(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091491
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】特に携行型時計のための、耐衝撃性の圧電回転モーター
(51)【国際特許分類】
G04C 3/12 20060101AFI20240627BHJP
H02N 2/12 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G04C3/12 A
H02N2/12
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023206697
(22)【出願日】2023-12-07
(31)【優先権主張番号】22216620.9
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】モハマド フセイン・カーロバイヤン
(72)【発明者】
【氏名】イヴァン・フェリ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・パラット
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-ジャック・ボルン
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681AA06
5H681AA19
5H681BB02
5H681BB14
5H681BB20
5H681BC02
5H681DD23
5H681DD40
5H681DD53
5H681DD67
5H681EE14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】消費電力と体積を小さく維持しつつ、高電磁場に耐え、横方向の衝撃に耐えることができる回転式圧電モーターを提供する。
【解決手段】機械的デバイスを回転させアクチュエートするように構成しているローター3と、圧電アクチュエーターを備えローターを回転させるように構成しているステーター2とを備え、圧電アクチュエーターは、運動によってローターを第1の方向に回転させる可動要素5を備え、電気的にアクチュエート可能な2つの共振器6、7があり、共振器は、可動要素に接続してローターに対して動かして可動要素を回転させ、2つの共振器は、互いに異なる第1の方向と第2の方向に可動要素を振動させるように可動要素に対して配置されており、各共振器には、回転中心があり、2つの共振器は、各回転中心のまわりにおいて、各共振器の平面に与えられるすべての加速力に起因するトルクがゼロであるように、可動要素に対して配置される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に計時器のための、回転式圧電モーター(1)であって、
機械的デバイスを回転させアクチュエートするように構成しているローター(3)と、
圧電アクチュエーターを備え前記ローター(3)を回転させるように構成しているステーター(2)とを備え、
前記圧電アクチュエーターは、運動によって前記ローター(3)を第1の方向に回転させる可動要素(5)を備え、
前記圧電アクチュエーターには、電気的にアクチュエート可能な2つの共振器(6、7)があり、
前記共振器は、前記可動要素(5)に接続されて前記可動要素(5)を前記ローター(3)に対して動かして前記可動要素(5)を回転させ、
前記2つの共振器(6、7)は、互いに異なる第1の方向と第2の方向に前記可動要素(5)を振動させるように前記可動要素(5)に対して配置されており、
各共振器(6、7)には、回転中心があり、
前記2つの共振器(6、7)は、各回転中心のまわりにおいて、各共振器(6、7)の平面に与えられるすべての加速力に起因するトルクがゼロであるように、前記可動要素(5)に対して配置される
ことを特徴とする圧電モーター(1)。
【請求項2】
前記第1の共振器(6)と前記第2の共振器(7)は、前記第1の方向と前記第2の方向が実質的に垂直であるように、互いに対して垂直に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項3】
前記第1の共振器(6)と前記第2の共振器(7)はそれぞれ、前記可動要素(5)の形の異なる辺に配置され、好ましくはこれらの辺は隣り合っている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項4】
前記可動要素(5)が前記第1の方向に動くことを可能にする第1の並進運動台(24)を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項5】
