(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024091535
(43)【公開日】2024-07-04
(54)【発明の名称】荷電粒子レンズ、電磁レンズ及び荷電粒子光学装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/141 20060101AFI20240627BHJP
H01J 37/143 20060101ALI20240627BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20240627BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20240627BHJP
【FI】
H01J37/141 A
H01J37/143
H01L21/30 541B
H01L21/30 541W
G03F7/20 504
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023212433
(22)【出願日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】22216094.7
(32)【優先日】2022-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】509316578
【氏名又は名称】アイエムエス ナノファブリケーション ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ シュペングラー
(72)【発明者】
【氏名】ヨハネス ライトナー
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー プッフベルガー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル モーゼー
【テーマコード(参考)】
5C101
5F056
【Fターム(参考)】
5C101AA27
5C101BB03
5C101BB07
5C101BB08
5C101BB10
5C101EE03
5C101EE13
5C101EE14
5C101EE19
5C101EE23
5C101EE59
5C101EE63
5C101EE64
5C101EE67
5C101EE69
5C101EE70
5C101FF56
5C101GG19
5C101LL04
5F056AA07
5F056AA33
5F056CB31
5F056EA05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】永久磁石を含むがレンズの光学特性を高精度で調節可能にする荷電粒子レンズの提供。
【解決手段】微調節可能な荷電粒子レンズ(10)は縦軸(cx)に沿って延伸するビーム通路(11)を包囲する、永久磁石(21)及びヨークボディ(25)を含む磁気回路アセンブリ(20)を含む。永久磁石は、内方に向かってビーム通路に到達する磁界(61)を生成する、少なくとも2つのギャップ(290、291)を有する磁気回路を形成するよう、インナーヨーク要素(250)とアウターヨーク要素(251)の間に配置される。インナーヨークシェル(250)とアウターヨークシェル(251)の間には電磁的調節コイル(31)が配置されている。電磁的調節コイル(31)は、主として周方向に沿って流れる調節可能な供給電流によって駆動され、磁気回路の磁束を修正して、ギャップ(290、291)内の磁束密度に変化を引き起こす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子光学システム(1)の荷電粒子ビームを修正するよう構成された荷電粒子レンズであって、
前記荷電粒子レンズは基本的に縦軸(cx)に沿って延在しかつ荷電粒子ビーム(100)の通過を可能にする通路空間(11)を備えており、
前記荷電粒子レンズは磁気回路アセンブリ(20)を含み、
前記磁気回路アセンブリ(20)は
・少なくとも1つの永久磁石(21;210、211)、及び、
・ヨークボディ(25;250、251)
を含み、
前記ヨークボディ(25)は少なくとも2つのヨーク要素(250、251)から構成されており、前記少なくとも2つのヨーク要素(250、251)のうち、第1ヨーク要素は前記通路空間(11)を包囲するよう配置されるインナーヨークシェル(250)を構成し、第2ヨーク要素は前記インナーヨークシェルを包囲するよう配置されるアウターヨークシェル(251)を構成し、前記ヨーク要素は前記縦軸(cx)を囲む周に配置されかつ高透磁性材料を含むこと、
前記少なくとも1つの永久磁石(21)は前記少なくとも2つのヨーク要素の間にかつ前記インナーヨークシェルを囲む周に配置されており、前記少なくとも1つの永久磁石(21)はその2つの磁極が夫々のヨーク要素へと磁気的に配向される永久磁石材料(210、211)を含むこと、
前記磁気回路アセンブリ(20)において、前記少なくとも1つの永久磁石と前記ヨークボディは、前記少なくとも1つの永久磁石から生じる磁束密度を前記ヨークボディを通して導くよう構成され、異なるヨーク要素の夫々の軸方向の面間に形成される少なくとも2つのギャップ(290、291)を介在して閉じた磁気回路を形成し、及び、前記ギャップ内に、内方に向かって前記通路空間内に到達する磁界(61)を誘導すること、
前記荷電粒子レンズ(10)は、前記インナーヨークシェル(250)と前記アウターヨークシェル(251)の間に配置されかつ調節可能な供給電流によって駆動されるよう構成された電磁的調節コイル(31)を含むこと、前記電磁的調節コイル(31)における電流は実質的に前記縦軸の周りの周方向に沿って流れること、前記電磁的調節コイル(31)は、前記少なくとも2つのギャップ(290、291)の少なくとも1つにおいて磁束密度の変化を引き起こすように前記磁気回路の磁束を修正するよう構成されていること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル(31)は、更に、2つ以上のセクタコイル要素を含むセクタ型電磁的調節コイル構造体(348、344)を備えること、各セクタコイル要素は夫々の半径方向を指向する巻回軸を備えて構成され、前記セクタ型電磁的調節コイルのセクタコイル要素(複数)は前記縦軸の周りにおいて互いに対し周方向に角度がずらされて配置されていること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項3】
請求項2に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル(31)及び前記セクタ型電磁的調節コイル構造体は、夫々、前記コイル及びコイル要素に夫々の電流を供給するために、前記荷電粒子レンズの外部に対する電気的インタフェイスを備えること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項4】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル(31)は、前記コイルに電流を供給するよう構成された、前記荷電粒子レンズの外部に対する電気的インタフェイス(33)を備えること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項5】
請求項3に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電気的インタフェイスは、前記アウターヨークシェルに形成された貫通路(passageway)を含むこと
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項6】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル(31)又は前記電磁的調節コイル(31)及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方は、前記磁気回路の2つ以上の分岐路の間での磁束の再分布(redistribution)を引き起こして、少なくとも2つのギャップ(290、291)において磁束密度の変化を引き起こすよう構成されていること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項7】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル(31)又は前記電磁的調節コイル(31)及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方は、前記磁気回路の2つ以上の分岐路の1つに対し主として影響を及ぼす磁束の修正を引き起こして、対応するギャップ(290)における磁束密度の変化を引き起こすよう構成されていること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項8】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
2つのギャップ(290、291)における磁界を異なるように調節するよう構成された、前記磁気回路アセンブリ(20)の複数の異なる構成要素に関連付けられた複数の異なる部位に、2以上の電磁的調節コイル(31)が配設されていること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項9】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記荷電粒子レンズは、前記ヨークボディの前記少なくとも2つのヨーク要素の間の定められた位置において、前記電磁的調節コイル(31)又は前記ホルダ要素(32)及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方を保持するよう構成されたホルダ要素(32)を更に含むこと
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項10】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記第2ヨーク要素(251)は、他の全てのヨーク要素を含む前記磁気回路アセンブリの他の構成要素を包囲する、前記荷電粒子レンズのハウジングボディ(12)を構成すること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項11】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記少なくとも1つの永久磁石(21)は、実質的に半径方向に配向された磁化を有すること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項12】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記少なくとも1つの永久磁石(21)は、
・その縦軸(c1)に沿って積み重ねられた2つ以上の層(220)に応じてセグメント化された、及び/又は、
・その縦軸(c1)の周りに配置された2つ以上のセクタ(240)へと分割された、
少なくとも2つの副要素から構成されていること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項13】
請求項12に記載の荷電粒子レンズにおいて、
少なくとも1つの温度制御装置(31)が複数の副要素の夫々2つの間に配設されていること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項14】
請求項1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記荷電粒子レンズは、前記縦軸に沿って全体的に回転対称的な形状を有すること、
前記磁気回路アセンブリ(20)の複数の構成要素、即ち、
・前記少なくとも1つの永久磁石(21)、及び、
・前記ヨークボディ(25)、並びに
・前記電磁的調節コイル(31)
は、前記縦軸と同心に配置されており、かつ、中空シリンダ又は中空多角柱形状に相当する基本形状を有すること
を特徴とする、荷電粒子レンズ。
【請求項15】
請求項1に記載の荷電粒子レンズと、前記縦軸に沿って前記通路空間(11)に挿入されたスリーブインサート部材(50)とを含む電磁レンズであって、
前記スリーブインサート部材(50)は、その縦軸に沿って延在する、前記荷電粒子レンズの通路空間(11)の半径(r2)より小さい半径(r3)のビーム通路(55)を包囲し、
前記スリーブインサート部材(50)は、少なくとも部分的に導電性部分(51a)を有する取付ボディ(51)と、少なくとも1つの導電性電極要素(52a、53a、52b、53b)とを含み、
前記少なくとも1つの導電性電極要素は、前記ビーム通路の内部に静電界(65)を生成するよう、前記取付ボディ(51)の導電性部分(51a)のポテンシャルに関し、電源(70)を介して電気ポテンシャルが印加されるよう、構成されており、
