(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091474
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】水晶発振器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H03H 9/19 20060101AFI20240627BHJP
H03H 3/04 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H03H9/19 D
H03H3/04 B
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023203493
(22)【出願日】2023-11-30
(31)【優先権主張番号】202211657114.4
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】523282903
【氏名又は名称】ダイオーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100137969
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 憲昭
(74)【代理人】
【識別番号】100104824
【弁理士】
【氏名又は名称】穐場 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100121463
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】チョウ タ-ジェン
(72)【発明者】
【氏名】ス ポ-ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チャン イー-シェン
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA04
5J108BB03
5J108CC04
5J108KK01
5J108MM11
(57)【要約】 (修正有)
【課題】環境温度に対する耐性が優れた水晶発振器及び水晶発振器の製造方法を提供する。
【解決手段】水晶発振器は、石英インゴット10から切断された水晶20を備え、石英インゴットは、互いに垂直な光軸Z、電気軸X及び機械軸Yを有し、水晶の主平面20A、光軸との間に、電気軸を軸心として約35度~約36度回転させた第1の角度θを有し、主平面は、電気軸との間に、光軸を軸心として回転させた第2の角度φを有し、水晶が、摂氏約30度~摂氏約45度において、振動周波数偏差の変曲点を有するようにしたものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石英インゴット(FIG.1,10)から切断された水晶(20)を備え、前記石英インゴットは、互いに垂直な光軸(Z)、電気軸(X)及び機械軸(Y)を有し、前記水晶の主平面(20A)は、前記光軸との間に、前記電気軸を軸心として約35度~約36度回転させた第1の角度(θ)を有し、前記主平面は、前記電気軸との間に、前記光軸を軸心として回転させた第2の角度(φ)を有し、前記水晶が、摂氏約30度~摂氏約45度において、振動周波数偏差の変曲点を有するようにした、
水晶発振器。
【請求項2】
前記第1の角度は、約35度15分である、
請求項1に記載の水晶発振器。
【請求項3】
前記第2の角度は、約10度~約12度である、
請求項1に記載の水晶発振器。
【請求項4】
前記水晶は、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において、振動周波数偏差値が±20ppm以内である、
請求項3に記載の水晶発振器。
【請求項5】
前記第2の角度は、約12度である、
請求項3に記載の水晶発振器。
【請求項6】
前記水晶は、摂氏約-10度~摂氏約0度の範囲内において、前記振動周波数偏差値が正のピーク値を有する、
請求項5に記載の水晶発振器。
【請求項7】
前記正のピーク値は、約14ppm~約18ppmである、
請求項6に記載の水晶発振器。
【請求項8】
前記水晶は、摂氏約80度~摂氏約90度の範囲内において、前記振動周波数偏差値が負のピーク値を有する、
請求項5に記載の水晶発振器。
【請求項9】
前記負のピーク値は、約-15ppm~約-20ppmである、
請求項8に記載の水晶発振器。
【請求項10】
互いに垂直な光軸、電気軸及び機械軸を有する石英インゴットを受け取ることと、
前記電気軸を軸心として前記光軸の方向から前記機械軸の方向に向かって約35度~約36度である第1の角度だけ回転させ、さらに前記光軸を軸心として前記電気軸の方向から前記機械軸の方向に向かって約10度~約12度である第2の角度だけ回転させて、切断平面を取得することと、
