(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091505
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】接着剤及びそれを用いた接着方法
(51)【国際特許分類】
C09J 201/02 20060101AFI20240627BHJP
【FI】
C09J201/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208477
(22)【出願日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2022207015
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 伊弦
(72)【発明者】
【氏名】梅原 密太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 優美
(72)【発明者】
【氏名】森部 真也
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 彰敏
【テーマコード(参考)】
4J040
【Fターム(参考)】
4J040EL041
4J040HA066
4J040HC23
4J040JA02
4J040JB02
4J040LA06
4J040LA08
4J040MA02
4J040NA19
4J040NA20
4J040PA30
4J040PA33
(57)【要約】
【課題】線膨張係数が低く、高い接着強度を有し、耐熱性に優れた接着剤層を形成することが可能な接着剤を提供すること。
【解決手段】亜鉛やコバルト等の遷移金属とイミダゾール類等のアゾール類とを含む配位性高分子がアルコール等の分散媒中に分散してなるコロイド溶液からなることを特徴とする接着剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属とアゾール類とを含む配位性高分子が分散媒中に分散してなるコロイド溶液からなることを特徴とする接着剤。
【請求項2】
前記遷移金属が亜鉛及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記遷移金属が亜鉛及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項4】
前記アゾール類がイミダゾール類であることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項5】
前記アゾール類がイミダゾール又はメチルイミダゾールであることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項6】
被着材の間に請求項1に記載の接着剤からなる接着剤層を形成した後、100~300℃に加熱して前記接着剤層を硬化させることを特徴とする接着方法。
【請求項7】
前記接着剤層を硬化させる際の加熱温度が前記配位性高分子の分解温度よりも低い温度であることを特徴とする請求項6に記載の接着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤及びそれを用いた接着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子や液晶表示素子等の電子部品材料においては、様々な部材(被着体)が接着剤によって接着されている。このような電子部品材料に用いられる接着剤としては、従来から、エポキシ樹脂接着剤等のポリマー系接着剤が用いられている。しかしながら、ポリマー系接着剤は、線膨張係数が高く、金属製の被着体同士を接着した場合には、温度変化により接着部分が損傷するという問題があった。
【0003】
そこで、特開2022-530号公報(特許文献1)には、高温高湿処理後における剥離を抑制することが可能な接着剤組成物として、(a)熱可塑性樹脂、(b)分子内にウレタン結合とアルコキシシリル基とを有するシラン化合物、(c)ラジカル重合性化合物、及び(d)ラジカル重合開始剤を含有し、前記(a)成分、前記(c)成分、前記(d)成分、又は、前記(a)成分、前記(b)成分、前記(c)成分及び前記(d)成分以外の成分として、(e)ウレタン結合を有する化合物を含有し、硬化物の30~90℃における平均線膨張係数が800ppm/K以下である接着剤組成物が開示されており、また、前記接着剤組成物に絶縁性フィラーを添加することによって、高温高湿処理後における剥離が更に抑制されることも記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の接着剤組成物は、絶縁性フィラーを添加した場合であっても、平均線膨張係数が金属の線膨張係数よりも大きいため、金属製の被着体同士を接着した場合に、温度変化により接着部分が損傷するという問題があった。また、絶縁性フィラーを添加することによって、接着強度が低下するという問題もあった。