前記可動要素(5)が前記第2の方向に動くことを可能にする第2の並進運動台(25)を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の圧電モーター(1)。
【請求項6】
前記第2の並進運動台(25)は、前記第1の並進運動台(24)と直列に配置され、
前記可動要素(5)は、前記第2の並進運動台(25)に接続される
ことを特徴とする請求項5に記載の圧電モーター(1)。
【請求項7】
前記第1の並進運動台(24)と前記第2の並進運動台(25)は、互いに実質的に垂直である
ことを特徴とする請求項5に記載の圧電モーター(1)。
【請求項8】
前記可動要素(5)を間に共振器(6、7)とは反対側に並進運動台(24、25)が配置されている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項9】
各共振器(6、7)には、圧電材料を含む対のフレキシブルブレード(36、37)によってアクチュエートされる振動錘(20)がある
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項10】
前記可動要素(5)は、前記第1の方向とは反対の第2の方向にて、好ましくは円形である、軌道運動を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項11】
前記可動要素(5)は、前記回転モーターが動作している間は、前記ローター(3)と常に接触している
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項12】
前記可動要素(5)の運動によって、前記ローター(3)が連続的に回転する
ことを特徴とする請求項10に記載の圧電モーター(1)。
【請求項13】
前記可動要素(5)は、リングの形をしており、
前記ローター(3)は、前記リングの内側に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項14】
前記可動要素(5)と可動な前記ローター(3)は、前記リングの内側にて接触する
ことを特徴とする請求項13に記載の圧電モーター(1)。
【請求項15】
前記ローター(3)には、歯車(9)があり、
前記リングには、前記歯車(9)の外側歯列(12)と連係する内側歯列(10)がある
ことを特徴とする請求項13に記載の圧電モーター(1)。
【請求項16】
前記可動要素(5)は、自身上を回転するように固定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の圧電モーター(1)。
【請求項17】
前記第1の共振器(6)と前記第2の共振器(7)は、90°位相がずれるようにアクチュエートされる
ことを特徴とする請求項1記載の圧電モーター(1)。
【請求項18】
少なくとも1つの針を回転させるように構成しているギアトランスミッションを備える計時器用ムーブメントを備える計時器であって、
前記ギアトランスミッションをアクチュエートするように構成している請求項1に記載の圧電モーター(1)を備える
ことを特徴とする計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転式圧電モーターの技術分野に関する。本発明は、さらに、前記のような回転式圧電モーターを備える計時器の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
携行型時計(例、腕時計、懐中時計)の製造において通常用いられる電気モーターは、電磁物理的原理で動作する「Lavet」タイプの回転モーターである。この種のモーターは、一般的には、コイルがある固定子と、コイルの位相をシフトすることによって回転する、磁化されたローターとを備える。
【0003】
しかし、このようなモーターにおいては、高磁場に対する耐性が限定される。特定の磁場値よりも大きいと、モーターの動きがおかしくなる。一般的には、磁場が2mTよりも大きいとモーターの動きがおかしくなる。
【0004】
したがって、この問題を避けるには、他の物理的原理で動作するモーターを設計する必要がある。
【0005】
例えば、スイス特許CH709512に記載されているような、櫛部を備える静電モーターがある。しかし、櫛部は空間を占め、「Lavet」タイプのモーターよりも大きいエネルギーを消費してしまう。
【0006】
