(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091520
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】ディスプレイ用ハードコートフィルムおよびディスプレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 1/14 20150101AFI20240627BHJP
G02B 1/18 20150101ALI20240627BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240627BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240627BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
G02B1/14
G02B1/18
G09F9/00 302
B32B27/18 Z
B32B27/30 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023210807
(22)【出願日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2022206317
(32)【優先日】2022-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】399020212
【氏名又は名称】東山フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧村 美穂
【テーマコード(参考)】
2K009
4F100
5G435
【Fターム(参考)】
2K009AA15
2K009CC24
2K009CC26
2K009EE05
4F100AH05
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4F100AK25B
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4F100GB48D
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4F100JN01
4F100YY00B
5G435AA07
5G435GG43
5G435HH02
5G435LL07
(57)【要約】
【課題】優れた防汚性、防指紋性を有し、摩耗や傷等の損傷が生じた場合でも、防汚性、防指紋性を維持することができるハードコートフィルム、およびそのようなハードコートフィルムが設けられたディスプレイを提供する。
【解決手段】基材フィルム12と、基材フィルム12の面上に形成されたハードコート層14と、を有し、ハードコート層14は、バインダー樹脂と、表面自由エネルギーの異なる少なくとも3種を含む防汚剤と、を含有する樹脂組成物の硬化物から形成され、防汚剤は、表面自由エネルギーが25mN/m以上33mN/m未満である防汚剤Aと、33mN/m以上36mN/m未満である防汚剤Bと、36mN/m以上50mN/m以下である防汚剤Cと、を含み、防汚剤A,B,Cの含有量をa,b,c質量%としたとき、a+bは0.5以上2.6以下であり、-0.45≦c-(a+b)≦1.1を満たす、ハードコートフィルム10とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、前記基材フィルムの面上に形成されたハードコート層と、を有し、
前記ハードコート層は、バインダー樹脂と、表面自由エネルギーの異なる少なくとも3種を含む防汚剤と、を含有する樹脂組成物の硬化物から形成され、
前記防汚剤は、
表面自由エネルギーが25mN/m以上33mN/m未満である防汚剤Aと、
表面自由エネルギーが33mN/m以上36mN/m未満である防汚剤Bと、
表面自由エネルギーが36mN/m以上50mN/m以下である防汚剤Cと、を含み、
前記樹脂組成物の固形分全量に対する、前記防汚剤Aの含有量をa質量%、前記防汚剤Bの含有量をb質量%、前記防汚剤Cの含有量をc質量%、としたとき、
a+bは0.5以上2.6以下であり、
a、b、cの関係が下記式(1)を満たすことを特徴とする、ディスプレイ用ハードコートフィルム。
-0.45≦c-(a+b)≦1.1 (1)
【請求項2】
前記バインダー樹脂が、電離放射線硬化性(メタ)アクリレートを含む、請求項1に記載のディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項3】
前記防汚剤が、前記防汚剤A、前記防汚剤B、前記防汚剤Cの少なくとも1種として、エチレン性炭素-炭素二重結合を有する含フッ素化合物を含む、請求項1に記載のディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項4】
前記ハードコート層の面上に、保護フィルムを有する、請求項1に記載のディスプレイ用ハードコートフィルム。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のディスプレイ用ハードコートフィルムが、粘着剤層を介してディスプレイ表面に配置されている、ディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ用ハードコートフィルムおよびディスプレイに関し、さらに詳しくは、スマートホンなどのタッチパネルのディスプレイ表面に用いられるハードコートフィルム、およびそのようなハードコートフィルムが設けられたディスプレイに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハードコートフィルムは、液晶表示装置や有機EL表示装置などの画像表示装置のディスプレイを保護するなどの目的で用いられている。近年、画像表示装置の分野では、曲げても表示機能をそのまま維持することができ、繰り返し屈曲して使用できるフレキシブルディスプレイが注目されている。フレキシブルディスプレイとしては、折り畳み可能なフォルダブルディスプレイや、筒状に丸めることができるローラブルディスプレイなどが知られている。フレキシブルディスプレイは、スマートホンやタブレット端末などの携帯端末や、収納できる据え置き型ディスプレイなどへの利用が期待されている。フレキシブルディスプレイのカバーウィンドウとしては、ガラス基板の代わりに、曲げやすいプラスチックフィルムが用いられる。プラスチックフィルムは、ガラス基板よりも傷がつきやすいため、プラスチックフィルムの表面にはハードコートフィルムが設けられることがある。
【0003】
また、スマートホンやタブレット端末などのディスプレイにはタッチパネルが設けられ、その取扱い時に表面に指紋や汗などの汚れが付着することがある。このような汚れはディスプレイの視認性を悪化させたり、タッチパネルの操作性に悪影響を及ぼしたりするおそれがある。そのため、ハードコートフィルムには耐擦傷性や耐摩耗性に加え、防汚性、つまり汚れの付着を抑制したり汚れを拭き取りやすくしたりする特性が求められている。例えば特許文献1には、基材フィルム上にシリコーン系材料およびフッ素系材料を含有する塗工液から形成されたハードコート層を有する、防汚性に優れたハードコートフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1のハードコートフィルム等、防汚性を付与した従来のハードコートフィルムにおいては、タッチパネル上で指をスライドさせたり、付着した汚れや埃を布等で拭き取ったりすることで、摩耗や傷等の損傷が生じると、防汚性が低下する可能性がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、優れた防汚性、防指紋性を有し、タッチパネル上で指をスライドさせたり、付着した汚れや埃を布等で拭き取ったりすることで、摩耗や傷等の損傷が生じた場合でも、防汚性、防指紋性を維持することができるディスプレイ用ハードコートフィルム、およびそのようなハードコートフィルムが設けられたディスプレイを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明に係るディスプレイ用ハードコートフィルムは、以下の構成を有している。
【0008】
