(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091432
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】塗料剥離用コーティング剤、塗料剥離用コーティング剤希釈液、塗料剥離用キット、塗料剥離用コーティング剤の製造方法及び塗料剥離方法
(51)【国際特許分類】
C09D 191/06 20060101AFI20240627BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240627BHJP
C09D 9/04 20060101ALI20240627BHJP
C09D 5/20 20060101ALI20240627BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C09D191/06
C09D201/00
C09D9/04
C09D5/20
C09D5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180418
(22)【出願日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2022207162
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】竹井 工貴
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA211
4J038CB022
4J038JA02
4J038KA06
4J038KA09
4J038NA10
4J038RA16
(57)【要約】
【課題】剥離性に優れ且つ塗料はじきを良好に抑制することができる塗料剥離用コーティング剤等を提供する。
【解決手段】塗料剥離用コーティング剤は、パラフィン(A)、酸化ポリエチレンワックス(B)、界面活性剤(C)、及び水(D)を含み、前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対する前記パラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]が0.50以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラフィン(A)、酸化ポリエチレンワックス(B)、界面活性剤(C)、及び水(D)を含み、
前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対する前記パラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]が0.50以下である
塗料剥離用コーティング剤。
【請求項2】
塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分100質量%に対する前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計が10質量%以上70質量%以下である
請求項1に記載の塗料剥離用コーティング剤。
【請求項3】
前記パラフィン(A)がパラフィンワックス又は流動パラフィンである
請求項1又は請求項2に記載の塗料剥離用コーティング剤。
【請求項4】
前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対する前記パラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]が0.20以上である
請求項1又は請求項2に記載の塗料剥離用コーティング剤。
【請求項5】
塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分100質量%に対する前記界面活性剤(C)の含有量が10質量%以上85質量%以下である
請求項1又は請求項2に記載の塗料剥離用コーティング剤。
【請求項6】
請求項1に記載の塗料剥離用コーティング剤を水で希釈した
塗料剥離用コーティング剤希釈液。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の塗料剥離用コーティング剤と、剥離剤とを備える
塗料剥離用キット。
【請求項8】
パラフィン(A)、酸化ポリエチレンワックス(B)、界面活性剤(C)、及び水(D)を混合する工程を含み、
前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対する前記パラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]が0.50以下である
塗料剥離用コーティング剤の製造方法。
【請求項9】
請求項1に記載の塗料剥離用コーティング剤又は請求項6に記載の塗料剥離用コーティング剤希釈液を被塗装材に供給する工程と、
前記被塗装材に前記塗料剥離用コーティング剤又は前記塗料剥離用コーティング剤希釈液を介して付着した塗料を剥離剤を用いて前記被塗装材から剥離する工程と、を含む
塗料剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料剥離用コーティング剤、塗料剥離用コーティング剤希釈液、塗料剥離用キット、塗料剥離用コーティング剤の製造方法及び塗料剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の塗装工程をはじめとする様々な被塗装物の塗装工程において、各種の塗装器具類が使用されている。塗装器具類に塗料が付着または堆積すると、作業性や機能が低下することから、一定期間ごとに塗装器具類から塗料を剥離する必要がある。
【0003】
塗装器具類に付着する塗料を除去する方法としては、従来種々の方法が提案されている。例えば特許文献1には、塗装器具類の表面にワックスの皮膜を形成させ、次いで塗装後、高圧水洗等の物理的な力を加えて塗膜を剥離する方法が開示されている。また、特許文献2には、塗装器具類の塗料が付着する部分に、塗装工程前に予めポリカーボネートやポリエステル等の樹脂を含むコーティング剤をコーティングしておき、塗装工程を経て塗装器具類に付着または堆積した塗料を、剥離剤や溶剤などを用いて剥離する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-323613号公報
