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特開2024-91506電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
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  • 特開-電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池 図1
  • 特開-電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091506
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240627BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20240627BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M8/10 101
H01M4/86 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208530
(22)【出願日】2023-12-11
(31)【優先権主張番号】P 2022205837
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】川村 敦弘
(72)【発明者】
【氏名】室井 勇輝
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS03
5H018BB06
5H018BB08
5H018DD05
5H018EE01
5H018EE03
5H018EE17
5H018EE19
5H018HH01
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】耐久性に優れた電極触媒層を提供する。
【解決手段】電極触媒層10は、固体高分子形燃料電池に用いられる電極触媒層であって、触媒12と、触媒12を担持した担体13と、高分子電解質14と、窒素原子を含有する化合物からなる繊維状物質15と、を含有する。電極触媒層10は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、硫黄原子、および金属原子の合計原子数に対する窒素原子の割合が12原子%以上35原子%以下である組成を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子形燃料電池に用いられる電極触媒層であって、
触媒と、
前記触媒を担持した担体と、
高分子電解質と、
窒素原子を含有する化合物からなる繊維状物質と、
を含有し、
炭素原子、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、硫黄原子、および金属原子の合計原子数に対する窒素原子の割合が12原子%以上35原子%以下である組成を有する電極触媒層。
【請求項2】
前記担体は、導電性コアが、窒素原子を含有する高分子化合物からなる層で被覆されたものである請求項1記載の電極触媒層。
【請求項3】
前記金属原子として白金を含む請求項1記載の電極触媒層。
【請求項4】
前記繊維状物質の含有率は10質量%以上20質量%以下であり、
カーボン原子、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、硫黄原子、および白金原子を含む組成を有し、カーボン原子、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、硫黄原子、および白金原子の合計原子数に対する窒素原子の割合が、20原子%以上35原子%以下である請求項2記載の電極触媒層。
【請求項5】
前記繊維状物質の平均繊維径は50nm以上400nm以下である請求項1または4記載の電極触媒層。
【請求項6】
前記電極触媒層の厚さは5μm以上30μm以下である請求項1または4記載の電極触媒層。
【請求項7】
請求項1または4記載の電極触媒層を、高分子電解質膜の少なくとも一方の面に有する膜電極接合体。
【請求項8】
請求項7記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素と酸素の化学反応から電気を生み出す発電システムである。燃料電池は、従来の発電方式と比較して高効率、低環境負荷、低騒音といった特徴を持ち、将来のクリーンなエネルギー源として注目されている。特に、室温付近で使用可能な固体高分子形燃料電池は、車載用電源や家庭用定置電源などへの使用が有望視されており、近年、固体高分子形燃料電池に関する様々な研究開発が行われている。その実用化に向けての課題には、発電特性や耐久性などの電池性能向上、インフラ整備、製造コストの低減などが挙げられる。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、一般的に、多数の単セルが積層されて構成されている。単セルは、高分子電解質膜の両面に、燃料ガスを供給する燃料極(アノード)と酸化剤を供給する酸素極(カソード)とが接合された膜電極接合体を、ガス流路及び冷却水流路を有するセパレーターで挟んだ構造をしている。燃料極(アノード)及び酸素極(カソード)は、白金系の貴金属などの触媒、導電性担体及び高分子電解質を少なくとも含む電極触媒層と、ガス通気性と導電性とを兼ね備えたガス拡散層とで主に構成されている。
【0004】
固体高分子形燃料電池では、以下のような電気化学反応を経て電気を取り出すことができる。まず、燃料極側電極触媒層において、燃料ガスに含まれる水素が触媒により酸化され、プロトン及び電子となる。生成したプロトンは、電極触媒層内の高分子電解質及び電極触媒層に接している高分子電解質膜を通り、酸素極側電極触媒層に達する。また、同時に生成した電子は、燃料極側電極触媒層内の導電性担体、燃料極側電極触媒層に接しているガス拡散層、セパレーター及び外部回路を通って酸素極側電極触媒層に達する。
そして、酸素極側電極触媒層において、プロトン及び電子が空気などの酸化剤ガスに含まれる酸素と反応し、水を生成する。これら一連の反応において、電子伝導抵抗に比べてプロトン伝導抵抗が大きいため、反応性を向上させ、燃料電池としての性能向上を図るためにはプロトンを効率よく伝導することが重要である。