前記切断平面に沿って前記石英インゴットを切断し、水晶を取得することとを含む、
水晶発振器の製造方法。
【請求項11】
前記第2の角度は、約12度であり、かつ前記水晶は、摂氏約40度~摂氏約45度において、1振動周波数偏差の変曲点を有する、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記水晶は、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において、1振動周波数偏差値が±20ppm以内である、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の角度は、約10度であり、かつ前記水晶は、摂氏約30度~摂氏約35度において、振動周波数偏差の変曲点を有する、
請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記水晶発振器の目標周波数に基づき、前記水晶の切断厚さを決定することをさらに含む、
請求項10に記載の方法。
【請求項15】
互いに垂直な光軸、電気軸及び機械軸を有する石英インゴットを受け取ることと、
前記石英インゴットをATカット角度まで回転させることと、
前記ATカット角度に基づき、さらに前記光軸を軸心として前記電気軸の方向から前記機械軸の方向に向かって補正角度だけ回転させて、切断平面を取得することと、
前記切断平面に沿って前記石英インゴットを切断し、水晶を取得することとを含む、
水晶発振器の製造方法であって、前記角度補正により、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において、切断された前記水晶の1振動周波数偏差値を±20ppm以内とした、
水晶発振器の製造方法。
【請求項16】
前記水晶は、前記摂氏約40度~摂氏約45度において、振動周波数偏差の変曲点を有する、
請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記補正角度は、約10度~約12度である、
請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記補正角度は、約12度である、
請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記水晶は、摂氏約-10度~摂氏約-5度の範囲内において、前記振動周波数偏差値が約18ppmの正のピーク値を有する、
請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記水晶は、摂氏約80度~摂氏約85度の範囲内において、前記振動周波数偏差値が約-15ppmの負のピーク値を有する、
請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明において開示される内容は、水晶発振器及びその製造方法に関し、特に、前記水晶発振器は、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間において、振動周波数偏差値を小さく維持することができ、環境温度に対する耐性が優れている。
【背景技術】
【0002】
[0002]集積回路技術の進歩に伴い、従来は大型コンピュータシステムでしか処理できなかった各種機器の制御が、現在では半導体集積回路(例えば、LSI、IC等)でも制御可能になっている。IC、LSIの動作には周波数が不可欠であるが、水晶発振器は簡易、低コスト、高精度な周波数源であり、広い周波数範囲に適用可能であって、例えば衛星通信、移動体通信機器等の多くの応用形態に適した選択であり、自動車、テレビ、コンピュータや一部の家電機器等でも用いられている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
[0003]本発明の例示的な態様が提案する水晶発振器は、石英インゴットから切断された水晶を備え、前記石英インゴットは、互いに垂直な光軸、電気軸及び機械軸を有し、前記水晶の主平面は、前記光軸との間に、前記電気軸を軸心として約35度~約36度回転させた第1の角度を有し、前記主平面は、前記電気軸との間に、前記光軸を軸心として回転させた第2の角度を有し、これによって、前記水晶が、摂氏約30度~摂氏約45度において、振動周波数偏差の変曲点を有するようにしたものである。
【0004】
