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特開2024-91525二酸化炭素電解還元用溶媒、及びこれを用いた二酸化炭素の還元方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091525
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】二酸化炭素電解還元用溶媒、及びこれを用いた二酸化炭素の還元方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 3/26 20210101AFI20240627BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20240627BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20240627BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20240627BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240627BHJP
【FI】
C25B3/26
B01D53/14 220
B01D53/14 210
C25B3/07
C25B3/03
C25B1/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211345
(22)【出願日】2023-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2022205067
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹田 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】満保 章泰
【テーマコード(参考)】
4D020
4K021
【Fターム(参考)】
4D020AA03
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020BC03
4K021AC02
4K021AC04
4K021BA02
4K021BA12
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の電解還元を行う際の活性化過電圧を下げることができる二酸化炭素電解還元用溶媒、及び二酸化炭素還元方法を提供することを目的とする。
【解決手段】一般式(1)で表されるカチオンと一般式(2)で表されるアニオンとから成るイオン液体(A)と水とを含む二酸化炭素電解還元用溶媒であり、イオン液体(A)のモル数に対する水のモル数の比率[水のモル数÷イオン液体(A)のモル数]が、0.1~50である二酸化炭素電解還元用溶媒。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される塩(A)と水とを含む二酸化炭素電解還元用溶媒であり、塩(A)のモル数に対する水のモル数の比率[水のモル数÷塩(A)のモル数]が、0.1~50である二酸化炭素電解還元用溶媒。
【化1】

[一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、Xは、炭素数1~6の飽和非環式モノカルボン酸のアニオンを表す。]
【請求項2】
一般式(1)で表される塩(A)を構成するカチオンが、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、及び、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の二酸化炭素電解還元用溶媒。
【請求項3】
一般式(1)で表される塩(A)を構成するアニオンが、アセテート、及び、プロピオネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項2に記載の二酸化炭素電解還元用溶媒。
【請求項4】
さらに炭素数1~5の飽和非環式モノカルボン酸、炭素数1~4のアルキルモノスルホン酸及び硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を含む請求項1~3のいずれか1項の記載の二酸化炭素電解還元用溶媒。
【請求項5】