[1]本発明に係るディスプレイ用ハードコートフィルムは、基材フィルムと、前記基材フィルムの面上に形成されたハードコート層と、を有し、前記ハードコート層は、バインダー樹脂と、表面自由エネルギーの異なる少なくとも3種を含む防汚剤と、を含有する樹脂組成物の硬化物から形成され、前記防汚剤は、表面自由エネルギーが25mN/m以上33mN/m未満である防汚剤Aと、表面自由エネルギーが33mN/m以上36mN/m未満である防汚剤Bと、表面自由エネルギーが36mN/m以上50mN/m以下である防汚剤Cと、を含んでいる。前記樹脂組成物の固形分全量に対する、前記防汚剤Aの含有量をa質量%、前記防汚剤Bの含有量をb質量%、前記防汚剤Cの含有量をc質量%、としたとき、a+bは0.5以上2.6以下であり、a、b、cの関係が下記式(1)を満たす。
-0.45≦c-(a+b)≦1.1 (1)
【0009】
[2]上記[1]の態様において、前記バインダー樹脂が、電離放射線硬化性(メタ)アクリレートを含むとよい。
【0010】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記防汚剤が、前記防汚剤A、前記防汚剤B、前記防汚剤Cの少なくとも1種として、エチレン性炭素-炭素二重結合を有する含フッ素化合物を含むとよい。
【0011】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記ディスプレイ用ハードコートフィルムは、前記ハードコート層の面上に、保護フィルムを有するとよい。
【0012】
[5]本発明に係るディスプレイは、上記[1]から[4]のいずれか1つのディスプレイ用ハードコートフィルムが、粘着剤層を介してディスプレイ表面に配置されているものである。
【発明の効果】
【0013】
上記[1]の構成を有する本発明に係るディスプレイ用ハードコートフィルムは、基材フィルムと、前記基材フィルムの面上に形成されたハードコート層と、を有し、前記ハードコート層は、バインダー樹脂と、表面自由エネルギーの異なる少なくとも3種を含む防汚剤と、を含有する樹脂組成物の硬化物から形成され、前記防汚剤は、表面自由エネルギーが25mN/m以上33mN/m未満である防汚剤Aと、表面自由エネルギーが33mN/m以上36mN/m未満である防汚剤Bと、表面自由エネルギーが36mN/m以上50mN/m以下である防汚剤Cと、を含んでいる。そして、前記樹脂組成物の固形分全量に対する、前記防汚剤Aの含有量をa質量%、前記防汚剤Bの含有量をb質量%、前記防汚剤Cの含有量をc質量%、としたとき、a+bは0.5以上2.6以下であり、a、b、cの関係が上記式(1)を満たす。ハードコート層が表面自由エネルギーの異なる防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cの3種の防汚剤を含有し、a+bおよびa、b、cの関係が上記のようになっていることにより、ハードコートフィルムが優れた防汚性、防指紋性を有し、かつ、表面にハードコートフィルムを配置したタッチパネル上で指をスライドさせたり、付着した汚れや埃を布等で拭き取ったりすることで、摩耗や傷等の損傷が生じた場合でも、防汚性、防指紋性を維持することができる。また、ハードコートフィルムが、優れた透明性、耐擦傷性を有するものとなる。
【0014】
上記[2]の態様においては、前記バインダー樹脂が、電離放射線硬化性(メタ)アクリレートを含むことにより、ハードコート層が高い耐擦傷性を有し、かつ生産性に優れたものとなる。
【0015】
上記[3]の態様においては、前記防汚剤が、前記防汚剤A、前記防汚剤B、前記防汚剤Cの少なくとも1種として、エチレン性炭素-炭素二重結合を有する含フッ素化合物を含むことにより、ハードコート層が防汚性に特に優れたものとなる。
【0016】
上記[4]の態様においては、前記ディスプレイ用ハードコートフィルムが、前記ハードコート層の面上に、保護フィルムを有することにより、ハードコートフィルムの取り扱い時において、ハードコート層の表面に傷がつくのを抑えることができる。
【0017】
上記[5]の構成を有する本発明に係るディスプレイは、上記[1]から[4]のいずれか1つのディスプレイ用ハードコートフィルムが、粘着剤層を介してディスプレイ表面に配置されているものであることにより、表面において、優れた防汚性、防指紋性が得られ、かつ、タッチパネル上で指をスライドさせたり、付着した汚れや埃を布等で拭き取ったりすることで、摩耗や傷等の損傷が生じた場合でも、防汚性、防指紋性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第一実施形態に係るハードコートフィルムの断面図である。
【
図2】本発明の第二実施形態に係るハードコートフィルムの断面図である。
【
図3】本発明の第三実施形態に係るハードコートフィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態に係るディスプレイ用ハードコートフィルム(以下、単にハードコートフィルムと称する場合がある)、およびディスプレイについて詳細に説明する。本明細書において、ハードコートフィルムに含まれる各層を構成する成分の濃度は、特記しないかぎり、その層を構成する組成物における固形分全量基準で表示している。また、各種特性値は、特記しないかぎり、室温、大気中にて計測される値とする。
【0020】
[第一実施形態に係るハードコートフィルム]
図1は、本発明の第一実施形態に係るハードコートフィルム10の断面図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るハードコートフィルム10は、基材フィルム12と、基材フィルム12の一方面上に形成されたハードコート層14と、を有する。
【0021】
(基材フィルム)
基材フィルム12の具体的な構成は、透明性を有していれば、特に限定されるものではない。基材フィルム12としては、透明高分子フィルム、ガラスフィルムなどが挙げられる。透明性とは、可視光波長領域における全光線透過率が50%以上であることをいい、全光線透過率は、より好ましくは85%以上である。上記全光線透過率は、JIS K7361-1(1997)に準拠して測定することができる。基材フィルム12の厚みは、特に限定されるものではないが、取り扱い性に優れるなどの観点から、2μm以上500μm以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは2μm以上200μm以下の範囲内である。なお、「フィルム」とは、一般に厚さが0.25mm未満のものをいうが、厚さが0.25mm以上のものであってもロール状に巻くことが可能であれば、厚さが0.25mm以上のものであっても「フィルム」に含まれるものとする。
【0022】
基材フィルム12が高分子フィルムである場合に、基材フィルム12を構成する高分子材料としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂,ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリプロピレン樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリシクロオレフィン樹脂,シクロオレフィンコポリマー樹脂などのポリオレフィン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂,ジアセチルセルロース樹脂などのセルロース系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。基材フィルム12の高分子材料は、これらのうちの1種のみで構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせで構成されていてもよい。これらのうちでは、光学特性や耐久性などの観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シクロオレフィンコポリマー樹脂、トリアセチルセルロース樹脂がより好ましい。
【0023】
基材フィルム12は、上記高分子材料の1種または2種以上を含む層からなる単層で構成されていてもよいし、上記高分子材料の1種または2種以上を含む層と、この層とは異なる高分子材料の1種または2種以上を含む層など、2層以上の層で構成されていてもよい。
【0024】