圧電効果に基づくモーターも、例えば欧州特許EP0587031において、開発されている。しかし、このモーターは、カレンダーをアクチュエートすることに限定される。また、パワー消費が大きいことと早期摩耗のリスクがあることによって、通常最も大きいエネルギーを必要とする秒針を駆動させることができない。
【0007】
パワー消費を抑えるために、The Swatch Group Research and Development Ltd.のために出願された欧州特許出願EP21216102.0において、軌道圧電モーターが記載されている。このモーターにおいて、ローターは、リングの内側に配置されたローターに接触するように軌道を描くリング状の可動要素によって駆動される。可動要素を動かすために、圧電アクチュエーターは、フレキシブルな振動アームによって形成される複数の圧電共振器を備え、これらのアームは、可動要素を保持して動かし、アームは、アクチュエート可能な圧電材料を含む。
【0008】
しかし、この手法においては高度な小型化を実現できるが、横方向の衝撃がリングに対して直接力を与えて、軌道運動を妨げ、場合によっては、このような圧電モーターを備える計時器用ムーブメントをクロノメーター的に劣化させてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、消費電力と体積を小さく維持しつつ、高電磁場に耐え、横方向の衝撃に耐えることができるような回転式圧電モーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このために、本発明は、特に計時器のための、回転式圧電モーターに関し、機械的デバイスを回転させアクチュエートするように構成しているローターと、圧電アクチュエーターを備え前記ローターを回転させるように構成しているステーターとを備え、前記圧電アクチュエーターは、運動によって前記ローターを第1の方向に回転させる可動要素を備える。
【0011】
前記圧電アクチュエーターには、電気的にアクチュエート可能な2つの圧電共振器があり、これらの2つの共振器は、前記可動要素に接続されて前記可動要素を前記ローターに対して動かして前記可動要素を回転させ、前記2つの共振器は、互いに異なる第1の方向と第2の方向に前記可動要素を振動させるように前記可動要素に対して配置されており、各共振器には、回転中心があり、前記2つの共振器は、各回転中心のまわりにおいて、各共振器の平面に与えられるすべての加速力に起因するトルクがゼロであるように、前記可動要素に対して配置される点で、本発明は画期的である。
【0012】
このような構成を有するステーターは、圧電アクチュエーターを用いて回転運動をローターに容易に伝達することができる。ローターに接触するように可動要素を動かして、1つの方向に運動を伝達することができる。したがって、共振器が振動するときに、可動要素は、軌道回転運動を行ってローターに接触して、そのローターに力を伝達して第1の方向に回転させる。
【0013】
各回転中心に与えられるすべての力に起因するトルクが、各共振器の平面においてゼロであるので、横方向の衝撃の影響を大きく減少させることができ、場合によっては打ち消すことができる。このことによって、軌道運動を妨げてしまうリスクをなくし、したがって、時計仕掛けのモーターの場合にはクロノメーター的な損害をなくす。
【0014】
また、実質的に異なる方向における振動を発生させるために2つの圧電共振器を備えることによって、共振器の数を何倍かに増やすことを必要とせずに、可動要素が軌道運動をするように動くことができる。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、前記第1の共振器と前記第2の共振器は、前記第1の方向と前記第2の方向が実質的に垂直であるように、互いに対して垂直に配置される。このようにして、円形の軌道運動を得ることができる。
【0016】
本発明の特定の実施形態において、前記第1の共振器と前記第2の共振器はそれぞれ、前記可動要素の形の異なる辺に配置され、好ましくはこれらの辺は隣り合っている。
【0017】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素が前記第1の方向に動くことを可能にする第1の並進運動台を備える。
【0018】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素が前記第2の方向に動くことを可能にする第2の並進運動台を備える。
【0019】
本発明の特定の実施形態において、前記第2の並進運動台は、前記第1の並進運動台と直列に配置され、前記可動要素は、前記第2の並進運動台に接続される。
【0020】
本発明の特定の実施形態において、前記第1の並進運動台と前記第2の並進運動台は、互いに実質的に垂直である。