【0005】
ガス拡散層はセパレーターから供給されるガスを拡散して電極触媒層中に供給する役割をもつ。そして、電極触媒層中の空隙は、セパレーターからガス拡散層を通じた先に位置し、複数の物質を輸送する通路の役割を果たす。燃料極の空隙は、酸化還元の反応場である三相界面に燃料ガスに含まれる水素を円滑に供給する機能が求められる。
また、酸素極の空隙は、酸化剤ガスに含まれる酸素を円滑に供給する機能が求められる。さらに、酸素極の空隙は、反応によって生じた生成水を円滑に排出する機能が求められる。ここで、ガスを円滑に供給し、生成水を円滑に排出するためには、電極触媒層中に生成水を円滑に排出可能な十分な隙間があり、密な構造となっていないことが重要である。
【0006】
電極触媒層の構造が密とならないようコントロールし、発電性能を向上する手段として、例えば、異なる粒子径のカーボンまたはカーボン繊維を含む電極触媒層が提案されている(特許文献1、2)。
【0007】
特許文献1では、互いに適度に異なる粒径を有するカーボン粒子を組み合わせることで、電極触媒層中においてカーボン粒子が密に詰まることを抑えている。また、特許文献2では、互いに異なる繊維長を有するカーボン繊維を組み合わせ、その比率を一定範囲とすることで、電極触媒層中において適切なサイズの空隙が多くを占めるようにしている。
一方で、特許文献1では、粒子径の大きな大粒子と粒子径の小さな小粒子を混合すると大粒子間の隙間に小粒子が入り込んでむしろ密に充填することがある。また、カーボン材料が粒子のみで構造を調整した場合、触媒層のクラックが誘発されやすく、それに伴う耐久性の低下が問題となる場合がある。
また、例えば特許文献2のようにカーボン繊維を用いた場合では、密に充填されることは防げても、触媒層における電子伝導体の比率が増加してプロトン伝導体の比率が低下するため、プロトン移動抵抗は大きくなり発電性能の低下要因となってしまう。燃料電池における発電性能は、物質輸送性・電子伝導性・プロトン伝導性によって大きく変わるものであるから、結局のところ、カーボン粒子の組み合わせやカーボン繊維の組み合わせを用いるという電子伝導性のみを高める方法では、発電性能を高める事には限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3617237号公報
【特許文献2】特許第5537178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような点に着目してなされたものであり、耐久性に優れた電極触媒層を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、下記の構成(1)(2)を有する電極触媒層を提供する。
【0011】
(1)固体高分子形燃料電池に用いられる電極触媒層であって、触媒と、前記触媒を担持した担体と、高分子電解質と、窒素原子を含有する化合物からなる繊維状物質と、を含有する。
(2)炭素原子、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、硫黄原子、および金属原子の合計原子数に対する窒素原子の割合が12原子%以上35原子%以下である組成を有する。
本発明の別の態様は、下記の構成(1)、(3)、(4)、および(5)を有する電極触媒層を提供する。
(3)前記担体は、導電性コアが、窒素原子を含有する高分子化合物からなる層で被覆されたものである。
(4)前記繊維状物質の含有率は10質量%以上20質量%以下である。
(5)カーボン原子(炭素原子)、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、硫黄原子、および白金原子を含む組成を有し、カーボン原子(炭素原子)、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、硫黄原子、および白金原子の合計原子数に対する窒素原子の割合が、20原子%以上35原子%以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、長期的に高い発電性能を発揮することが可能な耐久性に優れた電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態の電極触媒層の断面構造を模式的に示す断面図である。
図2】実施形態の電極触媒層を構成する担体の断面構造を示す断面図である。
図3】固体高分子形燃料電池の構成例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識を基に設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も、本発明の範囲に含まれるものである。また、各図面は、理解を容易にするため適宜誇張して表現している。
【0015】
本発明の発明者は、固体高分子形燃料電池の耐久発電性能について鋭意検討を行い、電極触媒層に、窒素原子を含有する化合物からなる繊維状物質を含有させることにより、窒素原子の非共有電子対と高分子電解質のプロトンとの間で相互作用を生じさせることで、広い空隙が形成されガスの拡散性が向上するとともに、プロトン伝導抵抗が低下することを明らかとした。これに伴い、電極触媒層中の物質輸送性およびプロトン伝導性が向上した。
その結果、電池出力の低下及び電極触媒層の劣化を抑制し、長期的に高い発電性能を発揮できる耐久性に優れた固体高分子形燃料電池を得ることに成功した。
【0016】
[電極触媒層の構成]
以下、図を参照しつつ、本実施形態に係る電極触媒層の具体的な構成を説明する。
図1に示す模式図のように、本実施形態に係る電極触媒層10は、高分子電解質膜11の表面に接合されており、触媒12と、触媒12を担持した担体13と、高分子電解質14と、繊維状物質15と、を含んで構成されている。そして、上記構成要素同士の間に空隙4が生じている。
【0017】
(繊維状物質)
繊維状物質としては、骨格中に、プロトンと相互作用可能な構造または官能基を有する高分子化合物からなる繊維が挙げられる。プロトンと相互作用可能な構造または官能基としては、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子等の非共有電子対を有する原子を含むことが好ましく、中でも窒素原子を含む構造または官能基であることが好ましい。