基材フィルム12は、無色透明であることが好ましい。無色透明とは、JIS K7361-1(1997)に準拠して測定される可視光波長領域における全光線透過率が50%以上であり、かつJIS K 7373(2006)に準拠して測定される黄色度(YI値)が20以下である。全光線透過率は、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは85%以上である。黄色度(YI値)は、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下である。これにより、透明度が高く色再現性の高い画像を表示できるディスプレイ用ハードコートフィルム10が得られる。
【0025】
(ハードコート層)
(1)ハードコート層の構成材料
ハードコート層14は、硬化性樹脂組成物の硬化物として構成される。ハードコート層14を形成する硬化性樹脂組成物は、バインダー樹脂と、表面自由エネルギーの異なる少なくとも3種を含む防汚剤と、を含有する樹脂組成物の硬化物から形成される。
【0026】
(防汚剤)
防汚剤は、汚れの付着を抑制し、また付着した汚れの除去を促進する作用を有する物質である。具体的な防汚剤としては、含フッ素化合物などが挙げられる。含フッ素化合物により、ハードコート層14への汚れや指紋の付着を抑え、汚れや指紋の除去を容易にすることができる。含フッ素化合物としては、パーフルオロポリエーテルの構造を含むものを例示することができる。パーフルオロポリエーテルの主鎖骨格の構造単位としては、炭素数1~4のパーフルオロアルキレンオキシドが好ましく(分枝を有していてもよい)、例えば、パーフルオロメチレンオキシド、(-CF2O-)、パーフルオロエチレンオキシド(-CF2CF2O-)、パーフルオロプロピレンオキシド(-CF2CF2CF2O-)、パーフルオロイソプロピレンオキシド(-CF(CF3)CF2O-)等が挙げられる。また、防汚性をさらに高めるために、含フッ素化合物は直鎖状または環状のポリシロキサン構造をさらに有していてもよい。
【0027】
また、含フッ素化合物は、エチレン性炭素-炭素二重結合を有することが好ましい。そうすると、ハードコート層14を構成する硬化性樹脂組成物を硬化させる際に、含フッ素化合物のエチレン性炭素-炭素二重結合が、バインダー樹脂が有する(メタ)アクリロイル基をはじめとするエチレン性炭素-炭素二重結合を有する反応性基と共重合するため、バインダー樹脂の硬化物に防汚剤が共有結合で結合することとなる。その結果、硬化物の防汚性が特に優れることとなる。
【0028】
本実施形態に係る防汚剤は、表面自由エネルギーの異なる少なくとも3種の防汚剤を含む。すなわち、ハードコート層14を形成する硬化性樹脂組成物は、表面自由エネルギーが25mN/m以上33mN/m以下である防汚剤Aと、表面自由エネルギーが33mN/m以上36mN/m未満である防汚剤Bと、表面自由エネルギーが36mN/m以上50mN/m以下である防汚剤Cと、を含有する。表面エネルギーが小さい方から順に、防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cとなっている。表面自由エネルギーとは、固体の表面自体がもつ分子のエネルギーのことを指し、2種類またはそれ以上の物質の親和性を表す指標となり、表面自由エネルギーが高いほど、他の物質との親和性が高いと言える。
【0029】
防汚剤A、防汚剤Bおよび防汚剤Cはハードコート層14に防汚性を付与する。防汚剤A、防汚剤Bおよび防汚剤Cの具体的な種類は特に限定されるものではないが、それら3種のうち少なくとも1種、好ましくは3種全てが、上記のように、エチレン性炭素-炭素二重結合を有する含フッ素化合物より構成されているとよい。以下、防汚剤A、防汚剤C、防汚剤Bの順に、詳細に説明する。
【0030】
(防汚剤A)
表面自由エネルギーが25mN/m以上33mN/m未満である防汚剤Aは、その表面自由エネルギーの小ささから、ハードコートフィルム10の製造における乾燥工程で、ハードコート層14と空気との界面に偏在し、ハードコート層14の表面の防汚性を高めることができる。その反面で、防汚剤Aのみによって、摩耗や傷等の損傷の発生を経たハードコート層14において、防汚性を維持することは難しい。防汚剤Aは、ハードコート層14の表面またはハードコート層14の内部の極めて表面に近い部分に凝集して存在すると推測され、ハードコート層14が摩耗や傷等の損傷を生じると、ハードコート層14の表面における防汚剤Aの密度が低くなってしまうからである。
【0031】
防汚剤Aとして適用しうる防汚剤の市販品としては、例えば、KY-1216(信越化学社製)、メガファックRS-58(DIC社製)等が挙げられる。
防汚剤Aの表面自由エネルギーは、バインダー樹脂との相溶性を高めてハードコート層14のヘイズ上昇を抑制する観点から、好ましくは28mN/m以上、より好ましくは30mN/m以上である。また防汚剤Aの表面自由エネルギーは、ハードコート層14の防汚性を高める観点から、好ましくは32.5mN/m以下、より好ましくは32mN/m以下である。
【0032】
防汚剤Aの含有量は、ハードコート層14を形成する樹脂組成物の固形分全量に対し、0.25質量%以上1.8質量%以下であることが好ましい。0.25質量%以上であれば、ハードコート層14の防汚性を優れたものとすることができ、1.8質量%以下であれば、ハードコート層14が優れた透明性を有する。これらの観点から、その含有量は、より好ましくは0.28質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。また、より好ましくは1.7質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。
【0033】
(防汚剤C)
表面自由エネルギーが36mN/m以上50mN/m以下である防汚剤Cは、ハードコートフィルム10の製造における乾燥工程で、ハードコート層14と空気との界面およびその近傍に偏在するが、防汚剤Aと比較してハードコート層14の内部にもある程度分散して存在する。このため防汚剤Cは、防汚剤Aと比較して、ハードコート層14が摩耗や傷等の損傷を生じてもハードコート層14の表面に露出して存在し続けやすく、ハードコート層14の防汚性を維持するのに寄与する。また防汚剤Cは、バインダー樹脂と防汚剤Aの中間に位置する表面自由エネルギーを有することにより、バインダー樹脂中で防汚剤Aの凝集を抑制する働きを示すため、ハードコート層14を形成する樹脂組成物中において、防汚剤Aの凝集を防ぐために防汚剤Aの含有量を少なく抑える必要がなくなる。その反面で防汚剤Cは、比較的高い表面自由エネルギーを有するため、防汚剤Cのみでは、ハードコート層14の表面の水接触角を十分に高めることができず、防汚剤C単独で用いた場合には、ハードコート層14の防汚性は防汚剤Aを用いる場合と比較して劣る。
【0034】
防汚剤Cとして適用しうる防汚剤の市販品としては、例えば、KY-1211、KY-1240(信越化学社製)、メガファックRS-75-A(DIC社製)、オプツールDAC-HP、オプツールDAC-100(ダイキン工業社製)等が挙げられる。
【0035】
防汚剤Cの表面自由エネルギーは、ハードコート層14が摩耗や傷等の損傷を生じても、高い防汚性を維持する観点から、好ましくは38mN/m以上、より好ましくは42mN/m以上である。また防汚剤Cの表面自由エネルギーは、ハードコート層14の防汚性を高める観点から、好ましくは49mN/m以下、より好ましくは48mN/m以下である。
【0036】
防汚剤Cの含有量は、ハードコート層14を形成する樹脂組成物の固形分全量に対し、0.2質量%以上3.2質量%以下であることが好ましい。防汚剤Cの含有量がこの範囲であれば、ハードコート層14が摩耗や傷等の損傷を生じても、防汚性を高度に維持することができる。この観点から、防汚剤Cの含有量は、より好ましくは0.25質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上である。また、より好ましくは3.0質量%以下、さらに好ましくは2.8質量%以下である。
【0037】
(防汚剤B)
表面自由エネルギーが33mN/m以上36mN/m未満である防汚剤Bは、防汚剤Aと防汚剤Cの中間に位置する表面自由エネルギーを有し、ハードコート層14に高い防汚性を付与しながら、防汚剤Cによって得られる、摩耗や傷等の損傷の発生時に防汚性を維持する効果をさらに高めることができる。同様の観点から防汚剤Bの表面自由エネルギーは、より好ましくは33.2mN/m以上、さらに好ましくは33.4mN/m以上である。また、より好ましくは35.5mN/m以下、さらに好ましくは35mN/m以下である。
【0038】