【0004】
また、堂腰範明ら、高分子、1970年、第19巻、第219号、530~535頁(非特許文献1)の第1図には、耐熱性に優れた接着剤として、ポリベンゾイミダゾールやポリイミドが記載されている。しかしながら、これらの接着剤の耐熱度(100時間の高温曝露で接着強度が初期値の30%となる温度)は371℃であり、耐熱性は必ずしも十分なものではなかった。
【0005】
一方、配位性高分子を用いた接着剤としては、Yanyi Zhaoら、ACS Nano、2017年、第11巻、3662~3670頁(非特許文献2)において、ホフマン型シアノブリッジ配位性高分子であるNi(H2O)2[Ni(CN)4]・4H2Oを用いた接着剤が検討されており、前記Ni(H2O)2[Ni(CN)4]・4H2Oの板状結晶のナノフレークをペースト化して用いることによって、ガラスやプラスチック、金属等の被着材を接着できることが開示されている。しかしながら、固体粉末を含有するペースト状の接着剤は、乾燥等により溶媒を除去した後、接着剤層に空隙が形成されやすいため、接着強度が十分ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】堂腰範明ら、高分子、1970年、第19巻、第219号、530~535頁
【非特許文献2】Yanyi Zhaoら、ACS Nano、2017年、第11巻、3662~3670頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、線膨張係数が低く、高い接着強度を有し、耐熱性に優れた接着剤層を形成することが可能な接着剤及びそれを用いた接着方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、遷移金属とアゾール類とを含む、金属有機構造体(MOF)等の配位性高分子が分散媒中に分散してなるコロイド溶液を接着剤として用いることによって、線膨張係数が低く、高い接着強度を有し、耐熱性に優れた接着剤層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の態様を提供する。
【0011】
[1]遷移金属とアゾール類とを含む配位性高分子が分散媒中に分散してなるコロイド溶液からなる、接着剤。
【0012】
[2]前記遷移金属が亜鉛及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種を含むものである、[1]に記載の接着剤。
【0013】
[3]前記遷移金属が亜鉛及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]又は[2]に記載の接着剤。
【0014】
[4]前記アゾール類がイミダゾール類である、[1]~[3]のうちのいずれか1項に記載の接着剤。
【0015】
[5]前記アゾール類がイミダゾール又はメチルイミダゾールである、[1]~[4]のうちのいずれか1項に記載の接着剤。
【0016】
[6]被着材の間に[1]~[5]のうちのいずれか1項に記載の接着剤からなる接着剤層を形成した後、100~300℃に加熱して前記接着剤層を硬化させる、接着方法。
【0017】
[7]前記接着剤層を硬化させる際の加熱温度が前記配位性高分子の分解温度よりも低い温度である、[6]に記載の接着方法。
【0018】
なお、本発明の接着剤を用いることによって、金属製の被着体同士を接着した場合でも、温度変化に対して高い信頼性を示し、かつ、高い接着強度を有し、さらに、耐熱性に優れた接着剤層を形成できる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の接着剤は、遷移金属とアゾール類とを含む配位性高分子が分散媒中に分散してなるコロイド溶液からなるものであるため、この接着剤を所定の温度で加熱して硬化させることによって、前記配位性高分子の結晶粒子が生成する。この配位性高分子の結晶は、線膨張係数がポリマー系接着剤に比べて非常に小さく、金属並みの線膨張係数を有するため、金属製の被着体同士を接着した場合でも、温度変化に対して膨張しにくく、高い信頼性を示すと推察される。