本実施形態に係る電極触媒層に含まれる繊維状物質15は、窒素原子を含有する化合物からなる。
窒素原子を含有する化合物としては、窒素原子を含有する高分子化合物が挙げられる。繊維状物質15を構成する「窒素原子を含有する高分子化合物」としては、窒素原子が非共有電子対を有する状態で存在している(つまり、ルイス塩基を構成している)ものが好適である。
窒素原子を含有する高分子化合物としては、(a)ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソチアゾール等の窒素を1つ以上含む不飽和複素5員環構造を有するもの、(b)ピリジル基、ピリミジル基、ピラジル基等の6員環以上の不飽和複素環構造を有するもの、(c)ピロリジル基、ピペリジル基、ピペラジル基等の飽和複素環構造を有するもの、及び(d)アミノ基、イミノ基、アミド構造、イミド結合を有するもの等と、これらの誘導体等が挙げられる。
繊維状物質15の具体例としては、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチオアゾール、ポリビニルイミダゾール、ポリアリルアミン等を挙げることができ、特に、プロトン伝導性および加工の観点から、アゾール構造を有するポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチオアゾールが好ましく、窒素原子を含む割合の多さからポリベンゾイミダゾールが特に好ましい。
【0018】
繊維状物質15として、窒素原子を含有する化合物からなるもの以外のものを含有していてもよい。また、電極触媒層10の電子抵抗を低減させるため、窒素原子を含有する化合物からなる繊維状物質とともに、電子伝導性を有する化合物からなる繊維状物質を用いても良い。電子伝導性の繊維状物質としては、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、導電性高分子ナノファイバー等が例示できる。特に、導電性や分散性の点でカーボンナノファイバーが好ましい。
また、触媒能のある電子伝導性繊維を用いることで、貴金属からなる触媒の使用量を低減できるのでより好ましい。固体高分子型燃料電池の空気極として用いられる場合には、例えば、カーボンナノファイバーから作製したカーボンアロイ触媒が例示できる。また、酸素還元電極用の電極活物質を繊維状に加工したものであってもよく、例えば、Ta、Nb、Ti、Zrから選択される、少なくとも一つの遷移金属元素を含む物質を使用してもよい。これらの遷移金属元素の炭窒化物の部分酸化物、または、これらの遷移金属元素の導電性酸化物や導電性酸窒化物が例示できる。
【0019】
電極触媒層10が、窒素原子を含有する化合物からなる繊維状物質15を含有すると、窒素原子の非共有電子対と高分子電解質のプロトンとの相互作用により、膜電極接合体中のプロトン伝導性が向上し、出力特性が向上する。その上、窒素原子の非共有電子対と高分子電解質のプロトンとの相互作用は、電極触媒層10内での空隙4の形成にも影響し、耐久性の向上にも繋がる。また、繊維状物質15として高分子化合物からなるものを用いると、繊維状物質15の柔軟性により電極触媒層10の強度が向上する。
さらに、繊維状物質15として、窒素を含む5員環構造の高分子化合物からなるものを用いると、電極触媒層10の熱安定性が向上する。
【0020】
電極触媒層10における繊維状物質15の含有率は10質量%以上20質量%以下であることが好ましい。繊維状物質15の含有率が10質量%未満であると、電極触媒層10にクラックが生じて耐久性が低下する可能性がある。繊維状物質15の含有率が20質量%を超えると、繊維状物質15の凝集が生じて電極触媒層10に水詰まりが生じやすく、耐久性も低下する場合がある。
【0021】
本実施形態に係る電極触媒層10に含まれる繊維状物質15の平均繊維径は、50nm以上400nm以下であることが好ましい。繊維径をこの範囲にすることにより、電極触媒層10内の空隙4を増加させるとともにプロトン伝導性の低下を抑制することができ、耐久性を確保しやすい。繊維状物質15の平均繊維径が上記範囲よりも小さい場合には、繊維状物質が空隙に入り込み易くなって電極触媒層内の空隙が小さくなるため、十分な排水性及びガス拡散性が確保できない場合がある。また、繊維状物質15の平均繊維径が上記範囲よりも大きい場合には、担体13や高分子電解質14による電子やプロトンの伝導を阻害して抵抗が増大する場合がある。
また、繊維状物質15の繊維長は1μm以上80μmが好ましく、5μm以上70μm以下がより好ましい。上記範囲に設定することにより、電極触媒層10の強度を高めることができ、ひいては、電極触媒層10を形成するときに、電極触媒層10にクラックが生じることが抑えられる。
【0022】
繊維状物質15の平均繊維径は、例えば、電極触媒層10の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際に、その断面が露出している繊維状物質15の直径を垂直線による計測機能を使用して測長することで得ることができる。具体的には、繊維状物質の断面の輪郭のなかで、接線を引き、接線から他方の端に向かって、接線に直交する垂線を引く。垂線における上記一方の端から他方の端までの長さが繊維状物質15の繊維径である。
繊維状物質15が斜めに切断された場合には露出する断面の形状は楕円形となることがある。その場合には、上記の垂直線による計測機能により、互いに30°以上の角度で交わる垂直線の一方の端から他方の端までの長さを8箇所以上測定し、一番短くなる部分の長さを繊維径とすることで、繊維状物質15の繊維径を得ることができる。
また、円状でない断面積を有する繊維状物質15を使用する場合、各頂点から繊維断面の重心を通り他方の端まで伸ばした直線の長さ、及び互いに30°以上の角度で交わる垂直線の一方の端から他方の端までの長さを8箇所以上測定し、一番短くなる部分の長さを繊維径とする。20箇所以上の繊維状物質15の繊維径を測長し、算術平均することで、平均繊維径を得ることができる。
複数の繊維状物質を使用している場合には、それぞれについて繊維径を測定し、平均繊維径とする。走査型電子顕微鏡(SEM)としては、例えば、日立ハイテク社製SU-8020等を用いることができる。走査型電子顕微鏡(SEM)の主な測定条件としては、加速電圧を5kVとする。測定倍率は、繊維状物質の繊維径に合わせ、測定の誤差が生じないよう適切に選択する。