防汚剤Bとして適用しうる防汚剤の市販品としては、例えば、KY-1203(信越化学社製)等が挙げられる。
【0039】
防汚剤Bの含有量は、ハードコート層14を形成する樹脂組成物の固形分全量に対し、0.25質量%以上1.10質量%以下であることが好ましい。0.25質量%以上であれば、ハードコート層14が、摩耗や傷等の損傷を生じても、防汚性を高度に維持できるものとなる。1.10質量%以下であれば、ハードコート層14は優れた透明性を有する。この観点から、その含有量は、より好ましくは0.28質量%以上、さらに好ましくは0.30質量%以上である。また、より好ましくは1.05質量%以下、さらに好ましくは1.00質量%以下である。
【0040】
そして、ハードコート層14を形成する樹脂組成物に、防汚剤A、防汚剤B、および防汚剤Cをバインダー樹脂とともに配合することで、ハードコート層14は高い透明性を有しながら、優れた防汚性、防指紋性を有し、表面にハードコートフィルム10を配置したタッチパネル上で指をスライドさせたり、付着した汚れや埃を布等で拭き取ったりすることで、摩耗や傷等の損傷が生じた場合でも、防汚性、防指紋性を維持することができる。防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cのうち少なくとも1種が欠けると、それらの特性を高い水準で兼ね備えたハードコート層14は得られない。
【0041】
ハードコート層14を形成する樹脂組成物に配合される防汚剤は、上記防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cの3種を含んでいれば、それら3種のみよりなっても、それら3種以外の防汚剤を合わせて含むものであっても、いずれでもよい。ただし、高い防汚性や防指紋性、また損傷発生時のそれらの特性の維持可能性等、それら3種の防汚剤が所定の表面自由エネルギーを有することによってもたらされる特性を高める観点からは、樹脂組成物が防汚剤としてそれら3種の防汚剤のみを含む形態が好ましい。それら3種以外の他種防汚剤を含む場合でも、樹脂組成物における他種防汚剤の含有量は、3種の防汚剤の含有量の合計よりも少量であることが好ましく、さらには3種の防汚剤のそれぞれの含有量よりも少量であることが好ましい。また、他種防汚剤の表面自由エネルギーは、3種の防汚剤の表面自由エネルギーと比較して、高いことが好ましい。防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cのそれぞれに分類される表面自由エネルギーを有する防汚剤が複数含有される場合には、それらの合計量に基づいて、各防汚剤の含有量を規定すればよい。
【0042】
(防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cの含有量の関係)
防汚剤Aの樹脂組成物の固形分全量に対する含有量をa質量%、防汚剤Bの樹脂組成物の固形分全量に対する含有量をb質量%、防汚剤Cの樹脂組成物の固形分全量に対する含有量をc質量%としたとき、防汚剤Aと防汚剤Bの合計の含有量(a+b)は0.5質量%以上2.6質量%以下である。0.5質量%以上であれば、ハードコート層14の表面が摩耗しても、その表面の水接触角を大きく保つことができるため、防汚性の維持に優れる。一方、その合計含有量が2.6質量%以下であれば、樹脂組成物中でバインダー樹脂の割合を十分に高めることで、ハードコート層14の耐擦傷性を良好なものとすることができる。これらの観点から、その合計含有量は、より好ましくは0.55質量%以上、さらに好ましくは0.6質量%以上、特に好ましくは0.7質量%以上である。また、より好ましくは2.55質量%以下、さらに好ましくは2.5質量%以下である。
【0043】
さらに、a、b、cの関係が下記式(1)を満たす。
-0.45≦c-(a+b)≦1.1 (1)
これは、防汚剤Cの樹脂組成物の固形分全量に対する含有量cが、防汚剤Aと防汚剤Bの合計の含有量(a+b)に対して所定の範囲内であることを示している。
【0044】
防汚剤Cと、防汚剤Aと防汚剤Bの合計の含有量との差(c-(a+b))が-0.45質量%以上であれば、ハードコート層14は優れた透明性を有する。この観点からc-(a+b)は、より好ましくは-0.4質量%以上、さらに好ましくは-0.35質量%以上である。一方で(c-(a+b))が1.1質量%以下であれば、ハードコート層14の表面が摩耗してもその表面の水接触角を大きく保つことができるため、ハードコート層14が防汚性の維持に優れたものとなる。この観点からc-(a+b)は、より好ましくは1.05質量%以下、さらに好ましくは1.00質量%以下である。防汚剤の合計含有量、つまり防汚剤A、防汚剤B、防汚剤C(含有される場合にはさらに他種防汚剤)の合計量は、特に限定されるものではないが、樹脂組成物の固形分全量に対して、防汚性の観点から、0.9質量%以上であることが好ましく、一方で、透明性の観点から、6.3質量%以下であることが好ましい。
【0045】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としては、特に限定されるものではないが、ハードコート層14の耐擦傷性などの観点から、熱硬化性化合物や電離放射線硬化性化合物などが好ましい。また、生産性などの観点から、電離放射線硬化性化合物がより好ましい。電離放射線とは、電磁波または荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味する。電離放射線としては、紫外線(UV)、X線、γ線等の電磁波、電子線(EB)、α線、イオン線等の荷電粒子線などが挙げられる。これらのうちでは、生産性の観点から、紫外線(UV)が特に好ましい。
【0046】
電離放射線硬化性樹脂としては、電離放射線反応性の反応性基を有するモノマー、オリゴマー、プレポリマーなどが挙げられる。電離放射線反応性の反応性基としては、(メタ)アクリロイル基、アリル基、ビニル基等のエチレン性不飽和結合を有するラジカル重合型の反応性基やオキセタニル基などのカチオン重合型の反応性基などが挙げられる。これらのうちでは、(メタ)アクリロイル基、オキセタニル基がより好ましく、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。すなわち、電離放射線硬化性樹脂として、(メタ)アクリレートが特に好ましい。なお、本明細書において「(メタ)アクリレート」は「アクリレートおよびメタクリレートの少なくとも一方」をいう。「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイルおよびメタクリロイルの少なくとも一方」をいう。「(メタ)アクリル」は「アクリルおよびメタクリルの少なくとも一方」をいう。
【0047】
電離放射線硬化性樹脂としての(メタ)アクリレートは、単官能(メタ)アクリレートのみで構成されていてもよいし、多官能(メタ)アクリレートのみで構成されていてもよいし、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの組み合わせで構成されていてもよい。(メタ)アクリレートとしては、多官能(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。特に、多官能ウレタン(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。(メタ)アクリレート等の電離放射線硬化性樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
単官能(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、1-ナフチルメチル(メタ)アクリレート、2-ナフチルメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ-2-メチルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、4-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3-(2-フェニルフェニル)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0049】