請求項4に記載の二酸化炭素電解還元用溶媒に二酸化炭素が溶解してなる電解還元用組成物を準備する工程、還元反応用電解槽に電解還元用組成物を供給する工程、及び二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解した二酸化炭素を還元反応用電解槽中で還元する工程を有する二酸化炭素の還元方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素電解還元用溶媒、及び二酸化炭素の還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策として、排ガスなどから二酸化炭素を分離回収し、化学的に他の物質に転換し有効利用する方法が盛んに開発されている。例えば、特許文献1には、二酸化炭素の利用効率が高い二酸化炭素反応装置として、二酸化炭素と電解質を含む第1の電解液に接するカソードと、水と電解質とを含む第2の電解液に接するアノードとを備える電気化学反応セルを用いて二酸化炭素の電解還元を行って一酸化炭素等の炭素化合物を得る方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-147679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の電解液を用いた方法では、二酸化炭素を炭素化合物に還元する際の活性化過電圧が高いために電解還元に必要な電圧が大きく、エネルギー効率の点で満足できるものでは無かった。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、二酸化炭素の電解還元を行う際の活性化過電圧を下げることができる二酸化炭素電解還元用溶媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に至った。すなわち本発明は、一般式(1)で表される塩(A)と水とを含む二酸化炭素電解還元用溶媒であり、塩(A)のモル数に対する水のモル数の比率[水のモル数÷塩(A)のモル数]が、0.1~50である二酸化炭素電解還元用溶媒;二酸化炭素電解還元用溶媒に二酸化炭素が溶解してなる電解還元用組成物を準備する工程、還元反応用電解槽に電解還元用組成物を供給する工程、及び二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解した二酸化炭素を還元反応用電解槽中で還元する工程を有する二酸化炭素の還元方法である。
【0007】
【化1】

[一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、Xは、炭素数1~6の飽和非環式モノカルボン酸のアニオンを表す。]
【発明の効果】
【0008】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒を用いることで二酸化炭素の電解還元を行う際の活性化過電圧を下げることができる。そのため、二酸化炭素電解還元用溶媒を用いて二酸化炭素の電解還元に必要なエネルギーを抑えることができ、エネルギー効率に優れた二酸化炭素の還元方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願明細書には以下の事項が開示されている。
【0010】
本願開示(1)は、一般式(1)で表される塩(A)と水とを含む二酸化炭素電解還元用溶媒であり、塩(A)のモル数に対する水のモル数の比率[水のモル数÷塩(A)のモル数]が、0.1~50である二酸化炭素電解還元用溶媒である。
【0011】
【化2】

[一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、Xは、炭素数1~6の飽和非環式モノカルボン酸のアニオンを表す。]
【0012】
本願開示(2)は、一般式(1)で表される塩(A)を構成するカチオンが、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、及び1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である前記の本願開示(1)に記載の二酸化炭素電解還元用溶媒である。
【0013】
本願開示(3)は、一般式(1)で表される塩(A)を構成するアニオンが、アセテート、及びプロピオネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である本願開示(1)または(2)に記載の二酸化炭素電解還元用溶媒である。
【0014】
本願開示(4)は、さらに炭素数1~5の飽和非環式モノカルボン酸、炭素数1~4のアルキルモノスルホン酸及び硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を含む本願開示(1)~(3)のいずれかに記載の二酸化炭素電解還元用溶媒である。
【0015】
本願開示(5)は、本願開示(1)~(4)のいずれかに記載の二酸化炭素電解還元用溶媒に二酸化炭素が溶解してなる電解還元用組成物を準備する工程、還元反応用電解槽に電解還元用組成物を供給する工程、及び二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解した二酸化炭素を還元反応用電解槽中で還元する工程を有する二酸化炭素の還元方法である。
【0016】
本願開示(1)である第一の発明は二酸化炭素電解還元用溶媒である。二酸化炭素電解還元用溶媒とは、二酸化炭素から炭素化合物を得るために行う電解還元反応に用いる溶媒である。
【0017】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒は、一般式(1)で表される塩(A)と水とを含む二酸化炭素電解還元用溶媒であり、塩(A)のモル数に対する水のモル数の比率[水のモル数÷塩(A)のモル数]が、0.1~50.0である。
【0018】
