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特開2024-91475金属黒鉛質ブラシ及びこの金属黒鉛質ブラシの製造方法
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  • 特開-金属黒鉛質ブラシ及びこの金属黒鉛質ブラシの製造方法 図1
  • 特開-金属黒鉛質ブラシ及びこの金属黒鉛質ブラシの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091475
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】金属黒鉛質ブラシ及びこの金属黒鉛質ブラシの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/05 20230101AFI20240627BHJP
   H02K 13/00 20060101ALI20240627BHJP
   H01R 39/26 20060101ALI20240627BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20240627BHJP
   B22F 3/11 20060101ALI20240627BHJP
   C22C 1/08 20060101ALI20240627BHJP
   C22C 1/10 20230101ALI20240627BHJP
   H01R 43/12 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
C22C1/05 S
H02K13/00 P
H01R39/26
B22F1/12
B22F3/11 A
C22C1/08 F
C22C1/10 D
C22C1/10 E
H01R43/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023203670
(22)【出願日】2023-12-01
(31)【優先権主張番号】P 2022206235
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】507182807
【氏名又は名称】クアーズテック合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】青沼 伸一朗
(72)【発明者】
【氏名】舘山 峰雄
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政広
【テーマコード(参考)】
4K018
4K020
5E063
5H613
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AB07
4K018AC01
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC12
4K018BD10
4K018CA02
4K018CA11
4K018DA21
4K018KA22
4K018KA34
4K018KA35
4K020AA24
4K020AC01
4K020AC04
4K020AC05
4K020AC06
4K020AC07
4K020BA05
4K020BB29
4K020BC02
5E063FA01
5E063XA04
5H613AA01
5H613AA03
5H613BB04
5H613GA09
5H613GB08
5H613GB12
(57)【要約】
【課題】ブラシのジャンピングを抑制し、ブラシの摩耗を低減し、長寿命化を図った金属黒鉛質ブラシ及び金属黒鉛質ブラの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる金属黒鉛質ブラシは、黒鉛と金属を含有すると共に、気孔が形成された金属黒鉛質ブラシにおいて、少なくとも前記金属黒鉛質ブラシの摺動面に形成された前記気孔の内部空間の少なくとも一部に、非晶質炭素が形成されている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛と金属を含有すると共に、気孔が形成された金属黒鉛質ブラシにおいて、
少なくとも前記金属黒鉛質ブラシの摺動面に形成された前記気孔の内部空間の少なくとも一部に、非晶質炭素が形成されていることを特徴とする金属黒鉛質ブラシ。
【請求項2】
前記摺動面で観察される気孔のうち、少なくとも50%の気孔において、
前記気孔内部に前記非晶質炭素が内在し、