[0004]本発明の別の例示的な態様が提案する水晶発振器の製造方法は、互いに垂直な光軸、電気軸及び機械軸を有する石英インゴットを受け取ることと、前記電気軸を軸心として前記光軸の方向から前記機械軸の方向に向かって約35度~約36度である第1の角度だけ回転させ、さらに前記光軸を軸心として前記電気軸の方向から前記機械軸の方向に向かって約10度~約12度である第2の角度だけ回転させて、切断平面を取得することと、前記切断平面に沿って前記石英インゴットを切断し、水晶を取得することとを含む。
【0005】
[0005]本発明のさらに別の例示的な態様が提案する水晶発振器の製造方法は、互いに垂直な光軸、電気軸及び機械軸を有する石英インゴットを受け取ることと、前記石英インゴットをATカット角度まで回転させることと、前記ATカット角度に基づき、さらに前記光軸を軸心として前記電気軸の方向から前記機械軸の方向に向かって補正角度だけ回転させて、切断平面を取得することと、前記切断平面に沿って前記石英インゴットを切断し、水晶を取得することとを含み、前記角度補正により、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において、切断された前記水晶の振動周波数偏差値を±20ppm以内としたものである。
【0006】
[0006]以下の実施形態及び添付の図面から、本発明の各態様を最もよく理解することができる。なお、本技術分野における標準的な作業習慣に従い、図中の各特徴は、縮尺通りに描かれていない。実際には、説明を明瞭にするために、いくつか特徴の寸法を意図的に拡大又は縮小する場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明のいくつかの実施例にかかる石英インゴットの切断方式を示した斜視模式図である。
【
図2】本発明のいくつかの実施例にかかる温度と振動周波数偏差値を示した関係図(総合)である。
【
図3】本発明のいくつかの実施例にかかる温度と振動周波数偏差値を示した関係図(第2の角度φは、10度又は12度)である。
【
図4】いくつかの比較例にかかる温度と振動周波数偏差値を示した関係図(第2の角度φは、6度、8度、14度又は16度)である。
【
図5】本発明のいくつかの実施例にかかる水晶発振器の製造方法のステップを示したフローチャートである。
【
図6】本発明のいくつかの実施例といくつかの比較例を比較した、温度と振動周波数偏差値を示した関係図(ATカットとSCカットを比較)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[0013]以下の開示内容では、本発明の異なる特徴を実施するための多くの異なる実施例及び例を提供する。以下、本発明を簡略化するために、部品及び配置に関する特定の例を説明する。これらは単なる例であって、限定を意図しないことは言うまでもない。例えば、以下の説明において、第1の部材が第2の部材の上方に形成されるか、又は第1の部材が第2の部材に形成されることは、前記第1の部材と前記第2の部材とが直接接触する実施例のみならず、前記第1の部材と前記第2の部材とが直接接触しないように追加の部材が前記第1の部材と前記第2の部材との間に形成される実施例を含んでもよい。また、本開示は、各例において部品の符号及び/又は文字を繰り返す場合がある。この繰り返しは、簡略化及び明瞭化を目的とし、説明される各実施例及び/又は構成間の関係を表すものではない。
【0009】
[0014]また、本明細書では、説明の便宜上、「・・・の下面」、「・・・の下方」、「・・・の下」、「・・・の上方」、「・・・の上」といった空間相対用語を用いて、図示したような、1つの部品又は部材と別の(いくつかの)部品又は部材との関係を説明する場合がある。空間相対用語は、図に示す向きに加えて、使用中又は動作中の装置の異なる向きを包含することを意図する。前記装置には、他の向きがあってもよく(90度又は他の向きに回転させてもよい)、これも同様に、本明細書で使用される空間的相対性を示す用語を説明するのに適宜用いることができる。
【0010】
[0015]本明細書で用いる「第1の」、「第2の」及び「第3の」といった用語は、様々な部品、部材、領域、層及び/又は区域を説明するものであって、これらの部品、部材、領域、層及び/又は区域は、これらによって限定されない。これらの用語は、1つの部品、部材、領域、層又は区域を別のものと区別するためだけに用いられる可能性がある。本明細において「第1の」、「第2の」及び「第3の」等の用語を用いる場合、文脈によって明確に示されない限り、順序又は重要性を示すものではない。
【0011】