また、本発明の接着剤は、コロイド状であるため、被着材に対して良好な濡れ性を示すとともに、加熱により分散媒を除去することによって前記配位性高分子の結晶粒子が高密度化し、さらに、硬化時の加熱温度を比較的高く設定できることから、未反応の原料や分散媒等の不純物を十分に除去することが可能であり、接着剤層に不純物が残存しにくいため、前記配位性高分子の結晶粒子が更に高密度化して、高い接着強度が得られると推察される。さらに、本発明の接着剤は、熱的に安定しており、高温に曝されても熱分解しにくいため、耐熱性に優れた接着剤層を形成できると推察される。なお、「配位性高分子(CP)」とは多座配位子と金属イオンとからなる連続構造を有する錯体であり、「金属有機構造体(MOF)」とは、前記配位性高分子(CP)のうち、細孔を有するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、線膨張係数が低く、高い接着強度を有し、耐熱性に優れた接着剤層を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例1において得られた膜(ZIF-67結晶)のXRDスペクトルを示すグラフである。
【
図2A】実施例1~2及び比較例1で作製した接着体を示す概略斜視図である。
【
図2B】実施例1~2及び比較例1で実施したせん断試験の概略を示す模式図である。
【
図3】実施例1で得られた接着体の縦断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0022】
〔接着剤〕
先ず、本発明の接着剤について説明する。本発明の接着剤は、遷移金属とアゾール類とを含む配位性高分子(CP:Coordination Polymer)が分散媒中に分散してなるコロイド溶液からなるものである。配位性高分子においては、遷移金属にアゾール類が配位した構造を有しており、ファンデルワールス力と配位結合によって高分子構造が形成される。
【0023】
前記遷移金属としては、アゾール類が配位した配位性高分子を形成できるものであれば特に制限はないが、対環境性や希少性という観点から、Cr等の第6族元素、Mn等の第7族元素、Feなどの第8族元素、Co等の第9族元素、Niなどの第10族元素、Cu等の第11族元素、Zn、Cd等の第12族元素が好ましく、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Cdがより好ましく、Zn、Co、Mn、Ni、Cuが更に好ましく、Zn、Coが特に好ましい。また、前記遷移金属は、高温曝露前後の一方又は両方において高い接着強度を有する接着剤層が得られるという観点から、Zn及びCoからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましく、高温曝露前後の両方において高い接着強度を有する接着剤層が得られるという観点から、Zn及びCoからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0024】
前記アゾール類としては、前記遷移金属に配位して配位性高分子を形成できるものであれば特に制限はなく、例えば、ピロール類、ジアゾール類(例えば、イミダゾール類、ピラゾール類)、トリアゾール類、テトラゾール類が挙げられる。これらのアゾール類のうち、配位という観点から、イミダゾール類、ピラゾール類、トリアゾール類が好ましく、イミダゾール類、トリアゾール類がより好ましく、イミダゾール類が特に好ましい。また、前記イミダゾール類としては、イミダゾール、メチルイミダゾール、ベンズイミダゾール等が挙げられ、高温曝露前後の一方又は両方において高い接着強度を有する接着剤層が得られるという観点から、イミダゾール、メチルイミダゾール、又はこれらの混合物が好ましく、高い耐熱性を有する接着剤層が得られるという観点から、イミダゾール又はメチルイミダゾールがより好ましい。
【0025】
また、前記配位性高分子は、その分解温度が、本発明の接着剤を硬化させる際の加熱温度(以下、「硬化温度」ともいう)よりも高いものであることが好ましい。前記配位性高分子の分解温度が前記硬化温度よりも低い場合には、接着剤を硬化させる際の加熱により配位性高分子が分解されるため、高い接着強度を有する接着剤層を形成することが困難となる傾向にある。なお、配位性高分子の分解温度は、熱重量測定(TGA)等の熱分析によって測定することができる。
【0026】
さらに、前記配位性高分子は、その結晶の線膨張係数が20ppm/K以下であることが好ましく、10ppm/K以下であることがより好ましい。結晶がこのような線膨張係数を有する配位性高分子を含有する接着剤は、金属製の被着体同士を接着した場合でも、温度変化に対して高い信頼性を示す。なお、配位性高分子結晶の線膨張係数は、X線回折(XRD)測定によって得られるXRDスペクトルに基づいて求められる配位性高分子結晶の格子定数の温度依存性を測定し、格子定数と温度との関係式の傾きから求めることができる。