<<塩(A)>>
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒は、一般式(1)で表される塩(A)を含む。塩(A)は、イミダゾリウムカチオンとモノカルボン酸のアニオンとから構成され、常温溶融塩(イオン性液体ともいう)であることが好ましい。
【0019】
【化3】

[一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、Xは、炭素数1~6の飽和非環式モノカルボン酸のアニオンを表す。]
【0020】
一般式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6の鎖状のアルキル基であり、炭素数1~6の鎖状のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、及びn-へキシル基等があげられる。R~Rとしては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びn-ブチル基が好ましい。R~Rは同じでもあっても異なっていてもよく、RとRのいずれかがメチル基であることが好ましく、RとRのいずれかがメチル基であり、かつRとRとが水素原子であることがさらに好ましい。
【0021】
一般式(1)で表される塩(A)を構成するカチオンとして好ましいものとしては、1-メチルイミダゾリウム、1-エチルイミダゾリウム、1-プロピルイミダゾリウム、1-ブチルイミダゾリウム、1,3-ジメチル-イミダゾリウム、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、及び1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム等が挙げられる。なかでも、二酸化炭素の溶媒への溶解量及び電解還元の際の活性化過電圧等の観点から、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、及び1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムが好ましく、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムがさらに好ましい。
【0022】
一般式(1)中、Xは炭素数1~6の飽和非環式モノカルボン酸のアニオンであり、炭素数1~6の飽和非環式モノカルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、及びイソ吉草酸等が挙げられ、酸性ガス吸収量の観点から、酢酸、プロピオン酸が好ましく、酢酸がより好ましい。また、炭素数にはカルボキシル基を構成する炭素数も含まれる。一般式(1)で表される塩(A)を構成するアニオンとしては、アセテート、及びプロピオネートが好ましく、アセテートがより好ましい。
【0023】
本発明の二酸化炭素吸収用組成物は、一般式(1)で表される塩(A)以外の他の塩を含んでいてもよい。
【0024】
一般式(1)で表される塩(A)は、特開2001-316372号公報等に記載の公知の方法により製造したカチオンメチルカーボネート塩に対して、飽和脂肪族カルボン酸を作用させる方法等により製造することができる。
【0025】
一般式(1)で表される塩(A)としては、二酸化炭素の溶解量及び電解還元の際の活性化過電圧等の観点から、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネート、及び1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートであることが好ましく、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、及び1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネートがさらに好ましい。
【0026】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒に含まれる一般式(1)で表される塩(A)の重量は、二酸化炭素電解還元用溶媒の重量に対して、75重量%以上99重量%以下であることが好ましく、86重量%以上95重量%以下であることがより好ましい。塩(A)の重量が上記範囲であると、二酸化炭素の電解還元の際の活性化過電圧をさらに下げることができ、炭素化合物の製造をより効率よく行うことができる。
【0027】
<<水>>
本発明の二酸化炭素吸収用組成物は、水を含む。
【0028】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒に含まれる水の重量は、二酸化炭素電解還元用溶媒の重量に対して、1重量%以上25重量%以下であることが好ましく、5重量%以上14重量%以下であることがより好ましい。水の重量が上記範囲であると、本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒に対して二酸化炭素の溶解量が良好となり、炭素化合物の製造をより効率よく行うことができる。