[0016]水晶発振器は、水晶(quartz crystal)の圧電効果を利用して高精度の発振周波数を発生させる電子部品である。詳しくは、水晶それ自体、共振器(resonator)と呼ばれる受動部品として製造することができ、水晶と、発振回路が設計された集積回路とを組み合わせれば、パッケージ化を経て、水晶発振器(crystal oscillator:XO)と呼ばれる能動電子部品とすることができる。具体的な製品としては、用途及び仕様によって、電圧制御型水晶発振器(VCXO)、温度補償型水晶発振器/電圧制御温度補償型水晶発振器(TCXO/VCTCXO)、恒温槽型水晶発振器(OCXO)等が挙げられる。電子回路の多くは、動作を同期したり周波数基準を提供したりするのに発振器を必要とする。例えば、マイクロコントローラのクロック信号は、メモリとの間のデータの移動、命令の実行及び外部通信の速度を制御するのに用いられる。また、無線システムにおいて、発振器は、送信機と受信機との間の通信のために固定周波数を提供することができる。
【0012】
[0017]水晶は、二酸化ケイ素の単結晶であり、産業上必要な水晶(水晶チップとも呼ばれる)は、石英インゴット(quartz bar)から切り出すことができる。一般によく使用される石英インゴットは、人工的に結晶を成長させて製造される完全な単結晶であるα-石英(α-quartz)だが、水晶には異方性があるため、異なる方位に沿って切断すると異なる幾何学的スライスが得られ、幾何学的なスライスによって振動モードが異なる。水晶には、温度変化時に発振周波数に影響する弾性係数及び寸法の変化が軽微なため周波数特性が相対的に安定するという利点がある。高い精度及び安定性が求められる制約のある場面では、水晶の温度をモニタリングして誤差を随時修正するが、誤差をさらに下げる必要がある場合、いくつかの例では、水晶又は水晶を含む部品を恒温器及び吸振容器に置いて、外部温度及び振動の干渉を防止する。
【0013】
[0018]水晶発振器の性能指針としては、精度、安定性、消費電力等が挙げられ、そのうち、前者の2つは、通信プロトコル及び時間記録に極めて重要であることに加えて、水晶発振器に含まれる水晶の性質と密接に関連する。前述のように、水晶の振動は圧電効果に由来し、すなわち、水晶に圧力が加わると、水晶内部に電圧が発生し(正圧電効果)、電圧が加わると、水晶内が変形する(逆圧電効果)。また、水晶を組み合わせてフィードバックすることにより、精度及び安定性の高い共振器とすることができ、その自然周波数は、結晶の大きさ及び切り出し方式に依存する。
【0014】
[0019]一般に常用される水晶発振器では、通常、ATカット(AT-cut)により石英インゴットをスライスに切断し、これを水晶発振器に必要な水晶とする。
図1に示すように、石英の結晶形では、互いに垂直な3つの軸によって水晶の各方向を表すことができ、縦軸は、光軸(Light axis、つまりZ軸)であり、石英インゴットの稜線を通る、光軸に垂直な軸は、電気軸(Electric axis、すなわちX軸)であり、光軸、電気軸のどちらとも垂直な軸は、機械軸(Mechanical axis、すなわちY軸)である。一般に、電気軸方向の力により電荷を発生させる圧電効果は、縦圧電効果と呼ばれ、機械軸方向の力により電荷を発生させる圧電効果は、横圧電効果と呼ばれる。一方、光軸方向に力を受けたときは、圧電効果が発生しない。
【0015】
[0020]
図1に示すように、上記ATカットでは、光軸の方向から機械軸の方向に向かって約35度の角度で切断してATカット水晶90を取得する(角度の定義によれば、反時計回り方向に回転してできる角度が正の角であり、時計回り方向に回転してできる角度が負の角である)。いくつかの具体例において、ATカットでは、光軸の方向から機械軸の方向に向かって35度15分又は35度25分の角度で切断する。ATカットの他にも、実際の必要に応じて発生した他のいくつかの切断方式がある。例えば、BTカット(BT-cut)では、光軸の方向から機械軸の方向に向かって約-50度の角度で切断し、いくつかの具体例において、前記角度は、-49度又は-51度7分である。SCカット(SC-cut)では、2重回転により、まず、光軸の方向から機械軸の方向に向かって約35度の角度で角度を選択した後、電気軸の方向から前記機械軸の方向に向かって約21度回転させて切断し、いくつかの具体例において、これらの角度は、順に34度11分と21度93分との組み合わせ、又は35度15分と21度54分との組み合わせである。その他、GTカット(GT-cut)、ITカット(IT-cut)等の様々な変形があり、その具体的な切断角度は、特性が異なるために微調整される可能性があるが、各製造例における差の変化幅は相当小さい(例えば、ATカットの角度差は35度15分と35度25分である)。これら異なる角度に沿って切断された水晶は、力電変換の種類、変換効率、圧電係数、弾性係数、誘電率、温度特性及び共振周波数の各面において違いがあり、水晶発振器に必要とされるパラメータに合わせて異なる切断方法を選択し使用することができる。
【0016】
