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特開2024-91508ガラス繊維の回収方法及びガラスの製造方法
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  • 特開-ガラス繊維の回収方法及びガラスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091508
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ガラス繊維の回収方法及びガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/30 20220101AFI20240627BHJP
   B03B 5/30 20060101ALI20240627BHJP
   C03C 25/323 20180101ALI20240627BHJP
【FI】
B09B3/30 ZAB
B03B5/30
C03C25/323
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023209334
(22)【出願日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2022205162
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 次郎
【テーマコード(参考)】
4D004
4D071
4G060
【Fターム(参考)】
4D004AA18
4D004AC04
4D004CA10
4D004CC03
4D004CC11
4D004DA03
4D004DA20
4D071AA44
4D071AA62
4D071AB14
4D071DA15
4D071DA20
4G060BB02
4G060CB26
(57)【要約】
【課題】環境への負荷を抑制しつつ、ガラス繊維シートからガラス繊維を容易にかつ効率よく回収することができる、ガラス繊維の回収方法を提供する。
【解決手段】ガラス繊維シートからガラス繊維を回収する方法であって、ガラス繊維が結着剤により結着されてなるガラス繊維シートを準備する、準備工程と、前記ガラス繊維シートを湿式粉砕して、前記ガラス繊維から前記結着剤を剥離する、剥離工程と、前記ガラス繊維の比重と前記結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体中において、前記ガラス繊維と前記結着剤とを分離する、分離工程と、分離された前記ガラス繊維及び前記結着剤から前記ガラス繊維を回収する、回収工程とを備える、ガラス繊維の回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維シートからガラス繊維を回収する方法であって、
ガラス繊維が結着剤により結着されてなるガラス繊維シートを準備する、準備工程と、
前記ガラス繊維シートを湿式粉砕して、前記ガラス繊維から前記結着剤を剥離する、剥離工程と、
前記ガラス繊維の比重と前記結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体中において、前記ガラス繊維と前記結着剤とを分離する、分離工程と、
分離された前記ガラス繊維及び前記結着剤から前記ガラス繊維を回収する、回収工程と、
を備える、ガラス繊維の回収方法。
【請求項2】
前記剥離工程において、前記液体を用いて前記ガラス繊維シートを湿式粉砕する、請求項1に記載のガラス繊維の回収方法。
【請求項3】
前記ガラス繊維の比重と前記結着剤の比重との中間の比重をXg/cmとしたときに、前記液体の比重が、X±0.3g/cmの範囲内にある、請求項1又は2に記載のガラス繊維の回収方法。
【請求項4】
前記液体の比重が、1.2g/cm以上、2.4g/cm以下である、請求項1又は2に記載のガラス繊維の回収方法。
【請求項5】
前記液体が、有機成分を実質的に含まない、請求項1又は2に記載のガラス繊維の回収方法。
【請求項6】
前記液体が、塩化カルシウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、及び硝酸アルミニウム水溶液からなる群から選択される少なくとも1種の水溶液である、請求項1又は2に記載のガラス繊維の回収方法。
【請求項7】
前記ガラス繊維の比重が、2.0g/cm以上、3.0g/cm以下である、請求項1又は2に記載のガラス繊維の回収方法。
【請求項8】
前記結着剤の比重が、1.0g/cm以上、1.8g/cm以下である、請求項1又は2に記載のガラス繊維の回収方法。
【請求項9】