かつ前記気孔内部を占める空隙の面積の割合が、前記気孔の断面積に対して20%以上50%以下である、
ことを特徴とする請求項1に記載の金属黒鉛質ブラシ。
【請求項3】
黒鉛と金属を含有すると共に、気孔を有する金属黒鉛質ブラシの製造方法において、
黒鉛粉末に非晶質炭素源を添加、混合し、更に金属粉末を混合し、成形、焼成する工程、あるいは黒鉛粉末から製造された黒鉛造粒粉に非晶質炭素源、金属粉末を添加、混合し、成形、焼成する工程のいずれかの工程を含む、
ことを特徴とする金属黒鉛質ブラシの製造方法。
【請求項4】
前記非晶質炭素源が、結晶性セルロースであることを特徴とする請求項3に記載の金属黒鉛質ブラシの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、発電機等の電気機械等に用いられる金属黒鉛質ブラシに関し、例えば、スリップリングと接触して、良好な摺動状態を維持しながら通電する金属黒鉛質ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
金属黒鉛質ブラシは、摺動接触により、回転電機の固定部から回転部に通電する機能を有する部材であるため、導電性、摺動性及び耐摩耗性が要求される。
この金属黒鉛質ブラシは、特許文献1に示すように、導電性を確保するための金属粒子、摺動性及び耐摩耗性を確保するための黒鉛粒子、並びに金属粒子と黒鉛粒子とを結合させるためのバインダーを混合して成形した後、焼成することによって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2775902号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記に示すような金属黒鉛質ブラシは、弾性係数が大きいため、回転電機の高速回転下では、回転部の凹凸又は回転電機自体の振動の影響により、金属黒鉛質ブラシがジャンピングして火花が発生し、ブラシ摩耗が増加するという課題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ブラシのジャンピングを抑制し、ブラシの摩耗を低減し、長寿命化を図った金属黒鉛質ブラシ及び金属黒鉛質ブラシの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためになされた本発明にかかる金属黒鉛質ブラシは、黒鉛と金属を含有すると共に、気孔が形成された金属黒鉛質ブラシにおいて、少なくとも前記金属黒鉛質ブラシの摺動面に形成された前記気孔の内部空間の少なくとも一部に、非晶質炭素が形成されていることを特徴としている。
このように、気孔が形成された金属黒鉛質ブラシにおいて、少なくとも前記金属黒鉛質ブラシの摺動面に形成された気孔の内部空間の少なくとも一部に、非晶質炭素が形成されているため、金属黒鉛質ブラシのジャンピングが抑制され、ブラシの摩耗が低減され、長寿命化を図ることができる。
【0007】
また、前記摺動面で観察される気孔のうち、少なくとも50%の気孔において、前記気孔内部に前記非晶質炭素が内在し、かつ前記気孔内部を占める空隙の面積の割合が、前記気孔の断面積に対して20%以上50%以下であることが望ましい。
【0008】
前記課題を解決するためになされた本発明にかかる金属黒鉛質ブラシの製造方法は、黒鉛と金属を含有すると共に、気孔を有する金属黒鉛質ブラシの製造方法において、黒鉛粉末に非晶質炭素源を添加、混合し、更に金属粉末を混合し、成形、焼成する工程、あるいは黒鉛粉末から製造された黒鉛造粒粉に非晶質炭素源、金属粉末を添加、混合し、成形、焼成する工程のいずれかの工程を含む、ことを特徴としている。
【0009】
このように、本発明は、黒鉛粉末に非晶質炭素源を添加、混合し、金属粉を混合し、成形、焼成する工程を経て、金属黒鉛質ブラシが製造される。あるいは黒鉛粉末から製造された黒鉛造粒粉に非晶質炭素源、金属粉末を添加、混合し、成形、焼成する工程を経て、金属黒鉛質ブラシが製造される。
本発明の金属黒鉛質ブラシの製造方法は、いずれかの工程を経て製造される点に特徴がある。具体的には、前記黒鉛粉末に非晶質炭素源を添加、混合することによって、あるいは黒鉛粉末から製造された黒鉛造粒粉に非晶質炭素源を添加、混合することによって、前記気孔の内部空間の少なくとも一部に、非晶質炭素を形成することができる。
【0010】
ここで、前記非晶質炭素源が、結晶性セルロースであることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ジャンピングが抑制され、ブラシ摩耗量が少なく、長寿命な金属黒鉛質ブラシ及びその製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明にかかる金属黒鉛質ブラシの摺動面の組織図を示す図である。