【特許文献2】特開平2-202963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術は、水性塗料に適用した場合における剥離性の向上と塗料はじきの抑制との両立の観点において、改善の余地がある。
【0006】
本開示の主な目的は、剥離性に優れ且つ塗料はじきを良好に抑制することができる塗料剥離用コーティング剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本開示の態様は次の通りである。
【0008】
(1)本開示の一態様に係る塗料剥離用コーティング剤は、パラフィン(A)、酸化ポリエチレンワックス(B)、界面活性剤(C)、及び水(D)を含み、前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対する前記パラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]が0.50以下である。
【0009】
(2)上記(1)に記載の塗料剥離用コーティング剤において、塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分100質量%に対する前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計が10質量%以上70質量%以下であってもよい。
【0010】
(3)上記(1)又は(2)に記載の塗料剥離用コーティング剤において、前記パラフィン(A)がパラフィンワックス又は流動パラフィンであってもよい。
【0011】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の塗料剥離用コーティング剤において、前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対する前記パラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]が0.20以上であってもよい。
【0012】
(5)上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の塗料剥離用コーティング剤において、塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分100質量%に対する前記界面活性剤(C)の含有量が10質量%以上85質量%以下であってもよい。
【0013】
(6)本開示の一態様に係る塗料剥離用コーティング剤希釈液は、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の塗料剥離用コーティング剤を水で希釈してなる。
【0014】
(7)本開示の一態様に係る塗料剥離用キットは、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の塗料剥離用コーティング剤と、剥離剤とを備える。
【0015】
(8)本開示の一態様に係る塗料剥離用コーティング剤の製造方法は、パラフィン(A)、酸化ポリエチレンワックス(B)、界面活性剤(C)、及び水(D)を混合する工程を含み、前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対する前記パラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]が0.50以下である。
【0016】
(9)本開示の一態様に係る塗料剥離方法は、上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の塗料剥離用コーティング剤又は上記(6)に記載の塗料剥離用コーティング剤希釈液を被塗装材に供給する工程と、前記被塗装材に前記塗料剥離用コーティング剤又は前記塗料剥離用コーティング剤希釈液を介して付着した塗料を剥離剤を用いて前記被塗装材から剥離する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0017】
本開示によれば、剥離性に優れ且つ塗料はじきを良好に抑制することができる塗料剥離用コーティング剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】はじき抑制性の評価基準を説明する画像である。
【
図2】はじき抑制性の評価基準を説明する画像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下に挙げる要素は、任意に組み合わせることができ、本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
また、本明細書において、数値範囲に関して例示される上限値及び下限値は任意に組み合わせて新しい数値範囲にすることができる。
【0020】
(塗料剥離用コーティング剤)
本実施形態の塗料剥離用コーティング剤は、パラフィン(A)、酸化ポリエチレンワックス(B)、界面活性剤(C)、及び水(D)を含み、前記パラフィン(A)の含有量と前記酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対する前記パラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]が0.5以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の効果が発現するメカニズムは定かではないが、本発明者は以下のように考えている。塗料剥離用コーティング剤の剥離性を向上させるためには、塗料剥離用コーティング剤と塗料との密着性を低下させることが望ましいと考えられる。表面自由エネルギーの小さい成分を配合することで、上記密着性を低下させることが可能である。一方、塗料剥離用コーティング剤成分の表面自由エネルギーが小さすぎると、塗料の性質によっては濡れなくなり、塗料剥離用コーティング剤において塗料はじきが発生する。
【0022】