多官能(メタ)アクリレートとしては、二官能(メタ)アクリレート、三官能(メタ)アクリレート、四官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。より具体的には、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。中でも、比較的柔軟で、ハードコートフィルム10の屈曲性が向上するなどの観点から、ウレタン(メタ)アクリレートが特に好ましい。
【0050】
ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリオール、イソシアネート化合物、およびヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレートから形成される。ポリオールとしては、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられ、柔軟性、耐熱性、耐薬品性等の観点から適宜選択することができる。イソシアネート化合物としては、ジイソシアネート、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香族ジイソシアネートや、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、4-メチル-1,3-シクロヘキシレンジイソシアナート(水添TDI)等の脂環式ジイソシアネート等を用いることができる。
【0051】
(その他の成分)
ハードコート層14を形成する硬化性組成物には、電離放射線硬化性樹脂および防汚剤に加え、非電離放射線硬化性樹脂が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。また、ハードコート層14を形成する硬化性組成物には、光重合開始剤が含まれていてもよい。また、必要に応じ、一般的に硬化性組成物に添加可能な添加剤などが含まれていてもよい。このような添加剤としては、分散剤、レベリング剤、帯電防止剤、消泡剤、搖変剤、抗菌剤、難燃剤、スリップ剤、無機粒子、樹脂粒子などが挙げられる。また、必要に応じ、溶剤が含まれていてもよい。なお、帯電防止剤については、タッチパネルの感度の確保等の観点から、添加しない方が好ましい場合もある。
【0052】
非電離放射線硬化性樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0053】
光重合開始剤としては、アルキルフェノン系、アシルホスフィンオキサイド系、オキシムエステル系などの光重合開始剤が挙げられる。アルキルフェノン系光重合開始剤としては、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジルメチル-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2-(4-メチルベンジル)-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、N,N-ジメチルアミノアセトフェノンなどが挙げられる。アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤としては、1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-2-(O-ベンゾイルオキシム)、エタノン-1-[9-エチルー6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾールー3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)などが挙げられる。光重合開始剤は、これらの1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0054】
光重合開始剤の含有量は、硬化性組成物の固形分全量基準で、0.1質量%以上10質量%以下の範囲とすることが好ましい。より好ましくは1質量%以上、また5質量%以下である。
【0055】
無機粒子および樹脂粒子は、例えばハードコート層14のブロッキングを防止したり、ハードコート層14の硬度を向上させたりするなどの目的で添加される。
【0056】
無機粒子としては、チタン、ジルコニウム、スズ、亜鉛、ケイ素、ニオブ、アルミニウム、クロム、マグネシウム、ゲルマニウム、ガリウム、アンチモン、白金などの金属の酸化物からなる金属酸化物粒子が挙げられる。これらは、無機粒子として1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。これらのうちでは、高硬度と透明性の両立に優れるなどの観点から、シリカ、チタン酸化物、ジルコニウム酸化物、スズ酸化物が特に好ましい。
【0057】
樹脂粒子としては、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン樹脂、セルロースなどの樹脂からなる樹脂粒子が挙げられる。これらは、樹脂粒子として1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0058】
ハードコート層14を形成する硬化性組成物において用いられる溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、n-ブチルアルコール(NBA)、エチレングリコールモノメチルエーテル(EGM)、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル(IPG)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルコール系溶剤や、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、アセトンなどのケトン系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、酢酸エチル(EtAc)、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル(BuAc)などのエステル系溶剤、N-メチルピロリドン、アセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤などが挙げられる。これらは、溶剤として1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0059】
硬化を経てハードコート層14を構成する硬化性組成物の固形分濃度(溶剤以外の成分の濃度)は、塗工性、膜厚などを考慮して適宜定めればよい。例えば、1質量%以上90質量%以下とすればよい。さらに1.5質量%以上、また2質量%以上などとすればよく、80質量%以下、また70質量%以下などとすればよい。
【0060】
(2)ハードコートフィルムの特性
ハードコート層14の硬度は、鉛筆硬度でH以上であることが好ましい。より好ましくは2H以上である。ここでいうハードコート層14の鉛筆硬度は、基材フィルム12の一方面上に形成されたハードコート層14の表面の鉛筆硬度であり、基材フィルム12の他方面上に粘着剤層(例えば後述する第二実施形態における透明粘着層22)が形成されていない状態で測定するものである。ハードコート層14の鉛筆硬度は、JIS K 5600-5-4に準拠して測定することができる。
【0061】
ハードコート層14の表面の算術平均粗さSaは、防汚性の維持と透明性の両立に優れるなどの観点から、0.2nm以上1.5nm以下の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.3nm以上、さらに好ましくは0.4nm以上であり、また、より好ましくは1.0nm以下、さらに好ましくは0.7nm以下である。
【0062】
ハードコート層14の厚さは、繰り返しの屈曲に耐えられる屈曲性がハードコートフィルム10に十分に確保される、ハードコート層14と基材フィルム12の熱収縮差に起因するハードコートフィルム10のカールが抑えられやすいなどの観点から、10.0μm以下であることが好ましい。より好ましくは8.0μm以下、さらに好ましくは6.0μm以下である。一方、ハードコートフィルム10の鉛筆硬度が十分に確保されるなどの観点から、0.5μm以上であることが好ましい。より好ましくは1.0μm以上、さらに好ましくは3.0μm以上である。ハードコート層14の厚さは、平滑な部分における厚さであり、ハードコート層14が粒子を含有する場合には、厚さ方向において粒子に起因する凹凸のない部分における平滑な部分の厚さである。
【0063】