【0023】
電極触媒層10の断面を露出させる方法としては、高分子電解質膜11や電極触媒層10を構成する高分子電解質14へのダメージを軽減するため、電極触媒層10を冷却しながら加工を行うクライオイオンミリングを用いることが特に好ましい。
【0024】
電極触媒層10の厚さは、5μm以上30μm以下が好ましい。
電極触媒層10の厚さを30μm以下とすることにより、クラックの発生を抑制し長期に渡り運転した際の耐久性を向上させやすい。また、燃料電池に用いた際にガスや生成する水の拡散性及び導電性が低下することを抑制しやすい。一方、電極触媒層10の厚さを5μm以上とすることにより、層厚にばらつきを抑制しやすく、電極触媒層10の内部の触媒12や高分子電解質14が不均一となることを防ぐことができる。電極触媒層10を均一になることにより、長期にわたり使用した際に、劣化に偏りが生じ耐久性が低下することを抑制できる。
【0025】
電極触媒層10の厚さは、例えば、電極触媒層10の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した際に、その厚みを垂直線による計測機能を使用して測定することで得ることができる。具体的には、電極触媒層10の断面の輪郭のなかで、接線を引き、接線から幅方向の他方の端に向かって、接線に直交する垂線を引く。垂線における上記一方の端から他方の端までの長さが電極触媒層10の厚さである。互いに200μm以上離れた10箇所以上の電極触媒層の厚さを測定し、算術平均することで、電極触媒層10の厚さを得ることができる。
走査型電子顕微鏡(SEM)としては、例えば、日立ハイテク社製SU-8020等を用いることができる。走査型電子顕微鏡(SEM)の主な測定条件としては、加速電圧を5kVとする。測定倍率は、電極触媒層10の厚さに合わせ、測定の誤差が生じないよう適切に選択する。
【0026】
電極触媒層10の断面を露出させる方法としては、高分子電解質膜11や電極触媒層10を構成する高分子電解質14へのダメージを軽減するため、電極触媒層10を冷却しながら加工を行うクライオイオンミリングを用いることが特に好ましい。
【0027】
(触媒)
触媒12としては、例えば、金属、および、これら金属の合金、酸化物、複酸化物、および、炭化物などを用いることができる。白金族に含まれる金属としては、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、および、オスミウムである。白金族以外の金属の例は、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、および、アルミニウムなどである。
触媒12としては、その中でも活性の高さから、白金や白金合金が好ましい。触媒の平均粒径は、大きすぎると触媒活性が低下し、小さすぎると触媒物質の安定性が低下するため、0.5nm以上20nm以下であることが好ましい。なお、触媒物質の粒径は、レーザ回折/散乱法による体積平均径D50である。
【0028】
(担体)
担体13は、導電性を有し、かつ、触媒12や高分子電解質14に侵食されることなく触媒12を担持することが可能な担体である。担体13の例としては、カーボン粒子が挙げられる。カーボン粒子の例としては、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、および、フラーレン等が挙げられる。担体13には触媒12が担持されている。
【0029】
図2に示すように、担体13は、導電性コア13Aと、導電性コアを被覆する高分子化合物からなる層(以下、「高分子層」とも称する)13Bと、を有していても良い。
担体13が図2に示す構造の場合、導電性コア13Aとしてはカーボン粒子を使用することができる。カーボン粒子の具体例については上述されている。
導電性コア13Aの粒径は、10nm以上1000nm以下程度であることが好ましく、10nm以上100nm以下程度であることがさらに好ましい。粒径が10nm以上であることによって、カーボン粒子が電極触媒層10において密に詰まり過ぎず、これによって、電極触媒層10のガス拡散性を低下させることが抑えられる。粒径が1000nm以下であることによって、電極触媒層10にクラックを生じさせることが抑えられる。なお、本明細書の粒径は、原則として、レーザ回折/散乱法による体積基準の頻度分布のD50である。
【0030】
本実施形態の担体13が図2に示す構造の場合、高分子層(導電性コアを被覆する高分子化合物からなる層)13Bは、窒素原子を含有する高分子化合物で構成されていることが好ましい。高分子層13Bを構成する「窒素原子を含有する高分子化合物」としては、繊維状物質15で好適に使用できる「窒素原子を含有する高分子化合物」として例示されたものを使用できる。
高分子層13Bと繊維状物質15とは、同じ材料からなるものであってもよいが、異なる材料からなるものであってもよい。高分子層13Bを構成する「窒素原子を含有する高分子化合物」は、プロトン伝導性および加工の観点から、アゾール構造を有するポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチオアゾールが好ましく、窒素原子を含む割合の多さからポリベンゾイミダゾールが特に好ましい。高分子層13Bの膜厚は、1nm~5nmであることが好ましく、2nm~3nmであることがより好ましい。
【0031】
導電性コア13Aに高分子層13Bを被覆することにより、窒素原子の非共有電子対と高分子電解質のプロトンとの相互作用が生じ、電極触媒層10内での空隙4の形成にも影響し、耐久性の向上にも繋がる。また、担体13と繊維状物質15の双方に、非共有電子対を有することにより、高分子電解質14が担体13から繊維状物質15へと均一に整列し、プロトン伝導性が更に向上する。
さらに、担体13と繊維状物質15が過度に接近し凝集することを抑制し、担体13近傍、及び電極触媒層10内部で適切なサイズの空隙4を構成することができる。これらの効果により、長期で使用した際のプロトン伝導や、排水性の低下を抑制し、耐久性が大きく向上する。
【0032】
高分子層13Bによる導電性コア13Aの表面の被覆率は、2%以上10%以下が好ましい。11%以上では被覆率が過剰となり、排水性が低下してしまうことがある。また、2%未満では高分子層13Bが不足となり、初期性能の向上に繋がらない。
【0033】
