(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091450
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/69 20190101AFI20240627BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240627BHJP
【FI】
B29C48/69
B29C48/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023191923
(22)【出願日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2022206401
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】小西 智昭
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AB07
4F207AB16
4F207AB19
4F207AF16
4F207AG01
4F207AM10
4F207AM32
4F207AR12
4F207KA01
4F207KA17
4F207KL84
4F207KL94
4F207KL98
4F207KM16
4F207KM20
(57)【要約】
【課題】 本発明は、異物による表面欠点の発生を軽減することができる、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 溶融した熱可塑性樹脂組成物を、濾材、支持体、及びハブリングを備える金属製フィルターで濾過する濾過工程を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、前記フィルターが、支持体の上下に濾材を有し、前記濾材の空気流動抵抗Pが450Pa以上600Pa以下であり、前記ハブリングが有する貫通孔の数をn個、前記貫通孔の面積の平均値をA(mm
2)、前記貫通孔の濡れ縁長さの平均値をs(mm)とした場合にs/(4nA
2)が6.0×10
-3以上12.0×10
-3以下であり、かつ、前記熱可塑性樹脂組成物中に2次粒子径が5.0μm以下である粒子Xを含むことを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した熱可塑性樹脂組成物を、濾材、支持体、及びハブリングを備える金属製フィルターで濾過する濾過工程を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、
前記フィルターが、支持体の上下に濾材を有し、前記濾材の空気流動抵抗Pが450Pa以上600Pa以下であり、前記ハブリングが有する貫通孔の数をn個、前記貫通孔の面積の平均値をA(mm2)、前記貫通孔の濡れ縁長さの平均値をs(mm)とした場合にs/(4nA2)が6.0×10-3以上12.0×10-3以下であり、
かつ、前記熱可塑性樹脂組成物中に2次粒子径が5.0μm以下である粒子Xを含むことを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記ハブリングが有する貫通孔の貫通長さをL(mm)とした場合に、Lが14.0mm以上20.0mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂フィルムが0.1質量%以上20質量%以下の粒子Xを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異物による表面欠点の発生を軽減することができる、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムは、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、及び耐薬品性などに優れ、包装材料、電気絶縁材料、金属蒸着材料、製版材料、磁気記録材料、表示材料、転写材料、窓貼り材料、ディスプレイ材料、及びヘルスケア材料などの多くの用途で使用されている。これらの用途に用いられる熱可塑性樹脂フィルムの多くは、その表面に目的とする機能を発現するための機能層を有する。
【0003】
製造過程でこの機能層を設ける際に、例えば良好な滑り性を付与することを目的として、機能層を形成するための熱可塑性樹脂組成物に不活性粒子を添加する場合がある。不活性粒子の粒子径は目的に応じて適宜調整するが、粒子径を調整した場合においても、必要のない粗大粒子が含まれることがある。また、溶融押出工程や粗大粒子を除去する濾過工程において、配管の屈曲部、フィルターケーシング内、及びフィルター内部などで溶融した熱可塑性樹脂組成物が滞留し、粒子同士が凝集して粗大粒子が発生する場合もある。
