(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091459
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B65H 43/04 20060101AFI20240627BHJP
B65H 26/02 20060101ALI20240627BHJP
B29C 41/28 20060101ALI20240627BHJP
G01N 21/892 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
B65H43/04
B65H26/02
B29C41/28
G01N21/892 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023196378
(22)【出願日】2023-11-20
(31)【優先権主張番号】P 2022205303
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 慶太
(72)【発明者】
【氏名】大野 公平
【テーマコード(参考)】
2G051
3F048
3F105
4F205
【Fターム(参考)】
2G051AA41
2G051AB02
2G051CA04
2G051CB02
2G051DA06
2G051EA12
3F048AB06
3F048BA08
3F048BB05
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3F048CC05
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3F105AA04
3F105AB11
3F105BA33
3F105BA37
3F105DB11
3F105DC17
4F205AA29
4F205AC05
4F205AG01
4F205AQ01
4F205AR12
4F205GA07
4F205GB02
4F205GN08
4F205GN24
4F205GN29
4F205GW21
(57)【要約】
【課題】本発明は、フィルム製造工程中の全体にわたり、破れに繋がる幅方向端部の変形を検出することができるフィルムの製造方法を提供することをその課題とする。
【解決手段】流延機から剥離された搬送フィルムの面と垂直な方向から、前記搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を継続的に撮影し、前記画像又は前記動画より、前記幅方向端部における変形の発生を確認する工程を2つ以上有することを特徴とする、フィルムの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流延機から剥離された搬送フィルムの面と垂直な方向から、前記搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を継続的に撮影し、前記画像又は前記動画より、前記幅方向端部における変形の発生を確認する工程を2つ以上有することを特徴とする、フィルムの製造方法。
【請求項2】
キャスト工程後と一軸延伸工程後に前記幅方向端部における変形の発生を確認する工程を有することを特徴とする、請求項1に記載のフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記幅方向端部における変形の発生を確認する工程で確認された変形の変形量を工程間で比較し、変形の変化量を評価することを特徴とする、請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記キャスト工程後で確認された変形の変形量をX、前記一軸延伸工程後で確認された変形の変形量をY、工程間で比較した変形の変化量をY/Xとしたとき、Y/Xが2.50以上である場合に異常を検知することを特徴とする、請求項2に記載のフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記一軸延伸工程後で確認された変形が特徴Aを有する場合に異常を検知することを特徴とする、請求項2に記載のフィルムの製造方法。
特徴A:変形の凹み部に切れ込みが生じている状態
【請求項6】
前記異常の発生頻度の周期性を評価することを特徴とする、請求項4または5に記載のフィルムの製造方法。
【請求項7】
前記異常の発生が確認されたタイミングでアラーム表示がなされることを特徴とする、請求項4または5に記載のフィルムの製造方法。
【請求項8】