ハードコート層14の表面の水接触角は、ハードコート層14の防汚性をよく反映するものとなり、水接触角が大きいほど、ハードコート層14が高い防汚性を有するとみなすことができる。汚れや指紋の付着を抑え、また汚れや指紋の除去を容易にする観点から、水接触角は、108°以上であることが好ましく、より好ましくは110°以上、さらに好ましくは112°以上である。一方で水接触角の上限は、ハードコート層14の表面に貼り合わせられる保護フィルム(例えば後述する第三実施形態の保護フィルム28)の浮きや剥がれを防止する観点から、130°以下が好ましく、より好ましくは125°以下、さらに好ましくは120°以下である。ハードコート層14の水接触角は、構成材料の具体的な種類や含有量等に影響され、例えばハードコート層14に含まれる各防汚剤の量を適宜調整することにより、良好なものとすることができる。
【0064】
ハードコートフィルム10におけるヘイズ(Hz)は、ディスプレイに対する良好な視認性、透明性などの観点から、好ましくは1.3以下、より好ましくは1.2以下、さらに好ましくは1.0以下である。ハードコートフィルム10における全光線透過率(Tt)は、ディスプレイに対する良好な視認性、透明性などの観点から、好ましくは85%以上、より好ましくは86%以上、さらに好ましくは88%以上である。
【0065】
(3)ハードコートフィルムの製造方法
ハードコートフィルム10は、基材フィルム12の一方面上にハードコート層14となる組成物を塗工し、必要に応じて乾燥や紫外線照射などを行うことにより形成することができる。この際、基材フィルム12とハードコート層14の密着性を向上させるために、基材フィルム12の表面には、塗工前に表面処理が施されてもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、熱風処理、オゾン処理、紫外線処理などが挙げられる。
【0066】
ハードコート層14を形成する組成物の塗工には、例えば、リバースグラビアコート法、ダイレクトグラビアコート法、ダイコート法、バーコート法、ワイヤーバーコート法、ロールコート法、スピンコート法、ディップコート法、スプレーコート法、ナイフコート法、キスコート法などの各種コーティング法や、インクジェット法、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷などの各種印刷法を用いて行うことができる。
【0067】
乾燥工程の実施条件は、塗工液に用いた溶剤等を除去できれば特に限定されるものではないが、50℃以上150℃以下の温度で10秒以上180秒以下程度行うことが好ましい。特に、乾燥温度は、50℃以上120℃以下が好ましい。
【0068】
紫外線照射には、高圧水銀ランプ、無電極(マイクロ波方式)ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、その他任意の紫外線照射装置を用いることができる。紫外線照射は、必要に応じて、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。紫外線照射量は、特に限定されるものではないが、50~800mJ/cm2が好ましく、200~400mJ/cm2がより好ましい。
【0069】
[他の実施形態に係るハードコートフィルム]
本発明に係るハードコートフィルムは、上で説明した実施形態に係るハードコートフィルム10の構成に限定されるものではない。以下に、他の実施形態について説明する。
【0070】
(第二実施形態)
図2に、第二実施形態に係るハードコートフィルム20として、光学粘着層(OCA)としての透明粘着層22を有する形態を示している。第二実施形態に係るハードコートフィルム20は、基材フィルム12と、基材フィルム12の一方の面上に形成されたハードコート層14と、を有する。また、基材フィルム12の他方の面上に透明粘着層22を有する。透明粘着層22の面上には、必要に応じて離型フィルム24が配置される。離型フィルム24は、ハードコートフィルム20の使用前に透明粘着層22の保護層として機能し、ハードコートフィルム20の使用時には、透明粘着層22から剥がされる。
【0071】
第二実施形態に係るハードコートフィルム20は、第一実施形態に係るハードコートフィルム10と比較して、基材フィルム12の他方の面上に透明粘着層22を有する点が相違し、これ以外については第一実施形態に係るハードコートフィルム10と同様であり、同様の構成についてはその説明を省略する。
【0072】
透明粘着層22は、ハードコートフィルム20をディスプレイ表面に密着性良く貼り付けるためのものである。また、ハードコートフィルム20は、透明粘着層22を有することで、ディスプレイのガラスの飛散を防止する効果を有する。すなわち、ハードコートフィルム20は、飛散防止フィルムとしての機能も有する。
【0073】
透明粘着層22を形成する粘着剤組成物は、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などの公知の粘着性樹脂を含有することができる。中でも、光学的な透明性や耐熱性の観点から、アクリル系粘着剤が好ましい。粘着剤組成物は、透明粘着層22の凝集力を高めるために、架橋剤をさらに含有することが好ましい。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、キレート系架橋剤などが挙げられる。
【0074】
粘着剤組成物には、必要に応じて、添加剤を含んでもよい。添加剤としては、可塑剤、シランカップリング剤、界面活性剤、酸化防止剤、充填剤、硬化促進剤、硬化遅延剤などの公知の添加剤が挙げられる。また、生産性などの観点から、有機溶剤を使用して希釈してもよい。
【0075】
透明粘着層22の厚みは、特に限定されるものではないが、5μm以上100μm以下であることが好ましい。より好ましくは10μm以上、また50μm以下である。
【0076】
透明粘着層22は、基材フィルム12の他方の面上に粘着剤組成物を直接塗布して形成する方法、離型フィルム24の面上に粘着剤組成物を塗布して形成した後、基材フィルム12の他方の面上に転写する方法、第一の離型フィルムの面上に粘着剤組成物を塗布して形成した後、第二の離型フィルムを貼り合わせ、いずれか一方の離型フィルムを剥離して基材フィルム12の他方の面上に転写する方法などにより形成することができる。
【0077】
透明粘着層22は、ガラスの飛散防止効果の観点から、ガラスに対する粘着力が、4N/25mm以上であることが好ましい。より好ましくは6N/25mm以上、さらに好ましくは10N/25mm以上である。
【0078】
(第三実施形態)
図3に、第三実施形態に係るハードコートフィルム30として、保護フィルムを有する形態を示している。第三実施形態に係るハードコートフィルム30は、基材フィルム12と、基材フィルム12の一方の面上に形成されたハードコート層14と、ハードコート層14の面上に粘着剤層26を介して配置された保護フィルム28と、を有する。また、基材フィルム12の他方の面上に透明粘着層22を有する。透明粘着層22の面上には、必要に応じて離型フィルム24が配置される。
【0079】
第三実施形態に係るハードコートフィルム30は、第二実施形態に係るハードコートフィルム20と比較して、ハードコート層14の面上に粘着剤層26を介して保護フィルム28を有する点が相違し、これ以外については第二実施形態に係るハードコートフィルム20と同様であり、同様の構成についてはその説明を省略する。
【0080】
保護フィルム28は、例えばロールプロセスなどで連続加工したりディスプレイに貼り合わせたりするなどのハードコートフィルム30の取扱い時において、ハードコート層14の表面に傷が付くのを抑えることができるものである。保護フィルム28は、粘着剤層26を介してハードコート層14の面に貼り付けられている。保護フィルム28は、ハードコートフィルム30の加工後や貼り合わせ後などにおいては、粘着剤層26とともにハードコート層14の面から剥がされる。このため、粘着剤層26は、ハードコート層14と粘着剤層26の間の接着力よりも保護フィルム28と粘着剤層26の間の接着力のほうが強く、ハードコート層14と粘着剤層26の間で界面剥離可能な接着力に調整される。
【0081】
保護フィルム28を構成する材料は、基材フィルム12を構成する材料として例示したものなどを適宜選択することができる。保護フィルム28の厚みは、特に限定されるものではないが、2μm以上500μm以下、さらに200μm以下の範囲内とすることができる。