【0004】
このような粗大粒子が熱可塑性樹脂組成物中に含まれると、当該熱可塑性樹脂組成物により形成した層を有するシートを延伸して熱可塑性樹脂フィルムを製造するときに、延伸により発生する応力が粗大粒子部分に集中してその部分に穴が空くことがあり、さらにこの穴を起点として熱可塑性樹脂フィルムに破れが発生することもある。このような問題は、製膜する熱可塑性樹脂フィルムの厚みが数μmと極めて薄い場合においてより顕著となる。
【0005】
また、粗大粒子は最終製品の特性にも影響し、使用時に様々な不具合を生じる原因となる。例えば、コーティング加工や印刷加工用途の熱可塑性樹脂フィルムであれば、粗大粒子部分の塗布抜けや印刷抜けを引き起こすことがあり、電気絶縁材料用途の熱可塑性樹脂フィルムであれば、粗大粒子が絶縁不良の原因となることがある。
【0006】
濾過工程で使用するフィルター内部での熱可塑性樹脂組成物の滞留を抑える手段として、例えばろ過精度、空隙率及び厚さの異なる2層以上の積層濾材と、該濾材にかかる濾過圧を面状に支持する支持板を備え、使用する積層濾材の層構成と流動特性を規定した濾材を使用したフィルターを用いることが知られている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のようなフィルターを使用することにより、熱可塑性樹脂の滞留によるゲル状物を低減することが可能である。しかしながら、機能層を形成することを目的として熱可塑性樹脂組成物に不活性粒子を添加した場合においては、濾材の層構成と流動特性を規定しただけでは熱可塑性樹脂の滞留により、必要のない粗大粒子や異物の発生を抑えることが困難であった。
【0009】
本発明は、係る従来技術の問題点を改良し、粗大粒子や異物による表面欠点の発生を軽減することができる、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は以下の構成よりなる。すなわち、溶融した熱可塑性樹脂組成物を、濾材、支持体、及びハブリングを備える金属製フィルターで濾過する濾過工程を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、前記フィルターが、支持体の上下に濾材を有し、前記濾材の空気流動抵抗Pが450Pa以上600Pa以下であり、前記ハブリングが有する貫通孔の数をn個、前記貫通孔の面積の平均値をA(mm2)、前記貫通孔の濡れ縁長さの平均値をs(mm)とした場合にs/(4nA2)が6.0×10-3以上12.0×10-3以下であり、かつ、前記熱可塑性樹脂組成物中に2次粒子径が5.0μm以下である粒子Xを含むことを特徴とする、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、粗大粒子や異物による表面欠点の発生を軽減することができる、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法で用いることができるフィルターの一例を示す断面図である。
【
図2】本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法で用いることができるフィルターの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法について具体的に説明する。本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、溶融した熱可塑性樹脂組成物を、濾材、支持体、及びハブリングを備える金属製フィルターで濾過する濾過工程を有する熱可塑性樹脂フィルムの製造方法であって、前記フィルターが、支持体の上下に濾材を有し、前記濾材の空気流動抵抗Pが450Pa以上600Pa以下であり、前記ハブリングが有する貫通孔の数をn個、前記貫通孔の面積の平均値をA(mm2)、前記貫通孔の濡れ縁長さの平均値をs(mm)とした場合にs/(4nA2)が6.0×10-3以上12.0×10-3以下であり、かつ、前記熱可塑性樹脂組成物中に2次粒子径が5.0μm以下である粒子Xを含むことを特徴とする。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、得られるフィルムにおける粗大粒子や異物による表面欠点の発生を軽減する観点から、溶融した熱可塑性樹脂組成物を、濾材、支持体、及びハブリングを備える金属製フィルターで濾過する濾過工程を有する濾過工程を有する。