前記電極要素は、1つ以上のギャップ(290、291)において前記ビーム通路(55)の内部の磁界(61)と組み合わされた粒子光学レンズを形成するよう、構成されており、
前記荷電粒子光学レンズの焦点距離は、前記電極要素に印加される電気ポテンシャルを修正することによって調節可能であること
を特徴とする、電磁レンズ。
【請求項16】
請求項15に記載の電磁レンズにおいて、
前記スリーブインサート部材(50)の縦軸(c3)は前記荷電粒子レンズの縦軸(cx)と重なり、前記インナーヨークシェル(250)は前記縦軸(c3)に沿って延在しかつ前記スリーブインサート部材(50)を周方向に包囲し、前記磁気回路の少なくとも2つのギャップ(290、291)は前記インナーヨークシェルのいずれかの軸方向端部に位置付けられており、各ギャップは、内方に向かって前記通路空間ないしビーム通路(11、55)内に到達する定められた磁界(61)を生成し、前記静電界(65)は前記磁界と少なくとも部分的に重なるよう構成された前記スリーブインサート部材の複数の電極要素(52a、53a、52b、53b)の少なくとも1つによって生成されること
を特徴とする、電磁レンズ。
【請求項17】
請求項15に記載の電磁レンズにおいて、
複数の電極要素の少なくとも1つは、前記縦軸(c3)の周りに周方向に沿って一様に配置された複数の副電極(530)を含む静電マルチポール電極(53)を含み、前記マルチポール電極は各電極に個別にポテンシャルを提供するマルチチャンネル電源ユニット(723)に接続可能であること
を特徴とする、電磁レンズ。
【請求項18】
請求項15に記載の電磁レンズにおいて、
前記電極要素は、前記縦軸(c3)を中心とする定められた半径(r4)を有する制限開口(540)を形成するビームアパーチャ要素(54)を含み、
前記制限開口(540)は、前記縦軸に沿って伝搬する荷電粒子ビーム(100)の横幅を制限するよう構成されており、
前記ビームアパーチャ要素は、当該ビームアパーチャ要素において吸収された荷電粒子ビームの量を測定するよう構成された電流測定装置(71)に接続されていること
を特徴とする、電磁レンズ。
【請求項19】
請求項1~14の何れかに記載の荷電粒子レンズと請求項15~18の何れかに記載の電磁レンズの少なくとも1つを含む荷電粒子光学装置であって、
前記荷電粒子光学装置はその縦軸に沿ってレンズを通って伝搬する荷電粒子ビーム(e、f)に影響を及ぼすよう構成されていること、前記レンズは前記荷電粒子光学装置の粒子光学システム(3、5)の部分であること
を特徴とする、荷電粒子光学装置。
【請求項20】
請求項19に記載の荷電粒子光学装置において、
前記荷電粒子光学装置は、複数の粒子光学カラムを含むマルチカラムシステム(40)として構成されていること、
各カラムは、各自の粒子ビームを使用するよう構成されており、かつ、荷電粒子レンズ又は電磁レンズの夫々の構成を含む各自の粒子光学システムを含むこと
を特徴とする、荷電粒子光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2022年12月22日に出願された欧州特許出願第22216094.7号についてのパリ条約上の優先権の利益を主張するものであり、当該出願の全内容は引照を以って本書に繰り込みここに記載されているものとする。
【0002】
本発明は、ナノパターン形成を含む、リソグラフィ描画や類似の処理目的のために使用されるよう構成された、荷電粒子光学装置の荷電粒子ビームを修正するよう構成された永久磁石を含む荷電粒子レンズに関する。そのようなレンズは、荷電粒子ビーム自身の伝搬の方向に対応しかつ通常はそれが使用される荷電粒子光学装置の光軸と同心的に整列されることになる縦軸に沿った荷電粒子ビームのための通路を備える。
【0003】
本発明は、更に、荷電粒子磁気レンズを含む電磁レンズ、及び、既述のタイプのレンズを含む荷電粒子光学装置に関する。
【背景技術】
【0004】
本出願人は、1つ以上の上記のタイプのレンズを組み込み可能な荷電粒子マルチビーム装置を実現し、かつ、同時に複数の荷電粒子ビームについて適切な、対応する荷電粒子光学要素、パターン規定装置、及び描画方法を開発した;eMET(electron Mask Exposure Tool:電子マスク露光ツール)又はMBMW(multi-beam mask writer:マルチビームマスク描画機)と称される50keV電子マルチビーム描画機が製品化されており、これは、193nm液浸リソグラフィのための任意のフォトマスク、EUVリソグラフィのためのマスク及びナノインプリントリソグラフィのためのテンプレートを実現するために使用される。本出願人のシステムは、基板に対し直接的に適用される電子ビーム直接描画機(EBDW)のために使用される、PML2(Projection Mask-Less Lithography:投影マスクレスリソグラフィ)とも称されている。
【0005】
とりわけマスクレスリソグラフィ及び基板(例えばウェハ)の直接描画について、工業的な大量生産においてスループットを向上するために、荷電粒子ナノパターン形成装置を通過する荷電粒子ビームによって伝えられる電流を増大する必要がある;これは、通常、荷電粒子間のクーロン力の相互作用による解像度の制限という代償を伴うものであり、他の機構を介する装置によって導入される光学収差の大きさの減少による対応する補償を必要とすることになる。このために、本出願人は、マルチカラム法において組み合わされた複数の並列光学カラムを含む荷電粒子マルチビーム装置を開発した。なお、各カラムは、eMETのようなより早期の描画機構成と比べて、減少された(「スリムな」)断面直径を有する。
【0006】
そのようなマルチカラム装置(一例は以下において
図14を参照して議論される)は、荷電粒子ビームによって著しくより大きな電流を可能にする一方で、シングルカラムシステムにおいて見られる電流と光学収差の間のトレードオフによる制限を克服する。これは、ターゲットへ供給される全電流が複数の光軸へと分割される一方で、解像度の制限(限界)は光軸当たりの電流の大きさによって支配されるという事実に基づく。このタイプのシングルカラムは、本出願人のUS6,768,125、EP2 187 427 A1(=US8,222,621)及びEP2 363 875 A1(=US8,378,320)のような、従来技術においてよく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】US6,768,125
【特許文献2】EP2 187 427 A1
【特許文献3】US8,222,621
【特許文献4】EP2 363 875 A1
【特許文献5】US8,378,320
【特許文献6】US9,165,745
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
典型的なマルチカラムシステムは複数の光学サブカラムを含み、各サブカラムは、幅広でテレセントリックな荷電粒子ビームをパターン規定(画定)システムへ、次いで、荷電粒子投射光学系へと供給する照射システムを含み、荷電粒子投射光学系は例えば多数の静電、磁気及び/又は電磁レンズを含む。
【0009】
ハイスループットウェハ直接描画機のようなそのようなシステムを使用するために、1つの半導体ウェハの上方に相当な数のカラムを、例えば100のオーダーのカラムを、配置することが必要になろう。しかしながら、この構成は、各カラムの半径方向の寸法をウェハ全体の幅のほんの何分の一かの直径に制限する;例えば典型的な300mm(12”(インチ))ウェハの場合、凡そ30mmの直径が使用され得る。他方、スリム径磁気レンズはコイル式磁気レンズによっては実現できない。なぜなら、カラム径の減少は、十分に強い磁界を生成するようコイル(複数)を駆動するために必要な大きな電流に基づく極めて大きなジュール熱発生に対応することになろうからである;しかしながら、従来のコイル式磁気レンズのために必要とされるであろう高精度センサ(複数)及び等方均一冷却装置を含む適切な温度制御システムための空間は不十分である。
【0010】
熱関連のかつ幾何学的(空間的)要求によってもたらされる上記の制限は厳しいが、本発明のあり得る形態のような、磁束を導き、従って磁界を生成するための透磁ヨークボディと一緒に、永久磁石に基づく磁気レンズを採用することによって克服可能ではある。しかしながら、そのような永久磁石は、製造及び組立の完了後は、あまり調整(チューニング)することができず、従って、磁気レンズにおけるそれらの使用は限定される。このことは、コイルを流れる電流を調節することによってその磁界が制御可能なコイル式磁気レンズに対する深刻な欠点を表す。とりわけ、製造及び組立に基づく目標とされた磁界(目標磁界)の精度に対する本来的な制限を考えると、磁石製造業者の正確性は、そのような磁石を含む磁気レンズの動作目的のために極めて重要である;現在の精度の制限(限界)は目標磁界に対し凡そ1%~5%のズレに相当する;磁界の強さは1Tのオーダーである。
【0011】
上記のズレは、製造の公差及び統計的不確実性に起因するが、これらは、大量生産について磁気レンズの合理的生産量を有する製造プロセスにとって事実上回避不能である。本発明は、上記レンズの初期設定及び/又は運転(動作)中に磁界の調整(チューニング)を許容する付加的コンポーネントを含むことによって、これらのズレを補償するための新たなアプローチを提供する。本発明は、磁気レンズにおける使用のための永久磁石の製造における(非現実的な)精度の負担(制約)を除去し、高精度システムのために使用可能な永久磁石材料の使用範囲を実質的に増大する。というのは、本出願人の発明は所望の公称(定格)磁界強度からの実際の永久磁石(磁界強度)のズレを補償することができ、及び、システムの幾何学的パラメータが依然として仕様の範囲内にある限り、より大きいズレさえも許容できるからである。
【0012】
インサイチュで(in-situ)、即ち当該装置の運転中に、永久磁石に基づく荷電粒子レンズの調整(チューニング)は、典型的には、それらを1つ以上の付加的電気レンズと組み合わせて使用すること;即ち、永久磁石に基づく磁気レンズと微調節のための静電要素の組み合わせのような、荷電粒子電磁レンズを形成することによって、行われる。US9,165,745は、微調節のためのコイル型磁気レンズと組み合わせた永久磁石型電磁レンズを記載している。これは、磁界を調整(チューニング)することは可能であるが、上記の発熱(加熱)及び幾何学(空間)の問題を少なくとも有する。更に、上記の従来技術の磁気レンズの磁界は荷電粒子レンズ自体の空間への制限(閉じ込め)が不十分であり、そのため、マルチカラムシステムにおいて多数のレンズが並置されている場合に深刻な交差効果(cross-effects)を引き起こす。
【0013】
上記の観点から、本発明の目的(ないし課題)は、永久磁石を含むが、レンズの光学的性質を高精度で調節可能な荷電粒子レンズを提供することである。同時に、このレンズ構成において使用可能な永久磁石の範囲を大きくすることが望まれる。更に、本発明のレンズは、スリム形状を有し、かつ、レンズ自体の直近(領域)内における磁界及び電界の制限(閉じ込め)を可能にし;かくして、クロストークが低減されたマルチカラム光学系を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の視点により、荷電粒子光学システムの荷電粒子ビームを修正する(modify)よう構成された荷電粒子レンズが提供される。前記荷電粒子レンズは基本的に縦軸に沿って延在しかつ荷電粒子ビームの通過を可能にする通路空間を備えており、前記荷電粒子レンズは磁気回路アセンブリを含み、前記磁気回路アセンブリは
・少なくとも1つの永久磁石、及び、
・ヨークボディ
を含み;
前記ヨークボディは少なくとも2つのヨーク要素から構成されており、前記少なくとも2つのヨーク要素のうち、第1ヨーク要素は前記通路空間を包囲するよう配置されるインナーヨークシェルを構成し、第2ヨーク要素は前記インナーヨークシェルを包囲するよう配置されるアウターヨークシェルを構成し、前記ヨーク要素は前記縦軸を囲む周に配置されかつ高透磁性材料を含み;
前記少なくとも1つの永久磁石は前記少なくとも2つのヨーク要素の間にかつ前記インナーヨークシェルを囲む周に配置されており、前記少なくとも1つの永久磁石はその2つの磁極が夫々のヨーク要素へと磁気的に配向される永久磁石材料を含み;
前記磁気回路アセンブリにおいて、前記少なくとも1つの永久磁石と前記ヨークボディは、前記少なくとも1つの永久磁石から生じる磁束密度を前記ヨークボディを通して導くよう構成され、異なるヨーク要素の夫々の(対応する)軸方向の面間に形成される少なくとも2つのギャップを介在して閉じた磁気回路を形成し、及び、前記ギャップ内に、内方に向かって前記通路空間内に到達する磁界を誘導し(生成し);
前記荷電粒子レンズは、前記インナーヨークシェルと前記アウターヨークシェルの間に配置されかつ調節可能な供給電流によって駆動されるよう構成された電磁的調節コイルを含むこと、前記電磁的調節コイルにおける電流は実質的に前記縦軸の周りの周方向に沿って流れること、前記電磁的調節コイルは、前記少なくとも2つのギャップの少なくとも1つにおいて磁束密度の変化を引き起こすように前記磁気回路の磁束を修正するよう構成されている。