【0082】
粘着剤層26を形成する粘着剤は、特に限定されるものではなく、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤などを好適に用いることができる。特に、アクリル系粘着剤は、透明性や耐熱性に優れるため、好適である。アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル重合体および架橋剤を含む粘着剤組成物から形成されることが好ましい。
【0083】
(メタ)アクリル重合体は、(メタ)アクリルモノマーの単独重合体もしくは共重合体である。(メタ)アクリルモノマーとしては、アルキル基含有(メタ)アクリルモノマー、カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマー、水酸基含有(メタ)アクリルモノマーなどが挙げられる。
【0084】
アルキル基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、炭素数2~30のアルキル基を有する(メタ)アクリルモノマーが挙げられる。炭素数2~30のアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいし、環状であってもよい。アルキル基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、より具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸イソステアリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチルなどが挙げられる。
【0085】
カルボキシル基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチルなどが挙げられる。カルボキシル基は、アルキル鎖の末端に位置していてもよいし、アルキル鎖の中間に位置していてもよい。
【0086】
水酸基含有(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシラウリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられる。水酸基は、アルキル鎖の末端に位置していてもよいし、アルキル鎖の中間に位置していてもよい。
【0087】
(メタ)アクリル重合体を形成する(メタ)アクリルモノマーは、上記のいずれか1種であってもよいし、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0088】
架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤などが挙げられる。架橋剤は、これらの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0089】
粘着剤組成物には、(メタ)アクリル重合体、架橋剤以外に、その他添加剤を含んでもよい。その他の添加剤としては、架橋促進剤、架橋遅延剤、粘着性付与樹脂(タッキファイヤー)、帯電防止剤、シランカップリング剤、可塑剤、剥離助剤、顔料、染料、湿潤剤、増粘剤、紫外線吸収剤、防腐剤、酸化防止剤、金属不活性剤、アルキル化剤、難燃剤などが挙げられる。これらは粘着剤の用途や使用目的に応じて、適宜選択して使用される。
【0090】
粘着剤層26の厚みは、特に限定されるものではないが、1μm以上、より好ましくは2μm以上であるとよい。また、10μm以下、より好ましくは7μm以下であるとよい。
【0091】
以上、本発明の実施形態に係るハードコートフィルムついて説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【0092】
例えば上記実施形態では、基材フィルム12の表面に表面処理を施してもよいと記載しているが、表面処理に代えて、基材フィルム12の表面に、易接着層を設ける構成であってもよい。また、上記保護フィルム28は、
図3に示すように、
図2に示す第二実施形態のハードコートフィルム20に追加する形で示しているが、
図1に示す第一実施形態のハードコートフィルム10に追加する形であってもよい。また、基材フィルム12の表面には、各層を形成する前に、ガスバリア性向上層、帯電防止層、オリゴマーブロック層などの各種機能層を予め設けてもよい。
【0093】
[ディスプレイ]
本発明の実施形態に係るディスプレイは、上記第一実施形態、第二実施形態、第三実施形態のハードコートフィルム10,20,30のいずれかをはじめとして、本発明の実施形態に係るディスプレイ用ハードコートフィルムが、粘着剤層を介してディスプレイ表面(装置に組み込まれたディスプレイの表面)に配置されたものである。粘着剤層としては、例えば上記第二、第三実施形態における透明粘着層22を利用することができる。本発明の実施形態に係るハードコートフィルムが、優れた防汚性、防指紋性を有し、摩耗や傷等の損傷が生じた場合でも、防汚性、防指紋性を維持することができるものであることから、本発明の実施形態に係るディスプレイとして、タッチパネル等、手指の接触を頻繁に受ける形態のものを特に好適に適用することができる。
【実施例0094】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。特記しない限り、試料の作製および評価に係る各工程は、大気中、室温にて実施している。また、以下において、固形分とは、溶剤以外の成分のことをいう。
【0095】
[試料の作製]
<ハードコート層形成用組成物の調製>
紫外線硬化型樹脂組成物および防汚剤を、表1および表2に記載の配合比(固形分)となるように配合し、固形分濃度30質量%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテルを加え、実施例1~12および比較例1~11のハードコート層形成用組成物を調製した。
【0096】
試料の作製に用いた材料は以下のとおりである。なお、ここに記載した表面自由エネルギーは、下の評価方法の項に記載した方法で測定したものである。
・バインダー樹脂:紫外線硬化型樹脂組成物「アイカアイトロンZ-878-6HL」(アイカ工業製、ウレタンアクリレート樹脂、光重合開始剤、溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル)、固形分濃度50質量%)
・防汚剤A1:含フッ素化合物「KY-1216」(信越化学工業製、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート、溶剤(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、表面自由エネルギー31.8mN/m、固形分濃度20質量%)-防汚剤Aに分類
・防汚剤B1:含フッ素化合物「KY-1203」(信越化学工業製、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート、溶剤(メチルエチルケトン)、表面自由エネルギー33.5mN/m、固形分濃度20質量%)-防汚剤Bに分類
・防汚剤C1:含フッ素化合物「メガファックRS-75-A」(DIC製、パーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート、溶剤(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、表面自由エネルギー46.4mN/m、固形分濃度20質量%)-防汚剤Cに分類
【0097】
<ハードコートフィルムの作製>
ポリエチレンテレフタレートフィルム「ルミラーU403」(東レ製、厚み50μm)に、ワイヤーバーを用いてハードコート層形成用組成物を、硬化後の厚みが5μmとなるように塗布し、80℃×60秒で乾燥後、窒素雰囲気下で高圧水銀ランプを用いて光量400mJ/cm2の紫外線を照射してハードコート層を形成した。これにより、実施例1~12および比較例1~11のハードコートフィルムを作製した。
【0098】
[評価方法]
(ハードコート層の厚さ)
作製したハードコートフィルムのハードコート層の厚さを、フィルメトリクス製厚み測定システム「Filmetrics F20」を用い、分光干渉法により測定した。
【0099】
(ヘイズおよび全光線透過率)