【0027】
このような配位性高分子として、具体的には、表1に示すものが挙げられる。
【0028】
【0029】
これらの配位性高分子のうち、コロイド溶液の作製の容易さという観点から、前記遷移金属としてZn、Co及びCdからなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記アゾール類がイミダゾール類である配位性高分子(例えば、[Zn(2-MeIm)2]、[Co(2-MeIm)2]、[Zn(Im)2]、[Cd(2-MeIm)2])が好ましく、前記遷移金属がZn及びCoからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記アゾール類がメチルイミダゾールである配位性高分子(例えば、[Zn(2-MeIm)2]、[Co(2-MeIm)2])がより好ましい。また、高温曝露前後の一方又は両方において高い接着強度を有する接着剤層が得られるという観点から、前記遷移金属としてZn及びCoからなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記アゾール類がイミダゾール類である配位性高分子(例えば、[Zn(2-MeIm)2]、[Co(2-MeIm)2]、[CoMn(2-MeIm)2]、[CoNi(2-MeIm)2]、[Zn(Im)2]、[Zn2(2-MeIm)(Im)3])が好ましく、高い耐熱性を有する接着剤層が得られるという観点から、前記遷移金属としてZn及びCoからなる群から選択される少なくとも1種を含み、前記アゾール類がイミダゾール又はメチルイミダゾールである配位性高分子(例えば、[Zn(2-MeIm)2]、[Co(2-MeIm)2]、[CoMn(2-MeIm)2]、[CoNi(2-MeIm)2]、[Zn(Im)2])がより好ましく、高温曝露前後の両方において高い接着強度を有し、かつ、高い耐熱性を有する接着剤層が得られるという観点から、前記遷移金属がZn及びCoからなる群から選択される少なくとも1種であり、前記アゾール類がメチルイミダゾールである配位性高分子(例えば、[Zn(2-MeIm)2]、[Co(2-MeIm)2])が更に好ましい。
【0030】
本発明の接着剤は、このような配位性高分子が分散媒中に分散してなるコロイド溶液からなるものである。なお、記配位性高分子が分散媒中に分散してなる溶液がコロイド溶液であるか否かは、チンダル現象の有無により確認することができる。
【0031】
前記分散媒としては前記配位性高分子がコロイド状に分散するものであれば特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド等のアミド類;ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアミン類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;アセトン、ジエチルケトン等のケトン類;水が挙げられ、加熱による硬化のしやすさという観点から、アルコール、水が好ましく、メタノールが特に好ましい。
【0032】
前記コロイド溶液において、分散相である前記配位性高分子の平均粒子径としては、1~150nmが好ましく、1~70nmがより好ましい。前記配位性高分子の平均粒子径が前記下限未満になると、加熱により硬化させる際に結晶化しにくい傾向にあり、他方、前記配位性高分子の平均粒子径が前記上限を超えると、コロイド溶液とならず結晶粒の沈殿を生じる傾向にある。なお、コロイド溶液における配位性高分子の平均粒子径は、基板に塗布後に溶媒を乾燥により除去した後、透過型電子顕微鏡等による観察により求めることができる。
【0033】
このようなコロイド溶液の調製方法としては、前記配位性高分子が前記分散媒中にコロイド状に分散した状態となる方法であれば特に制限はなく、例えば、前記遷移金属を含有する化合物(好ましくは、前記遷移金属の塩、錯体等)と前記アゾール類とを前記分散媒に溶解し、得られた溶液を攪拌して前記遷移金属と前記アゾール類とを含む配位性高分子を前記分散媒中で生成させてコロイド状態とする方法が挙げられる。前記遷移金属を含有する化合物と前記アゾール類との混合比率は、得られる前記配位性高分子の各成分の量論比に応じて適宜設定することができる。
【0034】