【0015】
ここで濾材とは、フィルターを構成する部材であって、熱可塑性樹脂組成物から異物等を取り除く役割を担うものをいい、例えば、金属繊維を任意の厚さの不織布状に積層した後焼結したものや、金属粉末を焼結成形した多孔質シート品、及びこれらを組み合わせたもの等がこれに該当する。支持体とは、ステンレス鋼などの鋼線を緯線、経線を織成した網状態からなる部材や、ステンレス鋼などの板材をポリマーがフィルター内を通過させるための網状態や格子状などの形状を得るためにエッチング処理を施した部材をいう。ハブリングとは、金属製フィルターの中央部にある環状の金属体であり、その材料としてはステンレス鋼やアルミなどが用いられる。なお、フィルターの形状は特に限定されないが、例えば円盤形、リーフディスク型のものを好適に用いることができる。
【0016】
ハブリングには、外周側の側面から内周側の側面に向かって貫通孔が複数開いている。フィルターを構成する濾材の表面から濾材内部に浸透した熱可塑性樹脂組成物が、濾材内部を通って当該貫通孔に到達することにより、熱可塑性樹脂組成物が濾過され、そこから異物等が除去される。なお、貫通孔の形状は円形や角形など様々な形状とすることができる。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法においては、粒子の凝集とフィルターの破損をともに軽減する観点から、フィルターが、支持体の上下に濾材を有し、濾材の空気流動抵抗Pが450Pa以上600Pa以下であり、ハブリングが有する貫通孔の数をn個、貫通孔の面積の平均値をA(mm2)、貫通孔の濡れ縁長さの平均値をs(mm)とした場合にs/(4nA2)が6.0×10-3以上12.0×10-3以下であることが重要である。ハブリングが有する貫通孔の数は目視によりカウントすることができる。また、貫通孔の面積の平均値、貫通孔の濡れ縁長さの平均値はノギスで測定した長さのデータより算出することができ、その詳細な測定方法は後述する。
【0018】
ここで濾材の空気流動抵抗Pとは、空気流動抵抗測定器に濾材を取り付け、一定量の空気を濾材に流し、濾材を通過する際の空気抵抗をフラジール型通気度試験機に準拠した空気流動抵抗測定機で測定した値をいう(測定方法の詳細は後述)。濾材の空気流動抵抗Pの数値が小さい程、空気が濾材を通過しやすい。すなわち濾材の空気流動抵抗Pの数値が小さいことは、濾材内部が疎であり、濾過精度も大きい傾向にあることを意味する。一方、濾材の空気流動抵抗の数値が高い程、空気が濾材を通過しにくい。すなわち濾材の空気流動抵抗Pの数値が大きいことは、濾材内部が密であり、濾過精度も小さい傾向にあることを意味する。
【0019】
本発明においては、濾材の空気流動抵抗Pが450Pa以上600Pa以下であるが、濾材の空気流動抵抗Pが450Pa未満の場合は、溶融した熱可塑性樹脂組成物を流したときに受ける抵抗も低くなるため、濾材を通過する際にかかるせん断力も小さくなり、濾材を通過する大きな二次粒子径を持った粒子が通過しやすくなる。また、粒子同士が凝集を形成しやすくなり、小さな二次粒子が大きい二次粒子やさらに大きい二次粒子に成長するため、シート状にしたときに粗大突起が発生しやすくなる。一方、濾材の空気流動抵抗Pが大きくなる場合は、溶融した熱可塑性樹脂組成物を流したときの抵抗は高くなり、濾材を通過するときのせん断力も大きくなる。そのため、大きな二次粒子径を持った粒子は濾材表面で捕捉されるか、せん断力を受けて粒子が粉砕され小さな粒子となることから、濾材の空気流動抵抗Pは450Pa以上であることが重要である。一方、濾材の空気流動抵抗Pが600Paを超えると、シート状にした際に必要な大きさの粒子も捕捉することや、必要以上に二次粒子を粉砕することにより、シート状物の性能を発揮することができなくなる。これらの観点より、濾材の空気流動抵抗Pは、460Pa以上590Pa以下がより好ましい。
【0020】
貫通孔を通過する流速をU、貫通孔の直径をDとすると、せん断力はU/Dに比例する。溶融した熱可塑性樹脂組成物の吐出量をQ、溶融した熱可塑性樹脂組成物の密度をρ、貫通孔の面積をAとすると、U=Q/(ρA)と表すことができるので、せん断力は、Q/(ρDA)となる。せん断力で貫通孔の形状に関する項目(せん断力形状指数と呼ぶ)は、1/(DA)と表される。貫通孔が円以外にも適用できるようにDを濡れ縁長さsと面積Aを使って表すとD=4A/sとなるので、せん断力形状指数は、s/(4A2)となる。貫通孔がn個ある場合、トータル濡れ縁長はns、トータル面積はnAとなるので、せん断力形状指数は、s/(4nA2)となる。濡れ縁長さとは、断面の壁面の長さのことを言い、本発明においては、貫通孔の形状の周長をいう。