【0021】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素を間に共振器とは反対側に並進運動台が配置されている。
【0022】
本発明の特定の実施形態において、各共振器には、圧電材料を含む対のフレキシブルブレードによってアクチュエートされる振動錘がある。
【0023】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素は、前記第1の方向とは反対の第2の方向にて、軌道運動を行う。
【0024】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素は、前記回転モーターが動作している間は、前記ローターと常に接触している。
【0025】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素の運動によって、前記ローターが連続的に回転する。
【0026】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素は、リングの形をしており、前記ローターは、前記リングの内側に配置される。
【0027】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素と可動な前記ローターは、前記リングの内側にて接触する。
【0028】
本発明の特定の実施形態において、前記ローターには、歯車があり、前記リングには、前記歯車の外側歯列と連係する内側歯列がある。
【0029】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素は、自身上を回転するように固定されている。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、前記可動要素は、前記ローターのまわりに配置される。
【0031】
本発明の特定の実施形態において、前記第1の共振器と前記第2の共振器は、90°位相がずれるようにアクチュエートされる。
【0032】
本発明の特定の実施形態において、前記第1の共振器と前記第2の共振器はそれぞれ、前記可動要素の形の異なる辺に配置され、これらの2つの辺は、好ましくは隣り合っている。
【0033】
本発明は、さらに、少なくとも1つの針を回転させるように構成しているギアトランスミッションを備え、このギアトランスミッションをアクチュエートするように構成している前記のような圧電モーターを備える計時器用ムーブメントを備える計時器に関する。
【0034】
添付の図面を参照しながら説明用であって限定するためのものではない以下の説明を読むことによって、他の特徴及び利点が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】ローターとステーターが接触していない、止まっているときの、本発明に係る回転式圧電モーターの実施形態の1つを上から見た概略図である。
【
図2】ローターとステーターが6時の方向にて接触している、動作時の、本発明に係る回転式圧電モーターの実施形態を上から見た概略図である。
【
図3】ローターとステーターが9時の方向にて接触している、動作時の、本発明に係る回転式圧電モーターの実施形態を上から見た概略図である。
【
図4】ローターとステーターが12時の方向にて接触している、動作時の、本発明に係る回転式圧電モーターの実施形態を上から見た概略図である。
【
図5】ローターとステーターが3時の方向にて接触している、動作時の、本発明に係る回転式圧電モーターの実施形態を上から見た概略図である。
【
図6】圧電モーターの共振器を上から見た概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1~5は、回転式圧電モーター1の一実施形態を示している。圧電モーター1は、特に、計時器において、表盤に配置される針のような表示デバイスをアクチュエートするために用いることができる。圧電モーター1は、好ましくは、実質的に1つの平面内にて延在している。
【0037】
圧電モーター1は、自身上を回転することができるローター3を備え、このローター3は、特に表示デバイスのための、機械式ギアトランスミッションを回転させアクチュエートすることができるように構成している。圧電モーター1は、ローター3をアクチュエートし回転させるように構成しているステーター2を備える。
【0038】