このようにして調製したコロイド溶液は、そのまま、本発明の接着剤として用いることもできるが、接着剤の固形分濃度が0.1mol/L以上(より好ましくは0.5mol/L以上、特に好ましくは1mol/L以上)となるように調整することが好ましい。接着剤の固形分濃度が前記下限未満では、接着剤の強度が低下する傾向にある。なお、接着剤の固形分濃度の上限としては特に制限はないが、基板への濡れ性という観点から、20mol/L以下が好ましく、10mol/L以下がより好ましく、5mol/L以下が特に好ましい。接着剤の固形分濃度を調整する(増大させる)方法としては、例えば、得られたコロイド溶液から、乾燥等により分散媒を除去する方法が挙げられる。コロイド溶液の乾燥条件等は、所望の固形分濃度となるように適宜設定することができ、例えば、室温で乾燥させてもよいし、100℃以下の温度(好ましくは50℃以下の温度)で加熱してもよい。
【0035】
〔接着方法〕
次に、本発明の接着方法について説明する。本発明の接着方法は、被着材の間に前記本発明の接着剤からなる接着剤層を形成した後、100~300℃に加熱して前記接着剤層を硬化させる方法である。
【0036】
(接着剤層形成工程)
本発明の接着方法においては、先ず、被着材の間に前記本発明の接着剤からなる接着剤層を形成する。具体的には、前記本発明の接着剤を被着材(好ましくは、金属製の被着材)上に適量塗布し、その上に他の被着材(好ましくは、金属製の被着材)を配置することによって、前記被着材の間に前記接着剤層を形成することができる。
【0037】
(硬化工程)
次に、前記被着材の間に形成した前記接着剤層を100~300℃で加熱して硬化させる。これにより、前記接着剤層中の前記配位性高分子が結晶化するとともに、前記接着剤層中の分散媒が除去されるため、前記配位性高分子の結晶粒子が凝集して高密度化し、高い接着強度で前記被着材が接着される。
【0038】
接着剤層を硬化させる際の加熱温度(硬化温度)の下限としては、未反応の原料や分散媒を十分に除去することが可能であり、接着剤層に不純物が残存しにくくなるため、前記配位性高分子の結晶粒子が更に高密度化して、接着強度が向上するという観点から、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましく、230℃以上が特に好ましい。一方、接着剤層を硬化させる際の加熱温度(硬化温度)の上限としては、加熱による前記配位性高分子の分解を抑制し、高い接着強度を有する接着剤層を形成するという観点から、前記配位性高分子の分解温度よりも低い温度が好ましく、前記配位性高分子の分解温度よりも30℃低い温度がより好ましい。
【0039】
また、接着剤層を硬化させる際、加圧しながら加熱することが好ましい。これにより、未反応の原料や分散媒が更に除去され、接着剤層に不純物が更に残存しにくくなるため、前記配位性高分子の結晶粒子が更に高密度化して、接着強度が更に向上する。加圧条件としては、1MPa以上が好ましく、20MPa以上がより好ましく、40MPa以上が特に好ましい。
【実施例0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、接着剤の固形分濃度は以下の方法により求めた。
【0041】
(接着剤の固形分濃度)
原料を溶媒に溶解させた後のコロイド溶液又はスラリーの体積を精秤し、ホットプレートを用いて50℃で溶媒を除去した。得られた固体成分の質量を精秤し、このコロイド溶液又はスラリーの固形分濃度を算出した。この値を用いて、実際に接着に用いる際のコロイド溶液又はスラリーの固形分量は、その体積を精秤することにより算出される。
【0042】
(実施例1)
先ず、Z.Chenら,Angew.Chem.Int.Ed.,2021,Vol.60,Issue 25,p.14124~14130に記載の方法に準拠して、ZIF-67([Co(2-MeIm)
2])のコロイド溶液を調製した。すなわち、酢酸コバルト(II)四水和物2.49gと2-メチルイミダゾール3.284gとをメタノール100mlに溶解させた後、室温で24時間攪拌した。得られた溶液は、チンダル現象が見られたことから、コロイド溶液であることが確認された。なお、このコロイド溶液の分散相であるZIF-67粒子の平均粒子径は約40nmである(Z.Chenら,Angew.Chem.Int.Ed.,2021,Vol.60,Issue 25,p.14124-14130)。また、前記ZIF-67粒子の分解点を熱重量測定(TGA)により求めたところ、270℃であった。さらに、このZIF-67のコロイド溶液を無酸素銅C1020の板の上に塗布し、250℃で300秒間加熱して膜を形成した。得られた膜のXRDスペクトルを
図1に示す。これはZIF-67結晶のものと一致することを確認した。
【0043】
次に、このZIF-67のコロイド溶液を室温で48時間乾燥させ、固形分濃度5mol/Lの接着剤を調製した。この接着剤を用いて2枚の銅円板を