【0029】
<<二酸化炭素電解還元用溶媒>>
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒において、塩(A)のモル数に対する水のモル数の比率[水のモル数÷塩(A)のモル数]は、0.1~50.0である塩(A)のモル数に対する水のモル数の比率が上記範囲であれば、二酸化炭素を溶解することと電解還元の際の活性化過電圧を下げることの両立が可能となる。
【0030】
塩(A)のモル数に対する水のモル数の比率[水のモル数÷塩(A)のモル数]は、0.1~1.0であることがさらに好ましい。この範囲にあると、二酸化炭素電解還元用溶媒を二酸化炭素吸収液としても好ましく用いることができ、二酸化炭素吸収の吸収と二酸化炭素の電解還元とを同じ液で行うことができるため、炭素化合物の製造効率の観点で好ましい。
【0031】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒は、塩(A)及び水を除くその他の成分(その他の成分ともいう)を含んでもよい。
【0032】
その他の成分としては、非プロトン性有機溶媒[エステル溶媒(γ-ブチロラクトン等)、ニトリル溶媒(アセトニトリル等)及びエーテル(ジエチレングリコールジメチルエーテル及びトリエチレングリコールジメチルエーテル等)等]、及びプロトン性有機溶媒[アルコール溶媒(メタノール、エタノール及びプロパノール等)]等が挙げられる。
【0033】
その他の成分の含有量は、本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒の全重量に対して、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることが更に好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒としては、塩(A)と水と必要により用いるその他の成分とを上述のモル比率となるように公知の方法で混合することにより得ることができる。
【0035】
本発明において、酸化炭素電解還元用溶媒を酸化炭素電解還元用溶媒と同一重量の水で希釈して得られた水溶液(50%水溶液ともいう)の25℃におけるpHが6~8であることが好ましい。この範囲にあると二酸化炭素の還元用溶媒に対する溶解度が大きくなり、炭素化合物の製造効率が向上し好ましい。
【0036】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒は、炭素数1~5の飽和非環式モノカルボン酸、炭素数1~4のアルキルモノスルホン酸及び硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸を含むことが好ましい。二酸化炭素電解還元用溶媒に含まれる炭素数1~5の飽和非環式モノカルボン酸、炭素数1~4のアルキルモノスルホン酸及び硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸は、二酸化炭素電解還元用溶媒のpHを調整するために用いられる。
【0037】
炭素数1~5の飽和非環式モノカルボン酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、2-メチルプロパン酸、3-メチルブタン酸、及び2,2-ジメチルプロパン酸等があげられる。炭素数1~5のアルキルモノスルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1-プロパンスルホン酸、及び1-ブタンスルホン酸等があげられる。本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒が含む少なくとも1種の酸としては、二酸化炭素の溶媒に対する溶解度等の観点から、炭素数1~5の飽和非環式モノカルボン酸、及び硫酸が好ましく、酢酸及び硫酸がより好ましい。
【0038】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒が少なくとも1種含む前記の酸の重量は、50%水溶液の25℃におけるpHが6~8となる量であれば制限はない。二酸化炭素電解還元用溶媒のpHは、試料として25℃に温調した50%水溶液を用い、公知のpHメーターによって測定することができる。50%水溶液の粘度が高く、正しく測定できない場合には、50%水溶液をイオン交換水でさらに希釈した溶液のpHを測定してもよい。50%水溶液をイオン交換水でさらに希釈した溶液のpHを測定した場合には、測定値とさらに希釈するために用いたイオン交換水の重量から計算される濃度から既知の方法で50%水溶液のpHを算出することができる。
【0039】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒は、40℃において、塩(A)1mol当たり13g/mol以上の二酸化炭素を溶解することが好ましく、14g/mol以上であることがより好ましく、15g/mol以上であることが更に好ましい。
【0040】
上記二酸化炭素の溶解量は、例えば、以下の方法により測定することができる。