[0021]本発明のいくつかの実施例では、水晶の特定の動作温度範囲内における振動周波数偏差値を考慮して、広い動作温度範囲内において、特に、高温、低温いずれの極端な動作環境でも相当安定した振動周波数偏差値を維持できる水晶が得られ、さらには高品質で環境耐性に優れた水晶発振器を製造するのに用いることのできる、新規な石英インゴットの切断方式を提案する。前記振動周波数偏差値とは、温度変化によって水晶に実際に発生する共振周波数が水晶の元の目標周波数からずれた値を指し、そのずれの程度は、通常、パーツパーミリオン(ppm)を単位とし、例えば、0ppmであれば、偏差がない。本発明では、精密部品に許容される水晶振動周波数の偏差範囲を±20ppmとする。
【0017】
[0022]
図1に示すように、本発明のいくつかの実施例では、水晶発振器に含まれる水晶20は、1つの石英インゴット10から切断され、前記石英インゴットは、互いに垂直な光軸(Z)、電気軸(X)及び機械軸(Y)を有し、水晶の1つの主平面20Aは、光軸との間に、電気軸を軸心として約35度~約36度回転させた第1の角度θを有するとともに、電気軸との間にも、光軸を軸心として回転させた第2の角度φを同時に有する。いくつかの実施例において、この水晶の特性は、摂氏約30度~摂氏約45度において、1振動周波数偏差(frequency deviation)の変曲点(inflection point)を有することを含む。
【0018】
[0023]変曲点とは、曲線が凸から凹へ又は凹から凸へ切り替わる点を言い、曲線を通る接線が前記箇所で曲線を横切ることによって判断することができるが、これは、水晶は前記温度で振動態様が最も安定するという技術的意味を反映している。
図2の温度と振動周波数偏差値との関係図に示すように、本発明の上記実施例が規定する水晶は、その温度と振動周波数偏差値との関係が三次曲線(cubic curves)の特徴を示してもよく、第2の角度φが10度又は12度である例において、その変曲点は、摂氏約30度~摂氏約45度の範囲内に収まる。
【0019】
[0024]上記温度範囲区間は、水晶の切断角度の選択可能な範囲に関係する。いくつかの実施例において、第1の角度θは、約35度~約36度の間であり、いくつかの実施例において、第1の角度θは、約35度15分であり、いくつかの実施例において、第1の角度θは、約35度25分であり、いくつかの実施例において、第1の角度θは、ATカットで通常選択される切断角度と同じである(
図1に示すATカット水晶90を参照)。言い換えると、本発明のいくつかの実施例では、ATカットの角度を選択した上で第1の角度θを設定し、さらに第2の角度φだけ回転させた後に、石英インゴットを切断する。
【0020】
[0025]第2の角度φの範囲については、いくつかの実施例において、第2の角度φは、約10度~約12度の間であり、いくつかの実施例において、第2の角度φは、約10度であり、いくつかの実施例において、第2の角度φは、約12度であり、いくつかの実施例において、第2の角度φは、切断された水晶が広い動作温度区間内(例えば、摂氏約-40度~摂氏約125度)において振動周波数偏差値を許容範囲(例えば、±20ppm以内)に維持できるように選択される。
【0021】
[0026]詳しくは、本発明の水晶発振器は、温度変化に対し優れた耐性を有する水晶を用いることにより、寒冷又は炎天のいずれの動作環境でも相当レベルの精度を示すようにしている。車両用電子部品を例に挙げれば、車載電子部品評議会(Automotive Electronics Council:AEC)が定める車両の規定検証標準を参照すると、摂氏約-40度~摂氏約125度がAEC-Q101規格で設定されたディスクリート(discrete)半導体の動作温度範囲となっており、これは、産業上、相対的に広い動作温度区間が設けられた一例である。固有の石英インゴット切断方式によって得られる水晶が広い動作温度区間内において好ましい振動周波数偏差値を維持する特性を備えていないことを考慮すると、本発明の水晶発振器は、上記動作温度区間において振動周波数偏差値の幅が小さく、これは応用上大きな利点である。
【0022】
[0027]水晶の前記動作温度範囲内における動作について言えば、例を挙げると、