図2Aに示すように接着した。具体的には、無酸素銅C1020の円盤状試験片(
図2A中の被着材A、直径10mm、厚さ5mm)上の中心部(直径5cm)に前記接着剤を適量塗布して接着剤層を形成した。この接着剤層の上に無酸素銅C1020の円盤状試験片(
図2A中の被着材B、直径5mm、厚さ2mm)を載せた後、45MPaで加圧しながら250℃で300秒間加熱して前記接着剤層を硬化させ、2枚の銅円板(
図2A中の被着材A及びB)を接着した。
【0044】
〔せん断強度〕
得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)について、圧縮試験機(株式会社イマダ製「デジタルフォースゲージ」を用いて自作したもの)を用いて、大気中、荷重速度1mm/minで、
図2Bに示すようにせん断試験を行い、せん断強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0045】
〔走査型電子顕微鏡観察〕
得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)の縦断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果を
図3に示す。
図3のSEM写真と
図1に示したXRDスペクトル図の結果を合わせると、ZIF-67のコロイド溶液からなる接着剤を加熱することによって、ZIF-67の結晶粒子が生成し、これが密に凝集することによって、高い接着強度(せん断強度)が得られると考えられる。
【0046】
〔耐熱性及び高温曝露後せん断強度〕
得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)を、マッフル炉を用いて、大気中、100~650℃の範囲内の各温度で100時間加熱し、耐熱試験を行った。各耐熱試験温度におけるせん断強度を測定し、耐熱試験前の前記せん断強度の30%まで低下したときの耐熱試験温度を求め、これを耐熱性評価の指標とした。その結果を表2に示す。また、表2には、高温曝露後のせん断強度として、600℃の耐熱試験温度におけるせん断強度を示した。
【0047】
(参考例1)
酢酸コバルト(II)四水和物の代わりに硝酸コバルト(II)六水和物2.9gを用いた以外は実施例1と同様に、沈殿物としてZIF-67の粉末を得た。これを十分な量のメタノールで2度洗浄したのち、大気中で24時間乾燥させ、ZIF-67の結晶粉末を得た。得られたZIF-67結晶粉末の室温から300℃までの各加熱温度におけるXRDスペクトルに基づいて、各加熱温度におけるZIF-67結晶の格子定数を求め、この格子定数を加熱温度に対してプロットし、その近似式(加熱温度と格子定数の関係式)の傾きから、ZIF-67の線膨張係数を求めたところ、8.9ppm/Kであった。
【0048】
(実施例2)
先ず、Z.Chenら,Angew.Chem.Int.Ed.,2021,Vol.60,Issue 25,p.14124~14130に記載の方法に準拠して、ZIF-8([Zn(2-MeIm)2])のコロイド溶液を調製した。すなわち、酢酸亜鉛(II)二水和物2.195gと2-メチルイミダゾール3.284gとをメタノール100mlに溶解させた後、室温で24時間攪拌した。得られた溶液は、チンダル現象が見られたことから、コロイド溶液であることが確認された。なお、このコロイド溶液の分散相であるZIF-8粒子の平均粒子径は約130nmである(Z.Chenら,Angew.Chem.Int.Ed.,2021,Vol.60,Issue 25,p.14124~14130)。また、前記ZIF-8粒子の分解点を熱重量測定(TGA)により求めたところ、400℃であった。
【0049】
次に、このZIF-8のコロイド溶液を室温で48時間乾燥させ、固形分濃度5mol/Lの接着剤を調製した。この接着剤を用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅円板を接着した。得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)について、実施例1と同様にして、高温曝露前のせん断強度、耐熱性、及び高温曝露後のせん断強度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0050】
なお、ZIF-8の線膨張係数は11.9ppm/Kであることが知られている(F.Sapnikら,Chem.Commun,2018,Vol.54,Issue 69,p.9651~9654)。
【0051】
(実施例3)