【0021】
溶融した熱可塑性樹脂組成物は、濾材を通過した後、ハブリングの貫通孔を通過してフィルターから出るが、貫通孔通過中に粒子が凝集する可能性がある。そのため、貫通孔のせん断力を大きくすることにより、粒子の凝集を防ぐことが好ましい。n個のハブリングの貫通孔のせん断力形状指数、s/(4nA2)が小さいと、溶融した熱可塑性樹脂が貫通孔を通過するときにかかるせん断力が弱くなり、粒子が凝集しやすくなって粗大突起が発生しやすくなることから、s/(4nA2)は6.0×10-3以上である。一方、s/(4nA2)が12.0×10-3を超えると、圧力損失が大きくなり、ゲルなどの他の欠点が発生しやすくなる上、フィルターにかかる圧力が過度に上昇してフィルター自体が破損することもある。そのため、これらの観点からs/(4nA2)は、6.1×10-3以上11.5×10-3以下であることがより好ましい。
【0022】
また、貫通孔の貫通長さを調整することで貫通孔通過中の粒子の凝集に影響を与える。一定の流速で溶融した熱可塑性樹脂が貫通孔を通過する場合は、貫通孔の長さが長い程通過する時間は長くなり、貫通孔内に粒子が堆積し凝集する可能性があり、貫通孔の貫通長さは短い方が粒子の凝集を防ぐのに有利になる。
【0023】
本発明ではハブリングが有する貫通孔の貫通長さをL(mm)とした場合に、Lは14.0mm以上20.0mm以下が好ましい。貫通孔の貫通孔長さLが14.0mm未満の場合は、ハブリングの外径と内径の差が狭すぎることにより、フィルターを高圧力で使用する際にはハブリングの強度不足となり破損する可能性がある。一方、20.0mmを超える場合は、貫通孔の粒子の凝集に対する効果は大きくなるが、貫通孔が長くなることにより圧力損失が大きくなりすぎること、ならびに濾材面積が少なくなることで濾材の寿命が短くなる場合がある。貫通孔の貫通孔長さLは14.5mm以上19.0mm以下であることがより好ましい。
【0024】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、得られる熱可塑性樹脂フィルムの外観不良を軽減し、後加工ができる程度の平滑性を確保する観点から、熱可塑性樹脂組成物中に2次粒子径が5.0μm以下である粒子Xを含むことが好ましい。なお、粒子の2次粒子径は、公知の方法により溶融熱可塑性樹脂組成物若しくは熱可塑性樹脂フィルムより粒子を抽出した上で、レーザー回折法により測定することができる。熱可塑性樹脂組成物中に粒子Xを含むことにより、得られる熱可塑性樹脂フィルム表面に突出する粒子の高さが抑えられ、後加工時における印刷抜けなどの加工ロスの発生や、外観不良を軽減することができる。
【0025】
粒子Xの2次粒子径の下限に特に制限はないが、得られる熱可塑性樹脂フィルムに十分な易滑性を付与することができ、巻き取り工程等での熱可塑性樹脂フィルム同士の擦過に起因するキズの発生を軽減できる観点から0.1μm以上であることが好ましい。上記観点から、粒子Xの2次粒子径は0.1μm以上3.0μm以下であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法は、得られる熱可塑性樹脂フィルムの外観不良を軽減し、後加工ができる程度の平滑性を確保する観点から、熱可塑性樹脂フィルムが0.1質量%以上20質量%以下の粒子Xを含むことが好ましい。ここで、「熱可塑性樹脂フィルムが0.1質量%以上20質量%以下の粒子Xを含む」とは、熱可塑性樹脂フィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、粒子Xの含有量が0.1質量%以上20質量%以下であることをいい、実質、溶融した熱可塑性樹脂組成物を構成する全成分を100質量%としたときに、粒子Xの含有量が0.1質量%以上20質量%以下であることと同義である。
【0027】
粒子Xの含有量を0.1質量%以上とすることで、熱可塑性樹脂フィルムに易滑性を付与させることが容易となり、20質量%以下とすることで、異物の個数を減らしつつ、後加工を適切に実施できる程度に熱可塑性樹脂フィルムの平滑性を保つことができる。上記観点から、粒子Xの含有量は、熱可塑性樹脂フィルムを構成する全成分を100質量%としたときに、0.1質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0028】