高分子層13Bによる導電性コア13Aの被覆の確認は、電極触媒層10の断面をエネルギー分散型X線分光装置が搭載された透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)を用いて観察することができる。担体13を含む分析エリアに関して、元素マッピング分析を行うことで、担体13表面の元素を調べることができる。
例えば、窒素原子を含む化合物からなる高分子層13Bを被覆してなる担体13は窒素原子のマッピング分析により確認することができる。TEM-EDX分析には、例えば、JEOL(日本電子株式会社)製「エネルギー分散型X線分光分析装置(型番:Dual SDD)」を用いることができる。また、TEM-EDXによる主な分析条件としては、加速電圧を200kVとする。
電極触媒層10の断面を露出させる方法としては、高分子電解質膜11や電極触媒層10を構成する高分子電解質14へのダメージを軽減するため、電極触媒層10を冷却しながら加工を行うクライオイオンミリングを用いることが特に好ましい。
【0034】
このような担体13は、カーボン粒子などの導電性コア13Aを、窒素原子含有高分子の溶液と接触させ、その後、導電性コア13Aから溶媒を乾燥させることにより得ることができる。溶媒の例としては、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMAc(ジメチルアセトアミド)等が挙げられる。
窒素原子を含有する繊維状物質15と高分子電解質14との間に加え、担体13の高分子層13Bと高分子電解質14との間にもプロトンの相互作用を持たせることで、電極触媒層10全体のプロトン伝導性を高めることにより、初期性能を向上させることができる。
【0035】
担体13は、一種のみを単独で使用してもよく、二種以上を併せて用いてもよい。二種以上を併せて使用する際は、高分子層13Bは同じ化合物を使用しても良く、異なる化合物を使用しても良い。また、複数の担体13のうち、一部は高分子層13Bによる被覆がされていなくともよい。
【0036】
(高分子電解質)
高分子電解質膜11および電極触媒層10に含まれる高分子電解質14には、プロトン伝導性を有する電解質を用いることができる。高分子電解質には、例えば、フッ素系高分子電解質、および、炭化水素系高分子電解質を用いることができる。フッ素系高分子電解質には、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質を用いることができる。なお、テトラフルオロエチレン骨格を有する高分子電解質には、デュポン社製のNafion(登録商標)を例示することができる。
炭化水素系高分子電解質には、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、および、スルホン化ポリフェニレンなどを用いることができる。
【0037】
高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質と、電極触媒層10に含まれる高分子電解質14とは、互いに同じ電解質であってもよいし、互いに異なる電解質であってもよい。ただし、高分子電解質膜11と電極触媒層10との界面における界面抵抗や、湿度が変化した場合において、高分子電解質膜11と電極触媒層10における寸法変化率を考慮すると、高分子電解質膜11に含まれる高分子電解質と、電極触媒層10に含まれる高分子電解質14とは、互いに同じ電解質であるか、熱膨張係数が近い高分子電解質であることが好ましい。
【0038】
(電極触媒層の組成)
電極触媒層10は、炭素原子、窒素原子、酸素原子、フッ素原子、硫黄原子、および金属原子を含み、これらの合計原子数に対する窒素原子の割合(以下、「窒素原子比率」とも称する)が12原子%(at%)以上35原子%(at%)以下である組成を有する。
電極触媒層10の組成における上記窒素原子の割合が12原子%未満であると、窒素原子の非共有電子対と高分子電解質のプロトンとの相互作用が弱まり、プロトン伝導の経路が不足して、抵抗が増大し、耐久性が不十分となる場合がある。また、上記窒素原子の割合が繊維状物質の含有率の増加に起因して35原子%を超えると、繊維同士の絡み合いや凝集により空隙が小さくなり、十分な排水性及びガス拡散性が確保できないことが原因で、発電性能および耐久性の低下を招く場合がある。
電極触媒層10の組成における上記窒素原子の割合は、導電性コア13Aを被覆する高分子層13Bを構成する「窒素を含有する高分子化合物」の種類および電極触媒層10に対する添加量と、繊維状物質15を構成する「窒素を含有する化合物」の種類および電極触媒層10に対する添加量で制御できる。
なお、電極触媒層10に含まれる金属原子としては、触媒12を構成する金属原子が挙げられる。
【0039】
電極触媒層10の組成における上記窒素原子の割合(窒素原子比率)は、例えば、電極触媒層10の断面を、エネルギー分散型X線分光装置が搭載された走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)を用いて元素マッピングを行うことで計測することができる。断面を露出させる方法は、前述の電極触媒層10の厚さの観察と同様であり、観察エリアは2μm×2μmの範囲で元素マッピングを行う。
互いに1μm以上離れており、且つ電極触媒層10の厚さ方向に対し5μm内に1観察エリア以上を含む、計12観察エリア以上における電極触媒層10の組成における窒素原子比率を測定し、算術平均することで、電極触媒層10の組成における窒素原子比率を得ることができる。観察エリアは、局所的な凝集や粗大粒子、クラック等の欠陥を含まないように選択する。
走査型電子顕微鏡(SEM)としては、例えば、日立ハイテク社製SU-8020等を用いることができる。走査型電子顕微鏡(SEM)の主な測定条件としては、加速電圧を5kVとする。測定倍率は、電極触媒層10の厚さに合わせ、測定の誤差が生じないよう、例えば、10000倍以上で適切に選択する。
【0040】
[膜電極接合体の構成]
次に、図3を参照して、膜電極接合体の構成を説明する。図3は、本実施形態に係る電極触媒層10を備えた膜電極接合体1を装着した固体高分子形燃料電池3の構成例を示す分解斜視図である。