本発明者は、鋭意検討した結果、パラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)とを併用し、特定の質量比の範囲内でそれらを配合することで、両者の共存による相乗効果を顕著に発現させ、優れた剥離性と塗料はじきの発生の抑制(はじき抑制性)とを両立させることができることを見出した。
【0023】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤においては、表面自由エネルギーが小さいパラフィン(A)を配合することにより、塗料剥離用コーティング剤と塗料との密着性を低下させ、剥離性を向上させることができると考えられる。また、極性基をもつ酸化ポリエチレンワックス(B)を配合することにより、極性基と水性塗料との間に静電的な引力が発生し、水性塗料のはじきの発生を抑制することができる。密着性の低下に寄与するパラフィン(A)と、パラフィンワックスよりも塗料に対する密着性の高い酸化ポリエチレンワックス(B)との配合比を特定の範囲内とすることで、剥離性とはじき抑制性とを両立することができる。
【0024】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤に用いられるパラフィン(A)は、塗料剥離用コーティング剤と塗料との密着性を低下させ、塗料剥離用コーティング剤の剥離性を向上させる機能を有する。パラフィン(A)とは、炭素数が20以上のアルカン(鎖式飽和炭化水素)を意味する。パラフィン(A)は、直鎖状であっても分岐鎖を有していてもよく、直鎖状飽和炭化水素を主成分とすることが好ましい。主成分とは、パラフィン(A)を構成する成分のうち最も含有割合が大きい成分をいう。
【0025】
パラフィン(A)としては、パラフィンワックス又は流動パラフィンが好ましい。パラフィンワックスは、炭素数が20以上の飽和脂肪族炭化水素であり、常温において固体である。流動パラフィンは、炭素数が20以上の飽和脂肪族炭化水素であり、常温において液体である。パラフィン(A)は単独でも2種以上を併用してもよい。
【0026】
流動パラフィンの平均分子量は、剥離性及び乳化性の観点から、好ましくは300以上500以下である。流動パラフィンの平均分子量は、ガスクロマトグラフィーを用い、標準物質としてノルマルパラフィンを用いて得られた検量線からノルマルパラフィン換算で算出できる。
【0027】
パラフィン(A)の融点は、剥離性及び入手容易性の観点から、好ましくは95℃以下、より好ましくは92℃以下である。融点は、JIS K 0064に準拠した方法により測定することができる。
【0028】
パラフィン(A)は、常法の有機反応によって容易に製造でき、また、市販品を使用することもできる。パラフィン(A)の市販品としては、「パラフィン mp42℃~44℃」、「パラフィン mp48℃~50℃」、「パラフィン mp50℃~52℃」、「パラフィン mp52℃~54℃」、「パラフィン mp54℃~56℃」、「パラフィン mp56℃~58℃」、「パラフィン mp58℃~60℃」、「パラフィン mp60℃~62℃」(以上、関東化学株式会社製)、「FNP-0090」、「FNP-0080」、「PARAFFIN WAX-120」、「PARAFFIN WAX-115」、「PARAFFIN WAX-150」(以上、日本精蝋株式会社製)、「No.70-S」(三光化学株式会社製)等が挙げられる。
【0029】
パラフィン(A)の含有量は、塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分を100質量%としたとき、はじき抑制性及び液安定性の観点から、好ましくは50.0質量%以下、より好ましくは29.0質量%以下、さらに好ましくは25.0質量%以下であり、また、剥離性の観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、さらに好ましくは6.0質量%以上、最も好ましくは10.0質量%以上又は15.0質量%以上である。塗料剥離用コーティング剤の全不揮発成分中のパラフィン(A)の含有量は、例えば1.0~50.0質量%とすることができ、好ましくは4.0~50.0質量%、6.0~30.0質量%、又は10.0~25.0質量%である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。ここで、不揮発成分とは、塗料剥離用コーティング剤を構成する成分のうち、揮発成分以外の成分をいう。塗料剥離用コーティング剤を構成する揮発成分は、水(D)、塗料剥離用コーティング剤が後述する溶剤を含む場合の溶剤、及び原液である塗料剥離用コーティング剤が上記水(D)以外の水を含む場合の水を含む。
【0030】
パラフィン(A)の含有量は、塗料剥離用コーティング剤中(塗料剥離用コーティング剤全体中)、はじき抑制性及び液安定性の観点から、好ましくは12.0以下、より好ましくは6.9質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下であり、また、剥離性の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、最も好ましくは2.0質量%以上又は3.5質量%以上である。塗料剥離用コーティング剤中のパラフィン(A)の含有量は、例えば0.5~12.0質量%とすることができ、好ましくは1.0~12.0質量%、1.5~6.9質量%、又は2.0~6.0質量%である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0031】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤に用いられる酸化ポリエチレンワックス(B)は、極性基を有し、塗料剥離用コーティング剤と塗料との相互作用を高めることにより、水性塗料のはじきの発生を抑制する機能を有する。酸化ポリエチレンワックス(B)とは、ポリエチレンを酸化処理し、極性基を導入した化合物である。当該極性基としては、カルボキシル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシル基などを挙げることができる。ポリエチレンワックス(B)は単独でも2種以上を併用してもよい。
【0032】