このローター3は、例えば、圧電モーター1の中心において配置される歯車9である。この歯車9は、例えば、両端にピボットがある軸に取り付けられ、これらのピボットは、その軸が回転することを可能にするベアリングに取り付けられる。歯車9には、外側リング28と、中心にあるハブ27とがあり、このハブ27は、堅固なスポーク19によってリング28に接続される。軸13には、歯車9と平行にピニオン21があり、このピニオン21は、歯車9によって受けた運動を、ギアトランスミッションに、例えば、計時器のムーブメントに、伝達するように構成している。ローター3には、リング28上に、周歯10があり、これによって、歯車9をアクチュエートすることが可能になる。
【0039】
好ましくは、ローター3及び/又はステーター2は、好ましくは全体的に、ケイ素のような微細加工可能な材料を含む。代わりに、ローター3は、ステーター2がケイ素で作られている場合に、摩耗や摩擦を抑えるために、金属で作られていることができ、その逆も同様である。
【0040】
さらに、微細加工することによって、ローター3及び/又はステーター2は、好ましくは全体的に、水晶、ニッケル(金属の電鋳やLIGAタイプの方法によって得られる)、ダイヤモンド(ALDタイプの堆積によって得られる)、ガラス(選択的レーザーエッチング(SLE)によって得られる)のような材料を含む。
【0041】
ステーター2は、静的な固定要素4と、ローター3の歯車8をアクチュエートするように構成している可動要素5とを備える。可動要素5は、固定要素4から離れて配置される。可動要素5は、正方形の外側フレームと円形の内側フレームがあるリングの形状である。
【0042】
可動要素5は、ローター3のまわりに配置され、ローター3は、リングの内側に配置される。可動要素5には、リングの円の形状に内側歯列12があり、この内側歯列12は、ローター3の周歯10と連係してローター3を回転させる。ローター3を挿入することを可能にし、可動要素5の運動を可能にするように、リングはローター3よりも幅が広い。
【0043】
可動要素5の運動と、可動要素5とローター3との接触によって、ローター3は、第1の方向に回転する。
【0044】
このために、ステーター2は、圧電アクチュエーターを備える。
【0045】
圧電アクチュエーターには、2つの電気的にアクチュエート可能な共振器6、7がある。第1の共振器6と第2の共振器7は、可動要素5に接続されて、ローター3に対して動いて、可動要素5を回転させることができるようにする。
【0046】
共振器6、7は、振動運動を発生させて、可動要素5が軌道運動をするようにガイドする。第1の共振器6のおかげで、可動要素5が第1の水平方向Xの方に動くことが可能になり、第2の共振器6のおかげで、可動要素5が第2の垂直方向の方に動くことが可能になる。
【0047】
第1の共振器6と第2の共振器7はそれぞれ、振動錘20を備える。各振動錘20は、可動要素5の形の1つの辺9に沿って延在する細長い形状である。各振動錘20には、一端に、少なくとも1つの慣性ブロックがある。
【0048】
共振器6、7が活性化されているときに、振動錘20は、振動しているときに回転中心を中心として回転する。
【0049】
共振器6、7の特徴や動作は、この説明の下において詳細に説明する。フレームの前記辺に対して横断方向に振動が発生する。
【0050】
各振動錘20は、実質的にまっすぐな第2のフレキシブルブレード11、12によって可動要素5に接続される。第2のフレキシブルブレード11、12は、可動要素5の形の2つの隣り合う辺から延在するスタッド22から、振動錘20の端に配置された慣性ブロック21に取り付けられる。第2のフレキシブルブレード11、12は、振動錘20のアームに対して実質的に垂直である。
【0051】
第2のフレキシブルブレード11、12は、可動要素5の形の2つの隣り合う辺に沿って互いに直交するように配置される。
【0052】
振動錘20が違相で振動しているときに、各第2のフレキシブルブレード11、12は、可動要素5を交互に、引き、そして押す。
【0053】
これによって、可動要素5が軌道運動を行う。軌道運動とは、中心からずれた回転軸を中心とする可動要素5の回転運動を意味する。また、可動要素5は、その自由度が下で説明するフレキシブルな並進運動台によってブロックされるので、自身上を回転するのではない。
【0054】
本発明において、この軌道運動を発生させるために、2つの共振器6、7のみを用いる。この運動を発生させるために、付加的な共振器を備えることは必要ではない。
【0055】
可動要素5をアクチュエートするために、第1及び第2の共振器6、7は、実質的に直交方向にて振動する。
【0056】
2つの共振器は、好ましくは、互いに垂直に配置され、可動要素5の形の2つの隣り合う辺に配置される。このようにして、実質的に円形の軌道運動を得られる。
【0057】