本発明の第2の視点により、本発明の荷電粒子レンズと、前記縦軸に沿って前記通路空間に挿入されたスリーブインサート部材とを含む電磁レンズが提供される。
前記スリーブインサート部材は、その縦軸に沿って延在する、前記荷電粒子レンズの通路空間の半径より小さい半径のビーム通路を包囲し、
前記スリーブインサート部材は、少なくとも部分的に導電性部分を有する取付ボディと、少なくとも1つの導電性電極要素とを含み、
前記少なくとも1つの導電性電極要素は、前記ビーム通路の内部に静電界を生成するよう、前記取付ボディの導電性部分のポテンシャルに関し、電源を介して電気ポテンシャルが印加されるよう、構成されており、
前記電極要素は、1つ以上のギャップにおいて前記ビーム通路の内部の磁界と組み合わされた粒子光学レンズを形成するよう、構成されており、
前記荷電粒子光学レンズの焦点距離は、前記電極要素に印加される電気ポテンシャルを修正することによって調節可能である。
本発明の第3の視点により、本発明の荷電粒子レンズと本発明の電磁レンズの少なくとも1つを含む荷電粒子光学装置が提供される。
前記荷電粒子光学装置はその縦軸に沿ってレンズを通って伝搬する荷電粒子ビームに影響を及ぼすよう構成されており、前記レンズは前記荷電粒子光学装置の粒子光学システムの部分である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(形態1)上記本発明の第1の視点参照。
(形態2)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイルは、更に、2つ以上のセクタコイル要素を含むセクタ型電磁的調節コイル構造体を備えること、各セクタコイル要素は夫々の(内方又は外方における)半径方向を指向する(一般的ないし全体的な)巻回軸(general winding axis)を備えて構成され、前記セクタ型電磁的調節コイルのセクタコイル要素(複数)は前記縦軸の周りにおいて互いに対し周方向に角度がずらされて配置されていることが好ましい。
(形態3)形態2に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル及び前記セクタ型電磁的調節コイル構造体は、夫々、前記コイル及びコイル要素に夫々の電流を供給するために、前記荷電粒子レンズの外部に対する電気的インタフェイスを備えることが好ましい。
(形態4)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイルは、前記コイルに電流を供給するよう構成された、前記荷電粒子レンズの外部に対する電気的インタフェイスを備えることが好ましい。
(形態5)形態3に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電気的インタフェイスは、前記アウターヨークシェルに形成された貫通路(passageway)を含むことが好ましい。
(形態6)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル又は前記電磁的調節コイル及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方は、前記磁気回路の2つ以上の分岐路の間での磁束の再分布(ないし再分配:redistribution)を引き起こして、少なくとも2つのギャップにおいて磁束密度の変化を引き起こすよう構成されていることが好ましい。
(形態7)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル又は前記電磁的調節コイル及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方は、前記磁気回路の2つ以上の分岐路の1つに対し主として影響を及ぼす磁束の修正を引き起こして、対応するギャップにおける磁束密度の変化を引き起こすよう構成されていることが好ましい。
(形態8)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
2つのギャップにおける磁界を異なるように調節するよう構成された、前記磁気回路アセンブリの複数の異なる構成要素に関連付けられた複数の異なる部位に、2以上の電磁的調節コイルが配設されていることが好ましい。
(形態9)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記荷電粒子レンズは、前記ヨークボディの前記少なくとも2つのヨーク要素の間の定められた位置において、前記電磁的調節コイル又は前記ホルダ要素[正しくは電磁的調節コイル]及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方を保持するよう構成されたホルダ要素を更に含むことが好ましい。
(形態10)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記第2ヨーク要素は、他の全てのヨーク要素を含む前記磁気回路アセンブリの他の構成要素を包囲する、前記荷電粒子レンズのハウジングボディを構成することが好ましい。
(形態11)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記少なくとも1つの永久磁石は、実質的に半径方向に(放射状に)配向された磁化を有することが好ましい。
(形態12)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記少なくとも1つの永久磁石は、
・その縦軸に沿って積み重ねられた2つ以上の層に応じてセグメント化された、及び/又は、
・その縦軸の周りに配置された2つ以上のセクタへと分割された、
少なくとも2つの副要素から構成されていることが好ましい。
(形態13)形態12に記載の荷電粒子レンズにおいて、
少なくとも1つの温度制御装置が複数の副要素の夫々2つの間に配設されていることが好ましい。
(形態14)形態1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記荷電粒子レンズは、前記縦軸に沿って全体的に回転対称的な形状を有すること、
前記磁気回路アセンブリの複数の構成要素、即ち、
・前記少なくとも1つの永久磁石、及び、
・前記ヨークボディ、並びに
・前記電磁的調節コイル
は、前記縦軸と同心に(コアキシャルに)配置されており、かつ、中空シリンダ又は中空多角柱形状に相当する基本形状を有することが好ましい。
(形態15)上記本発明の第2の視点参照。
(形態16)形態15に記載の電磁レンズにおいて、
前記スリーブインサート部材の縦軸は前記荷電粒子レンズの縦軸と重なり(一致し)、前記インナーヨークシェルは前記縦軸に沿って延在しかつ前記スリーブインサート部材を周方向に包囲し、前記磁気回路の少なくとも2つのギャップは前記インナーヨークシェルのいずれかの軸方向端部に位置付けられており、各ギャップは、(半径方向)内方に向かって前記通路空間ないしビーム通路内に到達する定められた磁界を生成し、前記静電界は前記磁界と少なくとも部分的に重なるよう構成された前記スリーブインサート部材の複数の電極要素の少なくとも1つによって生成されることが好ましい。
(形態17)形態15に記載の電磁レンズにおいて、
複数の電極要素の少なくとも1つは、前記縦軸の周りに周方向に沿って一様に(均一に)配置された複数の副電極を含む静電マルチポール電極を含み、前記マルチポール電極は各電極に個別にポテンシャルを提供するマルチチャンネル電源ユニットに接続可能であることが好ましい。
(形態18)形態15に記載の電磁レンズにおいて、
前記電極要素は、前記縦軸を中心とする定められた半径を有する制限開口を形成するビームアパーチャ要素を含み、
前記制限開口は、前記縦軸に沿って伝搬する荷電粒子ビームの横幅を制限するよう構成されており、
前記ビームアパーチャ要素は、当該ビームアパーチャ要素において吸収された荷電粒子ビームの量を測定するよう構成された電流測定装置に接続されていることが好ましい。
(形態19)上記本発明の第3の視点参照。
(形態20)形態19に記載の荷電粒子光学装置において、
前記荷電粒子光学装置は、複数の粒子光学カラムを含むマルチカラムシステムとして構成されていること、
各カラムは、各自の粒子ビームを使用するよう構成されており、かつ、荷電粒子レンズ又は電磁レンズの夫々の構成を含む各自の粒子光学システムを含むことが好ましい。
【0016】
上記の目的は、荷電粒子光学装置の荷電粒子ビームを修正する(modify)(例えば成形、合焦/脱焦又はその他の操作をする)よう構成されたレンズによって達成される。該レンズは、基本的に(primarily)縦軸に沿って延在しかつ当該荷電粒子ビームの通過を可能にする通路空間(ビーム通路とも称される)を備え、更に、該レンズは、少なくとも1つの永久磁石と、高透磁率の少なくとも2つの構成要素からなるヨークボディとを含む磁気回路アセンブリを含み、更に、ヨークボディ(内)に配置された電磁的調節コイルを含む。
【0017】
ヨークボディは、通路空間を包囲するよう配置されるインナーヨークシェルを構成することが可能な第1ヨーク要素と、インナーヨークシェルを包囲するよう配置されるアウターヨークシェルを構成することが可能な第2ヨーク要素とを含み(ここで用語「インナー」及び「アウター」はレンズアセンブリの内部において中心軸に対するそれらの相対的位置に関する);これらのヨーク要素は縦軸を囲む周に配置されかつ強磁性体ないし強磁性材料のような高透磁性材料から好適に作られる。
【0018】
少なくとも1つの永久磁石は、少なくとも2つのヨーク要素の間に、即ちインナーヨークシェルの周りかつアウターヨークシェルの内部に、配置されており、及び、その2つの磁極が夫々のヨーク要素へと磁気的に主として(mainly)配向される永久磁石材料を含む。
【0019】
永久磁石とヨークボディは、ビーム通路に開口し複数の異なるヨーク要素の対応する(夫々の)面(複数)間に形成される(例えば、各軸方向端部に、アウターヨークシェルの夫々対応する面へ向かうインナーヨークシェルの面(複数)間に配置される)少なくとも2つのギャップを介在して閉じた磁気回路を形成する;従って、磁気回路は、永久磁石によって生成される磁束をヨークボディを通して導き、ギャップ(複数)に、ビーム通路内にも到達する磁界を誘導する(生成する)。縦軸に沿ってビーム通路内を伝搬する荷電粒子ビームのための磁気レンズを形成するために使用されるのは、ギャップからのこの磁界である。当該磁気レンズの生成により、典型的には、目標値の前後1%~5%の範囲内の磁界の精度を達成することができる。
【0020】
好ましくはインナーヨークシェルとアウターヨークシェルの間に配置される電磁的調節コイルは、調節可能な供給電流によって駆動されるよう構成されている;電磁的調節コイルのこの電流は実質的に縦軸の周りの周方向に沿って流れ、電磁的調節コイルは、それを通って通過する粒子ビームに作用するビーム通路内に磁気レンズを形成するために使用される、複数のギャップの少なくとも1つの磁束密度に変化を引き起こすように、磁気回路内の磁束を修正するよう構成されている。従って、本発明は、より良好な正確性(精度)での粒子レンズの特性(性質)の改善された制御を可能にする。そのようなレンズの正確性(精度)は、上述したギャップ(複数)における磁界の変調(調節)のために、磁界の所望の値に対し0.1%~0.5%の(又は一層より良好な)範囲内又は一層より小さい値が可能であり、従って、そのような調節コイルを備えない同じ磁気レンズの性能と比べて、凡そ一桁より大きな効率で生成される、即ち、例えば焦点距離のような設計された光学特性により近い、磁気レンズが得られる。本発明は、実際の状況に依存して、動作中に磁気回路の特性(性質)を制御すること、例えば変調(modulating:調節)又は安定化することも可能にする。
【0021】
本発明の基礎をなす技術的解決策において、ヨーク要素(複数)と少なくとも1つの永久磁石は、一緒に(協働して)、2つのギャップを有する閉じた磁気回路を形成するが、任意的に、ビーム通路の隣に配置される3つ以上のギャップも形成する;というのは、これらのギャップは、磁気レンズとして動作する、ビーム通路内に到達する定められた磁束密度従って磁界を誘導する(生成する)ために役立つ(機能を有する)からである。本発明の電磁的調節コイルは、公称値からの磁界のズレの補償のためにも使用され得る。本発明の一電磁的調節コイルは、磁束に対し適切な方法で影響を及ぼすために適切な部位に位置付けられる。磁気回路アセンブリの非対称性(複数)の導入及び/又は調整(チューニング)のためにも使用され得る。結果として、本発明は、所望の公称値からの強度及び更には部分的に方向におけるズレを減少し又は更には除去し、以って、初期設計に応じたその特定の特性(性質)を達成することを可能にするが、そうでなければ、それらは永久磁石の製造プロセス及びその内在的許容差に適合しないことがあり得るものである。
【0022】