酸化ポリエチレンワックス(B)の融点は、はじき抑制性及び入手容易性の観点から、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下であり、また、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上である。酸化ポリエチレンワックス(B)の融点は、例えば70~120℃とすることができ、好ましくは80~120℃、70~110℃、又は80~110℃である。融点は、JIS K 0064に準拠した方法により測定することができる。
【0033】
酸化ポリエチレンワックス(B)は、はじき抑制性及び溶解性の観点から、140℃での粘度が、好ましくは10~300Pa・s、より好ましくは25~250Pa・sである。酸化ポリエチレンワックス(B)の140℃での粘度は、B型粘度計により測定することができる。
【0034】
酸化ポリエチレンワックス(B)の製法については、特に限定するものではないが、例えば低圧重合法、高圧重合法等の公知の方法によって製造されたポリエチレンワックス、高密度ポリエチレンポリマーを公知の酸化法に従って酸化させ、得ることができる。酸化ポリエチレンワックス(B)は、市販品を使用することもできる。酸化ポリエチレンワックス(B)の市販品としては、「サンワックスE-310」、「サンワックスE-330」、「サンワックスE-250P」(以上、三洋化成工業株式会社製)、「A-C680」、「A-C680A」、「A-C656」、「A-C629」、「A-C629A」、「A-C6702P」(以上、Honeywell International社製)等が挙げられる。
【0035】
酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量は、塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分を100質量%としたとき、剥離性及び液安定性の観点から、好ましくは60.0質量%以下、より好ましくは55.0質量%以下、さらに好ましくは40.0質量%以下又は30.0質量%以下であり、また、はじき抑制性の観点から、好ましくは1.0以上、より好ましくは5.0質量%以上、さらに好ましくは9.0質量%以上、最も好ましくは14.0質量%以上である。塗料剥離用コーティング剤の全不揮発成分中の酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量は、例えば1.0~60.0質量%とすることができ、好ましくは5.0~60.0質量%、9.0~55.0質量%、又は14.0~40.0質量%である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0036】
酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量は、塗料剥離用コーティング剤中、剥離性及び液安定性の観点から、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは15.0質量%以下、さらに好ましくは10.0質量%以下であり、また、はじき抑制性の観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.5質量%以上、最も好ましくは3.5質量%以上である。塗料剥離用コーティング剤中の酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量は、例えば0.5~20.0質量%とすることができ、好ましくは1.0~20.0質量%、2.5~15.0質量%、又は3.5~10.0質量%である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0037】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤において、パラフィン(A)の含有量と酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計に対するパラフィン(A)の含有量の質量比[A/(A+B)]は、0.50以下である。上記質量比が0.50を超えると、塗料はじきが発生し、塗料が濡れなくなる。上記比率の範囲内でパラフィン(A)及び酸化ポリエチレンワックス(B)を配合することにより、両者の共存による相乗効果を顕著に発現させ、優れた剥離性とはじき抑制性との両立を実現させることができる。上記質量比は、はじき抑制性の観点から、好ましくは0.49以下、より好ましくは0.48以下、さらに好ましくは0.47以下、最も好ましくは0.45以下であり、また、剥離性の観点から、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.2以上、最も好ましくは0.30以上である。上記質量比は、例えば0.10~0.50とすることができ、好ましくは0.15~0.49、0.15~0.48、0.2~0.47、0.30~0.45、又は0.40である。
【0038】
パラフィン(A)の含有量と酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計(A+B)は、塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分を100質量%としたとき、剥離性及びはじき抑制性の観点から、好ましくは10.0質量%以上、より好ましくは15.0質量%以上、さらに好ましくは20.0質量%以上又は26.0質量%以上、最も好ましくは30.0質量%以上であり、また、液安定性の観点から、好ましくは70.0質量%以下、より好ましくは68.0質量%以下、さらに好ましくは65.0質量%以下である。塗料剥離用コーティング剤の全不揮発成分中のパラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計含有量は、例えば10.0~70.0質量%とすることができ、好ましくは15.0~70.0質量%、20.0~68.0質量%、又は30.0~65.0質量%である。
【0039】