前記フィルムがアラミドフィルムであることを特徴とする、請求項1または2に記載のフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造工程で発生するフィルム破れの一因となり得る幅方向端部の変形を検出することができる、フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液製膜法により製造される芳香族ポリアミドフィルムや芳香族ポリイミドフィルムは、耐熱性と高剛性を備えたエンジニアリングプラスチックフィルムとして、磁気記録材料用途や回路基盤用途など多用途で使用されている。
【0003】
一般に、溶液製膜法では、ポリマー溶液を口金からドラム、エンドレスベルト、キャリアフィルムなどの支持体上に流延させて膜状にし、その膜から溶媒を乾燥させる乾燥機と、この乾燥機で製造された膜体(フィルム体)を液体中に通してフィルムに含まれる溶媒を抽出する溶媒抽出処理装置と、この溶媒抽出処理装置により溶媒を完全除去あるいは溶媒濃度を低減させた膜体(フィルム体)を幅方向に広げる横延伸機と、この横延伸機(テンター)により得られた製品としてのフィルムをロール状に巻き取る巻取機とが用いられる。
【0004】
このような溶液製膜法においては、搬送フィルムの幅方向端部に変形があると、ポリマー溶液を上記支持体に流延させて得られる膜状物を剥離する段階、また延伸工程で、その変形を起点にフィルムが破断することが問題となる。搬送フィルムの幅方向の端部の状態を評価する手段として、例えば、最終製品となるスリット後にフィルム端部の欠けを評価する方法(特許文献1)、流涎機から剥離された後にフィルム端部の変形を評価する方法(特許文献2)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-179595号公報
【特許文献2】特開2022-103041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や2に記載の方法は、フィルム製造工程のうち特定の1つの工程で幅方向端部の欠けや変形を検出するため、それ以外の工程でフィルム端部の欠けや変形を検出することは困難である。上記課題に鑑み、本発明は、フィルム製造工程中の全体にわたり、破れに繋がる幅方向端部の変形を検出することができるフィルムの製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、下記の構成からなる。
(1)流延機から剥離された搬送フィルムの面と垂直な方向から、前記搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を継続的に撮影し、前記画像又は前記動画より、前記幅方向端部における変形の発生を確認する工程を2つ以上有することを特徴とする、フィルムの製造方法。
(2)キャスト工程後と一軸延伸工程後に前記幅方向端部における変形の発生を確認する工程を有することを特徴とする、(1)に記載のフィルムの製造方法。
(3)前記幅方向端部における変形の発生を確認する工程で確認された変形の変形量を工程間で比較し、変形の変化量を評価することを特徴とする、(1)または(2)に記載のフィルムの製造方法。
(4)前記キャスト工程後で確認された変形の変形量をX、前記一軸延伸工程後で確認された変形の変形量をY、工程間で比較した変形の変化量をY/Xとしたとき、Y/Xが2.50以上である場合に異常を検知することを特徴とする、(2)または(3)に記載のフィルムの製造方法。
(5)前記一軸延伸工程後で確認された変形が特徴Aを有する場合に異常を検知することを特徴とする、(2)に記載のフィルムの製造方法。
特徴A:変形の凹み部に切れ込みが生じている状態
(6)前記異常の発生頻度の周期性を評価することを特徴とする、(4)または(5)に記載のフィルムの製造方法。
(7)前記異常の発生が確認されたタイミングでアラーム表示がなされることを特徴とする、(4)~(6)のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
(8)前記フィルムがアラミドフィルムであることを特徴とする、(1)~(7)のいずれかに記載のフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造工程で発生するフィルムの破れの一因となる幅方向端部の変形を工程全体にわたって検出することができるフィルムの製造方法を提供することができる。本発明のフィルムの製造方法は上記効果を奏するため、当該方法を用いることでフィルム破れの発生工程を早期に特定することが可能となり、生産効率が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のフィルムの製造方法について具体的に説明する。本発明のフィルムの製造方法は、流延機から剥離された搬送フィルムの面と垂直な方向から、前記搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を継続的に撮影し、前記画像又は前記動画より、前記幅方向端部における変形の発生を確認する工程を2つ以上有することを特徴とする。