本発明は、本発明の電磁的調節コイルを用いて磁束を調節することによって、荷電粒子レンズへ組み入れ可能な、現在製造されている永久磁石の使用を可能にする。そのため、ギャップの部位においてレンズ作用(効果)を規定する磁界は微調整されることができる。従って、本発明は、永久磁石の材料及び構成要素の製造における限られた(不十分な)精度を考慮する(に対処する)ことを可能にし、その影響の限定(抑制)に顕著に役立つ。更に、本発明は漂遊磁界の低減を実現する。
【0023】
更に、本発明の範囲内において、適切であれば組み合わせ可能な、以下に示す複数の任意の発展形態が想定される。
【0024】
本発明の有利な一発展形態では、2つ以上のセクタコイル要素を含むセクタ型(sectorial)電磁的調節コイル構造体を備えることができ、各セクタコイル要素は夫々の半径方向(の内方又は外方)を指向する(一般的ないし全体的な)巻回軸(general winding axis)を備えて構成される。セクタ型調節コイルのセクタコイル(複数)は、縦軸の周りにおいて互いに対し周方向に角度がずらされて配置されることが好ましく、少なくとも部分的に磁気マルチポールのように動作するよう構成されることが好ましい。
【0025】
更に、電磁的調節コイルは、更には任意的にセクタ型調節コイル構造体は、磁気回路の2つ以上の分岐路の間での磁束の再分布(ないし再分配:redistribution)を引き起こして、少なくとも2つのギャップにおいて磁束密度の変化を引き起こすよう、適切に構成され得る。これは、例えば2つのレンズの焦点距離の差を減少又は増大するために、有利である。これと組み合わせて、又は代替的に、電磁的調節コイルは、更には任意的にセクタ型調節コイル構造体は、磁気回路の2つ以上の分岐路の1つに対し主として影響を及ぼす磁束の修正を引き起こして、対応するギャップにおける磁束密度の変化を引き起こすよう、適切に構成され得る。これによって、単レンズ(複数)(single lenses)は、光学システムの要求に対し高精度で微調整されることができる。
【0026】
更に、2つ以上の電磁的調節コイルを設け、これらが、更に、2つのギャップにおける磁界を異なるように調節するよう構成された磁気回路アセンブリの異なる構成要素(複数)に関連付けられた異なる部位(複数)に配置されることはしばしば有利である。この場合及び以下において、電磁的調節コイルは、夫々の実施形態において適切であると認められるようなセクタ型調節コイル構造体を含むか、又は当該構造体として構成されることも可能である。
【0027】
更に、一方のヨーク要素は磁気回路の他の部分、とりわけ他方のヨーク要素(複数)、更には(1つ以上の)永久磁石及び(1つ以上の)電磁的調節コイル、を包囲するレンズのハウジングボディを構成することができる。一般的に、磁気回路の幾つかの部分はレンズのハウジングを構成するために使用可能であり、少なくとも1つの永久磁石及び/又は少なくとも1つの電磁的調節コイル、これらは全てインナーヨークシェルの周りに配置される、及び/又は全てのヨーク要素は、レンズのハウジングボディの部分でもあり得る。レンズ設計は、好ましくは、縦軸に関し全体的に回転対称的な形状を有することができ、磁気回路アセンブリの構成要素(複数)、即ちとりわけ(1つ以上の)永久磁石、ヨークボディ、及び電磁的調節コイルは、縦軸と同心に(coaxial)に配置され、好ましくは、中空シリンダ又は中空多角柱形状に対応する基本形状を有する。
【0028】
(1つ以上の)電磁的調節コイルをその/それらの夫々定められた位置において保持するために、適切なホルダをヨークボディの内部に設けることができる。とりわけ、磁気回路アセンブリの夫々の構成要素に対する相対的な影響を精細に定めるよう構成され得る、(1つ以上の)電磁的調節コイルをヨークボディの少なくとも2つの要素の間の夫々定められた位置において維持するよう構成されたホルダ要素を設けることができる。
【0029】
有利には、本発明の(1つ以上の)電磁的調節コイルは、(1つ以上の)コイルに電流を供給するよう構成された、荷電粒子レンズの外部に対する電気的インタフェイスを備えることができ、電気的インタフェイスはアウターヨークシェルに形成された適切な孔のような貫通路(passageway)を含むことが好ましい。
【0030】
更に、磁気回路又は磁気回路アセンブリの異なる構成要素(複数)に関連付けられた異なる部位(複数)に配置される2つ以上の電磁的調節コイルをもうけることができる。これは単レンズ(複数)(single lenses)を別々にかつ正確に微調整するために使用可能である。
【0031】
更に、永久磁石(複数)及び/又は(1つ以上の)電磁的調節コイル及び/又はそれらの(1つ以上の)構成要素は複合的(composite)であり得る、例えば、縦軸の周りに配置された1つ以上のセクタから構成され及び/又は縦軸に沿って積み重ねられる2つ以上の層へとセグメント化されることができる。これらの副要素(セクタ(複数)、セグメント(複数)及び/又は層(複数))は、磁束減少の局所的勾配を形成するために、異なる磁気的性質(透磁率、幾何学的寸法等)を有する変化する(様々な)材料から作製されることも可能である。従って、本発明の一調節コイルは、好ましくはリング形状要素のセクタ(複数)として形成される、2つ以上の副要素を含むことができる。これは、磁気レンズが縦軸の周りにおいてアジマス(方位角)的に異なって変化する磁束密度従ってアジマス的に変化する磁界を有することを可能にするために、アジマス磁気勾配を形成するよう構成されることができる。複合的コイル要素は少なくとも部分的に磁気マルチポールのように動作することができる。これらの副要素は、更に、例えばアウターヨークシェルに形成された貫通孔を介して、夫々の電流を供給するよう構成された、荷電粒子レンズの外部に対する個別の電気的インタフェイスを備えることが可能である。
【0032】
多くの典型的な形態では、(1つ以上の)永久磁石は実質的に半径方向に(放射状に)配向された磁化を有することができる。ここで「実質的に半径方向(放射状)に(substantially radially)」という表現は、永久磁石又は電磁的要素を通ってヨーク要素(複数)へと至る磁束が一般的半径方向(generally radial direction:半径方向の内向き又は外向き)に沿って流れる(相対的に内側のヨーク要素から相対的に外側のヨーク要素へ又はその逆向きに流れる)ように、配向が「動作上半径方向(operationally radial)」である場合を含むために使用されている(即ち、「実質的に」及び「動作上」とは、例えば
図8(A)、(B)及び(D)に示されているような文字通りの「半径方向」だけでなく、例えば
図8(C)に示されている円環(円弧)の中心角の二等分線に平行な方向のような文字通りの半径方向から多少ずれた方向も含むことを意味する)。
【0033】
有利な一発展形態では、(1つ以上の)永久磁石は縦軸に沿って積み重ねられる2つ以上の層から構成されることも可能である;更に、縦軸の周りに周方向に沿って配置される3つ以上のセクタから組立てられる(1つ以上の)永久磁石を構成することも適切であり得、この場合、磁石セクタ(複数)は、縦軸に関するセクタ(複数)を形成する実質的に楔形状の要素であることが好ましい。
【0034】
上記の目的は、本発明に応じた荷電粒子レンズと、縦軸に沿ってビーム通路(通路空間)に挿入されたスリーブインサート部材とを含む電磁レンズによっても達成される。このスリーブインサート部材はビーム通路孔のより小さい部分を包囲するが、その両端の間において縦軸に沿って延在し;好ましくは、ヨーク要素(複数)のギャップ(複数)と少なくとも重なり合う。このスリーブインサート部材は、そのビーム通路内に電界を生成するように夫々の電気ポテンシャルが電源を用いて印加可能な1つ以上の導電性電極要素を含む。有利には、電極要素(複数)は、(1つ以上の)ギャップにおいて通路孔の内部の磁界と組み合わされた粒子光学レンズを形成するよう構成されることができ、この場合、この粒子光学レンズの光学的パラメータ、例えば焦点距離は、電極要素(複数)に印加される電気ポテンシャルを修正することによって更に一層調節可能である。
【0035】
1つの適切な幾何学的レイアウトによれば、ヨークボディはビーム通路の2つの軸方向端部の間に延在し、従ってそれらを形成することができる;とりわけ、第1要素、例えばインナーヨークシェルは(ビーム)通路の中央部分の始端から終端まで延在することができるが、第2要素、例えばインナーヨークシェルを半径方向及び軸方向において包囲し、好ましくはその夫々の側部にまで及ぶアウターヨークシェルへ向かう夫々の端部においてギャップを開放状態に維持する。ヨーク要素(複数)は、従って、同心的に入れ子状に形成された、2つの中空シリンダの幾何学的構造(配置)を形成することができる。従って、インナーヨークシェルは少なくともスリーブインサート部材の部分(複数)を包囲する;磁気回路のギャップ(複数)は、夫々、内方に向かって通路孔内に到達し、スリーブインサート部材の電極要素(複数)によって生成される電界(複数)と重なり合うことになる磁界を誘導(生成)し、これによって、電磁レンズを確立(形成)することができる。そのような電磁的超微調整レンズ(複数)は精度を大きくして、設計された特性(性質)に関する精度範囲を1ppm~5ppmの小さい値にすることができる。例えば、そのような(1つ以上の)電磁レンズの焦点距離は、電極要素(複数)に印加される電気ポテンシャルを修正することによって、動作(運転)中に即ち荷電粒子ビームが通過している時間中に調節可能である。
【0036】
多くの形態では、スリーブインサート部材は、電極要素(複数)が夫々限定された形状及び範囲(面積)を有する導電性コーティングとして構成されて配されるセラミック(製)ボディを含むことも可能である。
【0037】
電極要素(複数)は、少なくとも1つの単レンズ(Einzel lens)を形成するよう(機械的及び電気的に)構成されることがしばしば可能である;更に、本発明の多くの形態では、電極要素(複数)の少なくとも1つは、レンズが当該電極要素を縦断する荷電粒子ビームを偏向又は成形することを可能にする、縦軸の周りに周方向に沿って一様に(均一に)配置される複数の副電極を含む静電マルチポール電極を含むことができ、この場合、この要素の副電極に印加される電気ポテンシャルはマルチポール電界を形成するよう、規定されることができる。
【0038】
本発明のレンズの多くの形態では、とりわけレンズがパターン規定(画定)システム(PD:pattern definition system)と関連付けられて使用されることが意図される場合には、電極要素(複数)の間には、縦軸を中心とする定められた半径を有する制限開口を形成するビームアパーチャ要素を備えることができ、該制限開口は通路を通って伝搬する荷電粒子ビームの横幅を制限する。この制限開口は、パターン規定システムにおいて意図的に偏向された粒子を含む粒子を収集する機能を有する較正アパーチャとして使用されることができる;粒子が荷電粒子ビームのターゲットに到達することを阻止することが意図されている。更に、例えば、ビームアパーチャ要素は、当該ビームアパーチャ要素において吸収された荷電粒子(ビーム)の量を測定するために使用可能な電流測定装置に接続されることができる。そのようなビームアパーチャ要素の前方即ちその上流側においては、異なる適切な静電ポテンシャルを副電極(複数)に印加する従ってビームでアパーチャをスキャンすることによって、縦軸に対するビームの横方向位置を決定するよう構成された静電マルチポール電極を有すると有利である。
【0039】
好ましくは、荷電粒子レンズは縦軸に沿って全体的に回転対称的な形状を有することができ、この場合、磁気回路アセンブリの構成要素(複数)は当該縦軸に関し同心に(coaxial)に配置され、好ましくは、中空シリンダ又は中空多角柱形状に対応する基本形状を有する。
【0040】
US9,165,745に示されているもののような既知の磁気レンズと異なり、本発明の電磁レンズは、光軸の所望の領域に磁界を形成すること、従って、荷電粒子マルチビームナノパターン形成装置に採用されるような電磁レンズの性能に不利に作用する(アンペアの回路法則に従うシングルギャップシステム(系)に存在する)漂遊磁界に起因する影響を小さくすることを可能にする、ハウジングボディにおける複数の「エアギャップ」のみを除いて完全に閉じた磁気ループを有する。従って、上記の公知技術のシステム(系)に存在する漂遊磁界を最小化するために、(少なくとも)2つのギャップを設けることは極めて有利である。尤も、ギャップの個数は、レンズの個別の適用に依存して、3つ又は4つ又は5つ以上のような、より大きい個数であってもよいことは明らかであろう。
【0041】
少なくとも上記の理由から、本発明及び(例えば基板の直接描画のための)マルチカラムマルチビーム荷電粒子ナノパターン形成システムのような描画機ツールにおけるその適用は、集積回路のための高スループットの工業プロセスの発展に顕著なインパクトを与えることが期待される磁気的要素、電気的要素及び較正要素の独特の組み合わせを提供する。本発明は、描画機ツールの、とりわけマルチカラムマルチビームマスク式描画機の、制御のためのレイアウト、構築、微調節、更には超微調節を極めて容易にする。
【0042】