前記結着剤が、ポリエステル樹脂を含む、請求項1又は2に記載のガラス繊維の回収方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のガラス繊維の回収方法により回収されたガラス繊維を加熱溶融し、成形する工程を備える、ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維シートからガラス繊維を回収する、ガラス繊維の回収方法及び該ガラス繊維の回収方法を用いたガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維シートは、軽量であり、高い機械的強度を有する素材として広く用いられている。例えば、ガラスチョップドストランドマットは、多数本のガラスチョップドストランドを互いに結合してマット状に成形したガラス繊維シートであり、ガラス繊維強化プラスチックや、自動車成形天井材等の補強材として用いられている。
【0003】
ガラスチョップドストランドマットの製造方法としては、多数本のガラスフィラメントの表面に集束剤を塗布し、集束することによって得られたガラスストランドを所定長に切断してなるガラスチョップドストランドを多数本用意し、これらを均等無秩序にシート状に堆積した後、得られたシート状堆積物に結着剤(二次バインダー)と水を散布し、次いでこの結着剤を加熱溶融した後にシート状堆積物をプレス成形し、冷却固化させる方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-078244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ガラスチョップドストランドマットのようなガラス繊維シートに含まれるガラス繊維をガラス原料として再利用するためには、ガラス繊維シートから結着剤を取り除いてガラス繊維を回収する必要がある。しかしながら、結着剤は、ポリエステル等の有機物を主たる原料としているため、ガラス繊維シートから結着剤を焼却により取り除こうとすると、焼却時に黒煙や二酸化炭素が排出され、環境的な問題が生じることとなる。
【0006】
本発明の目的は、環境への負荷を抑制しつつ、ガラス繊維シートからガラス繊維を容易にかつ効率よく回収することができる、ガラス繊維の回収方法及び該ガラス繊維の回収方法を用いたガラスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するガラス繊維の回収方法及びガラスの製造方法の各態様について説明する。
【0008】
本発明の態様1に係るガラス繊維の回収方法は、ガラス繊維シートからガラス繊維を回収する方法であって、ガラス繊維が結着剤により結着されてなるガラス繊維シートを準備する、準備工程と、前記ガラス繊維シートを湿式粉砕して、前記ガラス繊維から前記結着剤を剥離する、剥離工程と、前記ガラス繊維の比重と前記結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体中において、前記ガラス繊維と前記結着剤とを分離する、分離工程と、分離された前記ガラス繊維及び前記結着剤から前記ガラス繊維を回収する、回収工程とを備えることを特徴としている。
【0009】
態様2に係るガラス繊維の回収方法では、態様1の剥離工程において、前記液体を用いて前記ガラス繊維シートを湿式粉砕することが好ましい。
【0010】
態様3に係るガラス繊維の回収方法では、態様1又は態様2において、前記ガラス繊維の比重と前記結着剤の比重との中間の比重をXg/cmとしたときに、前記液体の比重が、X±0.3g/cmの範囲内にあることが好ましい。
【0011】
態様4に係るガラス繊維の回収方法では、態様1から態様3のいずれか一つの態様において、前記液体の比重が、1.2g/cm以上、2.4g/cm以下であることが好ましい。
【0012】
態様5に係るガラス繊維の回収方法では、態様1から態様4のいずれか一つの態様において、前記液体が、有機成分を実質的に含まないことが好ましい。
【0013】
態様6に係るガラス繊維の回収方法では、態様1から態様5のいずれか一つの態様において、前記液体が、塩化カルシウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、及び硝酸アルミニウム水溶液からなる群から選択される少なくとも1種の水溶液であることが好ましい。
【0014】
態様7に係るガラス繊維の回収方法では、態様1から態様6のいずれか一つの態様において、前記ガラス繊維の比重が、2.0g/cm以上、3.0g/cm以下であることが好ましい。
【0015】
態様8に係るガラス繊維の回収方法では、態様1から態様7のいずれか一つの態様において、前記結着剤の比重が、1.0g/cm以上、1.8g/cm以下であることが好ましい。
【0016】
態様9に係るガラス繊維の回収方法では、態様1から態様8のいずれか一つの態様において、前記結着剤が、ポリエステル樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の態様10に係るガラスの製造方法は、態様1から態様9のいずれか一つの態様のガラス繊維の回収方法により回収されたガラス繊維を加熱溶融し、成形する工程を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環境への負荷を抑制しつつ、ガラス繊維シートからガラス繊維を容易にかつ効率よく回収することができる、ガラス繊維の回収方法及び該ガラス繊維の回収方法を用いたガラスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明で用いるガラス繊維シートの製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0021】