パラフィン(A)の含有量と酸化ポリエチレンワックス(B)の含有量との合計は、塗料剥離用コーティング剤中、剥離性及びはじき抑制性の観点から、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは3.5質量%以上、さらに好ましくは4.0質量%以上、最も好ましくは8.0質量%以上であり、また、液安定性の観点から、好ましくは17.3質量%以下、より好ましくは17.2質量%以下、さらに好ましくは17.1質量%以下である。塗料剥離用コーティング剤中のパラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計含有量は、例えば1.0~17.3質量%とすることができ、好ましくは3.5~17.3質量%、4.0~17.2質量%、又は8.0~17.1質量%である。
【0040】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤に用いられる界面活性剤(C)は、パラフィン(A)及び酸化ポリエチレンワックス(B)を乳化させて、微細な粒子とするものである。界面活性剤(C)の作用により、ワックスエマルションを含む塗料剥離用コーティング剤が得られる。
【0041】
界面活性剤(C)としては、特に限定されず、例えばノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤(C)は単独でも2種以上を併用してもよい。界面活性剤(C)としては、中でもノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤が好ましい。
【0042】
ノニオン性界面活性剤としては、例えばアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどのエーテル類、脂肪酸グリセリンエステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどのエステル類、脂肪酸アルカノールアミドのようなアミド類等が挙げられる。ノニオン性界面活性剤としては、中でもエーテル類が好ましく、ポリオキシエチレンアルキルエーテルがより好ましい。アニオン性界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、及びこれらの塩等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、中でもスルホン酸塩が好ましく、ナトリウムスルホネートがより好ましい。カチオン性界面活性剤としては、例えばアルキルアミン塩、アルキルアンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0043】
界面活性剤(C)の市販品としては、「ブラウノンBE-5」、「ブラウノンBE-10」、「ブラウノンBE-20」、「ブラウノンBE-30」、「ブラウノンEN-905」、「ブラウノンEN-909」、「ブラウノンEN-914」(以上、青木油脂工業株式会社製)、「スルホール400」、「スルホール430」、「スルホール465」、「スルホール500」(以上、株式会社MORESCO製)等が挙げられる。
【0044】
界面活性剤(C)の含有量は、他の配合成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。界面活性剤(C)の含有量は、塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分を100質量%としたとき、乳化安定性の観点から、好ましくは85.0質量%以下、より好ましくは80.0質量%以下、さらに好ましくは75.0質量%以下、最も好ましくは65.0質量%以下又は55.0質量%以下であり、また、好ましくは10.0質量%以上、より好ましくは15.0質量%以上、さらに好ましくは20.0質量%以上である。塗料剥離用コーティング剤の全不揮発成分中の界面活性剤(C)の含有量は、例えば10.0~85.0質量%とすることができ、好ましくは10.0~80.0質量%、15.0~75.0質量%、又は20.0~65.0質量%である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0045】
界面活性剤(C)の含有量は、塗料剥離用コーティング剤中、乳化安定性の観点から、好ましくは30.0質量%以下、より好ましくは25.0質量%以下、さらに好ましくは20.0質量%以下、最も好ましくは15.0質量%以下であり、また、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、さらに好ましくは5.0質量%以上である。塗料剥離用コーティング剤中の界面活性剤(C)の含有量は、例えば1.0~30.0質量%とすることができ、好ましくは1.0~25.0質量%、3.0~20.0質量%、又は5.0~15.0質量%である。
【0046】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤は、水(D)を含む。塗料剥離用コーティング剤は、水(D)に上記各成分を溶解又は分散させた水性コーティング剤である。実施形態の塗料剥離用コーティング剤に用いられる水(D)は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等いずれでもよく、その水は硬水であるか軟水であるかを問わない。水(D)は単独でも2種以上を併用してもよい。なお、塗料剥離用コーティング剤が含む水(D)は、原液である塗料剥離用コーティング剤の構成成分としての水を意味し、後述する希釈液としての水とは異なる。
【0047】
塗料剥離用コーティング剤における水(D)の含有量については、他の配合成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。水(D)の含有量は、塗料剥離用コーティング剤中、好ましくは1.0~90.0質量%、より好ましくは30.0~85.0質量%、さらに好ましくは50.0~85.0質量%である。
【0048】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤は、上記成分(A)~(D)以外に、本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて、各種添加剤及び溶剤を含有することができる。添加剤としては、例えば中和剤、レベリング剤、防腐剤等が挙げられる。