(1)空の2口ナスフラスコにゴム栓をして重量を測定する(この重量を「空フラスコ(空気)」とする)。
(2)次いで、前記の2口ナスフラスコ内を二酸化炭素で置換し、再度重量を測定する(この重量を「空フラスコ(二酸化炭素)」とする)。
(3)次いで、2口ナスフラスコ内を空気で置換した後、二酸化炭素電解還元用溶媒10gを入れて、重量を測定する(この重量を「t=0(空気)」とする)。
(4)t=0(空気)+[空フラスコ(二酸化炭素)-空フラスコ(空気)]を算出し、これを二酸化炭素雰囲気下における二酸化炭素電解還元用溶媒10gを入れた2口ナスフラスコの重量とする(この重量を「t=0(二酸化炭素)」とする)。
(5)二酸化炭素ボンベからガス捕集バルーンに二酸化炭素を取り、2口ナスフラスコにつけて二酸化炭素置換を行い、大気圧下で40℃に調温する。
(6)3分間フラスコを揺動させた後に、2口ナスフラスコの重量を測定する。この操作を重量変化が10mg以下(3分間毎に測定)となるまで繰り返す。
(7)t=0(二酸化炭素)と、(6)の最後の重量との差を二酸化炭素電解還元用溶媒10g当たりの二酸化炭素溶解量とする。
(8)二酸化炭素溶解量を二酸化炭素電解還元用溶媒1mol当たりに換算する。
【0041】
なお、上記測定では、「二酸化炭素電解還元用溶媒10g」と同体積の空気の重量と、「二酸化炭素電解還元用溶媒10g」と同体積の二酸化炭素の重量とが同じであるとの仮定(すなわち、[(「二酸化炭素吸収用組成物10g」と同体積の二酸化炭素の重量)-(「二酸化炭素吸収用組成物10g」と同体積の空気の重量)が0]である)に基づいて測定、算出したものである。
また、上記測定では、二酸化炭素を溶解する前後で二酸化炭素電解還元用溶媒の体積が変化しないとの仮定に基づいて測定、算出したものである。
【0042】
本願の第二の発明は、前記の二酸化炭素電解還元用溶媒に二酸化炭素が溶解してなる電解還元用組成物を準備する工程、還元反応用電解槽に電解還元用組成物を供給する工程、及び二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解した二酸化炭素を還元反応用電解槽中で還元する工程を有する二酸化炭素の還元方法である。
【0043】
二酸化炭素電解還元用溶媒に二酸化炭素が溶解してなる電解還元用組成物を準備する工程における電解還元用組成物は、二酸化炭素が前記の二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解することで得られる電解還元用組成物である。公知の方法で捕集した二酸化炭素を前記の二酸化炭素電解還元用溶媒に吹き込む等の公知の方法によって二酸化炭素を二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解することができる。また、前記の二酸化炭素電解還元用溶媒を二酸化炭素吸収液として用いる場合には、特開2016-83623号公報等に記載の公知の吸収方法を用いることによって二酸化炭素を二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解することができる。
【0044】
二酸化炭素電解還元用溶媒に二酸化炭素が溶解してなる電解還元用組成物を準備する工程としては、二酸化炭素を前記の二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解する工程であっても、二酸化炭素が溶解した電解還元用組成物を入手して所定の倉庫及び/または容器に貯留する工程であってもよい。二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解させる二酸化炭素(すなわち、電解還元用組成物に溶解している二酸化炭素)としては、どの様な環境で捕集された二酸化炭素であってもよいが、発電所及び工場等の排気中から分離回収される二酸化炭素であることが好ましい。二酸化炭素電解還元用溶媒に二酸化炭素が溶解してなる電解還元用組成物において、還元反応前の電解還元用組成物に含まれる二酸化炭素は塩(A)1mol当たり10g/mol~15g/molであることが好ましく、さらに好ましくは13g~15g/molである
【0045】
還元反応用電解槽に電解還元用組成物を供給する工程は、前記の工程で準備した電解還元用組成物を還元反応用電解槽に供給する工程である。還元反応用電解槽としては、特表2022-500558号公報及び特開2017-57438号公報等に記載の公知の電解装置を用いることができる。
【0046】
電解還元用組成物の還元反応用電解槽への供給は、電解還元用組成物を貯留した容器から還元反応用電解槽に移すことができれば如何なる方法で行ってもよい。電解還元用組成物を貯留した容器から還元反応用電解槽に移す方法のうち、好ましい方法としては、電解還元用組成物を貯留した容器と還元反応用電解槽との間に流量を調整可能な弁及び/またはポンプを介して設置された配管を用いる方法があげられる。
【0047】
二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解した二酸化炭素を還元反応用電解槽中で還元する工程は、電解還元用組成物に対して還元反応用電解槽中で電解還元反応を行う工程であり、電解還元用組成物の入った還元反応用電解槽が備える陽極と陰極を電源に接続して電解槽に電流を流すことにより行うことができ、電源との接続方法及び電源の種類等は使用する還元反応用電解槽の仕様に応じて変更することができる。