先ず、酢酸コバルト(II)四水和物2.49gの代わりに酢酸コバルト(II)四水和物249mgと酢酸マンガン(II)四水和物245mgとを用い、2-メチルイミダゾール(2-MeIm)の量を656.8mgに変更した以外は実施例1と同様にして、[CoMn(2-MeIm)2]粒子を含有するメタノール溶液を調製した。得られた溶液は、チンダル現象が見られたことから、コロイド溶液であることが確認された。なお、このコロイド溶液の分散相である[CoMn(2-MeIm)2]粒子の平均粒子径は約100nmであった。また、前記[CoMn(2-MeIm)2]粒子の分解点を熱重量測定(TGA)により求めたところ、400℃であった。
【0052】
次に、この[CoMn(2-MeIm)2]のコロイド溶液を室温で48時間乾燥させ、固形分濃度5mol/Lの接着剤を調製した。この接着剤を用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅円板を接着した。得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)について、実施例1と同様にして、高温曝露前のせん断強度、耐熱性、及び高温曝露後のせん断強度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0053】
なお、I.Miyazakiら,Small 2023,19、2300298によると、金属有機構造体(MOF)は、金属並みの低い線膨張係数を有している。したがって、金属有機構造体(MOF)の一種のゼオライト-イミダゾレート構造体(ZIF)である前記[CoMn(2-MeIm)2]は、金属並みの低い線膨張係数を有していると考えられる。
【0054】
(実施例4)
先ず、酢酸コバルト(II)四水和物2.49gの代わりに酢酸コバルト(II)四水和物249mgと酢酸ニッケル(II)四水和物248mgとを用い、2-メチルイミダゾール(2-MeIm)の量を656mgに変更した以外は実施例1と同様にして、[CoNi(2-MeIm)2]粒子を含有するメタノール溶液を調製した。得られた溶液は、チンダル現象が見られたことから、コロイド溶液であることが確認された。なお、このコロイド溶液の分散相である[CoNi(2-MeIm)2]粒子の平均粒子径は約80nmであった。また、前記[CoNi(2-MeIm)2]粒子の分解点を熱重量測定(TGA)により求めたところ、400℃であった。
【0055】
次に、この[CoNi(2-MeIm)2]のコロイド溶液を室温で48時間乾燥させ、固形分濃度5mol/Lの接着剤を調製した。この接着剤を用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅円板を接着した。得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)について、実施例1と同様にして、高温曝露前のせん断強度、耐熱性、及び高温曝露後のせん断強度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0056】
なお、I.Miyazakiら,Small 2023,19、2300298によると、金属有機構造体(MOF)は、金属並みの低い線膨張係数を有している。したがって、金属有機構造体(MOF)の一種のゼオライト-イミダゾレート構造体(ZIF)である前記[CoNi(2-MeIm)2]は、金属並みの低い線膨張係数を有していると考えられる。
【0057】
(実施例5)
先ず、酢酸コバルト(II)四水和物2.49gの代わりに酢酸亜鉛(II)二水和物197mgを用い、2-メチルイミダゾールの代わりにイミダゾール(Im)272mgを用い、メタノールの代わりにエタノール70mlを用いた以外は実施例1と同様にして、ZIF-zni([Zn(Im)2])粒子を含有するエタノール溶液を調製した。得られた溶液は、チンダル現象が見られたことから、コロイド溶液であることが確認された。なお、このコロイド溶液の分散相であるZIF-zni粒子の平均粒子径は約130nmであった。また、前記ZIF-zni粒子の分解点を熱重量測定(TGA)により求めたところ、577℃であった。
【0058】
次に、このZIF-zniのコロイド溶液を室温で48時間乾燥させ、固形分濃度5mol/Lの接着剤を調製した。この接着剤を用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅円板を接着した。得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)について、実施例1と同様にして、高温曝露前のせん断強度、耐熱性、及び高温曝露後のせん断強度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0059】