【0049】
中和剤は、酸化ポリエチレンワックス(B)のカルボキシ基の一部又は全部と反応して、酸化ポリエチレンワックス(B)をアニオン性界面活性剤として作用させるために用いられる。酸化ポリエチレンワックス(B)に親水性あるいは水溶性を付与するために用いられる。中和剤としては、塩基性化合物が挙げられ、中でも水酸化カリウムが好ましい。中和剤は単独でも2種以上を併用してもよい。
【0050】
中和剤を含む場合、塗料剥離用コーティング剤中における中和剤の含有量は、他の配合成分の種類や含有量等に応じて適宜設定できる。中和剤の含有量は、例えば中和剤の添加による乳化安定性の観点から、好ましくは0.01~2.0質量%、より好ましくは0.03~1.0質量%、さらに好ましくは0.05~0.80質量%である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0051】
中和剤を含む場合、中和剤の含有量は、塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分を100質量%としたとき、好ましくは0.1~5.0質量%、より好ましくは0.2~4.0質量%、さらに好ましくは0.3~3.0質量%である。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0052】
レベリング剤としては、例えばポリエーテル系化合物が挙げられる。レベリング剤は単独でも2種以上を併用してもよい。レベリング剤を含む場合、塗料剥離用コーティング剤中におけるレベリング剤の含有量は、濡れ性の観点から、例えば0.01~5.0質量%とすることができる。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0053】
防腐剤としては、例えば有機窒素硫黄化合物防腐剤、有機硫黄ハロゲン化物、チアゾリン系化合物が挙げられる。防腐剤は単独でも2種以上を併用してもよい。防腐剤を含む場合、塗料剥離用コーティング剤中における防腐剤の含有量は、防腐性の観点から、例えば0.01~2.0質量%とすることができる。2種以上を併用する場合の含有量は、合計量を意味する。
【0054】
溶剤としては、例えばアルコール類などが挙げられる。溶剤は単独でも2種以上を併用してもよい。アルコール類などを添加することにより、塗膜の乾燥硬化時間を短縮できる。
【0055】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤は、上記各成分を混合することによって得られる。混合方法としては、特に限定的ではないが、例えば攪拌等の公知の方法を用いることができる。また、各成分の添加順序は特に限定されない。実施形態の塗料剥離用コーティング剤は水溶性状であり、そのまま被塗装材の表面コーティングに使用することができる。
【0056】
(塗料剥離用コーティング剤希釈液)
上述の塗料剥離用コーティング剤は、当該塗料剥離用コーティング剤を原液とし、水で希釈した塗料剥離用コーティング剤希釈液の態様で使用してもよい。実施形態の塗料剥離用コーティング剤希釈液は、塗料剥離用コーティング剤を水で希釈することにより得られる。使用する水は、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等いずれでもよく、その水は硬水であるか軟水であるかを問わない。
【0057】
塗料剥離用コーティング剤の原液を水で希釈する場合の希釈倍率は、塗料剥離用コーティング剤の組成及び剥離時に求められる性能に応じて適宜調整できる。希釈倍率は、限定的ではないが、好ましくは2倍以上10倍以下である。本発明の効果をより一層高め、使用に見合う効果を得る観点から、より好ましくは3倍以上8倍以下、さらに好ましくは4倍以上6倍以下である。
【0058】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤及びその希釈液は、塗料により塗装される被塗装材であって、剥離剤による剥離を実施予定の被塗装材に好適に利用することができる。被塗装材としては、例えばハンガー、治具、スノコ等の塗装用具、塗装装置、塗装ロボットアーム、塗装ブースの内壁、床部材、壁材等が挙げられる。塗料剥離用コーティング剤及びその希釈液は、剥離剤と組み合わせて使用されることで、塗料の剥離効果を顕著に発揮させることができる。
【0059】
実施形態の塗料剥離用コーティング剤及びその希釈液は、被塗装材(例えば塗装器具類)を塗装する前に、予め被塗装材の表面(塗料による塗装を必要としない部分)に供給する。塗料剥離用コーティング剤及びその希釈液を被塗装材の表面に供給する方法としては、特に限定的ではないが、例えば被塗装材の表面に塗料剥離用コーティング剤及びその希釈液を噴射、塗布する方法を用いてよい。塗布方法としては、例えば浸漬塗布(ディップコート)、シャワー塗布、スプレー塗布、噴流塗布等の方法が挙げられる。
【0060】
被塗装材の表面に塗料剥離用コーティング剤又はその希釈液を付着させた後、自然乾燥または加熱乾燥(例えば60~120℃で)を行い、塗料剥離用コーティング剤又はその希釈液中の水分を蒸発させることにより、被塗装材の表面に塗料剥離用コーティング剤を用いてなる皮膜(コーティング剤膜)が形成される。
【0061】
コーティング剤膜の厚みは、特に限定的ではないが、好ましくは0.1μm以上50μm以下、より好ましくは0.1μm以上10μm以下である。コーティング剤膜の厚みが0.1μmよりも小さいと、剥離効果が不十分となりやすく、50μmを超えると、乾燥性の低下やコーティング剤膜の除去性の悪化がおこりやすくなる。
【0062】
コーティング剤膜上に塗布する塗料は、公知の任意の1つまたは複数の塗料であってもよく、そのような塗料は市販されている。塗料としては、実施形態の塗料剥離用コーティング剤及びその希釈液の効果を良好に発揮する観点から、水性塗料が好ましい。
【0063】
コーティング剤膜を表面に有する被塗装材を、各々の目的に応じて塗装工程で使用すると、コーティング剤膜の表面上に塗料を含む塗膜が形成される。塗膜が形成された被塗装材は、剥離剤を用いて洗浄処理に付される。剥離剤は、被塗装材にコーティング剤膜を介して付着する塗料を剥離させる。剥離剤としては、従来から当該分野において使用されている剥離剤から、塗料剥離用コーティング剤成分、付着塗料の種類、付着厚、及び被塗装材の材質等に応じて適宜選択すればよい。