上記の目的は、(本発明に応じた電磁レンズを含む)本発明に応じた荷電粒子レンズを含み、その光軸に沿ってレンズを通って伝搬する当該装置の荷電粒子ビームに影響を及ぼすよう構成された荷電粒子光学装置であって、該レンズが磁気レンズのために好適な当該装置の粒子光学システムの部分である、荷電粒子光学装置によっても達成される。とりわけ、該装置は、好ましくは、複数の荷電粒子光学カラムを含むマルチカラムシステムとして構成されることができ、各カラムは夫々の粒子ビームを用いかつ本発明の夫々のレンズを有する夫々の光学システムを含む。
【0043】
以下に、本発明を更に説明するために、図面に模式的に示されている、例示的かつ非限定的な実施形態(ないし実施例)について論じる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】本発明の第1実施形態に応じた荷電粒子レンズの一例。(紙面左側の)
図1(A)は、磁気回路内の「赤道」位置に配置された、本発明に応じた電磁的調節コイルの一例を含む荷電粒子レンズの縦断面図。
図1(B)は、
図1(A)の縦座標の関数として中心軸の位置において測定された、電磁的調節コイルを有する(点線)及び電磁的調節コイルを有しない(実線)場合における、磁界の軸方向成分の強度(大きさ)をプロットしたもの。
【
図2】
図1(A)の磁気レンズを制御するよう構成された対称的なリング形状の電磁的調節コイルの一実施形態。
図2(A)は構成要素の部分的切開図を示し、
図2(B)は(縦)断面を示す。
【
図3】セクタ型電磁的調節コイルの一実施形態の平面図。
【
図4】セクタ型コイル構造体の一例の4セクタ構造の構成要素としての2つのコイルの斜視図。
【
図5】セクタ型コイル構造体の一例の4セクタ構造の平面図。
【
図6】レンズの縦座標に関し非対称的に配置された調節コイルの一例を有する、本発明の他の一実施形態に応じた荷電粒子レンズの一例。(紙面左側の)
図6(A)は荷電粒子レンズの縦断面図。
図6(B)は、
図6(A)の縦座標の関数として中心軸の位置において測定された、非対称的調節コイルを有する(破線)及び非対称的調節コイルを有しない(点線)場合における、磁界の軸方向成分の強度(大きさ)をプロットしたもの。
【
図7】ラジアル磁化を有する複数のリング要素から構成された永久磁石の一実施形態。
図7(A)は永久磁石の斜視図、
図7(B)はその縦断面図。
【
図8】永久磁石の幾つかの実施形態の夫々の横断面図(
図8(A)~
図8(D))。これらのうち幾つかはセクタ化されており(
図8(B)~
図8(D))、好ましい磁化のバリエーション(複数)である。
【
図9】本発明の電磁的調節コイルの複数の具現化物も含む、スリーブインサート部材を備える本発明の更なる一実施形態に応じた荷電粒子レンズの一例。(紙面左側の)
図9(A)は、荷電粒子レンズと、静電レンズシステムの一例を形成する内部の電気的スリーブインサート部材の縦断面図。
図9(B)は、
図9(A)の縦座標の関数として中心軸の位置において測定された、当該磁気レンズの磁界(実線)及び電界(破線)の軸方向成分の強度(大きさ)をプロットしたもの。
【
図10】
図9(A)のレンズの一実施形態におけるスリーブインサート部材及びその構成要素に接続された電圧供給装置の例の模式的外観。
【
図11】8個の副電極を有するマルチポール電極の一例の横断面図。
【
図12】本発明の一実施形態の電磁レンズの一例のスリーブインサート部材の構成要素(複数)としての較正アパーチャ及び前置のマルチポールの拡大詳細図。
【
図13】本発明の荷電粒子レンズの一例が組み込まれたスリムカラム描画機ツールの一例の縦断面図。
【
図14】本発明のレンズの複数の具現化物が組み込まれたマルチカラム描画機ツールの一例。
図14(A)はマルチカラム描画機ツールの縦断面図。
図14(B)は、該レンズ(複数)を含みかつマルチレンズホルダ装置の一実施形態を含む部分の詳細図。
【実施例0045】
以下に与えられる本発明の実施例(複数)ないし例示的実施形態(複数)の詳細な議論は本発明の基本的思想、具現化及び更なる有利な展開を開示する。本発明の特定の適用に好適であると認められるようなここで議論される実施形態(複数)の幾つか又は全てを任意に組み合わせることは当業者には明らかなはずである。この開示全体において、「有利な」、「例示的な」、「典型的な」、「好ましくは」又は「好ましい」のような用語は、本発明又はその一実施形態に特に好適である―但し不可欠ではない―要素又は寸法を表し、当業者によって好適であると認められる場合であれば、明示的に必須とされない限り、修正可能である。本発明は、本発明の説明の目的のために与えられかつ単に本発明の好適な具体化例(複数)を提示するに過ぎない以下において議論される例示的実施形態(複数)に限定されるものではないことは当然である。この開示の範囲内において、「上」又は「下」のような垂直方向に関する用語は、中心軸(ないし縦軸)に沿って下方に(「垂直に」)進行すると考えられる、電磁レンズを縦断する粒子ビームの方向に関して理解されるべきものである。この縦軸は、一般的には、X方向及びY方向と交差するZ方向によって特定される(同視される)。
【0046】
荷電粒子レンズ
【0047】
図1(A)は本発明の第1形態に応じた荷電粒子レンズ10の一例を縦断面図で即ちその中心軸cxを通る断面に沿って示す。より良好な明確性のために、構成要素は寸法どおりには示されていない。本レンズは、
図13の描画機ツール1又は
図14のマルチカラム描画機ツール40のレンズ10を具現化するために使用され得るものであり(下記参照)、この場合、対物レンズとして使用されるが、例えば本出願人のUS9,443,699及びUS9,495,499に開示されているような、シングルカラム又はマルチカラムアーキテクチャを具現化し得る他の多くの粒子光学装置における使用に好適であることは明らかであろう。なお、これらの文献の開示は引用を以って本開示に組み込まれているものとする。
【0048】
荷電粒子レンズ10は、アセンブリを縦断する荷電粒子ビーム100のためのビーム通路11と、磁気回路アセンブリ20とを含み、磁気回路アセンブリ20は、少なくとも1つの永久磁石210、211、少なくとも2つのギャップ290、291を有するヨークボディ25、及び本発明に応じた電磁的調節アセンブリ30を含む。上記の磁石は、典型的には凡そ1Tの残留磁化と、
として記号で表される磁束とを有する、永久磁石材料から作製される;ヨークボディ25は2つのヨーク要素250、251を含み、これらのうち、アウターヨークシェル251はレンズのためのハウジングボディ12としても役立ち(機能し)、(両者は)高透磁性材料で作られる;ヨーク要素(複数)は2つの異なる軸方向位置に少なくとも2つのギャップ290、291を形成し、該ギャップにおいて、磁気回路アセンブリを通って流れる磁束はビーム通路11内に到達する磁界を誘導(誘起)することになる。更に、電磁的調節アセンブリ30は、2つのヨーク要素250、251の間の適切な位置に配置され、かつ、磁気回路アセンブリへ与えられる付加的な磁気的寄与を生成する、磁界を生成するために電流源34によって電力を供給される少なくとも1つの電磁的調整コイル31を含む。この磁界によって、電磁的調節アセンブリ30は、2つのギャップ290、291の少なくとも1つにおいて磁界を調節することができる。
【0049】
磁気レンズ効果の強さに依存して、荷電粒子ビーム100は上記ビーム通路11内にクロスオーバーxrも形成し得る、即ち、ビームは中心軸cxと交差しつつ最小横幅を達成する;点線(破線)は、(
図13の描画機ツール1又は
図14のマルチカラム描画機ツール40のような)例示的粒子ビーム露光システムに配された場合にレンズを通って伝搬する際の荷電粒子ビームの包絡線を象徴的に示す。
【0050】
典型的形態(複数)では、荷電粒子レンズ10は、以下のような例示的寸法を取り得る:即ち、凡そ50mm~100mmの全高h1及び、典型的には全高h1より小さい、凡そ10mm~100mmの内部高h2を有し得る;これにより、アウターヨークシェルとも称される最外ヨーク要素251がレンズアセンブリのためのハウジング及びシールドボディとして役立つ(機能する)構成が可能になる;凡そ10mm~20mmの外半径r1を有し得る、これにより、
図14のマルチカラム描画機ツール40における配設が可能になる;及び、凡そ0.1mm~5mmの即ち荷電粒子ビーム通路を可能にするために十分広いアパーチャ半径r2を有し得る;更に、更なるインサート部材をも許容し得る(以下の
図10参照)。これらの磁石、ギャップ及び電磁的調節アセンブリは、典型的には、凡そ1mm~5mmの厚みを有し、ヨーク要素(複数)はほぼ同じ寸法の半径方向厚みを有し得る。該要素(複数)のサイズは夫々の適用及び荷電粒子装置にとって適切であるように選択されるが、図示の例では、幾何学的寸法は典型的には数(several)ミリメートルのオーダーである。
【0051】
荷電粒子レンズ10は、通常、その中心軸cxが露光システムの光軸c5と一致するように(
図13参照)、粒子ビーム露光システムに配置される;尤も、本発明に応じた荷電粒子レンズの適用に依存して他の相対的配置も選択可能であることは、当業者であれば分かるはずである。
【0052】
磁気回路及び電磁的調節アセンブリ
【0053】
本発明に応じ、磁気回路アセンブリ20及び対応する磁気レンズは、少なくとも1つの電磁的調節コイル31と給電及びその制御のための構成要素(複数)を含む電磁的調節アセンブリ30を含む。既述のように、電磁的調節コイルは、ヨーク(複数)及びヨークギャップ290、291における磁束密度を調節するために役立つ(調節する機能を有する)。調節コイル31は、給電によって供給される電流I0によって駆動される;この電流I0の値は、例えば、磁気レンズの作用(効果)を、例えばターゲットの部位における結像特性(複数)を測定することによって、モニタし、所望の(「最適な」)結像作用(効果)が得られるまで電流の値を修正することによって調節される。
【0054】
本発明に応じて電磁的調節コイルを提供することの顕著な利点は、磁気回路において磁束をインサイチュ(現場で:in-situ)調節する能力(機能)である。そのため、(磁石エージング(magnet aging)のような)磁気レンズアセンブリの磁気的性質に変化があるときはいつでも、本発明は、少なくとも1つの電磁的調節コイルを用いたそのような変化の補償を提供する。
【0055】
図2(A)及び
図2(B)に示されているように、電磁的調節コイル31はアセンブリ内において1つ以上の専用ホルダ装置(ないしホルダ要素)(複数)32によって支持される。電磁的調節コイル31及び(ホルダ装置のような)その関連構成要素は、好ましくはレンズアセンブリの中心軸cxと一致する共通の中心軸c2を有する基本的に対称的なリング形状を有することが好ましい。ホルダ装置(複数)32は、ヨーク要素(複数)間の空間において構成要素を位置決めするよう構成されている。電磁的調節コイルの視認性をより良好にするために、
図2(A)には1つのホルダ装置32のみが図示されている。
【0056】
磁束の生成を可能にするために、電磁的調節コイル31は、導電性材料の複数の巻線を含む電気回路を含む。この電気回路は、電磁的調節アセンブリ30の電源34へ接続するために、磁気レンズアセンブリの外部への電気的絶縁性インタフェイス33の内部の電気ラインを通る電流によって給電される(
図1)。
【0057】
インタフェイス33は、外側ハウジング即ちアウターヨークシェル251を横断する。これを達成するために、異なる角度位置(複数)において半径方向内方へ幾つかの孔が穿孔され得る。ヨークの磁気的挙動に対するこれらの孔の作用(効果)を考慮することが重要である。なぜなら、孔(複数)の著しく非対称的な群は生成される磁界に非対称的作用(効果)を誘導し得るからであり、このことは通常は望ましいものではない。例えば、この問題を取り扱うための適切な構成は、その周囲に均一に(一定間隔で)分散配置される1セットの孔、例えば16の孔を設けると共に、これらの孔のサイズをインタフェイス33の内部の電気ライン(複数)のために必要な横断面を実現しつつ可及的に小さくすることであり得る。
【0058】
従来の永久磁石レンズは、そのようなシステムに配設される永久磁石の製造範囲(条件)のために、目標磁界強度の1%~5%の範囲内の精度を達成することができる。本発明に応じた電磁的調節アセンブリを使用することによって、この範囲を、目標効果の0.1%~0.5%の範囲内の或いは一層より小さい値の精度へと小さくすることができ、これにより、一桁だけより小さい所望(目標)磁界からのずれ、従って、顕著により良好なパフォーマンス(性能)が提供される。
【0059】
電磁的調節コイルは、典型的には、2つ以上の永久磁石210、211の直ぐ近くかつヨーク要素250、251の間に配設される(
図2(B)参照);この場合、レンズの組立中に配設される必要があり得る、というのはその位置がかなりカプセル化されるからである;それにも拘らず、電磁的調節コイルは、適切な技術的方策、例えば部分的分解、が使用されるか又は構成要素がレンズ内の交換可能モジュール(複数)から構成されている場合、最初の組立後に付加されることも可能であろう。
【0060】
図3~