なお、I.Miyazakiら,Small 2023,19、2300298によると、金属有機構造体(MOF)は、金属並みの低い線膨張係数を有している。したがって、金属有機構造体(MOF)の一種のゼオライト-イミダゾレート構造体(ZIF)である前記ZIF-zniは、金属並みの低い線膨張係数を有していると考えられる。
【0060】
(実施例6)
先ず、酢酸亜鉛(II)二水和物の量を198mgに変更し、2-メチルイミダゾール3.284gの代わりに2-メチルイミダゾール(2-MeIm)24mgとイミダゾール(Im)156mgとを用い、メタノールの代わりにエタノール100mlを用いた以外は実施例2と同様にして、[Zn2(2-MeIm)(Im)3]粒子を含有するエタノール溶液を調製した。得られた溶液は、チンダル現象が見られたことから、コロイド溶液であることが確認された。なお、このコロイド溶液の分散相である[Zn2(2-MeIm)(Im)3]粒子の平均粒子径は約250nmであった。また、前記[Zn2(2-MeIm)(Im)3]粒子の分解点を熱重量測定(TGA)により求めたところ、500℃であった。
【0061】
次に、この[Zn2(2-MeIm)(Im)3]のコロイド溶液を室温で48時間乾燥させ、固形分濃度5mol/Lの接着剤を調製した。この接着剤を用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅円板を接着した。得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)について、実施例1と同様にして、高温曝露前のせん断強度、耐熱性、及び高温曝露後のせん断強度を測定した。これらの結果を表2に示す。
【0062】
なお、I.Miyazakiら,Small 2023,19、2300298によると、金属有機構造体(MOF)は、金属並みの低い線膨張係数を有している。したがって、金属有機構造体(MOF)の一種のゼオライト-イミダゾレート構造体(ZIF)である前記[Zn2(2-MeIm)(Im)3]は、金属並みの低い線膨張係数を有していると考えられる。
【0063】
(比較例1)
先ず、ZIF-8のスラリーを調製した。すなわち、市販のZIF-8粒子(亜鉛2-イミダゾール、シグマ・アルドリッチ社製、平均粒子径:約300nm)2.19gをメタノール100mlに分散させ、室温で24時間攪拌した。得られたスラリーは、チンダル現象が見られず、また、調製後ほどなく、二相に分離してZIF-8粒子が沈殿した。
【0064】
次に、このZIF-8のスラリーを室温で48時間乾燥させ、固形分濃度5mol/Lの接着剤を調製した。この接着剤を用いた以外は実施例1と同様にして2枚の銅円板を接着した。得られた接着体(前記被着体AとBとを接着したもの)について、実施例1と同様にして高温曝露前のせん断強度を測定したところ、検出下限(1N)以下であった。
【0065】
【0066】
表2に示したように、本発明の接着剤を用いて作製した接着体は、高温曝露前後において高いせん断強度を示し、耐熱性に優れたものであった。したがって、本発明の接着剤は、高温曝露前後の接着強度及び耐熱性に優れたものであることが確認された。特に、遷移金属として、Coのみを含む接着剤(実施例1)、Znのみを含む接着剤(実施例2、5、6)、Co及びNiのみを含む接着剤(実施例4)は、Co及びMnを含む接着剤(実施例3)に比べて、高温曝露前の接着強度に優れていることがわかった。また、アゾール類として、2-メチルイミダゾール又はイミダゾールのみを含む接着剤(実施例1~5)は、2-メチルイミダゾール及びイミダゾールを含む接着剤(実施例6)に比べて、耐熱性に優れていることがわかった。さらに、遷移金属としてCo又はZnのみを含み、アゾール類として2-メチルイミダゾールのみを含む接着剤(実施例1~2)は、遷移金属として、Co及びMnを含む接着剤(実施例3)、Co及びNiを含む接着剤(実施例4)、アゾール類として、イミダゾールを含む接着剤(実施例5~6)に比べて、高温曝露後の接着強度に優れていることがわかった。
以上説明したように、本発明によれば、線膨張係数が低く、高い接着強度を有し、耐熱性に優れた接着剤層を形成することが可能となる。したがって、本発明の接着剤を用いる接着方法は、金属製の被着体同士を、高い接着強度で、かつ、温度変化に対して高い信頼性で接着できることから、半導体素子や液晶表示素子等の電子部品材料における金属製部材、航空機のブレーキライニング用金属製部材等を接着する方法として有用である。