図2の温度と振動周波数偏差値との関係図(総合)に示すように、ATカットによって得られる水晶は室温(摂氏約25度)で振動周波数偏差の変曲点を有し、前記温度下のATカット水晶には振動周波数偏差値がないという特性があり、これがATカット水晶が広く用いられる理由である。しかし、動作温度が変化すると、例えば、温度が摂氏約50度まで上昇するか又は摂氏約0度まで下降すると、著しい変化のために、ATカット水晶の振動周波数偏差値は、±20ppmの範囲をそれぞれ超える。具体的には、ATカット水晶の温度と振動周波数偏差値との関係は、三次曲線の特徴を示し、摂氏約70度のときに、振動周波数偏差値が約-26.2ppmの負のピーク値を有し、その後、温度が上昇するにつれて、摂氏約90度~摂氏約110度の範囲内で、その振動周波数偏差値を20ppmと-20ppmとの間に一旦維持することができるが、摂氏約110度を超えると、その振動周波数偏差値は、持続的かつ急激に上昇し、摂氏約125度のときに、50ppmに近いスペクトルに達することもあり得、もはや許容可能な偏差程度ではない。一方、動作温度が低い場合については、ATカット水晶は、摂氏約-40度~摂氏約0度のマイナス動作温度区間内において、いずれも20ppmを超える振動周波数偏差値を有し、これはATカット水晶の低温下でのパフォーマンスが好ましくないことを意味する。
【0023】
[0028]上記ATカットで得られる水晶の特性がいくつかの動作温度区間内の振動周波数偏差値の要件に適合しない点に鑑み、本発明のいくつかの実施例では、第2の角度φを補正角度(言い換えると、ATカットでは、第2の角度φが0度であるとみなすことができる)として用い、石英インゴットを切断する角度を再度回転させることにより、得られる水晶の特性を調整し、広い動作温度区間内において振動周波数偏差値の要件に適合できるようにする。
【0024】
[0029]前述のように、本発明のいくつかの実施例では、第2の角度φは、約10度~約12度の間である。ここで、第2の角度φを10度とした場合を例にすると、本発明では電気軸を軸心として回転させて、水晶の主平面20Aと光軸(Z)との間に前述で開示した第1の角度θを持たせた後、光軸を軸心として第2の角度φだけ回転させて、主平面20Aと電気軸(X)との間の第2の角度φを10度にした後に切断する。得られる水晶の温度と振動周波数偏差値との関係は
図3に示す通りであり、三次曲線の特徴を示すことに加えて、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において、振動周波数偏差値が±20ppm以内である。詳しくは、前記水晶は、摂氏約-10度~摂氏約-5度の範囲内において、振動周波数偏差値が約14ppmの正のピーク値を有し、約摂氏80度~約摂氏85度の範囲内において、振動周波数偏差値が約-20ppmの負のピーク値を有する。また、前記水晶は、摂氏約30度~摂氏約35度において、振動周波数偏差の変曲点を有する。
【0025】
[0030]
図3に示すように、第2の角度φを12度に適宜調整すると、得られる水晶の温度と振動周波数偏差値との関係が三次曲線の特徴を示すことに加えて、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において、振動周波数偏差値が±20ppm以内である。詳しくは、前記水晶は、摂氏約-10度~摂氏約-5度の範囲内において、振動周波数偏差値が約18ppmの正のピーク値を有し、約摂氏80度~約摂氏85度の範囲内において、振動周波数偏差値が約-15ppmの負のピーク値を有する。また、前記水晶は、摂氏約40度~摂氏約45度において、振動周波数偏差の変曲点を有する。
【0026】
[0031]本発明は、上記実施例において、2度の差を例示的な節点として説明したが、第2の角度φは、約10度又は約12度に限定されない。言い換えると、第2の角度φが約10度~約12度の範囲内において、切断された水晶は、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において振動周波数偏差値が±20ppm以内という特性に適合することができるとともに、前記水晶の振動周波数偏差の変曲点は、摂氏約30度~摂氏約35度の範囲及び摂氏約40度~摂氏約45度の範囲内を移動し、これは、第2の角度φの微調整に伴って、振動周波数偏差の変曲点がこれら温度区間内で変動する可能性のあることを意味する。
【0027】
[0032]いくつかの比較実施例において、
図4に示すように、第1の角度θを変えない状況において、第2の角度φを約6度、約8度等の相対的に小さい角度に調整するか、又は第2の角度φを約14度、約16度等の相対的に大きい角度に調整した場合、これらの比較性角度の節点から得られる水晶の温度と振動周波数偏差値との関係は、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において振動周波数偏差値が±20ppmの区間を超える特性を示すため、上記動作温度区間によって設定される部品の動作品質基準に適合しない。
【0028】
[0033]例えば、まず、
図4に示すように、第2の角度φを約6度に調整した場合、得られる水晶は、摂氏約-40度~摂氏約-15度の低温区間、及び摂氏約115度~摂氏約125度の高温区間のいずれでも、振動周波数偏差値が著しく大きく、基準に適合しない。