第3の辺にて可動要素5の運動に添い、これをガイドするために、可動要素5は、さらに、2つのフレキシブルな並進運動台24、25によってステーター4に接続される。第1の並進運動台24と第2の並進運動台25は、直列に構成しており、可動要素5は、第2の並進運動台25に取り付けられている。
【0058】
各並進運動台24、25には、実質的に平行な2つの第3のフレキシブルブレード31、32、33、34と、これらの第3のフレキシブルブレード31、32、33、34が接続される可動な堅固な部分35、36とがある。
【0059】
第1の並進運動台24の第3のフレキシブルブレード31、32は、一端にてステーター2に接続されており、他端にて第1の堅固な部分30に接続されている。
【0060】
第2の並進運動台25の第3のフレキシブルブレード33、34は、一端にて第1の堅固な部分35に接続されており、他端にて第2の堅固な部分36に接続されている。この第2の堅固な部分36は、可動要素5のフレームに接続されている。
【0061】
第1の並進運動台24のおかげで、可動要素5が、軸Xに沿って水平方向に第1の自由度で動くことができ、また、第2の並進運動台25のおかげで、可動要素5が、軸Yに沿って鉛直方向に第2の自由度で動くことができる。好ましくは、第2の自由度の方向は、第1の自由度の方向に実質的に直交する。
【0062】
このために、第1の並進運動台24と第2の並進運動台25は、互いに実質的に直交する。2つの第3のフレキシブルブレード31、32、33、34は、可動要素5が自身上を回転することを防ぐが、横方向の運動は可能にする。この特徴のおかげで、可動要素5が、下で説明するようにローター3にトルクを伝達することが可能になる。
【0063】
各並進運動台24、25は、可動要素5を間にして共振器6、7とは反対側に配置されている。すなわち、共振器6、7と並進運動台24、25によって形成される対は、同じ方向にて可動要素5の両側に配置され、これによって、モーター1が非常に小型であることが確実になる。
【0064】
共振器6、7は、ローター3に対して可動要素5を動かして、ローター3を回転させるように構成している。このために、共振器6、7は、互いに違相でアクチュエートされる。
【0065】
共振器6、7どうしの間の位相シフトは、好ましくは円状である、可動要素5の軌道運動、を発生させる。可動要素5は、2つの返還台24、25のおかげで、自身上における回転に固定され続けつつ、円運動を行う。
【0066】
可動要素5の運動は、好ましくは連続的であり、ローター3を連続的に回転させる。このために、可動要素5は、モーターが動作している間は、ローター3と常に接触している。可動要素5とローター3の間の接触点Pは、リングの内側にて動くことができる。
【0067】
図2~5は、ローター3と可動要素5の間の接触点Pが、この場合は反時計回りに、リングの内側を動く間における、様々な連続的な瞬間を示している。内側の空間がローター3よりも広いリングの軌道運動によって、リングとローター3の間の接触点Pが動く。リングの内側歯列12の異なる部分が、各瞬間において、歯車9の周歯10と噛み合う。したがって、ローター3は、Pとは反対の方向にて、すなわち、反時計方向にて、自身上に回転する。
【0068】
図2において、可動要素5が上げられ、接触点Pは、歯車9の下部に、すなわち、6時の方向に、ある。
図3において、可動要素5が右にずれて、接触点Pは、歯車9の左に、すなわち、9時の方向に、ある。そして、
図4に示しているように、可動要素5が下げられ、接触点Pは、歯車9の上部に、すなわち、12時の方向に、ある。最後に、
図5において、可動要素5が左にずれて、接触点Pは、歯車9の右に、すなわち、3時の方向に、ある。1つの図から次に進むごとに、可動要素5は、1/4回転の軌道運動をする。2つの並進運動台24、25の第2のフレキシブル接続ブレード11、12、第3のフレキシブルブレード31、32、33、34、及び共振器6、7のフレキシブルブレードは、可動要素5が動く方向に従って曲がる。また、振動錘20は、以下の運動に従う。それらは、共振器6、7のそれぞれの間に90°の位相ずれがあるように正弦波的に振動する。
【0069】
ローター3と可動要素5は、機械工学において一般的に「ハーモニックギアボックス」として知られているものを形成する。例えば、ローター3の歯列10には、56歯があり、可動要素5の歯列12には、60歯がある。接触点の速さとローターの速さの間の減速ファクターは、r=(Zm-Zr)/Zrによって与えられる。ここで、Zmは、可動要素5の歯の数を表し、Zrは、ローター3の歯の数を表す。したがって、この例においては、r=(60-56)/56=1/14である。この減速は、有利である。なぜなら、モーターに直接搭載されて、例えば、針を駆動するために必要な付加的な減速ギアの数を減らすことができるからである。