[ガラス繊維の回収方法]
本発明のガラス繊維の回収方法は、ガラス繊維シートからガラス繊維を回収する方法である。本発明において回収したガラス繊維は、ガラス原料として再利用することができる。
【0022】
本発明のガラス繊維の回収方法は、(a)ガラス繊維が結着剤により結着されてなるガラス繊維シートを準備する、準備工程と、(b)ガラス繊維シートを湿式粉砕して、ガラス繊維から結着剤を剥離する、剥離工程と、(c)ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体中において、ガラス繊維と結着剤とを分離する、分離工程と、(d)分離されたガラス繊維及び結着剤からガラス繊維を回収する、回収工程とを備える。
【0023】
本発明のガラス繊維の回収方法は、上記の構成を備えるので、環境への負荷を抑制しつつ、ガラス繊維シートからガラス繊維を容易にかつ効率よく回収することができる。なお、この点については、以下のように説明することができる。
【0024】
従来、ガラスチョップドストランドマットのようなガラス繊維シートに含まれるガラス繊維をガラス原料として再利用するためには、ガラス繊維シートから結着剤を取り除いてガラス繊維を回収する必要があった。しかしながら、結着剤は、ポリエステル等の有機物を主たる原料としているため、ガラス繊維シートから結着剤を焼却により取り除こうとすると、焼却時に黒煙や二酸化炭素が排出され、環境的な問題が生じていた。
【0025】
これに対して、本発明のガラス繊維の回収方法では、ガラス繊維シートを湿式粉砕して、ガラス繊維から結着剤を剥離させ、ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体中において、ガラス繊維と結着剤とを分離させるので、ガラス繊維シートを焼却せずとも、ガラス繊維シートから結着剤を取り除いてガラス繊維を回収することができる。
【0026】
従って、本発明のガラス繊維の回収方法によれば、環境への負荷を抑制しつつ、ガラス繊維シートからガラス繊維を容易にかつ効率よく回収することができる。
【0027】
以下、本発明のガラス繊維の回収方法における各工程を詳細に説明する。
【0028】
(a)準備工程
まず、ガラス繊維シートを準備する。ガラス繊維シートとしては、ガラス繊維が結着剤により結着されてなるものであれば、特に限定されないが、例えば、ガラスチョップドストランドマット、ガラスコンティニュアスストランドマット、ガラスネット等を用いることができる。なお、ガラスチョップドストランドマットは、ガラスチョップドストランドのシート状堆積物が、結着剤によって結着されてなるマットである。ガラスコンティニュアスストランドマットは、連続したガラス繊維を渦巻状に積み重ね、結着剤によりマット状にしたマットである。また、ガラスネットも結着剤を用いて形成されるネットである。
【0029】
ガラス繊維シートを構成するガラスとしては、例えば、Eガラス、Sガラス、Tガラス、Aガラス、Cガラス、Dガラス、Hガラス等を用いることができる。
【0030】
ガラス繊維シートを構成する結着剤としては、特に限定されず、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。なかでも、結着剤は、ポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0031】
結着剤の形態としては、特に限定されず、例えば、粉末状、液状、繊維状、シート状、又はフィルム状のものを用いることができる。
【0032】
ガラス繊維シート中における結着剤の含有量は、特に限定されないが、例えば、1質量%以上、20質量%以下であり、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは15質量%以下である。
【0033】
ガラス繊維シート中におけるガラス繊維に対する結着剤の質量比(結着剤/ガラス繊維)は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上であり、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.15以下、さらに好ましくは0.1以下である。
【0034】
ガラス繊維シートの目付としては、特に限定されないが、好ましくは50g/m以上、より好ましくは70g/m以上であり、好ましくは700g/m以下、より好ましくは500g/m以下、さらに好ましくは300g/m以下、特に好ましくは200g/m以下である。ガラス繊維シートの目付が上記範囲内である場合、ガラス繊維シートをより一層軽量化し、かつ引張強度をより一層高めることができる。
【0035】
以下、ガラス繊維シートを準備する方法として、ガラスチョップドストランドマットの製造方法の一例について、図1を参照して説明する。
【0036】