日本電色工業製「Haze Meter NDH8000」を用い、JIS-K7136の方法で、ハードコートフィルム全体のヘイズ(Hz)、全光線透過率(Tt)を測定した。ヘイズが1.3以下であれば、また全光線透過率が85%以上であれば、ハードコートフィルムの透明性が十分に高いとみなすことができる。
【0100】
(水接触角)
ハードコートフィルム作製直後(初期値)、および消しゴム摩耗試験後のハードコート層表面について、接触角計(協和界面科学製、DropMaster DMo-502)を使用し、2μLの純水をハードコートフィルムのハードコート面に滴下して、水接触角を測定した。消しゴム摩耗試験は、下記の方法によって行った。初期状態において、水接触角がおおむね108°以上であれば、ハードコート層が高い防汚性を有するとみなすことができる。また、消しゴム摩耗試験を経た後の水接触角が80°以上であれば、摩耗を経ても高い防汚性を維持しているとみなすことができる。
【0101】
(消しゴム摩耗試験)
平面摩耗試験機(大栄科学精機製作所製「DAS-400」)を使用し、消しゴム摩耗試験用消しゴム(Minoan社製、接触面が直径φ6mmの円柱型)を、ハードコートフィルムのハードコート層表面に載せて往復させた。試験台のストローク長を50mm、試験台往復速度を29往復/分とし、荷重1.0kgで6000回往復動させた。
【0102】
(耐スチールウール擦傷試験)
各試料について、耐擦傷性を評価するため、耐スチールウール擦傷試験を行った。この際、平面摩耗試験機(大栄科学精機製作所製「DAS-400」)を使用し、10mm×10mmの平面摩擦子に固定したスチールウール#0000(日本スチールウール株式会社製)を、各試料のハードコートフィルムの表面に載せて往復させた。試験台のストローク長を50mm、試験台往復速度を60往復/分、印加荷重を1kgとし、連続で1000回往復させた。その後、サンプルを目視観察し、大きさが10mm以上である傷の数を数えた。そのような傷がない場合(傷が0本である場合)には、特に耐擦傷性が高い(◎)と評価した。傷が存在するが5本以下である場合には、耐擦傷性が十分である(○)と評価した。一方、傷が6本以上10本以下である場合には、耐擦傷性が不十分である(△)と評価した。傷が11本以上である場合には、耐擦傷性が低い(×)と評価した。
【0103】
(表面自由エネルギー)
含フッ素化合物を、それぞれ、ポリエチレンテレフタレートフィルム「ルミラーU403」(東レ製、厚み100μm)に、ワイヤーバーを用いて乾燥後の厚みが0.5μmとなるように塗布し、80℃×180秒で乾燥して、表面自由エネルギー測定用サンプルを得た。
得られた測定用サンプルに対し、接触角計(協和界面科学製、DropMaster DMo-502)を使用し、4μLの液滴を滴下して、水((γdL,γpL,γhL)=(29.1,1.3,42.4))、ヨウ化メチレン((γdL,γpL,γhL)=(46.8,4.0,0))、およびエチレングリコール((γdL,γpL,γhL)=(30.1,0,17.6))の接触角を測定した。水、ヨウ化メチレン、およびエチレングリコールの接触角から、北崎・畑理論に基づく下記式(2)~(3)に従って、表面自由エネルギーを算出した。
γ=γdS+γpS+γhS (2)
γL(1+cosθ)=2(γdS・γdL)1/2+2(γpS・γpL)1/2+2(γhS・γhL)1/2 (3)
ここで、γ、γdS、γpS、γhSはそれぞれ測定用サンプル表面の表面自由エネルギー、表面自由エネルギーの分散成分、極性成分、水素結合成分を、γL、γdL、γpL、γhLはそれぞれ、用いた測定液の表面自由エネルギー、表面自由エネルギーの分散成分、極性成分、水素結合成分を表す。
【0104】
[評価結果]
下の表1および表2に、ハードコート層の成分組成(単位:固形分全量に対する質量%)、a+bおよびc-(a+b)の値とともに、各評価の結果を示す。
【0105】
【0106】
【0107】
実施例1~12は、ハードコート層が、バインダー樹脂と、表面自由エネルギーの異なる3種の防汚剤と、を含有する樹脂組成物の硬化物から形成され、防汚剤が、表面自由エネルギーが25mN/m以上33mN/m未満である防汚剤Aと、表面自由エネルギーが33mN/m以上36mN/m未満である防汚剤Bと、表面自由エネルギーが36mN/m以上50mN/m以下である防汚剤Cと、を含んでいる。さらに、防汚剤Aと防汚剤Bの合計の含有量(a+b)が0.5質量%以上2.6質量%以下であり、防汚剤Cの含有量と、防汚剤Aおよび防汚剤Bの合計の含有量との差(c-(a+b))が-0.45質量%以上1.1質量%以下である。これらのことと対応して、いずれの試料も、1.3以下のヘイズおよび85%以上の全光線透過率を与える良好な透明性を有しているとともに、耐スチールウール擦傷試験によって評価される耐擦傷性も、十分に高いもの(◎または○)となっている。また、水接触角が108°以上となる優れた防汚性、防指紋性を有している。そして、消しゴム摩耗試験後も80°以上の高い水接触角を有していることから、高い防汚性がハードコート層の摩耗を経ても維持されることが示される。つまり、タッチパネル上で指をスライドさせたり、付着した汚れや埃を布等で拭き取ったりしながら、継続的にハードコートフィルムを使用するうちに、ハードコート層に摩耗が生じた場合でも、防汚性、防指紋性を維持できる。
【0108】
比較例1~3は、ハードコート層に含有される防汚剤が1種類の構成である。比較例1は、防汚剤Aと防汚剤Bのいずれも含んでいないことに対応して、初期の水接触角が108°未満であり、防汚性が不足している。また、ハードコート層表面の滑り性が悪くなり、その結果として耐擦傷性も不十分となっていると考えられる。比較例2および3は、防汚剤Cを含んでいないことと対応して、水接触角が、消しゴム摩耗試験後に80°未満に低下しており、防汚性、防指紋性が維持できていない。また、比較例2はヘイズが1.3を超えて高くなっており、透明性も不足している。比較例2ではさらに耐擦傷性も低くなっているが、これは、防汚剤としてバインダー樹脂との相溶性が悪い防汚剤Bのみを多量に含有しており、防汚剤Bがハードコート層の最表面に凝集していることによると考えられる。
【0109】
比較例4は、ハードコート層に含有される防汚剤が、防汚剤Bと防汚剤Cの2種類の構成である。比較例5は、ハードコート層に含有される防汚剤が、防汚剤Aと防汚剤Cの2種類の構成である。比較例4および比較例5は、防汚剤Aと防汚剤Bのどちらか一方を含んでいないことと対応して、水接触角が、消しゴム摩耗試験後に80°未満に低下しており、防汚性、防指紋性が維持できていない。これらの結果より、防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cのいずれを欠いても、優れた防汚性を有するとともに、摩耗を経ても高い防汚性を維持できるハードコートフィルムは得られないと言える。
【0110】
比較例6~10は、ハードコート層に含有される防汚剤が、防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cの3種を含んでいるが、防汚剤Cの含有量と、防汚剤AとBの合計の含有量との差(c-(a+b))が、-0.45質量%以上、1.1質量%以下の範囲に収まっていない。比較例6,8では、c-(a+b)が、いずれも-0.45質量%を下回り、それに対応して、ヘイズが1.3を超えて高くなっており、透明性が不足している。また、比較例6,8とも、耐擦傷性が低くなっているが、これは、c-(a+b)が-0.45質量%を下回っていることが示しているように、防汚剤Cの含有量cに対して防汚剤Aと防汚剤Bの合計の含有量(a+b)が比較的大きく、バインダー樹脂との相溶性が悪い防汚剤Aおよび防汚剤Bがハードコート層の表面付近に凝集しているためであると考えられる。一方で、比較例7,9,10では、c-(a+b)が、いずれも1.1質量%を上回っている。それに対応して、水接触角が消しゴム摩耗試験後に80°未満に低下しており、防汚性、防指紋性を維持できていない。
【0111】
比較例11では、ハードコート層に含有される防汚剤が、防汚剤A、防汚剤B、防汚剤Cの3種を含んでいるが、防汚剤Aと防汚剤Bの合計の含有量(a+b)が0.5質量%を下回っている。それに対応して、水接触角が、消しゴム摩耗試験後に、80°未満に低下している。これは、防汚剤Aおよび防汚剤Bの含有量が少なすぎることにより、十分な防汚性、防指紋性を維持できていないものと考えられる。
【0112】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。