【0064】
剥離剤としては、例えば水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ポリリン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を含むアルカリ水溶液、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコール、フェニルメチルエーテルなどの芳香族エーテル、エタノールアミンなどのアルカノールアミン、エチレングリコール、ロピレングリコールなどのグリコール類、DMF,DMSO、グリコールエーテル、グリコールアセテート、アニソールなどのアルコキシアリール、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウムなどのアリールスルホン酸塩、及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。剥離剤としては、例えば水、芳香族アルコール、及びアリールスルホン酸塩を含む中性剥離剤、又は、水、芳香族アルコール、アリールスルホン酸塩、及びアルカリ金属塩を含むアルカリ性剥離剤であってもよい。
【0065】
剥離剤は、アルカリ性タイプ(pH8超)、中性タイプ(pH6~8)のいずれでもよく、アルカリ性タイプが好ましい。
【0066】
(塗料剥離用キット)
実施形態の塗料剥離用コーティング剤は、当該塗料剥離用コーティング剤を含むキットとして提供することができる。実施形態の塗料剥離用キットは、上述の塗料剥離用コーティング剤と、剥離剤とを備える。
【0067】
(塗料剥離方法)
実施形態の塗料剥離方法は、上述の塗料剥離用コーティング剤又はその希釈液を被塗装材に供給する工程と、被塗装材に塗料剥離用コーティング剤又はその希釈液を介して付着した塗料を剥離剤を用いて被塗装材から剥離する工程と、を含む。塗料剥離用コーティング剤又はその希釈液を被塗装材へ供給する工程は、上述の手法により行うことができる。塗料を剥離する工程は、被塗装材にコーティング剤膜と塗料とが順次積層した処理対象物と、剥離剤又は剥離剤を含む溶液とを接触させることにより行うことができる。処理対象物に薬剤を接触させる方法は限定的ではないが、例えば処理対象物を、剥離剤を貯留した剥離剤槽に浸漬させるものであってもよい。又は、処理対象物の塗料表面に剥離剤を塗布するものであってもよい。
【0068】
剥離温度としては、特に限定的ではないが、剥離性及び環境性等の観点から、好ましくは5℃以上100℃以下、より好ましくは10℃以上80℃以下、さらに好ましくは20℃以上55℃以下である。剥離温度は、塗膜に供給される剥離剤の温度であってもよい。浸漬により塗料を剥離する場合、浸漬時間としては、特に限定的ではないが、剥離性及び環境性等の観点から、好ましくは11分未満、より好ましくは7分以下、さらに好ましくは6分以下である。実施形態の塗料剥離用コーティング剤及びその希釈液は、優れた剥離性を有するため、剥離工程を低温化及び短時間化することができる。
【実施例0069】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に限定されることは意図しない。例中の部及び%は断りがない限り質量基準である。
【0070】
(塗料剥離用コーティング剤の調製)
[実施例1]
表1に示す配合組成(質量%で示す)に従い、先ず、パラフィン(A)としてパラフィンワックス(A-1)5.40質量部、酸化ポリエチレンワックス(B)として酸化ポリエチレンワックス(B-1)8.00質量部、界面活性剤(C)として界面活性剤(C-1)7.00質量部を、加熱装置及び攪拌装置を備えた耐熱容器に量りとり、100℃に加温して内容物を融解させた。その後、中和剤の50質量%水溶液0.35質量部を添加し、さらに、沸騰した水(D)としての水道水75.65質量部を撹拌しながら緩やかに添加し、均一に混合した。混合物を室温に冷却後、レベリング剤3.00質量部、防腐剤0.60質量部を添加し、均一に混合して、実施例1の塗料剥離用コーティング剤100質量部を得た。
【0071】
[実施例2~18、比較例1~3]
塗料剥離用コーティング剤の配合組成を表1~表3に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、各実施例及び比較例の塗料剥離用コーティング剤を調製した。
【0072】
(試験片の作製)
縦横2方向に#40の紙やすりで研磨した冷間圧延鋼板(SPCC-SD)の平板テストピース(110mm×30mm×0.8mm)をキシレン及びアセトンで脱脂した。次いで、上記実施例及び比較例の各塗料剥離用コーティング剤(原液)を水で5倍希釈し、試験液を得た。得られた試験液を、上記平板テストピースの表面に、ディップコート法(引き上げ速度6mm/s)によって塗布した。その後、110℃の恒温器で10分間乾燥させ、平板テストピースの表面にコーティング剤膜を形成した。コーティング剤膜の厚みはいずれも、約1μm以下であった。次いで、白色の水性塗料(「WP-507T-1A」、関西ペイント株式会社製)をディップコート法(引き上げ速度6mm/s)によって塗布し、室温で30分間乾燥後、恒温器を用いて80℃で3分間乾燥硬化させ、さらに140℃で18分間乾燥硬化させることにより、表面上に塗膜が形成された試験片を作製した。得られた試験片について、以下の評価を行った。
なお、比較例4では、塗料剥離用コーティング剤の塗布を行わなかった。すなわち比較例4では、コーティング剤膜を備えず、平板テストピースの表面上に直接塗膜が形成された試験片を作製した。
【0073】
[剥離性の評価]
上記実施例及び比較例の塗料剥離用コーティング剤を用いた各試験片を、50℃に加温したアルカリ性剥離剤(「デスコートSR-300K」、株式会社ネオス製)に浸漬させ、塗膜が完全に浮き上がってくるまでの時間を測定した。この時間を剥離時間とし、剥離時間について以下の基準で評価した。剥離時間11分未満を所望の剥離性とした。剥離時間の測定結果及び評価を表1~表3に示す。
◎:剥離時間6分未満
○:剥離時間6分以上7分未満
△:剥離時間7分以上11分未満
×:剥離時間11分以上
【0074】
[はじき抑制性の評価]