図5を参照すると、本発明の幾つかの形態では、好ましくはレンズアセンブリの中心軸cxと一致し得る共通の軸c2の周りに配置される複数の副要素340から構成されるセクタ型(sectorial)電磁的調節コイル構造体が提供され得る。
図3は、8個のセクタ(扇形ないし部分円環:sector)形状の副要素340を有するセクタ型コイル構造体348の一例の1つのセット(met)の模式的平面図を示す。副要素は、好ましくは、夫々半径方向外方又は内方を指向する巻回軸を有する閉ループを形成する副要素巻線を夫々有するセクタ340として具現化される。隣り合う副要素巻線に互いに対し反対方向の電流を流すことにより、生成される磁界(B-field)は正の半径方向と負の半径方向の間で交互に変化する。
図4及び
図5には、4セクタ構造体を含むセクタ型コイル構造体344の他の一形態が示されている。これらの図から分かるように、セクタ形状の副要素(複数)は、好ましくは、磁界の異なる配向(複数)、例えば夫々Br及び-Brで示されている交互に逆向きの半径方向を有するよう、作動される。
図4は4セクタ構造体の2つの副要素341の斜視図であり、電流Iは、巻線経路に沿った矢印(複数)で示されているような(互いに)反対の電流方向で流れ、その結果として生じる磁束ベクトル(複数)は、夫々Br及び-Brで示されているが、交互の(互い違いの)配列で半径方向内方及び外方を指向する;
図5は構造体344の4つの副要素341を平面図に示す。この4セクタ構造体は磁気四極構造の具現化のために使用可能である。異なる方向の磁束を有するセクタ要素(複数)を含むそのような構造体は、アジマス(方向における)変化を意図的に生成及び/又は補償するために使用可能な磁気多極(マルチポール)構造体を具現化する;これは、例えば、マルチポールのような特徴(features)を与える(適用する)ことにより永久磁石に対抗する(反対に作用する)ために使用され得る。他方、選択された領域(複数)は意図的に空隙のままに維持されてもよい。複数のセクタを伴うそのような構造体の配設は、円形(ないし環状)の電磁的調節コイルと同じルール(原理)の下にあり、以下の項において論じられる。セクタ型コイル(複数)を駆動する電流Iの値は、例えば、上述した電流I
0と実質的に同じ方法で、即ち、磁気レンズの作用(効果)を、例えばターゲットの部位における結像特性(複数)を測定することによって、モニタし、所望の(「最適な」)結像作用(効果)が得られるまで電流の値を修正することによって調節されることができる。勿論、より複雑(精巧)な形態(複数)では、1つ以上の磁気センサが磁気回路の適切な部位に設けられてもよく、これは制御ループを構成し、電流I
0、Iの適切な調節によって磁束の制御及びその修正を可能にするために使用され得る。
【0061】
多くの形態では、対称的なレンズアセンブリは特に有利である。放射対称的な磁気レンズ構成(体)の各磁界は軸方向(axial)成分と半径方向(radial)成分を含む、即ち
である;半径方向成分
の重要性は小さく、その結果、磁界の軸方向成分
がレンズ効果のために利用される。縦座標(longitudinal coordinate)の関数としての中心軸cxの位置における磁界の軸方向成分の強度(大きさ)は
図1(B)に示されている(実線61は「オリジナル」磁界を示し、点線62は本発明に応じた調節コイルにより修正/補正された磁界を示す);軸方向磁界
のピーク値の典型的な値は、荷電粒子が電子である適用例では、0.1Tのオーダーである。上述したように、磁気回路は、ビーム通路11において明確に定められた焦点距離(複数)及び光学収差(複数)を有する順次的に配置された2つの磁気レンズとして機能する、(比較的)高い磁界強度を有するギャップ290、291の近くの2つの領域を生成する。共通のヨークボディ25を介した2つのレンズの磁気的結合は、これがなければ従来のレイアウトの粒子レンズにおける永久磁石と必然的に関連付けられる、他の任意の領域における漂遊(漏洩)磁界の作用を強く減じる。
【0062】
電磁的調節コイルの配置
【0063】
磁気レンズアセンブリの内部における本発明に応じた電磁的調節コイルの配置はインパクトの大きい役割を有し得る。例えば、
図6(A)に示されているように、電磁的調節コイル231は、アウターヨークシェルの内部の上側コーナーに示されている例では、好ましくはギャップ290、291の近くの、2つのヨーク要素の間のギャップを包囲するコーナー部位に配置され得る。この電磁的調節コイル231から生じる磁界は、2つのヨークと上側永久磁石を通って流れるため、縦軸cxに沿った軸方向磁束密度を示す
図6(B)の曲線64として示される。1つの例示的構成では、上側永久磁石は半径方向外向きの主要(支配的:dominant)磁化を有し得る。電磁的調節コイルの電流極性は、生成される磁界が永久磁石の磁化方向に対抗するように作用するように、選択され得る(符号66で示されたヨーク(複数)及び永久磁石(複数)において電磁的調節コイルによって誘導される磁力線参照)。これにより、
図6(B)に示されているように、上側ギャップ290において磁界強度が減少する。破線61は永久磁石によって生成される非摂動磁界を示し、他方、点線64は電磁的調節コイルによって誘導された(引き起こされた)磁界強度の減少を示す。更に、調節磁界は、より小さい程度ではあるが、下側磁気レンズの磁束及び磁界強度にも影響を及ぼし得ることが分かる。
【0064】
本発明の例示的な他の一形態では、
図1(A)に示されているように、電磁的調節コイル31は、縦軸方向において隣り合う2つの永久磁石間の中央にかつ半径方向において2つのヨーク間の中央に配置され得る。そのような構成では、コイルによって生成される磁束密度は(
図1(A)に磁力線65で象徴的に示されているように)一方の永久磁石の部位においては半径方向内方に、他方の永久磁石の部位では半径方向外方に作用する。従って、磁束強度についての点線62から分かるように、2つのレンズに対する反対称的な(anti-symmetric)調整(チューニング)作用(効果)を有することになる。
【0065】
更に、多くの適切な形態では、複数の(マルチプル)電磁的調節コイルが組み合わせられ得る。例えば、1つの磁気レンズに対する主要(支配的)作用(効果)を有するレンズコーナーのコイルは、反対称的作用(効果)を生成する2つの永久磁石間のギャップに配置されたコイルと組み合わせることができる。そのような構成は、3つの電磁的調節コイル531、532、533が縦軸に沿って異なる位置に配されていることを示す
図9(A)に示されている。これは、2つの磁気レンズの局在化された(局所的)変化を引き起こすために、及び/又は、磁石(複数)及び/又はヨーク(複数)の意図的ではない固有の非対称性に対抗作用する(補償する)ために使用可能である。更に、例えば、中央の調節コイル532は、
図9(A)の左右両側において2つの矩形で象徴的に示されている、セクタ型(sectorial)コイルを含む。
【0066】
上述した、調節コイル31、231、531、532、533は、何れも、例えば
図3~
図5を参照して上述したようなタイプのセクタ型コイルを備えるか又はこれと置換され得る。
【0067】
永久磁石
【0068】
永久磁石210、211は磁気回路アセンブリ20において具現化される磁気回路の磁束Φのソース(磁束源)として作用(機能)する。
【0069】
図7は、本発明に応じたレンズの一例の磁気回路アセンブリの構成要素として(例えば
図1(A)の永久磁石210、211の1つとして)の使用に好適な永久磁石21の好ましい一形態を示す。磁石は回転対称の磁石に関し主半径方向磁化を有する。
図7(A)は模式的斜視図であり、
図7(B)は磁石21の縦軸c1に沿った模式的断面図である。
【0070】
多くの形態では、
図8(A)~(D)を参照すると、そのような磁石は複数のセクタ部分から構成されることが有用であり得る。
図8(A)~(D)は、夫々の模式的横断面図において正味のラジアル磁化を有するリング状磁石21の4つの例示的バリエーションを示す。なお、リング状磁石の構成要素(複数)は、より良好な明確性のために、
図8(B)、(C)、(D)においては分解されて示されている。このラジアル磁化方向(複数)は、磁石の何れかの磁極から磁束を取り込み、該磁束をヨーク要素(複数)間のギャップ290、291の設計された(意図された)位置へ向けるヨーク要素(複数)の好ましい位置(複数)、即ちそのようなリング状磁石の内側及び外側、も与える(
図1(A)参照)。磁石要素の各々は、
図8(A)~(D)に破線の矢印で示されているように、当該主として半径方向に配向された磁化を有することになり、そのため、例えば、「北」極Nはリング状磁石の内部空間へ向かって形成され、他方、(リング状磁石の)外側は磁化の「南」極Sを有する。図示のようなラジアル磁化を有する永久磁石要素は市場で入手可能であり、焼結NdFeB、SmCo
5又はフェライトのような強磁性材料で作製される。
図8(B)~(D)の複合磁石の磁石要素240、241、242は接着又は締付又はその他の適切な手段で結合される。各リング状磁石を形成する磁石要素の個数は、複合要素の寸法(とりわけ高さ及び半径)及び永久磁石21の所望の寸法に依存して任意の数、例えば1つ、2つ、3つ、4つ、6つ又は7以上であり得る。
【0071】
更に、再び
図7を参照すると、多くの形態では、永久磁石21は、リング形状の部品として具現化(構成)され、共通の中心軸c1に沿って積重ねられた複数の層のリング形状セグメント磁石220を含み得る。そのようなセグメント型磁石では、各層ないし各セグメントは、n層からなる磁石の全磁束
に対し一部分
を構成する。
【0072】
ハウジングボディ
【0073】
多くの形態では、ヨークボディ25はレンズ10のハウジング12としても機能する。ヨークボディは、インナーヨーク要素250とアウターヨーク要素251とから構成され、インナーヨーク要素250は、アパーチャ半径r2と、少なくとも積層型永久磁石及び温度制御要素の高さを上回るために十分な長さh2とを有する中空シリンダとしてしばしばかつ典型的に具現化(構成)され;アウターヨーク要素251は、この場合、アパーチャ半径r2と、各ヨーク要素の厚み及び該ヨーク要素間に配設される磁石の厚みをカバーするために十分な幅の外半径r1とを有する高さh1のシリンダ状に対称的な形状を有するようにも具現化(構成)され得る。該アウターヨークは有利には両側(double)「コ字」型の縦断面(
図1(A))を有し得る;換言すれば、アウターヨークは、インナーヨーク要素の中空シリンダとコンセントリック(同心)であり得る中空シリンダとして形成される中心ボディ部分を含み、更に、中央孔を有するディスク状形状の2つの終端部分を有する。そのため、ヨーク要素(複数)の中空空間は、縦軸cxに沿って半径r2及び高さh1のビーム通路11を包囲する。磁気回路のギャップ290、291は、インナーヨーク要素の軸方向外側端面(複数)と、アウターヨーク要素のこれらに対応する軸方向内側面(複数)との間に設けられるが、これらは、磁気回路20の夫々のポール(磁極)ピースを代表する。中空シリンダの半径方向厚みは、典型的には、但し一般性を失うことなく、数ミリメートルのオーダーであり、アセンブリの高さは数十ミリメートルのオーダーである。レンズのハウジングボディを形成するインナーヨーク要素及びアウターヨーク要素は、それらの形状のために、磁石によって生成される磁束を増強し、集束することができる。最も外側のヨーク要素は、空間的形状及び材料が半径r1と高さh1の寸法の範囲内に磁束を集中することになるため、半径方向及び軸方向における磁束に対するシールドとしても機能する。
【0074】
電気的インレー(インサート部材)
【0075】
図9に示されているような本発明の更なる一視点に応じ、荷電粒子レンズ10は、好都合には、光軸cxに沿ってビーム通路11内に挿入されるスリーブインサート部材ないしインレー50(
図9(A))を含み得る。これに応じて、インレーの物理的寸法は、例えばレンズの半径r2及び高さh1以内のような、上記において論じた寸法に対して適切に選択される。インレーは、ビーム通路内の磁界61(
図9(B)の実線の曲線)に重なる調節可能な電界65(
図9(B)の破線の曲線)を生成するよう採用される1つ又は幾つかの電気的活性(active)要素を含む、複数のビーム制御要素52~54を含み得る。電界の軸方向成分E
Z(即ち縦方向に沿った)の強さは、10
5V/mのオーダーのピーク値の典型的な値を有するであろう。
【0076】
インレーの多くの形態では、ビーム制御要素52~54は、一般的に、電気的活性要素として役立つ(機能する)リング形状の構成要素であり、中心軸c3に沿って積重ねるように配置され、それらの幾何学的軸はレンズの中心軸cxに対し同心かつ平行に配向される。本発明の多くの形態では、すべての制御要素は共通の内半径r2を有することが有用である;そのため、これらは、レンズを縦断しかつ荷電粒子レンズの運転中に荷電粒子ビーム100のためのチャンネルとして役立つ(機能する)通路孔55を定義(画成)する。更に、ビーム較正のためにより小さいアパーチャ(孔)54(以下参照)を挿入(導入)することも有用であり得る。
【0077】
