エアー温度80℃のエアーナイフにより、表面温度90℃、表面温度ムラ1.0℃に保持されたキャストドラム上に密着させて固化させた後、温度30℃に保持した冷却ロール上で冷却してキャストシートを得た。このとき、キャストドラムと冷却ロールにシート状の溶融ポリプロピレン樹脂組成物が密着していた時間はそれぞれ1.5秒であった。なお、キャストドラムは、肉厚内に複数のジャケット室を有し気液二相の熱媒体を封入したキャストドラムを使用し、その表面温度はキャスト内部に通す冷却水の温度制御により、温度ムラはキャスト内部に通す冷却水の量の制御により調整した(実施例2~3において同じ。比較例1~3においてはスパイラル式のキャストドラムを用いた点を除き同じ。)。
【0084】
続いて、縦延伸工程で、キャストシートを表面温度120℃に保たれたロールを通して予熱し、さらに表面温度145℃に保たれたロールに通して予熱した。その後、縦延伸予熱工程を通したキャストシートを表面温度140℃、表面温度ムラ1.0℃の縦延伸ロールで長手方向に延伸倍率5.5倍で延伸した。なお、縦延伸工程においても前述のキャストドラム同様、肉厚内に複数のジャケット室を有し気液二相の熱媒体を封入した縦延伸ロールを使用しており、その表面温度は縦延伸ロール内部に通すスチームの温度制御により、温度ムラは縦延伸ロール内部に通すスチームの量の制御により調整した。その後、長手方向に延伸した直後の延伸フィルムを表面温度22℃、表面温度ムラ0.3℃の冷却ロールにて0.5秒間冷却して一軸配向フィルムとした。なお、縦延伸工程の冷却ロールはヒートパイプ式であり、冷却ロールの内部は真空で作動液が封じ込められており、封じ込められた作動液はロールの回転により遠心力で外筒の内壁に張り付く。このヒートパイプ式の冷却ロールに高温の一軸延伸フィルムが接触すると当該フィルムから熱が伝わり作動液が蒸発し、蒸発した作動液が冷却水管に接触して凝縮した後、凝縮した作動液は遠心力により飛ばされて再び内壁に張り付くことでロール表面の温度を均一に保つことが可能となる。ロール表面の温度はロール内部に通す冷却水の温度により調整した。
【0085】
さらに、幅方向端部をクリップで把持して一軸配向フィルムをテンターに導き、温度160℃、延伸倍率11.0倍の条件で幅方向に延伸した。次いで、温度158℃で幅方向に12%の弛緩処理を行い、室温まで除冷して、ドラム面(キャストドラムに接していた面)側に25W・min/m2の処理強度でコロナ放電処理を施した。得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムのクリップで把持した幅方向端部を切除し、巻取機で巻き取り、幅方向の長さが6,500mmのマスターロールを得た。次いで、スリッターにてフィルム幅0.82mとなるようにスリットして、長手方向に30,000mをコアに巻回し、厚み2.3μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムロールを得た。得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性、各評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例2~6、比較例1~6)
ポリプロピレン樹脂の組成および製造条件を表1に示す通りとした以外は実施例1と同様にして、二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られた二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性、各評価結果を表1に示す。
【0087】
【0088】
樹脂組成は、フィルム中の樹脂全体を100質量%として算出した。
本発明により、高温環境で長時間の使用信頼性に優れ、高温度・高電圧下で用いられるフィルムコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れる二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することができる。本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをフィルムコンデンサの誘電体として用いることにより、フィルムコンデンサへの加工時の熱による非晶拘束の緩和を抑制することができ、破断伸度に対する破断強度(SSカーブの傾き)の低下を抑えることができる。そのため、フィルムコンデンサとしたときに高温・高電圧環境下においても高い保安性が発揮され、その寿命も改善する。