ガラスチョップドストランドマットの製造方法では、まず、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を溶融して溶融ガラスとし、溶融ガラスを均質な状態とした後に、ブッシングに付設された耐熱性を有するノズルから溶融ガラスを引き出す。その後、引き出された溶融ガラスを冷却してガラスフィラメントとする。
【0037】
このガラスフィラメントの表面に、集束剤を塗布し、集束剤が均等に塗布された状態で、そのガラスフィラメントを数百から数千本引き揃え、集束してガラスストランドとする。得られたガラスストランドは、引き揃えた状態で、製造紙管に巻き取って巻回体を作製する。続いて、巻き取られた巻回体を乾燥し、上記集束剤の被膜をガラスストランドの表面に形成し、ケーキを得る。
【0038】
上記ガラスフィラメントを集束させるための集束剤としては、特に限定されず、例えば、ポリ酢酸ビニルエマルジョンを用いることができる。上記集束剤は、例えばシランカップリング剤をさらに含んでいてもよい。上記シランカップリング剤としては、具体的には、アミノシラン、エポキシシラン、ビニルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、ウレイドシランなどを用いることができる。さらに、上記集束剤中には、上述のシランカップリング剤以外に、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤、帯電防止剤等の各成分を含んでいてもよく、それぞれの成分の配合比は、必要に応じて決定すればよい。
【0039】
次に、図1に示すように、乾燥されたケーキの内層(図示せず)からガラスストランド10を解舒し、チャンバー11の天井部分に取り付けられた複数個の切断機12に送り込み、所定長に切断して、ガラスチョップドストランド10Aを得る。なお、各切断機12は、カッターローラー12aとゴムローラー12bから構成され、互いに回転するカッターローラー12aとゴムローラー12bとの間にガラスストランド10を送り込み、ガラスストランド10を切断する。
【0040】
次に、ガラスチョップドストランド10Aを、チャンバー11の底部に配置された第1の搬送コンベア13の上で均一になるように分散させ、シート状に堆積する。シート状に堆積されたガラスチョップドストランド10Aは、チャンバー11の外へ搬送し、次の第2の搬送コンベア14に搬送する。
【0041】
続いて、第2の搬送コンベア14上で移動するガラスチョップドストランド10A上に散布機15によって結着剤を均一に散布し、次の第3の搬送コンベア16に搬送する。結着剤が散布されたガラスチョップドストランド10Aのシート状堆積物を、加熱炉17中に移動させ加熱することによって、結着剤を軟化させ、溶融させる。
【0042】
次いで、ガラスチョップドストランド10Aのシート状堆積物を、加熱炉17の外部に移動させ、冷却圧延機水冷ロール18の間を通して冷却プレスする。これにより、溶融していた結着剤を固化させ、ガラスチョップドストランドマット19を得ることができる。なお、ガラスチョップドストランドマット19は、巻き取り機20によって巻き取られる。ガラスチョップドストランドマット19は、巻き取り機20から引き出すことによって使用することができ、必要に応じて所望の大きさに切断して使用することができる。
【0043】
本発明のガラス繊維の回収方法では、上記ガラス繊維シートの製造方法において二次バインダーとして使用される結着剤をガラス繊維から分離することにより、ガラス繊維を回収することができる。
【0044】
なお、ガラス繊維シートとしては、市販品のガラス繊維シートを準備してもよい。
【0045】
(b)剥離工程
次に、準備したガラス繊維シートを湿式粉砕して、ガラス繊維から結着剤を剥離する。なお、ガラス繊維シートを乾式粉砕すると、粉砕時に発生する粉砕熱により、結着剤が軟化し、ブロッキングすることがある。これに対して、本発明では、ガラス繊維シートを湿式粉砕するので、粉砕時に発生する粉砕熱により、結着剤が軟化し、ブロッキングすることを抑制することができる。
【0046】
湿式粉砕の方法としては、特に限定されないが、例えば、ボールミル、ミキサー、擂潰機等により行うことができる。
【0047】
湿式粉砕に使用する液体としては、特に限定されないが、ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体を用いることが好ましい。なお、この液体の詳細については、後述の(c)分離工程で説明するものとする。
【0048】
湿式粉砕に使用する液体の温度としては、特に限定されないが、好ましくは5℃以上、より好ましくは15℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。湿式粉砕に使用する液体の温度が上記範囲内にある場合、結着剤が軟化し、ブロッキングすることをより一層確実に抑制することができる。
【0049】
(c)分離工程