【0048】
電解還元用組成物の還元反応用電解槽における電解還元反応は、10~80℃で行うことが好ましく、20~60℃で行うことがさらに好ましい。
【0049】
電解還元用組成物の還元反応用電解槽における電解還元反応によって、二酸化炭素が還元されてなる炭素化合物である、一酸化炭素、エチレン及びメタノール等を得ることができる。
【実施例0050】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明の主旨を逸脱しない限り本発明は実施例に限定されるものではない。
【0051】
<<製造例1>>
撹拌装置、温度計、滴下ロート、還流冷却器、及び窒素ガス導入管を取り付けた反応フラスコに、グリオキザールの40%水溶液18重量部、ホルマリンの37%水溶液10重量部の混合物を仕込み、撹拌しながら均一溶液にし、窒素ガスを僅かに流しながら40℃に昇温した。その後反応温度を35~45℃に保ちながら滴下ロートからエチルアミンの70%水溶液64重量部とアンモニアの28%水溶液61重量部の混合液を滴下した。
次に、エチルアミンとアンモニアの混合液を滴下し始めてから35分後に、別の滴下ロートからグリオキザールの40%水溶液127重量部とホルマリンの37%水溶液71重量部の混合液を4時間かけて滴下した。エチルアミンとアンモニアの混合液は4時間35分かけて滴下し、エチルアミンとアンモニアの混合液の滴下終了と同時にグリオキサールとホルマリンの混合液の滴下を終了させるように滴下開始時間をずらして行った。滴下が終了したのち、40℃でさらに1時間反応させた。次に温度80℃、常圧から徐々に減圧度5.3kPaまで減圧し脱水を行い、粗1-エチルイミダゾールを得た。続いてを温度100℃、減圧度0.7kPaの条件で単蒸留により精製し、1-エチルイミダゾールを得た。
次に、還流コンデンサ付きステンレス製オートクレーブに、得られた1-エチルイミダゾール96重量部、ジメチル炭酸135重量部、及びメタノール192重量部を仕込み均一に溶解させた。次いで、150℃まで昇温した。圧力約0.8MPaで70時間反応を行い、反応物を得た。反応物のH-NMR分析を行ったところ1-エチル-3-メチルイミダゾリウムモノメチル炭酸塩が生成していることが分かった。
得られた44重量%の濃度で塩を含む反応物423重量部をフラスコに取り、撹拌下にプロピオン酸74重量部を室温下約30分かけて徐々に滴下した。滴下終了後、滴下に伴い発生する炭酸ガスによる泡の発生がおさまった後、反応液をロータリーエバポレーターに移して溶媒を全量留去し、フラスコ内に無色透明の液体184重量部を得た。
フラスコ内に無色透明の液体をH-NMR分析した結果、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネートであった。
【0052】
<<実施例1~20、比較例1~5>>
表1~3に記載の塩(A)、水、及びpH調整剤である酢酸、硫酸または水酸化ナトリウムを、室温下でマグネチックスターラーを用いて均一になるまで撹拌して二酸化炭素電解還元用溶媒(溶媒1~20、及び比較用溶媒1~5)を作製した。
作製した二酸化炭素電解還元用溶媒のそれぞれについて、下記の方法で40℃での二酸化炭素吸収量及び二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解した二酸化化炭素の還元電位の測定を行うとともに、二酸化炭素の活性化電圧低減値を算出し、その結果を表1~3に記載した。表1~3には50%水溶液におけるpHも併せて記載した。
なお、表1~3中の、pH調整剤の組成の欄における[-]の記載は、pH調整剤を添加しなかったことを意味する。
【0053】
<<40℃での二酸化炭素吸収量>>
実施例1~20、比較例1~5で得られた二酸化炭素電解還元用溶媒(溶媒1~20、及び比較用溶媒1~5)の40℃における二酸化炭素吸収量を以下の(1)~(10)に記載の操作を順に行い算出した。
(1)50mLの2口ナスフラスコにゴム栓をして重量を測定した(この重量を「空フラスコ(空気)」とした)。
(2)50mLの2口ナスフラスコ内を二酸化炭素で置換した後にゴム栓をして再度重量を測定した(この重量を「空フラスコ(二酸化炭素)」とした)。
(3)作製後は空気と接触しないように保管した二酸化炭素電解還元用溶媒10gを、空気で置換した50mLの2口ナスフラスコ内に入れてゴム栓で栓をし、重量を測定した(この重量を「t=0(空気)」とした)。
(4)前記の(1)~(3)で測定した重量を用いて、t=0(空気)+[空フラスコ(二酸化炭素)-空フラスコ(空気)]を算出し、二酸化炭素を吸収していない二酸化炭素電解還元用溶媒10gを入れた2口ナスフラスコの二酸化炭素雰囲気下における重量とした(この重量を「t=0(二酸化炭素)」とした)。
(5)二酸化炭素電解還元用溶媒10gを入れた2口ナスフラスコを大気圧下で40℃に調温した。