【0070】
好ましくは、ローター3の歯列10の少なくとも1つの歯は、可動要素5の歯列12と接触して、運動を伝達する。したがって、このことによって、ローター3が止まるリスクをなくす。可動要素5とローター3は、歯列10の少なくとも1つの歯がローター3の歯列12と接触するような寸法を有することができる。
【0071】
好ましくは、可動要素5を振動させることが可能な共振器6、7に与えられる交流電圧の振幅は、可動要素5の振動を完全に円形にするために可変であり、これには、望まない軌跡の楕円化をいずれも補償する目的があり、モーター1の効率を増加させる目的もある。
【0072】
2つの共振器6、7のそれぞれに与えられる電気信号は、好ましくは、正弦波的であり、90°の違相となっている。振幅の一方がその最大であるときに、他方はゼロであり、逆も正しい。
【0073】
ローター3が別の方向に回転すべきであれば、共振器6、7に与えられる電圧の位相ずれの符号を単に反転させる。したがって、振動錘20の振動によって、ステーター2の可動要素5が別の方向に回転する。針の表示をアクチュエートする場合、このことによって、針の位置を両方の方向に調整することが可能になる。
【0074】
携行型時計の場合、圧電モーター1の共振器6、7それぞれの共振振動数又は固有振動数は、ムーブメントのレートを調整するために用いられる水晶の振動数に適合するようにされる。共振振動数にて動作することによって、所与のパワー消費に対して合理的な振幅が得られる。
【0075】
共振振動数に対応する励起振動数だけでなく、通常32764Hzである水晶の振動数の約数に対応する励起振動数も選択される。例えば、128Hzや256Hzの振動数を選択する。モーター1の振動数は、好ましくは、その振動振幅が共振時において最大振幅の90~95%を下回らないように、励起振動数に調整されチューンされる。
【0076】
可動要素5の質量及び/又はフレキシブルブレードの剛性を変えることによって、振動数が適応される。例えば、可動要素5の下にリングを組み付けることができ、これによって、重くして振動数を下げる。図示していないリングは、好ましくは全体的に、例えば、洋銀(nickel silver)を含む。
【0077】
また、振動数を精密に下げるために、接着剤のマイクロスティッチを加えることもできる。
【0078】
また、例えば、レーザーを用いたりミリングによって、弾性要素から材料を除去して、それらの剛性を小さくすることによっても、振動数を下げることができる。
【0079】
振動数を大きくするには、例えばレーザーやミリングによって、材料を除去することによって、可動要素5の質量を軽くすることができる。これらの方法によって非常に精密な調整が可能になるので、モーターを水晶にチューンすることに用いることが好ましい。
【0080】
共振器6、7が微細加工されるので、作るときに小さい慣性ブロックも除去して、振動数を目標値まで大きくすることができる。
【0081】
負荷につながったモーターの共振ピークは、十分に大きい、水晶のものよりもはるかに大きいほど、大きさを有する。このことが、振幅を多く失わずに、モーターの速さを、その励起振動数を変えることで変動させることができる理由であり、これによって、例えば、衝撃を受けた後の状態の損失や他の任意の妨害の埋め合わせをして、水晶のタイムベースを針の位置に再び合わせる。
【0082】
本発明によると、2つの共振器6、7は、その各共振器6、7の平面において与えられるすべての加速力に起因するトルクがゼロであるように、可動要素5に対して配置される。
【0083】
この利点は、上記の圧電モーターの構成によって達成される。
【0084】
例えば、突然の右方向への水平方向に(軸Xに沿った)加速しているときに、共振器6、可動要素5及び対の並進運動台24、25は、それらを左に押す傾向がある加速力を受ける。
【0085】
共振器6、7は、その共振器6、7の回転中心のまわりに与えられるすべての力に起因するトルクが各共振器6、7の平面においてゼロであるように、可動要素5に対して寸法を有し配置される。
【0086】
したがって、共振器6、7は、横方向の衝撃によって妨げられずに振動することができる。共振器単独の重心がピボット点を通り抜ける直線上に位置していれば、同じ共振器6、7に作用する他の衝撃の方向に対してもいえる。
【0087】
図6は、
図1~5の圧電モーターにおいて用いられているもののような共振器6、7を示している。共振器6は、主アームと、第1の端における第1の慣性ブロック44と、第2の端における第2の慣性ブロック45とがある振動錘20を備え、この第2の慣性ブロック45は、主アームの下にて折れ曲がっている肘部を形成する。