図9(A)に示した形態では、ビーム制御要素(複数)は2つの単レンズ(Einzel lenses)52a、52bと、2つのマルチポール電極53a、53b―これらはすべて導電性材料で作られている―を具現化(構成)する。例えば、マルチポール電極の各々は、等しい弧長を有する複数のセクション、例えば、一般性を喪失することなく、4つ、6つ又は8つのセクション(
図11参照)から構成される、複合金属リングとして具現化(構成)可能である;これらの(半径方向の)厚みは典型的には2mm未満であり、それらの長さは5mm~20mmである。更に、好ましくは、導電性リング形状アパーチャ(部材)54が2つのマルチポール電極53a、53bの間に配設される;この構成要素は、ここでは、「較正アパーチャ」と称される。電気的活性要素は、好ましくは、
図10に示されているようなそれらの独自の電源ユニット722a、723a、722b、723bに接続され得るが、そのため、それらの静電ポテンシャルは個別に調節可能である;一バリエーションでは、電源(複数)は、個別供給電圧(複数)を提供する共通のマルチチャンネル電源装置70において組み合わせられ得る。較正アパーチャは、電源装置70又は別個の専用電気制御装置71によって制御され得る。最後に、電気的活性要素は、互いに対し電気的に分離されており、フィールド(電界)終端キャップ51aと称される要素によって両端において終端処理されるが、その電気ポテンシャルは「ローカルアース」即ち基準点を表す。フィールド終端キャップは、電界をインレーの通路空間に制限する(閉じ込める)ために役立つ(機能を有する);従って、フィールド終端キャップは、(他の粒子光学カラム400、
図14参照、のような)周囲の構成要素に対するインレーの明確に定義された(定められた)「フィールド(電界)境界」を提供する。フィールド終端キャップ(複数)と他の電気的構成要素との間のインレー取付ボディ51上の幾つかの(some)空間は電気的に絶縁性であることも可能であり、これは、例えば、真空、又は、セラミックスのような非導電性の、好ましくは電圧耐性の、材料を用いるフィラー材料によって具現化(構成)される。
【0078】
本発明の多くの形態では、インレー50の種々の要素52~54は、中空シリンダ形状(例えば内半径r3、外半径r2及び高さh1)のマウントボディ51によって一緒に支持かつ保持されるが、これは、一般的には、例えばセラミック又はプラスチックのような電気的絶縁材料で作製可能である;しかしながら、少なくとも荷電粒子ビームに面する部分51aは、帯電(チャージアップ)を回避するために、導電性材料で被覆(カバー)されかつ「ドレイン」に接続され得る。電極要素は、例えば、ボディ内において結合かつ一緒に保持される個別のリング形状要素52a、52b、53a、53b、54として、又は、夫々限定された形状及び面積(領域)を有するよう、リングボディの内周面に形成される導電性コーティング(複数)51aとして具現化(構成)され得る。
【0079】
インレーによって、(永久磁石の製造の精度、組立正確性において制限され及び少なくとも1つの温度制御要素による調節可能性の制限を受ける)光学特性、例えば荷電粒子レンズの焦点距離、の精度は、目標値の上下1ppm~5ppmの精度に到達可能である―従って、「超高精度」調整(チューニング)が可能である。本発明の幾つかの形態は、電界はレンズの使用中に分解なしでppm(百万分率)レジームの精度で調節及び制御可能である、即ち「インサイチュ・チューニング」可能であるので、例えば磁石の経時劣化(エージング)効果に関する制限を克服するために使用可能な組込型修正(ないし補正)手段も含み得る。更に、ビーム制御要素の電圧は、例えば収差、像面等のような光学的特性に関し、粒子ビーム露光装置1の特性を変化するために、システムの他の光学的及び電気的活性要素と組み合わせて調節されることが可能である。
【0080】
図11は、インレーのマルチポール電極の一例の横断面を示す。マルチポール電極は(横断面において部分円環状の)複数のロッド(ないし帯材)530を含み、これらのロッド530は、それらの各自の外部電源ユニット70によって個別の電気ポテンシャルで制御可能である。更に、これらを付加的な静電レンズとして挙動(動作)させるために、グローバルオフセット電圧が印加され得る。個別のロッドに異なる電圧を印加することによって、光軸の夫々対応する横断部分(transversal section)で交差する粒子ビームを整形する目的で、二極式、四極式又はより高次の静電界の種々のフィールド(電界)構成を具現化することができる。
図10の形態に照らした典型的適用に関し、ロッド(複数)に印加される電圧(複数)は、典型的には、数10ボルトまでのオーダーである。そのようなビーム整形は、磁気的不均一性、機械的製造及び/又は組立正確性(精度)のような、光学システムの不完全性に起因するエラーを補償するために使用可能である。これに関し、マルチポールは、二極式(ダイポール)として使用される場合、光軸c3に対するビーム位置を補正することができるが、X軸及びY軸(
図11)によって定義される面におけるその方向(複数)は、少なくとも4つの異なる電圧即ち+V1(紙面の右側で(線状)ハッチングされたロッド)、-V1(紙面の左側で(線状)ハッチングされたロッド)、+V2(紙面の上側で格子状ハッチングされたロッド)及び-V2(紙面の下側で格子状ハッチングされたロッド)がこれらのロッドに印加されるのであれば、任意とすることができる。更に、マルチポールが四極式又はより高次の多極式として使用される場合、二極式の場合と同様の仕方で個別ロッドに適切な電圧を印加することにより、当該マルチポールによって非点収差又は他のより高次の歪曲を補償することができる。
【0081】
なお、任意のマルチポール電極が、適用(対象)に依存して、(準)静的要素として又は動的、即ち時間変化する電圧を有する、要素としても使用可能であることに注意すべきである。ビーム制御要素の上記の使用は例示的な適用(複数)として記載されたものであり、本発明によって達成可能な機能に対する制限として記載されたものではないことは、当業者であれば分かるはずである。
【0082】
図10及び
図12を参照すると、既述のように、本発明の幾つかの形態では、インレー50は、粒子ビーム120の逸れた部分を偏向させる(除去する)ためのストップ要素として作動し(機能し)、「較正アパーチャ(calibration aperture)」と称される受動要素54を含み得る。
図12は較正アパーチャの一例の縦断面を拡大して詳細に示す。較正アパーチャは、軸c3に沿って小さい半径r4を有するアパーチャである較正ボア541を包囲する本体540を含む。アパーチャは、該アパーチャの外側を進行するビームの部分120を吸収することによって、荷電粒子レンズを縦断するビーム100のサイズを限定(制限)する機能を有し、そのため、(アパーチャの内側のビームの)部分110のみがアパーチャを通過することができる。本発明の好ましい一形態では、前置される(上流側の)インレー要素(複数)の1つ、例えばマルチポール電極53aは、例えばダイポール電界(electric dipole field)を形成するマルチプル電極の選択された電極に印加される電圧を変化することによって、縦軸に対する、ビームの横方向位置を変化させることができる。マルチポールは、ビームアラインメントのためにも使用可能である。荷電粒子レンズ10は、有利には、較正アパーチャ54の縦方向における部位に、又はその近傍に(例えば10mm以下)、クロスオーバーxrを形成するよう、構成される。このため、ビーム径は該アパーチャ付近で最も小さい。
【0083】
本発明の多くの形態では、とりわけ、マルチビーム描画ツール、例えばシングルカラムツール1又はマルチカラムツール40(後者については下記参照)として使用される粒子ビーム装置において、荷電粒子ビームは、パターン規定(画定)システム4、43によって導入される、付加的な横方向の逸れ(
図12)を伴わずに(e)又は伴って(f)、当該パターン規定システムを選択的に通り抜けることが可能な、複数のビームレットpbへ分割される。そのような逸れは、(所定の)ビームレット(複数)がターゲットに到達することを阻止するために、従って、個別の(discrete)描画パターンを規定(画成)するために、導入される。逸らされたビームレットは、較正ボア541を通り抜けるのではなく、較正ボア541の脇の(から外れた)「較正アパーチャ」の本体540の領域に到達し、そこで吸収されることになる;ビーム120の吸収は、構成要素における帯電(electric charge-up)の発生を引き起こすであろうが、これは、例えば吸収されるビームの量のモニタリングを可能にする測定装置714(
図10)への、ビームアパーチャの電気的接続によって、除去、即ち排出(drained off)され得る。「較正アパーチャ」に衝突するビームレット(複数)も「較正アパーチャ」へ、その結果、これを包囲するインレー要素へ、最終的には磁気レンズアセンブリへも熱エネルギの伝達を引き起こす。このことは、少なくとも1つの温度制御要素を有する磁気レンズの調整(チューニング)のために考慮される必要がある。
【0084】
リソグラフィ装置
【0085】
図13はシングルカラム描画機ツール1の一例の模式的縦断面図である。該ツールは、本発明のレンズの例示的一形態を含み;例えば当該ツールの対物レンズ10として本発明の一形態に応じた荷電粒子レンズを含んでいる。描画機ツールは、電子又はイオン(例えば正電荷のイオン)であり得る荷電粒子ビームを使用する。描画機ツール1は、マルチカラム荷電粒子光学系のための真空ハウジング480、マルチカラム荷電粒子光学系が取り付けられるベース部材470を含む。ベース部材の上部には、ターゲット450、好ましくはリソグラフィ目的のためのマスク又は直接描画機ツールの場合のシリコンウェハが配置されるX-Yステージ460、例えばレーザ干渉計制御式エアベアリング真空ステージが適切な操作システムを用いて取り付けられる。そして、ターゲットは、これは例えばレジスト層を含むが、描画機の荷電粒子ビームによって露光され得る。
【0086】
この形態のシングルカラム光学系は、好ましくは、中心軸c5と、荷電粒子源7を含む照明光学系3と、幅の広いテレセントリックな荷電粒子ビームibをパターン規定(画定)システム4へ供給するコンデンサ8(但しパターン規定システム4はビームを複数のアパーチャのみを通過させるよう適合化されており、該複数のアパーチャは当該アパーチャ(ビーム成形装置)を通り抜けるサブビーム(「ビームレット」)(複数)の形状を規定する)と、典型的には縮小を行い、更にはエネルギを与える荷電粒子投射光学系5(該投射光学系5は続けて(順次的に)配設された複数の荷電粒子レンズから構成され、該荷電粒子レンズは好ましくは静電及び/又は磁気レンズ(複数)を、場合によっては他の粒子光装置を含む)とを含む。
図13に示した形態では、投射光学系は、例えば第1荷電粒子レンズ9、例えば静電液浸レンズを含み、他方、第2レンズ10は、これは第1レンズの下流に配置されるが、本発明の一形態に応じた荷電粒子レンズ(例えば
図9(A))を用いて具現化(構成)される。該荷電粒子レンズ10の内部には、「較正アパーチャ」54が、象徴的に示されているように、具現化(構成)されている;上記のように、パターン規定装置4によって偏向されたビームの或る部分(f)は吸収され、他方、他の部分(e)は光学カラムを妨げられることなく縦断し、パターンをターゲット450に露光する。
【0087】
パターン規定装置4は、粒子ビームから、ターゲットに転写されるべきパターンの情報を含む複数のいわゆるビームレットを形成する機能を有する。パターン規定装置4及びその制御装置404の構造、運転及びデータ処理については、本出願人のUS9,443,699及びUS9,495,499に開示されているが、これらの文献の内容はこの引用を以って本開示に含まれているものとする。
【0088】
図14(A)及び
図14(B)はマルチカラム描画機ツール40の一例を示す。該ツール40は、各カラムに、本発明のレンズの例示的一形態の各構成(具現化物:instance)を含む;例えば当該ツールにおける対物レンズ10として本発明の一形態に応じた荷電粒子レンズを含む。描画機ツールは、電子又はイオン(例えば正電荷のイオン)であり得る複数の荷電粒子ビームを使用する。マルチカラム描画機ツール40の模式的縦断面図を示す
図14(A)から分かるように、描画機ツール40は、マルチカラム荷電粒子光学系のための真空ハウジング48、マルチカラム荷電粒子光学系が取り付けられるベース部材47を含む。ベース部材の上部には、ターゲット45、好ましくはリソグラフィ目的のためのマスク又は直接描画機ツールの場合のシリコンウェハが配置されるX-Yステージ46、例えばレーザ干渉計制御式エアベアリング真空ステージが適切な操作システムを用いて取り付けられる。そして、ターゲットは、これは例えばレジスト層を含むが、描画機の荷電粒子ビームによって露光され得る。
【0089】