図2図2は、本発明にかかる金属黒鉛質ブラシの製造方法を示す工程である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明にかかる金属黒鉛質ブラシ及び金属黒鉛質ブラシの製造方法の実施形態について説明する。この実施形態は本発明の一例を示すものであって、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明にかかる金属黒鉛質ブラシは、図1に示すように、気孔を有する金属黒鉛質ブラシであって、前記気孔内に非晶質炭素が存在している。
前記金属黒鉛質ブラシに形成された気孔の開気孔率は、10%以上40%以下であることが望ましい。
気孔の開気孔率が10%以上であることにより、ブラシ強度が高くならずジャンピングを抑制することができる。また、気孔の開気孔率が40%以下であることにより、ブラシ強度が極端に低くならず、モーター組み付け時の破損を防ぐことができる。
好ましくは10%以上30%以下、より好ましくは15%以上28%以下である。
【0015】
前記金属黒鉛質ブラシに形成された気孔全体の20%以上70%以下の気孔が、気孔径5μm以上300μm以下の気孔であることが望ましい。
ここで、前記気孔径5μm以上300μm以下の気孔が、気孔全体の20%以上70%以下であることにより、ブラシ摩耗が抑制でき、また、ブラシの破損を防ぐことができる。
【0016】
また、前記気孔の内部には非晶質炭素が存在している。
そして、金属黒鉛質ブラシの摺動面で観察される気孔の総個数のうち、少なくとも50%の気孔において、内部の空隙の面積の割合が気孔の断面積に対して20%以上50%以下となるように、非晶質炭素が形成されているのが望ましい。すなわち、前記気孔内部の非晶質炭素が気孔の断面積に対して50%以上80%以下で存在していることが望ましい。
このように、金属黒鉛質ブラシの摺動面で観察される気孔の総個数のうち、少なくとも50%の気孔において、内部の空隙の面積の割合が気孔の断面積に対して20%以上50%以下となるように、非晶質炭素が形成されているため、ブラシのジャンピングが抑制されることとなり、ブラシ摩耗が低減され、長寿命化を実現するという効果を奏する。
また、前記金属黒鉛質ブラシの摺動面だけでなく、前記摺動面から前記摺動面と対向する面方向に0.5mmの範囲における、任意の断面で観察される気孔の総個数のうち、少なくとも50%の気孔において、内部の空隙の面積の割合が気孔の断面積に対して20%以上50%以下となるように、非晶質炭素が形成されているのが望ましい。
これによりブラシの摺動面が摩耗し新たな面が露出しても同様の効果を奏することができる。
この非晶質炭素は、後に述べるように、結晶性セルロースを使用し、形成されることが望ましい。
ここで金属黒鉛質ブラシの摺動面とは、ブラシにおける整流子もしくはスリップリングと接する面のことをいう。
【0017】
ところで、この金属黒鉛質ブラシに使用される金属粉末としては、例えば銅、銀、アルミニウム、錫、鉛、マンガン、鉄、ニッケルなどを用いることができるが、特に銅、銀が好ましい。前記銅、銀を用いた場合には、導電性にすぐれているという特質をいかすことができる。また、金属粉末として導電性に優れ、抵抗率や強度の調整が容易などの理由から電解銅粉末を用いても良い。
尚、前記電解銅粉末は、粒径が40乃至50μm(または300メッシュパス)のものが用いられることが望ましい。
ここで、粒径はレーザー回折・散乱法によって測定したものである。
【0018】
また、この金属黒鉛質ブラシに使用される黒鉛(黒鉛粉末)としては、例えば燐片状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛粉末、カーボンブラック、コークス粉末などの人造黒鉛を挙げることができるが、特に天然黒鉛粉末を使用することが好ましい。
天然黒鉛粉末を用いた場合には、人造黒鉛よりも潤滑性に優れているために、摺動特性を向上させることができ、金属黒鉛質ブラシとしての寿命を長くさせることに寄与できる。
【0019】
この金属黒鉛質ブラシを製造するには、図2に示すように、黒鉛粉末はバインダーを添加し、混練し、乾燥し、粉砕し、造粒する(S1~S4)。
また、前記した黒鉛粉末に対して添加されるバインダーとしては、常温においては粉末状であり、加熱によって液状となる例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を使用するのが望ましい。このバインダーは、アルコールに溶解して黒鉛粉末に添加される。