【0010】
本発明のフィルムの製造方法は、流延機から剥離された搬送フィルムの面と垂直な方向から、搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を継続的に撮影する。ここで流延機とは、ポリマー溶液を口金からドラム、エンドレスベルト、キャリアフィルムなどの支持体上に流延させて膜状に成形する装置をいう。「流延機から剥離される」とは、流延機のドラム、エンドレスベルト、キャリアフィルムなどの支持体から、膜状物が剥離されることをいう。搬送フィルムとは、流延機から剥離された後、最終製品として巻き取られるまでの膜状物やフィルム、すなわち流延機から剥離された以降の製造工程にあるフィルムをいう。ここで幅方向とは、搬送フィルムの走行方向(長手方向)にフィルム面内で直交する方向をいう。また、「搬送フィルムの面と垂直な方向」とは、搬送フィルムの面とのなす角度が80°~90°である場合をいう。
【0011】
この搬送フィルムの面と垂直な方向から、搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を継続的に撮影するタイミングは、流延機から膜状物が剥離されて搬送フィルムとなった地点から下流であれば特に限定されず、2つ以上であればその数も限定されないが、搬送フィルムの幅方向端部の変形は、下流工程におけるフィルム破れの要因になり得るため、早期に検出することが好ましい。この観点から、キャスト工程後と一軸延伸工程後の2つの工程で行われることが好ましい。キャスト工程後とは、流延機から剥離された地点から搬送フィルムを一軸方向に延伸する前のタイミング、一軸延伸工程後とは、搬送フィルムを一軸方向に延伸する工程(一軸延伸後にさらに乾燥を行う場合は当該乾燥工程)を経たタイミングをいう。また、なお、「画像又は動画を継続的に撮影する」とは、製造ラインが稼働している状況下で、リアルタイム動画を撮影すること、若しくは一定の間隔で画像や動画を撮影することをいう。
【0012】
本発明のフィルムの製造方法においては、搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を撮影すればよいが、両側の幅方向端部における変形を早期に検知することにより、搬送フィルムの全体にわたって幅方向端部の変形を検知できる。そのため、両方の幅方向端部の画像又は動画を撮影することが好ましい。
【0013】
幅方向端部の画像又は動画を撮影する手段としては、例えば、カメラやビデオカメラを用いることができる。カメラやビデオカメラは、照明の光が幅方向端部を透過した後の光を受光できるものであれば特に限定されず、撮像はモノクロでもカラーでもよい。
【0014】
本発明のフィルムの製造方法においては、フィルム破れの発生を予測するために、画像又は動画より、幅方向端部における変形の発生を確認する工程を2つ以上有する。幅方向端部における変形の発生を確認する方法としては、得られた画像や動画から目視で確認する方法や、公知の画像処理方法(ソフトウェア)、例えば、動画編集ソフトウェアである“AviUtl”により確認する方法を用いることができる。また、教師なしAI手法であるCAE(Convolutional Auto Encoder)を用いてもよい。
【0015】
本発明のフィルムの製造方法は、幅方向端部における変形の発生を確認する工程で確認された変形の変形量を工程間で比較し、変形の変化量を評価することが好ましい。変形とは搬送フィルムの幅方向の端部から幅方向の中央側に凹みが生じている状態であり、変形量とはその凹み量、すなわち、幅方向の端部から凹みの頂点までの線分の長さである。このとき線分は幅方向の端部に垂直である。変形量は、得られた画像や動画の目視、若しくはこれらを公知の画像処理システムで解析することにより評価することができる。このようにして得られた変形量を工程間で比較し変形の変化量を評価することで、搬送フィルム破れの発生しやすさの定量化、発生工程の特定が可能になる。例えば、キャスト工程後と一軸延伸工程後で比較した変形の変化量が大きい場合には一軸延伸工程後の早いタイミングで搬送フィルム破れが発生する可能性が高くなる。すなわち1つの工程で変形の評価を行うよりもフィルム破れ発生の予測および発生工程の特定の精度を向上させることができる。また、変形の発生を確認する工程を任意の工程に設けることで、任意の工程における搬送フィルム破れの発生のしやすさを定量化することができる。