(6)二酸化炭素を入れたガス捕集バルーンを(5)の2口ナスフラスコに取り付け、ガス捕集バルーンから2口ナスフラスコに二酸化炭素を吹き込んだ後、ゴム栓で密閉した。
(7)(6)の2口フラスコを3分間揺動させた後に、2口ナスフラスコの重量を測定した。
(8)もう一度、(6)に記載の方法で二酸化炭素を吹き込んだ後にゴム栓で密閉し、3分間の振動と重量の測定を行った。
(9)二酸化炭素の吹き込みと3分間の振動と重量の測定を、測定したフラスコ重量の変化が10mg以下となるまで繰り返した。
(10)t=0(二酸化炭素)と、最後に測定した2口フラスコの重量との差を二酸化炭素吸収用組成物10g当たりの二酸化炭素吸収量とした。二酸化炭素吸収量は、二酸化炭素電解還元用溶媒に含まれるイオン性液体1molあたりに換算して表1~3に記載した。
なお、二酸化炭素は、岩谷産業(株)製の炭酸ガスを使用した。
【0054】
<<二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解した二酸化化炭素の還元電位(CO還元電位)>>
実施例1~20、比較例1~5で得られた二酸化炭素電解還元用溶媒(溶媒1~20、及び比較用溶媒1~5)に溶解した二酸化化炭素の活性化過電圧を、以下の(1)~(10)に記載の操作を順に行い算出した。
(1)50mLの2口ナスフラスコに入れた二酸化炭素電解還元用溶媒中への窒素ガスの吹き込みを10分間行い、溶媒中に溶存した酸素を窒素に置換した。
(2)10mMの濃度となるように、フェリシアン化カリウム(富士フィルム和光純薬(株)製)を(1)の二酸化炭素電解還元用溶媒に溶解した。
(3)二酸化炭素を入れたガス捕集バルーンを(1)の2口ナスフラスコに取り付け、30分間、二酸化炭素電解還元用溶媒を撹拌しながら二酸化炭素を供給し、二酸化炭素電解還元用溶媒に二酸化炭素を溶解した。
(4)(3)の2口フラスコに入った二酸化炭素電解還元用溶媒に、作用極となる銀電極(EC Frontier製、型番AG-6355)、対極となるPtコイル電極(EC Frontier製、型番CE-200)、参照極となるAg/AgCl電極(eDAQ社製、LF-2)を入れ、ポテンショスタット(Biologic社製、型番:SP-150)を使用して微分パルスボルタンメトリー法[走査条件:0.0~-2.2V(vsAg/AgCl)を10mV/secで電位走査]による電位測定を行い、二酸化炭素の還元電位(vsAg/AgCl)を測定した。
(5)(2)のフェリシアン化カリウムを溶解した二酸化炭素電解還元用溶媒についても作用極にグラッシーカーボン電極(EC Frontier製、型番GC-6355)を用いる以外は(4)と同様に微分パルスボルタンメトリー法[走査条件:+0.5~-2.2V(vsAg/AgCl)を10mV/secで電位走査]による電位測定を行い、フェリシアン化カリウムの還元電位(vsAg/AgCl)とした。
(6)(4)で測定した二酸化炭素の還元電位(vsAg/AgCl)から(5)で測定したフェリシアン化カリウムの還元電位(vsAg/AgCl)を引き算して二酸化炭素の還元電位(vs[Fe(CN)4-/3-)を計算し表1~3に記載した。
【0055】
<<二酸化炭素吸収剤に溶解した二酸化炭素の活性化過電圧低減値(比較例3に対するCO活性化過電圧低減値)>>
比較例3の二酸化炭素吸収剤に溶解した二酸化炭素の還元電位から実施例1~20及び比較例1、2、4,5の二酸化炭素吸収剤に溶解した二酸化炭素の還元電位を引き算して比較例3に対する実施例1~20及び比較例1、2、3、5の二酸化炭素の活性化過電圧低減値を計算して表1~3に記載した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表1~3に記載した実施例及び比較例に用いた化学品のうち、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート及び1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアセテートは、東京化成工業株式会社製の試薬を、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムプロピオネートは前記の製造例1により製造した塩を、酢酸及び水酸化ナトリウムは富士フィルム和光純薬株式会社製の試薬を、硫酸は佐々木化学薬品株式会社製の試薬を用いた。
【0060】
表1~3に示した通り、本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒を用いることで比較例に比べて二酸化炭素の活性化過電圧の低減値が大きくなる。すなわち、本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒を用いることで活性化過電圧を下げることができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒を二酸化炭素の電解還元を行う際の溶媒として用いることで、二酸化炭素の活性化過電圧を下げることができるので、例えば、化学工場や製鉄所等の排気ガス中から分離回収された二酸化炭素を炭素化合物に変換するカーボンリサイクルに本発明の二酸化炭素電解還元用溶媒は好ましく用いることができる。