この形態のマルチカラム光学系は、複数のサブカラム400(図示のカラムの個数は、より良好な明確性のために図においては減少されており、実際の具現化におけるマルチカラム装置に存在する遥かにより多くの個数のカラムを代表している)を含む。好ましくは、サブカラム(複数)は、同じ構成を有し、かつ、互いに平行な軸(複数)c5が並置されるように設置されている。各サブカラムは、荷電粒子源41を含み、幅の広いテレセントリックな荷電粒子ビームをパターン規定(画定)システム43へ供給する照明システム42(但しパターン規定システム43はビームを複数のアパーチャのみを通過させるよう適合化されており、該複数のアパーチャは当該アパーチャ(ビーム成形装置)を通り抜けるサブビーム(「ビームレット」)(複数)の形状を規定する)と、典型的には縮小を行い、更にはエネルギを与える荷電粒子投射光学系44(該投射光学系44は続けて(順次的に)配設された複数の荷電粒子レンズから構成され、該荷電粒子レンズは好ましくは静電及び/又は磁気レンズ(複数)を、場合によっては他の粒子光装置を含む)とを有する。
図14に示した形態では、投射光学系は、例えば、第1荷電粒子レンズ44a、例えば静電液浸レンズを含み、他方、第2レンズ10は、これは第1レンズの下流に配置されるが、本発明の一形態に応じた荷電粒子レンズ(例えば
図1(A))を用いて具現化(構成)される。
【0090】
図14は、第2レンズとして使用されるレンズ(複数)10の一例とそれらの支持要素の一例とを詳細図に示す。サブカラム(複数)の各第2レンズ10は、好ましくは、適切な固定手段49bによってカラム基底プレート47又は真空チャンバの特定フランジ48に取り付けられる基準プレート49に取り付けられ得る。基準プレート49は、軽量、高弾性率及び高熱伝導性の利点を有する酸化ケイ素又は酸化アルミニウムに基づくセラミック材料のような、低い熱膨張性を有する適切な基礎材料から製造され、及び、(静電荷を流出させることによって)帯電を回避するために、少なくともその関連する部分において、導電性コーティング(被膜)によって適切に被覆され得る。更に、基準プレート49は、各サブカラムのレンズ10のビーム通路11と重なる(合致する)アパーチャ(複数)49aを含み得る。
【0091】
上記の実施形態及び実施例の全部又は一部は以下の付記として記載可能であるが、それらに限定されない。
[付記1]荷電粒子光学システムの荷電粒子ビームを修正するよう構成された荷電粒子レンズ。
前記荷電粒子レンズは基本的に縦軸に沿って延在しかつ荷電粒子ビームの通過を可能にする通路空間を備えている。
前記荷電粒子レンズは磁気回路アセンブリを含む。
前記磁気回路アセンブリは
・少なくとも1つの永久磁石、及び、
・ヨークボディ
を含む。
前記ヨークボディは少なくとも2つのヨーク要素から構成されており、前記少なくとも2つのヨーク要素のうち、第1ヨーク要素は前記通路空間を包囲するよう配置されるインナーヨークシェルを構成し、第2ヨーク要素は前記インナーヨークシェルを包囲するよう配置されるアウターヨークシェルを構成し、前記ヨーク要素は前記縦軸を囲む周に配置されかつ高透磁性材料を含む。
前記少なくとも1つの永久磁石は前記少なくとも2つのヨーク要素の間にかつ前記インナーヨークシェルを囲む周に配置されており、前記少なくとも1つの永久磁石はその2つの磁極が夫々のヨーク要素へと磁気的に配向される永久磁石材料を含む。
前記磁気回路アセンブリにおいて、前記少なくとも1つの永久磁石と前記ヨークボディは、前記少なくとも1つの永久磁石から生じる磁束密度を前記ヨークボディを通して導くよう構成され、異なるヨーク要素の夫々の(対応する)軸方向の面間に形成される少なくとも2つのギャップを介在して閉じた磁気回路を形成し、及び、前記ギャップ内に、内方に向かって前記通路空間内に到達する磁界を誘導する(生成する)。
前記荷電粒子レンズは、前記インナーヨークシェルと前記アウターヨークシェルの間に配置されかつ調節可能な供給電流によって駆動されるよう構成された電磁的調節コイルを含むこと、前記電磁的調節コイルにおける電流は実質的に前記縦軸の周りの周方向に沿って流れること、前記電磁的調節コイルは、前記少なくとも2つのギャップの少なくとも1つにおいて磁束密度の変化を引き起こすように前記磁気回路の磁束を修正するよう構成されている。
[付記2]付記1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイルは、更に、2つ以上のセクタコイル要素を含むセクタ型電磁的調節コイル構造体を備える;各セクタコイル要素は夫々の(内方又は外方における)半径方向を指向する(一般的ないし全体的な)巻回軸(general winding axis)を備えて構成される;前記セクタ型電磁的調節コイルのセクタコイル要素(複数)は前記縦軸の周りにおいて互いに対し周方向に角度がずらされて配置されている。
[付記3]上記の荷電粒子レンズ、とりわけ付記2に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル及び前記セクタ型電磁的調節コイル構造体は、夫々、前記コイル及びコイル要素に夫々の電流を供給するために、前記荷電粒子レンズの外部に対する電気的インタフェイスを備える。
[付記4]上記の荷電粒子レンズ、とりわけ付記1に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイルは、前記コイルに電流を供給するよう構成された、前記荷電粒子レンズの外部に対する電気的インタフェイスを備える。
[付記5]上記の荷電粒子レンズ、とりわけ付記3又は4に記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電気的インタフェイスは、前記アウターヨークシェルに形成された貫通路(passageway)を含む。
[付記6]付記1~5の何れかに記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル又は前記電磁的調節コイル及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方は、前記磁気回路の2つ以上の分岐路の間での磁束の再分布(ないし再分配:redistribution)を引き起こして、少なくとも2つのギャップにおいて磁束密度の変化を引き起こすよう構成されている。
[付記7]上記の荷電粒子レンズ、とりわけ付記1~5の何れかに記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記電磁的調節コイル又は前記電磁的調節コイル及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方は、前記磁気回路の2つ以上の分岐路の1つに対し主として影響を及ぼす磁束の修正を引き起こして、対応するギャップにおける磁束密度の変化を引き起こすよう構成されている。
[付記8]付記1~7の何れかに記載の荷電粒子レンズにおいて、
2つのギャップにおける磁界を異なるように調節するよう構成された、前記磁気回路アセンブリの複数の異なる構成要素に関連付けられた複数の異なる部位に、2以上の電磁的調節コイルが配設されている。
[付記9]付記1~8の何れかに記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記荷電粒子レンズは、前記ヨークボディの前記少なくとも2つのヨーク要素の間の定められた位置において、前記電磁的調節コイル又は前記ホルダ要素[正しくは電磁的調節コイル]及びこれに備えられたセクタ型電磁的調節コイル構造体の両方を保持するよう構成されたホルダ要素を更に含む。
[付記10]付記1~9の何れかに記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記第2ヨーク要素は、他の全てのヨーク要素を含む前記磁気回路アセンブリの他の構成要素を包囲する、前記荷電粒子レンズのハウジングボディを構成する。
[付記11]付記1~10の何れかに記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記少なくとも1つの永久磁石は、実質的に半径方向に(放射状に)配向された磁化を有する。
[付記12]付記1~11の何れかに記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記少なくとも1つの永久磁石は、
・その縦軸に沿って積み重ねられた2つ以上の層に応じてセグメント化された、及び/又は、
・その縦軸の周りに配置された2つ以上のセクタへと分割された、
少なくとも2つの副要素から構成されている。
[付記13]上記の荷電粒子レンズ、とりわけ付記12に記載の荷電粒子レンズにおいて、
少なくとも1つの温度制御装置が複数の副要素の夫々2つの間に配設されている。
[付記14]付記1~13の何れかに記載の荷電粒子レンズにおいて、
前記荷電粒子レンズは、前記縦軸に沿って全体的に回転対称的な形状を有すること、
前記磁気回路アセンブリの複数の構成要素、即ち、
・前記少なくとも1つの永久磁石、及び、
・前記ヨークボディ、並びに
・前記電磁的調節コイル
は、前記縦軸と同心に(コアキシャルに)配置されており、かつ、中空シリンダ又は中空多角柱形状に相当する基本形状を有する。
[付記15]付記1~14の何れかに記載の荷電粒子レンズと、前記縦軸に沿って前記通路空間に挿入されたスリーブインサート部材とを含む電磁レンズ。
前記スリーブインサート部材は、その縦軸に沿って延在する、前記荷電粒子レンズの通路空間の半径より小さい半径のビーム通路を包囲する;
前記スリーブインサート部材は、少なくとも部分的に導電性部分を有する取付ボディと、少なくとも1つの導電性電極要素とを含む;
前記少なくとも1つの導電性電極要素は、前記ビーム通路の内部に静電界を生成するよう、前記取付ボディの導電性部分のポテンシャルに関し、電源を介して電気ポテンシャルが印加されるよう、構成されている;
前記電極要素は、1つ以上のギャップにおいて前記ビーム通路の内部の磁界と組み合わされた粒子光学レンズを形成するよう、構成されている;
前記荷電粒子光学レンズの焦点距離は、前記電極要素に印加される電気ポテンシャルを修正することによって調節可能である。
[付記16]付記15に記載の電磁レンズにおいて、
前記スリーブインサート部材の縦軸は前記荷電粒子レンズの縦軸と重なる(一致する);前記インナーヨークシェルは前記縦軸に沿って延在しかつ前記スリーブインサート部材を周方向に包囲する;前記磁気回路の少なくとも2つのギャップは前記インナーヨークシェルのいずれかの軸方向端部に位置付けられている;各ギャップは、(半径方向)内方に向かって前記通路空間ないしビーム通路内に到達する定められた磁界を生成する;前記静電界は前記磁界と少なくとも部分的に重なるよう構成された前記スリーブインサート部材の複数の電極要素の少なくとも1つによって生成される。
[付記17]付記15又は16に記載の電磁レンズにおいて、
複数の電極要素の少なくとも1つは、前記縦軸の周りに周方向に沿って一様に(均一に)配置された複数の副電極を含む静電マルチポール電極を含む;前記(マルチポール)電極は各電極に個別にポテンシャルを提供するマルチチャンネル電源ユニットに接続可能である。
[付記18]付記15~17の何れかに記載の電磁レンズにおいて、
前記電極要素は、前記縦軸を中心とする定められた半径を有する制限開口を形成するビームアパーチャ要素を含む;
前記制限開口は、前記縦軸に沿って伝搬する荷電粒子ビームの横幅を制限するよう構成されている;
前記ビームアパーチャ要素は、当該ビームアパーチャ要素において吸収された荷電粒子ビームの量を測定するよう構成された電流測定装置に接続されている。
[付記19]付記1~14の何れかに記載の荷電粒子レンズと付記15~18の何れかに記載の電磁レンズの少なくとも1つを含む荷電粒子光学装置。
前記荷電粒子光学装置はその縦軸に沿ってレンズを通って伝搬する荷電粒子ビームに影響を及ぼすよう構成されている;前記レンズは前記荷電粒子光学装置の粒子光学システムの部分である。
[付記20]付記19に記載の荷電粒子光学装置において、
前記荷電粒子光学装置は、複数の粒子光学カラムを含むマルチカラムシステムとして構成されている;
各カラムは、各自の粒子ビームを使用するよう構成されており、かつ、荷電粒子レンズ又は電磁レンズの夫々の構成を含む各自の粒子光学システムを含む。
【0092】
本発明の全開示(特許請求の範囲及び図面を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施形態の変更・調整が可能である。また、本発明の全開示の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施形態の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせないし選択(「非選択」を含む。)が可能である。すなわち、本発明は、特許請求の範囲及び図面を含む全開示、本発明の技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。特に、本書に記載した数値範囲については、当該範囲内に含まれる任意の数値ないし小範囲が、別段の記載のない場合でも具体的に記載されているものと解釈されるべきである。
【0093】
更に、特許請求の範囲に付記した図面参照符号は専ら発明の理解を助けるためのものであり、本発明を実施形態及び図示の実施例に限定することは意図していない。
【0094】
更に、上記の各文献の全内容は引照を以って本書に繰り込みここに記載されているものとする。