膜電極接合体1は、高分子電解質膜11と、高分子電解質膜11の表裏面にそれぞれ接合された電極触媒層10C、10Aとを備えている。本実施形態では、高分子電解質膜11の上面(表面)に形成される電極触媒層10Cは、酸素極を構成するカソード側電極触媒層であり、高分子電解質膜11の下面(裏面)に形成される電極触媒層10Aは、燃料極を構成するアノード側電極触媒層である。
以下、一対の電極触媒層10C、10Aは、区別する必要がない場合には、「電極触媒層10」と略記する場合がある。本実施形態による膜電極接合体1において、電極触媒層10は、高分子電解質膜11の少なくとも一方の面に備えられていればよい。また、高分子電解質膜11の電極触媒層10が接合されていない外周部分からのガスリークを防ぐため、膜電極接合体1には酸素極側のガスケット16C及び燃料極側のガスケット16Aが配置されている。
【0041】
[膜電極接合体の製造方法]
以下、上述した膜電極接合体1の製造方法を説明する。
まず、触媒インクを作製する。触媒12、担体13、高分子電解質14、および、繊維状物質15を分散媒に混合し、その後、混合物に分散処理を施すことによって触媒インクを作製する。分散処理は、例えば、遊星型ボールミル、ビーズミル、および、超音波ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。
【0042】
触媒インクの分散媒には、触媒12、担体13、高分子電解質14、および、繊維状物質15を浸食せず、かつ、分散媒の流動性が高い状態で、高分子電解質14を溶解することができる、または、高分子電解質14を微細なゲルとして分散することが可能な溶媒を用いることができる。分散媒には水が含まれてもよい。触媒インクは、揮発性の液体有機溶媒を含むことが好ましい。溶媒が低級アルコールである場合には発火のおそれがあるため、こうした溶媒には、水が混合されることが好ましい。溶媒には、高分子電解質14が分離することによって、触媒インキが白濁したりゲル化したりしない範囲で水を混合することができる。
一般的に用いられる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミン、アニリンなどのアミン類、蟻酸プロピル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルなどのエステル類、その他酢酸、プロピオン酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いてもよい。また、グリコール、グリコールエーテル系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。
【0043】
作製した触媒インクを基材に塗布した後に乾燥することによって、触媒インクの塗膜から溶媒が除去される。これにより、基材上に電極触媒層10が形成される。基材には、高分子電解質膜11、または、転写用基材、ガス拡散層等を用いることができる。
高分子電解質膜11を基材として用いる場合には、例えば、高分子電解質膜11の表面に触媒インクを直に塗布した後、触媒インクの塗膜から溶媒を除去することによって電極触媒層10を形成する方法を用いることができる。その後、高分子電解質膜11を挟んで電極触媒層と対向するように、高分子電解質膜の反対側の表面に触媒インクを直に塗布した後、触媒インクの塗膜から溶媒を除去することによって電極触媒層を形成し、膜電極接合体1を得ることができる。
【0044】
転写用基材やガス拡散層を用いる場合には、転写用基材やガス拡散層の上に触媒インキを塗布した後に乾燥することによって、触媒層付き基材を作製する。その後、例えば、触媒層付き基材における電極触媒層10の表面と、高分子電解質膜11と、を接触させた状態で、加熱および加圧を行うことによって、触媒層付き基材から触媒層を高分子電解質膜11に転写して接合させる。このようにして、高分子電解質膜11の両面に電極触媒層10を接合することによって、膜電極接合体1を製造することができる。
【0045】
触媒インクを基材に塗布する方法には、様々な塗工方法を用いることができる。塗工方法には、例えば、ダイコート、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、キスコート、コンマコート、バーコート、スピンコートおよび、スキージーなどを挙げることができる。塗工方法には、ダイコートを用いることが好ましい。ダイコートは、塗布期間の中間における膜厚が安定し、かつ、間欠的な塗工を行うことが可能である点で好ましい。
触媒インクの塗膜を乾燥させる方法には、例えば、温風オーブンを用いた乾燥、IR(遠赤外線)乾燥、ホットプレートを用いた乾燥、および、減圧乾燥などを用いることができる。乾燥温度は、40℃以上200℃以下であり、40℃以上120℃以下程度であることが好ましい。乾燥時間は、0.5分以上1時間以下であり、1分以上30分以下程度であることが好ましい。
【0046】
触媒層付き基材から触媒層(電極触媒層10)を高分子電解質膜11に転写して接合させる場合には、電極触媒層10の転写時に電極触媒層10に掛かる圧力や温度が膜電極接合体1の発電性能に影響する。発電性能が高い膜電極接合体を得る上では、電極触媒層10に掛かる圧力は、0.1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。
圧力が20MPa以下であることによって、電極触媒層10が過剰に圧縮されることが抑えられる。圧力が0.1MP以上であることによって、電極触媒層10と高分子電解質膜11との接合性の低下により発電性能が低下することが抑えられる。
接合時の温度は、高分子電解質膜11と電極触媒層10との界面の接合性の向上や、界面抵抗の抑制を考慮すると、高分子電解質膜11、または、電極触媒層10が含む高分子電解質14のガラス転移点付近で
あることが好ましい。
【0047】
転写用基材としては、例えば、高分子フィルム、および、フッ素系樹脂によって形成されたシート体を用いることができる。フッ素系樹脂は、転写性に優れている。フッ素系樹脂には、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレンエチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、および、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを挙げることができる。高分子フィルムを形成する高分子には、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテル・エーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、および、ポリエチレンナフタレートなどを挙げることができる。