上記各試験片について、最終乾燥硬化後の塗膜の外観を目視にて確認し、以下の基準で評価した。はじき抑制性の評価を表1~表3に示す。
○:塗料を塗布した箇所において素地が露出しなかった
×:塗料を塗布した箇所において素地が露出した
【0075】
図1及び
図2は、はじき抑制性の評価基準を説明する画像である。
図1は、はじき抑制性が「○」である場合を説明する画像である。
図2は、はじき抑制性が「×」である場合を説明する画像である。
図1及び
図2中、矩形枠は塗料の塗布領域を示す。
図1及び
図2は、評価基準を説明するための例示的な画像であり、実際の評価結果を限定するものではない。
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
表1~表3に示される各成分の詳細については、以下の通りである。また、表1~表3に、塗料剥離用コーティング剤中の不揮発成分の含有量、塗料剥離用コーティング剤中における中和剤の不揮発成分の含有量、塗料剥離用コーティング剤の全不揮発成分中のパラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計含有量、塗料剥離用コーティング剤の全不揮発成分中の界面活性剤(C)の含有量、及びパラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計に対するパラフィン(A)の含有質量比を併記する。
成分(A):パラフィン
パラフィンワックス(A-1):「FNP-0090」日本精蝋株式会社製、融点90℃
流動パラフィン(A-2):「No.70-S」三光化学株式会社製、融点-12.5℃
パラフィンワックス(A-3):「FNP-0080」日本精蝋株式会社製、融点80℃
パラフィンワックス(A-4):「PARAFFIN WAX-120」日本精蝋株式会社製、融点50℃
パラフィンワックス(A-5):PARAFFIN WAX-115」日本精蝋株式会社製、融点47℃
パラフィンワックス(A-6):「PARAFFIN WAX-150」日本精蝋株式会社製、融点66℃
成分(B):酸化ポリエチレンワックス
酸化ポリエチレンワックス(B-1):「A-C6702P」Honeywell International社製、融点88℃、140℃での粘度35Pa・s
酸化ポリエチレンワックス(B-2):「A-C629」Honeywell International社製、融点98℃、140℃での粘度200Pa・s
酸化ポリエチレンワックス(B-3):「A-C656」Honeywell International社製、融点101℃、140℃での粘度185Pa・s
成分(C):界面活性剤
界面活性剤(C-1):「ブラウノンBE-10」青木油脂工業株式会社製、ノニオン性界面活性剤
界面活性剤(C-2):「スルホール465」株式会社MORESCO製、アニオン性界面活性剤
中和剤:水酸化カリウム
レベリング剤:ディスパノールWI-115(日油株式会社製)
防腐剤:ビオサイドW-B350(株式会社タイショーテクノス製)
【0080】
表1~表3から明らかなように、パラフィン(A)、酸化ポリエチレンワックス(B)、界面活性剤(C)、及び水(D)を含み、パラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計に対するパラフィン(A)の含有質量比([A/(A+B)])が特定範囲内にある実施例では、剥離性に優れるとともにはじき抑制性が良好であることが確認された。酸化ポリエチレンワックス(B)を含まない比較例1、及び上記含有質量比が特定範囲外である比較例2では、塗料はじきが発生し、はじき抑制性が不良であった。また、パラフィン(A)及び酸化ポリエチレンワックス(B)を含まない比較例3、塗料剥離用コーティング剤を使用していない比較例4では、剥離性が劣っていた。
【0081】
実施例1、2及び比較例1、2より、パラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計に対するパラフィン(A)の含有質量比が0.5を超えると、はじき抑制性が不良であることが確認された。比較例1では酸化ポリエチレンワックス(B)が含まれていないため、また、比較例2ではパラフィン(A)が過剰に含有されており、塗料剥離用コーティング被膜の表面自由エネルギーが小さくなりすぎ、水性塗料が濡れなくなったと考えられる。
【0082】
実施例1、2より、パラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計に対するパラフィン(A)の含有質量比が特定範囲内において、上記含有質量比が大きくなるにつれて、すなわち酸化ポリエチレンワックス(B)に対するパラフィン(A)の含有量が多くなるにつれて、剥離性が良化傾向にあることが確認された。パラフィン(A)の含有量の増加により、塗料剥離用コーティング被膜の表面自由エネルギーが小さくなり、塗料剥離用コーティング剤と塗料との密着性が低下したと考えられる。
【0083】
実施例1、3、4より、パラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計添加量が増えるにつれて、剥離性が良化傾向にあることが確認された。
【0084】
実施例5では、パラフィンワックスに代えて流動パラフィンを添加し、また、実施例11では、ノニオン性界面活性剤に代えてアニオン性界面活性剤を添加しているが、いずれも剥離性及びはじき抑制性が良好であった。
【0085】
実施例6~8では、パラフィンワックスの融点を変動させ、また、実施例9~10では、酸化ポリエチレンワックスの融点及び粘度を変動させているが、いずれも剥離性及びはじき抑制性が良好であった。
【0086】
実施例12~18では、パラフィンワックスと酸化ポリエチレンワックスとの組み合わせやパラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計添加量を変動させているが、いずれも剥離性及びはじき抑制性が良好であった。パラフィン(A)と酸化ポリエチレンワックス(B)との合計添加量が増えるにつれて、剥離性が良化傾向にあることが確認された。
【0087】
以上より、本開示の塗料剥離用コーティング剤は、剥離性に優れ且つ塗料はじきを良好に抑制することが確認された。