【0016】
本発明のフィルムの製造方法は、キャスト工程後で確認された変形の変形量をX、一軸延伸工程後で確認された変形の変形量をY、工程間で比較した変形の変化量をY/Xとしたとき、Y/Xが2.50以上である場合に異常を検知することが好ましい。工程間で比較した変形の変化量Y/Xが2.50よりも小さい場合には破れが発生する可能性が低いため、Y/Xが2.50以上である場合に異常を検知することで搬送フィルム破れが発生しうる状態を精度よく検知することができる。また、変化量Y/Xは、大きければ大きいほど搬送フィルム破れに直結しやすいため上限は特に限定されないが、製膜の実現可能性を考慮すると300.0となる。
【0017】
本発明のフィルムの製造方法は、一軸延伸工程後で確認された変形が特徴Aを有する場合に異常を検知することが好ましい。特徴Aとは変形の凹み部に切れ込みが生じている状態である。特徴Aを有するか否かは得られた画像や動画の目視、若しくはこれらを公知の画像処理システムで解析することにより判別することができる。また、教師ありAI手法であるCNN(Convolutional Neural Network)を用いてもよい。
【0018】
本発明のフィルムの製造方法は、工程間で比較した変形の変化量の評価により検知された異常、もしくは、一軸延伸工程後で確認された変形の特徴により検知された異常の発生頻度の周期性を評価することが好ましい。また、工程間で比較した変形の変化量の評価により検知された異常と一軸延伸工程後で確認された変形の特徴により検知された異常の両者の発生頻度の周期性を同時に評価してもよい。これら異常の発生頻度の周期性を評価することで、発生源の特定を早期に判断できることがあるためである。例えば、ドラム、エンドレスベルト、搬送ロールの一周の長さの周期で変形が発生していることが分かれば、これらの異常によるものであると推定することが可能である。
【0019】
発生頻度の周期性を評価する方法としては、例えば、画像を撮影する場合であれば、一定の時間間隔で撮影して得られた画像を確認して周期性の有無を評価する方法を用いることができる。動画を撮影する場合であれば、動画を再生して異常が発生した時間を記録することにより周期性の有無を評価する方法を用いることができる。
【0020】
本発明のフィルムの製造方法は、工程間で比較した変形の変化量の評価により異常が検知されたタイミングでアラーム表示がなされることが好ましい。このような態様とすることにより、搬送フィルムの破れに繋がる異常を早期に確認することができる。アラーム表示の方法は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、人間が視覚や聴覚により認識できる手段から適宜選択することができる。具体例としては、監視モニタ上に異常ピークの発生があったことを表示する方法や、異常ピークの発生を確認した段階で警報を鳴らす方法等が挙げられる。なお、これらの方法は単独で用いても、複数を併用してもよい。
【0021】
本発明のフィルムの製造方法において、フィルムは溶液製膜で製造するものであれば特に制限されず、例えば、アラミドフィルム、芳香族ポリイミドフィルム等とすることができる。中でも、引き裂き伝播性の観点から、アラミドフィルムの製造で使用することが好ましい。ここで、アラミドフィルムとは芳香族ポリアミドフィルムをいい、より具体的には、フィルムを構成する全成分中、芳香族ポリアミドが50質量%より多く100質量%以下含まれるフィルムをいう。
【0022】
以下に、本発明のフィルムの製造方法について、溶液製膜法により製造される芳香族ポリアミドフィルムを例に挙げて具体的に説明するが、本発明のフィルムの製造方法はこれに限定されるものではない。
【0023】
芳香族ポリアミドは、例えば、酸クロリドとジアミンから得ることができる。この場合には、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)などの非プロトン性有機極性溶媒中で溶液重合することや、水系媒体を使用する界面重合などで芳香族ポリアミドを合成することができる。このときポリマー溶液は塩化水素を副生するが、これを中和するために水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸リチウムなどの無機の中和剤、またエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの有機の中和剤を用いることができる。また、イソシアネートとカルボン酸との反応から芳香族ポリアミドを得ることもでき、この場合には、非プロトン性有機極性溶媒中、触媒の存在下で合成反応が行われる。なお、これらのポリマー溶液はそのまま製膜原液として使用してもよく、あるいはポリマーを一度単離してから上記の有機溶媒や、硫酸等の無機溶剤に再溶解して製膜原液を調製してもよい。