転写用基材としてガス拡散層を用いることもできる。
【0048】
ここで、繊維状物質15の配合率、高分子電解質14の配合率、触媒インクの溶媒組成、触媒インク調整時の分散強度、塗布した触媒インクの加熱温度やその加熱速度などを調整する事により、電極触媒層10を、十分なガス拡散性およびプロトン伝導性を有するものとすることができる。
例えば、電極触媒層10中の高分子電解質14の配合率は、担体13の質量に対して同程度から半分程度、すなわち、50~100質量%が好ましい。また、繊維状物質15の配合率は、担体13の質量に対して同程度以下が好ましい。触媒インクの固形分比率は、薄膜に塗工できる範囲で、高いことが好ましい。
【0049】
[固体高分子形燃料電池の構成]
次に、図3を参照しつつ、本実施形態に係る膜電極接合体1を備えた固体高分子形燃料電池3の具体的な構成例を説明する。なお、図3は、単セルの構成例であり、固体高分子形燃料電池3は、この構成に限られず、複数の単セルを積層した構成であってもよい。
【0050】
図3に示すように、固体高分子形燃料電池3は、膜電極接合体1と、酸素極側のガス拡散層17Cと、燃料極側のガス拡散層17Aとを備えている。ガス拡散層17Cは、膜電極接合体1の酸素極側のカソード側電極触媒層である電極触媒層10Cと対向して配置されている。
また、ガス拡散層17Aは、膜電極接合体1の燃料極側のアノード側電極触媒層である電極触媒層10Aと対向して配置されている。そして、電極触媒層10C及びガス拡散層17Cから酸素極2Cが構成され、電極触媒層10A及びガス拡散層17Aから燃料極2Aが構成されている。
【0051】
更に、固体高分子形燃料電池3は、酸素極2Cに対向して配置されたセパレーター18Cと、燃料極2Aに対向して配置されたセパレーター18Aと、を備えている。セパレーター18Cは、ガス拡散層17Cに対向する面に形成された反応ガス流通用のガス流路19Cと、ガス流路19Cが形成された面と反対側の面に形成された冷却水流通用の冷却水流路20Cとを備えている。
また、セパレーター18Aは、セパレーター18Cと同様の構成を有しており、ガス拡散層17Aに対向する面に形成されたガス流路19Aと、ガス流路19Aが形成された面と反対側の面に形成された冷却水流路20Aとを備えている。セパレーター18C、18Aは、導電性でかつガス不透過性の材料からなる。
【0052】
そして、固体高分子形燃料電池3は、セパレーター18Cのガス流路19Cを通って空気や酸素等の酸化剤が酸素極2Cに供給され、セパレーター18Aのガス流路19Aを通って水素を含む燃料ガス若しくは有機物燃料が燃料極2Aに供給されて、発電を行う。
【0053】
本実施形態に係る固体高分子形燃料電池3は、本実施形態に係る膜電極接合体1を採用することで、十分な排水性及びガス拡散性を有し、長期的に高い発電性能を有する高い耐久性を発揮することが可能となる。
すなわち、本実施形態によれば、固体高分子形燃料電池3の運転において十分なガス拡散性およびプロトン伝導性を有し、長期的に高い発電性能および高い耐久性を発揮することが可能な電極触媒層10、膜電極接合体1及び固体高分子形燃料電池3を提供することができる。したがって、本発明は、固体高分子形燃料電池を利用した、定置型コジェネレーションシステムや燃料電池自動車等に好適に用いることができ、産業上の利用価値が大きい。
【実施例0054】
以下、具体的な実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
[電極触媒層の作製]
<材料の用意>
触媒担持粒子A-1:ケッチェンブラックからなる導電性コアがポリベンゾイミダゾール(窒素原子を含有する高分子化合物)からなる高分子層で被覆された担体(質量比で高分子層:導電性コア=1:5)に、白金(触媒)が担持された粒子であって、触媒担持率がケッチェンブラック:白金=1:1(質量比)であるもの。
触媒担持粒子A-2:ケッチェンブラックからなる導電性コアに、白金(触媒)が担持された粒子であって、触媒担持率がケッチェンブラック:白金=1:1(質量比)であるもの。
触媒担持粒子A-3:ケッチェンブラックからなる導電性コアに、白金コバルト合金(触媒)が担持された粒子であって、触媒担持率がケッチェンブラック:白金コバルト合金=1:1(質量比)であるもの。
高分子電解質:20%ナフィオン(登録商標)分散液(富士フィルム和光純薬株式会社製)
繊維状物質B-1:平均繊維径150nm、繊維長15μmのポリベンゾイミダゾール(窒素原子を含有する高分子化合物)繊維。
繊維状物質B-2:平均繊維径50nm、繊維長10μmのポリベンゾイミダゾール(窒素原子を含有する高分子化合物)繊維。
繊維状物質B-3:平均繊維径400nm、繊維長40μmのポリベンゾイミダゾール(窒素原子を含有する高分子化合物)繊維。
繊維状物質B-4:平均繊維径30nm、繊維長8μmのポリベンゾイミダゾール(窒素原子を含有する高分子化合物)繊維。
繊維状物質B-5:平均繊維径600nm、繊維長70μmのポリベンゾイミダゾール(窒素原子を含有する高分子化合物)繊維。
繊維状物質B-6:平均繊維径200nm、繊維長20μmのポリベンゾオキサゾール(窒素原子を含有する高分子化合物)繊維。
繊維状物質B-7:平均繊維径350nm、繊維長35μmのポリイミド(窒素原子を含有する高分子化合物)繊維。
繊維状物質B-8:平均繊維径300nm、繊維長35μmのポリアミド(窒素原子を含有する高分子化合物)繊維。
繊維状物質B-9:平均繊維径150nm、繊維長10μmのカーボンナノチューブ。
分散媒:水と1-プロパノールの質量比70:30の混合液。
<触媒インクの調製>
触媒担持粒子と、高分子電解質と、繊維状物質と、分散媒とを混合して、混合液を得た。
高分子電解質の配合量は、触媒担持粒子中の担体(導電性コア)100質量部に対して100質量部となる量とした。繊維状物質の配合量は、乾燥後のインク塗膜(電極触媒層)における含有率が表1の各値となるようにした。
また、固形分濃度が12質量%となるように、分散媒の添加量を調整した。
次に、この混合液を分散処理することにより、触媒インクを調製した。