粒子Xの種類は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、無機粒子、有機粒子のいずれであってもよく、また両者を混合してもよい。無機粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、及び二酸化チタンなどを単独で又は組み合わせて用いることができる。有機粒子としては、例えば、エチルビニル-ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、及びシリコーン等を単独で又は組み合わせて用いることができる。なお、熱可塑性樹脂フィルム中の粒子が複数成分である場合においては、全ての粒子を合算してその含有量を算出するものとする。
【0029】
以下、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法について具体的に説明する。但し、これは本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれに限定されない。
【0030】
先ず、粒子Xと熱可塑性樹脂のペレットを含む混合物を、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー、単軸又は二軸押出機等の通常使用されている公知の混合機により融点以上の温度で溶融して押し出し、必要に応じて濾過精度の低い金属製フィルターなどで予備濾過する。混合機は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、単軸又は二軸押出機を用いることが好ましい。次いで、予備濾過された溶融熱可塑性樹脂組成物をギアポンプなどで計量した後、金属製フィルターを備えるメイン濾過装置へ供給して濾過する。メイン濾過装置における金属製フィルターの形状は本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、リーフディスク型のものが好ましい。また、金属製フィルターの枚数は要求される品質に応じて適宜定めることができ、例えば、品質への要求が極めて高い光学用途の熱可塑性樹脂フィルムを製造する場合などは80枚以上150枚以下とすることが好ましい。
【0031】
図面を用いて、本発明の熱可塑性樹脂フィルムの製造方法で使用することができる金属製フィルターの一例を説明する。
図1の金属製フィルター1は支持体2の上下に金属粉末焼結体からなる濾材3を、中央部にハブリング4を有し、端部5が溶接された構成を有している。また、
図2の金属製フィルター1は支持体2の上下に金属多孔板7と濾材3を有し、端部5が溶接された構成を有する。このとき、金属多孔版7は濾材3の変形を防ぐ役割を担う。ハブリング4には濾材3と平行な方向に貫通した貫通孔6が周方向にわたって設けられており、溶融熱可塑性樹脂組成物は濾材3の表面より異物を除去されながら支持体2の方向に流れ、貫通孔6を通過してハブリング4の内側に流出する。
【0032】
このとき、濾材の空気流動抵抗Pを450Pa以上600Pa以下とする。濾材の空気流動抵抗Pは濾材内部の密度を調整することにより調節することができる。また、ハブリングが有する貫通孔の数をn個、前記貫通孔の面積の平均値をA(mm2)、前記貫通孔の濡れ縁長さの平均値をs(mm)とした場合にs/(4nA2)が6.0×10-3以上12.0×10-3以下となるように、ハブリングにおける貫通孔の個数、サイズ、形状を調整する。
【0033】
その後、メイン濾過装置を通過した溶融熱可塑性樹脂組成物を口金に導いて吐出させ、キャスティングドラム上で冷却固化し、非晶状態の熱可塑性樹脂フィルム(以下、無配向の熱可塑性樹脂フィルムということがある。)を得る。また、必要に応じて、この無配向の熱可塑性樹脂フィルムを公知の縦延伸装置や横延伸装置、同時二軸延伸装置などを用いて長手方向及び/又は幅方向に一軸又は二軸に延伸し、一軸配向又は二軸配向を有する熱可塑性樹脂フィルムすることもできる。なお、ここで長手方向とは熱可塑性樹脂フィルムの走行方向をいい、幅方向とは熱可塑性樹脂フィルム面内で長手方向と直交する方向をいう。
【0034】
さらに、必要に応じて、易滑性や帯電防止性等の機能を付与するために、各種粒子や添加剤を含む塗材によるコーティングを行ってもよい。このようなコーティングの方法は、ダイコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、及びバーコート法などの公知の方法から適宜選択することができる。このようにして得られた熱可塑性樹脂フィルムは、一旦広幅の巻き取り機で幅広のロールとして巻き取られる。その後、当該幅広のロールより再度熱可塑性樹脂フィルムを巻き出し、必要に応じて、スリッターにより、必要な幅に裁断して再度巻き取ることにより最終製品となる。