【0024】
本発明の芳香族ポリアミドフィルムを得るためには、ポリマーの固有粘度ηinh(ポリマー0.5gを98%硫酸中で100mlの溶液として30℃で測定した値)は、0.5(dl/g)以上であることが好ましい。また、粒子を添加する場合の添加方法は、粒子を予め溶媒中で十分にスラリー化した後、重合用溶媒又は希釈用溶媒として使用する方法や、製膜原液を調製した後に直接添加する方法などがある。
【0025】
製膜原液には溶解助剤として無機塩、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化リチウム、硝酸リチウムなどを添加する場合もある。また、製膜原液としては、中和後のポリマー溶液をそのまま用いてもよいし、一旦、ポリマーを単離後、溶剤に再溶解したものを用いてもよい。溶剤としては、取り扱いやすいことからN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の有機極性溶媒が好ましいが、濃硫酸、濃硝酸、ポリリン酸等の強酸性溶媒を用いてもよい。製膜原液中のポリマー濃度は2~40質量%程度が好ましい。
【0026】
このように調製した製膜原液を用いて、いわゆる溶液製膜法によりフィルム化を行う。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあり、ポリマー溶液中に無機塩が含まれる場合には、これを抽出するために湿式工程が必要であり乾湿式法を用いる。乾湿式法で製膜する場合は該原液を口金から支持体(例えば、エンドレスベルト)の上に押し出してフィルム状とし、次いで係るシートから溶媒を飛散させ、フィルムが自己支持性をもつポリマー濃度(PC)35~60質量%まで乾燥する(乾式工程)。
【0027】
乾式工程を終えたフィルムは冷却された後、支持体から剥離されて次の湿式工程の流延機(湿式浴)に導入され、脱塩、脱溶媒が行われる。湿式浴の溶媒組成は、ポリマーに対する貧溶媒であれば特に限定されないが、水、あるいは有機溶媒/水の混合系を用いることができる。この際、フィルム中の不純物を減少させるために有機溶媒/水混合系の組成比(以下の数値は質量基準)は、有機溶媒/水=70/30~0/100であるが、好ましくは60/40~30/70である。また、浴温度は40℃以上であることが好ましい。湿式浴中には無機塩が含まれていてもよいが最終的には多量の水でフィルム中に含まれる溶媒や無機塩を抽出することが好ましい。
【0028】
湿式工程を通ったフィルムは、流延機から剥離されて搬送される。この搬送フィルムの面と垂直な方向から、搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を継続的に撮影し、画像又は動画より、幅方向端部における変形の発生を確認する。
【0029】
続いて、テンター内で搬送フィルムの乾燥と熱処理を行うが、テンター内で熱処理されるまでに搬送フィルム中の溶媒含有量が5質量%未満になるまで乾燥させることが好ましい。溶媒含有量が5質量%以上の状態で熱処理工程に入ると、熱処理ムラが生じやすく、フィルムの幅方向で物性に斑が生じることや、後述の延伸工程中にフィルムが破断しやすくなることがある。この溶媒含有量は少ない方がより好ましく、0質量%付近まで完全に乾燥させることが望ましい。
【0030】
以上のようにして形成されるフィルムは、機械的性質や寸法安定性向上のために延伸を行う。延伸は、最初にシート長手方向、次いで幅方向に延伸、あるいは最初に幅方向、次いで長手方向に延伸する逐次二軸延伸法や、長手方向、幅方向へ同時に延伸する同時二軸延伸法などを用いることができる。これらの延伸方法は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどのフィルム化で行われている溶融製膜における延伸法としてよく知られているが、本発明のような溶液製膜で得るフィルムの場合には、シート中に溶媒や湿式浴成分が含有されており、またそれらをシート外へ排出させることを含んだプロセスであるため目的とするフィルムを得るためには後述する手法を採ることが好ましい。
【0031】
ここで長手方向もしくは幅方向を延伸する一軸延伸工程を通った搬送フィルム面と垂直な方向から、搬送フィルムの少なくとも一方の幅方向端部の画像又は動画を継続的に撮影し、画像又は動画より、前記幅方向端部における変形の発生を確認する。
【0032】