この混合物に対し、遊星型ボールミルを用いて120分間にわたって300rpmで分散処理を行った。その際、直径5mmのジルコニアボールをジルコニア容器の3分の1程度加えた。
【0055】
<電極触媒層の形成>
得られた触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン(登録商標)211、Dupont社製)の片面にスリットダイコーターを用いて乾燥後の電極触媒層が所定の厚さ(表1の各値)となるように塗布することによって、塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成された高分子電解質膜を80℃の温風オーブンにて、塗膜のタックがなくなるまで乾燥させ、カソード側電極触媒層を形成した。
次に、得られた触媒インクを、高分子電解質膜の反対側の面にスリットダイコーターを用いて乾燥後の厚さが10μmの厚さとなるように塗布することによって、塗膜を形成した。次いで、塗膜が形成された高分子電解質膜を80℃の温風オーブンにて、塗膜のタックがなくなるまで乾燥させ、アノード側電極触媒層を形成した。
<電極触媒層の窒素原子比率の測定>
このようにして得られた各サンプルの膜電極接合体を、クライオイオンミリングを用いて膜面に垂直に切断して、カソード側およびアノード側の両電極触媒層の断面を露出させた。そして、カソード側電極触媒層の断面について、エネルギー分散型X線分光装置が搭載された走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)を用いて元素マッピングを行い、窒素原子比率を測定した。その値を表1に示す。
【0056】
[固体高分子形燃料電池の作製]
得られた各サンプルの膜電極接合体をそれぞれ用いて、固体高分子形燃料電池を作製した。
具体的には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の刊行物である「セル評価解析プロトコル」に準拠し、膜電極接合体の両面にガス拡散層及びガスケット、セパレーターを配置し、所定の面圧となるように締め付けたJARI標準セルを作製した。
【0057】
[初期の発電性能の測定]
作製したJARI標準セルを評価用単セルとして用いて、「セル評価解析プロトコル」に記載のIV測定(「標準」条件とする。)及びアノードの相対湿度とカソードの相対湿度を共にRH100%としてI-V測定(「高湿」条件とする。)を実施することにより、初期の発電性能を測定した。
【0058】
[耐久性の測定]
初期の発電性能の測定に用いた評価用単セルと同一の単セルを用い、上述した「セル評価解析プロトコル」に記載の電位変動サイクル試験を実施し、その前後に上記と同じ条件で発電性能を測定することで、耐久性を評価した。
耐久性の評価は、初期の発電性能と、起動停止試験1万サイクルおよび負荷応答試験1万サイクルを行った後の発電性能とを比較した。評価は下記の基準に従って行い、セル電圧が0.6Vのときの電流維持率(試験後の値/試験前の値)が50%以上、すなわち「C」以上の評価であれば合格とした。
「A」:電流維持率が80%以上。
「B」:電流維持率が65%以上、80%未満
「C」:電流維持率が50%以上、65%未満
「D」:電流維持率が50%未満
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、実施例1~17では、電極触媒層が窒素を含有する化合物からなる繊維状物質を含み、電極触媒層の組成における窒素原子の割合(以下、単に「電極触媒層の窒素原子比率」とも称する。)が12原子%以上35原子%以下であることで、良好な耐久性能を得ることができた。
実施例1~17のうち実施例1~6と実施例15~17は、窒素原子を含む高分子化合物で導電性コアが被覆された担体を使用したことにより、担体と高分子電解質との相互作用が生じ、プロトン伝導性と排水性が向上したため、実施例7~14よりも耐久性が向上している。
また、電極触媒層の厚さ以外は全て同じ構成である実施例3~5において、電極触媒層の厚さが5μm以上30μm以下の範囲内である実施例3と4は、範囲外である実施例5よりも高い耐久性が得られている。
さらに、繊維状物質の繊維径以外は全て同じ構成である実施例1、2、5において、繊維状物質の繊維径50nm以上400μm以下の範囲内である実施例1と2は、範囲外である実施例5よりも高い耐久性が得られている。
一方、比較例1~6では十分な耐久性が得られなかった。比較例1では繊維状物質が添加されていないことにより、比較例2では、カーボンナノチューブのみが添加され、窒素原子を含有する化合物からなる繊維状物質が添加されていなかったことにより、プロトン伝導性が得られず、耐久性が得られなかった。繊維状物質が添加されていない比較例1では、電極触媒層内の空隙が小さくなることによる排水性の低下も、耐久性低下の原因となっている。
比較例3は、電極触媒層の窒素原子比率が5原子%(12原子%未満)であることで、十分な耐久性が得られなかった。
比較例5は、窒素原子を含む高分子化合物で導電性コアが被覆された担体を使用したことにより、担体と高分子電解質との相互作用が生じるものの、電極触媒層の窒素原子比率が10原子%(12原子%未満)であることで、その効果が小さく、十分な耐久性が得られなかった。
比較例4及び比較例6では、繊維状物質の含有率が25質量%(30質量%超)と過剰であることにより、電極触媒層の窒素原子比率が40原子%及び38原子%(35原子%超)となっている。そのため、繊維同士の絡み合いや凝集により電極触媒層内の空隙が小さくなり、排水性が低下することで耐久性が低い結果となった。
【0061】
以上の結果から、本発明の一態様の構成(触媒と、触媒を担持した担体と、高分子電解質と、窒素原子を含有する化合物からなる繊維状物質と、を含有し、電極触媒層の窒素原子比率が12原子%以上35原子%以下)を満たす電極触媒層を備えた固体高分子形燃料電池は、良好な発電性能が得られるとともに耐久性に優れたものとなることが分かる。
【符号の説明】
【0062】
1…膜電極接合体
2C…酸素極
2A…燃料極
3…固体高分子形燃料電池
4…空隙
10、10C、10A…電極触媒層
11…高分子電解質膜
12…触媒
13…担体
14…高分子電解質
15…繊維状物質
16C、16A…ガスケット
17C、17A…ガス拡散層
18C、18A…セパレーター
19C、19A…ガス流路
20C、20A…冷却水流路
図1
図2
図3