【実施例0035】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。なお、各項目の測定、評価は下記の方法にて行った。
【0036】
(1)濾材の空気流動抵抗P
未使用のリーフディスク型の金属製フィルターの外周部から内側に10mmの位置とリーフディスクの中心から半径50mmの位置のところで同心円状に切断し、ドーナツ状の濾材、支持体、ハブリングに分解し、ドーナツ状の濾材をフラジール型通気度試験機に準拠した空気流動抵抗測定機に取り付けて測定した。
【0037】
(2)ハブリングの貫通孔の数n
(1)で取り出したハブリングを内径側、外径側より貫通孔の形を目視で確認し、貫通孔の数を数えた。
【0038】
(3)貫通孔の面積の平均値A
貫通孔の形状が円形の場合は円形の直径を、角形の場合は長辺と短辺の長さをノギス(ミツトヨ製)で測定し、円形や角形の面積を計算した。ハブリングの貫通孔の数n個分を同様に計算し、得られた値の平均値を貫通孔の面積の平均値A(mm2)とした。
【0039】
(4)貫通孔の濡れ縁長さの平均値s
貫通孔の形状が円形の場合は円形の直径を、角形の場合は長辺と短辺の長さをノギス(ミツトヨ製)で測定し、円形や角形の外周長を計算した。ハブリングの貫通孔の数n個分を同様に計算し、得られた値の平均値を貫通孔の濡れ縁長さの平均値s(mm)とした。
【0040】
(5)貫通孔の貫通長さL
(1)で取り出したハブリングの外径と内径の差となる部分の長さをノギス(ミツトヨ製)で貫通孔の数n個分を測定し、得られた値の平均値を貫通孔の貫通長さL(mm)とした。
【0041】
(6)熱可塑性樹脂フィルム表面の異物個数
スリット工程で製品ロールとして採取する前に、製品ロールと同じ幅で30mの検査ロールを採取した。検査用ロールより熱可塑性樹脂フィルムを巻き出して目視で異物を確認し、それらの個数を10m2当たりに換算した数を熱可塑性樹脂フィルム表面の異物個数(個/10m2)とした。なお、異物個数については、0.5個/10m2以下であれば実用上問題ないと判断した。
【0042】
<金属製フィルター>
濾材の空気流動抵抗P、貫通孔の形状、ハブリングの貫通孔数n、ハブリングの貫通孔の面積の平均値A、貫通孔の濡れ縁長さの平均値s、s/(4nA2)が表1に示す値であるものを使用した(それぞれA~Fで表記する。)。
【0043】
【0044】
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート(以降、PETと省略することがある。)チップに、PETと2次粒子径1.0μmのアナターゼ型酸化チタン微粒子が1:1(質量比)で混合されたマスターチップを、PETとアナターゼ型酸化チタン微粒子の比が86:14(質量比)となるように混合した原料を180℃で3時間真空乾燥した。このPET混合物を押出機にて溶融し、得られた溶融PET組成物を、濾過精度35μmの金属粉末を焼結させた濾材を支持体の両面に有し、かつ表1,2に記載のハブリングと支持体を備えるリーフディスク型フィルターを130枚積層させた濾過装置に導入して濾過した。続いて、溶融PET組成物を口金に導入し、口金より吐出した溶融シート状物を表面温度が25℃に保たれたキャスティングドラム上に静電化法で密着させて冷却固化し、未延伸フィルムとした。その後、該未延伸フィルムを常法に従い98℃に加熱されたロール群を用いて長手方向に3.2倍延伸し、25℃のロール群で冷却した。さらに得られた一軸延伸フィルムをテンターに導き125℃に加熱された雰囲気中で幅方向に3.4倍延伸した。その後テンター内で220℃の熱固定を行い、均一に徐冷した後に巻取り、厚み188μmの白色PETフィルムのロールを得た。得られたロールよりPETフィルムを巻き出し、スリット工程で製品ロールとして採取する前に、製品ロールと同じ幅で30mの検査ロールを採取した。得られた白色PETフィルムの評価結果を表2に示す。
【0045】
(実施例2~9、比較例1~10)
使用するフィルターの濾材とハブリングと支持体、粒子の2次粒子径や添加量を表2~3に記載のとおりとした以外は実施例1と同様の方法で白色PETフィルムを得た。得られた白色PETフィルムの評価結果を表2~3に示す。
【0046】
【0047】
表中、フィルターの項の記号は表1で表すフィルターの記号に対応する。表3においても同じ。
【0048】
本発明により、異物による表面欠点の発生を軽減することができる、熱可塑性樹脂フィルムの製造方法を提供することができる。本発明により得られるフィルムは、表面欠点が少ないため、ヘルスケア材料、製版材料等に好適に用いることができる。