次に、湿式粉砕後のガラス繊維及び結着剤を、ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体(以下、単に液体ともいう)中に浸漬させ、ガラス繊維と結着剤とを分離する。通常、ガラス繊維の比重が結着剤の比重よりも大きいので、上記液体中において、ガラス繊維は下側に沈降し、結着剤は上側に浮遊する。このように、(c)分離工程では、ガラス繊維、結着剤、及び液体の比重差により、ガラス繊維及び結着剤を分離させることができる。この際、例えば、超音波装置等を用いて、湿式粉砕後のガラス繊維及び結着剤の脱泡処理を行えば、ガラス繊維と結着剤との分離をより促進させることができる。
【0050】
なお、(b)剥離工程における湿式粉砕で使用する液体が、ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体であることが好ましい。この場合、(b)剥離工程及び(c)分離工程を連続して行うことができるので、ガラス繊維の回収に要する工程をより簡略化することができ、ガラス繊維の回収に要する時間をより一層短くすることができる。
【0051】
本発明においては、ガラス繊維の比重と結着剤の比重との中間の比重をXg/cmとしたときに、液体の比重が、X±0.3g/cmの範囲内にあることが好ましく、X±0.27g/cmの範囲内にあることがより好ましく、X±0.25g/cmの範囲内にあることがさらに好ましい。この場合、湿式粉砕後のガラス繊維及び結着剤をより確実に分離することができる。
【0052】
ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体の比重は、特に限定されないが、好ましくは1.2g/cm以上、より好ましくは1.4g/cm以上、さらに好ましくは1.6g/cm以上であり、好ましくは2.4g/cm以下、より好ましくは2.2g/cm以下、さらに好ましくは2.0g/cm以下である。この場合、湿式粉砕後のガラス繊維及び結着剤をより確実に分離することができる。
【0053】
ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体としては、特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム水溶液、硫酸アンモニウム水溶液、硫酸アルミニウム水溶液、及び硝酸アルミニウム水溶液からなる群から選択される少なくとも1種の水溶液を用いることができ、好ましくは塩化カルシウム水溶液である。
【0054】
なかでも、ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体は、塩化カルシウム飽和水溶液(比重:1.82g/cm)、硫酸アンモニウム飽和水溶液(比重:1.74g/cm)、硫酸アルミニウム水溶液(比重:1.87g/cm)、硝酸アルミニウム飽和水溶液(比重:1.60g/cm)等であることが好ましく、塩化カルシウム飽和水溶液(比重:1.82g/cm)であることがより好ましい。この場合、湿式粉砕後のガラス繊維及び結着剤をより確実に分離することができる。
【0055】
なお、これらの液体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を併用してもよい。
【0056】
また、ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体は、有機成分を実質的に含有しないことが好ましい。この場合、環境への負荷をより一層抑制することができる。なお、有機成分を実質的に含有しないとは、液体中における有機成分の含有量が、0.1質量%未満であることをいい、液体中に有機成分が全く含まれていなくてもよい。
【0057】
有機成分としては、種々の有機溶媒や、界面活性剤、オイル等が挙げられる。
【0058】
ガラス繊維の比重としては、特に限定されないが、好ましくは2.0g/cm以上、より好ましくは2.2g/cm以上、さらに好ましくは2.4g/cm以上であり、好ましくは3.0g/cm以下、より好ましくは2.9g/cm以下、さらに好ましくは2.8g/cm以下である。この場合、湿式粉砕後のガラス繊維及び結着剤をより確実に分離することができる。
【0059】
このようなガラス繊維の材料としては、例えば、Eガラス、Aガラス、Sガラスが挙げられる。
【0060】
結着剤の比重としては、特に限定されないが、好ましくは1.0g/cm以上、より好ましくは1.2g/cm以上、さらに好ましくは1.3g/cm以上、好ましくは1.8g/cm以下、より好ましくは1.7g/cm以下、さらに好ましくは1.6g/cm以下である。この場合、湿式粉砕後のガラス繊維及び結着剤をより確実に分離することができる。
【0061】
このような結着剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、又はエポキシ樹脂等を用いることができ、なかでもポリエステル樹脂(比重:1.46g/cm)であることが好ましい。
【0062】
なお、(c)分離工程において、ガラス繊維の比重と結着剤の比重との間の範囲に比重を有する液体の温度は、特に限定されないが、好ましくは5℃以上、より好ましくは15℃以上であり、好ましくは100℃以下、より好ましくは70℃以下、さらに好ましくは50℃以下である。この場合、結着剤が軟化し、ブロッキングすることをより一層確実に抑制することができる。