【0088】
ベース43は、実質的にまっすぐな第1の慣性ブロック44の方にオフセットされた平行六面体の形を有し、その第1の角は、第2の慣性ブロック45の折れ曲がっている肘部の方を向いている。ベース43は、第1の慣性ブロック44と、第2の慣性ブロック45の折れ曲がった肘部の間に配置されている。ベース43には、第1の角からベース43の内側の方へと開いた傾斜チャネル38がある。
【0089】
共振器は、折れ曲がった肘部の端から、振動錘20をベース43に接続する第1のフレキシブルブレード36を備えるフレキシブルガイドを備え、第1のフレキシブルブレード36は、傾斜チャネル38内にて、傾斜チャネル38の底部にある取り付け点まで延在している。
【0090】
フレキシブルガイドは、振動錘20のアームに平行に、ベース43の第1の角から、振動錘20の折れ曲がっている肘部の内側の取り付け点まで延在している第2のフレキシブルブレード37を備える。第2のフレキシブルブレード37は、第1のフレキシブルブレード36の上方に配置される。
【0091】
第1のフレキシブルブレード36と第2のフレキシブルブレード37は、「Y」字を形成して、10°~80°の範囲内、好ましくは30°~60°の範囲内、さらに好ましくは40°~50°の範囲内、の非ゼロである角度を形成するように延在している。
【0092】
2つのフレキシブルブレード36、37は、圧電材料を含み、ここでは、第2のフレキシブルブレード37全体上に、そして第1のフレキシブルブレード36の一部上に配置される。フレキシブルブレード36、37は、図示していない電気接点を利用して、前の実施形態と同様にアクチュエートされる。
【0093】
例えば、フレキシブルブレードには、2つの電極層の間に挟まれた圧電材料の層がある。これらの電極層は、水晶、ガラス、金属などの、例えば単結晶又は多結晶のケイ素である、モノリシックな構造的支持材料の頂上に配置される。
【0094】
フレキシブルブレード36、37をアクチュエートするために、ベース43には、電極層に接続されて電流を受けてフレキシブルブレードの圧電層をアクチュエートする複数の電気接点9がある。
【0095】
圧電層は、好ましくは、結晶性又は多結晶性の材料、例えば、固体セラミックス(ニオブ酸ナトリウムカリウムの場合)又はPZTタイプのセラミックス(ジルコン酸鉛チタンの場合)のもの、を含み、フレキシブルブレード36、37は、それらの変形を可能にする厚みを有する。
【0096】
したがって、圧電材料の層を電気的に活性化することによって、フレキシブルブレード36、37は、中心の方や外側の方へと交互に横方向に変形する。交流電圧によってこの活性化を発生させる。圧電層をアクチュエートすることによって、フレキシブルブレード36、37は、所定の振動数で交互に、わずかに曲がり、そしてまっすぐになる。
【0097】
2つのフレキシブルブレード36、37を逆相でアクチュエートすることを選択することで、振動錘20は、2つのフレキシブルブレードが交差する点に対応する回転中心を中心とする小さな振動を行う。したがって、振動錘20は、振動し、2つの慣性ブロック44、45は、特定の振動数にて横方向に動く。
【0098】
上記の方法による共振器6、7は、好ましくは、ケイ素、ガラス、セラミックス、金属のような単結晶又は多結晶の材料を主に含む。
【0099】
共振器6、7は、例えば、MEMS(微小電気機械システム)タイプの光リソグラフィーマイクロマシニングプロセスによって得られる。このような材料の剛性、弾性及び機械加工精度は、共振器6、7の共振品質を高くする。
【0100】
また、このような材料の一部の非磁性及び低導電率の性質は、大きなDC及びAC磁場に対する優れた耐性を与える。
【0101】
また、共振器6、7は、その共振器6、7の固有振動数で振動錘20を振動させるように構成している。このようにして、特に振動錘の角トラベルを大きくすることによって、共振器のパワー消費が抑えられる。
【0102】
当然、RCC、ダブルRCC、らせんタイプの共振器のような他のタイプの共振器も可能である。欧州特許出願EP22216410.5、EP22216418.8及びEP22216423.8に、圧電共振器の例が記載されている。
【0103】
添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範囲から逸脱することなく、上記の本発明の様々な実施形態に対して、当業者に明らかな様々な変更及び/又は改善及び/又は組み合わせを行うことができることを理解することができるであろう。
【外国語明細書】