延伸方法としては、逐次二軸延伸法が装置上及び操作性の点から好ましい。延伸条件としては、ポリマー組成等により適正な条件を選択することが必要であるが、シートの長手方向の延伸倍率は1.00倍より大きく1.50倍以下、幅方向の延伸倍率は1.20~2.00倍であることが、目的の寸法安定性を得る上で好ましい。また、長手方向の延伸は前後の搬送ロールの周速差を用いて行い、その延伸温度はシートを構成する樹脂の種類に応じて適宜設定することができるが、20~70℃が好ましい。幅方向の延伸温度及び時間は270℃以上かつ3秒以上であることが好ましく、270~320℃かつ3秒以上がより好ましい。延伸温度が270℃未満であるとフィルムの結晶化不足となり、十分な吸湿率及び抗張力性等の寸法特性が得られないことがある。なお、延伸温度が320℃を超えると結晶化度が上がりすぎるためフィルムが脆くなり、フィルム破れが生じ易くなることがある。また、延伸の際のシート中の溶媒含有量は5質量%未満であることが好ましい。なお、延伸あるいは熱処理後のフィルムを徐冷することも好ましく、50℃/秒以下の速度で冷却することが熱収縮率を低減させるのに有効である。
【0033】
なお、本発明のフィルムの製造方法における芳香族ポリアミドフィルムは、単層フィルムでもよいが、積層フィルムであってもよい。例えば2層構成の場合には、重合した芳香族ポリアミド溶液を二分し、それぞれに異なる粒子を添加した後、積層する方法が一つの例として挙げられる。さらに3層以上の場合も同様である。これら積層の方法としては、例えば、口金内での積層、複合管での積層や、一旦1つの層を形成しておいて、その上に他の層を形成する方法などがある。また、上記のように得られた芳香族ポリアミドフィルムに対し、コロナ放電処理、プラズマ処理、除塵処理、あるいは再熱処理などの各種処理を施してもよい。
【0034】
こうして得られた芳香族ポリアミドフィルムは、必要に応じて幅方向両端部のエッジ部分を切断除去した上で、中間製品ロール又は最終製品ロールとして巻き取られる。中間製品ロールとして巻き取られた場合は、さらに中間製品ロールより二軸配向ポリエステルフィルムを巻き出し、所望の幅となるように長手方向と平行に切断して巻き取り最終製品ロールを得ることができる。なお、一本の中間製品ロールから得る最終製品ロールは、一本であっても複数本であってもよい。
【実施例0035】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら制限を受けるものではない。
【0036】
[測定及び評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示すような条件で行った。
【0037】
(1)フィルム端部撮像
キャスト工程後と一軸延伸工程後のそれぞれで同軸落射のLED光(オプテックスFA社製 OPX-S50W)を照射し、その正反射光をカメラ(Basler社製 acA640-300gm)で撮像し、撮像光量の変化からロール上に発生する変形を画像処理により検出することにより、製膜上流でのフィルム端部におけるフィルム変形を捉えた。なお、画像処理方法は、教師なしAI手法であるCAE(Convolutional Auto Encoder)を用いた。これは、正常なエッジ状態の画像を学習し、正常データを復元する復元器を構築する方法である。この方法では、変形のある異常データに対しては復元精度が落ちるため、入力画像と復元画像の誤差を比較することで正常と異常を判別することができ、異常データの識別を可能にしている。また、撮像間隔は20msとし、異常検知した時に端部画像を保存した。
【0038】
(2)フィルム幅方向端部の変形の変形量および工程間で比較した変形の変化量の評価
(1)に記載の方法で得られた画像に対して画像処理により変形量XおよびYを計測し、変化量Y/Xを算出した。このとき画像処理にはMIL(Matrox Imaging Library)を使用した。その後、フィルム破れとの関係を確認した。
【0039】
(3)変形が特徴Aを有するか否かの評価
(1)に記載の方法で得られた画像を目視し、変形している箇所の変形の凹み部に切れ込みが生じている特徴(特徴A)を有するか否かを確認した。その後、フィルム破れとの関係を確認した。
【0040】
(4)フィルムの製造
(4-1)芳香族ポリアミド溶液A