【0063】
(c)分離工程において、ガラス繊維及び結着剤を液体中に静置する時間は、好ましくは10分以上、より好ましくは60分以上であり、好ましくは180分以下、より好ましくは120分以下である。
【0064】
(d)回収工程
次に、分離されたガラス繊維及び結着剤からガラス繊維を回収する。ガラス繊維の回収に際しては、例えば、ガラス繊維の比重が結着剤の比重よりも大きい場合、まず、上記液体中において、上側に浮遊する結着剤を除去する。次に、上記液体中から、下側に沈降するガラス繊維を回収する。
【0065】
[ガラスの製造方法]
本発明のガラスの製造方法は、上述したガラス繊維の回収方法により回収されたガラス繊維を加熱溶融し、成形する工程を備える。
【0066】
本発明のガラスの製造方法では、例えば、回収されたガラス繊維を用いて、ガラスチョップドストランドマット等のガラス繊維シートを製造することができる。なお、ガラスチョップドストランドマットは、例えば、上述したガラスチョップドストランドマットの製造方法に従い製造することができる。得られたガラスチョップドストランドマット等のガラス繊維シートは、自動車成形天井材など各種の繊維強化成形複合材の構成材料として好適に用いることができる。もっとも、本発明のガラスの製造方法は、樹脂強化用ガラス繊維、あるいは板ガラス等のガラスの製造方法にも用いることができ、その用途は特に限定されない。
【0067】
本発明のガラスの製造方法では、上述したガラス繊維の回収方法により回収されたガラス繊維を再利用するため、環境への負荷を抑制することができる。
【0068】
以下、実験例及び実施例について説明する。もっとも、本発明は、以下の実験例及び実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
(実験例1)
ガラス粉末として、Eガラスの組成を有するガラス繊維を粉砕して得られたガラス粉末(比重:2.635g/cm)を用意した。次に、ガラス粉末と、結着剤としてのポリエステル樹脂(比重:1.46g/cm)の粉末とを、質量比で、9:1の比率で混合し、混合物を得た。得られた混合物10gを1Lの塩化カルシウム飽和水溶液(比重:1.82g/cm)に浸漬させ、液温20℃で30分間静置させた。これにより、塩化カルシウム飽和水溶液中にガラス粉末を沈殿させる一方で結着剤を浮遊させることにより、両者を分離させた。分離後、結着剤を含む上澄み液を除去し、液体中に沈殿しているガラス粉末を回収した。
【0070】
当該ガラス粉末を650℃で30分間加熱処理し、ガラス粉末に付着した有機成分を焼却した。加熱処理後の重量減少率を確認したところ0.5質量%程度であり、原料であるガラス繊維に付着していた集束剤の量(いわゆる強熱減量)とほぼ一致していた。つまり、当初の混合物中に含まれていた結着剤はほぼ全て除去できたことがわかる。
【0071】
以上の通り、ガラス粉末と結着剤の混合物からガラス粉末を精度良く回収することできた。
【0072】
(実施例1)
ガラスチョップドストランドのシート状堆積物が、結着剤によって結合されてなる、ガラスチョップドストランドマット(目付135g/m)を用意した。なお、ガラスチョップドストランドの材料としては、Eガラス(比重:2.635g/cm)を用いた。また、結着剤としては、ポリエステル樹脂(比重:1.46g/cm、軟化点:115℃)を用いた。なお、ガラスチョップドストランドマット中に含まれる樹脂成分は8.9質量%(酢酸ビニル系集束剤0.5質量%、結着剤8.4質量%)であった。
【0073】
次に、用意したガラスチョップドストランドマットを10mm×10mmのサイズのマット片に切断した。当該マット片50gと500mLの塩化カルシウム飽和水溶液(比重:1.82g/cm)とを市販の家庭用ミキサーに入れ、25℃で5分間作動させることにより、マット片を裁断しながら撹拌した。その後、内容物をプラスチック製容器に移し替え、40℃で10分間超音波処理を行って脱泡し、その後25℃で10分間静置した。これにより、ガラス繊維から結着剤を剥離し、ガラス繊維及び結着剤を分離させた。分離後、結着剤を含む上澄み液を除去し、液体中のガラス繊維を回収した。ガラス繊維を3回水洗した後、乾燥した。乾燥後のガラス繊維を650℃で30分間熱処理し、熱処理前後の質量減少率に基づき、乾燥後のガラス繊維に付着している樹脂成分の含有量を求めたところ、2.6質量%であった。つまり、回収したガラス繊維においては、当初に付着していた樹脂成分のうち約71%(=((8.9質量%-2.6質量%)/8.9質量%)×100)が除去されていた。
【0074】
以上の通り、ガラス繊維シートとしてのガラスチョップドストランドマットからガラス繊維を容易にかつ効率よく回収することができた。
【符号の説明】
【0075】
10…ガラスストランド
10A…ガラスチョップドストランド
11…チャンバー
12…切断機
12a…カッターローラー
12b…ゴムローラー
13…第1の搬送コンベア
14…第2の搬送コンベア
15…散布機
16…第3の搬送コンベア
17…加熱炉
18…冷却圧延機水冷ロール
19…ガラスチョップドストランドマット
20…巻き取り機
図1