【0029】
[0034]そして、
図4に示すように、第2の角度を約8度に調整した場合、これは本発明が網羅する、第2の角度φが約10度である実施例の態様に近いが、得られる水晶は、摂氏約120度~摂氏約125度の高温区間において、振動周波数偏差値が依然として著しく大きく、基準に適合しない。
【0030】
[0035]次に、
図4に示すように、第2の角度φを約14度に調整した場合、得られる水晶は、摂氏約-10度~摂氏約0度の低温区間、及び摂氏約120度~摂氏約125度の高温区間のいずれでも、振動周波数偏差値が著しく大きく、基準に適合しない。
【0031】
[0036]さらに、
図4に示すように、第2の角度φを約16度に調整した場合、得られる水晶は、摂氏約-30度~摂氏約30度、及び摂氏約95度~摂氏約125度等の温度のいずれでも、振動周波数偏差値が著しく大きく、基準に適合しない。
【0032】
[0037]以上をまとめると、本発明のいくつかの実施例は、2重回転によって取得した切断角度によって石英インゴットから切断された水晶が大きい動作温度区間内において好ましい振動周波数偏差値を維持することを可能にし、前記水晶を応用した水晶発振器が厳格な工業規格に適合し、温度変化がより激しい動作環境への適用が可能である、石英インゴットを提供する。
【0033】
[0038]本発明のいくつかの実施例は、水晶発振器の製造方法をさらに提供するものであって、
図5に示すように、前記方法は、互いに垂直な光軸、電気軸及び機械軸を有する石英インゴットを1つ受け取るステップ501と、石英インゴットをATカット角度まで回転させるステップ502と、ATカット角度に基づき、さらに光軸を軸心として電気軸の方向から機械軸の方向に向かって1補正角度だけ回転させて、1つの切断平面を取得するステップ503と、切断平面に沿って石英インゴットを切断し、水晶を1つ取得するステップ504とを含む。このように、角度を補正することにより、摂氏約-40度~摂氏約125度の1動作温度区間内において、切断された水晶の振動周波数偏差値を±20ppm以内にすることができる。さらに、いくつかの実施例において、ATカットの角度は、電気軸を軸心として光軸の方向から機械軸の方向に向かって約35度~約36度の1角度だけ回転させたものである。
【0034】
[0039]いくつかの実施例において、切断された水晶は、パッケージング工程を経て水晶発振器の構造に含まれてもよい。また、水晶の発振周波数は、水晶の厚さに関連するため、例えば、発振周波数が高くなるにつれてチップの厚さも薄くなる。したがって、いくつかの実施例において、水晶発振器の製造方法は、水晶発振器の1目標周波数に基づき、石英インゴットを切断するときの切断厚さを決定して、必要な切断厚さの水晶を取得するステップを含む。
【0035】
[0040]本発明いくつかの実施例とATカット(第2の角度φは0度である)で得られる水晶を比べると、
図6に示すように、本発明の実施例で切断された水晶は、広い動作温度区間内において振動周波数偏差値の要件に適合することができ、特に、摂氏約-40度~摂氏約125度の動作温度区間内において、振動周波数偏差値が±20ppm以内であるという基準に少なくとも適合することができる。他の従来の水晶切断方法に比べると、例えば、前述のSCカットも2重回転によって切断角度を取得するものではあるが、SCカットは、水晶の振動周波数偏差の変曲点をATカットの摂氏約25度から摂氏約93度まで上昇させる切断方法であり、水晶の主な動作温度区間をATカットのそれより高い区間まで上昇させる意義があるとはいえ、本発明で開示した水晶発振器が提供するような、広い動作温度区間における特定の振動周波数偏差値レベルを示すものではない。実際、
図6に示すように、SCカット水晶は、摂氏約30度以下の温度において、-20ppmを超える著しく大きい振動周波数偏差値を有し、したがって、室温より低い動作環境に適用できない。
【0036】
[0041]以上の説明は、本発明のいくつかの実施例の特徴を簡潔に示したものであり、当業者であれば、本発明の内容の各態様をより完全に理解することができる。当業者であれば、本発明の内容を基礎として他の製造工程及び構造を設計又は修正して、本明細書の実施形態と同じ目的を達成し、及び/又は同じ利点を達成することが容易であることが明らかであろう。これらの均等な実施形態が本発明の内容の精神と範囲に依然として属し、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な変更、代替、修正を加えることができることが、当業者には明らかである。
【符号の説明】
【0037】
10 石英インゴット
20 水晶
20A 水晶の主平面
90 ATカット水晶
【外国語明細書】