N-メチル-2-ピロリドン(以下NMP)に、2-クロロパラフェニレンジアミン(以下CPA)とジフェニルエーテル(以下DPE)をモル比が85:15となるように溶解させ、この溶液を濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通して濾過した後、重合槽へ移送した。これに濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通したクロロテレフタル酸クロライド(以下CTPC)を、CPAとDPEの合計:CTPCが100:98.5(モル比)となるように添加した。さらに、重合前にポリエーテルサルホン(住友化学(株)製 “スミカエクセル”(登録商標)5400P)を芳香族ジアミン成分に対して5.0質量部、平均1次粒径が80nmのコロイダルシリカを芳香族ジアミン成分に対して0.45質量部になるように添加して、30℃以下で2時間の撹拌を行い、重合ポリマー溶液を得た。次に、重合ポリマー溶液に炭酸リチウムを添加して4時間の中和を行った。このときの炭酸リチウムの添加量は、溶液中の塩化水素:炭酸リチウムが100:98.5(モル比)となるように調整した。さらに、重合ポリマー溶液にトリエタノールアミンを添加して1時間の撹拌を行い、重合ポリマー濃度10.8質量%の芳香族ポリアミド溶液Aを得た。このときのトリエタノールアミンの添加量は、溶液中の塩化水素:トリエタノールアミンが100:10(モル比)となるように調整した。
【0041】
(4-2)芳香族ポリアミド溶液B
NMPに、CPAとDPEをモル比が85:15となるように溶解させ、この溶液を濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通して濾過した後、重合槽へ移送した。これに濾過精度1.0μmのポリプロピレンからなるフィルターに通したCTPCを、CPAとDPEの合計:CTPCが100:98.5(モル比)となるように添加した。次に、重合ポリマー溶液に炭酸リチウムを添加して4時間の中和を行った。このときの炭酸リチウムの添加量は、溶液中の塩化水素:炭酸リチウムが100:98.5(モル比)となるように調整した。さらに、平均1次粒径が16nmのシリカ(日本アエロジル株式会社製“AEROSIL”(登録商標)R972タイプ)を重合ポリマーに対して0.3質量部添加して1時間の攪拌を行った。その後、重合ポリマー溶液にトリエタノールアミンを添加して1時間の撹拌を行い、重合ポリマー濃度10.8質量%の芳香族ポリアミド溶液Bを得た。このときのトリエタノールアミンの添加量は、溶液中の塩化水素:トリエタノールアミンが100:10(モル比)となるように調整した。
【0042】
(4-3)フィルムの製膜
次に、芳香族ポリアミド溶液Aを濾過精度1.2μmのステンレスからなる金属繊維フィルターに通し、また、芳香族ポリアミド溶液Bを濾過精度5.0μmのステンレスからなる金属繊維フィルターに通した後に口金内部で積層した。このときの芳香族ポリアミド溶液AとBの積層比率(厚み比)は、1:1になるようにした。次に、積層した芳香族ポリアミド溶液を、流延機が備える鏡面状のステンレス製ベルト上にキャストし、走行するベルト上で180℃の熱風により2分間加熱して溶媒を蒸発させ、得られた膜体をベルトから連続的に剥離した。次に、溶媒抽出処理装置の槽内へ膜体を導入して残存溶媒と中和で生じた無機塩の水抽出を行いながら、長手方向に1.15倍延伸(縦延伸)した。その後、縦延伸した膜体を横延伸機のクリップに把持させて、245℃で1.5分間の乾燥・熱処理を行い、さらに、幅方向に1.43倍の延伸(横延伸)を行った。さらに、20℃/秒の速度で徐冷し、スリッターにより幅方向両端のフィルムエッジを除去し、オシレーション幅60mmの条件でコア上に巻き取って平均厚みが3.6μmの芳香族ポリアミドフィルムを得た。
【0043】
(実施例1~4)
上記フィルム製造をもとに、キャスト工程後と一軸延伸工程後のそれぞれで搬送フィルムの幅方向端部を(1)の方法で撮像し、得られた画像を(2)の方法で評価した。評価結果を表1に示す。変化量Y/Xが2.50以上となった場合に一軸延伸工程後でフィルム破れが発生することを確認できた。
【0044】
(実施例5~6)
上記フィルム製造をもとに、一軸延伸工程後で搬送フィルムの幅方向端部を(1)の方法で撮像し、得られた画像を(2)の方法で評価した。評価結果を表2に示す。変形が特徴Aを有する場合に一軸延伸工程後でフィルム破れが発生することを確認できた。
【0045】
(比較例1)
上記フィルム製造をもとに、キャスト工程後の幅方向端部を(1)の方法で撮像し、得られた画像を(2)の方法で評価した。その結果、変形が発生していることは確認できたが、フィルム破れの発生工程がキャスト工程後なのか、一軸延伸工程後なのかを特定することができなかった。
【0046】
【0047】
本発明によれば、フィルムの製造工程で本発明のフィルムの端部の変形検出方法を用いることにより、フィルムの変形を早期に発見して必要な措置を取ることや、不良品を効率的に排除することができる。そのため、本発明のフィルムの製造方法を用いることで、高品質のフィルムを効率よく生産することができる。