また、前記バインダーの添加量は成型後、熱処理により必要充分な結合強度を得られる量であればよい。好ましくは、バインダーの添加量は黒鉛粉末に対して10~20重量%である。
【0020】
更に、黒鉛粉末にバインダーを添加する際、非晶質炭素源を添加する(S1)。あるいはまた、黒鉛粉末にバインダーを添加、造粒し、所定の粒径を有する黒鉛造粒粉を製作した後、金属粉末を添加する際、非晶質炭素源を添加しても良い(S5)。
【0021】
前記非晶質炭素源としては、例えば、結晶性セルロース使用するのが望ましい。結晶性セルロースを添加する場合、粉体あるいは薄片で添加する。
前記結晶性セルロースが粉体の場合、粒径が、5μm以上300μm以下であることが好ましい。粒径が、5μm未満の場合にはブラシ強度が高くなる。一方、粒径が300μmを超える場合には、ブラシ破損の虞がある。
【0022】
また、前記結晶性セルロースが薄片の場合、横20μm~300μm、縦20μm~300μm、厚さ10μm~120μmが好ましい。
前記薄片が、横寸法範囲、縦寸法範囲、厚さ寸法範囲未満の場合には、凝集粉となり、好ましくない。一方、前記薄片が、横寸法範囲、縦寸法範囲、厚さ寸法範囲を超える場合には、得られる気孔は欠陥となり機械特性を大きく低下させる虞がある。
【0023】
前記非晶質炭素源の添加量は、少なくとも金属黒鉛ブラシ質における摺動面の断面で観察される、少なくとも50%の気孔において、内部の空隙の面積が前記気孔の断面積に対して20%以上50%以下となるように、非晶質炭素が内在される量であれば良い。
具体的には、非晶質炭素源の添加量は黒鉛粉末(もしくは黒鉛造粒粉)および金属粉末の総量(100重量%)に対して5~20重量%である。
【0024】
また、黒鉛造粒粉の粒径は、20μm乃至1000μmのもの(または15メッシュパス)が好ましく、より好ましくは、50μm乃至300μmである。
黒鉛造粒粉の粒径が1000μmを越える場合においては、機械的な強度が低下する虞があり、一方、20μm未満の場合においては、抵抗率が著しく増加する虞がある。
ここで、粒径はレーザー回折・散乱法によって測定したものである。
【0025】
そして、上記した黒鉛造粒粉に、金属粉末を添加する(S5)。金属粉末として電解銅粉を添加するのがより望ましい。
尚、前記したように、金属粉末を添加する際、前記非晶質炭素源を添加しても良い(S5)。但し、S1において、既に非晶質炭素源が添加されている場合には、添加しない。
また、固体潤滑剤を添加しても良い。固体潤滑剤としては、高温時の潤滑性に優れているという理由により、二硫化モリブデン(MoS)、二硫化タングステン(WS)、窒化ホウ素(BN)のいずれか1つまたは複数が用いても良い。
【0026】
金属黒鉛質ブラシにおいて、前記金属と前記黒鉛と、前記非晶質炭素の割合(重量比)は、金属含有量:黒鉛含有量:非晶質炭素含有量が、20~80:5~73:7~15であることが好ましい。
金属含有量を増加させると、ブラシ本体の導電率を増大させることができるものの、火花が発生し、摺動不良が発生する。一方、黒鉛含有量を増加させると、ブラシ強度の低下、過度の発熱によって、ブラシの耐摩耗性が悪化する虞がある。
【0027】
また、非晶質炭素が少ないと、金属黒鉛質ブラシに所定量の気孔を形成することができず、少なくとも50%の気孔において、内部の空隙の面積の割合が前記気孔の断面積に対して20%以上50%以下となるように、非晶質炭素が内在させることができない。
一方、非晶質炭素が多いと、金属黒鉛質ブラシに所定量を超える気孔が形成され、強度が低下する。
好ましくは、前記黒鉛粉末が5重量%以上73重量%以下、金属粉末が20重量%以上80重量%以下、前記非晶質炭素源が7重量%以上15重量%以下であることが望ましい。
【0028】
さらに加圧成型については特に制限はなく、通常の公知の方法で行うものとし、例えば成型圧力は2乃至4トン/cmで成型することが好ましい(S7)。熱処理温度(焼成温度)は400℃~900℃以下で処理することが好ましい(S8)。そして、前記熱処理より、金属黒鉛質ブラシが製造される(S9)。
【実施例0029】
(実施例1)
天然黒鉛粉の重量に対し、バインダーとしてフェノール樹脂粉末を10重量%添加し、混練機にて混練した。混練物を、粉砕機を用いて粉砕し、篩通しを行い、粒径が50乃至300μm(または50メッシュパス)の黒鉛造粒粉を得た。
得られた黒鉛造粒粉70重量%に、金属粉末として電解銅粉末を30重量%添加した。
尚、前記電解銅粉末は、粒径が40乃至50μm(または300メッシュパス)のものを用いた。
【0030】
更に、非晶質炭素源として、粒径が、5μm乃至100μmの結晶性セルロースとして旭化成製「セオラス(登録商標)」を7.5重量%添加し、混合し、4トン/cmの成型圧力で角柱状に成型した。これを600℃で2時間熱処理した。
その後、10mm×16mm×32mmに切り出し、リード線を埋め込み金属黒鉛質ブラシとした。
【0031】
(気孔率、気孔径の測定)
気孔率、気孔径を下記の測定方法により、測定した。
気孔率はJIS R 1634に規定されている水浸法により測定した。更に気孔径は水銀圧入法により測定した。
前記金属黒鉛質ブラシに形成された気孔の開気孔率は10%、前記金属黒鉛質ブラシに形成される気孔径は、10μm~100μmであり、前記金属黒鉛質ブラシに形成された、気孔全体の20%以上70%以下が、気孔径5μm~300μmであった。
【0032】
(気孔内の非晶質炭素の検証)
ブラシの摺動面で観察される気孔について、下記の測定方法により測定した。
樹脂包埋したブラシにおいて摺動面を任意の倍率により光学顕微鏡を用いて組織観察を実施した。広い範囲で観察を行い、非晶質炭素を内在する20個程度の気孔を抽出した。得られた画像についてデジタル画像処理を行い気孔面積に対する非晶質炭素の比率を計算により導いた。
ブラシの摺動面で観察される気孔のうち、50%の各気孔において、気孔内部の空隙の面積の割合が前記気孔の断面積に対して20%以上50%以下となるように、非晶質炭素が内在していた。その結果を表1に示す。
【0033】
(弾性率の測定)
弾性率はJIS R 1602「ファインセラミックスの弾性率試験方法」により測定した。弾性率の測定方法は数種類あるが共振法により取得した。その結果を表1に示す。
【0034】
(金属黒鉛質ブラシの摩耗性試験)
次に、この金属黒鉛質ブラシとSUS製スリップリングを用いて摺動試験を行った。
スリップリングの材質はSUS304、スリップのリング周速は25m/s、スリップリングのバネ圧:200g/cm、電流密度:10A/cmとし、湿度30%、温度20~25℃の条件下で、金属黒鉛質ブラシをスリップリングに対して1000時間摺動させ、金属黒鉛質ブラシの摩耗量を測定した。その結果を表1に示す。
【0035】
(実施例2乃至実施例5)
実施例2乃至実施例5では、バインダーの種類、非晶質炭素源の種類を変えることなく、以下に示すように添加量のみ変え、その他の条件は実施例1と同一とし、気孔内の非晶質炭素の検証、弾性率の測定、金属黒鉛質ブラシの摩耗性試験(金属黒鉛質ブラシの摩耗量)を行った。その結果を表1に示す。
実施例2ではバインダー15重量%、非晶質炭素源10重量%、
実施例3ではバインダー15重量%、非晶質炭素源5重量%、
実施例4ではバインダー15重量%、非晶質炭素源15重量%、
実施例5ではバインダー10重量%、非晶質炭素源10重量%とした。
【0036】
(比較例1)
セルロース粉末を7.5重量%添加し、その他の条件は特開平2-197238に記載の実施例4と同一の製造方法で金属黒鉛質ブラシを製作した。尚、特開平2-197238の実施例4には、セルロース粉末の具体的な記載がないため、結晶セルロースではない一般的なセルロースを使用した。
即ち、粒径100μm以下の人造黒鉛粉100重量%に対して揮発性粉末としてセルロース粉末を7.5重量%添加・混合し、混合粉を得た。セルロース粉末の粒径は10~50μmであった。
そして、フェノール樹脂15重量%をアルコール40重量%で溶解した結合剤によって前述の混合粉を混練した後、乾燥および粉砕し、銅粉40重量%,混練粉60重量%の割合で混合し、2t/cmで成型した後、500℃で焼成して金属黒鉛質ブラシを得た。
そして、実施例1と同様に気孔内の非晶質炭素の検証、弾性率の測定、金属黒鉛質ブラシの摩耗性試験(金属黒鉛質ブラシの摩耗量)を行った。その結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
測定結果から、気孔内に非晶質炭素が存在する場合、金属黒鉛質ブラシの摩耗量が少ないことが確認された。特に気孔が形成された金属黒鉛質ブラシの摺動面で観察される、少なくとも50%の気孔において、前記気孔内部を占める空隙の面積の割合が、前記気孔の断面積に対して20%以上50%以下となるように、前記非晶質炭素が内在している場合は、金属黒鉛質ブラシの摩耗量がさらに少ないことが確認された。
【0039】
本発明の電刷子は、整流子用またはスリップリング用のいずれにも用いることができるが、特に、スリップリングと接触するスリップリング用の金属黒鉛質ブラシのとして用いるのが、より好ましい。
図1
図2